(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】車両用転舵装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20240820BHJP
B60W 30/045 20120101ALI20240820BHJP
B60W 40/08 20120101ALI20240820BHJP
B62D 7/15 20060101ALI20240820BHJP
B62D 7/14 20060101ALI20240820BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20240820BHJP
B62D 109/00 20060101ALN20240820BHJP
【FI】
B62D6/00
B60W30/045
B60W40/08
B62D7/15 D
B62D7/14 Z
B62D113:00
B62D109:00
(21)【出願番号】P 2021082523
(22)【出願日】2021-05-14
【審査請求日】2023-10-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立入 泉樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄大
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-254630(JP,A)
【文献】特開2013-112079(JP,A)
【文献】国際公開第2014/061108(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102018204065(DE,A1)
【文献】特開2004-256071(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0016582(US,A1)
【文献】特開2020-097291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B60W 30/045
B60W 40/08
B62D 7/15
B62D 7/14
B62D 113/00
B62D 109/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三輪以上のタイヤ(91-94)が独立して転舵可能な独立転舵車両(100)において各タイヤを転舵させる車両用転舵装置であって、
乗員の乗車位置を検出する乗員乗車位置検出装置(30)、及び、車両の重心を測定する車両重心測定装置(40)を備えた車両に搭載され、
車両特性記憶装置(20)から取得した車両特性に基づいて、各タイヤを個別に転舵させる転舵角を算出する転舵角制御部(15)と
車両の旋回半径を指示する旋回半径指示部(17)と、
前記車両特性記憶装置に記憶された複数の乗員位置から目標とする乗員位置を指示する目標乗員位置指示部(18)と、
を備え、
前記転舵角制御部は、
車両前後方向における旋回中心の位置を
、
予め設定された標準位置
、
前記目標乗員位置指示部に指示された
乗員位置
、
前記乗員乗車位置検出装置から取得した
乗員の乗車位置
、又は、複数の乗員の乗車範囲における代表位置、
前記車両重心測定装置から取得した車両の重心、
のうちいずれかを通る車両左右軸上に定め、
旋回中心と、前記旋回半径指示部が指示した旋回半径とから、各タイヤの転舵角を算出し
、
前記目標乗員位置指示部、前記乗員乗車位置検出装置又は前記車両重心測定装置からの情報に基づき定められた旋回中心の位置が異なる場合、いずれかの旋回中心の位置を優先して選択するように調停する車両用転舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用転舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各車輪が独立して転舵可能な独立転舵車両において、旋回中心を切り替え可能な装置が知られている。
【0003】
例えば特許文献1に開示された車両用操舵装置では、旋回中心の車両前後方向の位置を運転者の操作により指示可能なスライダ(車両前後方向位置入力手段)がステアリングホイールの脇に設けられている。操舵コントローラは、入力された旋回中心の位置に基づき、各車輪の転舵角制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の装置では、旋回中心に応じて乗員にかかる横加速度が変化するため、乗り心地が悪化するおそれがある。
【0006】
本発明は上述の点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、独立転舵車両の旋回時に乗員にかかる横加速度を低減し、乗り心地を向上させる車両用転舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による車両用転舵装置は、三輪以上のタイヤ(91-94)が独立して転舵可能な独立転舵車両(100)において各タイヤを転舵させる。この車両用転舵装置は、乗員の乗車位置を検出する乗員乗車位置検出装置(30)、及び、車両の重心を測定する車両重心測定装置(40)を備えた車両に搭載され、転舵角制御部(15)と、旋回半径指示部(17)と、目標乗員位置指示部(18)と、を備える。転舵角制御部は、車両特性記憶装置(20)から取得した車両特性に基づいて、各タイヤを個別に転舵させる転舵角を算出する。旋回半径指示部は、車両の旋回半径を指示する。目標乗員位置指示部は、車両特性記憶装置に記憶された複数の乗員位置から目標とする乗員位置を指示する。
【0008】
転舵角制御部は、車両前後方向における旋回中心の位置を、[A]予め設定された標準位置、[B]目標乗員位置指示部に指示された乗員位置、[C]乗員乗車位置検出装置から取得した乗員の乗車位置、又は、複数の乗員の乗車範囲における代表位置、[D]車両重心測定装置から取得した車両の重心、のうちいずれかを通る車両左右軸上に定める。転舵角制御部は、旋回中心と、旋回半径指示部が指示した旋回半径とから、各タイヤの転舵角を算出する。
【0009】
転舵角制御部は、目標乗員位置指示部、乗員乗車位置検出装置又は車両重心測定装置からの情報に基づき定められた旋回中心の位置が異なる場合、いずれかの旋回中心の位置を優先して選択するように調停する。
【0010】
旋回中心が定められた車両左右軸上では、操舵中の、又は修正舵などによる旋回半径の変化に伴う横加速度が低減する。したがって、旋回中心を含む車両左右軸上の目標位置に乗車した乗員に対し、旋回時にかかる横加速度を低減し、乗り心地を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態による車両用転舵装置のブロック図。
【
図2】(a)運転席にドライバのみが乗車したとき、(b)全座席に乗員が乗車したときの旋回中心の設定例を示す図。
【
図3】旋回中心が(a)運転席を通る車両左右軸上、(b)後輪軸を通る車両左右軸上にあるときの旋回中心と横加速度の変化との関係を示す図。
【
図5】旋回中心が(a)運転席を通る車両左右軸上、(b)後輪軸を通る車両左右軸上にあるときの各タイヤの転舵角を示すタイムチャート。
【
図6】(a)旋回半径、(b)旋回時にドライバにかかる横加速度を示すタイムチャート。
【
図7】(a)
図6(a)のVIIa部、(b)
図6(b)のVIIb部の拡大図。
【
図8】旋回時に(a)右前席(運転席)、(b)右後席の乗員にかかる横加速度を示すタイムチャート。
【
図10】一実施形態による旋回時転舵処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態による車両用転舵装置を図面に基づいて説明する。本実施形態の車両用転舵装置は、各タイヤが独立して転舵可能な独立転舵車両において各タイヤを転舵させる。
【0014】
従来、一般的な車両は左右対のタイヤがリンクを介して機械的に結合されており、ステアリングの操舵によってタイヤが転舵する。今後、ステアリングと左右対タイヤのリンクとが機械的に分離したステアバイワイヤや、左右前輪に加え、左右後輪も独立して転舵可能な四輪独立転舵車両に発展していくと考えられる。
【0015】
前輪のみ転舵可能な従来の前輪転舵車両では、旋回時の旋回中心を、後輪軸を通る車両左右軸上にしか設定できない。それに対し四輪独立転舵車両では、前輪に加えて後輪を転舵させることで、車両前後方向における旋回中心の位置を自由に設定することができる。本実施形態は、このような独立転舵車両の特性を活かし、旋回時における乗員の乗り心地を向上させることを目的とする。
【0016】
(一実施形態)
図1を参照し、一実施形態による車両用転舵装置10の構成を説明する。
図1に示す四輪の独立転舵車両100は、四つのタイヤ91-94が全て独立に転舵可能である。前列左タイヤ91には「FL」、前列右タイヤ92には「FR」、後列左タイヤ93には「RL」、後列右タイヤ94には「RR」と記す。
【0017】
車両100には、車両用転舵装置10の他に、車両特性や乗員位置を記憶した車両特性記憶装置20、乗員の乗車位置を検出する乗員乗車位置検出装置30、及び、車両の重心を測定する車両重心測定装置40が搭載されている。車両特性記憶装置20が記憶する車両特性にはホイールベースやトレッド幅等の車両寸法が含まれる。乗員位置は、各座席の座標として記憶される。乗員乗車位置検出装置30の検出信号としては、シートベルトの着座信号や車室内カメラによる人物認証信号等が出力される。車両重心測定装置40の構成例については後述する。
【0018】
車両用転舵装置10は、標準構成として転舵角制御部15及び旋回半径指示部17を備える。転舵角制御部15は、車両特性記憶装置20から取得した車両特性に基づいて、各タイヤ91-94を個別に転舵させる転舵角を算出する。旋回半径指示部17はステアリングホイール等で構成され、車両100の旋回半径を指示する。
【0019】
また車両用転舵装置10は、オプション構成として目標乗員位置指示部18を備える。目標乗員位置指示部18は、車両特性記憶装置20に記憶された複数の乗員位置から目標とする乗員位置を指示する。目標とする乗員位置は、運転席、又は、大切な家族や客人が乗車した座席等をドライバが手動で設定してもよいし、システムにより自動的に設定されるようにしてもよい。
【0020】
転舵角制御部15は、車両前後方向における旋回中心の位置を、目標位置を通る車両左右軸上に定める。目標位置として、次のA~Dのうちのいずれかが用いられる。各目標位置A~Dは、重複する場合があってもよい。
【0021】
目標位置A:予め設定された標準位置(例えば運転席)。
目標位置B:目標乗員位置指示部18により指示された乗員位置。
目標位置C:乗員乗車位置検出装置30から取得した乗員の乗車位置、又は、複数の乗員の乗車範囲における代表位置。
目標位置D:車両重心測定装置40から取得した車両の重心。
【0022】
図2(a)に、運転席82にドライバのみが乗車したときの旋回中心の設定例を示す。例えば目標位置A、B、Cとして、運転席82を通る車両左右軸(実線)上に旋回中心を設定することが可能である。比較例として、後輪93、94の軸を通る車両左右軸を破線で示す。この設定例による効果については
図5~
図7を参照して後述する。
【0023】
図2(b)に、前列2席、後列2席の全座席81~84に4人の乗員が乗車したときの旋回中心の設定例を示す。例えば目標位置A、Cとして(或いは目標位置Dに近い位置として)、車両中央を通る車両左右軸(実線)上に旋回中心を設定することが可能である。比較例として、後輪93、94の軸を通る車両左右軸を破線で示す。この設定例による効果については
図8を参照して後述する。
【0024】
転舵角制御部15は、旋回中心と、旋回半径指示部が指示した旋回半径とから、各タイヤ91-94の転舵角を算出する。転舵角制御部15が各タイヤ91-94に転舵角を指令することで、車両100は所望の方向に旋回する。
【0025】
次に
図3を参照し、独立転舵車両の旋回時における乗り心地を向上させる手法について説明する。乗員の乗り心地に関連する要素として、ロールレートやピッチレートの低減など、車両挙動の大きさとその変化率を低減することが重要である。
【0026】
旋回時に乗員(例えばドライバ)にかかる横加速度には2種類ある。一つは旋回半径と速度に伴う遠心力である。もう一つは旋回中心が移動することによる進行方向の変化による横加速度である。例えば
図3(b)に示すように、後輪軸を通る車両左右軸上に旋回中心がある場合、旋回中心がC1からC2に移動すると進行方向がP1からP2に変化し、それに伴って横加速度αxが発生する。旋回中心が移動する状況の例として、操舵開始初期に操舵角を徐々に増加させるときや操舵終了時に操舵角を徐々に減少させるとき、一定旋回中に修正舵を入れるときなどがある。
【0027】
これに対し
図3(a)に示すように、運転席82を通る車両左右軸上に旋回中心を定めた場合、旋回中心がC1からC2に移動してもドライバの進行方向P1、P2は常に同一である。そのため、旋回初期や修正舵を入れる場合にも横加速度は発生せず、遠心力以外の加速度がドライバに付与されることが防止される。よって、ドライバの乗り心地が向上する。
【0028】
このように本実施形態では、独立転舵車両100の旋回半径を自由に調整できる特徴を活かし、車両前後方向における旋回中心の位置を、設定した目標位置を通る車両左右軸上に定めて四輪の転舵角を制御する。これにより、旋回時に乗員にかかる横加速度を低減し、乗り心地を向上させる。
【0029】
図4を参照し、旋回時における転舵角の計算について説明する。各タイヤ91-94の回転方向が、各タイヤ91-94の中心と旋回中心とを結んだ直線に対して垂直になるように転舵角が計算される。車両重心を原点(0,0)とし、車両左右軸をx軸、車両前後軸をy軸とするxy座標を定義する。x軸は右を正、左を負とし、y軸は前を正、後を負とする。旋回中心の座標を(x1,y1)、運転席座標を(x2,y2)とする。例えば
図2(a)に示す状態では、「y2=y1」である。
【0030】
旋回半径Rtは、旋回中心と重心との距離であり、式(1)で表される。
Rt=√(x12+y12) ・・・(1)
【0031】
車両のホイールベースL及びトレッド幅Df、Drは、車両特性記憶装置20から取得される。y軸方向における重心から前輪91、92の軸までの距離をLf、重心から後輪93、94の軸までの距離をLrと表す。各タイヤ91-94の転舵角δFL、δFR、δRL、δRRは、時計回転方向を正とし、式(2.1)~(2.4)によりタンジェント値で表される。
図4及び
図9中の下付文字「FL、FR、RL、RR」を明細書中では通常文字で記載する。
【0032】
tanδFL= (Lf-y1)/{x1+(Df/2)} ・・・(2.1)
tanδFR= (Lf-y1)/{x1-(Df/2)} ・・・(2.2)
tanδRL=-(Lr+y1)/{x1+(Dr/2)} ・・・(2.3)
tanδRR=-(Lr+y1)/{x1-(Dr/2)} ・・・(2.4)
【0033】
次に
図5~
図7を参照し、本実施形態による旋回時の横加速度低減効果についてシミュレーション解析結果に基づき説明する。このシミュレーションでは、直進走行から約5秒後に一定の旋回半径で右折(時計回転方向に旋回)を開始し、約15秒後に修正舵を入れる動作を想定する。修正舵では1秒間に左右に各1回転舵する。各図における縦軸には0以外の数値を記載しない。ただし、量の次元を示すため単位のみ記載する。
【0034】
車両前後方向における旋回中心は、[d]運転席を通る車両左右軸上、[r]後輪軸を通る車両左右軸上の2種類に設定される。以下、[d]の設定を「運転席中心」、[r]の設定を「後輪軸中心」と省略して記す。
図4において運転席中心の場合、「y1=y2」となり、後輪軸中心の場合、「y1=-Lr」となる。
【0035】
図5(a)に運転席中心、
図5(b)に後輪軸中心での旋回時における各タイヤ91-94の転舵角を示す。運転席中心の場合、前輪91、92(FL、FR)は右方向に転舵し、後輪93、94(RL、RR)は左方向に転舵する。旋回中心に近い右輪92、94(FR、RR)の転舵角の絶対値は、旋回中心から遠い左輪91、93(FL、RL)の転舵角の絶対値より大きくなる。後輪軸中心の場合、前輪91、92(FL、FR)は右方向に転舵し、後輪93、94(RL、RR)は直進状態のままである。
【0036】
図6(a)及び
図7(a)に、シミュレーション条件での旋回半径の時間変化を示す。
図6(b)及び
図7(b)に、旋回時にドライバにかかる横加速度を示す。解析の結果、転舵角の徐変終了時、運転席中心(実線)では後輪軸中心(破線)に比べ横加速度のオーバーシュートが抑制された。修正舵を入れた時、運転席中心での横加速度αx_dは、後輪軸中心での横加速度αx_rの半分以下に低減した。
【0037】
次に
図8を参照し、複数の座席に複数人が乗車したとき、旋回時に乗員にかかる横加速度の解析結果について説明する。例として、
図2(b)に示すように、左前席(助手席)81、右前席(運転席)82、左後席83、右後席84の全座席に4人の乗員が乗車した場合を想定する。
【0038】
車両前後方向における旋回中心は、
図2(b)に示すように、[c]車両中央を通る車両左右軸上、[r]後輪軸を通る車両左右軸上の2種類に設定される。車両中央とは、例えばホイールベースの中央値であり、「複数の乗員の乗車範囲における代表位置」として選択される。以下、[c]の設定を「車両中央中心」、[r]の設定を
図5~
図7の説明と同様に「後輪軸中心」と省略して記す。旋回中心以外のシミュレーション条件は、
図5~
図7の条件と同じであり、直進から右折して修正舵を入れる。
【0039】
図8(a)に右前席(運転席)82、
図8(b)に右後席84の乗員にかかる横加速度を示す。右前席(運転席)82では、車両中央中心(実線)での横加速度αx_cは、後輪軸中心(破線)での横加速度αx_rの半分以下に低減した。右後席84では、車両中央中心(実線)での横加速度αx_cは、後輪軸中心(破線)での横加速度αx_rと同等であった。左前席(助手席)81での横加速度は、右前席(運転席)82での横加速度を全体に低くオフセットしたものとなり、左後席83での横加速度は、右後席84での横加速度を全体に低くオフセットしたものとなった。
【0040】
このように、複数の座席に複数の乗員が乗車した場合、複数の乗員の乗車範囲における代表位置を通る車両左右軸上に旋回中心を定めることで、旋回時に複数の乗員にかかる横加速度を全体的に低減することができる。後部座席に3人乗車した場合や3列シート等の車両についても、適宜、代表位置を設定すればよい。
【0041】
次に、車両重心測定装置40による車両の重心の測定について説明する。車両重心測定装置40は、予め車両特性から水平面方向の重心位置を導出してもよい。或いは
図9に示すように、車両重心測定装置40は、各タイヤの輪荷重WFR、WFL、WRR、WRLに基づき、前後方向の重心位置Lf、Lr、及び、車幅方向の重心位置Tl、Trを算出して重心を推定してもよい。各タイヤの輪荷重はセンサで検出されてもよく、サスペンションのストロークセンサとばね定数から算出されてもよい。
図9ではトレッド幅の記号として、都合により
図4の「Df、Dr」とは異なる「T」を用いる。
【0042】
輪荷重WFR、WFL、WRR、WRLと重心位置Lf、Lr、Tl、Trとの関係は、式(3.1)~(3.4)で表される。
(WFR+WFL)Lf=(WRR+WRL)Lr ・・・(3.1)
Lf+Lr=L ・・・(3.2)
(WFR+WRR)Tr=(WFL+WRL)Tl ・・・(3.3)
Tr+Tl=T ・・・(3.4)
【0043】
図10のフローチャートに、本実施形態の転舵角制御部15による旋回時転舵処理のルーチンを示す。フローチャートの説明で記号「S」はステップを意味する。S1で転舵角制御部15は、目標位置A、B、C、Dのうちいずれかを通る車両左右軸を設定する。
【0044】
上述の通り目標位置Aは、予め設定された標準位置である。目標位置Bは、目標乗員位置指示部18により指示された乗員位置である。目標位置Cは、乗員乗車位置検出装置30から取得した乗員の乗車位置、又は、複数の乗員の乗車範囲における代表位置である。目標位置Dは、車両重心測定装置40から取得した車両の重心である。
【0045】
S2で転舵角制御部15は、設定した車両左右軸上に、車両前後方向における旋回中心の位置を定める。S3で転舵角制御部15は、旋回半径指示部17が指示した旋回半径を取得する。S4で転舵角制御部15は、旋回中心と旋回半径とから各タイヤ91-91の転舵角を算出する。S5で転舵角制御部15は、算出した転舵角に各タイヤ91-94を転舵させる。
【0046】
(本実施形態の効果)
(1)転舵角制御部15は、車両前後方向における旋回中心の位置を、例えば予め設定された標準位置を通る車両左右軸上に定める。旋回中心が定められた車両左右軸上では、操舵中の、又は修正舵などによる旋回半径の変化に伴う横加速度が低減する。したがって、旋回中心を含む車両左右軸上の目標位置に乗車した乗員に対し、旋回時にかかる横加速度を低減し、乗り心地を向上させることができる。
【0047】
主に運転席にドライバのみが乗車するか、又は、運転席と助手席に2人の乗員が乗車する車両では、予め運転席を標準位置として設定することで、ドライバや助手席の乗員の乗り心地を向上させることができる。また、客人や高齢者、子供、病人等が後部座席に乗車する機会が多い車両では、予め後部座席を標準位置として設定してもよい。
【0048】
(2)或いは、転舵角制御部15は、車両前後方向における旋回中心の位置を、目標乗員位置指示部18に指示された乗員位置を通る車両左右軸上に定める。「乗り心地を向上させることを最優先する人」として、例えば大切な家族や客人が乗車した座席をドライバが手動で設定することで、都度、目標とする乗員位置を指示して旋回中心を変更することができる。
【0049】
(3)或いは、転舵角制御部15は、車両前後方向における旋回中心の位置を、乗員乗車位置検出装置30から取得した乗員の乗車位置、又は、複数の乗員の乗車範囲における代表位置を通る車両左右軸上に定める。例えば複数の乗員の乗車時に、乗車範囲の中央を通る車両左右軸上に旋回中心を定めることで、旋回時に複数の乗員にかかる横加速度を全体的に低減することができる。
【0050】
(4)或いは、転舵角制御部15は、車両前後方向における旋回中心の位置を、車両重心測定装置40から取得した車両の重心を通る車両左右軸上に定める。車両の重心を通る車両左右軸上に旋回中心を定めることで、旋回時に乗員及び乗車荷物にかかる横加速度を最小にすることができる。
【0051】
(その他の実施形態)
(a)本発明の車両用転舵装置10によりタイヤが転舵される制御される独立転舵車両は、四輪車両に限らず、三輪以上のタイヤが独立して転舵可能な車両であればよい。
【0052】
(b)目標乗員位置指示部18、乗員乗車位置検出装置30又は車両重心測定装置40からの情報に基づき定められた旋回中心の位置が異なる場合、転舵角制御部15は、そのいずれかを優先して選択するように調停してもよい。
【0053】
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0054】
10・・・車両用転舵装置、
15・・・転舵角制御部、
17・・・旋回半径指示部、
20・・・車両特性記憶装置、
91-94・・・タイヤ、
100・・・独立転舵車両。