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  • 特許-ライダ装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】ライダ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/4915 20200101AFI20240820BHJP
   G01S 17/34 20200101ALI20240820BHJP
【FI】
G01S7/4915
G01S17/34
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021144153
(22)【出願日】2021-09-03
(65)【公開番号】P2023037409
(43)【公開日】2023-03-15
【審査請求日】2023-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石村 昇太
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/116980(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/239491(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/021917(WO,A1)
【文献】特開2021-004800(JP,A)
【文献】特開2010-127918(JP,A)
【文献】特開2004-138615(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0247505(US,A1)
【文献】HAYMAN, Matthew M. et al.,Accounting for system affects in depolarization lidar,2009 Conference on Lasers and Electro-Optics and 2009 Conference on Quantum electronics and Laser Science Conference,米国,IEEE,2009年08月28日,Pages: 1-2,インターネット: <URL: https://ieeexplore.ieee.org/stamp/stamp.jsp?tp=&arnumber=5225593><DOI: 10.1364/CLEO.2009.JTuD86>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48 - 7/51
17/00 - 17/95
G01B 11/00 - 11/30
G01C 3/00 - 3/32
G01J 1/00 - 1/60
11/00
G01N 21/00 - 21/01
21/17 - 21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1偏波の周波数変調光と、前記第1偏波とは直交する第2偏波の連続光と、を含む送信光を生成する生成手段と、
前記生成手段が生成した前記送信光を送信する送信手段と、
前記送信手段が送信した前記送信光の物体での反射光を受信する受信手段と、
前記生成手段が生成した前記送信光のストークスパラメータを検出する第1検出手段と、
前記受信手段が受信した前記反射光のストークスパラメータを検出する第2検出手段と、
前記第1検出手段が検出した前記送信光のストークスパラメータと、前記第2検出手段が検出した前記反射光のストークスパラメータと、に基づき前記物体との間の前記送信光のラウンドトリップ時間を判定する判定手段と、
を備え
前記第1偏波の周波数変調光と、前記第2偏波の連続光は、同じ光源が生成する連続光に基づき生成されていることを特徴とするライダ装置。
【請求項2】
前記第1検出手段は、前記送信光のストークスパラメータS及びSを検出し、
前記第2検出手段は、前記反射光のストークスパラメータS及びSを検出する、ことを特徴とする請求項1に記載のライダ装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記送信光のストークスパラメータと、前記反射光のストークスパラメータと、に基づき、前記送信光と前記反射光との周波数差を求めることで、前記ラウンドトリップ時間を判定する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のライダ装置。
【請求項4】
前記生成手段は、
前記第1偏波の連続光を周波数変調して前記第1偏波の周波数変調光を生成する変調手段と、
前記第1偏波の周波数変調光と前記第2偏波の連続光とを合波することで前記送信光を生成する合波手段と、
を備えていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のライダ装置。
【請求項5】
記光源が生成した連続光を偏波分離することで前記第1偏波の連続光と前記第2偏波の連続光を出力する分離手段と、
を備えていることを特徴とする請求項4に記載のライダ装置。
【請求項6】
前記変調手段は、第1周波数と前記第1周波数より高い第2周波数との間で前記第1偏波の連続光の周波数を時間と共に変化させることを繰り返すことで、前記第1偏波の周波数変調光を生成する、ことを特徴とする請求項4又は5に記載のライダ装置。
【請求項7】
前記変調手段は、前記第1周波数から前記第2周波数に向けて前記第1偏波の連続光の周波数を時間と共に線形的に増加させることにより、前記第1偏波の周波数変調光を生成する、ことを特徴とする請求項6に記載のライダ装置。
【請求項8】
前記変調手段は、前記第2周波数から前記第1周波数に向けて前記第1偏波の連続光の周波数を時間と共に線形的に減少させることにより、前記第1偏波の周波数変調光を生成する、ことを特徴とする請求項6に記載のライダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数連続変調(FMCW:Frequency Modulated Continuous Wave)を用いるライダ(LiDAR:Light Detection AND Ranging)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物体に光を照射し、その物体からの反射光を検出することで、当該物体までの距離等を測定するFMCWライダ装置が提案されている。具体的には、FMCWライダ装置は、光源が生成する連続光の周波数fを時間tと共に、f=K(t-τ)の様に線形的に増加させることで送信光を生成する。なお、Kは、増加係数であり、τは所定の基準タイミングである。FMCWライダ装置は、物体からの反射光と、送信光とを干渉させる。例えば、ある時刻t1において受信した反射光が時刻t2(<t1)で送信された送信光であるものとすると、FMCWライダ装置は、時刻t1において、時刻t2で送信した送信光の反射光と、時刻t1での送信光とを干渉させることになる。時刻t2での送信光の周波数は、f2=K(t2-τ)であり、時刻t1での送信光の周波数は、f1=K(t1-τ)である。干渉光の周波数は、周波数f1と周波数f2との差であるため、干渉光の周波数は、K(t1-t2)で一定となる。つまり、干渉光の周波数を測定することで、FMCWライダ装置から物体までのラウンドトリップ時間(t1-t2)を検出でき、よって、物体までの距離を測定することができる。
【0003】
しかしながら、上記の議論は、レーザ等の光源の位相雑音が無視できるとの条件の下に成り立つものである。つまり、時刻t1での位相雑音と時刻t2での位相雑音が等しいと見做せる場合に上記の議論は成り立つ。時刻t1での位相雑音と時刻t2での位相雑音を等しいと見做すためには、時刻t1と時刻t2との時間差が短くなければならない。なお、時刻t1と時刻t2との許容できる時間差の上限値は、光源の線幅、つまり、位相雑音量に基づく。このため、光源の線幅により許容できる(t1-t2)の上限値、つまり、測定できる最大距離が限定されてしまう。非特許文献1は、数10m程度の測距を行うには、線幅が100kHz程度の光源を使用する必要があることを開示している。一方、非特許文献2は、位相雑音の影響を抑えることができるFMCWライダ装置を開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】A.Martin,et al.,"Photonic Integrated Circuit-Based FMCW Coherent LiDAR",in Journal of Lightwave Technology,vol.36,no.19,pp.4640-4645,2018年10月1日
【文献】M.Pu,et al.,"Dual-Heterodyne Mixing Based Phase Noise Cancellation for Long Distance Dual-Wavelength FMCW Lidar",in Optical Fiber Communication Conference(OFC)2020,OSA Technical Digest(Optical Society of America, 2020),paper Th1K.2.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献2の構成は、周波数コムを必要とする等、構成が複雑であり、コスト高となる。
【0006】
本発明は、簡易な構成で位相雑音の影響を抑えることができるライダ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によると、ライダ装置は、第1偏波の周波数変調光と、前記第1偏波とは直交する第2偏波の連続光と、を含む送信光を生成する生成手段と、前記生成手段が生成した前記送信光を送信する送信手段と、前記送信手段が送信した前記送信光の物体での反射光を受信する受信手段と、前記生成手段が生成した前記送信光のストークスパラメータを検出する第1検出手段と、前記受信手段が受信した前記反射光のストークスパラメータを検出する第2検出手段と、前記第1検出手段が検出した前記送信光のストークスパラメータと、前記第2検出手段が検出した前記反射光のストークスパラメータと、に基づき前記物体との間の前記送信光のラウンドトリップ時間を判定する判定手段と、を備え、前記第1偏波の周波数変調光と、前記第2偏波の連続光は、同じ光源が生成する連続光に基づき生成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、簡易な構成で位相雑音の影響を抑えることができる
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態によるライダ装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうちの二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
図1は、本実施形態によるFMCWライダ装置の構成図である。光源1は、連続光を生成し、当該連続光を偏波ビームスプリッタ(PBS)2に出力する。PBS2は、連続光の偏波分離を行い、X偏波の連続光を周波数変調部3に出力し、X偏波とは直交するY偏波の連続光を偏波ビームコンバイナ(PBC)4に出力する。なお、例えば、PBS2が出力するX偏波及びY偏波の連続光の振幅が等しくなるようにPBS2は配置され得る。周波数変調部3は、X偏波の連続光の周波数変調を行い、X偏波の連続光の周波数を時間と共に変化させる。本実施形態において、周波数変調部3は、X偏波の連続光の周波数をf=K(t-τ)の様に線形的に増加させることで送信光を生成するものとする。なお、Kは増加係数であり、τは所定の基準タイミングである。周波数の上限値と下限値は予め決まっており、周波数変調部3は、周波数が上限値に達すると、再度、下限値から時間と共に増加させる。周波数変調部3は、X偏波の周波数変調光をPBC4に出力する。
【0012】
PBC4は、周波数変調部3からのX偏波の周波数変調光とPBS2からのY偏波の連続光とを合波して送信光を生成する。PBC4は、送信光をカップラ5に出力する。カップラ5は、送信光を2分岐し、一方を送信部6に出力し、他方をストークス受信部8に出力する。送信部6は、送信光を物体に向けて射出する。受信部7は、物体からの反射光を受光し、反射光をストークス受信部9に出力する。
【0013】
ストークス受信部8は、入力される送信光のストークスパラメータS及びSを測定部10に出力する。同様に、ストークス受信部9は、入力される反射光のストークスパラメータS及びSを測定部10に出力する。
【0014】
例えば、時刻t1において、時刻t2(t2<t1)での送信光の反射光を受光したものとする。時刻t1での位相雑音をφ1とすると、時刻t1における送信光のジョーンズベクトルは、(ej{2πK(t1-τ)+φ1}t,ejφ1t}である。また、時刻t2での位相雑音をφ2とすると、時刻t1で受信した反射光、つまり、時刻t2での送信光のジョーンズベクトルは、(ej{2πK(t2-τ)+φ2}t,ejφ2t}である。なお、ジョーンズベクトルが(Ex,Ey)である光のストークスパラメータS及びSと、値Ex及びEyとの関係は以下の通りである。
=2Re[Ex,Ey
=2Im[Ex,Ey
なお、Eyは、Eyの複素共役であり、Re及びImは、それぞれ、実数部分及び虚数部分を示している。
【0015】
したがって、ストークス受信部8が時刻t1において送信部10に出力する時刻t1における送信光のストークスパラメータSt1 及びSt1 は、それぞれ、2ej{2πK(t1-τ)}の実数部分及び虚数部分となる。同様に、ストークス受信部8が時刻t1において送信部10に出力する時刻t1での反射光、つまり、時刻t2での送信光のストークスパラメータSt2 及びSt2 は、それぞれ、2ej{2πK(t2-τ)}の実数部分及び虚数部分となる。上記各式から明らかな様に、送信光のストークスパラメータにおいては、時刻t1の位相雑音φ1が相殺されており、反射光のストークスパラメータにおいては、時刻t2の位相雑音φ2が相殺されている。
【0016】
測定部10は、時刻t1における送信光のストークスパラメータSt1 及びSt1 に基づき時刻t1における送信光の複素振幅E=ej{2πK(t1-τ)}を求めることができる。同様に、測定部10は、時刻t1における反射光のストークスパラメータSt2 及びSt2 に基づき時刻t1における反射光の複素振幅E=ej{2πK(t2-τ)}を求めることができる。したがって、測定部10は、時刻t1における送信光と時刻t1における反射光のビート成分B=ej{2πK(t2-t1)}を求めることができる。ビート成分の周波数は、物体までのラウンドトリップ時間(t2-t1)に比例するため、測定部10は物体までの距離を求めることができる。
【0017】
以上、本実施形態によると、ライダ装置は、第1偏波の周波数変調光と、第1偏波とは直交する第2偏波の連続光と、を含む送信光を物体に照射する。送信光の第1偏波の成分に含まれる位相雑音量と第2偏波に含まれる位相雑音量は等しいため簡易な構成で位相雑音の影響を抑えることができる。
【0018】
なお、本実施形態において、PBS2は、X偏波の連続光とY偏波の連続光の振幅が等しくなる様に光源1が生成する連続光の偏波分離を行ったが、本発明はその様な形態に限定されず、PBS2が出力するX偏波の連続光とY偏波の連続光の振幅が異なっていても良い。但し、その場合、X偏波に含まれる位相雑音量とY偏波に含まれる位相雑音量も異なるため、PBS2が出力するX偏波の連続光の振幅とY偏波の連続光の振幅との比を考慮して、位相雑音を相殺することになる。
【0019】
さらに、本実施形態において、周波数変調部3は、下限値から上限値に向けて周波数を線形的に増加させていたが、本発明はその様な構成に限定されず、物体との間のラウンドトリップ時間に応じてビート成分Bの周波数が異なるとの条件を満たす任意の方法で周波数を変化させる構成とすることができる。例えば、上限値から下限値に向けて周波数を線形的に減少させる構成とすることができる。
【0020】
さらに、本実施形態では、カップラ5で送信光を2分岐していてが、図1のカップラ5の位置にストークス受信部8を設け、ストークス受信部8が、PBC8からの送信光を送信部6に出力する共に、送信光のストークスパラメータSt1 及びSt1 を測定部10に送信する構成とすることもできる。
【0021】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【0022】
以上の構成により、簡易な構成で位相雑音の影響を抑えることができるライダ装置を提供することができる。したがって、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「レジリエントなインフラを整備し、持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る」に貢献することが可能となる。
【符号の説明】
【0023】
1:光源、2:PBS、3:周波数変調部、4:PBC、6:送信部、7:受信部、8、9:ストークス受信部、10:測定部
図1