(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】熱伝導性樹脂組成物及び放熱シート
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20240820BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20240820BHJP
C09K 5/14 20060101ALI20240820BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/38
C09K5/14 E
H01L23/36 M
(21)【出願番号】P 2022530640
(86)(22)【出願日】2021-06-11
(86)【国際出願番号】 JP2021022360
(87)【国際公開番号】W WO2021251494
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2020102302
(32)【優先日】2020-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100154391
【氏名又は名称】鈴木 康義
(72)【発明者】
【氏名】和田 光祐
(72)【発明者】
【氏名】藤 清隆
(72)【発明者】
【氏名】谷口 佳孝
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-073409(JP,A)
【文献】国際公開第2019/073690(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/066277(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/135237(WO,A1)
【文献】特開2017-092322(JP,A)
【文献】特開2014-210857(JP,A)
【文献】国際公開第2020/049817(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/164002(WO,A1)
【文献】特開2019-164002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
C09K 5/00- 5/20
H01L 23/00- 23/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機フィラー成分と樹脂成分とを配合してなる熱伝導性樹脂組成物であって、
前記無機フィラー成分は第1の無機フィラー及び第2の無機フィラーを含み、
前記無機フィラー成分の粒度分布は、前記第1の無機フィラーに起因する第1の極大点及び前記第2の無機フィラーに起因する第2の極大点を有し、
前記第1の極大点の粒径が15μm以上であり、前記第2の極大点の粒径が前記第1の極大点の粒径の
0.3倍以上3分の2以下であり、
前記第1の極大点を有するピークにおけるピークスタートからピークエンドまでの間の頻度の積算量が50%以上であり、
前記第1の無機フィラーが、六方晶窒化ホウ素一次粒子が凝集してなり、圧壊強度が6MPa以上である熱伝導性樹脂組成物。
【請求項2】
前記第2の無機フィラーが窒化ホウ素粒子である請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
前記第2の無機フィラーが、六方晶窒化ホウ素一次粒子が凝集してなり、圧壊強度が6MPa以上である塊状窒化ホウ素粒子である請求項2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
前記無機フィラー成分の粒度累積において、0~15μmの粒径の頻度の積算量が60%未満である請求項1~3のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の熱伝導性樹脂組成物を成形してなる放熱シート。
【請求項6】
厚さが0.35mm以下である請求項5に記載の放熱シート。
【請求項7】
厚さが0.05mm以下の基材をさらに含む請求項5又は6に記載の放熱シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ホウ素粒子を含む熱伝導性樹脂組成物及びその熱伝導性樹脂組成物を成形してなる放熱シートに関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイス、トランジスタ、サイリスタ、CPU等の発熱性電子部品においては、使用時に発生する熱を如何に効率的に放熱するかが重要な課題となっている。従来から、このような放熱対策としては、(1)発熱性電子部品を実装するプリント配線板の絶縁層を高熱伝導化する、(2)発熱性電子部品又は発熱性電子部品を実装したプリント配線板を電気絶縁性の熱インターフェース材(Thermal Interface Materials)を介してヒートシンクに取り付ける、ことが一般的に行われてきた。プリント配線板の絶縁層及び熱インターフェース材としては、シリコーン樹脂やエポキシ樹脂にセラミックス粉末を充填させたものが使用されている。
【0003】
近年、発熱性電子部品内の回路の高速・高集積化、及び発熱性電子部品のプリント配線板への実装密度の増加に伴って、電子機器内部の発熱密度は年々増加している。そのため、従来にも増して高い熱伝導率を有するセラミックス粉末が求められてきている。
【0004】
以上のような背景により、高熱伝導率、高絶縁性、比誘電率が低いこと等、電気絶縁材料として優れた性質を有している、六方晶窒化ホウ素(Hexagonal Boron Nitride)粉末が注目されている。
【0005】
しかしながら、六方晶窒化ホウ素粒子は、面内方向(a軸方向)の熱伝導率が400W/(m・K)であるのに対して、厚み方向(c軸方向)の熱伝導率が2W/(m・K)であり、結晶構造と鱗片状に由来する熱伝導率の異方性が大きい。さらに、六方晶窒化ホウ素粉末を樹脂に充填すると、粒子同士が同一方向に揃って配向する。そうすると、樹脂中の六方晶窒化ホウ素粒子の厚み方向(c軸方向)がそろうことになる。
そのため、例えば、熱インターフェース材の製造時に、六方晶窒化ホウ素粒子の面内方向(a軸方向)と熱インターフェース材の厚み方向が垂直になり、六方晶窒化ホウ素粒子の面内方向(a軸方向)の高熱伝導率を十分に活かすことができなかった。
【0006】
特許文献1では、一次粒子の六方晶窒化ホウ素粒子が同一方向に配向せずに凝集した窒化ホウ素粉末の使用が提案されている。この窒化ホウ素粉末を樹脂に充填すると、一次粒子の六方晶窒化ホウ素粒子が同一方向に配向せず、熱伝導率の異方性を抑制することができる。一次粒子の六方晶窒化ホウ素粒子が同一方向に配向せずに凝集した窒化ホウ素粉末として、特許文献1に記載されたもの以外に、スプレードライ法で作製した球状窒化ホウ素(特許文献2)、炭化ホウ素を原料として製造した凝集体の窒化ホウ素(特許文献3)、プレスと破砕を繰り返し製造した凝集窒化ホウ素(特許文献4)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-202663号公報
【文献】特開2014-40341号公報
【文献】特開2011-98882号公報
【文献】特表2007-502770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、発熱性電子部品の小型化に伴い、薄い放熱シートが求められている。ところで、セラミック原料粉末と有機質系成分とから構成された薄い成形体を連続して得る方法としてドクターブレード法が知られている。ドクターブレード法は、均一なスラリーをキャリアフィルムの上に薄く延ばして成形体を得る方法である。ドクターブレード法は、電子機器用のセラミック基板、IC用のセラミックパッケージ、多層セラミックパッケージ、多層セラミック回路基板、セラミックコンデンサー等に広く使用されている。薄い放熱シートを量産するという観点から、薄い放熱シートもドクターブレード法で作製することが望ましい。しかし、熱伝導性を高い水準で維持しつつ、薄い放熱シートを作製するのは困難である。
【0009】
従来の凝集窒化ホウ素を使用してスラリーを作製すると、スラリーの粘度が高くなるので、従来の凝集窒化ホウ素を使用して、ドクターブレード法により薄い成形体を得ることが難しかった。また、従来の凝集窒化ホウ素を使用してドクターブレード法により薄い成形体を作製し、薄い成形体からキャリアフィルムを剥がすと、剥がしたキャリアフィルムに窒化ホウ素粒子が付着してしまうという問題も生じた。
【0010】
そこで、本発明は、薄い成形体を作製するのに好適な優れた熱伝導性を有する熱伝導性樹脂組成物及びその熱伝導性樹脂組成物を成形してなる放熱シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を進めたところ、従来の凝集窒化ホウ素を使用してスラリーを作製すると、スラリー作製中に凝集窒化ホウ素から窒化ホウ素粒子が剥がれ、剥がれた窒化ホウ素粒子が、スラリーの粘度を増加させたり、キャリアフィルムに付着したりすることを見出した。
本発明は、上記の知見に基づくものであり、以下を要旨とする。
[1]無機フィラー成分と樹脂成分とを配合してなる熱伝導性樹脂組成物であって、無機フィラー成分は第1の無機フィラー及び第2の無機フィラーを含み、無機フィラー成分の粒度分布は、第1の無機フィラーに起因する第1の極大点及び第2の無機フィラーに起因する第2の極大点を有し、第1の極大点の粒径が15μm以上であり、第2の極大点の粒径が第1の極大点の粒径の3分の2以下であり、第1の極大点を有するピークにおけるピークスタートからピークエンドまでの間の頻度の積算量が50%以上であり、第1の無機フィラーが、六方晶窒化ホウ素一次粒子が凝集してなり、圧壊強度が6MPa以上である熱伝導性樹脂組成物。
[2]第2の無機フィラーが窒化ホウ素粒子である上記[1]に記載の熱伝導性樹脂組成物。
[3]第2の無機フィラーが、六方晶窒化ホウ素一次粒子が凝集してなり、圧壊強度が6MPa以上である塊状窒化ホウ素粒子である上記[2]に記載の熱伝導性樹脂組成物。
[4]無機フィラー成分の粒度累積において、0~15μmの粒径の頻度の積算量が60%未満である上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の熱伝導性樹脂組成物。
[5]上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の熱伝導性樹脂組成物を成形してなる放熱シート。
[6]厚さが0.35mm以下である上記[5]に記載の放熱シート。
[7]厚さが0.05mm以下の基材をさらに含む上記[5]又は[6]に記載の放熱シート。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、薄い成形体を作製するのに好適な優れた熱伝導性を有する熱伝導性樹脂組成物及びその熱伝導性樹脂組成物を成形してなる放熱シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、無機フィラー成分の粒度分布の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[熱伝導性樹脂組成物]
本発明の熱伝導性樹脂組成物は無機フィラー成分と樹脂成分とを配合してなるものである。
【0015】
(無機フィラー成分)
無機フィラー成分は第1の無機フィラーと第2の無機フィラーとを含む。そして、無機フィラー成分の粒度分布は、第1の無機フィラーに起因する第1の極大点及び第2の無機フィラーに起因する第2の極大点を有し、第1の極大点の粒径が15μm以上であり、第2の極大点の粒径が第1の極大点の粒径の3分の2以下であり、第1の極大点を有するピークにおけるピークスタートからピークエンドまでの間の頻度の積算量が50%以上である。なお、熱伝導性樹脂組成物中の無機フィラー成分の粒度分布は、例えば、以下のようにして測定できる。トルエン、キシレン、塩素系炭化水素など溶剤を用いて熱伝導性樹脂組成物の無機フィラー成分以外の成分を溶かし出して、熱伝導性組成物から無機フィラー成分以外の成分を除く。そして、残った無機フィラー成分の粒度分布を、ベックマン・コールター株式会社製レーザー回折散乱法粒度分布測定装置(LS-13 320)を用いて測定する。また、3つ以上のピークが存在する場合は、極大点の頻度が最も高いピークを第1の無機フィラーに起因する極大点を有するピークとし、その次に極大点の頻度が高いピークを第2の無機フィラーに起因する極大点を有するピークとする。なお、粒度分布における頻度の単位は体積%である。
【0016】
<第1の無機フィラー>
第1の無機フィラーは、六方晶窒化ホウ素一次粒子が凝集してなり、圧壊強度が6MPa以上である塊状窒化ホウ素粒子である。塊状窒化ホウ素粒子の圧壊強度が6MPa未満であると、熱伝導性樹脂組成物をスラリー状にするとき、塊状窒化ホウ素粒子の一部が塊状窒化ホウ素粒子から剥がれ、熱伝導性樹脂組成物の粘度が増加して、ドクターブレード法により薄い成形体を作製することができなかったり、塊状窒化ホウ素粒子の一部がキャリアフィルムに付着したりする場合がある。このような観点から、塊状窒化ホウ素粒子の圧壊強度は、好ましくは7MPa以上であり、より好ましくは8MPa以上であり、さらに好ましくは9MPa以上であり、よりさらに好ましくは10MPa以上であり、特に好ましくは11MPa以上である。なお、塊状窒化ホウ素粒子の圧壊強度の上限値は、特に限定されないが、例えば30MPa以下である。
【0017】
第1の無機フィラーの圧壊強度はJIS R1639-5に準じて測定することができる。具体的には、第1の無機フィラーの圧壊強度は、以下のようにして測定することができる。トルエン、キシレン、塩素系炭化水素など溶剤を用いて熱伝導性樹脂組成物の無機フィラー成分以外の成分を溶かし出して、熱伝導性樹脂組成物から無機フィラー成分以外の成分を除く。そして、残った無機フィラー成分の粒度分布をベックマン・コールター株式会社製レーザー回折散乱法粒度分布測定装置、(LS-13 320)を用いて測定する。次に、無機フィラー成分を微小圧縮試験器(「MCT-W500」株式会社島津製作所製)の試料台に散布後、無機フィラー成分のX方向及びY方向の径を測ってその平均を無機フィラー成分の粒径とする。第1の極大点の粒径±5μmの範囲内の粒径を有する無機フィラー成分を5個選び出し、1粒ずつ圧縮試験を行う。圧壊強度(σ:MPa)は、粒子内の位置によって変化する無次元数(α=2.48)と圧壊試験力(P:N)と粒径(d:μm)からσ=α×P/(π×d2)の式を用いて算出する。JIS R1625に準じて5個の無機フィラー成分の圧壊強度をワイブルプロットし、累積破壊率が63.2%となる圧壊強度を第1の無機フィラーの圧壊強度とする。
【0018】
第1の無機フィラーに起因する第1の極大点の粒径は15μm以上である。第1の無機フィラーに起因する第1の極大点の粒径が15μm未満であると、熱伝導性樹脂組成物が第1の無機フィラーを高充填で含むことができなくなり、熱伝導性樹脂組成物を用いて作製した放熱シートの熱伝導率が低くなる場合がある。このような観点から、第1の極大点の粒径は、好ましくは20μm以上であり、より好ましくは30μm以上であり、よりさらに好ましくは40μm以上であり、とくに好ましくは50μm以上である。また、第1の極大点の粒径は、好ましくは100μm以下である。第1の極大点の粒径が100μm以下であると、熱伝導性樹脂組成物を用いて薄い放熱シートを作製できる。このような観点から、第1の極大点の粒径は、より好ましくは90μm以下であり、さらに好ましくは80μm以下である。なお、第1の極大点の粒径は、例えば、塊状窒化ホウ素粒子の原料であるB4Cの粒径で第1の無機フィラーの平均粒径を調整することにより調節することができる。すなわち、塊状窒化ホウ素粒子の原料であるB4Cの粒径を大きくすれば、第1の極大点の粒径は大きくなり、B4Cの粒径を小さくすれば、第1の極大点の粒径は小さくなる。また、第1の極大点の粒径が第1の無機フィラーに起因するとは、第1の無機フィラーの粒度分布の極大点が無機フィラー成分の粒度分布に第1の極大点として現れることをいう。なお、第1の無機フィラー以外の無機フィラー成分の粒度分布の影響で、第1の極大点の粒径が第1の無機フィラーの粒度分布の極大点の粒径から若干異なる場合がある。
【0019】
第1の極大点を有するピークにおけるピークスタートからピークエンドの間の頻度の積算量は50%以上である。上記積算量が50%未満であると、第1の無機フィラー以外の無機フィラーにより、熱伝導性樹脂組成物の粘度が増加して、ドクターブレード法により薄い成形体を作製することができなかったり、第1の無機フィラー以外の無機フィラーがキャリアフィルムに付着したりする場合がある。このような観点から、上記積算量は、好ましくは60%以上であり、より好ましくは70%以上である。また、無機フィラー成分が後述の第2の無機フィラーを含有することによる効果を発現できるようにするために、上記積算量は、好ましくは90%以下であり、より好ましくは80%以下である。特に強度の高い大きめの第1の無機フィラーと、後述する第2の無機フィラーとの組み合わせにより、製造性を改善するとともに、無機フィラーが密に詰まった放熱シートにすることができる。なお、第1の極大点を有するピークにおけるピークスタートからピークエンドの間の頻度の積算量は、概ね、第1の無機フィラーの無機フィラー成分における含有量(体積%)である。したがって、無機フィラー成分の組成を分析することにより、第1の極大点に該当する無機フィラーを判別することができる。
【0020】
図1を参照して、第1の極大点を有するピークにおけるピークスタートからピークエンドの間の頻度の積算量を説明する。
図1は、無機フィラー成分の粒度分布の一例を示す図である。横軸は対数である。符号M1は第1の極大点を示し、符号M2は第2の極大点を示す。また、PSはピークスタートを示し、PEはピークエンドを示す。なお、
図1に示すように、隣り合うピークの裾が重なる場合は、ピークの谷になる位置がピークスタート(PS)となる。そして、第1の極大点(M1)を有するピークの斜線の部分の積算量が、第1の極大点(M1)を有するピークにおけるピークスタート(PS)からピークエンド(PE)の間の頻度の積算量となる。また、ピークエンド側で隣り合うピークの裾が重なる場合は、ピークの谷になる位置がピークエンドとなる。
【0021】
六方晶窒化ホウ素一次粒子が凝集してなり、圧壊強度が6MPa以上である塊状窒化ホウ素粒子は、例えば、ホウ素とアセチレンブラックとを原料として炭化ホウ素を合成し、得られた炭化ホウ素に対して(1)加圧窒化焼成工程及び(2)脱炭結晶化工程を実施することにより塊状窒化ホウ素粒子を製造することができる。以下、各工程を詳細に説明する。
【0022】
(1)加圧窒化焼成工程
加圧窒化焼成工程では、平均粒子径が6~55μmで炭素量18~21%の炭化ホウ素を加圧窒化焼成する。これにより、本発明の塊状窒化ホウ素粒子の原料として好適な炭窒化ホウ素を得ることができる。
【0023】
(i)加圧窒化工程に使用する原料の炭化ホウ素
加圧窒化工程で使用する原料の炭化ホウ素の粒径が最終的にできる塊状窒化ホウ素粒子に強く影響するため、適切な粒径のものを選択する必要があり、平均粒子径6~55μmの炭化ホウ素を原料として使用することが望ましい。その際、不純物のホウ酸や遊離炭素が少ないことが望ましい。
【0024】
原料の炭化ホウ素の平均粒子径は、好ましくは6μm以上であり、より好ましくは7μm以上であり、さらに好ましくは10μm以上であり、そして、好ましくは55μm以下であり、より好ましくは50μm以下であり、さらに好ましくは45以下μmである。また、原料の炭化ホウ素の平均粒子径は、好ましくは7~50μmであり、より好ましくは10~45μmである。なお、炭化ホウ素の平均粒子径は、ベックマン・コールター株式会社製レーザー回折散乱法粒度分布測定装置(LS-13 320)を用いて測定することができる。
【0025】
加圧窒化工程で使用する原料の炭化ホウ素の炭素量は組成上のB4C(21.7%)より低いことが望ましく、18~21%の炭素量を有する炭化ホウ素を使用することが望ましい。炭化ホウ素の炭素量は、好ましくは18%以上であり、より好ましくは19%以上であり、そして、好ましくは21%以下であり、より好ましくは20.5%以下である。また、炭化ホウ素の炭素量は、好ましくは18~20.5%であり、より好ましくは19~20.5%である。炭化ホウ素の炭素量をこのような範囲にするのは、後述の脱炭結晶化工程の際に発する炭素量が少ない方が、緻密な塊状窒化ホウ素粒子が生成されるためであり、最終的にできる塊状窒化ホウ素粒子の炭素量を低くするためでもある。また炭素量18%未満の安定な炭化ホウ素を作製することは理論組成との乖離が大きくなり過ぎて困難である。
【0026】
原料の炭化ホウ素を製造する方法は、ホウ酸とアセチレンブラックとを混合したのち、雰囲気中、1800~2400℃にて、1~10時間加熱し、炭化ホウ素塊を得ることができる。この素塊を、粉砕後、篩分けし、洗浄、不純物除去、乾燥等を適宜行い、炭化ホウ素粉末を作製することができる。炭化ホウ素の原料であるホウ酸とアセチレンブラックとの混合は、ホウ酸100質量部に対して、アセチレンブラック25~40質量部であるのが好適である。
【0027】
炭化ホウ素を製造する際の雰囲気は、不活性ガスが好ましく、不活性ガスとして、例えば、アルゴンガス及び窒素ガスが挙げられ、これらを適宜単独で又は組み合わせて使用することができる。このうち、アルゴンガスが好ましい。
【0028】
また、炭化ホウ素塊の粉砕は、一般的な粉砕機又は解砕機を用いることができ、例えば0.5~3時間程度粉砕を行う。粉砕後の炭化ホウ素は、篩網を用いて粒径75μm以下に篩分けすることが好適である。なお、粉砕後の炭化ホウ素の平均粒径を調整することにより、塊状窒化ホウ素粒子の平均粒径を調整することができる。
【0029】
(ii)加圧窒化焼成
加圧窒化焼成は、特定の焼成温度及び加圧条件の雰囲気にて行う。
加圧窒化焼成における焼成温度は、好ましくは1700℃以上であり、より好ましくは1800℃以上であり、そして、好ましくは2400℃以下であり、より好ましくは2200℃以下である。また、加圧窒化焼成における焼成温度は、より好ましくは、1800~2200℃である。
【0030】
加圧窒化焼成における圧力は、好ましくは0.6MPa以上であり、より好ましくは0.7MPa以上であり、そして、好ましくは1.0MPa以下であり、より好ましくは0.9MPa以下である。また、加圧窒化焼成における圧力は、好ましくは0.6~1.0MPaであり、より好ましくは0.7~0.9MPaである。
【0031】
加圧窒化焼成における焼成温度及び圧力条件の組み合わせとして、好ましくは、焼成温度1800℃以上で、圧力0.7~1.0MPaである。これは焼成温度1800℃で、圧力0.7MPa以上の場合、炭化ホウ素の窒化を十分進ませることができる。また、工業的には1.0MPa以下の圧力で生産を行う方が望ましい。
【0032】
加圧窒化焼成における雰囲気として、窒化反応が進行するガスが求められ、例えば、窒素ガス及びアンモニアガス等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。このうち、窒素ガスが窒化のため、またコスト的に好適である。雰囲気中の窒素ガスの濃度は好ましくは95%(V/V)以上であり、より好ましくは99.9%(V/V)以上である。
【0033】
加圧窒化焼成における焼成時間は、好ましくは6~30時間であり、より好ましくは8~20時間である。
【0034】
(2)脱炭結晶化工程
脱炭結晶化工程では、加圧窒化工程にて得られた炭窒化ホウ素を、(a)常圧以上の雰囲気にて、(b)特定の昇温温度で(c)特定の温度範囲の焼成温度になるまで昇温を行い、(d)焼成温度で一定時間保持する熱処理を行う。これにより、一次粒子(一次粒子が鱗片状の六方晶窒化ホウ素)が凝集して塊状になった塊状窒化ホウ素粒子を得ることができる。とくに上記熱処理の条件を後述する範囲にすれば、圧壊強度を6MPa以上とすることができる。
この脱炭結晶化工程において、上述の如き、調製された炭化ホウ素から得られた炭窒化ホウ素を、脱炭化させるとともに、所定の大きさの鱗片状にさせつつ、凝集させて塊状窒化ホウ素粒子とする。
【0035】
より具体的には、脱炭結晶化工程では、加圧窒化焼成工程で得られた炭窒化ホウ素100質量部と、酸化ホウ素及びホウ酸の少なくとも一方の化合物65~130質量部とを混合して混合物を作製し、得られた混合物を脱炭開始可能な温度に上昇させた後、昇温温度5℃/min以下で1950~2100℃の焼成温度になるまで昇温を行い、上記焼成温度で0.5時間超20時間未満保持する熱処理を行う。このような熱処理を行うことにより、圧壊強度を6MPa以上とすることができる。
【0036】
脱炭結晶化工程として、好適には、常圧以上の雰囲気にて、脱炭開始可能な温度に上昇させた後、昇温温度5℃/min以下で1950~2100℃の焼成温度になるまで昇温を行い、この焼成温度で0.5時間超20時間未満保持する熱処理を行うことである。さらに、脱炭結晶化工程として、より好適には、常圧以上の雰囲気にて、脱炭開始可能な温度に上昇させた後、昇温温度5℃/min以下で2000~2080℃の焼成温度になるまで昇温を行い、この焼成温度で2~8時間保持する熱処理を行うことである。
【0037】
脱炭結晶化工程において、加圧窒化焼成工程で得られた炭窒化ホウ素と、酸化ホウ素及びホウ酸の少なくとも一方の化合物(さらに、必要に応じて他の原料)とを混合して混合物を作製した後、得られた混合物を脱炭結晶化することが望ましい。塊状窒化ホウ素粒子の圧壊強度を6MPa以上とする観点から、炭窒化ホウ素と酸化ホウ素及びホウ酸の少なくとも一方の化合物との混合割合は、炭窒化ホウ素100質量部に対して、好ましくは酸化ホウ素及びホウ酸の少なくとも一方の化合物65~130質量部、より好ましくは酸化ホウ素及びホウ酸の少なくとも一方の化合物70~120質量部である。なお、酸化ホウ素の場合は、ホウ酸に換算した混合割合である。
【0038】
脱炭結晶化工程おける「(a)常圧以上の雰囲気」の圧力条件は、好ましくは常圧以上であり、より好ましくは0.1MPa以上である。また、雰囲気の圧力条件の上限値は、特に限定されないが、好ましくは1MPa以下であり、より好ましくは0.5MPa以下であり、さらに好ましくは0.3MPa以下である。また、雰囲気の圧力条件は、好ましくは0.1~1MPaであり、より好ましくは0.1~0.5MPaであり、さらに好ましくは0.1~0.3MPaである。
【0039】
脱炭結晶化工程における上記「雰囲気」は、窒素ガスが好適であり、雰囲気中窒素ガスの濃度は90%(V/V)以上が好適であり、より好ましくは、窒素ガスは高純度窒素ガス(窒素濃度99.9%(V/V)以上)である。
【0040】
脱炭結晶化工程における「(b)特定の昇温温度」の昇温は、1段階又は多段階のいずれでもよい。脱炭開始可能な温度にまで上昇させる時間を短縮するため、多段階を選択することが望ましい。多段階における「第1段階の昇温」として、「脱炭開始可能な温度」にまで昇温を行うことが好ましい。「脱炭開始可能な温度」は、特に限定されず、通常行っている温度であればよく、例えば800~1200℃程度(好適には、約1000℃)であればよい。「第1段階の昇温」は、例えば、5~20℃/minの範囲で行うことができ、好適には8~12℃/minである。
【0041】
第1段階の昇温後に、第2段階の昇温を行うことが好ましい。上記「第2段階の昇温」は、脱炭結晶化工程における「(c)特定の温度範囲の焼成温度になるまで昇温」を行うことが、より好ましい。
上記「第2段階の昇温」は、好ましくは5℃/min以下、より好ましくは4℃/min以下、さらに好ましくは3℃/min以下、よりさらに好ましくは2℃/min以下である。第2段階の昇温速度が5℃/min以下の場合、粒成長がさらに均一になり、塊状窒化ホウ素粒子が均一な構造になるので、圧壊強度がさらに高くなる。また、上記「第2段階の昇温」は、好ましくは0.1℃/min以上であり、より好ましくは0.5℃/min以上であり、さらに好ましくは1℃/min以上である。「第2段階の昇温」が0.1℃/min以上の場合、製造時間を短縮できるので、製造コストを低減できる。「第2段階の昇温」は、好適には、0.1~5℃/minである。
【0042】
上記「(c)特定の温度範囲の焼成温度になるまで昇温」における特定の温度範囲(昇温後の焼成温度)は、好ましくは1950℃以上、より好ましくは1960℃以上、さらに好ましくは2000℃以上であり、そして、好ましくは2100℃以下、より好ましくは2080℃以下である。
【0043】
上記「(d)焼成温度で一定時間保持」の一定時間保持(昇温後の焼成時間)は、好ましくは、0.5時間超え20時間未満である。上記「焼成時間」は、より好ましくは1時間以上、さらに好ましくは3時間以上、よりさらに好ましくは5時間以上、とくに好ましくは10時間以上であり、そして、より好ましくは18時間以下、さらに好ましくは16時間以下である。昇温後の焼成時間が0.5時間超の場合は粒成長が良好に起こり、20時間未満であると、粒成長が進みすぎて粒子強度が低下することを低減でき、また、焼成時間が長いことで工業的にも不利になることも低減できる。
【0044】
そして、上記加圧窒化焼成工程及び上記脱炭結晶化工程を経て、本発明の塊状窒化ホウ素粒子を得ることができる。さらに、塊状窒化ホウ素粒子間の弱い凝集をほぐす場合には、脱炭結晶化工程にて得られた塊状窒化ホウ素粒子を、粉砕又は解砕し、さらに分級することが望ましい。粉砕及び解砕は、特に限定されず、一般的に使用されている粉砕機及び解砕機を用いればよく、また、分級は、平均粒子径が20μm以上になるような一般的な篩分け方法を用いればよい。例えば、ヘンシェルミキサーや乳鉢により解砕をおこなった後、振動篩機による分級をする方法などが挙げられる。
【0045】
<第2の無機フィラー>
第2の無機フィラーに起因する第2の極大点の粒径は第1の極大点の粒径の3分の2以下である。第2の極大点の粒径が第1の極大点の粒径の3分の2よりも大きいと、熱伝導性樹脂組成物は無機フィラー成分を高充填で含むことができず、無機フィラー成分の一部がキャリアフィルムに付着したり、熱伝導性樹脂組成物を用いて作製した放熱シートの熱伝導率が低くなったりする場合がある。このような観点から、第2の極大点の粒径は、好ましくは第1の極大点の粒径の60%の粒径以下であり、より好ましくは第1の極大点の粒径の55%の粒径以下であり、さらに好ましくは第1の極大点の粒径の52%の粒径以下である。なお、第2の極大点の粒径の下限値は、例えば、第1の極大点の粒径の20%以上であり、30%以上又は40%以上が好ましい。また、第2の極大点は、第1の極大点と同様にして測定することができる。なお、第2の極大点は複数あってもよい。また、第2の極大点を有するピークにおけるピークスタートからピークエンドの間の頻度の積算量は、概ね、第2の無機フィラーの無機成分における含有量(体積%)である。したがって、無機フィラー成分の組成を分析することにより、第2の極大点に該当する無機フィラーを判別することができる。
第2の極大点を有するピークにおけるピークスタートからピークエンドの間の頻度の積算量は50%以下であり、45%以下であってよく、40%以下であってよく、35%以下であってよい。下限は10%以上であってよく、15%以上であってよく、20%以上であってよく、25%以上であってよい。
【0046】
第2の無機フィラーには、例えば、アルミナ粒子、窒化アルミニウム粒子、窒化ホウ素粒子などが挙げられる。これらの第2の無機フィラーは、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中で、第2の無機フィラーは好ましくは窒化ホウ素粒子である。第2の無機フィラーが窒化ホウ素粒子であると、熱伝導性樹脂組成物を用いて作製した放熱シートの熱伝導率をさらに高くすることができる。また、第2の無機フィラーは、より好ましくは六方晶窒化ホウ素一次粒子が凝集してなり、圧壊強度が6MPa以上である塊状窒化ホウ素粒子である。これにより、熱伝導性樹脂組成物のスラリーを作製しているとき、第2の無機フィラーの一部が第2の無機フィラーから剥がれて、熱伝導性樹脂組成物のスラリーの粘度が増加することをさらに抑制できるとともに、第2の無機フィラーの一部がキャリアフィルムに付着したりすることをさらに抑制できる。なお、第2の無機フィラーの塊状窒化ホウ素粒子は、第1の無機フィラーの塊状窒化ホウ素粒子と同様な方法で作製することができる。また、塊状窒化ホウ素粒子の原料であるB4Cの粒径を調整することにより、第2の無機フィラーに起因する第2の極大点の粒径を第1の極大点の粒径の3分の2以下とすることができる。
【0047】
第2の無機フィラーの圧壊強度はJIS R1639-5に準じて測定することができる。具体的には、第2の無機フィラーの圧壊強度は、以下のようにして測定することができる。トルエン、キシレン、塩素系炭化水素など溶剤を用いて熱伝導性樹脂組成物の無機フィラー成分以外の成分を溶かし出して、熱伝導性樹脂組成物から無機フィラー成分以外の成分を除く。そして、残った無機フィラー成分の粒度分布をベックマン・コールター株式会社製レーザー回折散乱法粒度分布測定装置、(LS-13 320)を用いて測定する。次に、無機フィラー成分を微小圧縮試験器(「MCT-W500」株式会社島津製作所製)の試料台に散布後、無機フィラー成分のX方向及びY方向の径を測ってその平均を無機フィラー成分の粒径とする。第2の極大点の粒径±5μmの範囲内の粒径を有する無機フィラー成分を5個選び出し、1粒ずつ圧縮試験を行う。圧壊強度(σ:MPa)は、粒子内の位置によって変化する無次元数(α=2.48)と圧壊試験力(P:N)と粒径(d:μm)からσ=α×P/(π×d2)の式を用いて算出する。JIS R1625に準じて5個の無機フィラー成分の圧壊強度をワイブルプロットし、累積破壊率が63.2%となる圧壊強度を第2の無機フィラーの圧壊強度とする。
【0048】
無機フィラー成分の粒度累積において、0~15μmの粒径の頻度の積算量が60%未満である好ましい。そうすると、無機フィラー成分における粒径が15μm以上である無機フィラーの含有量が、概ね40体積%以上となり、熱伝導性樹脂組成物が無機フィラー成分を高充填で含むことができ、熱伝導性樹脂組成物を用いて作製した放熱シートの熱伝導率をさらに高くすることができる。このような観点から、無機フィラー成分の粒度累積において、0~15μmの粒径の頻度の積算量は、より好ましくは50%未満であり、さらに好ましくは40%未満であり、よりさらに好ましくは30%未満である。
【0049】
(樹脂成分)
樹脂成分の樹脂には、例えばエポキシ樹脂、シリコーン樹脂(シリコーンゴムを含む)、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリアミド(例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等)、ポリエステル(例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等)、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS樹脂、AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂などが挙げられる。これらの中で、耐熱性、柔軟性及びヒートシンク等への密着性の観点から、シリコーン樹脂が好ましい。シリコーン樹脂は有機過酸化物による加硫して硬化するものが好ましい。熱伝導性樹脂組成物の25℃における粘度は、シート状の成形体の柔軟性を改善する観点から、例えば、100,000cp以上である。
【0050】
無機フィラー成分および樹脂成分の合計100体積%中の無機フィラー成分の含有量は、30~85体積%が好ましく、40~80体積%がより好ましい。無機フィラー成分の含有量が30体積%以上の場合、熱伝導率が向上し、十分な放熱性能が得られやすい。また、無機フィラー成分の含有量が85体積%以下の場合、成形時に空隙が生じやすくなることを低減でき、絶縁性や機械強度が低下することを低減できる。また、熱伝導性樹脂組成物100体積%中の樹脂成分の含有量は、15~70体積%が好ましく、20~60体積%がより好ましい。
【0051】
(溶媒)
熱伝導性樹脂組成物の粘度を調節するために、熱伝導性樹脂組成物は溶媒をさらに含んでもよい。溶媒は、樹脂成分を溶解でき、熱伝導性樹脂組成物を塗布したのち、塗布した熱伝導性樹脂組成物から容易に除去されるものであれば特に限定されない。樹脂成分がシリコーン樹脂である場合、溶媒には、例えば、トルエン、キシレン、塩素系炭化水素などが挙げられる。除去が容易であるという観点から、これらの溶媒の中でトルエンが好ましい。溶媒の含有量は、熱伝導性樹脂組成物の目的とする粘度により適宜選択することができる。溶媒の含有量は、例えば、熱伝導性樹脂組成物の溶媒以外の成分100質量部に対して40~200質量部である。
【0052】
なお、熱伝導性樹脂組成物は、無機フィラー成分、樹脂成分および溶媒以外の成分が含まれてもよい。その他の成分は添加剤、不純物等であり、その他の成分の含有量は、無機フィラー成分および樹脂成分の合計100質量部に対して、好ましくは5質量部以下であり、より好ましくは3質量部以下であり、さらに好ましくは1質量部以下である。
【0053】
[放熱シート]
本発明の放熱シートは本発明の熱伝導性樹脂組成物を成形してなるものである。本発明の熱伝導性樹脂組成物を用いることにより、ドクターブレード法によって、薄い放熱シートを容易に作製することができる。本発明の放熱シートの厚さは、好ましくは0.35mm以下である。放熱シートの厚さが0.35mm以下であると、発熱性電子部品の小型化に伴う放熱シートの厚さの要求に応えることができる。このような観点から、放熱シートの厚さは、より好ましくは0.30mm以下であり、さらに好ましくは0.25μm以下であり、よりさらに好ましくは0.20μm以下であり、よりさらに好ましくは0.15mm以下であり、よりさらに好ましくは0.12mm以下であり、特に好ましくは0.10mm以下である。
【0054】
放熱シートは、厚さが0.05mm以下の基材を含むことが好ましい。これにより、放熱シートを薄くできるとともに、放熱シートの取扱い中に放熱シートが破損することを抑制できる。基材は、熱伝導性樹脂組成物層を保持でき、適度な強度を有し、厚さが0.05mm以下であり、柔軟性を有するものであれば特に限定されない。基材には、例えば、紙、布、フィルム、不織布、金属箔などが挙げられる。これらの中で、熱伝導性樹脂組成物層との接着性が良好であり、また、目開き部分を設けることで、基材による熱伝導性樹脂組成物の熱伝導の阻害を抑制できるという観点から、布が好ましく、基材を薄くし、かつ目開きを大きくしても基材の強度をある程度、維持できるという観点から、ガラスクロス及びポリアミド-イミド繊維クロスがより好ましく、ガラスクロスがさらに好ましい。また、放熱シートを薄くできるという観点から、基材の厚さはより好ましくは0.03mm以下である。また、基材の強度の観点から、基材の厚さは好ましくは0.005mm以上である。基材がガラスクロスである場合、熱伝導性樹脂組成物とガラスクロスとの間に隙間ができることを抑制するために、ガラスクロスにシランカップリング処理を施してもよい。
【0055】
放熱シートはドクターブレード法で作製することができる。例えば、放熱シートは以下のように作製することができる。無機フィラー成分、樹脂成分などの溶媒以外の原料を溶媒に分散させてスラリー状の熱伝導性樹脂組成物を作製する。なお、以下、スラリー状の熱伝導性樹脂組成物を、単に、「スラリー」と呼ぶ場合がある。なお、第1の無機フィラーとして用いられる塊状窒化ホウ素粒子は圧壊強度が6MPaと高いので、溶媒以外の原料を溶媒に分散させるとき、六方晶窒化ホウ素一次粒子は塊状窒化ホウ素粒子から、ほとんど剥がれない。これにより、熱伝導性樹脂組成物の溶媒以外の原料を溶媒に分散させるとき、スラリーの粘度が上昇することを抑制できる。溶媒量を増やすことにより、スラリーの粘度を低下させることもできる。しかし、この場合、熱伝導性樹脂組成物をシート状に成形する際、熱伝導性樹脂組成物が発泡したり、シート状に成形した成形体から溶媒を除去する際、熱伝導性組成物中の加硫剤、硬化剤等の添加剤が失効したりすることがあるので、溶媒量を増やすことなく、スラリーの粘度を低下させることが望ましい。また、第1の無機フィラーとして用いられる塊状窒化ホウ素粒子の平均粒子径は20μm以上と比較的大きいので、熱伝導性樹脂組成物の溶媒以外の原料を溶媒に分散させた後、分散した無機フィラー成分が凝集してスラリーが不均一になることを抑制できる。なお、無機フィラーの平均粒子径が非常に小さいと、分散した無機フィラーが凝集してスラリーが不均一になる場合がある。
【0056】
作製したスラリーはドクターブレード装置に供給される。ドクターブレード装置は、ブレードとキャリアフィルムとの間隙からスラリーを流出して、熱伝導性樹脂組成物をシート状に成形する。なお、成形体の厚さは、ブレードとキャリアフィルムとの間の寸法及びキャリアフィルムの移動速度を調節することにより、精度よくコントロールすることができる。また、スラリーの圧力をより精度よく制御して、成形体の厚さをさらに精度よくコントロールするために、2枚のブレードを持つドクターブレード装置を用いてもよい。
【0057】
ブレードとキャリアフィルムとの間隙から流出したスラリーは、キャリアフィルムと一緒にドクターブレード装置内を移動し、移動している間に乾燥して固化してシート状の成形体となる。得られたシート状の成形体は、例えば、加圧及び加熱し硬化させて放熱シートとなる。なお、放熱シートをキャリアフィルムから容易に剥離できるようにするために、キャリアフィルムの表面に剥離剤を塗布してもよい。剥離剤には、例えば、シリコーン系剥離剤、アルキルペンダント系剥離剤、縮合ワックス系剥離剤などが挙げられる。
【0058】
放熱シートが基材を含む場合は、例えば、放熱シートは以下のように作製される。ドクターブレード法により得られた、キャリアフィルムの付いた2枚のシート状の成形体で基材をサンドイッチして積層体を得る。このときの積層体の層構造は、キャリアフィルム/熱伝導性樹脂組成物/基材/熱伝導性樹脂組成物/キャリアフィルムとなる。そして、積層体は加圧及び加熱され、キャリアフィルムを剥がして、放熱シートとなる。なお、この場合も、放熱シートをキャリアフィルムから容易に剥離できるようにするために、キャリアフィルムの表面に剥離剤を塗布してもよい。
【0059】
放熱シートはカレンダー加工によっても作製することができる。しかし、シート状の熱伝導性樹脂組成物がカレンダーロールを通過する際、熱伝導性樹脂組成物中の塊状窒化ホウ素粒子から塊状窒化ホウ素粒子の一部が剥がれるおそれがある。したがって、放熱シートはドクターブレード法により作製することが好ましい。
【実施例】
【0060】
以下、本発明について、実施例及び比較例により、詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
実施例及び比較例の熱伝導性樹脂組成物に対して以下の評価を行った。
(スラリーの粘度)
実施例及び比較例の放熱シートの作製に使用したスラリーの粘度は、B型粘度計を用いて、静置後30秒後のスラリーの粘度を回転速度20rpmで測定した。
【0062】
(粒度分布)
トルエンを用いて熱伝導性樹脂組成物の無機フィラー成分以外の成分を溶かし出して、熱伝導性樹脂組成物から無機フィラー成分以外の成分を除いた。残った無機フィラー成分の粒度分布をベックマン・コールター株式会社製レーザー回折散乱法粒度分布測定装置、(LS-13 320)を用いて測定した。そして、得られた粒度分布から第1の極大値及び第2の極大値、並びに第1の極大点を有するピークにおけるピークスタートからピークエンドまでの間の頻度の積算量を求めた。
【0063】
(圧壊強度)
トルエン、キシレン、塩素系炭化水素など溶剤を用いて熱伝導性樹脂組成物の無機フィラー成分以外の成分を溶かし出して、熱伝導性樹脂組成物から無機フィラー成分以外の成分を除いた。そして、残った無機フィラー成分の粒度分布をベックマン・コールター株式会社製レーザー回折散乱法粒度分布測定装置、(LS-13 320)を用いて測定した。次に、無機フィラー成分を微小圧縮試験器(「MCT-W500」株式会社島津製作所製)の試料台に散布後、無機フィラー成分のX方向及びY方向の径を測ってその平均を無機フィラー成分の粒径とした。第1の極大点の粒径±5μmの範囲内の粒径を有する無機フィラー成分を5個選び出し、1粒ずつ圧縮試験を行った。圧壊強度(σ:MPa)は、粒子内の位置によって変化する無次元数(α=2.48)と圧壊試験力(P:N)と粒径(d:μm)からσ=α×P/(π×d2)の式を用いて算出した。JIS R1625に準じて5個の無機フィラー成分の圧壊強度をワイブルプロットし、累積破壊率が63.2%となる圧壊強度を第1の無機フィラーの圧壊強度とした。同様な方法で、第2の無機フィラーの圧壊強度も測定した。
【0064】
(0~15μmの粒径の頻度の積算量)
トルエンを用いて熱伝導性樹脂組成物の無機フィラー成分以外の成分を溶かし出して、放熱シートから無機フィラー成分以外の成分を除いた。そして、残った無機フィラー成分の粒度累積をベックマン・コールター株式会社製レーザー回折散乱法粒度分布測定装置、(LS-13 320)を用いて測定した。そして、得られた粒度積算から0~15μmの粒径の頻度の積算量を算出した。
【0065】
実施例及び比較例の放熱シートに対して以下の評価を行った。
(熱抵抗)
ASTM D5470に準拠して1MPaの荷重をかけて放熱シートの熱抵抗を測定した。
【0066】
(相対密度)
アルキメデス法にて放熱シートの密度を理論密度で割り算した相対密度を算出した。
【0067】
〔実施例1〕
実施例1は、以下のように、炭化ホウ素合成、加圧窒化工程、脱炭結晶化工程にて、塊状窒化ホウ素粒子を作製した。
【0068】
(炭化ホウ素合成)
新日本電工株式会社製オルトホウ酸(以下ホウ酸)100質量部と、デンカ株式会社製アセチレンブラック(HS100)35質量部とをヘンシェルミキサーを用いて混合したのち、黒鉛ルツボ中に充填し、アーク炉にて、アルゴン雰囲気で、2200℃にて5時間加熱し炭化ホウ素(B4C)を合成した。合成した炭化ホウ素塊をボールミルで1時間粉砕し、篩網を用いて粒径75μm以下に篩分け、更に硝酸水溶液で洗浄して鉄分等不純物を除去後、濾過・乾燥して平均粒子径20μmの炭化ホウ素粉末を作製した。得られた炭化ホウ素粉末の炭素量は20.0%であった。
【0069】
(加圧窒化工程)
合成した炭化ホウ素を窒化ホウ素ルツボに充填した後、抵抗加熱炉を用い、窒素ガスの雰囲気で、2000℃、9気圧(0.8MPa)の条件で10時間加熱することにより炭窒化ホウ素(B4CN4)を得た。
【0070】
(脱炭結晶化工程)
合成した炭窒化ホウ素100質量部と、ホウ酸90質量部とをヘンシェルミキサーを用いて混合したのち、窒化ホウ素ルツボに充填し、抵抗加熱炉を用い0.2MPaの圧力条件で、窒素ガスの雰囲気で、室温から1000℃までの昇温速度を10℃/min、1000℃からの昇温速度を2℃/minで昇温し、焼成温度2020℃、保持時間10時間で加熱することにより、一次粒子が凝集して塊状になった塊状窒化ホウ素粒子を合成した。合成した塊状窒化ホウ素粒子をヘンシェルミキサーにより15分解砕をおこなった後、篩網を用いて、篩目150μmのナイロン篩にて分級を行った。焼成物を解砕及び分級することより、一次粒子が凝集して塊状になった塊状窒化ホウ素粒子1を得た。
【0071】
得られた塊状窒化ホウ素粒子1のレーザー散乱法により測定した平均粒子径(D50)は40μmであった。また、塊状窒化ホウ素粒子1の圧壊強度は12MPaであった。
【0072】
(放熱シートの作製)
得られた塊状窒化ホウ素粒子1、凝集窒化ホウ素粒子(デンカ株式会社製、商品名「SGPS」、平均粒子径:20μm、圧壊強度:1.5MPa)、鱗片状窒化ホウ素粒子(デンカ株式会社製、商品名「SP―3―7」、平均粒子径:3μm)及び液状シリコーン樹脂1(メチルビニルポリシロキサン、ダウ・東レ株式会社製、商品名「CF-3110」)の合計100体積%に対して、45体積%の塊状窒化ホウ素粒子1、12体積%の凝集窒化ホウ素粒子、3体積%の鱗片状窒化ホウ素粒子及び40体積%のシリコーン樹脂1、シリコーン樹脂100質量部に対して1質量部の硬化剤(2,5-ジメチルー2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、化薬ヌーリオン株式会社製、商品名「トリゴノックス101」)、塊状窒化ホウ素粒子、凝集窒化ホウ素粒子及び鱗片状窒化ホウ素粒子の合計100質量部に対して0.5質量%のシランカップリング剤(ジメチルジメトキシシラン、ダウ・東レ株式会社製、商品名「DOWSIL Z-6329 Silane」、25℃における粘度:1cp)、シランカップリング剤100質量部に対して15質量部の水、並びに上述の原料の合計100質量部に対して110質量部のトルエンを攪拌機(HEIDON社製、商品名「スリーワンモーター」)に投入し、タービン型撹拌翼を用いて15時間混合して熱伝導性樹脂組成物のスラリーを作製した。スラリーの粘度は10000cpであった。
そして、ドクターブレード法により、上記スラリーを厚さ0.05mmのペットフィルム(キャリアフィルム)上に厚さ0.2mmで塗工し、75℃で5分乾燥させて、ペットフィルム付きのシート状成形体を作製した。ガラスクロス(厚さ:0.025mm)の両面に熱伝導性樹脂組成物の塗工面が接するように、ガラスクロスをペットフィルム付きのシート状成形体でサンドイッチし、積層体を作製した。なお、積層体の層構造はペットフィルム/熱伝導性樹脂組成物/ガラスクロス/熱伝導性樹脂組成物/ペットフィルムであった。次いで、得られた積層体に対して、温度150℃、圧力160kg/cm2の条件で25分間の加熱プレスを行い、両面のペットフィルムを剥離して厚さ0.09mmのシートとした。次いで、それを常圧、150℃で4時間の2次加熱を行い、実施例1の放熱シートとした。
【0073】
〔実施例2〕
トルエンの配合量を110質量部から60質量部に変更し、ドクターブレード法の塗工条件を変更して厚さ0.20mmの放熱シートを作製した以外は実施例1と同様にして、実施例2の放熱シートを作製した。なお、スラリーの粘度は7000cpであった。
【0074】
〔実施例3〕
トルエンの配合量を110質量部から50質量部に変更し、ドクターブレード法の塗工条件を変更して厚さ0.31mmの放熱シートを作製した以外は実施例1と同様にして、実施例3の放熱シートを作製した。なお、スラリーの粘度は8000cpであった。
【0075】
〔実施例4〕
平均粒子径が40μmであり圧壊強度が12MPaである塊状窒化ホウ素粒子1を45体積%配合する代わりに、平均粒子径が75μmであり圧壊強度が12MPaである塊状窒化ホウ素粒子2を42体積%配合した点、凝集窒化ホウ素粒子を12体積%配合する代わりに平均粒子径が38μmであり圧壊強度が12MPaである塊状窒化ホウ素粒子3を11体積%配合した点、鱗片状窒化ホウ素粒子を配合しなかった点、シリコーン樹脂1の配合量を40体積%から47体積%に変更した点、トルエンの配合量を110質量部から100質量部に変更した点及びドクターブレード法の塗工条件を変更して厚さ0.10mmの放熱シートを作製した点を除いて、実施例1と同様にして、実施例4の放熱シートを作製した。なお、実施例4の放熱シートに用いた塊状窒化ホウ素粒子2,3は、合成した炭化ホウ素塊のボールミルによる粉砕時間を変更して、炭化ホウ素粉末の平均粒子径を変更した以外は、実施例1の放熱シートに用いた塊状窒化ホウ素粒子1と同様な方法で作製した。また、スラリーの粘度は10000cpであった。
【0076】
〔実施例5〕
ドクターブレード法の塗工条件を変更して厚さ0.20mmの放熱シートを作製した以外は実施例4と同様にして、実施例5の放熱シートを作製した。
【0077】
〔実施例6〕
ドクターブレード法の塗工条件を変更して厚さ0.27mmの放熱シートを作製した以外は実施例4と同様にして、実施例6の放熱シートを作製した。
【0078】
〔実施例7〕
塊状窒化ホウ素粒子2の代わりに平均粒子径が55μmであり圧壊強度が10MPaである塊状窒化ホウ素粒子4を配合した点、及びドクターブレード法の塗工条件を変更して厚さ0.10mmの放熱シートを作製した点を除いて、実施例1と同様にして、実施例7の放熱シートを作製した。なお、実施例7の放熱シートに用いた塊状窒化ホウ素粒子4は、合成した炭化ホウ素塊のボールミルによる粉砕時間を変更して、炭化ホウ素粉末の平均粒子径を変更した以外は、実施例1の放熱シートに用いた塊状窒化ホウ素粒子1と同様な方法で作製した。また、スラリーの粘度は9500cpであった。
【0079】
〔実施例8〕
ドクターブレード法の塗工条件を変更して厚さ0.20mmの放熱シートを作製した以外は実施例7と同様にして、実施例8の放熱シートを作製した。
【0080】
〔実施例9〕
ドクターブレード法の塗工条件を変更して厚さ0.28mmの放熱シートを作製した以外は実施例7と同様にして、実施例9の放熱シートを作製した。
【0081】
〔比較例1〕
塊状窒化ホウ素粒子1及び鱗片状窒化ホウ素粒子を配合しなかった点、凝集窒化ホウ素粒子の配合量を12体積%から60体積%に変更した点、シランカップリング剤の配合量を0.5質量部から0.2質量部に変更した点、及びドクターブレード法の塗工条件を変更して厚さ0.20mmの放熱シートを作製した点以外は、実施例1と同様にして、比較例1の放熱シートを作製した。なお、スラリーの粘度は12000cpであった。また、スラリーの粘度が高かったため、0.15mm以下の厚さを有する放熱シートを作製することはできなかった。
【0082】
〔比較例2〕
ドクターブレード法の塗工条件を変更して厚さ0.30mmの放熱シートを作製した点以外は、比較例1と同様にして、比較例2の放熱シートを作製した。
【0083】
〔比較例3〕
塊状窒化ホウ素粒子3を塊状窒化ホウ素粒子1に変更した以外は、実施例7と同様にして、スラリーを作製した。しかし、スラリーの粘度が16000cpと高かったため、0.20mmの厚さを有する放熱シートを作製することはできなかった。
【0084】
〔比較例4〕
塊状窒化ホウ素粒子1の配合量を45体積%から12体積%に変更した点、及び凝集窒化ホウ素粒子の配合量を12体積%から45体積%に変更した点を除いて、実施例1と同様にして、スラリーを作製した。しかし、スラリーの粘度が18000cpと高かったため、0.20mmの厚さを有する放熱シートを作製することはできなかった。
【0085】
実施例1~9及び比較例1~4の放熱シートの評価結果を表1に示す。
【表1】
【0086】
以上の評価結果から、実施例1~9の放熱シートを作製するために使用したスラリーの粘度は比較例1~4の放熱シートを作製するために使用したスラリーの粘度よりも低いことがわかった。これより、実施例1~9の放熱シートを作製するために使用したスラリーは、比較例1~4の放熱シートを作製するために使用したスラリーに比べて、薄いシートを作製できることがわかった。また、実施例1~9の放熱シートの熱抵抗は比較例1及び2の放熱シートの熱抵抗よりも低いことがわかった。これは、実施例1~9の放熱シートでは、シート状の成形体からペットフィルムを剥がした際、剥がしたペットフィルムに窒化ホウ素粒子が付着していなかったため、放熱シートの表面が平滑であったためと考えられる。一方、比較例1及び2の放熱シートでは、シート状の成形体からペットフィルムを剥がした際、剥がしたペットフィルムに窒化ホウ素粒子が付着したため、放熱シートの表面が粗くなり、これにより、比較例1及び2の放熱シートの熱抵抗が高くなったものと考えられる。
【0087】
〔実施例10〕
シリコーン樹脂CF3110をエポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製ビスフェノール型エポキシ樹脂、型番;JER-807)に変更し、硬化剤トリゴノックス101(1質量部)を硬化剤MEH-8005(明和化成株式会社製、10質量部)に変更し、硬化促進剤として2PHZ-PW(四国化成社製、1資料部)を添加した以外は、実施例5と同様にして0.2mmの放熱シートを作製し、熱抵抗を上述の方法で測定した。
【0088】
〔比較例5〕
シリコーン樹脂CF3110をエポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製ビスフェノール型エポキシ樹脂、型番;JER-807)に変更し、硬化剤トリゴノックス101(1質量部)を硬化剤MEH-8005(明和化成株式会社製、10質量部)に変更し、硬化促進剤として2PHZ-PW(四国化成工業株式会社製、1資料部)を添加した以外は、比較例1と同様にして0.2mmの放熱シートを作製し、熱抵抗を上述の方法で測定した。
【0089】
実施例10の熱抵抗と比較例5の熱抵抗を比較すると実施例10の方が熱抵抗が低く、良好な結果であった。したがって、特定の無機フィラーを組み合わせて得られる効果は、樹脂の種類によらずに得られる。