(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】ブロック共重合体、及びブロック共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 297/04 20060101AFI20240820BHJP
【FI】
C08F297/04
(21)【出願番号】P 2020133795
(22)【出願日】2020-08-06
【審査請求日】2023-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】谷口 直樹
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-154013(JP,A)
【文献】特開2007-039662(JP,A)
【文献】国際公開第2015/046251(WO,A1)
【文献】特開2014-034625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 297/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(A)と、
少なくとも1つの、共役ジエン単量体単位を主体とし、ビニル芳香族単量体単位を含む重合体ブロック(B)と、
を、含
み、逐次重合体である、
ブロック共重合体であって、
前記ブロック共重合体の重量平均分子量が
65000以上90000未満であり、
前記重合体ブロック(A)中のビニル芳香族単量体単位の含有量が、前記ブロック共重合体全体の18質量%以上であり、
前記ブロック共重合体中のビニル芳香族単量体単位の含有量が、前記ブロック共重合体全体の26質量%以上であり、
前記ブロック共重合体中の共役ジエン単量体単位に基づく二重結合の水添率が70%以上であ
り、
前記ブロック共重合体中にカップリング剤残基を含まず、
前記重合体ブロック(A)を1つのみ有するブロック共重合体の含有量が3質量%以下であり、
温度230℃、荷重2.16kgの条件下でのメルトフローレートが、40g/10min以上であり、
下記の引張応力の測定条件により測定した100%伸長時の応力が1.2MPa以上である、
ブロック共重合体。
<引張応力の測定条件>
ISO 37に準拠し、ダンベルType1Aを用い、引張速度500mm/minとして、100%伸長した時点の応力を測定する。
【請求項2】
前記ブロック共重合体中の水添前の共役ジエン単量体単位のビニル結合量が40%以上である、請求項
1に記載のブロック共重合体。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のブロック共重合体の製造方法であって、
逐次重合によりブロック共重合体を得る工程を有する、
ブロック共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロック共重合体、及びブロック共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニル芳香族化合物単量体と共役ジエン単量体からなるブロック共重合体は、加硫をしなくても加硫された天然ゴムや合成ゴムと同様の弾性を常温にて有し、しかも高温では熱可塑性樹脂と同様の加工性を有していることから、従来から、履物、プラスチック改質、アスファルト改質、粘接着材等の分野、衛生材料の分野、家庭用製品、家電・工業部品等の包装材料、玩具等において広く利用されている。また、前記ブロック共重合体の水添物は、耐候性、耐熱性に優れていることから、上述した用途分野以外にも、自動車部品や医療器具等にも幅広く使用されている。さらに、上述したような分野において、前記ブロック共重合体は、ポリオレフィン等の他の材料の改質剤として使用されたり、伸縮性を付加する材料として使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した用途分野では、ブロック共重合体に高い引張応力が要求されることがある。また、高い加工性を実現するために低粘度性を要求されることがある。
しかしながら、上述した従来技術で提案されているブロック共重合体は、一般に高い引張応力を発現しようとすると粘度が上昇する、という問題点を有している。
【0005】
そこで本発明においては、粘度が低く高い加工性を有するとともに、高い引張応力を発現できるブロック共重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上述した従来技術の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を有するブロック共重合体が前記課題を効果的に解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0007】
〔1〕
少なくとも2つの、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(A)と、
少なくとも1つの、共役ジエン単量体単位を主体とし、ビニル芳香族単量体単位を含む重合体ブロック(B)と、
を、含み、逐次重合体である、
ブロック共重合体であって、
前記ブロック共重合体の重量平均分子量が65000以上90000未満であり、
前記重合体ブロック(A)中のビニル芳香族単量体単位の含有量が、前記ブロック共重合体全体の18質量%以上であり、
前記ブロック共重合体中のビニル芳香族単量体単位の含有量が、前記ブロック共重合体全体の26質量%以上であり、
前記ブロック共重合体中の共役ジエン単量体単位に基づく二重結合の水添率が70%以上であり、
前記ブロック共重合体中にカップリング剤残基を含まず、
前記重合体ブロック(A)を1つのみ有するブロック共重合体の含有量が3質量%以下であり、
温度230℃、荷重2.16kgの条件下でのメルトフローレートが、40g/10min以上であり、
下記の引張応力の測定条件により測定した100%伸長時の応力が1.2MPa以上である、
ブロック共重合体。
<引張応力の測定条件>
ISO 37に準拠し、ダンベルType1Aを用い、引張速度500mm/minとして、100%伸長した時点の応力を測定する。
〔2〕
前記ブロック共重合体中の水添前の共役ジエン単量体単位のビニル結合量が40%以上である、前記〔1〕に記載のブロック共重合体。
〔3〕
前記〔1〕又は〔2〕に記載のブロック共重合体の製造方法であって、逐次重合によりブロック共重合体を得る工程を有する、
ブロック共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、粘度が低く高い加工性を実現するとともに高い引張応力を発現するブロック共重合体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。
なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明は、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0010】
〔第1のブロック共重合体〕
本実施形態の第1のブロック共重合体は、少なくとも2つの、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(A)と、少なくとも1つの、共役ジエン単量体単位を主体とし、ビニル芳香族単量体単位を含む重合体ブロック(B)と、を、含むブロック共重合体であって、前記ブロック共重合体の重量平均分子量が100,000未満であり、前記重合体ブロック(A)中のビニル芳香族単量体単位の含有量がブロック共重合体全体の18質量%以上であり、前記ブロック共重合体中のビニル芳香族単量体単位の含有量がブロック共重合体全体の26質量%以上であり、前記ブロック共重合体中の共役ジエン単量体単位に基づく二重結合の水添率が70%以上である。
本実施形態のブロック共重合体は、上記の構成を備えることにより、低粘度でありながら高い引張応力を示す。
【0011】
前記「ビニル芳香族単量体単位」とは、1つのビニル芳香族炭化水素化合物を重合させた結果生じる構造を示し、「共役ジエン単量体単位」とは、1つの共役ジエン化合物を重合させた結果生じる構造を示す。
【0012】
前記「ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(A)」とは、ビニル芳香族単量体単位を85質量%以上、好ましくは95質量%以上含有する重合体ブロックを意味する。
また、「共役ジエン単量体単位を主体として、ビニル芳香族単量体単位を含む重合体ブロック(B)」とは、共役ジエン単量体単位を、50質量%を超え、好ましくは70質量%以上含有し、ビニル芳香族単量体単位を、0質量%を超える量含有する重合体ブロックを意味する。
【0013】
(第1のブロック共重合体の重量平均分子量)
本実施形態の第1のブロック共重合体の重量平均分子量は100,000未満であり、好ましくは90,000未満であり、より好ましくは80,000未満である。
重量平均分子量が低いほど粘度が低下する傾向にあり、100,000未満であることにより、高い加工性が得られる傾向にある。
また、仕上げ性の観点から、本実施形態の第1のブロック共重合体の重量平均分子量は45,000以上が好ましく、50,000以上がより好ましく、55,000以上がさらに好ましく、60,000以上がさらに好ましく、65,000以上がさらに好ましい。
ブロック共重合体の重量平均分子量は、重合工程時の単量体添加量、反応開始剤添加量、重合時間、重合温度を調整することにより、上記範囲に制御することができる。
【0014】
(重合体ブロック(A)中のビニル芳香族単量体単位の、ブロック共重合体全体に対する含有量)
前記重合体ブロック(A)中のビニル芳香族単量体単位の含有量は、本実施形態の第1のブロック共重合体全体の18質量%以上であり、好ましくは21質量%以上であり、より好ましくは22質量%以上である。
重合体ブロック(A)中のビニル芳香族単量体単位の含有量が上記の範囲にあることにより、引張応力が向上する傾向にある。また、低硬度化の観点から重合体ブロック(A)中のビニル芳香族単量体単位の含有量は、ブロック共重合体全体の40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。
各重合体ブロック(A)中のビニル芳香族単量体単位の含有量は、互いに同じでも、異なっていてもよく、重合体ブロック(A)中のビニル芳香族単量体単位の総含有量がブロック共重合体全体に対して上記の範囲にあればよい。
重合体ブロック(A)中のビニル芳香族単量体単位の、ブロック共重合体全体に対する含有量は、重合体ブロック(A)の重合工程時のビニル芳香族単量体の添加量を調整することにより、上記範囲に制御することができる。
【0015】
(ブロック共重合体中のビニル芳香族単量体単位の含有量)
本実施形態の第1のブロック共重合体中のビニル芳香族単量体単位の含有量は、ブロック共重合体全体の26質量%以上であり、好ましくは29質量%以上であり、より好ましくは32質量%以上であり、さらに好ましくは34質量%以上である。
ブロック共重合体中のビニル芳香族単量体単位の含有量が上記の範囲にあることにより低粘度性と引張応力とのバランスが向上する傾向にある。
ブロック共重合体中のビニル芳香族単量体単位の含有量は、重合体ブロック(A)及び重合体ブロック(B)の重合工程時のビニル芳香族単量体の添加量を調整することにより、上記範囲に制御することができる。
【0016】
(重合体ブロック(B)中のビニル芳香族単量体単位の含有量)
本実施形態の第1のブロック共重合体において、重合体ブロック(B)中のビニル芳香族単量体単位の含有量は、重合体ブロック(B)全体に対して、0質量%を超え、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましく、13質量%以上であることがさらにより好ましく、15質量%以上であることがよりさらに好ましい。
重合体ブロック(B)中のビニル芳香族単量体単位の含有量が上記の範囲にあることにより低粘度性が向上する傾向にある。
また、重合体ブロック(B)に含まれるビニル芳香族単量体単位の含有量は、重合体ブロック(B)全体の25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、19質量%以下であることがさらに好ましく、18質量%以下であることがさらにより好ましい。
重合体ブロック(B)に含まれるビニル芳香族単量体単位の含有量が上記の範囲にあることにより、低温下においても柔軟性を保つ低温特性が良好になる傾向にあり、水素添加したスチレン系エラストマー(例えばスチレン-ブタジエン-スチレンの水素添加体(SEBS)、スチレン-ポリイソプレン-スチレンの水素添加体(SEPS)等)と混合する場合、混合性が向上し、これにより各種物性の調整を行いやすくなる傾向にある。
重合体ブロック(B)中のビニル芳香族単量体単位の、重合体ブロック(B)に対する含有量は、重合体ブロック(B)の重合工程時のビニル芳香族単量体の添加量を調整することにより、上記範囲に制御することができる。
【0017】
(ブロック共重合体の水添率)
本実施形態の第1のブロック共重合体中の共役ジエン単量体単位に基づく二重結合の水添率は70%以上であり、75%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることがさらにより好ましく、95%以上であることがよりさらに好ましい。
ブロック共重合体中の共役ジエン単量体単位に基づく二重結合の水添率が上記の範囲にあることにより引張応力が向上する傾向にある。また、特に水添率が90%以上の場合には耐候性、耐熱性が向上するとともに、水素添加したスチレン系エラストマー(例えばスチレン-ブタジエン-スチレンの水素添加体(SEBS)、スチレン-ポリイソプレン-スチレンの水素添加体(SEPS)等)と混合する場合、混合性が向上し、これにより各種物性の調整が行いやすくなる傾向にある。
本実施形態の第1のブロック共重合体を低粘度にする観点では、共役ジエン単量体単位に基づく二重結合の水添率が高すぎない方が好ましい。具体的には、共役ジエン単量体単位に基づく二重結合の水添率は95%以下であることが好ましく、90%以下であることが好ましく、85%以下であることがより好ましい。ただし、水添率を高く設定する方が耐熱性を高められるため、耐熱性を要求する場合には、水添率を95%超に設定することが好ましい。これにより前述のとおり粘度は上昇する傾向にあるが、分子量を比較的低く設定することによって、所期の粘度に調整することが可能である。
ブロック共重合体の水添率は、水添工程における水素添加量、水添工程時間、圧力、水添触媒を適宜調整することにより、上記数値範囲に制御することができる。
【0018】
(ビニル結合量)
また、本実施形態の第1のブロック共重合体中の水添前の共役ジエン単量体単位のビニル結合量は40%以上であることが好ましい。ブロック共重合体中の水添前の共役ジエン単量体単位のビニル結合量が上記の範囲にあることにより粘度が低下する傾向にある。
ビニル結合量は43%以上であることがより好ましく、46%以上であることがさらに好ましく、50%以上であることがさらにより好ましく、60%以上であることがよりさらに好ましく、70%以上であることが特に好ましい。
また、本実施形態のブロック共重合体中の水添前の共役ジエン単量体単位のビニル結合量は80%以下であることが好ましく、75%以下であることがより好ましく、70%以下であることがさらに好ましく、60%以下であることがさらにより好ましく、55%以下であることがよりさらに好ましい。ブロック共重合体中の水添前の共役ジエン単量体単位のビニル結合量が上記の範囲にあることにより、耐候性、耐熱性が向上する傾向にある。
ブロック共重合体のビニル結合量は、ルイス塩基、例えばエーテル、アミン等の化合物をビニル化剤として使用することにより制御できる。ビニル化剤の使用量は、目的とするビニル結合量によって調整する。
【0019】
(第1のブロック共重合体の好ましい態様)
また、本実施形態の第1のブロック共重合体は、逐次重合によって重合されたものであることが好ましい。「逐次重合によって重合された」とは、最終的に目標とするポリマー構造の片側の末端から、反対側の末端まで逐次重合していくことを意味し、カップリング反応を用いずに重合することをいう。
また、本実施形態の第1のブロック共重合体中にカップリング剤残基を含まないことが好ましい。これにより、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(A)を1つしか含まないブロック共重合体のような意図しない未カップリング体などの混入を防ぐことができる。
逐次重合によって重合された、少なくとも2つのビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(A)を含む、本実施形態の第1のブロック共重合体は、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(A)を1つしか含まないブロック共重合体と比較して効果的にネットワーク構造を形成できるため、引張応力が向上する傾向にある。
上記と同様の理由で本実施形態の第1のブロック共重合体は、重合体ブロック(A)を一つのみ有するブロック共重合体を実質的に含まないことが好ましい。この「実質的に含まない」とは、積極的に含有させたわけではないが、意図しない重合の失活などで回避不能な程度に混入する程度の量までをも排除しないことをいう。具体的には重合体ブロック(A)を一つのみ有するブロック共重合体の含有量は全体量の3質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0020】
〔第2のブロック共重合体〕
本実施形態の第2のブロック共重合体は、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(A)と、共役ジエン単量体単位を主体とし、ビニル芳香族単量体単位を含む重合体ブロック(B)と、を、含むブロック共重合体であって、前記ブロック共重合体の重量平均分子量が100,000未満であり、前記重合体ブロック(A)中のビニル芳香族単量体単位の含有量が、前記ブロック共重合体全体の18質量%以上であり、前記ブロック共重合体中のビニル芳香族単量体単位の含有量が、ブロック共重合体全体の26質量%以上であり、前記ブロック共重合体中の共役ジエン単量体単位に基づく二重結合の水添率が70%以上であり、100%伸長時の応力が1.2MPa以上である。
【0021】
前記「ビニル芳香族単量体単位」とは、1つのビニル芳香族炭化水素化合物を重合させた結果生じる構造を示し、「共役ジエン単量体単位」とは、1つの共役ジエン化合物を重合させた結果生じる構造を示す。
【0022】
前記「ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(A)」とは、ビニル芳香族単量体単位を85質量%以上、好ましくは95質量%以上含有する重合体ブロックを意味する。
また、前記「共役ジエン単量体単位を主体として、ビニル芳香族単量体単位を含む重合体ブロック(B)」とは、共役ジエン単量体単位を50質量%を超え、好ましくは70質量%以上含有し、ビニル芳香族単量体単位を0質量%を超え、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上含有する重合体ブロックを意味する。
【0023】
(第2のブロック共重合体の重量平均分子量)
本実施形態の第2のブロック共重合体の重量平均分子量は100,000未満であり、好ましくは90,000未満であり、より好ましくは80,000未満である。
重量平均分子量が低いほど粘度が低下する傾向にあり、100,000未満であることにより、高い加工性が得られる傾向にある。
また、仕上げ性の観点から、本実施形態の第2のブロック共重合体の重量平均分子量は45,000以上が好ましく、50,000以上がより好ましく、55,000以上がさらに好ましく、60,000以上がさらに好ましく、65,000以上がさらに好ましい。
ブロック共重合体の重量平均分子量は、重合工程時の単量体添加量、反応開始剤添加量、重合時間、重合温度を調整することにより、上記範囲に制御することができる。
【0024】
(重合体ブロック(A)中のビニル芳香族単量体単位の、ブロック共重合体全体に対する含有量)
前記重合体ブロック(A)中のビニル芳香族単量体単位の含有量は、本実施形態の第2のブロック共重合体全体の18質量%以上である。重合体ブロック(A)中のビニル芳香族単量体単位の含有量が上記の範囲にあることにより、引張応力が向上する傾向にある。ビニル芳香族単量体単位の含有量は好ましくは21質量%以上であり、より好ましくは22質量%以上である。
また、低硬度化の観点から、重合体ブロック(A)中のビニル芳香族単量体単位の含有量は、ブロック共重合体全体の40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。
重合体ブロック(A)が複数ある場合は、各重合体ブロック(A)中のビニル芳香族単量体単位の含有量は、互いに同じでも、異なっていてもよく、重合体ブロック(A)中のビニル芳香族単量体単位の総含有量がブロック共重合体全体に対して上記の範囲にあればよい。
重合体ブロック(A)中のビニル芳香族単量体単位の、ブロック共重合体全体に対する含有量は、重合体ブロック(A)の重合工程時のビニル芳香族単量体の添加量を調整することにより、上記範囲に制御することができる。
【0025】
(ブロック共重合体中のビニル芳香族単量体単位の含有量)
本実施形態の第2のブロック共重合体中のビニル芳香族単量体単位の含有量は、ブロック共重合体全体の26質量%以上であり、好ましくは29質量%以上であり、より好ましくは32質量%以上であり、さらに好ましくは34質量%以上である。
ブロック共重合体中のビニル芳香族単量体単位の含有量が上記の範囲にあることにより低粘度性と引張応力とのバランスが向上する傾向にある。
ブロック共重合体中のビニル芳香族単量体単位の含有量は、重合体ブロック(A)及び重合体ブロック(B)の重合工程時のビニル芳香族単量体の添加量を調整することにより、上記範囲に制御することができる。
【0026】
(重合体ブロック(B)中のビニル芳香族単量体単位の含有量)
本実施形態の第2のブロック共重合体において、重合体ブロック(B)中のビニル芳香族単量体単位の含有量は、重合体ブロック(B)全体に対して、0質量%を超え、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましく、13質量%以上であることがさらにより好ましく、15質量%以上であることがよりさらに好ましい。
重合体ブロック(B)中のビニル芳香族単量体単位の含有量が上記の範囲にあることにより低粘度性が向上する傾向にある。
また、重合体ブロック(B)に含まれるビニル芳香族単量体単位の含有量は、重合体ブロック(B)全体の25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、19質量%以下であることがさらに好ましく、18質量%以下であることがさらにより好ましい。
重合体ブロック(B)に含まれるビニル芳香族単量体単位の含有量が上記の範囲にあることにより、低温下においても柔軟性を保つ低温特性が良好になる傾向にあり、水素添加したスチレン系エラストマー(例えばスチレン-ブタジエン-スチレンの水素添加体(SEBS)、スチレン-ポリイソプレン-スチレンの水素添加体(SEPS)等)と混合する場合、混合性が向上し、これにより各種物性の調整を行いやすくなる傾向にある。
重合体ブロック(B)中のビニル芳香族単量体単位の、重合体ブロック(B)に対する含有量は、重合体ブロック(B)の重合工程時のビニル芳香族単量体の添加量を調整することにより、上記範囲に制御することができる。
【0027】
(ブロック共重合体の水添率)
本実施形態の第2のブロック共重合体中の共役ジエン単量体単位に基づく二重結合の水添率は70%以上である。水添率が上記の範囲にあることにより引張応力が向上する傾向にある。
共役ジエン単量体単位に基づく二重結合の水添率は75%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることがさらにより好ましく、95%以上であることがよりさらに好ましい。ブロック共重合体中の共役ジエン単量体単位に基づく二重結合の水添率が上記の範囲にあることにより、耐候性、耐熱性が向上するとともに、水素添加したスチレン系エラストマー(例えばスチレン-ブタジエン-スチレンの水素添加体(SEBS)、スチレン-ポリイソプレン-スチレンの水素添加体(SEPS)等)と混合する場合、混合性が向上し、これにより各種物性の調整を行いやすくなる傾向にある。
本実施形態の第2のブロック共重合体を低粘度にする観点では、共役ジエン単量体単位に基づく二重結合の水添率が高すぎない方が好ましい。具体的には、共役ジエン単量体単位に基づく二重結合の水添率は95%以下であることが好ましく、90%以下であることが好ましく、85%以下であることがより好ましい。ただし、水添率を高く設定する方が耐熱性を高められるため、耐熱性を要求する場合には、水添率を95%超に設定することが好ましい。これにより前述のとおり粘度は上昇する傾向にあるが、分子量を比較的低く設定することによって、所期の粘度に調整することが可能である。
ブロック共重合体の水添率は、水添工程における水素添加量、水添工程時間、圧力、水添触媒を適宜調整することにより、上記数値範囲に制御することができる。
【0028】
(ビニル結合量)
本実施形態の第2のブロック共重合体中の水添前の共役ジエン単量体単位のビニル結合量は40%以上であることが好ましく、43%以上であることがより好ましく、46%以上であることがさらに好ましく、50%以上であることがさらにより好ましく、60%以上であることがよりさらに好ましく、70%以上であることが特に好ましい。
本実施形態のブロック共重合体中の水添前の共役ジエン単量体単位のビニル結合量が上記の範囲にあることで粘度が低下する傾向にある。
また、本実施形態のブロック共重合体中の水添前の共役ジエン単量体単位のビニル結合量は80%以下であることが好ましく、75%以下であることがより好ましく、70%以下であることがさらに好ましく、60%以下であることがさらにより好ましく、55%以下であることがよりさらに好ましい。ブロック共重合体中の水添前の共役ジエン単量体単位のビニル結合量が上記の範囲にあることにより、耐候性、耐熱性が向上する傾向にある。
ブロック共重合体のビニル結合量は、ルイス塩基、例えばエーテル、アミン等の化合物をビニル化剤として使用することにより制御できる。ビニル化剤の使用量は、目的とするビニル結合量によって調整する。
【0029】
(第2のブロック共重合体の好ましい態様)
また、本実施形態の第2のブロック共重合体は、逐次重合によって重合されたものであることが好ましい。「逐次重合によって重合された」とは、最終的に目標とするポリマー構造の片側の末端から、反対側の末端まで逐次重合していくことを意味し、カップリング反応を用いずに重合することをいう。
また、本実施形態の第2のブロック共重合体は、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(A)を2つ以上含むものであることが好ましく、本実施形態の第2のブロック共重合体中にカップリング剤残基を含まないことが好ましい。これにより、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(A)を1つしか含まないブロック共重合体のような意図しない未カップリング体などの混入を防ぐことができる。
逐次重合によって重合された、少なくとも2つのビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(A)を含む、本実施形態の第2のブロック共重合体は、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(A)を1つしか含まないブロック共重合体と比較して効果的にネットワーク構造を形成できるため引張応力が向上する傾向にある。
上記と同様の理由で本実施形態の第2のブロック共重合体は、重合体ブロック(A)を一つのみ有するブロック共重合体を実質的に含まないことが好ましい。この「実質的に含まない」とは、積極的に含有させたわけではないが、意図しない重合の失活などで回避不能な程度に混入する程度の量までをも排除しないことをいう。具体的には重合体ブロック(A)を一つのみ有するブロック共重合体の含有量は全体量の3質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。
【0030】
(100%伸長時の応力)
本実施形態の第2のブロック共重合体は、100%伸長時の応力が1.2MPa以上である。これにより、ブロック共重合体単独や、他の成分とのコンパウンドの状態でフィルム状にした際に、より薄いフィルムで所望の引張応力を得られる傾向にある。
ブロック共重合体の100%伸長時の応力は、1.5MPa以上であることが好ましく、2.0MPa以上であることがより好ましい。
ブロック共重合体の100%伸長時の応力は、後述する実施例に記載する方法により測定できる。
ブロック共重合体の100%伸長時の応力を1.2MPa以上にする観点から、重合体ブロック(A)に含まれるビニル芳香族単量体単位の含有量がブロック共重合体全体の18質量%以上に設定し、ブロック共重合体中のビニル芳香族単量体単位の含有量がブロック共重合体全体の26質量%以上に設定し、共役ジエン単量体単位に基づく二重結合の水添率を70%以上に設定し、かつ、第2のブロック共重合体が、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(A)を2つ以上有する構造とすることは、好ましい態様である。
また、ブロック共重合体の100%伸長時の応力を1.2MPa以上に制御する観点から、重合体ブロック(A)に含まれるビニル芳香族単量体単位の含有量をブロック共重合体全体の20質量%以上とすることがより好ましく、22質量%以上とすることがさらに好ましい。
【0031】
〔ブロック共重合体の製造方法〕
本実施形態の第1及び第2のブロック共重合体(以下、本実施形態のブロック共重合体と記載する場合がある)の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
本実施形態のブロック共重合体は、例えば、有機溶媒中で、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として重合を行い、共重合体を得た後、水素化反応を行うことにより製造することができる。
重合温度は、一般に0~150℃であり、20~120℃であることが好ましく、40~100℃であることがより好ましく、40~80℃であることがさらに好ましい。
重合時間は、目的とする重合体によって異なるが、通常は24時間以内であり、0.1~10時間であることが好ましい。分子量分布が狭く、高い引張応力を有するブロック共重合体を得る観点からは、0.5~3時間であることがより好ましい。
重合系の雰囲気は、窒素及び溶媒を液相に維持するために十分な圧力の範囲であればよく、特に限定されるものではない。
重合系内に、重合開始剤及びリビングポリマーを不活性化させるような不純物、例えば水、酸素、炭酸ガス等が存在しないことが好ましい。
また、逐次重合によって重合された、少なくとも2つのビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(A)を含む、本実施形態の第2のブロック共重合体は、ビニル芳香族単量体単位を主体とする重合体ブロック(A)を1つしか含まないブロック共重合体と比較して効果的にネットワーク構造を形成できるため引張応力が向上する傾向にある。
【0032】
有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン等の脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、シクロへプタン、メチルシクロペンタン等の脂環式炭化水素類;ベンゼン、キシレン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素が挙げられる。
【0033】
重合開始剤である有機アルカリ金属化合物としては、有機リチウム化合物が好ましい。
有機リチウム化合物としては、有機モノリチウム化合物、有機ジリチウム化合物、有機ポリリチウム化合物が用いることができる。
有機リチウム化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、エチルリチウム、n-プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム、フェニルリチウム、ヘキサメチレンジリチウム、ブタジエニルリチウム、及びイソプロペニルジリチウム当が挙げられる。これらの中でも、重合活性の観点から、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウムが好ましい。
重合開始剤である有機アルカリ金属化合物の使用量は、目的とするブロック共重合体の分子量によるが、一般的には0.01~0.5phm(単量体100質量部当たりに対する質量部)の範囲であることが好ましく、0.03~0.3phmの範囲であることがより好ましく、0.05~0.15phmの範囲であることがさらに好ましい。
【0034】
本実施形態のブロック共重合体中の水添前のビニル結合量は、ルイス塩基、例えばエーテル、アミン等の化合物をビニル化剤として使用することにより制御できる。ビニル化剤の使用量は、目的とするビニル結合量によって調整する。
ビニル化剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、エーテル化合物、酸素原子を2個以上有するエーテル系化合物、及び第3級アミン系化合物等が挙げられる。
第3級アミン系化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ピリジン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、トリブチルアミン、テトラメチルプロパンジアミン、1,2-ジピペリジノエタン、ビス[2-(N,N-ジメチルアミノ)エチル]エーテル等が挙げられる。これらは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
第3級アミン化合物としては、アミンを2個有する化合物が好ましい。さらに、それらの中でも、分子内で対称性を示す構造を有するものがより好ましく、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンや、ビス[2-(N,N-ジメチルアミノ)エチル]エーテルや、1,2-ジピペリジノエタンが特に好ましい。
【0035】
本実施形態のブロック共重合体の製造工程においては、上述したビニル化剤、有機リチウム化合物、及びアルカリ金属アルコキシドの共存下で、重合を行ってもよい。ここで、アルカリ金属アルコキシドとは、一般式MOR(式中、Mはアルカリ金属、Rはアルキル基である)で表される化合物である。
アルカリ金属アルコキシドのアルカリ金属としては、高いビニル結合量、狭い分子量分布、高い重合速度、及び高いブロック率の観点から、ナトリウム又はカリウムであることが好ましい。
アルカリ金属アルコキシドとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、炭素数2~12のアルキル基を有するナトリウムアルコキシド、リチウムアルコキシド、カリウムアルコキシドが好ましく、より好ましくは、炭素数3~6のアルキル基を有するナトリウムアルコキシドやカリウムアルコキシドであり、さらに好ましくは、ナトリウム-t-ブトキシド、ナトリウム-t-ペントキシド、カリウム-t-ブトキシド、カリウム-t-ペントキシドである。
これらの中でも、ナトリウムアルコキシドであるナトリウム-t-ブトキシド、ナトリウム-t-ペントキシドがさらにより好ましい。
【0036】
本実施形態のブロック共重合体の製造工程において、ビニル化剤、有機リチウム化合物、及びアルカリ金属アルコキシドの共存下、重合を行う場合、ビニル化剤と有機リチウム化合物とのモル比(ビニル化剤/有機リチウム化合物)、及びアルカリ金属アルコキシドと有機リチウム化合物とのモル比(アルカリ金属アルコキシド/有機リチウム化合物)を、下記モル比として共存させることが好ましい。
(ビニル化剤/有機リチウム化合物)のモル比が0.2~3.0未満
(アルカリ金属アルコキシド/有機リチウム化合物)のモル比が0.3以下
【0037】
(ビニル化剤/有機リチウム化合物)のモル比は、共役ジエン単量体単位を主体とする重合体ブロック(B)の均一ランダム化、高いビニル結合量、高い重合速度の観点から、0.2以上とすることが好ましく、狭い分子量分布、かつ高い水素化活性を得る観点から3.0未満とすることが好ましい。
また、(アルカリ金属アルコキシド/有機リチウム化合物)のモル比は、0.3以下とすることが好ましい。これにより、重合速度の向上が図られ、目的とするブロック共重合体の重合体ブロック(B)を均一にランダム化することができ、ビニル結合量を高くでき、高い水素化活性が得られ、分子量分布を狭くできる傾向にある。
【0038】
重合工程における、(ビニル化剤/有機リチウム化合物)のモル比は、重合体ブロック(B)の均一ランダム化、高いビニル結合量及び高い重合速度の観点から、0.5以上がより好ましく、狭い分子量分布及び高い水素化活性の観点から、2.5以下がより好ましく、0.8以上2.0以下の範囲がさらに好ましい。
また、(アルカリ金属アルコキシド/有機リチウム化合物)のモル比は、狭い分子量分布や高い水素化活性の観点から、0.2以下がより好ましく、0.1以下がさらに好ましく、0.08以下がさらにより好ましい。
さらに、(アルカリ金属アルコキシド/ビニル化剤)のモル比は、狭い分子量分布を実現し、かつ高い水素化活性を得る観点から、0.1以下がより好ましく、0.08以下がさらに好ましく、0.06以下がさらにより好ましく、0.05以下がよりさらに好ましい。
【0039】
重合後に得られたブロック共重合体の、共役ジエン化合物に由来する不飽和二重結合の一部又は全てを水素添加する工程において、その水素添加方法は特に限定されるものではなく、水素添加触媒を用いた公知の技術を用いて行うことができる。
水素添加触媒としては、特に限定されず公知の触媒を用いることができ、例えば、Ni、Pt、Pd、Ru等の金属をカーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等に担持させた担持型不均一系水素添加触媒;Ni、Co、FE、Cr等の有機酸塩又はアセチルアセトン塩等の遷移金属塩と有機アルミニウム等の還元剤とを用いる、いわゆるチーグラー型水素添加触媒;Ti、Ru、Rh、Zr等の有機金属化合物等のいわゆる有機金属錯体等の均一系水素添加触媒が用いられる。
具体的には、特公昭42-8704号公報、特公昭43-6636号公報、特公昭63-4841号公報、特公平1-37970号公報、特公平1-53851号公報、特公平2-9041号公報に記載された水素添加触媒が使用できる。
これらの中でも、好適な水素添加触媒としては、チタノセン化合物、還元性有機金属化合物、あるいはこれらの混合物が挙げられる。
チタノセン化合物としては、特に限定されないが、例えば、特開平8-109219号公報に記載されている化合物が挙げられる。具体的には、ビスシクロペンタジエニルチタンジクロライド、モノペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリクロライド等の(置換)シクロペンタジエニル骨格、インデニル骨格、あるいはフルオレニル骨格を有する配位子を少なくとも1つ以上有する化合物が挙げられる。
還元性有機金属化合物としては、特に限定されないが、例えば、有機リチウム等の有機アルカリ金属化合物、有機マグネシウム化合物、有機アルミニウム化合物、有機ホウ素化合物、又は有機亜鉛化合物等が挙げられる。
水素添加反応温度は、好ましくは0~200℃であり、より好ましくは30~150℃である。
また、水素添加反応に使用される水素の圧力は、好ましくは0.1~15MPaであり、より好ましくは0.2~10MPaであり、さらに好ましくは0.3~5MPaである。
さらに、水素添加反応時間は、好ましくは3分~10時間であり、より好ましくは10分~5時間である。
水素添加反応は、バッチプロセス、連続プロセス、あるいはこれらの組み合わせのいずれであってもよい。
【0040】
水素添加反応を経て得られたブロック共重合体の溶液から必要に応じて触媒残査を除去し、溶液を分離することで、目的とするブロック共重合体を得ることができる。溶媒の分離方法としては、特に限定されないが、例えば、水素添加後の反応液にアセトン又はアルコール等の水素添加ブロック共重合体に対する貧溶媒となる極性溶媒を加えて重合体を沈澱させて回収する方法、水素添加後の反応液を撹拌下熱湯中に投入し、スチームストリッピングにより溶媒を除去して回収する方法、水素添加後の反応液を加熱して溶媒を留去する方法等が挙げられる。
【0041】
また、上述のようにして得られた水添共重合体をペレット化することにより、ブロック重合体のペレットを製造することができる。
ペレット化の方法としては、例えば、一軸又は二軸押出機から水添共重合体をストランド状に押出して、ダイ部前面に設置された回転刃により、水中で切断する方法;一軸又は二軸押出機から水添共重合体をストランド状に押出して、水冷又は空冷した後、ストランドカッターにより切断する方法;オープンロール、バンバリーミキサーにより溶融混合した後、ロールによりシート状に成形し、さらに当該シートを短冊状にカットし、その後、ペレタイザーにより立方状ペレットに切断する方法等が挙げられる。
なお、水添共重合体のペレット成形体の大きさ、形状は特に限定されない。
【0042】
本実施形態のブロック共重合体は、必要に応じてそのペレットに、ペレットブロッキングの防止を目的としてペレットブロッキング防止剤を配合することができる。
ペレットブロッキング防止剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンビスステアリルアミド、タルク、アモルファスシリカ等が挙げられる。
ペレットブロッキング防止剤の配合量としては、ブロック共重合体に対して500~10000ppmが好ましく、ブロック共重合体に対して1000~7000ppmがより好ましい。ペレットブロッキング防止剤は、ペレット表面に付着した状態で配合されていることが好ましいが、ペレット内部にある程度含んでいてもよい。
【実施例】
【0043】
以下、具体的な実施例と比較例を挙げて、本実施形態をさらに詳細に説明するが、本実施形態は、以下の実施例及び比較例により何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例及び比較例において、重合体の特性や物性の測定は、下記の方法により行った。
【0044】
〔測定方法、及び評価方法〕
((1)ブロック共重合体のビニル芳香族化合物単量体単位の含有量(以下、スチレン含有量とも表記する)、水添前の共役ジエン単量体単位のビニル結合量、共役ジエン単量体単位に基づく二重結合の水素添加率)
ブロック共重合体中のスチレン含有量、水添前の共役ジエン単量体単位のビニル結合量、共役ジエン単量体単位に基づく二重結合の水素添加率を、核磁気共鳴スペクトル解析(NMR)により、下記の条件で測定し、求めた。
測定機器:JNM-LA400(JEOL製)
溶媒:重水素化クロロホルム
測定サンプル:ポリマーを水素添加する前、又は水素添加後の抜き取り品
サンプル濃度:50mg/mL
観測周波数:400MHz
化学シフト基準:TMS(テトラメチルシラン)
パルスディレイ:2.904秒
スキャン回数:64回
パルス幅:45°
測定温度:26℃
【0045】
((2)重合体ブロック(A)中のビニル芳香族単量体単位の含有量がブロック共重合体全体に占める割合)
水添前の共重合体を用い、I.M.Kolthoff,etal.,J.Polym.Sci.1,429(1946)に記載の四酸化オスミウム酸法により分解、測定した。
なお、共重合体の分解には、オスミウム酸0.1g/125mL第3級ブタノール溶液を用いた。
【0046】
((3)重合体ブロック(B)中のビニル芳香族単量体単位の含有量が重合体ブロック(B)全体に占める割合)
下記式を用いて求めた。
(ブロック共重合体のビニル芳香族化合物単量体単位の含有量(%)-重合体ブロック(A)に含まれるビニル芳香族単量体単位の含有量がブロック共重合体全体に占める割合(%))÷(100-重合体ブロック(A)に含まれるビニル芳香族単量体単位の含有量がブロック共重合体全体に占める割合(%))
【0047】
((4)ブロック共重合体の重量平均分子量)
下記の条件で、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定し、得られたピークでのPS(ポリスチレン)換算検量線から分子量から、ブロック共重合体の重量平均分子量を求めた。
測定装置:GPC;ACQUITY APCシステム(日本ウォーターズ株式会社製)
システム(測定・解析)ソフト;Empower3
検出器;RI
屈折率単位フルスケール;500μRIU
出力フルスケール;2000mV
サンプリングレート;10ポイント数/sec
カラム;ACQUITY APC XT125(4.6mm×150mm);1本
ACQUITY APC XT200(4.6mm×150mm);1本
ACQUITY APC XT900(4.6mm×150mm);1本
ACQUITY APC XT450(4.6mm×150mm);1本
溶媒;THF
流量;1.0mL/分
濃度;0.1mg/mL
カラム温度;40℃
注入量;20μL
【0048】
((5)ブロック共重合体のMFR(メルトフローレート))
ISO 1133に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgの条件で、ブロック共重合体のMFRを測定した。
【0049】
((6)ブロック共重合体の硬度)
ISO 7619に準拠し、デュロメータタイプAで、ブロック共重合体の硬度を測定した。加圧板を試験片に接触させた後、10秒後に読取りを行った。
【0050】
((7)ブロック共重合体の引張応力(100%伸長時の応力))
ISO 37に準拠し、ダンベルType1Aを用い、引張速度500mm/minとし、100%伸長した時点の応力を測定した。
【0051】
((8)SEBSとの相溶性)
ブロック共重合体と旭化成株式会社製タフテックH1052とを、質量比でブロック共重合体:タフテックH1052=50:50で、トルエンに固形分濃度15%で溶解し十分混合したのち乾燥させ、エラストマー混合物を得た。
得られたエラストマー混合物を目視で確認し、透明であれば「〇」、濁りが見られたら「×」と判定した。
【0052】
〔水素添加触媒の調製〕
後述する実施例及び比較例において、水素添加されたブロック共重合体を作製する際に用いる水素添加触媒を、下記の方法により調製した。
攪拌装置を具備する反応容器を窒素置換しておき、これに、乾燥及び精製したシクロヘキサンを1L仕込んだ。
次に、ビス(η5-シクロペンタジエニル)チタニウムジクロリド100mmolを添加した。これを十分に攪拌しながら、トリメチルアルミニウム200mmolを含むN-ヘキサン溶液を添加して、室温にて約3日間反応させた。
これにより水素添加触媒が得られた。
【0053】
〔実施例1~9、参考例10〕、〔比較例1~4〕
(ブロック共重合体の調製)
<ブロック共重合体1>
内容積が100Lの攪拌装置及びジャケット付き槽型反応器を使用して、バッチ重合を以下の方法で行った。
まず、シクロヘキサン36Lを反応器に張り込み、温度55℃に調整した後、反応器に投入したブタジエンモノマー及びスチレンモノマーの総量(以下、全モノマーとする。)100質量部に対してn-ブチルリチウム(以下「Bu-Li」ともいう。)0.136質量部と、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(以下「TMEDA」ともいう。)をBu-Li1モルに対して0.8モル添加した。
第1ステップとして、スチレン12.0質量部を6分間かけて投入し、その後さらに15分間反応させた(重合反応により65℃に到達した)。この時点でポリマー溶液をサンプリングし、スチレンの重合転化率を測定したところ、100%であった。
次に第2ステップとして、スチレン13.0質量部とブタジエン64.0質量部とを含有するシクロヘキサン溶液(濃度40質量部)を60分間かけて一定速度で連続的に反応器に投入し、その後さらに10分間反応させた(重合反応により80℃に到達した)。この時点でポリマー溶液をサンプリングし、スチレン・ブタジエンの重合転化率を測定したところ、100%であった。
次に第3ステップとして、スチレン11質量部を含むシクロヘキサン溶液(濃度40質量部)を6分間かけて投入し、その後さらに10分間反応させた(重合反応により85℃に到達した)。この時点でポリマー溶液をサンプリングし、スチレンの重合転化率を測定したところ、100%であった。
次に第4ステップとして、メタノールをBu-Li1モルに対して0.9モル添加し、重合反応を終了させ、ブロック共重合体を得た。
次に、得られたブロック共重合体に、前記水添触媒を、ブロック共重合体100質量部当たりチタンとして100ppm添加し、水素圧0.9MPa、温度90℃で水添反応を行った。
その後、安定剤としてオクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを、ブロック共重合体100質量部に対して0.3質量部添加し、ブロック共重合体1を得た。
【0054】
<ブロック共重合体2>
第1ステップのスチレン量を10質量部、第2ステップのスチレン量を14質量部、ブタジエン量を67質量部、第3ステップのスチレン量を9質量部に変更した。その他の条件は、ブロック共重合体1と同様にして、ブロック共重合体2を得た。
【0055】
<ブロック共重合体3>
Bu-Li量を0.130質量部に変更した。その他の条件は、ブロック共重合体1と同様にして、ブロック共重合体3を得た。
【0056】
<ブロック共重合体4>
Bu-Li量を0.130質量部、第1ステップのスチレン量を16質量部、第2ステップのスチレン量を12質量部、ブタジエン量を58質量部、第3ステップのスチレン量を14質量部に変更した。その他の条件は、ブロック共重合体1と同様にして、ブロック共重合体4を得た。
【0057】
<ブロック共重合体5>
Bu-Li量を0.130質量部、第2ステップのスチレン量を20質量部、ブタジエン量を57質量部に変更した。その他の条件は、ブロック共重合体1と同様にして、ブロック共重合体5を得た。
【0058】
<ブロック共重合体6>
Bu-Li量を0.139質量部、第2ステップのスチレン量を10質量部、ブタジエン量を67質量部に変更した。その他の条件は、ブロック共重合体1と同様にして、ブロック共重合体6を得た。
【0059】
<ブロック共重合体7>
Bu-Li量を0.146質量部、第1ステップのスチレン量を9質量部、第2ステップのスチレン量を8質量部、ブタジエン量を74質量部、第3ステップのスチレン量を9質量部に変更した。その他の条件は、ブロック共重合体1と同様にして、ブロック共重合体7を得た。
【0060】
<ブロック共重合体8>
TMEDA量を0.45モルに変更した。その他の条件は、ブロック共重合体1と同様にして、ブロック共重合体8を得た。
【0061】
<ブロック共重合体9>
Bu-Li量を0.116質量部に変更した。その他の条件は、ブロック共重合体1と同様にして、ブロック共重合体9を得た。
【0062】
<ブロック共重合体10>
Bu-Li量を0.155質量部に変更した。その他の条件は、ブロック共重合体1と同様にして、ブロック共重合体10を得た。
【0063】
<ブロック共重合体11>
Bu-Li量を0.069質量部、TMEDA量を2.0モル、第1ステップのスチレン量を8質量部、第2ステップのスチレン量を18質量部、ブタジエン量を67質量部、第3ステップのスチレン量を7質量部に変更した。その他の条件は、ブロック共重合体1と同様にして、ブロック共重合体11を得た。
【0064】
<ブロック共重合体12>
Bu-Li量を0.139質量部、第1ステップのスチレン量を8質量部、第2ステップのスチレン量を18質量部、ブタジエン量を67質量部、第3ステップのスチレン量を7質量部に変更した。その他の条件は、ブロック共重合体1と同様にして、ブロック共重合体12を得た。
【0065】
<ブロック共重合体13>
Bu-Li量を0.088質量部、TMEDA量を1.0モルに変更した。その他の条件は、ブロック共重合体1と同様にして、ブロック共重合体13を得た。
【0066】
<ブロック共重合体14>
Bu-Li量を0.102質量部、TMEDA量を2.5モル、第1ステップのスチレン量を6質量部、第2ステップのブタジエン量を76質量部、第3ステップのスチレン量を5質量部に変更した。その他の条件は、ブロック共重合体1と同様にして、ブロック共重合体14を得た。
【0067】
以上のようにして得られたブロック共重合体1~14を上記方法により評価した。
各ブロック共重合体の物性と評価結果を、表1に示す。
【0068】
【0069】
本発明の実施例によれば、MFRの値が40以上であり加工性に優れ、また、100%伸長時の応力が1.2MPa以上であり、実用上優れた応力を有し、また、MFRの値と100%伸長時の応力を乗じた値が高く、実用上優れた性能バランスのブロック共重合体が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のブロック共重合体は、履物、プラスチック改質、アスファルト改質、粘接着材等の分野、衛生材料の分野、家庭用製品、家電・工業部品等の包装材料、玩具、自動車部品、医療器具等等の分野において、産業上の利用可能性がある。