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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】物品搬送装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/243 20240101AFI20240820BHJP
   G05D 1/228 20240101ALI20240820BHJP
   G05D 1/244 20240101ALI20240820BHJP
   G05D 1/622 20240101ALI20240820BHJP
   G05D 1/633 20240101ALI20240820BHJP
   G05D 1/693 20240101ALI20240820BHJP
   G05D 105/45 20240101ALN20240820BHJP
   G05D 107/70 20240101ALN20240820BHJP
   G05D 109/10 20240101ALN20240820BHJP
   G05D 111/10 20240101ALN20240820BHJP
【FI】
G05D1/243
G05D1/228
G05D1/244
G05D1/622
G05D1/633
G05D1/693
G05D105:45
G05D107:70
G05D109:10
G05D111:10
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019002267
(22)【出願日】2019-01-10
(65)【公開番号】P2020112959
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-02-05
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003643
【氏名又は名称】株式会社ダイフク
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】進 武士
(72)【発明者】
【氏名】中江 哲史
【合議体】
【審判長】渋谷 善弘
【審判官】田々井 正吾
【審判官】大山 健
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-053644(JP,A)
【文献】特開2001-202497(JP,A)
【文献】特開2018-027772(JP,A)
【文献】国際公開第2015/122389(WO,A1)
【文献】特開2000-207695(JP,A)
【文献】特開平08-334326(JP,A)
【文献】特開2006-103528(JP,A)
【文献】特開2000-255319(JP,A)
【文献】特開平11-301365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/00 - 1/87
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線区画およびカーブ区画を含む予め定められた搬送経路をなすレールに沿って走行して物品を搬送する複数の物品搬送装置であって、
前記物品を保持する搬送本体部と、前記搬送本体部の正面前方を撮影する正面撮影装置と、前記搬送本体部の左側前方を撮影する左側撮影装置と、前記搬送本体部の右側前方を撮影する右側撮影装置と、を備え、
前記物品搬送装置のそれぞれの前記搬送本体部の背面に、予め定められた特定形状の検出マーカが設けられたマーカ板が取り付けられており、
前記正面撮影装置、前記左側撮影装置、前記右側撮影装置は、共通の取付板に予め定められた配置と角度で固定されて取り付けられており、
前記正面撮影装置は、同じ正面方向を向いていながらも前記正面方向に対して交差する方向にずらした位置に配置されている複数のカメラ装置と正面画像処理装置を有し、
前記正面画像処理装置は、前記複数のカメラ装置のいずれかによる撮影画像に前記特定形状が含まれている場合には、他のカメラ装置の撮影画像との比較に依らず正面前方に他の物品搬送装置が存在すると判定し、撮影画像内における前記特定形状の大きさに基づき自身が属する物品搬送装置と正面前方における他の物品搬送装置との間の距離を算出し、
前記正面画像処理装置は、前記複数のカメラ装置による撮影画像に前記特定形状が含まれていない場合には、予め登録された、障害物として想定される物体の形状または色彩を用いて、または、障害物が存在しない場合に撮影される基準画像と前記複数のカメラ装置による撮影画像との差を用いて、正面前方における障害物の有無を判定するとともに、前記複数のカメラ装置によって撮影された撮影画像同士の比較に基づき自身が属する物品搬送装置と正面前方における障害物との間の距離を算出し、
前記左側撮影装置と前記右側撮影装置は、前記搬送本体部が前記直線区画から前記カーブ区画へと移行する領域において、その曲がり方向に対応する左側前方または右側前方を撮影して、その撮影画像に基づき前記搬送本体部の左側前方または右側前方における障害物の有無を判定し、
前記物品搬送装置は、前記正面画像処理装置によって算出された前方の障害物または他の物品搬送装置との距離が予め定められた閾値以下である場合、および、前記左側撮影装置または前記右側撮影装置によって左側前方または右側前方に障害物が存在すると判定された場合に、少なくとも走行速度を低下させて障害物との衝突を回避すること
を特徴とする物品搬送装置。
【請求項2】
前記左側撮影装置と前記右側撮影装置は、搬送経路内に予め定められたカーブ移行領域においてのみ撮影を行うこと
を特徴とする請求項に記載の物品搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は搬送経路に沿って物品を搬送する物品搬送装置に関するものであり、特に搬送経路に直線区画とカーブ区画とが含まれる物品搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば工業製品の製造設備などにおいて、設備内に敷設された搬送経路に沿って物品を搬送する物品搬送装置が用いられることがある。こうした物品搬送装置においては、走行中にその走行方向前方に障害物が存在しないことを確認する必要がある。また搬送経路上で複数の物品搬送装置が走行する場合、前方の物品搬送装置と衝突しないようにするためにも、前方に走行を阻害する何らかの物体が存在しないかを検出する必要がある。
【0003】
従来の物品搬送装置では、例えば特許文献1に記載されているように、前方監視センサとして、扇状のビーム光を放射する光学式反射センサが物品搬送装置(OHTビークルなど)の前面に設けられる。この光学式反射センサは予め定められた照射領域にビーム光を照射し、その反射光に基づき照射領域内に存在する前方の障害物を検出するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-132347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の物品搬送装置において障害物検出のために用いられる前述のような光学式反射センサは、ビーム光を扇状に放射するために、光源の向きを変化させる駆動機構を必要とする。すなわち、レーザ装置などの点光源は扇状の範囲全体に対して一度に照射を行うことはできないため、ある一点での検出が完了した後、照射角度を切り替えて別の点で検出を行うという動作を何度も繰り返す必要がある。
【0006】
このような光源の照射角度切り替えにはモータなどの駆動機構を用いて機械的な動きを行う必要があるため、使用のたびに摩擦などにより装置の機構が損耗していく。そのため、従来の光学式反射センサを用いた障害物検出機構は機構の寿命が短いという問題があった。
【0007】
また従来の光学式反射センサを用いた障害物検出機構は光の照射、反射光の受光、照射角度の切り替え、反射光に基づく障害物検出、と多数の動作を行うため部品点数も多く、各動作を正確かつ適切なタイミングで行うために複雑な制御が必要であり、非常に高価な機構となっていた。
【0008】
また一般的な光学式反射センサでは、照射角度の切り替え幅、すなわち投光ピッチは一定の角度に固定されている(一定の角度ずつしか角度を切り替えることができない)ため、その投光ピッチの中間に収まる小さな障害物を検出することができないという問題もあった。
【0009】
さらに、従来の光学式反射センサでは、物品搬送装置の振動によりビーム光の照射範囲が変動すると正確な検出が行えなくなる。また複数の光学式反射センサが設けられていると、いずれかの光学式反射センサが放った光が他の光学式反射センサには反射光と誤検出されてしまうなど、相互干渉を起こす可能性もあった。このため、従来の光学式反射センサを用いた障害物検出機構は動作が不安定で信頼性に問題があった。
【0010】
以上の問題に鑑み、本発明は、障害物を検出するための機構について安価で高寿命、信頼性の高いものを備えた物品搬送装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明に係る物品搬送装置の実施形態の一例は、直線区画およびカーブ区画を含む予め定められた搬送経路に沿って走行して物品を搬送する物品搬送装置であって、前記物品を保持する搬送本体部と、前記搬送本体部の正面前方を撮影する正面撮影装置と、前記搬送本体部の左側前方を撮影する左側撮影装置と、前記搬送本体部の右側前方を撮影する右側撮影装置と、を備え、前記正面撮影装置は、同じ正面方向を向いていながらも前記正面方向に対して交差する方向にずらした位置に配置されている複数のカメラ装置を有し、前記複数のカメラ装置によって撮影された撮影画像同士の比較に基づき、前記搬送本体部の正面前方における障害物の有無を判定するとともにその障害物と前記搬送本体部との間の距離を算出し、前記左側撮影装置と前記右側撮影装置は、前記搬送本体部が前記直線区画から前記カーブ区画へと移行する領域において、その曲がり方向に対応する左側前方または右側前方を撮影して、その撮影画像に基づき前記搬送本体部の左側前方または右側前方における障害物の有無を判定し、前記物品搬送装置は、前記正面撮影装置によって算出された前方の障害物との距離が予め定められた閾値以下である場合、および、前記左側撮影装置または前記右側撮影装置によって左側前方または右側前方に障害物が存在すると判定された場合に、少なくとも走行速度を低下させて障害物との衝突を回避することを特徴とする。
【0012】
また好ましくは、前記正面撮影装置は、前記複数のカメラ装置のいずれかによる撮影画像に予め定められた特定形状が含まれている場合には、他のカメラ装置の撮影画像との比較に依らず正面前方に障害物が存在すると判定し、撮影画像内における前記特定形状の大きさに基づきその障害物と前記搬送本体部との間の距離を算出するとよい。
【0013】
また好ましくは、前記特定形状は、他の物品搬送装置の前記搬送本体部の背面に予め設けられた検出マーカの形状であるとよい。
【0014】
また好ましくは、前記左側撮影装置と前記右側撮影装置は、搬送経路内に予め定められたカーブ移行領域においてのみ撮影を行うとよい。
【0015】
また好ましくは、前記正面撮影装置、前記左側撮影装置、前記右側撮影装置は、共通の取付板に予め定められた配置と角度で取り付けられているとよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る物品搬送装置の実施形態の一例によれば、撮影装置を用いて障害物検出を行うので、従来の光学式反射センサのような光源の照射角度を切り替えるための駆動機構が不要であり、障害物検出を行うための機構の寿命が長くなる。またこのような物品搬送装置であれば部品点数も少なく済むので比較的安価である。
【0017】
また撮影装置が撮影する画像にはその撮影範囲内に含まれる物体が全て映ることになるため、従来の光学式反射センサでは検出できなかった小さな障害物も検出することができる。
【0018】
また複数の撮影装置は光学式反射センサのように相互干渉することはなく、また振動により多少撮影範囲が変動したとしても、その撮影範囲内に障害物が収まっていれば障害物の検出は可能であり、障害物検出について安定した動作が得られるので物品搬送装置全体としても信頼性が高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態の一例における搬送経路の一部を示す平面図。
図2】撮影装置の配置を示す平面図。
図3】正面撮影装置による距離算出の原理を示す図。
図4】物品搬送装置の背面に設けられる検出マーカの一例を示す背面図。
図5】障害物検出のための処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に、本発明に係る物品搬送装置の実施形態の一例を示す。この物品搬送装置10が用いられる設備(工業製品製造設備など)において、設備内に搬送経路Wが予め定められており、物品搬送装置10はこの搬送経路Wに沿って走行して物品12を搬送する。図1に示す設備においては、搬送経路W内で複数の物品搬送装置10が走行している。
【0021】
図1に示すように、搬送経路Wには直線状の直線区画Waと、湾曲したカーブ区画Wbとがある。カーブ区画Wbは向きの異なる直線区画Wa同士を結んでおり、例えば搬送経路Wの折り返し部Wcに設けられているほか、搬送経路Wが2本以上に枝分かれする分岐部Wdにおいても設けられている。図1に示す搬送経路Wにおいては、折り返し部Wcの出入り口に、左曲がりのカーブ区画Wbが設けられている。また分岐部Wdには右曲がりのカーブ区画Wbが設けられており、物品搬送装置10が直線区画Waから図中右側の分岐経路へと進む際には、この右曲がりのカーブ区画Wbを通る必要がある。
【0022】
この搬送経路Wに沿って例えば設備の天井から吊り下げる形で図示しないレールが敷設される。図2に示す物品搬送装置10は、例えば搬送本体部11に備えられたアームで物品12を把持するなどの方法で物品12を保持した状態で、レール上面に支持されて転動する車輪を用いて走行することにより、搬送経路Wに沿って物品12を搬送する。
【0023】
図1の搬送経路W内には複数の物品搬送装置10が走行しているため、これら同士の衝突を回避する必要がある。そこで、物品搬送装置10のそれぞれには、進行方向上の障害物を検出するための機構が設けられている。
【0024】
本実施形態においては、障害物を検出するために、図2に示す正面撮影装置20F、左側撮影装置20L、右側撮影装置20Rが設けられている。これらの撮影装置は、画像を撮影するためのカメラ装置と、その画像を処理するための画像処理装置とが一組となったものである。
【0025】
図2には物品搬送装置10の概略的な平面図が示されている。ここでは物品12を保持する搬送本体部11の底面に、金属や樹脂などの頑丈な素材で構成された取付板30が固定されており、この共通の取付板30に正面撮影装置20F、左側撮影装置20L、右側撮影装置20Rが取り付けられている。図2に示す通り、取付板30は、搬送本体部11の底面に取り付けられた状態で、平面視において搬送本体部11から正面(進行方向)側、左側、右側にそれぞれはみ出す部分がある形状・寸法となっており、各撮影装置はこのはみ出した部分に取り付けられている。
【0026】
正面撮影装置20Fは搬送本体部11の前方、すなわち搬送経路Wに沿った走行における進行方向の側に取り付けられている。正面撮影装置20Fは、前方に向けられて図中やや左寄りに取り付けられた第1の正面カメラ装置21Faと、前方に向けられて図中やや右寄りに取り付けられた第2の正面カメラ装置21Fbと、第1の正面カメラ装置21Faおよび第2の正面カメラ装置21Fbに接続しておりこれらの撮影した画像を処理する正面画像処理装置22Fとを有している。
【0027】
左側撮影装置20Lは搬送本体部11の左側(進行方向に対して左側)に取り付けられている。左側撮影装置20Lは左側カメラ装置21Lとこれの撮影する画像を処理する左側画像処理装置22Lとを有している。そして、左側カメラ装置21Lは、正面方向(進行方向)に対して予め定められた角度αだけ左側に傾けた方向に向けられている。
【0028】
右側撮影装置20Rは搬送本体部11の右側(進行方向に対して右側)に取り付けられている。右側撮影装置20Rは右側カメラ装置21Rとこれの撮影する画像を処理する右側画像処理装置22Rとを有している。そして、右側カメラ装置21Rは、正面方向(進行方向)に対して予め定められた角度αだけ右側に傾けた方向に向けられている。
【0029】
取付板30には予め定められた位置に、各撮影装置(正面撮影装置20F、左側撮影装置20L、右側撮影装置20R)を取り付けるための構造部分(ネジ穴など)が設けられており、この構造部分に対してネジ留めなどによって各撮影装置が固定されることにより、各撮影装置は前述した配置・角度で取付板30に取り付けられる。
【0030】
また、物品搬送装置10にはこの物品搬送装置10の動作を制御する制御器15(プロセッサやマイコンなど)が設けられている。各撮影装置の画像処理装置(正面画像処理装置22F、左側画像処理装置22L、右側画像処理装置22R)はこの制御器15へ接続されており、各画像処理装置がそれぞれ画像処理を行った結果のデータが、この制御器15へ送信される。
【0031】
正面撮影装置20Fは、前方に存在する物体に対する距離を算出することができる。その原理について説明すると、まず、正面撮影装置20Fが有する第1の正面カメラ装置21Faおよび第2の正面カメラ装置21Fbは、同じ方向(正面前方)を向いていながらも、その方向に対して交差する方向(左右方向)にずらした位置に配置されている。このため、これらのカメラ装置が正面前方の画像を撮影したとき、第1の正面カメラ装置21Faで撮影されたか、第2の正面カメラ装置21Fbで撮影されたか、によって、前方に存在する物体の、画像中での位置が異なってくる。
【0032】
ここでは例として、図2に示す撮影対象物Xが物品搬送装置10の正面前方に存在するものとして説明する。第1の正面カメラ装置21Faによる撮影範囲を第1の撮影範囲25Fa、第2の正面カメラ装置21Fbによる撮影範囲を第2の撮影範囲25Fbとする。各カメラ装置が撮影する画像が長方形状だとすると、図3の上側に示すように、その長方形内において撮影対象物Xは、第1の撮影範囲25Fa内では右寄りの撮影対象物Xa、第2の撮影範囲25Fb内では左寄りの撮影対象物Xbとして撮影される。この2つの画像を重ね合わせると、図3の下側に示すように、右寄りの撮影対象物Xaと左寄りの撮影対象物Xbとでどれだけ画像内の位置にズレが生じているか、すなわち視差Diを算出することができる。この視差Diの大きさは、撮影を行ったカメラ装置の撮影対象物Xに対する距離Dx(図2)の大きさに応じて変化し、距離Dxが大きいほど視差Diは小さくなる。そのため、正面撮影装置20Fの画像処理装置22Fは、視差Diに基づき、撮影対象物Xに対する距離Dxを算出することができる。
【0033】
ただし、視差Diに基づく距離Dxの算出を行うことが可能なのは、撮影対象物Xが第1の正面カメラ装置21Faと第2の正面カメラ装置21Fbの両方で撮影可能な場合、すなわち図2に示すように、第1の撮影範囲25Faと第2の撮影範囲25Fbとが重なる、視差判定可能領域Ab内に撮影対象物Xが位置している場合のみである。撮影対象物Xが物品搬送装置10に非常に近い位置、図1に示す近傍領域Aa内に位置する場合は、撮影対象物Xは第1の正面カメラ装置21Faか第2の正面カメラ装置21Fbのどちらかでしか撮影できない場合があり、その場合には前述した視差Diに基づく距離Dxの算出を行うことはできない。
【0034】
そこで、複数の物品搬送装置10同士が非常に近い場合でも後方の物品搬送装置10が正面撮影装置20Fを用いて前方の物品搬送装置10を検出できるようにするために、各物品搬送装置10の搬送本体部11の背面には、図4に示すようなマーカ板40が取り付けられる。このマーカ板40には、予め定められた特定形状の検出マーカ42が設けられている。ここでは、検出マーカ42として、平面内の縦横に等間隔に並べられた多数の円がマーカ板40上に描かれている。このように所定の間隔で配置された多数の円の全体を1つの検出マーカ42として扱うことにより、この全体の一部分だけが撮影された場合でも検出マーカ42が検出されたものとして扱うことが可能になる。また配置された円同士の間隔が予め定まっていることにより、後述の距離算出も容易になる。
【0035】
後方の物品搬送装置10がその正面撮影装置20Fの第1の正面カメラ装置21Faまたは第2の正面カメラ装置21Fbによって前方の物品搬送装置10背面の検出マーカ42を撮影したとき、前方の物品搬送装置10との距離がある程度以上短ければ、検出マーカ42が鮮明に撮影画像内に映り込むことになるため、正面画像処理装置22Fは、撮影画像内にこうした検出マーカ42の特定形状が含まれていることを検出することができる。また、写り込んだ検出マーカ42の画像内でのサイズは、前方の物品搬送装置10との距離が短いほど大きくなるため、画像内での検出マーカ42のサイズに基づき、正面画像処理装置22Fは前方の物品搬送装置10との距離を算出することができる。このように、正面撮影装置20Fは、第1の正面カメラ装置21Faまたは第2の正面カメラ装置21Fbの撮影した画像に検出マーカ42の特定形状が含まれているか否かによって前方の物品搬送装置10の存在を検出することができるとともに、画像内での検出マーカ42のサイズに基づき、前方の物品搬送装置10との距離を算出することができる。
【0036】
同様に、左側撮影装置20Lと、右側撮影装置20Rも、左側カメラ装置21Lまたは右側カメラ装置21Rが撮影した画像内に検出マーカ42が写り込むか否かによって、物品搬送装置10の左側または右側に他の物品搬送装置10が存在しているかどうかを検出することができる。
【0037】
以上のような正面撮影装置20F、左側撮影装置20L、右側撮影装置20Rを備えた物品搬送装置10における障害物検出のための処理の流れが図5のフローチャートに示されている。物品搬送装置10が搬送経路Wに沿って移動している間、予め定められた検出周期(例えば1秒)ごとに、この障害物検出の処理が開始される(START)。
【0038】
障害物検出の処理が開始したら、まず正面撮影装置20Fの第1の正面カメラ装置21Faと第2の正面カメラ装置21Fbによって複数(ここでは2つ)の前方正面の画像(正面画像)が撮影される(ステップS1)。
【0039】
正面画像処理装置22Fは、第1の正面カメラ装置21Faの撮影した正面画像と第2の正面カメラ装置21Fbの撮影した正面画像のいずれかに検出マーカ42が含まれているかどうかを判定する(ステップS2)。
【0040】
正面画像に検出マーカ42が含まれていた場合(ステップS2-YES)、その検出マーカ42の画像内での大きさに基づき、正面画像処理装置22Fは自身が属する物品搬送装置10と前方の物品搬送装置10との距離(前方距離)を算出する(ステップS3)。
【0041】
正面画像に前方物品搬送装置10の背面が写っていても、前方距離が大きいと正面画像処理装置22Fは検出マーカ42の形状が判別できない。また、前方に前方物品搬送装置10が存在しないのであればそもそも正面画像に検出マーカ42が含まれることはない。このように正面画像に検出マーカ42が含まれていないと判定される場合(ステップS2-NO)には、正面画像処理装置22Fは、前述のように第1の正面カメラ装置21Faが撮影した正面画像と第2の正面カメラ装置21Fbが撮影した正面画像とを比較して、その視差Diに基づき前方距離を算出する(ステップS4)。
【0042】
物品搬送装置10の制御器15は、ステップS3またはステップS4で正面画像処理装置22Fが算出した前方距離のデータを受信し、その前方距離と予め定められた閾値とを比較する(ステップS5)。前方距離が閾値以下の場合(ステップS5-YES)、制御器15は前方の障害物(他の物品搬送装置10など)との衝突のおそれがあると判断し、衝突回避処理を実行する(ステップS9)。この衝突回避処理においては、物品搬送装置10の速度を低下させる、走行を停止させる、設備内の作業員に警報を発する、などにより、物品搬送装置10と障害物との衝突を回避するための措置が行われる。障害物が他の物品搬送装置10であり、搬送作業の遅れなどにより単に走行が遅れているだけであれば、物品搬送装置10の速度を低下させるだけで衝突は回避される。衝突回避処理の実行後、次の検出周期まで障害物検出は待機される(END)。
【0043】
一方、ステップS5において前方距離が閾値よりも大きい場合(ステップS5-NO)は、制御器15は前方には(衝突の恐れがあるほどの)障害物は存在しないと判断する。その場合、制御器15は次に、物品搬送装置10の現在位置が搬送経路W内のカーブ移行領域We内であるかを確認する(ステップS6)。なお、正面画像内に障害物が写っていない場合は、閾値よりも十分大きい適当な値や”INFINITY”(「無限大」を表す特別な値)が前方距離として記録されるようになっていればよく、この場合にも当然ながら前方には障害物が存在しないと判断される。
【0044】
物品搬送装置10の現在位置を確認するには様々な方法が考えられ、例えば搬送経路Wをなすレールの各所に、その位置の情報を表すバーコードなどの目印が取り付けられてあれば、バーコードリーダなどによってその目印を確認することで制御器15は現在位置を調べることができる。また無線などを利用して物品搬送装置10の現在位置が算出される装置(GPSなど)が設けられていてもよい。
【0045】
現在位置がカーブ移行領域We内(ステップS6-YES)であった場合、左側撮影装置20Lによって物品搬送装置10の左側前方の画像(左側前方画像)が、右側撮影装置20Rによって物品搬送装置10の右側前方の画像(右側前方画像)が撮影される(ステップS7)。
【0046】
左側画像処理装置22Lおよび右側画像処理装置22Rは、それぞれ左側前方画像、右側前方画像に障害物が写っていないか、典型的にはカーブ曲がり先の左側前方または右側前方に存在する他の物品搬送装置10の検出マーカ42が撮影されていないか、を判定する(ステップS8)。
【0047】
左側画像処理装置22Lまたは右側画像処理装置22Rが障害物の存在を検出した場合(ステップS8-YES)、カーブ先に障害物が存在するということなので、制御器15に障害物の存在を知らせる信号が送信され、制御器15は衝突回避処理を行う(ステップS9)。一方、物品搬送装置10の現在位置がカーブ移行領域We内でない場合(ステップS6-NO)、現在位置がカーブ移行領域We内であっても左側前方画像と右側前方画像に障害物が写っていなかった場合(ステップS8-NO)には、衝突回避処理は行われず、障害物検出の処理は終了となる(END)。
【0048】
以上のような正面撮影装置20F、左側撮影装置20L、右側撮影装置20Rを用いた障害物検出では、各撮影装置の角度は固定のまま障害物検出を行うことが可能であり、従来の光学式反射センサのように照射角度を切り替えるような機械的動作を行う必要がないので、機械的な損耗は少なく、例えば1秒ごとの頻繁な障害物検出を行っても、装置の機械的寿命が摩耗していくおそれは少ない。
【0049】
また各撮影装置が撮影する画像にはその撮影範囲内に含まれる物体が全て映ることになるため、従来の光学式反射センサでは検出できなかった小さな障害物も検出することができる。上記の説明においては他の物品搬送装置10の存在を検出することについて主に説明したが、例えば障害物として想定される物体の形状や色彩を各撮影装置に予め登録しておいたり、あるいは障害物が存在しない場合に撮影される画像を基準画像として各撮影装置に登録しておき、撮影画像と基準画像との差が大きい場合に障害物が存在すると判定するなどの方法で、様々な障害物を検出することが可能である。
【0050】
また上記の物品搬送装置10においては、各撮影装置は1枚の共通した取付板30に予め定められた配置と角度で固定的に取り付けられている。このため物品搬送装置10が走行中に多少振動しても、各撮影装置の位置が大きく変わることはなく、各カメラ装置の向きも安定である。
【0051】
なお上記においては、搬送本体部11の背面に、特定形状の検出マーカ42が描かれた検出板40が取り付けられた形態について説明したが、こうした検出板40が存在しなくとも、搬送本体部11の背面に例えばメーカロゴなどの特徴的形状があればその特定形状を検出してもよい。また撮影画像に特定形状が含まれていれば衝突回避処理が行われることになることを利用して、設備内のトラブルなどの緊急時には特定形状が描かれた看板を搬送経路W上に置くようにすれば、緊急時専用の安全装置がなくとも、緊急時の衝突回避が可能となる。
【0052】
また上記においては、カーブ区画Wb手前のカーブ移行領域Weにおいて左側前方および右側前方の障害物を検出しているが、カーブ区画Wb内においても左側前方および右側前方(つまりカーブ脱出後の直線区画Wa内)の障害物検出が行われてもよい。上記においてカーブ移行領域Weでの障害物検出を特記したのは、カーブ移行領域Weからカーブ区画Wbへ入る際に物品搬送装置10同士の衝突が起きやすいからである。物品搬送装置10が走行する際、カーブ区画Wbにおいては減速が必要となるため、カーブ区画Wb内で物品搬送装置が滞留しやすいのである。そのため、カーブ区画Wbの手前の領域、すなわち直線区画Waからカーブ区画Wbへと移行するカーブ移行領域Weに物品搬送装置10が差し掛かったときに、その進行先のカーブ区画Wb内に他の物品搬送装置10が存在していないかを確認することが望ましい。
【0053】
また上記においては、カーブ移行領域Weにおいてのみ左側撮影装置20Lおよび右側撮影装置20Rによる撮影が行われている。このように必要な場面でのみ撮影を行うことで、使用電力の消費が低減される。ここで、物品搬送装置10の現在位置に応じて、そのカーブ移行領域Weが左曲がりのカーブ区画Wbへの移行領域なのか、右曲がりのカーブ区画Wbへの移行領域なのか、についても判別できるようになっていれば、曲がり方向に対応する左側前方または右側前方のみを撮影(左曲がりのカーブ区画Wbの手前では左側撮影装置20Lのみ作動させる、など)することで、さらに消費電力が低減される。なお、カーブ移行領域We以外においても左側撮影装置20Lおよび右側撮影装置20Rによる画像撮影および左右の障害物検出が行われてもよく、その場合は例えば物品搬送装置10に左側または右側から近づいてくる作業者の存在を検出することができる。また搬送経路Wが設備内の他の機器と十分離れていて、カーブ移行領域We以外で他の機器を検出することによる誤検出が生じる心配がないのであれば、物品搬送装置10の現在位置を判別することを行わず、左側撮影装置20Lおよび右側撮影装置20Rが常に撮影を行うという運用も可能である。
【符号の説明】
【0054】
10 物品搬送装置
12 物品
30 取付板
40 マーカ板
42 検出マーカ
20F 正面撮影装置
20L 左側撮影装置
20R 右側撮影装置
W 搬送経路
Wa 直線区画
Wb カーブ区画
We カーブ移行領域
図1
図2
図3
図4
図5