(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】ハロゲン汚染を処理するための第4級アンモニウムハロゲン化物
(51)【国際特許分類】
A62D 3/33 20070101AFI20240820BHJP
B01D 53/68 20060101ALI20240820BHJP
A62B 29/00 20060101ALI20240820BHJP
C07C 211/63 20060101ALN20240820BHJP
A62D 101/49 20070101ALN20240820BHJP
【FI】
A62D3/33
B01D53/68 100
B01D53/68 200
A62B29/00
C07C211/63
A62D101:49
(21)【出願番号】P 2021569280
(86)(22)【出願日】2020-05-27
(86)【国際出願番号】 IL2020050593
(87)【国際公開番号】W WO2020240561
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-02-16
(32)【優先日】2019-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515078257
【氏名又は名称】ブロミン コンパウンズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(72)【発明者】
【氏名】コンパニエツ,イゴー
(72)【発明者】
【氏名】プレス フリメット,オー
(72)【発明者】
【氏名】コーヘン,オフィル
(72)【発明者】
【氏名】エラザリ,ラン
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0345062(US,A1)
【文献】特開2007-144399(JP,A)
【文献】特表2002-541466(JP,A)
【文献】特開昭63-166896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62B 29/00
A62D 3/30-38
B01D 53/68
C01B 7/00-09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
元素状ハロゲンの緊急溢出または漏出を処理するための方法であって、前記ハロゲンが臭素または塩素であり、前記方法が、第4級アンモニウムハロゲン化物の水性溶液を前記ハロゲンと接触させるステップ
;および、ハロゲン中和生成物を、液体または固体の塊の形態の錯体化臭素として収集するステップを含む、方法。
【請求項2】
前記第4級アンモニウムハロゲン化物が、脂肪族および環状第4級アンモニウム臭化物または塩化物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記脂肪族第4級アンモニウム臭化物が、式R
1R
2R
3R
4N
+Br
-[式中、R
1、R
2、R
3、およびR
4は独立して、直鎖または分岐状C
1~C
5アルキルから選択される]を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記R
1R
2R
3R
4N
+Br
-が、R
1、R
2、R
3、およびR
4が同じである対称第4級アンモニウム臭化物である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第4級アンモニウム臭化物が、臭化テトラエチルアンモニウム(TEAB)
、臭化テトラプロピルアンモニウム、または臭化テトラn-ブチルアンモニウム(TBAB)である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記環状第4級アンモニウム臭化物または塩化物が、臭化2-メチル-1-アルキル-ピリジニウム、塩化2-メチル-1-アルキル-ピリジニウム、臭化3-メチル-1-アルキル-ピリジニウム、および塩化3-メチル-1-アルキル-ピリジニウムからなる群から選択され、環の1位にあるアルキルが直鎖または分岐状C
1~C
5基である、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記臭化2-メチル-1-アルキル-ピリジニウムが、臭化2-メチル-1-エチル-ピリジニウム(2-MEPy)であり、前記臭化3-メチル-1-アルキル-ピリジニウムが臭化3-メチル-1-n-ブチルピリジニウム(3-MBPy)である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ハロゲンが臭素である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記
ハロゲンが液体臭素である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記第4級アンモニウムハロゲン化物の前記水性溶液が、前記液体臭素の上にフォームを形成するための起泡剤を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記起泡剤が、水性被膜形成フォーム(AFFF)剤である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第4級アンモニウムハロゲン化物が臭化テトラエチルアンモニウムであり、前記起泡剤が水性被膜形成フォーム(AFFF)剤である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記
ハロゲンが臭素ガスである、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ハロゲンが塩素ガスであり、第4級アンモニウム
ハロゲン化物の前記水性溶液が、1種または複数のアルカリまたはアルカリ土類金属臭化物をさらに含む、請求項1から
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記
第4級アンモニウムハロゲン化物の水性溶液が、40重量%以上の第4級アンモニウム
ハロゲン化物と、40重量%以上のアルカリまたはアルカリ土類金属臭化物とを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記
第4級アンモニウムハロゲン化物の水性溶液が、
R
1、R
2、R
3、およびR
4が同じC
1~C
5アルキル基である、式R
1R
2R
3R
4N
+Br
-の対称第4級アンモニウム臭化物と、臭化ナトリウムまたは臭化カルシウムと
を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記
第4級アンモニウムハロゲン化物の水性溶液が、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラプロピルアンモニウム、または臭化テトラブチルアンモニウムを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記
第4級アンモニウムハロゲン化物の水性溶液が、臭化テトラエチルアンモニウムを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記第4級アンモニウムハロゲン化物の水性溶液が、臭化テトラエチルアンモニウムおよび臭化カルシウムを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記溶液を前記塩素漏出上に噴霧するステップと、塩素中和生成物を、液体または固体の塊の形態の錯体化臭素として収集するステップとを含む、請求項
14から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
30から60重量%の、アルキルが直鎖または分岐状C
1~C
5アルキルである臭化テトラアルキルアンモニウム、および
30から55重量%の臭化ナトリウムまたは30から60重量%の臭化カルシウム
を含む、
元素状ハロゲン中和用水性溶液。
【請求項22】
40から60重量%の臭化テトラアルキルアンモニウム、および
40から55重量%の臭化ナトリウムまたは40から60重量%の臭化カルシウム
を含む、請求項
21に記載の
元素状塩素中和用水性溶液。
【請求項23】
前記臭化テトラアルキルアンモニウムが、臭化テトラエチルアンモニウムである、請求項
21または
22に記載の
元素状塩素中和用水性溶液。
【請求項24】
40から60重量%の臭化テトラエチルアンモニウム、および
40から60重量%の臭化カルシウムを含む、請求項21に記載の元素状塩素中和用水性溶液。
【請求項25】
元素状ハロゲンの緊急漏出の場合における
元素状ハロゲン中和剤としての、40重量%以上の濃度を有する第4級アンモニウムハロゲン化物の水性溶液の使用
であって、前記ハロゲンが塩素であり、
前記第4級アンモニウムハロゲン化物の水性溶液が1種または複数のアルカリまたはアルカリ土類金属臭化物をさらに含む、使用。
【請求項26】
前記第4級アンモニウムハロゲン化物が臭化テトラエチルアンモニウムであり、前記アルカリ土類金属臭化物が臭化カルシウムである、請求項25に記載の使用
【請求項27】
即座に噴霧可能なまたは注ぎ可能な形態で、40重量%以上の濃度を有する第4級アンモニウムハロゲン化物の水性溶液を含む、
元素状ハロゲン中和緊急システム
であって、
前記システムは、手動ポンプを有するバックパックとして組み立てられる小規模システム、牽引装置またはリフティング装置を有する車両に設置される大規模システム、および、消火装置から選ばれるシステム。
【請求項28】
40重量%以上の濃度を有する第4級アンモニウムハロゲン化物の水性溶液を含む、元素状塩素中和緊急システムであって、前記ハロゲン化物が臭化物
または塩化物であり、前記第4級アンモニウム
ハロゲン化物の水性溶液が、1種または複数のアルカリまたはアルカリ土類金属臭化物をさらに含
み、
中和システムが、塩素漏出の検出に応答して溶液を送出するように塩素パイプラインの上方に位置決めされた噴霧器からなる、元素状塩素中和緊急システム。
【請求項29】
前記第4級アンモニウムハロゲン化物が臭化テトラエチルアンモニウムであり、前記アルカリ土類金属臭化物が臭化カルシウムである、請求項28に記載の元素状塩素中和緊急システム。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ハロゲンは、いくつかの工業的用途、例えば難燃剤、殺生物剤、掘削流体、ならびにエネルギー貯蔵などの新しい応用例に利用されている。元素状臭素は、室温で液体であり、蒸気圧が高い。これは強力な酸化剤であり、保護手段なしで元素状臭素に偶発的に曝露されると、曝露の重症度に応じて刺激、火傷、および中毒を引き起こす可能性がある。さらに、臭素の漏出は環境災害をもたらす。
【0002】
元素状塩素は、室温で気体であり、腐食性を有し、知られている最も有害な材料の1つである。緑がかった黄色を有し、ヒリヒリとする刺激臭があり、空気よりも重く、したがって塩素ガスはより低い場所に沈降する傾向がある。塩素ガスの取り扱いが不適正であると、かなりのダメージをもたらす可能性がある。EPA(米国環境保護庁)の報告によれば、1300を超える塩素放出の事象が毎年生じており、その結果、他のどの化学物質よりも多く、平均して300名が怪我をし27名が死亡している。塩素ガス曝露の最も危険な経路は吸入であり、深刻な肺損傷を引き起こし、死に繋がる可能性もある。溢出した場合、塩素は急速に拡がり、そのような塩素放出が主要な懸念になる。
【0003】
今日までのところ、臭素漏出の緊急事態の場合の手順は、並行して作用させるいくつかの異なる化学物質を含む、複雑で時間のかかる方法を含む。液体臭素相は多くの場合Ca(OH)2および水で処理され、一方、気体臭素相はアンモニアガスで処理され、アンモニアによって引き起こされる2次的な生態学的汚染のリスクを引き起こす可能性がある。
【0004】
塩素が溢出した場合、水を塩素ガスの靄に向かって噴霧して、その拡散を遅くしかつその濃度を希釈する。
【0005】
オペレーション緊急チームは、溢出した気相と液相を同時に処理するために、何人かのよく訓練されたメンバーを含まなければならない。処理では、漏出場所に近づくことおよび接触することがあり、これには適切な個人の安全性のための防具、例えば特殊保護スーツ、保護マスク、および呼吸措置を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、ハロゲンのさらなる拡散を防止するため、緊急事態の場合の迅速な対応、および得られた廃棄物の安全で効率的な除去が可能になる、容易で簡単な手順が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は主に、ハロゲン(臭素または塩素)の緊急溢出または漏出を処理するための方法であって、第4級アンモニウムハロゲン化物の水性溶液をハロゲンと接触させるステップを含む、方法を対象とする。第4級アンモニウムハロゲン化物は、臭化物または塩化物であり、脂肪族および環状第4級アンモニウム臭化物または塩化物からなる群から選択される。
【0008】
本発明の方法は、以下の詳細に示されるように、ハロゲンを迅速に中和すること、およびハロゲン中和生成物を液体または固体の塊の形態の錯体化臭素として収集することを可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0009】
元素状臭素は高い蒸気圧を有するので、臭素の漏出は、溢出を封じ込めかつさらなる汚染の広がりを防止するために、迅速な応答時間を必要とする。したがって一態様では、本発明は、臭素の溢出または漏出を隔離し、前記臭素がさらに蒸発しかつより広い面積を汚染するのを防止する方法を提供する。したがって本発明の方法は、水性第4級アンモニウムハロゲン化物塩溶液を、隔離することが求められる臭素源に直接適用することにより、液相および/または気相の両方の臭素汚染に適用することができる。本発明によれば、第4級アンモニウムハロゲン化物塩溶液は、元素状臭素(Br2)源に適用された場合、遊離臭素を前記塩と錯体化させる。錯体化臭素は、高い蒸気圧を示さず、したがって錯体化臭素は安全に封じ込められると考えられることが理解されよう。
【0010】
別の態様では、本発明は、塩素ガスを隔離/処理して前記塩素がさらに拡散しかつより広い面積を汚染しないようにするための方法を提供する。したがって本発明の方法は、水性第4級アンモニウムハロゲン化物塩溶液を、隔離することが求められる塩素源に直接適用することによって、気相塩素汚染に適用することができる。一部の実施形態では、水性第4級アンモニウムハロゲン化物塩溶液は、流入する塩素ガス流上/流入方向に噴霧することができる。
【0011】
ある特定の実施形態では、本発明の水性第4級アンモニウムハロゲン化物塩溶液は、臭素蒸気を処理しかつ気相臭素がさらに拡散するのを防止するために利用される。本発明によれば、水性第4級アンモニウムハロゲン化物塩溶液は、臭素の気相/臭素の蒸気に直接噴霧される。第4級アンモニウムハロゲン化物塩溶液の噴霧された液滴と、臭素蒸気との間の接触により、臭素は前記塩と錯体化して液体の形態で残り、新たに形成された臭素-アンモニウム塩錯体は高い蒸気圧を示さず、したがって錯体化臭素は封じ込められると考えられ、さらに拡散しない。
【0012】
他の実施形態では、本発明の水性第4級アンモニウムハロゲン化物塩溶液は、液体臭素源を処理するのに利用される。本発明によれば、水性第4級アンモニウムハロゲン化物塩溶液を、液体臭素源に添加する、注ぐ、または噴霧する。このように液体臭素に水性アンモニウム塩溶液を添加すると、2つの液相が形成する;上部水性相(上相)は、ほとんど水からなりかつ残りの量は第4級アンモニウム塩および臭素であり;一方、下部有機相(底部相)は、ほとんどが臭素-第4級アンモニウム塩錯体の形態で臭素を含む。理解できるように、錯体化臭素材料を含む下相は、水ベースの上相よりも重く、より重い臭素含有有機相は閉じ込められ隔離され、即ち、臭素を含有する液体/空気の界面を排除する。
【0013】
本発明によれば、第4級アンモニウムハロゲン化物塩溶液を液体臭素に添加すると、空気に曝露される上部水性液体表面は、残留量の臭素のみを含有し、塩添加および臭素錯体化の後に臭素蒸気は放出されない。上述の相分離は、第4級アンモニウムハロゲン化物塩溶液を臭素液体源に最初に添加してから数秒以内に生じ、それによって臭素の急速な錯体化および隔離がもたらされる。
【0014】
本明細書で使用される「第4級アンモニウムハロゲン化物」という用語は、窒素が正電荷を有する陽イオンと、対ハロゲン化物陰イオンとから構成される化合物を含む。窒素は4個の炭素原子に結合しているので正電荷を持つと考えることができ、これは式R1R2R3R4N+X-[式中、R1、R2、R3、およびR4は独立して、直鎖または分岐状C1~C5アルキル基およびアリール基から選択され、X-は、対陰イオンを示し、これはハロゲン化物イオン、例えば臭化物イオンまたは塩化物イオンである]を有し、例えば、R1、R2、R3、およびR4が同じである対称第4級アンモニウムハロゲン化物塩(例えば、臭化テトラエチルアンモニウム(TEAB)および臭化テトラn-ブチルアンモニウム(TBAB))である。窒素が、環、例えば芳香族環を含む5または6員環の一部を形成する第4級アンモニウムハロゲン化物塩も、本発明で有用であり、即ち、ピリジニウム塩、例えば臭化2-メチル-1-アルキル-ピリジニウム、塩化2-メチル-1-アルキル-ピリジニウム、臭化3-メチル-1-アルキル-ピリジニウム、および塩化3-メチル-1-アルキル-ピリジニウムであって、環の1位にあるアルキルが直鎖または分岐状のC1~C5基であるものである。例えば、臭化3-メチル-1-n-ブチルピリジニウム(3-MBPy)および臭化2-メチル-1-エチルピリジニウム(2-MEPy)である。そのようなピリジニウム塩の合成は、米国特許第9,722,281号および米国特許第9,905,874号に記載されている。即ち本発明は、脂肪族および環状第4級アンモニウムハロゲン化物、特に臭化物の使用を企図する。
【0015】
一部の追加の実施形態では、本明細書で既に述べたように利用される第4級アンモニウムハロゲン化物塩溶液の濃度は、30重量%以上であり、例えば40重量%以上であり、かつ飽和(約90重量%)までであり、例えば40重量%から60重量%である。
【0016】
本発明によれば、液体臭素に添加される第4級アンモニウムハロゲン化物塩溶液の濃度、より詳細には、アンモニウム塩と臭素とのモル比は、得られる下相の物理的性質に影響を及ぼす。意外にも、得られる下相(錯体化臭素からなる)の最終的な物理状態は、汚染が生じた場所から安全な臭素廃棄領域への、錯体化臭素の安全な除去が容易になるように、制御できることを見出した。上述のモル比は、第4級アンモニウムハロゲン化物塩溶液を、処理されかつ後に廃棄されることが求められる臭素溶液と混合した後の、第4級アンモニウム:臭素の比を指すことを理解すべきである。
【0017】
したがって別の態様では、本発明は、臭素の漏出または溢出に起因して形成された臭素含有廃棄物を廃棄する方法を提供する。本発明によれば、第4級アンモニウム:臭素の比が1:1から約1:8の範囲となる第4級アンモニウム塩溶液の添加は、臭素源と混合された水性溶液で利用される第4級アンモニウム塩に応じて、アンモニア塩溶液を添加してから数時間以内に錯体化臭素を含有する固相、ゲル様相、または液相の形成を促進させることになる。例えば、1:1から約1:4の間の第4級アンモニウム:臭素で、本発明の溶液中で第4級アンモニウム塩として臭化テトラ-エチルアンモニウム(TEAB)を利用することで、錯体化臭素を含有する固相を生成することになり、これを当初の溶液から容易に除去し、公知の方法、例えば濾過または手作業によって収集することができる。錯体化臭素を含む前記固体は、臭素の錯体が生じた日から少なくとも5カ月間にわたり、化学的かつ構造的に安定であると特徴付けられる。
【0018】
ある特定の実施形態では、ゲル様形態または固体形態のいずれかからの錯体化臭素のリサイクルを実現することができ、臭素は、アンモニウム塩から分離し、再使用することができる。
【0019】
さらなる態様では、本発明は、液体臭素源と周囲領域との間の界面に、その表面を経た臭素ガスの蒸発を防止する安定なフォームを形成することによって、周囲から液体臭素源を隔離および/または不活性化する方法を提供する。本発明の不活性化フォームを実現するには、起泡剤を含む水性第4級アンモニウムハロゲン化物塩溶液を使用し、前記溶液を、不活性化および隔離が求められる液体臭素源の表面に噴霧する。液体臭素表面に形成されるフォームは、臭素表面からの臭素蒸気の蒸発を防止し、したがって、臭素の蒸気による周囲の雰囲気および環境のさらなる汚染を防止する。
【0020】
本発明によれば、得られるフォームは数時間以内に固くなり、形成された固相は、本明細書で既に述べたように安全に廃棄することができる。
【0021】
一部の実施形態では、得られたフォームおよび臭素源相は、フォームが液体臭素源の表面に付着されてから数時間以内に単一固相を形成する。
【0022】
一部の関連ある実施形態では、上述の方法で利用される起泡剤は、水性被膜形成フォーム(AFFF)として特徴付けられる界面活性剤である。前記起泡剤は、消火活動の用途で一般に使用される。したがって、本発明で利用されるフォームは、炭水化物ベースの界面活性剤、例えばアルキル硫酸ナトリウムを含有する水ベースの起泡剤、またはアルコール耐性水性被膜形成フォーム(AR-AFFF)のいずれかである。そのようなアルコール耐性剤の非限定的な例は、FireAid-AR(登録商標) 2000である。本発明で利用され得るその他のフォームは、C5~C10短鎖両性界面活性剤、C5~C10非イオン性界面活性剤、陰イオン性炭化水素界面活性剤、およびフッ素化界面活性剤である。
【0023】
一部のその他の関連ある実施形態では、第4級アンモニウム塩溶液中の前記起泡剤の濃度は、5から30重量%の間である。一部のその他の実施形態では、前記起泡剤の濃度は5から15重量%の間である。
【0024】
本発明の第4級アンモニウムハロゲン化物塩溶液は、化学的に安定であり、現場での使用に利用可能とすることができる。したがって本発明はさらに、40重量%以上の濃度の第4級アンモニウムハロゲン化物の、噴霧可能なまたは注ぎ可能な水性溶液を含む、即ち本明細書に記載の組成による、ハロゲン中和緊急システムを提供する。
【0025】
システムは例えば、緊急時の場合に使用する準備ができた、水性第4級アンモニウムハロゲン化物塩溶液を含む、可搬式装置であってもよい。例えば、約40重量%から約90重量%の間の濃度のアンモニウム塩を有する20Lの水性第4級アンモニウム塩溶液の小規模システムは、曝露された臭素源に本発明の水性第4級アンモニウム塩を容易に添加するための手動ポンプを有するバックパックとして組み立てることができる。別の例では、本発明の上述の溶液を含む大規模システムを、より遠隔にある溢出/漏出の場所で利用することができる、牽引装置または特殊なリフティング装置などの必要なフォーマットを有する車両に設置することができる。
【0026】
さらに例えば、消火装置を改造し、40重量%から90重量%の間の濃度を有する第4級アンモニウム塩溶液を可搬式ユニットに充填して当業者に公知の方法にしたがい前記溶液を空気で圧縮することによって、火災を抑制するのに一般に使用されるような類似の条件下で利用することができる。
【0027】
本発明の特定の態様は、
第4級アンモニウム臭化物塩、例えば上記定義されたような脂肪族および環状第4級アンモニウム臭化物と;
無機臭化物源、例えばアルカリまたはアルカリ土類金属臭化物と
を含む水性組成を用いて、塩素ガスの緊急漏出を中和する方法に関する。
【0028】
本発明者らは、そのような1対の臭化物塩を水に溶解して、
30重量%以上、例えば>40重量%、>45重量%の1種または複数の第4級アンモニウム臭化物塩(複数可)と;
30重量%以上、例えば>40重量%、>45重量%の1種または複数のアルカリまたはアルカリ土類金属臭化物、例えば臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化カルシウム、またはこれらの混合物と
を含むまたはこれらからなる、濃縮された、僅かに粘性があるがそれでも容易にポンプ送出可能な/噴霧可能な溶液を作製できることを見出した。
【0029】
上述の溶液は、本発明の追加の態様、特に、R1、R2、R3、およびR4が同じである、例えばR1=R2=R3=R4=C1~C5アルキル基である、対称第4級アンモニウム臭化物塩(例えば、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラプロピルアンモニウム、または臭化テトラブチルアンモニウム)を、臭化ナトリウムまたは臭化カルシウムと共に、水に溶解することによって作製された溶液を形成する。
【0030】
したがって本発明は特に、
30から60重量%(例えば、40から60重量%)の、アルキルが直鎖または分岐状C1~C5アルキルである臭化テトラアルキルアンモニウム;および
30から55重量%(例えば、40から55重量%)の臭化ナトリウムまたは30から60重量%(例えば、40から60重量%)の臭化カルシウム
を含む、ハロゲン中和用水性溶液を提供する。
【0031】
1つの好ましい水性溶液は、30から60重量%(例えば、40から60重量%)の臭化テトラエチルアンモニウム;および30から55重量%(例えば、40から55重量%)の臭化ナトリウムを含む、またはこれらからなる。
【0032】
1つの好ましい水性溶液は、30から60重量%(例えば、40から60重量%)の臭化テトラエチルアンモニウム;および30から60重量%(例えば、40から60重量%)の臭化カルシウムを含む、またはこれらからなる。
【0033】
以後、本発明者らは、「混合された」溶液を示すのに、表記QABr/Mn+(Br)n(M=Na、M=K、およびn=1;またはM=Caおよびn=2)を使用する。これらの溶液は、個々の塩の飽和したまたはほぼ飽和した溶液を組み合わせることによって、都合良く調製される(例えば、臭化テトラエチルアンモニウムの約50重量%の水性溶液、臭化ナトリウムの約45重量%の水性溶液、および臭化カルシウムの約52重量%の水性溶液を使用して、「混合された」溶液を調製することができる)。QABr/Mn+(Br)n溶液の密度は、1.2から1.7g/ccの範囲にある。溶液は、結晶化に対して安定である。
【0034】
以下に報告される実験結果は、カラムの底部に送出され蓄積された塩素ガスが、濃縮されたQABr/M
n+(Br)
n溶液をカラムの頂部に噴霧することによって(即ち、向流方向に)、効果的に中和されたことを示す。実験装置を
図4に示し、以下に詳細に記載する。カラム内の圧力変化のバランスをとるようにかつカラムから逃げて行く塩素蒸気を捕捉するように設計された、下流に位置付けられた捕捉システムは、カラムから放出された残留塩素ガスを検出しなかった。
【0035】
添加された無機臭化物源は、第4級アンモニウム臭化物の中和作用を持続させる。塩素は、臭素よりも強力な酸化剤である:
Cl2(g)+2Br-
(aq)→2Cl-
(aq)+Br2(l)
【0036】
塩素は、溶液によって吸収されると、臭化物イオンによって還元される。したがって塩化物イオンは、第4級アンモニウムに会合した臭化物対イオンにとって替わる可能性があり、その結果、対応する塩化物、例えば塩化テトラエチルアンモニウムが形成される。本発明の支援により実行される実験操作は、塩化テトラエチルアンモニウムが、元素状塩素に関して不十分な錯化剤であることを示す。臭化ナトリウムまたは臭化カルシウムなどの無機臭化物源を添加することの利益は、塩素を還元するための臭化物イオンの供給にあり、第4級アンモニウムはその臭化物対イオンを有することができるようになる。次いで付随して発生した元素状臭素を、第4級アンモニウム臭化物に強力に会合させることができる。第4級アンモニウムの塩化物による臭化物の置換はある程度まで避けられないが、QABr/Mn+(Br)n対の効率を損なうべきではなく、それはQAClが、臭素分子の錯化剤として十分合理的に作用するからであり:本発明者らの結果は、塩化テトラエチルアンモニウムが臭素とのカップリングにおいて合理的に有効であることを示す。
【0037】
したがって本発明の特定の態様は、例えば、塩素がパイプラインを経てその意図される使用の現場(例えば、化学反応器)に供給される化学プラントおよびその他の施設におけるパイプラインからの、塩素の緊急漏出を中和する方法であり、この方法は、上述のQABr/Mn+(Br)n溶液を漏出上に噴霧するステップと、塩素中和生成物を錯体化臭素として液体または固体の塊の形態で収集するステップとを含む。
【0038】
例えば、QABr/Mn+(Br)nをベースにした中和システムは、塩素漏出の検出に応答して溶液を送出するように塩素パイプラインの上方に位置決めされた噴霧器からなってもよい。上述のようにおよび以下の実験セクションで示されるように、類似の手法で試験された、濃縮されたQABr/Mn+(Br)n(カラムの向流装置の頂部から塩素ガス上に噴霧する)は、高い効率を実証した。
【0039】
本発明は、ハロゲンの緊急漏出の場合におけるハロゲン中和剤としての、40重量%以上の濃度を有する第4級アンモニウムハロゲン化物の水性溶液の使用も提供し、その特定の組成は上述の通りである。塩素の緊急漏出の処理の場合、第4級アンモニウム臭化物の水性溶液は、好ましくはさらに、1種または複数のアルカリまたはアルカリ土類金属臭化物を含み、その特定の組成は上記にて詳述されている。
【0040】
本発明は、即座に噴霧可能なまたは注ぎ可能な形態で、濃度が40重量%以上である第4級アンモニウムハロゲン化物の水性溶液を含む、既に述べたようなハロゲン中和緊急システムも提供し、例えばその組成は上記にて詳述されている。塩素中和緊急システムに設置される場合、噴霧可能な水性溶液はさらに、1種または複数のアルカリまたはアルカリ土類金属臭化物を含み、その特定の組成は上記にて詳述されている。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】
図1Aは、時間に対する重量%の変化を示し、一方、
図1Bは、第4級塩/臭素混合物の重量損失の大きさを示す図である。
【
図2】実施例8Aで示されるCl
2捕捉プロセスを示す図である。
図2Aは、実験の開始点であり、
図2Bは、塩素30gを添加した後であり、
図2Dは、実験の終わりに得られた相分離である。
【
図3】実施例8Bで示されるCl
2捕捉プロセスを示す図である。
図3Aは、実験の開始点であり、
図3Bは、塩素50gを添加した後であり、
図3Cは、塩素93gを添加した後であり、
図3Dは、塩素147gを添加した後である。
【
図4】塩素中和に使用される実験装置を示す図である。
【実施例】
【0042】
[実施例1]
臭素蒸気の処理
それぞれが10gの液体臭素(Br2)である2つの試料を、250mlのガラス瓶に添加した。瓶を密閉すると、瓶内でBr2蒸気が形成された。
【0043】
50重量%の臭化テトラエチルアンモニウム(TEAB)水性溶液を、小型の噴霧フラスコに添加した。
【0044】
2本の密閉したBr2含有瓶を開け、垂直に下に向けて、重いBr2蒸気を放出した。瓶番号(1)を参照として使用し、一方、瓶番号(2)は、下記の通り処理した:上述のTEAB溶液の約3mlを、瓶番号(2)の開口に向けて噴霧した。
【0045】
結果: 参照瓶番号(1)は、臭素蒸気を放出し続け、一方、瓶番号(2)からは蒸気放出は観察されず、これはTEAB溶液が噴霧されたものであり、小さい褐色の液滴が瓶の内側に観察された。
【0046】
[実施例2]
臭素溢出の処理
A) 50重量%の臭化3-メチル-1-n-ブチルピリジニウム(3-MBPy;BCA13とも呼ばれる)42gを、液体臭素32gを含有する分液漏斗に添加した(1:2のモル比)。2種の液体を、分液漏斗を振盪させることによって混合、次いで静置した。2相、即ち上部水性相(僅かに黄色)および底部有機相(赤褐色)が直ぐに形成された。2相を直ぐに収集し(別々に)、下記の通りHPLCおよび滴定を利用して分析した:
【0047】
両方の相を、ヨウ素滴定(ヨウ化物酸化の後、チオスルフェートで滴定)およびHPLC(HP 1100、UV検出器およびCROMASYL C-18カラム(2.1×250mm)、Agilentを備える)を使用して、Br2および3-MBPyに関して分析した。底部相(53.4g)は、37重量%の3-MBPyおよび58重量%の臭素を含有することがわかった。上相(20.4g)は、残留量の3000ppmの3-MBPyおよび380ppmの臭素を生じさせた。
【0048】
B) 液体臭素(160g)を1Lのガラス開放容器に導入し、臭素蒸気を観察した。臭化テトラエチルアンモニウム(TEAB)水性溶液(105gの50重量%溶液)を、液体臭素表面に注いだ。
【0049】
結果: 2相は、TEAB溶液の添加後、直ぐに形成され、相分離後に臭素蒸気は観察されなかった。底部相は、約2時間後に固化した。
【0050】
C) 液体臭素(120g)を1Lのガラス開放容器に添加し、臭素蒸気を観察した。臭化テトラブチルアンモニウム(TBAB)水性溶液(161gの50重量%溶液)を液体臭素表面に注いだ。
【0051】
結果: 2相が、臭化テトラブチルアンモニウム溶液の添加後に直ぐに形成され、相分離後に臭素蒸気は観察されなかった。2時間後、底部相はゲル様相に変わった。得られたゲル様相を、液体臭素40gを利用して液化した。
【0052】
[実施例3]
臭素溢出のフォーム不活性化
A) 液体臭素(50g)を1Lのガラス開放容器に添加し、臭素蒸気を観察した。50重量%臭化テトラエチルアンモニウムの92重量%のTEAB溶液と、8重量%の起泡剤AR-AFFF FireAid-AR(登録商標) 2000溶液とを含有する25gの溶液を、ポンプスプレーを利用して液体臭素表面に噴霧した。
【0053】
結果: 臭素表面の上にフォームが直ぐに形成され、臭素-空気の界面を覆い、臭素蒸気放出は観察されなかった。
【0054】
さらに30gの液体臭素を、フォームの上にゆっくり添加したところ、蒸気の放出は生じなかった。
【0055】
数時間後、臭素源全体および表面コーティングフォーム相が固化した。
【0056】
B) 液体臭素50gを、1Lのガラス開放容器に注ぎ、臭素蒸気を観察した。50重量%の臭化3-メチル-1-n-ブチルピリジニウム(3-MBPy)溶液(80重量%)および8重量%の起泡剤AR-AFFF FireAid-AR(登録商標) 2000を含有する25gの溶液を、液体臭素表面にポンプスプレーを利用して噴霧した。
【0057】
結果: 臭素表面の上にフォームが直ぐに形成され、臭素-空気の界面を覆い、臭素蒸気放出は観察されなかった。
【0058】
さらに30gの液体臭素をフォームの上に滴下したところ、蒸気放出は生じなかった。
【0059】
C) 液体臭素50gを、1Lのガラス開放容器に注いだ。容器の底部が液体臭素で覆われ、臭素蒸気が形成された。25gの、92重量%2-MEPy溶液(50重量%の臭化2-メチル-1-エチルピリジニウム、(2-MEPy)を、8重量%の起泡剤AR-AFFF FireAid-AR(登録商標) 2000溶液と混合したものを、液体臭素表面に噴霧した。
【0060】
結果: 臭素表面の上にフォームが直ぐに形成され、臭素-空気の界面を覆い、臭素蒸気放出は観察されなかった。
【0061】
さらに30gの液体臭素をフォームの上に滴下したところ、蒸気放出は生じなかった。
【0062】
[実施例4]
処理された臭素固形分の収集
処理された液体臭素の固体生成物を、実施例2Bおよび3に記載のように得た。固形分を、へらによって手作業で、プラスチック容器内に収集した。生成物の変化は、3カ月の期間後に観察されなかった。
【0063】
[実施例5]
処理された臭素液体の収集
実施例2Cに記載のように得られた、処理された液体臭素の液体生成物を、手作業で吸引により、プラスチック容器内に収集した。生成物の変化は、3カ月の期間後に観察されなかった。
【0064】
[実施例6]
蒸発速度の測定
本研究の目的は、液体臭素に添加される第4級アンモニウム塩の、臭素蒸気の放出を抑制する能力を試験することであった。研究は、液体臭素(Br2;対照)、3-MBPy/Br2、TBAB/Br2、およびTEAB/Br2を、本明細書で以下の表1に示すように様々なモル比で含有する試料に関する重量変化をモニターすることに基づく。重量損失は、参照と同じ条件下で測定した。
【0065】
(33ml)の試料を天秤に置き(0.01g)、重量をゼロに設定した。重量変化を、5秒ごとに記録した。実験を、周囲条件下で行った。
【0066】
結果:
図1Aおよび1Bならびに本明細書の以下の表1に示されるように、少量の第4級アンモニウム臭化物を臭素に添加しても、臭素蒸発が著しく低減することが実証された。50.04g/時の重量損失速度が、液体臭素それ自体に関して測定され、3-MBPyおよび臭素を1:3のモル比で含むシステムでは3.96g/時に低減した。さらなる重量損失速度の低減は、同じモル比(1:3)のTEABを利用して実現され、1.08g/時の最小重量損失が得られた。
【0067】
【0068】
[実施例7]
錯体化臭素の物理形態に対する第4級アンモニウム塩の影響
種々の第4級アンモニウム塩を試験して、それらが種々のモル比で臭素を錯体化する能力を決定した。臭化3-メチル-1-n-ブチルピリジニウム(3-MBPy)、臭化テトラ-ブチルアンモニウム(TBAB)、および臭化テトラ-エチルアンモニウム(TEAB)の溶液[50重量%溶液、合計で0.25モル第4級アンモニウム塩]を、表2に示すモル比で、ガラス容器内で、40、80、120、160、および200gの様々な重量で液体臭素と混合した。混合後に得られた下相は、物理的状態に従っておよび錯体化が生じた後に臭素蒸気が観察されたか否かによって、特徴付けた。
【0069】
【0070】
表2からわかるように、錯体化臭素の物理形態は、その錯体化に利用される第4級アンモニウム塩の種類に依存するだけでなく、前記第4級アンモニウム塩と臭素との間のモル比にも依存し得る。さらに、3-MBPy、TBAB、およびTEABの場合、第4級アンモニウム:臭素の1:4のモル比まで臭素蒸発は観察されなかったことがわかる。
【0071】
[実施例8]
第4級アンモニウム臭化物単独でのおよび第4級アンモニウム臭化物/NaBrでの塩素(Cl2)ガスの中和
A. 50重量%の3-MBPy溶液460gを、ガラス容器に入れた。ガラス容器を排気し、溶液を撹拌し、放出を20重量%のNaOHトラップで捕捉した。
【0072】
Cl
2ガスを、容器内にバブリングした。Cl
2ガスの添加を、塩素ガス圧縮タンクから実施し、半分析天秤を使用して制御し記録した。相分離が、
図2で観察できるように、30gのCl
2添加後に観察された。溶液の色は、Cl
2添加の進行中に、より明るくなった。
【0073】
合計で2モル(142g)の塩素ガスが、記述される3-MBPy溶液中に捕捉された。
【0074】
B. 50重量%の3-MBPy溶液460gを、ガラス容器内に添加した。155gのNaBrを溶液中に添加した。ガラス容器を排気し、溶液を撹拌し、放出を、26重量%のNaOHトラップで捕捉した。
【0075】
Cl
2を、容器内にバブリングした(105分の持続時間)。Cl
2ガスの添加を、塩素ガス圧縮タンクから実施し、半分析天秤を使用して制御し記録した。溶液の色は、
図3で観察できるように、Cl
2添加の進行中に、より濃くなった。塩素ガスの添加は、トラップでのガス放出が観察されてから停止した。
【0076】
合計で2.45モル(174g)の塩素ガスが、記述される3-MBPy:NaBr溶液中に捕捉された。反応は発熱性であり、温度は、80gの塩素を添加した後に70.8℃に到達した。塩素のさらなる添加は、温度のさらなる上昇を引き起こさなかった。
【0077】
[実施例9から12]
第4級アンモニウム臭化物/無機臭化物の処理溶液の対向噴霧によるCl
2ガス放出の排除
実施例の次の設定で使用される実験装置を、
図4に示す。実験装置は、3つの主な部分:供給源(1)および(2)、反応チャンバー(3)、およびガス捕捉システム(4)からなる。供給源から、制御された量のCl
2ガス(2)と、第4級アンモニウム臭化物および無機臭化物塩(1)からなる処理溶液とが、別々に反応チャンバー内に送出される。Cl
2入口は、反応チャンバー(カラム3、これは30Lの密閉されたガラス容器である)の底部に位置付けられている。溶液は、タンク(1)からカラム(3)に、カラム(3)の上部セクションの中心に位置決めされたノズル(3o)を経て噴霧することにより、向流方向に供給される。
【0078】
Cl2ガスと反応溶液との化学反応は、カラム(3)の内部で生じる:臭化物イオンによるCl2の還元、および第4級アンモニウムハロゲン化物によって形成される元素状臭素の錯体化。反応チャンバー内の大気圧は、2方向のガス流を捕捉システム(4)に通すことによって、バランスをとる。捕捉システムは、反応チャンバー(カラム3)の一端から排気口まで直列に接続された3つの捕捉容器(M1、M2、およびM3)からなる。第1のトラップM1は、空の容器からなり、これは陰圧がカラム内に蓄積されたときに反応チャンバー(カラム3)への捕捉溶液の流れを防止するのに使用される。その他の2つのトラップ(M2およびM3)には、水酸化ナトリウム溶液(20~25重量%)が充填されて、カラム(3)から逃げたCl2またはBr2ガスを収集し中和する。能動化された炭素トラップが端部(M4)にある。
【0079】
図4に示される実験装置を使用して、一連の試験を行ったが、その条件を、以下の表3にまとめる。簡単に言うと、ある量のCl
2ガス(表3、欄Aに示される)が、ある期間中に(表3、欄Bに示される)、空の30Lの密閉されたガラス容器(カラム3)の底部接合部を経てシリンダー(2)から放出された。容器の内部で、その底部が黄色になり始めて塩素ガスの蓄積を示した場合、TEABおよび無機臭化物塩からなる処理溶液を、タンク(1)からポンプ送出し、容器の頂部に位置付けられたノズルを経て噴霧した。反応容器に供給されたTEAB/M
n+Br
n溶液の体積およびその組成を、表3、欄C)に示す。
【0080】
Cl2ガスと処理溶液TEAB/Mn+Brnとの間の反応は、固体または液体のいずれかの形態で赤色生成物の形成をもたらし(生成物相は、表3、欄Dに示す)、その結果、内部陰圧が生じた。その結果、第1のトラップ(M1)には、第2および第3のトラップ(それぞれ、M2およびM3)から抜き出された水酸化ナトリウム溶液が充填された。
【0081】
以下の表3は、各実験の条件および形成された生成物をまとめる。
【0082】
【0083】
残留するCl2ガスは、第1(M1)、第2(M2)、および第3(M3)のトラップで検出されず(<10ppm)、TEAB/Mn+Brnからなる処理溶液による塩素ガスの完全な吸収、および反応容器から容易に除去可能な無害生成物へのその変換を示した。
【0084】
[実施例13](比較)
塩素(Cl
2)ガスの中和
図4に示されるおよび上記にて詳述される実験装置を、実験に使用した。Cl
2ガス(107g)が、空の30Lの密閉した容器(3)の底部接合部を経て5分間にわたり放出された(2)。最初の5分間にわたり、Cl
2がガラス容器(3)内の空気を押し出すにつれて、気泡が水酸化ナトリウムトラップM2の内部に観察された。次の9分間にわたり、第1の水酸化ナトリウムトラップ(M2)内の水酸化ナトリウム溶液の色は、黄色がかった緑に変化した。気泡は観察されず、色の変化は第3のトラップ(M3)で見られなかった。Cl
2の流れを遮断した後、N
2ガス(5)でガラス容器(3)内をパージして、反応容器内に残留するあらゆるCl
2ガスを洗浄した。
【0085】
実験の終わりに、97.7gおよび3.8gの正の重量変化が、第1のNaOHトラップ(M2)および第2のNaOH(M3)トラップでそれぞれ決定された。
【0086】
[実施例14]
塩素(Cl2)ガスの中和
20gのCaBr2粉末を、200mlのガラス容器(NaOHトラップに接続される)内の105gのTEAB水性溶液(50重量%)に溶解した。圧力規制タンクからのCl2ガス(32g)を、0.47g/分の流量で溶液中にバブリングした。実験中の温度は、30~40℃の範囲であった。68分後、Cl2ガスの放出がNaOHトラップで観察され、TEAB/CaBr2試薬の消費が示された。プロセスを停止し、最終生成物の溶液を2相-上部水性黄色相と、底部の赤味がかった有機相とに分離したが、これは有機相内に元素状臭素が蓄積されたことを示す。有機相は、1時間後に固化した。
【0087】
[実施例15(本発明の)および16(比較)]
ハロゲンの錯体化における第4級アンモニウム塩化物の試験
実験用に選択された第4級アンモニウム塩化物は、塩化テトラエチルアンモニウム(TEACl)であった。
【0088】
臭素の錯体化を調査した(実施例15)。0.4モルの液体臭素(64g)を0.1モルのTEACl(50重量%)溶液(36g)と混合した。3当量(48g)の臭素をTEACl溶液によって錯体化し、第4当量を添加すると、軽い臭素蒸気放出が現れた。
【0089】
塩素の錯体化を調査した(実施例16)。10gのCl2ガスを、108gのTEACl溶液(50重量%)中にバブリングした。Cl2放出を、水酸化ナトリウム溶液(25重量%)トラップによって収集した。重量変化はTEACL溶液中で観察されず、Cl2は全体がトラップにより吸着されたことを示した(即ち、Cl2はTEAClによって捕捉されなかった)。
【符号の説明】
【0090】
1 供給源(タンク)
2 供給源(シリンダー)
3 反応チャンバー(カラム)
3o ノズル
4 ガス捕捉システム
5 N2ガス
M1 捕捉容器(第1のトラップ)
M2 捕捉容器(第2のトラップ)
M3 捕捉容器(第3のトラップ)
M4 炭素トラップ