(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】撮像装置
(51)【国際特許分類】
H04N 23/55 20230101AFI20240820BHJP
H04N 23/60 20230101ALI20240820BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20240820BHJP
G06T 1/00 20060101ALI20240820BHJP
H04N 23/955 20230101ALI20240820BHJP
【FI】
H04N23/55
H04N23/60 500
G02B5/30
G06T1/00 420C
G06T1/00 430F
G06T1/00 400H
H04N23/955
(21)【出願番号】P 2020139986
(22)【出願日】2020-08-21
【審査請求日】2023-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100180806
【氏名又は名称】三浦 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(72)【発明者】
【氏名】松本 健志
(72)【発明者】
【氏名】田辺 綾乃
【審査官】門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-98623(JP,A)
【文献】特開2016-36127(JP,A)
【文献】国際公開第2018/221025(WO,A1)
【文献】特開2018-61109(JP,A)
【文献】国際公開第2018/055831(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 23/55
H04N 23/60
G02B 5/30
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の方向に沿った透過軸を有し、対象物からの光が透過することで、当該光を前記所定の方向に沿った直線偏光に変換する偏光子と、
前記所定の方向に対して45°をなす遅相軸を有し、かつ光軸を中心とする同心円状の複数の輪帯を有するフレネルゾーン開口を構成し、前記偏光子から出射した前記直線偏光に付与するリタデーションが、前記複数の輪帯のうちの前記中心から放射方向に沿って互いに隣接する二つの輪帯間で所定量ずつ変化する複屈折素子と、
前記所定の方向と平行または直交する遅相軸を有し、前記複屈折素子から出射した光を、前記フレネルゾーン開口の前記複数の輪帯のうちの当該光が透過した輪帯のリタデーションに応じた方向の直線偏光に変換する1/4波長板と、
互いに隣接する所定数の画素を含む画素グループごとに、当該画素グループに含まれる各画素に透過軸の方向が等角度間隔となるように配置される画素偏光子が設けられ、前記1/4波長板を出射した光を受光して、各画素の値が、前記画素偏光子の透過軸の方向と前記フレネルゾーン開口の前記複数の輪帯のうちの当該画素に入射する光が透過した輪帯のリタデーションとの関係に応じた値となる画像を生成する偏光イメージセンサと、
前記画像から、同じ方向の透過軸を有する前記画素偏光子が設けられた画素の集合ごとに、当該集合に含まれる個々の画素の値を取り出すことで、前記対象物からの光による前記フレネルゾーン開口の形状に応じた濃淡のパターンを有し、かつ、前記濃淡のパターンの位相が互いに異なる複数のパターン画像を生成し、生成した前記複数のパターン画像に基づいて前記対象物の再生像を生成する演算部と、
を有する撮像装置。
【請求項2】
前記複屈折素子は、前記遅相軸の方向に沿って配向される液晶分子を含む液晶層と、前記光軸に沿って前記液晶層を挟んで互いに対向する第1の透明電極及び第2の透明電極を有し、前記第1の透明電極は、前記複数の輪帯のそれぞれに対応する同心円状に配置される輪帯状の複数の部分電極を有し、前記複数の部分電極と前記第2の透明電極との間に印加される電圧が調整されることで、前記複数の輪帯のうちの前記中心から放射方向に沿って互いに隣接する二つの輪帯間で所定量ずつ変化するリタデーションを前記直線偏光に付与する、請求項1に記載の撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレネルゾーン開口を用いた撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フレネルゾーン開口(Fresnel Zone Aperture, FZA)を利用した撮像装置が研究されている。このような撮像装置は、結像光学系を利用することなく対象物を撮影することができるので、薄型化することが可能である。このような撮像装置では、イメージセンサの撮像面の前面にFZAが配置される。FZAは、同心円状、かつ、中心からの距離に反比例するピッチを持つとともに、中心からの距離に応じた周期的な濃淡のパターンを有しており、対象物からの光は、FZAによりその強度が変調された濃淡のパターンの像となってイメージセンサにより撮像される。そしてイメージセンサにより得られた濃淡のパターンとFZAのパターンとを重ね合わせることで生成されるモアレ縞をフーリエ変換することで、対象物の再生像が得られる。
【0003】
このような撮像装置において、光軸に対して直交する面に、濃淡のパターンの位相が互いに異なる複数のFZAが配置される、いわゆる空間分割方式と呼ばれる技術が提案されている。この空間分割方式では、FZAごとに得られるモアレ縞を加算してフーリエ変換することで、モアレ縞のノイズがキャンセルされる(例えば、特許文献1または2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-61109号公報
【文献】国際公開第2018/055831号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の技術では、複数のFZAが光軸に直交する面に並べて配置されるため、対象物がイメージセンサに近付くにつれて、対象物からそれぞれのFZAへの方向の差が大きくなる。そのため、対象物とイメージセンサ間の距離があまりに近くなると、上記の技術による撮像装置は、対象物の再生像を得ることができなくなる。
【0006】
そこで、本発明は、結像光学系を用いずに対象物を接写することが可能な撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一つの側面によれば、撮像装置が提供される。この撮像装置は、所定の方向に沿った透過軸を有し、対象物からの光が透過することで、その光を所定の方向に沿った直線偏光に変換する偏光子と、所定の方向に対して45°をなす遅相軸を有し、かつ光軸を中心とする同心円状の複数の輪帯を有するフレネルゾーン開口を構成し、偏光子から出射した直線偏光に付与するリタデーションが、複数の輪帯のうちの中心から放射方向に沿って互いに隣接する二つの輪帯間で所定量ずつ変化する複屈折素子と、所定の方向と平行または直交する遅相軸を有し、複屈折素子から出射した光を、フレネルゾーン開口の複数の輪帯のうちのその光が透過した輪帯のリタデーションに応じた方向の直線偏光に変換する1/4波長板と、互いに隣接する所定数の画素を含む画素グループごとに、その画素グループに含まれる各画素に透過軸の方向が等角度間隔となるように配置される画素偏光子が設けられ、1/4波長板を出射した光を受光して、各画素の値が、画素偏光子の透過軸の方向とフレネルゾーン開口の複数の輪帯のうちのその画素に入射する光が透過した輪帯のリタデーションとの関係に応じた値となる画像を生成する偏光イメージセンサと、生成された画像から、同じ方向の透過軸を有する画素偏光子が設けられた画素の集合ごとに、その画素の集合に含まれる個々の画素の値を取り出すことで、対象物からの光によるフレネルゾーン開口の形状に応じた濃淡のパターンを有し、かつ、濃淡のパターンの位相が互いに異なる複数のパターン画像を生成し、生成した複数のパターン画像に基づいて対象物の再生像を生成する演算部とを有する。
【0008】
この撮像装置において、複屈折素子は、遅相軸の方向に沿って配向される液晶分子を含む液晶層と、光軸に沿って液晶層を挟んで互いに対向する第1の透明電極及び第2の透明電極を有し、第1の透明電極は、複数の輪帯のそれぞれに対応する同心円状に配置される輪帯状の複数の部分電極を有し、複数の部分電極と第2の透明電極との間に印加される電圧が調整されることで、複数の輪帯のうちの中心から放射方向に沿って互いに隣接する二つの輪帯間で所定量ずつ変化するリタデーションを直線偏光に付与することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る撮像装置は、結像光学系を用いずに対象物を接写することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一つの実施形態に係る撮像装置の概略構成図である。
【
図2】偏光子の透過軸、複屈折素子の遅相軸及び1/4波長板の遅相軸の関係を表す図である。
【
図3】複屈折素子の輪帯ごとのリタデーションと、複屈折素子から出射した光について、1/4波長板に入射する前と1/4波長板を透過した後の複屈折素子において透過した輪帯ごとの偏光状態との関係を示す図である。
【
図4】複屈折素子のFZAの輪帯及び偏光イメージセンサの各画素に設けられる画素偏光子を透過した、対象物からの光の強度の一例を示す図である。
【
図5】対象物からの光が透過したFZAの輪帯と、偏光イメージセンサの画素グループ内の画素ごとに得られる値の関係の一例を示す図である。
【
図6】変形例による、複屈折素子の概略側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図を参照しつつ、一つの実施形態による撮像装置について説明する。この撮像装置は、イメージセンサの撮像面の前面に、FZAを構成する複屈折素子を配置することで、結像光学系を利用せずに、撮像される対象物の再生像を得る。また、この撮像装置は、イメージセンサとして、偏光イメージセンサを利用する。偏光イメージセンサでは、画素ごとに、その画素の信号を生成する撮像素子の前面に偏光子が設けられる。そして、互いに隣接する所定数の画素を含む画素グループのそれぞれについて、その画素グループに含まれる、個々の画素の偏光子の透過軸の方向が互いに等角度間隔となるように、各偏光子は配置される。また、FZAを構成する複屈折素子では、FZAの中心からの放射方向に沿って、隣接する二つの輪帯間でリタデーションが所定量ずつ変化する。さらに、複屈折素子よりも対象物側に偏光子が配置されるとともに、複屈折素子と偏光イメージセンサとの間に1/4波長板が配置される。そして、偏光イメージセンサの同じ方向の透過軸が設けられた画素の集合ごとに、その集合に含まれる個々の画素の値を取り出すことで、対象物からの光による、FZAの形状に応じた濃淡のパターンを有し、かつ、濃淡のパターンの位相が互いに異なる複数のパターン画像が生成される。したがって、この撮像装置は、それら複数のパターン画像のそれぞれに表される濃淡のパターンとFZAの形状に応じた基準パターンとのモアレ縞に基づいて、モアレ縞のノイズがキャンセルされた対象物の再生像することができる。また、この撮像装置は、一つのFZAを用いて、濃淡のパターンの位相が互いに異なる複数のパターン画像を生成することができるので、対象物を接写することができる。
【0012】
図1は、本発明の一つの実施形態に係る撮像装置の概略構成図である。
図1に示されるように、撮像装置1は、例えば、対象物10側から順に、光軸OAに沿って、偏光子11と、複屈折素子12と、1/4波長板13と、偏光イメージセンサ14とを有する。偏光子11、複屈折素子12及び1/4波長板13は、互いに密着するように配置されてもよく、あるいは、互いに対して所定の間隔を空けて配置されてもよい。また、1/4波長板13と偏光イメージセンサ14とは、所定の間隔を空けて配置される。さらに、撮像装置1は、偏光イメージセンサ14により得られる画像に基づいて対象物10の像を再生するための演算装置15を有する。
【0013】
偏光子11は、所定の方向に沿った透過軸を有し、対象物10から発し、あるいは、光源(図示せず)からの光を対象物10が反射または散乱した光(以下、単に、対象物10から発した光と呼ぶ)のうち、透過軸の方向に沿った偏光面を持つ偏光成分のみを透過させる。すなわち、偏光子11は、対象物10から発して偏光子11を透過した光を、透過軸の方向に沿った偏光面を持つ直線偏光に変換する。そして偏光子11から出射した直線偏光は、複屈折素子12に入射する。
【0014】
複屈折素子12は、FZAを構成する。複屈折素子12は、例えば、ガラスあるいは光透過性を有する樹脂といった、対象物10からの光を透過する基板上に、FZAの輪帯ごとに、その輪帯に応じたリタデーション及び形状を有する複屈折性のフィルムを設けたものとして構成される。
【0015】
本実施形態では、複屈折素子12は、光軸OAと直交する面において、偏光子11の透過軸に対して45°傾いた遅相軸を有している。そして、FZAの中心を光軸OAが通るように複屈折素子12は配置される。また、FZAの中心から放射方向に沿って順に、隣接する二つの輪帯間で、透過した光に付与するリタデーション、すなわち、複屈折素子12を透過した常光線に対する異常光線の位相差が所定量ずつ変化し、かつ、FZAの中心からの放射方向における各輪帯のピッチがFZAの中心からの距離に対して反比例するように、複屈折素子12は構成される。輪帯間で変化するリタデーションの所定量は、例えば、π/2とすることができるが、これに限られない。輪帯間で変化するリタデーションの所定量がπ/2である場合、放射方向に沿って連続する4個の輪帯のそれぞれのリタデーションは、0、π/2、π、3π/2となる。したがって、偏光子11からの直線偏光は、放射方向に沿って連続する4個の輪帯のうちの透過した輪帯に応じて異なる偏光状態となる。
【0016】
複屈折素子12を透過し、輪帯ごとに異なる偏光状態となった光は、1/4波長板13に入射する。
【0017】
1/4波長板13は、偏光子11の透過軸と同じ方向の遅相軸を有し、複屈折素子12からの光を、透過した輪帯のリタデーションに応じた方向の直線偏光に変換する。
【0018】
図2は、偏光子11の透過軸、複屈折素子12の遅相軸及び1/4波長板13の遅相軸の関係を表す図である。また、
図3は、複屈折素子12の輪帯ごとのリタデーションと、複屈折素子12から出射した光について、1/4波長板13に入射する前と1/4波長板13を透過した後の複屈折素子12において透過した輪帯ごとの偏光状態との関係を示す図である。
【0019】
図2に示されるように、偏光子11の透過軸11aと1/4波長板13の遅相軸13aとは、互いに平行となるように偏光子11及び1/4波長板13は配置される。これに対して、複屈折素子12の遅相軸12aは、偏光子11の透過軸11a及び1/4波長板13の遅相軸13aに対して、対象物10側から見て右回りに45°傾けられている。
【0020】
また、
図3におけるテーブル300に示されるように、複屈折素子12が構成するFZAについて、中心側から放射方向に沿って順に4個の輪帯1~4のリタデーションがそれぞれ、0、π/2、π、3π/2であるとする。この場合、輪帯1を透過した光の偏光状態は、リタデーションが0であるので、1/4波長板13を透過するか否かにかかわらず、複屈折素子12に入射する前の偏光状態から変化せず、偏光子11の透過軸11aに沿った直線偏光となる。
【0021】
これに対して、輪帯2を透過した光の偏光状態は、リタデーションがπ/2、かつ、複屈折素子12の遅相軸12aが偏光子11の透過軸11aに対して右回りに45°傾いているので、右回りの円偏光となる。さらに、この光の偏光状態は、1/4波長板13を透過することで、複屈折素子12の遅相軸12aと平行な方向の直線偏光となる。
【0022】
また、輪帯3を透過した光の偏光状態は、リタデーションがπ、かつ、複屈折素子12の遅相軸12aが偏光子11の透過軸11aに対して45°傾いているので、複屈折素子12に入射する前の偏向方向、すなわち、偏光子11の透過軸11aの方向と直交する直線偏光となる。そのため、この光の偏光状態は、1/4波長板13を透過しても変化しない。
【0023】
さらに、輪帯4を透過した光の偏光状態は、リタデーションが3π/2、かつ、複屈折素子12の遅相軸12aが偏光子11の透過軸11aに対して右回りに45°傾いているので、左回りの円偏光となる。さらに、この光の偏光状態は、1/4波長板13を透過することで、複屈折素子12の遅相軸12aと直交する方向の直線偏光となる。
【0024】
このように、1/4波長板13を透過した光は、複屈折素子12において透過した輪帯のリタデーションに応じた方向の直線偏光となる。そして1/4波長板13を透過した光は、偏光イメージセンサ14により受光される。
【0025】
偏光イメージセンサ14は、対象物10から発して偏光子11、複屈折素子12及び1/4波長板13を透過した光を受光する。そして偏光イメージセンサ14は、各画素の値が、その画素に設けられる偏光子(以下、偏光子11と区別するために、画素偏光子と呼ぶ)の透過軸の方向と、FZAの各輪帯のうちのその画素に入射した光が透過した輪帯のリタデーションとの関係に応じた値となる画像を生成する。
【0026】
上述したように、偏光イメージセンサ14では、互いに隣接する所定数の画素を含む画素グループごとに、その画素グループに含まれる、個々の画素の信号を生成する撮像素子の前面に設けられる画素偏光子の透過軸の方向が互いに等角度間隔となるように、各画素偏光子が配置される。そのため、FZAの同じ輪帯を通過した光についても、画素ごとに、画素偏光子の透過軸の方向に応じてその画素偏光子を透過する光量が異なることになる。その結果として、偏光イメージセンサ14により生成される画像において、各画素の値は、画素偏光子の透過軸の方向とその画素に入射した光が透過したFZAの輪帯のリタデーションとの関係に応じた値となる。
【0027】
図4は、複屈折素子12のFZAの輪帯及び偏光イメージセンサ14の各画素に設けられる画素偏光子を透過した、対象物10からの光の強度の一例を示す図である。
図5は、対象物10からの光が透過したFZAの輪帯と、偏光イメージセンサ14の個々の画素グループ内の画素ごとに得られる画素値の関係の一例を示す図である。
図4及び
図5において、複屈折素子12のFZA(以下、単にFZAと呼ぶことがある)の輪帯1~4は、それぞれ、
図3に示される輪帯1~4と同一である。すなわち、輪帯1~4のリタデーションは、それぞれ、0、π/2、π、3π/2である。また、本実施形態では、偏光イメージセンサ14における、個々の画素グループ400は、縦方向及び横方向にそれぞれ2画素ずつ並んだ4個の画素401~404を有する。左上の画素401には、矢印401aで示されるように、光軸OAと直交する面において、偏光子11の透過軸と直交する方向に向けられた透過軸を有する画素偏光子が設けられる。また、右上の画素402には、矢印402aで示されるように、光軸OAと直交する面において、偏光子11の透過軸に対して左回りに45°回転した方向に向けられた透過軸を有する画素偏光子が設けられる。さらに、右下の画素403には、矢印403aで示されるように、光軸OAと直交する面において、偏光子11の透過軸に対して直交する方向に向けられた透過軸を有する画素偏光子が設けられる。そして左下の画素404には、矢印404aで示されるように、光軸OAと直交する面において、偏光子11の透過軸に対して右回りに45°回転した方向に向けられた透過軸を有する画素偏光子が設けられる。すなわち、この例では、画素グループに含まれる、個々の画素の信号を生成する撮像素子の前面に設けられる画素偏光子の透過軸の方向が45°間隔となるように、各画素偏光子が配置される。なお、偏光イメージセンサ14の個々の画素グループに含まれる画素の配置は上記の例に限られない。例えば、個々の画素グループに含まれる各画素は、所定の方向に沿って一列に配置されてもよい。また、個々の画素グループに含まれる画素の数も4個に限られず、例えば、6個または8個であってもよい。この場合、各画素に設けられる画素偏光子の透過軸の方向が、30°間隔または22.5°間隔となるように、各画素偏光子が配置されてもよい。
【0028】
図5のテーブル500に示されるように、FZAの輪帯1を透過した光の偏光方向は、偏光子11の透過軸に対して平行であるので、輪帯1を透過した光の偏光方向は、画素401に設けられる画素偏光子の透過軸と直交している。そのため、輪帯1を透過し、画素401に入射した光の強度は、輪帯1を透過し、画素グループ400内の他の画素に入射した光の強度よりも低くなる。これに対して、輪帯1を透過した光の偏光方向は、画素403に設けられる画素偏光子の透過軸と平行である。そのため、輪帯1を透過し、画素403に入射した光の強度は、輪帯1を透過し、画素グループ400内の他の画素に入射した光の強度よりも高くなる。また、輪帯1を透過した光の偏光方向は、画素402に設けられる画素偏光子の透過軸、及び、画素404に設けられる画素偏光子の透過軸と45°をなしている。そのため、輪帯1を透過し、画素402または画素404に入射した光の強度は、輪帯1を透過し、画素401に入射した光の強度よりも高く、かつ、画素403入射した光の強度よりも低くなる。
【0029】
FZAの他の輪帯を透過した光についても同様に、画素グループ400内の画素ごとに、その画素に設けられた画素偏光子の透過軸とFZAのその輪帯のリタデーションによる、1/4波長板13を透過した後の光の偏光方向との関係に応じて、光の強度が異なることになる。さらに、FZAの輪帯1~4のそれぞれについて、その輪帯及び1/4波長板13を透過した後の偏光方向は、45°ずつ回転している。そのため、同じ方向の透過軸を持つ画素偏光子が設けられた画素同士であっても、その画素に入射する光が透過した輪帯のリタデーションに応じて、その光の強度が異なることになる。そして偏光イメージセンサ14は、各画素について、受光した光の強度に応じた値を持つ画像を生成する。
【0030】
偏光イメージセンサ14は、生成した画像を演算装置15へ出力する。
【0031】
演算装置15は、演算部の一例であり、偏光イメージセンサ14から受け取った画像に基づいて、対象物10の再生像を生成する。そのために、演算装置15は、通信インターフェースと、メモリと、プロセッサとを有する。
【0032】
演算装置15は、通信インターフェースを介して、偏光イメージセンサ14と接続され、偏光イメージセンサ14から画像を受信する。さらに、演算装置15は、通信インターフェースを介して他の機器(図示せず)あるいは表示装置(図示せず)と接続されてもよい。そして演算装置15は、生成した対象物10の再生像を、通信インターフェースを介して他の機器へ出力し、あるいは、表示装置に表示させてもよい。
【0033】
メモリは、例えば、不揮発性あるいは揮発性の半導体メモリであり、偏光イメージセンサ14から受け取った画像から、対象物10の再生像を生成するために利用される各種のデータ、及び、対象物10の再生像を生成するための演算の途中で生成される各種のデータを記憶する。例えば、メモリは、対象物10からの光による濃淡のパターンとの間でモアレ縞を生成するために用いられる、FZAの形状に応じた濃淡の基準パターンなどを記憶する。また、メモリは、偏光イメージセンサ14から受け取った画像、あるいは、対象物10の再生像を記憶してもよい。
【0034】
プロセッサは、例えば、CPU及びその周辺回路である。また、プロセッサは、数値演算回路をさらに有していてもよい。そしてプロセッサは、偏光イメージセンサ14から受け取った画像から、対象物10の再生像を生成する。
【0035】
偏光イメージセンサ14に関して説明したように、偏光イメージセンサ14により生成される画像では、各画素の値が、画素偏光子の透過軸の方向とその画素に入射した光が透過したFZAの輪帯のリタデーションとの関係に応じた値となる。
【0036】
そこで、演算装置15のプロセッサは、偏光イメージセンサ14から受け取った画像から、同じ方向の透過軸を持つ画素偏光子が設けられた画素の集合ごとに、その集合に含まれる個々の画素の値を取り出したパターン画像を生成する。これにより、複数のパターン画像が得られる。上記のように、各画素グループに含まれる個々の画素の画素偏光子の透過軸の方向が互いに45°ずつ異なる場合、4通りのパターン画像が得られる。各パターン画像は、対象物10からの光によるFZAの形状に応じた濃淡のパターンを有し、かつ、その濃淡のパターンについて、中心から放射方向に沿った位相が互いに異なるものとなる。すなわち、上記の空間分割方式による、光軸と直交する面に配置された複数のFZAのそれぞれにより得られる濃淡のパターンと同様の複数の濃淡のパターンが得られる。ただし、本実施形態では、各パターン画像間で、対象物10から発してFZAの同じ位置を透過した光に相当する画素の位置が、高々1画素分しかずれていないので、対象物10と撮像装置1間の距離が近くても、対象物10から発し、所定の方向へ向かう光による強度は、各間引き画像の略同一の位置の画素で表される。
【0037】
したがって、プロセッサは、これら複数のパターン画像に対して、特開2018-61109号公報または国際公開第2018/055831号に記載された、空間分割方式による、複数のFZAの濃淡のパターンから対象物の再生像を得るための演算を実行することで、対象物10の再生像を生成することができる。すなわち、プロセッサは、各パターン画像に表された、互いに位相が異なる、対象物10からの光による複数のFZAの濃淡のパターンのそれぞれとFZAの基準パターンとのモアレ縞を加算してフーリエ変換することで、モアレ縞のノイズがキャンセルされた対象物10の再生像を生成することができる。
【0038】
演算装置15は、生成した対象物10の再生像を、通信インターフェースを介して他の機器へ出力し、あるいは、表示装置に表示させる。
【0039】
以上説明してきたように、この撮像装置は、イメージセンサとして、偏光イメージセンサを利用する。そのため、この撮像装置は、中心からの放射方向に沿って隣接する二つの輪帯間でリタデーションが所定量ずつ変化する一つのFZAに対して、偏光イメージセンサの同じ方向の透過軸を有する画素偏光子が設けられた画素の集合ごとに、その集合に含まれる個々の画素の値を取り出すことで、対象物からの光によるFZAの形状に応じた濃淡のパターンを有し、かつ、その濃淡のパターンの位相が互いに異なる複数のパターン画像を生成する。そしてこの撮像装置は、それら複数のパターン画像に基づいて、対象物の再生像を生成する。この撮像装置では、対象物と撮像装置との間の距離が近くても、対象物から発し、所定の方向へ向かう光は、各パターン画像間で略同一の位置の画素で表されるので、対象物と撮像装置との間の距離が近くても、対象物の再生像を生成することができる。そのため、この撮像装置は、対象物を接写することができる。また、この撮像装置は、一回の撮像により得られる画像から対象物の再生像を得ることができる。そのため、位相の異なる複数の濃淡のパターンを得るために複数回の撮影を必要とする、いわゆる時分割方式と異なり、この撮像装置は、対象物が時間的に変化する物体であっても対象物の再生像を生成することができる。
【0040】
変形例によれば、1/4波長板13の遅相軸が、光軸OAと直交する面において偏光子11の透過軸と直交するように1/4波長板13は配置されてもよい。この場合も上記の実施形態と同様に、1/4波長板13から出射する光の偏光方向は、その光が透過したFZAの輪帯のリタデーションに応じた方向となるので、偏光イメージセンサ14により生成される画像の各画素の値は、その画素の画素偏光子の透過軸の方向とその画素に入射する光が透過したFZAの輪帯のリタデーションに応じた値となる。したがって、上記の実施形態と同様に、偏光イメージセンサ14により生成された画像から、複数のパターン画像が得られるので、撮像装置は、対象物10の再生像を生成することができる。
【0041】
他の変形例によれば、複屈折素子12は、液晶光学素子として構成されてもよい。
【0042】
図6は、この変形例による、複屈折素子12の概略側面断面図である。複屈折素子12は、液晶層20と、光軸OAに沿って液晶層20を挟んで対向し、かつ、略平行に配置された透明基板21、22を有する。また複屈折素子12は、透明基板21と液晶層20の間に配置された透明電極23と、液晶層20と透明基板22の間に配置された透明電極24とを有する。そして液晶層20の液晶分子25は、透明基板21及び22に挟まれ、シール部材26に囲まれる部分に封入され、かつ、長軸方向が偏光子11の透過軸に対して45°傾くようにホモジニアス配向される。
【0043】
透明基板21、22は、例えば、ガラスまたは樹脂など、対象物10からの光に対して透明な材料により形成される。また透明電極23、24は、例えば、ITOと呼ばれる、酸化インジウムに酸化スズを添加した材料により形成される。
【0044】
透明電極23及び透明電極24の一方(第2の透明電極)は、対象物10から発し、偏光子11を透過して複屈折素子12に入射する直線偏光が透過する領域全体を覆うように設けられる。透明電極23及び透明電極24の他方(第1の透明電極)は、光軸OAを中心とする同心円状に配置され、かつ、輪帯状の複数の部分電極を有する。輪帯状の複数の部分電極のそれぞれは、複屈折素子12が構成するFZAの個々の輪帯に対応する。すなわち、光軸OAからの放射方向に沿った各部分電極の幅がFZAの対応する輪帯の幅と等しくなるように、各部分電極は形成される。また、各部分電極は、互いに絶縁される。そして演算装置15は、部分電極ごとに、その部分電極と対向する透明電極との間に、液晶層20によるリタデーションがFZAの対応する輪帯のリタデーションとなるような電圧を印加する。これにより、複屈折素子12は、上記の実施形態と同様のFZAを構成することができる。なお、複屈折素子12の液晶層20に電圧を印加する駆動装置(図示せず)は、演算装置15と別個に設けられてもよい。
【0045】
この変形例によれば、演算装置15または駆動装置は、対象物10自体または対象物10を照明する光源の波長に応じて、液晶層20に印加する電圧を調整することで、FZAの各輪帯のリタデーションを適切に設定することができる。その結果として、この撮像装置1は、対象物10自体または対象物10を照明する光源の波長に応じて、対象物10の着目する特徴の識別が容易な再生像を生成することができる。例えば、撮像装置1は、指、手または手首の静脈パターンまたは指紋・掌紋といった生体情報に基づく生体認証装置における、生体情報の撮影に用いられてもよい。この場合、対象物10として、指、手または手首の指紋または掌紋が撮影される場合には、対象物10は白色光で照明される。したがって、演算装置15または駆動装置は、白色光に含まれる何れかの波長に対して、FZAの互いに隣接する二つの輪帯間のリタデーションが所定量だけずれるように、液晶層20に印加する電圧を調整すればよい。一方、対象物10として、指、手または手首の静脈パターンが撮影される場合には、対象物10は近赤外光で照明される。したがって、演算装置15または駆動装置は、近赤外光に含まれる何れかの波長に対して、FZAの互いに隣接する二つの輪帯間のリタデーションが所定量だけずれるように、液晶層20に印加する電圧を調整すればよい。このように、液晶層20に印加する電圧が調整されることで、撮像装置1は、一人のユーザの同一部位について、指紋または掌紋と、静脈パターンのそれぞれの再生像を生成することができるので、生体認証装置は、指紋または掌紋と、静脈パターンのそれぞれを利用した生体認証を行うことができる。
【0046】
上記の実施形態または変形例による撮像装置は、生体認証装置への応用に限られず、撮像装置の薄型化が要求される様々な装置、例えば、スマートフォン、あるいは、IoT用のセンサ機器などに好適に利用される。特に、この撮像装置は、対象物を接写することが要求される装置に好適に利用される。
【0047】
以上のように、当業者は、本発明の範囲内で、実施される形態に合わせて様々な変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0048】
1 撮像装置
10 対象物
11 偏光子
12 複屈折素子
13 1/4波長板
14 偏光イメージセンサ
15 演算装置
20 液晶層
21、22 透明基板
23、24 透明電極
25 液晶分子
26 シール部材