(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】CD56陽性細胞の比率を高めるための組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 5/077 20100101AFI20240820BHJP
A61K 31/4439 20060101ALN20240820BHJP
【FI】
C12N5/077
A61K31/4439
(21)【出願番号】P 2020032376
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2022-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 文哉
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-518943(JP,A)
【文献】Molecular Medicine Reports,2015年,Vol.11,p.3808-3813
【文献】Journal of Bone and Mineral Research,2010年,Vol.25, No.6,p.1216-1233
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/4439
C12N 5/077
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織から分離した骨格筋芽細胞におけるCD56陽性細胞の比率を増加させるためのTGF-β阻害剤含有組成物であって、TGF-β阻害剤が、SB-431542であり、骨格筋芽細胞の継代回数が3回のときに培地に添加される、前記組成物。
【請求項2】
さらにTGF-βを含有し、さらにCD56陽性細胞数の増加を促進するための請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
CD56陽性細胞が、骨格筋前駆細胞である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
骨格筋前駆細胞が、骨格筋芽細胞または筋衛星細胞である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
生体組織から分離した骨格筋芽細胞における細胞増殖を抑制するためのTGF-β阻害剤含有組成物であって、TGF-β阻害剤が、SB-431542であり、骨格筋芽細胞が初代骨格筋芽細胞であるときに培地に添加される、前記組成物。
【請求項6】
生体組織から分離した骨格筋芽細胞におけるCD56陽性細胞の比率を高める方法であって、継代回数が3回の骨格筋芽細胞をTGF-β阻害剤の存在下でin vitroでインキュベートするステップを含み、TGF-β阻害剤が、SB-431542である、前記方法。
【請求項7】
TGF-β阻害剤の存在下でin vitroでインキュベートするステップの前に、さらにTGF-β阻害剤の非存在下でin vitroでインキュベートするステップを含む、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
TGF-β阻害剤の非存在下でin vitroでのインキュベートが192時間以上である、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
TGF-β阻害剤の存在下または非存在下でin vitroでインキュベートするステップに、さらにTGF-βを存在させる、請求項
6~
8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞集団におけるCD56陽性細胞の比率を高めるための組成物、方法、CD56陽性細胞の比率の高い細胞集団、それらを利用した移植片の製造方法、および当該製造方法によって製造された移植片等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の心臓病に対する治療の革新的進歩にかかわらず、重症心不全に対する治療体系は未だ確立されていない。重症心不全治療の解決策として新しい再生医療の展開が不可欠と考えられている。重症心筋梗塞等においては、心筋細胞が機能不全に陥り、さらに線維芽細胞の増殖、間質の線維化が進行し心不全を呈するようになる。心不全の進行に伴い、心筋細胞は傷害されてアポトーシスに陥るが、心筋細胞は殆ど細胞分裂をおこさないため、心筋細胞数は減少し心機能の低下もさらに進む。このような重症心不全患者に対する心機能回復には細胞移植法が有用とされ、既に骨格筋芽細胞よる臨床応用が開始されている。
【0003】
近年、その一例として、骨格筋芽細胞を含む心臓に移植可能な三次元に構成された細胞培養物と、その製造方法が提供された(特許文献1)。このような細胞移植に用いる骨格筋芽細胞は、通常移植する対象の骨格筋組織から骨格筋芽細胞や筋衛星細胞といったCD56陽性細胞を分離して得るが、CD56陽性細胞の割合を高める方策として、例えば、骨格筋組織をタンパク質分解酵素溶液に所定の時間浸漬して酵素処理を行って得られた酵素処理液を廃棄した後に、再度タンパク質分解酵素溶液に所定の時間浸漬して酵素処理を行って得られた酵素処理液に含まれる細胞を回収する方法や(特許文献2)、筋細胞のみを培養する培養液として血清と基礎培地とを含有し、上記血清濃度が全培養液中10~40体積%であり上記基礎培地が全培養液中50~90体積%であり、グルコースを実質的に含まない培地を使用することが知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2007-528755号公報
【文献】特開2011-110368号公報
【文献】特開2018-000194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようにして得られた骨格筋組織から得られた細胞集団中の骨格筋芽細胞や筋衛星細胞といったCD56陽性細胞の数が、本来的に組織に含まれている細胞数よりも大幅に少なく、また細胞数や増殖能などの質が年齢などの個体差によって変化するといった課題を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上述した問題を解決するために鋭意検討した結果、生体組織から調製した細胞集団へTGF-β阻害剤を添加することにより、細胞集団中のCD56陽性細胞の比率を高められることを見出した、さらに研究を進める中でTGF-βとTGF-β阻害剤とを併用することにより当該比率の向上に加えCD56陽性細胞を選択的に増加させることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は、以下に関する。
[1]細胞集団におけるCD56陽性細胞の比率を増加させるためのTGF-β阻害剤含有組成物。
[2]TGF-β阻害剤が、SB-43154である、[1]に記載の組成物。
[3]さらにTGF-βを含有し、さらにCD56陽性細胞数の増加を促進するための[1]または[2]に記載の組成物。
【0008】
[4]CD56陽性細胞が、骨格筋前駆細胞である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の組成物。
[5]骨格筋前駆細胞が、骨格筋芽細胞または筋衛星細胞である、[4]に記載の組成物。
[6][1]~[5]のいずれか1つに記載の組成物を含む、筋疾患、心疾患または繊維化疾患の治療または予防剤。
[7][6]に記載の筋疾患、心疾患または繊維化疾患の治療または予防剤を、それを必要とする対象に投与するステップを含む、前記対象における疾患の治療方法。
【0009】
[8]細胞集団におけるCD56陽性細胞の比率を高める方法であって、細胞集団をTGF-β阻害剤の存在下でインキュベートするステップを含む、前記方法。
[9]細胞集団が骨格筋組織から調製された、[8]に記載の方法。
[10]TGF-β阻害剤が、SB-43154である、[8]または[9]に記載の方法。
【0010】
[11]TGF-β阻害剤の存在下でインキュベートするステップの前に、さらにTGF-β阻害剤の非存在下でインキュベートするステップを含む、[8]~[10]のいずれか1つに記載の方法。
[12]TGF-β阻害剤の非存在下でインキュベートが192時間以上である、[11]に記載の方法。
[13]TGF-β阻害剤の存在下または非存在下でインキュベートするステップに、さらにTGF-βを存在させる、[8]~[12]のいずれか1つに記載の方法。
【0011】
[14][8]~[13]のいずれか1つに記載の方法で得られた、骨格筋芽細胞比率の高い細胞集団。
[15][14]に記載の細胞集団を用いた、移植片の製造方法。
[16][15]に記載の製造方法により製造された、移植片。
[17]CD56陽性細胞を含む細胞集団により製造された移植片と共に投与するための、[1]~[5]のいずれか1つに記載の組成物。
【0012】
[18][14]に記載の細胞集団または[16]に記載の移植片の治療有効量を、それを必要とする対象に投与するステップを含む、前記対象における疾患の処置方法。
[19]CD56陽性細胞を含む細胞集団により製造された移植片の治療有効量を、[1]~[5]のいずれか1つに記載の組成物の治療有効量と共に、それを必要とする対象に投与するステップを含む、前記対象における疾患の処置方法。
【発明の効果】
【0013】
細胞集団におけるCD56陽性細胞の比率を安定して高めることができ、これにより高品質な移植片状などを提供することができる。さらに対象の組織における線維芽細胞の増殖、間質の線維化といった非CD56陽性細胞の望ましくない増殖を抑制する新たな治療戦略を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】骨格筋組織から分離した細胞集団へTGF-βまたはTGF-β阻害剤(SB-43154)を添加した際のCD56陽性細胞の比率(以下CD56陽性率ともいう)を示す。
【
図2】骨格筋組織から分離した細胞集団へTGF-βまたはTGF-β阻害剤(SB-43154)を添加した際の全細胞数およびCD56陽性細胞数を示す。
【
図3】初代骨格筋芽細胞へTGF-β阻害剤を添加した際の全細胞数を示す。
【
図4】骨格筋組織から分離した細胞集団へTGF-βおよび/またはTGF-β阻害剤(SB-43154)を添加し2時間培養した際のCD56陽性細胞率を示す。
【0015】
本明細書において別様に定義されない限り、本明細書で用いる全ての技術用語および科学用語は、当業者が通常理解しているものと同じ意味を有する。本明細書中で参照する全ての特許、出願、公開された出願および他の出版物は、その全体を参照により本明細書に援用する。以下、本発明の好適な実施態様に基づき、本発明を説明する。
【0016】
<TGF-β阻害剤含有組成物>
本開示は、細胞集団におけるCD56陽性細胞の比率を増加させるためのTGF-β阻害剤含有組成物を含む。
本開示における、「CD56陽性細胞」とは、細胞表面マーカーCD56によって特徴づけられる細胞を指す。CD56陽性細胞は、体細胞であっても未分化な幹細胞(例えば、筋芽細胞、心臓幹細胞などの組織幹細胞、胚性幹細胞、iPS(induced pluripotent stem)細胞などの多能性幹細胞、間葉系幹細胞等)などであってもよく、典型的には、骨格筋芽細胞および筋衛星細胞などの骨格筋前駆細胞である。CD56陽性細胞の比率を測定する手法としては、例えば、抗CD56抗体で標識し、抗体が結合した陽性細胞数を、計数した総細胞数で除すことが挙げられる。CD56陽性細胞の計数は、特異的抗体で染色した標本の顕微鏡観察、顕微鏡像の画像解析、特異的抗体で染色した細胞集団のフローサイトメトリー解析などによって行うことができる。
【0017】
本開示における「CD56陽性細胞の比率」は、CD56陽性細胞とCD56陽性細胞以外の細胞(非CD56陽性細胞)とを含む細胞集団を構成する全細胞数に対するCD56陽性細胞数の割合を指す。細胞集団は、生体組織そのものであってもよいし、生体から採取された組織、当該組織から調製された細胞懸濁液または当該細胞から製造された移植片などであってもよいし、多能性幹細胞から分化誘導された細胞から調製された細胞懸濁液または当該細胞から製造された移植片などであってもよい。典型的には、生体から採取した組織から調製されるため細胞集団は典型的には同一組織に存在する細胞から構成される。例えば、骨格筋組織から調製される細胞集団は、主として例えば骨格筋芽細胞および筋衛星細胞などの骨格筋前駆細胞ならびに線維芽細胞から構成される。この場合、骨格筋前駆細胞がCD56陽性細胞であり、「CD56陽性細胞の比率の増加」とは骨格筋前駆細胞の比率を増加させることである。したがって、本発明の一態様において、細胞集団は骨格筋組織から調製された細胞集団である。本発明の一態様において、CD56陽性細胞は好ましくは骨格筋芽細胞および/または筋衛星細胞であり、非CD56陽性細胞は線維芽細胞である。
CD56陽性細胞が、例えば骨格筋芽細胞であればCD56のほか、限定されずに、例えば、Pax7、GATA4、MyoD、α7インテグリン、ミオシン重鎖IIa、ミオシン重鎖IIb、ミオシン重鎖IId(IIx)、Myf5、myogeninなどのマーカーにより特定することができる。CD56陽性細胞が、筋衛星細胞であればCD56のほか、限定されずに、例えば、Pax7、α7インテグリン、CD34、CXCR4、CD29などのマーカーにより特定することができる。
【0018】
細胞集団が給源となる生体組織または細胞は、限定されずに、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類(マウス、ラット、ハムスター、モルモットなど)、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジなどの哺乳動物に由来してもよい。
【0019】
本開示におけるTGF-β阻害剤を含有する組成物は、細胞集団におけるCD56陽性細胞の比率を増加させることができる。
TGF-βは、一般に増殖因子の一種であり広範な組織・器官を構成する殆どすべての細胞で産生される。TGF-βには、5種類のサブタイプ(β1~β5)が存在する。また、TGF-βは、骨芽細胞の増殖、並びに、コラーゲンのような結合組織の合成及び増殖を促進し、上皮細胞や破骨細胞の増殖に対しては抑制的に作用することが知られている。
本開示におけるTGF-β阻害剤は、TGF-β受容体へのTGF-βの結合を阻止又は阻害する剤である。一態様においてTGF-β阻害剤は、TGF-β受容体アンタゴニスト又は逆アゴニストとして作用する剤である。一態様において、TGF-β活性を中和する複合体を形成するTGF-βに結合する剤である。
【0020】
本開示におけるTGF-β阻害剤は、TGF-β受容体へのTGF-βの結合を阻止又は阻害するものであれば限定されず、SB-43154(4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-ピリジン-2-イル-1H-イミダゾール-2-イル]ベンズアミド)、A83-01(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1-フェニルチオカルバモイル-4-キノリン-4-イルピラゾール)、ALK5 Inhibitor I(3-(ピリジン-2-イル)-4-(4-キノニル)-1H-ピラゾール)、LDN193189(4-(6-(4-(ピペラジン-1-イル)フェニル)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル)キノリン)、SB-505124(2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル-2-tert-ブチル-3H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン塩酸塩水和物)、SD-208(2-(5-クロロ-2-フルオロフェニル)プテリジン-4-イル)ピリジン-4-イル-アミン)、SB-525334(6-[2-(1,1-ジメチルエチル)-5-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-4-イル]キノキサリン)、LY-364947(4-[3-(2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-キノリン)、LY2157299(4-[2-(6-メチル-ピリジン-2-イル)-5,6-ジヒドロ-4H-ピロロ[1,2-b]ピラゾール-3-イル]-キノリン-6-カルボン酸アミド)、TGF-β RI Kinase Inhibitor II 616452(2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン)、TGF-β RI Kinase Inhibitor III 616453(2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-4-イル-2-tert-ブチル-1H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン, HCl)、TGF-β RI Kinase Inhibitor IX 616463(4-((4-((2,6-ジメチルピリジン-3-イル)オキシ)ピリジン-2-イル)アミノ)ベンゼンスルホンアミド)、TGF-β RI Kinase Inhibitor VII 616458(1-(2-((6,7-ジメトキシ-4-キノリル)オキシ)-(4,5-ジメチルフェニル)-1-エタノン)、TGF-β RI Kinase Inhibitor VIII 616459(6-(2-tert-ブチル-5-(6-メチル-ピリジン-2-イル)-1H-イミダゾール-4-イル)-キノキサリン)、AP12009、Belagenpumatucel-L、CAT-152、CAT-192、GC-1008(抗-TGF-βモノクローナル抗体)等を用いることができる。本発明においてSB-43154を好ましく用いることができる。
【0021】
本開示におけるTGF-β阻害剤の濃度は、TGF-βの阻害活性を有していれば限定されず、例えばTGF-β阻害剤非存在下でのTGF-β活性レベルと比較して、5%、10%、20%、30%、40%以上阻害活性を有すればよい。TGF-β阻害活性は、当業者にとって公知の方法で評価することができ、例えばルシフェラーゼレポーター遺伝子に作動可能に結合したPAI-1プロモーター又はSmad結合部位を含むレポーターベクターを含む細胞によるアッセイが挙げられる。
【0022】
TGF-β阻害剤としてSB-43154を用いる場合、細胞集団におけるCD56陽性細胞の比率を増加させることができれば限定されず、例えば0.01ng/mL~100ng/ml、0.05ng/mL~50ng/ml、0.1~10ng/ml、0.2~5ng/mLであり、0.5~5ng/mLが好ましい。TGF-βと組み合わせて使用する場合も、0.01ng/mL~100ng/ml、0.05ng/mL~50ng/ml、0.1~10ng/ml、0.2~5ng/mLであり、0.5~5ng/mLが好ましい。
【0023】
本発明の一態様において、TGF-β阻害剤とTGF-βとを組み合わせて使用することができ、この態様では細胞集団におけるCD56陽性細胞の比率およびCD56陽性細胞数の増加を促進させることができる。
TGF-βは、当該技術分野においてTGF-βに分類されるものを使用することができ、生体由来のものであってもよいし、組み換え体に由来するものであってもよい。一例としてRecombinant TGF-β1(Transforming Growth Factor-beta1,Peprotech, Cat No:100-21)などを使用することができる。
【0024】
本態様におけるTGF-βの濃度は、TGF-β阻害剤と組み合わせた際に細胞集団におけるCD56陽性細胞の比率およびCD56陽性細胞数を増加させることができれば限定されず、TGF-β:TGF-β阻害剤を約1:1~100、1:1~50、約1:1~25、約1:1~10、約1:1~5、約1:1~2.5、約1:1.25であり、好ましくは約1:1である。TGF-β阻害剤としてSB-43154と併用する場合、TGF-βの濃度は、例えば約0.01ng/mL~約100ng/ml、約0.05ng/mL~約50ng/ml、約0.1~約10ng/ml、約0.2~約5ng/mLであり、約0.5~約5ng/mLが好ましい。SB-43154の1~5ng/mLに対して、TGF-βを約1~5ng/mL使用することが好ましい。
【0025】
本発明のTGF-β阻害剤を含有する組成物は、TGF-β阻害剤を含有しない場合と比較して細胞集団におけるCD56陽性細胞の比率を約1.03~4倍、1.06~3倍、約1.09~2.5倍、約1.10~2倍、約1.12~1.9倍上げることができる。
本発明のTGF-β阻害剤およびTGF-βを含有する組成物は、TGF-β阻害剤を含有しない場合と比較して細胞集団におけるCD56陽性細胞の比率を約1.3~7倍、約2~6倍、約3~4.5倍、約2~2.3倍上げることができる。
本発明のTGF-β阻害剤およびTGF-βを含有する組成物は、TGF-β阻害剤を同じ濃度で含有する組成物と比較して細胞集団におけるCD56陽性細胞数を約1.1~4倍、約1.2~3倍、約1.3~2.5倍、約1.4~1.8倍上げることができる。
本発明のTGF-β阻害剤およびTGF-βを含有する組成物は、TGF-β阻害剤を同じ濃度で含有する組成物に対して、細胞集団におけるCD56陽性細胞数を約1.1~5倍、約1.4~4.5倍、約1.7~4倍、約2~4倍、約2.5~3.5倍上げることができる。
【0026】
細胞集団におけるCD56陽性細胞の比率の増加および/またはCD56陽性細胞数の増加は、各種筋ジストロフィー、各種ミオパチー、ミトコンドリア病、糖原病等の筋原生疾患、加齢性の筋萎縮(サルコペニア)、慢性疾患・癌悪液質による筋力低下(カヘキシア)、寝たきりや骨折に伴う筋活動の低下による筋萎縮等、乳児性脊髄性筋萎縮症、シャルコ・マリー・ツース病、先天性ミエリン形成不全症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの筋疾患ならびにそれら疾患に伴う心不全等の心疾患にも有効である。
さらに細胞集団におけるCD56陽性細胞の比率の増加は、非CD56陽性細胞の比率の低下を意味する。非CD56陽性細胞の比率の低下は、CD56陽性細胞の増殖によってもたらされても、非CD56陽性細胞の増殖の抑制または死滅などによってもたらされてもよい。
例えば骨格筋組織中の骨格筋芽細胞および筋衛星細胞などCD56陽性細胞の比率の増加は、繊維芽細胞の比率の低下をもたらすことを意味する。したがってTGF-β阻害剤および/またはTGF-βを含む組成物は、繊維芽細胞の組織における増殖に関連する種々の繊維化疾患の予防剤または治療剤として用いることができる。
繊維化疾患は、限定されることなく心不全、動脈硬化症、経皮経管冠動脈血管拡張術後の冠動脈再狭窄、肺線維症、肝硬変、強皮症、間質性肺炎、間質性心筋炎、間質性膀胱炎、糸球体腎炎、血管炎、糖尿病性腎症、高血圧性腎硬化症、HIV腎症、IgA腎症、ループス腎症、間質性腎炎、尿管閉塞による閉塞腎、皮膚の瘢痕化などが挙げられる。
【0027】
本発明の組成物は、TGF-β阻害剤および/またはTGF-βを含有している限り特に制限はされない。本発明の組成物は、本発明のTGF-β阻害剤および/またはTGF-β以外のCD56陽性細胞の比率を増加させる効果を示す化合物を含有する組成物と組み合わせて用いることができる。また、本発明の組成物は、本発明の効果を妨げない限り、本発明のTGF-β阻害剤および/またはTGF-βのほかに任意の成分を含有していてもよい。そのような任意成分として、例えば、薬理学的に許容される担体、賦形剤、液性媒体(希釈剤、緩衝液、培養液等)などが挙げられる。
【0028】
本発明の組成物の剤型は特に制限されないが、例えば、本発明のTGF-β阻害剤および/またはTGF-βを含有する液剤あるいは固形製剤を挙げることができる。液剤は、本発明のTGF-β阻害剤および/またはTGF-βを適当な生理食塩液もしくは補液または医薬添加物を加えてアンプルまたはバイアル瓶などに充填することにより製造することができる。また、固形製剤は、液剤に適当な保護剤を添加してアンプルまたはバイアル瓶などに充填した後凍結乾燥またはL乾燥するか、液剤に適当な保護剤を添加して凍結乾燥またはL乾燥した後これをアンプルまたはバイアル瓶などに充填することにより製造することができる。
本発明の一態様において、TGF-β阻害剤とTGF-βとを組み合わせて使用する場合、TGF-β阻害剤とTGF-βとが一緒に含まれる製剤としてもよいし、別々に含まれる製剤とし、処置時にそれぞれを投与して使用してもよい。
【0029】
<TGF-β阻害剤および/またはTGF-β含有組成物により疾患を処置する方法>
本開示の別の側面は、本開示の方法により得られたTGF-β阻害剤および/またはTGF-β含有組成物の有効量を、それを必要とする対象に適用することを含む、前記対象における疾患を処置する方法に関する。対象とする疾患は上述したとおりである。
本開示において、用語「処置」は、疾患の治癒、一時的寛解または予防などを目的とする医学的に許容される全ての種類の予防的および/または治療的介入を包含するものとする。例えば、「処置」の用語は、組織の異常に関連する疾患の進行の遅延または停止、病変の退縮または消失、当該疾患発症の予防または再発の防止などを含む、種々の目的の医学的に許容される介入を包含する。
本開示の処置方法においては対象疾患の処置に有用な他の有効成分などを、本開示のTGF-β阻害剤および/またはTGF-β含有組成物と併用することができる。本開示の処置方法は、さらに細胞集団および移植片等を含んでもよい。
【0030】
本開示において、有効量とは、例えば、疾患の発症や再発を抑制し、症状を軽減し、または進行を遅延もしくは停止し得る量であり、好ましくは、当該疾患の発症および再発を予防し、または当該疾患を治癒する量である。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は、例えば、マウス、ラット、イヌまたはブタなどの実験動物や疾患モデル動物における試験などにより適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。また、処置の対象となる組織病変の大きさは、有効量決定のための重要な指標となり得る。
【0031】
投与方法としては、例えば、静脈投与、筋肉内投与、骨内投与、髄腔内投与、組織への直接的な適用などが挙げられる。投与頻度は、典型的には1回の処置につき1回であるが、所望の効果が得られない場合には、複数回投与することも可能である。
【0032】
<細胞集団におけるCD56陽性細胞の比率を高める方法>
本発明の別の側面は、細胞集団におけるCD56陽性細胞の比率を高める方法であって、細胞集団をTGF-β阻害剤の存在下でインキュベートするステップを含む。
本開示の細胞集団およびCD56陽性細胞等は上述したとおりである。
本側面において細胞集団は、好ましくは生体組織から調製した細胞であり、さらに好ましくは骨格筋組織から調製した細胞である。
TGF-β阻害剤の存在下でのインキュベートは、上述したTGF-β阻害剤を含有する組成物、例えばTGF-β阻害剤を含有する任意の液性媒体を細胞集団へ添加してインキュベートすることであってよい。
本発明の一態様において、インキュベートするステップにさらにTGF-βを存在させる、すなわちTGF-β阻害およびTGF-βの存在下でインキュベートしてもよい。したがって本発明の一態様は、上述したTGF-β阻害剤およびTGF-βを含有する組成物、例えばTGF-β阻害剤およびTGF-βを含有する任意の液性媒体を細胞集団へ添加してインキュベートすることであってよい。
TGF-β阻害剤および/またはTGF-βの組成物中の濃度は、上述したとおりである。
液性媒体としては、例えば、生理食塩水、種々の生理緩衝液(例えば、PBS、HBSS等)、種々の細胞培養用の基礎培地をベースにしたものなど細胞の生存を維持できる媒体であれば特に限定されず使用することができる。かかる基礎培地には、限定されずに、例えば、DMEM、MEM、F12、DME、RPMI1640、MCDB(MCDB102、104、107、120、131、153、199など)、L15、SkBM、RITC80-7、DMEM/F12などが含まれる。これらの基礎培地の多くは市販されており、その組成も公知となっている。基礎培地は、標準的な組成のまま(例えば、市販されたままの状態で)用いてもよいし、細胞種や細胞条件に応じてその組成を適宜変更してもよい。媒体は、通常血清(例えば、ウシ胎仔血清(FBS)などのウシ血清、ウマ血清、ヒト血清等)、種々の成長因子(例えば、FGF、EGF、VEGF、HGF等)などの添加物を含んでもよい。
【0033】
インキュベートは、当該技術分野で通常なされている条件で行うことができる。例えば、典型的なインキュベート条件としては、35℃、5%CO2での培養が挙げられる。
インキュベート時間は、目的とするCD56陽性細胞の比率を高めることができれば特に限定されず、約1時間~10日、約1時間~5日、約1.5時間~3日(72時間)、約2時間~約48時間、約2時間~約24時間である。
インキュベート温度は、CD56陽性細胞の比率を高めることができれば特に限定されず、当該技術分野において通常に用いられる温度でよい。
インキュベートするステップの後、さらに細胞集団を洗浄するステップを含んでもよい。
【0034】
本発明の一態様において、TGF-β阻害剤の存在下でインキュベートするステップの前に、さらにTGF-β阻害剤の非存在下でインキュベートするステップを含んでよい。細胞の種類や成長段階によってTGFシグナルの阻害が増殖を著しく阻害することがあり、その場合、TGF-β阻害剤の非存在下でインキュベートした後にTGF-β阻害剤の存在下でインキュベートすることが好ましい。本態様に用いられる細胞の種類は初代培養細胞であってよい。
TGF-β阻害剤の非存在下でのインキュベート時間としては、例えば初代培養細胞を用いる場合、細胞集団が安定化すれば特に限定されず、8時間以上、12時間以上、24時間以上、48時間以上、96時間以上、168時間以上、192時間以上、240時間以上であってもよいがこれに限定されない。かかるインキュベート時間の間に、一または複数回の継代を含んでよい。
TGF-β阻害剤の非存在下でのインキュベートは、TGF-β阻害剤を含まなければよく、例えばTGF-βなど任意の成分を含んでいてもよいし、TGF-β阻害剤を含まない以外は、TGF-β阻害剤の存在下でのインキュベートと同じ成分で行なってもよい。したがって、TGF-β阻害剤の存在下でインキュベートするステップは、TGF-β阻害剤の非存在下でインキュベートした細胞集団へ、上述したTGF-β阻害剤を含有する任意の液性媒体を添加することにより開始することもできる。
【0035】
TGF-β阻害剤の存在下でインキュベートするステップを含むことによりCD56陽性細胞比率の高い細胞集団を得ることができる。さらにTGF-β阻害剤およびTGF-βの存在下でインキュベートするステップを含むことによりCD56陽性細胞比率およびCD56陽性細胞数の高い細胞集団を得ることができる。
【0036】
<細胞集団におけるCD56陽性細胞の比率を高める方法>
本発明の別の側面は、本発明の方法より得られたCD56陽性細胞比率の高い細胞集団を用いた移植片の製造方法に関する。
本発明において、「移植片」とは、生体内へ移植するための構造物を意味し、特に細胞を構成成分として含む移植用構造物を意味する。好ましい一態様においては、移植片は、細胞および細胞由来の物質以外の構造物(例えばスキャフォールドなど)を含まない移植用構造物である。本開示における移植片としては、これに限定するものではないが、例えばシート状細胞培養物、スフェロイド、細胞凝集塊などが挙げられ、好ましくはシート状細胞培養物またはスフェロイド、より好ましくはシート状細胞培養物である。
【0037】
本開示において、「シート状細胞培養物」は、細胞が互いに連結してシート状になったものをいう。本開示において、「スフェロイド」は細胞が互いに連結して略球状になったものをいう。細胞同士は、直接(接着分子などの細胞要素を介するものを含む)および/または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも物理的(機械的)に連結し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックスなどが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、特に、シート状細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも物理的(機械的)に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。シート状細胞培養物は、1の細胞層から構成されるもの(単層)であっても、2以上の細胞層から構成されるもの(積層体(多層)、例えば、2層、3層、4層、5層、6層など)であってもよい。また、シート状細胞培養物は、細胞が明確な層構造を示すことなく、細胞1個分の厚みを超える厚みを有する3次元構造を有してもよい。例えば、シート状細胞培養物の垂直断面において、細胞が水平方向に均一に整列することなく、不均一に(例えば、モザイク状に)配置された状態で存在していてもよい。
【0038】
本開示の移植片、特にシート状細胞培養物は、好ましくはスキャフォールド(支持体)を含まない。スキャフォールドは、その表面上および/またはその内部に細胞を付着させ、シート状細胞培養物などの移植片の物理的一体性を維持するために当該技術分野において用いられることがあり、例えば、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)製の膜等が知られているが、本開示の移植片は、かかるスキャフォールドがなくともその物理的一体性を維持することができる。また、本開示の移植片は、好ましくは、移植片を構成する細胞由来の物質のみからなり、それら以外の物質を含まない。
【0039】
培養基材は、細胞がその上で細胞培養物を形成し得るものであれば特に限定されず、例えば、種々の材質および/または形状の容器、容器中の固形もしくは半固形の表面などを含む。容器は、培養液などの液体を透過させない構造・材料が好ましい。かかる材料としては、限定することなく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ナイロン6,6、ポリビニルアルコール、セルロース、シリコン、ポリスチレン、ガラス、ポリアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、金属(例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮)等が挙げられる。また、容器は、少なくとも1つの平坦な面を有することが好ましい。かかる容器の例としては、限定することなく、例えば、細胞培養物の形成が可能な培養基材で構成された底面と、液体不透過性の側面とを備えた培養容器が挙げられる。かかる培養容器の特定の例としては、限定されずに、細胞培養皿、細胞培養ボトルなどが挙げられる。容器の底面は透明であっても不透明であってもよい。容器の底面が透明であると、容器の裏側から細胞の観察、計数などが可能となる。また、容器は、その内部に固形もしくは半固形の表面を有してもよい。固形の表面としては、上記のごとき種々の材料のプレートや容器などが、半固形の表面としては、ゲル、軟質のポリマーマトリックスなどが挙げられる。培養基材は、上記材料を用いて作製してもよいし、市販のものを利用してもよい。
【0040】
好ましい培養基材としては、限定することなく、例えば、シート状細胞培養物の形成に適した、接着性の表面を有する基材、スフェロイドの形成に適した、低接着性の表面を有する基材および/または均一なウェル状構造を有する基材などが挙げられる。具体的には、シート状細胞培養物の形成の場合であれば、例えば、コロナ放電処理したポリスチレン、コラーゲンゲルや親水性ポリマーなどの親水性化合物を該表面にコーティングした基材、さらには、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、プロテオグリカン、グリコサミノグリカンなどの細胞外マトリックスや、カドヘリンファミリー、セレクチンファミリー、インテグリンファミリーなどの細胞接着因子などを表面にコーティングした基材などが挙げられる。また、かかる基材は市販されている(例えば、Corning(R) TC-Treated Culture Dish、Corningなど)。またスフェロイドの形成の場合であれば、例えば軟寒天、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)をポリエチレングリコール(PEG)で架橋した温度応答性ゲル(市販名:メビオールゲル)、ポリメタクリル酸ヒドロキシエチル(ポリHEMA)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリスコリン(MPC)ポリマーなどのハイドロゲルなどの非細胞接着性化合物を表面にコーティングした基材および/または均一な凹凸構造を表面に有する基材などが挙げられる。かかる基材もまた市販されている(例えば、EZSPHERE(R)など)。培養基材は全体または部分が透明であっても不透明であってもよい。
【0041】
培養基材は、刺激、例えば、温度や光に応答して物性が変化する材料で表面が被覆されていてもよい。かかる材料としては、限定されずに、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N-アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N-エチルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-シクロプロピルアクリルアミド、N-シクロプロピルメタクリルアミド、N-エトキシエチルアクリルアミド、N-エトキシエチルメタクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド等)、N,N-ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-エチルメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド等)、環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、1-(1-オキソ-2-プロペニル)-ピロリジン、1-(1-オキソ-2-プロペニル)-ピペリジン、4-(1-オキソ-2-プロペニル)-モルホリン、1-(1-オキソ-2-メチル-2-プロペニル)-ピロリジン、1-(1-オキソ-2-メチル-2-プロペニル)-ピペリジン、4-(1-オキソ-2-メチル-2-プロペニル)-モルホリン等)、またはビニルエーテル誘導体(例えば、メチルビニルエーテル)のホモポリマーまたはコポリマーからなる温度応答性材料、アゾベンゼン基を有する光吸収性高分子、トリフェニルメタンロイコハイドロオキシドのビニル誘導体とアクリルアミド系単量体との共重合体、および、スピロベンゾピランを含むN-イソプロピルアクリルアミドゲル等の光応答性材料などの公知のものを用いることができる(例えば、特開平2-211865、特開2003-33177参照)。これらの材料に所定の刺激を与えることによりその物性、例えば、親水性や疎水性を変化させ、同材料上に付着した細胞培養物の剥離を促進することができる。温度応答性材料で被覆された培養皿は市販されており(例えば、CellSeed Inc.のUpCell(R))、これらを本開示の製造方法に使用することができる。
【0042】
培養基材は、種々の形状であってもよい。また、その面積は特に限定されないが、例えば、約1cm2~約200cm2、約2cm2~約100cm2、約3cm2~約50cm2などであってよい。例えば、培養基材として直径10cmの円形の培養皿が挙げられる。この場合、面積は56.7cm2となる。培養表面は平坦であってもよいし、凹凸構造を有していてもよい。凹凸構造を有する場合、均一な凹凸構造であることが好ましい。
【0043】
培養基材は血清でコート(被覆またはコーティング)されていてもよい。血清でコートされた培養基材を用いることにより、より高密度のシート状細胞培養物を形成することができる。「血清でコートされている」とは、培養基材の表面に血清成分が付着している状態を意味する。かかる状態は、限定されずに、例えば、培養基材を血清で処理することにより得ることができる。血清による処理は、血清を培養基材に接触させること、および、必要に応じて所定期間インキュベートすることを含む。
【0044】
血清としては、異種血清および/または同種血清を用いることができる。異種血清は、移植片を、特にシート状細胞培養物を移植に用いる場合、そのレシピエントとは異なる種の生物に由来する血清を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、ウシやウマに由来する血清、例えば、ウシ胎仔血清(FBS、FCS)、仔ウシ血清(CS)、ウマ血清(HS)などが異種血清に該当する。また、「同種血清」は、レシピエントと同一の種の生物に由来する血清を意味する。例えば、レシピエントがヒトである場合、ヒト血清が同種血清に該当する。同種血清は、自己血清(自家血清ともいう)、すなわち、レシピエントに由来する血清、およびレシピエント以外の同種個体に由来する同種他家血清を含む。なお、本明細書中で、自己血清以外の血清、すなわち、異種血清と同種他家血清を非自己血清と総称することもある。
【0045】
培養基材をコートするための血清は、市販されているか、または、所望の生物から採取した血液から定法により調製することができる。具体的には、例えば、採取した血液を室温で約20分~約60分程度放置して凝固させ、これを約1000×g~約1200×g程度で遠心分離し、上清を採取する方法などが挙げられる。
【0046】
培養基材上でインキュベートする場合、血清は原液で用いても、希釈して用いてもよい。希釈は、任意の媒体、例えば、限定することなく、水、生理食塩水、種々の緩衝液(例えば、PBS、HBSSなど)、種々の液体培地(例えば、DMEM、MEM、F12、DMEM/F12、DME、RPMI1640、MCDB(MCDB102、104、107、120、131、153、199など)、L15、SkBM、RITC80-7など)等で行うことができる。希釈濃度は、血清成分が培養基材上に付着することができれば特に限定されず、例えば、約0.5%~約100%(v/v)、好ましくは約1%~約60%(v/v)、より好ましくは約5%~約40%(v/v)である。
【0047】
インキュベート時間も、血清成分が培養基材上に付着することができれば特に限定されず、例えば、約1時間~約72時間、好ましくは約2時間~約48時間、より好ましくは約2時間~約24時間、さらに好ましくは約2時間~約12時間である。インキュベート温度も、血清成分が培養基材上に付着することができれば特に限定されず、例えば、約0℃~約60℃、好ましくは約4℃~約45℃、より好ましくは室温~約40℃である。
【0048】
インキュベート後に血清を廃棄してもよい。血清の廃棄手法としては、ピペットなどによる吸引や、デカンテーションなどの慣用の液体廃棄手法を用いることができる。本開示の好ましい態様においては、血清廃棄後に、培養基材を無血清洗浄液で洗浄してもよい。無血清洗浄液としては、血清を含まず、培養基材に付着した血清成分に悪影響を与えない液体媒体であれば特に限定されず、例えば、限定することなく、水、生理食塩水、種々の緩衝液(例えば、PBS、HBSSなど)、種々の液体培地(例えば、DMEM、MEM、F12、DMEM/F12、DME、RPMI1640、MCDB(MCDB102、104、107、120、131、153、199など)、L15、SkBM、RITC80-7など)等で行うことができる。洗浄手法としては、慣用の培養基材洗浄手法、例えば、限定することなく、培養基材上に無血清洗浄液を加えて所定時間(例えば、約5秒~約60秒間)撹拌後、廃棄する手法などを用いることができる。
【0049】
本開示において、培養基材を、成長因子でコートしてもよい。ここで、「成長因子」は、細胞の増殖を、それがない場合に比べて促進する任意の物質を意味し、例えば、上皮細胞成長因子(EGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)などを含む。成長因子による培養基材のコート手法、廃棄手法および洗浄手法は、インキュベーション時の希釈濃度が、例えば、約0.0001μg/mL~約1μg/mL、好ましくは約0.0005μg/mL~約0.05μg/mL、より好ましくは約0.001μg/mL~約0.01μg/mLである以外は、基本的に血清と同じである。
【0050】
本開示において、培養基材を、ステロイド剤でコートしてもよい。ここで「ステロイド剤」は、ステロイド核を有する化合物のうち、生体に、副腎皮質機能不全、クッシング症候群などの悪影響を及ぼし得るものをいう。かかる化合物としては、限定されずに、例えば、コルチゾール、プレドニゾロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン等が含まれる。ステロイド剤による培養基材のコート手法、廃棄手法および洗浄手法は、インキュベーション時の希釈濃度が、デキサメタゾンとして、例えば、約0.1μg/mL~約100μg/mL、好ましくは約0.4μg/mL~約40μg/mL、より好ましくは約1μg/mL~約10μg/mLである以外は、基本的に血清と同じである。
【0051】
培養基材は、血清、成長因子およびステロイド剤のいずれか1つでコートしても、これらの任意の組合わせ、すなわち、血清と成長因子、血清とステロイド剤、血清と成長因子とステロイド剤、または、成長因子とステロイド剤の組合わせでコートしてもよい。複数の成分でコートする場合、これらの成分を混合して同時にコートしてもよいし、別々のステップでコートしてもよい。
【0052】
培養基材への細胞集団の播種は、既知の任意の手法および条件で行うことができる。培養基材への細胞集団の播種は、例えば、細胞集団を培養液に懸濁した細胞懸濁液を培養基材(培養容器)に注入することにより行ってもよい。細胞懸濁液の注入には、スポイトやピペットなど、細胞懸濁液の注入操作に適した器具を用いることができる。
【0053】
本発明の製造方法に用いる培養液は、細胞の生存を維持できるものであれば特に限定されないが、典型的には、アミノ酸、ビタミン類、電解質を主成分としたものが利用できる。本発明の一態様において、培養液は、細胞培養用の基礎培地をベースにしたものである。かかる基礎培地には、限定されずに、例えば、DMEM、MEM、F12、DMEM/F12、DME、RPMI1640、MCDB(MCDB102、104、107、120、131、153、199など)、L15、SkBM、RITC80-7などが含まれる。これらの基礎培地の多くは市販されており、その組成も公知となっている。しかしながら、本発明の製造方法に用いる場合は、細胞種や細胞条件に応じてその組成を適宜変更してもよい。
【0054】
播種される細胞密度は、シート状細胞培養物を形成し得る密度であれば特に限定されないが、好ましい態様において、細胞集団はコンフルエントに達する密度またはそれ以上の密度で播種される。したがって、細胞集団は播種前の任意のタイミングでTGF-β阻害剤および/またはTGF-βの存在下で培養するステップを含んでよい。
本開示において、「コンフルエントに達する密度」とは、細胞を播種した際に、播種された細胞により、培養容器の接着表面一面が隙間なく覆われることが想定される程度の密度を指す。例えば、播種した際に、細胞が互いに接触することが想定される程度の密度、接触阻害が発生する密度、または接触阻害により細胞の増殖を実質的に停止する密度である。
【0055】
細胞集団の播種密度の非限定例は、約7.1×105個/cm2~約3.0×106個/cm2、約7.3×105個/cm2~約2.8×106個/cm2、約7.5×105個/cm2~約2.5×106個/cm2、約7.5×105個/cm2~約3.0×106個/cm2、約7.8×105個/cm2~約2.3×106個/cm2、約8.0×105個/cm2~約2.0×106個/cm2、約8.5×105個/cm2~約1.8×106個/cm2、約9.0×105個/cm2~約1.6×106個/cm2などの密度を含む。なお、これらの密度は、特段の記載がない限り、細胞集団に含有される全ての細胞の密度であることとする。
【0056】
さらに別の態様において、播種は、成長因子を実質的に含まない細胞培養液において、細胞集団に含まれ得る少なくとも1種の移植片形成細胞が実質的に増殖しない密度で行うことができる。かかる態様において、細胞集団に含まれ得る他の細胞は、増殖抑制を受けながらも、増殖可能な密度であり得る。本開示の方法に用いられる培養基材は、上述のとおりである。好ましい一態様において、培養基材は血清で被覆されていてよい。別の好ましい一態様において、培養基材は温度応答性材料で被覆されていてよい。さらに好ましい一態様において、培養基材は温度応答性材料及び血清で被覆されていてよい。
【0057】
播種する細胞集団には、少なくとも1種のCD56陽性細胞が含まれるが、2種以上のCD56陽性細胞を含んでもよいし、CD56陽性細胞以外の細胞を含んでもよい。本開示の一態様において、細胞集団に含まれる少なくとも1種のCD56陽性細胞は、好ましくは骨格筋に由来する細胞であり、更に好ましくは骨格筋芽細胞であり、更に好ましくは骨格筋芽細胞および筋衛星細胞である。かかる態様において、細胞集団にはさらに線維芽細胞を含み得る。すなわち、例えば、筋芽細胞と線維芽細胞を移植片形成細胞として含む移植片が挙げられる。本開示のさらに別の一態様において、細胞集団に含まれる少なくとも1種のシート形成細胞は、間葉系幹細胞である。かかる態様において、細胞にはさらに血管内皮細胞が含まれ得る。
比率の高さは、上記したとおりである。本発明の移植片は、本発明のシート状細胞培養物製造方法によって製造されたものであってもよい。本発明のシート状細胞培養物は無菌であることが好ましい。本発明の移植片は、CD56陽性細胞を高い比率で含むため、本発明の方法を用いないシート状細胞培養物に比べ、治療効果などが高い。
【0058】
本開示の別の側面は、CD56陽性細胞を含む細胞集団により製造された移植片と共に投与するための、上記のTGF-β阻害剤含有組成物に関する。ここで、「CD56陽性細胞を含む細胞集団により製造された移植片」は、CD56陽性細胞を含む細胞集団から製造された移植片であれば、任意のものであってよく、例えば、本開示における細胞集団におけるCD56陽性細胞の比率を高める方法によって得られた細胞集団を用いて製造された移植片であってもよい。
特定の理論に拘束されることはないが、かかる医薬組成物として、CD56陽性細胞を含む細胞集団により製造された移植片およびTGF-β阻害剤含有組成物を対象に投与することにより、投与後においてもCD56陽性細胞の比率を高いまま維持することが可能であると考えられる。
【0059】
<キット>
本発明の別の側面において、細胞集団におけるCD56陽性細胞の比率を高める方法、移植片の製造方法製造の一部またはすべての要素を含む、シート状細胞培養物の製造するためのキットに関する。
本発明のキットは、限定されずに、例えば、TGF-β阻害剤としてSB-43154またはTGF-βのほかシート状細胞培養物を構成する細胞(CD56陽性細胞を含む細胞集団)、培養液、培養皿、器具類(例えば、ピペット、スポイト、ピンセット等)、シート状細胞培養物の製造方法に関する指示(例えば、使用説明書、製造方法や本発明の凍結保存細胞の回収方法に関する情報を記録した媒体、例えば、フレキシブルディスク、CD、DVD、ブルーレイディスク、メモリーカード、USBメモリー等)などを含んでいてもよい。
【0060】
<疾患を処置する方法>
本開示の別の側面は、TGF-β阻害剤含有組成物の有効量を、それを必要とする対象に適用することを含む、前記対象における疾患を処置する方法に関する。本開示において、用語「処置」は、疾患の治癒、一時的寛解または予防などを目的とする医学的に許容される全ての種類の予防的および/または治療的介入を包含するものとする。例えば、「処置」の用語は、組織の異常に関連する疾患の進行の遅延または停止、病変の退縮または消失、当該疾患発症の予防または再発の防止などを含む、種々の目的の医学的に許容される介入を包含する。
【0061】
本開示の処置方法においては、移植片の生存性、生着性および/または機能などを高める成分や、対象疾患の処置に有用な他の有効成分などを、本開示の移植片と併用することができる。
【0062】
本開示の処置方法は、本開示の細胞集団および移植片を含んでもよい。本開示の処置方法は、CD56陽性細胞の高い細胞集団を高める前に、対象から細胞集団を製造するための細胞(iPS細胞を用いる場合は、例えば、皮膚細胞、血球等)または細胞集団の供給源となる生体組織(iPS細胞を用いる場合は、例えば、皮膚組織、血液等)を採取するステップをさらに含んでもよい。
一態様において、細胞または細胞の供給源となる組織を採取する対象は、細胞集団または移植片等の投与を受ける対象と同一の個体である。
別の態様において、細胞または細胞の供給源となる組織を採取する対象は、細胞集団または移植片等の投与を受ける対象とは同種の別個体である。別の態様において、細胞集団または移植片等の供給源となる組織を採取する対象は、シート細胞集団または移植片等の投与を受ける対象とは異種の個体である。
【0063】
本開示において、有効量とは、例えば、疾患の発症や再発を抑制し、症状を軽減し、または進行を遅延もしくは停止し得る量(例えば、シート状細胞培養物のサイズ、重量、枚数等)であり、好ましくは、当該疾患の発症および再発を予防し、または当該疾患を治癒する量である。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は、例えば、マウス、ラット、イヌまたはブタなどの実験動物や疾患モデル動物における試験などにより適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。また、処置の対象となる組織病変の大きさは、有効量決定のための重要な指標となり得る。
【0064】
投与方法としては、例えば、静脈投与、筋肉内投与、骨内投与、髄腔内投与、組織への直接的な適用などが挙げられる。投与頻度は、典型的には1回の処置につき1回であるが、所望の効果が得られない場合には、複数回投与することも可能である。組織に適用する際、本発明の細胞培養物、組成物、またはシート状細胞培養物等を対象の組織に縫合糸やステープルなどの係止手段により固定してもよい。
【0065】
本開示のさらに別の側面は、CD56陽性細胞を含む細胞集団により製造された移植片の治療有効量を、上記のTGF-β阻害剤含有組成物の治療有効量と共に、それを必要とする対象に投与するステップを含む、前記対象における疾患の処置方法に関する。ここで、「CD56陽性細胞を含む細胞集団により製造された移植片」は、CD56陽性細胞を含む細胞集団から製造された移植片であれば、任意のものであってよく、例えば、本開示における細胞集団におけるCD56陽性細胞の比率を高める方法によって得られた細胞集団を用いて製造された移植片であってもよい。
本発明の一態様において、投与は、移植片とTGF-β阻害剤含有組成物とを同時に投与することであってもよい。別の態様において、投与は、前もって移植片にTGF-β含有組成物を加えたものを投与することであってもよい。また別の態様において、投与は、投与された移植片に対してさらにTGF-β含有組成物を投与することであってもよい。
特定の理論に拘束されることはないが、CD56陽性細胞を含む細胞集団により製造された移植片およびTGF-β阻害剤を共に対象に投与することにより、投与後においてもCD56陽性細胞の比率を高いまま維持することが可能であると考えられる。
【0066】
以上、本発明を好適な実施態様について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明においては、各構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成を付加することもできる。
【実施例】
【0067】
例1:TGF-βおよびTGF-β阻害剤のCD56陽性細胞に対する影響
2個体のヒト骨格筋芽細胞(継代回数:3)の細胞懸濁液を400個/cm
2となるように6サンプルずつ12穴マルチウェル(Corning, Costar(R))へ播種し、37℃、5%CO
2下で一晩、前培養した。TGF-β(PEPROTECH, Cat#100-21)を添加した培養液(0、0.1、0.5、2、5、10ng/mL)およびTGF-β阻害剤(SB-43154(Cayman, Cat#13031))を添加した培養液(0、0.1、0.5、2、5、10ng/mL)を調製した。前培養の培地除後、各濃度のTGF-β含有培養液およびSB-43154含有培養液を各個体に由来する細胞を含むウェルへ添加し10日間37℃、5%CO
2下で培養した。
各ウェルの細胞を回収し、細胞集団にCD56抗体をそれぞれ反応させ、フローサイトメーターを用い、CD56陽性率を測定した。表1および
図1にCD56陽性率を示す。
図2に各濃度における全細胞数およびCD56陽性細胞数を示す。
【0068】
【0069】
TGF-βを添加した群では容量依存的に全細胞数およびCD56陽性率が低下することが明らかとなった。一方でTGF-β阻害剤(SB-43154)を添加した群では0.1μM添加したものを除き、容量依存的に全細胞数は低下するものの、TGF-β阻害剤全濃度においてCD56陽性率は高い水準で維持された。この結果からTGF-β阻害剤は骨格筋芽細胞および筋衛星細胞などCD56陽性細胞の比率を高め、繊維芽細胞などの非CD56陽性細胞の比率を低下させる作用を持つことが明らかとなった。なおTGF-β阻害剤を0.1μM添加したものでは全細胞数の増加が確認されたことから、骨格筋芽細胞を継代細胞した細胞集団においては過剰なTGFシグナルが増殖を抑制していることが示唆された。
【0070】
例2:TGF-βおよびTGF-β阻害剤の細胞増殖に対する影響
ヒト骨格筋芽細胞(継代回数3)の細胞懸濁液を例1と同じ手順で前培養した。TGF-βを添加した培養液(0、0.5、5ng/mL)、TGF-βおよびSB-43154を添加した培養液(TGF-β:5ng/mLおよびSB-43154:5μM)を調製した。前培養の培地除去後、調製した各濃度のTGF-β含有培養液ならびにTGF-βおよびSB-43154含有培養液を各ウェルへ添加し1および2時間の時点でCell Counting Kit-8(同仁化学)を10μl添加し、各添加から37℃で1時間インキュベートした後マイクロプレートリーダにて450nmの吸光度を測定した。結果を表2に示す。
【0071】
【0072】
TGF-βの単独添加により、実施例1と同じく全細胞数を低下させるが、いずれの添加濃度であっても、培養時間の経過とともに細胞数が増加することからTGF-βの単独添加は、いずれも添加直後に細胞数の低下を生じさせることが分かる。さらにTGF-βおよびSB-43154の両方を添加(併用)した場合、細胞数の低下は生じずに、むしろ細胞の増加を促進させる作用を有することが明らかとなった。
【0073】
例3:初代骨格筋芽細胞に対するTGF-β阻害剤の細胞増殖に対する影響
ブタ骨格筋から単離した初代細胞の細胞懸濁液をTGF-β阻害剤(SB-43154)を添加した培養液(5μM)で8日間培養した。各ウェルの細胞を回収して、細胞数を比較した。結果を
図3に示す。
例2の継代培養と比較すると、初代培養細胞では増殖が強く阻害されることが分かる。このことから初代培養のような若い細胞集団においてTGF-βシグナルが増殖に大きく寄与していることが示唆された。細胞集団に応じてTGF-β阻害剤を添加するタイミングが、細胞集団の増殖性に影響を及ぼすことが分かった。
【0074】
例4:TGF-βおよびTGF-β阻害剤の併用時のCD56陽性細胞に対する影響
例2と同じ手順で前培養した。TGF-βを添加した培養液(0、0.5、5ng/mL)、TGF-βおよびSB-43154を添加した培養液(TGF-β:5ng/mLおよびSB-43154:5μM)を調製した。前培養の培地除去後、調製した各濃度のTGF-β含有培養液、TGF-βおよびSB-43154含有培養液を各ウェルへ添加し8日間37℃、5%CO
2下で培養した。実施例1と同じ手順でCD56陽性率を測定した。結果を表3および
図4に示す。
【表3】
【0075】
例1と同じく、TGF-βを添加すると用量依存的に細胞集団におけるCD56陽性率が低下した。一方でTGF-βおよびSB-43154を併用するとCD56陽性率が大幅に増加することが明らかとなった。このことから、例2のTGF-βおよびSB-43154の併用において増加した細胞はCD56陽性細胞であったことが分かる。したがって、TGF-βおよびSB-43154の併用は、CD56陽性率およびCD56陽性細胞を大幅に増加させる作用を持つことが明らかとなった。