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特許7540925ヒステリシストルク発生機構及び動力伝達装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】ヒステリシストルク発生機構及び動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/129 20060101AFI20240820BHJP
   F16D 13/64 20060101ALI20240820BHJP
   F16F 15/139 20060101ALI20240820BHJP
   F16F 15/123 20060101ALN20240820BHJP
【FI】
F16F15/129 C
F16F15/129 D
F16D13/64 B
F16F15/139 D
F16F15/123 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020158318
(22)【出願日】2020-09-23
(65)【公開番号】P2022052126
(43)【公開日】2022-04-04
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】瀬上 健
(72)【発明者】
【氏名】中谷 昌弘
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-093787(JP,A)
【文献】特開2006-002930(JP,A)
【文献】特開2006-144861(JP,A)
【文献】特開平09-242823(JP,A)
【文献】特開平09-119451(JP,A)
【文献】実開昭60-088126(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/129
F16F 15/139
F16D 11/00- 23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動面を有する環状の第1回転体と、
前記第1回転体に対向して配置され、前記第1回転体の摺動面に摺動してヒステリシストルクを発生する環状の第2回転体と、
を備え、
前記第2回転体は、外周部に設けられた外周側主摩擦面と、前記外周側主摩擦面の径方向内方に設けられた初期当り部と、を有し、
前記初期当り部は、前記第1回転体側に突出して設けられ、前記第1回転体の摺動面に摺接し、
前記外周側主摩擦面は、前記初期当り部の摩耗後に、前記第1回転体の摺動面に摺接する、
ヒステリシストルク発生機構。
【請求項2】
前記第1回転体は、動力が入力されるとともに、入力された動力を出力側の部材に伝達する部材であり、
前記第2回転体は、前記第1回転体に対して相対回転可能な摩擦部材である、
請求項1に記載のヒステリシストルク発生機構。
【請求項3】
前記第2回転体は、前記初期当り部の径方向内方に設けられた内周側主摩擦面をさらに有している、請求項1又は2に記載のヒステリシストルク発生機構。
【請求項4】
前記第2回転体は、
本体と、
前記本体に固定され、前記初期当り部及び前記外周側主摩擦面を表面に有する摩擦材と、
を有している、
請求項1から3のいずれかに記載のヒステリシストルク発生機構。
【請求項5】
前記本体は樹脂製であり、
前記摩擦材は前記本体にインサート成型されている、
請求項4に記載のヒステリシストルク発生機構。
【請求項6】
入力側回転体と、
前記入力側回転体と相対回転可能に設けられた出力側回転体と、
前記入力側回転体と前記出力側回転体とを回転方向に弾性的に連結する複数の弾性部材と、
前記入力側回転体と前記出力側回転体との相対回転時にヒステリシストルクを発生するヒステリシストルク発生機構と、
を備え、
前記ヒステリシストルク発生機構は、
前記入力側回転体と前記出力側回転体との軸方向間に配置された環状の摩擦部材と、
前記摩擦部材の第1側面を前記出力側回転体の側面に押圧する押圧部材と、
を有し、
前記摩擦部材は、外周部に設けられた主摩擦面と、前記主摩擦面の径方向内方に設けられた初期当り部と、を有し、
前記初期当り部は、前記第1側面に軸方向に突出して設けられ、前記出力側回転体の摺動面に摺接し、
前記主摩擦面は、前記初期当り部の摩耗後に、前記出力側回転体の摺動面に摺接する、
動力伝達装置。
【請求項7】
前記押圧部材は、前記摩擦部材の第2側面に当接する当接部を有しており、
前記当接部と、前記摩擦部材の初期当り部と、は回転軸に沿った方向から視て重なっている、
請求項6に記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒステリシストルク発生機構、及びそれを備えた動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の動力伝達系には、捩り振動を減衰するためにダンパ装置が設けられている。このダンパ装置は、摩擦抵抗であるヒステリシストルクを発生するためのヒステリシストルク発生機構を有している。ヒステリシストルク発生機構は、例えば特許文献1に示されるように、摩擦部材(フリクションワッシャ)やコーンスプリング等から構成されている。摩擦部材は、相対回転可能な入力側回転体と出力側回転体との間に配置され、コーンスプリングによって、入力側回転体出力側回転体に押圧されている。そして、入力側回転体と出力側回転体とが捩じり振動により相対回転すると、摩擦部材は、入力側回転体及び出力側回転体のいずれか一方と一体回転するとともに他方と摩擦接触し、これによりヒステリシストルクが発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-242823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
摩擦部材は、使用するにしたがって摩擦摺動面が摩耗するので、摩擦摺動面がある程度摩耗した後は、安定したヒステリシストルクを得ることができる。
【0005】
しかし、使用時の初期においては、製造時の誤差等によって、摩擦摺動面の形状がばらつく。このため、相手側部材との当り面が安定せず、初期のヒステリシストルクが安定しない。
【0006】
本発明の課題は、摩擦部材による初期のヒステリシストルクを安定させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係るヒステリシストルク発生機構は、摺動面を有する第1回転体と、第2回転体と、を備えている。第2回転体は、第1回転体に対向して配置され、第1回転体の摺動面に摺動してヒステリシストルクを発生する。第2回転体は、初期当り部と、主摩擦面と、を有している。初期当り部は、第1回転体側に突出して設けられ、第1回転体の摺動面に摺接する。主摩擦面は、初期当り部の摩耗後に、第1回転体の摺動面に摺接する。
【0008】
ここでは、第2回転体の使用時の初期には、初期当り部が第1回転体の摺動面に摺接する。すなわち、摩擦部材に初期当りする部分を意図的に設けているので、初期において所望のヒステリシストルクを得ることができる。そして、初期当り部が摩耗した後は、摩耗した初期当り部を含めて、主摩擦面が第1回転体の摺動面に摺接する。
【0009】
(2)好ましくは、第1回転体は、動力が入力されるとともに、入力された動力を出力側の部材に伝達する部材である。また、第2回転体は、第1回転体に対して相対回転可能な摩擦部材である。
【0010】
(3)好ましくは、初期当り部は環状に形成されている。
【0011】
(4)好ましくは、第2回転体は、本体と、摩擦材と、を有している。摩擦材は、本体に固定され、初期当り部及び主摩擦面を表面に有する。
【0012】
(5)好ましくは、本体は樹脂製であり、摩擦材は本体にインサート成型されている。
【0013】
(6)本発明に係る動力伝達装置は、入力側回転体と、出力側回転体と、複数の弾性部材と、ヒステリシストルク発生機構と、を備えている。出力側回転体は、入力側回転体と相対回転可能に設けられている。複数の弾性部材は、入力側回転体と出力側回転体とを回転方向に弾性的に連結する。ヒステリシストルク発生機構は、入力側回転体と出力側回転体との相対回転時にヒステリシストルクを発生する。
【0014】
また、ヒステリシストルク発生機構は、摩擦部材と、押圧部材と、を備えている。摩擦部材は、入力側回転体と出力側回転体との軸方向間に配置されている。押圧部材は、摩擦部材の第1側面を入力側回転体又は出力側回転体の側面に押圧する。そして、摩擦部材は、初期当り部と、主摩擦面と、を有している。初期当り部は、第1側面に軸方向に突出して設けられ、入力側回転体又は出力側回転体の側面に摺接する。主摩擦面は、初期当り部の摩耗後に、入力側回転体の側面に摺接する。
【0015】
(7)好ましくは、押圧部材は、摩擦部材の第2側面に当接する当接部を有している。そして、当接部と、摩擦部材の初期当り部と、は回転軸に沿った方向から視て重なっている。
【発明の効果】
【0016】
以上のような本発明では、初期のヒステリシストルクが安定した摩擦部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態によるヒステリシストルク発生機構を有するクラッチディスク組立体の断面図。
図2図1の正面図。
図3】出力側回転体及びダンパ機構の正面図。
図4図1の拡大部分図。
図5図4とは異なる図1の拡大部分図。
図6】摩擦ワッシャの断面部分図。
図7】本発明の他の実施形態による摩擦ワッシャの図6に相当する図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[全体構成]
図1は、本発明の一実施形態によるヒステリシストルク発生機構を有するクラッチディスク組立体1(動力伝達装置の一例)の断面図である。また、図2はその正面図である。図1のO-O線は、クラッチディスク組立体1の回転軸線である。また、図1の左側にエンジン及びフライホイール(図示せず)が配置されており、図1の右側にトランスミッション(図示せず)が配置されている。
【0019】
クラッチディスク組立体1は、入力側回転体2と、出力側回転体3と、ダンパ機構4と、を備えている。
【0020】
[入力側回転体2]
入力側回転体2は、クラッチディスク10と、クラッチプレート11と、リティニングプレート12と、を有している。
【0021】
<クラッチディスク10>
クラッチディスク10は、1対の環状の摩擦フェーシング14と、クッショニングプレート15と、を有している。1対の摩擦フェーシング14はクッショニングプレート15の両面にリベット16により固定されている。また、クッショニングプレート15はクラッチプレート11の外周部にリベット17により固定されている。
【0022】
<クラッチプレート11及びリティニングプレート12>
クラッチプレート11及びリティニングプレート12は、円板状の部材であり、軸方向に所定の間隔をあけて、互いにリベット17により固定されている。クラッチプレート11及びリティニングプレート12のそれぞれは、対向する位置に4つの保持部11a,12aを有している。4つの保持部11a,12aは円周方向に所定の間隔で配置されている。
【0023】
リティニングプレート12の外周部の一部は、クラッチプレート11側に折り曲げられて軸方向に延びるストッパ部12bと、ストッパ部12bからさらに内周側に折り曲げられた固定部12cと、を有している。ストッパ部12bは、後述するストッパ機構を構成している。固定部12cは、前述のように、クッショニングプレート15とともに、クラッチプレート11にリベット17により固定されている。
【0024】
[出力側回転体3]
出力側回転体3は、入力側回転体2に対して相対回転可能であり、スプラインハブ20とハブフランジ21(第1回転体の一例)とを有している。
【0025】
<スプラインハブ20>
スプラインハブ20は筒状部23とフランジ24とを有している。筒状部23の内周面にはスプライン孔23aが形成されている。このスプライン孔23aがトランスミッションの入力シャフト(図示せず)に係合可能である。フランジ24は、筒状部23の軸方向のほぼ中央部から径方向外方に延びている。フランジ24の外周面には、複数の外周歯24aと、複数の切欠24bと、が形成されている。
【0026】
<ハブフランジ21>
ハブフランジ21は、円板状に形成され、スプラインハブ20の外周側に配置されている。ハブフランジ21は、クラッチプレート11とリティニングプレート12との軸方向間に配置されている。図2及び図3に示すように、ハブフランジ21は、環状部26と、4つの突出部27と、を有している。4つの突出部27には、それぞれ窓孔27aが形成されている。また、4つの突出部27の外周面には、円周方向の中央部を除いてストッパ用切欠27bが形成されている。この切欠27bを、リティニングプレート12のストッパ部12bが軸方向に貫通している。すなわち、リティニングプレート12のストッパ部12bと、切欠27bの円周方向の端面と、によって、クラッチプレート11及びリティニングプレート12とハブフランジ21との相対捩り角度を所定の範囲内に規制するストッパ機構28が構成されている。
【0027】
また、ハブフランジ21の内周面には、複数の内周歯21aと、複数の切欠21bと、が形成されている。複数の内周歯21aは、スプラインハブ20の外周歯24aと所定の隙間を介して噛み合っている。切欠21bは、スプラインハブ20の切欠24bと径方向において対向する位置に形成されている。したがって、スプラインハブ20とハブフランジ21の切欠24b,21bによって、スプリング収容部29が形成されている。
【0028】
[ダンパ機構4]
ダンパ機構4は、4個の高剛性スプリング31及び2個の低剛性スプリング32と、ヒステリシストルク発生機構(以下、「ヒス発生機構」と記載する)33と、を有している。
【0029】
<高剛性スプリング31及び低剛性スプリング32>
高剛性スプリング31は、ハブフランジ21の窓孔27aに収容され、クラッチプレート11及びリティニングプレート12の保持部11a,12aによって径方向及び軸方向に保持されている。低剛性スプリング32はスプラインハブ20とハブフランジ21の切欠24b,21bによって形成されたスプリング収容部29に収容されている。なお、詳細な説明は省略するが、4個の高剛性スプリング31のうちの2つは、窓孔27aの円周方向の長さよりも短く設定されている。また、4個の高剛性スプリング31の端面は、クラッチプレート11及びリティニングプレート12の保持部11a,12aの端面に当接している。このような構成によって、捩り特性の多段化を実現している。
【0030】
<ヒス発生機構33>
図4及び図5に示すように、ヒス発生機構33は、第1摩擦ワッシャ35と、第1コーンスプリング36と、第2摩擦ワッシャ37(摩擦部材の一例)と、第2コーンスプリング38と、第3摩擦ワッシャ39(摩擦部材の他の一例)と、を有している。
【0031】
-第1摩擦ワッシャ35-
第1摩擦ワッシャ35は、スプラインハブ20のフランジ24とリティニングプレート12の内周部との軸方向間に配置されており、筒状部23の外周側に配置されている。第1摩擦ワッシャ35は樹脂製である。第1摩擦ワッシャ35は、環状の本体35aと、複数の突起35bと、を有している。
【0032】
本体35aはフランジ24のトランスミッション側の面に当接しており、本体35aとリティニングプレート12との間に、第1コーンスプリング36が配置されている。第1コーンスプリング36は本体35aとリティニングプレート12との間で軸方向に圧縮されている。このため、第1摩擦ワッシャ35の摩擦面は第1コーンスプリング36によりフランジ24に圧接されている。
【0033】
複数の突起35bは、本体35aから径方向外方へ延びている。この複数の突起35bは、第2摩擦ワッシャ37の凹部37c(後述)に係合している。これにより、第1摩擦ワッシャ35と第2摩擦ワッシャ37とは一体回転可能である。
【0034】
-第2摩擦ワッシャ37-
第2摩擦ワッシャ37は、ハブフランジ21の内周部とリティニングプレート12の内周部との間に配置されており、第1摩擦ワッシャ35の外周側に配置されている。第2摩擦ワッシャ37、樹脂製であり、環状の本体37aと、複数の係合部37bと、凹部37cと、を有している。
【0035】
本体37aはハブフランジ21のトランスミッション側の面に当接している。第2コーンスプリング38は、本体37aとリティニングプレート12との間に、圧縮された状態で配置されている。これにより、本体37aは、第2コーンスプリング38によりハブフランジ21に圧接されている。
【0036】
図6に、第2摩擦ワッシャ37及び第3摩擦ワッシャ39の一部を拡大して示している。この図6に示すように、本体37aのハブフランジ21側の面には、環状の摩擦材41がインサート成型により固定されている。
【0037】
摩擦材41は、主摩擦面41aと、初期当り部41bと、を有している。主摩擦面41aは、ハブフランジ21側の面に形成されている。初期当り部41bは、主摩擦面41aの径方向の一部に、ハブフランジ21側に突出して形成されている。より詳細には、初期当り部41bは、環状に形成され、ハブフランジ21側の表面は平坦面である。そして、第2コーンスプリング38が第2摩擦ワッシャ37の本体37aに当接する当接部38aの径方向位置は、初期当り部41bの内径Diと外径Doとの間に位置している。このため、初期当り部41bは、第2コーンスプリング38によって、効率よくハブフランジ21の側面に圧接されている。
【0038】
なお、初期当り部41bの主摩擦面41aからの突出高さhは、この実施形態では0.04mmに設定されている。初期当り部41bの突出高さについては、摩擦材の種類に応じて適切に設定するのが好ましい。
【0039】
このような第2摩擦ワッシャ37の構成によって、使用時の初期においては、摩擦材41の初期当り部41bのみが確実にハブフランジ21と摩擦接触する。したがって、この摩擦接触によって発生するヒステリシストルクは、所望の設計値に安定する。そして、使用するにしたがって初期当り部41bが摩耗すると、初期当り部41bの領域を含めて主摩擦面41aがハブフランジ21と摺接することになる。
【0040】
係合部37bは、本体37aの内周部からトランスミッション側へ延びており、リティニングプレート12の孔を貫通している。これにより、第2摩擦ワッシャ37とリティニングプレート12とは一体回転可能である。
【0041】
凹部37cは、本体37aの内周部のトランスミッション側に形成されている。この凹部37cに、第1摩擦ワッシャ35の突起35bが係合している。このため、第1摩擦ワッシャ35は、第2摩擦ワッシャ37を介してリティニングプレート12と一体回転可能である。
【0042】
なお、第1コーンスプリング36の付勢力は第2コーンスプリング38の付勢力より小さくなるように設計されている。また、第1摩擦ワッシャ35は第2摩擦ワッシャ37に比べて摩擦係数が低い。このため、第1摩擦ワッシャ35によって発生するヒステリシストルクは第2摩擦ワッシャ37で発生するヒステリシストルクより大幅に小さくなっている。
【0043】
-第3摩擦ワッシャ39-
第3摩擦ワッシャ39は、スプラインハブ20のフランジ24と、クラッチプレート11の内周部と、の間において、筒状部23の外周側に配置されている。第3摩擦ワッシャ39は例えば樹脂製である。第3摩擦ワッシャ39は、環状の本体39aと、複数の係合部39bと、を有している。
【0044】
本体39aは、一方の側面がフランジ24及びハブフランジ21のエンジン側の面に当接し、他方の側面がクラッチプレート11のトランスミッション側の面に当接している。係合部39bは、本体39aからエンジン側に延びており、クラッチプレート11に形成された孔を貫通している。第3摩擦ワッシャ39は係合部39bによりクラッチプレート11に一体回転可能である。また、本体39aは、クラッチプレート11の中心孔に相対回転不能に係合し、その内周面はスプラインハブ20の筒状部23の外周面に摺動可能に当接している。すなわち、クラッチプレート11は第3摩擦ワッシャ39を介してスプラインハブ20により径方向に位置決めされている。
【0045】
ここで、図6に示すように、第3摩擦ワッシャ39の本体39aのハブフランジ21側の面には、環状の摩擦材42がインサート成型により固定されている。
【0046】
第3摩擦ワッシャ39の摩擦材42は、第2摩擦ワッシャ37の摩擦材41とほぼ同様の構成である。すなわち、摩擦材42は、主摩擦面42a及び初期当り部42bを有し、主摩擦面42aは、ハブフランジ21側の面に形成されている。初期当り部42bは、主摩擦面42aの径方向の一部に、環状に形成され、ハブフランジ21側に突出している。また、初期当り部42bの表面は平坦面である。また、初期当り部42bの主摩擦面42aからの突出高さhについても、第2摩擦ワッシャ37の摩擦材41と同様である。
【0047】
このような第3摩擦ワッシャ39の構成によって、前述のように、使用時の初期においては、確実に初期当り部42bがハブフランジ21と摩擦接触する。一方、使用するにしたがって初期当り部42bが摩耗すると、初期当り部42bの領域を含めて主摩擦面42aがハブフランジ21と摺接することになる。
【0048】
以上のように、第2摩擦ワッシャ37及び第3摩擦ワッシャ39により大ヒス発生機構45が構成されており、第1摩擦ワッシャ35及び第3摩擦ワッシャ39により小ヒス発生機構46が構成されている。そして、入力側回転体2、ハブフランジ21及びスプラインハブ20が相対回転すると、大ヒス発生機構45及び小ヒス発生機構46によりヒステリシストルクが発生し、捩り振動が減衰及び吸収される。
【0049】
[動作]
入力されるトルク又はトルク変動が小さい場合は、低剛性スプリング32のみが圧縮され、小ヒス発生機構46によってヒステリシストルクが発生する。この結果、捩り角度が小さい領域では、低剛性及び低ヒステリシストルクの特性が得られる。
【0050】
トルクが大きくなって捩り角度が大きくなると、スプラインハブ20のフランジ24の外周歯24aとハブフランジ21の内周歯21aとが当接する。このため、捩り角度が大きくなると、スプラインハブ20とハブフランジ21とは一体回転する。
【0051】
この状態からさらに捩り角度が大きくなると、ハブフランジ21と入力側回転体2との間で相対回転が発生し、4個の高剛性スプリング31のうちの2個のスプリングが圧縮される。このとき、小ヒス発生機構46に加えて大ヒス発生機構45においてもヒステリシストルクが発生する。
【0052】
そしてさらに捩り角度が大きくなると、すべての高剛性スプリング31が圧縮される。したがって、より高剛性で、高ヒステリシストルクの特性が得られる。
【0053】
以上のような動作において、使用時の初期においては、第2摩擦ワッシャ37及び第3摩擦ワッシャ39においては、摩擦材41,42の初期当り部41b,42bのみが摩擦接触する。すなわち、設計において意図した部分のみによってヒステリシストルクが発生する。このため、所望の、かつ安定した初期ヒステリシストルクを得ることができる。
【0054】
また、使用するに従って初期当り部41b,42bが摩耗すると、第2摩擦ワッシャ37及び第3摩擦ワッシャ39において、初期当り部41b,42bを含む主摩擦面41a,42aが摩擦接触する。したがって、ここでも、所望の安定したヒステリシストルクが得られる。
【0055】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0056】
(a)前記実施形態では、第2及び第3摩擦ワッシャにおいて、本体と摩擦材の2つの部材をインサート成型により一体的に形成したが、これらを1つの部材で形成してもよい。この例を、図7に示している。この例では、第2摩擦ワッシャ47及び第3摩擦ワッシャ49の摩擦面47a,49a(主摩擦面に相当)の一部を、ハブフランジ21側に突出させ、初期当り部47b,49bを形成している。初期当り部47b,49bの具体的な形状、構成は、前記実施形態と同様である。
【0057】
(b)初期当り部の形状は前記実施形態に限定されない。例えば、初期当り部の表面を、平坦面に代えて球状に形成してもよい。また、初期当り部は連続した環状ではなく、間欠的に環状に配置してもよい。
【0058】
(c)前記実施形態では、コーンスプリングの当接位置が、初期当り部の内径と外径の間に位置するようにしたが、コーンスプリングの当接位置を、初期当り部の内径より内側、又は外径より外側にしてもよい。
【0059】
(d)前記実施形態では、本発明の摩擦材をクラッチディスク組立体に適用したが、他の振動吸収装置のヒス発生機構に適用してもよい。
【0060】
(e)前記実施形態では、摩擦部材に初期当り部及び主摩擦面を設けたが、ハブフランジの摩擦面に初期当り部及び主摩擦面を設けてもよい。
【符号の説明】
【0061】
2 入力側回転体(第1回転体)
3 出力側回転体(第2回転体)
4 ダンパ機構
11 クラッチプレート(回転部材)
31 高剛性スプリング
32 低剛性スプリング
33 ヒス発生機構
37 第2摩擦ワッシャ(摩擦部材)
39 第3摩擦ワッシャ(摩擦部材)
37a,39a 本体
38 第2コーンスプリング(押圧部材)
38a 当接部
41,42 摩擦材
41a,42a 主摩擦面
41b,42b 初期当り部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7