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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】siRNAおよびその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20240820BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240820BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240820BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20240820BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240820BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240820BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240820BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N5/10
A61K31/713
A61K48/00
A61P21/00
A61P43/00 111
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022547606
(86)(22)【出願日】2021-09-07
(86)【国際出願番号】 JP2021032871
(87)【国際公開番号】W WO2022054801
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2023-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2020150917
(32)【優先日】2020-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593030071
【氏名又は名称】大原薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】弁理士法人謝国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 善信
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 和城
(72)【発明者】
【氏名】岡田 菫
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-506905(JP,A)
【文献】特表2011-528903(JP,A)
【文献】Scientific Reports,2016年,Vol.6,22155
【文献】Acta Neuropathologica Communications,2016年,Vol.4,70
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/113
C12N 15/63
A61K 31/713
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
野生型FUSの発現と比較してP525L点変異FUSの発現を選択的に抑制するsiRNAであって、
前記siRNAは、
配列番号1のセンス鎖と配列番号2のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号3のセンス鎖と配列番号4のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号5のセンス鎖と配列番号6のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号7のセンス鎖と配列番号8のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号9のセンス鎖と配列番号10のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号11のセンス鎖と配列番号12のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号15のセンス鎖と配列番号16のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号17のセンス鎖と配列番号18のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号19のセンス鎖と配列番号20のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号21のセンス鎖と配列番号22のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号23のセンス鎖と配列番号24のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号27のセンス鎖と配列番号28のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号31のセンス鎖と配列番号32のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号39のセンス鎖と配列番号40のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号41のセンス鎖と配列番号42のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号43のセンス鎖と配列番号44のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号45のセンス鎖と配列番号46のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号47のセンス鎖と配列番号48のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号49のセンス鎖と配列番号50のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号53のセンス鎖と配列番号54のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号55のセンス鎖と配列番号56のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号57のセンス鎖と配列番号58のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号59のセンス鎖と配列番号60のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号61のセンス鎖と配列番号62のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号71のセンス鎖と配列番号72のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号89のセンス鎖と配列番号90のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号95のセンス鎖と配列番号96のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号97のセンス鎖と配列番号98のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、または
配列番号113のセンス鎖と配列番号114のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA
の配列を含む、siRNA。
【請求項2】
配列番号1のセンス鎖と配列番号2のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号3のセンス鎖と配列番号4のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号5のセンス鎖と配列番号6のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号7のセンス鎖と配列番号8のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号9のセンス鎖と配列番号10のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号11のセンス鎖と配列番号12のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号15のセンス鎖と配列番号16のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号17のセンス鎖と配列番号18のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号19のセンス鎖と配列番号20のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号21のセンス鎖と配列番号22のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号45のセンス鎖と配列番号46のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号47のセンス鎖と配列番号48のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号49のセンス鎖と配列番号50のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号53のセンス鎖と配列番号54のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号55のセンス鎖と配列番号56のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号57のセンス鎖と配列番号58のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号59のセンス鎖と配列番号60のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号89のセンス鎖と配列番号90のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号97のセンス鎖と配列番号98のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、または
配列番号113のセンス鎖と配列番号114のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA
の配列を含む、請求項1に記載のsiRNA。
【請求項3】
配列番号3のセンス鎖と配列番号4のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号5のセンス鎖と配列番号6のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号7のセンス鎖と配列番号8のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号11のセンス鎖と配列番号12のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号15のセンス鎖と配列番号16のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号17のセンス鎖と配列番号18のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号19のセンス鎖と配列番号20のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号21のセンス鎖と配列番号22のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号23のセンス鎖と配列番号24のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号27のセンス鎖と配列番号28のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号31のセンス鎖と配列番号32のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号39のセンス鎖と配列番号40のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号41のセンス鎖と配列番号42のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号43のセンス鎖と配列番号44のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号45のセンス鎖と配列番号46のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号49のセンス鎖と配列番号50のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号53のセンス鎖と配列番号54のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号55のセンス鎖と配列番号56のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号57のセンス鎖と配列番号58のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号59のセンス鎖と配列番号60のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号61のセンス鎖と配列番号62のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号71のセンス鎖と配列番号72のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号89のセンス鎖と配列番号90のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号95のセンス鎖と配列番号96のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、または
配列番号97のセンス鎖と配列番号98のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA
の配列を含む、請求項1に記載のsiRNA。
【請求項4】
配列番号3のセンス鎖と配列番号4のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号5のセンス鎖と配列番号6のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号11のセンス鎖と配列番号12のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号15のセンス鎖と配列番号16のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号17のセンス鎖と配列番号18のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号19のセンス鎖と配列番号20のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号21のセンス鎖と配列番号22のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号45のセンス鎖と配列番号46のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号49のセンス鎖と配列番号50のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号53のセンス鎖と配列番号54のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号55のセンス鎖と配列番号56のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号57のセンス鎖と配列番号58のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号59のセンス鎖と配列番号60のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号89のセンス鎖と配列番号90のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、または
配列番号97のセンス鎖と配列番号98のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA
の配列を含む、請求項1に記載のsiRNA。
【請求項5】
前記siRNAは、其のセンス鎖および/またはアンチセンス鎖の3’末端に2ヌクレオチド長のオーバーハングを含む、請求項1~4のいずれかに記載のsiRNA。
【請求項6】
前記siRNAが、少なくとも1個の修飾ヌクレオチドを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のsiRNA。
【請求項7】
前記修飾ヌクレオチドにおける少なくとも1個が、5’-ホスホロチオエート基を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のsiRNA。
【請求項8】
前記修飾ヌクレオチドにおける少なくとも1個が、2’-デオキシ修飾ヌクレオチド、2’-デオキシ-2’-フルオロ修飾ヌクレオチド、2’-O-メチル修飾ヌクレオチド、2’-O-メトキシエチル修飾ヌクレオチドおよび2’- O原子と4’- C原子がメチレンまたはエチレン基を介して架橋されたヌクレオチドからなる群から選択される、請求項1~7のいずれか1項に記載のsiRNA。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のsiRNAを含む、医薬組成物。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載のsiRNAを含む、P525L点変異FUSの発現を抑制するための医薬組成物。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載のsiRNAを含む、野生型FUSの発現と比較してP525L点変異FUSの発現を選択的に抑制するための医薬組成物。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか1項に記載のsiRNAを含む、P525L点変異FUSの発現抑制剤。
【請求項13】
請求項1~8のいずれか1項に記載のsiRNAを細胞内で発現させるためのDNAベクター。
【請求項14】
請求項1に記載のDNAベクターおよび薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項15】
請求項1に記載のDNAベクターを含む細胞。
【請求項16】
前記細胞が哺乳動物細胞である、請求項1に記載の細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、P525L点変異FUSの発現を選択的に抑制するsiRNA、該siRNAを含有してなる医薬組成物およびALSの治療用途並びにALS治療剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
筋萎縮性側索硬化症(ALS:Amyotrophic lateral sclerosis)は、ルーゲーリック病としても知られており、一次運動野、脳幹、および脊髄における運動ニューロン(MN)の支配的な喪失を特徴とする最も致命的な進行性の神経変性疾患である。運動ニューロンの喪失は、呼吸などの基本的な基礎運動を崩壊させ、典型的には診断後2~5年以内に患者を死に至らせる。患者の運動機能の進行性悪化は、呼吸能力をひどく低下させるため、患者の生存には何らかの形の呼吸補助が必要となる。他の症状には、手、腕、脚または嚥下筋肉の筋力低下も含まれる又、一部の患者(例えば、FTD-ALS)では、前頭側頭型認知症も発症する場合がある。ALSの好発年齢は50歳から70歳であり、高齢者に多い疾患である。
【0003】
ALSは弧発性ALSと家族性ALSの大きく二種類に分類でき、その多くは非遺伝性である弧発性ALSであり、家族性ALSはALS全体の5~10%程度と比較的患者数の少ない疾患である。
【0004】
ALSの発症原因は複雑である。一般に、その発症は、環境曝露と相まって複数の遺伝子の変異による複雑な遺伝的疾患であると考えられている。ALSの発症に関連する因子として、SOD-1(Cu2+/Zn2+スーパーオキシドジスムターゼ)、TDP-43(TAR DNA結合タンパク質-43kD)、FUS(Fused in sarcoma)、ANG(アンギオゲニン)、ATXN2(アタキシン-2)、VCP(バロシン含有タンパク質)、OPTN(オプチニューリン)、C9orf72(染色体9オープンリーディングフレーム72)を含む、十数種以上の原因遺伝子が同定されている。しかし、運動ニューロン変性の正確なメカニズムは未だ明らかにされていない。
【0005】
家族性ALSでSOD1に次いで頻度の高い原因遺伝子として、FUSが知られている。16番染色体に連鎖するALS6の原因遺伝子であるFUSは2009年に米国のRobertらによって同定されたRNA結合タンパクであり、家族性ALSの中でも比較的若年層に多い原因遺伝子として知られている。
【0006】
FUSは核内と細胞質を行き来し、DNA修復やスプライシング調節などの重要なRNA代謝機能を担っている。このFUSに変異が生じると細胞質へ異常凝集を起こすことが知られており、家族性ALS発症要因として、次の2つの仮説が提唱されている。1つ目は、核内で行うべきRNA代謝を正常に行うことが出来なくなる機能喪失説、2つ目は、変異タンパクが細胞質に凝集することによる毒性獲得説である。
【0007】
FUSタンパクのC末端には核移行シグナルが存在し、その領域に変異が生じると核内輸送受容体であるトランスポーチンとのアフィニティーが低下する場合がある。その場合、FUSの核移行が正常に行われなくなり、変異FUSが細胞質に蓄積すると考えられている。実際にFUSの変異位置を調査したところ、P495X, G507D, K510R/E, S513P, R514G/S, R514S; G515C, H517Q/P, R518G/K, R521G/C/H, R522G, R524W/T/S, P525Lなどの核移行シグナル部位の変異が多いことが判明している。さらに核移行シグナル部位内の変異の中でも、P525L点変異は10~20代に発症する若年性ALSに多く、また、それらの患者のほとんどが発症後2年以内に死亡することが分かっており、現在のところ治療薬は開発されていない。
【0008】
野生型FUSは前述のように重要なRNA代謝機能を有しており、実際にマウス前脳皮質ニューロンにおけるFUSノックアウトがRNAスプライシング因子SFPQとの相互作用低下をもたらし、タウアイソフォームに変化をきたすことが報告されている。このため、FUS変異が原因のALS治療薬開発には、変異FUSへの高い選択性が必要不可欠となる。
【0009】
一方、点変異をもつ遺伝子を標的としたsiRNAに関する報告としては、例えば、G356D点変異EGFRを標的としたsiRNA(特許文献1)、V337M点変異APPを標的としたsiRNA(非特許文献1)、およびG85R点変異SOD1を標的としたsiRNA(非特許文献2)等が挙げられるが、P525L点変異FUSの発現を選択的に抑制するsiRNAに関する教示及び示唆はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第5941842号
【非特許文献】
【0011】
【文献】Nucleic Acids Research, Miller VM. et al. p 661-668:2004
【文献】Aging Cell, Ding H, p 209-217:2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、P525L点変異FUSの発現を選択的に抑制するsiRNAを提供することである。さらに本発明の目的は、本発明のsiRNAを含有してなる医薬組成物およびALSの治療剤並びにALS治療剤のスクリーニング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、P525L点変異FUSに着目し、P525L点変異部分を含む変異FUSmRNAに対してsiRNAを設計し、さらにそのいくつかの配列の中から高選択的に変異mRNAを抑制するsiRNAを見出した。すなわち、高選択的に変異mRNAを抑制するsiRNAを含有してなる医薬組成物によるALSの治療が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の目的は、以下の発明により達成される。
〔1〕
センス鎖及びアンチセンス鎖からなるsiRNAであって、
該アンチセンス鎖は、P525L点変異FUSをコードするmRNAの一部に相補的もしくは実質的に相補的領域を含み、前記相補的領域は19~21ヌクレオチド長である、siRNA。
〔2〕
前記アンチセンス鎖は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号28または配列番号32と同一もしくは実質的に同一の配列を含む、〔1〕に記載のsiRNA。
〔3〕
前記アンチセンス鎖は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22または配列番号32と同一もしくは実質的に同一の配列を含む、〔1〕に記載のsiRNA。
〔4〕
前記アンチセンス鎖は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号12、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号28または配列番号32と同一もしくは実質的に同一の配列を含む、〔1〕に記載のsiRNA。
〔5〕
前記アンチセンス鎖は、配列番号4、配列番号6、配列番号12、配列番号16、配列番号18、配列番号20または配列番号22と同一もしくは実質的に同一の配列を含む、〔1〕に記載のsiRNA。
〔6〕
配列番号1のセンス鎖と配列番号2のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号3のセンス鎖と配列番号4のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号5のセンス鎖と配列番号6のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号7のセンス鎖と配列番号8のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号9のセンス鎖と配列番号10のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号11のセンス鎖と配列番号12のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号15のセンス鎖と配列番号16のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号17のセンス鎖と配列番号18のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号19のセンス鎖と配列番号20のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号21のセンス鎖と配列番号22のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号23のセンス鎖と配列番号24のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号27のセンス鎖と配列番号28のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号31のセンス鎖と配列番号32のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号39のセンス鎖と配列番号40のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号41のセンス鎖と配列番号42のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号43のセンス鎖と配列番号44のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号45のセンス鎖と配列番号46のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号47のセンス鎖と配列番号48のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号49のセンス鎖と配列番号50のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号53のセンス鎖と配列番号54のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号55のセンス鎖と配列番号56のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号57のセンス鎖と配列番号58のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号59のセンス鎖と配列番号60のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号61のセンス鎖と配列番号62のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号71のセンス鎖と配列番号72のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号89のセンス鎖と配列番号90のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号95のセンス鎖と配列番号96のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号97のセンス鎖と配列番号98のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、または
配列番号113のセンス鎖と配列番号114のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA
と同一もしくは実質的に同一の配列を含む、〔1〕に記載のsiRNA。
〔7〕
配列番号1のセンス鎖と配列番号2のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号3のセンス鎖と配列番号4のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号5のセンス鎖と配列番号6のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号7のセンス鎖と配列番号8のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号9のセンス鎖と配列番号10のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号11のセンス鎖と配列番号12のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号15のセンス鎖と配列番号16のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号17のセンス鎖と配列番号18のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号19のセンス鎖と配列番号20のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号21のセンス鎖と配列番号22のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号45のセンス鎖と配列番号46のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号47のセンス鎖と配列番号48のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号49のセンス鎖と配列番号50のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号53のセンス鎖と配列番号54のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号55のセンス鎖と配列番号56のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号57のセンス鎖と配列番号58のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号59のセンス鎖と配列番号60のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号89のセンス鎖と配列番号90のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号97のセンス鎖と配列番号98のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、または
配列番号113のセンス鎖と配列番号114のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA
と同一もしくは実質的に同一の配列を含む、〔1〕に記載のsiRNA。
〔8〕
配列番号3のセンス鎖と配列番号4のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号5のセンス鎖と配列番号6のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号7のセンス鎖と配列番号8のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号11のセンス鎖と配列番号12のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号15のセンス鎖と配列番号16のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号17のセンス鎖と配列番号18のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号19のセンス鎖と配列番号20のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号21のセンス鎖と配列番号22のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号23のセンス鎖と配列番号24のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号27のセンス鎖と配列番号28のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号31のセンス鎖と配列番号32のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号39のセンス鎖と配列番号40のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号41のセンス鎖と配列番号42のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号43のセンス鎖と配列番号44のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号45のセンス鎖と配列番号46のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号49のセンス鎖と配列番号50のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号53のセンス鎖と配列番号54のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号55のセンス鎖と配列番号56のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号57のセンス鎖と配列番号58のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号59のセンス鎖と配列番号60のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号61のセンス鎖と配列番号62のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号71のセンス鎖と配列番号72のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号89のセンス鎖と配列番号90のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号95のセンス鎖と配列番号96のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、または
配列番号97のセンス鎖と配列番号98のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNAと同一もしくは実質的に同一の配列を含む、〔1〕に記載のsiRNA。
〔9〕
配列番号3のセンス鎖と配列番号4のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号5のセンス鎖と配列番号6のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号11のセンス鎖と配列番号12のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号15のセンス鎖と配列番号16のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号17のセンス鎖と配列番号18のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号19のセンス鎖と配列番号20のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号21のセンス鎖と配列番号22のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号45のセンス鎖と配列番号46のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号49のセンス鎖と配列番号50のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号53のセンス鎖と配列番号54のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号55のセンス鎖と配列番号56のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号57のセンス鎖と配列番号58のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号59のセンス鎖と配列番号60のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号89のセンス鎖と配列番号90のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、または
配列番号97のセンス鎖と配列番号98のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNAと同一もしくは実質的に同一の配列を含む、〔1〕に記載のsiRNA。
〔10〕
前記siRNAは、其のセンス鎖および/またはアンチセンス鎖の3’末端に2ヌクレオチド長のオーバーハングを含み、21~23塩基対である、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のsiRNA。
〔11〕
前記siRNAが、少なくとも1個の修飾ヌクレオチドを含む、〔1〕~〔10〕のいずれかに記載のsiRNA。
〔12〕
前記修飾ヌクレオチドにおける少なくとも1個が、5’-ホスホロチオエート基を含む、〔1〕~〔11〕のいずれかに記載のsiRNA。
〔13〕
前記修飾ヌクレオチドにおける少なくとも1個が、2’-デオキシ修飾ヌクレオチド、2’-デオキシ-2’-フルオロ修飾ヌクレオチド、2’-O-メチル修飾ヌクレオチド、2’-O-メトキシエチル修飾ヌクレオチドおよび2’- O原子と4’- C原子がメチレンまたはエチレン基を介して架橋されたヌクレオチドからなる群から選択される、〔1〕~〔12〕のいずれかに記載のsiRNA。
〔14〕
P525L点変異FUSの発現を抑制するための〔1〕~〔13〕のいずれかに記載のsiRNA。
〔15〕
野生型FUSの発現を実質的に抑制することなく、P525L点変異FUSの発現を選択的に抑制するための〔1〕~〔13〕のいずれかに記載のsiRNA。
〔16〕
〔1〕~〔13〕のいずれかに記載のsiRNAを含む、医薬組成物。
〔17〕
〔1〕~〔13〕のいずれかに記載のsiRNAを含む、P525L点変異FUSの発現を抑制するための医薬組成物。
〔18〕
〔1〕~〔13〕のいずれかに記載のsiRNAを含む、野生型FUSの発現を実質的に抑制することなく、P525L点変異FUSの発現を選択的に抑制するための医薬組成物。
〔19〕
〔1〕~〔13〕のいずれかに記載のsiRNAを含む、P525L点変異FUSの発現抑制剤。
〔20〕
〔1〕~〔13〕のいずれかに記載のsiRNA、または〔16〕~〔18〕のいずれかに記載の医薬組成物を含む、ALS治療剤。
〔21〕
ALSが、P525L点変異FUSを持つ若年性ALSである、〔20〕に記載のALS治療剤。
〔22〕
〔1〕~〔13〕のいずれかに記載のsiRNAの有効量を投与することを特徴とする、ALSの治療方法。
〔23〕
ALSの治療剤を製造するための、〔1〕~〔13〕のいずれかに記載のsiRNAの使用。
〔24〕
〔1〕~〔13〕のいずれかに記載のsiRNAを細胞内で発現させるためのDNAベクター。
〔25〕
〔24〕に記載のDNAベクターおよび薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
〔26〕
〔24〕に記載のDNAベクターを含む細胞。
〔27〕
前記細胞が哺乳動物細胞である、〔26〕に記載の細胞。
〔28〕
野生型FUSの発現抑制率とP525L点変異FUSの発現抑制率を測定することを特徴とする、P525L点変異FUSの発現を選択的に抑制するALS治療剤のスクリーニング方法。
〔29〕
ALS治療剤の有効成分として使用するためのsiRNAのスクリーニング方法であって、
(1)P525L点変異FUSをコードするmRNAの一部に相補的もしくは実質的に相補的領域を含み、前記相補的領域は19~21ヌクレオチド長である、siRNAを設計する工程、
(2)工程(1)で設計されたsiRNAを製造する工程、および
(3)工程(2)で製造されたsiRNAから、野生型FUSの発現を実質的に抑制することなく、P525L点変異FUSの発現を選択的に抑制するsiRNAをスクリーニングする工程
を含む、スクリーニング方法。
〔30〕
P525L点変異FUSの発現を選択的に抑制するsiRNAを有効成分とするALS治療剤の製造方法であって、
(1)P525L点変異FUSをコードするmRNAの一部に相補的もしくは実質的に相補的領域を含み、前記相補的領域は19~21ヌクレオチド長である、siRNAを設計する工程、
(2)工程(1)で設計されたsiRNAを製造する工程、
(3)工程(2)で製造されたsiRNAから、野生型FUSを実質的に抑制することなく、P525L点変異FUSの発現を選択的に抑制するsiRNAをスクリーニングする工程、
(4)工程(3)でスクリーニングされたsiRNAを有効成分として含有する医薬組成物を製造する工程、および
(5)工程(4)で製造された医薬組成物を用いてALS治療剤としての効果を確認する工程
を含む、製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のsiRNAを用いることにより、野生型FUSの発現を実質的に抑制することなく、P525L点変異FUSの発現を選択的に抑制することが出来る。また本発明のsiRNAを含有してなる医薬により、ALS治療が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】21mer siRNAによるP525L点変異FUSの発現率への影響を示す。
図2】21mer siRNAによるP525L点変異FUSの発現抑制効果を示す。
図3】22mer siRNAによるP525L点変異FUSの発現率への影響を示す。
図4】22mer siRNAによるP525L点変異FUSの発現抑制効果を示す。
図5】23mer siRNAによるP525L点変異FUSの発現率への影響を示す。
図6】23mer siRNAによるP525L点変異FUSの発現抑制効果を示す。
図7】共発現HEK293細胞株での代表的なイメージング画像を示す。
図8】共発現HEK293細胞株での21mer siRNAによるP525L点変異FUSの発現率への影響を示す。
図9】共発現HEK293細胞株での21mer siRNAによるP525L点変異FUSの発現抑制効果を示す。
図10】共発現HEK293細胞株での22mer siRNAによるP525L点変異FUSの発現率への影響を示す。
図11】共発現HEK293細胞株での22mer siRNAによるP525L点変異FUSの発現抑制効果を示す。
図12】共発現HEK293細胞株での23mer siRNAによるP525L点変異FUSの発現率への影響を示す。
図13】共発現HEK293細胞株での23mer siRNAによるP525L点変異FUSの発現抑制効果を示す。
図14】siRNA-010による濃度依存的なP525L点変異FUSの発現抑制効果を示す。
図15】siRNA-029による濃度依存的なP525L点変異FUSの発現抑制効果を示す。
図16】siRNA-049による濃度依存的なP525L点変異FUSの発現抑制効果を示す。
図17】siRNA-010による経時的なP525L点変異FUSの発現抑制効果を示す。
図18】siRNA-029による経時的なP525L点変異FUSの発現抑制効果を示す。
図19】siRNA-049による経時的なP525L点変異FUSの発現抑制効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のsiRNA(small interfering RNA)は、標的とするP525L点変異FUS mRNA(転写産物)と相補的なRNA(アンチセンス鎖)および当該RNAに相補的なRNA(センス鎖)から構成される二本鎖RNAである。
【0018】
一般的にsiRNAが細胞に導入されると、RNA干渉を介してmRNA分解を促し、標的遺伝子の発現を抑制するが、本発明のsiRNAは、P525L点変異FUSのmRNAを標的として分解し、ALSに関与するP525L点変異FUSの発現を選択的に抑制することができる。
【0019】
本発明のsiRNAは、P525L点変異FUSをコードするmRNAの一部に相補的もしくは実質的に相補的領域を含み、前記相補的領域は19~21ヌクレオチド長であるアンチセンス鎖を有する。
また、本発明のsiRNAは、センス鎖及びアンチセンス鎖の各々が、19~26ヌクレオチド長であり、好ましくは19~23ヌクレオチド長である。
【0020】
本明細書における「相補的」、および「実質的に相補的」という用語は、これらが使用される文脈から理解されるように、siRNAのセンス鎖とアンチセンス鎖との間、またはsiRNAのアンチセンス鎖と標的mRNAとの間の向かい合う塩基同士が水素結合を形成できることを意味する。
【0021】
ここで本発明のsiRNAは、下記の表1に示す配列番号のいずれかの配列と同一もしくは実質的に同一の配列を有するアンチセンス鎖を含むが、好ましくは、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22または配列番号32と同一もしくは実質的に同一の配列を含むアンチセンス鎖を含む。
(表1)
鎖:s=センス、as=アンチセンス























【0022】
本発明のsiRNAは、上記の表1に示す配列番号と同一もしくは実質的に同一の配列を有するセンス鎖とアンチセンス鎖を含むが、好ましくは、
配列番号1のセンス鎖と配列番号2のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号3のセンス鎖と配列番号4のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号5のセンス鎖と配列番号6のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号7のセンス鎖と配列番号8のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号9のセンス鎖と配列番号10のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号11のセンス鎖と配列番号12のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号15のセンス鎖と配列番号16のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号17のセンス鎖と配列番号18のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号19のセンス鎖と配列番号20のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号21のセンス鎖と配列番号22のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号23のセンス鎖と配列番号24のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号27のセンス鎖と配列番号28のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号31のセンス鎖と配列番号32のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号39のセンス鎖と配列番号40のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号41のセンス鎖と配列番号42のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号43のセンス鎖と配列番号44のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号45のセンス鎖と配列番号46のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号47のセンス鎖と配列番号48のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号49のセンス鎖と配列番号50のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号53のセンス鎖と配列番号54のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号55のセンス鎖と配列番号56のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号57のセンス鎖と配列番号58のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号59のセンス鎖と配列番号60のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号61のセンス鎖と配列番号62のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号71のセンス鎖と配列番号72のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号89のセンス鎖と配列番号90のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号95のセンス鎖と配列番号96のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号97のセンス鎖と配列番号98のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、または
配列番号113のセンス鎖と配列番号114のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA
と同一もしくは実質的に同一の配列
を含み、より好ましくは、
配列番号1のセンス鎖と配列番号2のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号3のセンス鎖と配列番号4のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号5のセンス鎖と配列番号6のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号7のセンス鎖と配列番号8のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号9のセンス鎖と配列番号10のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号11のセンス鎖と配列番号12のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号15のセンス鎖と配列番号16のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号17のセンス鎖と配列番号18のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号19のセンス鎖と配列番号20のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号21のセンス鎖と配列番号22のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号45のセンス鎖と配列番号46のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号47のセンス鎖と配列番号48のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号49のセンス鎖と配列番号50のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号53のセンス鎖と配列番号54のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号55のセンス鎖と配列番号56のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号57のセンス鎖と配列番号58のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号59のセンス鎖と配列番号60のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号89のセンス鎖と配列番号90のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、
配列番号97のセンス鎖と配列番号98のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA、または
配列番号113のセンス鎖と配列番号114のアンチセンス鎖から構成される二本鎖RNA
と同一もしくは実質的に同一の配列を含む。
【0023】
本明細書における「実質的に同一の配列」とはsiRNAのアンチセンス鎖と標的mRNAが二本鎖RNAを形成する能力を保持している限り、表1の配列番号に化学修飾やミスマッチ塩基を含んでいても良いことを意味する。ここで、ミスマッチ塩基は、好ましくは3個以下、より好ましくは1個まで含んでいても良い。
【0024】
本発明のsiRNAのセンス鎖およびアンチセンス鎖が、3’末端にジヌクレオチドのオーバーハングを含んでいてもよい。「dT」とは、デオキシチミジンを意味する。オーバーハングはDNAもしくはRNAの任意のものから選択される。例えば、dTdTやUUが頻繁に使用されている。一般的にはより安価なdTdTが使用される。
【0025】
本明細書で使用される、「ヌクレオチドオーバーハング」とは、不対ヌクレオチド、またはsiRNAの1本の鎖の3’末端がもう一方の鎖の5’末端を越えて延びるか、またはその逆である時に、siRNAの二本鎖構造から突出するヌクレオチドを指す。
【0026】
本発明のsiRNAが、少なくとも1個の修飾ヌクレオチドを含んでいてもよい。ここで修飾ヌクレオチドにおける少なくとも1個が、5’-ホスホロチオエート基を含んでいてもよい。
【0027】
また、修飾ヌクレオチドにおける少なくとも1個が、2’-デオキシ修飾ヌクレオチド、2’-デオキシ-2’-フルオロ修飾ヌクレオチド、2’-O-メチル修飾ヌクレオチド、2’-O-メトキシエチル修飾ヌクレオチドおよび2’- O原子と4’- C原子がメチレンまたはエチレン基を介して架橋されたヌクレオチドからなる群から選択される。
【0028】
本明細書で使用される、「アンチセンス鎖」という用語は、標的配列に実質的に相補的である領域を含む、siRNAの鎖を指す。本明細書で使用される、「相補性の領域」という用語は、配列、例えば本明細書において定義される標的配列に実質的に相補的である、アンチセンス鎖の領域を指す。
【0029】
本明細書で使用される、「センス鎖」という用語は、アンチセンス鎖の領域に実質的に相補的である領域を含む、siRNAの鎖を指す。
【0030】
本発明のsiRNAは、P525L点変異FUS mRNAを基に標的となる配列を選択し、調製することで得られる。
【0031】
例えば、P525L点変異FUS mRNAの連続する領域の配列を選択する。具体的には、点変異を含む前後19~21ヌクレオチドのmRNA配列から選択する。
【0032】
本発明のsiRNAは、自体公知の核酸分子の合成方法に従って、製造することができる。公知の方法としては、例えば、以下の(i)と(ii)に記載された方法が挙げられる。
(i)「核酸医薬の創製と応用展開」シーエムシー出版、2016
(ii)「中分子創薬に資するペプチド・核酸・糖鎖の合成技術」シーエムシー出版、2018年
【0033】
本発明のsiRNAは、当業者においては、本明細書によって開示された塩基配列を基に、適宜作製することができる。具体的には、配列番号:1~240のいずれかに記載の塩基配列を基に、本発明の二本鎖RNAを作製することができる。一方の鎖(例えば、配列番号:1に記載の塩基配列)が判明していれば、当業者においては容易に他方の鎖(相補鎖)の塩基配列を知ることができる。本発明のsiRNAは、当業者においては市販の核酸合成機を用いて適宜作製することが可能である。また、所望のRNAの合成については、一般の合成受託サービスを利用することが可能である。
【0034】
本発明のsiRNAは、相補的な一本鎖オリゴヌクレオチドをアニーリングすることにより合成することができる。各オリゴヌクレオチドは市販のアミダイトを使用した固相合成法により合成することは可能である。固相合成は市販の核酸合成機と固相担体を用いて行われる。固相担体表面上にアルキル鎖を介してモノマーのヌクレオチドの3’末端が結合したものを使用し、アミダイトを付加していく、つまり目的のオリゴヌクレオチド配列の3’末端から5’末端に向けて1ヌクレオチドずつ伸長することで合成できる。合成サイクル完了後に固相担体からオリゴヌクレオチドを切り出し、塩基部分及び2’位の脱保護を行なうことにより、目的の一本鎖RNAを調製できる。
【0035】
なお、得られたsiRNAの配列は、RNA干渉を誘導し、標的とするmRNAを分解することができれば、配列に1若しくは数個を置換、欠失、挿入および/または付加したものでもよい。
【0036】
本発明のsiRNAは、RNA干渉を誘導し、P525L点変異FUSのmRNAを標的として分解し、ALSに関与するP525L点変異FUSの発現を選択的に抑制することができる。
選択性の程度は以下のように算出されるものである。
選択性(1)=(野生型FUS発現率)/(P525L点変異FUS発現率)
または
選択性(2)=(P525L点変異FUS発現抑制率)―(野生型FUS発現抑制率)
【0037】
図1に示す21mer siRNAによる野生型FUS/P525L点変異FUS発現率及び選択性を表2に示す。
(表2)
【0038】
図2に21mer siRNAによる野生型FUS発現抑制率とP525L点変異FUS発現抑制率及び選択性を表3に示す。
(表3)
【0039】
図3に示す22mer siRNAによる野生型FUS/P525L点変異FUS発現率及び選択性を表4に示す。
(表4)
【0040】
図4に示す22mer siRNAによる野生型FUS発現抑制率とP525L点変異FUS発現抑制率及び選択性を表5に示す。
(表5)
【0041】
図5に示す23mer siRNAによる野生型FUS/P525L点変異FUS発現率及び選択性を表6に示す。
(表6)
【0042】
図6に示す23mer siRNAによる野生型FUS発現抑制率とP525L点変異FUS発現抑制率及び選択性を表7に示す。
(表7)
【0043】
本発明のsiRNAは、P525L点変異FUSの発現を抑制し、とりわけ、野生型FUSの発現を実質的に抑制することなく、P525L点変異FUSの発現を選択的に抑制する。ここで、「野生型FUSの発現を実質的に抑制することなく」とは、野生型FUSの発現抑制による望ましくない症状が実質的に現れないことであり、P525L点変異FUSの発現を選択的に抑制することを意味する。具体的に、上記の表2、4、6で示されているように、野生型FUS発現率は、P525L点変異FUS発現率より、通常1.5倍以上、好ましくは2倍以上であり、上記の表3、5、7で示されているように、P525L点変異FUS発現抑制率は、野生型FUS発現抑制率より通常20%以上、好ましくは40%以上を選択性ありと定義する。それぞれ単独で選択性を評価することもできるし、両者を組み合わせて評価することもできる。
【0044】
本発明で用いられる、P525L点変異FUSの発現を選択的に抑制するsiRNAとしては、
例えば、アンチセンス鎖として、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号28、配列番号32と同一もしくは実質的に同一の配列を含むsiRNAが挙げられる。好ましくは、アンチセンス鎖として、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22または配列番号32と同一もしくは実質的に同一の配列を含むsiRNAである。
また例えば、センス鎖/アンチセンス鎖として、配列番号1/配列番号2、配列番号3/配列番号4、配列番号5/配列番号6、配列番号7/配列番号8、配列番号9/配列番号10、配列番号11/配列番号12、配列番号15/配列番号16、配列番号17/配列番号18、配列番号19/配列番号20、配列番号21/配列番号22、配列番号23/配列番号24、配列番号27/配列番号28、配列番号31/配列番号32、配列番号39/配列番号40、配列番号41/配列番号42、配列番号43/配列番号44、配列番号45/配列番号46、配列番号47/配列番号48、配列番号49/配列番号50、配列番号53/配列番号54、配列番号55/配列番号56、配列番号57/配列番号58、配列番号59/配列番号60、配列番号61/配列番号62、配列番号71/配列番号72、配列番号89/配列番号90、配列番号95/配列番号96、配列番号97/配列番号98、配列番号113/配列番号114から構成される二本鎖RNAと同一もしくは実質的に同一の配列を含むsiRNAが本発明で用いられるsiRNAとして挙げられる。より好ましくは、センス鎖/アンチセンス鎖として、配列番号1/配列番号2、配列番号3/配列番号4、配列番号5/配列番号6、配列番号7/配列番号8、配列番号9/配列番号10、配列番号11/配列番号12、配列番号15/配列番号16、配列番号17/配列番号18、配列番号19/配列番号20、配列番号21/配列番号22、配列番号45/配列番号46、配列番号47/配列番号48、配列番号49/配列番号50、配列番号53/配列番号54、配列番号55/配列番号56、配列番号57/配列番号58、配列番号59/配列番号60、配列番号89/配列番号90、配列番号97/配列番号98、配列番号113/配列番号114から構成される二本鎖RNAと同一もしくは実質的に同一の配列を含むsiRNAである。
【0045】
ここでいう実質的に同一の配列にはセンス鎖又は/及びアンチセンス鎖の3’末端に少なくとも1ヌクレオチド以上(好ましくは2ヌクレオチド)のオーバーハングを有するものである。
【0046】
本発明のsiRNAはALS治療薬として有用であり、その治療効果は下記の文献に記載された方法またはそれに準ずる方法を用いて評価することができる。
文献(1):J Clin Invest, McCampbell A. et al. p 3558-3567: 2018
文献(2):E Bio Medcine, Akiyama T. et al. p 362-378: 2019
文献(3):BRAIN, Shiihashi G. et al. p 2380-2394: 2016
【0047】
本発明の医薬組成物をそのままALSの治療として用いてもよく、あるいは医薬上許容される担体または賦形剤を用いて、当業者に公知の方法にて様々な剤形に処方してもよい。使用する担体または賦形剤は当業者に公知であり、適宜選択することができる。本発明の薬剤は、当業者に公知の手段・方法を用い製造することができる。
【0048】
本発明のALS治療薬は、P525L点変異FUSをターゲットとしたsiRNAを当該技術分野においてよく知られる薬学的に許容しうる担体とともに、混合、溶解、顆粒化、錠剤化、乳化、カプセル封入、凍結乾燥等により、製剤化することができる。
【0049】
経口投与用には、P525L点変異FUSをターゲットとしたsiRNAを、薬学的に許容しうる溶媒、賦形剤、結合剤、安定化剤、分散剤等とともに、錠剤、丸薬、糖衣剤、軟カプセル、硬カプセル、溶液、懸濁液、乳剤、ゲル、シロップ、スラリー等の剤形に製剤化することができる。
【0050】
非経口投与用には、P525L点変異FUS をターゲットとしたsiRNAを、薬学的に許容しうる溶媒、賦形剤、結合剤、安定化剤、分散剤等とともに、注射用溶液、懸濁液、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、吸入剤、座剤等の剤形に製剤化することができる。
【0051】
注射用の処方においては、P525L点変異FUSをターゲットとしたsiRNAを水性溶液、好ましくはハンクス溶液、リンゲル溶液、または生理的食塩緩衝液等の生理学的に適合性の緩衝液中に溶解することができる。さらに、組成物は、油性または水性のベヒクル中で、懸濁液、溶液、または乳濁液等の形状をとることができる。あるいは、治療剤を粉体の形態で製造し、使用前に滅菌水等を用いて水溶液または懸濁液を調製してもよい。吸入による投与用には、P525L点変異FUSをターゲットとしたsiRNAを粉末化し、ラクトースまたはデンプン等の適当な基剤とともに粉末混合物とすることができる。
【0052】
さらに、P525L点変異FUSをターゲットとしたsiRNAは、非ウイルスベクターまたはウイルスベクターの形態で投与することができる。このような投与形態は、公知の方法を用いればよく、例えば、別冊実験医学「遺伝子治療の基礎技術」羊土社、1996;別冊実験医学「遺伝子導入& 発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されている。
【0053】
投与量および投与回数は、剤形および投与経路、ならびに患者の症状、年齢、体重によって異なるが、一般に、P525L点変異FUSをターゲットとしたsiRNAは、1日あたり体重1kgあたり、約0.001mgから1000mgの範囲、好ましくは約0.01mgから10mgの範囲となるよう、1日に1回から数回投与することができる。
【0054】
本発明は、さらにもう1つの態様において、ALS治療剤を製造するための上記組成物の使用を提供する。
【0055】
本発明は、さらにもう1つの態様において、ALS治療のための上記組成物の使用を提供する。
【0056】
本発明は、さらにもう1つの態様において、ALS患者に上記組成物を投与することを含む治療方法を提供する。
【0057】
ALSが、好ましくはFUS遺伝子にP525L点変異を伴う若年性ALSである。
【0058】
本発明は、もう1つの態様において、本発明のsiRNAを細胞内で発現させるためのDNAベクター、該DNAベクターおよび薬学的に許容される担体を含む医薬組成物および
該DNAベクターを含む細胞を提供する。
【0059】
本発明は、もう1つの態様において、野生型FUSの発現抑制率とP525L点変異FUSの発現抑制率を測定することを特徴とする、P525L点変異FUSの発現を選択的に抑制するALS治療剤のスクリーニング方法を提供する。
【0060】
ALS治療剤としては、例えば、核酸分子、ペプチド、タンパク質、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、血漿などがあげられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。
【0061】
本発明は、もう1つの態様において、ALS治療剤の有効成分として使用するためのsiRNAのスクリーニング方法を提供する。該スクリーニング方法は、
(1)P525L点変異FUSをコードするmRNAの一部に相補的もしくは実質的に相補的領域を含み、前記相補的領域は19~21ヌクレオチド長である、siRNAを設計する工程、
(2)工程(1)で設計されたsiRNAを製造する工程、および
(3)工程(2)で製造されたsiRNAから、野生型FUSの発現を実質的に抑制することなく、P525L点変異FUSの発現を選択的に抑制するsiRNAをスクリーニングする工程
を含む。
【0062】
本発明は、もう1つの態様において、P525L点変異FUSの発現を選択的に抑制するsiRNAを有効成分とするALS治療剤の製造方法を提供する。該製造方法は、
(1) P525L点変異FUSをコードするmRNAの一部に相補的もしくは実質的に相補的領域を含み、前記相補的領域は19~21ヌクレオチド長である、siRNAを設計する工程、
(2) 工程(1)で設計されたsiRNAを製造する工程、
(3) 工程(2)で製造されたsiRNAから、野生型FUSを実質的に抑制することなく、P525L点変異FUSの発現を選択的に抑制するsiRNAをスクリーニングする工程、
(4) 工程(3)でスクリーニングされたsiRNAを有効成分として含有する医薬組成物を製造する工程、および
(5) 工程(4)で製造された医薬組成物を用いてALS治療剤としての効果を確認する工程
を含む。
【0063】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0064】
ヒトFUS野生型およびFUSP525LcDNAの合成
ヒト野生FUS(以下FUS野生型)cDNA配列を配列1にヒトP525L点変異FUS(以下FUSP525L)cDNAを配列2に示した。
人工遺伝子は、ジェンスクリプトジャパン株式会社により提供されている。
なお、合成遺伝子はpcDNA3.1+ベクターのマルチクローニングサイト内のBamHI/XhoIサイトに挿入した。
(配列1)
tgcgcggacatggcctcaaacgattatacccaacaagcaacccaaagctatggggcctaccccacccagcccgggcagggctattcccagcagagcagtcagccctacggacagcagagttacagtggttatagccagtccacggacacttcaggctatggccagagcagctattcttcttatggccagagccagaacagctatggaactcagtcaactccccagggatatggctcgactggcggctatggcagtagccagagctcccaatcgtcttacgggcagcagtcctcctatcctggctatggccagcagccagctcccagcagcacctcgggaagttacggtagcagttctcagagcagcagctatgggcagccccagagtgggagctacagccagcagcctagctatggtggacagcagcaaagctatggacagcagcaaagctataatccccctcagggctatggacagcagaaccagtacaacagcagcagtggtggtggaggtggaggtggaggtggaggtaactatggccaagatcaatcctccatgagtagtggtggtggcagtggtggcggttatggcaatcaagaccagagtggtggaggtggcagcggtggctatggacagcaggaccgtggaggccgcggcaggggtggcagtggtggcggcggcggcggcggcggtggtggttacaaccgcagcagtggtggctatgaacccagaggtcgtggaggtggccgtggaggcagaggtggcatgggcggaagtgaccgtggtggcttcaataaatttggtggccctcgggaccaaggatcacgtcatgactccgaacaggataattcagacaacaacaccatctttgtgcaaggcctgggtgagaatgttacaattgagtctgtggctgattacttcaagcagattggtattattaagacaaacaagaaaacgggacagcccatgattaatttgtacacagacagggaaactggcaagctgaagggagaggcaacggtctcttttgatgacccaccttcagctaaagcagctattgactggtttgatggtaaagaattctccggaaatcctatcaaggtctcatttgctactcgccgggcagactttaatcggggtggtggcaatggtcgtggaggccgagggcgaggaggacccatgggccgtggaggctatggaggtggtggcagtggtggtggtggccgaggaggatttcccagtggaggtggtggcggtggaggacagcagcgagctggtgactggaagtgtcctaatcccacctgtgagaatatgaacttctcttggaggaatgaatgcaaccagtgtaaggcccctaaaccagatggcccaggagggggaccaggtggctctcacatggggggtaactacggggatgatcgtcgtggtggcagaggaggctatgatcgaggcggctaccggggccgcggcggggaccgtggaggcttccgagggggccggggtggtggggacagaggtggctttggccctggcaagatggattccaggggtgagcacagacaggatcgcagggagaggccgtattaattagcctggctccccaggttctggaacagctttttgtcctgtacccagtgttaccctcgttattttgtaaccttccaattcctgatcacccaagggtttttttgtgtcggactatgtaattgtaactatacctctggttcccattaaaagtgaccattttagttaaaaaaaa(配列番号246)

(配列2)
tgcgcggacatggcctcaaacgattatacccaacaagcaacccaaagctatggggcctaccccacccagcccgggcagggctattcccagcagagcagtcagccctacggacagcagagttacagtggttatagccagtccacggacacttcaggctatggccagagcagctattcttcttatggccagagccagaacagctatggaactcagtcaactccccagggatatggctcgactggcggctatggcagtagccagagctcccaatcgtcttacgggcagcagtcctcctatcctggctatggccagcagccagctcccagcagcacctcgggaagttacggtagcagttctcagagcagcagctatgggcagccccagagtgggagctacagccagcagcctagctatggtggacagcagcaaagctatggacagcagcaaagctataatccccctcagggctatggacagcagaaccagtacaacagcagcagtggtggtggaggtggaggtggaggtggaggtaactatggccaagatcaatcctccatgagtagtggtggtggcagtggtggcggttatggcaatcaagaccagagtggtggaggtggcagcggtggctatggacagcaggaccgtggaggccgcggcaggggtggcagtggtggcggcggcggcggcggcggtggtggttacaaccgcagcagtggtggctatgaacccagaggtcgtggaggtggccgtggaggcagaggtggcatgggcggaagtgaccgtggtggcttcaataaatttggtggccctcgggaccaaggatcacgtcatgactccgaacaggataattcagacaacaacaccatctttgtgcaaggcctgggtgagaatgttacaattgagtctgtggctgattacttcaagcagattggtattattaagacaaacaagaaaacgggacagcccatgattaatttgtacacagacagggaaactggcaagctgaagggagaggcaacggtctcttttgatgacccaccttcagctaaagcagctattgactggtttgatggtaaagaattctccggaaatcctatcaaggtctcatttgctactcgccgggcagactttaatcggggtggtggcaatggtcgtggaggccgagggcgaggaggacccatgggccgtggaggctatggaggtggtggcagtggtggtggtggccgaggaggatttcccagtggaggtggtggcggtggaggacagcagcgagctggtgactggaagtgtcctaatcccacctgtgagaatatgaacttctcttggaggaatgaatgcaaccagtgtaaggcccctaaaccagatggcccaggagggggaccaggtggctctcacatggggggtaactacggggatgatcgtcgtggtggcagaggaggctatgatcgaggcggctaccggggccgcggcggggaccgtggaggcttccgagggggccggggtggtggggacagaggtggctttggccctggcaagatggattccaggggtgagcacagacaggatcgcagggagaggctgtattaattagcctggctccccaggttctggaacagctttttgtcctgtacccagtgttaccctcgttattttgtaaccttccaattcctgatcacccaagggtttttttgtgtcggactatgtaattgtaactatacctctggttcccattaaaagtgaccattttagttaaaaaaaa(配列番号247)
【実施例2】
【0065】
GFP融合FUS野生型およびFP635融合FUSP525L遺伝子発現ベクターの構築
pTurboGFPベクター、pTurboFP635ベクターおよび「1. ヒトFUS野生型およびFUSP525LcDNAの合成」で調製した人工遺伝子を表8に示したプライマーセットを用いてPCRを行った。
PCRは、PrimeSTAR Max Premix(タカラバイオ株式会社)25μl、2.5μM Primerそれぞれ4μL(終濃度0.2μM)、鋳型 1μL(20ng)、水 20μLを混合し、98℃、10秒間インキュベーションした後、98℃10秒、55℃5秒、72℃10秒(ただしベクターを鋳型とした場合は25秒)を35サイクル行った。
ベクター増幅フラグメントとFUS遺伝子増幅フラグメントはIn-Fusion反応によって連結させた。つまり、挿入フラグメント2μL、ベクター増幅物1μL、5×In-Fusion HD Enzyme Premix(タカラバイオ株式会社)2μLおよび水5μLを混合し、50℃、15分間反応させ、NEB Turbo Competent E. coli(New England Biolabs Japan)に形質転換した。形質転換体からプラスミドベクターを調製し、そのDNA配列から目的のcDNAが適切に挿入されていることを確認した。
FUS野生型はそのN末端にTurbo GFP蛍光タンパクが、FUSP525LはそのN末端にTurbo FP635蛍光タンパクが付加するようにそれぞれpTurboGFPベクター(Evrogen)、pTurboFP635ベクター(Evrogen)にインフレームとなるようにクローニングした。
(表8)
【実施例3】
【0066】
TurboGFP融合FUS野生型およびTurboFP635融合FUSP525L安定発現HEK293細胞株の作製
TurboGFP融合FUS野生型 cDNAまたはTurboFP635融合FUSP525LcDNAは、HEK293細胞ゲノム上のsafe harbor(セーフ・ハーバー/安全領域)である AAVS1領域に挿入することにより安定発現細胞株を作製した。
安定発現細胞株の作製にはAAVS1 Transgene knockin vector kit(ORIGENE)を使用した。
先に調製したTurboGFP融合FUS野生型発現ベクターおよびTurboFP635融合FUSP525L発現ベクターの各蛍光タンパク質の開始コドンから各FUS cDNAを含む配列を表9に示した鋳型、プライマーセットを用いてPCRを行った。
PCRは、PrimeSTAR Max Premix(2×)25μl、2.5μM Primerそれぞれ4μL(終濃度0.2μM)、鋳型 1μL(20ng)、水 20μLを混合し、98℃、10秒間インキュベーションした後、98℃10秒、55℃5秒、72℃10秒を35サイクル行い、各PCR産物はGFX(登録商標) PCR DNA and Gel Band Purification Kit(グローバルライフサイエンステクノロジーズジャパン株式会社)で精製を行った。
精製PCR産物およびpAAVS1-puro-DNRプラスミドベクター(ORIGENE)を制限酵素AscIおよびNotI-HF (いずれもNew England Biolabs Japan)で消化した後、GFX(登録商標) PCR DNA and Gel Band Purification Kitを用いて精製した。プラスミドベクターと挿入cDNAとのライゲーション反応 (Ligation high ver. 2、東洋紡株式会社)を行い、NEB Turbo Competent E. coliに形質転換した。形質転換体からプラスミドベクターを調製し、そのDNA配列から目的のcDNAが適切に挿入されていることを確認した。
調製したpAAVS1-puro-DNRプラスミドベクターは、pCAS-Guide-AAVS1プラスミドベクターと共にエレクトロポレーション法 (4D-Nucleofectorシステム, AD1 4D-Nucleofector(登録商標)Y キット使用、プログラムコードCA-215、Lonza) により共導入した。遺伝子導入48時間後から約1週間ピューロマイシン (3μg/ml) による薬剤選択後、TurboGFPまたはTurboFP635の発光を利用してクローニングを行った。
(表9)
【実施例4】
【0067】
細胞培養
HEK293細胞は、10%FBS、4mM GlutaMAX(登録商標)Supplement含むAdvanced DMEM(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)を用いて、37℃、5%CO2で培養した。
なお、HEK293細胞は国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 培養資源研究室・JCRB細胞バンクより入手したものを使用した(細胞番号JCRB9068)。
【実施例5】
【0068】
安定発現株を用いたRNA干渉の評価サンプルの調製
表1で示される配列番号121~240のセンス鎖/アンチセンス鎖から構成されるsiRNA001~siRNA060を、核酸合成の分野で周知の方法により製造した(株式会社ジーンデザインに製造委託)。
ネガティブコントロールsiRNAは、ヒト・マウス・ラットの既知遺伝子配列と類似しない配列のsiRNAであり、Horizon Discoveryより提供されている。その配列は、UAGCGACUAAACACAUCAA(配列番号241)である。一方、ポジティブコントロールsiRNAは、ヒトFUS mRNAの任意の領域を標的としてデザインされた4種類のsiRNA(配列番号242~245)の混合物であり、Horizon Discoveryより提供されている。その4種類の配列は、CCUACGGACAGCAGAGUUA(配列番号242)、GAUUAUACCCAACAAGCAA(配列番号243)、GAUCAAUCCUCCAUGAGUA(配列番号244)、
CGGGACAGCCCAUGAUUAA(配列番号245)である。
Opti-MEM(登録商標) I Reduced-Serum Medium 20μLに各種siRNA (siRNA001~siRNA060、10μM) 0.12μLを加え穏やかに撹拌した。この溶液にLipofectamine(登録商標)RNAiMAX Transfection Reagent 0.2μLを加え穏やかに混合した後、室温で10~20分間インキュベーションした。
TurboGFP融合FUS野生型 安定発現HEK293細胞株およびTurboFP635融合FUSP525L安定発現HEK293細胞株を1:1に混合し、5~8×104cells/mLとなるように 10%FBS、4mM GlutaMAX(登録商標)Supplement含むFluoroBrite(登録商標)DMEMで希釈した。
Cell Carrier-96ultra(Black、96well、clear bottom、with lid,Collagen Coated、パーキンエルマー)に希釈した細胞100μLとsiRNA/ Lipofectamine(登録商標)RNAiMAX複合体20.32μLを添加・混合し、37℃、5%CO2インキュベーター内で48時間培養した(siRNAの終濃度は1nM/well)。遺伝子導入から約48時間後、NucBlue(登録商標)Live ReadyProbes(登録商標) Reagent (Thermo Fisher Scientific)を2μL/well添加し穏やかに撹拌後、室温で30分間インキュベーションし核を染色した。
細胞は、Formalin solution,neutral buffered,10% (Sigma-Aldrich)を100μL加え穏やかに撹拌後、室温で1時間インキュベーションすることにより固定した。
【実施例6】
【0069】
FUS野生型およびFUSP525Lの発現量解析
核のレポータータンパクとしてHoechst33342(最大励起波長461nm)、野生型FUSのレポータータンパクとしてTurboGFP(最大励起波長452nm)および変異FUSのレポータータンパクとしてTurboFP635(最大励起波長588nm)を使用し、Operetta CLS(登録商標)ハイコンテント共焦点イメージングシステム(パーキンエルマー)により、20倍水浸レンズ、共焦点モードにて画像を取得した。更に、画像解析ソフトウェアHarmony(登録商標)(Ver.4.9、パーキンエルマー)を用いて、核領域のTurboGFP蛍光強度及び細胞質領域のTurboFP635蛍光強度をそれぞれ測定し、TurboGFP陽性細胞(蛍光強度1500以上とする)、TurboFP635陽性細胞(蛍光強度800以上)を選択した。選択した細胞からTurboGFP陽性細胞率(TurboGFP陽性細胞数/全細胞数)およびTurboFP635陽性細胞率(TurboFP635陽性細胞数/全細胞数)を算出した。その後、下記のように、コントロールの値から発現率及び発現抑制率の相対値を算出した。
*(発現率)=100×{(各種siRNA(siRNA001~060)処置後のTurboGFP陽性細胞率)-(ポジティブコントロールsiRNA処置後のTurboGFP陽性細胞率)}/{(ネガティブコントロールsiRNA処置後のTurboGFP陽性細胞率)-(ポジティブコントロールsiRNA処置後のTurboGFP陽性細胞率)}
*(発現抑制率)=100×{(各種siRNA(siRNA001~060)処置後のTurboGFP陽性細胞率)-(ネガティブコントロールsiRNA処置後のTurboGFP陽性細胞率)}/{(ポジティブコントロールsiRNA処置後のTurboGFP陽性細胞率)-(ネガティブコントロールsiRNA処置後のTurboGFP陽性細胞率)}
当該発現率は図1、3、5において、当該発現抑制率は図2、4、6において示している。
【0070】
図1~6の結果より、siRNA-001、002、003、004、005、006、008、009、010、011、012、014、016、020、021、022、023、024、025、027、028、029、030、031、036、045、048、049、057は野生型FUSの発現よりもP525L点変異FUSの発現を選択的に抑制するsiRNAであることが確認された。
従って、上述のsiRNAのアンチセンス鎖からオーバーハング(dTdT)を除いた配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号28または配列番号32の配列と同一もしくは実質的に同一の配列を含むアンチセンス鎖から構成されるsiRNA等は、本発明のsiRNAとしてP525L点変異FUS遺伝子に関連したALSの治療剤として有用なものであることが特に期待される。
【実施例7】
【0071】
FUSノックアウト(KO)HEK293細胞株の作製
FUS/TLS CRISPR/Cas9 KO(sc-400612)プラスミド(Santa Cruz)およびFUS/TLS HDRプラスミド(h)(sc-400612-HDR)(Santa Cruz)をTransIT(登録商標)-293 Transfection Reagent(Mirus)にてトランスフェクションすることで、FUS KO HEK細胞株を作製した。
FUS遺伝子ノックアウトの確認は、RT-PCR(SuperScript(登録商標) IV One-Step RT-PCR System with ezDNase(登録商標), invitrogen, #12595100 使用)を用いてFUS mRNAの発現の有無を確認した。使用したプライマーセットを表10に示す。
なお、トータルRNAはRNeasy Plus Mini Kit(QIAGEN)を用いて調製し、gDNAの消化は10x ezDNase Buffer 1μL、ezDNase Enzyme 1μL、Template RNA(500ng/μL)1μL、水7μLを混合し、37℃で5分間行った。また、RT-PCRは、Template RNA(Digested gDNA)10μL、2x Platinum SuperFi RT-PCR Master Mix 25μL、Primer Set I Mixture(each 10μM)2.5μL、Primer Set V Mixture(each 10μM)2.5μL、SuperScript IV RT Mix 0.5μL、水9.5μLを混合し、60℃10分間、98℃2分間、さらに、98℃10秒間、62℃10秒間、72℃1分間を40サイクル行った後に、72℃5分間反応させた。
(表10)
【実施例8】
【0072】
TurboGFP融合FUS野生型およびTurboFP635融合FUSP525Lの共発現HEK293細胞株の作製
TurboGFP融合FUS野生型 cDNAおよびTurboFP635融合FUSP525L cDNAは、pAAVS1-puro-DNR(Origene)のマルチクローニングサイトにクローニングした。pAAVS1-puro-DNR(Origene)_TurboGFP-FUS野生型、pAAVS1-puro-DNR(Origene)_TurboFP635-FUSP525LおよびpCas-Guide-AAVS1(Origene)を先に作製したFUS KO HEK293細胞に導入し、TurboGFP融合FUS野生型およびTurboFP635融合FUSP525Lを共発現する細胞を作製した。
細胞株のクローニングは、On-chip Sort(On-chip Biotechnologies Co., Ltd.)を用いてTurboGFPおよびTurboFP635のダブルポジティブ細胞をソーティングした後に、On-chip SPiS(On-chip Biotechnologies Co., Ltd.)を用いて単一細胞を384プレートに分取・培養することによって行った。
【実施例9】
【0073】
TurboGFP融合FUS野生型およびTurboFP635融合FUSP525L共発現HEK293細胞株を用いたRNA干渉の評価
Opti-MEM(Invitrogen)25μLおよびLipofectamine(登録商標)RNAi MAX(Invitrogen)1.5μLの混合溶液25μLとOpti-MEM(Invitrogen)25μLおよび10μMのsiRNA 0.5μLの混合溶液25μLを混合し、室温で15~20分間インキュベーションした。
TurboGFP融合FUS野生型およびTurboFP635融合FUSP525Lの共発現HEK293細胞株は、加温した培地(5%FBSを含むFluoroBriteTM DMEM、以下同様)で3.0×105cells/mLとなるように懸濁した。細胞懸濁液100μLと先に調製したLipofectamine- siRNA複合体 10μLを混合し、CellCarrier Ultra、コラーゲンコート済み96穴プレート(パーキンエルマー)に播種し、37℃、5%CO2条件下で培養した(以下、同条件で培養を行った)。トランスフェクション24時間後に培地100μLを追加し、トランスフェクション48時間後に各wellの培地100μLを取り除いた後、中性緩衝ホルマリン溶液, 10%(Sigma-Aldrich)50mLにLive Ready Probe(登録商標) Reagent, Hoechst 33342(Invitrogen)の50ドロップを含む溶液100μLを添加・混合することにより固定と核染色を行った。
37℃で約30分間インキュベーションした後、Operetta CLS(登録商標)ハイコンテント共焦点イメージングシステム(パーキンエルマー)(20倍水浸レンズ、共焦点モード)でデータを取得した。イメージングの画像を図7に示す。得られた画像データから全細胞数(核数)、TurboGFP陽性細胞数およびTurboFP635陽性細胞数をカウントし、TurboGFP陽性細胞率(TurboGFP陽性細胞数/全細胞数)およびTurboFP635陽性細胞率(TurboFP635陽性細胞数/全細胞数)を算出した。

TurboGFP陽性細胞およびTurboFP635陽性細胞は以下のように定義した。
〈TurboGFP陽性細胞(FUS野生型発現細胞)〉
・核領域内におけるTurboGFPの蛍光強度の総和を核領域の面積(ピクセル)で割った値が400以上のもの
〈TurboFP635陽性細胞(FUSP525L発現細胞)〉
・細胞質域内におけるTurboFP635の蛍光強度の総和を細胞質領域の面積(ピクセル)で割った値が400以上のもの

各陽性細胞率を下記の計算式に代入し発現率及び発現抑制率の相対値を算出した。
*(発現率)=100×{(各種siRNA(siRNA001~060)処置後のTurboGFP陽性細胞率)-(ポジティブコントロールsiRNA処置後のTurboGFP陽性細胞率)}/{(ネガティブコントロールsiRNA処置後のTurboGFP陽性細胞率)-(ポジティブコントロールsiRNA処置後のTurboGFP陽性細胞率)}
*(発現抑制率)=100×{(各種siRNA(siRNA001~060)処置後のTurboGFP陽性細胞率)-(ネガティブコントロールsiRNA処置後のTurboGFP陽性細胞率)}/{(ポジティブコントロールsiRNA処置後のTurboGFP陽性細胞率)-(ネガティブコントロールsiRNA処置後のTurboGFP陽性細胞率)}
当該発現率は図8、10、12において、当該発現抑制率は図9、11、13に示している。
【0074】
図8~13の結果より、本発明のsiRNA(siRNA-002, 003, 004, 006, 007, 008, 009, 010, 011, 012, 014, 015, 016, 019, 020, 021, 022, 023, 025, 026, 027, 028, 029, 030, 031, 033, 034, 035, 036, 038, 039, 040, 041, 042, 043, 045, 046, 047, 048, 049, 050, 051, 052, 053, 055, 056, 058, 059, 060)は、共発現HEK細胞株を用いた場合、野生型FUSの発現よりもP525L点変異FUSの発現を選択的に抑制するsiRNAであることが確認された。野生型FUSおよびP525L点変異FUSを別々に発現させたHEK細胞株と共発現させたHEK細胞株のいずれの系でも、野生型FUSの発現よりもP525L点変異FUSの発現を選択的に抑制する代表的なsiRNAを以下に列挙する。第一の代表例としては、siRNA-002、003、004、006、008、009、010、011、012、014、016、020、021、022、023、025、027、028、029、030、031、036、045、048、049が挙げられる。第二の代表例としては、siRNA-002、003、006、008、009、010、011、023、025、027、028、029、030、045、049が挙げられる。
従って、上述のsiRNAのアンチセンス鎖からオーバーハング(dTdT)を除いた配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号12、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号28または配列番号32の配列と同一もしくは実質的に同一の配列を含むアンチセンス鎖から構成されるsiRNA、および上述のsiRNAのアンチセンス鎖からオーバーハング(dTdT)を除いた配列番号4、配列番号6、配列番号12、配列番号16、配列番号18、配列番号20または配列番号22の配列と同一もしくは実質的に同一の配列を含むアンチセンス鎖から構成されるsiRNAは、本発明のsiRNAとしてP525L点変異FUS遺伝子に関連したALSの治療剤として有用なものであることが特に期待される。
【実施例10】
【0075】
リアルタイムPCRによる濃度依存的なFUS遺伝子の発現抑制効果の確認
Opti-MEM(Invitrogen)25μLおよびLipofectamine(登録商標)RNAi MAX(Invitrogen)1.5μLの混合溶液25μLとOpti-MEM(Invitrogen)25μLおよびsiRNA(0.01μM、0.1μM、1μM、10μM) 0.5μLの混合溶液25μLを混合し、室温で15~20分間インキュベーションした。以下、細胞へのsiRNAの導入については「TurboGFP融合FUS野生型およびTurboFP635融合FUSP525L共発現HEK293細胞株を用いたRNA干渉の評価」に示した方法に従った。
トランスフェクション48時間後、培地を完全に取り除き、DNase I(Life Technologies Japan)0.5μL、Lysis Solution(Life Technologies Japan)49.5μLを混合した細胞溶解液を50μL加え、室温で5分間インキュベーションした。その後Stop Solution(Life Technologies Japan)を5μL加え混合後、室温で2分間インキュベーションし、これを逆転写反応に供した。
2X Fast Advanced RT Buffer(Life Technologies Japan)25μL、20X Fast Advanced RT Enzyme Mix(Life Technologies Japan)2.5μL、Nuclease-free Water 12.5μLを混合した逆転写反応液に先に調製した細胞溶解液10μLを加え、37℃30分間、95℃5分間反応させcDNAを合成した。
リアルタイムPCRは、TurboGFP融合FUS野生型遺伝子、TurboFP635融合FUSP525L遺伝子および内因性コントロール遺伝子(GAPDHを使用)の3遺伝子を同一反応系で検出した。
反応液は、TaqMan(登録商標)Fast Advanced Master Mix(Life Technologies Japan)10μL、100μM プライマー(GFP_X_F、GFP_X_R、FP635_X_F、FP635_X_R)各0.06μL、10μM TaqMan(登録商標)プローブ(TurboGFP(NED)、TurboFP635(FAM))各0.5μL、20X TaqMan(登録商標)Assay(GAPDH)(Life Technologies Japan)1.0μLおよび先に調製したcDNA 4μLを混合し調製した。この反応液をリアルタイムPCR装置(QuantStudio 3,Life Technologies Japan)で50℃2分間、95℃20秒間反応させた後、95℃1秒間、60℃20秒間を40サイクル実施した。
リアルタイムPCRで使用したプライマーおよびTaqManプローブを表11および12に示している。
遺伝子発現量の算出は、ΔΔCt法により相対値として算出した。ここで、発現率はMock Transfectionを100%として算出しており、発現率から発現抑制率(=100-発現率)を算出した。
siRNA-010、siRNA-029、siRNA-049の結果をそれぞれ図14~16に示している。
(表11)
(表12)
【0076】
図14~16の結果より、各siRNAのIC50はXLFitを使用する4パラメーターフィットモデルを用いて、表13のように算出した。野生型FUSに対するIC50とP525L点変異FUSに対するIC50との比較から、siRNA-010、siRNA-029、siRNA-049は、野生型FUSよりもP525L点変異FUSを高い選択性で抑制するsiRNAであることが示唆される。
(表13)
【実施例11】
【0077】
リアルタイムPCRによる経時的なFUS遺伝子の発現抑制効果の確認
「TurboGFP融合FUS野生型およびTurboFP635融合FUSP525L共発現HEK293細胞株を用いたRNA干渉の評価」に示した方法に従いsiRNA(10nM)のトランスフェクションを行った。トランスフェクション12、24、48および72時間後に培地を完全に取り除き、測定実施まで凍結保存(-80℃以下)した。
各凍結保存サンプルを「リアルタイムPCRによる濃度依存的なFUS遺伝子の発現抑制効果の確認」に示した方法に従い遺伝子発現量の解析を行った。リアルタイムPCRで使用したプライマーおよびTaqManプローブを表11および12に示している。
遺伝子発現量の算出は、ΔΔCt法により相対値として算出した。ここで、発現率はネガティブコントロールsiRNAにおける発現量を100%として算出しており、発現率から発現抑制率(=100-発現率)を算出した。
siRNA-010、siRNA-029、siRNA-049の結果をそれぞれ図17~19に示している。
【0078】
図17~19の結果より、トランスフェクション後のいずれの時間においてもsiRNA-010、siRNA-029、siRNA-049は野生型FUSよりもP525L点変異FUSを高い選択性で抑制するsiRNAであることが示唆される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
【配列表】
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