(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】研磨パッド及び研磨パッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
B24B 37/013 20120101AFI20240820BHJP
B24B 37/26 20120101ALI20240820BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240820BHJP
B24B 37/24 20120101ALI20240820BHJP
【FI】
B24B37/013
B24B37/26
H01L21/304 622F
B24B37/24 Z
(21)【出願番号】P 2020164765
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100168631
【氏名又は名称】佐々木 康匡
(72)【発明者】
【氏名】立野 哲平
(72)【発明者】
【氏名】田中 啓介
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0164482(US,A1)
【文献】特表2018-538152(JP,A)
【文献】特表2008-546167(JP,A)
【文献】特表2007-506280(JP,A)
【文献】特開2005-175464(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0266771(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/00 - 37/34
H01L 21/304
C08J 7/00 - 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性部材及び研磨層を有する研磨パッドであって、
前記研磨層は、被研磨物を研磨するための研磨面を備え、前記研磨パッドは前記研磨面からその反対面へと貫通している貫通孔を有しており、
前記透光性部材は、研磨パッドの研磨面側から研磨パッド厚さ方向に見た場合に、貫通孔内に透光性部材が存在するように配置されており、
前記研磨面を上面としその反対面を下面とした場合に、前記透光性部材の最上部が前記研磨面よりも低く、
前記透光性部材の研磨面側の表面にプラズマ処理又はロールブラスト処理がされており、且つ
前記透光性部材の研磨面側の表面の水接触角が80度以下である、前記研磨パッド。
【請求項2】
研磨層が連続気泡を有する、請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
研磨層を構成する樹脂が、湿式成膜された樹脂である、請求項1又は2に記載の研磨パッド。
【請求項4】
研磨層を構成する樹脂が、複数の涙形状気泡を有する樹脂である、請求項1~3のいずれか1項に記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記透光性部材の研磨面側とは反対の表面の水接触角が80度超である、請求項1
~4のいずれか1項に記載の研磨パッド。
【請求項6】
380nm~780nmの波長の光を透光性部材に照射したときの可視光線透過率が、60%以上である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の研磨パッド。
【請求項7】
前記研磨面が溝を有する、請求項1~
6のいずれか1項に記載の研磨パッド。
【請求項8】
前記溝がエンボス溝である、請求項
7に記載の研磨パッド。
【請求項9】
前記研磨面を上面としその反対面を下面とした場合に、前記透光性部材の最上部が前記溝の最下部と同じ位置にあるかそれよりも低い、請求項
7又は
8に記載の研磨パッド。
【請求項10】
研磨パッドの研磨面側から研磨パッド厚さ方向に見た場合の前記貫通孔の形状が円形である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の研磨パッド。
【請求項11】
前記研磨層が有する貫通孔を第1貫通孔とするとき、前記研磨パッドは、前記第1貫通孔よりも小さい円相当径を有する第2貫通孔を有する他の層を更に含み、
前記他の層は、前記研磨層の研磨面とは反対側に位置しており、
前記研磨パッドを研磨表面側から厚さ方向に見た場合に、前記第1貫通孔と前記第2貫通孔とが少なくとも部分的に重なっており、
研磨パッドの研磨面側から研磨パッド厚さ方向に見た場合に、前記透光性部材が前記第1貫通孔内に存在するように前記透光性部材が配置されている、請求項1~
10のいずれか1項に記載の研磨パッド。
【請求項12】
研磨層と、少なくとも一面の水接触角が80度以下である透光性部材とを用意する工程、
研磨層に貫通孔を設ける工程、及び
研磨パッドの研磨面側から研磨パッド厚さ方向に見た場合に、前記透光性部材が貫通孔内に存在するように前記透光性部材を配置する工程、ここで前記透光性部材の前記一面が研磨面側になるように配置されている、
を含む、請求項1~
11のいずれか1項に記載の研磨パッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッド及びその製造方法に関し、特に光透過領域を有する化学機械研磨(CMP)用研磨パッド及びその製造方法に関する。より具体的には、光学的に研磨終点が検出可能な終点検出用窓を備えた研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程(特に、多層配線形成工程における層間絶縁膜の平坦化、金属プラグ形成、又は、埋め込み配線形成)において化学機械研磨(以下、「CMP」という)法が利用されている。CMPは、ウエハの被研磨面を研磨パッドの研磨面に押し付けた状態で、砥粒が分散されたスラリーを用いて研磨する技術である。CMPに用いる研磨パッドは、硬質研磨パッドと軟質研磨パッドに大別され、硬質研磨パッドはウレタンプレポリマーを含む硬化性組成物を金型に注型し硬化させる乾式成形法が、軟質研磨パッドはウレタン樹脂溶液を凝固浴で成膜し乾燥する湿式成膜法が主流である。近年、被研磨物の低欠陥性、段差解消性が高度に要求されるようになり、仕上げ研磨工程等に軟質研磨パッドを利用するケースが増えている。
近年、半導体素子の多層化、高精細化が飛躍的に進み、半導体素子の歩留まり及びスループット(収量)の更なる向上が要求され、研磨パッドに対してはディフェクトフリーとともに、ディッシングのない高平坦化性が要望されている。これらの要求を満たして高精度のCMPを行うためには、研磨終点の判定が必要となり、希望の表面特性や平面状態に到達した時点を検知しなければならず、光学的測定による終点の検出が行われてきている。
【0003】
光学的測定は、研磨パッドに設けた測定用の窓を通して、ウエハの表面を観測する方法である。光学的測定のために研磨パッドに測定用の窓を設ける場合、研磨パッドは一般的に透明でないため、窓とする部分に研磨パッドとは材質の異なる透明材料を配置する必要がある。この透明材料は、研磨中に表面が傷ついたり、スラリーが研磨領域と透明材料との隙間から漏れ出すことで透明材料の裏面が結露したりと、様々な要因によって光透過率が低下する。このため、研磨初期から研磨終盤まで研磨終点の判定を高精度に維持することが困難となる。また、仕上げ研磨工程等に軟質研磨パッドを使用した場合、ウエハに研磨パッドを押し付けると窓が研磨表面に突出してしまい、この突出した研磨能力を持たない窓がウエハに当たることで、研磨傷を引き起こす可能性もある。
【0004】
光透過率低下の問題を解決するための研磨パッドとして、特許文献1には、光透過領域の裏面を親水化処理することで、スラリーが研磨領域と光透過領域との継ぎ目から光透過領域の裏面側に漏れ出した場合でも、スラリー由来の水分が光透過領域の裏面に結露するのを防止し、光透過率の低下を防ぐ研磨パッドが提案されている。
同じく、特許文献2には、光透過領域を光硬化接着剤によって研磨基体に設けられた貫通孔の内壁に接着させて固定することにより、研磨中にスラリーが隙間から漏れることを防止できる研磨パッドが提案されている。
特許文献3には、サンドブラスト処理を施すなどして光透過領域の研磨面側の表面を粗面化処理で予め粗面化にすることで、研磨初期から研磨終盤にかけて光透過率の低下に伴う終点検出エラーの発生を防ぐ研磨パッドが提案されている。
【0005】
また、傷の問題を改善する研磨パッドとして、特許文献4には、窓表面を研磨層の研磨表面より下げて凹部を持たせることにより、窓がウエハに当たることがなく、窓表面が傷つくことを防いだり、ウエハに研磨傷を低減できる研磨パッドが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-221367号公報
【文献】特開2004-343090号公報
【文献】特許第4931133号公報
【文献】特開2014-104521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2の研磨パッドは、いずれも透光性部材の側面や裏面に漏れ出して生じる結露の問題を解決することに焦点を当てたものであり、透光性部材の表面にスラリーが存在するか否かに起因する光透過率のバラツキには着目していない。
特許文献3の研磨パッドについても同様に、透光性部材の表面にスラリーが存在するか否かに起因する光透過率のバラツキには着目していない。また、特許文献3の研磨パッドは、窓表面を荒らしてしまうため、そもそも高い光透過率を得ることが難しく、また、研磨中のスラリーや砥粒、ドレッシングなどによる窓表面の荒れ方はそれぞれ異なるため、常に光透過率を一定に保つことが困難という問題もある。
特許文献4の研磨パッドは、凹部を有するため、当該凹部に入り込んだスラリーの多くが遠心力により凹部側面に移動した後、研磨面に設けられた溝から排出され、特に軟質研磨パッドへ応用した場合には軟質な研磨層によるスラリーの流動が起こりやすく、透光性部材に光を照射した際に透光性部材の表面にスラリーが存在するときとそうでないときとが生じやすくなる。しかしながら、引用文献4は、この問題を認識しておらず、どのように解決するのかについても言及されていない。
【0008】
本発明は、以上に鑑みてなされたものであり、透光性部材の表面にスラリーが存在することに起因する光透過率のバラツキを抑えることができる研磨パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、透光性部材の表面にスラリーが存在する場合と存在しない場合で光透過率が異なり、これが光透過率にバラツキをもたらし、高精度な研磨終点判定を難しくしていることを見出し、透光性部材の研磨面側の表面の水接触角を小さくすることによって当該問題を解決し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下を提供する。
【0010】
〔1〕 透光性部材及び研磨層を有する研磨パッドであって、
前記研磨層は、被研磨物を研磨するための研磨面を備え、前記研磨パッドは前記研磨面からその反対面へと貫通している貫通孔を有しており、
前記透光性部材は、研磨パッドの研磨面側から研磨パッド厚さ方向に見た場合に、貫通孔内に透光性部材が存在するように配置されており、且つ
前記透光性部材の研磨面側の表面の水接触角が80度以下である、前記研磨パッド。
〔2〕 前記研磨面を上面としその反対面を下面とした場合に、前記透光性部材の最上部が前記研磨面よりも低い、〔1〕に記載の研磨パッド。
〔3〕 前記透光性部材の研磨面側とは反対の表面の水接触角が80度超である、〔1〕又は〔2〕に記載の研磨パッド。
〔4〕 380nm~780nmの波長の光を透光性部材に照射したときの可視光線透過率が、60%以上である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の研磨パッド。
〔5〕 前記研磨面が溝を有する、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の研磨パッド。
〔6〕 前記溝がエンボス溝である、〔5〕に記載の研磨パッド。
〔7〕 前記研磨面を上面としその反対面を下面とした場合に、前記透光性部材の最上部が前記溝の最下部と同じ位置にあるかそれよりも低い、〔5〕又は〔6〕に記載の研磨パッド。
〔8〕 研磨パッドの研磨面側から研磨パッド厚さ方向に見た場合の前記貫通孔の形状が円形である、〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の研磨パッド。
〔9〕 前記研磨層が有する貫通孔を第1貫通孔とするとき、前記研磨パッドは、前記第1貫通孔よりも小さい円相当径を有する第2貫通孔を有する他の層を更に含み、
前記他の層は、前記研磨層の研磨面とは反対側に位置しており、
前記研磨パッドを研磨表面側から厚さ方向に見た場合に、前記第1貫通孔と前記第2貫通孔とが少なくとも部分的に重なっており、
研磨パッドの研磨面側から研磨パッド厚さ方向に見た場合に、前記透光性部材が前記第1貫通孔内に存在するように前記透光性部材が配置されている、〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載の研磨パッド。
〔10〕 研磨層と、少なくとも一面の水接触角が80度以下である透光性部材とを用意する工程、
研磨層に貫通孔を設ける工程、及び
研磨パッドの研磨面側から研磨パッド厚さ方向に見た場合に、前記透光性部材が貫通孔内に存在するように前記透光性部材を配置する工程、ここで前記透光性部材の前記一面が研磨面側になるように配置されている、
を含む、〔1〕~〔9〕のいずれか1項に記載の研磨パッドの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光透過率のバラツキを抑えることができる研磨パッドを提供することができる。これにより、研磨終点判定を高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一態様の研磨パッドの研磨面より厚さ方向に見た斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の一態様の研磨パッドの厚さ方向略断面(切断部端面)図である。
【
図3】
図3は、本発明の一態様の研磨パッドの厚さ方向略断面(切断部端面)図である。
【
図4】
図4は、本発明の一態様の研磨パッドの厚さ方向略断面(切断部端面)図である。
【
図5】
図5は、本発明の一態様の研磨パッドの厚さ方向略断面(切断部端面)図である。
【
図6】
図6は、本発明の一態様の研磨パッドの厚さ方向略断面(切断部端面)図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0014】
<<研磨パッド>>
本発明の研磨パッドは、透光性部材及び研磨層を有する研磨パッドであって、前記研磨層は、被研磨物を研磨するための研磨面を備え、前記研磨パッドは前記研磨面からその反対面へと貫通している貫通孔を有しており、前記透光性部材は、研磨パッドの研磨面側から研磨パッド厚さ方向に見た場合に、貫通孔内に透光性部材が存在するように配置されており、且つ前記透光性部材の研磨面側の表面の水接触角が80度以下である、前記研磨パッドである。
【0015】
本明細書及び特許請求の範囲において、研磨層とは、半導体デバイスなどの被研磨物を研磨する際に被研磨物と接触して研磨を行う表面(研磨面)を有する層である。被研磨物に特に制限はなく、例えば、複数のメモリダイまたはプロセッサダイを含む製品基板、試験基板、ベア基板、及びゲート基板などが挙げられる。基板は、集積回路製造の様々な段階のものとすることができ、たとえば、基板はベアウエハとすることができ、あるいは1つまたは複数の堆積層及び/又はパターン形成層とすることができる。
【0016】
<透光性部材>
本発明の研磨パッドは、透光性部材、即ち窓部材を有する。透光性部材を通して被研磨物に光を照射することにより、被研磨物が希望の表面特性や平面状態に到達した時点を検出することができる。光学的終点検出には、可視光(白色光)のレーザーやランプ等を用いる。
透光性部材は、研磨パッドの研磨面側から研磨パッド厚さ方向に見た場合に、貫通孔内に透光性部材が存在するように配置されている。ここで、「研磨パッドの研磨面側から研磨パッド厚さ方向に見た場合に、貫通孔内に透光性部材が存在するように配置されている」とは、研磨パッドの研磨面から厚さ方向に貫通孔内を見た場合に、透光性部材が確認できるように配置されていることを意図したものであり、(1)
図2~3のように透光性部材が研磨層に設けられた貫通孔の側面(側壁)に接する(又は接着する)ようにして配置されている場合や、(2)
図4のように研磨層の下層に研磨層の有する貫通孔の円相当径よりも小さい円相当径を有する貫通孔を有する他の層を設け、研磨層の貫通孔と他の層の貫通孔のサイズの差から生じる露出部7上に透光性部材を配置する場合や、(3)
図5のように透光性部材を研磨層と他の層との間に挟み込み、透光性部材の一部が貫通孔内に露出するように配置されている場合や、(4)
図6のように研磨層と他の層の両方に貫通孔を設け、そのいずれか又は両方の貫通孔の側面と接する(又は接着する)ようにして透光性部材が配置されている場合を含む概念である。これらの中でも、(1)、(2)又は(4)が好ましく、(1)又は(2)がより好ましく、(2)がさらにより好ましい。
【0017】
透光性部材としては、透明樹脂部材であることが好ましい。透明樹脂部材としては、光を透過させる程度の透明性を備えている限り特に制限はなく、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、及びアクリル樹脂などの熱硬化性樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース系樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ハロゲン系樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、ポリスチレン樹脂、及びオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)などの熱可塑性樹脂、ブタジエンゴムやイソプレンゴムなどのゴム、紫外線や電子線などの光により硬化する光硬化性樹脂、及び感光性樹脂などを用いることが出来る。これらの中でも、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂が好ましく、アクリル樹脂がより好ましい。
【0018】
透光性部材は、研磨面側の表面が、親水化処理されていることが好ましい。透光性部材は、研磨面側の表面だけではなく、研磨面とは反対側の面(裏面)や側面も親水化処理されていてもよいが、裏面や側面をも親水化することはコストの増加につながる一方で、裏面や側面の親水化は本発明の効果と関係がないため、研磨面側の表面のみが、親水化処理されていることが好ましい。研磨面側の表面を親水化処理することにより、研磨面側の表面の水接触角が80度以下の透光性部材を得やすくなる。
親水化処理する手段としては、例えばプラズマ処理、紫外線照射処理などの物理化学的処理、ロールブラスト処理、エンボス処理などの機械的処理、化学薬品処理や表面グラフト化処理などの化学的処理などが挙げられる。これらの中でも、プラズマ処理又はロールブラスト処理が好ましく、プラズマ処理がより好ましい。
プラズマ処理とは、高圧電源を用いて、電極と呼ばれるロッドから出るプラズマビームで材料表面を叩く処理である。材料の表面はビームにより放出されたイオンや電子が樹脂表面の分子の化学結合を切断し、樹脂の種類に応じて親水性の官能基(OH(水酸基)、CO(カルボニル基)、COOH(カルボキシル基)等)が生成される。
ロールブラスト処理とは、砥粒の付いたロールを高速回転させ表面改質を行う処理である。
【0019】
本発明の研磨パッドは、研磨面を上面としその反対面を下面とした場合に、透光性部材の最上部が研磨面と同じ高さにあってもよく研磨面より低くてもよいが、研磨面よりも低いことが好ましい(
図2)。透光性部材の最上部が研磨面よりも低いことにより、研磨層よりも硬い透光性部材に起因する研磨傷の発生を防ぐことができる。また、透光性部材の最上部が研磨面よりも低いと、透光性部材と貫通孔の側面で囲まれた凹部にスラリーが入り込み、その多くは遠心力により貫通孔側面に移動し溝を介して排出されるため、少量のスラリーが透光性部材の表面に残っている場合と残っていない場合が生じやすくなる。しかしながら、従来の研磨パッドを用いた場合には、少量のスラリーが透光性部材に残っている場合と残っていない場合とで光透過率に差が出るため、研磨終点を高精度に判定することが難しい。これに対し、本発明の研磨パッドは、透光性部材の表面を親水性とすることでスラリーとの馴染みがよくなり、少量のスラリーが存在するような場合でも窓表面に均一に広がることで、研磨初期から終盤まで光透過率の変動が少なくなり、透光性部材の最上部が研磨面よりも低い位置にあっても、特に透光性部材の最上部4’が溝の最下部8’と同じ位置にあるかそれよりも低い位置にあっても、研磨終点を高精度に判定することができる。
【0020】
(水接触角)
本発明の研磨パッドは、透光性部材の研磨面側の表面の水接触角が80度以下である。水接触角は、5~80度であることが好ましく、5~50度であることがより好ましく、5~30度であることがさらにより好ましく、5~20度であることがさらにより好ましい。水接触角が上記範囲内であると、透光性部材の表面にスラリーが存在するか否かに起因する光透過率のバラツキを抑えることができる。これにより、より高精度な研磨終点の判定が可能となる。
従来の研磨パッドで使用されている窓部材は、一般に水接触角が80度超である。80度以下の親水性を持つ窓を用いた場合、スラリーによって窓が膨潤、変形し、研磨領域から剥がれ落ちたり、スラリー漏れを引き起こす可能性がある。そのため、窓部材は水接触角が80度超の疎水性が好ましく、本発明ではその研磨面側の表面だけを水接触角が80度以下になるよう親水化処理を行うことが好ましい。本発明において、透光性部材の研磨面側の表面の水接触角を80度以下とする方法に特に制限はないが、研磨面側の表面を親水化処理して研磨面側の表面の水接触角を80度以下としたものを用いることが好ましい。親水化処理手段としては、上記のものが挙げられる。
透光性部材としては、研磨面側の表面の水接触角が80度以下であればよく、裏面や側面の水接触角に特に制限はない。従って、裏面や側面の水接触角は80度超であってよい。すなわち、透光性部材の裏面や側面は、親水化処理が施されていなくてもよい。
【0021】
(透過率)
本発明の研磨パッドは、380nm~780nmの波長の光を透光性部材に照射したときの可視光線透過率(本明細書において、単に光透過率ということがある)が、60%以上であることが好ましく、62%以上であることがより好ましく、65%以上であることがさらにより好ましく、70%以上がさらにより好ましく、75%以上であることがさらにより好ましく、80%以上であることがさらにより好ましく、85%以上であることがさらにより好ましい。
本発明の研磨パッドは、透光性部材の表面に水を付着させたときの前記光透過率が、60%以上であることが好ましく、62%以上であることがより好ましく、65%以上であることがさらにより好ましく、70%以上がさらにより好ましく、75%以上であることがさらにより好ましく、80%以上であることがさらにより好ましい。
本発明の研磨パッドは、透光性部材の表面に水を付着させていないときの前記光透過率が、60%以上であることが好ましく、62%以上であることがより好ましく、65%以上であることがさらにより好ましく、70%以上がさらにより好ましく、75%以上であることがさらにより好ましく、80%以上であることがさらにより好ましく、85%以上であることがさらにより好ましい。
本発明の研磨パッドは、透光性部材の表面に水を付着させていないときの前記光透過率と透光性部材の表面に水を付着させたときの前記光透過率との差が、30%以内であることが好ましく、20%以内であることがより好ましく、15%以内であることがさらにより好ましく、10%以内であることがさらにより好ましく、8%以内であることがさらにより好ましく、6%以内であることがさらにより好ましく、5%以内であることがさらにより好ましい。光透過率の差が上記範囲内であることにより、透光性部材の表面にスラリーがある場合とない場合との間で光透過率の差が生じにくくなり、研磨終点の判定を高精度に行うことが出来る。
光透過率の測定は、分光光度計で波長300~1000nmの透過スペクトルを測定し、日本工業規格(JIS A5759:2008)の可視光線透過率(%)として求めることが出来る。すなわち、各波長 380~780nmの範囲の各波長の透過率を測定し、CIE(国際照明委員会)昼光 D65の分光分布,CIE 明順応標準比視感度の波長分布及び波長間隔から得られる重価係数を各波長での透過率に乗じて加重平均することによって求められる透過率である。
また、透光性部材の表面に水を付着させたときの光透過率の測定は、スプレーにより十分量(例えば、9mm×50mmの大きさに切り出した透光性部材に対して、0.01~0.03mL程度)の水を透光性部材の研磨面側の表面全体に付着させた後、透光性部材を地面に対して垂直にして60秒間静置することで水切りを行った透光性部材を用いて行うことが出来る。
【0022】
(貫通孔)
貫通孔は、研磨パッドの研磨面側から研磨パッド厚さ方向に見た場合に、研磨面からその反対面へと貫通している孔である。貫通孔は、厚み方向に対して平行に又は研磨面に対して垂直に研磨層を貫通していることが好ましい。
貫通孔は研磨層中に1個設けられていてもよく、互いに離間し且つ独立している2個以上の貫通孔が設けられていてもよい。
研磨パッドの研磨面側から研磨パッド厚さ方向に見た場合の貫通孔の形状又は研磨面における貫通孔の形状としては、円形、楕円形、三角形、四角形、六角形、八角形等が挙げられる。或いは、同一又は異なる複数の上記形状が互いに部分的に重なり合った形状であってもよい。これらの中でも、研磨屑が溜りやすい隅部を形成しない円形が特に好ましい。
【0023】
(円相当径)
本明細書及び特許請求の範囲において、円相当径とは、測定対象の図形が有する面積に相当する、真円の直径のことである。
貫通孔の円相当径は、研磨パッドの研磨面側から研磨パッド厚さ方向に見たときの貫通孔の円相当径であり、研磨パッドの研磨面側から研磨パッド厚さ方向に見た時の貫通孔の形状が円形である場合は直径に相当する。
貫通孔の円相当径に特に制限はないが、5~40mmが好ましく、5~30mmがより好ましく、10~28mmがさらにより好ましい。
また、研磨面における貫通孔の面積は、研磨面の全面積に対して0.003~0.5%であることが好ましく、0.004~0.4%であることがより好ましく、0.003~0.3%であることがさらにより好ましい。
【0024】
(研磨層の構成)
研磨層を構成する樹脂としては、ポリウレタン、ポリウレタンポリウレア等のポリウレタン系樹脂;ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル等のアクリル系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリフッ化ビニリデン等のビニル系樹脂;ポリサルホン、ポリエーテルサルホン等のポリサルホン系樹脂;アセチル化セルロース、ブチリル化セルロース等のアシル化セルロース系樹脂;ポリアミド系樹脂;及びポリスチレン系樹脂などが挙げられる。これらの中でも、圧縮特性や柔軟性を考慮すれば、ポリウレタン樹脂がより好ましい。
研磨層は1種類の樹脂から構成されていてもよく、2種以上の樹脂から構成されていてもよい。
また、研磨層は連続気泡を有するものが好ましい。ここでいう連続気泡とは隣り合う気泡同士が互いに連通孔によりつながった空間を有する発泡を示す。具体的には湿式成膜法による樹脂や乾式成形、射出成形によるフォームでよい。好ましくは湿式成膜法によるもので、良好な屈伸運動が期待できる。
本明細書において、湿式成膜法による樹脂とは、湿式成膜法により成膜された樹脂(好ましくはポリウレタン樹脂)を意味する。湿式成膜法は、成膜する樹脂を有機溶媒に溶解させ、その樹脂溶液をシート状の基材に塗布後に凝固液中に通して樹脂を凝固させる方法である。湿式成膜された樹脂は、一般に、複数の涙形状(teardrop-shaped)気泡(異方性があり、研磨パッドの研磨面から底部に向けて径が大きい構造を有する形状)を有する。従って、湿式成膜された樹脂は、複数の涙形状気泡を有する樹脂と言い換えることもできる。複数の涙形状気泡は連続気泡の形態であることが好ましい。
【0025】
(溝)
本発明の研磨パッドは、研磨層の研磨面に溝が設けられていることが好ましい。溝は研磨層を貫通しておらず、貫通孔と区別することができる。
溝としては、研磨面にエンボス加工を施すことで得られるエンボス溝、切削工具により切削加工を施すことで得られる切削溝が挙げられる。これらの中でもエンボス溝が好ましい。エンボス溝などの溝を設けることにより、研磨面にバリが出にくく、仕上げ研磨に適した研磨パッドを得ることができる。
溝の深さは研磨層の厚みよりも小さい限り特に制限はないが、研磨層の厚みの50~90%であることが好ましく、60~80%であることがより好ましい。被研磨物の研磨により溝が消失すると研磨スラリーの流排出性が失われ研磨性能が低下するため研磨パッドは寿命となることから、溝深さは深いことが好ましい。他方、エンボス溝の溝深さを大きくするためには加工圧力を上げる、或いは加工温度を上げる必要があり、それにより研磨層裏面の基材(PET)が変形したり、研磨層表面が劣化する可能性がある。溝の深さが上記範囲内であると、これらの問題が生じにくい。
溝の断面形状は特に限定されず、円弧状であってもよく、U字状、V字状、矩形状、台形状及びその他の多角形状であってもよく、これら2種以上の形状の組み合わせであってもよい。また、溝の数や形状も特に制限はなく、研磨パッドの使用目的などに合わせて適宜溝数や形状を調整すればよい。形状としては、格子状、放射状、同心円状、ハニカム状などが挙げられ、それらを組み合わせてもよい。
また、本発明の研磨パッドは、研磨層の表面を研削(バフ処理)により開口していてもよく、スライスしていてもよい。
【0026】
本発明の研磨パッドは、研磨面を上面としその反対面を下面とした場合に、透光性部材の最上部4’が溝の最下部8’より高い位置にあっても、最下部8’と同じ位置にあっても、最下部8’より低い位置にあってもよいが、溝の最下部8’と同じ位置にあるかそれよりも低い位置にあることが好ましく、透光性部材の最上部4’が溝の最下部8’よりも低い位置にあることがより好ましい。研磨パッドは、一般に研磨面に設けられた溝がなくなるまで研磨するとその寿命を終えるが、透光性部材の最上部が溝の最下部と同じ位置にあるかそれよりも低いと、溝がなくなるまで研磨パッドを使用することができる。
また、従来の研磨パッドは、透光性部材の最上部4’を溝の最下部8’と同じ位置にあるかそれよりも低い位置にすると、スラリーや研磨屑が溝から排出されにくくなるため、経時的に光透過率が低下するという問題が生じ得る。これに対し、本発明の一態様の研磨パッド(
図4の研磨パッド)は、第1貫通孔内の凹部に入り込んだスラリーや研磨屑が研磨加工中の遠心力により第1貫通孔の側面に移動し、円相当径の小さい第2貫通孔からは見えにくくなるため、光透過率の低下を防ぐことが出来る。さらに、大部分のスラリーが凹部の側面に移動した後、少量のスラリーのみが透光性部材の表面に存在していたとしても、スラリーによる光透過率の低下が生じにくいため、安定した光検出が可能となる。
【0027】
(ショアA硬度)
本明細書において、ショアA硬度とは、日本工業規格(JIS K7311)に準じて測定した値を意味する。
本発明の研磨パッドは、研磨層のショアA硬度が、5~70度(°)であることが好ましく、8~65度であることがより好ましい。研磨層のショアA硬度が上記範囲内であると、研磨屑が被研磨物に過度に接触されることが抑制されるため、スクラッチが発生しにくくなる。
また、本発明の研磨パッドは、研磨層が透光性部材よりも軟質であることが好ましく、透光性部材よりもショアA硬度が低いことがより好ましい。
【0028】
(圧縮率及び圧縮弾性率)
本明細書において、圧縮率とは、軟らかさの指標であり、圧縮弾性率とは、圧縮変形に対する戻りやすさの指標である。
圧縮率及び圧縮弾性率は、日本工業規格(JIS L1021)に従い、ショッパー型厚さ測定器(加圧面:直径1cmの円形)を使用して求めることが出来る。具体的には、以下の通りである。
無荷重状態から初荷重を30秒間かけた後の厚さt0を測定し、次に、厚さt0の状態から最終荷重を5分間かけた後の厚さt1を測定する。次に、厚さt1の状態から全ての荷重を除き、5分間放置(無荷重状態とした)後、再び初荷重を30秒間かけた後の厚さt0’を測定する。
圧縮率は、圧縮率(%)=100×(t0-t1)/t0の式で算出することができる(なお、初荷重は100g/cm2、最終荷重は1120g/cm2である)。
圧縮弾性率は、圧縮弾性率(%)=100×(t0’-t1)/(t0-t1)の式で算出することが出来る(なお、初荷重は100g/cm2、最終荷重は1120g/cm2である)。
研磨層の圧縮率は、1~60%が好ましく、3~50%がより好ましい。研磨層の圧縮弾性率は、50~100%であることが好ましく、60~98%であることがより好ましい。圧縮率及び圧縮弾性率が上記範囲内であると、貫通孔上を被研磨物が通過する際に研磨層が圧縮され、また、被研磨物によって押し込まれた後の回復性に優れるため、研磨層の屈伸運動により貫通孔内部でスラリーの流れができ、貫通孔内にスラリーが留まることなく循環し、スラリーと共に貫通孔内に入った研磨屑が圧縮・回復の動作で貫通孔外に排出されやすくなる。これにより、貫通孔内に研磨屑が堆積することが防ぎやすくなる。
【0029】
(厚み)
厚みは、日本工業規格(JIS K6505)に従い、ショッパー型厚さ測定器(加圧面:直径1cmの円形)を使用して求めることが出来る。具体的には、以下の通りである。
縦、横10cm角の試料を準備する。試料の表面を上にして測定器に載せる。荷重100g/cm2をかけた加圧面を試料上に下し、5秒後の厚さを測定する。1枚につき5ヶ所測定しその平均値を厚さとする。なお、10cm角の試料が取れない場合は5ヶ所の平均とする。
研磨層の厚みに特に制限はないが、0.5~2mmであることが好ましく、0.75~1.55mmがさらにより好ましい。
【0030】
(研磨層以外の層)
本発明の研磨パッドは、研磨層以外の層(他の層)を有していてもよい。他の層は、研磨層の研磨面とは反対側の面に1層または2層以上存在してもよい。他の層は、研磨層と同様に貫通孔を有する。
また、研磨層の貫通孔と他の層の貫通孔の形状は、同じであってもよく、異なっていてもよいが、研磨パッドを研磨面側から厚さ方向に見た場合に、研磨層の貫通孔と他の層の貫通孔とが少なくとも部分的に重なっていることが好ましい。これにより、透光性部材に光を照射した場合に光が透光性部材を透過する。
【0031】
本発明の1態様として、研磨パッドが他の層を有する場合、研磨層に存在する貫通孔(第1貫通孔)よりも小さい円相当径を有する貫通孔(第2貫通孔)を有する他の層を有していてもよい(
図4)。他の層は、研磨層の研磨面とは反対側に位置する層である。
この態様の研磨パッドは、研磨面側から厚さ方向に見た場合に、第1貫通孔と第2貫通孔とが少なくとも部分的に重なっていることが好ましい。また、研磨パッドの研磨面側から研磨パッド厚さ方向に見た場合に、透光性部材が第1貫通孔内に存在するように前記透光性部材が配置されていることが好ましい。
【0032】
この態様の研磨パッドは、研磨パッドの研磨面側から厚さ方向に見た場合に、第1貫通孔5の外周部が第2貫通孔6の外周部の一部又は全部を覆うようにして設けられていることが好ましく、第1貫通孔5の外周部が第2貫通孔6の外周部の全部を覆うようにして設けられていることがより好ましく、第1貫通孔5及び第2貫通孔6がともに円柱形状であり、第1貫通孔5の円柱中心軸と第2貫通孔6の円柱中心軸とが一致することがさらにより好ましい(
図4参照)。
【0033】
ここで、研磨面側から厚さ方向に見た場合に、第1貫通孔と第2貫通孔が少なくとも部分的に重なっているとは、研磨面側から厚さ方向に見た場合に、第1貫通孔の開孔位置と第2貫通孔の開孔位置とが少なくとも部分的に一致していることをいう。この態様の研磨パッドは、厚さ方向に見た場合に、第1貫通孔の開孔位置と第2貫通孔の開孔位置とが少なくとも部分的に一致しているため、第1貫通孔と第2貫通孔とが研磨パッドの厚さ方向につながっている。研磨面側から厚さ方向に見た場合に第1貫通孔と第2貫通孔の位置が少なくとも部分的に重なっていることにより、第1貫通孔内に設けられた透光性部材を介して第2貫通孔側から第1貫通孔側へと光を透過させることができ、研磨加工中の被研磨物の表面状態を光学的に検知することができる。
【0034】
この態様の研磨パッドは、研磨パッドの研磨面側から研磨パッド厚さ方向に見た場合に、透光性部材4が第1貫通孔5内に存在するように前記透光性部材が配置されていることが好ましい。また、透光性部材4は第1貫通孔5内に設けられていることが好ましい。
ここで、研磨パッドの研磨面側から研磨パッド厚さ方向に見た場合に、透光性部材が第1貫通孔内に存在するように前記透光性部材が配置されているとは、研磨パッドの研磨面側から研磨パッド厚さ方向に第1貫通孔内を見た場合に、透光性部材が確認できることをいう。
また、第1貫通孔5は、研磨パッド1を研磨面側から厚さ方向に見た場合に、他の層3の一部(以下、他の層の露出部7という)と第2貫通孔6の少なくとも一部とが露出されるように配置されることが好ましい。これにより、透光性部材4を、第1貫通孔5内であって且つ他の層3の第2貫通孔6及び露出部7上に配することができる。好ましくは、第1貫通孔5は、第1貫通孔5を研磨面側から見た場合に、他の層3の一部と第2貫通孔6の全てとが露出されるように配置される。また、透光性部材4は、第1貫通孔5内に設けられ、且つ他の層3の露出部7と接着されていることが好ましい。
図4を参照すると、本発明の研磨パッド1の厚さ方向断面において、第1貫通孔5は、第2貫通孔6と露出部7上にある研磨層2に設けられている。なお、露出部7を備える他の層3と研磨層2との間に更なる他の層を有していてもよく、この場合、更なる他の層に存在する貫通孔は研磨層2の貫通孔(第1貫通孔)と同一の断面形状(研磨面と水平方向の断面形状)を有し、研磨面から厚さ方向に見た場合に第1貫通孔5と完全に重なっていることが好ましい。透光性部材4は、第2貫通孔6と露出部7上であって且つ研磨層2の第1貫通孔5と更なる他の層の貫通孔の内部に配置されていることが好ましい。
【0035】
第2貫通孔は他の層中に1個設けられていてもよく、互いに離間し且つ独立している2個以上の貫通孔が設けられていてもよい。第1貫通孔の個数と第2貫通孔の個数は等しいことが好ましい。複数の第1貫通孔と複数の第2貫通孔が設けられている場合、各第1貫通孔は、他の層に設けられた各第2貫通孔とその露出部上に設けられていることが好ましい。
【0036】
第2貫通孔は、厚み方向に対して平行に又は研磨面に対して垂直に他の層を貫通していることが好ましい。
本発明の研磨パッドは、厚さ方向に対して垂直に切断した場合の第1貫通孔の断面形状と第2貫通孔の断面形状とが同じ形状を有していても異なる形状を有していてもよいが、同じ形状を有することが好ましい。
研磨パッドの研磨面側から研磨パッド厚さ方向に見た場合の第2貫通孔の形状、研磨パッドの厚さ方向に対して垂直に切断した場合の第2貫通孔の断面形状、及び/又は他の層表面における第2貫通孔の形状としては、円形、楕円形、三角形、四角形、六角形、八角形やこれらの形状が複合された形状等が挙げられる。或いは、同一又は異なる複数の上記形状が互いに部分的に重なり合った形状であってもよい。これらの中でも、円形が特に好ましい。
【0037】
(円相当径)
本明細書及び特許請求の範囲において、第2貫通孔の円相当径は、研磨パッドの研磨面側から研磨パッド厚さ方向に見たときの第2貫通孔の円相当径であり、研磨パッドの研磨面側から研磨パッド厚さ方向に見た時の第2貫通孔の形状が円形である場合は直径に相当する。
第1貫通孔の円相当径は第2貫通孔の円相当径より大きいことが好ましい。第1貫通孔の円相当径が第2貫通孔の円相当径より大きい限り第2貫通孔の円相当径に特に制限はないが、第2貫通孔の円相当径は1~20mmが好ましく、2~18mmがより好ましく、5~15mmがさらにより好ましい。また、第1貫通孔の円相当径と第2貫通孔の円相当径との差に特に制限はないが、第1貫通孔の円相当径が第2貫通孔の円相当径より5~30mm大きいことが好ましく、6~25mm大きいことがより好ましく、7~20mm大きいことがさらにより好ましい。
また、研磨パッドの研磨面側から厚さ方向に見た場合に、第1貫通孔の外周部が第2貫通孔の外周部の全部を覆うようにして設けられており、且つ第1貫通孔の円相当径が第2貫通孔の円相当径よりも5~30mm大きいことが好ましく、6~25mm大きいことがより好ましく、7~20mm大きいことがさらにより好ましく、8~20mm大きいことがさらにより好ましく、9~20mm大きいことがさらにより好ましく、10~20mm大きいことがさらにより好ましい。
また、研磨パッドの研磨面側から厚さ方向に見た場合に、第1貫通孔の外周部が第2貫通孔の外周部の全部を覆うようにして設けられており、且つ第1貫通孔の円相当径が、第2貫通孔の円相当径の1.5~4倍であることが好ましく、2~4倍であることがより好ましく、2.5~3倍であることがさらにより好ましい。
【0038】
また、研磨パッドの研磨面側から研磨パッド厚さ方向に見たときに、第2貫通孔の外周部と第1貫通孔の外周部との最短距離(すなわち、第2貫通孔の外周部の任意の点と第1貫通孔の外周部の任意の点との間の最短距離)が0より大きいことが好ましく、最短距離が2~15mmであることがより好ましく、最短距離が3~12mmであることがさらにより好ましく、最短距離が4~10mmであることがさらに好ましい。
第1貫通孔と第2貫通孔との大きさの違いが上記範囲内であると、第1貫通孔内の凹部に入り込んだスラリーや研磨屑は研磨加工中の遠心力により第1貫通孔の外周側に移動し、円相当径の小さい第2貫通孔からは見えにくくなるため、透光性部材に光を照射した際に研磨屑による光路の塞ぎを防ぐことが出来る。従って、優れた光透過率を維持することができ、研磨中に安定した終点検出の信号強度を得ることができる。また、露出部の面積が十分に広いため、透光性部材と他の層との接着強度を保つことができ、透光性部材の剥離を防止できる。
また、大部分のスラリーが凹部の側面に移動し、少量のスラリーのみが透光性部材の表面に存在していたとしても、本発明の研磨パッドはスラリーの有無による光透過率のバラツキが生じにくいため、安定した光検出が可能となる。
【0039】
また、他の態様として、本発明の研磨パッドが他の層を含む場合、シート状の透光性部材を研磨層と他の層との間に挟み込み、透光性部材の一部が貫通孔内に露出するように配置されていてもよい(
図5)。このとき、研磨面側から厚さ方向に見た場合に、他の層に存在する貫通孔(第2貫通孔)と研磨層に存在する貫通孔(第1貫通孔)とが少なくとも部分的に重なっていることが好ましく、完全に重なっていることがより好ましい。このとき、研磨層は、連通孔を持つ連続気泡を有することが好ましい。
研磨層が連通孔を持つ連続気泡を有すると、研磨層に設けた第1貫通孔の側面にも連続気泡が開くため、その一部が研磨表面又は溝領域まで連通する。これにより、研磨中に第1貫通孔内に入り込んだスラリーや研磨屑が、研磨加工時に発生する遠心力により第1貫通孔側面に移動し、連通孔を持つ連続気泡を通って研磨面や溝領域へと排出されるため、研磨屑が第1貫通孔内に蓄積することによる経時的な光透過率の低下を防ぐことができ、研磨パッドの長寿命化につながる。
【0040】
また、他の態様として、本発明の研磨パッドが他の層を含む場合、研磨層とその下層に設けた他の層の両方に貫通孔を設け、そのいずれか又は両方の貫通孔の側面(好ましくは他の層の側面)と接する(又は接着する)ようにして透光性部材を配置してもよい(
図6)。このとき、研磨面側から厚さ方向に見た場合に、他の層に存在する貫通孔(第2貫通孔)と研磨層に存在する貫通孔(第1貫通孔)とが少なくとも部分的に重なっていることが好ましく、完全に重なっていることがより好ましい。透光性部材は、第2貫通孔の側面に接着されていることが好ましい。また、透光性部材は、第1貫通孔内には存在しないことが好ましい。
透光性部材が他の層の第2貫通孔の側面に接着されていることにより、研磨に利用可能な研磨層の厚みが最大となり、ドレッシングや研磨中の摩耗により研磨面が削られても透光性部材が研磨面に突出することがなく、スクラッチの発生を低減することができる。一般に、研磨パッドの研磨層が軟質であればあるほど、研磨パッドがウエハに押し付けられることにより研磨パッドが沈み込み、透光性部材が突出してしまうリスクがあり、突出が生じた研磨パッドは被研磨物の研磨に用いることができなくなる。この態様の研磨パッドは、透光性部材の突出を防ぐことができるため、研磨パッドの長寿命化を図ることができる。また、透光性部材を研磨層に接合させず、第2貫通孔の側面に接着するように配置させると、第1貫通孔に入った研磨屑が溝や研磨表面に排出されやすくなるよう研磨層に伸縮機構を持たせたとしても、透光性部材の接着部で歪みが発生しにくく、これにより透光性部材の剥離を抑制することができる。
【0041】
(他の層の構成)
他の層を構成する材料としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン・プロピレン共重合体等のポリオレフィン系シート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系シート、塩化ビニル系シート、酢酸ビニル系シート、ポリイミド系シート、ポリアミド系シート、フッ素樹脂系シートや樹脂含浸不織布、不織布や織布等が挙げられる。また、他の層は、スラリーが内部に浸透しない非多孔質なシートであることが好ましい。これら中でも、スラリーが内部に浸透しない非多孔質なシートであって、物理的特性(例えば、寸法安定性、厚み精度、加工性、引張強度)、経済性等の観点から、他の層はポリエステル系シートがより好ましく、そのなかでもポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)製シートが特に好ましい。
他の層と研磨層とを貼り合わせる方法又は他の層と別の他の層とを貼り合わせる方法としては、例えば、片面又は両面に粘着剤を塗着したPETシート等のシートを他の層として用い、この粘着剤を介して他の層と研磨層又は別の他の層とを接着させることができる。粘着剤を塗着していないPETシート等のシートを他の層として用意し、これとは別に研磨層又は別の他の層と粘着剤とを用意して、粘着剤を介して他の層と研磨層又は別の他の層とを接着させることもできる。
【0042】
(利点)
本発明の研磨パッドは、透光性部材の研磨面側の表面の水接触角が80度以下であることにより、透光性部材の研磨面側の表面でのスラリーの有無が光透過率にほとんど影響を与えない。これにより、研磨終点を高精度に判定することができる。
また、本発明の研磨パッドは、研磨面を上面としその反対面を下面とした場合に、透光性部材が研磨面と同じ高さにあっても、透光性部材が研磨面よりも低い位置にあってもその効果を発揮するが、特に透光性部材が研磨面よりも低い位置にある場合にその効果をよりよく発揮する。すなわち、透光性部材が研磨面よりも低い位置にある場合には、透光性部材の表面と貫通孔の側面とで囲まれた凹部(例えば、円柱状の凹部)が存在し、ここにスラリーが入り込む。凹部内に入り込んだスラリーの多くは、遠心力の影響を受けて側面に移動しエンボス溝を介して排出されるため、経時的に透光性部材表面のレーザー光が透過する領域にスラリーが存在するタイミング(凹部内にスラリーが多く流入したタイミングや排出しきれなかったタイミング等)と存在しないタイミングが生じ得る。透光性部材表面の撥水性が高い場合、窓表面上でスラリーは馴染むことなく水滴状あるいは筋状に付着しているため、レーザー光が透過する領域にスラリーが存在しないときの平行光線透過率に対し、スラリーが存在するときの平行光線透過率は水滴状のスラリーによる光の散乱のために大幅に低下し、研磨加工時の光透過率にバラツキが生じやすい。本発明の研磨パッドは、透光性部材の研磨面側の表面の水接触角を低くする(親水化する)ことにより、スラリーを水滴状にせず窓表面に濡れ広がらせることができるため、光の散乱を抑制し、スラリーが付着している場合と付着していない場合とで光透過率の変動を小さくすることができ、これにより研磨加工時の光透過率のバラツキを抑えることができる。
本発明の研磨パッドは、例えば、下記の方法により製造することができる。
【0043】
<<研磨パッドの製造方法>>
本発明の製造方法は、研磨層と、少なくとも一面の水接触角が80度以下である透光性部材とを用意する工程、研磨層に貫通孔を設ける工程、及び前記透光性部材が前記貫通孔内に見えるように前記透光性部材を配置する工程(ここで前記透光性部材の前記一面が研磨面側になるように配置されている)を含む、研磨パッドの製造方法である。
各工程について説明する。
【0044】
<1.研磨層と、少なくとも一面の水接触角が80度以下である透光性部材とを用意する工程>
本工程において、研磨層と、少なくとも一面の水接触角が80度以下である透光性部材とを用意する。
研磨層及び透光性部材としては、それぞれ上記のものを用いることが出来る。研磨層及び透光性部材は、それぞれ市販のものを用いてもよく、製造したものを用いてもよい。市販の透光性部材としては、ポリエステル樹脂からなる三菱ケミカル株式会社製「ダイアホイルT910E」、「ダイアホイルT600E」、東洋紡株式会社製「コスモシャインA4300」、「コスモシャインA2330」、「コスモシャインTA017」、「コスモシャインTA015」、「コスモシャインTA042」、「コスモシャインTA044」、「コスモシャインTA048」、「ソフトシャインTA009」、ポリメチルメタクリレート樹脂からなる三菱ケミカル株式会社製「アクリプレンHBXN47」、「アクリプレンHBS010」、帝人化成株式会社製「パンライトフィルムPC-2151」、株式会社カネカ製「サンデュレンSD009」、「サンデュレンSD010」、ポリカーボネート樹脂からなる住友化学株式会社製「C000」、帝人化成株式会社製「ユーピロンH-3000」、アクリル樹脂/ポリカーボネート樹脂からなる住友化学株式会社製「C001」、アクリル樹脂からなる住友化学株式会社製「S000」、「S001G」、「S014G」、三菱ケミカル株式会社製「アクリプレンHBS006」、脂環式ポリオレフィン樹脂からなる日本ゼオン株式会社製「ゼオノアZF14」、「ゼオノアZF16」、JSR株式会社製「アートンフィルム」等を市販品として入手することができる。研磨層を製造する場合は、例えば、特許第5421635号、特許第5844189号を参照してポリウレタン樹脂を湿式成膜し、PET樹脂からなる可撓性シートと貼り合わせることで製造することができる。
【0045】
本発明の製造方法は、透光性部材の少なくとも一面(好ましくは研磨面側の表面のみ)を親水化処理する工程を更に有していてもよい。これにより、研磨面側の表面の水接触角が80度以下である透光性部材を得ることが出来る。親水化処理する方法としては、上記のものを挙げることができる。
【0046】
<2.研磨層に貫通孔を設ける工程>
本工程において、研磨層に貫通孔を設ける。貫通孔は、研磨層の研磨面からその反対面へと貫通している孔である。研磨層に貫通孔を設ける方法としては、例えば、円形、楕円形、多角形等の抜型(好ましくは円形の抜型)を用いて研磨層の厚さ方向に穴を開けることにより貫通孔を設けることができる。抜型を用いることにより、研磨パッドの研磨層を厚さ方向に対して垂直に切断して得られる任意の研磨層断面における貫通孔の円相当径が、他の任意の研磨層断面における貫通孔の円相当径と同一とすることができる。
【0047】
<3.研磨パッドの研磨面側から研磨パッド厚さ方向に見た場合に、透光性部材が貫通孔内に存在するように透光性部材を配置する工程>
本工程において、研磨パッドの研磨面側から研磨パッド厚さ方向に見た場合に、透光性部材が貫通孔内に存在するように透光性部材を配置する。このとき、透光性部材の前記一面が研磨面側になるように配置される。
透光性部材が貫通孔内に存在するように透光性部材を配置する方法としては、例えば、(1)
図2~3のように透光性部材を研磨層に設けられた貫通孔の側面に接する(又は接着する)ようにして、透光性部材を配置する方法や、(2)
図4のように研磨層の下層により小さい円相当径の貫通孔を有する他の層を設け、研磨層の貫通孔と他の層の貫通孔のサイズの差から生じる露出部上に透光性部材を配置することにより、透光性部材が貫通孔内に見えるように透光性部材を配置する方法や、(3)
図5のように透光性部材を研磨層と他の層との間に挟み込み、透光性部材の一部分を貫通孔内に露出させる方法や、(4)
図6のように研磨層とその下層に設けた他の層の両方に同じ形状の貫通孔を設け、そのいずれか又は両方の貫通孔の側面と接する(又は接着する)ようにして透光性部材を配置する方法などが挙げられる。これらの中でも、(1)、(2)又は(4)が好ましく、(1)又は(2)がより好ましく、(2)がさらにより好ましい。
【0048】
本発明の製造方法は、研磨層以外の層を用意する工程を有してもよく、研磨層以外の層(他の層)と研磨層とを貼り合わせる工程を有していてもよい。他の層は、研磨層の貫通孔と同じ又は異なる貫通孔を有する。他の層における貫通孔は、他の層を研磨層と貼り合わせる前に設けてもよく、研磨層と貼り合わせた後に設けてもよい。他の層及び貫通孔としては、上記と同様のものが挙げられる。
また、本発明の製造方法は、研磨層が備える貫通孔(第1貫通孔)よりも小さい円相当径を有する第2貫通孔を他の層に設ける工程を有していてもよい。
【0049】
本発明の研磨パッドを使用するときは、研磨パッドを研磨層の研磨面が被研磨物と向き合うようにして研磨機の研磨定盤に取り付ける。そして、スラリーを供給しつつ、研磨定盤を回転させて、被研磨物の加工表面を研磨する。
本発明の研磨パッドにより加工される被研磨物としては、ベアシリコン、半導体デバイスが挙げられる。中でも、本発明の研磨パッドは、半導体デバイスの研磨、特に仕上げ研磨に適しており好ましい。
スラリーとしては、水を含むスラリー(水性スラリー)であれば特に制限なく用いることが出来る。例えば、コロイダルシリカスラリー、酸化セリウムスラリーなどが挙げられる。
【0050】
本発明の研磨パッドを用いて、例えば、CMP研磨工程中に光ビームを貫通孔内の透光性部材を通して研磨パッド越しにウエハに照射し、その反射によって発生する干渉信号をモニターすることにより、被研磨物を研磨しつつ、半導体ウエハ等の被研磨物の表面特性や平面状態に到達した時点を光学的に検知することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0052】
[実施例1]
20cm×20cmの透明なアクリル樹脂フィルム(三菱ケミカル(株)製、アクリプレン HBS006、厚さ150μm)を用意し、この一面を、プラズマ加工することにより親水化処理した。これにより、実施例1の透光性部材を得た。
【0053】
[実施例2]
20cm×20cmの透明なアクリル樹脂フィルム(三菱ケミカル(株)製、アクリプレン HBS006、厚さ150μm)を用意し、この一面を、ロールブラスト加工することにより親水化処理した。これにより、実施例2の透光性部材を得た。
【0054】
[比較例1]
20cm×20cmの透明なアクリル樹脂フィルム(三菱ケミカル(株)製、アクリプレン HBS006、厚さ150μm)を用意し、これを比較例1の透光性部材とした。
【0055】
<水接触角測定>
実施例1~2及び比較例1の透光性部材の水接触角を、自動接触角計DropMaster DM500(協和界面科学社製)を用いて、以下の方法により測定した。
(1)注射筒に蒸留水を入れディスペンサを取り付け、DM500にセットする。
(2)測定試料を5mm×50mmのサイズにカットし、ステージに貼り付ける。
(3)解析ソフトを立ち上げ、接触角測定[液滴法]を選択し、各パラメータを設定する。
測定までの待ち時間:1000ms
測定時間間隔:1000ms
連続測定回数:180回
(4)測定する液滴量、イメージモニタ上の注射針位置を設定し、イメージモニタのフォーカス値を最適化する。
(5)試料に液滴を着滴させ測定を開始し、測定開始から20秒後の水接触角を読み取る。
水接触角測定試験の結果を表1に示す。
【0056】
<透過率測定>
実施例1~2及び比較例1の透光性部材の可視光線透過率を、紫外可視近赤外分光光度計V-770(日本分光社製)を用いて以下の方法で測定した。なお、可視光線透過率は、透光性部材の表面(実施例1~2については加工処理した表面)に水が付着している場合と、水が付着していない場合の2条件で測定を行った。
1.水が付着している場合の測定
(1)石英ガラスセルを入れてブランクを測定する。
(2)実施例1~2、比較例1の透光性部材を9mm×50mmの大きさに切り出す。
(3)透光性部材をキムワイプ上に置き、20cm離れた位置から透光性部材の表面(実施例1~2については加工処理した表面のみ、比較例1については一面のみ)にスプレー(容量50ml、PP製ボトル)にて精製水を3回噴霧する(スプレーの1回あたりの散布量:約0.160~0.165ml、3回噴霧後の透光性部材表面への塗布量:約0.01~0.03ml)。噴霧後、透光性部材を垂直状態にして60秒間静置した。水を噴霧していない表面と石英ガラスセル内面とが触れるようにして石英ガラスセル内に透光性部材を設置する。
(3)石英ガラスセルの内壁に、表面処理面が光源と反対面になる向きで、透光性部材を石英セルの光源側に全面接触させるように配置する。
(4)紫外可視近赤外分光光度計V-770(日本分光社製)を用い、250nm~1000nmの光に対する直進透過率を測定する。
(5)JIS A5759:2008に基づき380~780nmの波長に対する可視光線透過率を算出する。
【0057】
2.水が付着していない場合の測定
(1)石英ガラスセルを入れてブランクを測定する。
(2)実施例1~2、比較例1の透光性部材を9mm×50mmの大きさに切り出す。
(3)石英ガラスセルの内壁に、表面処理面が光源と反対面になる向きで、透光性部材を石英セルの光源側に全面接触させるように配置する。
(4)紫外可視近赤外分光光度計V-770(日本分光社製)を用い、250nm~1000nmの光に対する直進透過率を測定する。
(5)JIS A5759:2008に基づき380~780nmの波長に対する可視光線透過率を算出する。
【0058】
以上の方法により、実施例1~2及び比較例1の透光性部材について、表面に水が付着している場合と水が付着していない場合それぞれの可視光線透過率を求めた。その結果を表1に示す。
【0059】
【0060】
比較例1の透光性部材は、表面の水接触角が80度超であるため、表面に水がある場合と水がない場合との間で可視光線透過率に大きな差が生じていた。他方、実施例1~2の透光性部材は、表面の水接触角が80度以下であるため、表面に水がある場合と水がない場合との間で可視光線透過率にほとんど差が生じなかった。従って、実施例1~2の透光性部材を含む研磨パッドは、スラリーが表面に存在する場合と存在しない場合とで可視光線透過率にバラツキが生じず、研磨終点の判定をより高精度に行うことができる。
【0061】
<製造例1>
100%モジュラス7.8MPaのポリエステル系ポリウレタン樹脂(30質量部)及びDMF(70質量部)を含む溶液100質量部に、別途DMF60質量部、水5質量部を添加し、混合することにより樹脂含有溶液を得た。
得られた樹脂含有溶液を、濾過することにより、不溶成分を除去した。前記溶液をポリエステルフィルム上にナイフコータを用いて塗布厚みが0.8mmとなるようキャストした。その後、樹脂含有溶液をキャストしたポリエステルフィルムを凝固浴(凝固液は水)に浸漬し、前記樹脂含有溶液を凝固させた後、ポリエステルフィルムを剥離し洗浄・乾燥させて、内部に涙型形状の複数の気泡を有し且つ当該複数の気泡が互いに繋がり合って連通しているポリウレタン樹脂フィルムを得た。得られたポリウレタン樹脂フィルムの表面をバフ処理し厚みを0.73mmとしたのち、バフ処理面と反対面側に厚み0.188μmのPET製の樹脂基材を接着剤で貼り合わせ、ポリウレタン樹脂フィルムの表面側からエンボス加工を施し、表面に溝幅を1mm、溝間隔を4mm、溝深さを0.45mmとした断面矩形状で格子パターンの溝を設けた。溝処理面側の研磨パッドの中心となる位置から研磨パッドの半径の1/2となる位置の同心円上に、直径18mmの円形抜型で等間隔に3か所穴を開け、第1貫通孔を設けた。樹脂基材のポリウレタン樹脂フィルムが貼り合わされていない面側に片側に離型紙を有する両面テープを接着し、直径18mmの第1貫通孔に直径9mmの円形抜型を嵌め込み、両面テープと離型紙を貫通させるよう第2貫通孔を開けた。この時、第1貫通孔の中心と第2貫通孔の中心が略同一となるよう穴あけを行った。透光性部材として、片面をプラズマ処理したアクリル樹脂フィルム(三菱ケミカル(株)製、アクリプレン HBS006、厚み150μm)を用意し、直径17mmとなるよう3枚切り出し、第1貫通孔内にリング状に露出した両面テープと透光性部材を、透光性部材の表面処理した面側が研磨面側になるように接着させ研磨パッドを製造した。
【0062】
<製造例2>
100%モジュラス7.8MPaのポリエステル系ポリウレタン樹脂(30質量部)及びDMF(70質量部)を含む溶液100質量部に、別途DMF60質量部、水5質量部を添加し、混合することにより樹脂含有溶液を得た。
得られた樹脂含有溶液を、濾過することにより、不溶成分を除去した。前記溶液をポリエステルフィルム上にナイフコータを用いて塗布厚みが0.8mmとなるようキャストした。その後、樹脂含有溶液をキャストしたポリエステルフィルムを凝固浴(凝固液は水)に浸漬し、前記樹脂含有溶液を凝固させた後、ポリエステルフィルムを剥離し洗浄・乾燥させて、内部に涙型形状の複数の気泡を有し且つ当該複数の気泡が互いに繋がり合って連通しているポリウレタン樹脂フィルムを得た。得られたポリウレタン樹脂フィルムの表面をバフ処理し厚みを0.73mmとしたのち、バフ処理面と反対面側に厚み0.188μmのPET製の樹脂基材を接着剤で貼り合わせ、ポリウレタン樹脂フィルムの表面側からエンボス加工を施し、表面に溝幅を1mm、溝間隔を4mm、溝深さを0.45mmとした断面矩形状で格子パターンの溝を設けた。樹脂基材のポリウレタン樹脂フィルムが貼り合わされていない面側に、片側に離型紙を有する厚さ約0.1mmの両面テープ(PET基材厚み0.023mm、PET基材の表面及び裏面における粘着性成分厚みは共に0.04mm)を接着した。溝処理面側の研磨パッドの中心となる位置から研磨パッドの半径の1/2となる位置の同心円上に、両面テープの離型紙まで貫通させるよう、直径20mmの円形抜型で等間隔に3か所穴を開け、第1貫通孔を設けた。両面テープの離型紙を剥がし、透光性部材として、片面をプラズマ処理した研磨層と同径のアクリル樹脂フィルム(三菱ケミカル(株)製、アクリプレン HBS006、厚み150μm)を用意し、両面テープの粘着部と透光性部材の表面処理した面側とを貼り合わせた。他の層として片面に離型紙を有する厚さ約0.1mmの両面テープ(PET基材厚み0.023mm、PET基材の表面及び裏面における粘着性成分厚みは共に0.04mm)を用意し、厚さ方向に見た場合に第1貫通孔と重なる位置に3か所穴を開けることで第2貫通孔を設け、透光性部材の表面処理を行っていない面側に接着させることで研磨パッドを製造した。
【0063】
<製造例3>
100%モジュラス7.8MPaのポリエステル系ポリウレタン樹脂(30質量部)及びDMF(70質量部)を含む溶液100質量部に、別途DMF60質量部、水5質量部を添加し、混合することにより樹脂含有溶液を得た。
得られた樹脂含有溶液を、濾過することにより、不溶成分を除去した。前記溶液をポリエステルフィルム上にナイフコータを用いて塗布厚みが0.8mmとなるようキャストした。その後、樹脂含有溶液をキャストしたポリエステルフィルムを凝固浴(凝固液は水)に浸漬し、前記樹脂含有溶液を凝固させた後、ポリエステルフィルムを剥離し洗浄・乾燥させて、内部に涙型形状の複数の気泡を有し且つ当該複数の気泡が互いに繋がり合って連通しているポリウレタン樹脂フィルムを得た。得られたポリウレタン樹脂フィルムの表面をバフ処理し厚みを0.73mmとしたのち、バフ処理面と反対面側に厚み0.188μmのPET製の樹脂基材を接着剤で貼り合わせ、ポリウレタン樹脂フィルムの表面側からエンボス加工を施し、表面に溝幅を1mm、溝間隔を4mm、溝深さを0.45mmとした断面矩形状で格子パターンの溝を設けた。樹脂基材のポリウレタン樹脂フィルムが貼り合わされていない面側に、熱溶融性接着剤を介し他の層を貼り合わせた。他の層としては繊度2dtex、繊維長51mmのポリエステル繊維からニードルパンチ法により製造した不織布を用い、厚さは0.50mm、密度は0.35g/cm3であった。不織布のポリウレタン樹脂フィルムが貼り合わされていない面側に、片面に離型紙を有する両面テープを接着した。溝処理面側の研磨パッドの中心となる位置から研磨パッドの半径の1/2となる位置の同心円上に、研磨表面から両面テープまで貫通させるよう、直径20mmの円形抜型で等間隔に3か所穴を開け、第1貫通孔と第2貫通孔を設けた。透光性部材として、片面をプラズマ処理したアクリル樹脂/ポリカーボネート樹脂シート(住友化学(株)製、テクノロイ C001、厚み500μm)を直径20mmとなるよう3枚切り出し、円形の透光性部材の側面にホットメルト接着剤を塗布し、第2貫通孔内の側面に透光性部材の表面処理した面側が研磨面側になるように接着させることで研磨パッドを製造した。
製造例1~3の研磨パッドは、水性スラリーの有無によって光透過率が大きく変動しないため、研磨終点を高精度に検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、光透過率のバラツキを抑えることができる研磨パッドを提供することができる。よって、本発明の研磨パッドは、産業上極めて有用である。
【符号の説明】
【0065】
1…研磨パッド
2…研磨層
3…他の層
4…透光性部材
4’…透光性部材の最上部
5…貫通孔(第1貫通孔)
6…第2貫通孔
7…露出部
8…溝
8’…溝の最下部