(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】釣竿
(51)【国際特許分類】
A01K 87/00 20060101AFI20240820BHJP
【FI】
A01K87/00 630N
A01K87/00 630A
(21)【出願番号】P 2020047648
(22)【出願日】2020-03-18
【審査請求日】2022-04-20
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【氏名又は名称】水野 浩司
(72)【発明者】
【氏名】奥 徳隆
【合議体】
【審判長】有家 秀郎
【審判官】澤田 真治
【審判官】三橋 健二
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-285380(JP,A)
【文献】特開2015-65901(JP,A)
【文献】特開2004-166718(JP,A)
【文献】特開2011-188750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 87/00 - 87/08
A01G 9/12
A01G 17/04 - 17/16
A01G 23/00 - 23/14
B27H 1/00 - 7/00
B27J 1/00 - 7/00
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化樹脂製の竿杆の表面に天然竹の節目模様を有する釣竿において、
竿杆の表面に環状に肉盛りされた膨出部と、
前記膨出部に形成され、底面がR状に湾曲し幅が1~2mmの環状溝と、
前記環状溝によって形成される先側膨出部を含む所定領域、及び、前記環状溝によって形成される元側膨出部を含む所定領域にそれぞれ形成される多数の縦筋と、
を有し、
前記膨出部は、軸方向長さが40~80mm、高さが0.2~1.5mmに形成され、元側及び先側から環状溝に向けて次第に盛り上がるように形成されており、
前記竿杆の表面は、その明度が、(前記環状溝)>(前記先側膨出部を含む所定領域)>(前記元側膨出部を含む所定領域)となるように茶色系統の色彩が付されている、
ことを特徴とする釣竿。
【請求項2】
前記先側膨出部、及び、前記元側膨出部は、その高さが略等しいことを特徴とする請求項1に記載の釣竿。
【請求項3】
前記環状溝は、竿杆の軸心に直交する面に対して5~15°の範囲で傾斜していることを特徴とする請求項1又は2に記載の釣竿。
【請求項4】
前記環状溝は、1つの竿杆に軸方向に亘って一定の間隔をおいて複数形成されており、隣接する環状溝の傾斜方向は、互いに交差する方向に形成されていることを特徴とする請求項3に記載の釣竿。
【請求項5】
前記先側膨出部に枝跡模様を付したことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の釣竿。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、竹の模様を外観に形成した釣竿に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、釣竿は、強化繊維に合成樹脂を含浸したプリプレグシートを巻回することで形成することが知られており、そのような材料で形成された竿杆を、複数本、振出式や並継式に継合して構成することが行なわれている。釣竿の表面には、塗装や蒸着処理などによって様々な装飾が施されるが、へら竿等では、天然竹を模した装飾を施したものが知られている。天然竹の模様は、色合い(天然竹を乾燥させ状態の茶系統の色彩)と、その節目部分に特徴があり、この部分を天然竹らしく形成することが重要となる。
【0003】
例えば、特許文献1には、竿杆素材の外周面に近接する2条の隆起部を形成し、表面に合成樹脂層を被着することで、隆起部間に環状の筋を設けた節目構造が開示されている。また、特許文献2には、竿杆素材の外周面に節線を入れ、節線を含む一定範囲に樹脂を盛り土し、更に、盛り土の表面に節色の塗装を行ない、節線を視認可能に研ぎ出した節目構造が開示されている。さらに、特許文献3には、竿杆素材の外周面に軸芯方向に傾斜するように2つの突出部(竿先側突出部、竿元側突出部)を形成し、両突出部の間に環状凹入溝を形成した節目構造が開示されている。そして、前記突出部及び環状凹入溝は、軸心方向と直交する垂直面に対して傾斜する傾斜面に沿うように形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開昭55-164967号
【文献】特開2001-095430号
【文献】特開2011-188750号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、自然の竹(自生している竹)を見ると、節目部分は表面に対して環状に盛り上がっており、盛り上がった部分に環状の筋目が存在していることから、従来の節目構造によれば、自然の竹の形態のような装飾を得ることが可能である。一方、竹は節目部分に特徴があることから、釣竿全体に竹模様を形成するに際しては、特に、節目及び節目の軸方向前後の領域について、形状、模様(色彩、明度等)を考慮することで、ユーザに対して竹模様であることを、より認識させ易くすることが可能である。
【0006】
ところで、天然の竹の外面には表面を覆うように外皮(鞘)が存在しており、筍のときに外周を覆っていた鞘は、成長するに従い落下することが知られている。落下するのは、成長と共に節目部分で落下していくため、鞘が落ちた後の節目の前後では、節目を境界にして基端側の明度は低く、先端側の明度は高いという特徴が見られる。この特徴は、鞘が落ちてからの時間が長くなると、節目の前後で変わらなくなるが、この明度の違いについては、竹模様として強く印象を与える部分でもある。
【0007】
また、天然の竹の節目の表面は凹凸になっており、頂部領域は環状に明るく見えることから、節目を表現する膨出部分についても、その形態を工夫することで、竹らしい印象を与えることが可能となる。
【0008】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、ユーザが一目した際に、自然の竹と同様な印象を与えることが可能な釣竿を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明に係る釣竿は、繊維強化樹脂製の竿杆の表面に天然竹の節目模様を有しており、竿杆の表面に環状に肉盛りされた膨出部と、前記膨出部に形成され、底面がR状に湾曲し幅が1~2mmの環状溝と、前記環状溝によって形成される先側膨出部を含む所定領域、及び、前記環状溝によって形成される元側膨出部を含む所定領域にそれぞれ形成される多数の縦筋と、を有し、前記竿杆の表面は、その明度が、(前記環状溝)>(前記先側膨出部を含む所定領域)>(前記元側膨出部を含む所定領域)となるように茶色系統の色彩が付されていることを特徴とする。
【0010】
上記した構成の釣竿では、天然竹の特徴である節目部分(外観を見たときに特に印象が残る部分となる)について、環状に肉盛りされた膨出部と、前記膨出部に形成され、底面がR状に湾曲し幅が1~2mmの環状溝と、前記環状溝によって形成される先側膨出部を含む所定領域、及び、前記環状溝によって形成される元側膨出部を含む所定領域にそれぞれ形成される多数の縦筋と、を有するように構成している。膨出部に形成される環状溝については、筋状ではなく、ある一定の溝幅(1~2mmとされる)を持たせることで、見た目で筋を誇張して把握し易く(視認し易く)なり、特に、その底面をR状に形成することで、リアル感を持たせることができる。また、竿杆については、天然の竹(乾燥させた状態の天然竹)と同様、全体として茶色系統の色彩が付されるが、上記したように、節目部分の領域については、その明度が、環状溝>先側膨出部を含む所定領域>元側膨出部を含む所定領域となるように形成されるため、実際の竹が成長する際に鞘が落下したときの表面の明度の相違状態が表現され、これにより、ユーザに対して天然竹の印象を与えることができる。特に、先側膨出部を含む所定領域の明度が高いことから、多数の縦筋については、先側膨出部側(成長側)が元側膨出部側よりも視認し易くなり、実際の竹の節目部分から受ける印象と同様な印象を与えることが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の釣竿によれば、ユーザが一目した際に、自然の竹で形成された釣竿と同様な印象を与えることが可能な釣竿が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】
図1に示す釣竿の竿杆の表面に形成される筋目部分の拡大図。
【
図3】(a)は節目部分の側面図、(b)は断面図、(c)は環状溝の拡大断面図。
【
図5】
図2に示した構成の実物を撮影した写真のコピー。
【
図6】
図4に示した構成の実物を撮影した写真のコピー。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る釣竿の構成について図面を参照しながら具体的に説明する。
図1から
図3は、本発明に係る釣竿の第1の実施形態を示す図であり、
図1は、釣竿の一例(元竿側)を示す図、
図2は、
図1に示す釣竿の竿杆の表面に形成される筋目部分の拡大図、
図3(a)は節目部分の側面図、(b)は断面図、(c)は環状溝の拡大断面図である。
【0014】
本実施形態の釣竿1は、へら竿として構成されており、複数の竿杆を振出式に継合する構造となっている。元竿杆1Aには、グリップ3が設けられており、各竿杆には、天然竹と同様な節目(模様)20が一定の間隔をおいて複数形成されている。
【0015】
各竿杆は、強化繊維に合成樹脂を含浸させたプリプレグシートをマンドルに巻回し、これを加熱、硬化し、脱芯する等、公知の方法によって製造された、いわゆるFRPで構成されている。以下、竿杆として元竿杆1Aを例示し、その表面に形成される1つの節目模様20について説明する。
【0016】
上記したように形成される元竿杆1Aの表面には、環状に肉盛りした膨出部21が形成される。この膨出部は、節目模様となる部分であり、形成された元竿杆の表面に、例えば、塗料や樹脂によって形成することが可能である。膨出部21は、元竿杆側の形状が大きく、穂先竿杆側の形状が小さくなるように形成することが好ましく、軸方向の長さLについては、40~80mm程度、高さHについては、0.2~1.5mm程度で形成されていれば良い。この場合、膨出部21の形状については、元側及び先側から次第に盛り上がるように形成されていることが好ましく、その中央部分には、環状溝25が形成される。
【0017】
前記環状溝25は、その底面25aがR状に湾曲するように形成されており、溝幅Wについては1~2mmとなるように形成されている。ここで、環状溝25の底面25aを
図3に示すように湾曲状に形成したのは、視認した際にリアル感を持たせるためである。実際に、膨出部に形成される環状溝について、断面が矩形状(底面が平坦面で溝の側壁も底面に対して略直角となるような溝形状)となるような形成したところ、視認した際に違和感(不自然な溝模様)が生じたのに対し、底面をR状に湾曲させることで違和感をなくすことができた。また、その溝幅Wについても、細すぎて筋状にしたり、逆に広すぎてしまうと、実際の節目とは異なる印象を与えてしまったところ、1~2mmの範囲で形成することで、実際の節目のような印象を与えることができた。
【0018】
なお、溝幅Wについては、
図3(c)で示すように、環状溝25を形成することで、膨出部21の先側(先側膨出部21aと称する)、及び、元側(元側膨出部21bと称する)のそれぞれの最大膨出位置P1,P2間の距離によって定義される。この場合、径が太い元竿杆では、環状溝25の溝幅が広く、径が細くなる中竿杆から穂先竿杆に移行するにつれて、環状溝25の溝幅を狭くするのが好ましく、これにより、釣竿全体として、天然竹と同様な外観印象を与えることができる。
【0019】
上記した底面が湾曲状になった環状溝25については、例えば、以下のような方法で形成することが可能である。
竿杆1Aの表面に塗料や樹脂等によって膨出部21を形成した後、切削加工等によって溝幅が1~2mmとなるように環状溝25を形成する。この切削加工によって形成される溝の断面形状が矩形であっても、膨出部の表面に塗装(明度が高い茶色系の塗装)26aを施すと、塗装の表面張力によって、底面がR状になった環状溝を形成することが可能である(
図3(b)参照)。或いは、竿杆1Aの表面(下地層を形成しても良い)に、分割可能な断面円形状(半円形状)のリング状の部材を配設しておき、その状態で膨出部を構成する塗料や樹脂を肉盛りし、硬化した後、リング状の部材を取り除くことで環状溝25を形成することも可能である。
【0020】
次に、上記したように環状溝25が形成された状態の膨出部20に対し、多数の縦筋27を形成する。この縦筋27は、実際の天然竹にも存在する構成であり、節目模様に、よりリアル感を与えることが可能となる。縦筋27は、先側膨出部21aを含む所定領域、及び、元側膨出部21bを含む所定領域に形成され、例えば、上記した環状溝25の領域をマスキングしておき、その表面から塗装(前記塗装26aよりも明度が低い茶色系の塗装)26bを施し、その表面にガーゼなどの繊維やスポンジなどを当て付けて軸方向に摺動させることで形成したり、或いは、縦筋色となる塗料を繊維やスポンジなどに含浸し、これを軸方向に沿って摺動することで形成することが可能である。
この場合、膨出部21の盛り上がり形状によって、膨出部の頂部付近に、所々色が濃くなった縦筋27aを形成することが可能であり、これにより実際の天然竹の縦筋のような印象を与えることもできる。
【0021】
そして、次に先側膨出部21aを含む所定領域をマスキングし、元側膨出部21bを含む所定領域に塗装(前記塗装26bよりも明度が低い茶色系の塗装)26cを施す。
これにより、竿杆の節目部分の表面は、その明度が、環状溝25>先側膨出部21aを含む所定領域>元側膨出部21bを含む所定領域、となるような茶色系統の色彩が付されることとなる。すなわち、元側膨出部21bを含む所定領域が最も暗くなることから、上記したように形成される縦筋27については、先側膨出部21a側よりも見え難くなり、実際の天然竹が成長して、節目部分で鞘がめくれた際の縦筋の状態に近似する印象を与えることが可能となる。
【0022】
上記した構成では、先側膨出部21a及び元側膨出部21bは、その高さが略等しくなるように形成することで節目模様20を容易に形成することが可能であるが、元側膨出部21bの高さが高くなるように形成しても良い。
また、膨出部21に形成される環状溝25については、竿杆1Aの軸心Xに直交する面Pに対して、5~15°好ましくは、7~8°の範囲で傾斜(
図1で示す傾斜角度α)していることが好ましく、特に、軸心Xに対して略180°の領域が先側、対向する略180°の領域が元側となるように傾斜していることが好ましい。これにより、自然の竹の節目模様との印象を与えることが可能となる。この場合、環状溝25を、前記直交する面P内に形成しても良いが、人工物のような印象を与える傾向にあることから、直交する面Pに対して傾斜させることが好ましい。
【0023】
上記した節目模様20は、竿杆に形成される膨出部21、環状溝25、縦筋27,27a、及び、各領域における色彩(茶色系統の色彩)の明度の相違によって、実際の天然竹で得られる釣竿と同じような外観印象を与えることが可能となる。実際に上記したような形態で節目模様を形成すると、
図5の写真で示すような状態となり、節目部分において、天然の竹から作成した竿杆のような印象を与える構造にすることが可能となる。
【0024】
また、1つの竿杆には、上記したような節目模様20が、軸方向に亘って一定の間隔をおいて複数形成されている。この場合、隣接する節目模様の環状溝25の傾斜方向については、
図1に示すように、互いに交差する方向に形成することで、天然の竹から製造した釣竿(竿杆)の印象を与えることが可能となる。
【0025】
図4は、本発明の第2の実施形態を示す図である。
この実施形態のように、先側膨出部21aに、黒系の塗装等によって枝跡模様30を付しておくことで、枝が落ちた状態を表現することができ、より天然の竹の印象を与えることが可能である(
図6の写真参照)。このような枝跡模様30は、例えば、表面をマスキングして、黒色系の塗料を塗装等することで形成することが可能である。
【0026】
上記したような節目模様を形成するに際して用いられる塗装方法及び用いられる塗料については限定されることはない。塗料としては、例えば、顔料を含んだエポキシ樹脂系の塗料、ポリウレタン樹脂系の塗料、アクリル樹脂系の塗料を用いることが可能であり、これを刷毛塗、シゴキ塗装、ガン吹き塗装(スプレー塗装)などによって竿杆表面に塗布すれば良い。また、節目模様は、直接、竿杆素材の表面に形成しても良いし、下地層を塗布してから形成しても良い。さらに、節目模様を構成する塗膜層の層数や厚さについても限定されることはない。
【0027】
そして、上記したような節目模様20や枝跡模様30が形成された竿杆の表面には、透明樹脂によって保護層を被着しておくことが好ましい。このような保護層を被着しておくことで、表面の凹凸をなくし、滑らかな表面状態に仕上げることが可能となる。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、竹の節目模様に関し、天然の竹素材で得られる筋目模様と同様な形状を形成することに特徴があり、それ以外の構成については限定されることはない。例えば、膨出部21の大きさや形状については適宜、変形することが可能であり、環状溝25の底面の湾曲状についても適宜、変形することが可能である。また、上記した実施形態では、釣竿(へら竿)を例示して説明したが、へら竿とセット化される竿受けに用いたり、弓道の弓等の管状体に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 釣竿
1A 元竿杆(竿杆)
20 節目模様
21 膨出部
21a 先側膨出部
21b 元側膨出部
25 環状溝
27 縦筋
30 枝跡模様