(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】タオル生地用パイル糸とその製造方法及びタオル生地とその製造方法
(51)【国際特許分類】
D02G 3/36 20060101AFI20240820BHJP
A47K 10/02 20060101ALI20240820BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20240820BHJP
D03D 27/00 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
D02G3/36
A47K10/02 C
D02G3/04
D03D27/00 A
(21)【出願番号】P 2024089513
(22)【出願日】2024-05-31
【審査請求日】2024-06-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】722004388
【氏名又は名称】伊澤タオル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】伊澤 正司
(72)【発明者】
【氏名】関谷 彩佳
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特許第4393357(JP,B2)
【文献】国際公開第2019/130579(WO,A1)
【文献】特開昭57-193538(JP,A)
【文献】国際公開第2023/074347(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00-3/48
D03D 27/00
A47K 10/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイル糸と経地糸及び緯地糸で構成されるタオル生地に使用するためのパイル糸であって、
前記パイル糸は芯繊維が一方向に撚られ、鞘繊維が糸軸と平行状に配置された芯鞘状紡績糸であり、
前記芯鞘状紡績糸は水溶性繊維糸と合撚されており、前記水溶性繊維糸の巻き付け方向は前記芯繊維の撚り方向と逆であることを特徴とするタオル生地用パイル糸。
【請求項2】
前記パイル糸は、空気精紡糸である請求項1に記載のタオル生地用パイル糸。
【請求項3】
前記芯繊維と鞘繊維は、マイグレーションによって入れ替わっている請求項1に記載のタオル生地用パイル糸。
【請求項4】
前記水溶性繊維糸は、水溶性ビニロン糸又はポリ乳酸糸である請求項1に記載のタオル生地用パイル糸。
【請求項5】
前記芯鞘状紡績糸と水溶性繊維糸との撚り係数Kは0を超え4.0以下である請求項1に記載のタオル生地用パイル糸。
但し、撚り係数(K)は下記式(数1)で算出する。
【数1】
但し、t:撚回数(回/25.4mm)、S:精紡糸と水溶性繊維糸の合計番手(英式綿番手)
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のタオル生地用パイル糸の製造方法であって、
前記パイル糸は空気精紡機により、芯繊維が糸軸と平行状であり、鞘繊維が一方向に撚られた空気精紡糸とし、
前記空気精紡糸の表面に、前記芯繊維の撚り方向と逆方向に水溶性繊維糸を合撚することにより、芯繊維が一方向に撚られ、鞘繊維が糸軸と平行状になるように解撚することを特徴とするタオル生地用パイル糸の製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載のタオル生地用パイル糸を使用したタオル生地であって、
前記タオル生地はパイル織物であり、
前記パイル糸は芯鞘状紡績糸であり、芯繊維が一方向に撚られ、鞘繊維が糸軸と平行状に配置されていることを特徴とするタオル生地。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載のタオル生地用パイル糸を使用したタオル生地の製造方法であって、
パイル織物に製織した後、前記パイル糸の表面の水溶性繊維糸を溶解することを特徴とするタオル生地の製造方法。
【請求項9】
前記水溶性繊維糸の溶解は、パイル織物の精練、漂白及び/又は染色時に行う請求項8に記載のタオル生地の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気精紡糸を使用したタオル生地用パイル糸とその製造方法及びタオル生地とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、タオル生地は、パイル糸と経地糸、及び緯地糸を使用し、パイル織物とするのが基本である。また、タオル生地は吸水性を良好にするため、比較的目付(単位面積当たりの質量)が高く、構成糸も太く繊度の高い糸が使用されている。
特許文献1~2には、パイル糸と経地糸に糊付けすることが提案されている。本発明者は特許文献3~4において、結束紡績糸(空気精紡糸)を使用したタオル生地用パイル糸を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-188783号公報
【文献】特開2018-057499号公報
【文献】特許第6968464号公報
【文献】特許第7141770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来技術はリング紡績糸の場合は、内側繊維も外側繊維も一様に撚られており、それを解撚して無撚糸にしても、内側繊維も外側繊維も一様にゆるい状態になり、強度が弱く、毛羽の発生も多くなるという問題があった。また結束紡績糸(空気精紡糸)の場合は、通常内側繊維はゆるく、外側繊維が硬く巻き付いているので、風合いは硬いという問題があった。
【0005】
本発明はタオル地に特徴を最大限に活かすべく鋭意検討した結果、毛羽落ちが少なく、かさ高く、洗濯後に膨らみが損なわれにくく、濡れ戻りが少なく、快適な拭き心地を有するタオル生地用パイル糸、その製造方法及びこれを用いたタオル生地の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、パイル糸と経地糸及び緯地糸で構成されるタオル生地に使用するためのパイル糸であって、前記パイル糸は芯繊維が一方向に撚られ、鞘繊維が糸軸と平行状に配置された芯鞘状紡績糸であり、前記芯鞘状紡績糸は水溶性繊維糸と合撚されており、前記水溶性繊維糸の巻き付け方向は前記芯繊維の撚り方向と逆であるタオル生地用パイル糸に関する。
【0007】
本発明の別の実施形態は、前記のタオル生地用パイル糸の製造方法であって、前記パイル糸は空気精紡機により、芯繊維が糸軸と平行状であり、鞘繊維が一方向に撚られた空気精紡糸とし、前記空気精紡糸の表面に、前記芯繊維の撚り方向と逆方向に水溶性繊維糸を巻き付けることにより、芯繊維が一方向に撚られ、鞘繊維が糸軸と平行状になるように解撚するタオル生地用パイル糸の製造方法に関する。
【0008】
本発明のさらに別の実施形態は、前記のタオル生地用パイル糸を使用したタオル生地であって、前記タオル生地は、パイル織物であり、前記パイル糸は芯鞘状紡績糸であり、芯繊維が一方向に撚られ、鞘繊維が糸軸と平行状に配置されているタオル生地に関する。
【0009】
本発明のさらに別の実施形態は、前記のタオル生地用パイル糸を使用したタオル生地の製造方法であって、パイル織物に製織した後、前記パイル糸の表面の水溶性繊維糸を溶解するタオル生地の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のタオル生地用パイル糸は、芯繊維が一方向に撚られ、鞘繊維が糸軸と平行状に配置された芯鞘状紡績糸であり、芯鞘状紡績糸は水溶性繊維糸と合撚されており、水溶性繊維糸の巻き付け方向は芯繊維の撚り方向と逆であることにより、芯繊維がしまり、鞘繊維がゆるくソフトで膨らみのある風合いがあり、毛羽落ちが少なく、かさ高く、洗濯後に膨らみが損なわれにくく、濡れ戻りが少なく、快適な拭き心地を有するタオル生地及びその製造方法を提供できる。
また、本発明のタオル生地はパイル織物であり、前記パイル糸は芯鞘状紡績糸であり、芯繊維が一方向に撚られ、鞘繊維が糸軸と平行状に配置されていることにより、芯繊維がしまり、鞘繊維がゆるくソフトで膨らみのある風合いがあり、毛羽落ちが少なく、かさ高く、洗濯後に膨らみが損なわれにくく、濡れ戻りが少なく、快適な拭き心地を有するタオル生地及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態で使用する空気精紡糸の模式的側面図である。
【
図2】
図2は本発明の一実施形態におけるパイル糸の模式的側面図である。
【
図3】
図3は本発明の一実施形態におけるタオル生地の模式的説明図である。
【
図5】
図5は本発明の実施例1の洗濯前のタオル生地のパイル部分の側面写真(倍率30倍)である。
【
図6】
図6は比較例1の洗濯前のタオル生地のパイル部分の側面写真(倍率30倍)である。
【
図7】
図7は本発明の実施例1の洗濯20回後のタオル生地のパイル部分の側面写真(倍率30倍)である。
【
図8】
図8は比較例1の洗濯20回後のタオル生地のパイル部分の側面写真(倍率30倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、タオル生地の構成糸の約7割占めるパイル糸が、パイルの立毛性、タオル生地の風合いおよび毛羽落ち等の機能性を左右する重要な糸であることに着目し、検討を進め次の知見を得た。すなわち、本発明のタオル生地は、経地糸と緯地糸とパイル糸を含み、前記経地糸と緯地糸にパイル糸が係止されたタオル生地であり、前記パイル糸は芯鞘状紡績糸であり、芯繊維が一方向に撚られ、鞘繊維が糸軸と平行状に配置されており、前記芯鞘状紡績糸の表面には水溶性繊維糸が巻き付けられており、前記水溶性繊維糸の巻き付け方向は前記芯繊維の撚り方向と逆である。これにより、下記の利点があることを見出した。
(1)後の工程で水溶性繊維糸を溶解除去したとき、内側の芯繊維がしまって外側の鞘繊維がゆるくなる。内側がしまっているので無撚糸でありながら強度は低下しない。これにより耐久性の高いタオルとなる。
(2)パイル糸は芯鞘状紡績糸であり、芯繊維が一方向に撚られ、鞘繊維が糸軸と平行状に配置されているが、芯繊維と鞘繊維はマイグレーション(単繊維が内部に入りこんだり外側に出て撚られている現象)している繊維もあり、芯繊維と鞘繊維の一体性は良い。これにより強度も高く、耐久性も高い。また、全体として無撚り糸か又は甘撚り糸であるため、各構成繊維はフリー状態で存在し、立毛性は良好であり、ソフトで膨らみのある風合いのパイル糸となる。ソフトで膨らみのある風合いなので、肌に柔らかく接触でき、汗や水分を効率よくふき取ることができる(風合い効果、ふき取り効果)。
(3)パイル糸は無撚り糸か又は甘撚り糸であるため、構成繊維は水分の吸収がしやすくなり、同時にこの膨らみで空気の移動が活発になって通気性が高くなる(吸水性効果、通気効果)。
(4)構成繊維の絡み合いにより、毛羽落ちが改善でき(毛羽落ち改善効果)、洗濯による風合いの変化が少なく、当初のソフトで膨らみのある風合いが維持される(洗濯の風合い耐久性効果)。
【0013】
パイル糸は、空気精紡糸(結束紡績糸ともいう。)が好ましい。空気精紡糸は毛羽数が少なく均整な糸であり、糸構造が強固であり、しごきに強く、無糊でタオル生地とすることができる。また、糸速度(巻き取り速度)が300~500m/分であり、リング紡績機の約10~30倍生産性が高い。
【0014】
パイル糸の繊度は、綿番手(S,単糸)で、10~50S(118~591decitex)の範囲が好ましい。この範囲であれば、タオル生地として風合いがよいものとなる。パイル糸の好ましいコットンは一例として下記表1に示す超長繊維綿や長繊維綿である。
【0015】
【0016】
水溶性繊維糸は水溶性ビニロン糸又はポリ乳酸糸が好ましい。好ましい繊度は英式綿番手で50~200番である。また、好ましい撚り係数Kは0を超え4.0以下であり、より好ましくは0.5~3.8、さらに好ましくは1.0~3.5である。
但し、撚り係数(K)は下記式(数1)で算出する。
【数1】
但し、t:撚回数(回/25.4mm)、S:精紡糸と水溶性繊維糸の合計番手(英式綿番手)
【0017】
タオル生地の経地糸と緯地糸は、オープンエンド紡績糸、空気精紡糸、リング紡績糸、長繊維複合紡績糸又は結束紡績糸などどのような糸であってもよい。好ましい繊度は、綿番手(S,単糸)で10~50S(118~591decitex)、撚り係数Kは3.5~4.5である。
但し、撚り係数(K)は前記式(数1)で算出する。経地糸と緯地糸の好ましいコットンは一例として前記表1に示す長繊維綿である。
【0018】
本発明のタオル生地用パイル糸の製造方法は下記の工程を含む。
(1)精紡工程
空気精紡機により、芯繊維が糸軸と平行状であり、鞘繊維が一方向に撚られた空気精紡糸を製造する。
(2)水溶性繊維糸の巻き付け工程
前記空気精紡糸の表面に、前記芯繊維の撚り方向と逆方向に水溶性繊維糸を合撚する。合撚時の係数Kは0を超え4.0以下が好ましい。合撚はリング撚糸機など通常使用されている撚糸機を使用する。これにより、芯繊維が一方向に撚られ、鞘繊維が糸軸と平行状のパイル糸とする。
【0019】
本発明の前記パイル糸を使用したタオル生地は、パイル織物であり、前記パイル糸は芯鞘状紡績糸であり、芯繊維が一方向に撚られ、鞘繊維が糸軸と平行状に配置されている。パイル織物としては、限定されないが、一例として3本よこタオル組織(3ピック・テリー・モーション組織)がある。
【0020】
本発明のタオル生地用パイル糸を使用したタオル生地の製造方法は、パイル織物に製織した後、前記パイル糸の表面の水溶性繊維糸を溶解する。水溶性繊維糸の溶解は、パイル織物の精練、漂白及び/又は染色時に行うのが好ましい。
【0021】
パイル糸はコットン100質量%が好ましい。これにより、コットン繊維の吸水性、吸湿性、風合いの良さを出すことができる。パイル糸は単糸又は双糸が好ましい。経地糸は、コットン繊維100質量%の双糸が好ましい。双糸であると毛羽立ちが抑えられ、無糊でループパイルタオル生地が製織できる。この経地糸は、リング紡績糸又は結束紡績糸の単糸を2本より合わせて双糸とするのが好ましい。緯地糸は、コットン繊維100質量%の単糸であるのが好ましい。この緯地糸は、リング紡績糸又は結束紡績糸の単糸を使用するのが好ましい。また、本発明のパイル糸は経パイル糸と緯パイル糸があり、どちらにも使えるが、どちらかというと経パイル糸に使用するのが好ましい。
【0022】
本発明のタオル生地の単位面積あたりの質量(目付)は100~1000g/m2の範囲が好ましい。前記範囲であれば、タオル生地として使用しやすい。薄地は目付が100~250g/m2、中厚地は目付が250~500g/m2、厚地は500~1000g/m2が好適である。なお、100g/m2に満たないものは薄くカサがなく、また、1000g/m2を超えるものは厚すぎて重く、いずれも好ましくない。
【0023】
本発明のタオル生地の製造方法は、パイル糸と経地糸及び緯地糸はいずれも無糊とし、織機を使用してタオル生地を製織するのが好ましい。織機はエアージェット織機、ウォータージェット織機、シャトル織機、レピア織機などがあるが、最も効率の高いエアージェット織機が好ましい。エアー織機は織機回転数300~500r.p.m.で織ることができる。
【0024】
また、本発明ではタオルとしての風合い、吸水性、吸湿性、取り扱い性の点から綿が最も優れるが、綿に麻、シルク、レーヨン、ポリエステル、ナイロン、キュプラ、アセテート、ウールの素材を少量混紡しても構わない。レーヨン、キュプラ、アセテートを混紡したものは吸湿性が、ウールは保温性が得られる。ポリエステル、ナイロンを混紡したものは速乾性が得られる。
織り上がった生機は綿の加工工程に準じて、液流式染色機で糊抜きし、次いで常法の綿の精練条件(95~98℃の一定温度で、キープ時間50分、希苛性ソーダ溶液、アルコールエトキシレート添加浴)で精練する。次いで、精練に続いて常法の条件で漂白加工する(98℃、50分、過酸化水素溶液)。精練と漂白を晒ともいう。次いで脱水して、テンターでセットして仕上げる(オフホワイト仕上げ)。この漂白工程でも熱水処理を受ける。熱水処理により水溶性繊維糸は溶解除去される。
【0025】
精練、漂白に続いて染色する場合は、綿については反応染料で染色する(60~80℃、40分)。また、ポリエステル繊維が混紡されている場合は、分散染料で染色(130℃、40分)する。綿とポリエステルを含む生地を染色する場合は、この二浴で無地染めすることの他に、分散染料と反応染料の染料を使い分けて異色やシャンブレー(濃淡)にも染色することができる。また、精練、漂白したオフホワイト生地にプリント加工も可能である。なお、先染めのポリエステル糸の場合は糸で精練と同時に捲縮発現させることもでき、漂白、染色し、これを製織して先染めタオル生地を得ることができる。先染めの綿糸の場合は、精錬、漂白、染色し、これを製織して先染めタオル生地を得ることができる。このように、いずれも本発明は多様な染色での色彩性、デザイン性に優れた商品化が図れる。
【0026】
本発明のタオル生地は、バスタオル(湯上りタオル)、浴用タオル、寝具用肌掛けタオル、フェイスタオル、タオルハンカチ、スポーツタオル、バスローブ、タオルケットなどの生地、衣類、靴下、敷物、寝具類などにも好適である。
【0027】
以下図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。
図1は本発明の一実施形態で使用する空気精紡糸(結束紡績糸)10の模式的側面図である。この空気精紡糸10は、芯繊維11が糸軸と平行状であり、鞘繊維12が一方向に撚られている。
図2は本発明の一実施形態におけるパイル糸14の模式的側面図である。このパイル糸14は、空気精紡糸10と水溶性繊維糸13が前記鞘繊維12の解撚方向に合撚されており、前記芯繊維11は水溶性繊維糸13の撚り数だけ逆方向に撚られ、前記鞘繊維12は水溶性繊維糸13の撚り数だけ解撚されている。すなわち、前記芯繊維11が一方向に撚られ、前記鞘繊維12が糸軸と平行状に配置されており、水溶性繊維糸13が巻き付けられており、水溶性繊維糸13の巻き付け方向は芯繊維11の撚り方向と逆である。その結果、前記鞘繊維12は無撚り又は甘撚り状態となっている。
【0028】
図3は本発明の一実施形態のタオル生地1の模式的説明図である。このタオル生地1は、経パイル糸2a,2bと、緯地糸3と、経地糸4a,4bで構成され、経パイル糸2a,2bは、緯地糸3と経地糸4a,4bで構成される地組織に係止されながらループパイルを形成する。得られたタオル生地1は、所定の大きさに切断され、端部処理されてタオルとなる。
【0029】
図4は本発明の一実施形態のタオル生地の織物組織図である。この織物組織は、3本よこタオル組織(3ピック・テリー・モーション組織)である。経パイル糸はヨコ地糸を3本打ち込むごとに1回交差させる。経地糸Gと経パイル糸Pは交互に配置する。緯糸の1~3は順番を示す。
図4において、経糸から見て、黒と×は浮き糸を示し、白は沈み糸を示す。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を用いてさらに具体的に説明する。本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
<仕上げタオル生地の風合いの評価>
(1)ソフトな風合いの評価
風合いのソフトさをタオル生地1g当たりの体積で表す、次式のカサ高度で求める。
値が高いほどソフトな風合いであり、良好である。なお、厚みはJIS L-1096(2010)8.5 かさ高性試験に従って測定し、目付は1m角の重さを精秤した。測定個所は5ヶ所でその平均値で表した。
カサ高度(cm3/g)=厚み(mm)/目付(g/m2)×1000
(2)膨らみのある風合いの評価
タオル生地を圧縮測定器:KES-G5(カトーテック社製)を用い、一定の速度で圧縮させてその圧縮仕事量:WC=(gf.cm2)を求めた。測定個所は5ヶ所でその平均値で表した。
WC値は生地に圧縮させた時の(エネルギー)で、値が大きいほどタオルがよく圧縮され、大きな膨らみ、ふんわり感が高いことを示し、良好である。
(3)風合いの洗濯耐久性評価
タオル生地を洗濯機でJIS L-0217(1995)、103法に従って20回洗濯した。乾燥後、前記圧縮仕事量:WC=(gf.cm2)を測定、測定個所は5ヶ所でその平均値で表した。洗濯前後のWC値の差が小さいほど、洗濯による膨らみのある風合いの低下が少なく、耐久性があり、良好である。
(4)洗濯での水切り性の評価
幅35cmのタオル生地を80gになるように長さをカットし、それを小数点1桁までの重さを精秤し、これを水に20分浸漬した。その後濡れたタオル生地を取り上げて、洗濯機の脱水槽で4分間、遠心脱水し、重さを精秤、次式でタオル生地の残留水分率(%)を求めた。値が小さいほど水切り性が良好である。水切り性が良いほどその後の乾燥速度が速くなる傾向を示す。測定数は3点でその平均値で表した。
生地の残留水分率(%)=(水に浸漬し、脱水した後の生地の重さ(W1))-(水に浸漬する前の生地の重さ(W0))/(水に浸漬する前の生地の重さ(W0))×100
(5)タオル地の洗濯による毛羽落ち性評価
洗濯による毛羽落ちはJIS L0217(1995)、103法に従って測定した。毛羽落ち率(%)は次式で求め、値が小さいほど毛羽落ちが少なく、良好である。測定数は5点でその平均値で表した。
毛羽落ち率(%)=(洗濯後に脱落した毛羽の重さ(g1))/(洗濯前のタオルの重さ(g0))×100
(6)吸水性評価(改良ラローズ法)
JIS L 1907(2010)の改良ラローズ法に従って5回測定し、その平均値を求めた。ラローズ指数(吸水指数)は下記式に従って算出した。
ラローズ指数(吸水指数)=2545V×1411W+79
V:最大吸水速度(ml/s)、W:最大吸水速度時点の吸水量(ml)
値が高いほど皮膚に付いている水分を素早く、且つ沢山の水分量を吸収するので、好ましい。
(7)吸水速度(滴下法)
タオル地の吸水速度の測定はJIS L 1907(2010)の滴下法;ヴューレット法に基づいて評価した。試験の概要は水滴1滴を10cmの高さからタオル地に滴下し、水滴の鏡面が消失する吸水時間(秒)を3回測定し、その平均値を求めた。時間が短いほど吸水が速く、良好である。
<濡れ戻り率試験方法>
水の濡れ戻り率とは、本出願人が提案した特許第6991633号公報に記載されており、生地の試験検体に水滴を落とし吸収させ、濾紙で水分を吸い取り、生地が水分を離さない特性、すなわち水の濡れ戻り率として評価することにより、タオルなどの繊維製生地の使用時に人が感じる吸水性の良し悪しの評価と合致する試験方法である。水の濡れ戻り率は低いほど、生地の吸水性は大きく、優れていると評価できる。
(1)試験環境、その他の条件
・試験環境は標準状態環境下、温度20±4℃、相対湿度65±4%RHとした。
・濾紙は標準状態環境下、温度20±4℃、相対湿度65±4%RHで24時間以上保管したものを使用した。
・試験検体は標準状態環境下、温度20±4℃、相対湿度65±4%RHで24時間以上保管したものを使用した。
・滴下する水は温度20±15℃、(5~35℃)を使用した。
(2)操作手順
・繊維製タオル生地の試験検体の大きさは縦10cm、横10cmとした。試験検体は試料台に置いた。
・濾紙はJIS P 3801 1種規格のαセルロースを原料とする直径110mm、厚さ0.22mmを使用し、濾紙の重量を計った。濾紙はアドバンテック社製、商品名"円形定性濾紙No.1"を使用した。
・ピペットに水量0.8mlを計り、試験検体に落とし、5秒待機して試験検体に吸水させた。
・濾紙を置いて、その上から1.3kg(1274Pa)の荷重を載せた。
・5秒待機して荷重を外した。
・吸水後の濾紙の重量を計った。
(3)水の濡れ戻り率の算出
下記の式により算出した。
W=[(B-A)/A]×100
但し、W:水の濡れ戻り率(%)
A:測定する前の濾紙の重量(g)
B:吸水後の濾紙の重量(g)
水の濡れ戻り率は数値が低いほど優れている。
<パイルの立毛性>
光学顕微鏡でタオル生地のパイル部分の側面写真(倍率30倍)により観察した。
【0031】
(実施例1)
1.使用繊維
(1)経パイル糸
経パイル用繊維として、繊維長31.3mm、マイクロネア4.4μg/inchの綿を使用し、コーマ綿100%、スライバー太さ320Gr/6ydとし、紡績糸の中心部(芯)が平行繊維部20~30%で、外層部(鞘)が80~70%を持つ綿番手40Sの芯鞘型の旋回空気紡績糸を得た(
図1)。次に、前記旋回空気精紡糸と、80番単糸、繊維長38mm水溶性ビニロンの紡績糸とをリング撚糸機を用いて合撚した。合撚時の係数Kは2.7とし、合撚方向は前記旋回空気精紡糸の鞘繊維(巻き付き繊維)の解撚方向とし、鞘繊維はほぼ無撚り状態とした(
図2)。
(2)経地糸
繊維長31.3mm、マイクロネア4.4μg/inchの綿を使用し、コットン繊維100質量%のリング紡績糸、綿番手30S双糸(394decitex)を使用した(30S/2)。
(3)緯地糸
繊維長31.3mm、マイクロネア4.4μg/inchの綿を使用し、コットン繊維100質量%のリング紡績糸、綿番手20S単糸(295decitex)を使用した(20S/1)。
2.タオル生地の製織
経パイル糸、経地糸及び緯地糸は無糊(ノーサイジング)とし、エアー織機に掛け、400r.p.m.で
図3及び
図4に示すループパイル生地織物を製造した。経パイル糸の供給倍率は経地糸の8.3倍とした。このようにして経糸密度60本/2インチ、緯糸密度54本/インチ、パイル長1.18cmの両面パイル生地を製造した。このパイル織物生地を精練漂白した後(糊抜きは不要)、テンターにかけて熱処理し、仕上げをした。この生地の単位面積当たりの質量(目付)は313g/m
2であった。
3.タオル生地の精練仕上げ加工
次いでこの生機を綿の加工に準じて、常法に従って、同機で98℃、キープ時間50分、希苛性ソーダ、アルコールエトキシレート添加浴で、精練した。
次いで常法で98℃、キープ50分の過酸化水素浴で漂白し、135℃で、テンターでセットし、仕上げた(オフホワイト仕上げ)。パイル長は1.18cmであった。
【0032】
(比較例1)
経パイル糸として、コットン100%使いのリング紡績糸、綿番手40Sの単糸を使用し、サイジングをした以外は実施例1と同様にタオルを製織し、糊抜きした。
以上の結果を表2に示す。
【0033】
【0034】
表2から明らかなとおり、実施例1のタオル生地は比較例1に比べて下記の利点があった。
(1)毛羽落ちが少ない。
(2)かさ高い。
(3)洗濯後に膨らみが損なわれにくい。すなわち、洗濯劣化が少ない。
(4)濡れ戻りが少なく、快適な拭き心地がある。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のタオル生地は、バスタオル(湯上りタオル)、浴用タオル、寝具用肌掛けタオル、フェイスタオル、タオルハンカチ、スポーツタオル、バスローブ、タオルケットなどの生地、衣類、靴下、敷物、寝具類などにも好適である。
【符号の説明】
【0036】
1 タオル生地
2a,2b,10,P 経パイル糸
3 緯地糸
4a,4b,G 経地糸
10 空気精紡糸(結束紡績糸)
11 芯繊維
12 鞘繊維
13 水溶性繊維糸
14 経パイル糸
【要約】
【課題】毛羽落ちが少なく、かさ高く、洗濯後に膨らみが損なわれにくく、濡れ戻りが少なく、快適な拭き心地があるタオル生地用パイル糸、その製造方法及びこれを用いたタオル生地の製造方法を提供する。
【解決手段】パイル糸と経地糸及び緯地糸で構成されるタオル生地に使用するための経イル糸14であり、パイル糸14は芯繊維が一方向に撚られ、鞘繊維が糸軸と平行状に配置された芯鞘状紡績糸10であり、芯鞘状紡績糸10は水溶性繊維糸13と合撚されており、水溶性繊維糸13の巻き付け方向は前記芯繊維の撚り方向と逆である。パイル糸14は一例として空気精紡糸である。
【選択図】
図2