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特許7540962学習データ生成装置、外気導入量推定装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】学習データ生成装置、外気導入量推定装置および方法
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/64 20180101AFI20240820BHJP
【FI】
F24F11/64
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2021021576
(22)【出願日】2021-02-15
(65)【公開番号】P2022124045
(43)【公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】三浦 眞由美
(72)【発明者】
【氏名】太宰 龍太
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-96592(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0383510(US,A1)
【文献】国際公開第2015/173842(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/00-11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調システムの過去の空調運用データから所定の運転条件を満たす一連のデータセットを抽出するように構成された運用データ抽出部と、
前記運用データ抽出部によって抽出されたデータセットに基づいて、前記空調システムの還気と外気の混合比から得られる外気導入比をデータセット毎に演算するように構成された外気導入比演算部と、
前記外気導入比演算部によって演算された外気導入比と、この外気導入比の演算に使用されたデータセットとの組を、前記空調システムの外気導入比を推定するための学習データとして蓄積するように構成された学習データ保持部とを備えることを特徴とする学習データ生成装置。
【請求項2】
請求項1記載の学習データ生成装置において、
前記学習データ保持部は、所定のフィルタリング条件に該当するデータの組を前記学習データから除外することを特徴とする学習データ生成装置。
【請求項3】
請求項2記載の学習データ生成装置において、
前記データセットは、還気温度、外気温度、給気温度、還気ダンパ開度、外気ダンパ開度の各データを少なくとも含み、
前記学習データ保持部は、前記還気ダンパ開度と前記外気ダンパ開度のうち少なくとも一方が開度閾値以下のデータの組を前記学習データから除外することを特徴とする学習データ生成装置。
【請求項4】
請求項2記載の学習データ生成装置において、
前記データセットは、還気温度、外気温度、給気温度、還気ダンパ開度、外気ダンパ開度の各データを少なくとも含み、
前記学習データ保持部は、前記還気温度と前記外気温度の温度差が温度差閾値以下、または前記温度差に基づく信頼性指標が信頼性指標閾値以下のデータの組を前記学習データから除外することを特徴とする学習データ生成装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の学習データ生成装置において、
前記データセットは、還気温度、外気温度、給気温度、還気ダンパ開度、外気ダンパ開度の各データを少なくとも含み、
前記外気導入比演算部は、前記運用データ抽出部によって抽出されたデータセットに含まれる前記還気温度と前記外気温度と前記給気温度に基づいて前記外気導入比を演算することを特徴とする学習データ生成装置。
【請求項6】
請求項5記載の学習データ生成装置において、
前記学習データ保持部は、前記外気導入比演算部によって演算された外気導入比と、この外気導入比の演算に使用されたデータセットに含まれる還気ダンパ開度と外気ダンパ開度との組を、前記学習データとして蓄積することを特徴とする学習データ生成装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の学習データ生成装置において、
前記空調運用データは、空調機への調温と調湿に関わる冷温水供給のアクチュエータの動作に関するデータを含み、
前記所定の運転条件は、2種類の異なる温度の空気である還気と外気の温度差による熱交換以外の熱交換の影響を無視できる条件であることを特徴とする学習データ生成装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の学習データ生成装置において、
前記空調運用データは、空調機の冷水弁開度、温水弁開度、加湿弁開度の各データを少なくとも含み、
前記所定の運転条件は、前記冷水弁開度と前記温水弁開度と前記加湿弁開度が全て0という条件であることを特徴とする学習データ生成装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の学習データ生成装置と、
前記学習データ生成装置の学習データ保持部に蓄積された学習データに基づいて、前記空調システムの還気と外気のアクチュエータの動作状態のデータと、外気導入比との関係を学習した外気導入比推定モデルを生成するように構成された推定モデル生成部と、
前記空調システムから新たに取得した空調運用データから還気と外気のアクチュエータの動作状態のデータを取得して、取得したデータを前記外気導入比推定モデルの入力として、外気導入比の推定値を前記外気導入比推定モデルから取得し、この推定値と前記新たに取得した空調運用データから外気導入量の推定値を演算するように構成された推定部とを備えることを特徴とする外気導入量推定装置。
【請求項10】
請求項9記載の外気導入量推定装置において、
前記外気導入比の推定値と前記外気導入量の推定値とをオペレータに対して提示するように構成された外気導入情報提示部をさらに備えることを特徴とする外気導入量推定装置。
【請求項11】
請求項9または10記載の外気導入量推定装置において、
前記還気と外気のアクチュエータの動作状態のデータは、還気ダンパ開度、外気ダンパ開度のデータであることを特徴とする外気導入量推定装置。
【請求項12】
請求項9乃至11のいずれか1項に記載の外気導入量推定装置において、
前記推定部は、新たに取得した空調運用データに含まれる給気風量のデータと前記外気導入比の推定値とに基づいて外気導入量の推定値を演算するか、または新たに取得した空調運用データに含まれるインバータ出力値のデータから得られる給気風量と前記外気導入比の推定値とに基づいて外気導入量の推定値を演算することを特徴とする外気導入量推定装置。
【請求項13】
空調システムの過去の空調運用データから所定の運転条件を満たす一連のデータセットを抽出する第1のステップと、
前記第1のステップで抽出したデータセットに基づいて、前記空調システムの還気と外気の混合比から得られる外気導入比をデータセット毎に演算する第2のステップと、
前記第2のステップで演算した外気導入比と、この外気導入比の演算に使用したデータセットとの組を、前記空調システムの外気導入比を推定するための学習データとして蓄積する第3のステップとを含むことを特徴とする学習データ生成方法。
【請求項14】
請求項13記載の学習データ生成方法において、
前記第3のステップは、所定のフィルタリング条件に該当するデータの組を前記学習データから除外するステップを含むことを特徴とする学習データ生成方法。
【請求項15】
請求項14記載の学習データ生成方法において、
前記データセットは、還気温度、外気温度、給気温度、還気ダンパ開度、外気ダンパ開度の各データを少なくとも含み、
前記第3のステップは、前記還気ダンパ開度と前記外気ダンパ開度のうち少なくとも一方が開度閾値以下のデータの組を前記学習データから除外するステップを含むことを特徴とする学習データ生成方法。
【請求項16】
請求項14記載の学習データ生成方法において、
前記データセットは、還気温度、外気温度、給気温度、還気ダンパ開度、外気ダンパ開度の各データを少なくとも含み、
前記第3のステップは、前記還気温度と前記外気温度の温度差が温度差閾値以下、または前記温度差に基づく信頼性指標が信頼性指標閾値以下のデータの組を前記学習データから除外するステップを含むことを特徴とする学習データ生成方法。
【請求項17】
請求項13乃至16のいずれか1項に記載の学習データ生成方法において、
前記データセットは、還気温度、外気温度、給気温度、還気ダンパ開度、外気ダンパ開度の各データを少なくとも含み、
前記第2のステップは、前記第1のステップで抽出したデータセットに含まれる前記還気温度と前記外気温度と前記給気温度に基づいて前記外気導入比を演算するステップを含むことを特徴とする学習データ生成方法。
【請求項18】
請求項17記載の学習データ生成方法において、
前記第3のステップは、前記第2のステップで演算した外気導入比と、この外気導入比の演算に使用したデータセットに含まれる還気ダンパ開度と外気ダンパ開度との組を、前記学習データとして蓄積するステップを含むことを特徴とする学習データ生成方法。
【請求項19】
請求項13乃至18のいずれか1項に記載の学習データ生成方法において、
前記空調運用データは、空調機の冷水弁開度、温水弁開度、加湿弁開度の各データを少なくとも含み、
前記所定の運転条件は、前記冷水弁開度と前記温水弁開度と前記加湿弁開度が全て0という条件であることを特徴とする学習データ生成方法。
【請求項20】
請求項13乃至19のいずれか1項に記載の各ステップと、
前記第3のステップで蓄積した学習データに基づいて、前記空調システムの還気と外気のアクチュエータの動作状態のデータと、外気導入比との関係を学習した外気導入比推定モデルを生成する第4ステップと、
前記空調システムから新たに取得した空調運用データから還気と外気のアクチュエータの動作状態のデータを取得して、取得したデータを前記外気導入比推定モデルの入力として、外気導入比の推定値を前記外気導入比推定モデルから取得し、この推定値と前記新たに取得した空調運用データから外気導入量の推定値を演算する第5のステップとを含むことを特徴とする外気導入量推定方法。
【請求項21】
請求項20記載の外気導入量推定方法において、
前記外気導入比の推定値と前記外気導入量の推定値とをオペレータに対して提示する第6のステップをさらに含むことを特徴とする外気導入量推定方法。
【請求項22】
請求項20または21記載の外気導入量推定方法において、
前記還気と外気のアクチュエータの動作状態のデータは、還気ダンパ開度、外気ダンパ開度のデータであることを特徴とする外気導入量推定方法。
【請求項23】
請求項20乃至22のいずれか1項に記載の外気導入量推定方法において、
前記第5のステップは、新たに取得した空調運用データに含まれる給気風量のデータと前記外気導入比の推定値とに基づいて外気導入量の推定値を演算するか、または新たに取得した空調運用データに含まれるインバータ出力値のデータから得られる給気風量と前記外気導入比の推定値とに基づいて外気導入量の推定値を演算するステップを含むことを特徴とする外気導入量推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調システムに係り、特に建物内空調における外気導入量を推定するための学習データ生成装置、外気導入量推定装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、外気を導入し、外気と還気とを混合して室内に供給可能な空調システムが普及している(例えば特許文献1参照)。この空調システムにおいては、外気風量を直接計測するか、あるいは給気風量と還気風量とを計測して給気風量と還気風量との差から外気導入量や外気導入比を演算する方法が一般的である。
【0003】
しかしながら、上記のような空調システムにおいては、風量計の設置が困難な場合、還気風量および外気風量の計測値を使えないケースがあり、改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-185768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、還気風量の計測値および外気風量の計測値を使わずに外気導入量を推定することが可能な学習データ生成装置、外気導入量推定装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の学習データ生成装置は、空調システムの過去の空調運用データから所定の運転条件を満たす一連のデータセットを抽出するように構成された運用データ抽出部と、前記運用データ抽出部によって抽出されたデータセットに基づいて、前記空調システムの還気と外気の混合比から得られる外気導入比をデータセット毎に演算するように構成された外気導入比演算部と、前記外気導入比演算部によって演算された外気導入比と、この外気導入比の演算に使用されたデータセットとの組を、前記空調システムの外気導入比を推定するための学習データとして蓄積するように構成された学習データ保持部とを備えることを特徴とするものである。
また、本発明の学習データ生成装置の1構成例において、前記学習データ保持部は、所定のフィルタリング条件に該当するデータの組を前記学習データから除外することを特徴とするものである。
また、本発明の学習データ生成装置の1構成例において、前記データセットは、還気温度、外気温度、給気温度、還気ダンパ開度、外気ダンパ開度の各データを少なくとも含み、前記学習データ保持部は、前記還気ダンパ開度と前記外気ダンパ開度のうち少なくとも一方が開度閾値以下のデータの組を前記学習データから除外することを特徴とするものである。
また、本発明の学習データ生成装置の1構成例において、前記データセットは、還気温度、外気温度、給気温度、還気ダンパ開度、外気ダンパ開度の各データを少なくとも含み、前記学習データ保持部は、前記還気温度と前記外気温度の温度差が温度差閾値以下、または前記温度差に基づく信頼性指標が信頼性指標閾値以下のデータの組を前記学習データから除外することを特徴とするものである。
【0007】
また、本発明の学習データ生成装置の1構成例において、前記データセットは、還気温度、外気温度、給気温度、還気ダンパ開度、外気ダンパ開度の各データを少なくとも含み、前記外気導入比演算部は、前記運用データ抽出部によって抽出されたデータセットに含まれる前記還気温度と前記外気温度と前記給気温度に基づいて前記外気導入比を演算することを特徴とするものである。
また、本発明の学習データ生成装置の1構成例において、前記学習データ保持部は、前記外気導入比演算部によって演算された外気導入比と、この外気導入比の演算に使用されたデータセットに含まれる還気ダンパ開度と外気ダンパ開度との組を、前記学習データとして蓄積することを特徴とするものである。
また、本発明の学習データ生成装置の1構成例において、前記空調運用データは、空調機への調温と調湿に関わる冷温水供給のアクチュエータの動作に関するデータを含み、前記所定の運転条件は、2種類の異なる温度の空気である還気と外気の温度差による熱交換以外の熱交換の影響を無視できる条件である。
また、本発明の学習データ生成装置の1構成例において、前記空調運用データは、空調機の冷水弁開度、温水弁開度、加湿弁開度の各データを少なくとも含み、前記所定の運転条件は、前記冷水弁開度と前記温水弁開度と前記加湿弁開度が全て0という条件である。
【0008】
また、本発明の外気導入量推定装置は、学習データ生成装置と、前記学習データ生成装置の学習データ保持部に蓄積された学習データに基づいて、前記空調システムの還気と外気のアクチュエータの動作状態のデータと、外気導入比との関係を学習した外気導入比推定モデルを生成するように構成された推定モデル生成部と、前記空調システムから新たに取得した空調運用データから還気と外気のアクチュエータの動作状態のデータを取得して、取得したデータを前記外気導入比推定モデルの入力として、外気導入比の推定値を前記外気導入比推定モデルから取得し、この推定値と前記新たに取得した空調運用データから外気導入量の推定値を演算するように構成された推定部とを備えることを特徴とするものである。
また、本発明の外気導入量推定装置の1構成例は、前記外気導入比の推定値と前記外気導入量の推定値とをオペレータに対して提示するように構成された外気導入情報提示部をさらに備えることを特徴とするものである。
また、本発明の外気導入量推定装置の1構成例において、前記還気と外気のアクチュエータの動作状態のデータは、還気ダンパ開度、外気ダンパ開度のデータである。
また、本発明の外気導入量推定装置の1構成例において、前記推定部は、新たに取得した空調運用データに含まれる給気風量のデータと前記外気導入比の推定値とに基づいて外気導入量の推定値を演算するか、または新たに取得した空調運用データに含まれるインバータ出力値のデータから得られる給気風量と前記外気導入比の推定値とに基づいて外気導入量の推定値を演算することを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の学習データ生成方法は、空調システムの過去の空調運用データから所定の運転条件を満たす一連のデータセットを抽出する第1のステップと、前記第1のステップで抽出したデータセットに基づいて、前記空調システムの還気と外気の混合比から得られる外気導入比をデータセット毎に演算する第2のステップと、前記第2のステップで演算した外気導入比と、この外気導入比の演算に使用したデータセットとの組を、前記空調システムの外気導入比を推定するための学習データとして蓄積する第3のステップとを含むことを特徴とするものである。
また、本発明の学習データ生成方法の1構成例において、前記第3のステップは、所定のフィルタリング条件に該当するデータの組を前記学習データから除外するステップを含むことを特徴とするものである。
また、本発明の学習データ生成方法の1構成例において、前記データセットは、還気温度、外気温度、給気温度、還気ダンパ開度、外気ダンパ開度の各データを少なくとも含み、前記第3のステップは、前記還気ダンパ開度と前記外気ダンパ開度のうち少なくとも一方が開度閾値以下のデータの組を前記学習データから除外するステップを含むことを特徴とするものである。
また、本発明の学習データ生成方法の1構成例において、前記データセットは、還気温度、外気温度、給気温度、還気ダンパ開度、外気ダンパ開度の各データを少なくとも含み、前記第3のステップは、前記還気温度と前記外気温度の温度差が温度差閾値以下、または前記温度差に基づく信頼性指標が信頼性指標閾値以下のデータの組を前記学習データから除外するステップを含むことを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の学習データ生成方法の1構成例において、前記データセットは、還気温度、外気温度、給気温度、還気ダンパ開度、外気ダンパ開度の各データを少なくとも含み、前記第2のステップは、前記第1のステップで抽出したデータセットに含まれる前記還気温度と前記外気温度と前記給気温度に基づいて前記外気導入比を演算するステップを含むことを特徴とするものである。
また、本発明の学習データ生成方法の1構成例において、前記第3のステップは、前記第2のステップで演算した外気導入比と、この外気導入比の演算に使用したデータセットに含まれる還気ダンパ開度と外気ダンパ開度との組を、前記学習データとして蓄積するステップを含むことを特徴とするものである。
また、本発明の学習データ生成方法の1構成例において、前記空調運用データは、空調機の冷水弁開度、温水弁開度、加湿弁開度の各データを少なくとも含み、前記所定の運転条件は、前記冷水弁開度と前記温水弁開度と前記加湿弁開度が全て0という条件である。
【0011】
また、本発明の外気導入量推定方法は、前記の各ステップと、前記第3のステップで蓄積した学習データに基づいて、前記空調システムの還気と外気のアクチュエータの動作状態のデータと、外気導入比との関係を学習した外気導入比推定モデルを生成する第4ステップと、前記空調システムから新たに取得した空調運用データから還気と外気のアクチュエータの動作状態のデータを取得して、取得したデータを前記外気導入比推定モデルの入力として、外気導入比の推定値を前記外気導入比推定モデルから取得し、この推定値と前記新たに取得した空調運用データから外気導入量の推定値を演算する第5のステップとを含むことを特徴とするものである。
また、本発明の外気導入量推定方法の1構成例は、前記外気導入比の推定値と前記外気導入量の推定値とをオペレータに対して提示する第6のステップをさらに含むことを特徴とするものである。
また、本発明の外気導入量推定方法の1構成例において、前記還気と外気のアクチュエータの動作状態のデータは、還気ダンパ開度、外気ダンパ開度のデータである。
また、本発明の外気導入量推定方法の1構成例において、前記第5のステップは、新たに取得した空調運用データに含まれる給気風量のデータと前記外気導入比の推定値とに基づいて外気導入量の推定値を演算するか、または新たに取得した空調運用データに含まれるインバータ出力値のデータから得られる給気風量と前記外気導入比の推定値とに基づいて外気導入量の推定値を演算するステップを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、空調システムの過去の空調運用データから所定の運転条件を満たすデータセットを抽出する運用データ抽出部と、外気導入比をデータセット毎に演算する外気導入比演算部と、外気導入比とこの外気導入比の演算に使用されたデータセットとの組を学習データとして蓄積する学習データ保持部とを設けることにより、外気導入比推定モデルを生成することが可能になり、この外気導入比推定モデルを使って新たに取得した空調運用データに対応する外気導入比と外気導入量を推定することが可能になる。その結果、本発明では、還気風量の計測値および外気風量の計測値を使わずに、新たに取得した空調運用データに対応する外気導入量を推定することができる。
【0013】
また、本発明では、所定のフィルタリング条件に該当するデータの組を学習データから除外することにより、信頼性のより高い学習データを生成することができる。
【0014】
また、本発明では、還気ダンパ開度と外気ダンパ開度のうち少なくとも一方が開度閾値以下のデータの組を学習データから除外することにより、信頼性のより高い学習データを生成することができる。
【0015】
また、本発明では、還気温度と外気温度の温度差が温度差閾値以下、または温度差に基づく信頼性指標が信頼性指標閾値以下のデータの組を学習データから除外することにより、信頼性のより高い学習データを生成することができる。
【0016】
また、本発明では、外気導入比演算部は、運用データ抽出部によって抽出されたデータセットに含まれる還気温度と外気温度と給気温度を用いることにより、外気導入比を演算することができる。
【0017】
また、本発明では、冷水弁開度と温水弁開度と加湿弁開度が全て0という運転条件を満たすデータセットを抽出することにより、熱交換の影響を無視することができ、還気温度と外気温度と給気温度の関係から外気導入比を演算することができる。
【0018】
また、本発明では、学習データ生成装置に加えて、推定モデル生成部と推定部とを設けることにより、新たに取得した空調運用データに対応する外気導入量を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の第1の実施例に係る空調システムの構成を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の第1の実施例に係る空調システムのコントローラの構成を示すブロック図である。
図3図3は、本発明の第1の実施例に係る空調システムの学習データ生成部の詳細な構成を示すブロック図である。
図4図4は、本発明の第1の実施例に係る空調システムの学習データ生成部と推定モデル生成部と外気導入比推定部と外気導入情報提示部の動作を説明するフローチャートである。
図5図5は、本発明の第1の実施例に係る空調システムの学習データ生成部の動作を説明するフローチャートである。
図6図6は、本発明の第1の実施例に係る空調システムにおける還気と外気の空気混合の様子を示す図である。
図7図7は、空気温度と外気導入比の関係を示す図である。
図8図8は、本発明の第1の実施例における還気温度、外気温度、給気温度、および外気導入比のデータの1例を示す図である。
図9図9は、本発明の第1の実施例における学習データの1例を示す図である。
図10図10は、本発明の第2の実施例に係る空調システムの学習データ生成部の動作を説明するフローチャートである。
図11図11は、本発明の第2の実施例における学習データの1例を示す図である。
図12図12は、本発明の第3の実施例に係る空調システムの学習データ生成部の動作を説明するフローチャートである。
図13図13は、還気温度と外気温度の温度差の絶対値と、信頼性指標との関係の1例を示す図である。
図14図14は、本発明の第3の実施例における学習データの1例を示す図である。
図15図15は、本発明の第1~第3の実施例に係る空調システムのコントローラを実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[発明の原理]
発明者は、一般的な空調システムにおいて、ダクト内の風速分布は様々に変化するが、ファンにより空気が循環しているためにダクト内の温度分布は比較的少ないことに着眼した。すなわち、異なる温度の空気を混合した後の温度は、主に混合する空気の容積割合に応じて確定する。よって、2種類の異なる温度の空気である還気と外気の温度差による熱交換以外の熱交換の影響が無視できる条件(例えば、調温のための冷温水弁と調湿のための加湿弁が全閉という条件、あるいは、これと同等の状態の条件)であれば、還気温度と外気温度と給気温度の関係から、還気と外気の混合比、すなわち外気導入比が演算可能である。
【0021】
そこで、発明者は、この外気導入比と、還気ダンパの開度および外気ダンパの開度との関係を学習しておけば、外気導入比の推定が可能になり、熱交換の影響が無視できない運転条件の場合でも適用できることに想到した。
【0022】
一般的な空調システムでは、室内への給気風量は計測や推定で取得できることが多い。よって、還気ダンパの開度および外気ダンパの開度から上記学習による推定外気導入比を取得し、給気風量と外気導入比の積により、還気風量および外気風量の計測値を使わずに、外気導入量を演算することができる。学習用に取得するデータは、還気温度と外気温度の温度差が大きいほど、給気温度と外気導入比の関係の精度が向上する。したがって、収集したデータについての温度差を信頼性の指標として活用できる。
【0023】
[第1の実施例]
以下、本発明の第1の実施例について図面を参照して説明する。本発明の第1の実施例では、外気導入が可能なVAV(Variable Air Volume)方式の空調システムをベースとし、本発明の適用対象について理解しやすくするために、適宜簡略化などを含めた例で説明する。ただし、本発明は、外気と室内からの還気とを混合して室内への給気を生成する一般的な空調システムであれば適用することができるので、空調設備や空調方式等で限定されない。
【0024】
本実施例では、過去の空調運用データから、少なくとも、熱交換の影響が無視できる運転状態(例えば冷温水弁と加湿弁が全閉の状態)の還気温度と導入外気の温度と給気温度と還気ダンパ開度と外気ダンパ開度のデータを抽出し、抽出した還気温度と外気温度と給気温度から外気導入比を演算する。この外気導入比とその時点のアクチュエータの動作状態(還気ダンパ開度、外気ダンパ開度)との関係を機械学習などにより学習し、外気導入比推定モデルを生成する。このモデルを利用して、以降の運転時のアクチュエータの動作状態から外気導入比を推定できるようにする。
【0025】
図1は本実施例に係るVAV方式の空調システムの構成を示すブロック図である。空調システムは、空調機1と、外気OAの空調機1への導入量を制御する外気ダンパ2と、部屋13-1,13-2から戻る空気(還気RA)の空調機1への導入量を制御する還気ダンパ3と、空調機1の冷却コイルに送る冷水の量を制御する冷水弁4と、空調機1の加熱コイルに送る温水の量を制御する温水弁5と、空調機1の加湿器に送る冷水又は温水の量を制御する加湿弁6と、空調機1から送り出される空気(給気SA)の温度Tsを計測する温度センサ7と、部屋13-1,13-2の温度を計測する温度センサ8-1,8-2と、還気RAの温度Trを計測する温度センサ9と、外気OAの温度Toを計測する温度センサ10と、部屋13-1,13-2へ供給する給気SAの量を部屋毎に制御するVAVユニット11-1,11-2と、ダンパ2,3と弁4~6とを制御するコントローラ12とを備えている。
【0026】
空調機1は、エアフィルタ14と、空気を冷却する冷却コイル15と、空気を加熱する加熱コイル16と、加湿器17と、冷却又は加熱された空気を送る送風機18と、送風機18の風量を増減制御するインバータ19とを備えている。図1において、20は給気ダクト、21-1,21-2は給気の吹出口、22-1,22-2は吸込口、23は還気ダクトである。
【0027】
次に、一般的なVAV方式の空調について簡単に説明する。外気OAと還気RAとは空調機1内で混合され、微粒子などを取り除くエアフィルタ14を通過する。空調機1の冷却コイル15は、図示しない熱交換器から冷水弁4を介して供給される冷水により外気OAおよび還気RAを冷却する。空調機1の温水コイル16は、熱交換器から温水弁5を介して供給される温水により外気OAおよび還気RAを加熱する。また、加湿弁6を通って加湿用の水が加湿器17に供給されることにより、コイル15,16で冷却又は加熱された給気SAの湿度を制御する。加湿方式としては気化式や蒸気式などが一般的である。
【0028】
コイル15,16で冷却又は加熱され加湿器17で加湿された給気SAは、送風機18によって送り出される。給気SAは、給気ダクト20を介してVAVユニット11-1,11-2へ供給され、VAVユニット11-1,11-2を通過して吹出口21-1,21-2から各部屋13-1,13-2へ供給されるようになっている。
【0029】
VAVユニット11-1,11-2のコントローラは、部屋13-1,13-2の温度センサ8-1,8-2によって計測された室内温度と室内温度設定値との偏差に基づいて部屋13-1,13-2の要求風量を演算して要求風量値をコントローラ12へ送る一方、その要求風量を確保するように、VAVユニット11-1,11-2内のダンパ(不図示)の開度を制御する。
【0030】
VAVユニット11-1,11-2を通過し、吹出口21-1,21-2を介して部屋13-1,13-2へ吹き出される給気は、部屋13-1,13-2における空調制御に貢献した後、吸込口22-1,22-2から還気ダクト23を経て、一部が還気ダンパ3を介し還気RAとして空調機1へ戻される。そして、この空調機1へ戻される還気RAに対し、外気OAが外気ダンパ2を介して所定の割合で取り込まれる。還気RAおよび外気OAの混合割合は主に還気ダンパ3および外気ダンパ2の開度によって決定される。還気ダンパ3および外気ダンパ2のそれぞれの開度はコントローラ12からの指令によって調整される。
【0031】
図2はコントローラ12の構成を示すブロック図である。コントローラ12は、冷水弁4および温水弁5の開度を示す操作量を算出する操作量演算部120と、操作量演算部120によって算出された操作量を冷水弁4および温水弁5に出力する操作量出力部121と、加湿弁6の開度を示す操作量を算出する操作量演算部122と、操作量演算部122によって算出された操作量を加湿弁6に出力する操作量出力部123と、空調機1の送風機18を制御する風量制御部124とを備えている。
【0032】
また、コントローラ12は、外気導入比推定モデルの生成のための学習データを生成する学習データ生成部125(学習データ生成装置)と、学習データに基づいて、空調システムの還気と外気のアクチュエータの動作状態のデータ(還気ダンパ開度Dr、外気ダンパ開度Do)と、外気導入比との関係を学習した外気導入比推定モデル1260を生成する推定モデル生成部126と、空調システムから新たに取得した空調運用データから還気と外気のアクチュエータの動作状態のデータを取得して、取得したデータを外気導入比推定モデル1260の入力として外気導入比の推定値を取得し、外気導入量の推定値を演算する外気導入比推定部127と、外気導入比の推定値と外気導入量の推定値とをオペレータに対して提示する外気導入情報提示部128と、外気ダンパ2と還気ダンパ3の開度を制御するダンパ制御部129とを有する。学習データ生成部125と推定モデル生成部126と外気導入比推定部127と外気導入情報提示部128とは、外気導入量推定装置を構成している。なお、前記の新たに取得する空調運用データは、設備管理者等のオペレータが推定値を入手したい外気導入比や外気導入量に対応する空調運用データであり、例えば最新の空調運用データがある。本実施例では、最新の空調運用データとする例で説明する。
【0033】
コントローラ12の操作量演算部120は、温度センサ7によって計測された給気温度計測値と給気温度設定値とが一致するように操作量を算出し、操作量出力部121は、操作量演算部120が算出した操作量を冷水弁4および温水弁5に出力する。こうして、冷水弁4および温水弁5の開度が制御され、空調機1に供給される熱媒(冷水または温水)の量が制御される。
【0034】
コントローラ12の操作量演算部122は、図示しない湿度センサによって計測された湿度計測値と湿度設定値とが一致するように操作量を算出し、操作量出力部123は、操作量演算部122が算出した操作量を加湿弁6に出力する。こうして、加湿弁6の開度が制御される。
【0035】
コントローラ12の風量制御部124は、各VAVユニット11-1,11-2のコントローラから送られてくる要求風量値からシステム全体の総要求風量値を演算し、この総要求風量値に応じた送風機回転数を求め、求めた回転数となるようにインバータ19を介して空調機1の送風機18を制御する。
以上の空調システムの動作は、従来のVAV方式の空調システムをベースとして、適宜簡略化などを含めたものであるが、VAV方式の空調システムと概ね同様である。
【0036】
次に、本実施例の特徴的な動作について説明する。BAS(Building Automation System)やBEMS(Building Energy Management System)などの空調管理システムのサーバには、図1に示したようなセンサの計測値(例えば温度、流量)やアクチュエータの動作状態(例えばダンパ開度、弁開度)、機器の起動状態や警報情報などの空調運用データが定期的(例えば1分周期、10分周期など)に収集され、時系列の時刻に対応する一連のデータ(データセット)として保持されている。空調管理システムは、収集した空調運用データを設備管理者に提示する。
【0037】
本実施例では、この空調運用データを利用して外気導入量推定に必要な学習データを生成し、学習データを利用した外気導入比推定モデルにより、以降の運用時の外気導入量推定値を提示する。
【0038】
図3図2の学習データ生成部125(学習データ生成装置)の詳細な構成を示すブロック図である。なお、図2では、便宜上、学習データ生成部125と推定モデル生成部126と外気導入比推定部127と外気導入情報提示部128とをコントローラ12に搭載しているが、図2の例は1例である。学習データ生成部125と推定モデル生成部126と外気導入比推定部127と外気導入情報提示部128とをコントローラ12よりも上位の装置に設けるようにしてもよい。また、冷水弁4および温水弁5の開度を示す操作量を算出する操作量演算部120と、操作量演算部120によって算出された操作量を冷水弁4および温水弁5に出力する操作量出力部121、および、加湿弁6の開度を示す操作量を算出する操作量演算部122と、操作量演算部122によって算出された操作量を加湿弁6に出力する操作量出力部123、および、空調機1の送風機18を制御する風量制御部124は、別々のコントローラに分散され、各々が上位の装置に接続されるように構成してもよい。
【0039】
図3に示すように、学習データ生成部125は、空調システムの過去の空調運用データから所定の運転条件を満たすデータセットを抽出する運用データ抽出部1250と、運用データ抽出部1250によって抽出されたデータセットに基づいて、空調システムの還気と外気の混合比から得られる外気導入比をデータセット毎に演算する外気導入比演算部1251と、外気導入比演算部1251によって演算された外気導入比と、この外気導入比の演算に使用されたデータセットとの組を学習データとして蓄積する学習データ保持部1252とから構成される。
【0040】
空調運用データの抽出条件として、2種類の異なる温度の空気である還気と外気を混合する場合の温度差による熱交換以外の熱交換の影響が無視できる運転条件(以下、単純混合状態条件)が、設備管理者やソリューションプロバイダにより、予め設定されている。具体的には、その条件判断に用いる空調運用データの種類、判断に必要な閾値等のパラメータ値、判断方法が定められている。学習データ生成部125の運用データ抽出部1250は、空調管理システムのサーバから空調運用データを取得し、単純混合状態条件を満たすデータセットのみを抽出する。
【0041】
学習データ生成部125の外気導入比演算部1251は、運用データ抽出部1250によって抽出されたデータセットの還気温度Tr[℃]と外気温度To[℃]と給気温度Ts[℃]とに基づいて、還気RAと外気OAの混合比から得られる外気導入比nを演算する。
【0042】
学習データ生成部125の学習データ保持部1252は、外気導入比演算部1251で求めた外気導入比nと、その時点の還気ダンパ開度Dr[%]および外気ダンパ開度Do[%]を関連付けて、学習データとして保持する。
【0043】
推定モデル生成部126は、外気導入比n、還気ダンパ開度Dr[%]、外気ダンパ開度Do[%]の関係を、ディープラーニングなどの一般的な手法で機械学習し、学習結果を外気導入比推定モデル1260として保持する。
【0044】
外気導入比推定部127は、設備管理者等のオペレータからの要求に応じ、空調運用データから還気ダンパ開度Dr[%]、外気ダンパ開度Do[%]の情報を取得する。このデータを外気導入比推定モデル1260の入力として、外気導入比の推定値を取得する。外気導入比推定部127は、給気風量と外気導入比の推定値から外気導入量を演算し、外気導入比とともに外気導入情報提示部128に通知する。
【0045】
外気導入情報提示部128は、外気導入比と外気導入量のうち少なくとも一方の推定値を設備管理者等のオペレータに提示する。
【0046】
次に、学習データ生成部125と推定モデル生成部126と外気導入比推定部127と外気導入情報提示部128の動作を図4を参照して詳細に説明する。
学習データ生成部125は、外気導入比推定モデルを生成するための学習データを生成する(図4ステップS1)。
【0047】
図5は学習データ生成部125の動作を説明するフローチャートである。本実施例の学習データ生成部125の運用データ抽出部1250には、「冷水弁、温水弁、加湿弁がいずれも全閉である」という単純混合状態条件が予め設定されているとする。具体的には、空調運用データの冷水弁開度Bc[%]、温水弁開度Bw[%]、加湿弁開度Bh[%]が以下の条件を満たすとする。
Bc=Bw=Bh=0[%] ・・・(1)
【0048】
運用データ抽出部1250は、この式(1)を満たすデータセット(還気温度Tr[℃]、外気温度To[℃]、給気温度Ts[℃]、還気ダンパ開度Dr[%]、外気ダンパ開度Do[%])を空調運用データから抽出する(図5ステップS1-11)。ここでは、抽出できたデータセットの数をkmとする。
【0049】
続いて、学習データ生成部125の外気導入比演算部1251は、運用データ抽出部1250によって抽出されたデータセットを数えるためのカウント値kを1増やす(図5ステップS1-12)。kの初期値は0である。そして、外気導入比演算部1251は、カウント値kがkm以下の場合(図5ステップS1-13においてYES)、カウント値kのデータセットについて外気導入比nを演算する(図5ステップS1-14)。
【0050】
外気導入比nの演算方法について以下に説明する。単純混合状態条件を満たす空調運転中は、給気温度Ts[℃]は、主に還気温度Tr[℃]、外気温度To[℃]、還気RAと外気OAの混合比から得られる外気導入比nによって決定される。
【0051】
還気RAと外気OAの空気混合の様子を図6に示し、空気線図を用いた空気温度と外気導入比の関係を図7に示す。図6は空調機内熱交換が無視できる場合を示している。Vrは還気風量、Vsは給気風量、Voは外気風量である。外気導入比n(0≦n≦1)を用いると、以下のような関係が成り立つ。
Vr=(1-n)×Vs ・・・(2)
Vo=n×Vs ・・・(3)
【0052】
図7は空気の状態を説明する際に一般的に利用される空気線図上で、2種類の異なる温度の空気である還気と外気を混合する熱交換時の空気状態を説明するイメージ図である。図7において、縦軸は絶対湿度であり、Hr[kg/kg(DA)]は還気湿度、Hs[kg/kg(DA)]は給気湿度、Ho[kg/kg(DA)]は外気湿度である。図7の線分比である外気導入比nは、乾球温度の軸に投影すれば湿度によらず同じ比率になる。このため、還気温度Tr[℃]、外気温度To[℃]、給気温度Ts[℃]が決まれば外気導入比nが決まる。つまり、単純混合状態条件での、還気温度Tr[℃]、外気温度To[℃]、給気温度Ts[℃]が分かれば、式(4)を変形した式(5)により、還気RAと外気OAの外気導入比nを求めることができる。
Ts=n×To+(1-n)×Tr ・・・(4)
n=(Ts-Tr)/(To-Tr) ・・・(5)
【0053】
こうして、外気導入比演算部1251は、カウント値kのデータセットについて式(5)により外気導入比nを演算する(ステップS1-14)。
【0054】
学習データ生成部125の学習データ保持部1252は、外気導入比演算部1251によって演算された外気導入比nと、外気導入比nの演算に使用されたデータセットに含まれる還気ダンパ開度Dr[%]と外気ダンパ開度Do[%](演算に使用された温度Tr,To,Tsと同時点のダンパ開度Dr,Do)との組を、学習データとして蓄積する(図5ステップS1-15)。
【0055】
外気導入比演算部1251は、ステップS1-12に戻ってカウント値kを1増やす。こうして、データセット毎にステップS1-14,S1-15の処理が実行される。全てのデータセットについて外気導入比nの演算と学習データの蓄積が終わると、ステップS1-13においてカウント値kがkmを上回るので、学習データ生成部125の処理が終了する。
【0056】
還気温度Tr[℃]、外気温度To[℃]、給気温度Ts[℃]とこれらから演算した外気導入比nのデータの例を図8に示す。また、図8のデータから得られた外気導入比nと還気ダンパ開度Dr[%]と外気ダンパ開度Do[%]との組からなる学習データの例を図9に示す。ここでは、説明を容易にするために架空のデータの例で示すが、実際は、各ダンパのサイズや羽根形状、データ取得時の空気環境などによってデータは多様化する。
【0057】
なお、送風機18の発熱分による温度上昇ΔTfが予め推定できる場合には、温度上昇ΔTfの分を加味して適用すればよい。すなわち、外気導入比演算部1251は、以下のように外気導入比nの演算が可能である。
(Ts-ΔTf)=n×To+(1-n)×Tr ・・・(6)
n=((Ts-ΔTf)-Tr)/(To-Tr) ・・・(7)
【0058】
温度上昇ΔTfは、例えば、外気ダンパ2を全閉として還気のみを循環させた状態での還気温度Tr_circと給気温度Ts_circとから、ΔTf=Ts_circ-Tr_circを算出することで取得できる。
【0059】
次に、推定モデル生成部126は、学習データ保持部1252に保持された学習データ(外気導入比n、還気ダンパ開度Dr[%]、外気ダンパ開度Do[%])に基づいて、還気ダンパ開度Dr[%]および外気ダンパ開度Do[%]と、外気導入比nとの関係を機械学習した外気導入比推定モデル1260を生成する(図4ステップS2)。機械学習の方法については、ディープラーニングなどが知られている。
【0060】
続いて、外気導入比推定部127は、設備管理者等のオペレータからの要求に応じて外気導入比を推定しようとする現時点の空調運用データから、還気ダンパ開度Dr[%]と外気ダンパ開度Do[%]と給気風量Vs[m3/h]のデータを取得する(図4ステップS3)。
【0061】
外気導入比推定部127は、ステップS3で取得した還気ダンパ開度Dr[%]と外気ダンパ開度Do[%]のデータを外気導入比推定モデル1260の入力として、外気導入比推定モデル1260の出力である外気導入比の推定値n’を取得する(図4ステップS4)。
【0062】
外気導入比推定部127は、外気導入比の推定値n’とステップS3で取得した給気風量Vs[m3/h]とから式(8)により外気導入量の推定値OV[m3/h]を演算する(図4ステップS5)。
OV=n’×Vs ・・・(8)
【0063】
そして、外気導入比推定部127は、外気導入比の推定値n’と外気導入量の推定値OV[m3/h]とを外気導入情報提示部128に通知する(図4ステップS6)。
外気導入情報提示部128は、外気導入比の推定値n’と外気導入量の推定値OV[m3/h]とを設備管理者等のオペレータに対して提示する(図4ステップS7)。
【0064】
なお、VAV方式の空調システムでは、一般的に給気風量Vs[m3/h]が空調運用データに含まれが、VAV方式以外の空調システムの場合は、空調機1の送風機回転数を調整するインバータ出力値[%]が空調運用データに含まれることが多い。VAV方式以外の空調システムの場合、外気導入比推定部127は、インバータ出力値[%]を空調運用データから取得し、インバータ出力値[%]と給気風量定格値(固定値)との積を計算することで給気風量Vs[m3/h]を取得すればよい。
【0065】
以上により、本実施例では、過去の空調運用データから得られる外気導入比nと、還気ダンパ開度Dr[%]および外気ダンパ開度Do[%]との関係を学習することで、現在の外気導入比nを推定することが可能になり、還気風量の計測値および外気風量の計測値を使わずに、現在の外気導入量OVを推定することができる。
【0066】
なお、学習データと外気導入比推定モデルを生成する処理(ステップS1,S2)と最新の外気導入比と外気導入量を推定して提示する処理(ステップS3~S7)とを常に連続して行う必要はなく、運用前に予めステップS1,S2の処理を行っておき、通常運用時はステップS3~S7の処理のみを行うようにすればよい。また、例えば1ヶ月毎にステップS1,S2の処理を行って外気導入比推定モデルを更新するようにしてもよい。
【0067】
また、本実施例では、設備管理者等から要求があったときに外気導入比の推定値n’と外気導入量の推定値OV[m3/h]とを演算・提示するようにしているが、還気ダンパ開度Dr[%]と外気ダンパ開度Do[%]と給気風量Vs[m3/h]の最新のデータを周期的に収集して外気導入比の推定値n’と外気導入量の推定値OV[m3/h]とを周期的に演算・提示したり、この演算結果を外気導入量の制御に活用したりするようにしてもよい。
【0068】
外気導入量の推定値を提示する以外でも、外気導入量を用いて算出する換気回数などを提示してもよい。例えば室内の換気性能を表す指標として換気回数があり、1時間あたりの必要換気回数が予め定められている。この換気回数の算出のために外気導入量OV[m3/h]が必要である。部屋13-1,13-2の既知の容積をV[m3]とすると、換気回数Nは次式のようになる。
N=OV/V ・・・(9)
【0069】
また、制御に活用する場合には、例えばコントローラ12のダンパ制御部129は、外気導入比推定部127によって周期的に演算される外気導入量の推定値OV[m3/h]から換気回数Nを演算する。そして、ダンパ制御部129は、換気回数Nが必要換気回数を満たすように外気ダンパ2と還気ダンパ3を制御すればよい。
【0070】
[第2の実施例]
次に、本発明の第2の実施例について説明する。本実施例は、外気導入比推定モデルの信頼性を向上させるデータフィルタリングを行う例であり、ダンパ開度を信頼性の指標として活用するものである。羽根構造等の起因により、ダンパは開度に応じて風量の再現精度が異なる。そこで、このような精度の違いを考慮し、ダンパ開度を信頼性の指標としてデータをフィルタリングし、信頼性のより高い学習データを生成する。
【0071】
本実施例においても、空調システムの構成は第1の実施例と同様であるので、図1図2図3の符号を用いて説明する。本実施例では、学習データ生成部125の学習データ保持部1252の動作が第1の実施例と異なる。
【0072】
図10は本実施例の学習データ生成部125の動作を説明するフローチャートである。学習データ生成部125の運用データ抽出部1250と外気導入比演算部1251の動作(図10ステップS1-11~S1-14)は、第1の実施例と同じなので、説明は省略する。
【0073】
本実施例の学習データ保持部1252は、第1の実施例と同様に、外気導入比nと還気ダンパ開度Dr[%]と外気ダンパ開度Do[%]との組を学習データとして蓄積するが、この蓄積に際してフィルタリング条件に該当するデータの組を学習データから除外する。具体的には、還気ダンパ開度Dr[%]と外気ダンパ開度Do[%]のうち少なくとも一方が所定の開度閾値(本実施例では10%)以下というフィルタリング条件が、設備管理者やソリューションプロバイダにより予め設定されている。
【0074】
学習データ保持部1252は、外気導入比演算部1251による外気導入比nの演算に使用されたデータセットに含まれる還気ダンパ開度Dr[%]と外気ダンパ開度Do[%](演算に使用された温度Tr,To,Tsと同時点のダンパ開度Dr,Do)がフィルタリング条件に該当する場合(図10ステップS1-16においてYES)、外気導入比nと還気ダンパ開度Dr[%]と外気ダンパ開度Do[%]の組を学習データから除外する。
【0075】
還気ダンパ開度Dr[%]と外気ダンパ開度Do[%]がフィルタリング条件に該当しない場合の学習データ保持部1252の動作(図10ステップS1-15)は、第1の実施例と同じである。
【0076】
図11は、図8のデータから得られた外気導入比nと還気ダンパ開度Dr[%]と外気ダンパ開度Do[%]との組からなる学習データの例を示す図であり、本実施例の学習データ保持部1252の動作を説明する図である。ここでは、説明を簡単にするため、データNoを付加している。
【0077】
データNo=1の外気ダンパ開度Do=8.6[%]、データNo=9の還気ダンパ開度Dr=2.9[%]、データNo=20の還気ダンパ開度Dr=1.2[%]はいずれも10[%]以下である。したがって、フィルタリング条件に該当し、データNo=1,9,20のデータは学習データから除外される。
外気導入比演算部1251以外の構成は第1の実施例と同じである。
【0078】
以上のように、本実施例では、風量の再現精度を考慮してダンパ開度に応じた学習データのフィルタリングを行うことで、信頼性のより高い学習データを生成することができる。
【0079】
[第3の実施例]
次に、本発明の第3の実施例について説明する。本実施例は、外気導入比推定モデルの信頼性を向上させるデータフィルタリングを行う別の例であり、還気温度と外気温度の温度差を信頼性の指標として活用するものである。図7に示したように還気温度Tr[℃]と外気温度To[℃]の温度差ΔTro[℃]が大きいほど、按分する長さが長くなり、給気温度Ts[℃]と外気導入比nの関係の精度が向上する。よって、温度差ΔTro[℃]を考慮してデータをフィルタリングし、信頼性のより高い学習データを生成する。
【0080】
本実施例においても、空調システムの構成は第1の実施例と同様であるので、図1図2図3の符号を用いて説明する。本実施例では、学習データ生成部125の学習データ保持部1252の動作が第1の実施例と異なる。
【0081】
図12は本実施例の学習データ生成部125の動作を説明するフローチャートである。学習データ生成部125の運用データ抽出部1250と外気導入比演算部1251の動作(図12ステップS1-11~S1-14)は、第1の実施例で説明したとおりである。
【0082】
本実施例の学習データ保持部1252は、第1の実施例と同様に、外気導入比nと還気ダンパ開度Dr[%]と外気ダンパ開度Do[%]との組を学習データとして蓄積するが、この蓄積に際してフィルタリング条件に該当するデータの組を学習データから除外する。具体的には、還気温度Tr[℃]と外気温度To[℃]の温度差ΔTro[℃]に基づくフィルタリング条件が、設備管理者やソリューションプロバイダにより予め設定されている。より具体的には、還気温度Tr[℃]と外気温度To[℃]の温度差の絶対値|ΔTro|[℃]から算出する信頼性指標Q[%]が所定の信頼性指標閾値(本実施例では50%)以下というフィルタリング条件が予め設定されている。
【0083】
図13は温度差の絶対値|ΔTro|[℃]と信頼性指標Q[%]との関係の1例を示す図である。本実施例では、温度差の絶対値|ΔTro|[℃]に所定の係数α(図13の例ではα=10)を乗算した値が信頼性指標Q[%]となる。
【0084】
学習データ保持部1252は、外気導入比演算部1251による外気導入比nの演算に使用された還気温度Tr[℃]と外気温度To[℃]の温度差の絶対値|ΔTro|[℃]から信頼性指標Q[%]を演算したときに、信頼性指標Q[%]がフィルタリング条件に該当する場合(図12ステップS1-17においてYES)、外気導入比nと還気ダンパ開度Dr[%]と外気ダンパ開度Do[%]の組を学習データから除外する。
【0085】
信頼性指標Q[%]がフィルタリング条件に該当しない場合の学習データ保持部1252の動作(図12ステップS1-15)は、第1の実施例と同じである。
【0086】
図14は、図8のデータから得られた外気導入比nと還気ダンパ開度Dr[%]と外気ダンパ開度Do[%]との組からなる学習データの例を示す図であり、本実施例の学習データ保持部1252の動作を説明する図である。ここでは、説明を簡単にするため、データNoを付加している。データNo=11の信頼性指標Q[%]=47.6[%]は50[%]以下である。したがって、フィルタリング条件に該当し、データNo=11のデータは学習データから除外される。
外気導入比演算部1251以外の構成は第1の実施例と同じである。
【0087】
以上のように、本実施例では、給気温度Ts[℃]と外気導入比nの関係の精度に着目して、還気温度Tr[℃]と外気温度To[℃]の温度差ΔTro[℃]に基づく学習データのフィルタリングを行うことで、信頼性のより高い学習データを生成することができる。
【0088】
なお、本実施例では、温度差の絶対値|ΔTro|[℃]から信頼性指標Q[%]を演算しているが、温度差の絶対値|ΔTro|[℃]を信頼性指標としてもよい。この場合には、温度差の絶対値|ΔTro|[℃]が所定の温度差閾値以下というフィルタリング条件を設定する。また、温度差ΔTro[℃]に基づくより複雑な信頼性指標を定義してもよい。
【0089】
第1~第3の実施例のコントローラ12は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置および外部とのインターフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を図15に示す。コンピュータは、CPU300と、記憶装置301と、インターフェース装置(I/F)302とを備えている。
【0090】
I/F302には、ダンパ2,3と弁4~6と温度センサ7,8-1,8-2,9,10とインバータ19とVAVユニット11-1,11-2などが接続される。本発明の学習データ生成方法、外気導入量推定方法および空調制御方法を実現させるためのプログラムは記憶装置301に格納される。CPU300は、記憶装置301に格納されたプログラムに従って第1~第3の実施例で説明した処理を実行する。ただし、コントローラ12の全ての構成を1台のコンピュータで実現する必要はなく、上記のとおり学習データ生成部125と推定モデル生成部126と外気導入比推定部127と外気導入情報提示部128を別のコンピュータによって実現するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、空調システムに適用することができる。
【符号の説明】
【0092】
1…空調機、2…外気ダンパ、3…還気ダンパ、4…冷水弁、5…温水弁、6…加湿弁、7,8-1,8-2,9,10…温度センサ、11-1,11-2…VAVユニット、12…コントローラ、13-1,13-2…部屋、14…エアフィルタ、15…冷却コイル、16…加熱コイル、17…加湿器、18…送風機、19…インバータ、20…給気ダクト、21-1,21-2…吹出口、22-1,22-2…吸込口、23…還気ダクト、120,122…操作量演算部、121,123…操作量出力部、124…風量制御部、125…学習データ生成部、126…推定モデル生成部、127…外気導入比推定部、128…外気導入情報提示部、129…ダンパ制御部、1250…運用データ抽出部、1251…外気導入比演算部、1252…学習データ保持部、1260…外気導入比推定モデル。
図1
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