(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】免疫グロブリン単一可変ドメインの生成方法
(51)【国際特許分類】
C12P 21/08 20060101AFI20240820BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240820BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20240820BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240820BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
C12P21/08 ZNA
A61K39/395 V
C07K16/00
C12N1/19
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2018542263
(86)(22)【出願日】2017-02-10
(86)【国際出願番号】 EP2017053034
(87)【国際公開番号】W WO2017137579
(87)【国際公開日】2017-08-17
【審査請求日】2020-02-03
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-15
(32)【優先日】2016-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505166225
【氏名又は名称】アブリンクス エン.ヴェー.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】スホット,ピーテル
(72)【発明者】
【氏名】デ・グルーフェ,マヌ
【合議体】
【審判長】加々美 一恵
【審判官】福井 悟
【審判官】北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/132949(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/161266(WO,A1)
【文献】Biotechnol Bioeng,2006 Mar 28,vol.94,no. 2,pp.353-361
【文献】Trends Biotechnol,2003 Nov,vol.21,no.11,pp.484-490
【文献】Microb Cell Fact,2010 Jun 30,vol.9,article no.49(pp.1-12)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P1/00-41/00
C12N1/00-7/08
C12N15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPLUS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノボディの生成方法であって、該方法は、ピキア宿主において該
ナノボディを発現させる工程、及び該ピキア宿主において補助タンパク質HAC1スプライシング型(配列番号14)の発現を同時に増強させる工程を含む、前記方法。
【請求項2】
ナノボディが、配列番号49、50、51、52、53、54又は55である、請求項1の方法。
【請求項3】
ナノボディを単離及び/又は精製する工程をさらに含む、請求項1又は2の方法。
【請求項4】
緩衝液中で
ナノボディを製剤化する工程をさらに含む、請求項1~3のいずれかの方法。
【請求項5】
ナノボディを医薬組成物として製剤化する工程をさらに含む、請求項1~4のいずれかの方法。
【請求項6】
ナノボディを発現するか又は適切な環境下で発現することのできるピキア宿主であって、ここでは補助タンパク質HAC1スプライシング型(配列番号14)の発現が増強されている、前記宿主。
【請求項7】
ナノボディが、配列番号49、50、51、52、53、54又は55である、請求項6に記載の宿主。
【請求項8】
HAC1スプライシング型タンパク質の発現が、ピキア宿主に、
-HAC1スプライシング型タンパク質をコードしている1つ以上の核酸(群);及び/又は
-HAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸の発現を制御している1つ以上の強力なプロモーター(群)
の導入によって増強される、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
HAC1スプライシング型タンパク質の発現が、ピキア宿主に、
-HAC1スプライシング型タンパク質をコードしている1つ以上の核酸(群);及び/又は
-HAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸の発現を制御している1つ以上の強力なプロモーター(群)
の導入によって増強される、請求項
6又は7に記載のピキア宿主。
【請求項10】
ナノボディと、HAC1スプライシング型タンパク質が、同じ遺伝子構築物から発現される、請求項
8記載の方法。
【請求項11】
HAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸が、
ナノボディをコードしている核酸の下流の遺伝子構築物上に位置する、請求項
10記載の方法。
【請求項12】
ナノボディをコードしている核酸の転写、及びHAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸の転写が、同じプロモーターによって制御される、請求項
10又は11に記載の方法。
【請求項13】
ナノボディをコードしている核酸の転写、及びHAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸の転写が、異なるプロモーターによって制御される、請求項
10又は11に記載の方法。
【請求項14】
ナノボディ及びHAC1スプライシング型タンパク質が、異なる遺伝子構築物から発現される、請求項
8記載の方法。
【請求項15】
異なる遺伝子構築物からの、
ナノボディをコードしている核酸の転写、及びHAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸の転写が、同じである別々のプロモーターによって制御される、請求項
14記載の方法。
【請求項16】
異なる遺伝子構築物からの、
ナノボディをコードしている核酸の転写、及びHAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸の転写が、異なる別々のプロモーターによって制御される、請求項
14記載の方法。
【請求項17】
ナノボディ及び/又はHAC1スプライシング型タンパク質が、染色体から発現される、請求項
8、10~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
HAC1スプライシング型タンパク質の発現が、ピキア宿主の染色体への強力なプロモーターの導入によって増強される、請求項
17記載の方法。
【請求項19】
強力なプロモーターによって制御されるHAC1スプライシング型タンパク質をコードしている1つ以上の核酸が、ピキア宿主の染色体に導入される、請求項
17記載の方法。
【請求項20】
ナノボディをコードしている1つ以上の核酸が、ピキア宿主の染色体に導入される、請求項
17記載の方法。
【請求項21】
ナノボディをコードしている核酸(群)のコピー数が1である、請求項
1~5、8、及び10~20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
ナノボディをコードしている核酸(群)のコピー数が2又はそれ以上である、請求項
1~5、8、及び10~20のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
ピキア宿主がピキア・パストリス(Pichia pastoris)である、請求項
1~5、8、及び10~20のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
ピキア・パストリス株が、X33及びNRRL Y-11430から選択される、請求項
23記載の方法。
【請求項25】
ナノボディをコードしかつHAC1スプライシング型(配列番号14)をコードしている、核酸。
【請求項26】
ナノボディが、配列番号49、50、51、52、53、54又は55である、請求項25に記載の核酸。
【請求項27】
遺伝子構築物の形態である、請求項
25又は26記載の核酸。
【請求項28】
ナノボディをコードしている核酸と、HAC1スプライシング型(配列番号14)をコードしている核酸とを含む、遺伝子構築物。
【請求項29】
HAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸が、
ナノボディをコードしている核酸の下流に位置する、請求項
28記載の遺伝子構築物。
【請求項30】
ナノボディをコードしている核酸の発現、及びHAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸の発現が、同じプロモーターによって制御される、請求項
28又は29に記載の遺伝子構築物。
【請求項31】
ナノボディをコードしている核酸の発現、及びHAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸の発現が、異なるプロモーターによって制御される、請求項
28~30のいずれかに記載の遺伝子構築物。
【請求項32】
請求項
28~31のいずれかに記載の遺伝子構築物を含む、請求項6又は
7に記載のピキア宿主。
【請求項33】
1つ以上の追加の補助的タンパク質の発現が増強されている、請求項
1~5、8、及び10~24のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
追加の補助的タンパク質が、PDI1、Kar2p、及びRPP0から選択される、請求項
33記載の方法。
【請求項35】
補助的タンパク質の数が2である、請求項
33又は34に記載の方法。
【請求項36】
2つの補助的タンパク質が、以下の2つの補助的タンパク質の組合せ:
-PDI1(配列番号5)及びHAC1スプライシング型(配列番号14);
-Kar2p(配列番号4)及びHAC1スプライシング型(配列番号14);並びに
-RPP0(配列番号6)及びHAC1スプライシング型(配列番号14)
から選択される、請求項
35記載の方法。
【請求項37】
補助的タンパク質の数が3である、請求項
33又は34に記載の方法。
【請求項38】
3つの補助的タンパク質が、以下の3つの補助的タンパク質の組合せ:
-PDI1(配列番号5)、RPP0(配列番号6)及びHAC1スプライシング型(配列番号14);
-Kar2p(配列番号4)、RPP0(配列番号6)及びHAC1スプライシング型(配列番号14);並びに
-PDI1(配列番号5)、Kar2p(配列番号4)、及びHAC1スプライシング型(配列番号14)
から選択される、請求項
37記載の方法。
【請求項39】
PDI1(配列番号5)、Kar2p(配列番号4)、RPP0(配列番号6)及びHAC1スプライシング型(配列番号14)の発現が増強される、請求項
33記載の方法。
【請求項40】
ナノボディが一価
ナノボディである、請求項
1~5、8、10~24、及び33~39のいずれかに記載の方法。
【請求項41】
ナノボディが、4つのフレームワーク領域(それぞれ、FR1~FR4)及び3つの相補性決定領域(それぞれ、CDR1~CDR3)から実質的になり、CDR1は配列番号58であり、CDR2は配列番号60であり、CDR3は配列番号62である、請求項
1~5、8、10~24、及び33~40に記載の方法。
【請求項42】
ナノボディが、1つ以上の他の残基又は結合単位をさらに含む、請求項
1~5、8、10~24、及び33~40のいずれかに記載の方法。
【請求項43】
1つ以上の他の残基又は結合単位が、1つ以上のペプチドリンカーを介して連結されている、請求項
42に記載の方法。
【請求項44】
前記の1つ以上の他の残基又は結合単位が、
ナノボディである、請求項
42又は43記載の方法。
【請求項45】
ナノボディが多価構築物である、請求項
42~44のいずれかに記載の方法。
【請求項46】
ナノボディが、二価、三価、又は四価
ナノボディである、請求項
45記載の方法。
【請求項47】
前記の1つ以上の他の結合単位が、前記の1つ以上の結合単位を含まない
ナノボディと比較して、延長された半減期を有する
ナノボディを提供する、請求項
42~46のいずれかに記載の方法。
【請求項48】
延長された半減期を有する
ナノボディを提供する前記の1つ以上の他の結合単位が、血清アルブミン(例えばヒト血清アルブミン)又は血清免疫グロブリン(例えばIgG)に結合することのできる結合単位からなる群より選択される、請求項
47記載の方法。
【請求項49】
ナノボディが、血清アルブミンに結合する
ナノボディを含む、請求項
48記載の方法。
【請求項50】
ナノボディがC末端伸長X(n)をさらに含み、nは、1、2、3、4又は5であり、Xは天然アミノ酸である、請求項
1~5、8、10~24、及び33~49のいずれかに記載の方法。
【請求項51】
Xは、システインを全く含まない天然アミノ酸である、請求項
50に記載の方法。
【請求項52】
ナノボディが配列番号55を含むか又は実質的にからなる、請求項
1~5、8、10~24、及び33~50のいずれかに記載の方法。
【請求項53】
ナノボディが、2つ以上のジスルフィド架橋を含む、請求項
50記載の方法。
【請求項54】
ナノボディが、VHH、ヒト化VHH、及びラクダ化重鎖可変ドメインから選択される、請求項
1~5、8、10~24、及び33~53に記載の方法。
【請求項55】
VHHが、VHH1型免疫グロブリン単一可変ドメインの群に属する、請求項
54記載の方法。
【請求項56】
ナノボディが、標準的なピキア発現条件下でピキア宿主において発現させた場合に得られる収量が、ピキア宿主内の該
ナノボディをコードしている核酸のコピー数と逆相関を示す、
ナノボディの群から選択される、請求項
1~5、8、10~24、及び33~55のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、免疫グロブリン単一可変ドメインの製造法に関する。より具体的には、本発明は、増加した収量が得られる、免疫グロブリン単一可変ドメインを生成する改善された方法を提供する。本発明はさらに、本発明の方法に使用するための核酸、遺伝子構築物及び宿主細胞、並びに、本発明の方法によって得ることのできる免疫グロブリン単一可変ドメインを提供する。
【0002】
背景技術
治療的適用のために、抗体又は抗体断片の製品の品質は非常に高くなければならない。これにより、生物学的治療剤の生産プロセスに対して高い要求が課される。これらの治療用化合物の生産費用は、生産プロセス中に遭遇する困難によって強い影響を受ける。低収量又は均一性の欠如は、生産プロセスの経済に影響を及ぼし、したがって、全体的に治療薬の費用に影響を及ぼすだろう。
【0003】
機能的な製品の適切な収量を得る限界が、インビトロにおける翻訳、大腸菌(E.coli)、酵母、例えばサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)及びピキア・パストリス(Pichia pastoris)、哺乳動物細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣細胞、並びに昆虫細胞におけるバキュロウイルス系をはじめとする広範な発現系における慣用的な免疫グロブリン及びそれらの断片において報告されている。とりわけ、抗体発現における支障は、軽鎖の不十分な供給、小胞体(ER)における不適切なプロセシング及びフォールディング、並びに重鎖断片の細胞内蓄積であるようである(Lange et al. 2001, J. Immunol. Methods 255: 103; Gasser et al. 2006, Biotechnol Bioeng. 94: 353; Gach et al. 2007, J. Biotechnol. 128: 735; Jenkins et al. 2009, Biotechnol. Appl. Biochem. 53: 73)。
【0004】
タンパク質のフォールディング及び分泌経路への介入が、モノクローナル抗体(MAb)などの組換えタンパク質の発現及び品質を改善させるための様々な戦略の1つとして記載されている。しかしながら、ER分泌機構の1つ以上の成分の過剰発現により、生産性の向上に関して混合した結果がもたらされた。バイオ医薬品の生産において一貫して高い収量を達成するには多くの課題が依然として存在している(Jenkins et al. 2009, Biotechnol. Appl. Biochem. 53: 73)。
【0005】
ピキア・パストリスは、異種タンパク質の生成のための宿主として開発された。この宿主は高度に効率的な発現系として知られているが、特に複雑なタンパク質の生成は、かなり低い成功率を示すことが判明した。P.パストリスでは、免疫グロブリン結合タンパク質(BiP)の共過剰発現により、scFv(A33scFv)の分泌レベルは約3倍増加した。これに対し、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI1)の共過剰発現は、A33scFvの分泌に対して明らかな効果を全く及ぼさなかった。P.パストリスにおけるBiP及びPDI1の共過剰発現は、A33scFvの分泌を増加させず、タンパク質レベルは対照株と依然として同じであった(Damasceno et al. 2007, Appl. Microbiol. Biotechnol. 74: 381)。対照株と比較して、P.パストリスにおける2F5 Fab断片の生産性は、BFR2との共過剰発現の場合の1.2倍から、SSE1又はKIN2を過剰発現させた場合の2.3倍まで改善させることができた(Gasser et al. 2007, Appl. Environ. Microbiol. 73: 6499)。塩基性ロイシンジッパー(bZIP)転写因子HAC1の過剰発現は、P.パストリスにおけるMab 2F5 Fab断片の分泌に対して僅かな効果しか及ぼさなかったが(1.3倍)、PDI1の過剰発現は、Fabレベルの1.9倍の増加を可能とした(Gasser et al. 2006, Biotechnol Bioeng. 94: 353)。著者は、十分な軽鎖の供給及び鎖間ジスルフィド結合の形成が、Fabの会合及びその後の分泌に対する主要な律速因子として認められ得ると結論する。
【0006】
従来の4本鎖抗体又はその断片(Fab及びscFvを含む)で観察されるこれらの困難とは対照的に、免疫グロブリン単一可変ドメインは、E.coli及びP.パストリスのような宿主から十分な速度及びレベルで容易に発現及び分泌されることが知られている。免疫グロブリン単一可変ドメインは鎖間ジスルフィド架橋を有さず、単一免疫グロブリン可変ドメインによる抗原結合部位の形成によって特徴付けられ、これは抗原の認識のためにさらなるドメインとの相互作用(例えば、VH/VL相互作用の形態で)を必要としない。例えば、E.coliなどの原核生物宿主における、免疫グロブリン単一可変ドメインの1つの具体例としてのナノボディの生成が数多く記載されている(例えば、Ghahroudi et al. 1997, FEBS Letters 414: 521-526; Muyldermans 2001, J. Biotechnol. 74: 277-302; Vranken et al. 2002, Biochemistry 41: 8570-8579を参照)。
【0007】
P.パストリスなどの低級真核生物宿主におけるナノボディの生成は、Frenken et al. 2000(J. Biotechnol. 78: 11-21)、国際公開公報第94/25591号、国際公開公報第2010/125187号、国際公開公報第2012/056000号及び国際公開公報第2012/152823号に記載されている。
【0008】
組換えラクダ単一可変ドメインは、条件を全く最適化することなく、振盪培養フラスコ中で増殖させたE.coliにおいて発現させた場合に5~10mg/lのレベルで日常的に得られる(Ghahroudi et al. 1997)。他の発現系を用いても、より高い収量のVHH発現を得ることが可能でさえある。9.3mg/l/OD660又は振盪フラスコ中のサッカロマイセス酵母培養液1リットルあたり約250mgの分泌タンパク質という生成レベルがFrenken et al. 2000によって記載されている。より近年には、P.パストリスにおける発現時に1リットルあたり1gを超えるナノボディの収量が記載されている(国際公開公報第2010/139808号、国際公開公報第2012/152823号)。
【0009】
国際公開公報第2010/125187号は、酵母(例えばP.パストリス)における単一可変ドメインを生成するための方法を記載している。国際公開公報第2010/125187号の方法は、単一可変ドメインにおけるジスルフィド架橋の形成を促進する条件を適用している。提案されている条件の1つは、チオールイソメラーゼ(例えばPDI1)の発現の増強である。
【0010】
完全に機能的な免疫グロブリン単一可変ドメインは、例えばE.coli又は酵母において十分な速度及びレベルで容易に生成されるという事実は、従来の免疫グロブリンを上回る、この免疫グロブリンフォーマットの重要な利点を示す。
【0011】
発明の要約
VHH及びナノボディは、その発現のために当技術分野において記載されている発現系を使用して発現され得るが(国際公開公報第1994/25591号; Ghahroudi et al. 1997, FEBS Letters 414: 521-526; Frenken et al. 2000, J. Biotechnol. 78: 11-21; Muyldermans 2001, J. Biotechnol. 74: 277-302; Vranken et al. 2002, Biochemistry 41: 8570-8579; 国際公開公報第2010/125187号;国際公開公報第2012/056000号;国際公開公報第2012/152823号及びAblynx N.V.による他の特許出願)、本発明者らは、場合によっては(例えば、多価VHH及びナノボディ、並びに/又は、1つを超えるジスルフィド架橋を有するVHH及びナノボディ)、VHH及びナノボディの発現はより難しく、予想されるよりはるかに低い発現レベル及び/又は収量がもたらされることを発見した。例えば、本発明者らは、いくつかの治療用VHH1型免疫グロブリン単一可変ドメインの生成についての問題を意外にも観察した。P.パストリスにおけるこれらの免疫グロブリン単一可変ドメインの発現時に、本発明者らは、これらの免疫グロブリン単一可変ドメインを、VHH2型及びVHH3型免疫グロブリン単一可変ドメインで通常得られる収量と比較してはるかにより低い収量で得た。免疫グロブリン単一可変ドメインにおいて確立されているものとは対照的に、P.パストリスにおける、例えばVHH1型の免疫グロブリン単一可変ドメインなどの特定の免疫グロブリン単一可変ドメインの発現により、多量の機能的な産物は得られなかった。
【0012】
本発明者らは、本明細書においてさらに示されているような、この問題に対する解決法を提供した。さらに、本発明者らは、免疫グロブリン単一可変ドメインの収量を改善するために提案された解決法は一般的に適用可能であり、すなわち、VHH1型の免疫グロブリン単一可変ドメインの収量を改善させるためだけでなく、他の免疫グロブリン単一可変ドメイン、例えばVHH2型及びVHH3型の免疫グロブリン単一可変ドメインを改善させるためにも適用可能であることを観察した。
【0013】
したがって、1つの態様では、本発明は、P.パストリスにおける特定の免疫グロブリン単一可変ドメインの発現時の低い収量の観察に関する。
【0014】
本発明のさらなる態様では、得られる産物の収量が増加する、免疫グロブリン単一可変ドメインの生成方法が提供される。これらの方法は本明細書において「本発明の方法(群)」とも称される。したがって、本発明はまた、この意外な問題を克服する免疫グロブリン単一可変ドメインの生成方法を提供する。より特定すると、本発明者らは(補助タンパク質のライブラリーをスクリーニングすることによって)、ピキア宿主における特定の補助タンパク質(PDI1(配列番号5)、Kar2p(配列番号4)、RPP0(配列番号6)、特にHAC1スプライシング型(配列番号14))の発現の増強により、該ピキア宿主において発現させた場合に、免疫グロブリン単一可変ドメインの収量が増加したことを発見した。2倍超から10倍超(またさらにそれ以上)の収量の増加が得られた。
【0015】
1つの態様では、それ故、本発明は、ピキア(例えばP.パストリス)における免疫グロブリン単一可変ドメインの発現及び/又は生成収量を増加させるための方法に関する。本発明の方法では、免疫グロブリン単一可変ドメインが発現されるが、同時にHAC1スプライシング型の発現も増強される。
【0016】
本発明の方法に使用される免疫グロブリン単一可変ドメインは、ポリペプチド(「本発明のポリペプチド」とも称される)の一部を形成し得、これは、1つ以上(すなわち少なくとも1つの)免疫グロブリン単一可変ドメインを含み得るか又は実質的にからなり得、かつ場合により1つ以上のさらなるアミノ酸配列(全て場合により、1つ以上の適切なリンカーを介して連結されている)をさらに含み得る。
【0017】
したがって、本発明は、ピキア宿主(例えばP.パストリス)において、少なくとも1つの免疫グロブリン単一可変ドメインを含むか又は実質的にからなるポリペプチド(本明細書では「本発明のポリペプチド」と称される)を生成するための方法を提供し、該方法は、ピキア宿主において、本発明のポリペプチドを発現させる工程、及び該ピキア宿主においてHAC1スプライシング型タンパク質の発現を増強させる工程を含む。本発明の方法はさらに、本発明のポリペプチドを単離及び/又は精製する工程を含み得る。
【0018】
本発明の方法は、ピキア(例えばP.パストリス)において容易に発現可能ではないか又は標準的な条件(本明細書においてさらに定義されているような)下で発現させた場合に非常に低い収量で発現され、そのために、ピキア(例えばP.パストリス)において本発明のこれらの免疫グロブリン単一可変ドメイン又はポリペプチドを発現させると、十分な量の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドを得ることができない、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及びポリペプチドに特に適している。したがって、1つの態様では、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドは、ピキア宿主(例えばP.パストリス)において標準的なピキア発現条件(本明細書においてさらに定義されているような)下で発現させると、0.5g/l又はそれ以下、例えば0.4g/L、0.3g/L、0.2g/L、0.1g/L、0.05g/L、0.01g/L、又はさらにはそれ以下の収量が得られる、免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドから選択される。別の態様では、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドは、ピキア宿主(例えばP.パストリス)においてピキア発現条件(本明細書においてさらに定義されているような)下で発現させた場合に得られる収量が、該免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドをコードしている核酸のコピー数と逆相関(本明細書においてさらに定義されているような)を示す、免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドから選択される。
【0019】
本発明の具体的な態様では、本発明の方法は、P.パストリスなどのピキアにおいて容易に発現可能である本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及びポリペプチドに特に適している。したがって、1つの態様では、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドは、ピキア宿主(例えばP.パストリス)においてピキア発現条件(本明細書においてさらに定義されているような)下で発現させると、0.5g/l又はそれ以上、例えば1g/L、2g/L、3g/L、4g/L、5g/L、6g/L、又はさらにはそれより高い収量が得られる、免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドから選択される。
【0020】
上記の方法では、本発明のポリペプチドは、2つ以上の免疫グロブリン単一可変ドメインを含み得るか又は実質的にからなり得る。このようなポリペプチドはまた、多価ポリペプチドとも称される。したがって、具体的な態様では、本発明の方法によって発現しようとする本発明のポリペプチドは、多価ポリペプチドである。
【0021】
あるいは、本発明の方法によって発現されるポリペプチドは、1つの免疫グロブリン単一可変ドメインを含み得るか又は実質的にからなり得る。このようなポリペプチドは本明細書において、一価ポリペプチドとも称されるだろう。したがって、別の具体的な態様では、本発明の方法によって発現しようとする本発明のポリペプチドは、一価ポリペプチドである。
【0022】
上記の方法では、免疫グロブリン単一可変ドメイン(本発明のポリペプチドに存在する可能性がある)は、軽鎖可変ドメイン又は重鎖可変ドメインである免疫グロブリン単一可変ドメイン、より具体的には従来の4本鎖抗体に由来する重鎖可変ドメイン又は重鎖抗体に由来する重鎖可変ドメイン、特にドメイン抗体(又はドメイン抗体としての使用に適したアミノ酸配列)、単一ドメイン抗体(又は、単一ドメイン抗体としての使用に適したアミノ酸配列)、「dAb」(又は、dAbとしての使用に適したアミノ酸配列)、又はナノボディ(VHH配列を含むがこれに限定されない)、好ましくはナノボディであり得る(がこれらに限定されない)。
【0023】
好ましい態様では、本発明の方法において発現されるナノボディは、VHH配列(VHH)、(部分的に)ヒト化されたVHH配列(ヒト化VHH)、ラクダ化重鎖可変ドメイン(ラクダ化VH)、又は親和性成熟などの技術によって得られたナノボディである。
【0024】
本発明の別の具体的な態様では、本発明の方法において発現される免疫グロブリン単一可変ドメイン(本発明のポリペプチドに存在する可能性がある)は、少なくとも2つのジスルフィド架橋を含む。別の具体的な態様では、免疫グロブリン単一可変ドメインは、VHH1型免疫グロブリン単一可変ドメインの群に属する。
【0025】
別の態様では、免疫グロブリン単一可変ドメイン(本発明のポリペプチドに存在する可能性がある)は、VHH1型免疫グロブリン単一可変ドメインの群に属さないが、別の群の免疫グロブリン単一可変ドメイン、例えばVHH2、VHH3、又は任意の他の型の免疫グロブリン単一可変ドメインに属する。
【0026】
さらに別の具体的な態様では、本発明の方法において発現される免疫グロブリン単一可変ドメイン(本発明のポリペプチドに存在する可能性がある)、例えば、国際公開公報第2012/042026号及び国際公開公報第2013/045707号に記載の免疫グロブリン単一可変ドメインはc-Metに特異的に結合する。したがって、c-Metに特異的に結合する少なくとも1つの免疫グロブリン単一可変ドメイン(ここでの該免疫グロブリン単一可変ドメインは2つのジスルフィド架橋を含む)を含む本発明のポリペプチドは、本発明の具体的であるが非限定的な態様を形成する。本発明の方法に使用するための特定のナノボディは、配列番号49である。
【0027】
好ましい態様では、本発明の方法において発現される1つ以上の免疫グロブリン単一可変ドメイン(群)(本発明のポリペプチドに存在する可能性がある)、例えば、Ablynx NVの米国仮出願US62/254,375号(PCT/EP2016/077595号も参照)に記載の免疫グロブリン単一可変ドメインは、TNFに特異的に結合する。
【0028】
したがって、TNFに特異的に結合する1つ以上の(少なくとも1つの)免疫グロブリン単一可変ドメインを含む本発明のポリペプチドは、本発明の具体的かつ非限定的な態様を形成する。
【0029】
具体的な態様では、本発明の方法において発現される本発明のポリペプチドは、1つの免疫グロブリン単一可変ドメインを含むか又は実質的にからなる。このようなポリペプチドは本明細書において、一価ポリペプチドとも称されるだろう。それ故、好ましい態様では、本発明の方法において、該ポリペプチドは一価ポリペプチドである。
【0030】
1つの免疫グロブリン単一可変ドメインを含むか又は実質的にからなるこのような一価ポリペプチドは、少なくとも2つのジスルフィド架橋を含み得る。したがって、TNFに特異的に結合する免疫グロブリン単一可変ドメインは、VHH1型免疫グロブリン単一可変ドメインに属する。
【0031】
あるいは、免疫グロブリン単一可変ドメインは、1つのジスルフィド架橋を含む。したがって、好ましい態様では、TNFに特異的に結合する免疫グロブリン単一可変ドメインは、VHH1型免疫グロブリン単一可変ドメインの群には属さないが、別の群の免疫グロブリン単一可変ドメイン、例えばVHH2、VHH3、又は任意の他の型の免疫グロブリン単一可変ドメインに属する。
【0032】
好ましい態様では、本発明の方法において、免疫グロブリン単一可変ドメインは、4つのフレームワーク領域(それぞれ、FR1~FR4)及び3つの相補性決定領域(それぞれ、CDR1~CDR3)から実質的になり、CDR1は配列番号58であり、CDR2は配列番号60であり、CDR3は配列番号62である。
【0033】
本発明の方法に使用するための特定のナノボディは、配列番号55及び56からなる群より選択される。
【0034】
1つ以上の免疫グロブリン単一可変ドメインを含むか又は実質的にからなる本発明のポリペプチドはさらに、場合により1つ以上のペプチドリンカーを介して連結された、1つ以上の他の残基又は結合単位を含み得る。
【0035】
1つの態様では、前記の1つ以上の他の残基は、本発明のポリペプチド(本明細書においてさらに記載されているような)に対する血清中にすでに存在している抗体(いわゆる「既存抗体」)の結合を妨げるか又は減少させるのに有効であり得る。
【0036】
別の態様では、前記の1つ以上の他の残基又は結合単位はまた、免疫グロブリン単一可変ドメイン、ドメイン抗体、ドメイン抗体として使用するのに適したアミノ酸配列、単一ドメイン抗体、単一ドメイン抗体として使用するのに適したアミノ酸配列、「dAb」、dAbとして使用するのに適したアミノ酸配列、又はナノボディからなる群より選択され得る。2つ以上の結合単位を含むか又は実質的にからなるポリペプチドも、多価構築物と称される。
【0037】
本発明の具体的な態様では、本発明の方法において発現される1つ以上の免疫グロブリン単一可変ドメインを含むか又は実質的にからなるポリペプチドは、多価構築物である。
【0038】
別の具体的な態様では、本発明のポリペプチドは、二価、三価、又は四価ポリペプチドである。
【0039】
本発明の特定の態様では、前記の1つ以上の他の結合単位は、前記の1つ以上の結合単位を含まないポリペプチドと比較して延長された半減期を有する本発明のポリペプチドを提供し得る。以下に限定されないが、延長された半減期を有するポリペプチドを提供する前記の1つ以上の他の結合単位は、血清アルブミン(例えばヒト血清アルブミン)又は血清免疫グロブリン(例えばIgG)に結合することのできる結合単位からなる群より選択され得る。
【0040】
本発明の方法において、HAC1スプライシング型の発現は、ピキア宿主への、HAC1スプライシング型タンパク質をコードしている1つ以上の核酸(群)の導入によって増強され得る。別の態様では、HAC1スプライシング型タンパク質の発現は、ピキア宿主への、HAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸の発現を制御している1つ以上の強力なプロモーター(群)の導入によって増強され得る。
【0041】
少なくとも1つの免疫グロブリン単一可変ドメインを含むか又は実質的にからなるポリペプチド及びHAC1スプライシング型タンパク質は、同じ遺伝子構築物から発現されてもよい。本発明のこの特定の態様では、少なくとも1つの免疫グロブリン単一可変ドメインを含むか又は実質的にからなるポリペプチドをコードしている核酸の転写、及びHAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸の転写は、同じプロモーターによって又は異なるプロモーターによって制御され得る。HAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸は、少なくとも1つの免疫グロブリン単一可変ドメインを含むか又は実質的にからなるポリペプチドをコードしている核酸の下流の遺伝子構築物上に位置し得る。代替的には、少なくとも1つの免疫グロブリン単一可変ドメインを含むか又は実質的にからなるポリペプチドをコードしている核酸は、HAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸の下流の遺伝子構築物上に位置し得る。
【0042】
本発明の別の態様では、少なくとも1つの免疫グロブリン単一可変ドメインを含むか又は実質的にからなるポリペプチド及びHAC1スプライシング型タンパク質は、異なる遺伝子構築物から発現されてもよい。本発明のこの特定の態様では、異なる遺伝子構築物からの、少なくとも1つの免疫グロブリン単一可変ドメインを含むか又は実質的にからなるポリペプチドをコードしている核酸の転写、及びHAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸の転写は、同じでも異なっていてもよい2つの別々のプロモーターによって制御され得る。
【0043】
少なくとも1つの免疫グロブリン単一可変ドメインを含むか若しくは実質的にからなるポリペプチド及び/又はHAC1スプライシング型タンパク質はまた、染色体から発現され得る。この特定の態様では、HAC1スプライシング型タンパク質の発現は、ピキア宿主の染色体への強力なプロモーターの導入によって増強され得る。代替的には、強力なプロモーターによって制御されるHAC1スプライシング型タンパク質をコードしている1つ以上の核酸(群)を、ピキア宿主の染色体に導入してもよい。また、少なくとも1つの免疫グロブリン単一可変ドメインを含むか又は実質的にからなるポリペプチドをコードしている1つ以上の核酸を、ピキア宿主の染色体に導入してもよい。
【0044】
本発明の1つの態様では、免疫グロブリン単一可変ドメインを含むか又は実質的にからなるポリペプチドをコードしている核酸(群)の数は1である。本発明の別の態様では、免疫グロブリン単一可変ドメインを含むか又は実質的にからなるポリペプチドをコードしている核酸(群)の数は2以上である。
【0045】
別の態様では、本発明はまた、本発明のポリペプチド(又はその適切な断片)をコードしかつHAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸に関する。このような核酸は本明細書において「本発明の核酸」とも称され、例えば、本明細書にさらに記載のような遺伝子構築物の形態であり得る。
【0046】
したがって、本発明はまた、遺伝子構築物の形態である本発明の核酸に関する。このような遺伝子構築物は本明細書において、「本発明の遺伝子構築物」とも称され、したがって、本発明のポリペプチドをコードしている核酸及びHAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸を含む。具体的な態様では、本発明のこのような遺伝子構築物において、HAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸は、本発明のポリペプチドをコードしている核酸の下流に位置する。別の具体的な態様では、本発明のこのような遺伝子構築物において、本発明のポリペプチドをコードしている核酸は、HAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸の下流に位置する。本発明の遺伝子構築物において、本発明のポリペプチドをコードしている核酸の発現及びHAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸の発現は、同じプロモーターによって又は異なるプロモーターによって制御され得る。該プロモーターは、構成性プロモーターであっても、誘導性プロモーターであってもよい。
【0047】
本発明の1つの態様では、本発明のポリペプチドをコードしている核酸のコピー数は1である。本発明の別の態様では、本発明のポリペプチドをコードしている核酸のコピー数は2以上である。
【0048】
本発明の1つの態様では、補助タンパク質の数は1であり、補助タンパク質はHAC1スプライシング型である。本発明の別の態様では、1つ以上の補助タンパク質の発現は増強されている。さらに別の本発明の態様では、追加の補助タンパク質(群)は、PDI1、Kar2p、及びRPP0から選択される。さらに別の本発明の態様では、補助タンパク質の数は2である。さらに別の本発明の態様では、補助タンパク質の数は2つを超え、例えば3つ以上である。さらに別の態様では、2つ以上の補助タンパク質は、以下の補助タンパク質の組合せから選択される:
-PDI1及びHAC1スプライシング型;
-Kar2p及びHAC1スプライシング型;
-RPP0及びHAC1スプライシング型;
-PDI1、Kar2p及びHAC1スプライシング型;
-PDI1、RPP0及びHAC1スプライシング型;
-Kar2p、RPP0及びHAC1スプライシング型;並びに
-PDI1、Kar2p、RPP0及びHAC1スプライシング型。
【0049】
好ましい態様では、以下の補助タンパク質の発現が増強される:
-PDI1、Kar2p及びHAC1スプライシング型;又は
-Kar2p、RPP0及びHAC1スプライシング型。
【0050】
本発明の好ましい態様では、補助タンパク質は、HAC1スプライシング型(配列番号14)である。
【0051】
別の好ましい態様では、追加の補助タンパク質は、PDI1(配列番号5)、Kar2p(配列番号4)、RPP0(配列番号6)、及びHAC1スプライシング型(配列番号14)から選択される。
【0052】
別の好ましい態様では、2つ以上の補助タンパク質は、以下の補助タンパク質の組合せから選択される:
-PDI1(配列番号5)及びHac1スプライシング型(配列番号14);
-Kar2p(配列番号4)及びHac1スプライシング型(配列番号14);
-RPP0(配列番号6)及びHac1スプライシング型(配列番号14);
-PDI1(配列番号5)、Kar2p(配列番号4)及びHac1スプライシング型(配列番号14);
-PDI1(配列番号5)、RPP0(配列番号6)及びHac1スプライシング型(配列番号14);
-Kar2p(配列番号4)、RPP0(配列番号6)及びHac1スプライシング型(配列番号14);並びに
-PDI1(配列番号5)、Kar2p(配列番号4)、RPP0(配列番号6)及びHac1スプライシング型(配列番号14)。
【0053】
別の態様では、本発明は、本明細書では「本発明のピキア宿主」とも称されるピキア宿主への、本発明の核酸及び遺伝子構築物の導入に関する。プラスミド又はベクターによるピキア宿主の形質転換に加えて、ピキア宿主の染色体の形質転換も、本発明によって包含される。強力な(誘導性)プロモーター(天然補助タンパク質の天然プロモーターの代わりに)を、ピキア宿主の染色体に導入しても;又は、別の(強力な)プロモーターの制御下にある別のコピーの補助タンパク質遺伝子配列を染色体に導入してもよい。
【0054】
別の態様では、本発明は、本発明のポリペプチドを発現する(又は適切な環境下で発現することができる)(ここでHAC1スプライシング型の発現は増強されている);並びに/あるいは、本発明の核酸及び/又は本発明の遺伝子構築物を含有している、ピキア宿主に関する。
【0055】
好ましい態様では、ピキア宿主はピキア・パストリスである。
【0056】
別の好ましい態様では、ピキア・パストリス株は、ピキア・パストリスX33及びピキア・パストリスNRRL Y-11430から選択される。
【0057】
本発明はさらに、本発明の核酸、本発明の遺伝子構築物、及び本発明のピキア宿主の調製法;並びに、免疫グロブリン単一可変ドメイン及びそれを含むポリペプチドの生成のための、前記の本発明の核酸、本発明の遺伝子構築物、及び本発明のピキア宿主の使用に関する。
【0058】
本発明はさらに、本明細書に示されたいずれかの方法によって得ることのできるポリペプチド及び/又は免疫グロブリン単一可変ドメイン、このようなポリペプチド及び/又は免疫グロブリン単一可変ドメインを含む医薬組成物及び他の組成物、並びに、該ポリペプチド及び/又は免疫グロブリン単一可変ドメインの治療的使用、あるいは、該ポリペプチド及び/又は免疫グロブリン単一可変ドメインの使用を含む処置法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【
図1】ナノボディAを、実施例1.2に記載のように作製された2つの異なるピキアクローンにおいて発現させた。あるピキアクローンは、ゲノム内に1コピーのナノボディA発現カセットを含有していた。第二のクローンは、ゲノム内に挿入された1コピーを超えるナノボディA発現カセットを含有していた。異なるクローンに由来する等容量の上清を、SDS-PAGEゲル上で比較した。インタクトなナノボディ産物に対応するバンドに対する相対的な定量のための濃度測定分析を実施した。バンドボリュームの定量は、Imagequantソフトウェア(GEヘルスケア社)を使用して実施された。コピー数と収量との間に逆相関が観察された。
【
図2】ナノボディA及び補助タンパク質ライブラリーを用いて形質転換されたクローンを、ナノボディAの改善された発現レベルについて試験した。異なるクローンに由来する等容量の上清を、SDS-PAGEゲル上で比較した。インタクトなナノボディ産物に対応するバンドに対する相対的な定量のための濃度測定分析を実施した。バンドボリュームの定量は、Imagequantソフトウェア(GEヘルスケア社)を使用して実施された。補助タンパク質を含まないそれらの対応する基準クローン(Refのコピー数=1及びRefのコピー数>1)と比較して、4つのクローン(6H1、4C2、5A6、9C4)が、有意により高いレベルのナノボディAを振盪フラスコにおいて分泌することが判明した。Ref:ゲノム内に挿入された示されたコピー数のナノボディA発現カセットを有する基準クローン。
【
図3】補助タンパク質Kar2p、RPP0、Hac1スプライスバリアント、又はPDI1の1つを用いて形質転換された1コピーを超えるナノボディA発現カセットを有する基準クローンの振盪フラスコにおける発現。SDS-PAGE上でナノボディの収量を分析し、基準クローン(補助タンパク質を含まない)によるナノボディの収量と比較した。インタクトなナノボディ産物に対応するバンドに対する相対的な定量のための濃度測定分析を実施した。バンドボリュームの定量は、Imagequantソフトウェア(GEヘルスケア社)を使用して実施された。
【0060】
発明の詳細な説明
定義
特に示されない限り又は定義されない限り、使用される全ての用語は、当技術分野におけるその通常の意味を有し、これは当業者には明らかであろう。例えば、標準的なハンドブック、例えばSambrook et al. 1989 (Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed., Vols. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory Press)、Ausubel et al. 1987 (Current protocols in molecular biology, Green Publishing and Wiley Interscience, New York)、Lewin 1985 (Genes II, John Wiley & Sons, New York, N.Y.)、Old et al. 1981 (Principles of Gene Manipulation: An Introduction to Genetic Engineering, 2nd Ed., University of California Press, Berkeley, CA)、Roitt et al. 2001 (Immunology, 6th Ed., Mosby/Elsevier, Edinburgh)、Roitt et al. 2001(Roitt’s Essential Immunology, 10th Ed., Blackwell Publishing, UK)、及びJaneway et al. 2005 (Immunobiology, 6th Ed., Garland Science Publishing/Churchill Livingstone, New York)、並びに、本明細書に引用されている一般的な背景技術を参照する。
【0061】
特記されない限り、具体的に詳述されていない全ての方法、工程、技術、及び操作を、当業者には明らかであるようなそれ自体公知の方法で実施することができそして実施されている。例えば、ここでも、標準的なハンドブック及び本明細書に記載された一般的な背景技術、並びに、そこに引用されているさらなる文献;並びに、例えば、親和性成熟などのタンパク質工学のための技術、及び免疫グロブリンなどのタンパク質の特異性及び他の所望の特性を改善させるための他の技術を記載した、以下のレビューPresta 2006 (Adv. Drug Deliv. Rev. 58: 640)、Levin and Weiss 2006 (Mol. Biosyst. 2: 49)、Irving et al. 2001 (J. Immunol. Methods 248: 31)、Schmitz et al. 2000 (Placenta 21 Suppl. A: S106)、Gonzales et al. 2005(Tumour Biol. 26: 31)を参照する。
【0062】
ヌクレオチド配列若しくはアミノ酸配列が、別のヌクレオチド配列若しくはアミノ酸配列をそれぞれ「含む」と言われるか、又は、別のヌクレオチド配列若しくはアミノ酸配列「から実質的になる」と言われる場合、これは、後者のヌクレオチド配列若しくはアミノ酸配列が、それぞれ最初に記載されたヌクレオチド配列若しくはアミノ酸配列に取り込まれていることを意味し得るが、通常、これは一般的に、最初に記載されたヌクレオチド配列又はアミノ酸配列がその配列内に、最初に記載された配列がどのように実際に作製されたか又は得られたかに関係なく(これは例えば本明細書に記載の任意の適切な方法により得る)、後者の配列とそれぞれ同じヌクレオチド配列又はアミノ酸配列を有する、それぞれヌクレオチド残基鎖又はアミノ酸残基鎖を含むことを意味する。非限定的な例を用いて、本発明のポリペプチドが免疫グロブリン単一可変ドメインを含むと言われる場合、これは、免疫グロブリン単一可変ドメイン配列が本発明のポリペプチド配列に取り込まれたことを意味し得るが、通常、これは一般的に、本発明のポリペプチドがその配列内に、前記の本発明のポリペプチドがどのように作製されたか又は得られたかに関係なく、免疫グロブリン単一可変ドメインの配列を含有していることを意味する。また、核酸配列又はヌクレオチド配列が別のヌクレオチド配列を含むと言われる場合、最初に記載された核酸配列又はヌクレオチド配列は好ましくは、それが発現産物(例えばポリペプチド)へと発現される場合、後者のヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列が、該発現産物の一部を形成する(換言すれば、後者のヌクレオチド配列が、最初に記載されたより大きな核酸配列又はヌクレオチド配列と同じ読み枠内にある)ようなものである。
【0063】
「実質的にからなる」によって、本発明の方法に使用される免疫グロブリン単一可変ドメインが本発明のポリペプチドと正に同じであるか、又は、免疫グロブリン単一可変ドメインのアミノ末端、カルボキシ末端、若しくはアミノ末端とカルボキシ末端の両方に付加された、少数のアミノ酸残基、例えば1~20個のアミノ酸残基、例えば1~10個のアミノ酸残基、好ましくは1~6個のアミノ酸残基、例えば1、2、3、4、5、若しくは6個のアミノ酸残基を有する、本発明のポリペプチドに相当することを意味する。
【0064】
核酸又はアミノ酸は、例えば、それが得られた反応培地又は培養培地と比較して、それが、通常、前記供給源又は培地中において伴う少なくとも1つの他の成分、例えば別の核酸、別のタンパク質/ポリペプチド、別の生物学的成分若しくは巨大分子、又は少なくとも1つの混入物、不純物、若しくはマイナーな成分などから分離されている場合に、「(実質的に)単離された(形態)(に)」あると判断される。特に、核酸又はアミノ酸は、少なくとも2倍、特に少なくとも10倍、より特定すると少なくとも100倍、及び最大で1000倍、又はそれ以上精製されている場合に「(実質的に)単離されている」と判断される。「(実質的に)単離された形態に」ある核酸又はアミノ酸は好ましくは、適切な技術、例えば適切なクロマトグラフィー技術、例えばポリアクリルアミドゲル電気泳動を使用して決定したところ、実質的に均一である。
【0065】
本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/若しくはポリペプチド又は補助タンパク質などのポリペプチド「(の)発現」又は「を発現している」という用語は、遺伝子からの情報が機能的遺伝子産物(すなわち、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/若しくはポリペプチド又は補助タンパク質)の合成に使用されるプロセスである。補助タンパク質又はポリペプチド、例えば本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドなどが、核酸、遺伝子構築物、又は染色体「から発現された」と言う場合、それは、核酸、遺伝子構築物、又は染色体からの情報が機能的遺伝子産物(すなわち、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/若しくはポリペプチド又は補助タンパク質)の合成に使用されるプロセスを通して合成される。タンパク質が「共発現」されたと言われる場合、該タンパク質は同時に発現されている。遺伝子の「発現を増強させること」は、遺伝子産物(例えば補助タンパク質)の産生が、遺伝子発現の増強を伴わない遺伝子産物の産生と比較して増加していることを意味する。さらに説明されているように、特定の遺伝子の発現は、例えば強力なプロモーターなどの適切な制御配列の使用、及び/又は例えばそれぞれの遺伝子のコピー数を増加させることによって遺伝子の量を増加させることを含む、様々な手段によって増強させることができる。
【0066】
本発明において使用される「収量」という用語は、ピキア宿主において発現させた場合に機能的な形態で産生される本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドの量に関する。収量は、培地1L(リットル)あたりの本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドのg(グラム)として表現される。
【0067】
免疫グロブリン単一可変ドメイン
特記しない限り、「免疫グロブリン配列」という用語は、本明細書において重鎖抗体を指すために使用されるものであれ又は従来の4本鎖抗体を指すために使用されるものであれ、完全サイズの抗体、その個々の鎖、並びに、その全ての部分、そのドメイン、又はその断片(抗原結合ドメイン又は断片、例えばそれぞれVHHドメイン又はVH/VLドメインを含むがこれらに限定されない)の双方を含む一般的な用語として使用される。さらに、本明細書において(例えば、「免疫グロブリン配列」、「抗体配列」、「可変ドメイン配列」、「VHH配列」又は「タンパク質配列」のような用語において)使用される「配列」という用語は、脈絡がさらに限定された解釈が必要としない限り、関連したアミノ酸配列、並びにそれをコードしている核酸配列又はヌクレオチド配列の双方を含むと一般的に理解されるべきである。
【0068】
「単一可変ドメイン」と互換的に使用される「免疫グロブリン単一可変ドメイン」という用語は、抗原結合部位が単一免疫グロブリンドメイン上に存在しかつそれによって形成されている、分子であると定義する。これにより、免疫グロブリン単一可変ドメインは、2つの免疫グロブリンドメイン、特に2つの可変ドメインが相互作用して抗原結合部位を形成している、「従来の」免疫グロブリン又はそれらの断片(例えばFab、scFvなど)とは異なっている。典型的には、従来の免疫グロブリンでは、重鎖可変ドメイン(VH)及び軽鎖可変ドメイン(VL)が相互作用して抗原結合部位を形成している。この場合、VH及びVLの両方の相補性決定領域(CDR)が抗原結合部位に寄与し、すなわち、合計で6つのCDRが、抗原結合部位の形成に関与するだろう。
【0069】
これに対し、免疫グロブリン単一可変ドメインの結合部位は、単一のVHドメイン又はVLドメインによって形成される。したがって、免疫グロブリン単一可変ドメインの抗原結合部位は、3つ以下のCDRによって形成される。
【0070】
したがって、「免疫グロブリン単一可変ドメイン」及び「単一可変ドメイン」という用語は、抗原結合部位の形成のために少なくとも2つの可変ドメインの相互作用を必要とする従来の免疫グロブリン又はそれらの断片を含まない。しかしながら、これらの用語は、抗原結合部位が単一可変ドメインによって形成されている、従来の免疫グロブリンの断片は含む。
【0071】
一般的に、単一可変ドメインは、4つのフレームワーク領域(それぞれ、FR1~FR4)と3つの相補性決定領域(それぞれ、CDR1~CDR3)から実質的になるアミノ酸;又は、このようなアミノ酸の任意の適切な断片(よってこれは、通常、CDRの少なくとも1つを形成するアミノ酸残基の少なくともいくつかを含有しているだろう)であろう。このような単一可変ドメイン及び断片は最も好ましくは、それらが免疫グロブリンフォールドを含むか又は適切な条件下で免疫グロブリンフォールドを形成することができるようなものである。したがって、単一可変ドメインは例えば、軽鎖可変ドメイン配列(例えばVL配列)若しくはその適切な断片;又は重鎖可変ドメイン配列(例えばVH配列又はVHH配列)若しくはその適切な断片を;それが単一の抗原結合単位(すなわち、機能的抗原結合ドメインを形成するために、例えばVH/VLの相互作用を通して、別の可変ドメインと相互作用する必要がある例えば従来の抗体及びscFv断片に存在する可変ドメインの場合のように、単一抗原結合ドメインが、機能的抗原結合単位を形成するために別の可変ドメインと相互作用する必要がないような、単一可変ドメインから実質的になる機能的抗原結合単位)を形成することができる限りにおいて含み得る。
【0072】
本発明の1つの実施態様では、免疫グロブリン単一可変ドメインは、軽鎖可変ドメイン配列(例えばVL配列)又は重鎖可変ドメイン配列(例えばVH配列)であり;より具体的には、免疫グロブリン単一可変ドメインは、従来の4本鎖抗体に由来する重鎖可変ドメイン配列、又は重鎖抗体に由来する重鎖可変ドメイン配列であり得る。
【0073】
例えば、単一可変ドメイン又は免疫グロブリン単一可変ドメイン(又は、免疫グロブリン単一可変ドメインとして使用するのに適したアミノ酸)は、(単一)ドメイン抗体(又は、(単一)ドメイン抗体として使用するのに適したアミノ酸)、「dAb」又はdAb(又は、dAbとして使用するのに適したアミノ酸)、又はナノボディ(本明細書において定義されているようなものであり、VHHを含むがこれに限定されない);他の単一可変ドメイン、又はそのいずれか1つの任意の適切な断片であり得る。(単一)ドメイン抗体の一般的な説明のために、本明細書に引用されている先行技術、並びに、欧州特許第0368684号も参照する。「dAb」という用語については、例えば、Ward et al. 1989 (Nature 341: 544)、Holt et al. 2003(Trends Biotechnol. 21: 484)、並びに、例えば国際公開公報第04/068820号、国際公開公報第06/030220号、国際公開公報第06/003388号、及び、Domantis Ltdの他の公開された特許出願を参照する。また、それらは哺乳動物起源ではないので、本発明の脈絡においてあまり好ましくはないが、単一可変ドメインは、特定の種のサメに由来してもよいことが注記されるべきである(例えば、いわゆる「IgNARドメイン」、例えば国際公開公報第05/18629号を参照)。
【0074】
特に、免疫グロブリン単一可変ドメインは、ナノボディ(本明細書に定義されているような)又はその適切な断片であり得る。[注記:ナノボディ、ナノボディーズ及びナノクローンは、Ablynx N.V.の登録商標である]。ナノボディの一般的な説明については、本明細書に引用されている、例えば国際公開公報第08/020079号(16頁)に記載されている先行技術を参照する。
【0075】
免疫グロブリン配列、特にナノボディのアミノ酸配列及び構造は、しかしながらそれに限定されないが、当技術分野において及び本明細書においてそれぞれ「フレームワーク領域1」すなわち「FR1」;「フレームワーク領域2」すなわち「FR2」;「フレームワーク領域3」すなわち「FR3」;及び「フレームワーク領域4」すなわち「FR4」と称される4つのフレームワーク領域すなわち「FR」から構成されると考えられ得;該フレームワーク領域は、当技術分野においてそれぞれ「相補性決定領域1」すなわち「CDR1」;「相補性決定領域2」すなわち「CDR2」;及び「相補性決定領域3」すなわち「CDR3」と称される3つの相補性決定領域すなわち「CDR」によって中断されている。
【0076】
ナノボディにおけるアミノ酸残基の総数は、110~120の領域内であり得、好ましくは112~115であり、最も好ましくは113である。しかしながら、ナノボディの部分、断片、類似体、又は誘導体(本明細書にさらに記載されているような)は、このような部分、断片、類似体、又は誘導体が、本明細書に概略が示されているさらなる必要条件を満たし、かつまた好ましくは本明細書に記載の目的に適している限り、それらの長さ及び/又はサイズに関して特に限定されない。
【0077】
VHH及びナノボディのさらなる説明のために、Muyldermans 2001(Rev. Mol. Biotechnol. 74: 277)によるレビュー記事、並びに、一般的な背景技術として記載されている以下の特許出願:Vrije Universiteit Brusselの国際公開公報第94/04678号、国際公開公報第95/04079号及び国際公開公報第96/34103号;ユニリーバ社の国際公開公報第94/25591号、国際公開公報第99/37681号、国際公開公報第00/40968号、国際公開公報第00/43507号、国際公開公報第00/65057号、国際公開公報第01/40310号、国際公開公報第01/44301号、欧州特許第1134231号、及び国際公開公報第02/48193号;Vlaams Instituut voor Biotechnologie (VIB)の国際公開公報第97/49805号、国際公開公報第01/21817号、国際公開公報第03/035694号、国際公開公報第03/054016号、及び国際公開公報第03/055527号;Algonomics N.V.及びAblynx N.V.の国際公開公報第03/050531号;カナダ国立研究機関による国際公開公報第01/90190号;the Institute of Antibodiesによる国際公開公報第03/025020号(=欧州特許第1433793号);並びに、Ablynx N.V.による国際公開公報第04/041867号、国際公開公報第04/041862号、国際公開公報第04/041865号、国際公開公報第04/041863号、国際公開公報第04/062551号、国際公開公報第05/044858号、国際公開公報第06/40153号、国際公開公報第06/079372号、国際公開公報第06/122786号、国際公開公報第06/122787号及び国際公開公報第06/122825号、並びにAblynx N.V.によるさらに他の公開された特許出願を参照する。また、これらの出願に記載のさらに他の先行技術、特に国際出願の国際公開公報第06/040153号の41~43頁に記載の文献のリストを参照し、このリスト及び文献は、参照により本明細書に組み入れられる。これらの文献に記載のように、ナノボディ(特にVHH及び部分的にヒト化されたナノボディ)は特に、1つ以上のフレームワーク配列内の1つ以上の「特徴的な残基」の存在によって特徴付けられ得る。ナノボディのヒト化及び/又はラクダ化、並びに、他の修飾、部分又は断片、誘導体、又は「ナノボディ融合体」、多価構築物(いくつかの非限定的なリンカー配列の例を含む)及びナノボディの半減期を延長させるための様々な修飾、並びにそれらの調製をはじめとする、ナノボディのさらなる説明が、例えば、国際公開公報第08/101985号及び国際公開公報第08/142164号に見い出され得る。
【0078】
したがって、本発明の意味において、「免疫グロブリン単一可変ドメイン」又は「単一可変ドメイン」という用語は、ヒト以外の供給源、好ましくはラクダ、好ましくはラクダ重鎖抗体に由来するポリペプチドを含む。それらは、以前に記載されているようにヒト化されていてもよい。さらに、該用語は、例えばDavies and Riechmann 1994 (FEBS 339: 285)、1995(Biotechonol. 13: 475)及び1996(Prot. Eng. 9: 531)並びにRiechmann and Muyldermans 1999(J. Immunol. Methods 231: 25)に記載のような、「ラクダ化」されている、ラクダ以外の供給源、例えばマウス又はヒトに由来するポリペプチドも含む。
【0079】
「免疫グロブリン単一可変ドメイン」という用語は、マウス、ラット、ウサギ、ロバ、ヒト、及びラクダの免疫グロブリン配列を含む、様々な起源の免疫グロブリン配列を包含する。それはまた、完全なヒト免疫グロブリン配列、ヒト化免疫グロブリン配列、又はキメラ免疫グロブリン配列も含む。例えば、それは、ラクダ免疫グロブリン配列及びヒト化ラクダ免疫グロブリン配列、又はラクダ化免疫グロブリン単一可変ドメイン、例えばWard et al(例えば、国際公開公報第94/04678号並びにDavies and Riechmann 1994、1995及び1996を参照)によって記載のようなラクダ化dAbを含む。
【0080】
本発明は、本明細書に記載のいずれかの免疫グロブリン単一可変ドメインの発現又は産生のために使用され得る。本発明はまた、本発明のポリペプチド(すなわち、このような免疫グロブリン単一可変ドメインを含むか又は実質的にからなるポリペプチド)の発現又は産生のために使用され得る。特定の態様では、本発明は、2つのジスルフィド架橋を含む免疫グロブリン単一可変ドメインの発現又は産生のために使用され得る。本発明はまた、2つのジスルフィド架橋を有する本発明のポリペプチド(すなわち、このような免疫グロブリン単一可変ドメインを含むか又は実質的にからなるポリペプチド)の発現又は産生のために使用され得る。本発明はまた、本発明のポリペプチド(すなわち、2つのジスルフィド架橋を有するこのような免疫グロブリン単一可変ドメインを含むか又は実質的にからなるポリペプチド)の発現又は産生のために使用され得る。
【0081】
全てのVHHは、22位のシステイン残基と、92位のシステイン残基との間に少なくとも1つのジスルフィド架橋を含有していることが知られている(番号付けはKabatによる、Ablynx N.V.の特許出願及びMuyldermans and Lauwereys 1999, J. Mol. Recognit. 12: 131を参照)。大半のVHHはこの単一のジスルフィド架橋しか含有していないが、いくつかのVHHは、合計で2つの(又は例外の場合には3つの)ジスルフィド架橋を含有していることが知られている。例えば、「VHH-1型」、「VHH-1クラス」又はその他(本明細書においてさらに定義されているような)と称されるVHH(及びナノボディ)のクラスは一般的に、CDR2内の50位のシステイン残基と、CDR3内(又は例外的な場合には、CDR1又はCDR2内)に存在するシステイン残基との間に第二のジスルフィド架橋を有する。また、ラクダ又はヒトコブラクダ由来のいくつかのVHHは、CDR1内(又はFR2内の45位)に存在するシステイン残基と、CDR3内に存在するシステイン残基との間にジスルフィド架橋を有することが多い(Vu et al. 1997, Mol. Immunol. 34: 1121; Muyldermans and Lauwereys 1999)。ラマに由来するいくつかのVHHは時に、CDR1内(例えば33位)に存在するシステイン残基と、CDR3内に存在するシステイン残基との間にジスルフィド架橋を有する(Vu et al., 1997)。
【0082】
1つの具体的であるが非限定的な態様では、免疫グロブリン単一可変ドメインは、22位のシステイン残基と92位のシステイン残基との間にジスルフィド架橋を含み、フレームワーク領域の1つにあるシステイン残基と、CDR領域の1つにあるシステイン残基との間に形成されたジスルフィド架橋をさらに含む。
【0083】
別の具体的であるが非限定的な態様では、免疫グロブリン単一可変ドメインは、22位のシステイン残基と92位のシステイン残基との間にジスルフィド架橋を含み、フレームワーク領域の1つにあるシステイン残基と、CDR3内のシステイン残基との間に形成されたジスルフィド架橋をさらに含む。
【0084】
別の具体的であるが非限定的な態様では、免疫グロブリン単一可変ドメインは、22位のシステイン残基と92位のシステイン残基との間にジスルフィド架橋を含み、フレームワーク2(FR2)内のシステイン残基とCDR3内のシステイン残基との間に形成されたジスルフィド架橋をさらに含む。
【0085】
別の具体的であるが非限定的な態様では、免疫グロブリン単一可変ドメインは、22位のシステイン残基と92位のシステイン残基との間にジスルフィド架橋を含み、フレームワーク2(FR2)内の45位のシステイン残基とCDR3内のシステイン残基との間に形成されたジスルフィド架橋をさらに含む(ラクダ及びヒトコブラクダに由来するいくつかのVHHのように)。
【0086】
別の具体的であるが非限定的な態様では、免疫グロブリン単一可変ドメインは、22位のシステイン残基と92位のシステイン残基との間にジスルフィド架橋を含み、1つのCDR内のシステイン残基と別のCDR内のシステイン残基との間に形成されたジスルフィド架橋をさらに含む。
【0087】
別の具体的であるが非限定的な態様では、免疫グロブリン単一可変ドメインは、22位のシステイン残基と92位のシステイン残基との間にジスルフィド架橋を含み、CDR3内のシステイン残基と別のCDR内(ラクダ、ヒトコブラクダ、及びラマに由来するいくつかのVHHのように、特にCDR1内)のシステイン残基との間に形成されたジスルフィド架橋をさらに含む。
【0088】
別の具体的であるが非限定的な態様では、免疫グロブリン単一可変ドメインは、22位のシステイン残基と92位のシステイン残基との間にジスルフィド架橋を含み、CDR1内のシステイン残基と別のCDR内のシステイン残基との間に形成されたジスルフィド架橋をさらに含む。
【0089】
別の具体的であるが非限定的な態様では、免疫グロブリン単一可変ドメインは、22位のシステイン残基と92位のシステイン残基との間にジスルフィド架橋を含み、CDR1内のシステイン残基とCDR1内のシステイン残基との間に形成されたジスルフィド架橋をさらに含む。
【0090】
別の具体的であるが非限定的な態様では、免疫グロブリン単一可変ドメインは、22位のシステイン残基と92位のシステイン残基との間にジスルフィド架橋を含み、CDR1内のシステイン残基とCDR3内のシステイン残基との間に形成されたジスルフィド架橋をさらに含む(ラクダ、ヒトコブラクダ、及びラマに由来するいくつかのVHHのように)。
【0091】
別の具体的であるが非限定的な態様では、免疫グロブリン単一可変ドメインは、22位のシステイン残基と92位のシステイン残基との間にジスルフィド架橋を含み、33位のシステインとCDR3内のシステイン残基との間に形成されたジスルフィド架橋をさらに含む(ラクダ、ヒトコブラクダ、及びラマに由来するいくつかのVHHのように)。
【0092】
別の具体的であるが非限定的な態様では、免疫グロブリン単一可変ドメインは、22位のシステイン残基と92位のシステイン残基との間にジスルフィド架橋を含み、CDR2内のシステイン残基と別のCDR内のシステイン残基との間に形成されたジスルフィド架橋をさらに含む。
【0093】
別の具体的であるが非限定的な態様では、免疫グロブリン単一可変ドメインは、22位のシステイン残基と92位のシステイン残基との間にジスルフィド架橋を含み、CDR2内のシステイン残基とCDR2内のシステイン残基との間に形成されたジスルフィド架橋をさらに含む。
【0094】
別の具体的であるが非限定的な態様では、免疫グロブリン単一可変ドメインは、22位のシステイン残基と92位のシステイン残基との間にジスルフィド架橋を含み、CDR2内のシステイン残基とCDR3内のシステイン残基との間に形成されたジスルフィド架橋をさらに含む(ラマに由来するいくつかのVHHのように)。
【0095】
別の具体的であるが非限定的な態様では、免疫グロブリン単一可変ドメインは、22位のシステイン残基と92位のシステイン残基との間にジスルフィド架橋を含み、50位のシステイン残基と別のCDR、例えばCDR1、CDR2、又はCDR3内のシステイン残基との間に形成されたジスルフィド架橋をさらに含む(VHH1型のVHH及びナノボディのように)。
【0096】
別の具体的であるが非限定的な態様では、免疫グロブリン単一可変ドメインは、22位のシステイン残基と92位のシステイン残基との間にジスルフィド架橋を含み、50位のシステイン残基とCDR3内のシステイン残基との間に形成されたジスルフィド架橋をさらに含む(VHH1型のVHH及びナノボディのように)。
【0097】
好ましいが非限定的な実施態様では、免疫グロブリン単一可変ドメインは、「VHH1型免疫グロブリン単一可変ドメイン」であり得る。例えば本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン又はポリペプチドなどのアミノ酸は、VHH1型免疫グロブリン単一可変ドメイン又はVHH1型配列が、VHH1共通配列(配列番号46):
【化1】
に対して(標準的な設定、すなわちblosom62スコアリングマトリックスを用いたblastpアルゴリズムを使用して)85%の同一率を有しかつ必修的に50位にシステインを、すなわちCys50(Kabatの番号付けを使用して)を有する場合に、「VHH1型免疫グロブリン単一可変ドメイン」又は「VHH1型配列」であると言われる。これらのVHH1型免疫グロブリン単一可変ドメインは一般的に、Cys50と、CDR3内(又は例外的な場合にはCDR1又はCDR2内)のシステイン残基との間にジスルフィド架橋を有する(又は形成することができる)。
【0098】
アミノ酸配列、例えば本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン又はポリペプチドは、VHH2型免疫グロブリン単一可変ドメイン又はVHH2型配列が、VHH2共通配列(配列番号47):
【化2】
に対して(標準的な設定、すなわちblosom62スコアリングマトリックスを用いたblastpアルゴリズムを使用して)85%の同一率を有する場合に、「VHH2型免疫グロブリン単一可変ドメイン」又は「VHH2型配列」であると言われる。
【0099】
アミノ酸配列、例えば本発明による免疫グロブリン単一可変ドメイン又はポリペプチドは、VHH3型免疫グロブリン単一可変ドメイン又はVHH3型配列が、VHH3共通配列(配列番号48):
【化3】
に対して(標準的な設定、すなわちblosom62スコアリングマトリックスを用いたblastpアルゴリズムを使用して)85%の同一率を有する場合に、「VHH3型免疫グロブリン単一可変ドメイン」又は「VHH3型配列」であると言われる。
【0100】
本発明は、VHH1(ここでは2つのジスルフィド架橋の存在が非常に一般的である)の発現に特に適しているが、本発明はまたVHH2又はVHH3(これは2つのジスルフィド架橋を含んでいても含んでいなくてもよいが、これはあまり一般的ではない)の発現にも適用することができることが注記されるべきである。
【0101】
一般的な説明について、及びc-Metに対して指向されかつ本明細書に記載の方法を使用して発現/産生され得るナノボディ(及びそれを含むポリペプチド)のいくつかの非限定的な例については、国際公開公報第2012/042026号及び国際公開公報第2013/045707号を参照する。
【0102】
一般的な説明については、及びTNFに対して指向されかつ本明細書に記載の方法を使用して発現/産生され得るナノボディ(及びそれを含むポリペプチド)のいくつかの非限定的な例については、Ablynx NVの米国仮出願のUS62/254,375号(PCT/EP2016/077595号も参照)を参照する。
【0103】
本発明者らはまた、この教義が、VHH-1などの2つ以上のジスルフィド架橋を有するVHH及びナノボディに特に適用可能であるだけでなく、2つ以上のジスルフィド架橋を含む他の免疫グロブリン単一可変ドメイン(例えば、(単一)ドメイン抗体、dAb、サメ由来のIgNARドメインなど)にも適用可能であると予期する。
【0104】
本発明のポリペプチド
本発明の方法で調製された免疫グロブリン単一可変ドメインは、1つ以上の(少なくとも1つの)免疫グロブリン単一可変ドメインを含み得るか又は実質的にからなり得、かつ、場合により1つ以上のさらなるアミノ酸配列をさらに含み得る(全てが場合により1つ以上の適切なリンカーを介して連結されている)、タンパク質又はポリペプチド(本明細書において「本発明のポリペプチド」と称される)の一部を形成し得る。「免疫グロブリン単一可変ドメイン」という用語はまた、このような本発明のポリペプチドも包含し得る。1つ以上の免疫グロブリン単一可変ドメインは、このようなタンパク質又はポリペプチドにおいて結合単位として使用されてもよく、これは場合により、結合単位としての役目を果たし得る1つ以上のさらなるアミノ酸を含有していてもよく、これにより、それぞれ本発明の一価、多価、又は多重特異的なポリペプチドが提供される(1つ以上のVHHドメインを含有している多価及び多重特異的なポリペプチド並びにそれらの調製については、Conrath et al. 2001(J. Biol. Chem. 276: 7346)並びに例えば国際公開公報第96/34103号、国際公開公報第99/23221号及び国際公開公報第2010/115998号も参照する)。
【0105】
本発明のポリペプチドは、上記に概略が示されているような、1つの免疫グロブリン単一可変ドメインを含み得るか又は実質的にからなり得る。このようなポリペプチドは本明細書において一価ポリペプチドとも称される。
【0106】
本発明のポリペプチドは、上記に概略が示されているような、単一可変ドメインの形態の、2つ以上の抗原結合部位を含む構築物も包含し得る。例えば、同じ又は異なる抗原特異性を有する2つ(又はそれ以上)の免疫グロブリン単一可変ドメインを連結させることにより、例えば二価、三価、又は多価の構築物を形成することができる。2つ以上の特異性を有する免疫グロブリン単一可変ドメインを組み合わせることによって、二重特異的、三重特異的などの構築物を形成することができる。例えば、本発明による免疫グロブリン単一可変ドメインは、同じ標的に対して指向される2つ若しくは3つの免疫グロブリン単一可変ドメイン、又は、標的Aに対して指向される1つ若しくは2つの免疫グロブリン単一可変ドメインと標的Bに対して指向される1つの免疫グロブリン単一可変ドメインを含み得る。当業者が容易に想像することのできるこのような構築物及びその改変は、本明細書に使用されるような本発明のポリペプチドという用語によって全て包含される。
【0107】
さらに、本発明の方法で、タグ又は他の機能的な部分、例えば毒素、標識、放射性化学物質などを含む、融合させた免疫グロブリン配列も調製される。
【0108】
別の態様では、1つ以上の免疫グロブリン単一可変ドメイン(又はその適切な断片)を含むか又は実質的にからなる本発明のポリペプチドは、1つ以上の他の基、残基、部分、又は結合単位をさらに含み得る。このようなさらなる基、残基、部分、結合単位、又はアミノ酸配列は、免疫グロブリン単一可変ドメインに(及び/又はそれが存在するポリペプチドに)さらなる機能を提供しても提供しなくてもよく、免疫グロブリン単一可変ドメインの特性を改変しても改変しなくてもよい。
【0109】
例えば、このようなさらなる基、残基、部分、又は結合単位は、1つ以上の追加のアミノ酸であり得、よって該化合物、構築物、又はポリペプチドは、(融合)タンパク質又は(融合)ポリペプチドである。好ましいが非限定的な態様では、前記の1つ以上の他の基、残基、部分、又は結合単位は、免疫グロブリンである。さらにより好ましくは、前記の1つ以上の他の基、残基、部分、又は結合単位は、ドメイン抗体、ドメイン抗体としての使用に適したアミノ酸、単一ドメイン抗体、単一ドメイン抗体としての使用に適したアミノ酸、「dAb」、dAbとしての使用に適したアミノ酸、又はナノボディからなる群より選択される。
【0110】
あるいは、このような基、残基、部分、又は結合単位は、例えば、それ自体が生物学的に及び/又は薬理学的に活性であってもなくてもよい、化学基、残基、部分であり得る。例えばであって限定するものではないが、このような基を1つ以上の免疫グロブリン単一可変ドメインに連結させることにより、免疫グロブリン単一可変ドメインの「誘導体」を提供し得る。
【0111】
好ましいが非限定的な態様では、前記のさらなる残基は、本発明のポリペプチドに対するいわゆる「既存抗体」の結合を妨げるか又は減少させるのに有効であり得る。この目的のために、本発明のポリペプチド及び構築物は、C末端伸長(X)n(ここで、nは1~10、好ましくは1~5、例えば1、2、3、4、又は5(好ましくは1又は2、例えば1)であり;各Xは、独立して選択された、好ましくはアラニン(A)、グリシン(G)、バリン(V)、ロイシン(L)又はイソロイシン(I)からなる群より独立して選択された(好ましくは天然)アミノ酸残基である)を含有し得、これは、全て題名が「Improved immunoglobulin variable domains」である以下の同時係属中の米国仮出願:2014年5月16日に出願された米国特許第61/994552号、;2014年6月18日に出願された米国特許第61/014,015号;2014年8月21日に出願された米国特許第62/040,167号;及び2014年9月8日に出願された米国特許第62/047,560号(全てAblynx N.V.に帰属する)並びにこれらの仮出願に基づきかつ2015年11月19日に公開された国際出願の国際公開公報第2015/173325号を参照する。
【0112】
したがって、本発明の方法において、前記ポリペプチドはさらに、C末端伸長(X)n(ここで、nは1~5、例えば1、2、3、4、又は5であり、Xは、天然アミノ酸であり、好ましくはシステインを全く含まない)を含み得る。
【0113】
好ましい態様では、本発明の方法において発現される本発明のポリペプチドは、配列番号55を含むか又は実質的にからなる。特定の態様では、このようなポリペプチドは配列番号55からなる。
【0114】
上記のポリペプチドにおいて、1つ以上の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び1つ以上の基、残基、部分、又は結合単位を、互いに直接及び/又は1つ以上の適切なリンカー若しくはスペーサーを介して連結させ得る。例えば、1つ以上の基、残基、部分、又は結合単位がアミノ酸である場合、リンカーもアミノ酸であってもよく、よって得られたポリペプチドは融合タンパク質又は融合ポリペプチドである。
【0115】
本発明の1つの具体的な態様では、対応する免疫グロブリン単一可変ドメインと比較して延長された半減期を有する本発明のポリペプチドが調製される。例えばこのような半減期を延長させる部分を含む本発明のポリペプチドとしては、免疫グロブリン単一可変ドメインが1つ以上の血清タンパク質若しくはその断片(例えば(ヒト)血清アルブミン又はその適切な断片)に、又は、血清タンパク質に結合することのできる1つ以上の結合単位に適切に連結されているポリペプチド(例えば、ドメイン抗体、ドメイン抗体として使用するのに適したアミノ酸、単一ドメイン抗体、単一ドメイン抗体として使用するのに適したアミノ酸、「dAb」、dAbとして使用するのに適したアミノ酸、又は血清アルブミン(例えばヒト血清アルブミン)、血清免疫グロブリン(例えばIgG)若しくはトランスフェリンなどの血清タンパク質に結合することのできるナノボディ);免疫グロブリン単一可変ドメインがFc部分(例えばヒトFc)又はその適切な部分若しくは断片に連結されているポリペプチド;又は、1つ以上の免疫グロブリン単一可変ドメイン(群)が、血清タンパク質(例えば、国際公開公報第91/01743号、国際公開公報第01/45746号、又は国際公開公報第02/076489号に記載のタンパク質及びペプチであるがこれらに限定されない)に結合することのできる1つ以上の小型タンパク質若しくはペプチドに適切に連結されているポリペプチドが挙げられるがこれらに限定されない。
【0116】
一般的に、延長された半減期を有する本発明のポリペプチドは好ましくは、本発明の対応する免疫グロブリン単一可変ドメイン又はポリペプチド単独での半減期の、少なくとも1.5倍、好ましくは少なくとも2倍、例えば少なくとも5倍、例えば少なくとも10倍、又は20倍超である半減期を有する。
【0117】
好ましいが非限定的な態様では、このような本発明のポリペプチドは、本発明の対応する免疫グロブリン単一可変ドメイン又はポリペプチド単独と比較して、1時間以上、好ましくは2時間以上、より好ましくは6時間以上、例えば12時間以上、又はさらには24、48、若しくは72時間以上延長された血清中半減期を有する。
【0118】
別の好ましいが非限定的な態様では、このような本発明のポリペプチドは、ヒトにおいて少なくとも約12時間、好ましくは少なくとも24時間、より好ましくは少なくとも48時間、さらにより好ましくは少なくとも72時間又はそれ以上の血清中半減期を示す。例えば、本発明のポリペプチドは、少なくとも5日間(例えば約5~10日間)、好ましくは少なくとも9日間(例えば約9~14日間)、より好ましくは少なくとも約10日間(例えば約10~15日間)、又は少なくとも約11日間(例えば約11~16日間)、より好ましくは少なくとも約12日間(例えば約12~18日間又はそれ以上)、又は14日間以上(例えば約14~19日間)の半減期を有し得る。
【0119】
本発明の方法は、P.パストリスなどのピキアにおいて容易に発現可能ではないか、又はこれらの宿主での使用に適用可能な発現条件下で発現させた場合に非常に低い収量であり、そのために、P.パストリスなどのピキアにおいて本発明のこれらの免疫グロブリン単一可変ドメイン又はポリペプチドを発現させると十分な量を得ることができない、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドに特に適している。したがって、本発明の方法は、標準的なピキア発現条件下(本明細書において定義されているような)でピキア宿主(例えばP.パストリス)において発現させると低い収量が得られる、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドに特に適している。本発明に使用される「低い収量」は、得られる本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドの収量が、0.5g/L若しくはそれ以下、例えば0.4g/L若しくはそれ以下、0.3g/L若しくはそれ以下、0.2g/L若しくはそれ以下、0.1g/L若しくはそれ以下、0.05g/L若しくはそれ以下、0.01g/L若しくはそれ以下、又はさらに低い[培地1L(リットル)あたりの本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン又はポリペプチドのg(グラム)として表現される]ことを意味する。
【0120】
本発明の方法はまた、標準的なピキア発現条件下(本明細書において定義されているような)でピキア宿主(例えばP.パストリス)において発現させた場合に得られる収量が、前記免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドをコードしている核酸のコピー数とは逆相関(本明細書において定義されているような)を示す、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及びポリペプチドに特に適している。「逆相関」を示す収量とは、得られる該免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドの収量が、該免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドをコードしている1コピーを超える核酸を有するピキア宿主において該免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドを(本明細書に定義されているような標準的なピキア発現条件下で)発現させた場合に得られる該免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドの収量よりも、該免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドをコードしている1コピーの核酸を有するピキア宿主において該免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドを(本明細書に定義されているような標準的なピキア発現条件下で)発現させた場合の方がより高いことを意味する。
【0121】
本発明の方法に使用するのに好ましいポリペプチドとしては、配列番号49~54が挙げられる。この配列はまた、本発明の別々の態様を形成する。したがって、本発明はまた、配列番号49、50、51、52、53、54、55、又は56を有するポリペプチドにも関する。
【0122】
本発明の方法に使用するのに特に好ましい他のポリペプチドは、4つのフレームワーク領域(それぞれ、FR1~FR4)と3つの相補性決定領域(それぞれ、CDR1~CDR3)(ここで、CDR1は配列番号58であり、CDR2は配列番号60であり、CDR3は配列番号62である)から実質的になる免疫グロブリン単一可変ドメイン、例えば配列番号55又は56のアミノ酸配列を有する免疫グロブリン単一可変ドメインを含むか又は実質的にからなる。
【0123】
補助タンパク質
本明細書において使用する「補助タンパク質」という用語は、他の分子構造及び/又はタンパク質が、それらの生物学的機能を遂行する際に支援するが、これらの他の分子構造及び/又はタンパク質がそれらの通常の生物学的機能を遂行する時に、それ自体はこれらの他の分子構造及び/又はタンパク質の構造には出現しない、タンパク質を指す。補助タンパク質は、例えば、他の分子構造及び/又はタンパク質の、生物物理学的特性、薬理学的特性、及び/又は発現特性を改変し得る。以下に限定されないが、補助タンパク質は、他の分子構造及び/又はタンパク質を安定化させ得(例えば複合体の形成を通して)、それらは、他の分子構造及び/又はタンパク質の活性を調節し得、それらは他の分子構造及び/又はタンパク質の(表面)発現を増加させ得、並びに/あるいは、それらはフォールディング及び/又は会合を支援し得る。
【0124】
その発現が本発明の方法で増強される補助タンパク質は、機能的HAC1タンパク質である。HAC1タンパク質は、任意の種を起源とし得るが、好ましくは酵母起源、最も好ましくはサッカロマイセス由来の酵母、例えばサッカロマイセス属、コマガタエラ属(Komagataella)又はピキア(ハンゼヌラ)属由来の酵母、例えばサッカロマイセス・セレビシエ又はピキア・パストリスである。具体的な態様では、機能的HAC1タンパク質は「HAC1スプライシング型」又は「HAC1スプライシング型タンパク質」である(両用語は本明細書において互換的に使用される)。HAC1スプライシング型は、Guerfal et al. 2010(Microbial Cell Factories 9: 49)に記載のようなHAC1 mRNA上でのスプライシング事象(イントロンの除去)後に得られたHAC1タンパク質である。より具体的な態様では、HAC1スプライシング型タンパク質は、ピキア起源である。好ましい態様では、HAC1スプライシング型タンパク質は、Guerfal et al. 2010(Microbial Cell Factories 9: 49;配列番号14)に記載のような配列を有する。
【0125】
本発明の方法では、HAC1タンパク質に加えて、場合により、タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI1;EC5.3.4.1)、Kar2p及び保存リボソームタンパク質P0(RPP0)から選択された1つ以上の追加の補助タンパク質の発現が増強される。ピキア宿主におけるそれらの発現の増強が、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドの増加した収量を与える限り、これらの補助タンパク質はどのような種を起源としていてもよい。好ましい態様では、補助タンパク質は、真菌、例えば酵母;好ましくはサッカロマイセス由来の酵母、例えばサッカロマイセス属、コマガタエラ属、又はピキア(ハンゼヌラ)属に由来する酵母、例えばサッカロマイセス・セレビシエ又はピキア・パストリスを起源とする。
【0126】
好ましい態様では、補助タンパク質は、以下:
-P.パストリスのHAC1スプライシング型
【化4】
及び場合により、以下の1つ以上:
-P.パストリスのタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI1):
【化5】
-P.パストリスのKar2p:
【化6】
及び
-P.パストリスの60S酸性リボソームタンパク質P0(RPP0):
【化7】
から選択される。
【0127】
本発明の方法
本発明は、ピキア宿主において免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はそれを含むポリペプチドを発現及び/又は産生するための方法に関する。本発明の方法では、ピキア宿主におけるHAC1スプライシング型タンパク質の発現が増強される。本発明の方法は、以下の工程を含む:
a)ピキア宿主において、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドをコードしている核酸を発現させる工程;及び
b)該ピキア宿主において、HAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸(群)の発現を増強させる工程;
場合により続いて;
c)このようにして得られた本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドを単離及び/又は精製する工程。
【0128】
したがって、本発明の方法は、
a)ピキア宿主が増殖するような条件下で該ピキア宿主を培養する工程;
b)該ピキア宿主が本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドを発現及び/又は産生するような条件下で該ピキア宿主を維持する工程;及び
c)該ピキア宿主において、HAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸の発現を増強させる工程;
場合により続いて:
d)このようにして得られた本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドを培地から単離及び/又は精製する工程
を含む。
【0129】
本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドの発現を産生するために/得るために、形質転換されたピキア宿主は一般的に、本発明の(所望の)免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドが発現されるような/産生されるような条件下で保持、維持、及び/又は培養され得る。適切な条件は当業者には明らかであり、通常、使用されるピキア宿主株、並びに、本発明の(関連する)ヌクレオチド配列の発現を制御する調節配列に依存するだろう。
【0130】
一般的に、適切な条件としては、適切な培地の使用、適切な食物源及び/又は適切な栄養分の存在、適切な温度の使用、並びに場合により適切な誘導因子又は化合物の存在(例えば、本発明のヌクレオチド配列(群)が誘導性プロモーターの制御下にある場合)が挙げられ得;これらは全て、当業者によって選択され得る。ここでも、このような条件下、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドは、構成的に発現されても、一過性に発現されても、又は適切に誘導された場合にのみ発現されてもよい。
【0131】
ピキアにおける異種タンパク質の組換え産生のための培養条件は、例えば、Higgins and Cregg 1998(Eds, Methods in Molecular Biology, Pichia protocols, Volume 103, 2nd Ed., Humana Press)によって及びインビトロジェン(商標)(インビトロジェン(商標)ピキア発現キット;ピキア・パストリスにおける組換えタンパク質の発現用;カタログ番号K1710-01)によって記載されている。P.パストリスにおける免疫グロブリン単一可変ドメインの産生は、国際公開公報第94/25591号、国際公開公報第2010/125187号、国際公開公報第2012/056000号及び国際公開公報第2012/152823号に数多く記載されている。これらの文献の内容を、適切な培地及び条件をはじめとする一般的な培養技術及び方法に関連させてはっきりと言及する。これらの文書の内容は参照により組み込まれる。本発明はまた、当技術分野において記載されている具体的な条件、例えば国際公開公報第94/25591号、Gasser et al. 2006 (Biotechnol. Bioeng. 94: 535);Gasser et al. 2007(Appl. Environ. Microbiol. 73: 6499)、又はDamasceno et al. 2007(Microbiol. Biotechnol. 74: 381)に記載の一般的な培養法にも関する。
【0132】
ピキア、特にP.パストリスは、典型的には、炭素源としてグリセロールを使用して30℃の流加発酵で培養される。このような培地は一般的には、緩衝剤、グリセロール、微量元素及び水酸化アンモニウムを含む。緩衝剤の例としては、H3PO4、CaSO4・2H2O、K2SO4、MgSO4・7H2O、及びKOHが挙げられる(がこれらに限定されない)。一般的な増殖培地(例えば基礎塩類培地)は、(1Lあたり)26.7mLの85%H3PO4、0.93gのCaSO4・2H2O、18.2gのK2SO4、14.9gのMgSO4・7H2O、4.13gのKOH、40gのグリセロール、2mLの微量元素[6g/Lの硫酸銅・5H2O;0.8g/Lのヨウ化カリウム;3g/Lの硫酸マンガン・H2O;0.2g/Lのモリブデン酸ナトリウム・2H2O;0.2g/Lのホウ酸;0.5g/Lの硫酸銅;20g/Lの塩化亜鉛;65g/Lの硫酸鉄・7H2O;0.2g/Lのビオチン、及び5mLの濃硫酸から構成される]からなる。水酸化アンモニウム(NH4OH)は、pHの調節のために(例えばpH5)及び窒素源として使用される。流加培養期間中に、グリセロール(例えば50%v/v)を数時間かけて例えば15mL/L/hのフィード速度でフィードする。AOX1プロモーターを使用して、本発明の所望の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドをコードしている関心対象の遺伝子の発現を駆動する。本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドの発現は、4~10mL/L/h(例えば4mL/L/h)のメタノールフィード速度で30℃で実施される。これらの条件は本明細書において「標準的なピキア発現条件」とも称される。
【0133】
補助タンパク質の発現は、例えば強力なプロモーターなどの適切な制御配列の使用、及び/又は例えばそれぞれの遺伝子のコピー数を増加させることによって遺伝子の量を増加させることを含む、一般的に知られている手段によって増強させることができる。コピー数は、例えば、補助タンパク質の発現に適した遺伝子構築物(プラスミド又はベクター)を導入することによって増加させることができる。プラスミド又はベクターの追加の存在は、総コピー数を増加させるだろう。さらに、ピキア宿主ゲノムとは独立して増幅し得かつピキア宿主内に複数のコピーで存在する遺伝子構築物を使用してもよい。例えば、ピキア宿主細胞内に5~50のコピー数のマルチコピープラスミド又はベクターが存在し得る。
【0134】
プラスミド又はベクターによるピキア宿主の形質転換に加えて、ピキア宿主の染色体の形質転換も本発明に包含される。強力な(誘導性)プロモーター(天然補助タンパク質の天然プロモーターの代わりに)を宿主の染色体に導入しても;又は、別の(強力な)プロモーターの制御下にある別のコピーの補助タンパク質遺伝子配列を染色体に導入してもよい。当業者は、補助タンパク質の発現を増強させる多くの可能性を知っており、それらは全て本発明によって包含される。
【0135】
補助タンパク質(群)並びに本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドは、同じ又は異なる核酸から発現され得る。2つ以上のタンパク質の共発現は、同じ遺伝子構築物(プラスミド又はベクター又は宿主の染色体に組み込まれた)上の2つ以上のタンパク質の発現によって;又は、異なる遺伝子構築物(プラスミド又はベクター又は宿主の染色体に組み込まれた)上の2つ以上のタンパク質の発現によって達成され得る。
【0136】
同じ遺伝子構築物上で発現される場合、前記の2つ以上のタンパク質をコードしている核酸は好ましくは互いに隣に位置する。前記の2つ以上のタンパク質をコードしている核酸の転写は、1つのプロモーター(両方の遺伝子の前に位置する)によって制御されても;又は、前記の2つ以上のうち1つのタンパク質をコードしているそれぞれの核酸は、同じ又は異なるプロモーターであり得る、別々のプロモーターによって制御されていてもよい。
【0137】
異なる遺伝子構築物から発現される場合、本発明のポリペプチドをコードしている核酸の転写、及び1つ以上の補助タンパク質(群)をコードしている核酸の転写は、同じでも異なっていてもよい2つの別々のプロモーターによって制御されていてもよい。
【0138】
前記プロモーターは構成性プロモーターでも誘導性プロモーターでもよい。好ましい態様では、該プロモーターは誘導性プロモーターである。
【0139】
その発現が本発明の方法で増強される補助タンパク質の数は1(HAC1スプライシング型タンパク質)であっても、又は、1つを超えていても、例えば2、3、4、5、若しくはそれ以上であってもよい。好ましい態様では、その発現が本発明の方法で増強される補助タンパク質の数は1(HAC1スプライシング型タンパク質)である。
【0140】
別の好ましい態様では、その発現が本発明の方法で増強される補助タンパク質の数は2、3、4、又はさらにはそれ以上である。この好ましい態様では、HAC1スプライシング型タンパク質の発現は増強され、さらに1つ以上の追加の補助タンパク質の発現が増強される。追加の補助タンパク質は、当技術分野において利用可能及び/又は公知である任意の補助タンパク質であり得る。好ましくは、追加の補助タンパク質は、PDI1、Kar2p及びRPP0のいずれかから選択される。
【0141】
したがって、本発明の方法には、ピキア宿主における免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はそれを含むポリペプチドの発現及び/又は産生も包含され、HAC1スプライシング型タンパク質と、PDI1、Kar2p及びRPP0から選択された1つ以上の追加の補助タンパク質の発現が増強される。したがって、本発明はまた、以下の工程:
a)ピキア宿主において、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列を発現させる工程;
b)該ピキア宿主において、HAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸の発現と、PDI1、Kar2p及びRPP0から選択された補助タンパク質をコードしている1つ、2つ、3つ(又はそれ以上)の核酸の発現とを増強させる工程;
場合により続いて:
c)このようにして得られた本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドを単離及び/又は精製する工程
を含む方法にも関する。
【0142】
具体的な態様では、本発明の方法は、
a)ピキア宿主が増殖するような条件下で該ピキア宿主を培養する工程;
b)該ピキア宿主が本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドを発現及び/又は産生するような条件下で該ピキア宿主を維持する工程;及び
c)該ピキア宿主において、HAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸の発現と、PDI1、Kar2p及びRPP0から選択された補助タンパク質をコードしている1つ、2つ、3つ(又はそれ以上)の核酸の発現とを増強させる工程;
場合により続いて:
d)このようにして得られた本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドを培地から単離及び/又は精製する工程
を含む。
【0143】
したがって、本発明の方法のこの特定の態様では、以下の補助タンパク質(群)の組合せが増強され得る:
-PDI1及びHAC1スプライシング型;
-Kar2p及びHAC1スプライシング型;
-RPP0及びHAC1スプライシング型;
-PDI1、Kar2p及びHAC1スプライシング型;
-PDI1、RPP0及びHAC1スプライシング型;
-Kar2p、RPP0及びHAC1スプライシング型;並びに
-PDI1、Kar2p、RPP0及びHAC1スプライシング型。
【0144】
補助タンパク質の数が2つ以上である場合、補助タンパク質は、1つのプラスミド若しくはベクター上での2つ以上の補助タンパク質の発現などの、同じ遺伝子構築物の作用によって;又は、異なるプラスミド若しくはベクター上での2つ以上の補助タンパク質の発現によって発現され得る。プラスミド又はベクターによるピキア宿主の形質転換に加えて、ピキア宿主の染色体の形質転換も本発明に包含される。強力な(誘導性)プロモーター(天然補助タンパク質の天然プロモーターの代わりに)を、ピキア宿主の染色体に導入しても;別の(強力な)プロモーターの制御下にある別のコピーの補助タンパク質遺伝子配列を染色体に導入してもよい。同じ遺伝子構築物上で発現される場合、2つ以上の補助タンパク質は、同じプロモーターによって制御されても異なるプロモーターによって制御されてもよい。異なる遺伝子構築物から発現される場合、2つ以上の補助タンパク質は、同じであっても異なっていてもよい2つの別々のプロモーターによって制御され得る。該プロモーターは構成性プロモーターであっても誘導性プロモーターであってもよい。
【0145】
上記の方法の使用によって、本発明者らは、免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はそれを含むポリペプチドで時々観察される意外にも低い収量を増加させることができた。低い収量は、2つのジスルフィド架橋を含む免疫グロブリン単一可変ドメイン(及び/又はそれを含むポリペプチド)、VHH1型免疫グロブリン単一可変ドメインである免疫グロブリン単一可変ドメイン(及び/又はそれを含むポリペプチド)、及び/又は、標準的なピキア発現条件下でピキア宿主において発現させた場合に得られる収量が、該免疫グロブリン単一可変ドメイン(及び/又はそれを含むポリペプチド)をコードしている核酸のコピー数と逆相関を示す、免疫グロブリン単一可変ドメイン(及び/又はそれを含むポリペプチド)において特に観察された。
【0146】
したがって、本発明はまた、免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はそれを含むポリペプチドの(発現及び/又は産生)収量を増加させるための方法も提供し、これは以下の工程:
a)ピキア宿主において、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドをコードしている核酸を発現させる工程;及び
b)該ピキア宿主において、HAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸の発現を増強させる工程;
場合により続いて:
c)このようにして得られた本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドを単離及び/又は精製する工程
を含む。
【0147】
したがって、免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドの(発現及び/又は産生)収量を増加させるための方法は、
a)ピキア宿主が増殖するような条件下で該ピキア宿主を培養する工程;
b)該ピキア宿主が本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドを発現及び/又は産生するような条件下で該ピキア宿主を維持する工程;及び
c)該ピキア宿主において、HAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸の発現を増強させる工程;
場合により続いて:
d)このようにして得られた本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドを培地から単離及び/又は精製する工程
を含む。
【0148】
好ましい態様では、本発明の方法は、HAC1スプライシング型タンパク質の発現が増強されていない方法で得られた本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドの収量の2倍以上(好ましくは3倍又は4倍又はそれ以上、より好ましくは5倍、7.5倍、10倍、15倍、20倍、25倍、30倍、40倍、50倍又はさらにはそれ以上)である、本発明の同免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドの収量を提供する。
【0149】
したがって、好ましい態様では、本発明はまた、免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はそれを含むポリペプチドの(発現及び/又は産生)収量を増加させるための方法も提供し、これは以下の工程:
a)ピキア宿主において、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドをコードしている核酸を発現させる工程;及び
b)該ピキア宿主において、HAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸の発現を増強させる工程;
場合により続いて:
c)このようにして得られた本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドを単離及び/又は精製する工程
を含み、該方法は、HAC1スプライシング型タンパク質の発現が増強されていない方法で得られた本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドの収量の2倍以上(好ましくは3倍又は4倍又はそれ以上、より好ましくは5倍、7.5倍、10倍、15倍、20倍、25倍、30倍、40倍、50倍又はさらにはそれ以上)である、本発明の同免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドの収量を提供する。
【0150】
したがって、免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドの(発現及び/又は産生)収量を増加させるための方法は、
a)ピキア宿主が増殖するような条件下で該ピキア宿主を培養する工程;
b)該ピキア宿主が本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドを発現及び/又は産生するような条件下で該ピキア宿主を維持する工程;及び
c)該ピキア宿主において、HAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸の発現を増強させる工程;
場合により続いて:
d)このようにして得られた本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドを培地から単離及び/又は精製する工程
を含み、該方法は、HAC1スプライシング型タンパク質の発現が増強されていない方法で得られた本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドの収量の2倍以上(好ましくは3倍又は4倍又はそれ以上、より好ましくは5倍、7.5倍、10倍、15倍、20倍、25倍、30倍、40倍、50倍又はさらにはそれ以上)である、本発明の同免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドの収量を提供する。
【0151】
別の好ましい態様では、本発明の方法は、1g/L若しくはそれ以上、より好ましくは1.5g/L若しくはそれ以上、2g/L若しくはそれ以上、又はさらには2.5g/L若しくはそれ以上である、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドの収量を提供する。
【0152】
したがって、別の好ましい態様では、本発明はまた、免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はそれを含むポリペプチドの(発現及び/又は産生)収量を増加させるための方法も提供し、これは以下の工程:
a)ピキア宿主において、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドをコードしている核酸を発現させる工程;及び
b)該ピキア宿主において、HAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸の発現を増強させる工程;
場合により続いて:
c)このようにして得られた本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドを単離及び/又は精製する工程
を含み、該方法は、1g/L若しくはそれ以上、より好ましくは1.5g/L若しくはそれ以上、2g/L若しくはそれ以上、又はさらには2.5g/L若しくはそれ以上である、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドの収量を提供する。
【0153】
したがって、免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドの(発現及び/又は産生)収量を増加させるための方法は、
a)ピキア宿主が増殖するような条件下で該ピキア宿主を培養する工程;
b)該ピキア宿主が本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドを発現及び/又は産生するような条件下で該ピキア宿主を維持する工程;及び
c)該ピキア宿主において、HAC1スプライシング型タンパク質をコードしている核酸の発現を増強させる工程;
場合により続いて:
d)このようにして得られた本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドを培地から単離及び/又は精製する工程
を含み、該方法は、1g/L若しくはそれ以上、より好ましくは1.5g/L若しくはそれ以上、2g/L若しくはそれ以上、又はさらには2.5g/L若しくはそれ以上である、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドの収量を提供する。
【0154】
本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドは細胞外で産生され、ピキア宿主細胞が培養された培地から単離される。
【0155】
通常であって必ずしもではないが、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドは、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドを周辺質へと指向させる少なくとも1つの輸送シグナルを有するだろう。本発明において、ピキア宿主は、日常的な手段によって培養培地から除去され得る。例えば、ピキア宿主は、遠心分離又はろ過によって除去され得る。培養培地からのピキア宿主の除去によって得られた溶液は培養上清又は清澄化された培養上清とも称される。
【0156】
また、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドは、(まず)未成熟形(上記のような)で生成され得、次いで、使用されるピキア宿主に応じて翻訳後修飾にかけられ得ることが当業者には明らかであろう。また、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドは、ここでもまた使用されるピキア宿主細胞に応じてグリコシル化されていてもよい。
【0157】
本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドは、続いて、ピキア宿主から、及び/又は該ピキア宿主が培養された培地から、標準的な方法によって単離され得る。標準的な方法としては、クロマトグラフィー法、例えばサイズ排除クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、及びアフィニティクロマトグラフィーが挙げられるがこれらに限定されない。これらの方法は、単独で、あるいは、他の精製法、例えば分別沈降技術、ゲル電気泳動、親和性技術(例えば本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドに融合させた特異的で切断可能なアミノ酸配列を使用して)及び/又は免疫学的分取技術(すなわち、単離しようとする本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドに対する抗体を使用して)と組み合わせて実施され得る。当業者は、一般的な知識に基づいて免疫グロブリン単一可変ドメインについての適切な精製法の組合せを考案することができる。具体例については本明細書に引用された技術を参照する。
【0158】
免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はそれを含むポリペプチドは、プロテインAアフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー及びサイズ排除クロマトグラフィーの組合せによって培養上清から精製され得る。あらゆる「精製工程」への言及は、これらの特定の方法を含むがこれらに限定されない。より具体的には、免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はそれを含むポリペプチドは、清澄化された上清(遠心分離によって得られた)をプロテインA樹脂上に捕捉し;続いて、SOURCE15S(GEヘルスケア社)陽イオン交換クロマトグラフィー工程及びスーパーデックス75(GEヘルスケア社)サイズ排除クロマトグラフィー工程にかけるプロセスを使用して、培養上清から精製され得る。
【0159】
ピキア宿主の除去後、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドを、多種多様な適切な緩衝液中に存在させ得る。例としては、PBS、トリス-HCl、ヒスチジン又はリン酸緩衝液が挙げられるがこれらに限定されない。また、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドを生理食塩水中に存在させてもよい。
【0160】
一般的には、薬学的使用のために、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドは、少なくとも1つの本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドと、少なくとも1つの薬学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤及び/又は補助剤と、場合により1つ以上のさらなる薬学的に活性なポリペプチド及び/又は化合物とを含む、医薬調製物又は医薬組成物として製剤化され得る。非限定的な例を用いて、このような製剤は、経口投与、非経口投与(例えば静脈内注射、筋肉内注射、若しくは皮下注射、又は静脈内点滴による)、局所投与、吸入による、皮膚パッチによる、埋込剤による、坐剤による投与などに適した剤形であり得る。このような適した投与剤形(これは、投与法に応じて、固形、半固形、又は液体形であり得る)並びにその調製に使用するための方法及び担体は当業者には明らかであろう。
【0161】
本発明の核酸及び遺伝子構築物
本発明はまた、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチド並びにHAC1スプライシング型をコードしている核酸に関する。これらの核酸は本明細書において「本発明の核酸(群)」とも称される。
【0162】
本発明の核酸は、当業者には明らかであろうように、遺伝子構築物の形態であり得、遺伝子構築物中に存在し得、及び/又は遺伝子構築物の一部であり得る。このような遺伝子構築物は一般的に、それ自体公知である遺伝子構築物の1つ以上の配列、例えば1つ以上の適切な制御配列(例えば適切なプロモーター(群)、エンハンサー(群)、終結因子(群)など)及び本明細書に言及されている遺伝子構築物のさらに他の配列などに場合により連結されている、少なくとも1つの本発明の核酸を含む。少なくとも1つの本発明の核酸を含むこのような遺伝子構築物は本明細書において、「本発明の遺伝子構築物(群)」とも称される。したがって、本発明の遺伝子構築物は、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチド並びにHAC1スプライシング型を少なくともコードしている。
【0163】
本発明の核酸(群)及び遺伝子構築物(群)によってコードされる補助タンパク質の数は1(すなわちHAC1スプライシング型タンパク質)であっても、又は、1つを超えてもよく、例えば2つ、3つ、4つ、5つ、若しくはそれ以上であってもよい。好ましい態様では、本発明の核酸及び遺伝子構築物によってコードされる補助タンパク質の数は1(すなわちHAC1スプライシング型タンパク質)である。別の好ましい態様では、本発明の核酸(群)及び遺伝子構築物(群)によってコードされる補助タンパク質の数は、2又はそれ以上である。
【0164】
したがって、本発明はまた、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドと、2つ以上の補助タンパク質(HAC1スプライシング型タンパク質を含む)とをコードしている核酸又は遺伝子構築物を包含する。
【0165】
上記に考察されているように、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチド並びに補助タンパク質(群)は、1つの単一の核酸及び/又は遺伝子構築物から共発現されても;あるいは、異なる(別々の)核酸及び/又は遺伝子構築物(おそらく、宿主の染色体からの発現も含む)から共発現されてもよい。本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドをコードしている、並びに/あるいは補助タンパク質(群)をコードしている(1つの構築物として又は別々の構築物として)、これら全ての核酸及び/又は遺伝子構築物は、「本発明の核酸(群)」及び「本発明の遺伝子構築物(群)」という用語に包含される。
【0166】
本発明の核酸は、一本鎖又は二本鎖DNA又はRNAの形態であり得、好ましくは二本鎖DNAの形態である。例えば、本発明の核酸は、ゲノムDNA、cDNA、又は合成DNA(例えば、ピキア宿主細胞における発現に特に適応させたコドン使用頻度を有するDNAなど)であり得る。
【0167】
本発明の1つの実施態様によると、本発明の核酸は、本明細書において定義されているような実質的に単離された形態である。本発明の核酸はまた、例えばプラスミド、コスミド、若しくはYACなどのベクターの形態であり得るか、該ベクター内に存在し得るか、及び/又は該ベクターの一部であり得、これはここでも実質的に単離された形態であり得る。
【0168】
本発明の核酸は、発現させようとする免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチド並びに共発現のために使用される補助タンパク質(群)に関する情報に基づいて、それ自体公知である方法で調製することができるか又は得ることができる。また、当業者には明らかであろうように、本発明の核酸を調製するために、いくつかのヌクレオチド配列を、例えば、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドをコードしている少なくとも1つのヌクレオチド配列を、補助タンパク質をコードしている少なくとも1つのヌクレオチド配列と、適切な方法で互いに連結させてもよい。
【0169】
本発明の核酸を生成するための技術は当業者には明らかであり、例えば、これには自動DNA合成、部位特異的突然変異誘発、2つ以上の天然配列及び/又は合成配列(又は2つ以上のその部分)の組合せ、切断短縮された発現産物の発現をもたらす突然変異の導入、1つ以上の制限酵素部位の導入(例えば適切な制限酵素を使用して容易に消化及び/又は連結させ得るカセット及び/又は領域を作り出すために)、並びに/あるいは、1つ以上の「ミスマッチ」プライマーを使用したPCR反応を用いての突然変異の導入、が挙げられるがこれらに限定されない。これらの技術及び他の技術は当業者には明らかであり、ここでも、標準的なハンドブック、例えば本明細書に記載されているSambrook et al. and Ausubel et al.及び以下の実施例を参照する。
【0170】
本発明の遺伝子構築物はDNA又はRNAであり得、好ましくは二本鎖DNAである。本発明の遺伝子構築物はまた、ピキア宿主の形質転換に適した形態、ピキア宿主細胞のゲノムDNAへの組み込みに適した形態、あるいはピキア宿主における独立的な複製、維持及び/又は遺伝に適した形態であり得る。例えば、本発明の遺伝子構築物は、ベクター、例えばプラスミド、YAC、ウイルスベクター、又はトランスポゾンの形態であり得る。特に、該ベクターは、発現ベクター、すなわちピキア宿主において発現を与え得るベクターであり得る。
【0171】
好ましいが非限定的な実施態様では、本発明の遺伝子構築物は、
a)以下のb)に作動可能に接続された少なくとも1つの本発明の核酸、
b)1つ以上の制御配列、例えばプロモーター及び場合により適切な終結因子;
及び場合によりまた
c)それ自体公知である遺伝子構築物の1つ以上のさらなる配列
を含み、「制御配列」、「プロモーター」、「終結因子」及び「作動可能に接続された」という用語は、当技術分野におけるその通常の意味を有し(本明細書にさらに記載されているように);遺伝子構築物に存在する前記の「さらなる配列」は、例えば、3’-若しくは5’-UTR配列、リーダー配列、選択マーカー、発現マーカー/レポーター遺伝子、及び/又は形質転換若しくは組込み(の効率)を促進若しくは増加させ得る配列であり得る。このような遺伝子構築物のためのこれらの配列及び他の適切な配列は当業者には明らかであり、これは例えば、使用される構築物の種類、ピキア宿主株、関心対象の本発明のヌクレオチド配列を発現させようとする様式(例えば、構成的発現、一過的発現、又は誘導的発現を介して)、及び/又は使用しようとする形質転換技術に依存する。例えば、抗体及び抗体断片((単一)ドメイン抗体及びScFv断片を含むがこれらに限定されない)の発現及び産生のためのそれ自体公知である制御配列、プロモーター、及び終結因子は、実質的に同じような様式で使用され得る。
【0172】
好ましくは、本発明の遺伝子構築物において、前記の少なくとも1つの本発明の核酸及び前記の制御配列、及び場合により前記の1つ以上のさらなる配列は、互いに「作動可能に連結」され、これにより、それらは互いに機能的な関係にあることを一般的に意味する。例えば、プロモーターは、該プロモーターがコード配列の転写及び/又は発現を開始又は別様に制御/調節することができる場合に(該コード配列は、該プロモーターの「制御下」にあると理解されるべきである)、コード配列に「作動可能に連結されている」と判断される。一般的に、2つのヌクレオチド配列が作動可能に連結されている場合、それらは同じ方向であり、通常、同じ読み枠内にある。それらはまた通常、実質的に連続的であるが、これもまた要求されるわけでなない。本発明の1つの態様では、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列は、補助タンパク質(群)をコードしているヌクレオチド配列に作動可能に連結されている。それらは、同じプロモーターの制御下にあっても、又はそれらは各々、別々の(同じ又は異なる)プロモーターの制御下にあってもよい。
【0173】
発現のための核酸配列を設計、作製、若しくは得る方法、適切なベクターを構築し、核酸配列を該ベクターに挿入し、適切なピキア宿主株を選択し、該ベクターを該ピキア宿主株に導入し、ポリペプチド若しくはタンパク質の発現を引き起こすか若しくは可能とし、該ピキア宿主株から核酸を単離するか、又は核酸配列及び対応するタンパク質配列を同定する方法は、当技術分野における通常の技能を有する当業者には誰にも周知である標準的な方法(Sambrook et al. 1989)である。当業者はまた、一般的な知識に基づいて、ピキア宿主において本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドを発現させるのに適した遺伝子構築物を考案することができる。本発明はまた、当技術分野において記載されている遺伝子構築物、例えば、国際公開公報第94/25591号、Cereghino and Cregg 2000 (Curr. Opinion Biotechnol. 10: 422)、Gasser et al. 2006 (Biotechnol. Bioeng. 94: 535)、Gasser et al. 2007(Appl. Environ. Microbiol. 73: 6499)又はDamasceno et al. 2007(Microbiol. Biotechnol. 74: 381)に記載のプラスミド、プロモーター、及びリーダー配列にも言及する。
【0174】
好ましくは、本発明の遺伝子構築物の制御配列及びさらなる配列は、それらが、ピキア宿主においてその目的とする生物学的機能を与えることができるようなものである。
【0175】
例えば、プロモーター、エンハンサー、又は終結因子は、ピキア宿主において「作動可能」であるべきであり、これにより、(例えば)該プロモーターは、それが作動可能に連結されている(本明細書において定義されているように)ヌクレオチド配列、例えばコード配列の転写及び/又は発現を開始又は別様に制御/調節することができるはずであることを意味する。
【0176】
適切なプロモーター、終結因子、及びさらなる配列のいくつかの好ましいが非限定的な例としては、ピキア宿主における発現に使用することができるもの;特に、本明細書に記載されているもの及び/又は以下の実施例に使用されているものが挙げられる。
【0177】
いくつかの特に好ましいプロモーターとしては、ピキア宿主における発現のためにそれ自体公知であるプロモーター;特に、本明細書に記載されているもの及び/又は実施例に使用されているものが挙げられる。プロモーターの具体的な配列は、プロモーターの強度を決定する(「強力なプロモーター」は、高い転写開始率をもたらす)。補助タンパク質をコードしている核酸の発現が「強力なプロモーター」によって制御されていると言われる場合、それは、該補助タンパク質をコードしている核酸の発現が、天然補助タンパク質の転写開始を制御する天然プロモーターよりも高い転写開始率をもたらすプロモーターによって制御されていることを意味する。転写を「促進する」配列に加えて、プロモーターは、プロモーターの強度を制御するオペレーターとして知られる追加の配列を含み得る。例えば、プロモーターは、プロモーターへのRNAの結合を誘引又は妨害するタンパク質の結合部位を含み得る。このタンパク質の有無は、プロモーターの強度に影響を及ぼすだろう。このようなプロモーターは、調節プロモーターとして知られている。
【0178】
P.パストリスのアルコールオキシダーゼI(AOX1)プロモーターは、知られている中で最も強力で最も調節されているプロモーターの1つである。逆に、P.パストリスの第二のアルコールオキシダーゼ(AOX2)は、はるかに弱いプロモーターによって制御されている。P.パストリスのグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAP)プロモーターは、グルコース培地、グリセロール培地、及びメタノール培地上で恒常的に高いレベルの発現を与える(Waterham et al. 1997, Gene 186: 37)。P.パストリスのホルミルアルデヒドデヒドロゲナーゼ(FLD1)プロモーターは、メタノール又はメチルアミンのいずれかによって誘導され得、その発現レベルはメタノール中でAOX1プロモーターを用いて得られたのと同等である(Shen et al. 1998, Gene 216: 93)。ペルオキシン8(PEX8)プロモーターはグルコース上で低い発現を与え、細胞をメタノールに変更すると中程度に(約10倍)誘導される(Johnson et al. 1999, Genetics 151: 1379)。
【0179】
ハンゼヌラ・ポリモルファ(H.polymorpha)における強力なプロモーターは、メタノールオキシダーゼ遺伝子(MOX)、ギ酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(FMD)、及びジヒドロキシアセトンシンターゼ遺伝子(DHAS)に由来する配列を含む(Song et al. 2006, Biotechnol. Lett. 25: 1999)。ハンゼヌラ・ポリモルファにおける、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAP1)プロモーター(Sohn et al. 1999, Appl. Microbiol. Biotechnol. 51: 800)及びPMA1プロモーター(Cox et al. 2000, Yeast 16: 1191)は、構成的配列である。PMA1プロモーターは、高い発現レベルのためにMOXプロモーターと競合する。
【0180】
ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)のアルコールオキシダーゼ(AUG1)プロモーターであるP(MOD1)及びP(MOD2)は、メタノール(P(MOD1)及びP(MOD2))及びグリセロール(P(MOD1)のみ)によって強力かつ堅固に調節される(Nakagawa et al. 2006, Yeast 23: 15)。
【0181】
カンジダ・ボイディニイ(C.boidinii)由来の強力なプロモーターとしては、アルコールオキシダーゼ(AOD1)プロモーター及びジヒドロキシアセトンシンターゼ(DAS1)プロモーターが挙げられる(Yurimoto et al. 2000, Biochim. Biophys. Acta 1493: 56)。DAS1プロモーター及びギ酸デヒドロゲナーゼ(FMD)プロモーターのどちらも、カンジダ・ボイディニイ(Sakai et al. 1995, Appl. Microbiol. Biotechnol. 42: 860; 1996, Biochim. Biophys. Acta 1308: 81)及びハンゼヌラ・ポリモルファ(Hollenberg and Gellissen 1997, Curr. Opin. Biotechnol. 8: 554)において利用可能である。
【0182】
選択マーカーは、それが、すなわち適切な選択条件下で、本発明の核酸を用いて(成功裡に)形質転換されているピキア宿主細胞を、(成功裡に)形質転換されなかったピキア宿主細胞と区別することを可能とするようなものであるべきである。このようなマーカーのいくつかの好ましいが非限定的な例は、抗生物質(例えば、ゼオシン、ブラストサイジン、ジェネテシン(G418)、フレオマイシン、カナマイシン、又はアンピシリンなど)に対する抵抗性を与える遺伝子、温度に対する抵抗性を与える遺伝子、あるいは、ピキア宿主が、形質転換されていない細胞の生存にとって必須である培地中の特定の因子、化合物及び/又は(食物)成分の非存在下で維持されることを可能とする遺伝子である。
【0183】
リーダー配列は、ピキア宿主において、それが所望の翻訳後修飾及び/又は該細胞からの発現産物の分泌を可能とするようなものであるべきである。したがって、リーダー配列は、ピキア宿主において作動可能な任意のプロ配列、プレ配列、又はプレプロ配列であり得る。しかしながら、通常であって必ずしもではないが、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドは、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はタンパク質を周辺質へと指向させる少なくとも1つの輸送シグナルを有するだろう。例えば、抗体及び抗体断片(単一ドメイン抗体及びScFv断片を含むがこれらに限定されない)の発現及び産生のためのそれ自体公知であるリーダー配列は、実質的に同じような方法で使用され得る。
【0184】
いくつかの好ましいが非限定的な分泌配列としては、サッカロマイセス・セレビシエ由来のα-接合因子シグナル配列、P.パストリス由来の酸性ホスファターゼ(PHO1)シグナル配列、P.パストリス由来のホスファターゼ(pho1)リーダー配列、酵母インベルターゼの分泌シグナル(Suc)、ヒト血清アルブミンシグナルペプチド、シュワニオミセス・オクシデンタリス(S. occidentalis)由来のGAM1シグナル配列、及びヨーロッパミドリガニ(Carcinus maenas)由来の高血糖ホルモン(CHH)配列などが挙げられる。
【0185】
当業者はまた、ゲノムシークエンス実験から導かれた予測されたシグナルペプチドの使用を想定し得る。これらの予測されたシグナルペプチド配列は任意の種を起源とし得るが、好ましくは酵母起源であり、最も好ましくはサッカロマイセス由来の酵母、例えばサッカロマイセス属、コマガタエラ属、又はピキア属(ハンゼヌラ)由来の酵母、例えばサッカロマイセス・セレビシエ又はピキア・パストリスに由来する。P.パストリス由来のいくつかの好ましいが非限定的な予測されるシグナルペプチドは、De Schutter et al. 2009(Nature Biotech 27(6): 561-566)に記載されている。免疫グロブリン単一可変ドメインの生成のためのこのような予測されるシグナルペプチドの使用については、国際公開公報第2012/152823号をさらに参照する。
【0186】
また、生成される本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドの特性を改善するために、公知の又は予測される分泌配列を改変してもよい。このような改変は、例えば、プロセシング効率を改善することによって、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドの純度を改善し得る。プロセシング効率の改善のためのα-接合因子シグナル配列の改変は、例えば国際公開公報第2012/152823号に記載されている。
【0187】
発現マーカー又はレポーター遺伝子は、ピキア宿主において、それが遺伝子構築物(上に存在する遺伝子配列又はヌクレオチド配列)の発現の検出を可能とするようなものであるべきである。このようなレポーター遺伝子はまた、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドとのタンパク質融合体として発現されてもよい。いくつかの好ましいが非限定的な例としては、蛍光タンパク質、例えばGFP及びルシフェラーゼLUC)が挙げられる。
【0188】
本発明の遺伝子構築物は一般的に、例えば上記のSambrook et al.及びAusubel et al.などの一般的なハンドブックに記載された技術を使用して、上記の1つ以上のさらなる配列に、本発明の核酸及び/又はヌクレオチド配列(群)を適切に連結させることによって提供され得る。
【0189】
しばしば、本発明の遺伝子構築物は、それ自体公知である適切な(発現)ベクターに本発明の核酸配列又はヌクレオチド配列を挿入することによって得られるだろう。適切な発現ベクターのいくつかの好ましいが非限定的な例は、以下の実施例に使用されたもの、並びに、本明細書に記載されているものである。
【0190】
本発明の遺伝子構築物に使用するためのいくつかの好ましいが非限定的なベクターとしては、酵母又は他の真菌細胞における発現のためのベクター、例えばpYES2(インビトロジェン社)、pUR3515及びpUR3501(Sierkstra et al. 1991, Curr. Genet. 19: 81)、並びにピキア発現ベクター、例えば(以下に限定されないが)P.パストリスにおける発現のためのpPICZベクター、pPIC3.5、pPIC3.5K、pPIC6a、pPIC9、pPIC9K、pHIL-D2、pHIL-S1、インビトロジェン社によって提供されたP.メタノリカにおける発現のためのpMET、pMETαが挙げられる。ピキア発現ベクターの網羅的ではないリストについては、Daly and Hearn 2004 (J. Mol. Recognition 18: 119)、ピキアプロトコール2007(Ed. Cregg, 2nd Ed., Humana Press, NJ)及びGelissen 2000(Appl. Microbiol. Biotechnol. 54: 741)も参照する。
【0191】
また本発明には、補助タンパク質遺伝子(群)並びに/あるいは本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドをコードしているヌクレオチド配列を、適切なベクターにクローニングする工程を含む、本発明の核酸及び遺伝子構築物の調製法が包含される。
【0192】
本発明の核酸及び/又は本発明の遺伝子構築物を使用して、すなわち本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドの発現及び/又は産生のために、ピキア宿主を形質転換し得る。ピキア宿主を形質転換するのに適した技術は当業者には明らかであろう。ここでも、上記のハンドブック及び特許出願を参照する。形質転換手順に関するより詳しいことについては、インビトロジェン社のEasySelect(商標)ピキア発現マニュアル、Wu and Letchworth 2004(BioTechniques 36: 152)、ピキアプロトコール2007(Ed. Cregg, 2nd Ed., Humana Press, NJ)及びFaber 1994(Curr. Genet. 25: 305)を参照する。形質転換後、本発明のヌクレオチド配列/遺伝子構築物を用いて成功裡に形質転換されたピキア宿主細胞を検出及び選択するための工程を実施し得る。これは例えば、本発明の遺伝子構築物に存在する選択マーカーに基づいた選択工程、又は、例えば特異的抗体を使用した本発明のアミノ酸配列の検出を含む工程であり得る。
【0193】
したがって、本発明はさらに、本発明の遺伝子構築物又は核酸を含む、ピキア宿主細胞の調製に関する。当業者は、本発明の核酸又は遺伝子構築物をピキア宿主に日常的な措置によって、例えば形質転換によって導入することができる。次いで、当業者は、例えば補助タンパク質の発現を核酸レベル及び/又はタンパク質レベルでモニタリングすることによって、核酸又は遺伝子構築物を含む適切なピキア宿主細胞を選択することができる。満足できる発現レベルを有する株が選択されるだろう。高い発現の補助タンパク質が望ましいが、しかしながら、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドの発現と競合するほど高いものであるべきではない。これは日常的な方法によって決定され得る。
【0194】
形質転換されたピキア宿主細胞(これは、安定な細胞系の形態であり得る)は、本発明のさらなる態様を形成する。
【0195】
ピキア宿主
したがって、本発明はまた、上記のようなこのような遺伝子構築物又は核酸を含むピキア宿主にも関する。「ピキア宿主」及び「ピキア宿主細胞」という用語は互換的に使用され、球状、楕円形、又は長方形の尖鋭形細胞を有するサッカロマイセス科ピキア属(ハンゼヌラ及びヒフォピキア(Hyphopichia)は廃れた同義語である)の酵母を指す。ピキアはテレオモルフであり、有性生殖中に帽子形状、半球状、又は円形の子嚢胞子を形成する。いくつかのピキア種の無性世代はカンジダ種である。無性生殖は多側方性出芽による。
【0196】
本発明は、ピキア宿主に関するがこれに限定されず、ただしそれらは免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はそれを含むポリペプチドの産生に適したものである。本発明の目的のために、「ピキア宿主」という用語はまた、ハンゼヌラ種及びカンジダ種も含む。
【0197】
本発明のピキア宿主は、本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチド並びにHAC1スプライシング型タンパク質、並びに場合により1つ以上の追加の補助タンパク質(群)、例えばタンパク質ジスルフィドイソメラーゼ(PDI1)、Kar2p又は保存リボソームタンパク質P0(RPP0)を産生することができるだろう。それは典型的には、それが本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドをコードしている1つ以上の核酸を含むように、かつHAC1スプライシング型タンパク質の発現が増強されるように、遺伝子的に改変されているだろう。遺伝子的改変の非限定的な例としては、例えばプラスミド若しくはベクターを用いての形質転換、又はウイルスベクターを用いての形質導入が挙げられる。いくつかの宿主は、融合技術によって遺伝子的に改変されてもよい。遺伝子的改変としては、宿主への別々の核酸分子、例えばプラスミド又はベクターの導入、並びに、例えば宿主の染色体への組み込みによる、例えば相同的組換えによる宿主の遺伝子材料の直接的改変が挙げられる。しばしば、両方の組合せが起こり、例えば宿主をプラスミドを用いて形質転換すると、このプラスミドは、相同的組換えにより(少なくとも部分的に)宿主の染色体に組み込まれるだろう。当業者は、宿主が本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドを産生することを可能とする、宿主の適切な遺伝子的改変法を知っている。
【0198】
適切なピキア宿主は当業者には明らかであり、これは、例えばピキア、ハンゼヌラ、又はカンジダ、例えばメタノトローフ酵母、例えばピキア・パストリス、ピキア・メタノリカ、ハンゼヌラ・ポリモルファ(ピキア・アングスタ(Pichia angusta))及びカンジダ・ボイディニイが挙げられるがこれらに限定されない酵母であり得る。ピキア株の網羅的ではないリストについては、例えば、Gelissen 2000(Appl. Microbiol. Biotechno. 54: 741)を参照する。限定するものではないが、P.パストリス株は、Daly and Hearn 2004(J. Mol. Recognition, 18: 119)及びピキアプロトコール2007(Ed. Cregg, 2nd Ed., Humana Press, NJ)に列挙されている。P.パストリス株の例としては、インビトロジェン社によって提供され、Cereghino and Cregg 2004(FEMS Microbiol. Rev. 24: 45))によって、Macauley-Patrick et al. 2005(Yeast 22: 249)及び/又はDamasceno et al. 2007 (Appl. Microbiol. Biotechno. 74: 381)によって記載された、X33、GS115、KM71、KM71H、SMD1163、SMD1165、SMD1168、SMD1168H、NRRL-Y11430、GS200が挙げられる(がこれらに限定されない)。
【0199】
ハンゼヌラ・ポリモルファ株の例としては、A16(Veale et al. 1992, Yeast 8: 361)、GF16(Faber 1994, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 12985)、CBS4732(CCY38-22-2;ATCC34438、NRRL-Y-5445)、DL-1(NRRL-Y-7560;ATCC26012)、及びNCYC495株(CBS1976;ATAA14754、NRLL-Y-1798)が挙げられる(がこれらに限定されない)。
【0200】
P.メタノリカ株の例としては、インビトロジェン社によって提供されたPMAD11及びPMAD16が挙げられる(がこれらに限定されない)。P.メタノリカ株(IAM12901及びIAM12481)及びC.ボイディニイ株(IAM12875)が、Nakagawa et al. 1996(J. Fermentation Bioeng. 81: 498)によって記載されている。
【0201】
また、本明細書において上記に引用された一般的な背景技術、並びに、例えば国際公開公報第94/29457号、Frenken et al. 1998(Res. Immunol. 149: 589)、van der Linden 2000(J. Biotechnol. 80: 261)、Joosten et al. 2003(Microb. Cell Fact. 2: 1)及び本明細書に引用されたさらなる文献も参照する。
【0202】
工業的規模での生産について、免疫グロブリン単一可変ドメインを含有するタンパク質治療薬の(工業的)生産のために好ましい異種宿主としては、大規模な発現/生産/発酵、特に大規模な医薬品の発現/生産/発酵に適している、ピキア・パストリス株が挙げられる。このような株の適切な例は当業者には明らかであろう。このような株及び産生/発現系もまた、アビシア・バイオロジクス社(ビリンガム、ノース・イースト・イングランド、英国)、バイオミーバ有限会社(ハイデルベルク、ドイツ)、PharmedArtis有限会社(アーヘン、ドイツ)、Richter-Helm社(ハンブルク、ドイツ)、及びCMCバイオロジクス社(コペンハーゲン、デンマーク)などの会社によって入手可能となっている。
【0203】
本発明はまた、本発明のピキア宿主細胞のさらに他の世代、後代、及び/又は子孫も含み、これは例えば細胞分裂によって得ることができる。
【0204】
医薬調製物
本発明はまた、本明細書に記載のような本発明の方法によって得ることのできる本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドにも関する。
【0205】
したがって、本発明はまた、本発明の方法によって得ることのできる本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドを含む、医薬調製物及び他の組成物にも関する。本発明はまた、本発明の方法によって得ることのできる本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドの医療使用にも関する。
【0206】
当業者は、一般的な知識に基づいて薬学的に適切な製剤を容易に製剤化することができる。さらに、本明細書に引用されている、免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はナノボディを特に扱う文献を明示的に参照する。限定するものではないが、鼻腔内、口腔内、静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内、膣内、直腸適用、局所適用、又は吸入による適用のための製剤を含む、標準的な適用経路用の製剤が調製され得る。
【0207】
本発明に基づいて、当業者は、本発明の方法によって得ることのできる治療有効量の本発明の免疫グロブリン単一可変ドメイン及び/又はポリペプチドの使用によって特徴付けられる、適切な処置法を容易に考案することもできる。
【0208】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明され、これは決してさらなる限定と捉えられるべきではない。本出願全体を通して引用された全ての文献(参考文献、交付済み特許、公開特許出願、及び同時係属中の特許出願を含む)の全内容が、特に本明細書で上記に参照された教義について、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0209】
実施例
実験章は、ピキア・パストリスにおける一価及び多価の免疫グロブリン単一可変ドメインの発現時に、驚くべきことに低い収量が観察されたことを記載する。本発明者らはまた、1コピーを超える発現カセットがP.パストリスのゲノム内に存在する場合には収量はさらに減少することを観察した。また、HAC1スプライシング型の発現を増強させることによって、該免疫グロブリン単一可変ドメインの発現収量を増加させるための方法も記載する。
【0210】
実施例1:ピキア・パストリスにおけるナノボディの発現を増加させる、補助タンパク質の同定
1.1 発現ベクターの構築
国際公開公報第2013/045707号に配列番号7として以前に記載されたナノボディAは、重鎖ラマ抗体の2つの配列の最適化された可変ドメインからなる二価ナノボディである。ナノボディAにおけるN末端サブユニットはVHH1型免疫グロブリン単一可変ドメインであり、c-Metへの結合に特異的であるが、C末端サブユニットはヒト血清アルブミン(HSA)に結合する。該サブユニットは9G/Sリンカーを用いて頭部と尾部が融合している。ナノボディAの配列(配列番号49)は表A-1に示されている。ナノボディAは、P.パストリスにおいて発酵させると非常に低い収量(0.2g/L又はそれ以下)をもたらすことが以前に示された。
【0211】
ナノボディAのコード情報を含有しているDNA断片を、ブラストサイジン(商標)耐性遺伝子マーカーを含有するピキア発現ベクター(pPIC6aの誘導体、インビトロジェン社)のマルチクローニングサイトに、ナノボディ配列がaMFシグナルペプチド配列の下流かつ読み枠内となるようにクローニングした。ゲノム内に1コピー数を超える発現カセットを有するピキアクローンを生成するために、ピキア発現ベクター内の独特なBglII部位を使用して、ナノボディAの第二の発現カセットを導入した。
【0212】
表A-2に示される補助タンパク質のコード配列を、ゼオシン(商標)耐性遺伝子マーカーを含有しているピキア発現ベクター(pPICZaの誘導体、インビトロジェン社)に(制限酵素のBstBI及びNotIを使用して)クローニングした。そのコード配列内にBstBI部位を含有している補助タンパク質を、制限酵素のAfeI及びNotIを使用してクローニングした。pPIC6a及びpPICZaベクター内のナノボディ及び補助タンパク質は両方共に、AOX1メタノール誘導性プロモーターの制御下にあった。
【0213】
1.2 ナノボディコード配列の形質転換、並びにピキア宿主における該ナノボディの発現及び分泌
野生型ピキアX33の形質転換及び発現研究を、標準的な技術によって及び「User manual for pPicZalphaA, B and C」(バージョンD、110801、マニュアル部分の番号25-0148:インビトロジェン社)及びMethods in Molecular Biology 2007(Humana Press Inc.)に従って実施した。まず、P.パストリス株を、ナノボディAの単一の又は2つの発現カセットを有する適切な発現ベクターを用いて形質転換した。形質転換体を、ブラストサイジン(商標)を含有している選択培地上で増殖させた。多くの個々のコロニーをqPCRによって特徴付けることにより、ゲノムに組み込まれた1コピーの発現ベクターを有するクローン、及びゲノムに組み込まれた1コピーを超えるの発現カセットを有するクローンを選択した。ナノボディの発現及び培地中への分泌を確認した(
図1)。
【0214】
1.3 補助タンパク質コード配列の形質転換、並びにピキア・パストリスにおけるナノボディの発現及び分泌
一旦、適切なナノボディを発現しているコロニーが同定されたら、その接種菌液をコンピテント細胞として増幅及び調製した。次いで、これらの細胞を、表A-2で示された22個の補助タンパク質を含有している発現ベクターライブラリーを用いて形質転換した。形質転換体を、様々な選択マーカー(ゼオシン(商標))を含有している選択培地上で増殖させ、このようにして、関心対象のナノボディ及び表A-2の1つ以上の補助タンパク質の両方を含有している共形質転換体が得られた。振盪フラスコでの発現を、5mLのBMCM培地の培養液中で実施し、ピキアプロトコール(例えば、Methods in molecular biology 2007, Humana Press Inc.を参照)に記載されているようなメタノールの添加によって誘導した。
【0215】
各々の設定において、1128個のクローンを、改善された発現についてスクリーニングし、ゲノムに組み込まれたたった1コピーの又は1コピーを超えるナノボディ発現カセットを含有しているが、1つ以上の補助タンパク質をコードしている発現ベクターは含まないそれらの対応する基準クローンと比較した。各々の設定において、本発明者らは、それらの基準クローンより有意により高い収量を有する2つのクローンを発見した。クローン6H1及び4C2は、ゲノムに組み込まれた1コピーのナノボディコード配列を有し(コピー数=1)、クローン5A6及び9C4は、ゲノムに組み込まれた1コピーを超えるナノボディコード配列を有していた(コピー数>1)(
図2)。
【0216】
1.4 発現収量に対してプラスの効果を及ぼす補助タンパク質の同定
P.パストリスにおけるナノボディの発現収量に対してプラスの効果を発揮する補助タンパク質の同定は、配列特異的PCRプライマーを使用したゲノムDNA PCRを用いて実施された。使用されたプライマーのリストを表A-3に示す。同定された補助タンパク質を表1に示す。
【0217】
【0218】
1.5 様々なクローンの発現収量の決定
ナノボディ/補助タンパク質(群)の共形質転換体の発現収量を、培地中に発現及び分泌されたナノボディの収量の定量によって、発現実験における対照(1つ以上の補助タンパク質(群)の発現の増強を伴わないナノボディ形質転換体)の発現収量と比較した。標準的な流加発酵条件を使用した。グリセロール流加培養を実施し、メタノールの添加によって誘導を開始した。生産を、2Lの規模でpH6で30℃で複合培地中で4ml/L/hのメタノールフィード速度で実施した。
【0219】
試料をSDS-PAGE分析にかけた。タンパク質の相対的定量は、クーマシーで染色されたSDS-PAGEの濃度スキャン測定を用いて実施された(表2)。
【0220】
【0221】
クローン4C2及び6H1は、それらの基準クローン(ゲノムに組み込まれた1コピー数の発現カセット)と比較して、発現の顕著な増加を示した。この発現の増加は、両方のクローンに存在するPDI1の共発現の結果のようであった。同様に、クローン5A6及び9C4は、それらの基準クローンと比較して、収量の巨大な増加を示した。クローン5A6及び9C4の両方において発現されていた補助タンパク質は、Kar2p、RPP0及びHAC1スプライシング型である。そうした補助タンパク質が、ナノボディAの改善された発現に関与している可能性が最も高い。興味深いことに、クローン4C2の発現レベルは、クローン6H1よりも顕著により高く、これは、Kar2p及びHAC1スプライシング型の共発現の結果のようであり、これらはまた、最も高い発現を示すクローンである5A6及び9C4にも存在している。最も高い収量を示したクローンは全て、HAC1スプライシング型を共発現していた(表1及び2)。
【0222】
実施例2:個々の補助タンパク質の発現を増強させた場合のナノボディAの収量の評価
個々の補助タンパク質PDI1、Kar2p、RPP0及びHAC1スプライシング型を、実施例1.3に記載のようなゲノム内に1コピーを超えるナノボディ発現カセットを有する基準クローンに形質転換した。形質転換体を、ゼオシン(商標)を含有している選択培地上で増殖させた。ナノボディAと特定の補助タンパク質の両方を含有している共形質転換体が得られた。振盪フラスコでの発現を、5mLのBMCM培地の培養液中で実施し、ピキアプロトコール(例えば、Methods in molecular biology 2007, Humana Press Inc.を参照)に記載されているようなメタノールの添加によって誘導した。タンパク質の相対的定量は、クーマシーで染色されたSDS-PAGEの濃度スキャン測定を用いて実施された(
図3)。補助タンパク質の1つを共発現している全てのクローンが、ナノボディAの収量の有意な増加を示した。ここでも、本発明者らは、HAC1スプライシング型を含有しているクローンが、収量の最大の改善を示したことを観察した。
【0223】
実施例3:個々の補助タンパク質の発現を増強させた場合のナノボディBの収量の評価
3.1 発現ベクターの構築
ナノボディBは、重鎖ラマ抗体の3つの配列の最適化された可変ドメインからなる三価ナノボディである。ナノボディB内のサブユニットは、VHH1型免疫グロブリン単一可変ドメインではなく、ヒト血清アルブミン(HSA)に結合しない。該サブユニットは、35G/Sリンカーを用いて頭部と尾部が融合している。ナノボディBは、P.パストリスにおいて発酵させると非常に低い収量(0.29g/L又はそれ以下)を与えることが示された。
【0224】
ナノボディBのコード情報を含有しているDNA断片を、ゼオシン(商標)耐性遺伝子マーカーを含有しているピキア発現ベクター(pPpT4_Alpha_Sの誘導体:Naatsaari et al. 2012, PLoS One 7: e39720)のマルチクローニングサイトに、ナノボディ配列が、aMFシグナルペプチド配列の下流かつ読み枠内となるようにクローニングした。補助タンパク質のHAC1スプライシング型、Kar2p、PDI1及びRPP0のコード配列を、ブラストサイジン(商標)耐性遺伝子マーカーを含有しているピキア発現ベクターにクローニングした。ナノボディと補助タンパク質の両方が、AOX1メタノール誘導性プロモーターの制御下にあった。
【0225】
3.2 形質転換
個々の補助タンパク質のPDI1、Kar2p、RPP0及びHAC1スプライシング型を、ピキア・パストリス株のNRRL Y-11430(ATCC番号76273)に形質転換した。形質転換体を、ブラストサイジン(商標)を含有している選択培地上で増殖させた。単一のクローンを単離し、続いて、ナノボディBを用いて形質転換した。
【0226】
3.3 個々のクローンの発現収量の決定
発現分析を、実施例1.5に記載のように実施した。タンパク質の相対的定量は、クーマシーで染色されたSDS-PAGEの濃度スキャン測定を用いて実施された(表3)。HAC1スプライシング型補助タンパク質を共発現しているクローンのみが、ナノボディBの収量の大きな増加を示し、ここでも、補助タンパク質のHAC1スプライシング型の増強された発現が、収量を最も効果的に改善することを示す。
【0227】
【0228】
実施例4:個々の補助タンパク質の発現を増強させた場合の良好な発現を示すナノボディCの収量の評価
ナノボディCは、重鎖ラマ抗体の2つの配列の最適化された可変ドメインからなる二価ナノボディである。ナノボディC内のサブユニットは、VHH1型免疫グロブリン単一可変ドメインではない。C末端サブユニットはヒト血清アルブミン(HSA)に結合する。該サブユニットは、35G/Sリンカーを用いて頭部と尾部が融合している。個々の補助タンパク質のPDI1、Kar2p、RPP0及びHAC1スプライシング型は、実施例3に記載のようにクローニングされ、ピキア・パストリス株のNRRL Y-11430に形質転換された。形質転換体を、ブラストサイジン(商標)を含有している選択培地上で増殖させた。単一のクローンを単離し、続いて、ナノボディCを用いて形質転換した。発現分析を実施例1.5に記載のように実施した。タンパク質の相対的定量は、クーマシーで染色されたSDS-PAGEの濃度スキャン測定を用いて実施された(表4)。
【0229】
HAC1スプライシング型と補助タンパク質とを共発現しているクローンのみが、ナノボディCの収量の有意な増加を示した。このことはここでも、補助タンパク質のHAC1スプライシング型の増強された発現が、ナノボディの収量の改善に最も効果的であることを示す。このことは、補助タンパク質のHAC1スプライシング型の増強された発現がまた、良好な発現を示すナノボディの収量も増加させることができることを示す。
【0230】
【0231】
実施例5:補助タンパク質のHAC1スプライシング型の発現を増強させた場合の様々なナノボディ(ナノボディD、ナノボディE、ナノボディF、ナノボディG、及びナノボディH)の発現収量の評価
ナノボディDは、重鎖ラマ抗体の2つの配列の最適化された可変ドメインからなる二価ナノボディである。ナノボディD内のN末端サブユニットはVHH1型免疫グロブリン単一可変ドメインであり、c-Metへの結合に対して特異的であるが、C末端サブユニットはヒト血清アルブミン(HSA)に結合する。該サブユニットは9G/Sリンカーを用いて頭部と尾部が融合し、C末端Flag3-His6エピトープタグを含有している。ナノボディDの配列(配列番号50)を表A-1に示す。ナノボディEは、重鎖ラマ抗体の3つの配列の最適化された可変ドメインからなる三価ナノボディである。ナノボディE内のC末端サブユニットはVHH1型免疫グロブリン単一可変ドメインであるが、中央のサブユニットはヒト血清アルブミン(HSA)に結合する。該サブユニットはG/Sリンカーを用いて頭部と尾部が融合し、C末端Flag3-His6エピトープタグを含有している。ナノボディEの配列(配列番号51)を表A-1に示す。ナノボディFは、重鎖ラマ抗体の3つの配列の最適化された可変ドメインからなる三価ナノボディである。ナノボディF内のC末端サブユニットはVHH1型免疫グロブリン単一可変ドメインである。ナノボディF内のサブユニットはヒト血清アルブミン(HSA)に結合しない。該サブユニットは35G/Sリンカーを用いて頭部と尾部が融合し、C末端Flag3-His6エピトープタグを含有している。ナノボディFの配列(配列番号52)を表A-1に示す。ナノボディG及びHは、重鎖ラマ抗体の4つの配列の最適化された可変ドメインからなる四価ナノボディである。ナノボディG及びH内のC末端サブユニットはVHH1型免疫グロブリン単一可変ドメインであるが、中央のサブユニットの1つはヒト血清アルブミン(HSA)に結合する。該サブユニットは35G/Sリンカーを用いて頭部と尾部が融合している。ナノボディG及びHの配列(それぞれ配列番号53及び配列番号54)を表A-1に示す。ナノボディIはTNFに特異的に結合する一価ナノボディである。ナノボディIは、C末端伸長として1つのアラニン残基をさらに含む、1つの配列の最適化された可変ドメインから実質的になる。ナノボディIは、VHH1型免疫グロブリン単一可変ドメインではない。ナノボディIの配列(配列番号55)を表A-1に示す。
【0232】
個々の補助タンパク質のHAC1スプライシング型を3.1に記載のようにクローニングし、ピキア・パストリス株NRRL Y-11430に形質転換した。形質転換体を、ブラストサイジン(商標)を含有している選択培地上で増殖させた。単一のクローンを単離し、続いてナノボディD、E、F、G又はHを用いて形質転換した。発現分析を、実施例1.5に記載のように実施した。タンパク質の相対的定量は、クーマシーで染色されたSDS-PAGEの濃度スキャン測定を用いて実施された(表5)。HAC1スプライシング型補助タンパク質の発現の増強は、全てのナノボディの収量を改善した。このことはここでも、補助タンパク質のHAC1スプライシング型の発現の増強が、ナノボディの収量を効果的に改善することを実証する。
【0233】
【0234】
【0235】
【0236】
【0237】
【配列表】