(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】心不全の治療及び予防における使用のためのリラキシン受容体1
(51)【国際特許分類】
A61K 48/00 20060101AFI20240820BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20240820BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240820BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240820BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240820BHJP
C07K 14/64 20060101ALN20240820BHJP
C12N 15/85 20060101ALN20240820BHJP
C12N 1/15 20060101ALN20240820BHJP
C12N 1/19 20060101ALN20240820BHJP
C12N 1/21 20060101ALN20240820BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20240820BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20240820BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240820BHJP
【FI】
A61K48/00 ZNA
A61P9/04
A61K31/7088
A61K35/76
A61K35/12
C07K14/64
C12N15/85 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/63 Z
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2021527105
(86)(22)【出願日】2019-11-20
(86)【国際出願番号】 EP2019081962
(87)【国際公開番号】W WO2020104540
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-11-18
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509223977
【氏名又は名称】ウニベルジテート ハイデルベルク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カトゥス,ヒューゴ
(72)【発明者】
【氏名】ラーケ,フィリップ ウォルフラム ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】シュレーゲル,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】サシポング,ヌッタラク
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0208526(US,A1)
【文献】国際公開第2018/029586(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/074192(WO,A1)
【文献】特表2011-520917(JP,A)
【文献】DEVARAKONDA, T.V., et al.,"Targeted gene therapy with RXFP1 attenuates myocardial infarction and preserves left ventticular function in mice.",THE FASEB JOURNAL,2018年04月01日,Vol.32, No.S1,p.580.14,DOI: 10.1096/fasebj.2018.32.1_supplement.580.14
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における心不全の治療及び/又は予防
方法における使用のための
医薬調製物であって、
リラキシンファミリーペプチド受容体
1(RXFP
1)ポリペプチドをコードする発現可能な核酸配列を含むポリヌクレオチド
を含み、
前記方法がRXFPアゴニストの投与をさらに含む、
医薬調製物。
【請求項2】
前記心不全が慢性心不全である、請求項1に記載の使用のための
医薬調製物。
【請求項3】
前記ポリヌクレオチドが、配列番号1、3、又は5の配列を含む、請求項1又は2に記載の使用のための
医薬調製物。
【請求項4】
前記RXFP
1ポリペプチドが、ヒトRXFP1のアミノ酸1~766に対応するアミノ酸
配列を少なくとも含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用のための
医薬調製物。
【請求項5】
前記ポリヌクレオチドが、配列番号3の配列を含
むか、
又はそれからなる、請求項1から
4のいずれか一項に記載の使用のための
医薬調製物。
【請求項6】
前記ポリヌクレオチドが、ベクターに含まれる、請求項1から
5のいずれか一項に記載の使用のための
医薬調製物。
【請求項7】
前記
方法が、前記
医薬調製物の前記対象への静脈内及び/又は心臓内投与を含む、請求項1から
6のいずれか一項に記載の使用のための
医薬調製物。
【請求項8】
前記RXFPアゴニストがリラキシ
ンである、請求項
1~7のいずれか一項に記載の使用のための
医薬調製物。
【請求項9】
対象における心不全の治療及び/又は予防
方法における使用のための
医薬調製物であって、
請求項1から
8のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含むベクター
を含み、
前記方法がRXFPアゴニストの投与をさらに含む、
医薬調製物。
【請求項10】
対象における心不全の治療及び/又は予防
方法における使用のための
医薬調製物であって、
請求項1から
8のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド、請求項1から
8のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドから発現したRXFP
1ポリペプチド、及び/又は請求項
9に記載のベクター
、を含む宿主細胞
を含み、
前記方法がRXFPアゴニストの投与をさらに含む、
医薬調製物。
【請求項11】
対象における心不全の治療
方法における使用のための
医薬調製物であって、
RXFPアゴニスト
を含み、
前記治療
方法が、請求項1から10のいずれか一項に記載の
医薬調製物の前記対象への投与を含む、
医薬調製物。
【請求項12】
対象における心不全の治療及び/又は予防方法における使用のためのキットであって、
請求項1から
8のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド、請求項
9に記載のベクター、及び/又は請求項
10に記載の宿主細胞、並びにRXFPアゴニストを含む医薬調製物を含む
、
キット。
【請求項13】
対象における心不全の治療及び/又は予防方法における使用のためのデバイスであって、
請求項1から
8のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド及び/又は請求項
9に記載のベクターを含
み、
前記方法がRXFPアゴニストの投与をさらに含む、
デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象における心不全の治療及び/又は予防における使用のための、リラキシンファミリーペプチド受容体(RXFP)ポリペプチドをコードする発現可能な核酸配列を含むポリヌクレオチドに関する。本発明はさらに、心不全の治療及び/又は予防における使用のための本発明のポリヌクレオチドを含むベクター、並びにそれに関連する宿主細胞、RXFPアゴニスト、キット、及びデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
心不全の治療選択肢は現在、疾患の症状を軽減し進行を予防することに焦点を当てており、原因治療は通例、根底にあるリスク因子、例えば感染症、アルコール摂取、貧血等に対処することに制限されている。したがって、治療は薬理学的治療(すなわちベータ遮断薬等を用いる)、非外科的デバイス治療(すなわち心臓再同期療法)、又は外科的治療(すなわち左室補助人工心臓、完全置換型人工心臓植込、若しくは心臓移植)であり得る。しかしながら、全ての治療選択肢が全ての患者に可能であるわけではなく、例えば心臓移植は移植ガイドラインによって述べられている禁忌のために高齢患者には利用できない場合がある。
【0003】
より近年では、心不全の治療について遺伝子治療療法が試験され(Greenbergら(2016)、Lancet 387:1178)、ベクターとしてアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターが多くの場合に使用され、異なる遺伝子型が遺伝子材料を心臓に移入することにおいて異なる有効性を有していた(Bishら(2008)、Human Gene Therapy 19:1359、Nasoら(2017)、BioDrugs 31:317)。さらに、キメラ及び変異AAV株が使用された(Asokan (2012、Mol Ther 20(4):699)。
【0004】
ペプチドホルモンのリラキシンは、心不全患者において上方調節され、疾患の重症度と正の相関を有することが見出された。しかしながら、組換えリラキシン誘導体の投与は、呼吸困難の主観的改善を示した一方で、臨床試験において心血管死、又は心不全若しくは腎不全のための再入院という副次的評価項目に対する有意な効果を提供しなかった(Teerlinkら(2013)、Lancet 381:29)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、心不全の治療の改善された手段及び方法を提供する必要性が当技術分野に存在する。特に、上で議論した先行技術の欠点を少なくとも部分的に回避する手段及び方法を提供する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、独立請求項に記載の特徴を有する本発明の主題によって解決される。単独で又はあらゆる任意の組合せで実現され得る好ましい実施形態は従属請求項に列挙される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1-1】RLNの慢性投与を伴うRXFP1遺伝子療法(RXFP1/RLN)がマウスのTAC誘導心不全において心機能を改善することを示す図である。(A)実験設計。(B)心機能の評価のために使用した心室中部Mモードからの代表的な心エコー検査記録。組換えRLNを用いて及び用いずに処置したシャムマウス、並びに対照Lucウイルス及びRXFP1ウイルスを組換えRLN処置と共に及び組換えRLN処置を伴わずに用いて処置したTACマウス(シャム+NaCl、シャム+RLN、TAC+LUC+NaCl、TAC+LUC+RLN、TAC+RXFP1+NaCl、並びにTAC+RXFP1+RLN、シャム群においてn=8~9、並びにTAC群においてn=14~15)の(C)駆出率(EF)及び(D)短縮率(FS)。TAC動物に1×10
12vg/匹を注射し、TAC操作の4週間後にNaClポンプ又はRLNポンプのいずれかを植え込んだ。(E)RXFP1遺伝子療法処置の8週間後に検出した心室におけるRXFP1 mRNA発現。処理試料からのRXFP1 mRNA発現を心房における本来のRXFP1発現と比較した。(F)qPCRによるBNP発現定量、HPRT1を参照遺伝子として使用した。(G)免疫ブロットによる心臓のP-PLB(S16)/PLB定量、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)免疫検出を内部対照として使用した。(H)リラキシン血漿濃度を、Elisaキットを使用して決定した。(C)及び(D)に関して、
*FL NaCl対FR RLN、# FL RLN対FR RLN、§ FR NaCl対FR RLN、
*/#/§ P<0.05、(E)~(H)に関して、
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001。
【
図2】RLNの慢性投与を伴うRXFP1遺伝子療法(RXFP1/RLN)がマウスのTAC誘導心不全において左室内径を維持するが、左室質量及び心拍数に影響を及ぼさないことを示すグラフである。TAC動物に1×10
12vg/匹を注射し、TAC操作の4週間後にNaClポンプ又はRLNポンプのいずれかを植え込んだ。
*FL NaCl対FR RLN、# FL RLN対FR RLN、§ FR NaCl対FR RLN (A)組換えRLNを用いて及び用いずに処置したシャムマウス、並びに対照Lucウイルス及びRXFP1ウイルスを組換えRLNと共に及び組換えRLNを伴わずに用いて処置したTACマウス(シャム+NaCl、シャム+RLN、TAC+LUC+NaCl、TAC+LUC+RLN、TAC+RXFP1+NaCl、並びにTAC+RXFP1+RLN、シャム群においてn=8~9、並びにTAC群においてn=14~15)の左室内径(LVIdD)、(B)組換えRLNを用いて及び用いずに処置したシャムマウス、並びに対照Lucウイルス及びRXFP1ウイルスを組換えRLNと共に及び組換えRLNを伴わずに用いて処置したTACマウス(シャム+NaCl、シャム+RLN、TAC+LUC+NaCl、TAC+LUC+RLN、TAC+RXFP1+NaCl、並びにTAC+RXFP1+RLN、シャム群においてn=8~9、並びにTAC群においてn=14~15)の左室(LV)質量、(C)組換えRLNを用いて及び用いずに処置したシャムマウス、並びに対照Lucウイルス及びRXFP1ウイルスを組換えRLNと共に及び組換えRLNを伴わずに用いて処置したTACマウス(シャム+NaCl、シャム+RLN、TAC+LUC+NaCl、TAC+LUC+RLN、TAC+RXFP1+NaCl、並びにTAC+RXFP1+RLN、シャム群においてn=8~9、並びにTAC群においてn=14~15)の心拍数。
*/#/§ P<0.05。
【
図3】マウスのTAC誘導心不全における心臓遺伝子発現に対するRLNの慢性投与を伴うRXFP1遺伝子療法(RXFP1/RLN)の効果を示すグラフである。HPRT1を参照遺伝子として用いたqPCRによって定量した、RLNを伴う及び伴わないRXFP1遺伝子療法を受けたTAC動物における心臓リモデリング遺伝子(A)ANP、(B)β-MHC、及びコラーゲン調節遺伝子(C)Col1a1、(D)Col3a1、(E)Postn mRNA発現。(n=8~15)。
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001、B)。
【
図4-1】RLN刺激と組み合わせたRXFP1の過剰発現がin vitroにおいてcAMP依存性シグナル伝達を誘導することを示す図である。(A)形質導入されたNRVMにおけるRXFP1 mRNA発現、条件1つ当たりn=3。
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001、(B)形質導入されたNRVMにおけるcAMP産生、100nMのRLNを全ての条件下でRXFP1刺激のために使用した、n=3。
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001、(C)HPRT1を参照遺伝子として用いたqPCRによって定量した、形質導入されたNRVMにおけるRXFP1 mRNA発現(n=6)、対照ウイルス及びRXFP1ウイルスをNRVMにおいて活用し、非処理新生仔ラット心房心筋細胞(NRAM)を内在性参照として使用した、
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001、(D)cAMP産生によって評価したRXFP1-RLN用量応答、NRVMにRXFP1又は対照ウイルスを形質導入し、1pM~100nMの範囲の種々の投薬量のRLNを用いて刺激し、cAMP産生の変化を測定した、n=4~6、
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001、(E~F)cAMP依存性下流シグナル伝達の特性解析、NRVMにRXFP1又はLuc対照ウイルスを形質導入し、100nM RLN又は対照としてのNaClを用いて刺激し、総ホスホランバン発現に対するセリン16におけるホスホランバンリン酸化(P-PLB(S16)/PLB)を免疫ブロッティングによって定量し、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)を内部対照として使用した、(E)定量結果、(F)代表的な免疫ブロット、n=4、
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001。
【
図5】組換えRLNによるヒト及びラットRXFP1受容体活性化の比較を示す図である。種々の型のRXFP1受容体ウイルスを形質導入し、組換えRLNによって刺激したNRVMのA)P-PLB(S16)/PLB及び(B)代表的なウェスタンブロット(n=3)、形質導入されたNRVMを、100nM組換えRLNを用いて刺激し、セリン16におけるホスホランバンリン酸化を免疫ブロットによって定量し、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)免疫検出を内部対照として使用した。
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001。
【
図6】化学的アゴニスト(ML290)によるヒト及びラットRXFP1受容体の活性化を示す図である。(A)種々の型のRXFP1受容体ウイルスを形質導入し、ML290によって刺激したNRVMにおけるP-PLB(S16)/PLB(n=3)、形質導入されたNRVMを、1μM ML290を用いて刺激し、セリン16におけるホスホランバンリン酸化を免疫ブロットによって定量し、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)免疫検出を内部対照として使用した。
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001 (B)種々の型のRXFP1受容体ウイルスを形質導入し、ML290によって刺激したNRVMにおけるP-PLB(S16)/PLBのウェスタンブロット(n=3)、形質導入されたNRVMを、1μM ML290を用いて刺激し、セリン16におけるホスホランバンリン酸化を免疫ブロットによって定量し、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)免疫検出を内部対照として使用した。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
【
図7-1】RLNを伴うhuRXFP1遺伝子療法処置後の機能的及び分子的改善を示す図である:(A)huRXFP1研究のタイムライン。(B)組換えRLN処置を用いて及び用いずに処置したシャムマウス、並びにhuRXFP1遺伝子療法及びRLNを用いて及び用いずに処置したTACマウス(シャム+NaCl、シャム+RLN、TAC+LUC+NaCl、TAC+LUC+RLN、TAC+huRXFP1+NaCl、並びにTAC+huRXFP1+RLN、シャム群においてn=15、並びにTAC群においてn=15~22)の駆出率(EF)。TAC動物に1×10
12vg/匹を注射し、TAC操作の4週間後にNaClポンプ又はRLNポンプのいずれかを植え込んだ。huRXFP1遺伝子療法処置の8週間後に検出した心室における(C)BNP及び(D)huRXFP1 mRNA発現(シャム群においてn=15、及びTAC群においてn=15~22)。mRNA発現はHPRT1を参照遺伝子として用いたqPCRを使用して定量した。(B)に関して
*FL NaCl対huRXFP1 RLN、# LUC RLN対huRXFP1 RLN、§ huRXFP1 NaCl対huRXFP1 RLN、(C)及び(D)に関して
*P<0.05、
**P<0.01、***P<0.001。エラーバーはSEMを示す。
【
図8-1】huRXFP1の高発現を有するストレスモデルにおける機能的及び分子的改善を示す図である。(A)実験のタイムライン。(B)TACトランスジェニック動物の駆出率(EF)(n=10~20)。TAC操作後、動物を、心エコー検査を使用して定期的に追跡した。TAC操作の6週間後に検出した心室における(C)huRXFP1、(D)ANP、(E)BNP、(F)コラーゲン1A1、及び(G)コラーゲン1A3 mRNA発現(n=10~20)。mRNA発現はHPRT1を参照遺伝子として用いたqPCRを使用して定量した。(B)に関して* TAC TG対TAC WT、(C~G)に関して
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001。エラーバーはSEMを示す。
【
図9-1】RXFP1形質導入NRVCMにおけるカルシウムトランジェント測定を示すグラフである:5分のNaCl、RLN、及びISO処理後の(A)、(B)トランジェント振幅及び代表的なCa
2+トランジェント並びに(C)拡張期Ca
2+(n=3~8)。NRVCMにRXFP1及びLUCウイルスを5日間形質導入した。Ca
2+トランジェントは1Hzの電気刺激を用いて測定した。(D)実験後のRXFP1 mRNA発現。RXFP1 mRNA発現はHPRT1を参照遺伝子として使用して解析した。
図Aに関して最初の4つの群のみを比較した。
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001。エラーバーはSEMを示す。
【
図10】成体心筋細胞Ca
2+トランジェントを示すグラフである:RLN処置後の(A)Ca
2+ピーク高さ、(B)逸脱速度、(C)回帰速度(n=2)。成体心筋細胞を、心臓においてRXFP1を特異的に発現したトランスジェニックマウスから単離した。ベースラインCa
2+を測定した。細胞をNaCl、RLN(100nM)、又はISO(10nM)を用いて1分間処理し、トランジェントを再び測定した。Ca
2+シグナルの変化を、自動ソフトウェアを使用して算出し、ベースライン値に対して正規化した。
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001。エラーバーはSEMを示す。
【
図11】心不全におけるRXFP1発現を示すグラフである:(A)BNP mRNA発現。(B)RXFP1 mRNA発現。外植心臓からの胎児遺伝子及びRXFP1のmRNA発現プロファイル並びに心生検を実施した。mRNA発現はHPRT1を参照遺伝子として用いたqPCRを使用して定量した。
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001。エラーバーはSEMを示す。
【
図12】
図12:RLN投与後のトランスジェニック動物における血行動態変化(実施例10)を示す図である。(A)代表的なPVループ記録、(B)心拍数(HR)、及び(C)最大dP/dt。連続PVループをWT及びhuRXFP1 TG動物から測定した。100μL中10μgのRLNを投与してhuRXFP1を刺激した。
*P<0.05、
**P<0.01、
***P<0.001、
****P<0.0001。エラーバーはSEMを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
したがって、本発明は、対象における心不全の治療及び/又は予防における使用のための、リラキシンファミリーペプチド受容体(RXFP)ポリペプチドをコードする発現可能な核酸配列を含むポリヌクレオチドに関する。
【0009】
以下で使用する場合、「有する(have)」、「含む(comprise)」、若しくは「含む(include)」という用語、又はそれらのあらゆる任意の文法的な変化形は非排他的に使用される。したがって、これらの用語は、これらの用語によって導入される特徴以外のいかなるさらなる特徴もこの文脈において説明される実体には存在しないという状況と、1つ以上のさらなる特徴が存在するという状況の両方を指すことができる。一例として、「AはBを有する(have)」、「AはBを含む(comprise)」、及び「AはBを含む(include)」という表現は、B以外のいかなる他の要素もAには存在しないという状況(すなわち、Aが単独的且つ排他的にBからなるという状況)と、B以外の1つ以上のさらなる要素、例えば要素C、要素C及びD、又はなおさらなる要素が実体Aに存在するという状況の両方を指すことができる。
【0010】
さらに、以下で使用する場合、「好ましくは」、「より好ましくは」、「最も好ましくは」、「詳細には」、「より詳細には」、「具体的には」、「より具体的には」という用語又は類似した用語は、さらなる可能性を制限することなく任意選択の特徴と共に使用される。したがって、これらの用語によって導入される特徴は任意選択の特徴であり、決して特許請求の範囲を制限することを意図するものではない。本発明は、当業者が認識するように、代替的な特徴を使用することによって実施してもよい。同様に、「ある実施形態では」又は類似した表現によって導入される特徴は、本発明のさらなる実施形態に関する制限も、本発明の範囲に関する制限も、そのように導入される特徴を本発明の他の任意選択の又は任意選択でない特徴と組み合わせる可能性に関する制限も伴わない任意選択の特徴であることが意図される。
【0011】
本明細書で使用する場合、「標準状態」という用語は、別段の指摘がない場合、IUPAC標準環境温度及び圧力(SATP)状態、すなわち好ましくは25℃の温度及び100kPaの絶対圧に関し、また好ましくは、標準状態はpH7を含む。さらに、別段の指示がない場合、「約」という用語は、関連分野で一般的に許容される技術的精度により示された値に関し、好ましくは示された値±20%、より好ましくは±10%、最も好ましくは±5%に関する。さらに、「本質的に」という用語は、示された結果又は使用に影響を与える逸脱が存在しないこと、すなわち潜在的な逸脱が示された結果を±20%、より好ましくは±10%、最も好ましくは±5%を超えて逸脱させないことを示す。したがって、「から本質的になる」とは、明記された構成要素を含むが、不純物として存在する物質、構成要素を提供するために使用した方法の結果として存在する避けられない物質、及び本発明の技術的効果を達成すること以外の目的のために追加された構成要素を除く他の構成要素を除外することを意味する。例えば、「から本質的になる」という語句を使用して定義された組成物は、任意の公知の許容される添加剤、賦形剤、希釈剤、担体等を包含する。好ましくは、一連の構成要素から本質的になる組成物は5重量%未満、より好ましくは3重量%未満、より一層好ましくは1%未満、最も好ましくは0.1重量%未満の明記されていない構成要素を含むことができる。核酸配列の文脈では、「本質的に同一」という用語は少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは少なくとも99%の同一性%値を示す。理解されるように、本質的に同一という用語は100%の同一性を含む。前述のことは「本質的に相補的」という用語に準用される。
【0012】
「リラキシン」という用語は本明細書で使用する場合、この名称で当業者に公知のペプチドホルモンのファミリーに関する。好ましい実施形態では、リラキシンはリラキシン-1又はリラキシン-3であり、より好ましくは哺乳動物リラキシン-1又はリラキシン-3であり、好ましくはその組換えバリアント及びアイソフォームを含む。好ましくは、リラキシンはリラキシン-1であり、より好ましくは哺乳動物リラキシン-1であり、好ましくはその組換えバリアント及びアイソフォームを含む哺乳動物リラキシン-1である。より好ましくは、リラキシンはヒト、ラット、マウス、又はブタリラキシン-1であり、より一層好ましくはヒトリラキシン-1のアイソフォームであり、好ましくは配列番号9のアミノ酸配列と少なくとも70%同一のアミノ酸配列を有し、より好ましくは配列番号9のアミノ酸配列を含み、最も好ましくはそれからなる。また好ましくは、リラキシンはリラキシン-2であり、より好ましくは哺乳動物リラキシン-2であり、好ましくはその組換えバリアント及びアイソフォームを含む。より好ましくは、リラキシンはヒト、ラット、マウス、又はブタリラキシン-2であり、より好ましくはヒトリラキシン-2の組換えバリアント又はアイソフォームである。好ましくは、リラキシン-2は重鎖及び軽鎖からなり、重鎖は配列番号10のアミノ酸配列と少なくとも70%同一のアミノ酸配列を含み、好ましくはそれからなり、より好ましくは配列番号10のアミノ酸配列を含み、最も好ましくはそれからなり、軽鎖は配列番号11のアミノ酸配列と少なくとも70%同一のアミノ酸配列を含み、好ましくはそれからなり、より好ましくは配列番号11のアミノ酸配列を含み、最も好ましくはそれからなる。好ましくは、前記リラキシン-2は重鎖のアミノ酸11と軽鎖のアミノ酸11との間、重鎖のアミノ酸23と軽鎖のアミノ酸24との間、及び/又は軽鎖のアミノ酸10と15との間に共有ジスルフィド結合を含む。したがって、好ましくは、リラキシンはセレラキシンである。リラキシン-2の最小活性構造は同定されており(Hossainら(2011)、JBC 286(43):37555)、したがって、好ましくは、リラキシン-2は重鎖及び軽鎖からなり、重鎖は配列番号12のアミノ酸配列と少なくとも70%同一のアミノ酸配列を含み、好ましくはそれからなり、より好ましくは配列番号12のアミノ酸配列を含み、最も好ましくはそれからなり、軽鎖は配列番号13のアミノ酸配列と少なくとも70%同一のアミノ酸配列を含み、好ましくはそれからなり、より好ましくは配列番号13のアミノ酸配列を含み、最も好ましくはそれからなる。好ましい実施形態では、リラキシンはGenbank受託番号EAW84388.1、すなわち配列番号38のヒトリラキシン-3である。
【0013】
「リラキシンファミリーペプチド受容体」又は「RXFP」という用語は、リラキシンペプチドホルモンからのGタンパク質共役シグナル伝達を媒介する生物活性を有する、当業者にはリラキシン受容体としても公知のリラキシンファミリーペプチド受容体のファミリーの任意のメンバーに関する。好ましくは、RXFPはRXFP1である。好ましくは、RXFPは配列番号4と少なくとも70%同一のアミノ酸配列を有する。より好ましくは、RXFPはヒトRXFP1の哺乳動物ホモログ、より一層好ましくはヒト、ラット、マウス、又はブタRXFP1の組換えバリアント又はアイソフォームであり、より一層好ましくは、RXFPはヒトRXFP1のアイソフォームのうちの1つであり、好ましくはアイソフォーム1(配列番号2、Genbank受託番号NP_067647.2)又はアイソフォーム2(配列番号4、Genbank受託番号NP_001240656.1)である。「RXFPポリペプチド」という用語は本明細書で使用する場合、好ましくは前述のRXFPポリペプチドのポリペプチドバリアントを含む。
【0014】
本明細書で使用する場合、「ポリペプチドバリアント」という用語は、本明細書の他の箇所で明記される少なくとも1つのポリペプチド又は融合ポリペプチドを含み、示された活性を有するが、示された前記ポリペプチド又は融合ポリペプチドと一次構造が異なる任意の化学分子に関する。したがって、ポリペプチドバリアントは好ましくは、示された活性を有する変異タンパク質である。好ましくは、ポリペプチドバリアントは本明細書で明記されるポリペプチドに含まれる連続したアミノ酸の50%~100%、より好ましくは70~95%、より一層好ましくは80%~90%のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するペプチドを含む。さらに、先述のポリペプチドのさらなるポリペプチドバリアントも包含される。そのようなポリペプチドバリアントは特定のポリペプチドと少なくとも本質的に同じ生物活性を有する。さらに、本発明に従って言及されるポリペプチドバリアントは少なくとも1つのアミノ酸置換、欠失、及び/又は付加のために異なるアミノ酸配列を有するものとし、バリアントのアミノ酸配列は好ましくは依然として特定のポリペプチドのアミノ酸配列に対して少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、又は99%同一であることが理解されるべきである。2つのアミノ酸配列間の同一性の程度は当技術分野で周知のアルゴリズムによって決定することができる。好ましくは、同一性の程度は比較ウィンドウにわたる2つの最適にアラインメントされた配列を比較することによって決定されるべきであり、比較ウィンドウ中のアミノ酸配列の断片は、断片が最適なアラインメントの際に比較される配列と比較して付加又は欠失(例えばギャップ又はオーバーハング)を含んでもよい。百分率は、同一のアミノ酸残基が両方の配列に生じる位置の数を好ましくはポリペプチドの全長にわたって決定し、マッチした位置の数を得て、マッチした位置の数を比較のウィンドウ中の位置の総数で割り、その結果に100を掛けて配列同一性の百分率を得ることによって算出される。比較のための配列の最適なアラインメントは、Smith及びWaterman (1981)の局所相同性アルゴリズム、Needleman及びWunsch (1970)の相同性アラインメントアルゴリズム、Pearson及びLipman (1988)の類似性検索法、これらのアルゴリズムのコンピュータ実装(Wisconsin Genetics Software Package、Genetics Computer Group (GCG)、575 Science Dr., Madison、WIにおけるGAP、BESTFIT、BLAST、PASTA、及びTFASTA)、又は目視検査によって行うことができる。2つの配列が比較のために同定されているならば、GAP及びBESTFITが好ましくは最適なアラインメント、したがって同一性の程度を決定するために用いられる。好ましくは、ギャップウェイトに関しては5.00、ギャップウェイトレングスに関しては0.30の初期値が使用される。本明細書で言及されるポリペプチドバリアントは、アレルバリアント又は任意の他の種に特異的なホモログ、パラログ、若しくはオルソログであり得る。さらに、本明細書で言及されるポリペプチドバリアントには、特定のポリペプチドの断片及び/又は先述の種類のポリペプチドバリアントが上で言及した生物活性を有する限り、これらの断片又はバリアントが含まれる。そのような断片は例えばポリペプチドの分解産物又はスプライスバリアントであっても、それらに由来するものであってもよい。翻訳後修飾、例えばリン酸化、グリコシル化、ユビキチン化、スモ化、又はミリスチル化によって、非天然アミノ酸を含むことによって、及び/又はペプチド模倣体であることによって異なるバリアントが、さらに含まれる。
【0015】
好ましくは、RXFPポリペプチドバリアントはキメラRXFPポリペプチドである。「キメラ」という用語は、少なくとも2つの異なる種又は系統を起源とする構成要素から構成される任意の分子に関すると当業者によって理解される。したがって、好ましくは、RXFPポリペプチドバリアントは本明細書の他の箇所で明記される少なくとも2つの対象種のRXFPポリペプチドに由来するアミノ酸配列を含む。したがって、好ましくは、例えばマウスリラキシンをアゴニストとして使用してヒト細胞においてリラキシンシグナル伝達を提供するRXFPポリペプチドを提供するために、RXFPポリペプチドの細胞外受容体部分は例えばマウス細胞外RXFP受容体部分である一方で、膜貫通及び/若しくは細胞内部分はヒトRXFP膜貫通及び/若しくは細胞内部分であってもよく、又は例えばマウスリラキシン細胞内ドメインを使用してヒト細胞においてリラキシンシグナル伝達を提供するRXFPポリペプチドを提供するために、RXFPポリペプチドの細胞外受容体部分は例えばヒト細胞外RXFP受容体部分である一方で、膜貫通及び/若しくは細胞内部分はマウスRXFP膜貫通及び/若しくは細胞内部分であってもよい。
【0016】
「ポリヌクレオチド」という用語は本明細書で使用する場合、本明細書において上で明記されたリラキシンファミリーペプチド受容体(RXFP)ポリペプチドであって上に記載した生物活性を有するRXFPポリペプチドをコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドに関する。好ましくは、ポリヌクレオチドは配列番号1、3、又は5の核酸配列を含み、より好ましくはそれからなる。上に詳述したアミノ酸配列を有するポリペプチドはまた、縮重遺伝暗号のために2つ以上の種のポリヌクレオチドによってコードされてもよいことが理解されるべきである。したがって、好ましくは、ポリヌクレオチドは配列番号2又は/及び4のアミノ酸配列と少なくとも70%同一のアミノ酸配列を含む、好ましくはそれからなるポリペプチドをコードする。より好ましくは、ポリヌクレオチドは配列番号2又は/及び4のアミノ酸配列を含む、好ましくはそれからなるポリペプチドをコードする。好ましくは、ポリヌクレオチドは配列番号3の核酸配列と少なくとも70%同一の核酸配列を含み、好ましくはそれからなる。より好ましくは、ポリヌクレオチドは配列番号3のアミノ酸配列を含み、好ましくはそれからなる。
【0017】
さらに、「ポリヌクレオチド」という用語は、本発明に従って使用する場合、先述の特定のポリヌクレオチドのバリアントをさらに包含する。前記バリアントは本発明のポリヌクレオチドのオルソログ、パラログ、又は他のホモログであってもよい。ポリヌクレオチドバリアントは好ましくは、少なくとも1つのヌクレオチド置換、付加、及び/又は欠失によって先述の特定の核酸配列から得ることができる(それによってバリアント核酸配列が上で明記された活性を有するRXFPポリペプチドを依然としてコードするものとする)ことを特徴とする核酸配列を含む。バリアントはまた、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で先述の特定の核酸配列にハイブリダイズすることができる核酸配列を含むポリヌクレオチドを包含する。これらのストリンジェントな条件は当業者に公知であり、標準的な教科書に見出すことができる。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の好ましい一例はおよそ45℃の6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(=SSC)におけるハイブリダイゼーション条件とそれに続く50℃~65℃の0.2×SSC、0.1%SDSにおける1回以上の洗浄工程である。当業者であればこれらのハイブリダイゼーション条件が核酸の種類により異なり、例えば有機溶媒が存在する場合は緩衝液の温度及び濃度に関して異なることが分かる。例えば「標準的なハイブリダイゼーション条件」下では、温度は核酸の種類により0.1~5×SSC(pH7.2)の濃度を有する水性緩衝液中42℃~58℃の間で異なる。有機溶媒が上述の緩衝液、例えば50%ホルムアミドに存在する場合、標準的な条件下の温度はおよそ42℃である。DNA:DNAハイブリッドのハイブリダイゼーション条件は好ましくは、例えば0.1×SSC及び20℃~45℃、好ましくは30℃~45℃の間である。DNA:RNAハイブリッドのハイブリダイゼーション条件は好ましくは、例えば0.1×SSC及び30℃~55℃、好ましくは45℃~55℃の間である。上述のハイブリダイゼーション温度は例えばホルムアミドの非存在下でおよそ100bp(=塩基対)長及び50%のG+C含量を有する核酸に関して決定される。当業者であれば教科書を参照することによって必要とされるハイブリダイゼーション条件を決定する方法が分かる。或いは、ポリヌクレオチドバリアントはPCRに基づく技法、例えば混合オリゴヌクレオチドプライマーに基づくDNAの増幅、すなわち本発明のポリペプチドの保存ドメインに対して縮重プライマーを使用するDNAの増幅によって取得可能である。本発明のポリペプチドの保存ドメインは上で明記されたポリヌクレオチドの核酸配列又はポリペプチドのアミノ酸配列の配列比較によって同定され得る。好適なPCR条件は当技術分野で周知である。鋳型として哺乳動物細胞からのDNA又はcDNAが使用され得る。さらに、バリアントは上に詳述した核酸配列と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、又は少なくとも99%同一である核酸配列を含むポリヌクレオチドを含む。さらに、上で言及したアミノ酸配列と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、又は少なくとも99%同一であるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドも包含される。同一性パーセント値は好ましくは、アミノ酸又は核酸配列領域全体にわたって算出される。多様なアルゴリズムに基づく一連のプログラムは種々の配列を比較するために当業者に利用可能である。この文脈において、Needleman及びWunsch又はSmith及びWatermanのアルゴリズムは特に信頼性の高い結果を与える。配列アラインメントを実行するために、GCGソフトウェアパケット(Genetics Computer Group、575 Science Drive、Madison、Wisconsin、USA 53711 (1991))の一部であるPileUpプログラム(J. Mol. Evolution.、25、351~360、1987、Higginsら、CABIOS、5 1989: 151~153)又はGAP及びBestFitプログラム(Needleman及びWunsch(J. Mol. Biol. 48; 443~453 (1970))並びにSmith及びWaterman(Adv. Appl. Math. 2; 482~489 (1981))を使用することができる。上にパーセント(%)で示した配列同一性値は、好ましくはGAPプログラムを配列領域全体にわたって、以下の設定:ギャップウェイト:50、レングスウェイト:3、平均マッチ:10.000、及び平均ミスマッチ:0.000(別段の指定がない限り常に配列アラインメントの標準的な設定として使用するものとする)で使用して決定することができる。先述の核酸配列のいずれかの断片を含むポリヌクレオチドもまたポリヌクレオチドとして包含される。断片は上で明記された生物活性を依然として有するポリペプチドをコードするものとする。したがって、ポリペプチドは前記生物活性を付与する本発明のポリペプチドのドメインを含んでもそれからなってもよい。本明細書で意味する断片は好ましくは、先述の核酸配列のいずれか1つの少なくとも500、少なくとも1000、少なくとも1500、若しくは少なくとも2000個の連続したヌクレオチドを含むか、又は先述のアミノ酸配列のいずれか1つの少なくとも200、少なくとも300、少なくとも500、若しくは少なくとも700個の連続したアミノ酸を含むアミノ酸配列をコードする。ポリヌクレオチドは先述の核酸配列から本質的になるか又は先述の核酸配列を含む。したがって、ポリヌクレオチドはさらなる核酸配列も含有し得る。具体的には、本発明のポリヌクレオチドは融合タンパク質をコードしてもよく、融合タンパク質の1つのパートナーは上に示した核酸配列によってコードされているポリペプチドである。そのような融合タンパク質は好ましくは、追加の部分として、発現をモニタリングするためのポリペプチド(例えば緑色、黄色、青色、若しくは赤色蛍光タンパク質、アルカリホスファターゼ等)、又は検出可能なマーカー若しくは精製目的のための補助的な手段として役立ち得る1つ以上のいわゆる「タグ」を含んでもよい。種々の目的のためのタグは当技術分野で周知であり、FLAGタグ、6-ヒスチジンタグ、MYCタグ等を含む。ポリヌクレオチドは好ましくは単離された(すなわちその天然の状況から単離された)ポリヌクレオチドとして、又は遺伝子改変形態で提供されるものとする。ポリヌクレオチドは好ましくはcDNAを含むDNA又はRNAである。この用語は一本鎖及び二本鎖ポリヌクレオチドを包含する。さらに、天然に存在する修飾ポリヌクレオチド、例えばグリコシル化若しくはメチル化ポリヌクレオチド、又は人工的に修飾されたポリヌクレオチド、例えばビオチン化ポリヌクレオチドを含む化学的に修飾されたポリヌクレオチドもまた好ましくは含まれる。
【0018】
「発現可能な核酸配列」という用語は本明細書で使用する場合、好ましくは真核細胞又はその単離画分においてポリヌクレオチドに含まれる核酸配列の好ましくは翻訳可能なmRNAへの転写を生じさせる少なくとも1つの発現制御配列に作動的に連結した前記ポリヌクレオチドの核酸配列に関する。真核細胞、好ましくは哺乳動物細胞における発現を保証する調節エレメントは当技術分野で周知である。それらは好ましくは、転写の開始を保証する調節配列、特に少なくとも1つのプロモーター、並びに任意選択で転写の終結及び転写物の安定化を保証するポリAシグナルを含む。好ましくは、調節は細胞若しくは組織型特異的である、且つ/又は例えば特異的な誘導因子の投与によって誘導可能である。好ましい構成的プロモーターは例えばCMV、SV40、若しくはRSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、CMVエンハンサー、又はSV40エンハンサーである。好ましくは、プロモーターは心臓細胞特異的プロモーター、より一層好ましくは心筋細胞特異的プロモーター、最も好ましくはMLC260プロモーターである。好ましくは、前記MLC260プロモーターは配列番号7の核酸配列と少なくとも70%同一の核酸配列を含み、好ましくはそれからなり、より好ましくは、MLC260プロモーターは配列番号7の核酸配列を含み、好ましくはそれからなる。追加の調節エレメントとしては転写エンハンサー及び翻訳エンハンサーを挙げることができる。好ましくは、エンハンサーはCMVエンハンサー、より好ましくは配列番号6の核酸配列と少なくとも70%同一の核酸配列を含む、好ましくはそれからなるCMVエンハンサー、より好ましくは配列番号6の核酸配列を含む、好ましくはそれからなるCMVエンハンサーである。
【0019】
好ましくは、ポリヌクレオチドはベクターのための少なくとも1つのパッケージングシグナルをさらに含む。「ベクター」という用語は好ましくは、ファージ、プラスミド、ウイルス、又はレトロウイルスベクター、及び人工染色体、例えば細菌又は酵母人工染色体を包含する。より好ましくは、ベクターはAAVに由来するベクターに関する。さらに、この用語は、標的化構築物のゲノムDNAへの無作為な又は部位特異的な組込みを可能にする標的化構築物にも関する。そのような標的化構築物は好ましくは、相同組換え又は異種(heterologous)組換えのいずれかに十分な長さのDNAを含む。本明細書で明記されるポリヌクレオチドを包含するベクターは好ましくは、宿主における増殖及び/又は選択のための選択マーカーをさらに含む。ベクターは当技術分野で周知の様々な技法によって宿主細胞に組み込まれ得る。例えば、プラスミドベクターは沈殿物、例えばリン酸カルシウム沈殿物若しくは塩化ルビジウム沈殿物、又は荷電脂質との複合体、又は炭素系クラスター、例えばフラーレンにおいて導入することができる。或いは、プラスミドベクターは熱ショック又は電気穿孔技法によって導入されてもよい。ベクターがウイルスである場合、ベクターは宿主細胞への適用前に適切なパッケージング細胞株を使用してin vitroにおいてパッケージングされてもよい。ウイルスベクターは複製コンピテントであっても複製欠損であってもよい。後者の場合、ウイルス増殖は全体として補完宿主及び/又は細胞中でのみ行われ得る。より好ましくは、ベクターにおいて、ポリヌクレオチドは本明細書において上で明記された発現制御配列に作動的に連結する。好ましい発現ベクターは、本発明のポリヌクレオチド又はベクターの標的細胞集団への送達のために使用され得るウイルス、例えばレトロウイルス、特にレンチウイルス、ワクシニアウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、又はウシパピローマウイルスに由来するベクターである。組換えウイルスベクターを構築するために使用される方法は標準的な教科書から当業者に周知である。好ましくは、ベクターはAAVベクター、より好ましくは例えばGrimmら(2006)、J Virol 80:426に記載されている自己相補的AAVベクターである。好ましくは、ベクターはアデノ随伴ウイルス(AAV)、より好ましくはAAV1、AAV5、AAV6、又はAAV9である。より好ましくは、AAVはAAV9又はAAV6、より一層好ましくはAAV9である。したがって、好ましくは、ポリヌクレオチドはベクターパッケージング構築物、好ましくはウイルスベクターパッケージング構築物、より好ましくはアデノ随伴ウイルス(AAV)パッケージング構築物、好ましくはAAV9又はAAV6パッケージング構築物、より好ましくはAAV9パッケージング構築物に含まれる。また好ましくは、ポリヌクレオチドはベクター、好ましくはウイルスベクター、より好ましくはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、最も好ましくはAAV9又はAAV6ベクター、より一層好ましくはAAV9ベクターに含まれる。好ましい実施形態では、ベクターはAAV1、AAV2、AAV5、AAV6、又はAAV9である。
【0020】
本明細書で使用する場合、「アデノ随伴ウイルス」又は「AAV」という用語は、短い(およそ4.7kB)一本鎖DNAを含有し溶解複製においてアデノウイルスの存在に依存するウイルス群に関する。AAVはウイルスのパルボウイルス科(Parvoviridae)ファミリーのメンバーである。したがって、AAVベクターとは本明細書で使用する場合、AAVに由来するベクター、すなわちAAVのカプシドポリペプチドを使用して組換えポリヌクレオチドの標的細胞への移入を媒介する遺伝子移入ビヒクルである。本明細書で言及される「AAVカプシドポリペプチド」という用語は、コートタンパク質又はVPタンパク質とも称されるAAV粒子のタンパク質の殻を作出する自己集合の活性を有するポリペプチドに関する。所与の細胞における全てのAAVカプシドポリペプチド分子が集合してAAVカプシドになるわけではないことが理解されるべきである。好ましくは、全てのAAVカプシドポリペプチド分子のうちの少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%が集合してAAVカプシドになる。この生物活性を測定するのに好適なアッセイは例えばSmith-Arica及びBartlett (2001)、Curr Cardiol Rep 3(1): 43に記載されている。好ましくは、AAVカプシドポリペプチドはAAV9(Genbank受託番号AAS99264.1)、AAV1(Genbank受託番号AAD27757.1)、AAV2(Genbank受託番号AAC03780.1)、AAV3(Genbank受託番号AAC55049.1)、AAV3b(Genbank受託番号AF028705.1)、AAV4(Genbank受託番号AAC58045.1)、AAV5(Genbank受託番号AAD13756.1)、AAV6(Genbank受託番号AF028704.1)、AAV7(Genbank受託番号AAN03855.1)、AAV8(Genbank受託番号AAN03857.1)、AAV10(Genbank受託番号AAT46337.1)、AAVrh10(Genbank受託番号AY243015.1)、AAV11(Genbank受託番号AAT46339.1)、AAV12(Genbank受託番号ABI16639.1)、又はAAV13(Genbank受託番号ABZ10812.1)、AAVpo1(Genbank受託番号FJ688147.1)のカプシドポリペプチドである。より好ましくは、AAVカプシドポリペプチドはAAV9(Genbank受託番号AAS99264.1)のカプシドポリペプチドである。
【0021】
本明細書で使用する場合、AAVカプシドポリペプチドという用語には好ましくはAAVカプシドポリペプチドバリアントが含まれ、「ポリペプチドバリアント」という用語は本明細書において上で明記されたように使用され、前記ポリペプチドバリアントは前述の活性を有する。好ましくは、AAVカプシドポリペプチドバリアントはキメラカプシドポリペプチドである。「キメラ」という用語は、本明細書において上で明記されたように、少なくとも2つの異なる種又は系統を起源とする構成要素から構成される任意の分子に関すると当業者によって理解される。したがって、好ましくは、カプシドポリペプチドバリアントは少なくとも2種、好ましくは少なくとも3種のAAV株のカプシドポリペプチドに由来するアミノ酸配列を含む。より好ましくは、カプシドポリペプチドバリアントは少なくとも2種、好ましくは少なくとも3種のAAV株のカプシドポリペプチドに由来する少なくとも5、好ましくは少なくとも10、より好ましくは少なくとも20個の連続するアミノ酸のアミノ酸配列を含む。好ましくは、前記キメラカプシドポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは原則として当業者に公知の技法であるDNAシャッフリングによって生成された。また好ましくは、AAVカプシドポリペプチドバリアントはAAVカプシドポリペプチドアミノ酸配列に挿入された結合ペプチドを含み、好ましくは結合ペプチドの挿入部位はAAV9カプシドポリペプチドのアミノ酸588又は589、好ましくは588に対応する。AAVカプシドポリペプチドにおける挿入部位がAAV9カプシドポリペプチドにおける挿入部位に対応するか否かは当業者によって公知の方法、好ましくはカプシドポリペプチドのアミノ酸配列をアラインメントすることにより立証することができる。「結合ペプチド」という用語は本明細書で使用する場合、AAVカプシドポリペプチドの目的の宿主細胞に対する親和性を高める短鎖ペプチド、好ましくは2~15アミノ酸の長さのペプチドに関する。適切な結合ペプチドは原則として当技術分野で公知である。
【0022】
「治療」という用語は、本明細書で言及される疾患若しくは障害又はそれに付随する症状の有意な程度の改善を指す。本明細書で使用する場合、前記治療することには本明細書で言及される疾患又は障害に関する健康状態の完全な回復も含まれる。治療することは、本発明に従って使用する場合、治療される全ての対象に効果的であるとは限らないことが理解されるべきである。しかしながら、この用語は、好ましくは本明細書で言及される疾患又は障害に罹患している対象の統計的に有意な一部が成功裏に治療され得ることを必要とするものとする。一部が統計的に有意であるか否かは、様々な周知の統計学的評価手段、例えば信頼区間の決定、p値決定、スチューデントのt検定、マン・ホイットニー検定等を使用して、当業者によって直ちに決定され得る。好ましい信頼区間は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%である。p値は好ましくは0.1、0.05、0.01、0.005、又は0.0001である。好ましくは、治療は所与のコホート又は集団の対象の少なくとも20%、より好ましくは少なくとも50%、より一層好ましくは少なくとも60%、より一層好ましくは少なくとも70%、より一層好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%に効果的であるものとする。当業者によって十分に理解されるように、治療の効力は例えば疾患段階及び重症度を含む多様な因子に依存する。理解されるように、治療という用語には本明細書で言及される疾患又は障害の進行を予防及び/又は遅延させる措置が含まれる。
【0023】
「予防すること」という用語は、対象において本明細書で言及される疾患又は障害に関する健康状態をある特定の期間保持することを指す。前記期間は投与された薬物化合物の量及び本明細書の他の箇所で論じる対象の個々の因子に依存することが理解されるだろう。予防は本発明による化合物を用いて治療される全ての対象に効果的でなくてもよいということが理解されるべきである。しかしながら、この用語は、好ましくはコホート又は集団の対象の統計的に有意な一部が本明細書で言及される疾患若しくは障害又はその付随する症状に罹患することを効果的に予防することを必要とする。好ましくは、この文脈では、通常、すなわち本発明による予防措置がない場合に本明細書で言及される疾患又は障害を発症するだろう対象のコホート又は集団が想定される。一部が統計的に有意であるか否かは、本明細書の他の箇所で論じる様々な周知の統計学的評価手段を使用して、当業者によって直ちに決定することができる。本明細書で使用する場合、予防という用語には好ましくは、本明細書の他の箇所に記載される遺伝子療法の措置が含まれる。したがって、予防措置を受ける対象は、疾患のいかなる症状も有していなくてもよいが、例えば遺伝子解析によって本明細書で言及される疾患若しくは障害を発症する増大したリスクを有すると特定されてもよく、又は予防措置を受ける対象は心エコー図若しくはMRIを介した心臓ストレイン解析によって特定されてもよい。
【0024】
「心不全」という用語は当業者に公知であり、対象の心臓が対象の身体の必要性を満たすのに十分な血流を維持することができない病理学的状態に関する。好ましくは、心不全は慢性心不全又は既存の心不全の急性増悪である。また好ましくは、心不全は駆出率が保たれた心不全、駆出率が軽度低下した心不全、又は駆出率が低下した心不全である。より好ましくは、心不全は収縮期心不全又は拡張期心不全、好ましくは駆出率が軽度低下したか又は駆出率が低下した収縮期心不全又は拡張期心不全である。最も好ましくは、心不全は収縮期心不全、好ましくは駆出率が低下した収縮期心不全である。
【0025】
「対象」という用語は本明細書で使用する場合、脊椎動物、より好ましくは哺乳動物、より一層好ましくは家畜又は伴侶動物、例えばニワトリ、ガチョウ、アヒル、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、ハムスター、ラット、マウス、アルパカ、モルモット、ウサギ、ノウサギ、又はヒトに関する。最も好ましくは、対象はヒトである。好ましくは、対象は、好ましくは本明細書で明記される治療の投与時において心不全に罹患しており、より好ましくは心不全に罹患していると診断されている。症状、及び心不全を診断する診断方法は当業者に公知であり、特に疲労、息切れ、及び他の周知の症状が挙げられ、心不全の診断検査としては特に臨床化学、遺伝子検査、心電図、心エコー検査(経胸壁及び経食道)、心臓MRI、心臓CT、冠動脈造影検査、右心カテーテル、心内膜心筋生検、胸部X線、胸部及び/又は腹部超音波検査、肺機能検査(spiroergometry)、並びに6分間歩行試験が挙げられる。
【0026】
好ましくは、心不全の治療及び/又は予防のためのポリヌクレオチドの使用はポリヌクレオチドの対象の全身又は心臓への投与を含む。全身投与は静脈内投与であり得、心臓投与は少なくとも1つの冠動脈及び/若しくは冠静脈への投与、心筋内投与、心膜投与、並びに/又は心房及び/若しくは心室投与であり得る。投与は好ましくは超音波標的微小気泡破壊によって実施され得る。より好ましくは、前記使用は前記ポリヌクレオチドを含む106~1015、好ましくは108~1013個のウイルス粒子の前記対象への静脈内投与を含み、好ましくは、前記ウイルス粒子は本明細書において上で明記されたポリヌクレオチドを含むAAVウイルス粒子である。また好ましくは、対象は心不全又はその併存疾患のうちの1つを治療及び/又は予防する追加の治療措置、特に薬理学的療法、植込み型除細動器(ICD)療法、心臓再同期療法(CRT)、補助人工心臓(VAD)療法、及び心臓移植から選択される少なくとも1つの療法をさらに受けるか又はさらに受ける予定である。
【0027】
好ましくは、心不全の治療及び/又は予防のためのポリヌクレオチドの使用はRXFPアゴニストの投与をさらに含む。「RXFPアゴニスト」という用語は、RXFPを含む細胞においてRXFPシグナル伝達を誘導する化合物に関し、好ましくは、前記RXFPは本明細書で明記されるポリヌクレオチドから発現すると当業者によって理解される。RXFPアゴニストは当技術分野で公知であり、特に((フェニルカルバモイル)フェニル)ベンズアミド誘導体(Huら(2016)、Biochemistry 55(12):1772)、特にML290(2-イソプロポキシ-N-(2-(3-(トリフルオロメチルスルホニル)フェニルカルバモイル)フェニル)ベンズアミド、CAS番号1482500-76-4)が挙げられるか、又は補体C1q腫瘍壊死因子関連タンパク質8(CTRP8、Genbank受託番号NP_997302.2)である。好ましくは、RXFPアゴニストは本明細書において上で明記されたリラキシンである。
【0028】
有利には、心臓組織、特に心室においてRXFP受容体の発現を媒介するポリヌクレオチドの投与は、特にリラキシンの同時投与との組合せにおいて心不全の有意な改善を実現することが見出された。さらに、心臓組織においてRXFP受容体の発現を媒介するポリヌクレオチドの投与とリラキシンの同時投与との組合せは、その投与後の遺伝子的療法に対する制御をアゴニストの投与/非投与によって可能にする。
【0029】
上でなされた定義は以下に準用される。以下でさらになされる追加の定義及び説明もまた本明細書に記載される全ての実施形態に準用される。
【0030】
本発明は、心不全の治療及び/又は予防における使用のための本発明のポリヌクレオチドを含むベクターにも関する。
【0031】
「ベクター」という用語は本明細書において上で明記されている。好ましくは、ベクターは本明細書において上で明記された心筋細胞への指向性を有する。また好ましくは、ベクターはウイルスベクター、好ましくは本明細書において上で明記されたアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。
【0032】
本発明はさらに、本発明のポリヌクレオチド、本発明のポリヌクレオチドから発現したRXFPポリペプチド、及び/又は心不全の治療及び/又は予防における使用のための本発明のベクターを含む宿主細胞に関する。
【0033】
本発明はさらに、対象における心不全の治療における使用のためのRXFPアゴニストであって、前記治療が、本発明のポリヌクレオチド、本発明のベクター、及び/又は本発明の宿主細胞の前記対象への投与を含み、好ましくは前記治療に先行して、本発明のポリヌクレオチド、本発明のベクター、及び/又は本発明の宿主細胞が前記対象に投与される、RXFPアゴニストに関する。
【0034】
本発明は、本発明のポリヌクレオチド、本発明のベクター、及び/又は本発明の宿主細胞、並びにRXFPアゴニストを含む医薬調製物を含むキットにも関する。
【0035】
「キット」という用語は本明細書で使用する場合、一緒に包装されていてもされていなくてもよい先述の化合物、手段、又は試薬の集合体を指す。キットの構成要素は別個のバイアルによって(すなわち別個の部品のキットとして)含まれても単一のバイアルにおいて提供されてもよい。さらに、本発明のキットは好ましくは、本明細書において上で言及した方法を実践するために使用されるべきであることが理解されるべきである。好ましくは、全ての構成要素は上で言及した方法を実践するために直ちに使用できるように提供されることが想定される。さらに、キットは好ましくは、前記方法を実行するための説明書を含有する。説明書は紙又は電子形式のユーザーマニュアルによって提供することができる。加えて、マニュアルは、本発明のキットを使用して先述の方法を実行するための投与及び/又は投薬量の指示に関する説明書を含んでもよい。上記から理解されるように、ポリヌクレオチドを含むキットの説明は好ましくは、必要な変更を加えて対応するベクターを含むキットに関する。
【0036】
「医薬調製物」という用語は本明細書で使用する場合、薬学的に許容される形態の本発明の1種以上の化合物及び薬学的に許容される担体を含む調製物に関する。当業者によって理解されるように、本明細書で明記されるポリヌクレオチド、ベクター、及び宿主細胞は好ましくは、本明細書で明記される医薬調製物としても提供される。本発明の化合物は薬学的に許容される塩として製剤化することができる。許容される塩としては、酢酸塩、HCl、硫酸塩、塩化物等が挙げられる。医薬調製物は好ましくは局所又は全身投与される。薬物投与のために従来使用される好適な投与経路は経口、静脈内、又は非経口投与、及び吸入である。好ましくは、本発明の医薬調製物は非経口経路を介して、好ましくは静脈内、動脈内、及び/又は心臓内投与によって投与される。さらに、化合物は他の薬物と組み合わせて共通の医薬調製物において又は分離した医薬調製物として投与することができ、前記分離した医薬調製物は部品のキットの形態で提供されてもよい。当業者によって理解されるように、ポリヌクレオチド、ベクター、宿主細胞、及びRXFPアゴニストは同じ対象に投与される場合であっても異なる経路を介して投与してもよく、例えば好ましくは、本発明のポリヌクレオチドは心臓内投与され得る一方で、RXFPアゴニストの同時又はその後の投与は静脈内又は皮下であり得る。
【0037】
化合物は好ましくは、薬物を標準的な薬学的担体と従来の手順に従って組み合わせることによって調製される従来の剤形において投与される。これらの手順は、成分を適宜混合、造粒及び圧縮、又は溶解して所望の調製物とすることを含み得る。薬学的に許容される担体又は希釈剤の形態及び特性は、組み合わされる有効成分の量、投与経路、及び他の周知の可変因子によって影響されることが理解されるだろう。
【0038】
担体は、製剤の他の成分と適合性であり、その受容者に有害ではないという意味で許容可能でなければならない。用いられる薬学的担体は例えば、固体、ゲル、又は液体のいずれかであり得る。固体担体の例は、ラクトース、白土、スクロース、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アラビアゴム(acacia)、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸等である。液体担体の例は、リン酸緩衝食塩水溶液、シロップ、油、例えば落花生油及びオリーブ油、水、エマルション、様々な種類の湿潤剤、滅菌溶液等である。同様に、担体又は希釈剤としては、当技術分野に周知の時間遅延物質、例えば単独又はワックスを伴うモノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリルを挙げることができる。前記好適な担体は上に言及した担体及び当技術分野で周知の他の担体を含み、例えばRemington's Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Easton、Pennsylvaniaを参照されたい。
【0039】
希釈剤は好ましくは、ポリヌクレオチド、ベクター、又は宿主細胞、及び潜在的なさらなる薬学的有効成分の生物活性に影響を及ぼさないように選択される。そのような希釈剤の例は、蒸留水、生理食塩水、リンガー液、デキストロース溶液、及びハンクス液である。加えて、医薬調製物又は製剤にはまた、他の担体、アジュバント、又は非毒性、非治療性、非免疫原性安定剤等が含まれてもよい。
【0040】
治療有効用量とは、本明細書で言及される状態を予防、改善、又は治療する本発明の医薬調製物において使用される化合物の量を指す。化合物の治療有効性及び毒性は、細胞培養又は実験動物における標準的な薬学的手順によって、例えばED50(集団の50%に治療的に有効な用量)及び/又はLD50(集団の50%に致死的な用量)を決定することによって決定することができる。治療効果と毒性効果との用量比は治療指数であり、LD50/ED50の比として表現することができる。
【0041】
投与計画は主治医によって、好ましくは関連する臨床因子を考慮して、好ましくは本明細書の他の箇所に記載される方法のいずれか1つに従って決定することができる。医学分野で周知であるように、任意の1名の患者の投薬量は、患者の大きさ、体表面積、年齢、投与される特定の化合物、性別、投与の時間及び経路、全身の健康状態、並びに併用して投与されている他の薬物を含む多くの因子に依存し得る。進捗は定期的評価によってモニタリングすることができる。典型的な用量は例えば1μg~10000μgの範囲であり得るが、この例示的範囲を下回るか又は上回る用量がとりわけ先述の因子を考慮して検討される。対象及び投与様式に応じて、物質投与の分量は、好ましくは体重1kg当たり約0.01mg~体重1kg当たり約1mgを提供する幅広い範囲にわたって変動し得る。本明細書で言及される医薬調製物及び製剤は、本明細書に示される疾患又は状態を治療又は予防するために少なくとも1回投与される。しかしながら、前記医薬調製物は2回以上投与されてもよく、例えばポリヌクレオチド、ベクター、及び/又は宿主細胞は好ましくは1回投与され得る一方で、RXFPアゴニストは例えば1週間の期間にわたり数回、例えば2又は3回投与され得る。
【0042】
具体的な医薬調製物は、医薬分野で周知の方法において調製され、少なくともRXFPアゴニスト並びに/又はポリヌクレオチド、ベクター、及び/若しくは宿主細胞を活性化合物として、薬学的に許容される担体若しくは希釈剤との混和物において又は他の場合には薬学的に許容される担体若しくは希釈剤と会合して含む。それらの具体的な医薬調製物を作製するために、活性化合物は通例、担体又は希釈剤と混合され得るか、或いはカプセル、小袋、カシェ、紙、又は他の好適な容器若しくはビヒクルに封入又は被包され得る。結果として得られる製剤は投与様式、すなわち錠剤、カプセル剤、坐剤、液剤、懸濁剤等の形態に採用されることになる。推奨投薬量は考慮される受容者に応じた用量調整を予想するために処方又は使用説明書に示されるものとする。
【0043】
本発明は、本発明のポリヌクレオチド及び/又は本発明のベクターを含むデバイスにも関する。
【0044】
「デバイス」という用語は本明細書で使用する場合、本発明の化合物又は組成物の投与を可能にするように互いに作動的に連結した手段を少なくとも備える手段のシステムに関する。ポリヌクレオチド、組成物、及び/又は宿主細胞を投与する好ましい手段は当技術分野で周知である。手段を作動するように連結する方法は、デバイスに備えられる手段の種類及び想定される投与の種類に依存する。好ましくは、そのような場合、手段は単一のデバイスによって構成される。したがって、前記デバイスは化合物又は組成物の投与のための送達部及び前記化合物又は組成物を投与まで保管する保管部を備えてもよい。しかしながら、本発明の手段はそのような実施形態において別個のデバイスとして現れてもよく、好ましくはキットとして一緒に包装されることもまた企図される。当業者は手段を連結する方法を直ちに理解するだろう。好ましいデバイスは専門の技術者の特定の知識なしに適用することができるデバイスである。好ましい実施形態では、デバイスは本発明の化合物又は組成物を含むシリンジ、より好ましくは針を有するシリンジである。別の好ましい実施形態では、デバイスは化合物又は組成物を含む静脈内注入(IV)機器である。別の好ましい実施形態では、デバイスは投与部位、例えば心臓を洗うための化合物若しくは医薬を含むか、又は化合物若しくは組成物の例えば心臓への局所適用のための針をさらに備えるチューブ又は内視鏡デバイスである。
【0045】
本発明は、対象における心不全を治療する方法であって、i)前記対象を本発明のポリヌクレオチド、本発明のベクター、及び/又は本発明の宿主細胞と接触させる工程、並びにii)それにより心不全を治療する工程を含む方法にも関する。
【0046】
本発明の治療する方法はin vivoにおける方法である。さらに、方法は上に明示的に言及した工程に加えて複数の工程を含んでもよい。例えば、さらなる工程は、例えば工程i)と同時若しくはその後のRXFPアゴニストの投与、並びに/又は心不全及び/若しくはその併存疾患のうちの1つを治療する追加の治療措置を提供することに関してもよい。さらに、前記工程のうちの1つ以上は自動化機器によって実施してもよい。
【0047】
本発明はさらに、心不全の治療及び/又は予防のための医薬を製造するための、本発明のポリヌクレオチド、本発明のベクター、及び/又は本発明の宿主細胞の使用に関する。
【0048】
上記を踏まえて、以下の実施形態が特に想定される:
1.対象における心不全の治療及び/又は予防における使用のための、リラキシンファミリーペプチド受容体(RXFP)ポリペプチドをコードする発現可能な核酸配列を含むポリヌクレオチド。
2.前記心不全が慢性心不全である、実施形態1に記載の使用のためのポリヌクレオチド。
3.配列番号1、3、又は5の配列を含む、実施形態1又は2に記載の使用のためのポリヌクレオチド。
4.前記RXFPポリペプチドが、ヒトRXFP1のアミノ酸1~766に対応するアミノ酸を少なくとも含む、実施形態1から3のいずれか1つに記載の使用のためのポリヌクレオチド。
5.前記RXFPが、RXFP1、好ましくはヒトRXFP1であり、より好ましくは配列番号2若しくは/及び4のアミノ酸配列又はそれと少なくとも70%同一の配列を含み、好ましくは配列番号2及び/又は4のアミノ酸配列を含む、実施形態1から4のいずれか1つに記載の使用のためのポリヌクレオチド。
6.前記発現が、構成的プロモーター、好ましくはCMVエンハンサーを含む構成的プロモーターによって媒介される、実施形態1から5のいずれか1つに記載の使用のためのポリヌクレオチド。
7.前記発現が、心臓細胞特異的プロモーター、好ましくは心筋細胞特異的プロモーター、より好ましくはMLC260プロモーターによって媒介される、実施形態1から6のいずれか1つに記載の使用のためのポリヌクレオチド。
8.配列番号3の配列を含み、好ましくはそれからなる、実施形態1から7のいずれか1つに記載の使用のためのポリヌクレオチド。
9.ベクター、好ましくはアデノ随伴ウイルス(AAV)、より好ましくはAAV9のための少なくとも1つのパッケージングシグナルを含む、実施形態1から8のいずれか1つに記載の使用のためのポリヌクレオチド。
10.ベクターパッケージング構築物、好ましくはウイルスベクターパッケージング構築物、より好ましくはアデノ随伴ウイルス(AAV)パッケージング構築物、最も好ましくはAAV9パッケージング構築物に含まれる、実施形態1から9のいずれか1つに記載の使用のためのポリヌクレオチド。
11.ベクター、好ましくはウイルスベクター、より好ましくはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、より一層好ましくはAAV1、AAV2、AAV5、AAV6、又はAAV9ベクター、最も好ましくはAAV9ベクターに含まれる、実施形態1から10のいずれか1つに記載の使用のためのポリヌクレオチド。
12.前記使用が、前記ポリヌクレオチドの前記対象への静脈内及び/又は心臓内投与を含む、実施形態1から11のいずれか1つに記載の使用のためのポリヌクレオチド。
13.前記使用が、前記ポリヌクレオチドを含む106~1015、好ましくは108~1013個のウイルス粒子の前記対象への静脈内投与を含む、実施形態1から12のいずれか1つに記載の使用のためのポリヌクレオチド。
14.前記対象が哺乳動物、好ましくはヒトである、実施形態1から13のいずれか1つに記載の使用のためのポリヌクレオチド。
15.前記使用がRXFPアゴニストの投与をさらに含む、実施形態1から14のいずれか1つに記載の使用のためのポリヌクレオチド。
16.前記RXFPアゴニストがリラキシン又はその誘導体、好ましくはリラキシンである、実施形態1から15のいずれか1つに記載の使用のためのポリヌクレオチド。
17.心不全の治療及び/又は予防における使用のための実施形態1から16のいずれか1つに記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
18.心筋細胞への指向性を有する、実施形態17に記載の使用のためのベクター。
19.ウイルスベクター、好ましくはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、より好ましくはAAV9ベクターである、実施形態17又は18に記載の使用のためのベクター。
20.心不全の治療及び/又は予防における使用のための、実施形態1から16のいずれか1つに記載のポリヌクレオチド、実施形態1から16のいずれか1つに記載のポリヌクレオチドから発現したRXFPポリペプチド、及び/又は実施形態17から19のいずれか1つに記載のベクターを含む宿主細胞。
21.対象における心不全の治療における使用のためのRXFPアゴニストであって、前記治療が、実施形態1から16のいずれか1つに記載のポリヌクレオチド、実施形態17から19のいずれか1つに記載のベクター、及び/又は実施形態20に記載の宿主細胞の前記対象への投与を含み、好ましくは前記治療に先行して、実施形態1から16のいずれか1つに記載のポリヌクレオチド、実施形態17から19のいずれか1つに記載のベクター、及び/又は実施形態20に記載の宿主細胞が前記対象に投与される、RXFPアゴニスト。
22.実施形態1から16のいずれか1つに記載のポリヌクレオチド、実施形態17から19のいずれか1つに記載のベクター、及び/又は実施形態20に記載の宿主細胞、並びにRXFPアゴニストを含む医薬調製物を含むキット。
23.実施形態1から16のいずれか1つに記載のポリヌクレオチド及び/又は実施形態17から19のいずれか1つに記載のベクターを含むデバイス。
24.対象における心不全を治療する方法であって、
i)前記対象を実施形態1から16のいずれか1つに記載のポリヌクレオチド、実施形態17から19のいずれか1つに記載のベクター、及び/又は実施形態20に記載の宿主細胞と接触させる工程、並びに
ii)それにより心不全を治療する工程
を含む方法。
25.前記対象が哺乳動物、好ましくはヒトである、実施形態24に記載の方法。
26.心不全の治療及び/又は予防のための医薬を製造するための、実施形態1から16のいずれか1つに記載のポリヌクレオチド、実施形態17から19のいずれか1つに記載のベクター、及び/又は実施形態20に記載の宿主細胞の使用。
【0049】
本明細書に引用した全ての参考文献は、その開示内容全体及び本明細書で具体的に言及した開示内容に関して参照によって本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0050】
以下の実施例は本発明を例示するに過ぎないものとする。以下の実施例はいかなる点でも本発明の範囲を限定すると解釈されないものとする。
【0051】
[実施例1]
RLN投与と組み合わせたRXFP1遺伝子療法は陽性変力効果を誘導し、心不全を救済する
ウイルス作製
全てのin vivo実験のためにアデノ随伴ウイルスベクター血清型9(AAV9)を生成した。ラット(ドブネズミ(Rattus norwegicus))及びヒト(ホモ・サピエンス(Homo sapiens))リラキシン受容体1(RXFP1)を発現する組換えAAVベクター:AAV9-CMV-MLC260-FLAG-Rel1Rattus(AAV9-RXFP1)及びAAV9-CMV-MLC260-FLAG-Rel1human(AAV9-huRXFP1)を生成した。最適化ラットRel1 cDNAと最適化ヒトRel1 cDNAの両方(NM_201417.1及びNM_021634.3、米国立生物工学情報センター(NCBI))を合成し、N末端FLAGタグを含むpCDNA3.1プラスミドにクローニングした。広範なin vitro検査の後、導入遺伝子カセットを短い260bpミオシン軽鎖プロモーター(MLC260)と接合した心臓筋細胞特異的サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサーの下流においてAAV移入プラスミドにサブクローニングし、全構築物を2つのITRにより挟んだ。組換えベクターを、2つのプラスミドのトランスフェクションプロトコル(Grimmら、2003、Mol. Ther. 7: 839~850)を使用して、AAV末端逆位配列組換えゲノムのAAV9カプシドへのパッケージングによって生成した。高力価ベクターをセルスタック(Corning)においてポリエチレンイミントランスフェクションを用いて作製した。48時間後、ベクターを回収し、イオジキサノール勾配における密度濾過によって精製した(Jungmannら、2017、Hum. Gene. Ther. Methods 28: 235~246)。同じ方法を使用して、ホタルルシフェラーゼを発現する対照ベクター:AAV9-CMV-MLC260-FLAG-LucFirefly(AAV9-LUC)を生成した。全てのウイルスベクターのウイルス力価を、SYBRグリーンリアルタイムPCRアッセイ(Bio-Rad)を使用して同時に定量し、1ミリリットル当たりのウイルスゲノム(vg/mL)として表した。
【0052】
心不全モデル及び実験準備
横行大動脈縮窄術(TAC)操作は以前に記載された(Rockmanら、1991、Proc. Natl. Acad. Sci. 88: 8277~8281)。TACモデルを心不全モデルとして使用した。8週齢C57BL/6マウスの体重を操作前に測定した。TAC操作を、横行大動脈の直径をおよそ0.46mmに効果的に小さくする26ゲージ鈍針を使用して0日目に実施した(Rockmanら、1994、Proc. Natl. Acad. Sci. 91(7): 2694~2698)。心機能をTAC操作前(-2日目)、ウイルス注入前(7日目)、ポンプ植込前(28日目)、及び2か月の追跡時(55日目)に心エコー検査(Vevo 2100 VisualSonics)によって評価した(
図1A及びB)。7日目に、動物をルシフェラーゼ(LUC)対照ウイルス又はRXFP1ウイルスの全身注射に対して無作為化した。浸透圧ポンプ(Alzet 2004)を、食塩水ポンプ又は組換えリラキシンポンプのいずれかを得るように動物を無作為化して28日目に植え込んだ。追跡評価を55日目に実施し、3日後に動物を屠殺した。加えて、17匹のマウスはシャム操作と、それに続く食塩水又は組換えリラキシンポンプ植込のいずれかとを受けた対照動物として役立った。
【0053】
心機能測定
心エコー検査を、VisualSonicsのVevo 2100を使用して実施した。マウスを剃毛し、腹臥位に保持した。温超音波カップリングゲル(37℃)を剃毛した胸部に載せ、MS400トランスデューサーを当てて、2D Bモード傍胸骨長及び短軸像並びにMモード短軸像を取得した。駆出率(EF)、短縮率(FS)、左室内径(LVIDd)、及び心拍数(HR)を、MモードにおいてLV追跡機能を使用して、6回の連続した心拍から算出した。
【0054】
全てのTAC動物のEF及びFSはTAC操作後7日目から徐々に減少した(EF:62.25±10.41%及びFS:33.17±7.38)。さらなる低下が全てのTAC操作動物において操作後28日目のポンプ植込前に検出された(EF:54.09±12.65及びFS:28.07±7.63)。55日目の追跡評価は、NaCl又はRLNのいずれかを受けた、AAV9.LUCを用いて処置した対照群においてEF及びFSのさらなる低下を示した(LUC NaCl EF:48.78±18.61、FS:25.11±10.69、及びLUC RLN EF:47.79±13.38、FS:23.98±7.64)。抑制されたが有意ではないEF及びFSの減少がNaClを用いて処置したRXFP1群において観察され(EF:53.99±13.75及びFS:27.95±8.40)、EF及びFSの有意な増加がRLNを用いて処置したRXFP1群において検出された(EF:65.11±14.39及びFS:35.74±9.92)(
図1C及びD)。他のパラメータ、例えば左室内径(LVIdD)、補正左室質量、及び心拍数も測定したが、TAC操作群間の有意差は観察することができなかった(
図2A、B、及びC)。
【0055】
分子解析
RNA発現
RNAを、TRIzol(登録商標)試薬(Ambion)を使用して、急速凍結組織(10mg)又は細胞溶解物(2×106個の細胞)から製造業者のプロトコルに従って抽出した。1μgの総RNAを、iScript cDNA合成キット(Bio-Rad)を使用してcDNAに逆転写した。iQ SYBR Green Supermixを製造業者のプロトコルに従って使用した。反応1つ当たり15μLの最終容量は、7.5μLのiQ SYBR Green Supermix、1μLの順及び逆方向プライマーミックス(それぞれ300nMの最終濃度)、並びに6.5μLの調製した希釈cDNA(反応1つ当たり3.25ngの最終濃度)からなった。定量的リアルタイムPCRをBio-Rad CFX96リアルタイムPCR検出システム(Bio-Rad)において二連で実施した。2-ΔΔCT法を使用して、試料間の相対遺伝子発現レベルを定量した。PCR産物の特異性をゲル電気泳動によって確認した。表1に列挙するプライマーをmRNA発現定量のために使用した。
【0056】
【0057】
【0058】
RTPCRを使用した死後mRNA発現解析は、RXFP1ウイルスを用いて処置したTAC動物の心室内のRXFP1 mRNA発現の有意な増加を明らかにした(
図1E)。対照ウイルスのみを用いて処置したTAC群と比較して、BNP mRNA発現の有意な減少がRXFPI及びRLN処置マウスにおいて観察された(
図1F)。
【0059】
さらに、胎児遺伝子、例えばANP又はβ-MHCの活性化が低下する傾向がRXFP1遺伝子療法とRLN処置の両方を受けたTAC群において検出された(
図3A及びB)。興味深いことに、コラーゲンmRNA発現(Col1a1、Col3a1、及びPostn)がTAC後に減少する傾向が両方のRXFP1群(RLN処置を伴う及び伴わない)において検出された(
図3C、D、及びE)。
【0060】
タンパク質発現
【0061】
【表3】
組織試料を10mg片に切断した後に凍結した。組織からのタンパク質を、1%SDS緩衝液(プロテアーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤カクテル2及び3を補充した、1%SDS、1mM EDTA、1mM EGTA)を使用して抽出した。抽出したタンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動及びウェスタンブロッティングによって以前に記載されたように解析した(Towbinら、1979、Proc. Natl. Acad. Sci. 76: 4350~4354)。膜を、表3に列挙した抗体を用いてプローブした。Alexa Flour 680に接合したマウス二次抗体(Invitrogen)及びDylight(商標)800に接合したウサギ二次抗体(Cell Signaling)を使用し、Odyssey赤外線イメージャー(LI-COR)検出システムを利用して免疫ブロットからシグナルを検出した。画像を、Odysseyイメージングソフトウェアを使用して処理した。より高い比のセリン16におけるホスホランバンリン酸化[P-PLB(S16)]がRXFP1遺伝子療法とRLNの両方を受けたTAC動物において検出された(
図1G)。
【0062】
RLN測定
組換えリラキシンH2の循環血漿レベルを、R&D Systems製の既製のリラキシンH2 Quantikine ELISAキット(DLR200)を使用して測定した。血漿試料を1:200に希釈して、アッセイの検出範囲内に留めた。50μLの陰性対照試料、陽性対照試料、標準試料、及び希釈試料を測定のために使用した。
【0063】
RLN血漿レベルの測定は、RLNを受けた全ての動物において上昇したRLNの血漿レベルを明らかにした。RLN血漿濃度は全ての処置群において等しかった(
図1H)。
【0064】
[実施例2]
in vitroにおけるRXFP1遺伝子療法及び組換えRLN刺激からの陽性変力性
ウイルス作製
全てのin vitro実験のためにAAV6血清型ベクターを活用した。組換えアデノ随伴ウイルスベクターAAV6-CMV-MLC260-FLAG-Rel1Rattus(AAV6-RXFP1)及びAAV6-CMV-MLC260-FLAG-Rel1human(AAV6-huRXFP1)を以下のように生成した。最適化ドブネズミRXFP1 cDNAと最適化ホモ・サピエンスRXFP1 cDNAの両方[NM_201417.1及びNM_021634.3、米国立生物工学情報センター(NCBI)]を合成し、N末端FLAGタグを含むpCDNA3.1プラスミドにクローニングした。広範なin vitro検査の後、導入遺伝子カセットを短い260bpミオシン軽鎖プロモーター(MLC260)と接合した心臓筋細胞特異的サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサーの下流においてAAV移入プラスミドにサブクローニングし、全構築物を2つのITRにより挟んだ。組換えベクターを、2つのプラスミドのトランスフェクションプロトコル(Grimmら、2003、Mol. Ther. 7: 839~850)を使用して、AAV末端逆位配列組換えゲノムのAAV6カプシドへのパッケージングによって生成した。高力価ベクターをセルスタック(Corning)においてポリエチレンイミントランスフェクションを用いて作製した。48時間後、ベクターを回収し、イオジキサノール勾配における密度濾過によって精製した(Jungmannら、2017、Hum. Gene. Ther. Methods 28: 235~246)。同じ方法を使用して、対照ベクターAAV6-CMV-MLC260-FLAG-LucFirefly(AAV6-LUC)を生成した。全てのウイルスベクターのウイルス力価を、SYBRグリーンリアルタイムPCRアッセイ(Bio-Rad)を使用して同時に定量し、1ミリリットル当たりのウイルスゲノム(vg/mL)として表した。
【0065】
新生仔ラット心筋細胞の単離
新生仔ラット心室心臓筋細胞(NRVM)の初代培養を1~2日齢Wistarラット(Charles River)から調製した。新生仔ラットを断頭によって安楽死させ、心臓を剥離し、1×冷ADS溶液に入れた。心房及び他の血管を除去し、心臓を新たな1×冷ADS溶液に移した。ADS溶液を除去し、心室を、3mLの冷ADSを用いて洗浄した後に細断した。組織断片を、コラゲナーゼ及びパンクレアチンを含有する30mLの消化溶液を含むT75ボトルにおいて37℃で5分間消化した。組織断片をボトルの一方の側に沈殿させ、溶液を除去及び廃棄した。新しい消化溶液を添加し、組織断片を37℃で20分間消化した。20分後、組織断片を最大出力で5回ピペッティングし、溶液を、40μmセルストレーナーを介して50mLファルコンに回収及び濾過した。10mLのFCSを、セルストレーナーを介して添加し、溶液を1000rpmで5分間、室温にて遠心分離した。遠心分離後、上清を除去し、7mLのFCSを添加した。細胞溶液をさらなる処理まで37℃のインキュベーターに入れた。全ての組織片を完全に消化するために組織断片を少なくとも5回消化した。消化後、全ての細胞懸濁液を組み合わせ、1000rpmで5分間、室温にて遠心分離した。上清を除去し、細胞を12mLの冷1×ADSに再懸濁した。線維芽細胞及び心臓筋細胞を、パーコール密度勾配を使用して分離した。高純度の心筋細胞を取得するために、二層パーコール密度勾配を実施した。勾配は63%赤色パーコール溶液及び40.5%透明パーコール溶液からなった。4mLの赤色パーコール溶液を各15mLファルコンに添加した。次いで、3mLの透明パーコール溶液を、基礎技法を使用して添加した。1×冷ADSを含有する2mLの細胞溶液を勾配上に45度の角度で層状に重ねた。ファルコンを2400rpmで30分間、37℃にて0の減速度で遠心分離した。線維芽細胞を含む上側の間質細胞バンドを吸引によって除去した。下側の心筋細胞バンドは保ち、冷1×ADSを用いて2回洗浄した後に、10%v/vウシ胎児血清、100U/mLペニシリン、100μg/ストレプトマイシン、2mM L-グルタミン、及び1mM塩化カルシウムを補充した温かい199培地に再懸濁した。細胞をノイバウエルチャンバーにおいて手動で計数し、それに応じてプレーティングした(表4)。NRVCMを37℃及び5%CO2湿潤雰囲気において培養した。48時間後、ウシ胎児血清を0.5%に減少させ、細胞を2~5日間培養した。細胞をプレーティングした2日後、培地を除去し、細胞を、温PBSを用いて1回洗浄した後に、0.5%FCS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、1%L-グルタミン、1mM CaCl2を補充したM199飢餓培地を添加した。その後、細胞を回収するまで培地を2日ごとに交換した。細胞は最大7日間使用した後に廃棄した。
【0066】
【0067】
RXFP1遺伝子療法のin vitro検査のための新生仔ラット心室心筋細胞トランスフェクションの最適化
最初の培地交換後、6ウェルプレートに播種したNRVMに種々の量のRXFP1ウイルス(5,000~50,000vg/細胞のウイルスMOIの範囲)を、10,000vg/細胞のMOIを有するLuc対照ウイルスと共に形質導入した。ウイルスを細胞に48時間形質導入させた後に培地を交換した。5日後、形質導入されたNRVMを回収し、RXFP1 mRNA発現を、表1のプライマーを使用したqPCRによって定量した。RXFP1 mRNA発現の有意な増加を用量依存的に検出することができた(
図4A)。最適なMOIをさらに確認するために、cAMP測定を、Promega製のcAMP Glo(商標)アッセイキットを使用して実施した。製造業者のマニュアルに従った。第1のNRVMを表4に従って96ウェルに播種した。細胞に5,000~50,000vg/細胞のMOIの範囲である種々のMOIのRXFP1ウイルス及び10,000vg/細胞の固定したMOIのLuc対照ウイルスを形質導入した。ウイルスを細胞に48時間形質導入させた後に培地を交換した。5日後、形質導入されたNRVMを、100nMの組換えRLNを用いて30分間処理した。形質導入されたNRVMを刺激するために、培地を除去し、誘導緩衝液(500μM IBMX及び100μM Ro 20-1724を補充した1×PBS)に溶解した20μLのRLNを細胞に添加してcAMP産生を刺激した。30分後、20μLの溶解緩衝液を全てのウェルに添加した。細胞を室温で15分間溶解した。40μLの検出緩衝液(プロテインキナーゼAを補充した反応緩衝液)を全てのウェルに添加し、プレートを1分間振盪することによって混合し、室温で20分間インキュベートした。80μLのKinase Glo(登録商標)試薬を全てのウェルに添加し、プレートを1分間振盪することによって混合し、室温で10分間インキュベートした。発光を、発光測定装置を用いて測定した。少なくとも10,000vg/細胞のRXFP1を受けた試料においてcAMP産生の有意な増加が観察されたが、50,000vg/細胞のMOIの場合にはcAMP産生の減少が検出された(
図2B)。したがって、RXFP1 mRNA発現とRLN刺激後の細胞内cAMP産生の有意な増加の両方を有する最小のウイルスMOIは10,000vg/細胞であった。
【0068】
異所性RXFP1発現対本来のRXFP1発現
6ウェルプレートに播種したNRVMに10,000vg/細胞のウイルスMOIを有するRXFP1ウイルス及びLuc対照ウイルスを形質導入した。ウイルスを細胞に48時間形質導入させた後に培地を交換した。5日後、形質導入されたNRVMを回収し、RXFP1 mRNA発現を、表1に列挙したプライマーを使用したqPCRによって定量した。RXFP1 mRNA発現の有意な増加をRXFP1ウイルス処理細胞において、Luc対照処理細胞及び心房(新生仔ラット心房心筋細胞、NRAM)からの天然のRXFP1発現を有する未処理細胞と比較して検出することができた(
図4C)。
【0069】
cAMP蓄積によって決定したRLN刺激の最適な濃度
cAMP測定を、Promega製のcAMP Glo(商標)アッセイキットを使用して実施した。製造業者のマニュアルに従った。第1のNRVCMを表4に従って96ウェルプレートに播種した。細胞に10,000vg/細胞のウイルスMOIを有するRXFP1ウイルス及びLuc対照ウイルスを形質導入した。ウイルスを細胞に48時間形質導入させた後に培地を交換した。5日後、形質導入されたNRVMを、1pM~10nMの範囲の種々の量の組換えRLNを用いて30分間処理した。形質導入されたNRVMを刺激するために、培地を除去し、誘導緩衝液(500μM IBMX及び100μM Ro 20-1724を補充した1×PBS)中20μLのRLNを細胞に添加してcAMP産生を刺激した。30分後、20μLの溶解緩衝液を全てのウェルに添加した。細胞を室温で15分間溶解した。40μLの検出緩衝液(プロテインキナーゼAを補充した反応緩衝液)を全てのウェルに添加し、プレートを1分間振盪することによって混合し、室温で20分間インキュベートした。80μLのKinase Glo(登録商標)試薬を全てのウェルに添加し、プレートを1分間振盪することによって混合し、室温で10分間インキュベートした。発光を、発光測定装置を用いて測定した。結果は、cAMP産生の実質的な増加がRXFP1ウイルス及び組換えRLN処理細胞において、Luc対照ウイルス及び組換えRLNを用いて処理した細胞と比較して観察されたことを確認した(
図4D)。RXFP1受容体のピーク刺激は10nMの組換えRLN濃度において観察された。興味深いことに、より高い組換えRLN濃度を用いたとしてもcAMP蓄積のさらなる増加は見出されなかった。
【0070】
組換えRLN処理を伴うRXFP1遺伝子療法からの陽性変力性
6ウェルプレートに播種したNRVMに10,000vg/細胞のウイルスMOIのRXFP1ウイルス及びLuc対照ウイルスを形質導入した。ウイルスを細胞に48時間形質導入させた後に培地を交換した。5日後、形質導入されたNRVMを、100nM組換えRLNを用いて5時間刺激した後に1%SDS緩衝液(プロテアーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤カクテル2及び3を補充した、1%SDS、1mM EDTA、1mM EGTA)を使用する免疫ブロッティングのために回収した。タンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動及び免疫ブロッティングによって以前に記載されたように解析した(Towbinら、1979、Proc. Natl. Acad. Sci. 76: 4350~4354)。膜を、表3に列挙した抗体を用いてプローブした。Alexa Flour 680に接合したマウス二次抗体(Invitrogen)及びDylight(商標)800に接合したウサギ二次抗体(Cell Signaling)を使用し、Odyssey赤外線イメージャー(LI-COR)検出システムを利用して免疫ブロットからシグナルを検出した。画像を、Odysseyイメージングソフトウェアを使用して処理した。P-PLB(S16)の有意な増加がRXFP1ウイルスを形質導入し、組換えRLNを用いて処理したNRVM群において観察された(
図4E~F)。in vivo実験と一致して、in vitro実験からの分子的証拠は、陽性変力性が増加したcAMP産生及び増加したセリン16におけるホスホランバンリン酸化の結果であることを示唆する。
【0071】
[実施例3]
ヒト及びラットRXFP1遺伝子療法の比較
ウイルス作製
全てのin vitro実験のためにAAV6血清型ベクターを活用した。AAV6-CMV-MLC260-Rel1Rattus(AAV6-naRXFP1と称す)を以下のように生成した。最適化ドブネズミRel1 cDNA[NM_201417.1、米国立生物工学情報センター(NCBI)]を合成し、pCDNA3.1プラスミドにクローニングした。広範なin vitro検査の後、導入遺伝子カセットを短い260bpミオシン軽鎖プロモーター(MLC260)と接合した心臓筋細胞特異的サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサーの下流においてAAV移入プラスミドにサブクローニングし、全構築物を2つのITRにより挟んだ。組換えベクターを、2つのプラスミドのトランスフェクションプロトコル(Grimmら、2003、Mol. Ther. 7: 839~850)を使用して、AAV末端逆位配列組換えゲノムのAAV6カプシドへのパッケージングによって生成した。高力価ベクターをセルスタック(Corning)においてポリエチレンイミントランスフェクションを用いて作製した。48時間後、ベクターを回収し、イオジキサノール勾配における密度濾過によって精製した(Jungmannら、2017、Hum. Gene. Ther. Methods 28: 235~246)。全てのウイルスベクターのウイルス力価を、SYBRグリーンリアルタイムPCRアッセイ(Bio-Rad)を使用して同時に定量し、1ミリリットル当たりのウイルスゲノム(vg/mL)として表した。
【0072】
受容体機能測定
6ウェルプレートに播種したNRVMに10,000vg/細胞のウイルスMOIのヒト及びラットRXFP1ウイルス並びにLuc対照ウイルスを含有するウイルスを形質導入した。ウイルスを細胞に48時間形質導入させた後に培地を交換した。5日後、形質導入されたNRVMを、100nM組換えRLNを用いて5時間刺激した後に1%SDS緩衝液(プロテアーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤カクテル2及び3を補充した、1%SDS、1mM EDTA、1mM EGTA)を使用する免疫ブロッティングのために回収した。タンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動及び免疫ブロッティングによって以前に記載されたように解析した(Towbinら、1979、Proc. Natl. Acad. Sci. 76: 4350~4354)。膜を、表3に列挙した抗体を用いて一晩プローブした。Alexa Flour 680に接合したマウス二次抗体(Invitrogen)及びDylight(商標)800に接合したウサギ二次抗体(Cell Signaling)を使用し、Odyssey赤外線イメージャー(LI-COR)検出システムを利用して免疫ブロットからシグナルを検出した。画像を、Odysseyイメージングソフトウェアを使用して処理した。P-PLB(S16)の有意な増加がヒト又はラットRXFP1ウイルスを形質導入し、且つ組換えRLNを用いて処理したNRVM群において観察されたが(
図5A及びB)、ヒトRXFP1ウイルスとラットRXFP1ウイルスとの間に有意差は存在しなかった。
【0073】
[実施例4]
ML290(ヒトRXFP1化学的アゴニスト)によるRXFP1の活性化
in vitroにおけるML290によるRXFP1活性化
6ウェルプレートに播種したNRVMに10,000vg/細胞のウイルスMOIのヒトRXFP1、ラットRXFP1、及びLuc対照ウイルスを含有するウイルスを形質導入した。ウイルスを細胞に48時間形質導入させた後に培地を交換した。5日後、形質導入されたNRVMを、1μMのML290を用いて30分間刺激した後に1%SDS緩衝液(プロテアーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤カクテル2及び3を補充した、1%SDS、1mM EDTA、1mM EGTA)を使用する免疫ブロッティングのために回収した。タンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動及び免疫ブロッティングによって以前に記載されたように解析した(Towbinら、1979、Proc. Natl. Acad. Sci. 76: 4350~4354)。膜を、表3に列挙した抗体を用いて一晩プローブした。Alexa Flour 680に接合したマウス二次抗体(Invitrogen)及びDylight(商標)800に接合したウサギ二次抗体(Cell Signaling)を使用し、Odyssey赤外線イメージャー(LI-COR)検出システムを利用して免疫ブロットからシグナルを検出した。画像を、Odysseyイメージングソフトウェアを使用して処理した。P-PLB(S16)の有意な増加がヒトRXFP1ウイルスを形質導入し、1μM ML290を用いて処理したNRVM群において検出された(
図6A及びB)。P-PLB(S16)の著しい増加はラットRXFP1ウイルスを形質導入し、1μM ML290を用いて処理したNRVM群においても観察された。ヒトRXFP1ウイルス及び1μM ML290を用いた処理と、ヒトRXFP1ウイルス及び100nM組換えRLNを用いた処理との間にP-PLB(S16)の差は観察されなかった。
【0074】
[実施例5]
RLN投与を伴うhuRXFP1遺伝子療法の変力効果は心不全を救済する
ウイルス作製
全てのin vivo実験のためにAAV9血清型ベクターを活用した。組換えアデノ随伴ウイルスベクターAAV9-CMV-MLC260-FLAG-Rel1Rattus(AAV9-RXFP1と称す)及びAAV9-CMV-MLC260-FLAG-Rel1human(AAV9-huRXFP1と称す)を以下のように生成した。最適化ドブネズミRel1 cDNAと最適化ホモ・サピエンスRel1 cDNAの両方[NM_201417.1及びNM_021634.3、米国立生物工学情報センター(NCBI)]を合成し、N末端FLAGタグを含むpCDNA3.1プラスミドにクローニングした。広範なin vitro検査の後、導入遺伝子カセットを短い260bpミオシン軽鎖プロモーター(MLC260)と接合した心臓筋細胞特異的サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサーの下流においてAAV移入プラスミドにサブクローニングし、全構築物を2つのITRにより挟んだ。組換えベクターを、2つのプラスミドのトランスフェクションプロトコル(Grimmら、2003、Mol. Ther. 7: 839~850)を使用して、AAV末端逆位配列組換えゲノムのAAV9カプシドへのパッケージングによって生成した。高力価ベクターをセルスタック(Corning)においてポリエチレンイミントランスフェクションを用いて作製した。48時間後、ベクターを回収し、イオジキサノール勾配における密度濾過によって精製した(Jungmannら、2017、Hum. Gene. Ther. Methods 28: 235~246)。同じ方法を使用して、対照ベクター AAV9-CMV-MLC260-FLAG-LucFirefly(AAV9-LUCと称す)を生成した。全てのウイルスベクターのウイルス力価を、SYBRグリーンリアルタイムPCRアッセイ(Bio-Rad)を使用して同時に定量し、1ミリリットル当たりのウイルスゲノム(vg/mL)として表した。
【0075】
心不全モデル生成及び実験準備
心不全モデルを以前に記載された横行大動脈縮窄術操作(TAC)によって生成した(Rockmanら、1991、Proc. Natl. Acad. Sci. 88: 8277~8281)。8週齢C57BL/6マウスを取り寄せ、操作前に体重を測定した。TAC操作を、横行大動脈の直径をおよそ0.46mmに効果的に小さくする26ゲージ鈍針を使用して0日目に実施した(Rockmanら、1994、Proc. Natl. Acad. Sci. 91(7): 2694~2698)。心機能測定を横行大動脈縮窄術(TAC)操作前(-2日目)、ウイルス注入前(7日目)、ポンプ植込前(28日目)、及び2か月の追跡時点(55日目)に実施した(
図7A)。7日目に、動物をルシフェラーゼ対照ウイルス又はRXFP1ウイルスの全身注射に対して無作為化した。浸透圧ポンプを、食塩水ポンプ又は組換えリラキシンポンプのいずれかを得るように動物を無作為化して28日目に植え込んだ。追跡評価を55日目に実施し、3日後に動物を屠殺した。加えて、17匹のマウスは、シャム操作され、続いて食塩水ポンプ又は組換えリラキシンポンプいずれかの植込が行われた対照動物として役立った。
【0076】
心機能測定
心エコー検査を、VisualSonicsのVevo 2100を使用して実施した。マウスの胸を剃毛し、マウスを腹臥位に保持した。温超音波カップリングゲル(37℃)を剃毛した胸部に載せ、MS400トランスデューサーを当てて、2D Bモード傍胸骨長及び短軸像並びに1D Mモード短軸像を取得した。駆出率(EF)を、MモードにおいてLV追跡機能を使用して、6回の連続した心拍から算出した。
【0077】
全てのTAC動物のEFは操作後7日目から徐々に低下した(EF:61.49±8.48%)。さらなる低下が全てのTAC操作動物において操作後28日目のポンプ植込前に検出された(EF:61.16±13.47)。55日目の追跡評価は、NaCl又はRLNのいずれかを受けた、AAV9.LUCを用いて処置した対照群においてEFのさらなる低下を示した(LUC NaCl EF:51.54±14.17及びLUC RLN EF:50.02±18.31)。EFのわずかな増加がNaClを用いて処置したRXFP1群において観察され(EF:60.25±16.57)、EFの有意な増加がRLNを用いて処置したRXFP1群において検出された(EF:64.97±12.78)(
図7B)。他のパラメータ、例えば左室内径(LVIdD)、補正左室質量、及び心拍数も測定したが、有意差は観察されなかった。
【0078】
分子解析
RNA発現
RNAを、TRIzol(登録商標)試薬(Ambion)を使用して、急速凍結組織(10mg)又は細胞溶解物(2×106個の細胞)から製造業者のプロトコルに従って抽出した。1μgの総RNAを、iScript cDNA合成キット(Bio-Rad)を使用してcDNAに逆転写した。iQ SYBR Green Supermixを製造業者のプロトコルに従って使用した。反応1つ当たり15μLの最終容量は、7.5μLのiQ SYBR Green Supermix、1μLの順及び逆方向プライマーミックス(それぞれ300nMの最終濃度)、並びに6.5μLの調製した希釈cDNA(反応1つ当たり3.25ngの最終濃度)からなった。定量的リアルタイムPCRをBio-Rad CFX96リアルタイムPCR検出システム(Bio-Rad)において二連で実施した。2-ΔΔCT法を使用して、試料間の相対遺伝子発現レベルを定量した。PCR産物の特異性をゲル電気泳動によって確認した。上の表1に列挙したプライマーをmRNA発現定量のために使用し、アニーリング温度の調整のみ行って表5の汎用RT-PCRプログラムを全てのプライマーに関して使用した。
【0079】
【0080】
RTPCRを使用した死後mRNA発現解析は、huRXFP1ウイルスを用いて処置したTAC動物の心室内のRXFP1 mRNA発現の有意な増加を明らかにした(
図7C)。対照ウイルスのみを用いて処置したTAC群と比較して、BNP mRNA発現の有意な減少がhuRXFPI及びRLN処置マウスにおいて観察された(
図7D)。
【0081】
他の病原性心臓リモデリング遺伝子発現を定量した。心臓リモデリング遺伝子ANP及びβ-MHC発現が減少する傾向がhuRXFP1遺伝子療法とRLNの両方を受けたTAC群において検出された。さらに、コラーゲン産生タンパク質(Col1a1、Col3a1、及びPostn)の減少傾向も、RLNを伴うhuRXFP1遺伝子療法処置群とRLNを伴わないhuRXFP1遺伝子療法処置群の両方において検出された。
【0082】
[実施例6]
高度に発現した場合のhuRXFP1の保護効果
トランスジェニック動物生成
FLAG huRXFP1を、制限部位と隣り合う全長α-MHCプロモーターを含有するプレースホルダープラスミド(place holder plasmid)にクローニングした。正確なクローンを同定した後、プラスミドを増殖し、目的の遺伝子及びプロモーターを含む構築物を、制限消化を使用してプラスミドから切除した。正確なDNA断片を同定及び精製した後に、これを核注入のためにUniversity of Heidelbergの動物施設に預けた。トランスジェニック(TG)動物生成プロトコルはDavisら(Davisら、2012、Circ. Res. 111(6): 761~777)に概ね基づいていた。
【0083】
心不全モデル生成及び実験準備
心不全モデルを以前に記載された横行大動脈縮窄術操作(TAC)によって生成した(Rockmanら、1991、Proc. Natl. Acad. Sci. 88: 8277~8281)。8週齢C57BL/6マウスを取り寄せ、操作前に体重を測定した。TAC操作を、横行大動脈の直径をおよそ0.44mmに効果的に小さくする27ゲージ鈍針を使用して0日目に実施した(Rockmanら、1994、Proc. Natl. Acad. Sci. 91(7): 2694~2698)。心機能測定を横行大動脈縮窄術(TAC)操作前(-2日目)、操作の7日後(7日目)、操作の28日後(28日目)、及び操作の42日後(42日目)に実施した(
図8A)。動物を最後の評価の2日後に屠殺した。加えて、20匹のマウスはシャム操作された対照動物として役立った。
【0084】
心機能測定
心エコー検査を、VisualSonicsのVevo 2100を使用して実施した。マウスの胸を剃毛し、マウスを腹臥位に保持した。温超音波カップリングゲル(37℃)を剃毛した胸部に載せ、MS400トランスデューサーを当てて、2D Bモード傍胸骨長及び短軸像並びに1D Mモード短軸像を取得した。駆出率(EF)を、MモードにおいてLV追跡機能を使用して、6回の連続した心拍から算出した。
【0085】
全てのTAC動物のEFは操作後7日目から徐々に低下した(EF:62.80±12.31%)。心機能のさらなる有意な低下が28日目のWT TAC操作動物(EF:58.59±11.70)において、TG TAC操作動物(EF:66.53±7.33)と比較して検出された。42日目の追跡評価はWT TAC動物におけるEF(EF:53.79±14.97)のより一層のさらなる低下をTG TAC動物(EF:67.96±8.50)と比較して示した(
図8B)。他のパラメータ、例えば左室内径(LVIdD)、補正左室質量、及び心拍数も測定したが、有意差は観察されなかった。
【0086】
分子解析
全てのRNAを、上の表1に列挙したプライマーを使用して解析した。RTPCRを使用した死後mRNA発現解析は、全てのhuRXFP1トランスジェニック動物の心室内のhuRXFP1 mRNA発現の有意な増加を明らかにした(
図8C)。WT TAC群と比較して、ANP及びBNP mRNA発現の有意な減少がTAC操作huRXFPIトランスジェニック動物において観察された(
図8C及びD)。
【0087】
他の病原性心臓リモデリング遺伝子発現を定量した。さらに、コラーゲン産生タンパク質(Col1a1及びCol3a1)の有意な減少がTAC操作huRXFP1 TG動物において検出された(
図8E及びF)。
【0088】
[実施例7]
RXFP1の陽性変力効果は新生仔ラット心室心筋細胞における細胞内カルシウムハンドリングを改善する
新生仔ラット心室心筋細胞(NRVCM)の単離
新生仔ラット心室心臓筋細胞(NRVCM)の初代培養を1~2日齢Wistarラット(Charles River)から調製した。新生仔ラットを断頭によって安楽死させ、心臓を取り出し、1×冷ADS溶液に入れた。心房及び他の血管を除去し、心臓を新たな1×冷ADS溶液に移した。ADS溶液を除去し、心室を、3mLの冷ADSを用いて洗浄した後に細断した。組織断片を、コラゲナーゼ及びパンクレアチンを含有する30mLの消化溶液を含むT75ボトルにおいて37℃で5分間消化した。組織断片をボトルの一方の側に沈殿させ、溶液を除去及び廃棄した。新しい消化溶液を添加し、組織断片を37℃で20分間消化した。20分後、組織断片を最大出力で5回ピペッティングし、溶液を、40μmセルストレーナーを介して50mLファルコンに回収及び濾過した。10mLのFCSを、セルストレーナーを介して添加し、溶液を1000rpmで5分間、室温にて遠心分離した。遠心分離後、上清を除去し、7mLのFCSを添加した。細胞溶液をさらなる処理まで37℃のインキュベーターに入れた。全ての組織片を完全に消化するために組織断片を少なくとも5回消化した。消化後、全ての細胞懸濁液を組み合わせ、1000rpmで5分間、室温にて遠心分離した。上清を除去し、細胞を12mLの冷1×ADSに再懸濁した。線維芽細胞及び心臓筋細胞を、パーコール密度勾配を使用して分離した。高純度の心筋細胞を取得するために、二層パーコール密度勾配を実施した。勾配は63%赤色パーコール溶液及び40.5%透明パーコール溶液からなった。4mLの赤色パーコール溶液を各15mLファルコンに添加した。次いで、3mLの透明パーコール溶液を、基礎技法を使用して添加した。1×冷ADSを含有する2mLの細胞溶液を勾配上に45度の角度で層状に重ねた。ファルコンを2400rpmで30分間、37℃にて0の減速度で遠心分離した。線維芽細胞を含む上側の間質細胞バンドを吸引によって除去した。下側の心筋細胞バンドは保ち、冷1×ADSを用いて2回洗浄した後に、10%v/vウシ胎児血清、100U/mLペニシリン、100μg/ストレプトマイシン、2mM L-グルタミン、及び1mM塩化カルシウムを補充した温かい199培地に再懸濁した。細胞をノイバウエルチャンバーにおいて手動で計数し、それに応じてプレーティングし
た(表6)。NRVCMを37℃及び5%CO2湿潤雰囲気において培養した。48時間後、ウシ胎児血清を0.5%に減少させ、細胞を2~5日間培養した。細胞をプレーティングした2日後、培地を除去し、細胞を、温PBSを用いて1回洗浄した後に、0.5%FCS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、1%L-グルタミン、1mM CaCl2を補充したM199飢餓培地を添加した。その後、細胞を回収するまで培地を2日ごとに交換した。細胞は最大7日間使用した後に廃棄した。
【0089】
【0090】
異所性RXFP1発現
ガラスボトムディッシュに播種したNRVCMに10,000vg/細胞のウイルスMOIを有するRXFP1ウイルス及びLuc対照ウイルスを形質導入した。ウイルスを細胞に48時間形質導入させた後に培地を交換した。
【0091】
NRVCMにおけるCa
2+
トランジェント測定
細胞内Ca2+トランジェントを、利用可能な装置に適合させる修正を加えたYuら(Yuら、2013、J. Biol. Chem. 288(31): 22481~22492)に従って測定した。NRVCMにRXFP1又はLUC AAVベクターを5日間形質導入した。培地を2日ごとに交換した。実験の当日、トランスフェクトされたNRVCMに1μM Fura 2 AMをM199培地中37℃で15分間、遮光下で負荷した。負荷後、細胞を、温かいM199培地を用いて37℃で15分間、遮光下で洗浄し、倒立型蛍光顕微鏡(IX70 Olympus)の台上の電極系に接続した。細胞を、1Hzのバイポーラを用いて電気刺激した。モノクロメータを使用して、Fura 2 AM負荷細胞を380nMで励起した。バイスペクトル放射(340nM/380nM)の交互測定を、蛍光顕微鏡を用いて5分間実施し、放射比を、ソフトウェアTILL visionを用いて算出した。データをMartin Bush博士によって記述されたオンラインプログラムにエクスポートした。以下のパラメータを解析した:a)トランジェントの振幅(Δ[340nM/380nM])及びb)拡張期Ca2+([340nM/380nM])。
【0092】
カルシウム振幅の有意な増加がRXFP1とRLNの両方を用いて処理したNRVCMの群において、NaClを用いて処理したLUCとRLNを用いて処理したLUCの両方と比較して観察された(
図9A及びB)。加えて、拡張期カルシウムの差は検出されなかった(
図9C)。最後に、上の表1のラットRXFP1プライマーを使用した追加のmRNA定量を実施し、有意なラットRXFP1 mRNA発現がRXFP1処理を受けたNRVCMにおいて観察された(
図9D)。
【0093】
[実施例8]
RXFP1の陽性変力効果は成体心筋細胞における細胞内カルシウムハンドリングを改善する
成体マウス心筋細胞の単離
成体マウス心細胞をHardingら(Hardingら、1990、Cardioscience. 1: 49~54)から修正したプロトコルに従って単離した。マウス心臓をランゲンドルフ技法において消化緩衝液を用いて灌流し、したがって単一心細胞の解離を可能にした。成体雄マウス(30~35g)を頸椎脱臼によって迅速に安楽死させた。腹部及び胸部の切開部分を、70%エタノールを用いて滅菌し、剪刀による横方向の切断によって開口した。腹部大静脈を露出し、ヘパリンをI.V.投与した。次いで心臓を露出し、大部分の大動脈と共に切り取り、10mLの室温の灌流緩衝液を含む6cmペトリ皿に迅速に入れた。大動脈をランゲンドルフ装置のカニューレにはめ込み、二重結びした外科用縫合糸を用いて固定した。灌流を約3.5mL/分の点滴速度にて直ちに開始した。心臓がカニューレに対して正確に配置されているかどうかを判断するために、冠動脈の充満を確かめ、評価した。残留血清微量元素及び遊離Ca2+を除去するために、心臓を、灌流緩衝液を用いて1分間洗浄した。その後、心臓をリベラーゼ(コラゲナーゼの混合物)及びトリプシン溶液の混合物を含有する消化緩衝液を用いて10分間灌流した。心臓が弛緩し、先の細い鉗子によって容易に貫通可能となった場合、灌流を停止した。心臓をカニューレから迅速に外し、心房を、外科剪刀を使用して切り取った。心臓を1mm片に細断し、1%BSA及び50μM CaCl2を含有する2.5mLの停止溶液1を溶液に添加して消化プロセスを停止した。心臓を、切れ目のある1mLピペットチップを使用して3分間ピペッティングした。溶液を50mLファルコンに濾過し、室温で15分間放置して沈殿させた。ペレットが形成した後、1.5mLの上清以外の全てを取り出し、0.5%BSA及び38μM CaCl2を含有する5mLの停止溶液2を細胞に添加した。カルシウム処理を、4分で62μM CaCl2から始めて、8分で114μM CaCl2、12分で191μM CaCl2、16分で498μM CaCl2、20分で960μM CaCl2として、溶液内のカルシウム濃度を調整することによって4分ごとに実施した。最後の調整後、細胞をインキュベーター中で12分間放置して沈殿させ、細胞を4つのラミニンコーティングしたカルシウムトランジェントガラスボトムディ
ッシュにプレーティングした。細胞を1時間接着させた。
【0094】
成体マウス心筋細胞におけるCa
2+
トランジェント測定
細胞内Ca
2+トランジェントを、利用可能な装置に適合させる修正を加えたYuら(Yuら、2013、J. Biol. Chem. 288(31): 22481~22492)に従って測定した。実験の当日、成体心筋細胞に1μM Fura 2 AMをBDM不含培地中37℃で20分間、遮光下で負荷した。負荷後、細胞を、温かいBDM不含培地を用いて37℃で20分間洗浄した。次に皿を遮光し、ハイスループット倒立型蛍光顕微鏡(Cytocypher)の台上の電極系に接続した。細胞を、1Hzのバイポーラを用いて電気刺激した。モノクロメータを使用して、Fura 2 AM負荷細胞を380nmで励起した。バイスペクトル放射(340nM/380nM)の交互測定を、ベースラインに関して、並びにNaCl、100nM RLN、及び10nM ISOを用いた1、5、及び10分の刺激後に蛍光顕微鏡を用いて実施した。トランジェントを、cytocypher製のトランジェント算出ソフトウェアを使用して算出した。以下のパラメータを解析した:a)ピーク高さ、b)逸脱速度(departure velocity)、及びc)回帰速度(return velocity)。全てのパラメータ解析における増加傾向が1分のRLN処理後の単離されたTG成体心筋細胞において観察された(
図10A~C)。
【0095】
[実施例9]
ヒト試料におけるRXFP1発現解析
分子解析
RNA発現
RNAを、TRIzol(登録商標)試薬(Ambion)を使用して、急速凍結組織(10mg)から製造業者のプロトコルに従って抽出した。1μgの総RNAを、iScript cDNA合成キット(Bio-Rad)を使用してcDNAに逆転写した。iQ SYBR Green Supermixを製造業者のプロトコルに従って使用した。反応1つ当たり15μLの最終容量は、7.5μLのiQ SYBR Green Supermix、1μLの順及び逆方向プライマーミックス(それぞれ300nMの最終濃度)、並びに6.5μLの調製した希釈cDNA(反応1つ当たり3.25ngの最終濃度)からなった。定量的リアルタイムPCRをBio-Rad CFX96リアルタイムPCR検出システム(Bio-Rad)において2連で実施した。2-ΔΔCT法を使用して、試料間の相対遺伝子発現レベルを定量した。PCR産物の特異性をゲル電気泳動によって確認した。表7に列挙するプライマーをmRNA発現定量のために使用し、アニーリング温度の調整のみ行って表8の汎用RT-PCRプログラムを全てのプライマーに関して使用した。
【0096】
【0097】
【0098】
48の外植心臓からの心室試料をUniversity of Heidelberg Biobankから取得した。10の心房生検試料をAG Constanze Schmidtから取得し、7つの健康心室試料をBiozol(1)、Biokatz(5)、及びamsbio(1)から購入した。RTPCRを使用した外植心臓及び心臓心房生検からのmRNA発現解析は、健康対照と比較した外植心臓の心室内のBNP mRNA発現の有意な増加を明らかにした(
図11A)。RXFP1 mRNAは不全心房において、非不全心室と比較して有意に発現した(
図11B)。最後に、不全心房と比較して不全心室においてRXFP1 mRNAの減少傾向が存在する(
図11B)。したがって、心臓においてRXFP1 mRNAのより高い発現が存在する。
【0099】
[実施例10]
RLN投与後のhuRXFP1 TG動物の血行動態変化
トランスジェニック動物生成
FLAG huRXFP1を、制限部位に挟まれた全長α-MHCプロモーターを含有するプレースホルダープラスミドにクローニングした。正確なクローンを同定した後、プラスミドを増殖し、目的の遺伝子を含む構築物及びプロモーターを、制限消化を使用してプラスミドから切除した。正確なDNA断片を同定及び精製した後に、これを核注入のためにUniversity of Heidelbergの動物施設に預けた。トランスジェニック(TG)動物生成プロトコルはDavisら(Davisら(2012)、Circ. Res. 111(6): 761~777)に基づいていた。
【0100】
心機能測定
圧容積ループ(PVループ)測定をAbraham及びMao(Abraham及びMao(2015)、J. Vis. Exp. (103): e52942)から修正して実施した。動物を体重に応じてメデトミジン、ミダゾラム、及びフェンタニルのカクテルを用いて15分腹腔内麻酔した後に測定を行った。正向反射が喪失した後、マウスを、外科用テープを用いて手術台に固定した。測定前、カテーテルチップを温食塩水中で30分間平衡化した。頸部及び胸部を、エタノールを用いて清浄し、被毛を除去した。切開を下顎骨から胸骨まで右頸動脈上に対して行った。周囲組織を剥離して右頸動脈を露出し、頸動脈に隣接して走る迷走神経を切断した。滅菌6.0絹製縫合糸を頸動脈の遠位端(胸部から離れた)付近に置き、結んで固定した。追加の縫合糸を頸動脈の第1の縫合糸の下に置いた。第2の縫合糸を緩く結び、頸動脈を第2の縫合糸の近位でクランプした。確実に頸動脈を近位と遠位の両方でクランプした後、第1の縫合糸の近位の頸動脈に対し小さく切開を行った。カテーテルチップを切開部を介して血管に挿入し、カテーテルを、第2の縫合糸を使用して固定した。カテーテルを、PVループの追跡に従って頸動脈を介して左心室内まで穏やかに進め、正確な留置を確実にした。算出可能なループを取得するために種々のフィルター設定を適用した。PVループ記録を開始し、10分間安定化させた。10分の定常状態後、100μLの10μg RLNを腹腔内(I.P.)投与した。PVループを実験全体にわたって被験物質の投与の10分後まで連続的に記録した。
【0101】
心拍数(HR)、最大dP/dt、及び最小dP/dtを製造業者の推奨(Transonic)に従って算出した。吸入と排出との間の平均20のPVループを算出のために使用した。HR及び最大dP/dtの有意な増加がRLNを受けたRXFP1トランスジェニック動物の群において、RLNを受けたWT動物と比較して観察された。
【0102】
【配列表】