(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】モータの制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 25/22 20060101AFI20240820BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20240820BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240820BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20240820BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20240820BHJP
【FI】
H02P25/22
B62D6/00
B62D5/04
B62D113:00
B62D119:00
(21)【出願番号】P 2020150052
(22)【出願日】2020-09-07
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】新田 真吾
(72)【発明者】
【氏名】都甲 高広
(72)【発明者】
【氏名】小城 隆博
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 久哉
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-028142(JP,A)
【文献】国際公開第2018/147402(WO,A1)
【文献】特開2018-047875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/22
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 113/00
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の転舵輪を転舵させるためのモータであって互いに絶縁された第1のコイルおよび第2のコイルを備えるモータの制御装置であって、
第1のセンサを通じて検出される前記転舵輪の転舵角に換算可能な角度を外部回路によって演算される目標角度にフィードバック制御すべく前記モータに発生させるトルクに応じた第1の操作量を算出し、前記第1の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第1のコイルに対する給電を制御する第1の回路と、
第2のセンサを通じて検出される前記角度を前記目標角度にフィードバック制御すべく前記モータに発生させるトルクに応じた第2の操作量を算出するとともに、前記第1の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第2のコイルに対する給電を制御する第1の処理と前記第2の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第2のコイルに対する給電を制御する第2の処理とを選択的に実行可能であって、前記第1の回路が失陥したときには前記第1の処理から前記第2の処理へ切り替える第2の回路と、を備え、
前記外部回路は、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方が失陥したとき、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか他方により演算される操作量を制御系統数に応じて増大させる処理を実行するための指令を生成
し、
前記外部回路は、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方との間の通信途絶、ならびに前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか他方との間の通信を介して前記第1の回路と前記第2の回路との間の相互通信の異常が認められるとき、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方が失陥しているとして前記指令を生成するモータの制御装置。
【請求項2】
車両の転舵輪を転舵させるためのモータであって互いに絶縁された第1のコイルおよび第2のコイルを備えるモータの制御装置であって、
第1のセンサを通じて検出される前記転舵輪の転舵角に換算可能な角度を外部回路によって演算される目標角度にフィードバック制御すべく前記モータに発生させるトルクに応じた第1の操作量を算出し、前記第1の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第1のコイルに対する給電を制御する第1の回路と、
第2のセンサを通じて検出される前記角度を前記目標角度にフィードバック制御すべく前記モータに発生させるトルクに応じた第2の操作量を算出するとともに、前記第1の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第2のコイルに対する給電を制御する第1の処理と前記第2の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第2のコイルに対する給電を制御する第2の処理とを選択的に実行可能であって、前記第1の回路が失陥したときには前記第1の処理から前記第2の処理へ切り替える第2の回路と、
少なくとも前記第1の回路および前記第2の回路の電源電圧の異常状態が設定時間だけ継続するかどうかを監視する監視回路と、を備え、
前記外部回路は、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方が失陥したとき、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか他方により演算される操作量を制御系統数に応じて増大させる処理を実行するための指令を生成
し、
前記第1の回路および前記第2の回路は、前記監視回路の監視結果に基づき前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方が失陥した旨認識されるとき、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか他方の操作量を制御系統数に応じて増大させるモータの制御装置。
【請求項3】
前記監視回路は、前記第1の回路と前記第2の回路との間の相互通信についても監視し、
前記第1の回路および前記第2の回路は、前記指令が生成される場合であれ、前記監視結果に基づき前記第1の回路と前記第2の回路との間の相互通信が正常である旨認識されるときには、前記指令を採用しない請求項
2に記載のモータの制御装置。
【請求項4】
車両の転舵輪を転舵させるためのモータであって互いに絶縁された第1のコイルおよび第2のコイルを備えるモータの制御装置であって、
第1のセンサを通じて検出される前記転舵輪の転舵角に換算可能な角度を外部回路によって演算される目標角度にフィードバック制御すべく前記モータに発生させるトルクに応じた第1の操作量を算出し、前記第1の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第1のコイルに対する給電を制御する第1の回路と、
第2のセンサを通じて検出される前記角度を前記目標角度にフィードバック制御すべく前記モータに発生させるトルクに応じた第2の操作量を算出するとともに、前記第1の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第2のコイルに対する給電を制御する第1の処理と前記第2の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第2のコイルに対する給電を制御する第2の処理とを選択的に実行可能であって、前記第1の回路が失陥したときには前記第1の処理から前記第2の処理へ切り替える第2の回路と、を備え、
前記外部回路は、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方が失陥したとき、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか他方により演算される操作量を制御系統数に応じて増大させる処理を実行するための指令を生成
し、
前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方が前記指令に従い自己の操作量を制御系統数に応じて増大させているとき、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか他方は自己の操作量を減少させる処理を実行するモータの制御装置。
【請求項5】
車両の転舵輪を転舵させるためのモータであって互いに絶縁された第1のコイルおよび第2のコイルを備えるモータの制御装置であって、
第1のセンサを通じて検出される前記転舵輪の転舵角に換算可能な角度を外部回路によって演算される目標角度にフィードバック制御すべく前記モータに発生させるトルクに応じた第1の操作量を算出し、前記第1の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第1のコイルに対する給電を制御する第1の回路と、
第2のセンサを通じて検出される前記角度を前記目標角度にフィードバック制御すべく前記モータに発生させるトルクに応じた第2の操作量を算出するとともに、前記第1の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第2のコイルに対する給電を制御する第1の処理と前記第2の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第2のコイルに対する給電を制御する第2の処理とを選択的に実行可能であって、前記第1の回路が失陥したときには前記第1の処理から前記第2の処理へ切り替える第2の回路と、を備え、
前記外部回路は、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方が失陥したとき、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか他方により演算される操作量を制御系統数に応じて増大させる処理を実行するための指令を生成
し、
前記第1の回路または前記第2の回路は、前記指令に従った処理を実行開始した後、前記外部回路からの前記指令が途絶えたときであれ、自己の操作量を制御系統数に応じて増大させた状態を維持するモータの制御装置。
【請求項6】
車両の転舵輪を転舵させるためのモータであって互いに絶縁された第1のコイルおよび第2のコイルを備えるモータの制御装置であって、
第1のセンサを通じて検出される前記転舵輪の転舵角に換算可能な角度を外部回路によって演算される目標角度にフィードバック制御すべく前記モータに発生させるトルクに応じた第1の操作量を算出し、前記第1の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第1のコイルに対する給電を制御する第1の回路と、
第2のセンサを通じて検出される前記角度を前記目標角度にフィードバック制御すべく前記モータに発生させるトルクに応じた第2の操作量を算出するとともに、前記第1の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第2のコイルに対する給電を制御する第1の処理と前記第2の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第2のコイルに対する給電を制御する第2の処理とを選択的に実行可能であって、前記第1の回路が失陥したときには前記第1の処理から前記第2の処理へ切り替える第2の回路と、を備え、
前記外部回路は、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方が失陥したとき、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか他方により演算される操作量を制御系統数に応じて増大させる処理を実行するための指令を生成
し、
前記第1の回路は、操舵状態に応じて前記モータに操舵アシスト力を発生させるための第1のアシスト量を算出するとともに前記第1のアシスト量を前記第1の操作量に加算する処理、および前記角度を前記目標角度にフィードバック制御するための前記第1の操作量を打ち消すための第1のアシスト補正量を操舵状態に応じて算出するとともに前記第1のアシスト補正量を前記第1の操作量に加算する処理を実行し、
前記第2の回路は、操舵状態に応じて前記モータに操舵アシスト力を発生させるための第2のアシスト量を算出するとともに前記第2のアシスト量を前記第2の操作量に加算する処理、および前記角度を前記目標角度にフィードバック制御するための前記第2の操作量を打ち消すための第2のアシスト補正量を操舵状態に応じて算出するとともに前記第2のアシスト補正量を前記第2の操作量に加算する処理を実行するモータの制御装置。
【請求項7】
前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方が前記指令に従った制御を実行するとき、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか他方は、自己が演算するアシスト補正量を制御系統数に応じて増大させる請求項
6に記載のモータの制御装置。
【請求項8】
車両の転舵輪を転舵させるためのモータであって互いに絶縁された第1のコイルおよび第2のコイルを備えるモータの制御装置であって、
第1のセンサを通じて検出される前記転舵輪の転舵角に換算可能な角度を外部回路によって演算される目標角度にフィードバック制御すべく前記モータに発生させるトルクに応じた第1の操作量を算出し、前記第1の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第1のコイルに対する給電を制御する第1の回路と、
第2のセンサを通じて検出される前記角度を前記目標角度にフィードバック制御すべく前記モータに発生させるトルクに応じた第2の操作量を算出し、前記第2の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第2のコイルに対する給電を制御する第2の回路と、を備え、
前記外部回路は、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方が失陥したとき、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか他方により演算される操作量を制御系統数に応じて増大させる処理を実行するための指令を生成
し、
前記外部回路は、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方との間の通信途絶、ならびに前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか他方との間の通信を介して前記第1の回路と前記第2の回路との間の相互通信の異常が認められるとき、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方が失陥しているとして前記指令を生成するモータの制御装置。
【請求項9】
車両の転舵輪を転舵させるためのモータであって互いに絶縁された第1のコイルおよび第2のコイルを備えるモータの制御装置であって、
第1のセンサを通じて検出される前記転舵輪の転舵角に換算可能な角度を外部回路によって演算される目標角度にフィードバック制御すべく前記モータに発生させるトルクに応じた第1の操作量を算出し、前記第1の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第1のコイルに対する給電を制御する第1の回路と、
第2のセンサを通じて検出される前記角度を前記目標角度にフィードバック制御すべく前記モータに発生させるトルクに応じた第2の操作量を算出し、前記第2の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第2のコイルに対する給電を制御する第2の回路と、
少なくとも前記第1の回路および前記第2の回路の電源電圧の異常状態が設定時間だけ継続するかどうかを監視する監視回路と、を備え、
前記外部回路は、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方が失陥したとき、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか他方により演算される操作量を制御系統数に応じて増大させる処理を実行するための指令を生成
し、
前記第1の回路および前記第2の回路は、前記監視回路の監視結果に基づき前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方が失陥した旨認識されるとき、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか他方の操作量を制御系統数に応じて増大させるモータの制御装置。
【請求項10】
前記監視回路は、前記第1の回路と前記第2の回路との間の相互通信についても監視し、
前記第1の回路および前記第2の回路は、前記指令が生成される場合であれ、前記監視結果に基づき前記第1の回路と前記第2の回路との間の相互通信が正常である旨認識されるときには、前記指令を採用しない請求項
9に記載のモータの制御装置。
【請求項11】
車両の転舵輪を転舵させるためのモータであって互いに絶縁された第1のコイルおよび第2のコイルを備えるモータの制御装置であって、
第1のセンサを通じて検出される前記転舵輪の転舵角に換算可能な角度を外部回路によって演算される目標角度にフィードバック制御すべく前記モータに発生させるトルクに応じた第1の操作量を算出し、前記第1の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第1のコイルに対する給電を制御する第1の回路と、
第2のセンサを通じて検出される前記角度を前記目標角度にフィードバック制御すべく前記モータに発生させるトルクに応じた第2の操作量を算出し、前記第2の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第2のコイルに対する給電を制御する第2の回路と、を備え、
前記外部回路は、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方が失陥したとき、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか他方により演算される操作量を制御系統数に応じて増大させる処理を実行するための指令を生成
し、
前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方が前記指令に従い自己の操作量を制御系統数に応じて増大させているとき、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか他方は自己の操作量を減少させる処理を実行するモータの制御装置。
【請求項12】
車両の転舵輪を転舵させるためのモータであって互いに絶縁された第1のコイルおよび第2のコイルを備えるモータの制御装置であって、
第1のセンサを通じて検出される前記転舵輪の転舵角に換算可能な角度を外部回路によって演算される目標角度にフィードバック制御すべく前記モータに発生させるトルクに応じた第1の操作量を算出し、前記第1の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第1のコイルに対する給電を制御する第1の回路と、
第2のセンサを通じて検出される前記角度を前記目標角度にフィードバック制御すべく前記モータに発生させるトルクに応じた第2の操作量を算出し、前記第2の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第2のコイルに対する給電を制御する第2の回路と、を備え、
前記外部回路は、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方が失陥したとき、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか他方により演算される操作量を制御系統数に応じて増大させる処理を実行するための指令を生成
し、
前記第1の回路または前記第2の回路は、前記指令に従った処理を実行開始した後、前記外部回路からの前記指令が途絶えたときであれ、自己の操作量を制御系統数に応じて増大させた状態を維持するモータの制御装置。
【請求項13】
車両の転舵輪を転舵させるためのモータであって互いに絶縁された第1のコイルおよび第2のコイルを備えるモータの制御装置であって、
第1のセンサを通じて検出される前記転舵輪の転舵角に換算可能な角度を外部回路によって演算される目標角度にフィードバック制御すべく前記モータに発生させるトルクに応じた第1の操作量を算出し、前記第1の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第1のコイルに対する給電を制御する第1の回路と、
第2のセンサを通じて検出される前記角度を前記目標角度にフィードバック制御すべく前記モータに発生させるトルクに応じた第2の操作量を算出し、前記第2の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第2のコイルに対する給電を制御する第2の回路と、を備え、
前記外部回路は、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方が失陥したとき、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか他方により演算される操作量を制御系統数に応じて増大させる処理を実行するための指令を生成
し、
前記第1の回路は、操舵状態に応じて前記モータに操舵アシスト力を発生させるための第1のアシスト量を算出するとともに前記第1のアシスト量を前記第1の操作量に加算する処理、および前記角度を前記目標角度にフィードバック制御するための前記第1の操作量を打ち消すための第1のアシスト補正量を操舵状態に応じて算出するとともに前記第1のアシスト補正量を前記第1の操作量に加算する処理を実行し、
前記第2の回路は、操舵状態に応じて前記モータに操舵アシスト力を発生させるための第2のアシスト量を算出するとともに前記第2のアシスト量を前記第2の操作量に加算する処理、および前記角度を前記目標角度にフィードバック制御するための前記第2の操作量を打ち消すための第2のアシスト補正量を操舵状態に応じて算出するとともに前記第2のアシスト補正量を前記第2の操作量に加算する処理を実行するモータの制御装置。
【請求項14】
前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方が前記指令に従った制御を実行するとき、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか他方は、自己が演算するアシスト補正量を制御系統数に応じて増大させる請求項
13に記載のモータの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転舵輪を転舵させるためのモータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の操舵機構に付与されるアシストトルクの発生源であるモータを制御する制御装置が知られている。たとえば特許文献1の制御装置は、互いに独立した2系統の巻線を有するモータへの給電を制御する。制御装置は、2系統の巻線にそれぞれ対応する2組の駆動回路およびMPU(Micro Processing Unit)を有している。各系統のMPUは、自己系統の駆動回路の制御を通じて自己系統の巻線に対する給電を独立して制御する。
【0003】
各系統のMPUは、自己系統のセンサの検出結果に基づき自己系統のコイルに対する電流指令値を演算する。各系統のセンサが正常である場合、一方系統のMPUにより演算される電流指令値が各系統のMPUの間で共用される。一方系統のセンサに異常が発生した場合、他方系統のMPUにより演算される電流指令値が各系統のMPUの間で共用される(
図9,
図10)。これにより、異常系統の巻線に対する給電を継続することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のモータの制御装置によれば、一方系統に属するセンサの異常には対応することができる。しかし、たとえば一方系統のMPUによる給電制御の実行が困難となる状況が発生した場合、他方系統の巻線にのみ給電が行われる。このため、一方系統が失陥した場合、モータとして要求されるアシストトルクが得られないおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、複数系統における一部系統の失陥に対してより適切に対応することができるモータの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成し得るモータの制御装置は、車両の転舵輪を転舵させるためのモータであって互いに絶縁された第1のコイルおよび第2のコイルを備えるモータの制御装置である。この制御装置は、第1の回路と第2の回路とを備えている。前記第1の回路は、第1のセンサを通じて検出される前記転舵輪の転舵角に換算可能な角度を外部回路によって演算される目標角度にフィードバック制御すべく前記モータに発生させるトルクに応じた第1の操作量を算出する。また、前記第1の回路は、前記第1の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第1のコイルに対する給電を制御する。前記第2の回路は、第2のセンサを通じて検出される前記角度を前記目標角度にフィードバック制御すべく前記モータに発生させるトルクに応じた第2の操作量を算出する。また、第2の回路は、前記第1の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第2のコイルに対する給電を制御する第1の処理と前記第2の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第2のコイルに対する給電を制御する第2の処理とを選択的に実行可能であって、前記第1の回路が失陥したときには前記第1の処理から前記第2の処理へ切り替える。前記外部回路は、前記第1の回路および前記第2の回路のいずれか一方が失陥したとき、前記第1の回路および前記第2の回路のいずれか他方により演算される操作量を制御系統数に応じて増大させる処理を実行するための指令を生成する。
【0008】
この構成によれば、第1の回路および第2の回路のうちいずれか一方が失陥したとき、外部回路からの指令に従い第1の回路および第2の回路のうちいずれか他方により演算される操作量が制御系統数に応じて増大される。このため、第1の回路および第2の回路のうちいずれか一方が失陥したときであれ、モータが発生するトータルとしてのトルクが確保される。
【0009】
上記目的を達成し得るモータの制御装置は、車両の転舵輪を転舵させるためのモータであって互いに絶縁された第1のコイルおよび第2のコイルを備えるモータの制御装置である。この制御装置は、第1の回路と第2の回路とを備えている。前記第1の回路は、第1のセンサを通じて検出される前記転舵輪の転舵角に換算可能な角度を外部回路によって演算される目標角度にフィードバック制御すべく前記モータに発生させるトルクに応じた第1の操作量を算出する。また、前記第1の回路は、前記第1の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第1のコイルに対する給電を制御する。前記第2の回路は、第2のセンサを通じて検出される前記角度を前記目標角度にフィードバック制御すべく前記モータに発生させるトルクに応じた第2の操作量を算出する。また、第2の回路は、前記第2の操作量を制御系統数に応じて按分した値に基づき前記第2のコイルに対する給電を制御する。前記外部回路は、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方が失陥したとき、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか他方により演算される操作量を制御系統数に応じて増大させる処理を実行するための指令を生成する。
【0010】
この構成によれば、第1の回路および第2の回路のうちいずれか一方が失陥したとき、外部回路からの指令に従い第1の回路および第2の回路のうちいずれか他方により演算される操作量が制御系統数に応じて増大される。このため、第1の回路および第2の回路のうちいずれか一方が失陥したときであれ、モータが発生するトータルとしてのトルクが確保される。
【0011】
上記のモータの制御装置において、前記外部回路は、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方との間の通信途絶、ならびに前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか他方との間の通信を介して前記第1の回路と前記第2の回路との間の相互通信の異常が認められるとき、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方が失陥しているとして前記指令を生成するようにしてもよい。
【0012】
この構成によれば、外部回路は、第1の回路との間の通信および第2の回路との間の通信を通じて第1の回路および第2の回路のいずれか一方の失陥をより迅速に認識することが可能である。
【0013】
上記のモータの制御装置において、少なくとも前記第1の回路および前記第2の回路の電源電圧の異常状態が設定時間だけ継続するかどうかを監視する監視回路を有していてもよい。この場合、前記第1の回路および前記第2の回路は、前記監視回路の監視結果に基づき前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方が失陥した旨認識されるとき、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか他方の操作量を制御系統数に応じて増大させるようにしてもよい。
【0014】
この構成によれば、少なくとも第1の回路および第2の回路の電源電圧の監視結果に基づき、第1の回路および第2の回路のうちいずれか一方が失陥したことが認められるとき、第1の回路および第2の回路のうちいずれか他方の操作量が制御系統数に応じて増大される。このため、第1の回路および第2の回路のうちいずれか一方が失陥したときであれ、モータが発生するトータルとしてのトルクが確保される。
【0015】
ただし、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方の電源電圧が異常状態に至ってから設定時間だけ経過するまでの間、第1の回路および第2の回路のうちいずれか他方の操作量は増大されない。このため、モータに要求されるトータルとしてのトルクが確保できないおそれがある。したがって、前述した第1の回路および第2の回路の電源電圧を監視する構成を採用する場合、外部回路が第1の回路および第2の回路との間の通信を通じて第1の回路および第2の回路のいずれか一方の失陥を認識する先の構成を併せ持つことが好ましい。通信の異常は即時に検出することが可能であるため、第1の回路および第2の回路のうちいずれか一方が失陥したとき、第1の回路および第2の回路のうちいずれか他方の操作量が即時に増大される。
【0016】
上記のモータの制御装置において、前記監視回路は、前記第1の回路と前記第2の回路との間の相互通信についても監視するようにしてもよい。このとき、前記第1の回路および前記第2の回路は、前記指令が生成される場合であれ、前記監視結果に基づき前記第1の回路と前記第2の回路との間の相互通信が正常である旨認識されるときには、前記指令を採用しないようにしてもよい。
【0017】
外部装置により指令が誤って生成されることが考えられる。第1の回路と第2の回路との間の相互通信が正常に行われているときには、第1の回路および第2の回路は正常に動作しているといえる。したがって、上記の制御装置によるように、外部回路によって指令が生成される場合であれ、第1の回路と第2の回路との間の相互通信が正常であるときには外部回路からの指令を採用しないことが好ましい。このようにすれば、第1の回路および第2の回路が正常に動作しているにもかかわらず、外部回路の誤判定に起因して第1の回路および第2の回路のうちいずれか一方により演算される操作量が制御系統数に応じて増大されることが抑制される。このため、指令の誤出力に起因するモータの過大出力を抑制することができる。
【0018】
上記のモータの制御装置において、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方が前記指令に従い自己の操作量を制御系統数に応じて増大させているとき、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか他方は自己の操作量を減少させる処理を実行するようにしてもよい。
【0019】
外部装置により指令が誤って生成されることが考えられる。この場合、第1の回路および第2の回路が正常に動作しているにもかかわらず、外部回路の誤判定に起因して第1の回路および第2の回路のうちいずれか一方により演算される操作量が制御系統数に応じて増大されるおそれがある。この点、上記の構成によれば、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方が前記指令に従い自己の操作量を制御系統数に応じて増大させるとき、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか他方の操作量が減少される。このため、指令の誤出力に起因するモータの過大出力を抑制することができる。
【0020】
上記のモータの制御装置において、前記第1の回路または前記第2の回路は、前記指令に従った処理を実行開始した後、前記外部回路からの前記指令が途絶えたときであれ、自己の操作量を制御系統数に応じて増大させた状態を維持するようにしてもよい。
【0021】
たとえば外部回路と第1の回路との間の通信、外部回路と第2の回路との間の通信、あるいは第1の回路と第2の回路との間の相互通信が不安定になることが考えられる。この場合、第1の回路あるいは第2の回路に対して外部回路からの指令が与えられる状況と与えられない状況とが頻繁に切り替わるおそれがある。この点、上記の構成によれば、外部回路による指令が途絶えたときであれ、第1の回路あるいは第2の回路は自己の操作量を制御系統数に応じて増大させた状態を維持する。このため、第1の回路または第2の回路の動作状態が指令に従った処理を実行する状態と実行しない状態との間で頻繁に切り替わることが抑制される。
【0022】
上記のモータの制御装置において、前記第1の回路は、操舵状態に応じて前記モータに操舵アシスト力を発生させるための第1のアシスト量を算出するとともに前記第1のアシスト量を前記第1の操作量に加算する処理を実行するようにしてもよい。この場合、前記第1の回路は前記角度を前記目標角度にフィードバック制御するための前記第1の操作量を打ち消すための第1のアシスト補正量を操舵状態に応じて算出するとともに前記第1のアシスト補正量を前記第1の操作量に加算する処理を実行することが好ましい。また、前記第2の回路は、操舵状態に応じて前記モータに操舵アシスト力を発生させるための第2のアシスト量を算出するとともに前記第2のアシスト量を前記第2の操作量に加算する処理を実行するようにしてもよい。この場合、前記第2の回路は前記角度を前記目標角度にフィードバック制御するための前記第2の操作量を打ち消すための第2のアシスト補正量を操舵状態に応じて算出するとともに前記第2のアシスト補正量を前記第2の操作量に加算する処理を実行することが好ましい。
【0023】
この構成によれば、前記第1の回路および前記第2の回路が転舵輪の転舵角に換算可能な角度を目標角度にフィードバック制御を実行している場合、運転者による操舵介入があったとき、転舵輪の転舵角に換算可能な角度を目標角度にフィードバック制御するための操作量がアシスト補正量によって打ち消される。このため、モータは操舵状態に応じたアシスト力を発生する。このアシスト力によって運転者による操舵が好適に補助される。ただし、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方が前記指令に従った処理を実行している場合、第1の回路および第2の回路のいずれか他方により演算される操作量が制御系統数に応じて増大される。これに対し、第1の回路および第2の回路のいずれか他方により演算されるアシスト補正量は操舵状態に応じた値にしかならない。このため、第1の回路および第2の回路のいずれか他方により演算される操作量を十分に打ち消すことができない。したがって、運転者の操舵に伴う手応えがわずかながらにも増大する。この手応えが増大することによって制御装置の異常を運転者に気付かせることが可能となる。
【0024】
上記のモータの制御装置において、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか一方が前記指令に従った制御を実行するとき、前記第1の回路および前記第2の回路のうちいずれか他方は、自己が演算するアシスト補正量を制御系統数に応じて増大させるようにしてもよい。
【0025】
この構成によれば、第1の回路および前記第2の回路のいずれか一方が外部回路により生成される指令に従った制御を実行している場合に運転者による操舵介入があったとき、第1の回路および前記第2の回路のいずれか他方のアシスト補正量が制御系統数に応じて増大されるため、第1の回路および前記第2の回路のいずれか他方の操作量が好適に打ち消される。したがって、第1の回路および前記第2の回路のいずれか一方が外部回路により生成される指令に従った制御を実行している場合に運転者による操舵介入があったとき、モータはアシスト量に応じたアシスト力を発生する。このため、運転者による操舵がより適切に補助される。
【発明の効果】
【0026】
本発明のモータの制御装置によれば、複数系統における一部系統の失陥に対してより適切に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】モータの制御装置の第1の実施形態のブロック図。
【
図2】2系統が共に正常である場合にモータの制御装置の第1の実施形態が実行する処理の一部を示す図。
【
図3】2系統のうちいずれか一方の系統が失陥した場合にモータの制御装置の第1の実施形態が実行する処理の一部を示す図。
【
図4】2系統のうちいずれか一方の系統が失陥した場合にモータの制御装置の第2の実施形態が実行する処理の一部を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<第1の実施形態>
以下、モータの制御装置の第1の実施形態を説明する。
図1に示すように、モータ10は、車両の転舵輪を転舵させるための転舵アクチュエータにおける動力源である。転舵アクチュエータは、たとえば転舵輪を転舵させる転舵シャフトおよび転舵シャフトに連動して回転するピニオンシャフトを有してなる。モータ10が発生するトルクは、減速機構を介して転舵シャフトあるいはピニオンシャフトに伝達される。ピニオンシャフトには、ステアリングシャフトを介してステアリングホイールが連結される。
【0029】
モータ10としては、たとえば表面磁石同期電動機(SPMSM)が採用される。モータ10は、1つのロータ12、第1ステータコイル14(1)および第2ステータコイル14(2)を有している。モータ10は制御装置20の制御対象である。
【0030】
制御装置20はモータ10の制御量であるトルクを制御する。制御装置20は、第1系統の回路および第2系統の回路を有している。第1系統の回路は第1ステータコイル14(1)に対応している。第2系統の回路は第2ステータコイル14(2)に対応している。
【0031】
第1系統の回路は、第1インバータ22(1)および第1マイコン30(1)を有している。第1インバータ22(1)は第1ステータコイル14(1)に接続されている。第1マイコン30(1)は第1インバータ22(1)に操作信号MS(1)を出力することによって第1ステータコイル14(1)に流れる電流を制御する。第2系統の回路は第2インバータ22(2)および第2マイコン30(2)を備えている。第2インバータ22(2)は第2ステータコイル14(2)に接続されている。第2マイコン30(2)は、第2インバータ22(2)に操作信号MS(2)を出力することによって第2ステータコイル14(2)に流れる電流を制御する。第1マイコン30(1)と第2マイコン30(2)とは、通信線42を介して互いに通信可能である。
【0032】
なお、以下の説明では、第1系統と第2系統とを総括して記載する場合、「1」または「2」の値をとる記号「k」を使用して、たとえば「第kステータコイル14(k)には第kインバータ14(k)が接続されている」などと記載する。
【0033】
第kマイコン30(k)は、第k角度センサ40(k)によって検出されるロータ12の回転角度θm(k)および第kステータコイル14(k)に流れる3相の電流iu(k),iv(k),iw(k)を取得する。電流iu(k),iv(k),iw(k)の値は、たとえば第kインバータ22(k)の各レッグに設けられるシャント抵抗の電圧降下として検出される。
【0034】
第kマイコン30(k)は、CPU32(k)、ROM34(k)および周辺回路36(k)を有している。これらCPU32(k)、ROM34(k)および周辺回路36(k)は、ローカルネットワーク38(k)を介して互いに通信可能である。周辺回路36(k)は、外部クロック信号に基づき内部の動作を規定するクロック信号を生成する回路、電源回路およびリセット回路などを含む。
【0035】
第1マイコン30(1)および第2マイコン30(2)は、通信線54(1),54(2)ならびに通信線55(1),55(2)を介して外部回路としての上位ECU50と通信可能である。第1マイコン30(1)および第2マイコン30(2)は、それぞれ上位ECU50により生成される目標角度θp*を通信線54(1),54(2)を介して取り込む。
【0036】
第1マイコン30(1)および第2マイコン30(2)は、それぞれ第1マイコン30(1)と第2マイコン30(2)との間の相互通信(以下、「マイコン間通信」ともいう。)が正常であるかどうかを判定する。たとえば第1マイコン30(1)および第2マイコン30(2)は、それぞれ通信線42を介して定められたデータを周期的にやり取りし、そのデータのやり取りができる場合にはマイコン間通信は正常であると判定する一方、そのデータのやり取りができない場合にはマイコン間通信が異常であると判定する。第1マイコン30(1)は、第2マイコン(2)との間の通信が正常であるかどうかの判定結果を示す電気信号S1(1)を生成する。第2マイコン30(2)は、第1マイコン(1)との間の通信が正常であるかどうかの判定結果を示す電気信号S1(2)を生成する。
【0037】
上位ECU50は、各種の車載システムの制御装置を統括制御する。上位ECU50は、その時々の車両の状態に基づき最適な制御方法を求め、その求められる制御方法に応じて車載される各種の制御装置に対して個別の制御を指令する。上位ECU50は、制御装置20により実行される制御にも介入する。上位ECU50は、運転席などに設けられる図示しないスイッチの操作に基づき、自己が有する自動運転制御機能をオンとオフとの間で切り替える。
【0038】
上位ECU50の自動運転制御機能がオンされている場合、ステアリングホイールの操作の実行主体は上位ECU50であって、制御装置20は上位ECU50からの指令に基づくモータ10の制御を通じて転舵輪を転舵させる転舵制御(自動操舵制御)を実行する。上位ECU50は、たとえば車両に目標車線上を走行させるための指令値として、目標角度θp*を演算する。目標角度θp*は、その時々の車両の走行状態に応じて、車両を車線に沿って走行させるために必要とされる転舵角の目標値、あるいはピニオンシャフトの回転角の目標値、あるいはステアリングシャフトの回転角の目標値である。ピニオンシャフトの回転角およびステアリングシャフトの回転角は、転舵輪の転舵角に換算可能な角度である。
【0039】
なお、上位ECU50、第kマイコン30(k)、および第kインバータ22(k)には、車載されるバッテリ52の端子電圧が印加される。ただし、第kマイコン30(k)には、リレー24(k)を介してバッテリ52の電圧が印加される。第kインバータ22(k)と第kステータコイル14(k)との間には、リレー26(k)が設けられている。
【0040】
制御装置20は、第1系統の回路および第2系統の回路に加えて、監視回路44を有している。監視回路44にはバッテリ52の端子電圧が印加される。
監視回路44は、第1マイコン30(1)の電源電圧VB(1)および第2マイコン30(2)の電源電圧VB(2)をそれぞれ取り込み、これら取り込まれる電源電圧VB(1),VB(2)が正常であるかどうかを判定する。監視回路44は、たとえば電源電圧VB(1),VB(2)が所定の電圧しきい値を下回る状態が設定時間だけ継続するとき、電源電圧VB(1),VB(2)が異常であると判定する。設定時間は、監視回路44による誤判定を抑制する観点に基づき設定される。これにより、瞬間的な電圧低下が異常判定されることが抑制される。監視回路44は、電源電圧VB(1),VB(2)が正常であるかどうかの監視結果を示す第1の監視結果信号S2を生成する。
【0041】
監視回路44は、第1マイコン30(1)と第2マイコン30(2)との間の通信が正常であるかどうかについても判定する。監視回路44は、たとえば第1マイコン30(1)と第2マイコン30(2)との間で通信線42を介したデータの授受が行われているかどうかに基づき第1マイコン30(1)と第2マイコン30(2)との間の通信が正常であるかどうかを判定する。監視回路44は、第1マイコン(1)と第2マイコン(2)との間の通信が正常であるかどうかを示す第2の監視結果信号S3を生成する。第1マイコン30(1)および第2マイコン30(2)は、それぞれ監視回路44により生成される第1の監視結果信号S2および第2の監視結果信号S3を取り込む。
【0042】
上位ECU50は、つぎの2つの条件A1,A2の成否に基づき、第1マイコン30(1)または第2マイコン30(2)が正常であるか異常であるかを検出する。
<A1>第1マイコン30(1)と第2マイコン30(2)との間の通信線42を介した相互通信が途絶していること。
【0043】
<A2>第1マイコン30(1)との間の通信線55(1)を介した通信または第2マイコン30(2)との間の通信線55(2)を介した通信が途絶していること。
上位ECU50は、第1マイコン30(1)から通信線55(1)を介して送信される電気信号S1(1)または第2マイコン30(2)から通信線55(2)を介して送信される電気信号S1(2)に基づき、第1マイコン30(1)と第2マイコン30(2)との間の通信線42を介した相互通信が途絶していることを認識することが可能である。
【0044】
上位ECU50は、第1マイコン30(1)によって周期的に生成される電気信号S1(1)または第2マイコン30(2)によって周期的に生成される電気信号S1(2)が取り込まれないことによって、第1マイコン30(1)との間の通信または第2マイコン30(2)との間の通信が途絶していることを認識することが可能である。
【0045】
上位ECU50は、第1マイコン30(1)との間の通信が途絶している場合、電気信号S1(2)を通じて第1マイコン30(1)と第2マイコン30(2)との間の通信が途絶していることが認識されるとき、第1マイコン30(1)を異常、第2マイコン30(2)を正常と判定する。また、上位ECU50は、第2マイコン30(2)との間の通信が途絶している場合、電気信号S1(1)を通じて第1マイコン30(1)と第2マイコン30(2)との間の通信が途絶していることが認識されるとき、第1マイコン30(1)を正常、第2マイコン30(2)を異常と判定する。
【0046】
上位ECU50は、第1マイコン30(1)および第2マイコン30(2)のうちいずれか一方が異常と判定されるとき、第1マイコン30(1)および第2マイコン30(2)のうち正常であるマイコンに対する指令S4を生成する。この指令S4は、正常であるマイコンに対して自己系統のステータコイルへ供給する電流を増大させるための命令である。
【0047】
<第kマイコンの処理>
つぎに、第kマイコン30(k)が実行する処理を
図2に従って説明する。
図2に示す処理は、ROM34(k)に記憶されたプログラムをCPU32(k)が実行することにより実現される。なお、以下の説明においては、第1マイコン30(1)および第2マイコン30(2)がそれぞれ実行する処理を総括する場合、記号「k」を使用して記載する。
【0048】
積算処理M10(k)は、ロータ12の回転角度θm(k)を積算する処理である。換算処理M12(k)は、積算処理M10(k)の出力に所定の係数Kを乗算することによって、同出力を、ステアリングシャフトの回転角度θp(k)に換算する処理である。なお、回転角度θp(k)は、車両の直進状態に対応する転舵シャフトの中立位置においてゼロとなり、左旋回側であるか右旋回側であるかに応じて正負の符号が互いに異なる。
【0049】
フィードバック操作量算出処理M20(k)は、回転角度θp(k)を目標角度θp*にフィードバック制御するための操作量であるフィードバック操作量MFB(k)を算出する処理である。フィードバック操作量算出処理M20(k)は、比例要素の出力値、積分要素の出力値および微分要素の出力値の和としてフィードバック操作量MFB(k)を算出する。具体的には、つぎの通りである。
【0050】
すなわち、偏差算出処理M22(k)は、回転角度θp(k)と目標角度θp*との差を算出する処理である。比例要素M24(k)は、偏差算出処理M22(k)の出力である回転角度θp(k)と目標角度θp*との差に比例係数Kpを乗算する処理である。積分要素は、積分ゲイン乗算処理M26(k)および積分処理M28(k)からなる。積分ゲイン乗算処理M26(k)は、偏差算出処理M22(k)の出力である回転角度θp(k)と目標角度θp*との差に積分ゲインKiを乗算する処理である。積分処理M28(k)は、積分ゲイン乗算処理M26(k)の出力の積算値を更新し、その更新される積分ゲイン乗算処理M26(k)の出力の積算値を出力する処理である。微分要素は、微分ゲイン乗算処理M30(k)および微分処理M32(k)からなる。微分ゲイン乗算処理M30(k)は、偏差算出処理M22(k)の出力である回転角度θp(k)と目標角度θp*との差に微分ゲインKdを乗算する処理である。微分処理M32(k)は、微分ゲイン乗算処理M30(k)の出力の微分演算をする処理である。加算処理M34(k)は、比例要素M24(k)、積分処理M28(k)および微分処理M32(k)の各出力値の和を算出して、その算出される和をフィードバック操作量MFB(k)として出力する処理である。
【0051】
フィードフォワード操作量算出処理M40(k)は、回転角度θm(k)を目標角度θp*に制御するための操作量であるフィードフォワード操作量MFF(k)を算出する処理である。フィードフォワード操作量算出処理M40(k)では、目標角度θp*の絶対値がより大きいときほど、より大きい絶対値のフィードフォワード操作量MFF(k)が算出される。この算出処理は、たとえば目標角度θp*を入力変数とし、フィードフォワード操作量MFF(k)を出力変数とするマップデータが予めROM34(k)に記憶された状態で、CPU32(k)によりフィードフォワード操作量MFF(k)をマップ演算することにより実現できる。ここで、マップデータとは、入力変数の離散的な値と入力変数の値のそれぞれに対応する出力変数の値との組データである。マップ演算では、たとえば、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれかに一致する場合、対応するマップデータの出力変数の値が演算結果とされる。また、マップ演算では、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれとも一致しない場合、マップデータに含まれる複数の出力変数の値の補間によって得られる値が演算結果とされる。
【0052】
加算処理M42(k)は、フィードバック操作量MFB(k)とフィードフォワード操作量MFF(k)とを加算することにより第k操作量MV(k)を算出する処理である。なお、第k操作量MV(k)は、q軸の電流指令値である。
【0053】
第1操作信号生成処理M44(1)は、第1操作量MV(1)を制御系統数(ここでは2系統)に応じて按分した値を使用して、第1インバータ22(1)の操作信号MS(1)を算出する処理である。すなわち、第1操作信号生成処理M44(1)は、第1ステータコイル14(1)を流れるq軸電流が第1操作量MV(1)の「1/2」となるように、第1インバータ22(1)の操作信号MS(1)を算出し、その算出される操作信号MS(1)を出力する処理である。
【0054】
選択処理M50は、加算処理M42(1)により算出される第1操作量MV(1)および加算処理M42(2)により算出される第2操作量MV(2)のうちのいずれか1つを選択的に第2操作信号生成処理M44(2)に出力する処理である。
【0055】
第2操作信号生成処理M44(2)は、選択処理M50により選択される第1操作量MV(1)または第2操作量MV(2)を制御系統数(ここでは2系統)に応じて按分した値を使用して、第2インバータ22(2)の操作信号MS(2)を算出する処理である。すなわち、第2操作信号生成処理M44(2)は、原則、第2ステータコイル14(2)を流れるq軸電流が選択処理M50の出力の「1/2」となるように、第2インバータ22(2)の操作信号MS(2)を算出し、その算出される操作信号MS(2)を出力する処理である。
【0056】
判定処理M60(k)は、第1マイコン30(1)および第2マイコン30(2)がそれぞれ正常に動作しているかどうかを判定する処理である。具体的には、判定処理M60(k)は、つぎの3つの処理B1,B2,B3を実行する。
【0057】
<B1>監視回路44により生成される第1の監視結果信号S2に基づき第1マイコン30(1)の電源電圧VB(1)および第2マイコン30(2)の電源電圧VB(2)が正常であるかどうかを判定する処理。
【0058】
<B2>監視回路44により生成される第2の監視結果信号S3に基づき第1マイコン(1)と第2マイコン(2)との間の相互通信が正常であるかどうかを判定する処理。
<B3>上位ECU50により指令S4が生成される場合、監視回路44により生成される第2の監視結果信号S3に基づき、指令S4に従う制御を実行するかどうかを判定する処理。
【0059】
選択処理M62(k)は、判定処理M60(k)の判定結果に応じて、ROM34(k)に記憶された3つの固定値であるゲイン「0」,「1」,「2」のうちいずれか1つを選択する処理である。選択処理M62(k)では、判定処理M60(k)による判定結果が自己系統である第kマイコン30(k)の電源電圧VB(k)の正常を示すものであるとき、ゲイン「1」が選択される。また、選択処理M62(k)では、判定処理M60(k)による判定結果が自己系統である第kマイコン30(k)の電源電圧VB(k)の異常を示すものであるときにはゲイン「0」が選択される。また、選択処理M62(k)では、判定処理M60(k)による判定結果が自己系統と異なる他の系統の電源電圧VB(k)の異常を示すものであるとき、ゲイン「2」が選択される。また、選択処理M62(k)では、判定処理M60(k)による判定結果が指令S4に従った制御を実行すべきであることを示すものであるときにもゲイン「2」が選択される。
【0060】
乗算処理M64(k)は、選択処理M62(k)により選択されるゲインを加算処理M34(k)により算出されるフィードバック操作量MFB(k)に乗算する処理である。
<CPU32(k)の動作>
つぎに、CPU32(k)の動作を説明する。
【0061】
図2に示すように、CPU32(1)は、判定処理M60(1)としてつぎの2つの判定結果C1,C2が得られるとき、選択処理M62(1)としてゲイン「1」を選択する。
【0062】
<C1>第1マイコン30(1)の電源電圧VB(1)および第2マイコン30(2)の電源電圧VB(2)がいずれも正常であること。
<C2>第1マイコン(1)と第2マイコン(2)との間の相互通信が正常であること。
【0063】
判定結果C1,C2が得られるとき、基本的には上位ECU50により指令S4が生成されることはない。CPU32(k)の電源電圧VB(k)が正常、かつ第1マイコン(1)と第2マイコン(2)との間の通信が正常であるからである。ただし、上位ECU50が第1マイコン30(1)および第2マイコン30(2)のうちいずれか一方が異常であると誤判定することによって指令S4が誤って生成されることも考えられる。この場合、判定処理M60(1)では、上位ECU50によって指令S4が生成されていても判定結果C2が得られるときには指令S4を採用しない旨判定される。
【0064】
選択処理M62(1)としてゲイン「1」が選択されるとき、加算処理M34(1)を通じて算出されるフィードバック操作量MFB(1)にゲイン「1」が乗算された値が最終的なフィードバック操作量MFB(1)として使用される。第1操作信号生成処理M44(1)によって、第1ステータコイル14(1)に流れるq軸電流が第1操作量MV(1)の「1/2」となるように、第1インバータ22(1)を操作する操作信号MS(1)が生成される。ちなみに、CPU32(1)は、最終的なフィードバック操作量MFB(1)が反映された第1操作量MV(1)を、通信線42を介して第2マイコン30(2)へ出力する。
【0065】
CPU32(2)は、CPU32(1)と同様に、判定処理M60(2)として先の2つの判定結果C1,C2が得られるとき、選択処理M62(2)としてゲイン「1」を選択する。ただし、先の判定結果C1,C2が得られるとき、CPU32(2)は、選択処理M50として、CPU32(1)から出力される第1操作量MV(1)を採用する。このため、第2操作信号生成処理M44(2)によって、第2ステータコイル14(2)に流れるq軸電流が第1操作量MV(1)の「1/2」となるように、第2インバータ22(2)を操作する操作信号MS(2)が生成される。
【0066】
<片系統故障時:片系統駆動>
図3に示すように、CPU32(1)は、判定処理M60(1)として、つぎの2つの判定結果D1,D2が得られるとき、選択処理M62(1)としてゲイン「0」を選択する。
【0067】
<D1>第1マイコン30(1)の電源電圧VB(1)が異常、第2マイコン30(2)の電源電圧VB(2)が正常であること。
<D2>第1マイコン(1)と第2マイコン(2)との間の相互通信が異常であること。
【0068】
判定結果D1,D2が得られるとき、加算処理M34(1)を通じて算出されるフィードバック操作量MFB(1)にゲイン「0」が乗算された値が最終的なフィードバック操作量MFB(1)として使用される。ちなみに、先の判定結果D1,D2が得られるとき、CPU32(1)は、周辺回路36(1)を通じて、リレー24(1),26(1)を閉状態から開状態へ切り替える。
【0069】
CPU32(2)は、CPU32(1)と同様に、判定処理M60(2)として先の判定結果D1,D2が得られるとき、選択処理M50として、第2操作量MV(2)を採用する。また、判定処理M60(2)として先の判定結果D1,D2が得られるとき、CPU32(2)は、選択処理M62(2)としてゲイン「2」を選択する。このため、加算処理M42(2)において使用される最終的なフィードバック操作量MFB(2)は、加算処理M34(2)を通じて算出されるフィードバック操作量MFB(2)の2倍の値となる。すなわち、フィードバック操作量MFB(1)の減少分がフィードバック操作量MFB(2)を増大することにより補われる。
【0070】
第2操作信号生成処理M44(2)によって、第2ステータコイル14(2)に流れるq軸電流が第2操作量MV(2)の「1/2」となるように、第2インバータ22(2)を操作する操作信号MS(2)が生成される。ただし、第2操作量MV(2)には、加算処理M34(2)を通じて算出される本来のフィードバック操作量MFB(2)の2倍の値を有するフィードバック操作量MFB(2)が反映されている。このため、結果的には第2ステータコイル14(2)に流れるq軸電流が加算処理M34(2)を通じて算出されるフィードバック操作量MFB(2)となるように、第2インバータ22(2)を操作する操作信号MS(2)が生成される。すなわち、第1ステータコイル14(1)に対する通電がなされないことから、回転角度θp(2)を目標角度θp*に制御するためには、第2ステータコイル14(2)に流すq軸電流を、加算処理M34(2)を通じて算出されるフィードバック操作量MFB(2)が100%反映された第2操作量MV(2)とする必要がある。
【0071】
なお、第1マイコン30(1)の電源電圧VB(1)が正常、かつ第2マイコン30(2)の電源電圧VB(2)が異常である場合、第1マイコン(1)および第2マイコン(2)は、電源電圧VB(1)が異常、かつ電源電圧VB(2)が正常である場合と逆の動作を行う。
【0072】
<倍化モード>
前述したように、制御装置20における第1系統の回路および第2系統の回路のうちいずれか片系統が失陥した場合、制御装置20の動作状態は正常系統の回路を使用してモータ10への給電を制御する、いわゆる片系統駆動状態へ遷移する。この片系統駆動時においては、モータ10として発生することが要求されるトルクは確保できるものの、つぎのようなことが懸念される。
【0073】
すなわち、監視回路44は、第kマイコン30(k)の電源電圧VB(k)が所定の電圧しきい値を下回る状態が設定時間だけ継続するとき、電源電圧VB(k)が異常であると判定する。このため、電源電圧VB(k)の異常が検出されてから設定時間だけ経過して異常が確定するまでの間、すなわち制御装置20の動作状態が片系統駆動へ遷移するまでの間、異常系統のモータコイルへの給電が停止されるとともに、正常系統のフィードバック操作量MFB(k)にゲイン「1」が乗算される状態に維持される。また、正常系統の第k操作信号生成処理M44(k)によって、第kステータコイル14(k)に流れるq軸電流が第k操作量MV(k)の「1/2」となるように、第kインバータ22(k)を操作する操作信号MS(k)が生成される。したがって、制御装置20の動作状態が片系統駆動へ遷移するまでの間、モータ10の発生トルクは、両系統が正常である場合の発生トルクの半分程度になる。そこで、CPU32(k)は、つぎのような処理を実行する。
【0074】
すなわち、CPU32(1)は、判定処理M60(1)として、つぎの2つの判定結果E1,E2が得られるとき、選択処理M62(1)としてゲイン「0」を選択する。
<E1>第1マイコン(1)と第2マイコン(2)との間の相互通信が異常であること。
【0075】
<E2>上位ECU50により指令S4が生成されていること。
判定処理M60(1)では、上位ECU50により指令S4が生成される場合、第1マイコン(1)と第2マイコン(2)との間の通信が異常であるとき、指令S4に従うべき状況であると判定される。
【0076】
このため、判定結果E1,E2が得られるとき、加算処理M34(1)を通じて算出されるフィードバック操作量MFB(1)にゲイン「0」が乗算された値が最終的なフィードバック操作量MFB(1)として使用される。ちなみに、先の判定結果E1,E2が得られるとき、CPU32(1)は、周辺回路36(1)を通じて、リレー24(1),26(1)を閉状態から開状態へ切り替える。
【0077】
CPU32(2)は、CPU32(1)と同様に、判定処理M60(2)として先の判定結果E1,E2が得られるとき、選択処理M50として、第2操作量MV(2)を採用する。また、判定処理M60(2)として先の判定結果E1,E2が得られるとき、CPU32(2)は、選択処理M62(2)としてゲイン「2」を選択する。このため、加算処理M42(2)において使用される最終的なフィードバック操作量MFB(2)は、加算処理M34(2)を通じて算出されるフィードバック操作量MFB(2)の2倍の値となる。すなわち、フィードバック操作量MFB(1)の減少分がフィードバック操作量MFB(2)を増大することにより補われる。
【0078】
したがって、第2操作量MV(2)には、加算処理M34(2)を通じて算出される本来のフィードバック操作量MFB(2)の2倍の値を有するフィードバック操作量MFB(2)が反映される。このため、第2操作信号生成処理M44(2)では、結果的に第2ステータコイル14(2)に流れるq軸電流が加算処理M34(2)を通じて算出される本来のフィードバック操作量MFB(2)となるように、第2インバータ22(2)を操作する操作信号MS(2)が生成される。
【0079】
なお、第1マイコン30(1)の電源電圧VB(1)が正常、かつ第2マイコン30(2)の電源電圧VB(2)が異常である場合、第1マイコン(1)および第2マイコン(2)は、電源電圧VB(1)が異常、かつ電源電圧VB(2)が正常である場合と逆の動作を行う。
【0080】
このように、監視回路44の監視結果、特に異常系統のマイコンの電源電圧が所定の電圧しきい値を下回る状態が設定時間だけ継続することを待つことなく、上位ECU50からの指令S4に基づき正常系統のフィードバック操作量算出処理M20(k)を通じて算出されるフィードバック操作量MFB(K)が増大される。このため、第1マイコン30(1)および第2マイコン30(2)のうちいずれか一方が失陥した場合であれ、モータ10は、2系統のマイコンが共に正常である場合の発生トルクと同程度のトルクを早期に発生する。すなわち、前述した片系統駆動の場合と異なり、第1マイコン30(1)および第2マイコン30(2)のうちいずれか一方が失陥した場合、モータ10の発生トルクが本来要求される発生トルクの半分程度になる期間が短縮される。
【0081】
<第1の実施形態の効果>
したがって、第1の実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)第1マイコン30(1)および第2マイコン30(2)のうちいずれか一方が失陥したとき、上位ECU50からの指令S4に従い第1マイコン30(1)および第2マイコン30(2)のうちいずれか他方により演算される操作量が制御系統数に応じて増大される。このため、第1マイコン30(1)および第2マイコン30(2)のうちいずれか一方が失陥したときであれ、モータ10が発生するトータルとしてのトルクが確保される。したがって、2系統のうちいずれか1系統の失陥に対してより適切に対応することができる。
【0082】
(2)一方系統のマイコンの電源電圧に異常が発生したとき、正常系統のマイコンは、監視回路44の監視結果を待つことなく上位ECU50からの指令S4に従って正常系統のステータコイルへ供給する電流量を増大させる。これにより、モータ10はトータルとして正常時の発生トルクと同程度のトルクを早期に発生する。ここで、上位ECU50は、マイコンの電源電圧を監視することなく、第1マイコン30(1)との間の通信途絶あるいは第2マイコン30(2)との間の通信途絶、およびマイコン間通信の途絶が検出されることをもって一方系統の失陥を検出する。通信の途絶は即時に検出することが可能である。このため、上位ECU50は、マイコンの電源電圧の異常を異常判定条件の一つとする監視回路44よりも速いタイミングで一方系統の失陥を検出することができる。したがって、一方系統が失陥したとき、モータ10の発生トルクが本来要求される発生トルクの半分程度になる期間がより短縮される。また、目標角度θp*に対する回転角度θp(k)の追従性を確保することもできる。
【0083】
(3)上位ECU50が一方系統のマイコンの異常を誤って判定することも考えられる。このため、残る他方系統のマイコンは、上位ECU50により指令S4が生成される場合であれ、マイコン間通信が正常であるときには、指令S4に従うべき状況ではないと判定する。これは、マイコン間通信が正常に行われていれば、第1マイコン30(1)および第2マイコン30(2)はそれぞれ正常に動作しているといえるからである。そして、他方系統のマイコンは、指令S4に従わずに一方系統が正常であるとしてステータコイルへの通電を行う。したがって、一方系統が正常であるにもかかわらず、上位ECU50の誤判定に起因して他方系統のステータコイルへ供給される電流量が本来要求される電流量よりも増大されることが抑制される。すなわち、上位ECU50の誤判定に起因してモータ10が過大なトルクを発生することを抑えることができる。
【0084】
(4)一方系統が失陥したとき、正常系統のマイコンは、監視回路44の監視結果を待つことなく、上位ECU50からの指令S4に従って正常系統のステータコイルへ供給する電流量を増大させる。ここで、上位ECU50は、一方系統のマイコンの失陥を誤って判定することも考えられる。この場合、一方系統のマイコンが正常であるにもかかわらず、他方系統のステータコイルへ供給される電流量が本来要求される電流量よりも増大されるおそれがある。そこで、本実施形態では、他方系統のマイコンが上位ECU50からの指令S4に従う通電制御を実行する場合、異常判定された一方系統のフィードバック操作量算出処理M20(k)により演算されるフィードバック操作量MFB(k)を強制的に「0」とする。これにより、上位ECU50の誤判定に起因してモータ10が過大なトルクを発生することを抑えることができる。
【0085】
(5)たとえば、第1マイコン30(1)と第2マイコン30(2)との間の通信の状態が不安定になることが想定される。この場合、たとえば監視回路44により行われるマイコン間通信が正常であるかどうかの判定結果が正常と異常との間で頻繁に変化するおそれがある。そして、上位ECU50により指令S4が生成される場合、マイコン間通信が正常であるかどうかの判定結果の変化に伴い、制御装置20の動作状態が指令S4に従った制御が実行される状態と、指令S4に従わない制御が実行される状態との間で頻繁に切り替わることが懸念される。この点、本実施形態では、正常系統のマイコンが指令S4に基づく制御を実行開始してから自動運転が終了するまでの期間、または片系統駆動へ遷移するまでの期間(すなわち、監視回路44による異常の検出が確定されるまでの期間)、正常系統のマイコンは、マイコン間通信の状態に関わらず、指令S4に従った制御を継続して実行する。したがって、モータ10へ供給される電流量が頻繁に大きく変化することが抑制されるため、モータ10を安定して動作させることができる。
【0086】
<第2の実施形態>
つぎに、モータの制御装置の第2の実施形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の
図1に示される第1の実施形態と同様の構成を有し、一方系統が失陥した際に第kマイコン30(k)が実行する処理の点で第1の実施形態と異なる。なお、以下の説明においても、第1マイコン30(1)および第2マイコン30(2)がそれぞれ実行する処理を総括する場合、記号「k」を使用して記載する。
【0087】
図4に示すように、基本アシスト量演算処理M70(k)は、ステアリングシャフトに設けられるトルクセンサを通じて検出される操舵トルクThに基づき基本アシスト量MI(k)を演算する処理である。操舵トルクThには、運転者による操舵状態が反映される。基本アシスト量MI(k)は、操舵トルクThに応じた適切な大きさのアシスト力を発生させるためにモータ10へ供給すべき電流量の値を示すq軸の電流指令値である。基本アシスト量演算処理M70(k)は、操舵トルクThの絶対値が大きいほど、より大きな絶対値の基本アシスト量MI(k)を算出する。モータ10が発生するトルクによって運転者による操舵が補助される。
【0088】
アシスト補正量演算処理M72(k)は、操舵トルクThに基づきアシスト補正量MC(k)を演算する処理である。アシスト補正量MC(k)は、フィードバック操作量算出処理M20(k)を通じて算出されるフィードバック操作量MFB(k)を打ち消すためのものである。
【0089】
乗算処理M74(k)は、アシスト補正量演算処理M72(k)を通じて算出されるアシスト補正量MC(k)に対して、選択処理M62(k)を通じて算出されるゲイン(0、1または2)を乗算する処理である。
【0090】
<第2の実施形態の効果>
したがって、第2の実施形態によれば、以下の作用および効果を得ることができる。
(6)上位ECU50からの指令S4に従った制御が実行されている場合、正常系統のフィードバック操作量算出処理M20(k)により算出されるフィードバック操作量MFB(k)は、指令S4が生成されない正常時のフィードバック操作量MFB(k)の2倍の値となる。このため、上位ECU50からの指令S4に従った制御が実行されている場合、アシスト補正量演算処理M72(k)により算出されるアシスト補正量MC(k)がそのまま使用されるとき、倍化されたフィードバック操作量MFB(k)を打ち消しきれないおそれがある。この点、本実施形態では、上位ECU50からの指令S4に従った制御が実行される場合、乗算処理M74(k)を通じて正常系統のアシスト補正量MC(k)が倍化される。このため、倍化されたフィードバック操作量MFB(k)をより適切に打ち消すことが可能となる。したがって、指令S4に従った制御が実行されている場合、運転者によりステアリングホイールが操作されるとき、モータ10は基本アシスト量MI(k)に応じたアシスト力を発生する。このアシスト力によって運転者の操舵が補助される。また、運転者に付与される操舵感触を向上させることができる。
【0091】
ちなみに、製品仕様などによっては、第kマイコン30(k)として、アシスト補正量MC(k)の倍化処理を行わない構成を採用してもよい。この構成を採用する場合、上位ECU50からの指令S4に従った制御が実行されているとき、アシスト補正量演算処理M72(k)により算出されるアシスト補正量MC(k)がそのまま使用される。すなわち、アシスト補正量MC(k)は操舵状態に応じた値にしかならない。このため、倍化されたフィードバック操作量MFB(k)を十分に打ち消すことができない。したがって、上位ECU50の指令S4に従った制御が実行される場合、アシスト補正量MC(k)の倍化処理が実行されるとき、あるいは自動運転制御機能がオフされているときに比べて、ステアリングホイールを介した手応え(操舵反力)がわずかながらにも増大する。この手応えが増大することによって異常を運転者に気付かせることが可能である。
【0092】
<他の実施の形態>
なお、第1および第2の実施形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第1および第2の実施形態では、一方系統が失陥したとき、正常系統のマイコンは上位ECU50からの指令S4に従ってフィードバック操作量MFB(k)を倍化することにより第kステータコイル14(k)へ供給する電流量を増大させるようにしたが、比例要素の出力値、積分要素の出力値および微分要素の出力値をそれぞれ倍化してもよい。
【0093】
・第1および第2の実施形態において、選択処理M62(k)では、判定処理M60(k)による判定結果が自己系統である第kマイコン30(k)の電源電圧VB(k)の異常を示すものであるとき、自己系統のフィードバック操作量MFB(k)を強制的に「0」としたが、フィードバック操作量算出処理M20(k)の動作を停止するようにしてもよい。また、判定処理M60(k)による判定結果が自己系統である第kマイコン30(k)の電源電圧VB(k)の異常を示すものであるとき、フィードバック操作量MFB(k)を減少させればよく「0」にしなくてもよい。
【0094】
・フィードバック操作量MFB(k)としては、比例要素M24(k)、積分要素および微分要素の各出力値の和に限らない。たとえば、フィードバック操作量MFB(k)は、比例要素および積分要素の2つの出力値の和であってもよい。また、フィードバック操作量MFB(k)は、積分要素および微分要素の2つの出力値の和であってもよい。また、フィードバック操作量MFB(k)は、積分要素の出力値であってもよい。
【0095】
・第1および第2の実施形態において、フィードフォワード操作量MFF(k)に基づき第k操作量MV(k)を算出することは必須ではない。すなわち、CPU(k)が実行する処理として、フィードフォワード操作量算出処理M40(k)を割愛してもよい。ただし、この場合、フィードバック操作量算出処理M20(k)により算出されるフィードバック操作量MFB(k)が第k操作量MV(k)となる。
【0096】
・制御装置20として、記憶装置に記憶されたプログラムを実行するソフトウェア処理回路としてのCPU32(k)を備えた第kマイコン30(k)に代えて、たとえばASIC(特定用途向け集積回路)などの特定の用途に特化して設けられる専用のハードウェア回路を採用してもよい。制御装置20として、ソフトウェア処理回路と専用のハードウェア回路とが混在した構成を採用してもよい。
【0097】
・制御装置20の制御系統数はモータの系統数と同数であればよい。たとえば、モータが3系統のコイルを有するものである場合、制御装置20には3つの制御系統をもたせればよい。ただし、その場合、制御装置20の複数の制御系統のうちいずれか1つの制御系統をマスタとし、残りの制御系統をスレーブとすることが好ましい。
【0098】
・制御装置20としてリレー26(1),26(2)を割愛した構成を採用してもよい。
・制御装置20は、ステアリングホイールとの間の動力伝達が分離されたステアバイワイヤ式の転舵アクチュエータの駆動源であるモータを制御対象としてもよい。
【0099】
・第1および第2の実施の形態では、両系統が正常である場合、第2操作信号生成処理M44(2)は選択処理M50により選択される第1操作量MV(1)を制御系統数に応じて按分した値を使用して第2インバータ22(2)の操作信号MS(2)を算出するようにしたが、つぎのようにしてもよい。すなわち、両系統が正常である場合であれ、第2操作信号生成処理M44(2)は第2操作量MV(2)を使用して第2インバータ22(2)の操作信号MS(2)を算出する。この場合、CPU32(2)の処理として選択処理M50を割愛した処理を採用してもよい。
【符号の説明】
【0100】
10…モータ
14(1)…第1のステータコイル(第1のコイル)
14(2)…第2のステータコイル(第2のコイル)
20…制御装置
30(1)…第1マイコン(第1の回路)
30(2)…第2マイコン(第2の回路)
40(1)…第1角度センサ(第1のセンサ)
40(2)…第2角度センサ(第2のセンサ)
44…監視回路
50…上位ECU(外部回路)