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特許7541088収束検出を伴うアクティブノイズ除去システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】収束検出を伴うアクティブノイズ除去システム
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/178 20060101AFI20240820BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
G10K11/178 140
H04R3/00 310
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022528119
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-20
(86)【国際出願番号】 US2020060427
(87)【国際公開番号】W WO2021097216
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-06-21
(31)【優先権主張番号】16/683,539
(32)【優先日】2019-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591009509
【氏名又は名称】ボーズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】BOSE CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アンキタ・ディー・ジャイン
【審査官】佐久 聖子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/106077(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0014685(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/00-13/00
H04R 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサによって実行される方法であって、
1つ以上の第1のセンサによって捕捉された入力信号を受信することであって、前記入力信号が、領域内の望ましくない音響ノイズを表す、受信することと、
1つ以上の処理デバイスを使用して、前記入力信号に適応フィルタを適用して、除去信号を生成することと、
前記除去信号に基づいて、1つ以上の音響トランスデューサ用の出力信号を生成することであって、前記出力信号が、前記音響トランスデューサに、少なくとも部分的に前記領域内の前記望ましくない音響ノイズを除去させるように構成されている、生成することと、
前記領域の近くの1つ以上の第2のセンサによって捕捉されたフィードバック信号を受信することであって、前記フィードバック信号が、前記領域内の残留音響ノイズを少なくとも部分的に表す、受信することと、
前記フィードバック信号の特性を決定することと、
前記1つ以上の音響トランスデューサから前記1つ以上の第2のセンサへの伝達関数の推定値を前記除去信号に組み合わせることによって、推定された除去信号の特性を決定することと、
前記推定された除去信号と前記フィードバック信号との組み合わせパワースペクトル密度を決定することと、
1つ以上の閾値を、(i)前記推定された除去信号と前記フィードバック信号との前記の前記パワースペクトル密度と、(ii)前記フィードバック信号のパワースペクトル密度および前記推定された除去信号のパワースペクトル密度との第1の比率と比較することであって、前記比較が、前記適応フィルタの係数の収束状態を決定する、比較することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記収束状態を決定することに応答して、前記適応フィルタの係数を記憶することを更に含む、請求項に記載の方法。
【請求項3】
1つ以上の閾値を第2の比率と比較することであって、前記第2の比率は、オン状態信号とオフ状態信号の比率である、ことと、
前記第1の比率を用いた比較及び前記第2の比率を用いた比較の両方が、所定の期間内に収束状態を示す場合、前記適応フィルタの前記係数の最終の収束状態が達成されたと決定することと、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記1つ以上の第1のセンサが、加速度計を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記1つ以上の第1のセンサ及び前記1つ以上の第2のセンサが、車両に配設されている、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記フィードバック信号が、音楽又は音声を表すオーディオ信号成分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
アクティブノイズ除去(ANC)システムであって、
入力信号を生成するように構成された1つ以上の第1のセンサであって、前記入力信号が、領域内の望ましくない音響ノイズを表す、第1のセンサと、
出力オーディオを生成するように構成された1つ以上の音響トランスデューサと、
フィードバック信号を生成するように構成された1つ以上の第2のセンサであって、前記フィードバック信号が、前記領域内の残留音響ノイズを少なくとも部分的に表す、第2のセンサと、
適応フィルタと、 1つ以上の処理デバイスを含むコントローラと、を備え、前記コントローラが、
前記入力信号に適応フィルタを適用して、除去信号を生成することと、
前記除去信号に基づいて、前記1つ以上の音響トランスデューサ用の出力信号を生成することであって、前記出力信号が、前記音響トランスデューサに、少なくとも部分的に、前記領域内の前記望ましくない音響ノイズを除去させるように構成されている、生成することと、
前記フィードバック信号の特性を決定することと、
前記1つ以上の音響トランスデューサから前記1つ以上の第2のセンサへの伝達関数の推定値を前記除去信号に組み合わせることによって、推定された除去信号の特性を決定することと、
前記推定された除去信号と前記フィードバック信号とのパワースペクトル密度を決定することと、
1つ以上の閾値を、(i)前記推定された除去信号と前記フィードバック信号との前記の前記パワースペクトル密度と、(ii)前記フィードバック信号のパワースペクトル密度および前記推定された除去信号のパワースペクトル密度との第1の比率と比較することであって、前記比較が、前記ANCシステムの前記適応フィルタの係数の収束状態を決定する、比較することと、を行うように構成され、アクティブノイズ除去(ANC)システム。
【請求項8】
記憶デバイスを更に備え、前記コントローラが、前記ANCシステムの前記収束状態を決定することに応答して、前記適応フィルタの係数を記憶するように更に構成されている、請求項に記載のシステム。
【請求項9】
前記コントローラが、
1つ以上の閾値を第2の比率と比較することであって、前記第2の比率は、オン状態信号とオフ状態信号の比率である、ことと、
前記第1の比率を用いた比較及び前記第2の比率を用いた比較の両方が、所定の期間内に収束状態を示す場合、前記適応フィルタの前記係数の最終の収束状態が達成されたと決定することと、
をさらに行うように構成される、請求項に記載のシステム。
【請求項10】
前記ANCシステムが、車両に実装されている、請求項に記載のシステム。
【請求項11】
前記フィードバック信号が、音楽又は音声を表すオーディオ信号成分を含む、請求項に記載のシステム。
【請求項12】
1つ以上の機械可読記憶デバイスであって、前記1つ以上の機械可読記憶デバイスに符号化されたコンピュータ可読命令を有し、前記コンピュータ可読命令は、1つ以上の処理デバイスに、
1つ以上の第1のセンサによって捕捉された入力信号を受信することであって、前記入力信号が、領域内の望ましくない音響ノイズを表す、受信することと、
1つ以上の処理デバイスを使用して、前記入力信号に適応フィルタを適用して、除去信号を生成することと、
前記除去信号に基づいて、1つ以上の音響トランスデューサ用の出力信号を生成することであって、前記出力信号が、前記音響トランスデューサに、少なくとも部分的に前記領域内の前記望ましくない音響ノイズを除去させるように構成されている、生成することと、
前記領域の近くの1つ以上の第2のセンサによって捕捉されたフィードバック信号を受信することであって、前記フィードバック信号が、前記領域内の残留音響ノイズを少なくとも部分的に表す、受信することと、
前記フィードバック信号の特性を決定することと、
前記1つ以上の音響トランスデューサから前記1つ以上の第2のセンサへの伝達関数の推定値を前記除去信号に組み合わせることによって、推定された除去信号の特性を決定することと、
前記推定された除去信号と前記フィードバック信号とのパワースペクトル密度を決定することと、
1つ以上の閾値を(i)前記推定された除去信号と前記フィードバック信号との前記の前記パワースペクトル密度と、(ii)前記フィードバック信号のパワースペクトル密度および前記推定された除去信号のパワースペクトル密度との第1の比率と比較することであって、前記比較が、前記適応フィルタの係数の収束状態を決定する、比較することと、を含む動作を実行させるためのものであ、1つ以上の機械可読記憶デバイス。
【請求項13】
前記コンピュータ可読命令が、前記1つ以上の処理デバイスに、
1つ以上の閾値を第2の比率と比較することであって、前記第2の比率は、オン状態信号とオフ状態信号の比率である、ことと、
前記第1の比率を用いた比較及び前記第2の比率を用いた比較の両方が、所定の期間内に収束状態を示す場合、前記適応フィルタの前記係数の最終の収束状態が達成されたと決定することと、
をさらに含む動作を実行させるためのものである、請求項12に記載の1つ以上の機械可読記憶デバイス。
【請求項14】
前記1つ以上の第1のセンサが、車両の車室の外側に配設されている、請求項12に記載の1つ以上の機械可読記憶デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2019年11月14日に出願された米国特許出願第16/683,539号の優先権を主張するものであり、当該出願は、その全体が参照により組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本開示は、概して、例えば、音響ノイズ除去を実行しながら、適応フィルタの係数の収束を検出することに関する。
【背景技術】
【0003】
環境内の音楽又は音声の知覚される質は、環境内に存在する可変音響ノイズによって劣化する場合がある。例えば、環境が移動車両である場合、ノイズは、車両速度、道路の状態、天候、及び車両の状態に起因し得、それらに依存し得る。ノイズの存在は、目的の柔らかい音を隠し、音楽の忠実度又は音声の明瞭度を低下させる場合がある。
【0004】
適応フィルタは、例えば、移動車両においてユーザが知覚するノイズを低減するために、ノイズ信号を相殺するように構成された音響出力を生成することができる。これは、ノイズ除去又はアクティブノイズ除去(ANC)と呼ばれることもある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本文書は、例えば、アクティブノイズ除去(ANC)システムにおいて、適応フィルタの係数の収束状態の検出を可能にする技術を記載する。場合によっては、収束の絶対測定値は、標的位置でノイズ除去を測定することによって得ることができる。しかしながら、場合によっては、ノイズ除去の測定は利用できない場合がある。例えば、ANCシステムのオン状態及びANCシステムのオフ状態で信号を同時に測定することは可能ではない場合がある。そのような場合、本明細書に記載の技術は、標的位置でのノイズ除去の予測、及び除去信号のパワースペクトル密度(PSD)とフィードバック信号との間の漸近関係を利用して、適応フィルタの係数が十分に収束したときを検出する。記載される技術は、システムが安定してノイズ除去が効果的に実行される、「良好な」状態(例えば、収束状態)が達成されたことを、ANCシステムに通知するために使用することができる。収束状態の検出に応答して、適応フィルタの係数の値は、後で使用するために記憶され得る。
【0006】
この技術は、収束状態を達成するために、ANCシステムによって消費される時間及び/又は処理を低減するなどの利点を提供し得る。この技術はまた、ANCシステムが不安定になり得るシナリオにおいて、ANCシステムを「良好な」状態に迅速に復元する利点も提供し得る。場合によっては、本明細書に記載の技術は、ANCシステムの性能を更に改善するために、発散検出器などの他のシステムと組み合わせることができる。
【0007】
一般に、一態様では、方法は、1つ以上の第1のセンサによって捕捉された入力信号を受信することであって、入力信号が領域内の望ましくない音響ノイズを表す、受信することと、1つ以上の処理デバイスを使用して、入力信号を処理して、除去信号を生成することと、除去信号に基づいて、1つ以上の音響トランスデューサの出力信号を生成することであって、出力信号が、音響トランスデューサに、領域内の望ましくない音響ノイズを少なくとも部分的に除去させるように構成されている、生成することと、領域の近くの1つ以上の第2のセンサによって捕捉されたフィードバック信号を受信することであって、フィードバック信号が、領域内の残留音響ノイズを少なくとも部分的に表す、受信することと、フィードバック信号の特性を決定することと、除去信号の特性を決定することと、除去信号とフィードバック信号との組み合わせの特性を決定することと、1つ又は複数の閾値を、(i)除去信号とフィードバック信号との組み合わせの特性と、(ii)フィードバック信号の特性と除去信号の特性との組み合わせとの比率と比較することであって、比較が収束状態を決定する、比較することと、を含む。
【0008】
実装形態は、以下の特徴のうちの1つ又は2つ以上の組み合わせを含み得る。この方法は、適応フィルタを入力信号に適用して、除去信号を生成することを含み得る。収束状態を決定することに応答して、適応フィルタの係数が記憶され得る。除去信号を生成することは、1つ以上の音響トランスデューサからユーザの耳への伝達関数を推定することを含み得る。除去信号とフィードバック信号との組み合わせの特性、フィードバック信号の特性、又は除去信号の特性のいずれも、パワースペクトル密度であり得る。1つ以上の第1のセンサは、加速度計であり得る。1つ以上の第1のセンサ及び1つ以上の第2のセンサは、車両に配設され得る。フィードバック信号は、音楽又は音声を表すオーディオ信号成分を含み得る。
【0009】
一般に、一態様では、アクティブノイズ除去(ANC)システムは、入力信号を生成するように構成された1つ以上の第1のセンサであって、入力信号が領域内の望ましくない音響ノイズを表す、第1のセンサと、出力オーディオを生成するように構成された1つ以上の音響トランスデューサと、フィードバック信号を生成するように構成された1つ以上の第2のセンサであって、フィードバック信号が領域内の残留音響ノイズを少なくとも部分的に表す、第2のセンサと、1つ以上の処理デバイスを含むコントローラと、を備える。コントローラは、入力信号を処理して除去信号を生成し、除去信号に基づいて、1つ以上の音響トランスデューサの出力信号であって、音響トランスデューサに、領域内の望ましくない音響ノイズを少なくとも一部除去させるように構成された出力信号を生成し、フィードバック信号の特性を決定し、除去信号の特性を決定し、除去信号とフィードバック信号の組み合わせの特性を決定し、1つ以上の閾値を、(i)除去信号とフィードバック信号の組み合わせの特性と、(ii)フィードバック信号の特性と除去信号の特性の組み合わせとの比率と比較するように構成され得、比較は、ANCシステムの収束状態を決定する。
【0010】
実装形態は、以下の特徴のうちの1つ又は2つ以上の組み合わせを含み得る。ANCシステムは、適応フィルタを含み得、除去信号を生成することは、適応フィルタを入力信号に適用することを含み得る。ANCシステムは、記憶デバイスを含み得、コントローラは、ANCシステムの収束状態を決定することに応答して、適応フィルタの係数を記憶するように更に構成され得る。除去信号を生成することは、1つ以上の音響トランスデューサからユーザの耳への伝達関数を推定することを含み得る。除去信号とフィードバック信号との組み合わせの特性、フィードバック信号の特性、又は除去信号の特性のいずれも、パワースペクトル密度であり得る。ANCシステムは、車両に実装され得る。フィードバック信号は、音楽又は音声を表すオーディオ信号成分を含み得る。
【0011】
一般に、一態様では、1つ以上の機械可読記憶デバイスは、以下の動作を1つ以上の処理デバイスに実行させるためのコンピュータ可読命令を含み得、動作は、1つ以上の第1のセンサによって捕捉された入力信号であって、領域内の望まない音響ノイズを表す入力信号を受信することと、1つ以上の処理デバイスを使用して、入力信号を処理して除去信号を生成することと、除去信号に基づいて、1つ以上の音響トランスデューサの出力信号であって、音響トランスデューサに領域内の望ましくない音響ノイズを少なくとも部分的に除去させるように構成された出力信号を生成することと、領域の近くの1つ以上の第2のセンサによって捕捉されたフィードバック信号であって、領域内の残留音響ノイズを少なくとも部分的に表すフィードバック信号を受信することと、フィードバック信号の特性を決定することと、除去信号の特性を決定することと、除去信号とフィードバック信号の組み合わせの特性を決定することと、1つ又は複数の閾値を、(i)除去信号とフィードバック信号の組み合わせの特性と、(ii)フィードバック信号の特性と除去信号の特性の組み合わせとの比率と比較することと、を含み、比較は、収束状態を決定する。
【0012】
実装形態は、以下の特徴のうちの1つ又は2つ以上の組み合わせを含み得る。1つ以上の機械可読記憶デバイスは、1つ以上の処理デバイスに動作を実行させるためのコンピュータ可読命令を含み得、動作は、入力信号に適応フィルタを適用して、除去信号を生成することを含む。除去信号を生成することは、1つ以上の音響トランスデューサからユーザの耳への伝達関数を推定することを含み得る。除去信号とフィードバック信号との組み合わせの特性、フィードバック信号の特性、又は除去信号の特性のいずれも、パワースペクトル密度であり得る。1つ以上の第1のセンサは、車両の車室の外側に配設され得る。
【0013】
本概要の項に記載される特徴を含む、本開示に記載される特徴のうちの2つ以上を組み合わせて、特に本明細書に記載されない実装を形成することができる。
【0014】
1つ以上の実装形態の詳細が、添付図面及び以下の説明において述べられる。他の特徴、目的、及び利点は、本説明及び図面から、並びに「特許請求の範囲」から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】アクティブノイズ除去(ANC)システムを有する例示的な車両の概略図である。
図2】例示的な単一入力単一出力(SISO)ANCシステムの図である。
図3】音楽信号及び音声信号の存在下での例示的なSISO ANCシステムの図である。
図4】多入力多出力(MIMO)ANCシステムの図である。
図5】様々なシナリオにおける複数のマイクロフォンにわたる平均ノイズ除去の時間発展のグラフである。
図6図5の様々なシナリオにおける収束メトリックの時間発展のグラフである。
図7】2つの収束メトリックの時間発展のグラフである。
図8】収束検出及び発散検出の両方を含むANCシステムの図である。
図9】ANCシステムが収束状態を達成したことを決定するためのプロセスのフローチャートである。
図10】コンピューティングデバイスのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本文書は、その適応システム識別フィルタのうちの1つ以上の係数が収束したときを検出することができるアクティブノイズ除去(ANC)システムを記載する。適応システム識別フィルタ(ここでは「適応フィルタ」と呼ばれることもある)は、動的に調整され得る係数を有するデジタルフィルタと見なすことができ、場合によっては、所与のシステムの伝達関数を表す値のセットに収束することができる。場合によっては、適応システム識別フィルタの係数が収束したときを決定することは困難であり得る。例えば、係数は異なる速度で変化し得、ノイズ除去用途では、ノイズ信号が完全に除去されない場合がある。更に、場合によっては、ANCシステムのオン及びオフ状態の信号の同時測定は、比較のために利用できない場合がある。例えば、ANCシステムが常にオンである場合、オフ状態信号の同時測定は利用できない場合がある。本明細書に記載の技術は、適応システム識別フィルタの係数の収束状態の検出に対処する。本明細書に記載の技術は、例えば、不安定性を軽減し、ANCシステムの処理要件を低減するために、将来の使用のための係数を節約することを含むさらなる利点を提供し得る。本明細書に記載の技術はまた、ANCシステムの状態に関するより詳細な情報を提供するために、発散検出などの他のシステム及び技術と組み合わされ得る。
【0017】
場合によっては、適応フィルタを使用して、システムの伝達関数によって表される信号経路を横断する別の信号を相殺する信号を生成するために使用され、これは、未知であり得る。それにより、後者の信号の影響を低減する。例えば、ANCシステムでは、生成された信号は、大きさが実質的に同様であるが、望ましくないノイズ信号と逆相のものであるように構成された音響信号であり得、その結果、2つの信号の組み合わせにより、大きさが減少した波形が結果的に生成される。結果として、生成された音響信号は、ユーザが望ましくないノイズのレベルの低下を知覚するように、ノイズ信号を相殺する。これは、本明細書ではノイズ除去と称され得る。
【0018】
ANCシステムは、ANCシステムのユーザによって知覚される望ましくないノイズのレベルを低減するために、広範囲の環境で実装することができる。例えば、図1を参照すると、ANCシステム100は、ロードノイズを除去するために車両116に実装され得る。場合によっては、これは、ロードノイズ除去(RNC)と称され得る。ANCシステム100は、車両室などの所定の容量104内の少なくとも1つの除去ゾーン102(例えば、乗客の頭の近く)内の望ましくない音を相殺するように構成され得る。場合によっては、除去ゾーン102は、標的位置と称され得る。高レベルでは、ANCシステム100の一例は、基準センサ106(例えば、加速度計)、フィードバックセンサ108(例えば、マイクロフォン)、音響トランスデューサ110、及びコントローラ112を含み得る。
【0019】
一実施形態では、基準センサ106は、所定の容量104内の、望ましくない音、又は望ましくない音の発生源を表す基準センサ信号(複数可)を生成するように構成されている。例えば、図1に示すように、基準センサ106は、車両116の構造を通して伝達される振動を検出するように装着及び構成された、加速度計、又は複数の加速度計を含んでもよい。場合によっては、基準センサ106は、車両室の外側に配設されてもよい。車両116の構造を通して伝達される振動は、構造によって車両室内の望ましくない音(ロードノイズとして知覚される)に変換され、したがって構造に取り付けられた加速度計は、望ましくない音を表す信号を提供し得る。場合によっては、基準センサ106(例えば、加速度計)によって提供される信号は、基準信号114と称され得る。
【0020】
音響トランスデューサ110(本明細書ではドライバ110又はスピーカ110とも呼ばれる)は、例えば、所定の容量104内の別個の場所に分散された1つ以上のスピーカを含み得る。一例では、4つ以上のスピーカが車両室内に配設されてもよく、4つのスピーカの各々は、車両のそれぞれのドア内に配置され、音を車両室内に投射するように構成される。代替の実施例では、スピーカは、車両のヘッドレスト内若しくは後部デッキ内、又は車両室内の他の場所に位置してもよい。
【0021】
ドライバ信号118は、コントローラ112によって生成され、所定の容量104内の音響トランスデューサ110(例えば、ドライバ又はスピーカ)のうちの1つ以上に提供されてもよく、これはドライバ信号118を音響エネルギー(すなわち、音波)に変換する。ドライバ信号118の結果として生成される音響エネルギーは、除去ゾーン102内の望ましくない音と約180°位相がずれており、したがって、その望ましくない音を相殺する。ドライバ信号118から生成された音波と所定の容量104内の望ましくないノイズとの組み合わせにより、除去ゾーン102内のリスナによって知覚される際、望ましくないノイズの除去をもたらす。結果として、場合によっては、ドライバ信号118は、ノイズ除去信号と称され得る。
【0022】
ノイズ除去が所定の容量104全体にわたって等しいことが可能ではないため、ロードノイズ除去システム100は、所定の容量内で、1つ以上の所定の除去ゾーン102、又は標的位置内の、最大のノイズ除去を生成するように構成される。除去ゾーン102内のノイズ除去は、望ましくない音の低減を約3デシベル(dB)以上だけ作用することができる(ただし様々な実施例では、異なる量のノイズ除去が発生し得る)。更に、ノイズ除去は、約350Hz未満の周波数など、周波数の範囲内の音を除去することができる(ただし他の範囲が可能である)。
【0023】
所定の容量104内に配設されたフィードバックセンサ108は、ドライバ信号118から生成された音波と、除去ゾーン102内の望ましくない音と、除去ゾーン102内に存在する任意の所望の音響信号との組み合わせから生じる残留ノイズの検出に基づいて、フィードバック信号120を生成し得る。このようにして、フィードバック信号120は、ANCシステム100によって除去されていない残留ノイズを表し、フィードバック信号は、フィードバックとしてコントローラ112に提供され得る。フィードバックセンサ108は、例えば、車両室内に(例えば、ルーフ、ヘッドレスト、ピラー、又は室内の他の場所に)装着された少なくとも1つのマイクロフォンを含んでもよい。場合によっては、図1に示すように、フィードバックセンサ108は、車両内に座っている間に、乗客の耳の位置の近くに位置するマイクロフォンを含み得る。
【0024】
除去ゾーン(複数可)102は、フィードバックセンサ108(例えば、マイクロフォン)から遠隔に位置決めされてもよいことに留意されたい。この場合、フィードバック信号120は、除去ゾーン(複数可)内の残留ノイズ(例えば、ユーザの耳で知覚される残留ノイズ)の推定値を表すようにフィルタ化され得る。更に、フィードバック信号120は、フィードバックセンサのアレイのうちの1つ以上から離れ得る除去ゾーンにおける残留ノイズの推定値を生成するために、フィードバックセンサ108(例えば、マイクロフォン)のアレイ、及び/又は他の信号から形成され得る。実際、本出願で使用される場合、任意の所与のフィードバック信号120は、1つ以上のフィードバックセンサ108(例えば、マイクロフォン)から直接受信され得るか、又は1つ以上のフィードバックセンサ及び/又は他の信号から受信されたフィードバック信号(複数可)120に適用されるいくつかのフィルタリングの結果であり得ることを理解されたい。ANCコンテキストにおいて、使用されるフィードバックセンサの数、又はフィードバック信号120に適用されるフィルタリングに関係なく、エラー信号は、除去ゾーン内の望ましくない残留ノイズを表すと理解されるであろう。
【0025】
一実施例では、コントローラ112は、非一時的記憶媒体122及びプロセッサ124を含み得る。一実施例では、非一時的記憶媒体122は、プロセッサ124によって実行されると、本明細書に記載されるノイズ除去及び収束検出システム、技術などを実装するプログラムコードを記憶することができる。コントローラ112は、ハードウェア及び/又はソフトウェア内に実装されてもよい。例えば、コントローラ112は、SHARC浮動小数点DSPによって実装されてもよいが、コントローラ112は、任意の他のプロセッサ、FPGA、ASIC、又は他の好適なハードウェアによって実装され得ることを理解されたい。
【0026】
図2は、図1のANCシステム100のブロック図を示す。上述したように、基準センサ106(例えば、加速度計)は、本明細書では基準信号A(114)と称される、望ましくないロードノイズを表す信号を捕捉するように構成されている。次いで、基準信号114は、適応フィルタの適応処理モジュール128に送信される。場合によっては、適応処理モジュール128及びフィルタ係数W適応(126)を含む適応フィルタは、コントローラ(例えば、コントローラ112)によって実装され得る。この適応処理モジュール128はまた、フィードバックセンサ108(例えば、マイクロフォン)によって捕捉されたフィードバック信号Yfb(120)を受信し、基準信号114とフィードバック信号120との組み合わせを使用して、適応フィルタのフィルタ係数W適応(126)を調整することができる。また、適応処理モジュール128はまた、ドライバ信号118を受信して、適応フィルタのフィルタ係数W適応(126)を調整し得る。基準信号114、フィードバック信号120、及び/又はドライバ信号118に基づいてフィルタ係数126を調整することは、とりわけ、最小平均二乗(LMS)フィルタ、正規化最小二乗(NLMS)フィルタ、及びフィルタ化x最小平均二乗(FXLMS)フィルタ、又はそれらの組み合わせを含む様々な適応フィルタアルゴリズムを使用して実行することができる。フィルタ係数126が調整されると、調整されたフィルタ係数126は、基準信号114と組み合わされ(例えば、周波数領域での乗算、時間領域での畳み込みなどによって)、音響トランスデューサ110に送信されるドライバ信号W適応A(118)を生成する。音響トランスデューサ110は、車両室104にオーディオを出力するためにドライバ信号118によって駆動されるラウドスピーカであり得る。次に、このオーディオは、フィードバックセンサ108(例えば、マイクロフォン)によって、ロードノイズなどの他の音と共に捕捉され、フィードバック信号120を生成し得る。例えば、ANC設定では、適応フィルタアルゴリズムは、音響トランスデューサ110によって出力されたオーディオが、標的位置(複数可)102で知覚されるロードノイズを実質的に低減するように構成されるように実装され得、その結果、大きさが減少したフィードバック信号120をもたらす。
【0027】
ANCシステム100が車両室内のロードノイズを除去するように適応すると、フィルタ係数126は、標的位置(複数可)102でロードノイズを実質的に低減する値のセットに収束することができる。フィルタ係数126の収束は、適応フィルタの最適化アルゴリズムが解決策を見出し、ロードノイズの実質的なノイズ除去が達成されたことを示し得る。言い換えれば、この収束状態は、「良好」状態を示し得、ここで、ANCシステム100は、標的位置(複数可)102でノイズ除去を首尾よく実行する。
【0028】
フィルタ係数126の収束状態を検出するために、ANCシステム100は、収束検出器250を含む。収束検出器250がどのように動作するかを説明する目的で、完全なノイズ除去が望まれる簡略化されたシナリオが最初に提示される。例えば、これは、車両室内に存在する望ましい音楽又は音声信号がない状況、及び完全な無音が好ましい状況を含み得る。この簡略化されたシナリオでは、ANCシステム100がオン状態にある(例えば、ノイズ除去動作を実行する)とき、Yオンが車両室104内の標的位置102での信号を表すものとする。結果として、
オン=Yfb(式1)
なぜなら、フィードバックセンサ108(又はフィードバックセンサのアレイ)によって検出されたフィードバック信号120は、正確には、ANCシステム100のオン状態にある標的位置102での信号(又は信号の推定値)であるからである。本シナリオの目的は完全な無音であるため、フィードバックセンサ108によって拾われる任意の信号はまた、エラー信号Eと考えることができ、ANCシステム100のオフ状態、Yオフで聞こえるノイズと、そのオン状態にあるANCシステム100によって生成された除去信号Y除去との差を表す。すなわち、
fb=Yオフ-Y除去=E(式2)、
これは、再配置後、
オフ=Yfb+Y除去(式3)
となる。
【0029】
しかしながら、ドライバ110とフィードバックセンサ108との間の物理的経路が不明であるため、標的位置で聞こえた、正確な除去信号Y除去が取得されない場合がある。したがって、本発明者らは、ドライバ110からフィードバックセンサ108への伝達関数の推定値、
【数1】
(130)をドライバ信号118に組み合わせることによって、標的位置(例えば、ユーザの耳)での除去信号、
【数2】
(132)を以下のように推定する。
【0030】
【数3】
除去信号のこの推定値を使用して、ANCシステム100のオフ状態で聞こえた音、
【数4】
を、次いで、以下によって推定することができる。
【0031】
【数5】
【0032】
式5の両辺のパワースペクトル密度を取得すると、次の結果が与えられる。
【0033】
【数6】
【0034】
しかしながら、フィルタ係数126が収束し、かなりのノイズ除去が達成された場合、
【数7】
であり、Yfb(120)は、
【数8】
(132)に対して直交することになるためである。結果として、フィルタ係数126が収束するにつれて、
【数9】
再配置後、
【数10】
【0035】
したがって、比率の値
【数11】
(本明細書において「収束メトリックと称される)は、ANCシステム100が収束状態に近づくにつれて1の値に漸近的に近づくため、収束のためのインジケータとして使用することができる。Yfb(120)及び
【数12】
(132)を入力として使用すると、収束検出器250は、上記の計算を実行して収束メトリックを計算し、収束状態が達成されたかどうかを決定することができる。いくつかの実装形態では、収束検出器は、コントローラ(例えば、コントローラ112)によって実装される制御システム内に含まれ得る。本明細書に提示される収束メトリックを使用して、適応フィルタ係数126自体の値を監視することと比較して、係数126が非常にゆっくりと、又は異なる速度で適応するシナリオでも堅牢な性能の利点を提供することができる。
【0036】
場合によっては、収束状態が達成されたと決定することは、収束メトリックを1つ以上の閾値と比較することを含み得る。場合によっては、1前後のパーセント変動などの単一の閾値を使用することができる。パーセント変動閾値は、0%~20%の値(例えば、1%、5%、10%、15%など)に設定され得る。例えば、パーセント変動閾値が10%に設定される場合、収束検出器250は、収束メトリックが0.9~1.1の間に収束した場合に、適応フィルタ係数126が収束していることを示す。一方、収束メトリックが10%の閾値を超える1からのパーセント変動を有する場合、収束検出器250は、係数126が収束していないことを示す。場合によっては、2つの閾値を使用して、収束検出器250は、係数126が収束していることを示す収束メトリックの範囲を確立することができる。範囲は、1の値で対称的に中心にあり得るか又は中心にない場合がある。例えば、収束検出器250は、収束メトリックが0.85の第1の閾値より大きく、かつ1.1の第2の閾値未満である場合及びその場合にのみ、係数126が収束していることを示し得る。他の閾値条件は、様々な実装形態で使用することができる。
【0037】
場合によっては、収束検出器250によって1つ以上の閾値と比較される前に、全ての周波数にわたって単一の収束メトリックを計算することができる。場合によっては、複数の収束メトリックを計算することができ、各々が特定の周波数サブバンド又はビンの係数に対応する。複数の収束メトリックが計算される場合、収束検出器250は、収束状態が達成されたことを示すための様々な規則を実装することができる。例えば、収束検出器250は、収束状態が達成されているか否かを決定するために、特定の周波数ビン(例えば、高エネルギービンに対応する周波数範囲、ロードノイズに対応する周波数範囲内の周波数ビンなど)の収束メトリックのみを考慮し得る。あるいは、収束検出器250は、(例えば、ロードノイズに対応する周波数範囲をカバーし得るように)複数の周波数ビンの収束メトリックを考慮し得る。例えば、収束検出器250は、全ての周波数ビンの収束メトリックが、収束状態が達成されたことを示す前に、1つ以上の閾値条件を個別に満たすと決定し得る。場合によっては、1つ以上の閾値条件は、周波数依存性であり得る。このようにして、収束検出器250は、例えば、周波数ビンのエネルギー含有量の違いによる、異なる周波数ビンの収束率の変動を考慮することができる。いくつかの例では、収束検出器250は、複数の周波数ビンの収束メトリックの平均が閾値条件を満たすことを決定し得る。収束を検出するための様々な他の規則を、本明細書に記載されるものに加えて、又はその代わりに使用することができる。
【0038】
上記の収束メトリックは、適応フィルタ係数126が収束するにつれて1の値に近づくが、代替の収束メトリックを実装してもよい。例えば、収束メトリックには、乗算によるスケーリング、定数によるシフト、他の項との組み合わせなどが行われ得、
【数13】
間の記載した関係を維持しながら、係数126が収束するときに1以外の値に近づく代替の収束メトリックを生成してもよい。
【0039】
いくつかの実装形態では、収束検出器250は、収束状態が達成されたかどうかを決定するために、1つ以上の他のメトリックと組み合わせて収束メトリックを使用し得る。例えば、いくつかの場合では、初期適応フィルタ係数126は、ゼロに設定されてもよく、又はゼロに近くてもよい(例えば、ANCシステム100がリセットされ、係数が初期化状態に戻るとき)。場合によっては、初期係数が滑らかなロード状態に対応し、標的係数が粗いロード状態に対応するときなど、初期適応フィルタ係数126は、標的係数に対して非常に小さくてもよい。初期係数126がゼロに等しいか、標的解と比較して非常に小さいこれらのシナリオ及び他のシナリオでは、Yfb
【数14】
にほぼ直交する(これは
【数15】
を意味する)ため、収束メトリックは1(又は1に近い)の値を生成する場合がある。結果として、収束メトリックは、収束が達成されたことを誤って示し得る。
【0040】
したがって、いくつかの実装形態では、1つ以上の追加のメトリックを収束メトリックと組み合わせて使用して、偽収束検出を解決してもよい。例えば、場合によっては、収束検出器250は、以下のようにオン状態信号とオフ状態信号との比率を決定してもよい。
【0041】
【数16】
【0042】
最初に、式10に記載の比率は、ノイズ信号及びエラー信号の推定値が等しい(又はほぼ等しい)ため、1に等しい(又は1に近い)。しかしながら、ANCシステム100が適応すると、システムが正しく動作してノイズを除去する場合、エラー信号はノイズ信号に対して減少し始める。したがって、比率を1つ以上の閾値と比較することにより、収束検出器250は、エラー信号が減少し、ノイズ除去が発生しているかどうかを決定することができる。例えば、収束検出器250は、比率が1より大きいパーセンテージの値(例えば、1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%など)を有する閾値を超えるかどうかを決定し得る。上記の比率及び収束メトリックの両方が、同時に又は所定の期間内に収束を示す(例えば、それぞれの閾値条件を満たすことによって)場合、収束検出器250は、収束状態が達成されたと決定することができる。
【0043】
場合によっては、収束検出器250によって1つ以上の閾値と比較される前に、全ての周波数にわたって単一の比率を計算することができる。場合によっては、それぞれが特定の周波数サブバンド又はビンの係数に対応する複数の比率を計算することができる。複数の比率が計算される場合、収束検出器250は、収束状態が達成されたかどうかを決定するための様々な規則を実装することができる。例えば、収束検出器250は、収束状態が達成されたかどうかを決定するための特定の周波数ビン(例えば、ロードノイズに対応する周波数範囲)について計算された比率のみを考慮し得る。あるいは、収束検出器250は、例えば、各周波数ビンについて計算された比率が1つ以上の閾値条件(周波数依存性であり得る)を個別に満たすかどうか、又は複数の周波数ビンの比率の平均が閾値条件を満たすかどうかを決定することによって、複数の周波数ビンについて計算された比率を考慮してもよい。収束を検出するための様々な他の規則を、本明細書に記載されるものに加えて、又はその代わりに使用することができる。更に、比率は、収束メトリックと組み合わせて使用されるものとして説明されるが、いくつかの場合では、収束メトリックの代わりに、又は収束状態が達成されたかどうかを決定するために別のメトリックと組み合わせて使用されてもよい。
【0044】
いくつかの実装形態では、適応フィルタ係数126の収束状態を検出することに応答して、ANCシステム100は、係数値をメモリ又は別のコンピュータ可読記憶媒体などの記憶デバイスに記憶することができる。場合によっては、とりわけ、基準センサ(複数可)106及びフィードバックセンサ(複数可)108などの様々なセンサからのデータ(例えば、速度、加速度、時間、場所など)もまた、収束状態を検出することに応答して記憶され得る。記憶された係数値及び/又はセンサデータは、ANCシステム100の性能を改善するために、様々なシナリオで使用され得る。例えば、車両をオフにする前に収束状態が達成及び検出された場合、係数126の値は、将来的に車両を始動する際に初期条件として記憶及び使用することができる。別の例では、収束状態が達成され、特定の場所及び速度で検出される場合、その係数の値は、車両が(例えば、毎朝通う間に)同様のシナリオを検出する場合、後で記憶及び使用することができる。更に別の例では、ANCシステム100が不安定になる(例えば、適応フィルタ係数126が発散し始める)場合、ANCシステム100は、安定性を回復するために、従来の収束又は初期化状態から記憶された係数値をロードすることによって係数値をリセットしてもよい。記載されている技術は、ANCシステム100のノイズ除去性能を改善し、ノイズ除去を実行する時間及び/又は処理要件を低減し、ANCシステム100に影響を及ぼし得る不安定性を迅速に解決することを含む様々な利点を有し得る。
【0045】
図2は、完全なノイズ除去が望まれる簡略化されたシナリオに焦点を当てているが、説明される技術は、他の使用事例に一般化することができる。ここで図3を参照すると、音楽信号、音声信号、及び/又はいくつかの他の所望の信号が存在する単一入力単一出力(SISO)ANCシステム300が示されている。例えば、車両設定では、ユーザは、音楽、車両内の別の人物の声、警告信号などを聞く能力に影響を与えることなく、ロードノイズの知覚レベルを低減することを望む場合がある。ANCシステム300は、ANCシステム100と多くの類似点を有し、類似の部分は、同じ参照番号でラベル付けされている。しかしながら、ANCシステム100と比較して、ANCシステム300は、追加のオーディオ源を含む。最初に、ドライバ110は、ドライバ信号118に加えて、音楽信号、Y音楽-ドライバ(310)を受信する。言い換えれば、ANCシステム300では、ドライバ110は、標的位置でロードノイズを除去するように構成されたオーディオを生成するだけでなく、標的位置で聞こえることを意図したオーディオも生成するように構成されている。第2に、ANCシステム300のフィードバックセンサ108(例えば、マイクロフォン)は、車両室内の人物320に由来する音声信号、Y音声(330)、及びドライバ110によって再生される音楽信号、Y音楽(340)を拾うように構成されており、それぞれが標的位置で聞こえることを意図し得る。
【0046】
ANCシステム100と同様に、ANCシステム300において、
オン=Yfb(式11)
フィードバックセンサ108によって拾われたフィードバック信号120は、正確には、ANCシステム300のオン状態にある標的位置102での信号(又は信号の推定値)であるからである。しかしながら、このシナリオにおいて、フィードバック信号120は、ロードノイズ関連エラー信号、E_ロードだけでなく、所望の音楽信号340及び所望の音声信号330も含む。すなわち、
fb=(Yオフ、ロード-Y除去、ロード)+Y音楽+Y音声=Eロード+Y音楽+Y音声(式12)
【0047】
フィードバック信号120内の音楽信号340及び音声信号330を含んだ後、計算は、式2~9に従う。これは、適応フィルタ係数126の値が収束するにつれて1の値に近づく、同じ収束メトリック、
【数17】
をもたらす。これは、適応の時間スケールにわたって、ロードノイズに比例する、音楽又は音声コンテンツと除去信号との間の直交性によるものである。いくつかの実装形態では、ANCシステム300は、式10中、上記の比率などの1つ以上の他のメトリックと組み合わせて収束メトリックを使用して、収束状態が達成されたかどうかを決定してもよい。したがって、ANCシステム300は、所望の音楽、音声、及び他の音信号が車両室内に存在するシナリオでも、ANCシステム100と類似の収束検出を実行することができる。
【0048】
ANCシステム100、300は、1つの音響トランスデューサ110及び1つのフィードバックセンサ108を備えた単一入力単一出力(SISO)ANCシステムとして示されているが、他のシステムアーキテクチャを実装してもよい。ここで図4を参照すると、多入力多出力(MIMO)アーキテクチャを有するANCシステム400が示されている。SISO ANCシステム100と比較して、ANCシステム400は、複数の音響トランスデューサ及び複数のフィードバックセンサを含む。特に、実証目的では、2つの音響トランスデューサ410A、410B、及び2つのフィードバックセンサ408A、408B(例えば、マイクロフォン)を有するMIMOの事例に焦点を当てているが、他の事例では、追加のドライバ及び/又はフィードバックセンサが含まれてもよい。更に、ANCシステム400は、単一の基準センサ106を有するが、いくつかの実装形態では、追加の基準センサが含まれてもよい。
【0049】
複数のドライバ及び複数のフィードバックセンサの存在により、ANCシステム400は、推定され得る複数のドライバ対耳の物理経路を有する。例えば、図4において、
【数18】
は、第1のドライバ410Aから第1のフィードバックセンサ408Aへの伝達関数の推定値である。
【0050】
【数19】
は、第1のドライバ410Aから第2のフィードバックセンサ408Bへの伝達関数の推定値である。
【0051】
【数20】
は、第2のドライバ410Bから第2のフィードバックセンサ408Bへの伝達関数の推定値である。
【0052】
【数21】
は、第2のドライバ410Bから第1のフィードバックセンサ408Aへの伝達関数の推定値である。
【0053】
各フィードバックセンサ408A、408Bについて、計算は、ANCシステム100について説明されたように、式1~3に従う。しかしながら、単一の除去信号を推定するのではなく、ANCシステム400は、第1のドライバ410A及び第2のドライバ410Bの両方に対応する各フィードバックセンサ408A、408Bから受信された信号に基づいて、標的位置での除去信号を推定することができる。次いで、これらの個々の除去信号を合計して、標的位置で総除去信号を生成することができる。具体的には、第1のフィードバックセンサ408Aの場合、標的位置での総除去信号は、
【数22】
のように表すことができ、
第2のフィードバックセンサ408Bの場合、標的位置での総除去信号は、
【数23】
のように表すことができる。
【0054】
ここで、W適応,iは、基準信号Aからドライバiへの適応フィルタマトリックスを表す。各フィードバックセンサ408A、408Bについて、計算は、式5~9に従う。ここで、単一の除去信号、
【数24】
は、総除去信号、
【数25】
で置き換えられている。その結果、収束メトリック、
【数26】
は、各フィードバックセンサ408A、408Bから受信した信号を使用して標的位置について計算することができ、各収束メトリックは、適応フィルタ係数126が収束するにつれて、1の値に近づく。
【0055】
場合によっては、収束検出器250は、各フィードバックセンサ408A、408Bについて決定された標的位置の収束メトリックが、図2に関連して説明された閾値条件などの1つ以上の閾値条件を満たす場合に、収束状態が達成されたと決定することができる。場合によっては、各フィードバックセンサ408A、408Bについて決定された標的位置の収束メトリックを平均化して、集計収束メトリック、
【数27】
を決定することができ、ここで、添字「earmics」は、標的マイクロフォン又は位置における信号を表す。次いで、収束状態が達成されたかどうかを決定するために、集計収束メトリックを、収束検出器250によって1つ以上の閾値と比較することができる。いくつかの場合において、個々のPSDは、それ自体がフィードバックセンサにわたって平均化されて、代替の集計収束メトリック、
【数28】
を計算することができ、これはまた、収束状態が達成されたかどうかを決定するために、1つ以上の閾値と比較することもできる。いくつかの実装形態では、個々の又は集計収束メトリックは、式10に記載される比率などの1つ以上の他のメトリックと組み合わされて、収束が達成されたかどうかを決定してもよい。比率は、フィードバックセンサ408A、408Bのいくつか又は全てから受信された信号に基づいて決定されてもよく、個々の又は集計基準で1つ以上の閾値と比較されてもよい。複数のフィードバックセンサ408A、408Bを使用する標的位置の収束メトリックの様々な組み合わせを実装することができる。
【0056】
図5は、様々なシナリオにおける例示的なANCシステムの複数のフィードバックセンサにわたる平均ノイズ除去の時間発展を示すグラフ500である。試験設定では、ANCシステムの平均ノイズ除去は、ANCシステムのオン状態及びオフ状態の両方でノイズ信号を再生しながら、1つ以上の標的位置で捕捉又は推定された音響信号を比較することによって測定することができる。第1のシナリオ510では、ANCシステムに適応フィルタ係数の初期セットがロードされ、システムが収束するにつれて平均ノイズ除去が経時的に測定される。第2のシナリオ540では、ANCシステムに、第1のシナリオ510内の係数を10倍にスケーリングすることによって得られた適応フィルタ係数の初期セットがロードされ、システムが収束するにつれて平均ノイズ除去を経時的に再び測定する。第3のシナリオ520では、ANCシステムに、最初にゼロに設定されたその適応フィルタ係数の全てがロードされ、システムが収束するにつれて、平均ノイズ除去が経時的に測定される。最後に、第4のシナリオ530では、ANCシステムの係数は、収束しないが、むしろ発散し、対応する平均ノイズ除去が経時的に測定される。
【0057】
グラフ500で観察されるように、ANCシステムが収束する全てのシナリオ(例えば、シナリオ510、520、540)について、平均ノイズ除去は最終的には(例えば、2500秒後に)非常に類似する。これは、ANCシステムの係数が全て、各シナリオにおいて同様の解に収束することを示唆している。対照的に、発散シナリオ530では、適応フィルタ係数は、ある解に収束することはなく、平均ノイズ除去は非常に迅速に低下する。この証拠は、収束が実際に、十分なレベルのノイズ除去がANCシステムによって達成されている「良好な状態」のインジケータであり得ることを示唆している。
【0058】
収束シナリオ510、520、540の中でも、いくつかのシナリオにおいて他のシナリオよりも早い段階で、より大きなノイズ除去が達成されることが観察されている。例えば、最初の1500秒で、グラフ500は、シナリオ510、540がシナリオ530よりもはるかに大きなノイズ除去を提供することを示す。これは、ノイズ除去の解が見付けられる速度を決定するための適応フィルタ係数の初期値の役割を強調する。その結果、グラフ500は、ANCシステムによってより速い収束及びより大きなノイズ除去を達成する目的で、以前に見出された収束状態からの値を適応フィルタ係数にロードする動機を与える。
【0059】
図5は、ノイズ除去の絶対測定値をどのように使用して収束を検出することができるかを示しているが、場合によっては、そのような測定を取得することができない。例えば、ANCシステムが常にオンである車両設定では、ANCシステムのオフ状態の音響信号の同時測定には直接アクセス可能でない場合がある。しかしながら、上述のように、ANCシステムのオフ状態の音響信号を推定することができ、収束メトリックに基づいて収束を検出することができる。図6は、様々なシナリオで動作するANCシステムについて計算された、式9中に提示された収束メトリックの時間発展を示すグラフ600である。図5と同様に、第1のシナリオ610では、ANCシステムに適応フィルタ係数の初期セットがロードされ、収束メトリックは、システムが収束するにつれて経時的に測定される。第2のシナリオ640では、ANCシステムには、第1のシナリオ610内の係数を10倍にスケーリングすることによって得られた適応フィルタ係数の初期セットがロードされ、再びシステムが収束するにつれて経時的な収束メトリックを測定する。第3のシナリオ620では、ANCシステムには、最初にゼロに設定されたその適応フィルタ係数の全てがロードされ、システムが収束するにつれて、収束メトリックは経時的に測定される。最後に、第4のシナリオ630では、ANCシステムの係数が経時的に発散し、対応する収束メトリックが測定される。
【0060】
上述のように、理想的な収束は、1の値に近づく収束メトリックに対応し、この実装形態では、1前後で10%の変動を閾値として使用して、収束状態が達成されたかどうかを決定する。言い換えれば、ANCシステム(例えば、ANCシステム100、300、400、800)の収束検出器(例えば、収束検出器250)は、収束メトリックが0.9~1.1の範囲内にある場合に収束状態が達成されたことを示す。グラフ600で観察されるように、収束メトリックは、収束状態を首尾よく特定することができ、収束シナリオの全て(例えば、シナリオ610、620、640)が最終的に標的範囲内にある。一方、発散シナリオ630は、約500秒後に標的範囲内に留まることができない。更に、図5で測定されたノイズ除去と同様に、収束メトリックは、ANCシステムがシナリオ610、640でそれよりもはるかに後にシナリオ620で収束状態に達することを明らかにする。これは、本明細書に提示される収束メトリックが、ノイズ除去の直接測定が実行可能でない場合がある設定における収束検出のための実行可能な代替物を提供することを示唆している。
【0061】
図7は、2つの収束メトリック710、720の時間発展を示すグラフ700である。収束メトリック710は、式9に記載された収束メトリックに対応し得る。収束メトリック720は、式10に記載された収束メトリック又は比率に対応し得る。
【0062】
上述のように、いくつかの実施例では、ANCシステム(例えば、ANCシステム100、300、400、800)の収束検出器(例えば、収束検出器250)は、収束メトリック710、720の両方を使用して、収束状態が達成されたかどうかを決定してもよい。例えば、収束検出器は、収束メトリック710の値を1つ以上の閾値と比較して、メトリックが収束を示すかどうかを決定してもよい。グラフ700に示されるシナリオでは、収束検出器は、収束メトリック710が、その値が0.9及び1.1の範囲内にあるときに収束を示すことを決定し得るが、他の閾値が、様々な実装形態で使用されてもよい。同様に、収束検出器は、収束メトリック720の値を1つ以上の閾値(収束メトリック710に適用される1つ以上の閾値とは異なり得る)と比較して、メトリックが収束を示すかどうかを決定してもよい。例えば、収束検出器は、収束メトリック720が、その値が1.3を超えるときに収束を示すことを決定してもよい。収束メトリック710、720の両方がそれらのそれぞれの閾値(複数可)を満たすとき(同時に又は所定の期間内のいずれか)、収束検出器は、収束状態が達成されたと決定してもよい。
【0063】
収束を決定するために収束メトリック710、720の両方を使用することにより、収束検出器は、例えば、初期フィルタ係数126が、ゼロに等しいか、又は標的解と比較して非常に小さい場合に生じ得る偽収束検出を低減し得る。例えば、グラフ700は、収束メトリック710が、最初に時間0で閾値範囲内にあるが、最終的にその範囲内の値を維持する前に、その後すぐに範囲外になることを示す。一方、収束メトリック720は、閾値を超える値に達する前に、グラフ700の閾値を最初に下回る。収束メトリック710のみが、グラフ700に示されるシナリオの収束を決定するために使用された場合、ANCシステムが、真の収束状態を適応させて達成するための時間を有する前に、偽収束が時間0で検出され得る。しかしながら、収束を決定するために収束メトリック710、720の両方を使用することにより、偽収束検出を回避してもよい。
【0064】
ANCシステムは、さらなる性能向上のために本明細書に記載される技術を様々な他の技術と組み合わせてもよい。例えば、場合によっては、ANCシステムは、発散検出で上述した収束検出を補足してもよい。発散検出システム及び技術を用いる例示的なANCシステムは、2019年3月29日に出願された米国特許出願第16/369,620号に記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0065】
図8は、収束検出器810及び発散検出器820の両方を含む例示的なANCシステム800の図を示す。収束検出器810は、収束が検出されたか否かのバイナリ指標を提供する(815)一方で、発散検出器820は、発散が検出されたか否かのバイナリ指標を提供する(825)。場合によっては、収束検出器810及び発散検出器820は、1つ以上の構成要素(例えば、プロセッサ)を共有し得るが、場合によっては、それらは完全に分離され得る。
【0066】
単一のANCシステムにおける収束検出と発散検出との組み合わせは、偽陽性率を低下させ、ANCシステム800の現在の状態に関するより詳細な情報を提供するという利点を有し得る。例えば、1つのシナリオ850では、発散が検出されない間に収束が検出された場合、ANCシステム800は、その適応フィルタ係数が収束状態を首尾よく達成したことを決定し得る。別のシナリオ840では、発散が検出されている間に収束が検出されない場合、ANCシステム800は、適応フィルタ係数が発散していることを決定し得る。次いで、ANCシステムは、不安定性を軽減することに応答して適切なアクションを行うことができる(例えば、以前に取得された収束状態からの係数値のセットをロードする)。更に別のシナリオ830では、収束も発散も検出されない場合、ANCシステムは、その適応フィルタ係数が収束のプロセスにあるが、まだ収束状態を達成していないことを決定し得る。最後に、第4のシナリオ860では、収束及び発散の両方が検出される場合、ANCシステム800は、その適応フィルタ係数が収束及び分散の両方を同時にすることができないため、エラーが発生したことを決定し得る。
【0067】
図9は、ANCシステムが収束状態を達成したことを決定するためのプロセス900のフローチャートを示す。いくつかの実装形態では、プロセス900の動作は、ANCシステム100、300、400、及び800などの図2~4及び8に関して上述したシステムのうちの1つ以上によって実行することができる。
【0068】
プロセス900の動作は、1つ以上の処理デバイスで、1つ以上の第1のセンサによって捕捉された入力信号を受信することを含む(910)。入力信号は、除去ゾーン(複数可)102などの領域内の望ましくない音響ノイズを少なくとも部分的に表すことができる。いくつかの実装形態では、1つ以上の第1のセンサは、加速度計であり得る。いくつかの実装形態では、1つ以上の第1のセンサは、車両の車室の外側などの車両に配設され得る。
【0069】
プロセス900の動作は、1つ以上の処理デバイスを使用して、入力信号を処理して、除去信号を生成することを更に含む(920)。いくつかの実装形態では、適応フィルタを入力信号に適用して、除去信号を生成してもよい。いくつかの実装形態では、除去信号を生成することは、1つ以上の音響トランスデューサからユーザの耳への伝達関数を推定することを含んでもよい。
【0070】
プロセス900の動作は、除去信号に基づいて、1つ以上の音響トランスデューサの出力信号を生成することを更に含む(930)。出力信号は、音響トランスデューサに、領域内の望ましくない音響ノイズを少なくとも部分的に除去させるように構成される。
【0071】
プロセス900の動作は、1つ以上の処理デバイスで、領域の近くの1つ以上の第2のセンサによって捕捉されたフィードバック信号を受信することを更に含む(940)。いくつかの実装形態では、1つ以上の第2のセンサは、車両の車室の内側などの車両に配設されてもよい。フィードバック信号は、少なくとも部分的に、領域内の残留音響ノイズを表す。いくつかの実装形態では、フィードバック信号は、音楽又は音声を表すオーディオ構成要素を含んでもよい。
【0072】
プロセス900の動作は、1つ以上のプロセッサによって、1つ以上の閾値を、(i)除去信号とフィードバック信号との組み合わせの特性と、(ii)フィードバック信号の特性と除去信号の特性との組み合わせとの比率と比較することを更に含み、比較は収束状態を決定する(950)。いくつかの実装形態では、除去信号とフィードバック信号との組み合わせの特性、フィードバック信号の特性、及び除去信号の特性のうちの1つ以上は、パワースペクトル密度であり得る。いくつかの実装形態では、除去信号とフィードバック信号との組み合わせの特性、フィードバック信号の特性、及び除去信号の特性のうちの1つ以上は、1つ以上の第2のセンサから達成される平均パワースペクトル密度であり得る。いくつかの実装形態では、収束状態を決定することに応答して、適応フィルタの係数を記憶してもよい。
【0073】
図10は、上述の動作を実行するために使用することができる例示的なコンピュータシステム1000のブロック図である。例えば、図1図9を参照して上述したシステム(例えば、100、300、400、800など)又はプロセス(例えば、900)のいずれかは、コンピュータシステム1000の少なくとも一部を使用して実装することができる。システム1000は、プロセッサ1010、メモリ1020、記憶デバイス1030、及び入力/出力デバイス1040を含む。構成要素1010、1020、1030、及び1040の各々は、例えば、システムバス1050を使用して相互接続することができる。プロセッサ1010は、システム1000内で実行するための命令を処理することができる。一実装形態では、プロセッサ1010は、シングルスレッドプロセッサである。別の実装形態では、プロセッサ1010は、マルチスレッドプロセッサである。プロセッサ1010は、メモリ1020内又は記憶デバイス1030上に記憶された命令を処理することができる。
【0074】
メモリ1020は、システム1000内に情報を記憶する。一実装形態では、メモリ1020は、コンピュータ可読媒体である。一実装形態では、メモリ1020は、揮発性メモリユニットである。別の実装形態では、メモリ1020は、不揮発性メモリユニットである。
【0075】
記憶デバイス1030は、システム1000のための大容量記憶装置を提供することができる。一実装形態では、記憶デバイス1030は、コンピュータ可読媒体である。様々な異なる実装形態では、記憶デバイス1030は、例えば、ハードディスクデバイス、光ディスクデバイス、複数のコンピューティングデバイス(例えば、クラウド記憶デバイス)によってネットワーク上で共有される記憶デバイス、又はいくつかの他の大容量記憶デバイスを含むことができる。
【0076】
入力/出力デバイス1040は、システム1000の入力/出力動作を提供する。一実装形態では、入力/出力デバイス1040は、1つ以上のネットワークインターフェースデバイス、例えば、イーサネットカード、シリアル通信デバイス、例えば、RS-232ポート、及び/又は無線インターフェースデバイス、例えば、802.11カードを含むことができる。別の実装形態では、入力/出力デバイスは、入力データを受信し、出力データを他の入力/出力デバイス、例えば、キーボード、プリンタ、及び表示デバイス1060、並びに音響トランスデューサ/スピーカ1070に送信するように構成されたドライバデバイスを含むことができる。
【0077】
例示的な処理システムが図10に記載されているが、本明細書に開示された構造及びそれらの構造的等価物を含む、他のタイプのデジタル電子回路において、又はコンピュータソフトウェア、ファームウェア、若しくはハードウェアにおいて、又はそれらのうちの1つ以上の組み合わせで、主題及びこれに記載されている機能動作の実装形態を仕様実装することができる。
【0078】
本明細書は、システム及びコンピュータプログラム構成要素に関連して「構成された」という用語を使用する。特定の動作又はアクションを実行するように構成されている1つ以上のコンピュータのシステムについては、動作の際にシステムに動作又はアクションを実行させるソフトウェア、ファームウェア、ハードウェア、又はそれらの組み合わせをインストールしたシステムを意味する。特定の動作又はアクションを実行するように構成される1つ以上のコンピュータプログラムについては、データ処理装置によって実行されると、装置に動作又はアクションを実行させる命令を含む1つ以上のプログラムを意味する。
【0079】
本明細書に記載される主題及び機能動作の実施形態は、本明細書に開示される構造及びそれらの構造的等価物を含む、デジタル電子回路、有形的に具現化されたコンピュータソフトウェア若しくはファームウェア、コンピュータハードウェア、又はそれらの1つ以上の組み合わせにおいて実装することができる。本明細書に記載される主題の実施形態は、1つ以上のコンピュータプログラム、すなわち、データ処理装置による実行のために、又はデータ処理装置の動作を制御するための有形の非一時的な記憶媒体上に符号化されたコンピュータプログラム命令の1つ以上のモジュールとして実装することができる。コンピュータ記憶媒体は、機械可読記憶デバイス、機械可読記憶基板、ランダム若しくはシリアルアクセスメモリデバイス、又はそれらのうちの1つ以上の組み合わせとすることができる。代替的又は追加的に、プログラム命令は、人工的に生成された伝搬信号、例えば、機械生成された電気的、光学的、又は電磁信号で符号化され得、これは、データ処理装置による実行のための適切な受信器装置への送信のための情報を符号化するように生成される。
【0080】
用語「データ処理装置」は、データ処理ハードウェアを指し、データを処理するための全ての種類の装置、デバイス、及び機械を包含し、例として、プログラマブルプロセッサ、コンピュータ、又は複数のプロセッサ若しくはコンピュータを含む。この装置はまた、特別目的論理回路、例えば、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)又はASIC(特定用途向け集積回路)とするか、又はそれを更に含むことができる。この装置は、ハードウェアに加えて、コンピュータプログラムのための実行環境、例えば、プロセッサファームウェアを構成するコード、プロトコルスタック、データベース管理システム、オペレーティングシステム、又はそれらのうちの1つ以上の組み合わせを作成するコードを、任意選択で含むことができる。
【0081】
プログラム、ソフトウェア、ソフトウェアアプリケーション、アプリ、モジュール、ソフトウェアモジュール、スクリプト、又はコードとも呼ばれるか、又は記載されることがあるコンピュータプログラムは、コンパイル型言語又はインタープリタ型言語、又は宣言的若しくは手続き的言語を含む、任意の形式のプログラミング言語で書いてもよく、スタンドアローンプログラムとして、又はコンピューティング環境での使用に好適なモジュール、構成要素、サブルーチン、又は他のユニットとして含む任意の形式で展開することができる。コンピュータプログラムは、ファイルシステムにおけるファイルに対応してもよいが、対応する必要はない。プログラムは、他のプログラム若しくはデータ、例えば、マークアップ言語文書で記憶された1つ以上のスクリプトを保持するファイルの部分、問題のプログラム専用の単一ファイル、又は複数の調整ファイル、例えば、1つ以上のモジュール、サブプログラム、若しくはコードの部分を記憶するファイルに記憶することができる。コンピュータプログラムは、1つのコンピュータ上で、又は1つのサイトに位置するか、複数のサイトにわたって分散されて、データ通信ネットワークによって相互接続された複数のコンピュータ上で実行されるように展開することができる。
【0082】
本明細書に記載されるプロセス及び論理フローは、入力データに対して動作し、出力を生成することによって機能を実行する1つ以上のコンピュータプログラムを実行する1つ以上のプログラム可能なコンピュータによって実行することができる。プロセス及び論理フローはまた、特別目的論理回路、例えば、FPGA又はASICによって、又は専用論理回路と1つ以上のプログラムされたコンピュータとの組み合わせによって実行され得る。
【0083】
ユーザとの相互作用を提供するために、本明細書に記載の主題の実施形態は、ユーザに情報を表示するための表示デバイス、例えば、発光ダイオード(LED)又は液晶ディスプレイ(LCD)モニタ、並びにキーボード及びポインティングデバイス、例えば、マウス又はトラックボールを有するコンピュータに実装することができ、これらによってユーザは、コンピュータへの入力を提供することができる。他の種類のデバイスを使用して、ユーザとの相互作用を提供することもできる。例えば、ユーザに提供されるフィードバックは、任意の形態の感覚フィードバック、例えば、視覚フィードバック、聴覚フィードバック、又は触覚フィードバックであり得、ユーザからの入力は、音響、音声、又は触覚入力を含む任意の形態で受信することができる。更に、コンピュータは、ユーザによって使用される文書をデバイスに送信すること及びそのデバイスから受信することによって、例えば、ウェブブラウザから受信された要求に応答して、ユーザのデバイス上のウェブブラウザにウェブページを送信することによって、ユーザと相互作用することができる。また、コンピュータは、テキストメッセージ又は他の形態のメッセージをパーソナルデバイス、例えば、メッセージングアプリケーションを実行しているスマートフォンに送信することによって、及び返答でユーザからの応答メッセージを受信することによって、ユーザと相互作用することができる。
【0084】
本明細書に記載されている主題の実施形態は、例えばデータサーバとしてのバックエンド構成要素を含むか、又はアプリケーションサーバなどのミドルウェア構成要素を含むか、又はフロントエンド構成要素、例えば、グラフィカルユーザインターフェイスを有するクライアントコンピュータ、Webブラウザ、又はユーザが本明細書に記載されている主題の実装形態と相互作用できるアプリ、又は1つ以上のそのようなバックエンド、ミドルウェア、若しくはフロントエンド構成要素の任意の組み合わせを含む、コンピューティングシステムに実装することができる。システムの構成要素は、デジタルデータ通信の任意の形態又は媒体、例えば、通信ネットワークによって相互接続することができる。通信ネットワークの例には、ローカルエリアネットワーク(LAN)及び広域ネットワーク(WAN)、例えば、インターネットが含まれる。
【0085】
コンピューティングシステムは、クライアント及びサーバを含むことができる。クライアント及びサーバは、一般に、互いに遠隔であり、通常、通信ネットワークを介して相互作用する。クライアントとサーバとの関係は、それぞれのコンピュータ上で実行され、互いにクライアント-サーバ関係を有するコンピュータプログラムによって生じる。いくつかの実施形態では、サーバは、例えば、クライアントとして機能するデバイスと相互作用するユーザにデータを表示し、そのユーザからユーザ入力を受信する目的で、データ、例えば、HTMLページをユーザデバイスに送信する。ユーザデバイスで生成されたデータ、例えば、ユーザ相互作用の結果は、デバイスからサーバで受信することができる。
【0086】
具体的に本明細書に記載されていない他の実施形態もまた、以下の特許請求の範囲内にある。本明細書に記載される異なる実装形態の要素は、特に上に記載されない他の実施形態を形成するために組み合わされ得る。要素は、それらの動作に悪影響を及ぼすことなく、本明細書に記載される構造から除かれ得る。更にまた、様々な別個の要素は、本明細書に記載される機能を実施するために、1つ以上の個々の要素と組み合わされ得る。
【符号の説明】
【0087】
100 ANCシステム
106 基準センサ
108 フィードバックセンサ
110 音響トランスデューサ
114 基準信号
118 ドライバ信号
120 フィードバック信号
126 フィルタ係数
128 適応処理モジュール
250 収束検出器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10