(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】衝撃吸収柵
(51)【国際特許分類】
E01F 7/04 20060101AFI20240820BHJP
【FI】
E01F7/04
(21)【出願番号】P 2024058951
(22)【出願日】2024-04-01
【審査請求日】2024-04-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】398054845
【氏名又は名称】株式会社プロテックエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】西田 陽一
(72)【発明者】
【氏名】石井 太一
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特表2023-511459(JP,A)
【文献】特開2016-148139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01F 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隔を隔てて立設した複数の傾倒可能な支柱と、前記支柱の複数のスパンに亘って張り巡らせた防護ネットとを具備した衝撃吸収柵であって、
地盤に固定したベースプレートに前記支柱が支軸を介して傾倒可能に立設してあり、
前記支柱は補助緩衝機構を具備し、
前記補助緩衝機構は支柱の長手方向に沿って配索した補助山側控えロープと、
前記ベースプレートに前記支軸から斜面山側に離隔して設け、前記補助山側控えロープの自由端側を係留する係留軸と、
前記ベースプレートに係留軸から斜面山側に離隔して設け、前記補助山側控えロープの自由端側を把持する単数または複数の補助緩衝具とを具備し、
前記支柱が支軸を中心に傾倒したときに補助山側控えロープの張力が増大し、補助山側控えロープの張力をベースプレートで支持するように構成したことを特徴とする、
衝撃吸収柵。
【請求項2】
前記補助山側控えロープの張力が補助緩衝具のスリップ張力を超えると、補助山側控えロープと補助緩衝具との間でスリップを生じて補助山側控えロープに生じた張力を減衰することを特徴とする、請求項1に記載の衝撃吸収柵。
【請求項3】
前記補助緩衝機構を具備した支柱が端末支柱であることを特徴とする、請求項1に記載の衝撃吸収柵。
【請求項4】
前記支柱のスパン単位で独立して緩衝機能を有する複数の上端ロープを隣り合う支柱の頭部間に連鎖して横架し、前記支柱のスパン単位で独立して緩衝機能を有する複数の下端ロープを隣り合う支柱の下部間に連鎖して横架し、前記上端ロープおよび下端ロープは上端ロープおよび下端ロープ両端部の近くに摩擦摺動式の緩衝具を設置し、前記緩衝具の外方にロープの余長部を形成し、上端ロープおよび下端ロープに一定以上の張力が作用するとロープと緩衝具の間で摺動を生じて張力を減衰することを特徴とする、請求項1に記載の衝撃吸収柵。
【請求項5】
連結具を介して前記防護ネットの上辺と下辺を前記複数の上端ロープおよび複数の下端ロープに横移動可能に係留すると共に、前記防護ネットの左右の側辺を端末支柱に取着したことを特徴とする、請求項
4に記載の衝撃吸収柵。
【請求項6】
前記防護ネットが複数のリング単体を連鎖的に連結して網状に形成した帯状ネットであることを特徴とする、請求項1に記載の衝撃吸収柵。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は落石、崩落土砂等の崩落物を捕捉する衝撃吸収柵に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な衝撃吸収柵は、所定の間隔を隔てて立設した複数の支柱(端末支柱と中間支柱)と、隣り合う支柱間に横架した防護ネットを少なくとも具備していて、防護ネットのたわみ変形と支柱の曲げ耐力とによって、落石等の崩落物が保有する運動エネルギーを吸収する。
【0003】
特許文献1には、隣り合う支柱間に複数のロープ材を横架すると共に、各ロープ材の端部近くに緩衝具を設け、スパン単位で形成した防護ネットによるエネルギー吸収性能を高めた衝撃吸収柵が開示されている。
特許文献2,3には、山側斜面に山側アンカーを設け、山側アンカーと支柱頭部との間に山側控えロープを掛け渡すと共に、山側控えロープと山側アンカーとの間に緩衝装置を介装し、受撃時に支柱が斜面谷側へ変形する際に緩衝装置が減衰作用を発揮させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-273828号公報
【文献】特開2007-32032号公報
【文献】特開2009-185514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記した衝撃吸収柵は、低コストに抑えるために構成を簡略化している。
そのため、衝撃吸収柵のエネルギーの吸収性能は300Kj程度が限界であった。
エネルギーの吸収性能を500~1000Kjまで高めるには、新たな改良が必要となるだけでなく、コストの大幅な増加が見込まれる。
【0006】
本発明は以上の点に鑑みてなされたもので、コストの大幅な増加を回避しつつ、高性能の衝撃吸収柵を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、間隔を隔てて立設した複数の傾倒可能な支柱と、前記支柱の複数のスパンに亘って張り巡らせた防護ネットとを具備した衝撃吸収柵であって、地盤に固定したベースプレートに前記支柱が支軸を介して傾倒可能に立設してあり、前記支柱は補助緩衝機構を具備し、前記補助緩衝機構は支柱の長手方向に沿って配索した補助山側控えロープと、前記ベースプレートに前記支軸から斜面山側に離隔して設け、前記補助山側控えロープの自由端側を係留する係留軸と、前記ベースプレートに係留軸から斜面山側に離隔して設け、前記補助山側控えロープの自由端側を把持する単数または複数の補助緩衝具とを具備し、前記支柱が支軸を中心に傾倒したときに補助山側控えロープの張力が増大し、補助山側控えロープの張力をベースプレートで支持するように構成した。
本発明の他の形態において、前記補助山側控えロープの張力が補助緩衝具のスリップ張力を超えると、補助山側控えロープと補助緩衝具との間でスリップを生じて補助山側控えロープに生じた張力の一部を減衰するように構成した。
本発明の他の形態において、前記補助緩衝機構を具備した支柱が端末支柱である。
本発明の他の形態において、前記支柱のスパン単位で独立して緩衝機能を有する複数の上端ロープを隣り合う支柱の頭部間に連鎖して横架し、前記支柱のスパン単位で独立して緩衝機能を有する複数の下端ロープを隣り合う支柱の下部間に連鎖して横架し、前記上端ロープおよび下端ロープは上端ロープおよび下端ロープ両端部の近くに摩擦摺動式の緩衝具を設置し、前記緩衝具の外方にロープの余長部を形成し、上端ロープおよび下端ロープに一定以上の張力が作用するとロープと緩衝具の間で摺動を生じて張力を減衰する。
本発明の他の形態において、連結具を介して前記防護ネットの上辺と下辺を前記複数の上端ロープおよび複数の下端ロープに横移動可能に係留すると共に、前記防護ネットの左右の側辺を端末支柱に取着した。
本発明の他の形態において、前記防護ネットが複数のリング単体を連鎖的に連結して網状に形成した帯状ネットである。
【発明の効果】
【0008】
本発明は少なくともつぎのひとつの効果を奏する。
<1>簡易な補助緩衝機構を設けるだけで、衝撃吸収柵の製作コストの増加を抑制しつつ、衝撃吸収柵の緩衝性能を大幅に向上させることが可能となる。
<2>支柱(端末支柱)の傾倒角度当たりの補助山側控えロープと補助緩衝具との間におけるスリップ量(張力減衰量)が増えるので、支柱が倒れるほど、補助緩衝機構による傾倒抵抗が大きくなる。
<3>補助緩衝機構による緩衝作用は、支柱の傾倒初期だけでなく、その後も継続して生じるので、緩衝機能を発揮する時間が長くなって衝撃吸収柵の緩衝性能が大きくなる。
<4>補助山側控えロープの張力を、補助緩衝具を介してベースプレートで支持するようにした。
そのため、補助山側控えロープを支持するために新たな山側アンカーを追加設置したり、山側控えロープと共通の山側アンカーに連結したりする必要がなくなり、コスト面や施工面での負担を軽減できる。
<5>補助緩衝具を高所の支柱頭部ではなく、低所のベースプレートに設置したことで、補助緩衝具の設置作業を安全で、かつ、簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一部を省略した本発明に係る衝撃吸収柵の正面図
【
図2】一部を省略した衝撃吸収柵の端末区間の拡大図
【
図4A】中間支柱の下部とベースプレートの分解組立図
【
図4B】端末支柱の下部とベースプレートの連結部の斜視図
【
図6B】中間支柱の下部とベースプレートの連結部の水平断面図
【
図7B】端末支柱の下部とベースプレートの連結部の水平断面図
【
図8】端末支柱に設けた補助緩衝機構の作用の説明図
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0011】
<1>衝撃吸収柵の概要
図1,2に本発明に係る衝撃吸収柵の一例を示す。
衝撃吸収柵は適宜の間隔で斜面10等に立設した支柱20(端末支柱20a、中間支柱20b)と、隣り合う支柱20の頭部間と裾部間にスパン単位で独立して架設したワイヤーロープ製で緩衝機能を有する上端ロープ31および下端ロープ32と、その上下辺を複数組の上下端ロープ31,32に係留し、複数のスパンに横架可能な全長を有する帯状の防護ネット40とを具備する。
以下に主要な部材について詳述する。
【0012】
<2>支柱
図3を参照して説明すると、支柱20は端末支柱20aと中間支柱20bを含み、基本的な構成は同じある。
支柱20は支柱本体21と、ベースプレート25と、支柱本体21の下部とベースプレート25の間を枢支する支軸24とを有する。
【0013】
<2.1>支柱本体
支柱本体21は防護ネットの上下辺を支持するための剛性部材であり、鋼材、コンクリート柱等の公知の剛性部材からなる。
図3を参照して説明すると、支柱本体21の上部には、上端ロープ31を挿通するための複数の貫通孔21aを有ると共に、支柱本体21の上下部には、複数の控えロープ材を連結するためのブラケット形を呈する複数の連結素子22を突設している。
支柱本体21の下部には、支軸24を介してベースプレート25と回動可能に連結するための連結片23を具備する。
【0014】
<2.2>ベースプレート
図4Aを参照して説明すると、ベースプレート25は地山に接地して支柱本体21を支持するための支持部材であり、複数のアンカーボルト12により地山に固定する。
本例で例示したベースプレート25について説明すると、ベースプレート25の着床板26の上面中央部には、所定の間隔を隔てた一対の起立片27,27が立設してある。
一対の起立片27,27には起立片27の長手方向に沿って複数の軸孔27aが開設されている。
複数の軸孔27aは、支軸24、係留軸28、下端ロープ32を挿通するために使用する。
【0015】
中間支柱用のベースプレート25には係留軸28を設けず(
図6B)、端末支柱用のベースプレート25には係留軸28を受ける(
図7B)。
端末支柱用のベースプレート25の場合、一対の起立片27,27の両端部の近くの軸孔に支軸24と係留軸28とを設ける。
【0016】
<2.3>支柱本体とベースプレートの枢支構造
支柱本体21は支軸24を介してベースプレート25に対して傾倒可能に枢支されている。
本例では、一対の起立片27,27の間に支柱本体21の連結片23を挿入し、起立片27,27と連結片23の間に支軸24を貫挿した形態について説明する。
【0017】
支柱本体21は支軸24を中心に斜面の傾斜方向に向けて傾倒可能であるだけでなく、支軸24の交差方向(斜面の斜め横方向)に向けても傾倒可能である。
支柱本体21を支軸24の交差方向に向けて枢支するには、例えば一対の起立片27,27の溝幅を連結片23の板厚より広くすると共に、連結片23のボルト孔を支軸24より大径に形成すればよい。
【0018】
<3>上端ロープと下端ロープ
図1に示すように、隣り合う支柱20の頭部間には上端ロープ31を横架し、隣り合う支柱20の裾部間には下端ロープ32を横架する。
上端ロープ31および下端ロープ32は、防護ネット40の上辺および下辺を支持するワイヤーロープであり、スパン毎に独立している。
【0019】
支柱20の上下部に設けた貫通孔24に上端ロープ31および下端ロープ32を貫挿し、各上端ロープ31および下端ロープ32の端部近くを緩衝具50で把持する(
図3)。
【0020】
<3.1>ロープ長
上端ロープ31および下端ロープ32は、スパン毎に独立していて、支柱20のスパン長より長い全長を有している。
【0021】
<3.2>余長部
各上端ロープ31および下端ロープ32は、緩衝具50から外方ヘ延出した範囲に余長部31a,32aを形成する。
この余長部31a,32aが上端ロープ31および下端ロープ32のスリップ(摺動)許容長となる。
【0022】
<3.3>上下端ロープ用の緩衝具
緩衝具50は各上端ロープ31および下端ロープ32に一定以上の張力が作用したときにロープの張力を減衰するための装置である。
各端ロープ31,32に対する緩衝具50の設置数は適宜選択が可能である。
【0023】
図5に例示した摩擦摺動式の緩衝具50について説明すると、緩衝具50は各上下端ロープ31,32を把持可能な半溝を有する一対の挟持板51,51と、一対の挟持板51,51を貫挿可能なU字形の締結ボルト52と、ナット53とを具備している。
一対の挟持板51の間に挟持した各端ロープ31,32の張力が把持力を超えると、各端ロープ31,32がスリップして運動エネルギーを減衰する。
【0024】
<4>間隔保持ロープ
図1に示すように、隣り合う支柱20の頭部間に間隔保持ロープ34を横架する。
間隔保持ロープ34は隣り合う支柱20のスパンを一定に保つ機能の他に、受撃時に複数の間隔保持ロープ34を通じて端末支柱20aへ荷重を伝達するために機能する。
【0025】
<5>支柱の控えロープ
支柱20(端末支柱20a、中間支柱20b)は、斜面谷側へ向けた傾倒を抑制するため、山側アンカー11と支柱20の頭部間に山側控えロープ61を掛け渡す。
山側控えロープ61の端部又は中間には緩衝具60を設置する。
【0026】
<5.1>中間支柱の控えロープ
中間支柱20bの頭部と山側アンカー11との間には、緩衝具60付きの山側控えロープ61と、山側位置決めロープ62を接続する(
図6A)。
【0027】
<5.2>端末支柱の控えロープ
端末支柱20aの頭部と山側アンカー11との間にも、緩衝具60付きの山側控えロープ61と、山側位置決めロープ62を接続する(
図7A)。
端末支柱20aは山側控えロープ61の他に、側方控ロープ63と、側方位置決めロープ64を接続する(
図2)。
側方控ロープ63は端末支柱20aの頭部と側方アンカー13との間を連結し、側方位置決めロープ64は端末支柱20aの下部と側方アンカー13との間を連結する。
側方控ロープ63の端部又は中間にも緩衝具60を設置する。
【0028】
<5.3>控えロープ用の緩衝具
緩衝具60は、控えロープ61,63を把持可能な半溝を有する一対の挟持板と、一対の挟持板を締結可能な複数の締結ボルトとナットとを具備した摩擦摺動式の緩衝具であり、山側控えロープ61または側方控えロープ63に一定以上の張力が作用したときに、摺動を許容して各控えロープ61,62の張力を減衰する。
摩擦摺動式の緩衝具60は、例えば特許第6925674号公報に記載の緩衝装置が使用可能である。
【0029】
<6>防護ネット
本例では、防護ネット40を、複数のリング単体41を連鎖的に連結して網状に形成した防護ネットで構成する形態について説明するが、防護ネット40は公知のロープ製ネットで構成してもよい。
【0030】
図1,2に示すように、防護ネット40は複数のリング単体41を有する。
リング単体41は鋼線またはワイヤー等の剛性線材を円形に形成したものである。
リング単体41の径は適宜選択か可能であるが、実用上は30~50cm程度の寸法に設定する。
【0031】
<6.1>防護ネットの全長
防護ネット40は柵の延長方向に向けて複数スパンに亘る全長を有する。
防護ネット40は搬入可能な長さで現場へ搬入し、シャックル等の連結具30を用いて繋ぎ合わせて防護ネット40の全長を調整する。
【0032】
<6.2>支柱に対する防護ネットの取付け位置
防護ネット40は支柱20に対して下流側(斜面谷側)に配設する。
【0033】
<6.3>防護ネットの取付け手段
防護ネット40はその上下辺を複数の支柱20の上下部にそれぞれ係留させて取り付ける。
すなわち、防護ネット40の上辺は、シャックル等の連結具30を介して各スパンに設けた上端ロープ31に係留すると共に、防護ネット40の下辺も連結具30を介して各スパンに設けた下端ロープ32に係留する。
防護ネット40と中間支柱20bとの間は、防護ネット40の上下辺が中間支柱20bの上下部に係留している。
【0034】
防護ネット40の左右の側辺は、シャックル等の連結具30を介して端末支柱20aに沿って設けた別途の縦ロープ33に係留する。
【0035】
<6.4>金網
図1に示すように、防護ネット40を小径の崩落物の透過を阻止するため、必要に応じて防護ネット40の片面に重合させて金網42を付設してもよい。金網42には例えば菱形金網が適用可能である。
金網42の網目寸法はリング単体41の径より小さい寸法関係にある。
金網42の周辺を上下端ロープ31,32および縦ロープ33に連結コイル等で連結して取り付ける。
【0036】
<7>端末支柱に追加する補助緩衝機構
既述したように、端末支柱20aの上部には、山側控えロープ61と側方控ロープ63が接続してある。
【0037】
図4B、
図7A,7Bを参照して説明する。
本発明では、衝撃吸収柵の衝撃吸収性能をさらに高めるために、補助緩衝機構を追加した。
補助緩衝機構は、端末支柱20aの長手方向に沿って配索した補助山側控えロープ66と、ベースプレート25に支軸から斜面山側に離隔して設けた係留軸28と、ベースプレート25に設けた単数または複数の補助緩衝具65とを具備する。
補助緩衝機構による緩衝性能は、補助緩衝具65の設置数に比例する。
【0038】
<7.1>補助山側控えロープ
補助山側控えロープ66はその一端を端末支柱20aの頭部に固定すると共に、補助山側控えロープ66を端末支柱20aに沿って配索し、補助山側控えロープ66の自由端側を端末支柱20aのベースプレート25に設けた補助緩衝具65に把持する。
補助山側控えロープ66には、補助緩衝具65の外方に余長部66aを形成する。
余長部66aが補助山側控えロープ66のスリップ(摺動)許容長となる。そのため、余長部66aの全長は適宜選択する。
【0039】
<7.2>補助緩衝具
ベースプレート25に立設した起立片27,27の山側側面には、補助緩衝具65を設ける。
補助緩衝具65は、ベースプレート25に反力を得て補助山側控えロープ66を把持する摩擦手動式の緩衝装置であり、補助山側控えロープ66に発生する張力が一定値(緩衝具65)を超えると、補助山側控えロープ66の摺動を許容する。
補助緩衝具65は、例えば一対の挟持板65aと、一対の挟持板65aを貫挿可能な通常の締結ボルト(六角ボルト)とナット65bとの組合せで構成する。
補助緩衝具65は既述した緩衝具50で代用することも可能である。
【0040】
本例では補助山側控えロープ66の自由端側を単数の補助緩衝具65で把持する形態について説明するが、補助山側控えロープ66の自由端側に複数の補助緩衝具65を直列に配置してもよい。
複数の補助緩衝具65を直列に配列した場合も、ベースプレート25から反力を得るものとする。
【0041】
<7.3>係留軸
ベースプレート25に立設した起立片27,27の山側端部に水平に向けて係留軸28を設ける。
係留軸28は支柱本体21の裾部で、補助山側控えロープ66の下部をほぼ直角に屈曲させて摺動させるためのガイド部材である。
起立片27,27には、斜面谷側から斜面山側へ向けて、支軸24、係留軸28、補助緩衝具65の順に位置する。
係留軸28は起立片27,27に開設した一方の開孔27を利用して設置できる。
【0042】
<7.4>補助緩衝具の支持部材
起立片27,27の山側側面に補助緩衝具65を配設して、補助緩衝具65をベースプレート25の起立片27,27に支持させる。
補助緩衝具65を起立片27,27に配設したのは、補助山側控えロープ66の支持力をベースプレート25から得るためである。
【0043】
<7.5>補助山側控えロープの反力をベースプレートに求めた理由
補助山側控えロープ66の支持力を山側アンカー11に求めることも可能である。
補助山側控えロープ66の自由端を山側アンカー11に係留して補助山側控えロープ66の反力を山側アンカー11に求めると、山側アンカー11の追加設置にコストと労力を要する。
また補助山側控えロープ66の支持力を山側控えロープ66と共通の山側アンカー11に求めた場合には、山側アンカー11を大型に構築しなければならず、コスト面や施工面での負担が大きくなる。
【0044】
本発明ではこのような問題を回避するために、補助山側控えロープ66の自由端を、係留軸と補助緩衝具65を介してベースプレート25で支持するようにした。
このように構成することで、補助山側控えロープ66の反力を山側アンカー11に求めずに、補助緩衝具65による緩衝作用を発揮することができる。
【0045】
<7.6>支柱の傾倒中心と補助山側控えロープの傾倒中心の位置関係について
図8を参照して説明する。支柱20(端末支柱20a)は支軸24を中心とした半径R
1で以て斜面谷側へ向けて傾倒(旋回)する。
支柱20(端末支柱20a)の頭部に連結した補助山側控えロープ66は、支柱20の傾倒に追従して、係留軸28を中心とした半径R
2で以て斜面谷側へ向けて傾倒(旋回)する。
支柱20の半径R
1は支柱20の傾倒角度の影響を受けずに不変であるが、補助山側控えロープ66の半径R
2は支柱20の傾倒角度に応じて長くなる。
【0046】
支柱20の傾倒中心と補助山側控えロープ66の傾倒中心の位置関係については、補助山側控えロープ66の傾倒中心(係留軸28)は、支柱本体21の傾倒中心(支軸24)に対して斜面山側に向けて離隔した位置に位置する。
端末支柱20aの傾倒時に補助緩衝具65が緩衝作用を発揮させるためである。
【0047】
補助山側控えロープ66の傾倒中心が端末支柱20aの傾倒中心から離れて偏心していることで、支柱本体21の傾倒に応じて補助山側控えロープ66の張力が漸増する。
換言すると、端末支柱20aが倒れるほど、支軸24を中心とした端末支柱20aの半径R1と、係留軸28を中心とした補助山側控えロープ66の半径R2でとの間の径差Gが増大して、補助山側控えロープ66に作用する張力が漸増する。
支柱20の傾倒時における径差G、すなわち補助山側控えロープ66のスリップ量は、両傾倒中心の離間した距離(偏心距離)に比例する。
【0048】
要は、支柱本体21が支軸24を中心に傾倒したときに、補助山側控えロープ66の張力が増大するように、ベースプレート25に対して係留軸28が配設してあればよい。
【0049】
<7.7>補助緩衝具の設置位置について
補助山側控えロープ66の配索構造に関し、補助山側控えロープ66の先端をベースプレート25側に固定し、支柱本体21の頭部側に補助緩衝具65を設ける形態も考えられる。
支柱本体21の頭部側に補助緩衝具65を設けると、高所への重たい補助緩衝具65を取り付ける作業が危険で困難な作業を伴うだけでなく、支柱本体21の頭部側に補助山側控えロープ66の余長部66aが垂れ下がるために景観を損ねる。
補助緩衝具65を低所のベースプレート25側に設ければ、このような弊害を回避して補助緩衝具65を安全な作業環境下で簡単に設置できる。
【0050】
[衝撃吸収柵の減衰作用]
衝撃吸収柵に落石等の崩落物が衝撃した場合の減衰作用について説明する。
【0051】
<1>防護ネットによる捕捉作用
図1に示した衝撃吸収柵の防護ネット40の上下辺が中間支柱20bに係留されていると共に、防護ネット40の左右の側辺が端末支柱20aに連結されている。
防護ネット40の受撃面の一部に崩落物が衝突すると、防護ネット40が斜面下流側に向けて撓み変形をする。防護ネット40が撓み変形をする際に、崩落物の運動エネルギーの一部を減衰する。
【0052】
<2>上下端ロープと緩衝具による減衰作用
防護ネット40の変形に伴い、受撃スパンに横架した上端ロープ31および下端ロープ32が下流側へ引き寄せられることで上下端ロープ31,32の張力が増していく。
上下端ロープ31,32の張力がスリップ張力(緩衝具50によるロープの把持力)を超えると、各上下端ロープ31,32と緩衝具50との間でスリップが生じ、ロープ31,32に生じた張力の一部を減衰する。
【0053】
<3>山側控えロープと緩衝具による減衰作用
防護ネット40の変形に伴い、中間支柱20bが斜面谷側へ傾倒するだけでなく、中間支柱20bが互いに接近方向に向けて傾倒する。
中間支柱20bが斜面谷側へ傾倒することで、山側控えロープ61の張力が増し、この張力は山側アンカー11で支持される。
山側控えロープ61の張力がスリップ張力(緩衝具60によるロープの把持力)を超えると、山側控えロープ61と緩衝具60との間でスリップが生じ、山側控えロープ61に生じた張力の一部を減衰する。
【0054】
<4>衝撃荷重の伝達
防護ネット40の受撃面の一部に作用した崩落物の衝撃荷重は、防護ネット40を通じての端末支柱20aへ伝達される。
さらに、防護ネット40の受撃面の一部に作用した崩落物の衝撃荷重は複数の間隔保持ロープ34を通じて端末支柱20aへ伝達される。
【0055】
<5>側方控えロープと緩衝具による減衰作用
衝撃吸収柵の両端部に位置する端末支柱20aへ衝撃荷重が伝達されると、側方控えロープ63の張力が増し、側方控えロープ63の張力がスリップ張力(緩衝具60によるロープの把持力)を超えると、側方控えロープ63と緩衝具60との間でスリップが生じて、側方控えロープ63に生じた張力の一部を減衰する。
【0056】
<6>補助緩衝機構による減衰作用
端末支柱20aが斜面谷側や支柱の接近方向に向けて傾倒すると、端末支柱20aに設けた補助緩衝機構が以下のように機能する。
端末支柱20aの傾倒に伴い補助山側控えロープ66の張力が増し、補助山側控えロープ66の張力は、端末支柱20aの傾倒角度に比例して大きくなる。
補助山側控えロープ66の張力は、ベースプレート25を通じてアンカーボルト12が支持する。
【0057】
補助山側控えロープ66の張力がスリップ張力(補助緩衝具65によるロープの把持力)を超えると、補助山側控えロープ66と補助緩衝具65との間でスリップが生じて、補助山側控えロープ66に生じた張力の一部を減衰する。
【0058】
本発明は端末支柱20aの傾倒角度の影響を受けずに、補助山側控えロープ66と補助緩衝具65との間で均等にスリップを生じるものではない。
【0059】
本発明では、
図8に示すように、端末支柱20aの傾倒角度が大きくなるほど、補助山側控えロープ66の半径R
2が長くなるので、補助山側控えロープ66と補助緩衝具65との間におけるスリップ量(張力減衰量)が増える。
【0060】
すなわち、端末支柱20aの傾倒角度の影響を受けて、端末支柱20aが傾倒するにしたがって、端末支柱20aの傾倒角度当たりの補助山側控えロープ66と補助緩衝具65との間におけるスリップ量が増える。
そのため、端末支柱20aが倒れるほど、補助緩衝機構による傾倒抵抗が大きくなって端末支柱20aが倒れ難くなる。
緩衝具60による上記した緩衝作用は、端末支柱20aの傾倒初期だけでなく、その後も継続するので、端末支柱20aに設けた補助緩衝機構は長時間に亘って緩衝機能を発揮し続ける。
【0061】
本発明では端末支柱20aに簡易な構成の補助緩衝機構を配備し、端末支柱20aが傾倒する際に山側アンカーに依存せずに補助緩衝機構が緩衝機能を発揮するようにした。
すなわち、端末支柱20aが傾倒する際に、2本の緩衝具60付きの控えロープ(山側控えロープ61、側方控えロープ63)が緩衝作用を発揮するだけでなく、補助緩衝具65付きの補助山側控えロープ66でも緩衝作用を発揮する。
そのため、衝撃吸収柵全体としてのエネルギーの吸収性能が格段に向上する。
実験では、衝撃吸収柵のエネルギーの吸収性能を500~1000Kjまで高めることが実現できた。
特に、補助山側控えロープ66の支持反力をベースプレート24に求めるので、山側アンカー11に連結する必要がない。
そのため、山側アンカー11を新規に追加設置したり、山側控えロープを接続した既存の山側アンカーを増強したりする必要がない。
このように本発明では、端末支柱20aに簡易な補助緩衝機構を設けるだけで、衝撃吸収柵の製作コストの増加を抑制しつつ、衝撃吸収柵の緩衝性能を大幅に向上させることが可能となる。
【0062】
[他の実施例]
以上は端末支柱20aに補助緩衝機構(補助山側控えロープ66と係留軸28と補助緩衝具65の組合せ)を追加した形態について説明したが、補助緩衝機構は中間支柱20bに追加してもよい。
補助緩衝機構の作用効果は既述したとおりであるので、詳しい説明を省略する。
【符号の説明】
【0063】
10・・・・斜面
11・・・・山側アンカー
12・・・・アンカーボルト
13・・・・側方アンカー
20・・・・支柱
20a・・・端末支柱
20b・・・中間支柱
21・・・・支柱本体
21a・・・貫通孔
22・・・・連結素子
23・・・・連結片
24・・・・支軸
25・・・・ベースプレート
26・・・・着床板
27・・・・起立片
28・・・・係留軸
30・・・・連結具
31・・・・上端ロープ
31a・・・上端ロープの余長部
32・・・・下端ロープ
32a・・・下端ロープの余長部
33・・・・縦ロープ
34・・・・隔保持ロープ
40・・・・防護ネット
41・・・・リング単体
42・・・・金網
50・・・・緩衝具
51・・・・挟持板
52・・・・締結ボルト
53・・・・ナット
60・・・・緩衝具
61・・・・山側控ロープ
62・・・・山側位置決めロープ
63・・・・側方控ロープ
64・・・・側方置決めロープ
65・・・・補助緩衝具
66・・・・補助山側控えロープ
【要約】
【課題】コストの大幅な増加を回避しつつ、高性能の衝撃吸収柵を提供すること。
【解決手段】地盤10に固定したベースプレート25に支柱20が支軸24を介して傾倒可能に立設してあり、複数の支柱20の頭部と山側アンカーとの間を緩衝具付きの山側控えロープで接続した衝撃吸収柵であって、支柱20は補助緩衝機構を具備し、補助緩衝機構は支柱20の長手方向に沿って配索した補助山側控えロープ66と、ベースプレート25に支軸24から斜面山側に離隔して設け、補助山側控えロープの自由端側を係留する係留軸28と、ベースプレート25に係留軸28から斜面山側に離隔して設け補助緩衝具65とを具備し、支柱20が支軸24を中心に傾倒したときに補助山側控えロープ66の張力が増大し、補助山側控えロープ66の張力をベースプレート25で支持するように構成した。
【選択図】
図7A