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特許7540892変動する心室測定を用いた心室リードレス・ペースメーカによるAV同期
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】変動する心室測定を用いた心室リードレス・ペースメーカによるAV同期
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/362 20060101AFI20240820BHJP
   A61B 5/05 20210101ALI20240820BHJP
【FI】
A61N1/362
A61B5/05
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020017823
(22)【出願日】2020-02-05
(65)【公開番号】P2020168356
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2023-01-30
(31)【優先権主張番号】62/827,208
(32)【優先日】2019-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512158181
【氏名又は名称】バイオトロニック エスエー アンド カンパニー カーゲー
【氏名又は名称原語表記】BIOTRONIK SE & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Woermannkehre 1 12359 Berlin Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シェイアン グハニヨギ
【審査官】滝沢 和雄
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0239472(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0196443(US,A1)
【文献】特表2002-514478(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0030484(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0071588(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/362
A61B 5/053
A61B 5/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の心臓(2)に電気的ペーシング・パルスを提供するように構成された植え込み可能ペースメーカ(1)であって、
前記電気的ペーシング・パルスを生成するように構成されたパルス生成器(3)と、
前記電気的ペーシング・パルスを前記心臓(2)に印加するための少なくとも1つのペーシング電極(4)と、
前記心臓(2)の心室(2a)の電気的活動の事象を感知するように構成された感知ユニット(5)であって、それぞれの前記事象が前記心室(2a)の収縮に対応する、感知ユニット(5)と、
前記患者に関する信号を測定するように構成されたセンサ(6)と、
パラメータ(P)の値を記憶するように構成されたメモリ(7)と
を備え、ここで
前記ペースメーカ(1)が第1のモードで動作するように構成され、前記第1のモードでは、前記感知ユニット(5)が事象を感知しない限り、前記ペースメーカ(1)が、前記パルス生成器(3)によって生成された電気的ペーシング・パルスを、前記少なくとも1つのペーシング電極(4)を介して前記心室(2a)に印加し、印加された電気的ペーシング・パルスごとの前記信号又は感知された事象から、前記心臓(2)の房室(AV)遅延に伴って変動するパラメータ(P)の値を判定するように構成され、ここで前記ペースメーカ(1)が、前記パラメータ(P)の前記値を前記メモリ(7)に記憶するように構成され、ここで前記ペースメーカ(1)が、前記第1のモードにおいて、前記パラメータ(P)の判定された各値を房室遅延値に関連付ける基準曲線(R)を生成し、房室遅延の所望の範囲(D)に対応する前記パラメータ(P)の値のターゲット範囲(T)を選択するようにさらに構成され、
前記ペースメーカ(1)が、第2のモードで動作するようにさらに構成され、前記第2のモードでは、前記ペースメーカ(1)が、前記患者の心拍ごとに前記パラメータ(P)の値を判定するように構成され、ここで前記第2のモードにおいて、心拍について判定された前記パラメータ(P)のそれぞれの前記値が、前記ターゲット範囲(T)の外側にあるとき、前記ペースメーカ(1)は、後の心拍について判定される前記パラメータ(P)の値が前記ターゲット範囲(T)に近づくように、次の心拍について電気的ペーシング・パルスの心拍間のタイミングを調節するように構成された、植え込み可能ペースメーカ(1)。
【請求項2】
前記信号が、圧力、心音、心臓壁運動、心室インピーダンスのうちの1つに対応する、請求項1に記載のペースメーカ。
【請求項3】
前記基準曲線(R)を生成するために、前記ペースメーカ(1)が、前記第1のモードで判定された前記パラメータ(P)の前記値を、前提とする曲線タイプに応じてソートするように構成された、請求項1又は2に記載のペースメーカ。
【請求項4】
前記曲線タイプが、単調に低減するものである、請求項3に記載のペースメーカ。
【請求項5】
前記パラメータ(P)が、前記患者のS1心音の振幅である、請求項1から4までのいずれか一項に記載のペースメーカ。
【請求項6】
前記ターゲット範囲(T)が、前記パラメータ(P)の判定された最大値と最小値の間にある、請求項1から5までのいずれか一項に記載のペースメーカ。
【請求項7】
前記パラメータ(P)のそれぞれの前記値が、前記ターゲット範囲(T)より低いとき、前記ペースメーカ(1)は、後の心拍についての前記パラメータ(P)の値を、前記ターゲット範囲(T)に近づくように生成するように、次の電気的ペーシング・パルスの前記心拍間のタイミングを早いタイミングに調節するように構成され、前記パラメータ(P)のそれぞれの前記値が、前記ターゲット範囲(T)より高いとき、前記ペースメーカ(1)は、後の心拍についての前記パラメータ(P)の値を、前記ターゲット範囲(T)に近づくように生成するように、次の電気的ペーシング・パルスの前記心拍間のタイミングを遅いタイミングに調節するように構成された、請求項5又は6に記載のペースメーカ。
【請求項8】
前記曲線タイプが、ベル形状である、請求項に記載のペースメーカ。
【請求項9】
前記ターゲット範囲(T)が、前記パラメータ(P)の判定された最大値を含む、請求項8に記載のペースメーカ。
【請求項10】
前記パラメータ(P)のそれぞれの前記値が、前記ターゲット範囲(T)より低いとき、前記ペースメーカ(1)は、次の電気的ペーシング・パルスの前記心拍間のタイミングを早いタイミングに調節するように構成され、ここで前記パラメータ(P)の前記値が、次の心拍で増大する場合には、前記ペースメーカ(1)は、前記パラメータ(P)の前記値が前記ターゲット範囲(T)に到達するまで、後の各心拍について前記電気的ペーシング・パルスのタイミングを短くし続けるように構成され、前記パラメータ(P)の前記値が低減する場合には、前記ペースメーカ(1)は、前記パラメータ(P)の前記値が前記ターゲット範囲(T)に到達するまで、後の各心拍について前記電気的ペーシング・パルスのタイミングを長くするように構成された、請求項8又は9に記載のペースメーカ。
【請求項11】
前記曲線タイプが、単調に増大するもの、放物線状のもののうちの1つである、請求項に記載のペースメーカ。
【請求項12】
植え込み可能ペースメーカ(1)を動作させる方法であって、
前記ペースメーカ(1)を所定の期間、第1のモードで動作させるステップと、
前記第1のモードにおいて、前記ペースメーカ(1)のパルス発生器(3)を用いて電気的ペーシング・パルスを生成し、前記ペースメーカ(1)の感知ユニット(5)が心室収縮に対応する事象を感知しない限り、前記ペースメーカ(1)のペーシング電極(4)に前記電気的ペーシング・パルスを送達するステップと、
前記第1のモードにおいて者に関する信号を感知し、印加された電気的ペーシング・パルスごとの前記信号、又は感知された事象から、心臓(2)の房室遅延に伴って変動するパラメータ(P)の値を判定するステップであって、それぞれの前記値が、前記ペースメーカ(1)のメモリ(7)に記憶される、ステップと、
前記第1のモードにおいて基準曲線(R)を生成するステップであって、前記基準曲線(R)が、前記パラメータ(P)の判定された各値を、房室遅延の値に関連付ける、ステップと、
前記第1のモードにおいて、前記パラメータ(P)の値のターゲット範囲(T)を選択するステップであって、ターゲット範囲(T)が、房室遅延の所望の範囲(D)に対応する、ステップと、
前記ペースメーカ(1)を、前記第1のモードに続き、第2のモードで動作させるステップと、
前記第2のモードにおいて、患者の心拍ごとに前記パラメータの値を判定するステップと
を含み、
ここで、心拍について前記第2のモードで判定された前記パラメータ(P)のそれぞれの前記値が、前記ターゲット範囲(T)の外側にあるとき、後の心拍について判定される前記パラメータ(P)の値が前記ターゲット範囲(T)に近づくように、次の心拍について電気的ペーシング・パルスの前記心拍間のタイミングが調節される、方法。
【請求項13】
前記信号が、圧力、心音、心臓壁運動、心室インピーダンスのうちの1つに対応する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記基準曲線(R)を生成するために、前記第1のモードで判定された前記パラメータ(P)の前記値が、前提とする曲線タイプに応じてソートされる、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記パラメータ(P)が、S1心音の振幅である、請求項12から14までのいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植え込み可能ペースメーカ、及び植え込み可能ペースメーカを動作させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓ペーシングに関しては、房室(AV)同期を維持することが非常に重要である。AV同期とは、心臓の(正常な)活性化シーケンスにおいて、最初に心房が収縮し、次いで房室(AV)遅延として表される適切な遅延の後に、心室が収縮することを意味する。二腔間のタイミングが同期しなくなると、各心拍で送達される血液が少なくなり、心血管出量が低減する。
【0003】
VVIモード(すなわち心室のペーシング及び感知)で動作する心臓ペースメーカは、AV同期不全を生じさせて、結果的に心血管出量が不十分になることが多い。心房活動を追跡し、心房の収縮を検出した後にのみ心室をペーシングすることにより(たとえばVDDモード)、AV同期を再確立することができる。従来のペースメーカでは、リードを用いて心房腔に感知電極を入れることによって、VDDが実現される。しかしこれは、植え込み可能なリードレス・ペースメーカ(ILP)では当然ながら不可能である。したがって、心室に入れられるリードレス・ペースメーカは、心房腔にリードのない状態でAV同期を実現できなくてはならない。既存の解決策は、たとえば、電気、インピーダンス、動き、又は他の信号ソースを使用して、心室内から心房の収縮を直接測定しようとするものであるが、これらの信号の心房成分は多くの場合非常に小さく、整合しておらず、又は存在しないので、この解決策は困難なことがある。
【0004】
心房の収縮を心室から直接測定しようとする解決策の欠点は、心室において測定したときに、多くの信号ソースの心房成分が小さく、整合しておらず、又は存在せず、心房の追跡が困難になることである。さらに、心房感知拡張部を利用する解決策の欠点は、装置に追加の構成要素を導入することであり、これは望ましいことではない。
【0005】
特許文献US2017/0239472A1は、心臓治療に対する患者の反応を予測するための医療装置システムを開示している。このシステムは、心臓ペーシング・パルスを生成し、複数のペース・パラメータ設定においてペーシング・パルスの送達を制御するための心臓感知モジュール及び心臓ペーシング・モジュールに結合された、患者の心臓に心臓ペーシング・パルスを送達するための電極を含む。プロセッサが有効化されて、音響センサからの心音信号を受信し、この心音信号から複数の心音信号パラメータを導き出し、複数のペース・パラメータ設定に対する複数の心音信号パラメータのうちのそれぞれの傾向を判定する。さらに、外部ディスプレイが、複数のペース・パラメータ設定に対する少なくとも1つの心音パラメータの傾向を提示するように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】US2017/0239472A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記に基づき、本発明の目的は、ペースメーカのためのAV同期、特に信号の、小さい、不整合な、又は存在しない心房成分に頼らず、追加の感知拡張部に頼らない植え込み可能な心臓内(たとえばリードレス)ペースメーカのためのAV同期を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、請求項1に記載の特徴を有する植え込み可能ペースメーカによって解決される。さらに、対応する従属請求項に実施例が述べられており、これらを以下に説明する。
【0009】
患者(特に患者の心室)にペースメーカが植え込まれたときに、患者の心臓に電気的ペーシング・パルスを提供するように構成された植え込み可能ペースメーカであって、
前記電気的ペーシング・パルスを生成するように構成されたパルス生成器と、
前記電気的ペーシング・パルスを心臓に印加するための少なくとも1つのペーシング電極と、
心臓の心室の電気的活動の事象を感知するように構成された感知ユニットであって、それぞれの事象が心室の収縮に対応する、感知ユニットと、
患者により生成される身体的信号を測定するように構成されたセンサと、
パラメータの値を記憶するように構成されたメモリとを備える植え込み可能ペースメーカが開示される。
【0010】
ペースメーカは、所定の期間、第1のモードで動作し、その後第2のモードで動作するように構成される。第1のモードでは、感知ユニットが事象を感知しない限り、ペースメーカは、パルス生成器によって生成された電気的ペーシング・パルスを、少なくとも1つのペーシング電極を介して心室に印加し、印加された電気的ペーシング・パルスごとの前記信号又は感知された事象から、心臓の房室(AV)遅延に依存するパラメータの値を判定するように構成され、ここでペースメーカは、パラメータの値をメモリに記憶するように構成され、ここでペースメーカは、第1のモードにおいて、パラメータの判定された各値を房室遅延値に関連付ける基準曲線を生成し、房室遅延の所望の範囲に対応するパラメータの値のターゲット範囲を選択するようにさらに構成される、ペースメーカは、第2のモードで動作するようにさらに構成され、第2のモードでは、ペースメーカは、患者の心拍ごとにパラメータの値を判定するように構成され、ここで第2のモードにおいて、心拍について判定されたパラメータのそれぞれの値が、ターゲット範囲の外側にあるとき、ペースメーカは、AV同期を実現する方法として、後の心拍について判定されるパラメータの値がターゲット範囲に近づくように、次の心拍について電気的ペーシング・パルスのタイミングを調節するように構成される。パラメータは、最終的にターゲット範囲内に入るように、数回の心拍(たとえば5回~20回の心拍)にわたってターゲット範囲に近づけばよい。すぐ後の心拍で必ずしもターゲット範囲内に入る必要はない。
【0011】
好ましくは、ペースメーカは心臓内ペースメーカであり、ここで特に、心臓内ペースメーカは、患者の心臓の心室に植え込まれるように構成される。特に、心臓内ペースメーカは、植え込み可能リードレス・ペースメーカであり、すなわち、ペースメーカのハウジングに配置されたペーシング電極を備え、ここでハウジングは、心室の心臓壁に固定されるように構成されるか、又はペースメーカを心臓組織に固定するための固定要素を備える。しかし代替的に、ペースメーカは、ペースメーカのハウジングから延在する可撓性のリードを備えることも可能であり、ここでパラメータを導く元になる前記信号を測定するための前記センサ(たとえば、圧力センサ、加速度計、マイクロフォン、電極)を、前記リード、特に前記リードの先端に配置することができる。
【0012】
さらに、ペースメーカの実施例によれば、前記信号は、心室圧力(ここで特に、センサは圧力センサである)、心音(ここで特に、センサはマイクロフォン又は加速度計である)、心臓壁運動(ここで特に、センサは加速度計である)、心室インピーダンス(ここで特に、センサは前記インピーダンスを測定するための電極を備える)のうちの1つを示す。特に、前記心音は、患者のS1心音とすることができる。
【0013】
さらに、前記基準曲線を生成するために、ペースメーカは、第1のモードで判定されたパラメータの値を、前提とする曲線タイプに応じてソートするように構成される。すなわち、曲線タイプが単調に低減する場合には、判定された値は低減するように並べられる。特に、ペースメーカがVVIモード(すなわち第1のモード)であることにより、記憶された値は、本来の同期した収縮から生じる値と、ペーシングされた非同期の収縮から生じる値が混ざったものである。その結果、パラメータの記憶された値は、AV遅延の範囲に対応する。パラメータの各値の実際のAV遅延は測定されていないが、このパラメータは、AV遅延が長くなるのに伴い単調に低減することが知られているので、パラメータの値は、基準曲線を生成するようにソートされることが可能である。この曲線におけるパラメータの最小値は、長すぎたAV遅延に対応しており、この基準曲線におけるパラメータの最大値は、短すぎたAV遅延に対応している。
【0014】
さらに、代替的な実施例では、単調に増大する曲線タイプ、ベル形状の曲線タイプ、又は放物線状の曲線タイプに関するパラメータも使用することができる。
【0015】
好ましい実施例によれば、前記パラメータは、患者のS1心音の振幅である。S1心音は、閉じている三尖弁/僧帽弁に対して心室収縮により血液が押し当てられた結果である。特に文献によれば、S1の振幅はAV遅延が長くなるのに伴い単調に低減する。
【0016】
したがって、特にパラメータが前記S1振幅であるとき、ターゲット範囲は、判定されたパラメータ(たとえば、S1心音の振幅)の最大値と最小値の間の間隔に対応する。
【0017】
特に一実施例では、パラメータ(たとえばS1心音の振幅)のそれぞれの値が、ターゲット範囲より低いとき、ペースメーカは、AV同期を実現するために、後の心拍についてのパラメータの値をターゲット範囲内で生成するように、次の電気的ペーシング・パルスのタイミングを早いタイミングに調節するように構成され、パラメータ(S1心音の振幅)のそれぞれの値が、ターゲット範囲より高いとき、ペースメーカは、AV同期を実現するために、後の心拍についてのパラメータの値をターゲット範囲内で生成するように、次の電気的ペーシング・パルスのタイミングを遅いタイミングに調節するように構成される。
【0018】
ペースメーカの別の実施例によれば、基準曲線の曲線タイプはベル形状である。文献によれば、1回拍出量は、AV遅延に対してベル形状の関係を有し、したがって心室インピーダンスの信号及び/又は心臓壁運動の信号を介して測定される1回拍出量のパラメータは、この実施例ではベル形状の曲線によって表される。ここで特に、ターゲット範囲は、判定されたパラメータの最大値(すなわち基準曲線のほぼピーク)を含む間隔である。
【0019】
一実施例によれば、特にベル形状の基準曲線の場合、パラメータのそれぞれの値が、ターゲット範囲より低いとき、ペースメーカは、次の電気的ペーシング・パルスのタイミングを早いタイミングに調節するように構成され、ここでパラメータの値が、次の心拍で増大する場合には、ペースメーカは、パラメータの値がターゲット範囲に到達するまで、後の各心拍について電気的ペーシング・パルスのタイミングを短くし続けるように構成され、パラメータの値が低減する場合には、ペースメーカは、パラメータの値がターゲット範囲に到達するまで、後の各心拍について電気的ペーシング・パルスのタイミングを長くするように構成される。
【0020】
ペースメーカ又は方法の別の実施例では、アルゴリズムは、測定されている特定の信号について、振幅の他に他のパラメータを使用することができる。他の測定基準は、信号の幅、周波数、広がり、又は変動を含むことができる。ペースメーカは、こうした測定基準を計算するための適切な処理構成要素を備えることができる。たとえば、ペースメーカは、S1振幅対AV遅延の代わりに、S1心音周波数対AV遅延の曲線を生成するように構成されることが可能である。
【0021】
別の実施例では、ペースメーカ又は方法は、AV遅延に対して異なる関係(たとえば、単調に増大する関係のものと、放物線状の関係のもの)を有すると同時に、AV遅延の最適な範囲を維持するための複数の心室パラメータを使用することができる。
【0022】
別の実施例では、ペースメーカ又は方法は、ペースメーカに取り付けられたリードの先端に心室収縮パラメータを測定するための必要なセンサ(圧力、加速度計、マイクロフォン、電極)を有する単腔ペースメーカに拡張されることが可能である。
【0023】
さらに別の態様によれば、さらに、植え込み可能ペースメーカ(特に植え込み可能リードレス・ペースメーカ又は心臓内ペースメーカ)を動作させる方法であって、
ペースメーカを所定の期間、第1のモードで動作させるステップと、
第1のモードにおいて、ペースメーカのパルス発生器を用いて電気的ペーシング・パルスを生成し、ペースメーカの感知ユニットが患者の心臓の心室収縮に対応する事象を感知しない限り、ペースメーカのペーシング電極に電気的ペーシング・パルスを送達する(VVIモードとしても知られている)ステップと、
第1のモードにおいて患者に関する信号を感知し、印加された電気的ペーシング・パルスごとの前記信号、又は感知された事象から、心臓の房室(AV)遅延に依存するパラメータの値を判定するステップであって、それぞれの値が、ペースメーカのメモリに記憶される、ステップと、
第1のモードにおいて基準曲線を生成するステップであって、基準曲線が、パラメータの判定された各値を、房室遅延の値に関連付ける、ステップと、
第1のモードにおいて、パラメータの値のターゲット範囲を選択するステップであって、ターゲット範囲が、房室遅延の所望の範囲に対応する、ステップと、
ペースメーカを、第1のモードに続き、第2のモードで動作させるステップと、
第2のモードにおいて、患者の心拍ごとにパラメータの値を判定するステップと
を含み、
ここで、心拍について第2のモードで判定されたパラメータのそれぞれの値が、ターゲット範囲の外側にあるとき、後の心拍について判定されるパラメータの値がターゲット範囲内に入る又はそれに近づくように、次の心拍について電気的ペーシング・パルスのタイミングが調節される、方法が開示される。
【0024】
この方法の一実施例によれば、前記信号は、圧力、心音、特にS1心音、心臓壁運動(ここで特に、センサは加速度計である)、心室インピーダンス(ここで特に、センサは前記インピーダンスを測定するための電極を備える)のうちの1つを示す(上記も参照)。
【0025】
さらにこの方法の一実施例では、前記基準曲線を生成するために、第1のモードで判定されたパラメータの値は、前提とする曲線タイプに応じてソートされ、ここで特に曲線タイプは、単調に低減するものである。或いは、特定のパラメータに応じて、曲線タイプは、単調に増大するもの、ベル形状のもの、又は放物線状のものとすることもできる。
【0026】
この方法のさらなる実施例によれば、前記パラメータは、患者のS1心音の振幅であり、ここで特定の曲線タイプは、単調に低減するものである。さらに、この方法の実施例では、ターゲット範囲は、判定されたパラメータ(たとえば、S1心音の振幅)の最大値と最小値の間にある。
【0027】
さらに、この方法の一実施例によれば、パラメータ(たとえばS1心音の振幅)のそれぞれの値が、ターゲット範囲より低い場合、AV同期を実現するために、後の心拍についてのパラメータの値をターゲット範囲内で又はそれに近づけるように生成するように、次の電気的ペーシング・パルスのタイミングが早いタイミングに調節され、パラメータのそれぞれの値が、ターゲット範囲より高いとき、ペースメーカは、AV同期を実現するために、後の心拍についてのパラメータの値をターゲット範囲内で又はそれに近づけるように生成するように、次の電気的ペーシング・パルスのタイミングを遅いタイミングに調節するように構成される。
【0028】
さらに、この方法の代替的な実施例によれば、曲線タイプはベル形状であり、ここで特にターゲット範囲は、判定されたパラメータの最大値(すなわち基準曲線のほぼピーク)を含む。
【0029】
この方法の一実施例によれば(たとえば、ベル形状の基準曲線の場合)、パラメータのそれぞれの値が、ターゲット範囲より低いとき、次の電気的ペーシング・パルスのタイミングが早いタイミングに調節され、ここでパラメータの値が、次の心拍で増大する場合には、パラメータの値がターゲット範囲に到達するまで、各心拍について電気的ペーシング・パルスのタイミングが短くされ、パラメータの値が低減する場合には、パラメータの値がターゲット範囲に到達するまで、各心拍について電気的ペーシング・パルスのタイミングが長くされる。
【0030】
ペースメーカに関して開示される特徴は方法に適用することも可能であり、その逆も同様である。
【0031】
以下の実施例では、本発明の特徴及び利点を、図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】患者の心臓の心室内に植え込まれた植え込み可能リードレス・ペースメーカの形のペースメーカの一実施例の概略図である。
図2】AV遅延に対するS1心音の振幅に対応した基準曲線を示す図である。
図3】AV遅延に関するベル形状の曲線タイプを含むパラメータの振幅に対応した基準曲線を示す図である。
図4】心臓内ペーシング装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
特に目的は、心臓2の心房2bの心房収縮の測定に比べて大きく検出しやすい患者の心臓2の心室2aの心室収縮の測定を使用して、AV同期の心拍間の推定を得ることである(図1)。
【0034】
図1は、植え込み可能ペースメーカ1の実施例を示し、これは図1に示すように、右心室2aに植え込まれた植え込み可能リードレス・ペースメーカ1とすることができる。特に、ペースメーカ1は、心室2aの収縮を示す右心室2aの電気的活動の事象を感知するための感知ユニット5を備える。さらに、電気的ペーシング・パルスを生成するために、ペースメーカ1はパルス生成器3を備え、ここでペーシング・パルスは、少なくとも1つのペーシング電極4を介して心室2aに印加される。
【0035】
一実施例では、ペースメーカ1は、ある一定の期間(たとえば1時間、数時間、数日など)にわたりVVIに対応する第1のモードで動作することが許容される。特にこの期間は、AV遅延に伴って変動することが知られている心室収縮に関連した少なくとも1つのパラメータPの値を、ペースメーカ1が測定し記憶する学習フェーズである。これらの値を、ペースメーカ1のメモリ7に記憶することができる。特定の心室収縮パラメータPは、ペースメーカ1のセンサ6で測定される多数のソース信号から導き出されてもよい。考えられる信号は、(圧力センサによる)圧力、(マイクロフォン又は加速度計による)心音、(加速度計による)心臓壁運動、又は(電極による)心室インピーダンスとすることができる。それぞれの特定のパラメータは、固有のフィルタリング及び感知の方法を有してもよい。
【0036】
考えられる心室収縮パラメータPの具体的な実例として、S1心音は、閉じている三尖弁/僧帽弁に対して心室収縮により血液が押し当てられた結果であり、S1の振幅はAV遅延が長くなるのに伴い単調に低減することが、文献によって示されている。
【0037】
引き続きS1の具体的な実例では、第1のモード(たとえばVVIモード)で動作するペースメーカ1は、学習フェーズ中に、心室収縮ごとのS1振幅を記憶する。ペースメーカは、好ましくは現在VVIモードなので、記憶されたS1振幅の値は、本来の同期した収縮から生じる値と、ペーシングされた非同期の収縮から生じる値が混ざったものであり、その結果、記憶されたパラメータPの値(すなわちS1振幅)は、AV遅延の範囲に対応する。振幅ごとの実際のAV遅延は測定されていないが、S1はAV遅延が長くなるのに伴い単調に低減することが知られているので、振幅は、図2に示す基準曲線Rを生成するようにペースメーカ1によってソートされることが可能である。この曲線Rにおける最小のS1振幅は、長すぎたAV遅延に対応しており、この曲線Rにおける最大のS1振幅は、短すぎたAV遅延に対応している。
【0038】
基準曲線Rが生成されると、ペースメーカ1は、AV遅延の最適な/ほぼ最適な範囲Dに対応する、S1振幅の測定された最大値と最小値の間辺りのターゲット範囲を選択する(図2を参照)。次いで、S1振幅のこのターゲット範囲Tが、次のフェーズ、すなわちペースメーカ1の第2のモード中に使用される。
【0039】
この次のフェーズ/第2のモードでは、ペースメーカは特に、心拍ごとにS1振幅の値が測定されるAV同期モードで動作する。測定されたS1振幅の値が小さすぎる(基準曲線Rの右端にある)場合、ペースメーカ1は、右心房2bの心房収縮に対してペーシングが遅すぎたことを認識し、したがって次の心拍ではより短いタイミングに調節する。測定されたS1振幅の値が大きすぎる(基準曲線Rの左端にある)場合、ペースメーカ1は、ペーシングが速すぎたことを認識し、したがって次の心拍ではより長いタイミングに調節する。したがってペースメーカ1は、より良好に同期したAV遅延に対応する基準曲線のターゲット範囲T内に、S1振幅の値を生成することを目指して、そのペーシングのタイミングを心拍ごとに調節する。
【0040】
的確な心拍間のタイミング調節は、測定された的確なパラメータP、及びそのパラメータPの予想される曲線タイプに応じて異なる。上述した実施例は、具体的にS1心音の振幅をパラメータPとして使用しているが、AV遅延に関係のある、心室収縮に関連付けられた任意の他のパラメータが使用されてもよい。たとえば、別の実施例では、心室パラメータ(たとえば、心音、圧力、インピーダンス、又は運動)は、図3に示すように、AV遅延に対してベル形状の関係を有してもよい。
【0041】
この実施例では、基準曲線RにおけるパラメータPの最小の振幅は、短すぎたものと長すぎたものの両方のAV遅延に対応している。したがって、(ペースメーカ1が、対象のパラメータについてベル形状の基準曲線Rを前提とする)この実施例では、ペースメーカ1は、このパラメータPのAV遅延の最適な/ほぼ最適な範囲Dに対応する、測定された最大値に近い(すなわち、基準曲線Rのピークに近い)振幅の範囲を選択する。次いで、ペースメーカがAV同期モードに切り替わったとき、すなわち第2のモードで動作するときに、振幅のこの範囲がターゲット範囲Tになる。
【0042】
第2のモードでは、パラメータPの値(図3のパラメータ振幅として表す)が、心拍ごとに測定される。測定された値が小さすぎる場合、ペースメーカ1は、心房収縮に対してペーシングが遅すぎるか速すぎるかのいずれかであることだけを認識する。これは、AV遅延に対するベル形状の関係に起因するものであり、上述した単調な関係ほどわかりやすくはない。しかし、このペースメーカ又は方法は、ベル形状の事例を容易に補うことができる。ベル形状の事例では、測定されたパラメータPの値が小さすぎる場合、ペースメーカ1はまず、次の心拍についてより短いタイミングに調節する(すなわち、次の心拍についてAV遅延を低減する)ことができる。これは本質的に、ペースメーカ1が最初に、図3に示すベル形状の基準曲線Rの右側であると仮定していることを意味する。パラメータPの値が次の心拍で増大すると、ペースメーカ1は、ベル形状の基準曲線Rの右側であることを確認することができ、ターゲット範囲Tに到達するまで、心拍ごとにタイミングを短くし続ける。反対に、タイミングを短くした後にパラメータPの値が低減すると、ペースメーカは、実際にはベル形状の基準曲線Rの左側であることを認識し、したがってターゲット範囲Tに到達するまで、心拍ごとにタイミングを長くし始める。
【0043】
上記は、装置が、AV遅延に対する単調に低減する関係又はベル形状の関係を前提とする心室パラメータについて、提示されたアルゴリズムを説明する2つの具体的な実例である。しかしこれらに加えて、AV遅延に対する、単調に増加する(短いAV遅延で小さい振幅、長いAV遅延で大きい振幅の)関係、及び放物線状(短いAV遅延と長いAV遅延で大きい振幅、ターゲットAV遅延で小さい振幅)の関係を含む他の関係を補うように、アルゴリズムを修正できることは明らかである。
【0044】
別の実施例では、アルゴリズムは、測定されている特定の信号について、振幅の他に他のパラメータを使用することができる。他の測定基準は、信号の幅、周波数、広がり、又は変動を含むことができる。ペースメーカ1は、こうした測定基準を計算するための適切な処理構成要素を有する。たとえば、S1周波数が、AV遅延に対する単調な、ベル形状の、又は放物線状の関係を有することが知られているなら、ペースメーカ1は、S1振幅対AV遅延の代わりに、S1周波数対AV遅延の曲線を生成することができる。
【0045】
別の実施例では、アルゴリズム/ペースメーカ1は、AV遅延に対して異なる関係(たとえば、単調に増大する関係のものと、放物線状の関係のもの)を有すると同時に、AV遅延の最適な範囲を維持する複数の心室パラメータを使用することができる。
【0046】
別の実施例では、アルゴリズム/ペースメーカ1は、ペースメーカに取り付けられたリードの先端に心室収縮パラメータを測定するための必要なセンサ(圧力、加速度計、マイクロフォン、電極)を有する単腔ペースメーカに拡張されることが可能である。
【0047】
図4は、心臓内ペーシング装置(植え込み可能リードレス・ペースメーカとも呼ぶ)の概略図を示す。装置は、エネルギー・ストレージ102(たとえばバッテリ)、電子モジュール103、及び通信ユニット104を囲むハウジング100を備える。ハウジング100はチタンを含んでもよく、又はチタン製であってもよい。
【0048】
ハウジング100の遠位端部に、第1の電極106(ペーシング/感知電極とも呼ぶ)が配設される。ハウジング100の近位端部に、第2の電極101(リターン電極とも呼ぶ)が配置される。第2の電極101は、リング電極として形成されてもよい。
【0049】
装置は、固定要素105により心臓組織に固定されてもよい。固定要素は、歯として形成されてもよい。固定要素はニチノールを含んでもよく、又はニチノール製であってもよい。一実施例では、ニチノール製の4本の歯105が、ハウジング100の遠位端部に形成されてもよい。
【0050】
エネルギー・ストレージ102は、装置の構成要素、特に電子モジュール103、通信ユニット104、及び第1の電極106に電気エネルギーを提供するように構成されてもよい。
【0051】
電子モジュール103は、心臓の事象を感知すること、及びペーシング・パルスを提供することを含むペースメーカの機能を実行するように構成されてもよい。電子モジュール103は、プロセッサ、及びメモリ、並びに/又は状態機械論理を備えてもよい。
【0052】
通信ユニット104は、外部装置(たとえばプログラマ)と通信できるように構成されてもよい。通信ユニット104は、誘導通信のためのコイルを備えてもよい。
【0053】
図4による心臓内ペーシング装置は、右心室2aの電気的活動の事象を感知するための感知ユニットを備えてもよく、AV同期を実現するために本明細書に開示する方法を実行するように構成されてもよい。
【0054】
本発明の技術的利点は、心房収縮に関連付けられた小さい信号成分ではなく、心室収縮に関連付けられた大きい信号成分を頼りに、AV同期を実現することである。具体的な実例のように、S1心音は、振幅が大きく、ほぼ常に存在しているが、心房収縮から得られるS4心音は、振幅が非常に小さく、存在しないことも多い。したがって、このペースメーカ1及び方法は、小さい心房信号に依存してAV同期を実現する解決策よりも高い信頼性を得ることができる。
【0055】
さらに、心室収縮の測定は、心房の脱分極の後に、多くの場合明確に定義された短い期間内に行われる。これは、アルゴリズムが心房収縮の測定値を探さなくてはいけない心室の脱分極の後の、多くの場合長く明確に定義されていない期間とは対照的である。結果的に、心房収縮測定ではなく、心室収縮測定を使用することにより、検出アルゴリズムが稼働しなくてはならない時間を短縮することで、ペースメーカ1のバッテリ寿命を延ばすことができる。
【0056】
上記の教示に鑑み、説明した実例及び実施例の多数の変更形態及び変形形態が可能であることが、当業者には明らかであろう。開示した実例及び実施例は、例示のみを目的として提示される。他の代替的な実施例は、本明細書に開示する特徴の一部又は全部を含んでもよい。したがって、こうした変更形態及び代替的な実施例を、本発明の真の範囲内に含まれ得るものとして、網羅することを意図している。
図1
図2
図3
図4