(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】活性剤送達用導電性マイクロニードルパッチおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/70 20060101AFI20240820BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240820BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20240820BHJP
A61M 37/00 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
A61K9/70 401
A61K47/36
A61K47/34
A61M37/00 505
A61M37/00 514
(21)【出願番号】P 2021515647
(86)(22)【出願日】2019-09-20
(86)【国際出願番号】 SG2019050480
(87)【国際公開番号】W WO2020060495
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-09-16
(31)【優先権主張番号】10201808197Y
(32)【優先日】2018-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(31)【優先権主張番号】10201908526Q
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(73)【特許権者】
【識別番号】508320723
【氏名又は名称】シンガポール ヘルス サービシーズ ピーティーイー リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】506076891
【氏名又は名称】ナンヤン テクノロジカル ユニヴァーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】シュー、チェンジェ
(72)【発明者】
【氏名】ゴー、ビー ティン
(72)【発明者】
【氏名】シーニ サイード、ザイム ラジーナ ディ/オー
(72)【発明者】
【氏名】リュー、ユーチュン
(72)【発明者】
【氏名】チュー、ワン ティン シャロン
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表平07-502905(JP,A)
【文献】特表2009-502261(JP,A)
【文献】特開2005-145987(JP,A)
【文献】特表2009-509634(JP,A)
【文献】特開2015-173901(JP,A)
【文献】特開2003-093521(JP,A)
【文献】特開2009-201956(JP,A)
【文献】特開2017-061447(JP,A)
【文献】国際公開第2017/011320(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0004564(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0174885(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-0771522(KR,B1)
【文献】RSC Advances,2015年,5:51934-51946
【文献】Pharmaceutical Research,2016年,33(5):1055-1073
【文献】Lab on a Chip,2017年,28(31):1373-1387
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61M 37/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロニードルアレイであって、前記マイクロニードルアレイは:
それぞれが(i)架橋ポリマーを含む膨潤性かつ水不溶性のマトリックス、または(ii)水溶性ポリマーを含む水溶性マトリックス、から形成される複数のマイクロニードルと、
その上に前記複数のマイクロニードルが配置されたベースと;
前記複数のマイクロニードルの前記膨潤性かつ水不溶性のマトリックスまたは前記水溶性マトリックスに均質に組み込まれた導電性ポリマーと、
を含み、
前記導電性ポリマーは、前記膨潤性かつ水不溶性のマトリックスまたは前記水溶性マトリックスの5重量%~15重量%を構成
し、
前記架橋ポリマーまたは前記水溶性ポリマーはヒアルロン酸から形成され、かつ前記導電性ポリマーは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホネート)を含む、マイクロニードルアレイ。
【請求項2】
前記架橋ポリマーは、アクリレート架橋親水性ポリマ
ーを含み、前記アクリレート架橋親水性ポリマーは、メタクリレート架橋ヒアルロン
酸を含む、請求項1に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項3】
前記メタクリレート架橋ヒアルロン酸は、3kDa~300kDaの範囲の平均分子量を有するヒアルロン酸から形成される、請求項2に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項4】
前記
水溶性ポリマーは、3kDa~300kDaの範囲の平均分子量を有する
ヒアルロン酸から形成される、請求項
1に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項5】
前記マイクロニードルのそれぞれが1000μm以下の長さを有する、請求項1~
4のいずれか一項に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項6】
前記ベースは、前記膨潤性かつ水不溶性マトリックスまたは前記水溶性マトリックスがそれぞれ形成された前記架橋ポリマーまたは前記水溶性ポリマーを含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項7】
(i)前記ベースは、活性剤が配置される表面を有し、および/または(ii)前記膨潤性かつ水不溶性マトリックスまたは前記水溶性マトリックスは、前記活性剤が配置されていることをさらに含む、請求項1~
6のいずれか一項に記載のマイクロニードルアレイ。
【請求項8】
活性剤を送達するように構成されたデバイスであって、前記デバイスは、
請求項1~
7のいずれか一項に記載のマイクロニードルアレイと;
前記マイクロニードルアレイに接続可能なアノードおよびカソードを含むイオントフォレシスユニットであって、前記マイクロニードルアレイから前記活性剤を送達するように動作可能なイオントフォレシスユニットと、
を含むデバイス。
【請求項9】
前記架橋ポリマーは、アクリレート架橋親水性ポリマ
ーを含み、前記アクリレート架橋親水性ポリマーは、メタクリレート架橋ヒアルロン
酸を含む、請求項
8に記載のデバイス。
【請求項10】
前記メタクリレート架橋ヒアルロン酸は、50kDa~300kDaの範囲の平均分子量を有するヒアルロン酸から形成される、請求項
9に記載のデバイス。
【請求項11】
前記
水溶性ポリマーは、3kDa~300kDaの範囲の平均分子量を有する
ヒアルロン酸から形成される、請求項
8に記載のデバイス。
【請求項12】
前記複数のマイクロニードルのそれぞれが1000μm以下の長さを有する、請求項
8~
11のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項13】
前記ベースは、前記膨潤性かつ水不溶性マトリックスまたは前記水溶性マトリックスがそれぞれ形成された前記架橋ポリマーまたは前記水溶性ポリマーを含む、請求項
8~
12のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項14】
(i)前記ベースは、前記活性剤が配置される表面を有し、および/または(ii)前記膨潤性かつ水不溶性マトリックスまたは前記水溶性マトリックスは、前記活性剤が配置されていることをさらに含む、請求項
8~
13のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項15】
前記活性剤が麻酔薬および/または薬物を含む、請求項
8~
14のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項16】
請求項1~
7のいずれか一項に記載のマイクロニードルアレイを製造する方法であって、
前記方法は:
モールド内に水溶液を提供することであって、同水溶液は、(i)官能化ポリマー、前記導電性ポリマーおよび光開始剤、または(ii)前記水溶性ポリマーおよび前記導電性ポリマーを含む、提供することと;
前記水溶液が前記官能化ポリマー、前記導電性ポリマーおよび前記光開始剤を含む場合、前記水溶液を照射して前記マイクロニードルアレイを形成することと;
前記マイクロニードルアレイを前記モールドから取り外すことと、
を含み、
前記水溶液を提供することは、(i)前記官能化ポリマーを前記導電性ポリマーおよび光開始剤と混合すること、または(ii)前記水溶性ポリマーを前記導電性ポリマーと混合することを含み、前記導電性ポリマーは、前記水溶液の5重量%~15重量%の濃度にて混合され
、前記官能化ポリマーおよび前記水溶性ポリマーはヒアルロン酸から形成され、かつ前記導電性ポリマーは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホネート)を含む、方法。
【請求項17】
前記水溶液を提供することは、前記官能化ポリマーまたは前記水溶性ポリマーを水に溶解することを含む、請求項
16に記載の方法。
【請求項18】
前記水溶液を提供することは、前記官能化ポリマーまたは前記水溶性ポリマーを25mg/mL~100mg/mLの範囲の濃度で水に溶解することを含む、請求項
16または請求項
17に記載の方法。
【請求項19】
前記官能化ポリマーは、アクリレート官能化親水性ポリマ
ーを含み、前記アクリレート官能化親水性ポリマーは、メタクリレート官能化ヒアルロン
酸を含む、請求項
16~
18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記モールドが、前記マイクロニードルを形成するように成形された複数のキャビティを含む、請求項
16~
19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記複数のキャビティのそれぞれが1000μm以下の深さを有する、請求項
20に記載の方法。
【請求項22】
その中に前記水溶液が供給された前記モールドを遠心分離することをさらに含む、請求項
16~
21のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マイクロニードルアレイおよびマイクロニードルアレイを製造する方法に関する。マイクロニードルアレイのマイクロニードルは、少なくとも導電性である。本開示はまた、マイクロニードルアレイが関与する、活性剤を送達するためのデバイスおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
局所麻酔が導入されて以来、それは歯科診療などの様々な医療行為に採用されている。局所麻酔は、末梢神経の伝導を遮断したり、神経終末の興奮を抑制したりすることにより、痛みや不安を軽減し、様々な医療処置、例えば歯科処置を可能にする。従来、局所麻酔は侵襲的で痛みを伴う注射針によって行われており、小児歯科患者などの患者に恐怖感や恐怖症を与える傾向がある。歯科診療の場合の不快感を軽減するために、針注射の前に歯の周囲の歯肉に物理的に適用して表面を麻痺させることができる局所麻酔薬が開発されている。
【0003】
他の開発にはコンピュータ化された注射が含まれ、それは不快レベルを緩和するために、麻酔薬の流れを制御することによって低速の麻酔送達を可能にする。しかしながら、これは長く時間のかかる技術であり、皮下注射に関連する痛みおよび恐怖をほとんど排除するというものではない。ジェットインジェクタのような注射針を使わないデバイスは、高圧を用いて薬物を標的組織に押し込むものである。しかしながら、投与中に、チクチクする感覚および従来の注射よりも多くの出血を含む悪い後味のために、恐怖および不十分な患者のコンプライアンスが残ることが研究により示されている。
【0004】
これらの開発にもかかわらず、麻酔薬の拡散プロセスでは、しびれが始まる前に約4~10分の待ち時間を必要とする場合がある。
上記の欠点を克服するために、皮下注射針での注射の代替として経皮薬物送達(TDD)が開発されてきた。TDD技術には、エレクトロポレーション、キャビテーション超音波、マイクロニードルなどが含まれる。関心が高まっているのは、皮膚を介した薬物分子の低侵襲送達のためのマイクロニードルの分野である。マイクロニードルは皮膚のバリア(すなわち角質層)を貫通して皮膚に微細孔を形成し、それによって薬物分子を容易に透過させることができる。この方法は針穿刺に関連する痛みと不快感を除き、様々なタイプのTDDプラットフォームにつながる可能性がある。
【0005】
上記にもかかわらず、従来のマイクロニードルプラットフォームは、薬物送達を強化するために他の送達プラットフォームと組み合わせて使用された場合、相乗効果が制限される可能性があり、これは、最小侵襲性でありながら、マイクロニードルから深部神経への薬物の迅速な放出および/または迅速な拡散の課題を提示するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、他の送達プラットフォームと組み合わせた場合であっても、マイクロニードルについて言及された制限の1つ以上を改善する解決策を提供する必要がある。改善された拡散速度で活性剤を送達するために、マイクロニードルは少なくともイオントフォレシスと組み合わせて使用可能とすべきである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様において、マイクロニードルアレイが提供され、同マイクロニードルアレイは:
マイクロニードルが配置されたベースであって、マイクロニードルのそれぞれが(i)架橋ポリマーを含む膨潤性かつ水不溶性のマトリックス、または(ii)水溶性ポリマーを含む水溶性マトリックスから形成されている、ベース;および
膨潤性かつ水不溶性のマトリックスまたは水溶性マトリックスに組み込まれた導電性ポリマー、を含む。
【0008】
別の態様において、活性剤を送達するように構成されたデバイスが提供され、同デバイスは:
マイクロニードルアレイであって:
マイクロニードルが配置されたベースであって、マイクロニードルのそれぞれが(i)架橋ポリマーを含む膨潤性かつ水不溶性のマトリックス、または(ii)水溶性ポリマーを含む水溶性マトリックスから形成されている、ベース;および
膨潤性かつ水不溶性のマトリックスまたは水溶性マトリックスに組み込まれた導電性ポリマー;
を含むマイクロニードルアレイと、
マイクロニードルアレイに接続可能なアノードおよびカソードを含むイオントフォレシスユニットであって、マイクロニードルアレイから活性剤を送達するように動作可能なイオントフォレシスユニットと、
を含む。
【0009】
別の態様において、マイクロニードルアレイを製造する方法が提供され、ここで、マイクロニードルアレイは:
マイクロニードルが配置されたベースであって、マイクロニードルのそれぞれが(i)架橋ポリマーを含む膨潤性かつ水不溶性のマトリックス、または(ii)水溶性ポリマーを含む水溶性マトリックスから形成されているベース;
膨潤性かつ水不溶性のマトリックスまたは水溶性マトリックスに組み込まれた導電性ポリマー;
を含み、同方法は:
モールド内に水溶液を提供することであって、同水溶液は、(i)官能化ポリマー、導電性ポリマーおよび光開始剤、または(ii)水溶性ポリマーおよび導電性ポリマーを含む、提供することと;
水溶液が官能化ポリマー、導電性ポリマーおよび光開始剤を含む場合、水溶液を照射してマイクロニードルアレイを形成することと;
マイクロニードルアレイをモールドから取り外すことと、
を含む。
【0010】
別の態様において、上記の態様および本明細書に開示される様々な実施形態に従って記載されたデバイスを介して対象に活性剤を送達する方法が提供され、同方法は:
対象にマイクロニードルアレイを適用することと;
アノードおよびカソードを対象に配置することと;
前記マイクロニードルアレイから活性剤を送達するためにイオントフォレシスユニットを動作させることと、
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】ポリビニルアルコール(PVA)マトリックス中のポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)の分布を示している。PVA中のPEDOT:PSSの濃度は5重量%である。
【
図1B】MN構造におけるPEDOT:PSSの均一かつ均質な分散を示す。これを達成するために使用されるHAポリマー溶液中のPEDOT:PSSの濃度は、約5重量%~約15重量%の範囲である。
【
図2A】導電性MNアレイの設計を示す。具体的には、
図2Aは、本発明のヒアルロン酸およびポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホネート(HA/PEDOT:PSS)MNアレイの光学画像である。スケールバーは100μmを示す。
【
図2B】導電性MNチップにおける近赤外Cy5色素の封入を示す。スケールバーは500μmを示す。
【
図2C】MNチップ内のCy5色素の分布を示す、単一MNの共焦点画像である。スケールバーは100μmを示す。
【
図2D】導電性MNをマウス皮膚に挿入した後の表皮層におけるMN(観察される濃い青色はPEDOT:PSSからである)の貫通により皮膚に残されたミクロンサイズの孔を示す。スケールバーは100μmを示す。
【
図3A】本発明のHA/PEDOT:PSS MNアレイを、異なるPEDOT:PSS濃度で負荷されたHA/PEDOT:PSS MNアレイの荷重(load)対変位曲線に関して特徴づけるプロットである。
【
図3B】MN処理されたブタの皮膚のヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色を示す。スケールバーは500μmを示す。
【
図3C】HA MNおよび異なるPEDOT:PSS濃度を有する導電性MNの挿入前後におけるマルチメータを用いたマウス皮膚抵抗の測定を示す。
【
図3D】HA MNおよびHA/PEDOT:PSS MNアレイの曲線を比較する電流-電圧(I-V)プロットを示す。
【
図3E】1.4重量%アガロースゲルにおけるCy5色素浸透深さの定量を示す。HA MN(0mA)、HA MN(3mA)および5重量%のPEDOT:PSS MNを備えるHA(3mA)に対して(
**p<0.01)。
【
図4】本明細書に開示される様々な実施形態による、イオントフォレシスと導電性MNパッチとの併用を示す。
【
図5】Cy5色素のMN媒介イオントフォレシス送達のためのインビトロ実験セットアップを示す流れ図である。1.4重量%アガロースゲルへの挿入前および挿入後のMNアレイ(1)および(2)を示す。(3)では、1.4重量%アガロースゲル中に残されたMNチップを示した。(4)では、MN適用部位でのカソードの適用を示している。(5)では、電流束密度3mA/cm
2の低電圧電流のイオントフォレシス適用を示した。
【
図6A】1.4重量%アガロースゲル中のCy5色素の分布を示す。具体的には、
図6Aは、(i)HA MN、(ii)HA MNおよびイオントフォレシス、および(iii)HA/PEDOT:PSS MNおよびイオントフォレシスを用いて処理した場合の、1.4重量%アガロースゲル中のCy5浸透の二次元(2D)平面図である。
【
図6B】異なる処理群の平均浸透深さを定量化する(
**p<0.01)。
【
図6C】(i)HA MNおよびイオントフォレシス、ならびに(ii)HA/PEDOT:PSS MNおよびイオントフォレシスを用いて処理された試料におけるz軸におけるCy5浸透の代表的な2D図である。
【
図7】2つの模式図を示す。上の概略図は、経皮薬物送達(TDD)のための本発明の導電性MN媒介イオントフォレシスの使用を調査するためのインビボモデルを示す。マウスの背部皮膚に本剤を負荷したMNを1分間処置した後、MNベースパッチを除去した。次に、カソードをMN適用部位に置き、イオントフォレシスを3分間行った。下の概略図は、本発明の導電性MNアレイがイオントフォレシスを使用して薬物を送達する方法を段階(i)~(iv)で分解した図である。
【
図8A】インビボ試験のためにヘキスト(青)および蛍光Cy5色素(紫)で染色された皮膚切片の代表的な蛍光画像を示す。各画像のスケールバーは100μを示す。
【
図8B】表皮(角質層/表皮)および真皮層における蛍光粒子カウント(count)の定量化である(
**p<0.05)。
【
図9A】本明細書に開示される様々な実施形態による、経皮薬物浸透に関する、導電性MNおよびイオントフォレシスのインビボ試験のためのマウスモデルの実験的セットアップを示す。
【
図9B】実験マウスについての代表的なインビボイメージングシステム(IVIS)画像を示す。
【
図9C】
図9Bのマウスモデルからの蛍光強度の定量化である(
**p<0.01)。
【
図10A】骨試料を通る色素浸透の試験において使用されるファントムモデルの概略図である。
【
図10B】イオントフォレシスと組み合わせたHA MNおよびHA/PEDOT:PSS MNで処理された切片化皮膚組織の共焦点走査顕微鏡画像を示す。
【
図10C】導電性MNおよびイオントフォレシスで処理された最下層試料の代表的な全皮膚切片を示す。各スケールバーは100μmを示す。
【
図11A】ウサギモデルにおけるインビボ薬物効力試験のための実験セットアップを示す。実験セットアップは、本発明の導電性MNとイオントフォレシス処理がどのように行われるかを示した。
【
図11B】各骨試料における色素の存在を示すIVIS画像であり、(i)対照、および(ii)本発明の導電性MNおよびイオントフォレシスで処理されたもの、である。
【
図11C】各処置手順において麻酔効果を示したウサギの数を示すグラフである。
【
図11D】注射群と、(a)本発明の導電性MNおよびイオントフォレシス、(b)局所ゲル、(c)本発明の導電性MN、および(d)イオントフォレシスと、を比較した処置手順の有効性を確立するための統計的評価である。
【
図12A】本明細書に記載の様々な実施形態による膨潤性導電性MNアレイを示す。
【
図12B】1.4重量%アガロースゲルに挿入する前の膨潤性導電性MNアレイを示す。
【
図12C】1.4重量%アガロースゲルに挿入した後の膨潤性導電性MNアレイを示す。
【
図12D】アガロースゲル上に形成されたミクロンサイズの孔を示す。
【
図12E】膨潤形態を示す膨潤可能な導電性MNアレイのチップを示す。
【
図12F】除去後24時間で元の構造に戻る膨潤性導電性MNアレイを示す。
【
図13】1分間のインキュベーション後に1.4重量%アガロースゲル中で試験された架橋MeHA-MNパッチの膨潤挙動を示す。
【
図14】FITC、FITC-デキストランおよびドキソルビシンの負荷の前後におけるCL5-MeHAMNパッチの代表的な画像を示す。スケールバーは2mmを示す。
【
図15】最初の1時間におけるMeHA MNパッチからのFITC、FITC-デキストラン、およびドキソルビシンの放出プロファイルを示す。
【
図16】イオントフォレシスと共に使用される本発明の導電性MNアレイと、従来の針および注射器アプローチと、の比較を示し、ここで、従来のアプローチは、時間のかかる投与をもたらす患者の不安の増加に寄与するいくつかの制限を有する。
【
図17】MNを形成するためのテンプレートの製造を含む、可撓性のベースおよび剛性のマイクロニードルを備えた本発明のMNパッチの製造を示す。
【
図18A】MNパッチを作製するための支持基板の製造を示す。
【
図19A】本明細書に開示される様々な実施形態による、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA)から形成されるマイクロニードルデバイスの典型的なSEM画像を示す。
【
図20A】MNデバイス(マイクロニードルパッチ)を貫通させた後の新鮮なブタの皮膚表面の図である。スケールバーは5mmを示す。
【
図20B】マイクロニードルパッチを適用した後のブタの皮膚の組織学的画像を示す。スケールバーは200μmを示す。
【
図21】色素負荷マイクロニードルパッチの特徴である。HAベースの支持マトリックスで作製され、蛍光色素Cy5を担持した固体HAチップを備えたマイクロニードルパッチの明視野および蛍光顕微鏡画像。各スケールバーは100μmを示す。画像の上の列は、MNパッチの側面図を示す。画像の下の列は、MNパッチのトップダウンビューを示す。
【
図22A】薬物負荷PLGAベースのMNアレイパッチの特徴であり、ここで、MNアレイパッチのクローズアップ画像である。
【
図22B】
図22AのHAベースの支持マトリックスおよび蛍光色素固体PLGAチップを用いて作製されたMNアレイパッチの明視野顕微鏡画像および共焦点顕微鏡画像を示す。
【
図23A】可撓性の自立ポリピロール(PPy)ナノチューブ膜の写真を示す。
【
図23B】
図23Aの可撓性自立ポリピロール(PPy)ナノチューブ膜の屈曲状態の写真を示す。
【
図23C】
図23Aの可撓性自立PPyナノチューブ膜の温度に対する電気伝導率のプロットである。
【
図24】膨潤性導電性MNおよびイオントフォレシスを使用した薬物送達の概略図を示す。
【
図25A】架橋MeHA MNの製造プロセスの概略図である。
【
図25B】異なる時間における膨潤比のプロットである。
【
図25C】最大膨潤の前後の架橋MeHA MNの光学画像を示す。スケールバーは1mmを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図面は必ずしも縮尺通りである必要はなく、その代わりに、一般に本発明の原理を説明することに重点が置かれている。以下の説明では、本開示の様々な実施形態が、以下の図面を参照して説明されている。
【0013】
以下の詳細な説明は、本発明を実施することができる特定の詳細および実施形態を例示として示す添付の図面を参照している。これらの実施形態は、当業者が本発明を実施することを可能にするのに十分詳細に説明されている。他の実施形態を利用することができ、本発明の範囲から逸脱することなく変更を加えることができる。いくつかの実施形態を1つまたは複数の他の実施形態と組み合わせて新しい実施形態を形成することができるので、様々な実施形態は必ずしも相互に排他的ではない。
【0014】
一実施形態の文脈で説明される特徴は、他の実施形態の同じまたは類似の特徴に対応して適用可能であり得る。一実施形態の文脈で説明される特徴は、これらの他の実施形態で明示的に説明されていなくても、対応して他の実施形態に適用可能であり得る。さらに、一実施形態の文脈における特徴について説明されるような追加および/または組み合わせおよび/または代替は、他の実施形態における同じまたは同様の特徴に対応して適用可能であり得る。
【0015】
本開示の様々な実施形態は、例えば、限定されるものではないが、口腔外科および顎顔面外科手術などの様々な用途のために、感覚神経に活性剤を送達するためのマイクロニードル(MN)パッチに関する。活性剤は、麻酔薬または治療薬であり得る。マイクロニードルパッチは、マイクロニードルアレイを含むことができ、したがって本明細書ではマイクロニードルアレイと称する。マイクロニードルアレイは導電性であり、これは、本開示の文脈においてそれが電気的に伝導性であることを意味する。導電性MNアレイは、生体適合性ポリマーおよび導電性ポリマーからなる二重層構造または導電性ポリマーが組み込まれた生体適合性ポリマーを含むマトリックスとともに開発されたマイクロニードルを有していてもよい。使用においてMNアレイがイオントフォレシスと組み合わせられる場合、この組み合わせは、有利には、局所麻酔薬(リドカイン)などの薬物の皮膚、粘膜、および/または皮質骨の層へのおよび/または層を介した透過を制御し、増強して、例えば、神経に到達して麻痺作用をもたらす。
【0016】
イオントフォレシス(Iontophoresis)は、電流を使用して局所組織領域に治療薬を迅速に送達する効率的かつ無痛の方法である。イオントフォレシスユニットを含むデバイスは、2つの電極および電源を含み得る。製剤は一方の電極上に配置されてもよく、他方の電極は参照ゲルのみを含んでいてもよい。
【0017】
MNとイオントフォレシスの組み合わせは、非限定的な例の1つとして、歯科診療において、麻酔薬の最小侵襲性および迅速な送達を可能にする。
特に、歯に供給する感覚神経を標的とするために口腔粘膜および下にある歯槽骨に麻酔薬をイオン導入送達するための伝導性マイクロニードル(MN)アレイは、導電性MNアレイを適用する一例として本明細書に記載されている。導電性マイクロニードルは、例えば、150μm~200μmの範囲の長さを有するように製造することができ、口腔組織への薬物送達のための微小なコンジットを形成しながら、粘膜固有層の神経終末に接触することなく口腔上皮を無痛で貫通することができる。さらに、イオントフォレシスは、歯に感覚を供給する歯槽骨の神経への薬物浸透を促進するための駆動力として低電圧電流を提供する。MNの導電性は口腔粘膜の抵抗性を有意に低下させ、より多くの薬物分子がより深部組織に迅速に送達されるようにする。イオントフォレシスと併用した導電性MNパッチは、ウサギモデルにおいてほぼ即時の歯科麻酔効果を示した。これにより、患者の歯科麻酔送達に対する恐怖症を解消し、タイムリーな歯科治療を求める患者のコンプライアンスを促進し、国の口腔疾患の負担を軽減することが期待される。歯科医はまた、恐怖症患者の行動管理に費やす時間を節約し、診療所の効率を改善し、全体的なコスト削減につなげることができる。
【0018】
本明細書に開示されるMNアレイの1つの利点をさらに実証するために、皮下注射針または注射器の代わりに、麻酔薬の送達において100μm~150μmの長さのマイクロニードルを有するMNアレイの適用が議論される。そのような場合、患者は、100μmから150μmの長さのMNを歯肉に塗布したことによる痛みを感じることはなく、これにより不安および恐怖が有意に排除される。薬物(例えば麻酔薬)の放出および/または送達時間の減少も増強される。所望の麻痺を達成するための麻酔薬の注射および拡散の典型的な待ち時間は、典型的には5分以上であり、これは患者の不安を増大させる。比較すると、本発明の導電性MNアレイは、イオントフォレシスと併用した場合、薬物送達プロセスに要する時間を1分未満に有意に短縮する。上述し、本明細書で議論したように、皮膚中の導電性ポリマーは、皮膚の抵抗を低減し、皮膚を通過する起電力を増加させる。これは薬物送達における効力の増強をもたらし、潜在的に麻酔用量の減少をもたらす。
【0019】
本開示のMNアレイは、マイクロニードルが配置されたベースを有してもよい。マイクロニードルは、(i)膨潤性かつ水不溶性のマトリックス、または(ii)水溶性のマトリックスから形成され得る。
【0020】
以上を念頭において、MNアレイの詳細、活性剤を送達するためのMNアレイを含むデバイスおよび方法、それらの使用、MNアレイの製造方法、ならびにそれらの様々な実施形態について以下に説明する。
【0021】
本開示において、マイクロニードルが配置されたベースを含むマイクロニードルアレイが提供され、各マイクロニードルは、(i)架橋ポリマーを含む膨潤性かつ水不溶性のマトリックス、または(ii)水溶性ポリマーを含む水溶性マトリックスと、膨潤性かつ水不溶性のマトリックスまたは水溶性マトリックスに組み込まれた導電性ポリマーと、から形成され得る。架橋ポリマーは、1つ以上の官能基で官能化された疎水性ポリマーを含んでもよく、または疎水性ポリマーそのものであってもよく、その非限定的な例は、架橋ポリマーの形成を助けるカルボキシル基、ヒドロキシル基などを含んでもよい。架橋ポリマーは、架橋された親水性ポリマーを含んでいてもよく、または架橋された親水性ポリマーであってもよい。架橋された親水性ポリマーは、上記の官能基の1つ以上を有していてもよい。水溶性ポリマーは、1つ以上のカルボキシル基またはヒドロキシル基を有していてもよい。
【0022】
本明細書で使用される「膨潤性(swellable)」という用語は、限定されるものではないが、生物学的流体などの物質を吸収することによって、材料がそのサイズを増大し得ることを意味する。生物学的流体の非限定的な例は、水である。膨潤性材料は、そのサイズを大きくした後、その元のサイズおよび/または形状に戻ることができる。マイクロニードルが形成されるマトリックスは、膨潤性マトリックスであってもよい。
【0023】
本明細書で使用される「水不溶性」という用語は、水性媒体に溶解しない材料を指す。水性媒体の例は、水であってもよい。マイクロニードルが形成される膨潤性マトリックスは、水不溶性マトリックスであってもよく、したがって、「膨潤性かつ水不溶性マトリックス」と呼ばれる。
【0024】
マイクロニードルが膨潤性かつ水不溶性マトリックスから形成される実施形態において、膨潤性かつ水不溶性マトリックスは、架橋ポリマーを含んでもよく、または架橋ポリマーから形成されてもよい。本明細書では、架橋ポリマーとは、ポリマーの1つ以上の鎖を連結する結合の内部ネットワークを有するポリマーを指す。結合は、共有結合、イオン結合、水素結合などを含み得る。架橋ポリマーは、1つ以上のヒドロキシル(-OH)基を含み得る。架橋ポリマーは親水性ポリマーであってもよく、したがって架橋親水性ポリマーと称されてもよい。架橋された親水性ポリマーは、1つ以上のヒドロキシル基を含み得る。1つ以上のヒドロキシル基は、有利には、架橋剤を介してポリマー鎖間に結合を形成することを可能にする。このような結合は、活性剤がマトリックスを形成するネットワーク内にカプセル化され、マトリックスが膨潤したときにそこから放出されるように、架橋ポリマーの内部ネットワークを構成することができる。活性剤は、治療薬、麻酔薬、またはこのような方法で送達される任意の他の活性剤であり得る。
【0025】
架橋されたポリマーは、アクリレート架橋された親水性ポリマー、フラン架橋された親水性ポリマー、またはカテコール架橋された親水性ポリマーを含んでもよく、またはそれらから形成されてもよい。すなわち、親水性ポリマーを架橋する架橋剤は、アクリレート系化合物、フラン系化合物、または少なくとも1つのカテコール基を有する化合物であってもよい。アクリレート系化合物は、メタクリレート系化合物であってもよく、したがって、アクリレート架橋親水性ポリマーは、メタクリレート架橋親水性ポリマーであってもよく、または、メタクリレート架橋親水性ポリマーを含んでいてもよい。アクリレート系化合物の非限定的な例は、メタクリル酸無水物であり得る。フラン系化合物の非限定的な例はフランであり得る。カテコール系化合物の非限定的な例は、カテコールであり得る。ポリマー鎖を連結してマトリックスに膨潤性を付与する結合のネットワークを形成することができる他の架橋剤を使用してもよい。このような架橋剤を疎水性ポリマー上に塗布して、架橋ポリマーを形成することができる。
【0026】
本開示において、アクリレート架橋親水性ポリマーは、メタクリレート架橋ヒアルロン酸、メタクリレート架橋ポリビニルアルコール、メタクリレート架橋ポリ(メチルビニルエーテル)、または架橋ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートを含んでもよく、またはこれらからなってもよい。メタクリレート架橋ヒアルロン酸は、3kDa~300kDa、50kDa~300kDa、100kDa~300kDa、150kDa~300kDa、200kDa~300kDa、250kDa~300kDa等の範囲の平均分子量を有するヒアルロン酸から形成することができる。架橋ポリマーを形成するために使用される他のポリマーは、指定された範囲の平均分子量を有し得る。このような平均分子量は、ポリマーがモールドに充填され、その後架橋されてマイクロニードルアレイを形成するのに十分な粘度を提供する。マイクロニードルなどのマイクロニードルアレイを形成するために使用されるポリマーの粘性が高すぎるか、または十分に粘性でない場合、ポリマーは、マイクロニードルアレイを形成するためのモールドに適切に充填されない可能性がある。
【0027】
マイクロニードルが水溶性マトリックスで形成される実施形態において、水溶性マトリックスは、水溶性ポリマーを含んでもよく、または水溶性ポリマーで形成されてもよい。本明細書で使用される「水溶性」という用語は、水性媒体に溶解することができる材料を指す。水性媒体の例は、水であってもよい。マイクロニードルが形成される水溶性マトリックスは、水溶性マトリックスであり得る。
【0028】
水溶性ポリマーは、1つ以上のヒドロキシル基を有していてもよい。有利には、1つ以上のヒドロキシル基は、水性媒体(例えば、水)中の水溶性ポリマーに溶解するのを助け、および/または溶解をより速くおよび/またはより増加させ得る。1つ以上のヒドロキシル基を有するそのような水溶性ポリマーを含むかまたはそれから形成されるマトリックスの溶解は、活性剤がその中にカプセル化され、マトリックスが溶解するときにそこから放出されることを可能にする。活性剤は、治療薬、麻酔薬、またはこのような方法で送達される任意の他の活性剤であり得る。
【0029】
水溶性ポリマーは、ヒアルロン酸、ポリビニルアルコール、ポリ(メチルビニルエーテル)、ポリ(エチレングリコール)、またはポリ(乳酸-コ-グリコール酸)を含み得る。ヒアルロン酸は、3kDa~300kDa、50kDa~300kDa、100kDa~300kDa、150kDa~300kDa、200kDa~300kDa、250kDa~300kDaなどの範囲の平均分子量を有し得る。このような平均分子量は、水溶性ポリマーがモールドに充填され、その後乾燥されてマイクロニードルアレイを形成するのに十分な粘度を提供する。マイクロニードルなどのマイクロニードルアレイを形成するために使用されるポリマーの粘性が高すぎるか、または十分に粘性でない場合、ポリマーは、マイクロニードルアレイを形成するためのモールドに適切に充填されない可能性がある。
【0030】
マイクロニードルを有するマイクロニードルアレイが膨潤性かつ非水溶性マトリックスまたは水溶性マトリックスから形成されたかどうかにかかわらず、マイクロニードルアレイの種々の実施形態は、膨潤性かつ非水溶性マトリックスまたは水溶性マトリックスに組み込まれる導電性ポリマーを含む。導電性ポリマーに関して本明細書で使用される「導電性」という用語は、電気的に伝導性のポリマーを指す。例えば、本開示がポリマーが導電性であることを示す場合、それはポリマーが電気を伝導することを意味する。導電性ポリマーは、活性剤の送達を強化するために、マイクロニードルアレイをイオントフォレシスと適合性にするだけでなく、マイクロニードルアレイが適用される表面層(例えば、角質層または粘液層を含む皮膚組織)の抵抗を低下させ、より強い電荷の流れを可能にする。より強い電荷の流れにより、活性剤は、それが帯電しているかどうかにかかわらず、より強い駆動力を経験し、より速くおよび/またはより多く送達される。
【0031】
前記導電性ポリマーは、膨潤性かつ非水溶性マトリックスまたは水溶性マトリックスの1重量%~20重量%、5重量%~20重量%、10重量%~20重量%、15重量%~20重量%、5重量%~15重量%、5重量%~10重量%など、25重量%以下までを構成する。このような量の導電性ポリマーは、導電性ポリマーがその中にドープされたとき、マトリックス全体にわたって均一な分布を与える。そうでなければ、導電性ポリマーはマトリックス内で凝集し、マイクロニードルアレイの製造を中断する可能性がある。例えば、導電性ポリマーの粒子が存在する場合、溶媒キャスティングは、マイクロニードルアレイを形成するために効果的に使用されない可能性がある。「ドープされた(doped)」という用語およびその文法的変形は、「組み込まれた(incorporated)」という用語およびその文法的変形と交換可能に使用される。
【0032】
導電性ポリマーは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホネート)、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリエチン、ポリ(p-フェニレン)、またはポリ(p-フェニレンビニレン)を含んでもよく、またはこれらからなってもよい。上記の利点を与えることができるとともにマトリックスを形成する材料と適合性がある他の導電性ポリマーを使用してもよい。
【0033】
マイクロニードルアレイは、ベース上に形成されたマイクロニードルを有する。ベースは、剛性ベースまたは可撓性ベースであり得る。剛性のベースは、何らかの形で変形を受けると、損傷を受けたり、元の構造に戻ることができなくなったりする。本明細書で使用される「可撓性」という用語は、材料が損傷を受けることなく、曲げ、ねじれ、張力および圧縮を含む使用中に任意の形態のねじれを受ける可能性があり、独立して元の形態に戻ることができることを意味する。
【0034】
ベース(base)は、膨潤性かつ非水溶性マトリックスまたは水溶性マトリックスがそれぞれ形成された架橋ポリマーまたは水溶性ポリマーを含んでいてもよく、またはそれらからなっていてもよい。ベースは、マトリックスを形成するために使用されるものとは異なる架橋ポリマーまたは水溶性ポリマーを含んでもよく、またはそれらからなってもよい。
【0035】
マイクロニードルはベースから離れて延びてもよい。マイクロニードルの長さは1000μm以下であってもよい。すなわち、各マイクロニードルの長さは、1000μm以下、900μm以下、800μm以下、700μm以下、600μm以下、500μm以下、400μm以下、300μm以下、200μm以下、100μm以下であってもよい。全てのマイクロニードルは同じ長さであってもよい。マイクロニードルの長さは、全て、100μm~700μmまたは100μm~150μmなどの範囲であり得る。本発明のマイクロニードルは、マイクロニードルの長さが、活性剤が対象に送達される予定の場所に基づいて設計され得るという点で、汎用性がある。活性剤のより深い浸透のために、マイクロニードルは、上記の長さのより長い範囲を有してもよい。痛みを引き起こす可能性のある神経にMNが接触しないように、より浅い表面および組織層に到達するために、マイクロニードルは、上記の範囲より短い範囲の長さを有することができる。
【0036】
マイクロニードルアレイの様々な実施形態は、活性剤をさらに含み得る。ベースは、活性剤が配置される表面を有し、および/または膨潤性かつ非水溶性マトリックスまたは水溶性マトリックスは、活性剤が配置されていることをさらに含む。例えば、活性剤は、マイクロニードルの表面に配置されてもよく、これは、マイクロニードルの先端にのみ配置されてもよい。活性剤は、マイクロニードルの先端に装填されていてもよい。活性剤は、マイクロニードルがベースから延びていない同ベースの表面上に配置されてもよく、例えば、活性剤は、ヒドロゲルの形態であってもよく、またはベースに取り付け可能または配置可能なヒドロゲルにカプセル化されていてもよい。このような構成では、活性剤は、イオントフォレシスによってマイクロニードルアレイが適用される対象に、ベースからマイクロニードルアレイを介して駆動され得る。上記とは異なり、活性剤は、マイクロニードルアレイが対象に適用される前および/または後に別々に適用されてもよい。他の非限定的な例では、架橋された親水性ポリマーからなるベースを用いて活性剤を含有させることができる。活性剤は、マイクロニードルアレイを適用した後、対象に直接適用することができる。
【0037】
本開示はまた、活性剤を送達するように動作可能または構成されたデバイスを提供する。デバイスは、マイクロニードルアレイおよびイオントフォレシスユニットを含むことができ、同マイクロニードルアレイは、その上にマイクロニードルが配置されたベースであって各マイクロニードルが(i)架橋ポリマーを含む膨潤性かつ水不溶性のマトリックスまたは(ii)水溶性ポリマーを含む水溶性マトリックスから形成されているベースと、膨潤性かつ水不溶性のマトリックスまたは水溶性マトリックスに組み込まれた導電性ポリマーと、を含み、イオントフォレシスユニットはマイクロニードルアレイに接続可能なアノードおよびカソードを含み、マイクロニードルアレイから活性剤を送達するように動作可能である。本発明のマイクロニードルアレイの文脈で説明される実施形態および利点は、本明細書で説明される本発明のデバイスに対して同様に有効であり、逆もまた同様である。マイクロニードルアレイの実施形態および利点は、上述し、実施例で実証したが、簡潔にするために繰り返してはならない。例えば、前述したように、架橋ポリマーは、親水性ポリマーであっても疎水性ポリマーであってもよい。親水性ポリマーおよび疎水性ポリマーは、架橋されて架橋ポリマーを形成することができる。
【0038】
マイクロニードルが膨潤性かつ水不溶性マトリックスから形成される実施形態において、架橋ポリマーは、アクリレート架橋親水性ポリマー、フラン架橋親水性ポリマー、またはカテコール架橋親水性ポリマーを含み得る。アクリレート架橋親水性ポリマーは、メタクリレート架橋ヒアルロン酸、メタクリレート架橋ポリビニルアルコール、メタクリレート架橋ポリ(メチルビニルエーテル)、または架橋ポリ(エチレングリコール)ジアクリレートを含んでいてもよい。メタクリレート架橋ヒアルロン酸は、3kDa~300kDa、50kDa~300kDa、100kDa~300kDa、150kDa~300kDa、200kDa~300kDa、250kDa~300kDa等の範囲の平均分子量を有するヒアルロン酸から形成することができる。
【0039】
マイクロニードルが水溶性マトリックスで形成される実施形態において、水溶性ポリマーは、ヒアルロン酸、ポリビニルアルコール、ポリ(メチルビニルエーテル)、ポリ(エチレングリコール)、またはポリ(乳酸-コ-グリコール酸)を含み得る。ヒアルロン酸は、3kDa~300kDa、50kDa~300kDa、100kDa~300kDa、150kDa~300kDa、200kDa~300kDa、250kDa~300kDaなどの範囲の平均分子量を有し得る。
【0040】
種々の実施形態において、導電性ポリマーは、25重量%以下、例えば、1重量%~20重量%、5重量%~20重量%、10重量%~20重量%、15重量%~20重量%、5重量%~15重量%、5重量%~10重量%などで膨潤性かつ非水溶性マトリックスまたは水溶性マトリックスに含まれ得る。導電性ポリマーは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホネート)、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリエチン、ポリ(p-フェニレン)、またはポリ(p-フェニレンビニレン)を含み得る。
【0041】
上記のように、各マイクロニードルの長さは、1000μm以下、900μm以下、800μm以下、700μm以下、600μm以下、500μm以下、400μm以下、300μm以下、200μm以下、100μm以下であってもよい。全てのマイクロニードルは同じ長さであってもよい。マイクロニードルの長さは、全て、100μm~700μmまたは100μm~150μmなどの範囲であり得る。そのような長さは、マイクロニードルが、例えば、対象の皮膚層、真皮深層、および/または粘膜を貫通するといった、対象への適用に機械的に有利にする。マイクロニードルを長くすると、マイクロニードルが貫通するには剛性が不十分になるリスクがある。
【0042】
種々の実施形態において、ベースは、膨潤性かつ非水溶性マトリックスまたは水溶性マトリックスがそれぞれ形成された架橋ポリマーまたは水溶性ポリマーを含んでもよい。ベースは、マトリックスを形成するために使用されるものとは異なる架橋ポリマーまたは水溶性ポリマーを含んでもよく、またはそれらからなってもよい。ベースは、活性剤を配置するための表面を有していてもよく、および/または膨潤性かつ非水溶性のマトリックスまたは水溶性のマトリックスは、その中に配置された活性剤をさらに含んでいてもよい。活性剤がどのようにマイクロニードルアレイ上に配置され得るかの例は、既に上で開示されている。
【0043】
活性剤は、麻酔剤および/または任意の薬物を含み得る。薬物は治療薬であってもよい。
本開示はまた、マイクロニードルアレイを製造する方法を提供し、マイクロニードルアレイは、マイクロニードルが配置されたベースであって各マイクロニードルが(i)架橋ポリマーを含む膨潤性かつ水不溶性のマトリックス、または(ii)水溶性ポリマーを含む水溶性マトリックスから形成されているベースと、膨潤性かつ水不溶性のマトリックスまたは水溶性マトリックスに組み込まれた導電性ポリマーと、を含む。同方法は、(i)官能化ポリマー、導電性ポリマーおよび光開始剤、または(ii)水溶性ポリマーおよび導電性ポリマーを含む水溶液をモールド内に提供することと、水溶液が官能化ポリマー、導電性ポリマーおよび光開始剤を含む場合に、水溶液を照射してマイクロニードルアレイを形成することと、モールドからマイクロニードルアレイを取り外すことと、を含むことができる。本発明のマイクロニードルアレイおよび本発明のデバイスの文脈で説明される実施形態および利点は、本明細書で説明される本発明の方法に対して同様に有効であり、逆もまた同様である。マイクロニードルアレイおよびデバイスの実施形態および利点は、上述し、実施例で実証したが、簡潔にするために繰り返してはならない。例えば、前述したように、架橋ポリマーは、親水性ポリマーであっても疎水性ポリマーであってもよい。親水性ポリマーおよび疎水性ポリマーは、架橋されて架橋ポリマーを形成することができる。
【0044】
本発明の方法において、水溶液を提供することは、官能化ポリマーまたは水溶性ポリマーを水などの水性媒体に溶解することを含み得る。マイクロニードルが膨潤性かつ水不溶性マトリックスから形成される実施形態においては、官能化ポリマーが使用される。マイクロニードルが水溶性マトリックスから形成される実施形態では、水溶性ポリマーが使用される。
【0045】
種々の実施形態において、水溶液を提供することは、25mg/mL~100mg/mL、50mg/mL~100mg/mL、75mg/mL~100mg/mL、25mg/mL~50mg/mL、25mg/mL~75mg/mL、または50mg/mL~75mg/mLなどの範囲の濃度で官能化ポリマーまたは水溶性ポリマーを水に溶解することを含み得る。有利には、このような濃度は、マイクロニードルアレイを形成するために、水溶液がモールド内に充填されるのに十分な粘度を提供する。濃度がより低いまたはより高い場合、水溶液が完全に乾燥せずにマイクロニードルが適切に形成されない、および/またはマトリックスを形成するのに十分なポリマーが形成されない、または水溶液が粘稠になりすぎてモールドが適切に充填されないおそれがある。濃度範囲は、使用される官能化ポリマーに依存し得る。濃度範囲は、使用する水溶性ポリマーに依存し得る。
【0046】
官能化ポリマーは、親水性ポリマーまたは疎水性ポリマーを含んでもよく、またはそれらであってもよい。そのような官能化された親水性または疎水性ポリマーは、1つ以上の官能基を有していてもよく、その非限定的な例は、架橋ポリマーの形成を助けるカルボキシル基、ヒドロキシル基などを含んでもよい。官能化ポリマーは、アクリレート官能化親水性ポリマー、フラン官能化親水性ポリマー、またはカテコール官能化親水性ポリマーを含んでもよく、またはこれらからなってもよい。これらのポリマーの非限定的な例は、すでに上で議論されている。例えば、アクリレート官能化親水性ポリマーは、メタクリレート官能化ヒアルロン酸、メタクリレート官能化ポリビニルアルコール、メタクリレート官能化ポリ(メチルビニルエーテル)、またはジアクリレート官能化ポリ(エチレングリコール)を含み得る。
【0047】
官能化ポリマーは、親水性または疎水性ポリマーを、架橋ポリマーを形成するための官能基で官能化することによって調製することができる。親水性または疎水性ポリマーを官能基を含む化合物と反応させるとき、親水性又は疎水性ポリマーに官能基を付与してもよい。例えば、メタクリレート官能化ヒアルロン酸を得るために、ヒアルロン酸の親水性ポリマーをメタクリル酸無水物と混合してもよい。フラン官能化またはカテコール官能化親水性ポリマーを得るためには、親水性ポリマーを、フラン系化合物または少なくとも1つのカテコール基を有する化合物とそれぞれ反応させることができる。官能化された親水性ポリマーは、その後、その上に存在する官能基を介して架橋され得る。
【0048】
水溶性ポリマーが使用される実施形態において、水溶性ポリマーは、ヒアルロン酸、ポリビニルアルコール、ポリ(メチルビニルエーテル)、ポリ(エチレングリコール)、またはポリ(乳酸-コ-グリコール酸)を含み得る。水溶性ポリマーは、1つ以上のカルボキシル基またはヒドロキシル基を有していてもよい。
【0049】
本発明の方法において、水溶液を提供することは、(i)官能化ポリマーを導電性ポリマーおよび光開始剤と混合すること、または(ii)水溶性ポリマーを導電性ポリマーと混合することを含み得る。光開始剤は、光の存在下で官能化された親水性ポリマー上に存在する官能基を介して、官能化された親水性ポリマーの架橋を補助するために使用される。これは、メタクリレート、フランまたはカテコール官能基などの官能基の架橋が、光開始剤および光の存在下で活性化され、官能化ポリマーを架橋ポリマーに変換されることを意味する。光開始剤の非限定的な例としては、ジエトキシアセトフェノン(DEAP)、ジメトキシフェニルアセトフェノン、ベンゾイルシクロヘキサノール、又はヒドロキシジメチルアセトフェノンが挙げられる。
【0050】
本発明の方法において、導電性ポリマーは、水溶液の25重量%以下の濃度、例えば、1重量%~20重量%、5重量%~20重量%、10重量%~20重量%、15重量%~20重量%、5重量%~15重量%、5重量%~10重量%などの範囲で混合することができる。
【0051】
導電性ポリマーは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホネート)、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリエチン、ポリ(p-フェニレン)、またはポリ(p-フェニレンビニレン)を含んでもよく、またはこれらからなってもよい。
【0052】
本発明の方法において、モールドは、マイクロニードルを形成するように成形された複数のキャビティを含み得る。複数のキャビティは、ピラミッド形状に限定されるものではなく、管状、切頭円錐形、円錐形、または、例えば、真皮層、粘膜層、口腔上皮、真皮深層、骨などに貫通可能な他の形状であり得る。キャビティの設計は、マイクロニードルの設計(例えば形状)を決定する。
【0053】
複数のキャビティの各々は、1000μm以下、900μm以下、800μm以下、700μm以下、600μm以下、500μm以下、400μm以下、300μm以下、200μm以下、100μm以下の深さを有する。すべてのキャビティは同じ深さであってもよい。キャビティはすべて、100μm~700μm、または100μm~150μmなどの範囲の深さを有することができる。
【0054】
本発明の方法は、その中に供給される水溶液とともにモールドを遠心分離することをさらに含み得る。膨潤性かつ水不溶性のマトリックスが形成される場合、遠心分離は、水溶液を照射する前に行ってもよい。遠心分離は、有利には、マイクロニードルが適切に形成されるように、キャビティが水溶液で完全に充填されることを確実にする。
【0055】
本開示は、上記および本明細書に記載のデバイスを介して対象に活性剤を送達する方法を提供する。同方法は、対象上にマイクロニードルアレイを適用し、対象上にアノードおよびカソードを配置し、イオントフォレシスユニットを作動させてマイクロニードルアレイから活性剤を送達すること、を含み得る。本発明のマイクロニードルアレイ、本発明のデバイスおよび本発明のマイクロニードルアレイの製造方法の文脈で説明される実施形態および利点は、本明細書に記載した活性剤を送達する本発明の方法に同様に有効であり、その逆も同様である。マイクロニードルアレイ、デバイス、およびマイクロニードルアレイを製造する本発明の方法の実施形態および利点は、上記の実施例において既に説明し、実証したが、簡潔にするために繰り返してはならない。
【0056】
様々な実施形態において、マイクロニードルアレイを適用することは、マイクロニードルを対象の第1の表面に挿入することを含み得る。第1の表面は、対象の皮膚であってもよい。第1の表面は、皮膚層、粘膜層、骨などの表面であってもよい。
【0057】
本発明の方法において、アノード及びカソードを対象に配置することは、(i)活性剤がアニオン性である場合にマイクロニードルが適用される位置の近位側の第1の表面にアノードを配置し、アノードが配置される位置の遠位側の第2の表面にカソードを配置すること、又は(ii)活性剤がカチオン性である場合にマイクロニードルが適用される位置の近位側の第1の表面にカソードを配置し、カソードが配置される位置の遠位側の第2の表面にアノードを配置すること、又は(iii)活性剤が中性である場合にマイクロニードルが適用される位置の近位側の第1の表面にアノードまたはカソードのいずれかを配置し、アノードまたはカソードが配置され得る第2の表面の上に、カソードまたはアノードをそれぞれ配置すること、を含むことができる。例えば、マイクロニードルは、薬物が最初に粘膜を介して、次に骨を介して神経に送達されることを目的としている場合でも、最初に歯茎の頬側表面(第1の表面の例)に適用することができる。薬物が正に帯電しているか、負に帯電しているか、または中性であるかに依存して、アノードまたはカソードは、マイクロニードルベース上に配置されてもよく、またはマイクロニードルアレイが適用された領域上に直接配置されてもよく、他方の電極は、対向する表面、この例では、同じ平面に沿って、歯茎の舌側表面(第2の表面の例)上に配置されてもよい。有利には、アノードおよびカソードは、イオントフォレシスがより速くかつ/またはより多くの薬物の標的領域への送達を駆動するために実施され得る限り、任意の方法で対象上に配置され得る。これは、この方法がいかに汎用的であるかを示している。アノードおよびカソードをどのように配置することができるかについての他の非限定的な例が、図、例えば
図4および
図7に示されている。
【0058】
本発明の方法において、イオントフォレシスを動作させることは、アノードとカソードとの間に電流を流して、活性剤をマイクロニードルアレイから送達するための電圧を確立することを含み得る。印加される電流および電圧は、対象に不快感または痛みさえも引き起こさないレベルで制御することができる。
【0059】
本発明の方法において、マイクロニードルアレイから活性剤を送達することは、(i)対象の皮膚層、および/または(ii)対象の粘膜、および/または(iii)対象の真皮深層、および/または(iv)対象の骨へ、および/またはそれを介して活性剤を送達することを含み得る。これらは、本発明のマイクロニードルアレイ、本発明のデバイスおよび本発明の方法を介して薬物を送達し得る非限定的な例である。
【0060】
本開示の文脈において、「実質的に」という用語は、「完全に」を除外するものではない。Yを「実質的に含まない」組成物は、Yを完全に含まない場合がある。必要に応じて、「実質的に」という用語は、本発明の定義から省略されてもよい。
【0061】
様々な実施形態の文脈において、特徴または要素に関して使用される場合の冠詞「a」、「an」および「the」は、1つまたは複数の特徴または要素への言及を含む。
様々な実施形態の文脈において、数値に適用される「約」または「およそ」という用語は、正確な値および合理的な分散を包含する。分散は、±0.1%、±0.5%、±1%、±5%、または±10%であってもよい。
【0062】
本明細書で使用される場合、「および/または」という用語は、関連するリストされた項目の1つ以上の任意の組み合わせおよび全ての組み合わせを含む。
特に明記されていない限り、「含む(comprising)」および「含む(comprise)」という用語、およびそれらの文法上の変形は、引用された要素を含むが、追加の引用されていない要素を含めることもできるように、「オープンの」または「包括的な」言語を表すことを意図している。
【0063】
上記の方法は、一連のステップまたはイベントとして例示および説明されているが、そのようなステップまたはイベントの順序付けは、限定的な意味で解釈されるべきではないことが理解されよう。例えば、いくつかのステップは、異なる順序で、および/または本明細書に図示および/または説明されたものとは別の他のステップまたはイベントと同時に発生してもよい。さらに、本明細書に記載される1つ以上の態様または実施形態を実施するために、全ての図示されたステップが必要とされるわけではない。また、本明細書に示される1つ以上のステップは、1つ以上の別個の動作および/またはフェーズで実施されてもよい。
【実施例】
【0064】
本開示は、少なくとも電気的に伝導性であるマイクロニードル(MN)アレイを提供する。
本明細書および以下の実施例に開示されるMNアレイは、ポリマー、例えば、ヒアルロン酸(HA)およびポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)を使用する導電性MNアレイである。これらの材料は、米国食品医薬品局によって幅広い生物医学的用途向けに承認されている。イオントフォレシスと共に使用される導電性MNアレイは、イオントフォレシス薬物送達において相乗効果を提供し、皮膚抵抗を有意に調節することにより、数分で薬物分子の深い浸透を達成する。特に、2つの異なるタイプのHAポリマーが、導電性MNアレイを実証するために使用されている。
【0065】
HAは天然の生体適合性のある非硫酸化グリコサミノグリカンであり、大量の水分を結合する能力を有する天然の最高の水和機能を有する。その生来の性質において、HAは水溶解性(water-dissolvable)MNを製造するために使用できる。
【0066】
別法として、HAの共有結合架橋は、HAのヒドロキシル基またはカルボキシル基を官能部分で修飾して、HA分子が溶解することなく流体を吸収することを可能にする安定な内部ネットワークをもたらすことによって行うことができる。本明細書に開示されるように、HAは、メタクリレートと架橋されて、膨潤性MNを製造するためのMeHA(メタクリレート架橋HA)を生成する。
【0067】
導電性MNアレイの製造における、非限定的な例としての、MeHAおよびPEDOT:PSSポリマーの併用について、以下に説明する。導電性MNアレイの製造における、別の非限定的な例としての、HAおよびPEDOT:PSSポリマーの併用について、以下に説明する。
【0068】
以下の非限定的な実施例において、HAおよびMeHAポリマーのマトリックス内へのPEDOT:PSSポリマーのドーピングが、導電性ポリマーMNアレイを形成することが示されている。導電性MNの製造におけるHAおよびPEDOT:PSSの使用は、口腔粘膜への挿入時に直ちに崩壊する溶解可能な(dissolvable)導電性MNアレイをもたらす。
【0069】
一方、MeHAおよびPEDOT:PSSの使用は口腔粘膜内で膨潤する導電性膨潤性MNアレイを形成する。
有利なことに、溶解可能な導電性MNは、ウサギの切歯への麻酔薬分子の送達に効果的であることが示されている。イオントフォレシスを備えた溶解性かつ導電性のMNを使用した薬物送達の有効性は、95%信頼区間での従来の針および注射器送達方法と同等であると判断された。
【0070】
さらに有利なことに、膨潤性導電性MNおよびそのイオントフォレシスとの併用は、より強い電気浸透流をもたらし、MN挿入部位から歯槽骨内に存在する神経への薬物分子のより迅速な移動をもたらす。
【0071】
PEDOT:PSSドーピングは電気伝導率を増加させるが、HAおよびMeHAにPEDOT:PSSをドーピングする場合、MNアレイの製造が困難である。
図1Aおよび
図1Bは、PEDOT:PSSが、PVAマトリックスおよびHAマトリックス中に、それぞれ、不十分におよび均一に分散されて得られた場合の比較を示す。
図1AのPVAマトリックス中のPEDOT:PSSの分布は、2つのポリマーがランダムな比率で混合された場合に、分散が不十分であることを示し、ポリマー中のPEDOT:PSSのドーピングが容易でないことを示している。
【0072】
本発明のMNアレイのさらなる詳細、MNアレイを含むデバイス、それらの使用、およびMNアレイを製造する方法は、以下に記載する非限定的な実施例によって議論される。
実施例1A:溶解可能な導電性HA/PEDOT:PSS MNアレイの製造
HA/PEDOT:PSS MNアレイは、導電性ポリマー、例えばPEDOT:PSSを別のポリマーである低分子量HAに組み込むために、マイクロモールディングなどのソフトリソグラフィー技術を用いて製造された。
【0073】
最初に、逆リプリケート(inverse-replicate)ポリジメチルシロキサン(PDMS)マイクロモールドを、高さ約700μm、先端半径約5μm、ベース幅約300μmの10×10アレイの100本の針からなるピラミッド状MNステンレス鋼マスター構造体から作製した(Micropoint Technologies Pte Ltd、シンガポール)。これは、真空オーブン中で脱気する前に、MNマスター構造体にPDMS(硬化剤に対するPDMSポリマーの比(w/w)、10:1)を注ぐことによって達成された。その後、70℃で2時間硬化させ、ステンレス鋼のモールド(mold)から剥離した。得られたPDMS-マイクロモールドをHA/PEDOT:PSS MNの作製に繰り返し使用した。
【0074】
MNアレイを作製するために、低分子量HA粉末を蒸留水に溶解し、HAヒドロゲルを形成せずにHAポリマー溶液(0.5g/ml)の粘性溶液を得た。次いで、この溶液を10,000rpmで10分間遠心分離して気泡を除去した。HAポリマーの導電性を高めるために、PEDOT:PSS粒子をHAポリマー溶液中に分散させた。HAポリマー溶液に添加したPEDOT:PSSの濃度は0重量%~25重量%の範囲であった。HAポリマーマトリックス中のPEDOT:PSS粒子の均一で均質な分布を保証するために、溶液を低速で30分間連続的に超音波処理した。超音波処理後、最終混合物を10,000rpmで10分間遠心分離して、PEDOT:PSS粒子または残留気泡が存在しないことを確認し、これは、MN構造物を調製するための溶媒キャスティングのためのHAおよびPEDOT:PSSの両方を含有する均一なポリマー混合物を調製するためのものである。
【0075】
PEDOT:PSSポリマーでドープされたHAを含む混合物は、次に、プラズマ処理されたPDMS MNモールドに添加され、スイングバケット回転子(SCANSPEED 1580R、LaboGene)内で4,000rpmの速度で5分間遠心分離して、MNチップが充填されていることを確実にした。モールド表面に残った余分な溶液はスライドガラスを用いて除去した。室温(例えば、25℃)で一晩乾燥させた後、HA溶液(例えば3kDa~10kDa)の第2の層を添加し、MNパッチの背面層を作製した。背面層MNパッチを一晩空気乾燥し、背面層を含むMNアレイ全体をPDMSモールドから穏やかに剥離し、次いで、これを非加湿条件下にて4℃で保存した。
【0076】
他の実施例では、100μm~700μmの範囲の均一な高さを有するマイクロニードルが製造された。100μm~200μm、100μm~150μm、150μm~200μm等の範囲の均一な高さを有するより短いマイクロニードルも製造することができる。マイクロニードルの先端は、ピラミッド形状に限定されるものではなく、管状、切頭円錐形、円錐形、または、例えば、真皮層、粘膜層、および/または口腔上皮などに貫通可能な他の形状であってもよい。ベース幅は、例えば、100μm~500μmの範囲であってもよい。より短いMN(100μm~200μm)は、粘膜固有層における神経の刺激を減少させながら口腔上皮を貫通するために使用することができる。MNチップのマトリックスを形成する低分子量HAにより、皮膚および/または粘膜間質液との接触時に急速に溶解するMNチップは、そこに封入された薬物分子のボーラス放出を提供することができる。
【0077】
実施例1B:溶解性かつ導電性のHA/PEDOT:PSS MNアレイの特性化
すでに上で述べたように、本発明の導電性MNは、導電性ポリマーおよび生分解性ポリマーを使用して製造された。薬物拡散を加速させるために、導電性MNをイオントフォレシスと共に使用した。導電性MNは、溶解性ポリマー(例えば、HA)と導電性ポリマー(例えば、PEDOT:PSS)との混合物からなる(
図2A)。薬物は、デバイスの製造中にポリマー混合物と混合することができる。MNパッチを皮膚に適用すると、MNチップおよびベースを形成するHAポリマーマトリックスの溶解のために、MNチップは表皮層内に残り、皮膚貫通後の間質液との接触はMNの溶解を瞬時またはほぼ瞬時にして、MNマトリックスにカプセル化された薬物分子を放出する(
図2D)。導電性ポリマーの存在は、皮膚組織(例えば、角質層または粘液層)の抵抗を減少させ、電荷のより強い流れを可能にする。
【0078】
本発明の導電性MNとイオントフォレシスの相乗効果を実証するために、モデル薬物として近赤外線Cy5色素でMNをカプセル化し(
図2C)、インビトロよびインビボの両方で試験した。これらについては、以下の例でさらに説明する。
【0079】
HA/PEDOT:PSS MNアレイの機械的強度を軸圧縮試験により検討した。PEDOT:PSSの異なる負荷濃度(例えば、0重量%、5重量%、10重量%および15重量%)を有するMNパッチは、同様の荷重対変位プロファイル(load versus displacement profiles)を示した(
図3A)。10×10PS MNアレイは破損することなく8Nの軸荷重(axial load)に耐えることができ、これはニードル当たり0.08Nの軸荷重に相当する。これはMNアレイの機械的強度がPEDOT:PSSの存在によって影響されることを示す(
図3A)。PEDOT:PSSの濃度が高いほど、より大きな変位が観察された。言い換えれば、MNはPEDOT:PSSでより柔らかくなり、5重量%のPEDOT:PSSを含むMNを更なる実証のために選択した。
【0080】
HA/PEDOT:PSS MNの実際の皮膚挿入能力を新鮮なブタ死体皮膚を用いて調べた。5重量%HA/PEDOT:PSSパッチを、デモンストレーションのための非限定的な実施例として使用した。親指で押すだけでMNは皮膚組織を貫通した。その後の組織学的試験により、表皮層を介したMNの貫通が成功したことは明らかであった(
図3B)。次に、MNアレイの導電性を、マルチメータを用いてMN挿入前後のマウス皮膚の抵抗を測定することにより評価した。皮膚抵抗はMNパッチ挿入直後に測定した。得られた結果から、皮膚組織の表皮層上のPEDOT:PSSは有意に皮膚の抵抗を減少させることが観察できた(
図3C)。HA MNとHA/PEDOT:PSSアレイの電気伝導率も、-1~1Vバイアスでの代表的なI-V曲線を用いて計算した(
図3D)。オーム領域における線形回帰の勾配を用いると、結果は、HA/PEDOT:PSS MNアレイが有利には、HA MNアレイよりも少なくとも3倍高い導電率を有することを示した。
【0081】
図3Eは、本発明の導電性HA/PEDOT:PSS MNおよびイオントフォレシスの組み合わせが、非導電性MNおよびイオントフォレシスを使用する処理群と比較して、色素の浸透深さにおいて1.5倍増加する結果を示す。
【0082】
実施例1C:イオントフォレシスと溶解性かつ導電性のHA/PEDOT:PSS MNアレイの一般的な実証
簡単に説明すると、以下のステップを実施する(
図4)。
【0083】
(1)として示された構成要素は導電性MNパッチ(1cm×1cm)であり、それは、まず頬口腔粘膜に適用される。(2)として示された構成要素は、挿入されたMNアレイの上部に適用される市販の麻酔用ゲルである。(3)として示された構成要素はイオントフォレシスユニットであり、電極(カソードおよびアノード)は挿入されるMNアレイの上部と麻酔される歯の舌粘膜側にそれぞれ接続されている。イオントフォレシスユニットを使用して、麻酔分子を薬物リザーバから口腔粘膜のミクロンサイズの穴を通って歯槽骨に送り込み、歯の先端の神経を標的にして麻痺効果を与えるべく低電圧電流を流す。
【0084】
本発明の導電性かつ溶解性のMNを経皮薬物送達について検討し、皮膚を貫通して、薬物分子が浸透するための一時的な水性のコンジットを作製することが示された。それにもかかわらず、組織内の薬物の流れは、薬物の緩徐な発現をもたらす受動拡散にのみ依存している可能性がある。MNを介した薬物拡散プロセスを加速するために、MNとイオントフォレシスの両方を使用する組み合わせを本明細書において実証した。
【0085】
イオントフォレシスは、低電圧電流を使用して、電気的反発および電気浸透を介して無傷の皮膚を横切る荷電および/または非荷電の薬物分子の送達を駆動および増強する。MNは、薬物分子が組織に浸透することを可能にするミクロンサイズの穴を作製するために、皮膚の前処理に使用されている。次にイオントフォレシスを適用して皮膚表面からさらに組織内に分子を移動させ、全身作用を速める。本開示において、本発明の導電性MNの使用は、薬物浸透のためのミクロンサイズの孔を作製するのみならず、例えば、口腔粘膜の抵抗を有意に減少させることも示されている。このような組み合わせを用いる場合、薬物透過の相乗的増強が観察される。イオントフォレシスを適用すると、粘膜抵抗が低下するため、口腔粘膜内の薬物分子の流れが大きくなる。これにより、薬物分子を口腔粘膜の表面から骨組織へと迅速に送り込み、麻酔効果を与えることができる。本発明のMNは、麻酔薬の送達に使用することができるので、注射針に関連する痛み、恐怖および/または不安が解消される。ミクロンスケールの針は、より深い粘膜固有層の下にある神経終末に接触することなく、口腔粘膜の表面上皮層を特異的に貫通する。
【0086】
加えて、本発明のMNは、MNが針の外観に関連する恐怖症を排除するという点で患者に優しい。この技術を患者が受け入れることで、例えば、歯科治療中に患者を落ち着かせるのに時間を浪費することがなくなるので、歯科治療のより効率的な実施につながり、それによって、歯科治療の円滑な実施のために歯科医と患者とのより良好な関係を形成する。歯科不安の軽減はまた、歯科予約の非回避と再スケジュールの減少につながり、したがって事業運営と財政を改善する。
【0087】
実施例1D:溶解性かつ導電性のMNを用いたインビトロ経皮薬物送達
イオントフォレシスと組み合わせた経皮薬物送達のための導電性MNの可能性を検討するために、1.4重量%アガロースゲルを同様の含水量と完全性を有する皮膚のインビトロモデルレプリカとして使用した(
図5)。手順には以下の3つのステップがある:即ち、
(1)MNパッチを30秒間親指の力でアガロース上に適用し、その後ベース層を除去した。
【0088】
(2)アノード電極をアガロースゲルの底に直接配置しながら、カソード電極をMNの適用部位に配置した。
(3)低電圧電流(3mA/cm2)を3分間流した。
【0089】
概念実証として、正に荷電している蛍光色素Cy5をアガロースゲルに送達した。
1.4重量%アガロース中のCy5色素の浸透の深さを共焦点走査レーザ顕微鏡(CSLM)を用いて観察した。MNによるイオントフォレシスを伴う非導電性HAの使用は、侵入深さの1.5倍の増加をもたらしたが、導電性HA/PEDOT:PSS MNとイオントフォレシスとの組み合わせは、浸透の深さの3倍の増加をもたらした(
図6Aおよび6B)。処理したアガロースのz軸面における画像は、導電性MNをイオントフォレシスと併用した場合、有意に深い浸透を示し、このような併用の相乗効果を示すものである(
図6C(ii))。
【0090】
実施例1E:溶解性かつ導電性のMNを用いたインビボ経皮薬物送達
経皮薬物送達の有効性は、マウスモデルを使用したインビボアプローチを通じて実証された(
図7)。簡単に述べると、Cy5負荷MNパッチを、C57/B6マウスの背中の乾燥した背部皮膚にしっかりと押し込んだ。MNベースパッチを除去した後、カソード電極をMN適用部位のその場に置いた状態で、アノード電極とカソード電極の両方を並べて配置した。同様に、3mA/cm
2の電流束密度の低電圧電流を3分間供給した。このモデルにおけるCy5色素浸透の程度を測定し、インビボイメージングシステム(IVIS)(
図9B)と処理した皮膚の組織学(
図8Aおよび8B)により定量した。
【0091】
MNにCy5がなかった場合(HA MNおよびHA+5%Pedot:PSSと記載されている)、マウス皮膚に蛍光シグナルはなかった(
図9Bおよび9C)。HA MNへのCy5の取り込みは蛍光シグナルをわずかに増加させた。最大の増加はCy5を伴うHA+5%Pedot:PSS MNおよびHA+15%Pedot:PSS MNで観察された(IVISシグナルにおける10倍の増強)。これは、イオントフォレシスを伴う導電性MNを使用して、皮膚への薬物浸透を促進することの影響を示している。また、IVIS測定を実施する前に、処置されたマウスの皮膚をきれいに拭き取り、皮膚表面上に残っているCy5との不一致がないことを確認したことも注目に値する。
【0092】
C57/Bl6マウスをインビボモデルとしても使用して、マウス皮膚組織を横断するCy5浸透の深さを評価した。色素浸透の程度をインビボイメージングシステム(IVIS)と組織学試験により測定し定量した。処理した皮膚は組織学的試験のために外科的に除去した。凍結切片を用いて10μmの皮膚切片を取得し、異なる皮膚層を区別し、色素浸透の深さを可視化して比較するためにヘキスト(Hoechst)で染色した。
【0093】
HA MNおよびイオントフォレシスで処理されたマウスの皮膚では、角質層/表皮層に少量のCy5シグナルが存在していた(
図8A)。導電性HA/PEDOT:PSS MNおよびイオントフォレシスで処理されたマウスの皮膚は、はるかに強いCy5シグナル(2回)を示した(
図8B)。さらに興奮したことに、Cy5シグナルは皮膚のより深い層で見られ、導電性MNおよびイオントフォレシスを使用することによるCy5の浸透の改善を示唆した。言い換えれば、非導電性MNおよびイオントフォレシスで処理したマウス皮膚と比較して、導電性MNおよびイオントフォレシスで処理したマウス皮膚の角質層/表皮および真皮層において蛍光粒子カウントは2倍高く、導電性MNパッチからのより深い浸透効果の確立を示唆した(
図8Aおよび8B)。
【0094】
実施例1F:溶解性かつ導電性のMNを用いた骨貫通を介した薬物送達に関するエクスビボ試験
導電性MNアレイとイオントフォレシスの併用の相乗効果は、インビトロおよびインビボモデルを介する薬物浸透効果を加速することが実証されている。口腔組織での麻酔薬送達のための本発明の導電性MNの使用を理解するには、歯槽骨を介した薬物の浸透が可能かどうかを判断することが重要である。簡単に言えば、ウサギの下顎骨とブタの耳の皮膚の切片からなるファントムモデルを用いてエクスビボ試験を行った(
図10A)。処理後、色素浸透の深さを評価する組織学的試験のために、ブタの皮膚の最上層と最下層を骨から分離した。非導電性MNおよびイオントフォレシスの併用で処理した皮膚の場合、色素粒子の分布は皮膚の最上層の真皮層までの角質層で主に観察され、それは骨を介した薬物浸透が達成されなかったことを示唆している(
図10B)。有利なことに、導電性MNおよびイオントフォレシスで処理された皮膚の場合、より大きな割合の色素粒子が最下層で観察された。特に、より強い蛍光シグナルが皮膚の最下層の皮膚-骨界面部分で観察された(
図10C)。要約すると、結果は、歯槽骨を超えることが可能なより深い薬物浸透を達成するために、本発明の導電性MNおよびイオントフォレシスを使用する利点を示すものであった。
【0095】
詳細には、ウサギの下顎骨(1cm×1cm)をブタの耳の皮膚(2cm×1.5cm)の2層の間に挟み、ペーパークリップを用いて固定した。このようなファントムモデルを設計し、骨試料を介した色素浸透の可能性を検討した(
図10A)。それぞれのMNパッチを、イオントフォレシス(適用可能な場合)を行う前に、1分間の間、最上層の表皮上に適用した。次いで、処理直後に上下のブタ皮膚層を分離除去し、骨試料から分離した。
【0096】
MNで処理した皮膚の一部を切り取り、凍結してから凍結切片を作製し、10μmの組織切片を得た。共焦点顕微鏡画像(
図10B)は、イオントフォレシスで処理した試料に対し皮膚の最下層にCy5色素の存在を示し、イオントフォレシスの使用が骨を横切る色素の移動を促進することを示唆した。しかしながら、導電性HA/PEDOT:PSS MNで処理した皮膚試料は、骨試料を横断してブタの下部皮膚層へのCy5色素のより大きな浸透を示した。これは、イオントフォレシスが骨試料を介する色素浸透を達成するのに十分ではあるが、本発明の導電性MNが、実際の適用において骨試料の下に位置する神経を特異的かつ効果的に標的化するためのより深い浸透を生じさせる治療において使用されることが重要であることを示すのに役立つ。
【0097】
実施例1G:ウサギモデルを用いた溶解性かつ導電性MNのインビボの有効性試験
本発明の溶解性導電性MNを用いて、局所麻酔を達成するためのリドカイン送達の有効性を臨床的に関連するウサギ切歯モデルで検討した(
図11A)。イオントフォレシス適用の際の電流の大きさと期間は、ウサギ由来のエクスビボ骨試料を用いてあらかじめ決定した。IVISを用いて、骨試料中の強い蛍光シグナルを3mAおよび4分間で観察し、色素の大部分が骨に浸透していることを示していた(
図11B)。ウサギは、従来の針と注射器を使用した注射、局所ゲルの適用、本発明の導電性MNのみ、イオントフォレシスのみ、および本発明の導電性MNとイオントフォレシスとの組み合わせ、である5つの異なる局所麻酔薬送達手順を受けた。処置前後のウサギの疼痛閾値を、電気歯髄テスターを用いて疼痛刺激を適用することにより試験した。導電性MNおよびイオントフォレシスで処理した場合、5匹のウサギの全てが歯科麻酔(すなわち、歯に加えられた痛みの刺激に反応しない)を達成した(
図11C)。麻酔効果の開始に要した時間は、ウサギを針注射または導電性MNおよびイオントフォレシスのいずれかで処置した場合、即時(0分の時点)であった。作用持続時間の95%信頼区間での15分の同等性マージン(margin of equivalence)を使用して、本技術で達成される麻酔効果の結果は、針と注射器の注射を使用する現在のゴールドスタンダード(gold standard)と同等である(
図11D)。
【0098】
要約すると、イオントフォレシスと組み合わせて使用した場合の溶解性かつ導電性のMNアレイは、口腔粘膜および骨を介して歯に感覚を供給する神経に到達する迅速で深い薬物浸透を提供する能力を実証し、応用の多くの例の一つとして、歯科麻酔のための効果的で痛みのない送達方法を可能にする。
【0099】
実施例2A:膨潤性導電性HA/PEDOT:PSS MNアレイ
上記の実施例は、HAのマトリックス内にPEDOT:PSSポリマー粒子をドーピングすると、導電性ポリマーMNアレイが得られることを示した。導電性MNの作製におけるHAおよびPEDOT:PSSの使用は、口腔粘膜への挿入時に、分解するまたは直ちに分解する、溶解性かつ導電性のMNアレイをもたらす。このような溶解性MNアレイとは別に、本開示は、MeHAおよびPEDOT:PSSを使用して、口腔粘膜内で膨潤形態を達成する導電性かつ膨潤性のMNアレイを形成することも提供する。
【0100】
有利には、上記の実施例は、溶解し、かつ導電性のMNの使用がウサギ切歯への麻酔薬分子の送達において効果的であることを既に示している。イオントフォレシスと並行して溶解し、かつ導電性のMNを用いた薬物送達の有効性は、95%信頼区間で針と注射器での送達である従来法と同等であると判断された。さらに有利なことに、膨潤性導電性MNとイオントフォレシスとの併用は、挿入部位から歯槽骨内に存在する神経への薬物分子の迅速な移動を提供する、より強い電気浸透流をもたらす。
【0101】
簡単に述べれば、HAをメタクリレートで官能化して、紫外線(UV)照射下のフリーラジカル重合によってさらに架橋され得るメタクリレート架橋HA(MeHA)を得る。膨潤性導電性MNを作製するために、例えば25mg/ml~100mg/mlの濃度のMeHAポリマーを、5~20重量%の様々な加重濃度でPEDOT:PSSポリマーでドープすることができる。PEDOT:PSSポリマーを、MeHAおよび光開始剤と共に一定の撹拌下(300~500rpm)で2日間混合し、均質な溶液を得た。次いで、この溶液をプラズマ処理したPDMSモールドに加え、遠心分離してから3日間乾燥させる。次いで、MNは、5分~15分の時間の間、UV照明を用いて架橋される。
【0102】
膨潤性導電性MNアレイの製造に関するさらなる詳細は、以下で議論される。
実施例2B:膨潤性導電性MeHA/PEDOT:PSS MNアレイの作製
HAポリマー溶液の合成は上記の実施例ですでに説明されており、簡潔にするために繰り返さない。
【0103】
架橋MeHA MNパッチを作製するために、MeHA(50mg/mL)および光開始剤(Irgacure(登録商標)2959、0.5mg)をDI水に溶解した。混合物を、キャビティをいっぱいにするまでプラズマ処理したPDMSモールドに注型した。次に、PDMSモールドを4000rpmで3分間遠心分離して、針の空隙を強制的に材料でいっぱいにした。さらなる混合溶液を添加して、堅牢なバッキング材(backing)を作製した。ドラフトチャンバ中で室温にて乾燥した(約12時間)後、MeHA-MNパッチをモールドから注意深く分離してトリミングし、次にUV光(波長=360nm、強度=17.0mWcm-2、モデル30、OAI)に一定時間曝露した(3分、5分、10分、15分など)。
【0104】
低電圧電流の影響下で導電性MeHA-PEDOTマイクロニードルアレイの膨潤効果を調べた。MN(異なる架橋度を有する)を秤量し、パラフィルム被覆1.4重量%アガロースゲルに挿入した(
図12A~12F)。1分間のインキュベーション後、MNを注意深く取り出し、迅速に重量測定した。得られた膨潤比を用いて、マイクロニードルの膨潤性に対する架橋度の程度を決定する。結果は、より短い架橋時間がより大きな膨潤効果に寄与し、より多くの流体がMNマトリックスに吸収されることを示した。導電性MNをその後のイオントフォレシス処理と組み合わせると、MNの膨潤比は2倍に増加した。本発明の導電性MN(MeHA-PEDOT)は、非導電性MN(MeHA)と比較してより膨潤する能力があるので、イオントフォレシス処理が行われる場合、電気浸透効果にさらに寄与することができる。
図13は、1分間のインキュベーション後に1.4重量%アガロースゲル中で試験された架橋MeHA-MNパッチの膨潤挙動を示す。
【0105】
実施例2C:膨潤性導電性MNアレイにおける薬物負荷
MeHA MNの薬物負荷能力を、異なる分子量のモデル薬物、主にフルオレセインイソチオシアネート(FITC)、FITC-デキストランおよび塩酸ドキソルビシン(Dox)を用いて検討した。流体を吸収するMeHA MNアレイの本来の能力は、MNチップに薬物分子を装填するために利用される。3つの薬物すべてをPBSに溶解し、MeHA MNパッチを平衡化するために使用した。薬物溶液との10分間のインキュベーション後、MNをドラフトチャンバ中で乾燥させた(
図14)。MNに封入されている薬物の量は、薬物を負荷した(drug loaded)MeHAを1×PBSに浸漬して測定した。種々の時点で50μLの溶液を得て蛍光強度を測定し、3つの異なる薬物分子の薬物放出プロファイルを決定した。
図15から明らかなように、薬物の分子量は膨潤効果を介する薬物負荷能力に影響を与える。低分子量のFITCおよびFITC-デキストラン(3~5kDa)は、より大きなDox分子(20kDa)と比較してMNチップに容易に装填された。
【0106】
次に、MeHA MNパッチからの薬物の放出プロファイルを調べた。
図3Bに示されるように、80%を超えるFITCおよびFITC-デキストランが、30分以内にMNパッチから放出された。同じ期間で、Dox負荷MNパッチからは50%の放出が観察された。
【0107】
実施例2D:膨潤性導電性MNアレイの利点
粘膜中の溶解可能な導電性MNによって作られた孔は、MN溶解のほぼ直後に閉じる。これは、孔を長期間開いたままにすることを必要としない用途に適している。
【0108】
一方、口腔粘膜に挿入された時に膨潤する能力を有するMNを開発するためにヒドロゲル形成ポリマーを用いる膨潤性かつ非溶解性の導電性MNアレイは、イオントフォレシスと併用した場合、イオン浸透流束(flux)をさらに増加させる電気浸透効果をもたらし、従って膨潤効果から骨組織へのより迅速な薬物送達を促進する。膨潤性MNの配置は、電流が適用されたとき、より効率的な薬物送達プラットフォームをもたらす組織への連続的な薬物の流れを有する期待を提供するものである。さらに、膨潤性および非溶解性の導電性MNは、その使用後に完全に除去することができるので、軟組織内に残る残留物を制限することができる。
【0109】
実施例2E:更なる考察-ウサギモデルを用いたインビトロ試験の手順
上記の実施例は、薬物送達を加速するためにイオントフォレシスと組み合わせて使用できる高導電性かつ膨潤性のMNアレイをすでに実証している。非限定的な例として、溶解性MNアレイの製造に使用される低分子量HAは、膨潤性導電性MNアレイを製造するためのヒドロゲル形成HAを形成するように改変される。膨潤性導電性MNは、例えば、口腔粘膜への挿入時に膨潤し、MNアレイの上部に適用され得る麻酔薬ゲルからの薬物分子の送達を促進する(
図24)。
【0110】
ヒドロゲル形成MNは、溶解性MNで達成されたイオン注入効果に加えて、イオン注入効果のさらなる加速を助ける。これは、電流を流すと、電気浸透により吸水率が向上するため、ヒドロゲル形成MNの膨潤が劇的に増加するためである。これにより、MN表面積が5倍に増加し、荷電分子の移動が大幅に促進および強化される。したがって、ヒドロゲル形成HA MNを達成するための安定な内部ネットワークを組み込むための共有結合架橋の使用は、溶解することなく流体を吸収できるHAポリマーを提供する。
【0111】
実施例2F:一般的考察-膨潤性導電性MNアレイの開発と特性化
上記実施例で示された高導電性で膨潤性のMNアレイは、ヒドロゲル形成HAおよびPEDOT:PSSに基づいている。ヒドロゲル形成HAを達成するために、HAポリマーのヒドロキシル基またはカルボキシル基を官能部分で架橋することによってHAポリマー修飾を行った。様々な架橋剤および架橋方法(例えば、メタクリレート、フランおよびカテコール)が使用されてきた。限定されるものではないが、唯一の実証目的のために、メタクリル酸塩架橋剤が本開示においては議論された。MNアレイの製造に使用される試薬およびポリマーは、生体適合性があり、医療グレードである。
【0112】
メタクリル酸無水物を用いたHA修飾とそれに続くUV照射下でのフリーラジカル重合による更なる架橋を行い、高度に膨潤性のメタクリル化ヒアルロン酸(MeHA)MNアレイを得た(
図25A)。異なるUV曝露時間は、膨潤比によって示されるように、MNの有意に異なる膨潤プロファイルおよび形態をもたらした(
図25Bおよび25C)。この観察結果は、MeHAの架橋度がMeHA MNが吸収できる流体量に影響を与えることを示している。MNの膨潤性はイオントフォレシス効果に影響を与えるため、架橋度を調整して最大の膨潤性を得ることができる。次に、最大の流体を吸収しながら導電性を保持することができるヒドロゲル形成HA/PEDOT:PSS MNアレイを設計および作製するために、架橋度とUV曝露時間に及ぼすPEDOT:PSSポリマーの影響を評価した。
【0113】
PEDOT:PSSポリマーを組み込んだ改質HAポリマーを用いて、MNアレイの作製にマイクロ成形技術を用いた。簡単に述べれば、まず、設計されたステンレス鋼MN鋳型から、ネガティブ(negative)のポリジメチルシロキサン(PDMS)モールドを作製した。次に、PEDOT:PSSを組み込んだ改質HA溶液をPDMSモールドに流し込み、自然乾燥させた。上述の異なる化学については、MNのさらなる架橋のための異なるステップを実施することができ、例えば、MeHA MNの架橋は、溶液が乾燥した後にUV曝露で実施し、フラン-HA MNの架橋は架橋剤を混合することによって蒸発ステップ中に実施し、カテコール-HA(CA-HA) MNの架橋は、NaIO4およびNaOHを含有する溶液中にMNを曝露することによって達成した。
【0114】
種々のタイプおよび持続時間(つまり、3分、5分、10分、15分)での架橋に続いて、それぞれのMNの膨潤比を、1、3および5分間のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)への浸漬後のMNパッチの質量変化を測定することによって得た。光コヒーレンストモグラフィー画像を用いて、異なる架橋HA MNの膨潤速度を比較するために、MNのインサイチュおよびリアルタイム膨潤挙動をモニターした。MNが口腔粘膜への貫通に適していることを確認するために、さまざまなMN設計の特性評価も行った。Instron(登録商標)5543引張計で機械的特性を調べ、荷重対変位のプロファイルを求めた。さらに、MNの貫通効率は、MNを新たに採取したウサギの頬粘膜に押し込むことによっても試験し、貫通の深さを評価するために組織学的試験を行った。次に、PBS(pH7.4)を含有するレセプターコンパートメントを有するフランツ(Franz)拡散セル上に取り付けたウサギ頬粘膜を用いて経皮電気抵抗測定を行うことにより、膨潤性MNの導電性を試験した。電極をマルチメータに接続し、組織部分の両側に配置して抵抗を測定した。MNアレイは粘膜組織に挿入され、抵抗を継続的に測定するために内部に残した。
【0115】
膨潤性導電性MNアレイを、適用された麻酔薬ゲルに対するその透過性について評価し、続いて薬物放出プロファイル分析を行った。インビトロ透過試験をフランツ拡散セルとウサギ頬粘膜とを用いて実施し、様々なイオン浸透流束下で送達されたリドカインの量を評価した。ウサギの頬粘膜組織を拡散セル領域のサイズに切断し、断片をドナーセルとレセプターセルとの間に挟持した。MNアレイは、親指で押して組織切片の中央に挿入することができ、その後、市販の麻酔用ゲルを塗布する。活性電極はゲル層およびMNアレイの上に直接配置することができ、一方、不活性電極はフランツセルのレセプターコンパートメントに配置された組織に配置できる。所定の間隔で、レセプターからアリコートを収集し、新鮮なレセプター溶液を補充することができる。試料は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)技術を使用して分析し、粘膜組織から放出されるリドカインの量を検出できる。これらの試験は局所麻酔に必要な麻酔薬の用量を導出するのに必要な薬物負荷濃度を推定するために行われた。
【0116】
さらに、イオントフォレシス条件を調整することができ、印加される電圧および電流の持続時間などのパラメータを評価して、所望の薬物用量を達成することができる。1.4重量%アガロースとウサギ頬粘膜を用いて薬物浸透の深さを調べた。このような試験では、帯電した蛍光色素をモデル薬物として使用し、導電性MNおよびイオントフォレシスを用いて送達することができる。処理後、共焦点顕微鏡を使用してアガロース/組織試料を画像化し、色素分子の浸透深さを観察することができる。粘膜組織試料の組織学的試験を実施した後、画像化により浸透深さを観察することができる。炎症の目に見える兆候もモニターできる。
【0117】
実施例2G:一般的考察-ウサギモデルを用いたインビトロ試験の手順
膨潤性MNパッチ(または溶解性MNパッチ)およびイオントフォレシス系を用いた、粘膜組織および歯槽骨を介した麻酔剤の送達も、採取したウサギ顎を用い検討した。ウサギの死体は、シンヘルス実験医学センター(Singhealth Experimental Medicine Centre)から入手できた。各死体に対して、歯の象限ごとに2つの部位を使用した(すなわち、骨の厚さが異なる第1小臼歯と第2大臼歯の部位)。麻酔薬を組み込んだヒドロゲルをマイクロニードルパッチの一方の端に注意深く塗布し、空の(薬物を含まない)ヒドロゲルをもう一方の端に塗布する必要がある。パッチは対象の歯の周囲の頬側および舌側の粘膜組織に押し当てることができる。次に、イオントフォレシスを実施して、カソードからアノードに電流を流す。歯および周囲の歯槽組織を採取して、歯根尖を取り巻く粘膜および歯槽骨組織に送達される蛍光麻酔薬を定量化することができる。異なる電圧を用いて、電圧と、薬物浸透の速度および深さとの間の関係を分析することができる。
【0118】
実施例2H:一般的考察-ウサギの歯痛モデルを用いた効力および効率のインビボ評価
概念実証のために、生きたウサギ歯科モデルでインビボパイロット試験を行った。局所麻酔の開始と持続時間の定量的な測定を検討することができる。
【0119】
簡単に述べれば、1~2mg/kgのアセプロマジンを筋肉内に注射してウサギを軽く鎮静させる。アセプロマジンは鎮痛作用を伴わない鎮静作用をもたらすために用いられる。それはMNとイオントフォレシス電極の配置を容易にし、なおかつ痛みの評価を可能にする。各動物について、ウサギ当たり1部位を用いる(すなわち下顎切歯)。処置群では、MNパッチを歯の下の頬粘膜組織に穏やかに押しつけ、市販の麻酔用ゲルをMNアレイ上に塗布する。その後、イオントフォレシスは電流および適用期間の様々な条件で実施できる。対照群では、従来の歯科用注射器、針および局所麻酔カートリッジを用いて局所浸潤により麻酔薬を送達することができる。歯科麻酔の開始と麻酔効果の程度の評価について、方法を以下に説明する。
【0120】
疼痛誘発閾値電圧が決定されるまで、電気歯髄テスターを用いてウサギの歯に電圧を印加する。この疼痛誘発閾値電圧は、眼窩の締め付け、鼻孔の形状の変化および舐め運動などの徴候に注意することにより、ウサギのしかめっ面スケール(grimace scale)を用いて決定される。介入前にウサギの疼痛閾値を記録する。処置手順の適用後、電圧刺激に対する疼痛閾値を、異なる時点、例えば、0分、0.5分、1分、1.5分、2分、2.5分、3分、3.5分、4分、4.5分、5分、10分、20分、30分、45分、60分、75分、90分、105分、および120分でモニターする。デバイスの有効性を決定するために、麻酔作用の開始および持続時間の定量的測定を用いることができる。この間、バイタルサイン(心電図、呼吸数、心拍数)のモニタリングも行う。動物を安楽死させ、歯槽を組織学的分析のために採取する前に、有害事象を3日間にわたって追跡することができる。処置された試料において、軟組織および硬組織の壊死、炎症、またはその他の異常の徴候を評価することができる。
【0121】
実施例3A:さらなる実施例-MNを形成するためのテンプレートの作製およびこのテンプレートを用いたMNパッチの作製
マスターテンプレートは、傾斜回転フォトリソグラフィ手法を用いて調製した。簡単に説明すると、SU-8(エポキシ系ネガ型フォトレジスト)の厚い層を反射防止シリコンウェハの表面にコーティングした。次に、あらかじめ設計した正方形および間隔を有するマスクをSU-8上に配置し、マイクロニードルのベース直径と間隔をそれぞれ決定した。その後、SU-8錯体を18~25°の入射角でUV光に選択的に曝露し、最終的にマイクロニードルの高さを決定した。次いで、ウエハを時計回りに90°回転させ、再び露光を行った。合計4回の露光により、正方ピラミッド型ベース構造を有するマスターテンプレートが開発された。全てのマイクロニードルは、150μm~200μmのベース径と、5μm~10μmのチップ径を有する。各マイクロニードル間の間隔は、局所領域で形成される高濃度のMNを避ける(つまり、「針のむしろ(a bed of nails)」を避ける)ために1mmであった。パッチのサイズは12mm×12mmであった。次いで、PDMSモールドは、マスターテンプレートに基づく従来のエラストマー硬化プロセスによって製造することができる。
【0122】
PDMSモールドは、遠心分離する前に導電性ポリマー溶液で被覆された。導電性ポリマーは、対象の皮膚に貫通するのに十分な機械的強度を有する導電性ポリマーであり、以下に示す構造を有するポリピロール系ポリマーから選択することができ、ここで、nは1~100,000であり得る。
【0123】
【0124】
遠心分離後、PDMSモールド上の過剰な溶液を濾紙で除去した。次に、溶媒を乾燥してマイクロニードルを形成した。続いて、第2のタイプの導電性ポリマーを含む別の溶液をモールドに加えて、パッチのベース/基板を形成した。
【0125】
マイクロニードルの硬度と弾性率は、万能試験機で評価した。マイクロニードルの形態を走査型電子顕微鏡(SEM)で調べ、ベースの柔軟性を調べるために3点曲げ試験および疲労破壊試験を行った。
【0126】
実施例3B:さらなる実施例-フォトリソグラフィおよび機械的特性評価を介してPEG-DAで調製されたマイクロニードルパッチ
ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA)および2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオフェノン(HMP)を用いた光重合法によりマイクロニードルパッチを調製した(
図18Aおよび18B)。
【0127】
支持基板の作製を
図18Aに示す。PEGDAとHMPを混合してプレポリマー溶液を調製した。未処理のカバースリップ2個を支持する基板としてスライドガラスを用いてギャップを形成した。別のカバースリップをこのギャップ上に整列させ、狭いキャビティを形成した。プレポリマー溶液を導入し、毛管力によりキャビティに広げた。次いで、セットアップを紫外線(UV)光源下に置き、続いてUV照射した。続いて、形成された支持パッチをガラス基板から取り出し、オーブン中で乾燥させた(50℃)。
【0128】
マイクロニードルの作製を
図18Bに示す。厚さ1mmのガラススライドを、より広いガラス基板の両側に配置し、キャビティ高さを増加させた。次に、接着パッチをキャビティ上で逆方向に位置合わせし、続いて毛細管現象によってプレポリマー溶液をキャビティに導入した。マイクロニードルアレイの設計パターンを備えたフォトマスクを、接着パッチの上に正確に配置した。マイクロニードルアレイは、接着パッチの下での光重合により形成した。
【0129】
図19Aは、約49個/cm
2の針密度を有し、300μmのマイクロニードルベース直径を有し、マイクロニードルの高さが940μmである代表的なマイクロニードルデバイスのSEM画像である。すべてのマイクロニードルは円錐形であり、接着パッチ上に均一に分布している。硬度と弾性率は、経皮デバイスの重要なパラメータである。
図19Bに示されるように、デバイス内のマイクロニードルは、約0.04GPaの硬度および約0.6GPaの弾性率を有し、これは、皮膚層の弾性率(弾性率:約0.6MPa)よりも約1000倍大きい。瘢痕を貫通するには、挿入時に機械的損傷を起こさずに十分な強度を有するマイクロニードルが必要である。機械的圧縮試験を行い、万能試験機を用いてマイクロニードルデバイスの機械的破壊に必要な力を調べた。
図19Cに示されるように、マイクロニードルは、圧縮力が針あたり0.25Nに達したときにのみ失敗し、これは、皮膚貫通に必要な力(針あたり0.05N)の5倍であった。
【0130】
マイクロニードルデバイスは、新鮮なブタの皮膚に容易に貫通した(
図20A)。その後の組織学的試験により、マイクロニードルがブタの皮膚の真皮層に到達していたことが明らかになった(
図20B)。
【0131】
実施例3C:さらなる実施例-スチール製モールドからHAおよび蛍光色素で調製したマイクロニードルパッチ
100個のピラミッド状の針(高さ約600μm、ベースでの幅300μm、ピッチ700μm、10×10アレイ)からなるステンレス鋼マイクロニードルモールドを放電加工プロセスを用いて作製した。PDMSは、プレポリマーと硬化剤とを10:1の比率で混合して調製し、真空オーブン中で2時間脱気した。ステンレス鋼製マイクロニードルをペトリ皿の中央に置いた後、脱気したPDMSをマイクロニードル型に注ぎ、70℃で2時間硬化させた。PDMSマイクロモールドからステンレス鋼マイクロニードルモールドを分離した後、PDMS逆マイクロニードルモールドを得た。次に、1%蛍光色素を含有する0.5gのHAを蒸留水1mlに溶解した後、マイクロモールドの表面に添加し、遠心分離した。その後、ブランクのHA溶液をモールドに加え、遠心分離してバッキング層(ベース)を形成し、次いで室温で一晩乾燥させた。色素負荷MNパッチをマイクロモールドから剥離した。
図21に示すように、色素負荷マイクロニードルは蛍光性であり、ブランクのHAで作られたベースは非蛍光性である。
【0132】
実施例3D:さらなる実施例:HAベースおよびPLGAマイクロニードルを構成するマイクロニードルパッチ
上記で作成されたPDMSモールドで、200mgのPLGAを1mlのDMFに溶解した。20μlの色素負荷HA溶液をマイクロモールドに加え、遠心分離し、次いで室温で一晩乾燥させた。ブランクのHA溶液(HA0.5gおよび蒸留水1.0mL)をモールド上に加え、遠心分離してバッキング層を形成し、次いで室温で一晩乾燥させた。色素負荷MNパッチをモールドから剥離した。調製したマイクロニードルの明視野像を
図22Aに示し、これはマイクロニードルチップとベースとの間の異なるコントラストを明確に示す。マイクロニードルを蛍光顕微鏡で可視化すると、PLGAチップのみが蛍光性であった(
図22B)。
【0133】
実施例3E:さらなる実施例-導電性ポリマーフィルムとその電気伝導率
膜の形態のポリピロール(PPy)フィルムを、本明細書に記載する種々のMNアレイに組み込むための導電性ポリマーとしての適合性について試験した。
図23Aは、ポリピロール(PPy)で作られた膜を示している。この膜は柔軟で機械的に頑強である(
図23B)。電気伝導率(σ)の温度(T)依存性を
図23Cに示す。電気伝導率(σ)は約9.81Scm
-1であった。
【0134】
実施例4:従来のシリンジアプローチとの比較
従来、局所麻酔薬の送達は、麻酔効果を達成するために、約10分にわたって二段階で実施され得る(
図16-スキームA)。最初に、局所麻酔ゲルを治療部位周囲の頬および舌粘膜組織に塗布する。このゲルを約2~5分間放置して、表面組織を十分に麻痺させる。次に、針を粘膜頬側組織に刺して、麻酔液を1~2分間送達する。次に、麻酔液は歯槽骨を通って時間とともに拡散し、歯の根を取り巻く感覚神経に到達するが、これには通常2~3分を要する。歯科恐怖症を発現している患者では、より高いレベルの理解、良好なコミュニケーション、および薬物投与手順をさらに少なくとも15分延長する段階的治療アプローチを必要とする。
【0135】
本発明の導電性MNアレイでは、従来の針およびシリンジ法と比較して、麻酔薬送達に要する時間が有意に短縮される。本発明の方法は患者に優しく痛みもないので、歯科治療が行われる前に歯科医の時間の大部分を占める患者の不安と注射針恐怖症を解消する必要がない。溶解性かつ導電性のMNおよびイオントフォレシスを使用する場合、3つのステップと合計6分の改善時間が必要である(
図16-スキームB)。最初に、適切な移植と完全な溶解を確実にするために、MNを口腔粘膜組織に約1分間圧迫する。次に、麻酔薬ゲルをMN挿入部位に適用し、1分間放置して、粘膜上の微小なコンジットを介した薬物拡散を促進する。次にイオントフォレシスを4分間適用する。
【0136】
さらに有利には、膨潤可能な構成は、麻酔開始に要する時間のさらなる短縮を可能にする。ヒドロゲル形成膨潤性導電性MNを使用することにより、イオン浸透流束をさらに増加させて、麻酔薬送達に要する時間をさらに短縮することができ、それにより、臨床現場で臨床医が入念な訓練を必要とすることなく容易に採用することができる容易で迅速かつ無痛の薬物送達方法を達成することができる。
【0137】
一般的に、従来の針-注射器法では、20mg/mlのリドカインを含む1つのカートリッジが成人と小児の両方に対して歯毎に送達される。解剖学的変化(例えば歯槽骨の厚さ)および局所状態(例えば炎症の存在)に応じて、2つ以上のカートリッジが必要となる場合があり、これは、所望の麻酔効果を達成するために追加の針注射が行われることを意味する。本発明のアプローチでは、より多くのMNパッチを適用することによって、必要に応じて追加の麻酔用量を同様に投与することができる。しかしながら、従来の針注射法と比較して、麻酔を達成するには少量の薬剤で十分である。したがって、本発明のアプローチは、受動拡散よりも効率的な電流によって駆動される能動的送達方法である。
【0138】
実施例5:まとめ
全体的に、本開示は、皮膚または粘膜への活性剤の送達のためのマイクロニードルデバイスを提供し、該デバイスは、ベース層およびマイクロニードル構造の層を含み、ここで、ベース層は、溶解性ポリマーを用いて作製され、マイクロニードル構造の層は、溶解性ポリマー、導電性ポリマー、および活性剤を含む混合物を用いてベース層上に作製される。様々な実施形態において、溶解性ポリマーは、ヒアルロン酸(HA)およびその誘導体(例えば、メタクリル性ヒアルロン酸)であり得る。様々な実施形態において、導電性ポリマーは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)であり得る。様々な実施形態において、活性剤は麻酔剤であり得る。
【0139】
本開示はまた、経皮送達における上記のようなマイクロニードルデバイスの使用を提供する。様々な実施形態において、デバイスは、皮膚への麻酔薬の送達のために使用され得る。
【0140】
本開示はさらに、経皮送達における上記のようなマイクロニードルデバイスの使用を提供する。様々な実施形態において、デバイスは、口腔外科および/または顎顔面外科における感覚神経への麻酔薬の送達のために使用され得る。
【0141】
皮膚への活性剤の経皮送達の方法が本明細書において提供され、この方法は以下を含む:
上記のようにマイクロニードルデバイスを皮膚に適用すること;
任意にマイクロニードルデバイスのベース層を除去すること;
活性剤がカチオン性である場合、マイクロニードルデバイスが適用された皮膚上にイオントフォレシスデバイスのカソードを適用し、イオントフォレシスデバイスのアノードをカソードの隣の皮膚の別の部位に適用すること;または
活性剤がアニオン性である場合、マイクロニードルデバイスが適用された皮膚上にイオントフォレシスデバイスのアノードを適用し、イオントフォレシスデバイスのカソードをアノードの隣の皮膚の別の部位に適用すること;または
活性剤が中性である場合、マイクロニードルデバイスが適用された皮膚上にイオントフォレシスデバイスのアノードまたはカソードのいずれかを適用し、対応する電極をマイクロニードル適用領域の隣の皮膚の別の部位に適用すること;そして、
イオントフォレシスデバイスの電極間に電圧電流を流すこと。
【0142】
口腔粘膜への活性剤の経粘膜送達の方法も提供され、この方法は以下を含む:
上記のようにマイクロニードルデバイスを粘膜に適用すること;
任意にマイクロニードルデバイスのベース層を除去すること;
活性剤がカチオン性である場合、マイクロニードルデバイスが適用された粘膜上にイオントフォレシスデバイスのカソードを適用し、カソードの反対側の粘膜にイオントフォレシスデバイスのアノードを適用すること;または
活性剤がアニオン性である場合、マイクロニードルデバイスが適用された粘膜上にイオントフォレシスデバイスのアノードを適用し、アノードの反対側の粘膜にイオントフォレシスデバイスのカソードを適用すること;または
活性剤が中性である場合、マイクロニードルデバイスが適用された粘膜上にイオントフォレシスデバイスのアノードまたはカソードのいずれかを適用し、対応する電極を最初に述べた電極の反対側の粘膜に適用すること;そして、
イオントフォレシスデバイスの電極間に電圧電流を流すこと。
【0143】
様々な実施形態において、この方法は、口腔および/または顎顔面外科手術における感覚神経への麻酔薬の送達を含む。
実施例6:商用的および潜在的用途
本開示は、皮膚、粘膜層、および/または骨を介して麻酔薬を効率的に送達するためにイオントフォレシスと組み合わせることができる導電性MNアレイを提供する。麻酔薬の送達は、例えば、歯科において適用することができる。
【0144】
非限定的な例として、本発明の導電性MNアレイは、イオントフォレシスと共に、特定の効果を達成するために皮膚および/または粘膜および骨を介して感覚神経に送達される物質(例えば、医薬品)を必要とする歯科用途における使用に適している。上記の実施例に示されているように、歯科処置の前に麻酔目的で局所麻酔薬(リドカイン)を送達するために使用することができる。本発明の導電性MNアレイは、皮膚および/または粘膜および/または骨を含む身体の他の部分に適用可能であり、それが治療目的または麻酔目的であってもよい。
【0145】
MNパッチの導電性は、本発明のMNが2つの重要な機能を実行することを可能にする様々な特徴の1つである。第一に、本発明のMNの口腔粘膜への貫通は、薬物分子の送達を可能にするミクロンサイズの穴を作成する。第二に、本発明の導電性MNパッチの口腔粘膜組織への挿入は、皮膚/粘膜バリアの抵抗を変化させることができる。MNアレイのこのような特徴は、イオントフォレシスと組み合わせた場合に相乗効果をもたらす。口腔粘膜内の低抵抗経路の開発は、荷電薬物分子が深部組織層に迅速に浸透することを可能にする強力な推進力を付与し得る。具体的には、上記の実施例は既に、本発明のMNアレイの両方が、麻酔薬を骨組織内に送り込み、薬物の迅速な発現をもたらすことができることを示した。これは、歯に感覚を供給する神経が骨の深部に位置するので、特に歯科麻酔に関連し、必要である。
【0146】
本発明の導電性MNアレイの製造は、単純なマイクロ成形技術を使用して達成することができる。製造の容易さに加えて、薬物送達システムは、薬物リザーバを変更することによって、他の経皮薬物送達システムにも拡張することができる。多汗症の治療において医療デバイスとして使用されてきた既存のイオントフォレシス装置は、本発明の導電性MNアレイのためだけに新しいイオントフォレシス装置を開発する必要なしに使用することができる。この開発は、他の様々な用途のために既存の口腔パッチを再配置することができる革新として役立つ。
【0147】
本発明は、特定の実施形態を参照して特に示され、説明されてきたが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、形態および詳細に様々な変更を加えることができることを当業者は理解すべきである。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって示され、したがって、特許請求の範囲の等価性の意味および範囲内に入るすべての変更は、包含されることが意図される。