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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】トルク伝達具
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/01 20060101AFI20240820BHJP
【FI】
A61M25/01
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020047572
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2021145827
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相場 洋之
(72)【発明者】
【氏名】秋元 麗
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-165764(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0150106(US,A1)
【文献】国際公開第2020/184507(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/01
A61M 25/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用器具にトルクを伝達するトルク伝達具であって、
前記医療用器具を保持する柱状体と、
前記柱状体の外周を覆う外筒と、
を備え、
前記柱状体と前記外筒との一方である第1の部材に凹部が形成され、前記柱状体と前記外筒との他方である第2の部材に、前記凹部に係合する凸部が形成されており、
前記凹部と前記凸部とは、
前記第1の回転方向に回転させたときに前記凹部と前記凸部とが当接する当接面が、前記柱状体の軸から前記凹部に向かう第1の基準方向に対して傾斜する第1の角度は、前記第2の回転方向に回転させたときに前記凹部と前記凸部とが当接する当接面が、前記第1の基準方向に対して傾斜する第2の角度よりも大きくなっており、
前記外筒を前記外筒の軸を中心に第1の回転方向に回転させたとき、前記外筒に加わる回転トルクが閾値以下である場合には前記凸部と前記凹部との係合状態を維持し、前記外筒に加わる回転トルクが前記閾値を超えた場合には前記係合状態を解除し、
前記外筒を前記第1の回転方向とは逆の第2の回転方向に回転させたとき、前記外筒に加わる回転トルクが前記閾値を超えた場合であっても、前記係合状態を維持する、ように構成されている、
トルク伝達具。
【請求項2】
請求項1に記載のトルク伝達具であって、
前記凸部は、弾性を有しており、
前記外筒の横断面において、前記凸部の先端部分は、前記柱状体の軸から前記凹部に向かう基準方向に対して前記第1の回転方向側に傾斜した方向に延びている、
トルク伝達具。
【請求項3】
請求項1に記載のトルク伝達具であって、
前記凹部は、前記外筒の内周側に形成されており、
前記凸部は、前記柱状体の外周側に形成されている、
トルク伝達具。
【請求項4】
請求項3に記載のトルク伝達具であって、
前記凹部を構成する内壁面のうち、前記第2の回転方向側に位置する第1の内壁面は、前記柱状体に近いほど前記第2の回転方向側に位置するように傾斜しており、
前記第1の回転方向側に位置する第2の内壁面の、前記柱状体の軸から前記凹部に向かう基準方向に対する第2の傾斜角度は、前記第1の内壁面の前記基準方向に対する第1の傾斜角度より小さい、
トルク伝達具。
【請求項5】
請求項1に記載のトルク伝達具であって、
前記凸部は、前記外筒の内周側に形成されており、
前記凹部は、前記柱状体の外周側に形成されている、
トルク伝達具。
【請求項6】
請求項5に記載のトルク伝達具であって、
前記凹部を構成する内壁面のうち、前記第2の回転方向側に位置する第1の内壁面は、前記外筒に近いほど前記第2の回転方向側に位置するように傾斜しており、
前記第1の回転方向側に位置する第2の内壁面の、前記柱状体の軸から前記凹部に向かう基準方向に対する第2の傾斜角度は、前記第1の内壁面の前記基準方向に対する第1の傾斜角度より大きい、
トルク伝達具。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載のトルク伝達具であって、
前記第2の部材は、前記柱状体に着脱可能に設けられている、
トルク伝達具。
【請求項8】
請求項7に記載のトルク伝達具であって、
前記第2の部材に、複数の前記凸部が着脱可能に設けられている、
トルク伝達具。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載のトルク伝達具であって、
前記凹部は、前記柱状体の軸方向に延びており、
前記第2の部材に、複数の前記凸部が設けられており、
前記複数の前記凸部は、前記柱状体の軸方向に並び、かつ、共通の前記凹部に係合する、
トルク伝達具。
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載のトルク伝達具であって、
前記第1の部材には、複数の前記凹部が前記外筒の周方向に並んでいる、
トルク伝達具。
【請求項11】
請求項1から請求項10までのいずれか一項に記載のトルク伝達具であって、
前記外筒の外周に、前記第1の回転方向を示すマークが設けられている、
トルク伝達具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、医療用器具にトルクを伝達するトルク伝達具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばダイレータ等の医療用器具にトルクを伝達するトルク伝達具が知られている。トルク伝達具は、例えばダイレータの基端部分を保持する内筒と、内筒の外周を覆う外筒とを備えるとともに、トルクリミッター機能を有する(例えば、特許文献1参照)。トルクリミッター機能は、回転操作により外筒に加わる回転トルク(以下、「操作トルク」という)が閾値以下である場合には、外筒の回転に連動して内筒が回転して操作トルクが医療用器具に伝達され、操作トルクが閾値を超えると内筒が外筒に対して空周りして操作トルクが医療用器具に伝達されない、という機能である。
【0003】
医師等の手技者は、例えばダイレータの先端側を、胆管等の体腔内に形成された狭窄部や閉塞部(以下、「病変部」という。)まで挿入し、ダイレータの基端部分を保持するトルク伝達具の外筒を回転操作する。これにより、操作トルクが外筒から内筒に伝達され、ダイレータの先端部分が回転しつつ進行し、ガイドワイヤによって病変部に先に形成された孔を押し広げて拡張させることができる。その際、操作トルクが閾値を超えると、トルクリミッター機能により、操作トルクが外筒から内筒に伝達されなくなるため、ダイレータの先端部分が回転しなくなる。これにより、過度に大きい操作トルクが加えられることに起因して、体腔内を痛めたり、医療用器具が損傷したりすることを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第8231569号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来のトルク伝達具では、外筒を一の回転方向と逆の回転方向との両方に対して、互いに同じ閾値でトルクリミッター機能が働くようになっている。このため、従来のトルク伝達具は、トルクリミッター機能の閾値を超える操作トルクを医療用器具に伝達することができない。その結果、例えば医療用器具が体腔内に引っ掛かった場合、十分な操作トルクを医療用器具に伝達できず、医療用器具を抜き取るのに難航するおそれがある。
【0006】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本明細書に開示されるトルク伝達具は、医療用器具にトルクを伝達するトルク伝達具であって、前記医療用器具を保持する柱状体と、前記柱状体の外周を覆う外筒と、を備え、前記柱状体と前記外筒との一方である第1の部材に凹部が形成され、前記柱状体と前記外筒との他方である第2の部材に、前記凹部に係合する凸部が形成されており、前記外筒を前記外筒の軸を中心に第1の回転方向に回転させたとき、前記外筒に加わる回転トルクが閾値以下である場合には前記凸部と前記凹部との係合状態を維持し、前記外筒に加わる回転トルクが前記閾値を超えた場合には前記係合状態を解除し、前記外筒を前記第1の回転方向とは逆の第2の回転方向に回転させたとき、前記外筒に加わる回転トルクが前記閾値を超えた場合であっても、前記係合状態を維持する、ように構成されている。
【0009】
本トルク伝達具では、外筒を第1の回転方向に回転させたとき、外筒に加わる回転トルク(以下、「操作トルク」という)が閾値以下である場合には、凸部と凹部との係合状態が維持される。このため、操作トルクが外筒から柱状体に伝達され、医療用器具が回転する。操作トルクが閾値を超えると、上記係合状態が解除されるため、操作トルクが外筒から柱状体に伝達されなくなり、医療用器具の回転が停止する。このため、外筒を第1の回転方向に回転させる際、過度の操作トルクが医療用器具に伝達されることを抑制することができる。一方、外筒を第1の回転方向とは逆の第2の回転方向に回転させたとき、操作トルクが閾値を超えても、係合状態が維持される。このため、医療用器具の回転が継続される。このため、例えば医療用器具が体内の所定場所に引っ掛かった場合、上記閾値より大きい操作トルクで外筒を第2の回転方向に回転させて医療用器具を回転させることにより、医療用器具を所定場所から抜き出すことができる。これにより、本トルク伝達具によれば、一の回転方向についてトルクリミッター機能を保持しつつ、他の回転方向においてトルクリミッターの閾値を超える大きさの回転トルクで医療用器具の回転操作を行うことができる。
【0010】
(2)上記トルク伝達具において、前記凸部は、弾性を有しており、前記外筒の横断面において、前記凸部の先端部分は、前記柱状体の軸から前記凹部に向かう基準方向に対して前記第1の回転方向側に傾斜した方向に延びている構成としてもよい。本トルク伝達具では、凸部の先端部分は、柱状体の軸から凹部に向かう基準方向に対して第1の回転方向側に傾斜した方向に延びている。このため、外筒を第1の回転方向に回転させたとき、操作トルクが閾値以下である場合、凸部と凹部との係合状態が維持され、医療用器具が回転する。操作トルクが閾値を超えると、凸部の先端部分が凹部の内壁面に押圧されて柱状体側に弾性変形し、凹部から抜けることにより上記係合状態が解除され、その結果、医療用器具の回転が停止する。一方、外筒を第2の回転方向に回転させたとき、凸部の先端部分は凹部を構成する内壁面に押されて外筒側に弾性変形し、凹部から抜けにくくなる。その結果、操作トルクが閾値を超えても、係合状態が維持されるため、医療用器具の回転が継続される。このように、本トルク伝達具によれば、比較的簡単な構成により、一の回転方向についてトルクリミッター機能を保持しつつ、他の回転方向においてトルクリミッターの閾値を超える大きさの回転トルクで医療用器具の回転操作を行うことができる。
【0011】
(3)上記トルク伝達具において、前記凹部は、前記外筒の内周側に形成されており、前記凸部は、前記柱状体の外周側に形成されている構成としてもよい。これにより、比較的に簡単な構成によりトルクリミッター機能を実現することができる。
【0012】
(4)上記トルク伝達具において、前記凹部を構成する内壁面のうち、前記第2の回転方向側に位置する第1の内壁面は、前記柱状体に近いほど前記第2の回転方向側に位置するように傾斜しており、前記第1の回転方向側に位置する第2の内壁面の、前記柱状体の軸から前記凹部に向かう基準方向に対する第2の傾斜角度は、前記第1の内壁面の前記基準方向に対する第1の傾斜角度より小さい構成としてもよい。本トルク伝達具では、第2の回転方向側に位置する第1の内壁面は、柱状体に近いほど第2の回転方向側に位置するように傾斜している。また、第1の回転方向側に位置する第2の内壁面の基準方向に対する第2の傾斜角度は、第1の内壁面の基準方向に対する第1の傾斜角度より小さい。これにより、例えば第2の傾斜角度が第1の傾斜角度以上である構成に比べて、外筒を第2の回転方向に回転させたとき、操作トルクが閾値を超えても係合状態を、より確実に維持することができる。
【0013】
(5)上記トルク伝達具において、前記凸部は、前記柱状体に着脱可能に設けられている構成としてもよい。本トルク伝達具では、凸部が柱状体に着脱可能であるため、例えば、凸部が劣化した場合に新品に交換することができる。
【0014】
(6)上記トルク伝達具において、前記柱状体に、複数の前記凸部が着脱可能に設けられている構成としてもよい。本トルク伝達具では、例えば柱状体に設ける凸部の個数を変えることにより、トルクリミッター機能の閾値を変更することができる。
【0015】
(7)上記トルク伝達具において、前記凹部は、前記柱状体の軸方向に延びており、前記柱状体に、複数の前記凸部が設けられており、前記複数の前記凸部は、前記柱状体の軸方向に並び、かつ、共通の前記凹部に係合する構成としてもよい。本トルク伝達具では、例えば複数の凸部が柱状体の周方向に互いにずれて配置され、かつ、別々の凹部に係合する構成に比べて、複数の凸部について、凹部との係合状態と解除状態との切り替わりタイミングがずれることが抑制され、トルクリミッター機能を精度よく働かせることができる。
【0016】
(8)上記トルク伝達具において、前記外筒の前記内周側に、複数の前記凹部が前記外筒の周方向に並んでいる構成としてもよい。本トルク伝達具では、外筒の内周側に、複数の凹部が外筒の周方向に並んでいる。このため、例えば外筒の内周側に凹部が1つだけ形成された構成に比べて、解除状態で操作トルクが閾値以下になった場合、凸部と凹部との係合状態に復帰しやすい。
【0017】
(9)上記トルク伝達具において、前記外筒の外周に、前記第1の回転方向を示すマークが設けられている構成としてもよい。本トルク伝達具では、外筒に、第1の回転方向を示すマークが設けられているため、操作者は、トルクリミッター機能が働く方向を容易に把握することができる。
【0018】
(10)本明細書に開示されるトルク伝達具は、医療用器具にトルクを伝達するトルク伝達具であって、前記医療用器具を保持する柱状体と、前記柱状体の外周を覆う外筒と、を備え、前記外筒を前記外筒の軸を中心に第1の回転方向に回転させたとき、前記外筒に加わる回転トルクが閾値以下である場合には前記柱状体への前記回転トルクの伝達状態を維持し、前記外筒に加わる回転トルクが前記閾値を超えた場合には前記伝達状態を解除し、前記外筒を前記第1の回転方向とは逆の第2の回転方向に回転させたとき、前記外筒に加わる回転トルクが前記閾値を超えた場合であっても、前記伝達状態を維持する、ように構成されている。これにより、本トルク伝達具によれば、一の回転方向についてトルクリミッター機能を保持しつつ、他の回転方向においてトルクリミッターの閾値を超える大きさの回転トルクで医療用器具の回転操作を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施形態におけるトルク伝達具100の外観構成を概略的に示す斜視図
図2】第1実施形態におけるトルク伝達具100の縦断面構成を概略的に示す説明図
図3】第1実施形態におけるトルク伝達具100の横断面構成を概略的に示す説明図
図4】内筒20と板ばね50との構成を概略的に示す斜視図
図5】板ばね50と外筒10の係合溝13との横断面における状態を示す説明図
図6】第2実施形態におけるトルク伝達具100aの横断面構成を概略的に示す説明図
図7】第3実施形態におけるトルク伝達具100bの横断面構成を概略的に示す説明図
図8】第4実施形態におけるトルク伝達具100cの横断面構成を概略的に示す説明図
図9】第5実施形態におけるトルク伝達具100dの横断面構成を概略的に示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0020】
A.第1実施形態:
A-1.トルク伝達具100の基本構成:
図1は、第1実施形態におけるトルク伝達具100の外観構成を概略的に示す斜視図であり、図2は、トルク伝達具100の縦断面構成を概略的に示す説明図であり、図3は、トルク伝達具100の横断面構成を概略的に示す説明図である。図2には、図1のII-IIの位置におけるトルク伝達具100の先端側の縦断面の構成が示されており、図3には、図1のIII-IIIの位置におけるトルク伝達具100の横断面の構成が示されている。ここで、トルク伝達具100の縦断面とは、トルク伝達具100の軸方向(長手方向 図1および図2のZ軸方向、以下、単に「軸方向Z」ともいう)に平行な断面(図1のYZ断面)をいい、トルク伝達具100の横断面とは、軸方向Zに垂直な断面(図1のXY断面)をいう。
【0021】
トルク伝達具100は、例えば、体内に挿入される医療用の線状のデバイス1(図2参照)の基端部分を保持し、該デバイス1に回転トルクを伝達するための器具である。デバイスの例としては、ガイドワイヤ、カテーテル、ダイレータ等が挙げられる。なお、図2には、デバイス1が全体としてZ軸方向に平行な直線状となった状態を示しているが、デバイス1は湾曲させることができる程度の柔軟性を有している。なお、図2において、Z軸正方向側(トルク伝達具100のデバイス1の導出側)が、先端側(遠位側)であり、Z軸負方向側(トルク伝達具100のデバイス1の導出側とは逆側)が、医師等の手技者によって操作される基端側(近位側)である。デバイス1は、特許請求の範囲における医療用器具の一例である。
【0022】
図1に示すように、トルク伝達具100は、全体として、例えば円柱状の器具である。図2および図3に示すように、トルク伝達具100は、外筒10と、内筒20と、板ばね50と、を備えている。
【0023】
<外筒10>
外筒10は、手技者に把持されて回転操作される部品である。外筒10は、先端と基端とが開口した筒状(例えば円筒状)の部材である。なお、本明細書において「筒状(円筒状)」とは、完全な筒形状(円筒形状)に限らず、全体として略筒状(略円筒形状、例えば、若干、円錐形状や、一部に凹凸がある形状など)であってもよい。
【0024】
外筒10の内部には、内筒20が挿通される挿通孔12が軸方向Zに貫通形成されている。挿通孔12は、一対の端挿通孔12A,12Aと、中央挿通孔12Bと、を含んでいる。一方の端挿通孔12Aは、外筒10の先端側に位置しており、他方の端挿通孔12A(図2では省略)は、外筒10の後端側に位置している。中央挿通孔12Bは、一対の端挿通孔12Aの間に位置している。中央挿通孔12Bの径は、端挿通孔12Aの径より小さい。図2に示すように、中央挿通孔12Bを構成する内周面には、複数の係合溝13が形成されている。複数の係合溝13は、外筒10の周方向に所定間隔を隔てて並んでいる。各係合溝13は、軸方向Zに沿って直線状に延びている。係合溝13は、特許請求の範囲における凹部の一例である。
【0025】
図1に示すように、外筒10の外周面には、正回転方向Rを示すマーク16が設けられている。「正回転方向R」は、トルク伝達具100の基端側から見て時計回り(図3の紙面右回り)の方向であり、「逆回転方向L」は、トルク伝達具100の基端側から見て反時計回り(図3の紙面左回り)の方向である。なお、外筒10の外周面には、ローレット14が形成されている。ローレット14には、凹凸状の加工が施されており、手技者が把持したときの滑り止めとして機能する。図1には、ローレット14の一例として、軸方向Zに沿った複数の溝が外筒10の周方向に並ぶように形成されている。マーク16は、このローレット14より先端側であって、かつ、ローレット14が形成されていない領域に設けられている。これにより、ローレット14を把持した手技者は、自分の手の近傍に位置するマーク16を視認しやすく、正回転方向R(すなわち、トルクリミッター機能が働く回転方向)を容易に認識することができる。正回転方向Rは、特許請求の範囲における第1の回転方向の一例であり、逆回転方向Lは、特許請求の範囲における第2の回転方向の一例である。
【0026】
<内筒20>
内筒20は、デバイス1を保持する部品である(図2参照)。内筒20は、外筒10の挿通孔12内に挿通され、手技者の回転操作によって外筒10に加えられる回転トルク(以下、「操作トルク」という)が伝達されることにより回転する部品である。具体的には、内筒20の形状は、先端と基端とが開口した筒状(例えば円筒状)である。内筒20の外径は、外筒10の内径より小さい。内筒20は、外筒10の挿通孔12内に収容され、かつ、外筒10と同軸上に位置するように配置されている。内筒20の内部には、デバイス1が挿入される挿入孔22が形成されている。内筒20は、特許請求の範囲における柱状体の一例である。
【0027】
図2に示すように、内筒20は、内筒本体21と、一対の保持部30と、を備えている。各保持部30は、外筒10の各端挿通孔12A内に収容され、内筒本体21は、外筒10の中央挿通孔12B内に収容されている。このように、外筒10は、軸方向Zの全長にわたって内筒20の外周を覆っている。このため、手技者が内筒20に触れることに起因して内筒20の回転動作に悪影響を与えることが抑制される。
【0028】
保持部30は、デバイス1を保持する部分である。一方の保持部30は、内筒20の先端側に位置しており、他方の保持部30(図2では省略)は、内筒20の基端側に位置している。各保持部30は、縮径部32とキャップ34とを含んでいる。
【0029】
図4は、内筒20と板ばね50との構成を概略的に示す斜視図である。ただし、図4では、内筒20のうち、次述するキャップ34が外された状態が示されている。また、図4には、後述の軸受け40も図示されている。図2および図4に示すように、縮径部32の先端側の外周面には、ねじ溝33Aが形成されている。縮径部32のうち、ねじ溝33Aより基端側には、一対の変位部33Bが設けられている。一対の変位部33Bは、挿入孔22(トルク伝達具100の中心軸O)を介して対向するように配置されている。各変位部33Bは、突起33Cを有しており、縮径部32にキャップ34が装着される前において、変位部33Bが自然状態であるとき、突起33Cは、ねじ溝33Aよりトルク伝達具100の径方向(以下、単に「径方向」ともいう)の外側に突出する。径方向の内側に向かう外力が突起33Cに加わると、変位部33Bが挿入孔22内に進出するように変位する。
【0030】
図2に示すように、キャップ34は、先端と基端とが開口した筒状(例えば円筒状)の部材である。キャップ34の先端側の内部には、上述の挿入孔22が形成されており、キャップ34の基端側の内部には、縮径部32を収容する収容孔36が形成されている。収容孔36は、キャップ34に形成された挿入孔22に連通するとともに、キャップ34の基端に開口している。収容孔36の径は、挿入孔22の径より大きい。キャップ34のうち、収容孔36を構成する内周面の先端側には、上記縮径部32のねじ溝33Aと螺合するねじ溝35Aが形成されている。
【0031】
デバイス1の基端部分を保持部30における縮径部32に挿入した状態で、図示しない治具を用いて、各キャップ34のねじ溝35Aを縮径部32のねじ溝33Aに螺合させていく。すると、縮径部32の各変位部33Bの突起33Cがキャップ34の内周面によって径方向の内側に押圧され、各変位部33Bが挿入孔22内に進出するように変位する。その結果、デバイス1が一対の変位部33Bに挟み込まれる。すなわち、保持部30によってデバイス1が保持される。
【0032】
内筒本体21は、軸方向Zにおいて、一対の保持部30の間に位置している。なお、本実施形態では、内筒本体21と一対の縮径部32とは一体に形成されている。内筒本体21は、例えば円筒状である。
【0033】
図3および図4に示すように、内筒本体21の外周面には、板ばね50を支持するための複数の支持部25が形成されている。各支持部25は、軸方向Zに沿って直線状に延びている凹所であり、板ばね50における後述のベース部分54を挿入可能である。本実施形態では、複数の支持部25は、第1グループの支持部25と、第2グループの支持部25と、を含んでいる。第1グループの支持部25は、軸方向Zに所定間隔を開けて並んでいる複数(図4では4つ)の支持部25から構成されている。第2グループの支持部25は、内筒20の周方向において第1グループの支持部25とは異なる位置に位置し、軸方向Zに所定間隔を開けて並んでいる複数(図4では変形例4つ)の支持部25から構成されている。第1グループの支持部25と第2グループの支持部25とは、軸方向Zにおいて同じ位置に位置している。また、軸方向Zから見たとき、第1グループの支持部25の形状と第2グループの支持部25の形状とは、内筒20の中心軸Oを中心に点対称である(図3参照)。
【0034】
なお、図2から図4に示すように、外筒10と内筒20との間には、軸受け40が配置されている。具体的には、軸受け40は、内筒20における一対の縮径部32のそれぞれに嵌められるボールベアリングであり、このボールベアリングの外周面が外筒10の内周面に接触している。これにより、外筒10と内筒20との間の接触抵抗に起因して、外筒10から内筒20へのトルク伝達効率が低下したり、トルクリミッター機能が正常に働かなかったりすることを抑制することができる。
【0035】
なお、外筒10と内筒20とは、それぞれ、樹脂製材料(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリプロピレン)により形成されてもよいし、金属材料(例えばステンレス、アルミニウム合金、チタン合金、マグネシウム合金)により形成されてもよい。外筒10と内筒20とは、互いに同じ材料により形成されてもよいし、互いに異なる材料により形成されてもよい。
【0036】
<板ばね50>
図4に示すように、板ばね50は、全体として平板状の部材である。板ばね50は、突出部分52とベース部分54とを含んでいる。なお、図4では、ベース部分54は、仮想線で示されている。突出部分52の平面形状は、略矩形である。ベース部分54は、突出部分52の一端側に位置しており、軸方向Zにおいて、ベース部分54の両端部は、突出部分52より外側に張り出している。
【0037】
板ばね50のベース部分54は、内筒20の支持部25内に挿入可能な形状であり、これにより、板ばね50が内筒20に着脱可能に設けられる。具体的には、ベース部分54は、軸方向に略平行な姿勢で支持部25内に挿入される。これにより、板ばね50(突出部分52)が軸方向に略平行な姿勢に維持されるとともに、板ばね50の位置が軸方向Zにずれることが抑制される。
【0038】
板ばね50の突出部分52は、ベース部分54が支持部25に挿入された状態で、内筒20の外周面から径方向の外側に突出する。図4に示すように、突出部分52は、軸方向Zに略平行な姿勢である。板ばね50は、特許請求の範囲における凸部の一例である。
【0039】
<外筒10の係合溝13と板ばね50との関係>
図3に示すように、突出部分52の先端部分は、外筒10の係合溝13に対して周方向に係合する。具体的には、突出部分52のうち、軸方向Zに延びている先端部分が、同じく軸方向Zに延びている係合溝13内に挿入される。また、軸方向Zから見たとき、突出部分52の先端部分は、トルク伝達具100の中心軸Oから係合溝13に向かう基準方向L1に対して正回転方向R側に傾斜した方向L2に延びている。
【0040】
係合溝13を構成する内壁面は、第1の内壁面13Aと第2の内壁面13Bと連結面13Cとから構成されている。第1の内壁面13Aは、逆回転方向L側に位置しており、第2の内壁面13Bは、正回転方向R側に位置しており、連結面13Cは、第1の内壁面13Aと第2の内壁面13Bとの間に位置し、両者を連結する。第1の内壁面13Aは、内筒20に近いほど逆回転方向L側に位置するよう傾斜している。また、第2の内壁面13Bの基準方向L1に対する第2の傾斜角度は、第1の内壁面13Aの基準方向L1に対する第1の傾斜角度より小さい。なお、第1の傾斜角度は、30度以上であることが好ましく、第2の傾斜角度は、ゼロ度以下であることが好ましい。また、各内壁面13A,13B,13Cは、平面であってもよいし、曲面であってもよい。また、係合溝13は、連結面13Cを有しない構成であってもよい。
【0041】
第1グループに属する複数の支持部25のそれぞれに挿入された板ばね50は、軸方向Zに沿って並んでおり、いずれも、共通の係合溝13に係合する。第2グループに属する複数の支持部25のそれぞれに挿入された板ばね50は、軸方向Zに沿って並んでおり、いずれも、共通の係合溝13に係合する。なお、第1グループの支持部25が係合する係合溝13と、第2グループの支持部25が係合する係合溝13とは異なる。
【0042】
なお、板ばね50は、弾性変形可能な材料により構成されており、例えば、金属材料(例えばステンレス、ニッケルチタン)により形成されていてもよいし、樹脂製材料(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン)により形成されていてもよい。
【0043】
A-2.本実施形態の効果:
図5は、板ばね50と外筒10の係合溝13との横断面における状態を示す説明図である。以上説明したように、本実施形態のトルク伝達具100では、板ばね50の突出部分52は、中心軸Oから係合溝13に向かう基準方向L1に対して正回転方向R側に傾斜した方向に延びている(図3参照)。このため、外筒10を正回転方向Rに回転させたとき、操作トルクが閾値以下である場合、板ばね50と係合溝13との係合状態が維持され、外筒10の回転に連動して内筒20が回転し、その結果、デバイス1が回転する。
【0044】
外筒10を正回転方向Rに回転させたとき、操作トルクが閾値を超えると、図5(A)に示すように、板ばね50の突出部分52が係合溝13の内壁面(第1の内壁面13A)に押圧されて内筒20側に弾性変形し、係合溝13から抜けることにより上記係合状態が解除され、外筒10が内筒20に対して空周りする。すなわち、トルクリミッター機能が働き、その結果、外筒10のトルクがデバイス1へ伝達されないため、デバイス1の回転が停止する。このため、外筒10を正回転方向Rに回転させる際、過度の操作トルクがデバイス1に伝達されることを抑制することができる。
【0045】
一方、図5(B)に示すように、外筒10を逆回転方向Lに回転させたとき、板ばね50の突出部分52は係合溝13を構成する内壁面(第2の内壁面13B、連結面13C)に押されて外筒側に弾性変形し、係合溝13から抜けにくくなる。その結果、操作トルクが閾値以下であるときも閾値を超えたときも、係合状態が維持され、外筒10から内筒20への回転トルクの伝達が継続される。このため、デバイス1の回転が継続される。このため、例えばデバイス1が体内の所定場所に引っ掛かった場合、上記閾値より大きい操作トルクで外筒を逆回転方向Lに回転させてデバイス1を回転させることができ、デバイス1を所定場所から抜き出すことができる。
【0046】
このように、本実施形態によれば、板ばね50を用いた比較的簡単な構成により、正回転方向Rについてトルクリミッター機能を保持しつつ、逆回転方向Lにおいてトルクリミッター機能の閾値を超える大きさの回転トルクでデバイス1の回転操作を行うことができる。
【0047】
本実施形態では、第1の内壁面13Aは、内筒20に近いほど逆回転方向L側に位置するよう傾斜している(図3参照)。また、第2の内壁面13Bの基準方向L1に対する第2の傾斜角度は、第1の内壁面13Aの基準方向L1に対する第1の傾斜角度より小さい。これにより、例えば第2の傾斜角度が第1の傾斜角度以上である構成に比べて、外筒10を逆回転方向Lに回転させたとき、操作トルクが閾値を超えても係合状態を、より確実に維持することができる。
【0048】
本実施形態では、板ばね50は、内筒20に着脱可能に設けられる(図4参照)。このため、例えば、板ばね50が劣化した場合に新品に交換することができる。また、板ばね50を、内筒20とは別の材料(例えば内筒20の形成材料より破断強度が高い材料等)によって形成することができる。また、内筒20に、複数の板ばね50が着脱可能に設けられている。これにより、例えば内筒20に設ける板ばね50の個数を変えることにより、トルクリミッター機能の閾値を変更することができる。
【0049】
本実施形態では、軸方向Zに互いに隣り合う複数の板ばね50(各グループ(第1のグループ、第2のグループ)の支持部25に支持された複数の板ばね50)は、軸方向Zに並び、かつ、共通の係合溝13に係合する(図3および図4参照)。これにより、例えば軸方向Zに互いに隣り合う複数の板ばね50が内筒20の周方向に互いにずれて配置され、かつ、別々の係合溝13に係合する構成に比べて、複数の板ばね50について、係合溝13との係合状態と解除状態との切り替わりタイミングがずれることが抑制され、トルクリミッター機能を精度よく働かせることができる。
【0050】
本実施形態では、外筒10の内周側に、複数の係合溝13が外筒10の周方向に並んでいる(図3参照)。このため、例えば外筒10の内周側に係合溝13が1つだけ形成された構成に比べて、解除状態で操作トルクが閾値以下になった場合、板ばね50と係合溝13との係合状態に復帰しやすい。
【0051】
本実施形態では、外筒10を正回転方向Rに回転させたときに、トルクリミッター機能が働くため(図5参照)、右利きの手技者は、腕を外側に回す動作がより容易になり、操作しやすい。また、外筒10に、正回転方向Rを示すマーク16が設けられているため(図1参照)、手技者は、トルクリミッター機能が働く方向を容易に把握することができる。
【0052】
B.第2実施形態:
図6は、第2実施形態におけるトルク伝達具100aの横断面構成を概略的に示す説明図である。以下では、第2実施形態のトルク伝達具100aの構成の内、上述した第1実施形態のトルク伝達具100と同一の構成については、同一の符号を付すことによってその説明を適宜省略する。
【0053】
図6に示すように、第2実施形態のトルク伝達具100aでは、外筒10aの内周面に軸方向に延びている複数の係合溝13aが形成されている。各係合溝13aを構成する内壁面は、逆回転方向L側に位置する第1の内壁面13aAと、正回転方向R側に位置する第2の内壁面13aBとから構成されている。第1の内壁面13aAは、内筒20aに近いほど逆回転方向L側に位置するよう傾斜している。また、第2の内壁面13aBの基準方向L1に対する第2の傾斜角度は、第1の内壁面13aAの基準方向L1に対する第1の傾斜角度より小さい。なお、第1の傾斜角度は、30度以上であることが好ましく、第2の傾斜角度は、ゼロ度以下であることが好ましい。係合溝13aは、特許請求の範囲における凹部の一例である。
【0054】
内筒20aの外周面には、複数の支持部25aが形成されている。各支持部25aは、軸方向Zに沿って直線状に延びている凹所であり、係合機構50aを挿入可能である。係合機構50aは、変位部分52aとスプリング部54aとを備える。変位部分52aは、支持部25a内から径方向の外側に突出し、その先端部分が係合溝13aに対して周方向に係合する。スプリング部54aは、変位部分52aと支持部25aの底面との間に配置されており、変位部分52aの変位に応じて弾性変形する。本実施形態では、変位部分52aは、基準方向L1に延びた形状を有しており、基準方向L1に沿って変位可能であり、変位部分52aが径方向の内側への押圧力を受けると、スプリング部54aが弾性変形する。変位部分52aは、特許請求の範囲における凸部の一例である。
【0055】
以上の構成によれば、外筒10aを正回転方向Rに回転させたとき、操作トルクが閾値以下である場合、係合機構50aの変位部分52aと係合溝13aとの係合状態が維持され、外筒10aの回転に連動して内筒20aが回転し、その結果、デバイス1が回転する。外筒10aを正回転方向Rに回転させたとき、操作トルクが閾値を超えると、変位部分52aは、係合溝13aの内壁面(第1の内壁面13aA)に押圧されつつ、第1の内壁面13aAの傾斜に案内されて支持部25a内へと後退し、係合溝13aから抜けることにより上記係合状態が解除され、外筒10aが内筒20aに対して空周りする。すなわち、トルクリミッター機能が働き、その結果、デバイス1の回転が停止する。このため、外筒10aを正回転方向Rに回転させる際、過度の操作トルクがデバイス1に伝達されることを抑制することができる。
【0056】
一方、外筒10aを逆回転方向Lに回転させたとき、変位部分52aは、係合溝13aを構成する内壁面(第2の内壁面13aB)から周方向の力だけを受けるため、径方向に変位せず、係合溝13aから抜けにくくなる。その結果、操作トルクが閾値以下であるときも閾値を超えたときも、係合状態が維持され、外筒10aから内筒20aへの回転トルクの伝達が継続される。このため、デバイス1の回転が継続される。このため、例えばデバイス1が体内の所定場所に引っ掛かった場合、上記閾値より大きい操作トルクで外筒を逆回転方向Lに回転させてデバイス1を回転させることにより、デバイス1を所定場所から抜き出すことができる。
【0057】
C.第3実施形態:
図7は、第3実施形態におけるトルク伝達具100bの横断面構成を概略的に示す説明図である。以下では、第3実施形態のトルク伝達具100bの構成の内、上述した第1実施形態のトルク伝達具100と同一の構成については、同一の符号を付すことによってその説明を適宜省略する。
【0058】
上記第1実施形態では、凸部として、軸方向Zから見たときの形状が略直線状の板ばね50を例示した。これに対して、図7に示すように、第3実施形態のトルク伝達具100bでは、板ばね50bの軸方向Zから見たときの形状は、折れ線状である。具体的には、板ばね50bは、先端部分52bとベース部分54bとを含んでいる。ベース部分54bは、基準方向L1に沿って延びた直線状であり、基端側が内筒20b内に埋設されている。先端部分52bは、ベース部分54bの先端から基準方向L1に対して傾斜した方向L2に延びており、係合溝13に係合している。なお、板ばね50bは、内筒20bに対して着脱可能に設けられる構成でもよい。板ばね50bは、特許請求の範囲における凸部の一例である。
【0059】
以上の構成によれば、外筒10を正回転方向Rに回転させたとき、操作トルクが閾値以下である場合、板ばね50bの先端部分52bと係合溝13との係合状態が維持され、外筒10の回転に連動して内筒20bが回転し、その結果、デバイス1が回転する。外筒10を正回転方向Rに回転させたとき、操作トルクが閾値を超えると、先端部分52bは、係合溝13の内壁面に押圧されて内筒20b側に弾性変形し、係合溝13から抜けることにより上記係合状態が解除され、外筒10が内筒20bに対して空周りする。すなわち、トルクリミッター機能が働き、その結果、デバイス1の回転が停止する。このため、外筒10を正回転方向Rに回転させる際、過度の操作トルクがデバイス1に伝達されることを抑制することができる。
【0060】
一方、外筒10を逆回転方向Lに回転させたとき、板ばね50bの先端部分52bは係合溝13を構成する内壁面に押されて外筒側に弾性変形し、係合溝13から抜けにくくなる。その結果、操作トルクが閾値以下であるときも閾値を超えたときも、係合状態が維持され、外筒10から内筒20bへの回転トルクの伝達が継続される。このため、デバイス1の回転が継続される。このため、例えばデバイス1が体内の所定場所に引っ掛かった場合、上記閾値より大きい操作トルクで外筒を逆回転方向Lに回転させてデバイス1を回転させることにより、デバイス1を所定場所から抜き出すことができる。
【0061】
D.第4実施形態:
図8は、第4実施形態におけるトルク伝達具100cの横断面構成を概略的に示す説明図である。以下では、第4実施形態のトルク伝達具100cの構成の内、上述した第1実施形態のトルク伝達具100と同一の構成については、同一の符号を付すことによってその説明を適宜省略する。
【0062】
上記第1実施形態では、凸部として、全体として厚さが略均一な板状の板ばね50を例示した。これに対して、図8に示すように、第4実施形態のトルク伝達具100cでは、係合機構50cは、逆回転方向Lの力を受けるときの剛性が、正回転方向Rの力を受けるときの剛性より大きい構造になっている。すなわち、係合機構50cは、正回転方向Rよりも逆回転方向Lに撓みにくい。具体的には、係合機構50cは、板ばね52cと補強板54cとを含んでいる。板ばね52cは、基準方向L1に沿って延びた直線状であり、基端側が内筒20c内に埋設されており、先端部分が係合溝13に対して周方向に係合する。補強板54cは、基準方向L1に沿って延びた直線状であり、基端側が内筒20c内に埋設されており、先端部分は、外筒10側に突出しつつ、外筒10の内周面より内側に位置し、係合溝13に係合しない。補強板54cは、板ばね52cに対して逆回転方向L側に配置され、かつ、板ばね52cに隣接するように配置されている。
【0063】
以上の構成によれば、外筒10を正回転方向Rに回転させたとき、操作トルクが閾値以下である場合、係合機構50cの板ばね52cと係合溝13との係合状態が維持され、外筒10の回転に連動して内筒20cが回転し、その結果、デバイス1が回転する。外筒10を正回転方向Rに回転させたとき、操作トルクが閾値を超えると、板ばね52cは、係合溝13の内壁面に押圧されて内筒20c側に弾性変形し、係合溝13から抜けることにより上記係合状態が解除され、外筒10が内筒20cに対して空周りする。すなわち、トルクリミッター機能が働き、その結果、デバイス1の回転が停止する。このため、外筒10を正回転方向Rに回転させる際、過度の操作トルクがデバイス1に伝達されることを抑制することができる。
【0064】
一方、外筒10を逆回転方向Lに回転させたとき、係合機構50cの板ばね52cは係合溝13を構成する内壁面に押圧されるが、補強板54cの存在により変形しにくく、係合溝13から抜けにくい。その結果、操作トルクが閾値以下であるときも閾値を超えたときも、係合状態が維持され、外筒10から内筒20cへの回転トルクの伝達が継続される。このため、デバイス1の回転が継続される。このため、例えばデバイス1が体内の所定場所に引っ掛かった場合、上記閾値より大きい操作トルクで外筒を逆回転方向Lに回転させてデバイス1を回転させることにより、デバイス1を所定場所から抜き出すことができる。
【0065】
E.第5実施形態:
図9は、第5実施形態におけるトルク伝達具100dの横断面構成を概略的に示す説明図である。以下では、第5実施形態のトルク伝達具100dの構成の内、上述した第1実施形態のトルク伝達具100と同一の構成については、同一の符号を付すことによってその説明を適宜省略する。
【0066】
上記第1実施形態では、外筒10に凹部(係合溝13)が形成され、柱状体(内筒20)に凸部が形成されていたが、本第5実施形態では、外筒10dに凸部(板ばね50d)が形成され、柱状体(内筒20d)に凹部(係合溝13d)が形成されている。
【0067】
具体的には、図9に示すように、板ばね50dの先端部分は、内筒20dの係合溝13dに対して周方向に係合する。軸方向Zから見たとき、板ばね50dの先端部分は、トルク伝達具100dの中心軸Oから係合溝13dに向かう基準方向L1dに対して正回転方向R側に傾斜した方向L2dに延びている。
【0068】
係合溝13dを構成する内壁面は、第1の内壁面13dAと第2の内壁面13dBと連結面13dCとから構成されている。第1の内壁面13dAは、逆回転方向L側に位置しており、第2の内壁面13dBは、正回転方向R側に位置しており、連結面13dCは、第1の内壁面13dAと第2の内壁面13dBとの間に位置し、両者を連結する。第2の内壁面13dBは、外筒10dに近いほど正回転方向R側に位置するよう傾斜している。また、第1の内壁面13dAの基準方向L1dに対する第3の傾斜角度は、第2の内壁面13dBの基準方向L1dに対する第4の傾斜角度より小さい。なお、第3の傾斜角度は、30度以上であることが好ましく、第4の傾斜角度は、ゼロ度以下であることが好ましい。また、各内壁面13dA,13dB,13dCは、平面であってもよいし、曲面であってもよい。また、係合溝13dは、連結面13dCを有しない構成であってもよい。
【0069】
本第5実施形態によれば、板ばね50dを用いた比較的簡単な構成により、正回転方向Rについてトルクリミッター機能を保持しつつ、逆回転方向Lにおいてトルクリミッター機能の閾値を超える大きさの回転トルクでデバイス1の回転操作を行うことができる。
【0070】
本第5実施形態では、第2の内壁面13dBは、外筒10dに近いほど正回転方向R側に位置するよう傾斜している(図9参照)。また、第1の内壁面13dAの基準方向L1dに対する第3の傾斜角度は、第2の内壁面13dBの基準方向L1dに対する第4の傾斜角度より小さい。これにより、例えば第3の傾斜角度が第4の傾斜角度以上である構成に比べて、外筒10dを逆回転方向Lに回転させたとき、操作トルクが閾値を超えても係合状態を、より確実に維持することができる。
【0071】
F.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0072】
上記実施形態におけるトルク伝達具100,100a,100b,100cの構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態において、外筒10の横断面の形状は、円形に限らず、例えば多角形等であってもよい。また、上記実施形態において、外筒10,10aの内周面に形成される係合溝13,13aは、1つでもよい。上記実施形態では、凹部の例として、係合溝13,13aを例示したが、凹部は、軸方向Zに延びていない構成であってもよい。要するに、凹部は、内筒に設けられた凸部に係合可能であればよい。また、上記第1実施形態、第3実施形態、第4実施形態において、第2の内壁面13Bの基準方向L1に対する第2の傾斜角度は、第1の内壁面13Aの基準方向L1に対する第1の傾斜角度以上であってもよい。
【0073】
上記実施形態では、柱状体が医療用器具を保持する構成として、デバイス1を挟み込んで保持する保持部30を例示したが、例えばデバイス1を係止して保持する構成など、他の保持構造によって保持してもよい。また、柱状体は、筒状に限らず、中実の柱状であってもよい。要するに、柱状体は、医療用器具を保持可能な構成であればよい。また、医療用器具としては、線状のデバイスに限らず、例えば、立体構造物(バスケット型把持鉗子等の手術器具)を備えるものであってもよい。
【0074】
上記第1実施形態および第2実施形態において、内筒20,20aの外周面に、支持部25,25aが1つだけ形成された構成であってもよい。上記第1実施形態では、軸方向Zから見たとき、複数の凸部(図3では、一対の板ばね50)が、軸方向Zから見たとき、内筒20の中心軸Oを中心に点対称に配置されていたが、複数の凸部が非点対称に配置された構成や、1つだけ凸部が配置された構成であってもよい。
【0075】
上記実施形態では、複数の凸部(板ばね50等)が軸方向Zに複数並んだ構成であったが、複数の凸部が周方向において互いに異なる位置に配置された構成でもよい。また、上記第1実施形態において、複数の板ばね50が内筒20の周方向に互いにずれて配置され、かつ、別々の係合溝13に係合する構成でもよい。
【0076】
上記実施形態では、弾性を有する凸部として、板ばね50,50b,52cを例示したが、弾性を有する棒状体などであってもよい。
【0077】
上記実施形態において、外筒10,10aが、内筒20~20cの一部分を覆う構成でもよい。
【0078】
上記第1、第3、第4実施形態において、板ばね50は、内筒20に着脱不能に固定されていてもよい。また、板ばね50を1つだけ備える構成でもよい。
【0079】
上記各実施形態では、凹部と凸部との回転方向の係合によりトルクリミッター機能を実現する構成であったが、係合以外の構成により、「外筒を第1の回転方向に回転させたとき、外筒に加わる回転トルクが閾値以下である場合には柱状体への回転トルクの伝達状態を維持し、外筒に加わる回転トルクが閾値を超えた場合には伝達状態を解除し、外筒を第2の回転方向に回転させたとき、外筒に加わる回転トルクが閾値を超えた場合であっても、伝達状態を維持する、ように構成された形態であってもよい。例えば、次の例が挙げられる。
(a)柱状体と外筒との間に、柱状体の外周に巻回されたコイルを配置するとともに、コイルの一端を柱状体に固定し、他端を外筒に固定し、コイルの緩みと締まりとを利用する形態。
(b)外筒を第1の回転方向に回転させたときの外筒と柱状体との間の摩擦係数が、外筒を第2の回転方向に回転させたときの外筒と柱状体との間の摩擦係数より小さい形態。
(c)柱状体と外筒との間に、オリフィス機構を備え、そのオリフィス機構の開閉を利用する形態。
(d)柱状体と外筒との間に、編組体を配置し、その編組体の捩り方向を利用する形態。
【0080】
また、上記実施形態における各部材の材料は、あくまで一例であり、種々変更可能である。
【符号の説明】
【0081】
1:デバイス 10,10a,10d:外筒 12:挿通孔 12A:端挿通孔 12B:中央挿通孔 13,13a,13d:係合溝 13A,13aA,13dA:第1の内壁面 13B,13aB,13dB:第2の内壁面 13C,13dC:連結面 14:ローレット 16:マーク 20~20d:内筒 21:内筒本体 22:挿入孔 25,25a:支持部 30:保持部 32:縮径部 33A:ねじ溝 33B:変位部 33C:突起 34:キャップ 35A:ねじ溝 36:収容孔 40:軸受け 50,50b,52c,50d:板ばね 50a,50c:係合機構 52:突出部分 52a:変位部分 52b:先端部分 54,54b:ベース部分 54a:スプリング部 54c:補強板 100,100a,100b,100c:トルク伝達具 L1:基準方向 L2:傾斜した方向 L:逆回転方向 O:中心軸 R:正回転方向 Z:軸方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9