IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本自動車部品総合研究所の特許一覧 ▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許-サプライポンプ 図1
  • 特許-サプライポンプ 図2
  • 特許-サプライポンプ 図3
  • 特許-サプライポンプ 図4
  • 特許-サプライポンプ 図5
  • 特許-サプライポンプ 図6
  • 特許-サプライポンプ 図7
  • 特許-サプライポンプ 図8
  • 特許-サプライポンプ 図9
  • 特許-サプライポンプ 図10
  • 特許-サプライポンプ 図11
  • 特許-サプライポンプ 図12
  • 特許-サプライポンプ 図13
  • 特許-サプライポンプ 図14
  • 特許-サプライポンプ 図15
  • 特許-サプライポンプ 図16
  • 特許-サプライポンプ 図17
  • 特許-サプライポンプ 図18
  • 特許-サプライポンプ 図19
  • 特許-サプライポンプ 図20
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】サプライポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04B 9/04 20060101AFI20240820BHJP
【FI】
F04B9/04 C
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021118160
(22)【出願日】2021-07-16
(65)【公開番号】P2023013759
(43)【公開日】2023-01-26
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稗島 利明
(72)【発明者】
【氏名】小林 伴星
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-138596(JP,A)
【文献】特表2013-501876(JP,A)
【文献】特開2000-356184(JP,A)
【文献】特開平08-021329(JP,A)
【文献】特開2012-180823(JP,A)
【文献】特開平10-184492(JP,A)
【文献】特開2009-097508(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 9/04
F02M 59/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転するカム軸(14)と、
前記カム軸に対し偏心して設けられ、前記カム軸と一体に回転するカム(17)と、
前記カムの外周と摺動しつつ、前記カム軸の周りを自転することなく公転するカムリング(501-503)と、
記カムリングの外周面であるカムリング摺動面(53)と摺動し、前記カムリングの公転に伴って前記カム軸と直交する方向に往復移動するタペット(40)と、
前記タペットと共に往復移動して流体を圧送するプランジャ(30)と、を備え、
前記タペットは、前記カムリング摺動面と対向するタペット摺動面(43)に、前記カムリング摺動面と非接触となるタペット凹部(41)を有し、
前記カムリング摺動面は、周縁部に対して内側の高さが高い凸形状に形成されており、凸形状の等高線は、真円ではない曲線で表されるサプライポンプ。
【請求項2】
前記カムリング摺動面の摺動方向、及び、摺動方向に直交する方向のうち一方を長軸方向とし他方を短軸方向とする楕円球面形状部(531、533)が前記カムリング摺動面に形成されている請求項1に記載のサプライポンプ。
【請求項3】
前記楕円球面形状部(531)は、前記カムリング摺動面の摺動方向に直交する方向を長軸方向とする請求項2に記載のサプライポンプ。
【請求項4】
前記楕円球面形状部の頂点(Pv)を通り前記プランジャの軸に平行な断面での楕円球面の両端の点から前記頂点までの凸高さについて、前記カムリング摺動面の摺動方向における前記凸高さ(Hx)は、摺動方向に直交する方向における前記凸高さ(Hy)よりも大きい請求項2または3に記載のサプライポンプ。
【請求項5】
前記楕円球面形状部の頂点(Pv)は、前記カムリング摺動面の中央から偏心している請求項2~4のいずれか一項に記載のサプライポンプ。
【請求項6】
前記楕円球面形状部の頂点の、前記カムリング摺動面の摺動方向の中央からの偏心量(d2)は、前記プランジャの軸と前記カム軸の中心(Ca)との偏心量(d1)に等しい請求項5に記載のサプライポンプ。
【請求項7】
回転するカム軸(14)と、
前記カム軸に対し偏心して設けられ、前記カム軸と一体に回転するカム(17)と、
前記カムの外周と摺動しつつ、前記カム軸の周りを自転することなく公転するカムリング(50)と、
記カムリングの外周面であるカムリング摺動面(53)と摺動し、前記カムリングの公転に伴って前記カム軸と直交する方向に往復移動するタペット(404)と、
前記タペットと共に往復移動して流体を圧送するプランジャ(30)と、を備え、
前記タペットは、
前記カムリング摺動面と対向するタペット摺動面(43)に、前記カムリング摺動面と非接触となるタペット凹部(41)を有し、
前記タペット摺動面とは反対側の面であるタペット上面(44)に、前記カムリング側への荷重が加わったとき、前記タペット摺動面と前記カムリング摺動面との接触面積を増加させるように前記タペットを弾性変形させる弾性変形部として環状溝(46)を有するサプライポンプ。
【請求項8】
前記環状溝は、前記タペットが弾性変形した状態での前記タペット凹部の周縁と前記カムリング摺動面との接点を結んだ曲線の内側に形成されている請求項に記載のサプライポンプ。
【請求項9】
回転するカム軸(14)と、
前記カム軸に対し偏心して設けられ、前記カム軸と一体に回転するカム(17)と、
前記カムの外周と摺動しつつ、前記カム軸の周りを自転することなく公転するカムリング(505、506)と、
記カムリングの外周面であるカムリング摺動面(53)と摺動し、前記カムリングの公転に伴って前記カム軸と直交する方向に往復移動するタペット(40)と、
前記タペットと共に往復移動して流体を圧送するプランジャ(30)と、を備え、
前記タペットは、前記カムリング摺動面と対向するタペット摺動面(43)に、前記カムリング摺動面と非接触となるタペット凹部(41)を有し、
前記カムリングは、
前記カム軸と平行であり、且つ、前記カムリング摺動面に直交する面であるカムリング非摺動面(54)に、
前記プランジャの軸方向と交差する方向に延び、前記プランジャの軸方向に印加される応力の伝達を緩和する応力緩和溝(555、556)が形成されているサプライポンプ。
【請求項10】
前記応力緩和溝(556)は、前記カムリング摺動面における摺動方向の両側、及び、摺動方向に直交する方向の両側の四つのエッジ部に対応する位置に形成されている請求項に記載のサプライポンプ。
【請求項11】
回転するカム軸(14)と、
前記カム軸に対し偏心して設けられ、前記カム軸と一体に回転するカム(17)と、
前記カムの外周と摺動しつつ、前記カム軸の周りを自転することなく公転するカムリング(507、508)と、
記カムリングの外周面であるカムリング摺動面(53)と摺動し、前記カムリングの公転に伴って前記カム軸と直交する方向に往復移動するタペット(40)と、
前記タペットと共に往復移動して流体を圧送するプランジャ(30)と、を備え、
前記タペットは、前記カムリング摺動面と対向するタペット摺動面(43)に、前記カムリング摺動面と非接触となるタペット凹部(41)を有し、
前記カムリングは、
前記カムリング摺動面の摺動方向における少なくとも一方の端部に、流体が流れ込み前記カムリング摺動面を冷却可能な冷却凹部(577、578)を有するサプライポンプ。
【請求項12】
前記冷却凹部は、前記カムリング摺動面の摺動方向の中央に対し、前記プランジャが前記カム軸に近づくとき前記タペットが摺動する側に形成されている請求項11に記載のサプライポンプ。
【請求項13】
前記冷却凹部(577)は、前記カムリング摺動面の摺動方向に直交する方向において前記タペットが当接する範囲の内側のみに形成されている請求項11または12に記載のサプライポンプ。
【請求項14】
前記冷却凹部(578)は、前記カムリング摺動面の摺動方向に直交する方向の全範囲にわたる傾斜面で形成されている請求項11または12に記載のサプライポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サプライポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カムリングの公転に伴ってタペット及びプランジャを往復移動させて流体を圧送するサプライポンプが知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、タペットとカムリングとの摺動部の焼き付きを防止するために、タペット摺動面にカムリング摺動面と非接触となる凹部を設けて、タペット摺動面の面圧を分散させ、面圧の均一化を図る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-138596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
サプライポンプは、典型的には流体としての燃料を内燃機関に圧送する。近年、燃費や排気規制への対応のため、内燃機関への燃料噴射圧を高圧化するニーズが高まっている。また、寒冷地や新興国において燃料性状に対するロバスト性が求められており、特に耐焼き付き性の更なる向上が課題となっている。
【0006】
本発明は上述の課題に鑑みて成されたものであり、その目的は、耐焼き付き性をより向上させるサプライポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第1の態様から第4の態様までの四態様のサプライポンプを含む。四態様に共通して、サプライポンプは、回転するカム軸(14)と、カム(17)と、カムリング(50)と、タペット(40)と、プランジャ(30)と、を備える。カムは、カム軸に対し偏心して設けられ、カム軸と一体に回転する。カムリングは、カムの外周と摺動しつつ、カム軸の周りを自転することなく公転する。
【0008】
タペットは、カムリングの外周面であるカムリング摺動面(53)と摺動し、カムリングの公転に伴ってカム軸と直交する方向に往復移動する。プランジャは、タペットと共に往復移動して流体を圧送する。タペットは、カムリング摺動面と対向するタペット摺動面(43)に、カムリング摺動面と非接触となるタペット凹部(41)を有する。
【0009】
第1の態様のサプライポンプでは、カムリング摺動面は、周縁部に対して内側の高さが高い凸形状に形成されている。凸形状の等高線は、真円ではない曲線で表される。
【0010】
好ましくは、カムリング摺動面の摺動方向、及び、摺動方向に直交する方向のうち一方を長軸方向とし他方を短軸方向とする楕円球面形状部(531)がカムリング摺動面に形成されている。
【0011】
サプライポンプの使用圧を高圧化すると、タペットのカムリング摺動面への押し付け力が大きくなり面圧が高くなるため、焼き付きのリスクが高まる。そこで、本発明の第1の態様では、カムリング摺動面の凸形状の等高線を真円ではない曲線、例えば楕円とすることで、面圧の中央部分への集中を回避し、面圧を広い範囲に分布させる。これにより最大面圧を低減し耐焼き付き性を向上させることができる。
【0012】
さらに楕円球面形状部の頂点は、カムリング摺動面の中央から偏心していることが好ましい。タペットの摺動中心であるプランジャ軸がカム軸の中心から偏心している構成では、楕円球面形状部の頂点をカムリング摺動面の中央から偏心させることが、油膜形成性及び面圧分散の両面で有効である。
【0013】
第2の態様のサプライポンプでは、タペット(404)は、カムリング側への荷重が加わったとき、タペット摺動面とカムリング摺動面との接触面積を増加させるようにタペットを弾性変形させる弾性変形部を有する。タペットは、タペット摺動面とは反対側の面であるタペット上面(44)に、弾性変形部として環状溝(46)を有する。
【0014】
タペットに弾性変形部を設けることで、タペットに荷重がかかった際に変形して面圧を分散する効果を得られる。タペット凹部の凹量の設定が小さい場合、加工精度を得ることが難しい。本発明の第2の態様によれば、タペット凹部の凹量を大きく設定してもタペットの変形で吸収することができるため、加工性が向上する。
【0015】
第3の態様のサプライポンプでは、カムリング(505、506)は、カムリング非摺動面(54)に応力緩和溝(555、556)が形成されている。カムリング非摺動面は、カム軸と平行であり、且つ、カムリング摺動面に直交する面である。応力緩和溝は、プランジャの軸方向と交差する方向に延び、プランジャの軸方向に印加される応力の伝達を緩和する。
【0016】
タペットの往復運動の方向反転時にはエッジ部の面圧が大きくなり、エッジ部が変形して盛り上がる傾向がある。そこで本発明の第3の態様では、カムリング非摺動面に応力緩和溝を設けることで、エッジ部が荷重によって変形し、面圧による応力を分散させることができる。また、2気筒ポンプでリフト量が比較的小さい仕様のカムリングでは、ブッシュの圧入時に非摺動面側が盛り上がり、摺動面側が凹形状になる懸念がある。そのため、タペットがエッジ部を乗り越える際の面圧の増大が特に懸念される。したがって、本発明の第3の態様による効果が特に有効となる。
【0017】
第4の態様のサプライポンプでは、カムリング(507、508)は、カムリング摺動面の摺動方向における少なくとも一方の端部に冷却凹部(577、578)を有する。冷却凹部は、流体が流れ込みカムリング摺動面を冷却可能である。
【0018】
カムリングとタペットとの焼き付きメカニズムの一つとして、カムリング摺動面内に熱がこもり蓄熱することで、母材の融点近くまで高温になり、焼き付きに至るモードが存在する。これに対し既存技術では、タペットの摺動中心(プランジャ軸)とカム軸の中心とを偏心させることで、タペットをカムリング摺動面からオーバーラップさせ、低温の流体を摺動面内に供給する手法が採用されている。本発明の第4の態様によれば、摺動面内への流体供給を促進し温度上昇を抑制可能であるため、耐焼き付き性が向上する。
【0019】
好ましくは、冷却凹部は、カムリング摺動面の摺動方向の中央に対し、プランジャがカム軸に近づくとき、すなわち非圧送時にタペットが摺動する側に形成されている。一方、冷却凹部は、カムリング摺動面の摺動方向の中央に対し、プランジャがカム軸から離れるとき、すなわち圧送時にタペットが摺動する側には形成されていない。これにより、圧送時に高荷重が加わる範囲では油膜形成性を低下させないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態によるサプライポンプのカム軸方向の断面図。
図2図1のII-II線面図。
図3】A群第1実施形態によるカムリングの(a)左側面図、(b)正面図。
図4】A群第1実施形態によるカムリングの(a)平面図、(b)面圧範囲を示す模式図。
図5】A群比較例のカムリングの(a)平面図、(b)面圧範囲を示す模式図。
図6】楕円球面形状部の凸高さの関係を説明する図。
図7】A群第2実施形態によるカムリングの(a)平面図、(b)正面図。
図8】A群第3実施形態によるカムリングの平面図。
図9】B群一実施形態によるタペットの初期状態の(a)平面図、(b)断面図。
図10】B群一実施形態によるタペットの燃料圧送時(弾性変形状態)の図。
図11】B群比較例のタペットの初期状態の図、(b)
図12】(a)B群一実施形態、(b)比較例のタペットの面圧分布を示す図。
図13】C群第1実施形態によるカムリングの(a)左側面図、(b)正面図。
図14】C群第1実施形態によるカムリングの平面図。
図15】C群比較例のカムリングの変形を説明する(a)平面図、(b)正面図。
図16】C群第2実施形態によるカムリングの(a)平面図、(b)正面図。
図17】D群第1実施形態によるカムリングの(a)左側面図、(b)正面図。
図18】D群第1実施形態によるカムリングの(a)平面図、(b)タペットの摺動範囲を示す平面図。
図19】サプライポンプの作動行程を説明する図。
図20】D群第2実施形態によるカムリングの(a)平面図、(b)正面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明によるサプライポンプの複数の実施形態を図面に基づいて説明する。複数の実施形態において実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。以下の実施形態は、「耐焼き付き性をより向上させる」という共通の課題に対して具体的な解決手段が異なるA群~D群の四群に分類される。各群には一つから三つの実施形態が含まれる。各群の実施形態を包括して「本実施形態」という。
【0022】
[サプライポンプ]
最初に図1図2を参照し、各群に共通するサプライポンプの全体構成について説明する。サプライポンプの全体構成は、特許文献1(特開2009-138596号公報)に開示された構成と基本的に同じである。サプライポンプの各構成要素の名称は、基本的に特許文献1の名称を援用する。また、一部の符号について、特許文献1で使用されている符号を援用する。カムリングの符号は、各実施形態を包括する符号として「50」を用いる。サプライポンプは、ディーゼルエンジン用の蓄圧式燃料噴射装置に用いられ、コモンレールに高圧燃料を供給する。
【0023】
サプライポンプ100のハウジングは、ハウジング本体11と一対のシリンダヘッド12とからなる。ハウジング本体11内には、フィードポンプから燃料が供給されるカム室13が形成されている。カム室13の両端はシリンダヘッド12により閉塞されている。カム室13にはカム17及びカムリング50が収容される。
【0024】
カム軸14は、ジャーナル15を介してハウジング本体11に回転自在に支持されており、図示しないディーゼルエンジンに駆動されて回転する。カム軸14とハウジング本体11との間はオイルシール16によりシールされている。断面円形状のカム17は、カム軸14の軸方向中間部においてカム軸14に対し偏心して設けられ、カム軸14と一体に回転する。図2においてカム17の回転方向を円弧矢印で示す。また、カム軸14の中心をカム軸中心Caと表す。
【0025】
カム17の外周には、カム軸14の周りを公転するカムリング50が嵌合されている。カムリング50は、鉄系金属製のカムリング本体51と、銅、アルミニウム、鉄系等の金属や樹脂で円筒状に形成されたブッシュ52とからなる。カムリング本体51は、外形が四角柱形状であり、円形状の貫通穴が形成されている。ブッシュ52は、カムリング本体51の貫通穴に圧入されており、カム17の外周と摺動自在である。図1及び図2におけるカムリング50の上下の外周面は、カム軸14と平行なカムリング摺動面53をなす。また、図2におけるカムリング50の左右の外周面は、カム軸14と平行であり、且つ、カムリング摺動面53に直交するカムリング非摺動面54をなす。
【0026】
図1図2におけるカムリング50の上側及び下側には、鉄系金属製のプランジャ30及びタペット40が二組配置されている。プランジャ30は、シリンダヘッド12に形成されたシリンダ内に往復移動自在に挿入されている。円板状のタペット40はカム室13に収容され、タペット摺動面43がカムリング摺動面53と対向するように配置される。図3図9図13図17等に示すように、各群実施形態のタペット40は、タペット摺動面43に、カムリング摺動面53と非接触となるタペット凹部41を有している。
【0027】
タペット40は、カム室13に設けられたスプリング21によりカムリング50に押し付けられており、カムリング50の自転が阻止される。カム17の回転に伴って、カムリング50は、カム17の外周と摺動しつつ、カム軸14の周りを自転することなく公転する。タペット40のタペット摺動面43が対向するカムリング摺動面53と摺動することで、タペット40及びプランジャ30は、カムリング50の公転に伴って、カム軸14と直交する方向に往復移動する。
【0028】
プランジャ30及びタペット40は同軸に設けられている。プランジャ30及びタペット40の軸をプランジャ軸Zpと表す。また、図2に示す断面において、カム軸中心Caを通り上下の各プランジャ軸Zpに平行な直線を中心基準線Zaと表す。カムリング50は、カム軸14の回転に伴い中心基準線Zaに対して左右に移動する。本実施形態では、各プランジャ軸Zpは、中心基準線Zaに対し、図2の上側では右方に、図2の下側では左方に、すなわちカム軸14の回転方向前方に偏心している。その偏心量をd1と表す。
【0029】
シリンダヘッド12内には、プランジャ30のタペット40とは反対側に、フィードポンプ25から燃料が供給される燃料加圧室22が形成されている。また、シリンダヘッド12内には入口側逆止弁23及び出口側逆止弁24が設けられている。入口側逆止弁23は、フィードポンプ25から燃料加圧室22への燃料の流れのみを許容する。出口側逆止弁24は、燃料加圧室22から図示しないコモンレールへの燃料の流れのみを許容する。
【0030】
カム軸14の一端側には、インナーギア式のフィードポンプ25が結合されている。フィードポンプ25は、ポンプカバー26内に回転自在に収納されている。フィードポンプ25は、カム軸14に回転駆動されることにより、燃料タンクから吸入した燃料を加圧して吐出する。フィードポンプ25から吐出された燃料は、図示しない燃料通路及び入口側逆止弁23を介して燃料加圧室22に供給される。燃料通路の途中に設けられた調量弁により、燃料加圧室22に供給される燃料量が、エンジンの運転状態に応じて調量される。
【0031】
ポンプカバー26に形成された連通路261は、フィードポンプ25から吐出された燃料をカム軸14の一端側端面に導く。カム軸14には、軸方向潤滑油経路141及び径方向潤滑油経路142が形成されている。軸方向潤滑油経路141は、カム軸14の一端側端面に開口し、連通路261に連通している。径方向潤滑油経路142は、軸方向潤滑油経路141とカム17の外周面とを連通させる。フィードポンプ25から吐出された燃料の一部は、これらの経路を経由してカム室13に供給される。
【0032】
次にサプライポンプ100の作動について説明する。カム軸14が回転すると、フィードポンプ25は燃料タンクから燃料を吸入し加圧して吐出する。また、カム軸14の回転に伴いカム17が回転し、カム17の回転に伴いカムリング50が自転することなく公転する。カムリング50の公転に伴いタペット40及びプランジャ30が往復移動する。
【0033】
上死点にあるプランジャ30が下死点に向けて移動すると、フィードポンプ25から吐出された燃料が入口側逆止弁23を介して燃料加圧室22に流入する。下死点に達したプランジャ30が再び上死点に向けて移動すると、入口側逆止弁23が閉じ、燃料加圧室22の燃料圧力が上昇する。燃料加圧室22の燃料圧力が上昇すると、出口側逆止弁24が開弁し、高圧燃料がコモンレールに供給される。このようにプランジャ30は、タペット40と共に往復異動して燃料を圧送する。
【0034】
一方、フィードポンプ25から吐出された燃料の一部は、連通路261、軸方向潤滑油経路141及び径方向潤滑油経路142を介してカム17とカムリング50のブッシュ52との間に導かれ、さらにカム室13に流入する。これにより、カム17とブッシュ52との摺動部が潤滑されるとともに、カムリング摺動面53及びタペット摺動面43が潤滑される。
【0035】
続いて各群の実施形態のサプライポンプ100における、カムリング50及びタペット40の詳細な構成及び作用効果について順に説明する。以下の実施形態の図では、図1及び図2の上側に示されるタペット40及びプランジャ30のみを図示し、図1及び図2の下側に示されるタペット40及びプランジャ30の図示を省略する。A群、C群、D群の各実施形態による特有形状のカムリングの符号は、「50」に続く3桁目に各実施形態に対応する番号を付す。B群の一実施形態による特有形状のタペットの符号を「404」とする。
【0036】
以下、図2の視方向から視たカムリング50の外観図を「正面図」といい、図1の視方向から視たカムリング50の外観図を「左側面図」という。プランジャ30側から視たカムリング摺動面53の図を「平面図」という。また、平面図及び正面図における左右方向をX方向、平面図における上下方向をY方向、正面図における上下方向をZ方向と定義する。略直方体状であるカムリング50の中心を通りX方向、Y方向、Z方向に延びる中心線をそれぞれXr、Yr、Zrと表す。
【0037】
図3(b)、図7(b)、図13(b)、図17(b)の正面図には、カムリング50を実線で示し、タペット40、プランジャ30及びシリンダヘッド12を仮想線(二点鎖線)で示す。カムリング摺動面53はタペット摺動面43と対向し、カム軸14の回転に伴って摺動する。カムリング50のZ方向中心線Zrは、カム軸14の回転位置に応じて中心基準線Zaに一致する時もあり、中心基準線Zaとは異なる時もある。上記各正面図には、カムリング50のZ方向中心線Zrが中心基準線Zaに一致した状態を示す。
【0038】
[A群]
図3図8を参照し、A群のサプライポンプについて説明する。A群のサプライポンプでは、カムリング摺動面53は、周縁部に対して内側の高さが高い凸形状に形成されている。凸形状の等高線は、真円ではない曲線で表される。「真円ではない曲線」には、楕円の他に長円、卵形、ひょうたん形等が含まれる。A群実施形態の平面図では、カムリング摺動面53の凸形状を等高線で表現する。凸形状の高さは、実際にはμmオーダーの微小量であるが、図3図7では高さを誇張して表示する。また、図の下側のカムリング摺動面53における凸形状の図示や説明を省略する。
【0039】
(A群第1実施形態)
図3図4を参照し、第1実施形態のカムリング501について説明する。図3(b)の正面図において、円弧矢印はカム軸14の回転、左右方向の両矢印はカムリング501の摺動、上下方向の両矢印はプランジャ30の往復移動を表す。X方向は、カムリング摺動面53の摺動方向に相当する。Y方向は、カムリング摺動面53の摺動方向に直交する方向に相当する。
【0040】
カムリング摺動面53には、周縁部に対して内側の高さが高い楕円球面形状部531が形成されている。第1実施形態の楕円球面形状部531は、カムリング摺動面53の摺動方向に直交する方向(Y方向)を長軸方向とし、摺動方向(X方向)を短軸方向とする。また、楕円球面形状部531の頂点をPvと表す。
【0041】
図5(a)に、球面形状部539を有する比較例のカムリング509の平面図を示す。また、図4(b)及び図5(b)に、第1実施形態及び比較例のカムリング摺動面53にタペット40が当接した時の面圧範囲を示す。面圧Psが閾値Pth以上となる範囲は、第1実施形態では楕円形で表され、比較例では円形で表される。同じ面圧閾値Pthに対し、第1実施形態の楕円形範囲の面積は、比較例の円形範囲の面積より大きくなる。言い換えれば、第1実施形態の最大面圧は比較例の最大面圧より小さくなる。このようにカムリング摺動面53の凸形状を楕円球面とすることで、閾値Pth以上の面圧範囲の面積が増加し、最大面圧を低減可能である。よって、耐焼き付き性が向上する。
【0042】
図6を参照し、楕円球面形状部531の凸高さの関係について説明する。図6では、図3よりもさらに凸高さを誇張して記載する。カムリング501の正面から視た幅をWx、非左側面から視た奥行きをDyと表す。また、カムリング摺動面53の凸形状の周囲における基準面の高さをH0と表す。
【0043】
図6の正面図には、摺動方向(X方向)における「楕円球面形状部531の頂点Pvを通りプランジャ軸Zpに平行な断面」での楕円球面の両端の点Px0から頂点Pvまでの凸高さHxが示される。正面視では、楕円球面形状部531の楕円弧は、幅Wxの範囲内で基準面に交差するため、「楕円球面のX方向の両端の点Px0」は、基準面上に存在する。したがって、カムリング摺動面53の摺動方向(X方向)における凸高さHxは、基準面から頂点Pvまでの高さとなる。
【0044】
図6の側面図には、摺動方向に直交する方向(Y方向)における「楕円球面形状部531の頂点Pvを通りプランジャ軸Zpに平行な断面」での楕円球面の両端の点Py0から頂点Pvまでの凸高さHyが示される。側面視では、楕円球面形状部531の楕円弧は、奥行きDyの範囲内で基準面に交差しない。そのため、カムリング501の前面51F、後面51Rの延長線と楕円弧との交点が「楕円球面の両端の点Py0」となる。つまり、「楕円球面のY方向の両端の点Py0」は基準面の高さH0よりも高い位置に存在する。
【0045】
まとめると、カムリング摺動面53の摺動方向(X方向)における凸高さHxは、摺動方向に直交する方向(Y方向)における凸高さHyよりも大きい。また、カムリング摺動面53の摺動方向(X方向)における楕円球面の曲率半径Rxは、摺動方向に直交する方向(Y方向)における楕円球面の曲率半径Ryよりも小さい。
【0046】
(効果)
サプライポンプ100の使用圧を高圧化すると、タペット40のカムリング摺動面53への押し付け力が大きくなり面圧が高くなるため、焼き付きのリスクが高まる。そこで、A群実施形態では、カムリング摺動面53の凸形状の等高線を真円ではない曲線、例えば楕円とすることで、面圧の中央部分への集中を回避し、面圧を広い範囲に分布させる。これにより最大面圧を低減し耐焼き付き性を向上させることができる。
【0047】
具体的にカムリング摺動面53の凸形状は、楕円球面形状部531により構成されている。特に第1実施形態の楕円球面形状部531は、カムリング摺動面53の摺動方向に直交する方向(Y方向)を長軸方向とすることで、摺動方向(X方向)を長軸方向とする場合に比べ加工がしやすくなる。
【0048】
(A群第2実施形態)
図7を参照し、第2実施形態のカムリング502について説明する。第2実施形態では、楕円球面形状部532の頂点Pvは、カムリング摺動面53の中央から偏心している。その偏心量d2は、プランジャ軸Zpとカム軸中心Caを通る中心基準線Zaとの偏心量d1に等しい。カム軸中心Caに対するプランジャ軸Zpの偏心量d1に応じて楕円球面形状部532の頂点Pvをカムリング摺動面53の中央から偏心させることで、油膜形成性及び面圧分散の両面で有効である。
【0049】
(A群第3実施形態)
図8を参照し、第3実施形態のカムリング503について説明する。第3実施形態は、第1実施形態に対し楕円球面形状部533の長軸及び短軸の方向が異なる。第3実施形態の楕円球面形状部533は、カムリング摺動面53の摺動方向(X方向)を長軸方向とし、摺動方向に直交する方向(Y方向)を短軸方向とする。この構成でも第1実施形態と同様に、比較例の球面形状部539に比べて所定面圧以上の範囲が拡がることで、耐焼き付き性が向上する。
【0050】
(A群その他の実施形態)
カムリング摺動面53の凸形状は、摺動方向(X方向)、及び、摺動方向に直交する方向(Y方向)のうち一方を長軸方向とし他方を短軸方向とする楕円球面形状に限らない。例えばX方向に対し斜めの軸を長軸方向とする楕円球面形状であってもよい。さらにカムリング摺動面53の凸形状は、等高線が真円ではない曲線で表され、面圧が所定値以上となる範囲が図5の比較例の範囲よりも広くなる形状であればよい。「真円ではない曲線」には、楕円の他に長円、卵形、ひょうたん形等が含まれる。
【0051】
[B群]
図9図12を参照し、B群のサプライポンプについて説明する。B群のサプライポンプでは、タペット404は、カムリング50側への荷重が加わったとき、タペット摺動面43とカムリング摺動面53との接触面積を増加させるようにタペット404を弾性変形させる「弾性変形部」を有する。
【0052】
(B群一実施形態)
図9に初期状態、図10に燃料圧送時のB群一実施形態のタペット404を示す。タペット404は、タペット摺動面43とは反対側の面であるタペット上面44に、「弾性変形部」として環状溝46を有する。図1図2に参照されるようにタペット上面44の外周寄りの部分は、スプリング21の座部45として機能する。環状溝46は、スプリング座部45の内側に形成されている。
【0053】
上述の通り、タペット40は、タペット摺動面43に、カムリング摺動面53と非接触となるタペット凹部41を有している。ここで「カムリング摺動面53と非接触となる」とは、タペット40に荷重が印加されていない初期状態での位置関係を意味している。また、タペット404と共に使用されるカムリング50は、A群実施形態又はA群比較例に示すように、カムリング摺動面53の中央部が楕円球面や球面の凸形状に形成されているものを想定する。
【0054】
環状溝46は、「タペット40が弾性変形した状態でのタペット凹部41の周縁とカムリング摺動面53との接点を結んだ曲線Tc」の内側に形成されている。タペット凹部41及びカムリング摺動面53の凸形状が共に球面の場合、理想的に曲線Tcは円になる。例えばタペット凹部41又はカムリング摺動面53の凸形状の一方又は両方が楕円球面の場合、曲線Tcは楕円やその他の曲線にもなり得る。
【0055】
図10において、プランジャ30部のブロック矢印は、燃料圧送時における燃料加圧による荷重を示す。この荷重によりタペット40は、(*1)のブロック矢印で示すように環状溝46付近から変形する。そして(*2)で示すようにタペット凹部41の周縁からカムリング摺動面53に当接し、広範囲で荷重を受けることで、エッジ面圧が低減する。また、タペット凹部41とカムリング摺動面53の凸形状とを同程度の半径の球面形状とすることで、くさび効果を高め、油膜形成を促進する効果が得られる。
【0056】
図11に比較例のタペット40を示す。比較例のタペット40は、弾性変形部としての環状溝46を有しておらず、タペット上面44はフラットである。一実施形態と同様に、タペット摺動面43にはタペット凹部41が形成されている。比較例のタペット40は、燃料圧送時にカムリング50側への荷重が加わっても変形しにくい。
【0057】
図12(a)、(b)を参照し、一実施形態と比較例との面圧分布を比較する。図10と同様に、プランジャ30部のブロック矢印は、燃料圧送時における燃料加圧による荷重を示す。比較例のタペット40では変形量が小さいため、中央部に面圧が集中する。そのため、初期のタペット凹部41の凹量Thを小さく設定せざるを得ない。それに対し一実施形態のタペット404は、環状溝46によって弾性変形可能することで、面圧が分散される。よって、初期のタペット凹部41の凹量Thを大きく設定することができる。
【0058】
(効果)
タペット404に環状溝46を設けることで、タペット404に荷重がかかった際に変形して面圧を分散する効果を得られる。タペット凹部41の凹量の設定が小さい場合(例えば1μm程度)、加工精度を得ることが難しい。B群実施形態によれば、タペット凹部41の凹量を大きく設定してもタペット404の変形で吸収することができるため、加工性が向上する。
【0059】
また、環状溝46が「タペット40が弾性変形した状態でのタペット凹部41の周縁とカムリング摺動面53との接点を結んだ曲線Tc」の内側に形成されることで、カムリング50側への荷重が加わったとき、曲線Tcの内側でタペット摺動面43とカムリング摺動面53とが接触するように弾性変形する。よって、弾性変形による効果がより確実に得られる。
【0060】
(B群その他の実施形態)
「弾性変形部」は、環状溝46に限らず、タペット摺動面43とカムリング摺動面53との接触面積を増加させるようにタペット404を弾性変形させる部分であればよい。周方向に連続して形成される環状溝に限らず、例えば、複数の凹部が周方向に離散的に形成されてもよい。
【0061】
[C群]
図13図16を参照し、C群のサプライポンプについて説明する。C群のサプライポンプでは、カムリング505、506は、カムリング非摺動面54に応力緩和溝555、556が形成されている。カムリング非摺動面54は、カム軸14と平行であり、且つ、カムリング摺動面53に直交する面である。
【0062】
応力緩和溝555、556は、プランジャ軸Zp方向と交差する方向に延び、プランジャ軸Zp方向に印加される応力の伝達を緩和する。C群の説明中、適宜、カムリング摺動面53を「摺動面53」、カムリング非摺動面54を「非摺動面54」と省略して記す。
【0063】
(C群第1実施形態)
図13図14にC群第1実施形態のカムリング505を示す。図13(b)の正面図において、円弧矢印はカム軸14の回転、左右方向の両矢印はカムリング505の摺動、上下方向の両矢印はプランジャ30の往復移動を表す。
【0064】
カムリング505は、左右の非摺動面54の上端側及び下端側の四か所に応力緩和溝555が形成されている。応力緩和溝555は、カム軸14と平行、すなわちプランジャ軸Zp方向と直交する方向に延びる。第1実施形態では、応力緩和溝555は、摺動方向に直交する方向(Y方向)の全範囲にわたって一様に形成されており、加工が容易である。
【0065】
(効果)
図15を参照し、応力緩和溝が形成されていない比較例のカムリング509の問題について説明する。平面図におけるカムリング摺動面53の摺動方向(X方向)の両側、及び、摺動方向に直交する方向(Y方向)の両側の四隅を「エッジ部」という。タペット40の往復運動の方向反転時にはエッジ部の面圧が大きくなり、エッジ部が変形して盛り上がる傾向がある。
【0066】
また、ブッシュ52の外周からカムリング摺動面53までの高さ方向(Z方向)のマージンをMzとし、ブッシュ52の外周からカムリング非摺動面54までの摺動方向(X方向)のマージンをMxとする。摺動方向のマージンMxに対し高さ方向のマージンMzが大きいとき、非摺動面54側が大きく変形する傾向がある。例えば2気筒ポンプでリフト量が比較的小さい仕様のカムリングでは、ブッシュ52の圧入時に非摺動面54側が盛り上がり、摺動面53側が凹形状になる懸念がある。そのため、タペット40がエッジ部を乗り越える際の面圧の増大が特に懸念される。
【0067】
そこでC群実施形態では、カムリング非摺動面53に応力緩和溝555を設けることで、エッジ部が荷重によって変形し、面圧による応力を分散させることができる。特に2気筒ポンプでリフト量が比較的小さい仕様のカムリングでは、この効果が有効となる。
【0068】
(C群第2実施形態)
図16にC群第2実施形態のカムリング506を示す。第2実施形態では、応力緩和溝556は、カムリング摺動面53における摺動方向(X方向)の両側、及び、摺動方向に直交する方向(Y方向)の両側の四つのエッジ部に対応する位置に形成されている。つまり応力緩和溝556は、プランジャ軸Zp方向の上下を合わせて計八か所に形成されている。荷重により変形しやすいエッジ部に対応する位置に集中して応力緩和溝556を形成することで、カムリング506全体の強度低下を抑制することができる。
【0069】
(C群その他の実施形態)
応力緩和溝が延びる方向は、プランジャ軸Zp方向と直交する方向に限らず、プランジャ軸Zp方向に対して傾斜する場合を含め、プランジャ軸Zp方向と交差する方向であればよい。プランジャ軸Zp方向と平行に溝が形成される場合を除き、タペット40の面圧を分散させる効果がある。
【0070】
カムリング正面視において、応力緩和溝は、カムリングのX方向中心線Xr及びZ方向中心線Zrに対して対称でなくてもよい。例えば、左側の非摺動面54では下方向にオフセットし、右側の非摺動面54では上方向にオフセットするように応力緩和溝が配置されてもよい。その構成でも、各応力緩和溝は、四か所の各エッジ部に対応する位置に形成されていることになる。
【0071】
[D群]
図17図20を参照し、D群のサプライポンプについて説明する。D群のサプライポンプでは、カムリング507、508は、カムリング摺動面53の摺動方向における少なくとも一方の端部に冷却凹部577、578を有する。冷却凹部577、578は、燃料が流れ込みカムリング摺動面53を冷却可能である。D群実施形態では、「流体」を「燃料」として記載する。
【0072】
(D群第1実施形態)
図17図18にD群第1実施形態のカムリング507を示す。図17(b)の正面図において、円弧矢印はカム軸14の回転、左右方向の両矢印はカムリング507の摺動、上下方向の両矢印はプランジャ30の往復移動を表す。図18(a)、(b)において、カムリング摺動面53にはA群第1実施形態と同様の楕円球面形状部531が形成されているものとする。
【0073】
カムリング507は、カムリング摺動面53の摺動方向における図17(b)の左端部に冷却凹部577を有する。冷却凹部577は、X方向中心線Xrを挟んで、摺動方向に直交する方向(Y方向)の中央部に断面V字状に形成されている。
【0074】
図18(b)に、タペット40の摺動範囲を破線ハッチングで示す。第1実施形態の冷却凹部577は、カムリング摺動面53の摺動方向に直交する方向(Y方向)においてタペット40が当接する範囲Tyの内側のみに形成されている。
【0075】
図19にサプライポンプ100の作動行程I~IVを示す。下死点Iから上死点IIIまで、プランジャ30が上昇してカム軸14から離れ、燃料を圧送する。上死点IIIを超えた後、プランジャ30が下降してカム軸14に近づく。このときが燃料の吸引時、すなわち「非圧送時」に相当する。
【0076】
図18(a)、(b)において、カムリング摺動面53の摺動方向(X方向)の中央に対し左側が、プランジャ30がカム軸14に近づくとき、すなわち非圧送時にタペット40が摺動する側に相当する。また、カムリング摺動面53の摺動方向(X方向)の中央に対し右側が、プランジャ30がカム軸から離れるとき、すなわち圧送時にタペット40が摺動する側に相当する。第1実施形態の冷却凹部577は、非圧送時にタペット40が摺動する側に形成されており、圧送時40にタペットが摺動する側には形成されていない。
【0077】
(効果)
カムリング507とタペット40との焼き付きメカニズムの一つとして、カムリング摺動面53内に熱がこもり蓄熱することで、母材の融点近くまで高温になり、焼き付きに至るモードが存在する。これに対し既存技術では、タペット40の摺動中心(プランジャ軸Zp)とカム軸14の中心Caとを偏心させることで、タペット40をカムリング摺動面53からオーバーラップさせ、低温の燃料を摺動面内に供給する手法が採用されている。D群実施形態によれば、摺動面内への燃料供給を促進し温度上昇を抑制可能であるため、耐焼き付き性が向上する。
【0078】
ただし必要以上に冷却凹部577を大きく形成すると、タペット40とカムリング摺動面53との接触面積が減り、面圧低減や油膜形成性の点から不利になる。そこで、冷却凹部577を局所的に設けることで、タペット40とカムリング摺動面53との接触面積を最大限に維持することができる。また、非圧送時にタペット40が摺動する側のみに冷却凹部577を形成することで、圧送時に高荷重が加わる範囲では油膜形成性を低下させないようにすることができる。
【0079】
(D群第2実施形態)
図20にD群第2実施形態のカムリング508を示す。図20(a)において、カムリング摺動面53にはA群第1実施形態と同様の楕円球面形状部531が形成されているものとする。第2実施形態では、冷却凹部578は、カムリング摺動面53の摺動方向に直交する方向(Y方向)の全範囲にわたる傾斜面で形成されている。これにより冷却凹部578に流れ込む燃料量が増加し冷却性が向上する。また、第1実施形態に比べ加工が容易である。
【0080】
(D群その他の実施形態)
カムリング摺動面53の冷却性の観点からは、カムリング摺動面53の摺動方向の両端部に冷却凹部が形成されてもよい。カムリング摺動面53がタペット40の荷重を受ける面積を確保する観点と冷却性の観点とのバランスにより、冷却凹部の最適な大きさや配置が決定されることが好ましい。
【0081】
[A群~D群に共通するその他の実施形態]
サプライポンプのプランジャが圧送する「流体」は、燃料、又は潤滑油混合燃料に限らず、燃料を含まない潤滑油であってもよい。
【0082】
上記A群~D群の実施形態は、それぞれ独立して実施されるものに限らず、二つ以上の群の実施形態を組み合わせて実施されてもよい。
【0083】
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0084】
100・・・サプライポンプ、
14・・・カム軸、 17・・・カム、
30・・・プランジャ、
40、404・・・タペット、
41・・・タペット凹部、 43・・・タペット摺動面、
46・・・環状溝(弾性変形部)、
50(501-503、505-508)・・・カムリング、
53・・・カムリング摺動面、 54・・・カムリング非摺動面、
555、556・・・応力緩和溝、 577、578・・・冷却凹部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20