(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】微粒子分注装置、微粒子解析装置、及び反応検出装置、並びにそれらを用いる方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240820BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12Q1/02
(21)【出願番号】P 2022010572
(22)【出願日】2022-01-27
(62)【分割の表示】P 2018539200の分割
【原出願日】2017-09-15
【審査請求日】2022-02-25
(31)【優先権主張番号】P 2016181447
(32)【優先日】2016-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505281023
【氏名又は名称】株式会社オンチップ・バイオテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194973
【氏名又は名称】尾崎 祐朗
(72)【発明者】
【氏名】武田 一男
(72)【発明者】
【氏名】藤村 祐
(72)【発明者】
【氏名】石毛 真行
(72)【発明者】
【氏名】稲生 崇秀
(72)【発明者】
【氏名】番所 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】赤木 仁
(72)【発明者】
【氏名】大澤 宏典
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-337091(JP,A)
【文献】特表2016-521350(JP,A)
【文献】特開2010-181349(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0087412(US,A1)
【文献】国際公開第2011/099287(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-1/42
C12Q 1/00-1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を含む試料液の流れがシース液で挟まれた前記試料液と前記シース液の合流が流れる合流流路と、前記合流流路を流れる試料液中の細胞に光を照射する光照射手段と、前記光を照射した際に前記細胞から発生する散乱光または蛍光を検出し、それらの信号強度に基づいて目的の細胞を識別し、目的の細胞を検出する検出手段とを含み、検出手段からの信号に基づいて目的細胞の流れの方向を変化させる力を作用させる力発生手段により細胞を分離するセルソーターであって、試料液の周囲のガス雰囲気を0.03~50%の二酸化炭素ガス雰囲気に調節する手段を有することを特徴とするセルソーター。
【請求項2】
前記調節する手段が、試料液リザーバーと分取細胞を貯蔵する回収リザーバー内にCO
2ガスを供給する手段である、請求項1に記載のセルソーター。
【請求項3】
前記調節する手段が、チャンバーでセルソーター部分をカバーし、そして二酸化炭素ガス雰囲気を調節する手段である、請求項1に記載のセルソーター。
【請求項4】
前記調節する手段が、細胞を含む試料液の周囲のガス雰囲気の二酸化炭素を調節する手段である、請求項1~3のいずれか一項に記載のセルソーター。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のセルソーターを用いて、分取される細胞にとって最適な二酸化炭素ガス雰囲気で、前記細胞を分離する方法。
【請求項6】
細胞を含む試料液の流れがシース液で挟まれた前記試料液と前記シース液の合流が流れる合流流路と、前記合流流路を流れる試料液中の細胞に光を照射する光照射手段と、前記光を照射した際に前記細胞から発生する散乱光または蛍光を検出し、それらの信号強度に基づいて目的の細胞を識別し、目的の細胞を検出する検出手段とを含み、検出手段からの信号に基づいて目的細胞の流れの方向を変化させる力を作用させる力発生手段により細胞を分離するセルソーターを、二酸化炭素ガス雰囲気を調節可能なチャンバーでカバーすることによって、分取される細胞にとって最適な二酸化炭素ガス雰囲気で、前記細胞を分離する方法。
【請求項7】
前記セルソーターが、更に、前記目的細胞を1個単位で分注する手段を含む、請求項6に記載の細胞を分離する方法。
【請求項8】
試料液の流れをシース液で挟んで合流流路を形成させ、合流した流路を流れる試料液中の細胞に光を照射させ、光を照射した際に前記細胞から発生する散乱光または蛍光を検出し、それらの信号強度に基づいて前記細胞を識別し、目的の細胞を検出し、検出手段からの信号に基づいて目的細胞の流れの方向を変化させる力を作用させて分離した細胞をさらに1個単位で分注する方法であって、前記方法のすべての工程を、二酸化炭素ガス雰囲気を調節可能なチャンバーでカバーして行うことで、分注される細胞にとって最適な二酸化炭素ガス雰囲気で、前記細胞を分注する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子分注装置、微粒子解析装置、及び反応検出装置、並びにそれらを用いた方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がん研究においては、夾雑細胞群のなかの特定の細胞を一個単位で解析する方法が重要となってきている。例えば、がん免疫療法の治療薬の開発では、免疫細胞が、がん細胞を非自己細胞と認識することが重要である。この研究では、がん細胞の各種タンパク質の発現プロファイル解析が必要となる。この発現プロファイル解析のためには、単一細胞の分注技術が必要となる。
まず、単一細胞分注技術に必要な従来技術を説明する。例えば、夾雑細胞のなかの特定の細胞を分取するセルソーターの技術が関連する。セルソーターは、目的の細胞を分取して濃縮する装置であるが、目的の細胞を識別するフローサイトメーターとしての解析機能を有する。フローサイトメーターの技術は特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献2には、一般的なセルソーターに使用されている細胞又は微粒子の分離方法が記載されている。この方法は液滴形成用ノズルから空気中に試料液を液滴として吐出し、分離対象の細胞を含む液滴に電荷を与えることで電場によって分離するという方法である。特許文献4は、再生医療に最適なコンタミネーションフリーを実現した使い捨て交換型のマイクロ流路カートリッジを用いるフローサイトメーター技術を記載している。特許文献5は使い捨て交換型のマイクロ流路カートリッジ内で細胞を分離する方式を記載している。さらにマイクロ流路内の流れの影響を低減するように改善した方式が特許文献6に記載されている。
【0004】
マイクロ流路に細胞を流す場合に、流路内で細胞が詰まるのを防止するための撹拌技術を説明する。特許文献11は、マイクロ流路に接続しているサンプルリザーバー中で、プロペラを回転して細胞懸濁液を撹拌する技術を記載している。
【0005】
細胞を分注する技術に関連する従来技術を説明する。中空ピペットで細胞を吸い上げて異なる場所に移動して吐き出して分注する技術が特許文献7に記載されている。画像認識で細胞の有無を確認したのちに、液滴単位でピエゾ素子による圧力パルス駆動により滴下して分注する技術が、特許文献8に記載されている。また、分注ヘッドが交換可能な分注方法が、特許文献10に記載されている。特許文献14には、分注ヘッドが交換可能であり、画像認識で細胞の有無を確認し、液滴単位で分注する技術が、記載されている。
【0006】
交換型マイクロ流路カートリッジ内で、検体の処理や検出などを含む異なる複数の時間の異なる処理を順次実行する従来の技術は、流れをストップする仕組みが流路中に必要であり、その仕組みが不要な技術でない。使い捨て交換可能なカートリッジでは、特別な仕組みを組み込まない技術がカートリッジの量産に都合がよい。従来技術は、すべて特別な仕組みが必要な内容である。マイクロ流路内の遺伝子検出するために複数プロセス処理を行う従来技術としては、以下の技術が報告されている。岡田らの方法(非特許文献1)には、流路内に設置したバルブとポンプを利用して、異なる処理間のサンプル流を制御する方法が記載されている。マイクロ流路中でオイル中液滴の流れを、電場を利用して制御する方法が、米国公開特許US20130288254(特許文献12)に記載されている。遺伝子増幅反応の方法としては、特許文献9は、エマルジョンを利用してPCR反応空間を小分けしたデジタルPCR技術を開示している。DNAを等温で増幅する方法については、マイクロ流路で等温増殖反応を行う方法が特許文献13に記載され、SmartAmp法に関する技術が非特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第3710933号明細書
【文献】米国特許第3826364号明細書
【文献】国際公開第98/10267号
【文献】米国特許第8248604号明細書
【文献】特許第5382852号明細書
【文献】国際公開第2011/086990号
【文献】米国特許出願公開第2005/0136528号明細書
【文献】米国特許第8834793号明細書
【文献】米国特許第7968287号明細書
【文献】特開平11-295323号公報
【文献】米国公開特許20150367346号明細書
【文献】米国公開特許20130288254号明細書
【文献】国際公開1998/022625号
【文献】特開2015-158489号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】「ジャーナル・オブ・バイオセンス・バイオエレクトロン(J Biosens Bioelectron)」2012年(米国)第3巻、第4版、1000126
【文献】「ネイチャー・メソッズ(Nature Methods)」2007年(英国)第4巻、p.257-262
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
細胞を単一細胞として分注する技術の課題は、分注する細胞の個数が一個であることの識別、細胞ダメージ、細菌汚染、及び異なるサンプル間のクロスコンタミネーションが考えられる。特許文献7は、中空ピペットで細胞を吸い上げて異なる場所に移動して吐き出して分注する技術を記載しているが、細胞一個単位で分注する技術ではない。特許文献8には、画像認識で細胞の有無を確認して、液滴単位でピエゾ素子による圧力パルス駆動により滴下して分注する技術が記載されている。しかし、サンプル液ごとにサンプル液が接触する流路系全体が交換可能でないため、サンプル分注後の細胞が、異なるサンプル液のキャリーオーバーの細胞である可能性を否定することができない。このことは異なる患者の医療用検体では誤診断につながる問題である。以下、分注用の中空ピペットとは、分注前に分注液が通過する内部が中空の容器であって、分注流路の先端部の部品をさしており、分注ピペットと呼ぶことにする。
本発明者らは、単一の細胞を分注するために、画像認識を用いる方法を検討した。しかしながら、分注ピペット中の細胞の個数を、画像から測定しようとしたところ、分注ピペットのキズ又は付着異物を細胞と区別することが困難であることに気が付いた。すなわち、分注ピペット内の細胞数を画像認識によって測定する場合、分注ピペットのキズと細胞との区別が困難であり、認識した細胞数と分注された細胞数とが一致しないことになる。従って、細胞と分注ピペットのキズとを判別する技術が必要となることに気づいた。また、細胞ダメージに関しては、分注作業が長時間に及ぶ場合、細胞にダメージを与えることがある。すなわち、細胞の増殖に適した5%程度のCO2存在下ではない大気中雰囲気に細胞を長時間晒すことにより、細胞がダメージを受ける。この細胞ダメージは細胞の種類に依存する。細菌汚染に関しては、分注装置の細胞が接する流路が固定された流路である場合、細菌がその流路で増殖するため、細菌汚染が発生する。細菌汚染を防止するために、防腐剤を入れたバッファーを使用することがある。しかしながら、防腐剤により細胞ダメージが生じることがある。更に、固定流路の場合、サンプル間のクロスコンタミネーションが生じるという問題がある。
従って、本発明の目的は、コンタミネーションフリーかつダメージフリーである単一細胞分注技術を提供することである。
【0010】
単一細胞分注の前段階として、夾雑細胞群から目的の細胞を分取することが好ましい。このために、使い捨て交換型のマイクロ流路カートリッジ内の細胞分取が好ましい。使い捨て交換型のマイクロ流路カートリッジは、検体間コンタミネーションが問題となる医療診断用のフローサイトメーター又はセルソーターにとって重要である。本発明者らは、マイクロ流路カートリッジを使用していたところ、流路断面積の小さいマイクロ流路では、サンプルリザーバーの底面への細胞の堆積や流路側面への細胞吸着が原因で、流路詰まりを引き起こしやすいことを見出した。この課題に対して、特許文献11の技術は、サンプルリザーバーの底面に細胞が重力沈降により堆積するのを防止する技術であって、一定の細胞濃度をマイクロ流路に流すための技術である。この技術は、細胞の詰まりの予防効果があるが、詰まった状態を解除する効果はない。
従って、本発明の目的は、マイクロ流路カートリッジの流路における細胞の詰りを防止又は解消する技術を提供することであり、さらに、上記の単一細胞分注用の目的細胞を夾雑細胞群から純化解析する技術を改善することである。
【0011】
交換型マイクロ流路カートリッジのメリットは、コンタミネーションフリーの他に、流路系全体を小型カートリッジに収めることで、装置も小型にすることができることである。この場合、臨床現場で得たサンプルをその場で解析できる可能性があると考えられる。しかしながら、目的の細胞又は遺伝子などの解析において、臨床サンプルには解析の障害となる夾雑物が多く混在している。高濃度の夾雑物存在下でも高感度に目的の遺伝子を検出するための前処理が必要となる。高濃度の夾雑物存在下でも高感度に検出するためにはデジタルPCR法のようにオイル中液滴を利用して検出する方法がある。しかしながら、この方法を実行するためには、使い捨て交換型のマイクロ流路カートリッジ内ではサンプル液を流しながら、次々と異なる反応をシーケンシャルに実施するためには、処理時間が異なる複数の処理を同一の流路カートリッジで行う必要がある。現在、交換型マイクロ流路カートリッジ内で、検体の処理や検出などを含む異なる複数の処理を順次実行する技術として流路内に制御素子を組み込む技術のみで制御素子が不要な技術開発されていない。非特許文献1は、制御素子を組み込む技術を利用して複数の処理を実現する技術である。
例えば、現在のエマルジョン液滴を利用するジタルPCRのBio-Rad社の製品とRaindanceTechnologoes社の製品は、エマルジョン形成、遺伝子増幅反応、及び解析の3つのプロセスからなるが、それぞれ別の装置からなる構成となっており、一台の装置で実現されていない。
従って、本発明の目的は、交換型マイクロ流路カートリッジ内で、検体の処理や検出などを含む異なる複数の処理を順次実行する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、細胞を単一細胞として分注する技術について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、分注ピペット中の分注液を2回以上撮影し、撮影された微粒子様物のうち移動した微粒子様物を、移動しない微粒子様物と区別して浮遊粒子と判定することによって、分注ピペットのキズ又は付着異物を、容易に移動可能な浮遊状態の細胞と区別できることを見出した。ここで移動しない粒子としては、分注ピペットのキズや付着異物の他に、分注対象の細胞であるが付着して移動しない細胞も含まれる。付着した細胞は分注されないので、分注される細胞の数としてカウントすべきでないので、移動しない粒子をすべてカウントしないことは問題無い。
また、本発明者らは、マイクロ流路カートリッジの流路における細胞の詰りを防止又は解消する技術について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、マイクロ流路カートリッジ(マイクロ流路チップとも呼ぶ)において、シースリザーバーの圧力をサンプルリザーバーの圧力より高くし、そしてシースリザーバー中のシース液をサンプルリザーバーに逆流させることによって、マイクロ流路カートリッジの流路における細胞の詰りを防止する又は解消できることを見出した。
更に、本発明者らは、交換型マイクロ流路カートリッジ内で、検体の処理や検出などを含む異なる複数の処理を順次実行する技術について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、サンプル及び試薬の混合物から、オイルを用いて液滴を形成させ、液滴リザーバーにおいて反応を行い、そして前記液滴リザーバー中の液滴を、流路を介して逆流させ、そして反応を検出することによって、交換型マイクロ流路カートリッジ内で検体の処理や検出などを含む異なる複数の処理を順次実行できることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
【0013】
従って、本発明は、
[1]微粒子を含む試料液を分注するための透明な中空ピペット、及び画像撮影手段を有する微粒子分注装置であって、
中空ピペット中の分注液を2回以上撮影する手段、2つ以上の撮影した画像を比較し、撮影された微粒子様物のうち移動した微粒子様物を、移動しない微粒子様物と区別して浮遊粒子と判定する手段、及び目的の個数の浮遊粒子を含む試料液を分注する手段を有する、微粒子分注装置、
[2]前記中空ピペット中の分注液を強制的に移動させる手段を更に有する、[1]に記載の微粒子分注装置、
[3]ガス雰囲気を0.03~50%の二酸化炭素ガス雰囲気に調節できる手段を更に有する、[1]又は[2]に記載の微粒子分注装置、
[4]分注直前の中空ピペット内の粒子画像を保存することによって、分注した粒子数のデータを記録する、[1]~[3]のいずれかに記載の微粒子分注装置、
[5]試料液を、中空ピペットの上部から中空ピペットに供給するための分注予備室を有する、[1]~[4]のいずれかに記載の微粒子分注装置、
[6]微粒子を含む試料液を分注するための透明な中空ピペット、及び画像撮影手段を有する微粒子分注装置を用いて微粒子を分注する方法であって、(1)中空ピペット内の分注液を2回以上撮影する工程、(2)2つ以上の撮影した画像を比較し、撮影された微粒子様物のうち移動した微粒子様物を、移動しない微粒子様物と区別して浮遊粒子と判定する工程、及び(3)目的の個数の浮遊粒子を含む試料液を分注する工程、
を含む、微粒子分注方法、
[7]前記微粒子分注装置が、中空ピペット中の分注液を強制的に移動させる手段を更に有する微粒子分注装置であり、そして前記撮影工程(1)が、分注液を強制的に移動させる手段によって、分注液を移動させる前後において、中空ピペット内の分注液を2回以上撮影する工程である、[6]に記載の微粒子分注方法、
[8]前記微粒子分注装置が、ガス雰囲気を0.03~50%二酸化炭素ガス雰囲気に調節できる手段を更に有する微粒子分注装置であり、そして前記工程(1)~(3)を3~10%二酸化炭素ガス雰囲気で行う、[6]又は[7]に記載の微粒子分注方法、
[9]前記撮影工程(1)の前に、複数回の分注可能な量の試料液を中空ピペットの上部の分注予備室に吸引し、分注予備室から一定量の試料液が中空ピペットに供給された後に、工程(1)~(3)を実施することによって、連続的に分注液を分注する、[6]~[8]のいずれかに記載の微粒子分注方法、
[10]透明基板に流路を形成してなる流路カートリッジと、前記流路を流れる試料液中の微粒子に光を照射する光照射手段と、前記光を照射した際に前記微粒子から発生する散乱光または蛍光を検出し、それらの信号強度に基づいて前記微粒子を識別し、目的の微粒子を検出する検出手段とを含む、微粒子解析装置であって、
前記流路カートリッジに、第1の流路に接続したサンプルリザーバー、前記第1の流路の左右両側から合流する第2流路及び第3流路が接続するシースリザーバー、及び合流後の第1流路の下流側に接続している廃液リザーバーが形成されており、
前記シースリザーバーの圧力をサンプルリザーバーの圧力より高くすることによって、シースリザーバー中のシース液をサンプルリザーバーに逆流させる手段を有することを特徴とする微粒子解析装置、
[11][10]に記載の微粒子解析装置が、前記検出手段からの信号に基づいて微粒子の流れの方向を変化させる力を作用させる力発生手段を更に含む、微粒子分離装置、
[12]前記流路カートリッジが、前記第2及び第3の流路が合流後の第1の流路の両側に対向するように接続した第4の分岐流路と第5の分岐流路及び前記第4分岐流路に接続するソーティングリザーバー及び第5の分岐流路に接続した回収リザーバーを有し、
前記力発生手段が、第4の分岐流路から第5の分岐流路の方向に流れるパルス流を発生させ、微粒子の流れを第5の分岐流路方向に変化させて微粒子を回収リザーバー分取する手段である、[11]に記載の微粒子分離装置、
[13][10]に記載の微粒子解析装置又は[11]又は[12]に記載の微粒子分離装置を用いる微粒子の流路詰りを防止又は除去する方法であって、シースリザーバーの圧力をサンプルリザーバーの圧力より高くし、そしてシースリザーバー中のシース液をサンプルリザーバーに逆流させることによって、サンプルリザーバーから第1の流路における微粒子の流路詰りを防止又は除去する方法、
[14]マイクロ流路カートリッジにおいて、サンプル液を反応させ、その反応の結果を検出する反応検出装置であって、サンプルリザーバー、試薬リザーバー、オイルリザーバー、及び液滴リザーバーを有し、サンプルリザーバーからの第1流路及び試薬リザーバーからの第2流路が合流して第3流路を形成し、第3流路の両側からオイルリザーバーからの第4流路及び第5流路が合流し、前記第3流路は第4流路及び第5流路の合流点の下流で液滴リザーバーに結合しており、前記液滴リザーバーに流れ込んだ上記合流点で形成されたオイル中液滴を、第3流路を介して逆流させる手段を有し、そして第3流路において反応を検出する手段を有する、反応検出装置、
[15]前記液滴を逆流させる手段が、液滴リザーバーに印加する圧力を、サンプルリザーバー、試薬リザーバー、及びオイルリザーバーに印加する圧力より高くする手段である、[14]に記載の反応検出装置、
[16]前記反応が遺伝子増幅反応であり、前記反応検出装置は液滴リザーバーの温度を調整する手段を有し、そして前記反応検出手段が光照射による蛍光を検出する手段である、[14]又は[15]に記載の反応検出装置、
[17]前記サンプルリザーバー及び試薬リザーバーが1つのサンプル試薬リザーバーであり、前記第1流路及び第2流路がサンプル試薬リザーバーからの1つの第3流路である、[14]~[16]のいずれかに記載の反応検出装置、
[18][14]~[17]のいずれかに記載の反応検出装置を用いる反応検出方法であって、(1)第3流路のサンプル及び試薬の混合液を、第3流路の両側から第4流路及び第5流路を介して、オイルを供給することによって、オイル中液滴を形成する工程、(2)液滴中のサンプルを反応する工程、及び(3)液滴中のサンプルの反応を検出する工程、を含む、反応検出方法、
[19]前記検出工程(3)において、液滴リザーバーから第3流路に液滴を逆流させた後に、サンプルの反応を検出する、[18]に記載の反応検出方法、
[20]前記反応が遺伝子増幅反応であり、前記検出が増幅した遺伝子の検出である、[18]又は[19]に記載の反応検出方法、
[21]透明基板に流路を形成してなる流路カートリッジと、前記流路を流れる試料液中の微粒子に光を照射する光照射手段と、前記光を照射した際に前記微粒子から発生する散乱光または蛍光を検出し、それらの信号強度に基づいて前記微粒子を識別し、目的の微粒子を検出する検出手段とを含む、微粒子解析又は分離装置であって、微粒子が細胞の場合にサンプル液の周囲のガス雰囲気を0.03~50%の二酸化炭素ガス雰囲気に調節できる手段を有することを特徴とする微粒子解析又は分離装置、
[22]前記調節手段が、チャンバーで装置全体をカバーし、そして二酸化炭素ガス雰囲気を調節する手段である、[21]に記載の微粒子解析又は分離装置、及び
[23]前記調節手段が、流路カートリッジ内の液体の周囲のガス雰囲気の二酸化炭素を調節する手段である、[21]に記載の微粒子解析又は分離装置、
に関する。
【発明の効果】
【0014】
高濃度の夾雑細胞のなかの特定の細胞を一個単位で解析する技術において、細胞の分取技術、一個の細胞を分注する技術、及びその細胞に含まれるDNAやRNAを解析する方法が重要である。
本発明の微粒子分注装置及び微粒子分注方法によれば、分注ピペットのキズ又は付着異物や分注対象の粒子であるが分注ピペットに付着した細胞などの分注不可能な移動しない輝点と、分注される移動可能な浮遊細胞とを区別することが可能となり、分注ピペット内の分注可能な細胞数を正確に測定することができる。従って、正確な細胞数の分注、特には単一細胞の分注が可能となった。
また、本発明の微粒子解析装置、微粒子分離装置、及び微粒子の流路詰りを防止又は除去する方法によれば、交換可能なマイクロ流路カートリッジ内において、細胞の流路内の詰まり予防と詰まった後の詰まり除去する方法を、マイクロ流路カートリッジを装置から取り外すことなく、自動的に実行することを可能とした。
更に、本発明の反応検出装置及び反応検出方法によれば、エマルジョンを利用して遺伝子を高感度検出する方法を用い、交換型流路カートリッジ内で、エマルジョン形成過程、エマルジョン内の目的遺伝子の増幅反応過程、及びエマルジョン液滴の蛍光検出過程を含む複数のプロセスを同一流路内で実現することで、目的の遺伝子の高感度検出の自動化を可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】セルソーティング用の交換型流路カートリッジ内の通常の液体の流れの状態を示す図(A)及びセルソーティング用の交換型流路カートリッジ内の細胞詰まりを防止又は除去するためのシース液の流れを示す図(B)である。
【
図2】セルソーティング用の交換型流路カートリッジの平面図(A)、及びセルソーティング用の交換型流路カートリッジのサンプルリザーバーの底に重力沈降で堆積した細胞が、シース液をサンプルリザーバーに逆流させることで撹拌される様子を示す図(B)である。
【
図3】分注ピペット内輝点の時刻TにおけるZ方向についての分布位置(A)、分注ピペット内輝点の時刻T+ΔTにおけるZ方向についての分布位置(B)、及び分注ピペット内輝点の時刻Tと時刻T+ΔTの差分のZ方向についての分布位置(C)を示した図である。
【
図4】交換型流路カートリッジの上流側リザーバー内のサンプル液が下流側リザーバーの方へ接続した流路を介して圧力制御により流れる過程を示した図(A)、交換型流路カートリッジの上流側リザーバー内のサンプル液がすべて下流側リザーバーの方に流れた後に、サンプル液が静止している状態を示す図(B)、及び交換型流路カートリッジの下流側リザーバー内に静止した状態のサンプル液が、圧力を逆転させることで逆流する過程を示した図(C)である。
【
図5】マイクロ流路カートリッジ内で、エマルジョン中の遺伝子を含む液滴を形成する過程を示す図(A)、マイクロ流路カートリッジ内で、遺伝子を含む液滴を形成後に遺伝子増幅反応過程を示す図(B)、及びマイクロ流路カートリッジ内で、遺伝子増幅反応後に液滴を逆流させて、エマルジョン中の液滴の蛍光の有無を解析する過程を示す図(C)である。
【
図6】本発明の反応検出装置に用いるマイクロ流路カートリッジの流路パターンが8本形成された、8検体対応の交換型流路カートリッジを示した図である。
【
図7】8検体対応交換型流路カートリッジを用いる反応検出装置の構成の概略を示した図である。
【
図8】本発明の微粒子解析装置又は微粒子分離装置における逆流による撹拌の効果を示したグラフである。
【
図9】本発明の微粒子分注装置の分注ヘッド部分を示した図(A)、微粒子分注装置の分注ヘッドの動作を示した図(B)、及び微粒子分注装置の概観を示した図(C)である。
【
図10】本発明の微粒子分注装置のおける分注ピペット内のサンプル液の画像(A)、分注ピペット内のサンプル液の時間差分画像(B)、及び沈降粒子と認識された部分の拡大図(C)である。
【
図11】エマルジョン中の液滴形成の圧力条件と、液滴サイズとの関係を示したグラフである。
【
図12】液滴形成過程のマイクロ流路の写真(A)、及び液滴リザーバーから液滴を含むエマルジョンを逆流させている写真(B)である。
【
図13】本発明の微粒子分注装置において、5%CO
2ガス雰囲気中で分注する手段の一例を示した図である。
【
図14】本発明の微粒子分注装置において、分注ピペットの上流からサンプル液を供給する場合のサンプル液内の粒子の分注のシステムを示した図である。
【
図15】分注毎に分注ピペット内に分注液を吸引する方法のフローチャートである。
【
図16】分注ピペットの上部からサンプル液を連続して供給する方法のフローチャートである。
【
図17】本発明の微粒子分注装置において、分注ピペットの上流からサンプル液を供給する場合のサンプル液内の粒子の画像認識方法を示した図である。
【
図18】CO
2ガス雰囲気中でのセルソーティングを、CO
2ガスチャンバー内にセルソーターを設置することによって実現する方法を示した図である。この方法ではセルソーティングの原理によらずにCO
2ガス雰囲気中でのセルソーティングを実現する。
【
図19】CO
2ガス雰囲気中でのセルソーティングを、
図2に示した交換型マイクロ流路カートリッジのリザーバー内をCO
2ガス雰囲気にすることで実現する方法を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔1〕微粒子分注装置
本発明の微粒子分注装置は、微粒子を含む試料液を分注するための透明な中空ピペット、及び画像撮影手段を有する微粒子分注装置であって、中空ピペット中の分注液を2回以上撮影する手段、2つ以上の撮影した画像を比較し、撮影された微粒子様物のうち移動した微粒子様物を、移動しない微粒子様物と区別して浮遊粒子と判定する手段、及び目的の個数の浮遊粒子を含む試料液を分注する手段を有する。
【0017】
細胞を分注する場合、分注ピペット中の細胞数を認識する技術が必要である。細胞数を認識する技術においては、前記の通り分注ピペットなどの分注直前の容器のキズ、又は付着異物等が、細胞と区別できないという課題がある。この課題を解決した本発明の微粒子分注装置を、図を用いて説明する。
図3は、分注ピペット内で移動する浮遊粒子を分注ピペットのキズや付着異物と区別する方法を図示したものである。
図3(A)は、光照明を行って時刻Tでカメラ撮影した分注ピペットの画像の輝点強度のZ方向位置に対する分布を示したものである。
図3(B)は時刻T+ΔTで撮影した同様の分布である。
図3(C)は、時刻Tと時刻T+ΔTの差分の分布である。時間的に変化しない分注ピペットのキズや付着異物による輝点強度をゼロとして、時間的に移動する浮遊粒子のみを、前記の時間差分によって検出する。細胞は重力沈降によって下方向に移動するので、時間差のみで浮遊細胞を検出することができる。
【0018】
本発明に用いる中空ピペット、及び画像撮影手段は、本分野において通常用いられる中空ピペット及び画像撮影手段を、限定することなく用いることができる。
【0019】
《中空ピペット中の分注液を2回以上撮影する手段》
中空ピペット中の分注液を2回以上撮影する手段は、撮影回数及び撮影間の時間間隔を規定できる。撮影回数は、2回以上であれば特に限定されないが、好ましくは2回である。撮影間の時間間隔も、細胞の移動が検出できる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば0.1~60秒の時間間隔で撮影を実施すればよく、好ましくは1~10秒であり、より好ましくは2~5秒である。この時間間隔は、分注する細胞のサイズが10μmの場合は重力沈降により移動する距離が20μm以上となるように設定するのが都合がよい。
【0020】
《浮遊粒子の判定手段》
本発明の浮遊粒子の判定手段は、2つ以上の撮影した画像を比較し、撮影された微粒子様物のうち移動した微粒子様物を、移動しない微粒子様物と区別して浮遊粒子と判定する。第1の撮影画像中の微粒子様物を特定し、第2の撮影画像、又は第3以降の撮影画像において、それらの微粒子様物が移動したか否かを判定することによって、移動した微粒子様物と移動しない微粒子様物とを判別することが可能である。
【0021】
《分注手段》
本発明に用いる分注手段は、本分野において通常用いられる分注手段を、限定することなく用いることができる。
【0022】
例えば、本発明の微粒子分注装置は、試料液に含まれる微粒子を一個単位で分注する装置において、分注ピペットは、自動交換可能な透明な中空ピペットであって、素材は、ポリプロピレンやポリスチレンなどの透明樹脂製であって、分注液量は0.3μL以下であり、分注ごとに中空ピペットの分注液量全体の画像認識によって、4μm以上の粒子の有無と個数を検出し、粒子を指定した個数でマルチウェルプレートに分注することができる。そして、分注液量全体の画像を、異なる時間で複数回撮影することで、中空ピペット内で重力沈降により移動する浮遊粒子を中空ピペットのキズや付着異物と区別し、浮遊微粒子を分注することができる。
【0023】
《強制移動手段》
本発明の微粒子分注装置は、中空ピペット中の分注液を強制的に移動させる手段を有してもよい。重力沈降は移動速度が遅いので、強制的に分注ピペット内の液を短時間に移動させることで浮遊粒子の検出を高速化させる事もできる。強制移動手段としては、具体的には、中空ピペット中の分注液にかかる空気圧を変化させることを挙げることができる。
例えば、本発明の微粒子分注装置は、試料液に含まれる微粒子を一個単位で分注する装置において、分注ノズルは、自動交換可能な透明な中空ピペットであって、分注液量は0.3μL以下であり、分注ごとに中空ピペットの分注液量全体の画像認識によって、サイズが4μm以上の粒子の有無と個数を検出し、粒子を指定した個数でマルチウェルプレートに分注することができる。そして、分注液量全体の画像取得を中空ピペット内で強制的に液を移動させて移動の前後で複数回行うことで、中空ピペット内の浮遊粒子を識別して、浮遊微粒子を分注することができる。強制的に移動させる量としては、10μmから100μmの間で設定する。例えば、分注する細胞のサイズが10μmの場合は20μm以上移動させるのが望ましい。この場合の圧力変動の設定はシリンダーポンプのピストンの移動量で設定する。
分注方式としては、サンプル液を分注単位ごとに分注ピペット内に吸い上げる場合のほかに、ピペットの上部からサンプル液を供給する場合がある。この場合は分注単位で吸い上げの動作が不要であり連続的に供給することが可能となる。この場合は分注されるサンプル液の領域と上部から新たに供給されるサンプル液の領域は連続に接続しているので、時間差による画像認識方法に以下の改良を追加する。この改良内容を
図17で説明する。分注ピペット82(中空ピペット)の上部からサンプル液が分注毎に供給される。この場合、分注される液と上部から新たに供給される液とが接続しているためにその境界が明確でないため認識される細胞数が混在するという課題がある。この課題を解決するために、ピペット内の認識領域84と予備認識空間83の2種類の領域を設定して、其々の領域で粒子を検出する。認識領域に分注すべき数の粒子が存在し、予備領域内に粒子が存在しない場合にのみ分注するようする。但し、分注する液量は、認識領域の液量より多く、かつ認識領域の液量と予備領域の液量を加えた液量より少ない量とすることで、粒子数の混在を無くすことができ、認識領域内に含まれる粒子のみを分注することが可能となる。上部からサンプル液をピペット内に供給する場合の分注システムの例を
図14(A)に記した。分注ピペットはXYZ方向に移動可能であり、シリンダーポンプ89による分注ピペット73(中空ピペット)から事前にサンプル液71を吸い上げ、分注ピペット73の上部の分注予備室87にいれる。その分注予備室の上流にピエゾポンプ86が接続している。分注ピペット73内部をカメラ76で取得した画像の粒子検出のための画像認識は、
図17で説明したように認識領域と予備認識領域を設定することで分注される領域に含まれる粒子数を正確に決定する。分注する粒子数が目的の設定数の範囲と判定した場合は、
図14(B)に示すように、このポンプのパルス的な圧力により、分注ピペット73の先端から空中に液滴単位に飛ばして、マルチウェルプレートに分注する。分注する粒子数が目的の設定数の範囲ではない場合は、その液をサンプル容器71に戻す。液滴単位で分注する場合は、液滴サイズは、100μmから300μmの範囲である。
図14(B)で示したシステムは、破線領域88でしめした範囲がサンプル液毎に自動交換可能であり、サンプル液間のキャリーオーバーが発生しない。
中空ピペットの上部からサンプル液を連続して供給する微粒子分注装置は、複数回の分注のためのサンプル液を含有ための分注予備室87を有する。分注予備室を有することにより、連続して、中空ピペットに試料液と供給することができる。また、分注予備室から、サンプル液を中空ピペットに連続的に供給するために、微粒子分注装置は連続分注手段を有することが好ましい。連続分注手段としては、限定されるものではないが、ピエゾポンプ86を挙げることができる。
上記の2種類の分注方法について、それぞれの手順を示すフローチャートを
図15と
図16に示す。
図15は、分注毎に分注ピペット内に分注液を吸引する方法のフローチャートである。この場合は、サンプル容器71の中のサンプル液の粒子が重力沈降で底に沈むので撹拌を行った後に、分注ピペット73に吸引して、その後にカメラ76で分注ピペット内の画像を複数回取得する。画像取得間の間に分注ピペット内の液を強制移動させるために圧力を変化させる。複数の画像比較によって分注液内の浮遊粒子を検出し、浮遊粒子の数が設定値を満足する場合に、分注先に分注する。満足しない場合は、分注せずにサンプル溶液に戻す。
図16は、分注ピペットの上部からサンプル液を連続して供給する方法のフローチャートである。この方法でもサンプル容器中のサンプル液の撹拌からスタートする。分注毎に分注液を吸い上げるのではなく、分注ピペット73の上流に設置したサンプル液予備室87に、分注複数回分のサンプル液量を一度に吸い上げた後に、カメラ76で分注ピペット内の画像を複数回取得する。画像取得間の間に分注ピペット内の液を強制移動させるために圧力を変化させる。複数の画像比較によって分注液内の浮遊粒子を検出し、浮遊粒子の数が設定値を満足する場合に、サンプル液予備室87にパルス圧力を加えて、分注ピペットから、大気中に液滴状で飛ばして分注先に分注する。浮遊粒子の数が設定値を満足しない場合は、分注せずにサンプル容器に戻す。
次に、分注前のサンプル液の分注後のコンタミネーションの問題とその防止技術について説明する。例えば、分注前に2種類のサンプル液AとサンプルB液があるとする。サンプルAに含まれる細胞群をマルチウェルプレートに分注した後に続いて、サンプルBに含まれる細胞群を、別のマルチウェルプレートに分注する場合に生じる細胞のコンタミネーションを考える。サンプルBに含まれる細胞を分注したマルチウェルプレート内には、サンプルAの細胞が混入している可能性がある。この可能性を無くすための技術を以下に説明する。分注毎に交換可能な分注ピペット内にサンプル液を吸い上げて分注する方式であって、かつサンプル液Aの分注後は、分注ピペットを交換すれば良い。しかしながら、サンプル液から吸い上げて分注ピペットの内部の上流から分注液が供給される流路を使用する場合は、分注ピペットを吸い上げる流路からポンプを含む分注ピペットまでの全交換を行う必要があり、分注ピペットのみの交換ではコンタミネーションを防止することはできない。なぜならばサンプル液Aの細胞がポンプ部に吸着し、サンプルB分注時に離れてコンタミネーションが発生する可能性を否定することは出来ないからである。したがって、サンプル液が接触する部分は交換型としなければならない。この部分に高価なポンプが含まれると、分注のランニングコストが高くなり実用的で無い。このため本発明では、分注ピペットの内部の上流から分注液が供給される流路を使用する場合でも、
図14に示すようにサンプル液が接する部分は、ポンプの下流のサンプル液予備室87と分注ピペット73を含む部分までとして交換可能とすることで、異なるサンプル液の分注時には交換することでコンタミネーションを無くすことを可能としている。サンプル予備室は、分注毎に吸い上げる必要の無い程度のサンプル液量を最初に吸い上げて分注ピペットの上流にサンプル液を確保するために設置している。
【0024】
《二酸化炭素調節手段》
細胞分注における細胞ダメージを解決するために、CO
2インキュベーターと同じガス雰囲気の中で分注を行うという方法を挙げることができる。
すなわち、本発明の微粒子分注装置は、ガス雰囲気を0.03~50%の二酸化炭素ガス雰囲気に調節できる手段を有してもよい。前記調節手段は、大気の二酸化炭素濃度である0.03%以上にできる限りにおいて、特に限定されるものではない。後述の微粒子分注方法において用いる二酸化炭素濃度は、特に限定されるものではないが、好ましくは2~10容量%であり、より好ましくは3~7容量%であり、更に好ましくは4~6容量%であり、最も好ましくは5容量%である。
図13は、細胞分注を、二酸化炭素ガス濃度を調節した雰囲気中で行う一例を示した図である。この図では二酸化炭素ガス濃度を調節した雰囲気を維持する容器で分注装置を囲む構成をとる。
例えば、本発明の微粒子分注装置は、試料液に含まれる細胞を一個単位で分注する装置において、分注ノズルは、自動交換可能な透明な中空ピペットであって、分注液量は0.3μL以下であり、分注ごとに中空ピペットの分注液量全体の画像認識によって、サイズが4μm以上の粒子の有無と個数を検出し、細胞を指定した個数でマルチウェルプレートに分注することができる。そして、分注処理中に装置内のガス雰囲気を5%二酸化炭素ガスに維持することができる。ここで、分注液量全体の画像取得を、異なる時刻に複数回行うことで、中空ピペット内で自然沈降により移動する浮遊細胞を中空ピペットのキズや付着粒子と区別して検出してもよい。更に、分注液量全体の画像取得を中空ピペット内で強制的に液を移動させて移動の前後で複数回行うことで、中空ピペット内で移動する浮遊細胞を中空ピペットのキズや付着粒子と区別して検出してもよい。細胞の分注は、夾雑細胞群中に含まれる一部の目的の細胞を分注することを目的とすることが多い。この場合は、細胞分注用細胞をセルソーターにより夾雑細胞群から目的の細胞を純化させる前処理を行うことが好ましい。セルソーティング処理も、細胞分注の処理と同様に二酸化炭素濃度を調節した雰囲気中で行うことで、細胞分注と同様に大気中にさらされる事が原因の細胞ダメージを低減する事ができる。すなわち、細胞のバイオアビリティ低下を防止するために、細胞の解析、又は分離を行うことが好ましい。例えば、
図18に示すようにセルソーティングを行う場合に、二酸化炭素濃度を調節した雰囲気の容器内にセルソーターを設置し動作させればよい。この二酸化炭素濃度を調節する雰囲気の容器は、CO
2ガスボンベ(300)と圧力調整器(301)とエアー配管(303)で気密に接続したものであり、内部は炭酸ガスで気圧はほぼ大気圧にしたものである。この場合のセルソーターは、マイクロ流路カートリッジを利用する装置であっても、一般的にFACSと呼ばれる大気中の液滴単位で細胞分離するセルソーターであってもよい。マイクロ流路カートリッジを利用する装置の場合は、サンプル液はマイクロ流路内のリザーバーであり、その容量が、10μLから数10mLまでの範囲にとどまるので、サンプル液の周囲の気体の容量もその範囲であるため、一定のCO
2ガス濃度に制御するには容量が小さい方が適していると言える。
更に、
図2に示した様に空気圧制御によってマイクロ流路カートリッジ内の液体の流れを制御するセルソーターにおいて、カートリッジ内のサンプル液を貯蔵するサンプルリザーバー内と必要な分取した細胞の貯蔵する回収リザーバー内にCO
2ガスを送る手段を
図19に示した。この場合は、CO
2ガスボンベ(300)と圧力調整器(301)とエアー配管(305)で、セルソーター装置のCO2ガス配管系に気密に接続する。装置内のCO
2配管系は、ペリスターポンプ(304)を介して、マイクロ流路カートリッジ内のサンプルリザーバー(
図2の11に対応)とマイクロ流路カートリッジ内の回収リザーバー(
図2の17に対応)に気密に接続する。異なるリザーバー内の空気圧制御は、CO
2ガスを送るタイミングが異なるので、並列に異なるペリスタポンプで接続する。ここでペリスタポンプを利用するメリットは、送り込んだガス量と廃液するガス量とが常に同じなので、気密なリザーバー内の細胞の流れ制御のための空気圧制御の圧力調整に対して、CO
2ガスの緩やかな流入廃棄の制御系が影響を与えないことである。
【0025】
〔2〕微粒子分注方法
本発明の微粒子分注方法は、微粒子を含む試料液を分注するための透明な中空ピペット、及び画像撮影手段を有する微粒子分注装置を用いて微粒子を分注する方法であって、(1)分注ピペット内の分注液を2回以上撮影する工程、(2)2つ以上の撮影した画像を比較し、撮影された微粒子様物のうち移動した微粒子様物を、移動しない微粒子様物と区別して浮遊粒子と判定する工程、及び(3)目的の個数の浮遊粒子を含む試料液を分注する工程、を含む。
本発明の微粒子分注方法は、限定されるものではないが、本発明の微粒子分注装置を用いて行うことができる。具体的に、前記「[1]微粒子分注装置」の項に記載の手法によって、分注を行ってもよい。
【0026】
〔3〕微粒子解析装置及び微粒子分離装置
本発明の微粒子解析装置は、透明基板に流路を形成してなる流路カートリッジと、前記流路を流れる試料液中の微粒子に光を照射する光照射手段と、前記光を照射した際に前記微粒子から発生する散乱光または蛍光を検出し、それらの信号強度に基づいて前記微粒子を識別し、目的の微粒子を検出する検出手段とを含む、微粒子解析装置であって、前記流路カートリッジに、第1の流路に接続したサンプルリザーバー、前記第1の流路の左右両側から合流する第2流路及び第3流路が接続するシースリザーバー、及び合流後の第1流路の下流側に接続している廃液リザーバーが形成されており、前記シースリザーバーの圧力をサンプルリザーバーの圧力より高くすることによって、シースリザーバー中のシース液をサンプルリザーバーに逆流させる手段を有する。
本発明の微粒子分離装置は、透明基板に流路を形成してなる流路カートリッジと、前記流路を流れる試料液中の微粒子に光を照射する光照射手段と、前記光を照射した際に前記微粒子から発生する散乱光または蛍光を検出し、それらの信号強度に基づいて前記微粒子を識別し、目的の微粒子を検出する検出手段と、検出手段からの信号に基づいて微粒子の流れの方向を変化させる力を作用させる力発生手段を含む、微粒子解析装置であって、前記流路カートリッジに、第1の流路に接続したサンプルリザーバー、前記第1の流路の左右両側から合流する第2流路及び第3流路が接続するシースリザーバー、及び合流後の第1流路の下流側に接続している廃液リザーバーが形成されており、前記シースリザーバーの圧力をサンプルリザーバーの圧力より高くすることによって、シースリザーバー中のシース液をサンプルリザーバーに逆流させる手段を有する。
前記微粒子分離装置は、前記流路カートリッジが、前記第2及び第3の流路が合流後の第1の流路の両側に対向するように接続した第4の分岐流路と第5の分岐流路及び前記第4分岐流路に接続するソーティングリザーバー及び第5の分岐流路に接続した回収リザーバーを有していてもよい。また、前記力発生手段が、第4の分岐流路から第5の分岐流路の方向に流れるパルス流を発生させ、微粒子の流れを第5の分岐流路方向に変化させて微粒子を回収リザーバー内に分取する手段であってもよい。
【0027】
前記シースリザーバーの圧力をサンプルリザーバーの圧力より高くする手段としては、シースリザーバーに圧力を付与する手段(例えば、ポンプ)と、サンプルリザーバーに圧力を付与する手段(例えば、ポンプ)と、1つの手段(ポンプ)ではなく、個別の手段(ポンプ)を用いることによって、達成することができる。
また、本発明の微粒子解析装置又は微粒子分離装置は、廃液リザーバー、ソーティングリザーバー、及び/又は回収リザーバーに圧力を付与する手段(例えば、ポンプ)を有することが好ましい。これらの手段(ポンプ)は、シースリザーバーに圧力を付与する手段(ポンプ)とは別の手段(ポンプ)であることが好ましい。
【0028】
〔4〕流路詰りの防止又は除去方法
本発明の流路詰りの防止又は除去方法は、前記微粒子解析装置又は微粒子分離装置を用いる方法である。すなわち、前記微粒子解析装置又は微粒子分離装置において、シースリザーバーの圧力をサンプルリザーバーの圧力より高くし、そしてシースリザーバー中のシース液をサンプルリザーバーに逆流させることによって、サンプルリザーバーから第1の流路における微粒子の流路詰りを防止又は除去する。
前記の通り、シースリザーバーに圧力を付与する手段(例えば、ポンプ)と、サンプルリザーバーに圧力を付与する手段(例えば、ポンプ)とを、個別の手段(ポンプ)を用いて、シースリザーバーの圧力を高くすることにより、シースリザーバー中のシース液をサンプルリザーバーに逆流させることができる。これによって、流路の微粒子の詰りを防止又は除去することができる。
【0029】
シースリザーバーに付与する圧力は、サンプルリザーバーに付与する圧力より高い限りにおいて、特に限定されるものではないが、好ましくは2kPa~50kPaであり、より好ましくは5kPa~20kPaである。また、サンプルリザーバーに付与する圧力も特に限定されるものではないが、好ましくは-2kPa~1kPaであり、より好ましくは-1kPa~0kPaである。
シースリザーバーに付与する圧力とサンプルリザーバーに付与する圧力との差も、特に限定されるものではないが、好ましくは4kPa~50kPaであり、より好ましくは7kPa~20kPaである。
更に、廃液リザーバー、ソーティングリザーバー、及び/又は回収リザーバーに付与する圧力も、特に限定されるものではないが、好ましくは-1kPa~0kPaであり、より好ましくは-0.5kPa~0kPaである。
【0030】
シースリザーバーの圧力をサンプルリザーバーの圧力より高く維持する時間は、流路の微粒子の詰りを防止又は除去できる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば1秒~1分であり、好ましくは1~10秒であり、より好ましくは2~5秒であり、更に好ましくは2~4秒である。また、この撹拌のために圧力を変化させるタイミングは、流路詰まりの予防用としては一定時間間隔が望ましい。流路詰まりの予兆を検出して撹拌用圧力変化を発生させるタイミングは、粒子を流している状態での単位時間当たりの粒子検出個数(検出レート)が設定した閾値を下回った場合、その検出レートが設定した相対的な低下率を下回った場合がある。流路詰まり予防および詰まり解消の両方を目的とする場合は、上記の何れかの条件を満足した場合に撹拌用圧力変化を発生させるのが望ましい。
【0031】
図1と
図2を用いて、微粒子の流路詰りを防止又は除去するための、撹拌手段の1つの態様を説明する。
図1(A)は、ソーティング用の交換型マイクロ流路カートリッジの流路パターンであり、
図2(A)がカートリッジの平面図である。このカートリッジを用いるソーティング方法は、前述の特許文献6に記載されているパルス的な空気圧によって必要な細胞を分取する方法である。細胞を含むサンプル液は、サンプルリザーバー11に接続する流路22を流れる。この流路には、左右から細胞を含まないシース液が流れる流路23Lと流路23Rとが合流することで、サンプル液が流路中央部に収束して流れる。レーザー照射領域35を通過した時に細胞から発生する散乱光や蛍光を検出することで必要な細胞か否かを判断し、必要な細胞と判断した場合は、その細胞がソーティング領域である流路24Lと流路24Rとの交差領域を通過するときに、流路24Lから流路24Rに流れるパルス流を発生させることで、目的の細胞を流路24Rの方に分取し、目的外の細胞は通過して廃液リザーバーへ流れ込む。以上が、ソーティング時の液体の流れである。この状態を継続すると、細胞を含むサンプルリザーバー11の底には重力沈降によって時間とともに堆積する。そのためサンプルリザーバー11と流路22との接続ポート部で細胞が詰まるということがしばしば発生する。そのため、サンプルリザーバー11とシースリザーバー12に印加する圧力を一時的に変化させて、
図1(B)で示す様に、シースリザーバーのみに印加させてシース液を流路23Lと流路23Rから流して、サンプルリザーバー11に印加する空気圧をゼロとすると、シース液はサンプルリザーバー11へ逆流し、サンプルリザーバーの底に堆積している細胞がシース液で撹拌される。
図2(B)はサンプルリザーバー11の底からシース流の逆流によって堆積した細胞が撹拌される様子を模式的に説明したものである。シースリザーバー12に印加する圧力を増加すると逆流が増大するので撹拌力は増大する。また、この撹拌により、ソーティングで取り込まれた細胞が廃液リザーバーに流出することはないので、ソーティング処理中に、各リザーバーに印加する圧力を一時的に変化させるだけで、細胞の撹拌を実現することができる。
【0032】
前記微粒子解析装置の撹拌手段の1つの態様を以下に説明する。すなわち、ソーティング機能がない流路における撹拌手段を説明する。例えば、微粒子解析装置は、透明基板に流路を形成してなる流路カートリッジと、前記流路を流れる試料液中の微粒子に光を照射する光照射手段と、前記光を照射した際に前記微粒子から発生する散乱光または蛍光を検出し、それらの信号強度に基づいて前記微粒子を識別し、目的の微粒子を検出する検出手段と、前記カートリッジの前記流路を流れる前記微粒子に対して、前記検出手段からの信号に基づいて微粒子を解析する装置である。そして、微粒子解析装置は、第1の流路に接続した試料液用のリザーバー(サンプルリザーバー)と、その第1の流路の左右両側から合流する第2、3の流路が接続するリザーバー(シースリザーバー)、合流後の第1の流路の下流側に接続している第4リザーバー(廃液リザーバー)が形成されている流路チップをもちいる微粒子解析装置である。前記微粒子解析装置において、細胞解析処理のためにサンプルを流している最中に、各種リザーバーの圧力を一定時間のみ一時的に変化させる。すなわち、サンプルリザーバー内のサンプル液に印加する圧力を解析処理用設定値A(陽圧)からゼロとする。シース液リザーバー内のシース液に印加する圧力は解析処理用設定値B(陽圧)を増大させる。また、廃液リザーバー内の廃液に印加する圧力の変化は、解析処理用設定値C(陰圧)はゼロに変化させる。前記の一時的な圧力変化によって、サンプルリザーバー内の細胞の外部への流出がストップし、サンプルリザーバー内に流路が接続しているリザーバー底からシース液を逆流がおこり、サンプルリザーバーの底の重力沈降によって堆積した細胞が撹拌される。
【0033】
前記微粒子分離装置の撹拌手段の1つの態様を以下に説明する。例えば、微粒子分離装置は、透明基板に流路を形成してなる流路カートリッジと、前記流路を流れる試料液中の微粒子に光を照射する光照射手段と、前記光を照射した際に前記微粒子から発生する散乱光または蛍光を検出し、それらの信号強度に基づいて前記微粒子を識別し、目的の微粒子を検出する検出手段と、前記カートリッジの前記流路を流れる前記微粒子に対して、前記検出手段からの信号に基づいて流れの方向を変化させる力を作用させる力発生手段とを含む。前記流路カートリッジにおいて、第1の流路に接続した試料液用のリザーバー(サンプルリザーバー)、その第1の流路の左右両側から合流する第2、3の流路が接続するリザーバー(シースリザーバー)、合流後の第1の流路の両側に対向するように接続した第4の分岐流路と第5の分岐流路が接続する。また、前記第4分岐流路に接続するパルス流を送り出すための第3Aリザーバー(ソーティングリザーバー)と、前記力発生手段により発生する第4の分岐流路から第5の分岐流路の方向に流れるパルス流によって微粒子の流れを第5の分岐流路方向に変化させて微粒子を分取しそして回収するための第5の分岐流路に接続した第3Bリザーバー(回収リザーバー)と、第1の流路の下流側に接続している分取されなかった微粒子を蓄える第4リザーバー(廃液リザーバー)とが形成されている。そして、ソーティング処理のためにサンプルを流している最中に、各種リザーバーの圧力を一定時間の間のみ一時的に同時に変化させる。すなわち、サンプルリザーバー内のサンプル液に印加する圧力をソーティング処理用設定値A(陽圧)からゼロとする。シース液リザーバー内のシース液に印加する圧力はソーティング処理用設定値B(陽圧)を増大させる。また、廃液リザーバー内の廃液に印加する圧力は回収リザーバーへシース液が流れこむ条件の圧力であればよい。上記の一時的な圧力変化によって、細胞を含まないシース液はシース液リザーバーからサンプル液リザーバーとソーティングリザーバーと回収リザーバーと廃液リザーバーに一時的に流れ込む。その過程で、サンプルリザーバー内の細胞は流出がストップし、サンプルリザーバー内に流路が接続しているリザーバー底からシース液を逆流させることで、サンプルリザーバーの底の重力沈降によって堆積した細胞が撹拌される。また、シース液が回収リザーバー内に流入するので、回収リザーバー内のソーティングで回収した細胞が廃液リザーバーへの流出することが防止される。以上のように、細胞の流路チップ内の撹拌をソーティング性能に影響することなく実行する。
【0034】
〔5〕反応検出装置
本発明の反応検出装置は、マイクロ流路カートリッジにおいて、サンプル液を反応させ、その反応の結果を検出する反応検出装置であって、サンプルリザーバー、試薬リザーバー、オイルリザーバー、及び液滴リザーバーを有し、サンプルリザーバーからの第1流路及び試薬リザーバーからの第2流路が合流して第3流路を形成し、第3流路の両側からオイルリザーバーからの第4流路及び第5流路が合流し、前記第3流路は第4流路及び第5流路が合流点の下流で液滴リザーバーに結合しており、前記液滴リザーバー中の液滴を、第3流路を介して逆流させる手段を有し、そして第3流路において反応を検出する手段を有する。
本発明の反応検出装置においては、あらかじめ検体及び試薬が混合された混合液を用いることもできる。この場合、前記サンプルリザーバー及び試薬リザーバーが1つのサンプル試薬リザーバーであってもよく、前記第1流路及び第2流路が前記サンプル試薬リザーバーからの1つの第3流路であってもよい。
【0035】
《サンプル液の反応》
本発明の反応検出装置における、検体の反応は特に限定されるものではなく、本分野において、通常用いられる反応を限定することなく利用することができる。例えば、遺伝子増幅反応、タンパク質のリン酸化反応、GPCRとペプチド結合反応を挙げることができる。遺伝子増幅反応としては、デジタルPCRなどのPCR法、LAMP法、又はSmartAmp法を挙げることができる。
【0036】
《反応の検出》
本発明の反応検出装置における反応の検出方法は、反応の種類に応じて、適宜選択することができる。例えば、反応産物が蛍光、発光、又は発色などの特徴を示す場合、それらに応じた検出方法を用いることができる。具体的には、レーザーやLEDなどの光源による光照射で発光する蛍光を検出する手段、化学発光を検出する手段などを挙げることができる。
【0037】
《液滴リザーバーの温度を調整する手段》
本発明の反応検出装置は、好ましくは液滴リザーバーの温度を調整する手段を有する。液滴リザーバーの温度を調整する手段によって、様々な検体の反応を実施することができる。温度の調整は、特に限定されるものではないが、温度の上昇(加熱)、温度の低下(冷却)、及び温度の維持が可能であることが好ましい。温度の上昇(加熱)、温度の低下(冷却)、及び温度の維持を行う手段は、本分野で通常用いられている手段を用いることができる
【0038】
《液滴を逆流させる手段》
本発明の反応検出装置における液滴を逆流させる手段は、液滴リザーバーから、液滴を流路に逆流できる限りにおいて特に限定されるものではないが、例えば液滴リザーバーに印加する圧力を、サンプルリザーバー、試薬リザーバー、及びオイルリザーバーに印加する圧力より高くする手段を挙げることができる。特に、液滴を上流の特定のリザーバーのみに逆流させる場合は、蛍光検出後のエマルジョンを1箇所のリザーバーから回収することができるメリットがある。血液中のctDNAの検出の場合は、検出のみで診断が完了するが、さらに遺伝子配列を確認する場合は、蛍光を有する液滴を回収しなければならないので、1箇所のリザーバー内に液滴を逆流させるメリットがある。
サンプルリザーバーにのみ液滴を逆流させる場合は、液滴リザーバーを陽圧、サンプルリザーバーを陰圧、オイルリザーバーを陽圧、試薬リザーバーを陽圧にすればよい。
前記液滴リザーバーの圧力をサンプルリザーバー等の圧力より高くする具体的な手段としては、シースリザーバーに圧力を付与する手段(例えば、シリンジポンプあるいは、陽圧用ロータリーポンプと電空レギュレータとの組み合わせ、陰圧用ロータリーポンプと電空レギュレータとの組み合わせ)と、サンプルリザーバー等に圧力を付与する手段(例えば、シリンジポンプ、ロータリーポンプと電空レギュレータとの組み合わせ)とを、個別に印加する圧力を調整できる手段(シリンジポンプあるいは、陽圧用ロータリーポンプと電空レギュレータとの組み合わせ、陰圧用ロータリーポンプと電空レギュレータとの組み合わせ)を用いることによって、達成することができる。個別に印加する圧力を調整できる手段は、シリンジポンプの場合はピストン移動方向で陽圧と陰圧の両方に対応できる手段であり、ロータリーポンプに接続した電空レギュレータの場合は、陽圧用ロータリーポンプに接続した電空レギュレータと陰圧用ロータリーポンプに接続した電空レギュレータと並列に接続することで両方に対応する手段となる。
好ましくは、液滴リザーバーに圧力を付与する手段(ポンプ)、試薬リザーバーに圧力を付与する手段(ポンプ)、オイルリザーバーに圧力を付与する手段(ポンプ)、及び液滴リザーバーに圧力を付与する手段(ポンプ)が、それぞれ個別の手段(ポンプ)であることが、最も好ましい。
【0039】
〔6〕反応検出方法
本発明の反応検出方法は、前記反応検出装置を用いる反応検出方法である。すなわち、本発明の反応検出方法は、前記反応検出装置を用いて、(1)第3流路のサンプル及び試薬の混合液を、第3流路の両側から第4流路及び第5流路を介して、オイルを供給することによって、液滴を形成する工程、(2)液滴中のサンプルを反応する工程、及び(3)液滴中のサンプルの反応を検出する工程、を含む。
本発明の反応検出方法においては、あらかじめ検体及び試薬が混合された混合液を用いることもできる。この場合、前記反応検出装置において、前記サンプルリザーバー及び試薬リザーバーが1つのサンプル試薬リザーバーであって、前記第1流路及び第2流路が前記サンプル試薬リザーバーからの1つの第3流路であってもよく、混合液をサンプル試薬リザーバーに入れることによって反応検出方法を実施することができる。
【0040】
《液滴形成工程》
本発明の反応検出方法における液滴形成工程は、第3流路のサンプル及び試薬の混合液を、第3流路の両側から第4流路及び第5流路を介して、オイルを供給することによって、液滴を形成する。
混合液の流量、及びオイルの流量を適宜調整することによって、反応に適した液滴を形成することができる。例えば、混合液の1容量に対して、例えばオイルを1~100容量、好ましくは2~50容量、更に好ましくは3~10容量流すことによって、液滴を形成することができる。
前記オイルは、液滴を形成できる限りにおいて、特に限定されるものではないが、ミネラルオイル又はフロリナートなどのフッ素オイル、又はシリコーンオイルなどを挙げることができる。
【0041】
《サンプル反応工程》
サンプル反応工程における反応は、特に限定されるものではなく、本分野において、通常用いられる反応を限定することなく利用することができる。例えば、遺伝子増幅反応、タンパク質のリン酸化反応、GPCRとペプチド結合反応を挙げることができる。遺伝子増幅反応としては、デジタルPCRなどのPCR法、LAMP法、又はSmartAmp法を挙げることができる。
PCR法の場合、温度の上昇(加熱)、温度の低下(冷却)、及び温度の維持を行う。すなわち、高温(例えば95℃)と中程度の温度(例えば65℃)とを交互に一定時間維持することによって、遺伝子の増幅反応を行うことができる。LAMP法又はSmartAmp法などの等温増幅法の場合は、65℃などで温度を維持することによって、遺伝子の増幅反応を行うことができる。
【0042】
《反応検出工程》
反応検出工程における検出方法は、反応の種類に応じて、適宜選択することができる。例えば、反応産物が蛍光、発光、又は発色などの特徴を示す場合、それらに応じた検出方法を用いることができる。具体的には、レーザーやLEDなどの光源による光照射で発光する蛍光を検出する手段、化学発光を検出する手段などを挙げることができる。
反応が終了した液滴を、液滴リザーバーから第3流路逆流させ、第3流路において、反応を検出するのが好ましい。
【0043】
本発明の反応検出装置、及び反応検出方法における処理の機構を以下に説明する。使い捨て交換型のマイクロ流路カートリッジ内で、サンプル液を流しながら、次々と異なる反応及び/又は検出を連続的に実施する。そのために、処理時間が異なる複数の処理を同一の流路カートリッジで行う方法の1つの実施態様を、
図4を用いて説明する。
図4は、使い捨て交換型のマイクロ流路カートリッジに形成されている最上流側リザーバー2と最下
流リザーバー3が流路4で接続してあり、リザーバー2内のサンプル液上面に印加する圧力1とリザーバー3に印加する圧力2の制御によって、最初リザーバー2内のサンプル液1をリザーバー3に移動させるプロセス1を実行する。サンプル液はすべてリザーバー3に移動を完了するとプロセス1が終了して、自動的に流れがストップして静止状態になる。このプロセスをプロセス2とする。次に、リザーバー3からリザーバー2へ逆流させる。このプロセスをプロセス3とする。以上のことは、流れと静止を含む異なるプロセス1、2、及び3を、圧力1と圧力2の制御のみで、順次実行できることを示している。
【0044】
前記反応検出装置、及び反応検出方法の具体的な1つの実施態様を以下に説明する。本実施態様は、空気圧制御による逆流を利用して複数プロセスを同一流路内で順次実行する手段であって、エマルジョン中の液滴を利用して遺伝子を高感度に検出する方法に適用できるものである。本実施態様は、液滴形成プロセス、遺伝子増幅反応、及び検出の3種類のプロセスを、同一マイクロ流路カートリッジ内で実施する方法となる。所要時間の異なる3種類の処理((1)液滴形成、(2)遺伝子増幅、(3)検出)を順次行う場合は、遺伝子増幅の過程で、液滴の流れを反応時間の間ストップさせる必要がある。このため流路中にバルブなどによるストップ機構が必要になる。本発明では、ストップ機構を不要とするために、遺伝子増幅反応を液滴リザーバーで行うことによって、自然にストップさせる。反応終了後に、液滴を逆流させて検出を行う。このような制御は使い捨て交換マイクロ流路内に特別な素子を使用する必要がない。すなわち、空気圧の切り替えのみで可能であるため、ランニングコストを低くすることが可能であり、コストパフォーマンスが高いといえる。
図5(A)は、流路カートリッジの平面図であり、遺伝子を含むエマルジョン中の液滴を形成する流路パターンを示している。細胞、細菌、又はウイルスなどのDNAやRNAをふくむサンプル液をサンプルリザーバー102-1にいれ、試薬リザーバー102-2には遺伝子増幅反応に必要な試薬を含む水溶液を入れる。オイルリザーバー102-3には、オイル中液滴のエマルジョン形成用のオイルを入れる。このオイルとしてはミネラルオイルまたはフロリナートなどのフッ素オイルなどを選択することができる。この状態で、サンプルリザーバー102-1、試薬リザーバー102-2、オイルリザーバー102-3には大気圧より大きな空気圧を印加し、液滴リザーバー103-1には大気圧または上流側より小さい空気圧を印加することで流れを発生し、サンプルリザーバー102-1と試薬用リザーバー102-2にそれぞれ接続する流路を合流させて混合し、さらに引き続いてオイルリザーバー102-3からの左右からのオイルの流れと合流させることで、オイル中液滴が形成し、その液滴が液滴リザーバー103-1に流れ込む。以上がエマルジョン液滴形成プロセスである。このエマルジョン中の液滴形成は、サンプル液が無くなるまで十分な数の液滴が形成されることが望ましい。
図5(B)では、液滴リザーバー103-1に流入したオイル中液滴群がそのまま液滴リザーバー103-1に蓄積するように、圧力の印加状態は(A)と同じ圧力をキープするか、逆流しない程度の低い圧力を保持する。その状態で液滴中に含まれる目的の遺伝子配列を増幅するための反応を行う。遺伝子増幅反応としては等温増幅法を利用する方法とPCRを利用する方法が可能である。PCRを利用する場合は液滴リザーバー103-1の温度を約95℃と約65℃とを交互に一定時間間隔で一定回数だけ変化させる。等温増幅法の場合は、65℃で増幅反応を行う方法でありLamp法またはSmartAmp法の2種類が知られている。何れの方法においても、液滴リザーバー103-1を約65℃の保温状態で少なくとも約30分程度以上温度を保持することで十分な増幅反応が行われる。この増幅した遺伝子を含むエマルジョンは蛍光プローブによって遺伝子量に比例した蛍光を発する。遺伝子増幅反応後はこのエマルジョンを計数する処理を行う。このプロセスを
図5(C)に示す。液滴リザーバー103-1に印加する圧力をサンプルリザーバー102-1、試薬リザーバー102-2、オイルリザーバー102-3の圧力より大きくすることで、液滴リザーバー103-1からエマルジョン中の液滴を逆流させ、流路中にレーザー106を照射することで、蛍光を有する液滴を検出する。以上によって、エマルジョン形成、遺伝子増幅、検出の三種類の処理を同一カートリッジ内で処理することを実現する。
【実施例】
【0045】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0046】
《実施例1》
本実施例では、本発明の微粒子分注装置及び微粒子分注方法を行った。具体的には、細胞をマルチウェルプレートに1個単位で分注した。
図9(A)は、細胞を分注する装置を模式的に示したものである。分注前の細胞懸濁液はチューブ71に入っている。細胞はチューブ71の底に重力沈降するため、少なくとも5分以内の時間間隔で撹拌が必要である。この撹拌時間の間隔が長くなると細胞懸濁液の上層部に細胞が存在しない領域が拡大するので、時間間隔は厳守する。この細胞懸濁液に空気圧を制御するシリンジポンプ74の先に取り付けた透明な中空パイプである分注ピペット73の先をZ軸下方に移動して入れる。次に分注量分だけシリンジのピストンを上げて細胞懸濁液をピペット73の中に吸引する。吸引後にZ軸の上方にピペット73を上げて、カメラでピペット内の分注量全量の画像を2回取得する。この場合、画像取得の時間差を3秒とすると、サイズ10μm程度の細胞が重量沈降による移動距離が10μm以上となるので、時間差分により浮遊細胞を、分注ピペットのキズや付着異物と区別することができる。
図10は、時間差分画像認識による細胞を含む分注ピペット内の浮遊細胞数の検出例を示している。
図10(A)は最初の撮影画像、
図10(B)は時間差分画像、
図10(C)は時間差分画像で検出した細胞部分の拡大像である。
図10(A)には分注ピペットの傷や付着異物など多くの輝点が存在している。
図10(B)には、3秒間で変化した部分が抽出され浮遊細胞数が5個と認識されている。
図10(C)には、3秒間の移動前と移動後の細胞の輝点が現れている。この2つの輝点は、
図3(C)の時間差分の輝度分布のプラス部分とマイナス部分の2箇所に対応する画像である。以上の実施形態は細胞の重力沈降による移動前後の時間差分による細胞検出方法であるが、分注ピペット内の液を圧力によって上下方向に強制的に移動させる場合は、重力沈降より移動速度を早められるので、時間差の時間間隔を短縮できる。以上のように、時間差分画像検出によって、分注ピペット内の細胞数を評価し、もし一個存在する場合はマルチウェルプレートの所定のアドレスのウエルに移動する。Z軸下方へ移動し、
図9(B)に示すように、分注ピペット73をすでに分注してある液体の上面81より下におろして、シリンジポンプのピストン75を押し出してピペット内の液滴を排出する。排出後もピストン75を押し下げながら分注ピペットを上方に引き上げる。分注ピペット内の画像認識の結果、液滴の数がゼロか2個以上である場合は、チューブ71に戻って分注ピペット73内のエマルジョン液を排出して、再度吸引して、液滴が1個のみ存在する場合のみ分注する。分注量として0.3μLの場合、ピペットの内径を400μmとすると、ピペット内に2.4mmだけ吸引すれば良い。次に液量0.3μL全体をカメラの1ショットの画像でピントがあった状態で撮影可能かどうかを考察すると、対物レンズとして1倍のものを使用する場合は被写界深度が440μmであり、ピペット内の内径400μm全体をピントがあった状態で撮影することができる。視野の広さを考えると1/2型カメラの場合は6.4mmをカバーするのでピペット内の長さ2.4mm全体の撮影が可能である。したがって、画像1ショットで分注量0.3μLの全体を撮影が可能と判断することができる。但し、画像の分解能は11μmであるので、細胞1個の有無も個数も識別することができる。次に、光学系を説明する。分注ピペット内の細胞を照明する光源は、LED光源であり、分注ピペットの上部周囲から下方に照明している。検出光学系は、内径400μmの透明樹脂製の中空ピペット内の粒径が10μmの細胞を、1倍の対物レンズと1/2型カメラで撮影することで、被写界深度を400μm以上としている。
図9(C)は、分注機の概観である。分注機は安全キャビネット内に設置できるサイズであって、分注機を5%CO
2ガス雰囲気の容器で覆って使用することで、細胞ダメージを低減する。
【0047】
《実施例2》
本実施例では、本発明の微粒子分離装置を用いて、微粒子の流路詰りを防止又は除去する方法を実施した。
具体的には、
図2(A)に示したセルソーティング用の交換型マイクロ流路カートリッジを利用して、撹拌による細胞の流路詰りの防止又は除去を行った。流路カートリッジの基板素材は透明樹脂であって、COP、COC、PMMAのいずれかの素材である。主流路22の流路幅は80μmであって、深さは80μmである。ソーティング処理を行う場合は、サンプルリザーバー11に印加する圧力は1.8kPa、シースリザーバー12に印加する圧力は1.8kPa、廃液リザーバー21に印加する圧力は-0.8kPaである。ソーティングに関するリザーバー16、17は、電磁バルブが閉じている状態では圧力を印加しない。撹拌用の圧力設定は、サンプルリザーバー11に印加する圧力は0kPa、シースリザーバー12に印加する圧力は7kPa、廃液リザーバー21に印加する圧力は0kPaである。この圧力の維持時間の設定を3秒間だけ維持とした場合の撹拌効果を調べるために、10
8個/mLの高濃度の培養細胞(セルラインMolt4)のPBSバッファー懸濁液をサンプルリザーバーにいれて、サンプルリザーバー11に印加する圧力は1.8kPa、シースリザーバー12に印加する圧力は1.8kPa、廃液リザーバー21に印加する圧力は-0.8kPaの条件で流した。波長488nmレーザーを流路22に照射し、流れる細胞を計数した。開始後6分程度で細胞の計数が低下してゼロとなる。これは細胞がサンプルリザーバーの底に沈降して堆積して、流路が詰まった為と考えられる。この時に、撹拌用圧力を3秒間設定すると細胞の計数がゼロから上昇し、細胞の詰まりが除去されることが分かる。細胞の計数がゼロになる前に撹拌用圧力を設定しても細胞の計数が上昇することが分かる。以上のデータにより、本発明の撹拌が効果的であることが分かる。上記の撹拌をソーティング中に自動的に実施するためには、1)一定時間間隔で自動的に開始、2)計数レートが一定値以下になると自動的に開始など、複数の条件のいずれかの条件を満足した場合に開始することで、細胞の詰まりの防止、及び詰まった後の解除の両方に対応することができる。
【0048】
《実施例3》
本実施例では、本発明の反応検出装置を用いて、反応検出方法を実施した。具体的には、交換型マイクロ流路カートリッジ内での複数プロセス自動処理として、エマルジョン中の液滴形成、遺伝子増幅反応、及び検出の3つの工程を、1つのマイクロ流路カートリッジ内で行った。
図5(A)は、流路カートリッジの平面図であり、遺伝子を含む液滴を形成する流路パターンを示している。DNAを含むサンプル液をサンプルリザーバー102-1にいれ、試薬リザーバー102-2には等温増幅法におる遺伝子増幅反応に必要な試薬とともに、DNAと結合すると蛍光を発する蛍光試薬をいれる。このような蛍光試薬としては、照射光源として488nmレーザーと637nmレーザーを用いる。この場合は、インターカレータ方式のエバグリーン、サイバーグリーン、又はTaqManプローブ(FAMやCy5など)を遺伝子検出用蛍光色素として利用することができる。オイルリザーバー102-3には、オイル中で液滴を形成するためのオイルを入れる。このオイルとしてはミネラルオイルまたはフロリナートなどのフッ素オイルなどを選択することができる。エマルジョン形成条件は、オイルリザーバー102-3に印加する圧力を14kPa、サンプルリザーバー102-1と試薬リザーバー102-2に印加する圧力を10kPaとする。液滴リザーバー103-1は大気圧とする。この圧力条件により、オイルとしては複数の界面活性剤(Span 80、Tween 80、Triton X-100)を含むミネラルオイルを用いる場合は、
図11に示すようにサイズが約55μmのエマルジョン液滴を形成することができる。エマルジョンを形成する流路の流路幅は40μmである。形成したエマルジョンは、液滴リザーバー103-1に流れ込む。以上が液滴形成工程である。このエマルジョン中の液滴形成は、サンプル液が無くなるまでに、十分な数の液滴が形成されることが望ましい。
図5(B)に示すように、液滴リザーバー103-1に流入したオイル中の液滴が、液滴リザーバー103-1内に蓄積する。そして、
図5(A)と同じ圧力を保持し、液滴リザーバー103-1の温度を65度に保持し、そして少なくとも30分放置することで、エマルジョンの液滴に含まれる目的の遺伝子配列を増幅する。
【0049】
遺伝子増幅反応に、このエマルジョン中の液滴を計数する処理を行う。この処理を
図5(C)に示す。液滴リザーバー103-1に印加する圧力を14kPaとして、サンプルリザーバー102-1、試薬リザーバー102-2、オイルリザーバー102-3の圧力を大気圧として0kPaにする。この圧力によって、液滴リザーバー103-1から液滴を含むエマルジョンを逆流させる。
図12(A)はマイクロ流路内でエマルジョンを形成している状態の写真であって、
図12(B)は液滴を含むエマルジョンを液滴リザーバー103-1から逆流させている状態の写真である。逆流している流路中にレーザー106を照射することで、蛍光を有する液滴を検出する。この検出では蛍光を有する液滴と蛍光を有しない液滴の両方を区別して計数する。蛍光を有する液滴の検出がサンプル液に含まれる目的のDNAの検出に対応する。また、蛍光を有する液滴数と蛍光を有しない液滴数の比率により、目的のDNAの存在密度を評価する。以上により、サンプル液中の目的のDNAを検出するために、液滴形成、遺伝子増幅、検出の3つの処理を1つのカートリッジ内で処理することが実現される。
【0050】
以上の処理のスループットを向上するために、カートリッジに
図5の流路パターンを複数形成したものを利用する。
図6は、8検体対応の遺伝子検査用チップを示したものである。
図6のカートリッジ107の流路パターン構造は、
図5の流路パターンを8本形成したカートリッジであり、エマルジョンPCR法、又はエマルジョン等温増幅法を単一カートリッジで8検体に対応するものである。単一カートリッジで多検体に対応するメリットは、1検体当たりのランニングコストの低減の他に、多検体同時に一括して処理する工程だけ検査時間の短縮化を実現することにある。その理由は、エマルジョン形成と遺伝子増幅反応は、単一カートリッジ上の8流路について同時に一括して処理するので、最後の蛍光検出の処理のみが8流路を逐次検査となるからである。このメリットを式で示すと、エマルジョン形成時間をEt、遺伝子増幅反応時間をDt、蛍光を検出する時間をFtとおくと、1流路カートリッジの場合の1検体当たりの処理時間はEt+Dt+Ftとなるが、8流路カートリッジの場合の1検体当たりの処理時間は(Et+Dt)/8+Ftとなる。すなわち、エマルジョン形成時間と遺伝子増幅時間は、8分の1に短縮化する。処理時間は、エマルジョン100万個形成する所要時間は20分であり、遺伝子増幅反応時間は30分である。エマルジョンの蛍光検出処理時間は、検出レートを1000個/秒と設定すると、1流路当たり16.6分の8倍となるので、全体の処理時間の合計は約3時間となる。この処理時間は100万個のエマルジョンの場合であるが、10万個の場合は45分となる。この多検体対応カートリッジで検査を行う装置を
図7に示した。この装置は、8検体対応流路カートリッジ209において、端の流路から計測を行い計測が終了したら、次の隣の流路にカートリッジ209をカートリッジ用ステージ210の移動によって、順次計測するという方法をとる。この装置は、オイル中液滴からなるエマルジョンの形成機能と、エマルジョン内遺伝子増殖反応のための温度制御機能を8流路一括で処理した後に、エマルジョンを逆流させる過程でエマルジョン液滴のフローサイトメトリー計測を、各流路単位でステージ移動により8流路を順次行う。但し、1本の流路のみに照射されるサイズの光ビームを8流路間で順次ステップアンドリピート方式でカートリッジを移動させることで8流路全体を計測する。カメラ217で流路の両側面を検出する画像認識を行うことで、移動後の流路の位置精度を確認する。各流路では、光照射領域を個々の液滴が通過したときに発生する散乱光と蛍光を、ダイクロイックミラー214、215、216とバンドパスフィルター221、222、223によって、波長別に光を分離し、散乱光は光検出器217で検出し、蛍光は光検出器218、219で検出する。上記において照射光源として、波長488nmのレーザーのみを用いる場合と他の波長のレーザー光を合わせて照射する場合がある。波長488nm励起による蛍光色素としては、500nmから550nmの範囲のSyberGreenまたはEVAGreenや、TaqManプローブでFAMが利用できる。波長637nmのレーザー(出力50mW)も同時搭載する場合は、TaqManプローブでCy5を利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、検体間のクロスコンタミネーションが許されない医療用途での利用を目的としている。具体的には、がん免疫療法では、がん細胞を免疫細胞が攻撃するターゲットの研究において、がん細胞のシングル・セル発現解析が重要であり、その為にはがん細胞の単一細胞分注技術が必要となる。またがん診断においては、がん患者の血液中に含まれるがん遺伝子の高感度検出による診断が重要となっている。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変法や改良は本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
1…サンプル液;
2…上流側リザーバー;
3…下流側リザーバー;
4…流路;
10…交換型マイクロ流路カートリッジの外枠;
11…サンプルリザーバー(第1リザーバー);
12…シースリザーバー(第2リザーバー);
13…試料液の主流路と接続ポート;
14…試料液とシース液との隔壁;
15L…左側のシース液のシース流路との接続ポート;
15R…右側のシース液のシース流路との接続ポート;
16…ソーティングリザーバー(第3Aリザーバー);
17…回収リザーバー(第3Bリザーバー);
18…ソーティングリザーバーのソーティング流路との接続ポート;
19…回収リザーバーのソーティング流路との接続ポート;
20…廃液の主流路との接続ポート;
21…廃液リザーバー(第4リザーバー);
22…主流路(第1流路);
22-E…主流路(第1流路);
23L…左側のシース流路(第2流路);
23R…右側のシース流路(第3流路);
24L…パルス流Push側のソーティング流路(第4流路);
24R…パルス流Pull側のソーティング流路(第5流路);
35…光照射領域;
70…分注先のマルチウェルプレート;
71…容器のなかの分注前の細胞などのサンプル粒子の懸濁液;
72…容器のなかの洗浄液;
73…分注ピペット(透明な中空パイプ);
74…空気圧シリンジポンプ;
75…空気圧シリンジポンプのピストン部分;
76…カメラ;
77…分注機制御PC;
78…粒子分注機;
80…マルチウェルプレート内のウエル;
81…事前に分注されているウエル内の液体;
82…分注ピペット;
83…予備認識領域;
84…認識領域;
85…浮遊粒子;
86…ピエゾポンプ;
87…サンプル液予備室;
88…サンプル液ごとに交換する部分;
89 …シリンジポンプ;
90…分注ノズルから吐出される液滴;
104…流路;
102-1…サンプルリザーバー;
102-2…試薬リザーバー;
102-3…オイルリザーバー;
103-1…液滴リザーバー;
106…レーザー照射領域;
107…8検体対応チップ;
108…65℃温度保持部;
208:照射光源;
206:照射光;
207:レンズ;
209:多検体流路カートリッジ;
210:カートリッジ用ステージ;
211:稼働ステージ用パルスモータードライバー;
213:ビームサンプラー;
214:ダイクロイックミラー;
215:ダイクロイックミラー;
216:ダイクロイックミラー;
217:カメラ;
218:光検出器;
219:光検出器;
220:光検出器;
300:CO
2ガスボンベ;
301;圧力調整器;
302:エアフィルター;
303:エアー配管;
304:ペリスタポンプ;
305:エアーチューブ配管(CO
2ガス流入用);
306:エアーチューブ配管(CO
2ガス排出用);
307:マイクロ流路カートリッジ内のサンプルリザーバー(
図2の11に対応);
308:マイクロ流路カートリッジ内の回収リザーバー(
図2の17に対応);
309:マイクロ流路カートリッジを用いるセルソーターの装置領域の範囲;
310:チャンバー;
311:セルソーター(マイクロ流路カートリッジを用いない装置でも用いる装置であってもよい);
312:マイクロ流路カートリッジ領域の範囲