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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】質量分析キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240820BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20240820BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240820BHJP
【FI】
G01N33/68
C07K16/00
G01N27/62 V
【請求項の数】 7
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022017497
(22)【出願日】2022-02-07
(62)【分割の表示】P 2018544901の分割
【原出願日】2017-02-24
(65)【公開番号】P2022069446
(43)【公開日】2022-05-11
【審査請求日】2022-03-08
(31)【優先権主張番号】1603291.4
(32)【優先日】2016-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】62/368,606
(32)【優先日】2016-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514212652
【氏名又は名称】ザ バインディング サイト グループ リミティド
(73)【特許権者】
【識別番号】501083115
【氏名又は名称】メイヨ・ファウンデーション・フォー・メディカル・エデュケーション・アンド・リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド エル.マーレイ
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン ハーディング
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド アール.バーニッジ
(72)【発明者】
【氏名】グレッグ ウォールズ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ミルズ
(72)【発明者】
【氏名】ジェイミー アシュビー
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/154052(WO,A1)
【文献】特表2013-507603(JP,A)
【文献】特表2010-515020(JP,A)
【文献】Alain Beck et al.,Characterization of Therapeutic Antibodies and Related Products,Analytical Chemistry,2013年,Vol.85,pp.715-736
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
G01N 27/62
C07K 16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象に由来する試料中の対象の検体または検体の断片を定量する方法であって、
(i)相当する対象の検体または断片と質量により識別可能な1種以上の対照検体またはその断片の所定量を前記試料に加えること、
(ii)前記試料中の前記対象の検体の相対量および前記対照検体の量を測定すること、および
(iii)前記対象の検体の相対量を前記対照検体の相対量と比較して、元の対象の試料中の前記検体または断片の量を定量すること
を含み、
ここで前記対象の検体又はその断片の量及び前記対照検体又はその断片の量は質量分析により決定され、
前記対象及び対照の検体を定量する前に少なくとも1つの精製工程で精製し、その精製工程前に所定量の前記対照検体を前記試料に加え、
ここで前記対象の検体および前記対照検体は免疫グロブリンまたはその断片であり、
前記対照検体は、前記対象免疫グロブリンまたはその断片に比べて1種以上の重鎖、カッパ軽鎖、またはラムダ軽鎖のN末端またはC末端に複数のアミノ酸を含み、
前記対照検体は同位体標識体であることを除く、
方法。
【請求項2】
前記対象検体がモノクローナルの免疫グロブリンまたは断片は、無傷の免疫グロブリン、重鎖、カッパ軽鎖、ラムダ軽鎖、Fc断片、またはFab断片である、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記対照検体はモノクローナル抗体またはその断片である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記カッパ軽鎖および/またはラムダ軽鎖は遊離カッパ軽鎖または遊離ラムダ軽鎖である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記複数のアミノ酸は、前記対象の免疫グロブリンまたはその断片に比べて、C末端にある、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記対照検体は、無傷の免疫グロブリン、遊離カッパ軽鎖、または遊離ラムダ軽鎖のうちの2つ以上を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記対象はB細胞関連疾患を持つ、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの重鎖と少なくとも1つの軽鎖の間に1つ以上の非ジスルフィド架橋を含む抗免疫グロブリン特異的抗体(またはその断片)に関する。これらの抗体は、特に試料に由来する免疫グロブリンの単離または精製に有用である。また、質量分析の標準として用いられる試料に組み込むための対照免疫グロブリンも提供される。
【背景技術】
【0002】
抗体分子(また免疫グロブリンとしても知られている)は二回転対称性を持ち、典型的には2つの同じ重鎖と2つの同じ軽鎖からなる。重鎖と軽鎖はそれぞれ、可変領域と定常領域を含む。重鎖と軽鎖の可変領域が結合して抗原結合部位を形成することで重鎖と軽鎖の両方が抗体分子の抗原結合特異性に寄与している。抗体の基本的な四量体構造は、ジスルフィド結合によって共有結合した2つの重鎖を含む。そしてまた、各重鎖はジスルフィド結合によって軽鎖に結合している。これにより実質的に「Y」形状分子になっている。
【0003】
重鎖は、抗体に見られる2種類の鎖のうちの大きいほうで、典型的には分子質量が50,000~77,000Daである。これに比べて軽鎖はより小さい(25,000Da)。
【0004】
重鎖には5つの主要なクラスがあり、重鎖の構成要素であるγ、α、μ、δ、およびεがそれぞれIgG、IgA、IgM、IgD、およびIgEに対応している。IgGは正常なヒト血清の主要な免疫グロブリンであり、総免疫グロブリンプールの70~75%を占める。IgGは二次免疫応答の主要な抗体である。IgGは、2つの重鎖と2つの軽鎖からなる1個の四量体という形態である。
【0005】
IgMは、免疫グロブリンプールの約10%を占める。IgM分子は、J鎖と共に、5つの基本4鎖構造からなる五量体を形成する。個々の重鎖の分子量は約65,000Daであり、分子全体の分子量は約970,000Daである。IgMは主に血管内プールに閉じ込められており、主要な初期抗体である。
【0006】
IgAは、ヒト血清免疫グロブリンプールの15~20%を占める。IgAの80%超は、単量体として発生する。しかしながら、IgA(分泌性IgA)によっては二量体の形態で存在する。
【0007】
IgDは総血漿免疫グロブリンの1%未満を占める。IgD成熟B細胞の表面膜で観察される。
【0008】
IgEは正常な血清では少ないが、好塩基球およびマスト細胞の表面膜で観察される。IgEは喘息および花粉症などのアレルギー性疾患と関連付けられる。
【0009】
これらの主要な5つのクラスに加えて、IgGには4つのサブクラス(IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4)がある。また、IgAには2つのサブクラス(IgA1とIgA2)がある。
【0010】
軽鎖には2つの種類、ラムダ(λ)とカッパ(κ)がある。ヒトで産生されるκ分子はλ分子の約2倍多いが、これは哺乳類によってかなり異なる。各鎖は、1個の定常領域と1個の可変領域に折りたたまれた単一ポリペプチド鎖に約220アミノ酸を含む。血漿細胞は、κ分子またはλ分子のいずれかを持つ5種の重鎖のうちの1種を産生する。重鎖合成に亘って通常、約40%の過剰な遊離軽鎖生成物が存在する。軽鎖分子が重鎖分子に結合しない場合、それらは「遊離軽鎖分子」として知られている。κ軽鎖は一般的に単量体として観察される。λ軽鎖は二量体を形成する傾向にある。
【0011】
抗体産生細胞に関連付けられる増殖性の疾患がいくつか存在する。
【0012】
そのような増殖性の疾患の多くで、血漿細胞は増殖して同一の血漿細胞の単クローン性腫瘍を形成する。その結果、同一の免疫グロブリンが多量に生成される。これは単クローン性高ガンマグロブリン血症として知られている。
【0013】
骨髄腫および原発性全身性アミロイドーシス(ALアミロイドーシス)などの疾患はそれぞれ、英国の癌による死亡のうちの約1.5%および0.3%を占める。多発性骨髄腫は、非ホジキンリンパ腫に次いで一般的な血液学的悪性腫瘍の形態である。白色人種集団での罹患率は年間で100万人に約40人である。従来、多発性骨髄腫の診断は、骨髄中の過剰なモノクローナル血漿細胞、血清または尿中のモノクローナル免疫グロブリン、および関連する器官や組織の障害(例えば、高カルシウム血症、腎不全、貧血、または骨病変)の存在に基づいている。骨髄の正常な血漿細胞含有量は約1%であるが、多発性骨髄腫では含有量は典型的には10%超、しばしば30%超であり、90%を超える場合もある。
【0014】
ALアミロイドーシスは、アミロイド堆積物としてモノクローナル遊離軽鎖断片が蓄積するという特徴を持つタンパク質高次構造障害である。典型的には、これらの患者には心不全または腎不全が見られるが、末梢神経や他の器官も関連がある場合がある。
【0015】
患者の血流、または実際には尿中のモノクローナル免疫グロブリンの存在により同定され得る他の疾患がいくつかある。これらは、形質細胞腫および髄外性形質細胞腫、骨髄の外部に生じ、任意の器官に発生し得る血漿細胞腫瘍を含む。モノクローナルタンパク質が存在する場合、典型的にはIgAである。多発性骨髄腫の証拠があってもなくても多発性孤立性形質細胞腫は起こる場合がある。ヴァルデンストレームマクログロブリン血症は、モノクローナルIgMの生成に関連付けられる低悪性度のリンパ増殖性疾患である。米国では年間約1,500の新たな症例、英国では300の新たな症例がある。血清IgMの定量は、診断と監視の両方で重要である。B細胞非ホジキンリンパ腫は、英国のすべての癌による死亡のうち約2.6%の原因となっており、標準的な電気泳動法を用いて約10~15%の患者の血清中にモノクローナル免疫グロブリンが同定された。初期の報告には、60~70%の患者の尿中にモノクローナル遊離軽鎖を検出することができることが示されている。B細胞慢性リンパ球白血病では、遊離軽鎖免疫アッセイによりモノクローナルタンパク質が同定されている。
【0016】
また、いわゆる意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS)という疾患がある。これらは、意義不明の単クローン性高ガンマグロブリン血症である。この用語は、多発性骨髄腫、ALアミロイドーシス、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症などの兆候を持たない個体での無傷のモノクローナル免疫グロブリンの予期しない存在を指す。MGUSは、50歳以上で集団の1%、70歳以上で3%、80歳以上で10%まで見られる場合がある。これらのほとんどはIgGまたはIgM関連であるが、非常に希にIgA関連のものや二クローン性のものがある。MGUSを持つほとんどの人は関係のない病気で亡くなるが、MGUSは悪性単クローン性免疫グロブリン異常症に変形することもある。
【0017】
上で示した疾患の少なくともいくつかの場合では、異常な濃度のモノクローナル免疫グロブリンまたは遊離軽鎖が見られる。疾患により血漿細胞の異常な複製が行われると、この種の細胞によってより多くの免疫グロブリンが生成されることがあり、「単一クローン」が繁殖して血液中に現れる。
【0018】
免疫固定電気泳動は、免疫グロブリン分子に対して沈降する抗体を用いる。これにより検査の感度を向上させる一方で、沈降する抗体の存在のためにモノクローナル免疫グロブリンを定量するのには用いることができない。また、免疫固定電気泳動はむしろ行うのが煩雑で解釈が困難な場合がある。多くの臨床実験室では血清タンパク質分離にキャピラリーゾーン電気泳動が用いられ、ほとんどのモノクローナル免疫グロブリンを検出することができる。しかしながら、免疫固定と比較した場合、キャピラリーゾーン電気泳動は5%の試料でモノクローナルタンパク質の検出ができない。これらのいわゆる「偽陰性」の結果は、低濃度のモノクローナルタンパク質を包含している。
【0019】
総κアッセイおよび総λアッセイが開発されている。しかしながら、総κアッセイおよび総λアッセイはモノクローナル免疫グロブリンまたは遊離軽鎖の検出には感度が低すぎる。これは、このようなアッセイと干渉するポリクロナール結合軽鎖のバックグラウンド濃度が高いためである。
【0020】
より最近では、遊離κ軽鎖と遊離λ軽鎖を個別に検知する高感度アッセイが開発された。この方法は、遊離κ軽鎖または遊離λ軽鎖のいずれかに対するポリクロナール抗体を用いる。また、WO97/17372ではそのような抗体を上昇させる可能性がいくつかの異なる可能な特異性の一つとして述べられている。この文献は、動物を耐性化して、従来の技術で産生することができるのよりもより特異的な所望の抗体を産生させることができる方法を開示している。この遊離軽鎖アッセイは、遊離λ軽鎖または遊離κ軽鎖に結合する抗体を用いる。遊離軽鎖の濃度はネフェロ分析または比濁法により決定される。この方法は、反応槽またはキュベット中の適切な抗体を含む溶液に検査試料を添加することを含む。抗原-抗体反応を進行させながら、キュベットに光線を透過させる。不溶性免疫複合体が形成されるに従ってキュベットを透過した光の散乱が増加する。ネフェロ分析では、入射光から離れた角度で光の強度を測定して光の散乱を監視する。一方、比濁法では、入射光の強度の減少を測定して光の散乱を監視する。まず、一連の既知の抗原(すなわち、遊離κまたは遊離λ)濃度を基準としてアッセイを行って、抗原濃度に対する測定された光の散乱の較正曲線を作成する。
【0021】
この形態のアッセイは、遊離軽鎖濃度をよく検出することが分かった。さらに、技術の感度も非常に高い。
【0022】
B細胞疾患(例えば、多発性骨髄腫)や他の免疫仲介疾患(例えば、腎症)を含む広範囲の疾患において、遊離軽鎖(FLC)、重鎖またはサブクラス、重鎖のクラスまたはサブクラスに結合する軽鎖種の量または種類の特性評価は重要である。
【0023】
WO2015/154052(その全内容を参照により本明細書に組み込む)には、質量分析(MS)を用いて免疫グロブリン軽鎖、免疫グロブリン重鎖、またはこれらの混合物を検出する方法が開示されている。免疫グロブリン軽鎖、免疫グロブリン重鎖、またはこれらの混合物を含む試料を免疫精製して、質量分析を行い、試料の質量スペクトルを得る。これを用いて患者に由来する試料中のモノクローナルタンパク質を検出してもよい。また、これを用いてフィンガープリンティング法、アイソタイプの決定、およびモノクローナル抗体のジスルフィド結合の同定を行ってもよい。
【0024】
MSを用いて、例えば、質量および電荷により試料中のラムダ鎖とカッパ鎖を分離する。また、MSを用いて、例えば、還元剤を用いて重鎖と軽鎖のジスルフィド結合を還元することで免疫グロブリンの重鎖成分を検出してもよい。MSはWO2015/131169(参照によりその全内容を本明細書に組み込む)にも記載されている。
【0025】
診断手順での試料中の免疫グロブリンの精製には、典型的には、抗全抗体(例えば、抗IgG抗体または抗IgA抗体)あるいは抗遊離軽鎖抗体(例えば、抗κ軽鎖抗体または抗λ軽鎖抗体)が用いられる。
【0026】
この技術の問題は、精製される抗体自体に由来する軽鎖または重鎖が、検査試料に放出され得るということである。この汚染は、その後の試料の特性評価の確度に影響を及ぼすことがある。
【0027】
上で示すように、抗体の重鎖と軽鎖は、通常、ジスルフィド結合を介して結合されている。ジスルフィド結合は比較的弱く、切断して重鎖と軽鎖を互いに放出することができる。
【0028】
WO2006/099481Aには、ポリペプチド(例えば、ポリクロナール抗体、モノクローナル抗体、Fab断片、F(ab)断片、およびF(ab’)断片、一本鎖抗体、ヒト抗体、調和させたまたはキメラ抗体、およびエピトープ結合断片など)を含む広範囲の巨大分子での鎖内および鎖間チオエーテル架橋の使用が記載されている。この文献には、架橋の目的は、抗体または断片の安定性と医薬および機能特性を高めることであると記載されている。特に、その目的は、例えば、異なるモノクローナル抗体(例えば、抗RSV抗体を含む抗ウイルス抗原抗体など)の重鎖と軽鎖を架橋することである。抗体の医薬特性を向上させるという目的が述べられている。
【0029】
WO00/44788には、向上した治療薬を製造する目的で、チオエーテルを用いて異なる特異性を持つ異なる抗体分子を架橋することが記載されている。同様に、WO91/03493には異なる特異性を持つ二重あるいは三重特異性のF(ab)またはF(ab)複合体が示されている。
【0030】
チオエーテル類は、保存中の治療用抗体で濃度が上昇することが観察されている(Zhang Q et al JBC manuscript (2013) M113.468367)。軽鎖-重鎖ジスルフィド(LC214-HC220)はチオエーテル結合に変換し得る。1種のIgG1k治療用抗体は、血液中を循環する一方で1日0.1%の率でその位置でチオエーテルに変換することが観察された。また、内在性抗体が健康なヒト対象者で形成されることが観察された。Zhang et alは、試験管内でのチオエーテルの形成を繰り返した。これを用いて、チオエーテル結合の治療用モノクローナル抗体に及ぼす安全性の影響を評価する助けとした。
【発明の概要】
【0031】
架橋形成を課題と見なしたZhangに対して、本出願人は、使用によっては、架橋された抗体の形成は予期しない利点があり得ることに気づいた。
【0032】
本出願人は、抗体の精製から汚染(例えば、無傷の免疫グロブリン、F(ab)断片、またはF(ab’)断片からの遊離軽鎖の放出、あるいはビーズからのナノ物質の放出)の量を低減することには利点があることに気がついた。
【0033】
本発明は、抗体(またはその断片)の少なくとも1つの重鎖(またはその断片)と少なくとも1つの軽鎖(またはその断片)の間に1つ以上の非ジスルフィド架橋を含む抗免疫グロブリン特異的抗体(またはその断片)を提供する。また、本来の重鎖-軽鎖ジスルフィド架橋に加えて、あるいはそれに代えて隣接する重鎖同士を架橋してもよい。
【0034】
上記の架橋は、典型的には同じ抗体の鎖同士の分子内架橋である。
【0035】
この架橋は、典型的にはチオエーテル結合を含む。
【0036】
チオエーテル架橋は、チオエーテル結合を含む。これは、2つの硫黄による結合ではなく単一の硫黄による結合を持つ抗体の残基間の結合である。これは、チオエーテル架橋は、2つ以上の硫黄原子を含む結合(例えば、当業者には馴染みのあるジスルフィド架橋)を含まないということである。そうではなく、チオエーテル架橋は、巨大分子の残基を架橋する単一の硫黄による結合を含む。また、1つ以上の追加の非硫黄原子がこの結合を形成してもよい。
【0037】
チオエーテル架橋によって結合される残基は、天然の残基であってもよく、あるいは非天然の残基であってもよい。当業者には自明だが、チオエーテル架橋の形成により、残基から原子が失われる場合がある。例えば、2つのシステイン残基の側鎖間にチオエーテル架橋が形成されると、これら残基から硫黄原子と水素原子が失われることがあるが、得られたチオエーテル架橋は、当業者によりシステイン残基を架橋したと認識される。
【0038】
チオエーテル架橋は、抗体のいずれか2つの残基を結合してもよい。これらの残基の1つ以上を、例えば、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、メチオニン、およびチロシンから選択してもよい。これら残基のうちの2つをシステイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、メチオニン、およびチロシンからなる群より選択してもよい。より典型的には、残基のうちの2つはシステイン残基である。典型的には、重鎖と軽鎖の間は1つのチオエーテル架橋のみである。あるいは、2つ、3つ、あるいはそれ以上のチオエーテル架橋を用いてもよい。また、抗体あるいはその断片の重鎖対は、1つ以上の非ジスルフィド架橋(例えば、チオエーテル結合)により結合されていてもよい。
【0039】
チオエーテル架橋については、例えば、WO2006/099481、およびZhang et al (2013) J. Biol. Chem. vol 288(23), 16371-8 and Zhang & Flynn (2013) J. Biol. Chem, vol 288(43), 34325-35に記載されており、参照により本明細書に組み込まれる。
【0040】
ホスフィンや亜リン酸塩を用いてもよい。本明細書で「ホスフィン」は、一般式RP(ここで、Pは亜リン酸、Rは任意の他の原子である)で表される少なくとも1つの機能単位を含む任意の化合物をいう。亜リン酸塩では、R位置は具体的には酸素原子で占められる。RP含有化合物は、ジスルフィド結合を攻撃することができる強力な求核剤として作用する。これによりジスルフィドが還元されることがあるが、条件によってはチオエーテル結合が形成されることもある。
【0041】
そのような化合物としては、
トリス(ジメチルアミノ)ホスフィン(CAS Number 1608-26-0)、
トリス(ジエチルアミノ)ホスフィン(CAS Number 2283-11-6)、
トリメチル亜リン酸(CAS Number 121-45-9)、
トリブチルホスフィン(CAS Number 998-40-3)が挙げられる。
【0042】
参考文献:Bernardes et al. (2008) Angew. Chem. Int. Ed., vol 47, 2244-2247(参照により本明細書に組み込まれる)
【0043】
また、架橋は、マレイミド架橋剤など、遊離チオールと反応して抗体分子の鎖を架橋する架橋剤を含んでいてもよい。これにより、WO00/44788に記載されているように、チオール基の側鎖の1つ、さらにはリシンカルボキシル基などの他の部位に結合することができる。
【0044】
リンカー、特に柔軟性のあるリンカーによって結合された2つの反応性部位を含む二官能架橋剤を用いてもよい。このリンカーは、例えば、置換または非置換のアルキルなどの鎖に共有結合した1つ以上の炭素を含んでいてもよい。このリンカーは、特にC1~C10リンカー、最も典型的にはC2~C6またはC3~C6リンカーである。本出願人らは、比較的高濃度で架橋されたタンパク質を回収するのにC2~C6含有架橋剤(例えば、α,α′-ジブロモ-m-キシレン、BMOE(ビスマレイミドエタン)、またはBMB(ビスマレイミドブタン)など)が特に有用であることを見出した。

ビスマレイミドは、ホモ二官能スルフヒドリル反応性架橋剤である
【0045】
これは、炭化水素または他のリンカーによって結合された2つのマレイミド基を含む、よく特徴付けられた架橋剤群である。マレイミド基は、ジスルフィドの還元に曝された遊離スルフヒドリル基と自然に反応して、各スルフヒドリルで非還元性チオエーテル結合を形成し、それにより2つのシスチン残基を共有結合により架橋する。
【0046】
そのような化合物としては、
ビス(マレイミド)エタン(CAS Number 5132-30-9)、
1,4-ビス(マレイミド)ブタン(CAS Number 28537-70-4)が挙げられる。
参考文献:
【0047】
Auclair et al. (2010) Strategies for stabilizing superoxide dismutase (SOD1), the protein destabilized in the most common form of familial amyotrophic lateral sclerosis. Proc Natl Acad Sci U S A, vol 107(50) - pages 21394-9
【0048】
Geula at al. (2012) Structure-based analysis of VDAC1 protein: defining oligomer contact sites. J Biol Chem, vol 287(3), 475-85
【0049】
Kida et al. (2007) Two translocating hydrophilic segments of a nascent chain span the ER membrane during multispanning protein topogenesis. J Cell Biol, vol 171(7) pages 1441-1452(参照により本明細書に組み込まれる)

α,α’-ジブロモ-m-キシレンは使用可能なホモ二官能性スルフヒドリル反応性架橋剤である
【0050】
ジブロモ-m-キシレン(CAS Number 626-15-3)はハロゲン化ジアルキル化合物群のうちの1つであり、遊離スルフヒドリル基と反応するホモ二官能性架橋剤として作用する。
参考文献:
【0051】
Jo et al. (2012) Development of α-Helical Calpain Probes by Mimicking a Natural Protein-Protein Interaction J Am Chem Soc., col 134(42) - pages 17704-13(参照により本明細書に組み込まれる)

安定したチオエーテル結合を形成する別のスルフヒドリル反応性架橋化合物
【0052】
少なくとも6つの分類群の試薬が遊離スルフヒドリルと反応して非還元性共有架橋生成物を生成することが知られている。これら化合物のスルフヒドリル基に対する特異的反応性は様々で、特定の条件で水、アミン、およびカルボキシル基と反応するものもある。また、これら化合物の多くは嵩高いリンカー基を持ち、制限された空間的環境で架橋する能力が限定されていることがある。以下のリストに各分類群からのいくつかの例を示すが、より包括的なリストおよび基準は以下の文献に示されている:
【0053】
Chemistry of Protein Conjugation and Cross-linking, Wong, S: ISBN 0-8493-5886-8(参照により本明細書に組み込まれる)
【0054】
ビスマレイミド
ビス(マレイミド)ヘキサン、N-N’-チレンビスマレイミド、ビス(N-マレイミドメチル)エーテル、N,N’-(1,3-フェニレン)-ビスマレイミド、ビス(N-マレイミド)-4,4’-ビベンジル、ナフタレン-1,5-ジマレイミド
【0055】
ハロアセチル誘導体
1,3-ジブロモアセトン、N,N’-ビス(ヨードアセチル)ポリメチレンジアミン、N,N’-ジ(ブロモアセチル)フェニルヒドラジン、1,2-ジ(ブロモアセチル)アミノ-3-フェニルヒドラジン、γ-(2,4-ジニトロフェニル)-α-ブロモアセチル-L-ジアミノ酪酸=ブロモアセチル-ヒドラジド
【0056】
ジアルキルハロゲン化物
α,α’-ジブロモ-p-キシレンスルホン酸、α,α’-ジヨード-p-キシレンスルホン酸、ジ(2-クロロエチル)スルフィド、トリ(2-クロロエチル)アミン、N,N-ビス(β-ブロモエチル)ベンジルアミン
【0057】
2.4 s-トリアジン
ジクロロ-6-メトキシ-s-トリアジン、2,4,6-トリクロロ-s-トリアジン(シアヌル酸)、2,4-ジクロロ-6-(3’-メチル-4-アミノアニリノ)-s-トリアジン、2,4-ジクロロ-6-アミノ-s-トリアジン
【0058】
アジリジン
2,4,6-トリ(エチレンイミド)-s-トリアジン、N,N’-エチレンイミノイル-1,6-ジアミノヘキサン、トリ[1-(2-メチルアジリジニル)]-ホスフィンオキシド
【0059】
ビスエポキシド
1,2:3,4-ジエポキシブタン、1,2:5,6-ジエポキシヘキサン、ビス(2,-エポキシプロピル)エーテル、1,4-ブタジオールジグリシドキシエーテル
【0060】
この架橋は、1つ以上の天然に生じるジスルフィド結合を置換してもよく、あるいはそのジスルフィド結合に加えてこの架橋が形成されていてもよい。
【0061】
典型的には、抗体の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%が架橋されている。例えば、ビスマレイミドを用いると70%~80%の架橋効果が観察された。架橋された抗体をさらに精製して、例えば、還元剤を加えて残留する未架橋の抗体のジスルフィド結合を壊して、例えばゲル電気泳動法を用いて分離するなどにより、架橋を増やしてもよい。
【0062】
抗体または断片は、抗遊離軽鎖(例えば、抗カッパ遊離軽鎖または抗ラムダ遊離軽鎖)に特異的、抗重鎖サブクラスに特異的、抗重鎖種に特異的、あるいは抗重鎖クラス-軽鎖種に特異的であってもよい。
【0063】
重鎖クラスはIgG、IgA、IgM、IgD、またはIgEであってもよく、典型的にはIgGあるいはIgAである。
【0064】
重鎖サブクラスは、IgA1、IgA2、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4を含む。
【0065】
抗体は、種に特異的、例えば、抗ヒト、抗ウマ、抗ヒツジ、あるいは抗ブタであってもよい。抗体は、軟骨魚類、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウサギ、ウシ、ラクダ科の動物(例えば、ラマ)、ラット、またはマウス内で産生されてもよい。
【0066】
本発明の抗体または断片は特異的に結合する免疫グロブリンである。
【0067】
典型的には、抗体または断片は支持体に結合させている。これは例えば、抗体または断片の免疫精製など、タンパク質精製の分野で一般に知られている任意の好適なクロマトグラフ用支持体であってもよい。そのような支持体としては、当該分野で一般に知られている磁性ビーズ、アガロース樹脂、および他の支持体が挙げられる。抗体の支持体への共有結合および非共有結合は一般に当該分野で知られている。これは、例えば、抗体表面の遊離アミン基を薬剤(例えば、臭化シアノゲン、N-ヒドロキシコハク酸イミド(スルホ-NHS)、または塩化トレジル)で活性化した支持体と反応させて達成してもよい。スルホ-NHSを用いてカルボキシレート基と活性エステル官能基を形成するのに水溶性カルボジイミドEDCを用いてもよい。ビオチン化抗体または支持体の一方を用いて、この支持体または抗体の他方の対応するストレプトアビジン部位に結合させるという使用もまた、当該分野で用いられている。
【0068】
抗体またはその断片はモノクローナル抗体であってもよい。あるいは、この抗体または断片は、ポリクロナール抗体または断片であってもよい。
【0069】
異なる特異性を持つ抗体または断片の混合物を提供してもよい。
【0070】
抗体の断片は、例えば、F(ab’)断片であってもよい。
【0071】
本発明の抗体または断片を1種以上の免疫グロブリンの精製、あるいは質量分析を阻害する可能性のある望ましくないタンパク質の除去に用いてもよい。従って、本発明のさらなる側面は、免疫グロブリンを精製または特徴付ける方法を提供する。この方法は、免疫グロブリンを含む試料を本発明による抗体または断片と接触させて、免疫グロブリンを抗体または断片に結合させること、未結合の材料を上記抗体または断片に結合している免疫グロブリンから洗い落とすこと、および上記抗体または断片から結合した免疫グロブリンを取り出すまたは溶出させて精製免疫グロブリンを生成することを含む。この精製免疫グロブリンは、例えば、質量分析を用いてさらに特徴付けられてもよい。
【0072】
この試料は、体液または組織の試料であってもよい。これは、例えば、全血、血清、血漿、脳脊髄液、または尿を含む。
【0073】
また、質量分析に用いられる免疫グロブリンの精製に用いるアッセイキットが提供される。これらは、典型的には本発明による抗体または断片と、1つ以上の質量分析標準物質を含む。そのような標準物質は、質量分析により検出された検体の寸法を示す内部標準物質を提供する。
【0074】
本出願人はまた、検査対象の試料中で好適な標準物質(本明細書で対照としても知られる)が、免疫グロブリンの内標準物質量を提供すること、この内標準物質量に対して対象の試料に由来する免疫グロブリンの量を定量することができることを認識した。また、定量の前の免疫グロブリンの精製時にこの標準物質を対象に由来する試料中に入れると、精製工程により免疫グロブリンに何らかの変化あるいは損失を考慮にいれることができる。
【0075】
また、試料中に対照が存在することで、試料を質量分析の標的に配置させた(spotted)際に試料自体によって生じる誤差を除去する助けとなる。例えば、MALDI-TOF MSでは、通常、試料を標的に配置させて乾燥させる。乾燥試料全体にわたる免疫グロブリンの分布は均一ではない。対照が存在することで、確実に、レーザーによってイオン化された際に検査している免疫グロブリンと対照の両方を比較できる試料が、レーザーによってイオン化された領域から取り出される。従来は、コンピュータは中心値のピーク強度を用いていたが、これが不正確さに繋がっていた。上記対照は、そのような不正確さを除去し、免疫グロブリンの定性測定ではなく、定量測定を助ける。
【0076】
従って、本発明は、対象に由来する試料中の対象の検体または検体の断片を定量する方法を提供する。この方法は、
(i)相当する対象の検体または断片と識別可能な1種以上の対照検体または断片を所定量、前記試料に加えること、
(ii)前記試料中の前記対象の検体または断片の相対量と前記対照検体または断片の量を測定すること、および
(iii)対象の検体または断片の相対量と対照検体または断片の相対量を比較して元の対象の試料中の検体または断片の量を定量すること、を含む。
【0077】
2種以上の異なる対照検体を用いてもよい。これらは、目的の検体の定量精度を向上させることができるように異なる濃度であってもよい。
【0078】
可能性として、検体の定量に用いられる定量技術は、免疫グロブリンおよびそれらの断片の定量で一般に当該分野で知られているいずれかの好適な技術であってもよい。しかしながら、最も典型的なのは、免疫グロブリンまたは断片が検出される。質量分析を用いて検体を測定してもよい。対照検体は、典型的には、質量分析を用いて対象の検体と識別可能である。
【0079】
対象の試料を次の検体の検出に準備しながら、1つ以上の工程(例えば、精製工程)の前にこの対照検体を内部対照として作用させるために対象の検体を含む対象に由来する試料に添加してもよい。
【0080】
これは、例えば、分子量がより高いまたはより低い検体および/または対象のアッセイする検体に対して異なる電荷を持つものを用いる。これは、例えば、免疫グロブリンあるいは免疫グロブリンの断片であってもよい。しかしながら、この検体は、タンパク質、ペプチド、核酸、またはグリコタンパク質を含む可能性のあるいずれかの検体であってもよい。典型的には、分子量は500Da超、100Da超、1500Da超、5kDa超、最も典型的には10kDa超である。対照検体は、異なる電荷または分子量を持たせて対照検体を相当する対象の検体で観察された検体ピークからシフトさせることにより検出可能としてもよい。その結果、対照検体と対象の検体の両方を個別に測定してもよい。
【0081】
例えば、免疫グロブリンが無傷の免疫グロブリンである場合、対照免疫グロブリンは、この無傷の免疫グロブリンの分子量がより高いまたはより低いものであってもよい。例えば、定量される対象中の免疫グロブリンがラムダ軽鎖またはカッパ軽鎖である場合、このラムダ軽鎖またはカッパ軽鎖の分子量がより高いまたはより低いものを対照に用いる。検出される対照の無傷の免疫グロブリンまたは重鎖は、定量される対象のクラスと同じクラスの免疫グロブリン(例えば、IgA、IgD、IgE、IgM、またはIgG)であってもよい。
【0082】
対照の分子量あるいは電荷がより高いまたはより低いとは、多くのアッセイで、対照検体(例えば、免疫グロブリンまたは断片)の観察される位置が対象の検体または断片に対してシフトしていることを意味する。これにより、例えば、対照のピークまたは位置を個別に決定および測定することができる。試料に加える前に対照検体または断片の量を予め決定して、対象の検体または断片の量を決定して、対照検体または断片の既知の量と比較する場合、対象の検体または断片を定量することができる。MSなど、技術によっては電荷を用いて検体の検出を助けるので、電荷もまた変化させてもよい。
【0083】
対照は、無傷のモノクローナル免疫グロブリン、重鎖、カッパ軽鎖、ラムダ軽鎖、Fc断片、またはFab断片であってもよい。このようなモノクローナルタンパク質は、定義により、単一形態のタンパク質を産生するモノクローナルの細胞に由来するタンパク質である。従って、所定の分子質量を持つこと、質量スペクトログラムで所定のピークで検出されることからこのタンパク質を用いてもよい。患者から検出されたタンパク質が免疫グロブリンまたは免疫グロブリンの断片である場合、これらは本来、多クローン性であってもよい。従って、異なる免疫グロブリンとこれら免疫グロブリンまたは断片の異なる抗原結合領域との間の可変性が高いことから、個々に比較的低濃度で非常に多くの異なる分子質量を持っていてもよい。従って、多クローン性タンパク質の質量分析を行うと、質量分析によって検出された対象に由来するある範囲の異なる寸法の免疫グロブリンが作り出される。所定の寸法のモノクローナルタンパク質または断片を用いると、容易に識別でき、対照として使用できる対象由来のタンパク質の範囲内で所定のピークが生成される。検出されるタンパク質がモノクローナル免疫グロブリンである場合、個々のモノクローナルタンパク質は固有の性質を持っており、対照と容易に識別することができる。
【0084】
対象は、単クローン性高ガンマグロブリン血症など、形質細胞に関連付けられる病気を持つ患者であってもよい。このような病気としては、MGUS、ALアミロイドーシス、骨髄腫(例えば、多発性骨髄腫)、形質細胞腫、ヴァルデンストレームマクログロブリン血症、およびリンパ腫(例えば、B細胞非ホジキンリンパ腫)が挙げられる。
【0085】
2種類以上の異なる対照検体を用いて、同じ試料に由来する異なる検体のうちの2種類以上を同時に検出してもよい。
【0086】
本明細書で用いられるMSとしては、例えば、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)、マイクロフロー液体クロマトグラフィーエレクトロスプレーイオン化連結四重極飛行時間型質量分析法(マイクロLC-ESI-Q-TOF MS)が挙げられる。これは、例えば、正イオンモードの使用を含んでいてもよい。
【0087】
あるいは、この質量分析技術は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型質量分析法(MALDI-TOF-MS)を含む。また、オービトラップ質量分析計を用いてもよい。
【0088】
例えば、対照の分子量または電荷の増加とは、相当する対象の免疫グロブリンまたは断片に比べて、検体(例えば、免疫グロブリンまたは断片)の読み出された質量分析のピークがシフトしていることを意味する。
【0089】
対照の免疫グロブリンまたは断片は、無傷の免疫グロブリン(1つ以上の軽鎖が1つ以上の重鎖に結合されている)、重鎖、ラムダ軽鎖、またはカッパ軽鎖(例えば、ラムダ遊離軽鎖またはカッパ遊離軽鎖)であってもよい。また、Fc断片またはFab断片など、抗体の断片を検出してもよい。
【0090】
対照検体(例えば、免疫グロブリン)は、検体(例えば、免疫グロブリン)内での1つ以上のアミノ酸の保存的置換により、対象の検体(例えば、免疫グロブリン)に比べて高い分子量を持っていてもよい。
【0091】
保存的アミノ酸置換の例としては、以下のものが挙げられる。
【表1】
【0092】
このような保存的置換に関連付けられる問題の1つは、保存的置換が、対象の免疫グロブリンの構造と比較すると対照免疫グロブリンの構造に影響を及ぼす可能性があることである。これは、例えば、免疫グロブリンの折りたたみによる、あるいは単に1種以上の異なる側鎖が免疫グロブリン表面のエピトープを形成するタンパク質鎖に付加したためである場合がある。
【0093】
典型的には、試料に由来する検体(例えば、免疫グロブリン)は、上記のように検体(例えば、免疫グロブリン)のアッセイの前にある程度精製される。
【0094】
対象に由来する試料は、組織または体液の試料である可能性がある。体液は、例えば、血液、血清、血漿、尿、唾液、または脳脊髄液であってもよい。最も典型的には、試料は血液、血清、または血漿である。生体試料は、検体(例えば、免疫グロブリン)を持つ対象に由来していてもよい。このような対象としては、これらに限定されないが、哺乳類(例えば、ヒト、イヌ、ネコ、霊長類、齧歯類、ブタ、ヒツジ、ウシ、またはウマ)が挙げられる。
【0095】
試料を処理して、例えば、質量分析技術に干渉する可能性のある成分を除去してもよい。例えば、試料を遠心分離、濾過、またはクロマトグラフィー技術にかけて、複数の細胞、単一の細胞、または組織断片に由来する干渉性成分を除去してもよい。例えば、全血試料を従来の凝固技術で処理して、赤血球、白血球、および血小板を除去してもよい。また、試料からタンパク質を除去してもよい。例えば、血漿試料は、血清タンパク質を従来の試薬(例えば、アセトニトリル、KOH、NaOH)で沈殿させてもよく、その後必要に応じて試料の遠心分離を行ってもよい。例えば、標準的な方法を用いて免疫グロブリンを試料から単離または試料中に富化してもよい。そのような方法としては、例えば、試料から1種以上の非免疫グロブリン汚染物質を除去することが挙げられる。あるいは、免疫精製、遠心分離、濾過、水濾過、透析、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、タンパク質A/G親和性クロマトグラフィー、親和性精製、沈殿、ゲル電気泳動法、キャピラリー電気泳動、または化学分留を用いて試料を富化または精製してもよい。
【0096】
典型的には、これら精製技術の少なくとも1つの前に対照検体を試料に加える。すなわち、例えば、上記の方法で試料内の免疫グロブリンの精製または濃縮を行う前に、対照検体は対象の検体試料に含まれている。すなわち、典型的には、検体(例えば、免疫グロブリン)の検出に用いられる質量分析法(例えば、LC-MS、オービトラップMS、またはMALDI-TOF MS)に加えて前処理技術が用いられる。試料内に対照検体を組み込む利点としては、試料の精製工程を通して対照検体が内部対照として作用することである。既知の量の対照検体または断片を試料に加えて、これを陽性対照として用いて、精製工程がうまく行ったかを確認する、あるいは対象の試料中の検体の精製時に問題が起きたか否かを同定してもよい。
【0097】
対照免疫グロブリンは典型的には対象の免疫グロブリンの精製工程で用いられるので、例えば、免疫グロブリンまたは断片の鎖に保存されたアミノ酸置換の使用は、対象の免疫グロブリンまたは断片に比べて対照免疫グロブリンまたは断片が精製される態様に影響を及ぼす場合がある。例えば、親和性精製工程(例えば、免疫精製)を用いる場合、免疫グロブリンの構造のわずかな違いが対象の免疫グロブリンと共精製する能力に影響を及ぼすことがある。
【0098】
従って、最も典型的には、対照免疫グロブリンは、相当する対象免疫グロブリンと比べて、免疫グロブリンのN末端、より典型的にはC末端に複数の追加のアミノ酸を含む。すなわち、典型的には、相当する対象の免疫グロブリンまたは断片に比べて、5、10、15、20、あるいはそれ以上の追加のアミノ酸が存在しており免疫グロブリンまたは断片の分子量を増加させている。
【0099】
一態様では、相当する検体(例えば、免疫グロブリンまたは断片)は、検出される試料が無傷の検体(例えば、免疫グロブリン)である場合に対象以外の供給源から精製された無傷の検体(例えば、免疫グロブリン)で分子量または電荷を増加させたものであることを意味する。これは、例えば、多クローン性またはモノクローナル免疫グロブリン、または多クローン性免疫グロブリンであってもよい。例えば、検出される無傷の免疫グロブリンまたは重鎖免疫グロブリンがIgA、IgG、IgM、IgD、またはIgEである場合、対照となる無傷の免疫グロブリンまたは重鎖は、検出される対象の免疫グロブリンまたは重鎖と同じ免疫グロブリン型(すなわち、IgA、IgG、IgM、IgD、またはIgE)である。
【0100】
同様に、試料中でカッパ軽鎖またはラムダ軽鎖を検出する場合、対照免疫グロブリンは、より分子量の高いカッパ軽鎖またはラムダ軽鎖が用いられる。
【0101】
追加のアミノ酸または実際は保存されたアミノ酸を含む対照検体は、組み換えにより作製されてもよい。例えば、タンパク質(例えば、免疫グロブリン重鎖または軽鎖)をコードする核酸配列は、N末端またはC末端のコード領域に付加されて、好適な宿主細胞(例えば、原核宿主細胞、より典型的には真核宿主細胞)または無細胞系内で組み換えにより産生されるアミノ酸数を増加させるための複数のコドンを持っていてもよい。このアミノ酸は、例えば、任意の好適な天然または非天然のアミノ酸であってもよいが、典型的には、例えば、ポリアラニンCまたはN末端を形成するアラニンである。
【0102】
組み換え抗体または断片の生成は一般に知られている。例えば、Frenzel A. et al (Frontiers in Immunology (2013), 4, Article 217) and Stech M. and Kubick S. (Antibodies (2015), 4, 12-33)(参照により本明細書に組み込まれる)による総説を参照のこと。
【0103】
複数の異なる対照検体(例えば、免疫グロブリンまたは断片)を対象由来の試料に加えてもよい。例えば、対象由来の試料は、測定されたカッパ遊離軽鎖とラムダ遊離軽鎖を持っていてもよい。従って、対照免疫グロブリンまたは断片は、対照遊離ラムダ軽鎖と対照遊離カッパ軽鎖を含んでいることがある。同様に、重鎖が無傷の免疫グロブリンまたは重鎖を測定する場合、対照はさらに好適な対照重鎖または対照が無傷の免疫グロブリンを含んでいてもよい。
【0104】
あるいは、対照は、アッセイされる免疫グロブリンの部分よりも高いまたは低い所定の分子量のモノクローナル抗体または断片であってもよい。モノクローナル抗体の生成は一般に知られている。例えば、市販のモノクローナル抗体は、その分子量に基づいて選択されて、対照としてもよい。例えば、市販のモノクローナル抗体を調和させてヒト由来の試料に由来する抗体と共精製してもよい。
【0105】
この対照を上記の架橋された抗体と共に用いてもよい。
【0106】
従って、本発明のさらなる側面は質量分析用に試料を調製する方法を提供し、この方法は、
(i)典型的には免疫グロブリンまたは断片である1種以上の検体を含む対象に由来する試料を準備すること、
(ii)所定量の1種以上の対照検体またはその断片、典型的には免疫グロブリンまたはその断片を前記試料に加えること、
(iii)上記の架橋された抗体または断片を用いて前記検体(典型的には免疫グロブリンまたは断片)の少なくとも一部を前記対象および対照検体(典型的には免疫グロブリンまたは断片)から共精製すること、および必要に応じて
(iv)前記共精製された検体(例えば、免疫グロブリンまたは断片)の一部を質量分析標的に配置させること、を含む。
【0107】
次いで、質量分析標的を質量分析計に置いて、質量分析計を用いて分析してもよい。この標的は、典型的には試料を置く基板(substrate)である。次いで、試料を質量分析にかけるためにこの基板を質量分析計に置く。
【0108】
また、その中に1種以上の対照検体またはその断片を含む質量分析計が提供される。
【0109】
試料、質量分析計、免疫グロブリン、および対照は本明細書で規定される通りであってもよい。
【0110】
また、本明細書で規定された架橋された抗体または断片と本明細書で規定された対照検体(例えば、免疫グロブリン)または断片を含むアッセイキットが提供される。このキットはさらに、質量分析標的および/または緩衝液を含んでいてもよく、あるいは塩が提供されてもよい。
【0111】
また、このアッセイキットの使用を含む質量分析を行う方法が提供される。
【0112】
また、本発明の抗体、本発明の方法および/または本発明によるアッセイキットを用いて免疫グロブリンを精製および特徴付けを行うことを含むB細胞関連疾患または他の免疫関連疾患を診断する方法が提供される。
【0113】
B細胞関連疾患としては、例えば、完全免疫グロブリン多発性骨髄腫(MM)、軽鎖MM、非分泌性MM、ALアミロイドーシス、軽鎖沈着症、くすぶり型(smouldering)MM、形質細胞腫、およびMGUS(意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症)の診断が挙げられる。また、これは、WO2013/088126に記載された他のB細胞悪液質の診断あるいは複数の他の障害(例えば、PTLD)の診断または予後、あるいは癌、糖尿病、心疾患または腎臓疾患の診断または予後(WO2011/095818、WO2013/050731、EP1870710、WO2011/107965、参照により本明細書に組み込まれる)に用いてもよい。
【0114】
また、患者由来の試料に由来する抗体の同定および特性評価により複数の他の疾患を特徴付けるのに有用である。これら疾患としては、リウマチ性関節炎、セリアック病、グレーブス病、悪性貧血、シェーグレン症候群、および全身性エリテマトーデスが挙げられる。
【0115】
ここで、以下の図面を参照して例示目的でのみ、本発明を記載する。
【図面の簡単な説明】
【0116】
図1図1は、抗遊離カッパF(ab’)抗体断片および抗遊離ラムダF(ab’)抗体断片でのチオエーテル結合の形成を示すクーマシーブルー染色ゲルを示す。F(ab’)分子の架橋された軽鎖と重鎖の形成がSDS-PAGEゲル画像(矢印は約50kDaを示す)に示されている。架橋の度合いは7日目に高くなっている。
【0117】
図2図2は、処理済み(チオエーテル結合の形成を誘導するために)および非処理抗遊離カッパF(ab’)断片のクーマシーブルー染色ゲルを示している。(NR)は非還元試料、(R)は還元試料を表す。また、各バンドの構造の解釈が示されている。
【0118】
図3図3は、抗遊離ラムダF(ab’)抗体断片の同様の図を示している。
【0119】
図4図4は、チオエーテル架橋済みおよび非架橋の抗遊離カッパF(ab’)抗体と抗遊離ラムダF(ab’)抗体の遊離軽鎖(FLC)および正常なヒト血清(NHS)に対する結合活性を示す。
【0120】
図5図5は、クーマシーブルー染色SDS-PAGEを還元して測定された、抗ラムダ全F(ab’)抗体のビスマレイミドエタン(BMOE)による架橋を示す。
【0121】
図6図6は、ビスマレイミドエタン(BMOE)架橋の前後の抗ラムダ全F(ab’)抗体のIgGラムダへの結合を示す。
【0122】
図7図7は、クーマシーブルー染色SDS-PAGEを還元して測定した2mMのビスマレイミドエタン(BMOE)で架橋された抗遊離ラムダF(ab’)(10μM)と4mMのBMOEで架橋された抗遊離カッパ全分子(10μM)を示す。還元されたSDS-PAGEレーンの走査濃度測定は、抗遊離ラムダの架橋効率が70%超、抗遊離カッパの架橋効率が90%超であることを示している。
【0123】
図8図8は、カッパ遊離軽鎖に結合する、未処理の抗遊離カッパ全分子とビスマレイミドエタン(BMOE)架橋抗遊離カッパ全分子を示す。また、IgG、IgA、およびIgMに対する交差反応性が示されている。
【0124】
図9図9は、ラムダ遊離軽鎖に結合する、未処理の抗遊離ラムダF(ab’)とビスマレイミドエタン(BMOE)架橋抗遊離ラムダF(ab’)を示す。また、IgG、IgA、およびIgMに対する交差反応性が示されている。
【0125】
図10図10は、予め試料を添加せずに50mMのトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)を含む5%酢酸で溶出した抗IgG3結合セファロース(黒色の線)とチオエーテル架橋抗IgG3結合セファロース(灰色の線)のMALDI質量スペクトルを示す。ラムダ軽鎖(L)、カッパ軽鎖(K)、IgG重鎖(G)、およびIgA重鎖(A)の質量/電荷の範囲が示されている。
【0126】
図11図11は、高濃度のIgG3を含むヒト血清でインキュベーションして、50mMのTCEPを含む5%酢酸で溶出した後の抗IgG3結合セファロース(黒色の線)溶離液とチオエーテル架橋抗IgG3結合セファロース(灰色の線)溶離液のMALDI質量スペクトルを示す。ラムダ軽鎖(L)、カッパ軽鎖(K)、IgG重鎖(G)、およびIgA重鎖(A)の質量/電荷の範囲を示す。
【0127】
図12図12は、予め試料を添加せずに50mMのTCEPを含む5%酢酸で溶出した抗遊離カッパ結合セファロース(黒色の線)とBMOE架橋抗遊離カッパ結合セファロース(灰色の線)のMALDI質量スペクトルを示す。
【0128】
図13図13は、予め試料を添加せずに50mMのTCEPを含む5%酢酸で溶出した抗遊離ラムダ結合セファロース(黒色の線)とBMOE架橋抗遊離ラムダ結合セファロース(灰色の線)のMALDI質量スペクトルを示す。
【0129】
図14図14は、ラクダ科動物の抗カッパ結合セファロース(A)によりヒト血清から共精製された組み換えカッパ遊離軽鎖(rKappa)と内因性IgGカッパのMALDI質量スペクトルを示す。(B)にカッパ軽鎖(GK)とrKappaの算出ピーク面積、およびGK/rKappa比の変動係数が示されている。
【実施例
【0130】
アルカリ処理によるチオエーテル結合の抗体F(ab’) 断片への導入
【0131】
抗体のジスルフィド結合のチオエーテル結合への転換は、温度を上昇させてアルカリ性環境で誘導してもより。そのような結合の形成は、Zhang et al IgG1 Thioether Bond formation in vivo. JBC, 288:16371-16382, 2013. Zhang and Flynn. Cysteine racemization IgG heavy and light chains, JBC, 288:34325-34335, 2013など、一般に当該分野で知られている。
【0132】
アルカリ誘導したチオエーテル結合を断片に導入することができるか否かについて知るため商業的に入手可能なFreelite(登録商標)F(ab’)抗体を調べた。これらの抗体は、遊離ラムダ軽鎖、遊離カッパ軽鎖のいずれかと結合する。図1図4に示されたデータから、50℃、pH9で50mMのグリシン-NaOHにより処理したF(ab’)断片にチオエーテル架橋を導入することが可能であることが分かる。7日後、未処理のF(ab’)に比べて約20%の架橋効率が観察された(図1図3)。
【0133】
抗遊離カッパ抗体および抗遊離ラムダ抗体の結合活性をアルカリ処理の0日と7日後にELISAによって評価した(図4)。抗体をELISAプレートに塗布して、精製カッパ軽鎖、精製ラムダ軽鎖、または正常ヒト血清を提示した。ホースラディッシュ(西洋わさび)ペルオキシダーゼ(HRP)に結合した四メチルベンジジン(TMB)発色基質と抗軽鎖抗体を用いて450nmで吸光度を測定して結合活性を検出した。図4に示すようにELISA活性に幾分低下が見られたが、処理された抗体では活性はまだ残存していた。

抗ラムダ全F(ab’) 断片のビスマレイミドエタン(BMOE)架橋
【0134】
抗体鎖をBMOEにより架橋することができるか否かを調べるため、抗ラムダF(ab’)抗体を調べた。抗ラムダF(ab’)断片を1mM(TCEP)で還元した。Hi-Trap脱塩カラムを用いてTCEPを除去し、還元した抗ラムダ全F(ab’)を100~500倍のモル過剰のBMOEで架橋して、還元条件下で行ったクーマシーブルー染色SDS-PAGEにより分析した。図5から、50%超の効率でBMOEはF(ab’)断片を架橋することができることが分かる。また、得られた抗体鎖架橋は還元条件に耐性があった。
【0135】
ELISAプレートにポリクロナールIgGラムダを塗布して、BMOE処理抗全ラムダF(ab’)または未処理の抗全ラムダF(ab’)をこのプレートに結合させた。抗ヒツジ-HRPとTMB基質を用いて、抗全ラムダによる結合活性を光吸光度450nmで測定した。50%超のBMOE架橋が形成される条件下(図5)で、抗全ラムダ抗体は70%を超えるIgGラムダ結合活性を保持していた(図6)。

BMOE架橋抗遊離ラムダおよび抗遊離カッパ抗血清
【0136】
BMOE処理により抗体鎖を架橋することができるか否かを調べるため、商業的に入手可能なFreelite(登録商標)抗体を調べた。全分子抗遊離カッパおよびF(ab’)抗遊離ラムダをそれぞれ、1.5mMおよび1.0mMのTCEPで還元した。Hi-Trap脱塩カラムを用いてTCEPを除去して、抗遊離カッパ抗体と抗遊離ラムダ抗体をそれぞれ、400倍と200倍のモル過剰なBMOEで架橋した。試料を還元条件下で行ったクーマシーブルー染色SDS-PAGEにより分析した。図7に示すように、BMOE架橋効率は、F(ab’)または全分子形式のいずれかで抗体の50%を超えていた。
【0137】
BMOE処理抗体と未処理の抗体をELISAプレートに塗布し、精製した免疫グロブリン(IgG、IgA、IgM、遊離カッパ、遊離ラムダ)を提示して、活性ELISAアッセイを行った。抗軽鎖-HRPとTMB基質を用いて450nmで吸光度を測定して結合活性を検出した。図8図9の結果から、架橋した抗血清は、特異的な抗原結合活性を維持していることが分かる。

チオエーテル架橋はセファロース結合抗IgG3抗体を安定させる
【0138】
未処理の抗IgG3抗体と(アルカリ処理により)チオエーテル架橋した抗IgG3抗体をセファロース樹脂に共有結合させ、予め試料を添加せずに50mMのTCEPを含む5%酢酸で処理した。溶出した上澄みのMALDI-TOF MSによる分析(図10)から、チオエーテル架橋した抗体は、未処理の抗体よりも材料の放出が少なく、これにより抗体の安定性が高まっていることが示された。図11には抗IgG3結合活性が示されている。各セファロース樹脂は高濃度のIgG3を含むヒト血清でインキュベートして、50mMのTCEPを含む5%酢酸で溶出した。MALDI-TOF MS分析により、ヒトIgGラムダ鎖に対応するピーク面積によって測定されたように、未処理の抗体に対して同等あるいはより高い結合活性がチオエーテル架橋した抗IgG3抗体によって示された。

BMOE架橋は抗遊離カッパ抗体および抗遊離ラムダ抗体を安定化させる
【0139】
Freelite(登録商標)抗カッパ抗体と抗ラムダ抗体を未処理のまま、あるいはBMOEで架橋し、その後TCEPで還元し、Hi-Trap脱塩カラムで脱塩した。抗体をセファロース樹脂に結合させて、予め試料を添加せずに50mMのTCEPを含む5%酢酸で処理した。上澄みをMALDI-TOF MSにより分析した。図12図13に示すように、BMOE架橋抗体から放出されたのは非常にわずかの抗体断片であり、抗体の安定性が実質的に高まったことが示された。
【0140】
抗体の安定性が高まると、精製する抗体から材料の交差汚染が低減される。これにより、例えば、患者由来の免疫グロブリン試料を精製および単離するのに用いる際にさらに特性評価工程の確度が向上する。

質量分析により対照検体を対象の検体と識別することができる
【0141】
ヒト血清に既知の量及び既知の質量の組み換えカッパ軽鎖対照カッパ鎖)を補充した。ラクダ科動物の抗カッパ抗体に結合させた市販のセファロースを用いて、内因性及び対照カッパ鎖を血清から共精製し、溶出した上澄みをMALDI-TOF MSで分析した(図14)。図14Aに示すように、相対分子質量が異なることから、対照カッパ鎖は内因性カッパ鎖と識別可能である。
【0142】
内因性カッパ鎖と対照カッパ鎖をヒト血清から共精製して、2つの96標的プレートに配置させ、MALDI-TOF MSにより分析した(図14B)。各カッパ鎖に対応するピーク面積を求めて、これを用いて各プレート全体の変動係数(%CV)と両方のプレートを包含する192個の同じ試料の変動係数を算出した。図14Bは、192個の同じ試料で内因性カッパに対応するピーク面積が対照カッパピーク面積に対して表されている場合に算出された%CVが10%未満であることを示している。これは、本発明の実質的な診断可能性を示している。この図は、内部対照検体を用いて、対照検体に対する対象の検体の存在量を決定することができ、従って、対象の検体について定量情報と定性情報を提供することができることを示している。また、この観察から、対照検体を用いて精製手順の成功を検証してもよく、例えば、MALDI標的スポットのイオン化が異なるために生じるデータ群の誤差を最少にするのに役立つことが示された。
図1
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図14