(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】複合微粒子、太陽電池、光電変換素子用部材、および光電変換素子
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20240820BHJP
H10K 30/60 20230101ALI20240820BHJP
H10K 30/40 20230101ALI20240820BHJP
H10K 85/50 20230101ALI20240820BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/60
H10K30/40
H10K85/50
(21)【出願番号】P 2023546833
(86)(22)【出願日】2022-08-03
(86)【国際出願番号】 JP2022029739
(87)【国際公開番号】W WO2023037797
(87)【国際公開日】2023-03-16
【審査請求日】2023-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2021147994
(32)【優先日】2021-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】二瓶 あゆみ
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 力
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第113061434(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0126889(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0051437(KR,A)
【文献】特開2019-135272(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0358757(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第3190632(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0200974(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0190967(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0002354(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-99/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の波長変換能力を有する無機微粒子と、
前記無機微粒子の表面の全体または一部に形成される、連続型または非連続型の第1被覆層と、
前記第1被覆層上に形成される第2被覆層と、
前記第2被覆層上に形成される第3被覆層と、
を備え、
前記第2被覆層は、近赤外または赤外領域に光吸収を有する有機化合物であり、かつ、少なくとも2以上の配位座を有する、多座有機配位子を含有し、
前記第1被覆層は、前記多座有機配位子と配位結合を形成可能な配位金属と、前記配位金属と同一または異なった遷移金属とを含有する金属層または無機化合物層であり、
前記第3被覆層は、前記多座有機配位子と配位結合を形成可能な配位金属を含有する金属層または無機化合物層である、
複合微粒子。
【請求項2】
前記無機微粒子が、可視または紫外領域において励起光を発光可能な希土類元素である金属を含む、請求項1に記載の複合微粒子。
【請求項3】
前記多座有機配位子が、近赤外または赤外領域における光吸収により生じたエネルギーを、前記第1被覆層に含まれる前記遷移金属を介して、前記無機微粒子に含まれる可視または紫外領域において励起光を発光可能な希土類元素である金属まで金属間エネルギー移動することにより、前記無機微粒子による波長変換発光が可能となる、請求項2に記載の複合微粒子。
【請求項4】
前記第1被覆層に含まれる前記遷移金属が、ランタノイド金属である、請求項1または2に記載の複合微粒子。
【請求項5】
前記第3被覆層が、無機ペロブスカイト型物質からなる無機化合物層である、請求項1または2に記載の複合微粒子。
【請求項6】
前記第1被覆層が、前記配位金属を含有する金属層または無機化合物層と、前記配位金属と同一または異なった遷移金属とを含有する金属層または無機化合物層とを含む複層である、請求項1または2に記載の複合微粒子。
【請求項7】
略球状または多角方体状の形状を有し、かつ、平均粒径が1nm以上、1μm以下である、請求項1または2に記載の複合微粒子。
【請求項8】
請求項1または2に記載の複合微粒子と無機ペロブスカイト型物質とを含有する光電変換層を備える、太陽電池。
【請求項9】
酸化チタン(IV)からなる電子輸送層をさらに備える、請求項8に記載の太陽電池。
【請求項10】
請求項1または2に記載される複合微粒子を含有する層と、
有機半導体あるいは無機半導体を主成分とする凝集体または薄膜からなる層と、
を積層した、光電変換素子用部材。
【請求項11】
請求項10に記載の光電変換素子用部材と、
ホール輸送層と、
電子輸送層と、
を備え、
前記光電変換素子用部材が、前記ホール輸送層と前記電子輸送層との間に配置される、
光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合微粒子、太陽電池、光電変換素子用部材、および光電変換素子に関する。
本願は、2021年9月10日に、日本に出願された特願2021-147994号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池やフォトダイオードといった光電変換素子は、各種分野において、広く用いられている。しかしながら、従来の光電変換素子は、近赤外領域の光に対し、可視光領域の光よりも検出感度が低いという問題がある。近赤外領域の光についても可視光と同様に検出感度を上げることができれば、例えば、太陽電池において、光電変換効率を向上することができる。そのため、近赤外領域の光についても可視光と同様に高い検出感度を備える光電変換素子が求められている。
【0003】
近赤外領域の光について、検出感度を上げる技術として、特許文献1には、コア/シェル構造からなり、前記コアはLnを含むナノ粒子からなり、前記シェルはLn金属層からなり、さらに前記シェルには、下記式:-O-(A)m-(B)n-NH-(式中A及びBは同一又は異なって-CR1R2-又は-CR3=CR4-を表し、mは0乃至2、nは0乃至2を表し、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、又はC,N若しくはO原子を有する置換基を表す。)で表される部分を有する配位子を配位してなることを特徴とする、コア/シェル型Ln錯体ナノ粒子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、近赤外の領域の光に対して特許文献1よりも高い検出感度を有する材料が求められている。
【0006】
本発明は、上記の事情を鑑みなされた発明であり、近赤外または赤外領域の光に対して優れた検出感度を有する複合微粒子、太陽電池、光電変換素子用部材、および光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
(1)本発明の一態様に係る複合微粒子は、光の波長変換能力を有する無機微粒子と、前記無機微粒子の表面の全体または一部に形成される、連続型または非連続型の第1被覆層と、前記第1被覆層上に形成される第2被覆層と、前記第2被覆層上に形成される第3被覆層と、を備え、前記第2被覆層は、近赤外または赤外領域に光吸収を有する有機化合物であり、かつ、少なくとも2以上の配位座を有する、多座有機配位子を含有し、前記第1被覆層は、前記多座有機配位子と配位結合を形成可能な配位金属と、前記配位金属と同一または異なった遷移金属とを含有する金属層または無機化合物層であり、前記第3被覆層は、前記多座有機配位子と配位結合を形成可能な配位金属を含有する金属層または無機化合物層である。
【0008】
(2)上記(1)に記載の複合微粒子は、前記無機微粒子が、可視または紫外領域において励起光を発光可能な希土類元素である金属を含んでもよい。
【0009】
(3)上記(2)に記載の複合微粒子は、前記多座有機配位子が、近赤外または赤外領域における光吸収により生じたエネルギーを、前記第1被覆層に含まれる前記遷移金属を介して、前記無機微粒子に含まれる可視または紫外領域において励起光を発光可能な希土類元素である金属まで金属間エネルギー移動することにより、前記無機微粒子による波長変換発光が可能となってもよい。
【0010】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の複合微粒子は、前記第1被覆層に含まれる前記遷移金属が、ランタノイド金属であってもよい。
【0011】
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の複合微粒子は、前記第3被覆層が、無機ペロブスカイト型物質からなる無機化合物層であってもよい。
【0012】
(6)上記(1)~(5)のいずれか1つに記載の複合微粒子は、前記第1被覆層が、前記配位金属を含有する金属層または無機化合物層と、前記配位金属と同一または異なった遷移金属とを含有する金属層または無機化合物層とを含む複層であってもよい。
【0013】
(7)上記(1)~(6)のいずれか1つに記載の複合微粒子は、略球状または多角方体状の形状を有し、かつ、平均粒径が1nm以上、1μm以下であってもよい。
【0014】
(8)本発明の一態様に係る太陽電池は、上記(1)~(7)のいずれか1つに記載の複合微粒子と無機ペロブスカイト型物質とを含有する光電変換層を備える。
【0015】
(9)上記(8)に記載の太陽電池は、酸化チタン(IV)からなる電子輸送層をさらに備えてもよい。
【0016】
(10)本発明の一態様に係る光電変換素子用部材は、上記(1)~(7)のいずれか1つに記載される複合微粒子を含有する層と、有機半導体あるいは無機半導体を主成分とする凝集体または薄膜からなる層と、を積層する。
【0017】
(11)本発明の一態様に係る光電変換素子は、上記(10)に記載の光電変換素子用部材と、ホール輸送層と、電子輸送層と、
を備え、前記光電変換素子用部材が、前記ホール輸送層と前記電子輸送層との間に配置される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の上記態様によれば、近赤外または赤外領域の光に対して優れた検出感度を有する複合微粒子、太陽電池、光電変換素子用部材、および光電変換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る複合微粒子の断面図である。
【
図2】本発明の変形例に係る複合微粒子の断面図である。
【
図3】
図1の複合微粒子を備えた光電変換素子の断面図である。
【
図4】
図3の光電変換素子の動作中における、各層のエネルギーバンドの構造を示している。
【
図5】
図1の複合微粒子を備えた光電変換素子の変形例の断面図である。
【
図6】
図1の複合微粒子を備えた光電変換素子の変形例の断面図である。
【
図7】
図6の光電変換素子の動作中における、各層のエネルギーバンドの構造を示している。
【
図8】
図3の光電変換素子の製造過程における被処理体の断面図である。
【
図9】第1中間粒子、第2中間粒子、第3中間粒子のSEM像および第4中間粒子のAFM像である。
【
図10】複合微粒子Aおよび複合微粒子BのSEM像である。
【
図11】複合微粒子Aおよびナノ微粒子A(第2被覆層が存在していない比較微粒子)に照射した励起光の吸収率の変化を示すグラフである。
【
図12】複合微粒子Aの発光スペクトルを示すグラフである。
【
図13】複合微粒子Bの発光スペクトルを示すグラフである。
【
図14】実施例1の光電変換素子の電流-電圧特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を適用した実施形態に係る複合微粒子、太陽電池、光電変換素子用部材、および光電変換素子について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0021】
(複合微粒子)
図1は、本発明の複合微粒子10の構成を模式的に示す断面図である。複合微粒子10は、光の波長変換能力を有する無機微粒子1と、無機微粒子1の表面の全体または一部に形成される、連続型または非連続型の第1被覆層2と、第1被覆層2上に形成される第2被覆層3と、第2被覆層3上に形成される第3被覆層4と、を備える。
【0022】
複合微粒子10の平均粒径は、例えば、1nm以上1μm以下である。好ましい複合微粒子10の平均粒径は、1nm以上100nm以下である。より好ましい複合微粒子10の平均粒径は、10nm以上100nm以下である。さらに好ましい複合微粒子10の平均粒径は、10nm以上50nm以下である。粒径は、例えば走査型電子顕微鏡で観察して得られた複合微粒子10の観察像から測定することができる。観察像において、複合微粒子10の平均粒径は、任意に選択した10個の複合微粒子10の粒径の平均値としてもよい。
【0023】
複合微粒子10の形状は特に限定されず、例えば略球状、多角方体状、鱗片状、針状である。複合微粒子10の形状は、特に略球状または多角方体状が好ましい。
【0024】
「無機微粒子」
無機微粒子1は、光の波長変換能力を有する。ここで、光の波長変換能力は、入射光の波長を変換して、入射光と異なる波長の光を出射する能力を意味する。本実施形態では、入射した近赤外光または赤外領域の光が、その波長が変換されて可視光になって出射される場合について、例に挙げて説明する。
【0025】
無機微粒子1の主な材料としては、例えば、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ネオジウム(Nd)、ホルミウム(Ho)、プラセオジウム(Pr)、ガドリニウム(Gd)、ユーロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)、サマリウム(Sm)、セリウム(Ce)、プロメチウム(Pm)、ジスプロシウム(Dy)等の可視または紫外領域において励起光を発光可能な希土類元素である金属、あるいはそれらの化合物のうち、少なくとも一つを含むものが挙げられる。なお、可視または紫外領域の光としては、波長が700nm未満の光を言う。無機微粒子1の材料としては、希土類元素の中でもランタノイド金属が好ましい。無機微粒子1としては、例えば、NaErF4、Tm2O3、TmCl3、TmF3、Er2O3、ErCl3、ErF3、Ho2O3、HoCl3、HoF3等の無機微粒子が挙げられる。無機微粒子1としては、増感剤(例えば、Yb3+)および発光体(例えば、Er3+、Ho3+、Tm3+)がゲストとしてドープされた微粒子でもよい。このような微粒子としては、Yb、ErドープGd2O2S(Gd2O2S:Er,Yb)、Yb3+、Er3+ドープNaYF4(NaYF4:Er,Yb)、Tm、YbドープNaYF4(NaYF4:Tm,Yb)などの無機微粒子が挙げられる。
【0026】
無機微粒子1の平均粒径は、例えば、1nm~1μmである。好ましい無機微粒子1の平均粒径は、1nm~100nmである。より好ましい無機微粒子1の平均粒径は、10nm~100nmである。さらに好ましい無機微粒子1の平均粒径は、10nm~50nmである。
【0027】
無機微粒子1の形状は特に限定されず、例えば略球状、多角方体状、鱗片状、針状である。無機微粒子1の形状は、特に略球状または多角方体状が好ましい。
【0028】
「第1被覆層」
第1被覆層2は、無機微粒子1の表面の全体または一部に形成される、連続型または非連続型の層である。連続型の第1被覆層2の一例としては、無機微粒子1の表面全体に第1被覆層2が積層される場合である。連続型の第1被覆層2の場合、無機微粒子1と第1被覆層2との間に界面がある。非連続型の第1被覆層2の一例としては、無機微粒子1の成分と第1被覆層2の成分とが一部で混在(混和)している例である。非連続型の第1被覆層2の場合、無機微粒子1と第1被覆層2との間に明確な界面がない混在領域がある。
【0029】
第1被覆層2は、第2被覆層3の多座有機配位子と配位結合を形成可能な配位金属と、配位金属と同一または異なった遷移金属とを含有する金属層または無機化合物層である。ここで、配位金属とは、多座有機配位子と配位結合可能な金属をいう。
【0030】
配位金属は、第2被覆層3の多座有機配位子と配位結合を形成可能であるならば、特に限定されない。配位金属としては、例えば、遷移金属が挙げられる。配位金属としては、より好ましくは希土類元素である金属である。配位金属としてはさらに好ましくは、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Ho、Er、Tm、Yb等のランタノイド金属(Ln)である。第1被覆層2が配位金属を含有することで、第2被覆層3の多座有機配位子と第1被覆層2との間に配位結合が形成される。これによって、第2被覆層3中の多座有機配位子からのエネルギー移動を効率的に促進することができる。
【0031】
第1被覆層2は、配位金属と同一または異なった遷移金属とを含有する。第1被覆層2中の遷移金属を介して、第2被覆層3において光吸収により生じたエネルギーを無機微粒子1まで金属間エネルギー移動させる。第1被覆層2の遷移金属は、エネルギー移動を仲介する金属(エネルギー仲介金属)である。第1被覆層2のエネルギー仲介金属としては、好ましくは希土類元素である金属である。第1被覆層2のエネルギー仲介金属としては、より好ましくは、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Ho、Er、Tm、Yb等のランタノイド金属(Ln)である。
【0032】
第1被覆層2は、配位金属と遷移金属(エネルギー仲介金属)とを含有する金属層または無機化合物層である。第1被覆層2が無機化合物層の場合、例えば、NaYbF4、NaNdF4、Yb(NO3)3、Yb(CH3COO)3、Yb(CF3SO3)3、Yb2(SO4)3、Yb2(CO3)3、YbCl3、YbBr3、YbI3及びEr2O3などが挙げられる。
【0033】
第1被覆層2の厚さは特に限定されないが、無機微粒子1の粒径の5%以上であればよく、無機微粒子1の表面に渡ってほぼ一様であることが好ましい。第1被覆層2の厚さは、例えば、1~10nmである。より好ましくは、第1被覆層2の厚さは、1~5nmである。無機微粒子1の表面に対する第1被覆層2の被覆率は50%以上が好ましい。無機微粒子1は、第1被覆層2の被覆率は100%であればより好ましい。
【0034】
「第2被覆層」
第2被覆層3は、第1被覆層2上に設けられる。第2被覆層3は、近赤外または赤外領域に光吸収を有する有機化合物であり、かつ、少なくとも2以上の配位座を有する、多座有機配位子を含有する。なお、近赤外または赤外領域は、例えば、700nm~3000nmの波長域をいう。第2被覆層3の多座有機配位子は、近赤外または赤外領域に高い吸収係数を有する有機化合物である。第2被覆層3の多座有機配位子は第1被覆層2と配位結合を形成することで、多座有機配位子が吸収したエネルギーを無機微粒子1のエネルギー仲介金属を介し、効率よく、無機微粒子1まで移動させることができる。無機微粒子1に含まれる可視または紫外領域において励起光を発光可能な希土類元素までエネルギーが移動することにより、入射光と異なる波長の光を発光することができる。
すなわち、多座有機配位子が、近赤外または赤外領域における光吸収により生じたエネルギーを、第1被覆層2に含まれる遷移金属(エネルギー仲介金属)を介して、無機微粒子1に含まれる可視または紫外領域において励起光を発光可能な希土類元素である金属まで金属間エネルギー移動することにより、複合微粒子10による波長変換発光が可能となる。
【0035】
多座有機配位子としては、近赤外または赤外領域に光吸収を有し、2以上の配位座を有するのであれば、特に限定されない。具体的には例えば、2つの配位座を有する二座配位子、4つの配位座を有する四座配位子、6つの配位座を有する六座配位子等を挙げることができる。
代表的な多座有機配位子としては、例えば、該配位子化合物は、インドシアニン系色素、キノン系(キノイド系)色素、スクアリウム系色素、シアニン系色素、フタロシアニン系色素、ポルフィリン系色素、アゾ化合物、クマリン系色素、インドリン系色素、エオシン、フルオレセイン、ローダミン、メロシアニン、クマリン、又はインドリン等が挙げられる。好ましい多座有機配位子の一例としては、下記(1)式で表されるインドシアニン系色素およびその誘導体、下記(2)式で表されるインディゴ色素およびその誘導体(ここで式中のRとしては、例えば、スルホン酸基等を挙げることができる。)、下記(3)式で表されるスクアリウム系色素およびその誘導体(ここで式中のRとしては、例えば、アルキル基、近接する芳香環上の原子と一緒になって環を形成しているアルキル基等を挙げることができる。)が挙げられる。
前記インドシアニン系色素およびその誘導体は、ヘキサトリエン基本骨格をもつ化合物であり、代表的な化合物としては、インドシアニングリーン(ICG)等を挙げることができる。また、前記インディゴ色素およびその誘導体は、ビ(2,3-ジヒドロキシ-3-オキソインドイルリデン(bi(2,3-dihydroxy-3-oxoindolylidene))基本骨格をもつ化合物であり、代表的な化合物としては、インディゴカルミン等を挙げることができる。また、前記スクアリリウム系色素およびその誘導体は、分子中央部にスクアリン酸骨格を持ち、その対角線上に位置する2ヶ所の炭素原子に芳香族化合物からなる置換基を有した基本骨格をもつ化合物であり、代表的な化合物としては、2,4-ビス[4-(ジエチルアミノ)-2-ヒドロキシフェニル]スクアライン、2,4-ビス[8-ヒドロキシ-1,1,7,7-テトラメチルジュロリジン-9-イル]スクアライン等を挙げることができる。
【0036】
【0037】
【0038】
【0039】
第2被覆層3の厚さは、入射光を吸収できるのであれば、特に限定されない。第2被覆層3の厚さとしては、例えば、単分子膜以上である。好ましくは、実質的に単分子膜であることがよい。
【0040】
「第3被覆層」
第3被覆層4は、第2被覆層3上に設けられる。第3被覆層4は、第2被覆層3の多座有機配位子と配位結合を形成可能な配位金属を含有する金属層または無機化合物層である。第3被覆層4は配位金属を含有するので、第2被覆層3の多座有機配位子と配位結合が形成される。同様に、第1被覆層2と第2被覆層3の多座有機配位子との間に配位結合が形成される。これによって、第2被覆層3の多座有機配位子は、第1被覆層2と第2被覆層3との間に強固に拘束される。複合微粒子中に、有機分子が存在すると、有機分子の熱振動を介した発光の散逸が起こる。複合微粒子10では、多座有機配位子が強固に拘束されることで、多座有機配位子の熱振動が抑制される。これによって、複合微粒子10の変換効率を向上することができる。
【0041】
第3被覆層4の配位金属は、第2被覆層3の多座有機配位子と配位結合を形成可能であるならば、特に限定されない。配位金属としては、例えば、遷移金属が挙げられる。配位金属としては、より好ましくは希土類元素である金属である。配位金属としてはさらに好ましくは、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Ho、Er、Tm、Yb等のランタノイド金属(Ln)である。
【0042】
太陽電池の光電変換層に用いる場合は、第3被覆層4は、無機ペロブスカイト型物質からなる無機化合物層であることが好ましい。無機ペロブスカイト型物質を用いることで、光電変換層との親和性が向上し、光電変換効率が向上する。第3被覆層4を構成する無機ペロブスカイト型物質の材料としては、三種類の無機元素からなる複合体、例えば、CsPbX3等(X=Cl-、Br-、I-)が挙げられる。Xはハロゲンイオンのうち少なくとも一つを含む。例えば、無機微粒子1として、ErYF4やEr、YbドープNaYF4(NaYF4:Er,Yb)を用いる場合、CsPbBr3あるいはCsPbI3を用いると、光電変換効率が向上するので好ましい。Tm、YbドープNaYF4(NaYF4:Tm,Yb)を用いる場合、CsPbCl3を用いると、光電変換効率が向上するので好ましい。
【0043】
第3被覆層4の厚さは特に限定されないが、無機微粒子1の粒径の5%以上であればよく、第2被覆層3の表面に渡ってほぼ一様であることが好ましい。第3被覆層4の厚さは、例えば、1~10nmである。より好ましくは、第3被覆層4の厚さは、1~5nmである。第2被覆層3の表面に対する第3被覆層4の被覆率は50%以上が好ましい。より好ましくは、第2被覆層3の表面に対する第3被覆層4の被覆率は90%以上である。無機微粒子1は、第2被覆層3の被覆率は100%であってもよい。
【0044】
(複合微粒子の変形例)
次に、複合微粒子の変形例について、
図2を参照して説明する。なお、この変形例においては、複合微粒子10における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。複合微粒子10Aは、光の波長変換能力を有する無機微粒子1と、無機微粒子1の表面の全体または一部に形成される、連続型または非連続型の第1被覆層2Aと、第1被覆層2A上に形成される第2被覆層3と、第2被覆層3上に形成される第3被覆層4と、を備える。
【0045】
「第1被覆層」
第1被覆層2Aは、無機微粒子1の表面の全体または一部に形成される、連続型または非連続型の層である。第1被覆層2Aは、配位金属を含有する配位金属含有層5Aと、配位金属含有層5Aの配位金属と同一または異なった遷移金属とを含有するエネルギー仲介金属含有層5Bとを含む複層である。無機微粒子1の表面に、エネルギー仲介金属含有層5Bが形成され、エネルギー仲介金属含有層5B上に配位金属含有層5Aが形成される。例えば、インドシアニン系色素を用いる場合は、配位金属含有層5Aに配位金属としてNdを含有し、エネルギー仲介金属含有層5Bにエネルギー仲介金属としてYbを含むことが好ましい。例えば、Ndから発光体金属Er,Tmへのエネルギー移動は非効率であるが、このような層構成とすることで、エネルギー移動をより効率的にすることができる。
【0046】
配位金属含有層5Aは、第2被覆層3の多座有機配位子と配位結合を形成可能な配位金属を含有する金属層または無機化合物層である。配位金属含有層5Aに含有される配位金属は、第2被覆層3の多座有機配位子と配位結合を形成可能であるならば、特に限定されない。配位金属としては、例えば、遷移金属が挙げられる。配位金属としては、より好ましくは希土類元素である金属である。配位金属としてはさらに好ましくは、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Ho、Er、Tm、Yb等のランタノイド金属である。配位金属含有層5Aが配位金属を含有することで、第2被覆層3の多座有機配位子と配位金属含有層5Aとの間に配位結合が形成される。
【0047】
配位金属含有層5Aとしては、例えば、NaYbF4、NaNdF4、Yb(NO3)3、Yb(CH3COO)3、Yb(CF3SO3)3、Yb2(SO4)3、Yb2(CO3)3、YbCl3、YbBr3、YbI3及びEr2O3などが挙げられる。
【0048】
エネルギー仲介金属含有層5Bは、配位金属含有層5Aの配位金属と同一または異なった遷移金属とを含有する金属層または無機化合物層である。エネルギー仲介金属含有層5Bは、配位金属と同一または異なった遷移金属とを含有する。エネルギー仲介金属含有層5B中の遷移金属を介して、第2被覆層3において光吸収により生じたエネルギーを無機微粒子1まで金属間エネルギー移動させる。エネルギー仲介金属含有層5Bの遷移金属は、エネルギー移動を仲介する金属(エネルギー仲介金属)である。エネルギー仲介金属含有層5Bの遷移金属としては、好ましくは希土類元素である金属である。より好ましくは、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Ho、Er、Tm、Yb等のランタノイド金属(Ln)である。
【0049】
エネルギー仲介金属含有層5Bとしては、例えば、NaYbF4、NaNdF4、Yb(NO3)3、Yb(CH3COO)3、Yb(CF3SO3)3、Yb2(SO4)3、Yb2(CO3)3、YbCl3、YbBr3、YbI3及びEr2O3などが挙げられる。
【0050】
第1被覆層2Aの厚さは特に限定されないが、無機微粒子1の粒径の5%以上であればよく、無機微粒子1の表面に渡ってほぼ一様であることが好ましい。第1被覆層2Aの厚さは、例えば、1~10nmである。より好ましくは、第1被覆層2Aの厚さは、1~5nmである。配位金属含有層5Aの厚さおよびエネルギー仲介金属含有層5Bの厚さは、第1被覆層2Aの厚さになるように適宜設定することができる。無機微粒子1の表面に対する第1被覆層2Aの被覆率は50%以上が好ましい。無機微粒子1は、第1被覆層2Aの被覆率は100%であればより好ましい。
【0051】
(光電変換素子)
図3は、複合微粒子10を備えた光電変換素子100の断面図である。光電変換素子100は、太陽電池に適した光電変換素子である。光電変換素子100は、主に、正極層(正極部材)101、と、負極層(負極部材)102と、それらの間に挟まれた光電変換層103と、で構成されている。
【0052】
負極層102と光電変換層103との間には、伝導帯のエネルギー準位としてEcbが、負極層102と光電変換層103との伝導帯のエネルギー準位としてEc2とEc3との間に有する(すなわちEc2<Ecb<Ec3となる)バッファ層107が挟まれていてもよい。バッファ層107の構成材料としては、例えば、酸化ユーロピウム(Eu2O3)、酸化チタン、酸化スズ等が挙げられる。バッファ層107の構造としては、例えば、前記構成材料の一種類以上を前記光電変換層103の前記負極層102側の表面に積層してなる構造等を挙げることができる。
【0053】
光電変換層103に光を取り込むため、負極層102は、光透過性を有する材料、例えば、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛、酸化スズ、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)等で構成されているものがよい。本実施形態の光電変換層103の製造過程においては、熱処理を行う必要があるため、負極層102の材料としては、これらの材料の中でも耐熱性を有するATOが好ましい。
【0054】
正極層101は、透明でなくてもよく、該電極の電極材料としては、金属、導電性高分子等を用いることができる。電極材料の具体例としては、金(Au)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)等の金属、及びそれらのうち2つ以上の合金、グラファイト、グラファイト層間化合物、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体が挙げられる。透明な正極層101の材料としては、ITOが挙げられる。
【0055】
図3に示すように、光電変換層103は、主に、無機半導体を主成分として含む複数の粒子(以下、「無機半導体の粒子」と記すこともある。)20によって構成される第一層(電子輸送層)104を有し、第一層104の表面に形成され、無機ペロブスカイト型物質を主成分として含み、さらに複合微粒子10を含む凝集体または薄膜(複合体)によって構成される第二層105と、有機あるいは無機半導体(金属錯体を含む)を主成分として含む複数の粒子またはその凝集体あるいは薄膜によって構成される第三層106と、を積層してなるとよい。つまり、光電変換素子100は、正極層101、第三層106、第二層105、第一層104、負極層102の順に並び、少なくとも、正極層101から負極層102への電流パスが形成されるように構成されているとよい。光電変換層103は、複合微粒子10と無機ペロブスカイト型物質とを含有する。ここで、「無機半導体を主成分として含む」とは、無機半導体の粒子20中において、無機半導体が本発明での機能を発揮可能な量を含むことを意味し、具体的には例えば、無機半導体の含有量が、第一層104の全体積に対して50体積%超であることをいう。好ましくは、90体積%超であり、より好ましくは、実質的に無機半導体からなることがよい。「無機ペロブスカイト型物質を主成分として含む」とは、第二層105の全体積に対して、無機ペロブスカイト型物質が本発明での機能を発揮可能な量を含むことを意味し、具体的には例えば、無機ペロブスカイト型物質の含有量が、第二層105の全体積に対して、50体積%超であることをいう。好ましくは、70体積%以上である。さらに「有機あるいは無機半導体(金属錯体を含む)を主成分として含む」とは、第三層106の全体積に対し、複合微粒子10を含む凝集体または薄膜(複合体)が本発明での機能を発揮可能な量を含むことを意味し、具体的には例えば、有機あるいは無機半導体の含有量が第三層106の全体積に対して、50体積%超であることをいう。好ましくは、90体積%超であり、より好ましくは、実質的に有機あるいは無機半導体(金属錯体を含む)からなることがよい。形成される電流パスの数は多いほど好ましいが、隣接する電流パス同士は、電気的に、互いに接続されていてもよいし、接続されていなくてもよい。なお、本実施形態における「層」は、一回または複数回の成膜プロセスで形成される膜を意味しており、平坦なものに限定されることはなく、また、一体でなくてもよいものとする。
【0056】
さらに、三つの層104~106の材料・組成については、伝導帯(LUMO、励起状態)のエネルギー準位が、第一層104、第二層105、第三層106の順で高くなるように決定される。例えば、第一層104については、価電子帯のエネルギー準位を-8eV以上とし、伝導帯のエネルギー準位を-4eV以下とすることができる。このとき、第二層105については、価電子帯のエネルギー準位を-6.0eV以上とし、伝導帯のエネルギー準位を-3eV以下とすることができる。また、第三層106については、伝導帯のエネルギー準位を-2eV以下とするのが好ましい。
【0057】
第一層104は、負極層102上に形成された複数の無機半導体の粒子20の集合体であり、無機半導体の粒子20間の空隙を複数有する多孔膜である。第二層105に接する無機半導体の粒子20は、負極層102と電気的に接続されるように、負極層102に対し、直接、または他の無機半導体の粒子20を介して間接的に接触している。多孔質膜である第一層104があることで、第二層105との接触面積を増やすことができる。
【0058】
無機半導体の粒子20に含まれる無機半導体としては、吸収波長が、紫外領域に含まれるものであることが好ましく、例えば、酸化チタン(IV)、酸化亜鉛等が挙げられる。無機半導体の粒子20として例えば、酸化チタン(IV)である。この場合、光電変換素子100は、酸化チタン(IV)からなる電子輸送層を備えることになる。第一層104の厚みは、約10nm以上1000nm以下であることが好ましく、さらに約50nm以上500nm以下であることがより好ましい。なお、太陽電池に応用する場合は、この第一層104は形成しなくてもよい。
【0059】
第二層105は、その製造段階において、無機半導体の粒子20の表面のうち露出している部分、すなわち、負極層102、無機半導体の粒子20のいずれとも接していない部分を覆う薄膜である。第二層105は、この露出している部分の全体を覆う必要はないが、上記電流パスを形成するために、少なくとも正極層101側を覆っていることが好ましい。
【0060】
第二層105を構成する無機ペロブスカイト型物質は、Pb2+、Sn2+等の金属カチオン、I-、Cl-、Br-等のハロゲン化アニオン、CH3NH3
+(MA)、NH=CHNH2
+(FA)、Cs
+等の有機カチオン、からなる複数の分子によって構成されるものである。金属カチオン、ハロゲン化物アニオン、有機カチオンのそれぞれから選択するイオンの数によって、バンドギャップの大きさ・形を変えることができる。無機ペロブスカイト型物質にスズを添加すると、バンドギャップが狭められ、近赤外光等の長波長の光に対して応答するようになるが大気下において容易に酸化されてしまい、特性は劣化する。無機ペロブスカイト型物質を構成するそれぞれの分子において、ハロゲン化アニオンは、金属イオンを中心とする正八面体の頂点に配され、有機カチオンは、金属イオンを中心とし、正八面体を内在させた立方体の近傍に配されている。具体的には、金属イオンとハロゲン化アニオンで形成された正八面体が三次元の格子を形成し、その隙間に有機カチオンが入り込んだような構造となる。
【0061】
複合微粒子10の第3被覆層4が無機ペロブスカイト型物質からなる無機化合物層である場合、第二層105を構成する無機ペロブスカイト型物質と接しながら第二層105を形成する際に、複合微粒子10中の第3被覆層4と無機ペロブスカイト型物質との境界が実質的に無くなる。そのため、複合微粒子10で可視光に変換された光は、第3被覆層4を含む無機ペロブスカイト型物質に効率よく吸収される。これによって、光電変換素子100の近赤外領域の光の変換効率を向上することができる。
【0062】
第二層105中の複合微粒子10が、第二層105の全質量に対して、5wt%以上であれば、近赤外領域の光の感度が向上するので、好ましい。第二層105中の複合微粒子10が30wt%超であると、ペロブスカイト型物質が形成しにくくなるので、30wt%以下が好ましい。
【0063】
また、第二層105の価電子帯のエネルギー準位は、第三層106の価電子帯のエネルギー準位よりも低く、かつ同エネルギー準位と断続的に接続されていることが好ましい。これらの条件を満たす第二層105(無機ペロブスカイト型物質)の組成としては、例えば、CH3NH3Pbl3、NH=CHNH2PbI3、CsPbI3等が挙げられる。この他に、ハロゲン化物アニオンのうち、IとClあるいはBrとの組成比を変えたものも挙げられる。
【0064】
第三層106は、第一層104、第二層105によって構成される光電変換素子前駆体のうち、第二層に含まれる、無機ペロブスカイト型物質の表面(露出面)を覆う薄膜であるとよい。第三層106は、p型の有機半導体、無機半導体、有機金属錯体のいずれかによって形成される。第三層106の厚さは、例えば、1nm以上100nm以下であることが好ましい。
【0065】
第三層を構成するp型有機半導体としては、バソクプロイン(BCP)、2,2’,7,7’-tetrakis(N,N’-di-p-methoxyphenylamine)-9,9’-spirobifluorene(Spiro―OMeTAD)、poly(3,4-ethylenedioxythiophene):poly(styrenesulfonate)(PEDOT:PSS)、N,N,N’,N’-tetrakis(4-methoxyphenyl)-benzidine(TPD)などが挙げられる。
【0066】
第三層106を構成するp型無機半導体としては、CuI、CuSCNなどが挙げられる。
【0067】
なお、本開示の光電変換素子用部材は、複合微粒子10を含有する第二層105と、有機半導体あるいは無機半導体を主成分とする凝集体または薄膜からなる第三層106とを積層してなる。本開示の光電変換素子用部材を備えた光電変換素子は、ホール輸送層と、電子輸送層と、を備え、本開示の光電変換素子用部材が、ホール輸送層と電子輸送層との間に配置されてもよい。
【0068】
(エネルギーバンド構造)
図4(a)~(c)は、本実施形態に係る光電変換素子100の動作中における、各層のエネルギーバンドの構造を示している。
【0069】
光を照射していない状態では、第三層106の伝導帯のエネルギー準位が、正極層101側で、正極層101のフェルミ準位より高くなっており、
図4(a)に示すように、正極層101から負極層102に向かう電流はブロックされている。
【0070】
光電変換素子に700nm以上の波長をもつ光が照射されると、第二層105を構成する複合微粒子10が、その光を吸収し、波長を可視光に変換する。無機ペロブスカイト型物質が、波長変換された光を吸収する(
図4(b))。なお、
図4(b)中の複合微粒子10の破線矢印と、実線の矢印は同じ大きさのエネルギーを示す。光を吸収することで無機ペロブスカイト型物質は電子eと正孔hを発生させ、電子eは伝導帯E
c1(第一層104の伝導帯のエネルギー準位)に移り、正孔hは価電子帯E
v3(第三層106の価電子帯のエネルギー準位)に移る(
図4(c))。
【0071】
上記の例では、第一層104aが多孔質膜の場合を例に挙げて説明したが、光電変換素子はこの構成に限定されない。
図5は、
図1の複合微粒子を備えた光電変換素子の変形例の断面図である。光電変換素子100aは、正極層(正極部材)101、と、負極層(負極部材)102と、それらの間に挟まれた光電変換層103aと、で構成されている。光電変換層103aは、層状の第二層105、層状の第三層106から構成されている。光電変換素子100aのように、第二層105
、第三層106は均一な膜状に形成されていてもよい。
【0072】
(光電変換素子の変形例について)
次に、
図6を用いて光電変換素子の変形例である光電変換素子100Bについて説明する。光電変換素子100Bは、光センサー用途に適した構成の光電変換素子となる。
図6は、複合微粒子10を備えた光電変換素子100Bの断面図である。光電変換素子100Bは、主に、正極層(正極部材)101、と、負極層(負極部材)102と、それらの間に挟まれた光電変換層103Bと、で構成されている。以下、類似する構成要素については、同一の符号の後に異なるアルファベットを付して区別する。ただし、同一の構成要素については、その説明を省略する。また、類似する構成要素のうち、説明を行った構成要素と実質的に同一の機能構成を有する場合は、その構成要素についての説明を省略する。
【0073】
光電変換層103Bは、第一層104、第二層105、第三層106Bを備える。
図6に示すように、光電変換層103は、主に、無機半導体を主成分として含む複数の粒子20によって構成される第一層(電子輸送層)104を有し、第一層104の表面に形成され、無機ペロブスカイト型物質を主成分として含み、さらに複合微粒子10を含む凝集体または薄膜(複合体)によって構成される第二層105と、有機金属錯体を主成分として含む複数の粒子またはその凝集体あるいは薄膜によって構成される第三層106Bと、を積層してなるとよい。ここで、「有機金属錯体を主成分として含む」とは、粒子またはその凝集体、あるいは薄膜において、有機金属錯体の含有量が第三層の全体積に対して、50体積%超であることをいう。好ましくは、90体積%超であり、より好ましくは、実質的に無機半導体からなることがよい。つまり、光電変換素子100は、正極層101、第三層106B、第二層105、第一層104、負極層102の順に並び、少なくとも、正極層101から負極層102への電流パスが形成されるように構成されているとよい。
【0074】
さらに、三つの層104~106Bの材料・組成については、伝導帯(LUMO、励起状態)のエネルギー準位が、第一層104、第二層105、第三層106Bの順で高くなり、第二層105の価電子帯(HOMO、基底状態)のエネルギー準位が、第三層106Bの価電子帯のエネルギー準位より高くなるように決定される。伝導帯において、第二層105のエネルギー準位が第一層104のエネルギー準位より高く、かつ第三層106Bのエネルギー準位が第二層105のエネルギー準位より高い。例えば、第一層104については、価電子帯のエネルギー準位を-8eV以上とし、伝導帯のエネルギー準位を-4eV以下とすることができる。このとき、第二層105については、価電子帯のエネルギー準位を-6.0eV以上とし、伝導帯のエネルギー準位を-3eV以下とすることができる。また、第三層106については、伝導帯のエネルギー準位を-2eV以下とするのが好ましい。
【0075】
第三層106Bは、第一層104、第二層105によって構成される光電変換素子前駆体のうち、第二層105に含まれる、無機ペロブスカイト型物質の分子の表面(露出面)を覆う薄膜であるとよい。第三層106Bを構成する有機金属錯体の分子は、無機遷移金属と、有機配位子と、を配位結合させることによって得られる。ここで、108Aは、第三層106Bの無機遷移金属イオンを示し、108Bは第三層106Bの有機配位子を示す。
【0076】
有機金属錯体において、無機遷移金属イオン108Aは、第二層105の無機ペロブスカイト型物質と直接結合するように、第二層側に膜状に局在しているとよい。一方、有機配位子108Bは、第二層と反対側(正極側)に膜状に局在しているとよい。そして、後述する光電流の増幅を実現するために、有機金属錯体106Bの分子は、正極層101側から第二層105側に向かう電流パスにおいて、有機配位子108B、無機遷移金属イオン108Aの順で並ぶように、無機ペロブスカイト型物質の分子に結合されているとよい。つまり、無機遷移金属イオンからなる層と有機配位子イオンからなる層とに分けられる。なお、二つの層の境界については、例えば透過電子顕微鏡(TEM)等を用いて確認できる。
【0077】
ここでの無機遷移金属イオンとしては、例えば、還元準位がLUMOとなるEu3+、Cr3+等、酸化準位がHOMOとなるRu2+、Fe2+、Mn2+、Co2+等が挙げられる。また、ここでの有機配位子としては、一般的な金属錯体の配位子、例えば、(i)カルボキシル基、ニトロ基、スルホ基、リン酸基、ヒドロキシ基、オキソ基、アミノ基等を有する有機化合物;(ii)エチレンジアミン誘導体;(iii)ターピリジン誘導体、フェナントロリン誘導体、ビピリジン誘導体等の環ヘテロ原子含有有機配位子;(iv)カテコール誘導体、キノン誘導体、ナフトエ酸誘導体、アセチルアセトナート誘導体(具体的には例えば、アセチルアセトン)等のアセチルアセトナート系有機配位子(ここで、「アセチルアセトナート系有機配位子」とは、2つの酸素原子を介して多くの遷移金属イオンと(例えば六員環を形成しながら)配位結合可能な有機配位子を意味するものである。)等が挙げられる。
【0078】
第三層106Bの厚さは、例えば、約1nm以上10nm以下であることが好ましい。第三層106Bが10nmより厚いと、エネルギー障壁が厚くなり過ぎて十分なトンネル確率が得られなくなり、光電変換層103Bにおける光電流の増幅が妨げられてしまう。また、第三層106Bが1nmより薄いと、光が照射されず、バンドが曲がっていないときにもトンネル電流が流れることになり、光電変換層103Bの光検出機能が意味をなさなくなってしまう。
【0079】
(エネルギーバンド構造)
図7(a)~(d)は、本実施形態に係る光電変換素子100Bの動作中における、各層のエネルギーバンドの構造を示している。ここで、108Aは、第三層106Bの無機遷移金属イオンを示し、108Bは第三層106Bの有機配位子を示す。
【0080】
光を照射していない状態では、第三層106Bの伝導帯のエネルギー準位が、正極層101側で、正極層101のフェルミ準位より高くなっており、
図7(a)に示すように、正極層101から負極層102に向かう電流はブロックされている。
【0081】
光電変換素子に800nm以上の波長をもつ光L
1が照射されると、第二層105を構成する複合微粒子10のコア(無機微粒子1)が、その光を吸収し、波長を可視光に変換する。無機ペロブスカイト型物質が、波長変換された光を吸収して電子eと正孔hを発生させ、電子eは伝導帯E
c2に移り、正孔hは価電子帯E
v2に移る(
図7(b))。
【0082】
このとき、第一層104、第二層105、第三層106Bの伝導帯のエネルギー準位E
c1、E
c2、E
c3が、E
c3>E
c2>E
c1の関係にあるため、第二層105で発生して同層の伝導帯に移った電子eは、より低いエネルギー状態となる第一層104の伝導帯E
c1に移る。
一方、第一層104、第二層105、第三層106Bの価電子帯のエネルギー準位E
v1、E
v2、E
v3が、E
v2>E
v1
、E
v2>E
v3となっているため、
図7(c)に示すように、第二層で発生して価電子帯に移った正孔は、第一層、第三層と比べて相対的に高い(正孔にとっては低い)エネルギー状態となる第二層の価電子帯にトラップされる。
【0083】
トラップされて集中して分布している正孔の影響(正の電位)により、第二層105の価電子帯の近傍においては、電子のポテンシャルエネルギーが低下し、伝導帯のエネルギー準位が低下する。伝導帯のエネルギー準位は、正孔がトラップされている第二層105に近いほど大きく低下するため、第三層106Bの伝導帯のエネルギー準位は、第二層側でより低くなり、正極層側が尖った形状となる。したがって、正極層101に存在する電子にとって、第三層106のエネルギー障壁が薄くなり、
図7(d)に示すように負極層側へトンネルすることが可能となる。つまり、第三層のエネルギー障壁にブロックされていた正極側の多数の電子(光を照射していない状態における電子)を、光電変換素子に光が照射されると、薄くなったエネルギー障壁をトンネル(透過)させ、これらを負極側に流れ込ませることができる。よって、本変形例の光電変換素子100Bは、照射した光によって直接発生する電流の大幅な増幅を実現することができる。そのため、本変形例の光電変換素子100Bは、光センサ用途に適している。
【0084】
なお、本開示の光電変換素子100、100Bをシリコン等の半導体基板やガラス基板に搭載する場合、例えば、以下のようなデバイス構成を挙げることができる。
(1)透明性を有する正極層101が、半導体基板から最も離れた最上層に形成されている形態(即ち、入光側の最上層から、(透明)正極層101/第三層106/第二層105/第一層104/負極層102/(Si)基板の順に積層された構成)
(2)透明性を有する負極層102が、前記ガラス基板に隣接するように形成されている形態(即ち、入光側の最上層から、(ガラス)基板/負極層102/第一層104/第二層105/第三層106/正極層101の順に積層された構成)
(3)透明性を有する負極層102が、前記半導体基板から最も離れた最上層に形成されている形態(即ち、入光側の最上層から、(透明)負極層102/第一層104/第二層105/第三層106/正極層101/(Si)基板の順に積層された構成)
【0085】
(複合微粒子の製造方法)
次に、本開示の複合微粒子10の製造方法について説明する。本開示の複合微粒子10の製造方法は、無機微粒子合成工程、第1被覆層形成工程、第2被覆層形成工程、および第3被覆層形成工程を備える。
【0086】
「無機微粒子合成工程」
無機微粒子合成工程において、無機微粒子1は合成される。無機微粒子1の合成方法は特に限定されないが、たとえば沈殿法や水熱合成法などが挙げられる。例えば、主原料として、Ln(ランタノイド)酸化物、例えば、Gd2O3、Er2O3、Tm2O3、Ho2O3、Yb2O3、Y2O3またはLnハロゲン化物、例えば、ErCl3、ErF3、TmCl3、TmF3、HoCl3、HoF3等を用い、トリフルオロ酢酸塩またはアセチルアセトナート塩を合成する。次いで、得られたトリフルオロ酢酸塩またはアセチルアセトナート塩に、(i)トリフルオロ酢酸ナトリウムおよび鎖状有機分子,あるいは,(ii)硫黄(S8)および鎖状有機分子、のいずれかの原料物質を加えた後、得られた混合物をN2またはAr雰囲気下高温条件(100~400℃)で反応させる。反応後に得られた溶液(反応物)を冷却し、必要に応じてエタノールなどの有機溶剤を加えた後、得られた混合物を遠心分離機を用いて、無機微粒子1を分離することにより、無機微粒子1が得られる。
【0087】
「第1被覆層形成工程」
第1被覆層形成工程では、無機微粒子合成工程で得た無機微粒子1に第1被覆層2を形成する。第1被覆層2の形成方法は特に限定されない。例えば、沈殿法や水熱合成法などが挙げられる。具体的には、ランタノイド酸化物Gd2O3、Er2O3、Tm2O3、Ho2O3、Yb2O3、Nd2O3を用い、トリフルオロ酢酸塩を合成する。さらに、そこに、無機微粒子1とトリフルオロ酢酸ナトリウムとを加え、窒素またはアルゴン雰囲気下、高温条件(100~400℃)で反応させる。反応後の溶液を冷却し、必要に応じてエタノールなどの有機溶剤を加えた後遠心分離で、第1被覆層2で被覆した無機微粒子1(第1被覆粒子)を得る。第1被覆層の形成は複数回行ってもよい。
【0088】
「第2被覆層形成工程」
第2被覆層形成工程では、第1被覆粒子の表面に、第2被覆層3を形成する。第2被覆層3を形成する方法は特に限定されない。具体的には、例えば、第1被覆粒子を分散した溶媒中に、そこにNaBF4ジメチルホルムアミド溶液を滴下し、室温(20~30℃)、窒素雰囲気下で30分~120分攪拌し、遠心分離によって粉末を得る。得られた粉末を溶媒に分散させ、遷移金属イオン(例えばY3+やPb2+など)が結合した多座有機配位子(例えばインドシア二ン系色素)を加え、室温で10分以上、超音波中で攪拌する。必要に応じてエタノールなどの有機溶剤を加えた後遠心分離で分離することで、第2被覆層で被覆された第1被覆粒子(第2被覆粒子)が得られる。
【0089】
「第3被覆層形成工程」
第3被覆層形成工程では、第2被覆粒子の表面に、第3被覆層4を形成する。第3被覆層4を形成する方法は特に限定されない。第3被覆層4を形成する方法としては、例えば、沈殿法や水熱合成法などが挙げられる。具体的には例えば、第2被覆粒子を、炭酸セシウムから合成したオレイン酸セシウムおよびハロゲン化鉛(PbX2)を含む溶液と反応させる。温度120~200℃、窒素雰囲気下とする。反応後の溶液を冷却し、遠心分離で、微粒子を分離する。分離後の微粒子を焼成(例えば、100℃~200℃)することで、複合微粒子10が得られる。
【0090】
(光電変換素子の製造方法)
図8(a)~(e)は、光電変換素子100の製造過程における被処理体の断面図である。光電変換素子100は、主に次の手順を経て製造することができる。
【0091】
まず、
図8(a)に示すように、光電変換層103を形成するための、負極層102を設けた基材を準備する。基材上の負極層102としては、負極層として機能し、透明導電性を有する電極部材を用いる。ここでは、負極層102の一面にバッファ層107を形成する場合について、例示しているが、このバッファ層107は形成しなくてもよい。なお、バッファ層107は、電子輸送層あるいはホールブロッキング層として機能する。バッファ層107は、スピンコーティング法等を用いて、負極層102に材料の溶液を塗布し、それを加熱する(乾燥させる)ことによって形成することができる。この加熱は、例えば、約120~450℃で、10~60分程度行うとよい。バッファ層107の厚みが、例えば、1~100nm程度となるように、材料塗布の条件(塗布時間等)を調整するとよい。
【0092】
次に、
図8(b)に示すように、負極層102の一面側(バッファ層107がある場合にはそれを挟んで)は、無機半導体を主成分として含む複数の粒子(即ち、無機半導体の粒子)20によって構成される、第一層104を形成する。第一層104も、バッファ層107と同様に、その材料の溶液を塗布して加熱することによって形成することができる。この加熱も、例えば、約120~450℃で、10~60分程度行うとよい。第一層104の厚みが、例えば、約10~1000nm程度、好ましくは約50~500nm程度となるように、材料塗布の条件(塗布時間等)を調整するとよい。
【0093】
次に、
図8(c)に示すように、スピンコーティング法、ディップ法等を用いて、無機半導体の粒子20の表面に対し、主成分となる無機ペロブスカイト型物質の原料、および複合微粒子10を含有する溶液を塗布し、それを加熱することによって第二層105を形成するとよい。この加熱は、例えば、約40~100℃で、5~10分程度行うとよい。第二層105の厚みは、材料塗布の条件(塗布時間等)で調整する。
【0094】
次に、
図8(d)に示すように、第二層105の上に第三層106を形成するとよい。より詳細には、スピンコーティング法、ディップ法等を用いて、第二層105の上に、p型有機半導体あるいは無機半導体を主成分として含む材料を蒸着またはその材料の溶液を塗布することで第三層106を形成するとよい。実際には、第二層105形成時に、第一層104の無機半導体の粒子20同士の隙間がほぼ埋まった状態になる。そのため、第三層106は、第二層105の表面のうち主に正極層101側(負極層102と反対側)の露出部分に、膜状に形成される。
【0095】
第三層として有機金属錯体を形成する場合(すなわち第三層106Bを形成する場合)は、ここでの溶液の塗布および加熱は、二段階に分けて行うとよい。すなわち、一段階目として、ユーロピウム等の無機遷移金属の溶液を塗布して加熱し、続いて二段階目として、ターピリジン等の有機配位子の溶液を塗布して加熱するとよい。このように、第三層106Bの形成を二段階に分けて行う結果として、第三層106Bは、第二層105側から順に、無機遷移金属からなる層108A、有機配位子からなる層108B、を積層した構造になる。
【0096】
最後に、図8(e)に示すように、第三層106上に、正極として機能し、導電性を有する電極部材(正極層)101を形成させることにより、本実施形態の光電変換素子100を得ることができる。
【0097】
上記の光電変換素子の製造方法では、多孔質の第一層104を用いた場合について説明したが、第一層104がない場合についても上記と同様の方法で製造することができる。
【0098】
以上のように、本実施形態の複合微粒子10は、第2被覆層3の多座有機配位子が、吸収した近赤外又は赤外領域の長波長の光を高効率で可視光・紫外光等の短波長の光に変換し、変換された光を、第二層105の無機ペロブスカイト型物質が再吸収し、電力に変換するように、構成されている。したがって、本実施形態の複合微粒子10によれば、従来は難しかった長波長の光から光電変換あるいは起電力を生じさせることが可能となる。
【0099】
また、本実施形態の複合微粒子10は、多座有機配位子の熱振動を抑制し、エネルギー転移を確実かつ効率的に行うことができる。その結果、エネルギーロスを低減させることができる。そのため、多座有機配位子に吸収させる光が弱い光であっても、優れた光増感特性を実現することができる。
【実施例】
【0100】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0101】
(1.複合微粒子の前駆体となる第1中間粒子、第2中間粒子および第3中間粒子ならびにそれらの調製)
まずは、アセチルアセトン 3molとLnCl
3・nH
2O 1molとを水に加えた。得られた混合物を、アンモニア水溶液を用いてpH7に調整した後にこれを撹拌することにより、希土類アセチルアセト塩水和物(Ln(acac)
3・nH
2O)を得た。
次いで、Gd(acac)
3・nH
2O 383mg、Yb(acac)
3・nH
2O 101mg 、Er(acac)
3・nH
2O 10mg、硫黄粉末S8 16mgおよびオレイン酸ナトリウム 152mgに、オレイルアミン 11ml、オレイン酸 1.6 mlおよびオクタデセン 21 mlを加えた。得られた混合物を真空下120℃で20分撹拌した。その後さらに温度を310℃とし、N
2雰囲気下で前記混合物を30分撹拌した。
得られた混合物をN
2雰囲気下のまま、室温まで冷却し、これにエタノールを加えた後、遠心分離することにより、第1中間粒子(ErおよびYbでドープされたGd
2O
2S:Er(5%)、Yb(20%)、粒径10~20nm)を得た。当該第1中間粒子の粒径はSEM観察で得られた観察像(
図9(a))から得た。
【0102】
次に、Yb
2O
3 197mgを50%トリフルオロ酢酸水溶液10mLに加え、これを減圧下80℃で30分間攪拌した。その後さらに、トリフルオロ酢酸ナトリウム 272gおよび上記で得られた第1中間粒子205gにオクタデセン10mLおよびオレイン酸10mLを加え、これを真空下120℃で30分間攪拌した。その後さらに温度を320℃とし、N
2雰囲気下で前記混合物を30分撹拌した。次いで、得られた混合物から粉末を遠心分離によって回収することにより、第2中間粒子(NaYbF
4で被覆された第1中間粒子、粒径25nm以下)210mgを得た。当該第2中間粒子の粒径はSEM観察で得られた観察像(
図9(b))から得た。
【0103】
次に、Nd
2O
3 50mgおよびY
2O
3 79mgを50%トリフルオロ酢酸水溶液10mLに加え、これを減圧下95℃で30分間攪拌した。その後さらに、トリフルオロ酢酸ナトリウム272mgおよび上記で得られた第2中間粒子 210mgを加え、これを真空下120℃で30分間攪拌した。その後さらに温度を320℃とし、N
2雰囲気下で前記混合物を30分撹拌した。次いで、得られた混合物から粉末を遠心分離によって回収することにより、第3中間粒子(NaYF
4:30%Ndで被覆された第2中間粒子、粒
径30nm以下)230mgを得た。当該第3中間粒子の粒径はSEM観察で得られた観察像(
図9(c))から得た。
【0104】
(2.複合微粒子Aおよびその製造)
上記1のようにして調製された第3中間粒子 220mgをヘキサン2mLに加え、そこにNOBF
4ジメチルホルムアミド溶液0.4mL(濃度 117g/L)を滴下し、得られた摘下後の混合物を室温(20~30℃)で10分間攪拌した。次に、DMF層(下層)を回収し、遠心分離することで、粉末を得た。得られた粉末をヘキサン中に分散し、穏やかに乾燥させた。得られた混合物をインドシアニングリーン(ICG)1mgおよびYCl
30.25mgを含むエタノール溶液5mLに加え、これを室温で10分間超音波中で攪拌した。このようにして得られた混合物を遠心分離することにより、第4中間粒子(ICG-Yで被覆された第3中間粒子、粒径40nm以下、ナノ微粒子B)170mgを得た。当該第4中間粒子の粒径はSEM観察で得られた観察像(
図9(d))から得た。
【0105】
次に、Y
2O
3 130gを50%トリフルオロ酢酸水溶液10mLに加え、これを減圧下80℃で30分間攪拌した。その後さらに、トリフルオロ酢酸ナトリウム 272gおよび上記で得られた第4中間粒子 170mgを加え、これを150℃で180分間窒素で攪拌した。次いで、得られた混合物から粉末を遠心分離によって回収することにより、複合微粒子A(NaYF
4で被覆された第4中間粒子、粒径50nm以下)200mgを得た。当該複合微粒子Aの粒径はSEM観察から得られたSEM像から得た(
図10(a))。
【0106】
(3.複合微粒子Bおよびその製造)
まずは、炭酸セシウム(Cs2CO3)814mgをオレイン酸2.5mLおよびオクタデセン40mLに溶解し、得られた混合物を窒素雰囲気下120℃で60分間撹拌した。さらに160℃で前記混合物を30分撹拌することにより、オレイン酸セシウム溶液を事前に調製した。
【0107】
上記1のようにして調製された第3中間粒子 220mgをヘキサン2mLに加え、そこにNOBF4ジメチルホルムアミド溶液0.4mL(濃度 117g/L)を滴下し、得られた摘下後の混合物を室温(20~30℃)で10分間攪拌した。次に、DMF層(下層)を回収し、遠心分離することにより、粉末を得た。得られた粉末をヘキサン中に分散し、穏やかに乾燥させた。得られた混合物をインドシアニングリーン(ICG)1mgおよびPbBr20.5mgを含むエタノール溶液5mLに加え、これを室温で10分間超音波中で攪拌した。このようにして得られた混合物を遠心分離することにより、第4中間粒子(ICG-Pbで被覆された第3中間粒子、粒径40nm以下)200mgを得た。
【0108】
PbBr
2147mgと上記で得られた第4中間粒子200mgとをオクタデセン10mLに分散させた後、得られた分散物を窒素雰囲気下120℃で1時間撹拌した。次いで、得られた混合物にオレイン酸1mLおよびオレイルアミン1mLを加えた後、得られた混合物の温度を180℃にした後、これに、上記のようにして事前に調製されたオレイン酸セシウム溶液0.85mLを加え、反応させた後、すぐに冷却した。前記混合物から粉末を遠心分離によって回収することにより、複合微粒子B(粒径50nm以下)を得た。当該複合微粒子Bの粒径はSEM観察から得られたSEM像から得た(
図10(b))。
【0109】
(4.ナノ微粒子A(第2被覆層が存在していない比較微粒子)およびその製造)
Y2O3 130gを50%トリフルオロ酢酸水溶液10mLに加えることにより混合物を得た。得られた混合物を減圧下80℃で30分間攪拌した。その後さらに、前記混合物にトリフルオロ酢酸ナトリウム 272gおよび上記で得られた第3中間粒子 170mgを加えた。ついで、得られた混合物を150℃で180分間窒素下で攪拌した。次いで、得られた混合物から粉末を遠心分離によって回収することにより、ナノ微粒子A(第2被覆層が存在していない比較微粒子)を得た。
【0110】
(5.光電変換素子)
基材上に設けられて負極層となる部材として、実質的にアンチモンドープ酸化スズ(ATO)からなる部材を準備した。この部材の一面に対し、チタンジイソプロピラートジアセチルアセトナート0.18Mのエタノール溶液200μlを、3000rpmの回転数でスピンコーティングした。続いて、前記部材上にスピンコーティングされた混合液に対して、500℃で30分間の加熱を行うことにより、実質的に酸化チタン(TiO2)緻密膜からなるバッファ層を形成した。
【0111】
次に、上記のようにして形成されたバッファ層に対して、酸化チタン(TiO2)ペースト(PST18NR、日揮触媒化成株式会社製)とエタノールとを1:3.5の重量比で含む混合液120μlを、6000rpmの回転数でスピンコーティングした。続いて、前記バッファ層上にスピンコーティングされた混合液に対して、120℃で10分間の加熱、450℃で1時間の加熱を順に行うことにより、実質的に酸化チタンからなる複数の粒子からなる第一層(多孔膜)を形成した。
【0112】
次に、上記のようにして形成された第一層(多孔膜)に対して、1.25Mの濃度で、ヨウ化鉛(PbI2)を288mg、ヨウ化セシウム(CsI)163mgおよび上記3で得られた複合微粒子Bを8重量パーセント濃度(w%)で含む、ジメチルホルムアミド(DMF)およびジメチルスルホキシド(DMSO)の混合溶液500μl(DMF:DMSO=3:2)に溶解し、得られた混合液を室温で1時間撹拌した。この混合液100μlを、5000rpmの回転数でスピンコーティングした。続いて、前記第一層(多孔膜)上にスピンコーティングされた混合液に対して、室温で10分放置した後、180℃で15分間の加熱を行うことにより、第二層を形成した。
【0113】
次に、上記のようにして形成された第二層に対して、Spiro―OMeTAD36mg、タ―シャリーブチルピリジン14μlおよび1.8Mリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Li-TFSI)アセトニトリル溶液8.75μLを混合し、得られた混合液を室温で1時間撹拌した後、この混合液70μlを、3000rpmの回転数でスピンコーティングした。
【0114】
最後に、第一層、第二層、第三層からなる積層体を挟んで負極層と反対側に、かつ第三層に接するように、正極層(Au)を形成する(蒸着する)ことにより、光電変換素子を製造した。
【0115】
(6.複合微粒子の発光スペクトル)
上記2で得られた複合微粒子Aに対して波長700nm以上の近赤外光を照射した際のスペクトルを浜松ホトニクス社製絶対PL量子収率測定装置で測定した。
【0116】
(複合微粒子の光吸収スペクトル)
上記2で得られた複合微粒子Aおよびナノ微粒子A(第2被覆層が存在していない比較微粒子)の光吸収スペクトルを浜松ホトニクス社製絶対PL量子収率測定装置で測定した。
【0117】
(7.光電変換素子の電流-電圧特性)
上記5で製造された光電変換素子の電流-電圧特性を測定した。照射する光の波長は750nm以上、放射照度は1sunとした。
【0118】
図11は、励起光の吸収率の変化を示すグラフである。
図11の横軸が波長(nm)を示し、
図11の縦軸が強度(Counts/s)を示している。
図11の実線は、元の励起光の強度を示し、
図11の点線は、上記2で得られた複合微粒子Aに励起光を照射した後の強度を示す。
図11の結果から、上記2で得られた複合微粒子Aにおいて、効率よく700nm以上の光を吸収していることが確認された。なお、
図11の破線は、第2被覆層(赤外吸収色素)を形成せず、それ以外は複合微粒子Aと同様の方法で作製したナノ微粒子Aの結果である。第2被覆層がない場合には、700nm以上の光はほとんど吸収されないことが確認された。また、上記3で得られた複合微粒子Bにおいても上記と同様の結果が得られた。
【0119】
図12は、上記2で得られた複合微粒子Aに対して
図11に示す励起光を照射し、そこで波長変換された光のスペクトルを示すグラフである。
図12の横軸が波長(nm)を示し、
図12の縦軸が強度(Counts/s)を示している。三つの波長(約530nm付近、約550nm付近、約680nm付近)でピークを示している。
図11および
図12の結果から、照射した700nm以上の波長の光が、これら三つの光に変換されたことが分かった。上記2で得られた複合微粒子Aの近赤外光励起による内部発光量子収率(可視光領域)は5.98%であった。
【0120】
図13は、上記3で得られた複合微粒子Bに対して
図11に示す励起光を照射し、そこで波長変換された光のスペクトルを示すグラフである。
図13の横軸が波長(nm)を示し、
図13の縦軸が強度(Counts/s)を示している。四つの波長(約405nm付近、520nm付近、約550nm付近、約680nm付近)でピークを示している。
図11および
図13の結果から、照射した700nm以上の波長の光が、これら
四つの光に変換されたことが分かった。上記3で得られた複合微粒子Bの近赤外光励起による内部発光量子収率(可視光領域)は6.12%であった。
図13の点線は第3被覆層が存在していない第4中間粒子(ICG-Yで被覆された第3中間粒子、ナノ微粒子B)の結果である。第3被覆層がない場合(ナノ微粒子B)では、四つの波長のうち、約405nm付近、520nm付近、約550nm付近の発光強度が減少し、内部発光量子収率(可視光領域)は2.54%であった。これは、ナノ微粒子Bは第3被覆層が無いので、エネルギー失活が生じやすいためと推測される。ナノ微粒子Bは、第3被覆層がないので、発光強度(効率)の減少とアップコンバージョン強度の減少(アップコンバージョンが起こりにくくなり、長波長側の発光のみしか観測されない)が生じている。
【0121】
図14は、上記5で製造された光電変換素子の電流-電圧特性を示す図である。
図14の横軸は電圧(V)であり、縦軸は電流密度(mA/cm
2)である。
図14に示す通り、波長750nm以上の光の照射によって、上記5で製造された光電変換素子が発電していることが分かった。これは、上記3で得られた複合微粒子Bによって、効率よく波長変換された光を無機ペロブスカイト型物質が吸収したことによると考えられる。上記5で製造された光電変換素子の開放電圧を1.06Vおよび短絡電流2.47mA/cm
2から求めた曲線因子ffは0.45であった。以上より、本発明の複合微粒子および光電変換素子を用いることにより、近赤外または赤外領域の光に対して優れた検出感度を有することができることが分かった。
【符号の説明】
【0122】
1 無機微粒子、2 第1被覆層、3 第2被覆層、4 第3被覆層、10 複合微粒子、100 光電変換素子、101 正極層、102 負極層、103 光電変換層、104 第一層、105 第二層、106 第三層、107 バッファ層