(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】冷間圧延焼鈍され、焼戻された鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240820BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20240820BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20240820BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20240820BHJP
C21D 9/46 20060101ALN20240820BHJP
【FI】
C22C38/00 302A
C22C38/38
C21D1/18 C
C21D9/00 A
C21D9/46 P
(21)【出願番号】P 2022575970
(86)(22)【出願日】2021-07-12
(86)【国際出願番号】 IB2021056244
(87)【国際公開番号】W WO2022018568
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2020/057004
(32)【優先日】2020-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペルラド,アストリッド
(72)【発明者】
【氏名】ジュウ,カンイン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン,コラリ
(72)【発明者】
【氏名】ストルツ,ミケール
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/182596(WO,A1)
【文献】特開平05-230530(JP,A)
【文献】特表2021-507994(JP,A)
【文献】国際公開第2019/122961(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/105003(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/183349(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/068757(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0140971(US,A1)
【文献】国際公開第2019/004662(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0032721(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/38
C21D 1/18
C21D 9/00
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間圧延焼鈍され、焼戻された鋼板であって、1000MPa以上の降伏強度YS及び
質量パーセントで:
C:0.03~0.18%
Mn:6.0~11.0%
Mo:0.05~0.5%
B:0.0005~0.005%
S≦0.010%
P≦0.020%
N≦0.008%
を含む組成を有する鋼で作製され、任意選択的に、以下の元素のうちの1つ以上を
質量百分率で含み:
Al<3%
Si≦1.20%
Ti≦0.050%
Nb≦0.050%
Cr≦0.5%
V≦0.2%
組成の残りが、鉄及び製錬から生じる不可避不純物であり、
前記鋼板が、表面分率で、
-0%~30%のフェライトであって、1.0μm未満の粒径を有するようなフェライト、
-3%~30%の残留オーステナイト、
-40~95%の焼戻しマルテンサイト
-5%未満のフレッシュマルテンサイト、
-比率([C]
A
2×[Mn]
A)/(C%
2×Mn%)が7.80を下回り、C%及びMn%が、
質量%での炭素及びマンガンの公称値であるような、
質量パーセントで表される、オーステナイト中の炭素[C]
A及びマンガン[Mn]
A含有量
を含む微細構造を有する、冷間圧延焼鈍され、焼戻された鋼板。
【請求項2】
炭素含有量が、0.05%~0.15%である、請求項1に記載の鋼板。
【請求項3】
マンガン含有量が、6.0%~9%である、請求項1又は2に記載の鋼板。
【請求項4】
アルミニウム含有量が、0.2%~2.2%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項5】
微細構造が、5%~25%のフェライト、10%~25%の残留オーステナイト及び50%~85%の焼戻しマルテンサイトを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項6】
微細構造が、フェライトを含まず、5%~15%の残留オーステナイト及び85%~95%の焼戻しマルテンサイトを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項7】
引張強度が、1450MPa以上であり、一様伸びUEが、6.5%以上であり、全伸びTEが、9%以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項8】
TS及びTEが、以下の式:TS×TE>13700MPa.%を満たす、請求項1~7のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項9】
LME指数が、0.36を下回る、
ここで、LME指数は、LME指数=C%+Si%/4、に従って計算され、式中、C%及びSi%は、それぞれ鋼中の炭素及びケイ素の質量百分率を表す、請求項1~8のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項10】
鋼が0.4%未満の炭素当量Ceqを有し、前記炭素当量が、
Ceq=C%+Si%/55+Cr%/20+Mn%/19-Al%/18+2.2P%-3.24B%-0.133
×Mn%
×Mo%
として規定され、元素が
質量パーセントで表される、請求項1~9のいずれか一項に記載の鋼板。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の冷間圧延焼鈍され、焼戻された鋼板で作製された2つの鋼部品の抵抗スポット溶接部であって、前記抵抗スポット溶接部が、少なくとも30daN/mm
2のα値を
有し、ここで、α値は、溶接点の直径と基材の厚さとの積に対する交差引張強度の値の比である、抵抗スポット溶接部。
【請求項12】
プレス硬化焼戻し鋼部品であって、その組成及び微細構造が、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成及び微細構造である、プレス硬化焼戻し鋼部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な溶接性を有する高強度鋼板及びそのような鋼板を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用車体構造部材の部品及び車体パネルなどの様々な品目を製造するために、DP(デュアルフェーズ)鋼又はTRIP(変態誘起塑性)鋼で作製された薄板を使用することが知られている。
【0003】
自動車産業における主要な課題のうちの1つは、安全要件を無視することなく、地球環境保全の観点から車両の燃費を改善するために車両の重量を減少させることである。これらの要件を満たすために、降伏強度及び引張強度が改善され、延性及び成形性が良好な鋼板を有する新しい高強度鋼が製鋼産業によって継続的に開発されている。
【0004】
機械的特性を改善するために行われた開発のうちの1つは、鋼中のマンガン含有量を増加させることである。マンガンの存在は、オーステナイトの安定化のおかげで鋼の延性を増加させるのに役立つ。しかし、これらの鋼は、脆性の弱さを呈する。この問題を克服するために、ホウ素としての元素が添加される。これらのホウ素添加化学作用は、熱間圧延段階では非常に強靭であるが、ホットバンドは、硬すぎてさらに加工することができない。ホットバンドを軟化させる最も効率的な方法は、バッチ焼鈍であるが、それは、靭性の損失につながる。
【0005】
これらの機械的要件に加えて、そのような鋼板は、液体金属脆化(LME)に対する良好な耐性を示さなければならない。亜鉛又は亜鉛合金コーティングされた鋼板は、耐食性に非常に効果的であり、したがって自動車産業において広く使用されている。しかしながら、特定の鋼のアーク溶接又は抵抗溶接が、液体金属脆化(「LME」)又は液体金属助長割れ(「LMAC」)と呼ばれる現象に起因する特定の割れの発生を引き起こす可能性があることを経験してきている。この現象は、拘束、熱膨張又は相変態から生じる印加応力又は内部応力下で、下にある鋼基材の粒界に沿った液体Znの浸透を特徴とする。炭素又はケイ素のような元素の添加は、LME耐性に有害であることが知られている。
【0006】
自動車産業は通常、以下の式:
LME指数=C%+Si%/4
に従って計算されるいわゆるLME指数の上限値を制限することによって、そのような抵抗性を評価し、式中、C%及びS%iはそれぞれ、鋼中の炭素及びケイ素の公称重量百分率を表す。
【0007】
刊行物WO2020011638は、炭素含有量が低減された中及び中間マンガン(3.5~12%の間のMn)冷間圧延鋼を提供するための方法に関する。2つの工程経路が記載されている。第1のものは、冷間圧延鋼板の単一の変態区間焼鈍に関するものである。第2のものは、冷間圧延鋼板の二重焼鈍に関するものであり、第1のものは、完全オーステナイトであり、第2のものは、変態区間である。焼鈍温度の選定のおかげで、引張強度及び伸びの良好な妥協点が得られる。焼鈍温度を下げることにより、オーステナイトの富化が得られ、これは良好な破断厚さ歪み値を含意する。しかし、本発明で使用される炭素及びマンガンの量が少ないと、鋼板の引張強度が980MPa以下の値に制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明の目的は、上述の問題を解決し、1000MPa以上の降伏強度、1450MPa以上の引張強度TS、6.5%以上の一様伸びUE及び9%以上の全伸びTEを有する高い機械的特性の組み合わせを有する鋼板を提供することである。
【0010】
好ましくは、本発明による鋼板は、TS×TE>13700MPa.%を満たす。
【0011】
好ましくは、本発明による鋼板は、0.36未満のLME指数を有する。
【0012】
好ましくは、本発明による鋼板は、0.4%未満の炭素当量Ceqを有し、炭素当量は、
Ceq=C%+Si%/55+Cr%/20+Mn%/19-Al%/18+2.2P%-3.24B%-0.133*Mn%*Mo%
として規定され、元素は重量パーセントで表される。
【0013】
好ましくは、本発明による鋼板の2つの鋼部品の抵抗スポット溶接部は、少なくとも30daN/mm2のα値を有する。
【0014】
本発明の目的は、請求項1に記載の鋼板を提供することによって達成される。鋼板はまた、単独で又は組み合わせて、請求項2~10の特徴のいずれかを含むことができる。
【0015】
本発明の別の目的は、請求項11に記載の2つの鋼部品の抵抗スポット溶接である。
【0016】
本発明の別の目的は、請求項12に記載のプレス硬化焼戻し鋼部品である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】試験4及び試験28の熱間圧延熱処理鋼板の断面を表す図である。
【
図2】試験4及び試験28について、マンガン量の関数として3つのマップの累積面積分率を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明を、制限を導入することなく、詳細に説明し、実施例によって説明する。
【0019】
本発明によれば、満足のいく強度及び良好な溶接性を確保するために、炭素含有量は、0.03%~0.18%である。炭素が0.18%を上回ると、鋼板の溶接性及びLMEに対する耐性が低下する場合がある。均熱の温度は、炭素含有量に依存する:炭素含有量が高いほど、オーステナイトを安定化するための均熱温度は低くなる。炭素含有量が0.03%未満である場合、焼戻しマルテンサイトの強度は、1450MPaを上回るUTSを得るのに十分ではない。本発明の好ましい実施形態では、炭素含有量は、0.05%~0.15%である。本発明の別の好ましい実施形態では、炭素含有量は、0.08~0.12%である。
【0020】
マンガン含有量は、6.0%~11.0%である。添加量が11.0%を上回ると、鋼板の溶接性が低下し、部品組立の生産性が低下する可能性がある。さらに、中心偏析のリスクは、機械的特性を損なうほど増加する。均熱の温度は、マンガン含有量にも依存するので、均熱後に目標とする微細構造及び強度を得るために、オーステナイトを安定化するためにマンガンの最小値が規定される。好ましくは、マンガン含有量は、6.0%~9%である。
【0021】
本発明によれば、鋳造中のマンガン偏析を減少させるために、アルミニウム含有量は、3%を下回る。アルミニウムは、精錬化中に液相で鋼を脱酸するのに非常に効果的な元素である。添加量が3%を上回ると、鋼板の溶接性が低下し、鋳造性が低下する場合がある。さらに、1450MPaを上回る引張強度を達成することは困難である。さらに、アルミニウム含有量が高いほど、オーステナイトを安定化するための均熱温度が高くなる。アルミニウムは、好ましくは、変態区間を拡大することによって製品の堅牢性を改善し、溶接性を改善するために、少なくとも0.2%まで添加される。さらに、介在物及び酸化の問題の発生を回避するためにアルミニウムを添加することができる。本発明の好ましい実施形態では、アルミニウム含有量は、0.2%~2.2%である。
【0022】
モリブデン含有量は、鋳造中のマンガン偏析を減少させるために0.05%~0.5%である。さらに、モリブデンの少なくとも0.05%の添加は、脆性に対する耐性を提供する。0.5%を上回ると、モリブデンの添加は、コストがかかり、必要とされる特性を考慮すると効果的ではない。本発明の好ましい実施形態では、モリブデン含有量は、0.15%~0.35%である。
【0023】
本発明によれば、ホウ素含有量は、熱間圧延鋼板の靭性及び冷間圧延鋼板のスポット溶接性を改善するために0.0005%~0.005%である。0.005%を上回ると、旧オーステナイト粒界でのホウ炭化物の形成が促進され、鋼がより脆くなる。本発明の好ましい実施形態では、ホウ素含有量は、0.001%~0.003%である。
【0024】
任意選択的に、いくつかの元素を本発明による鋼の組成に添加することができる。
【0025】
ケイ素含有量の最大添加は、LME耐性を改善するために1.20%に制限される。加えて、この低いケイ素含有量は、ホットバンド焼鈍の前に熱間圧延鋼板を酸洗するステップを排除することによって工程を単純化することを可能にする。好ましくは、添加される最大ケイ素含有量は、0.5%である。
【0026】
析出強化を提供するために、チタンを0.050%まで添加することができる。好ましくは、BNの形成からホウ素を保護するために、ホウ素に加えて最低0.010%のチタンが添加される。
【0027】
ニオブは、任意選択的に、熱間圧延中にオーステナイト粒を精製し、析出強化を提供するために0.050%まで添加することができる。好ましくは、添加されるニオブの最小量は、0.010%である。
【0028】
任意選択的に、クロム及びバナジウムをそれぞれ0.5%及び0.2%まで添加して、強度を改善させることができる。
【0029】
鋼の残りの組成は、鉄及び製錬に起因する不純物である。この点において、P、S及びNは、少なくとも不可避不純物である残留元素とみなされる。それらの含有量は、Sについては0.010%以下、Pについては0.020%以下、Nについては0.008%以下である。
【0030】
次に、本発明による鋼板の微細構造について説明する。それは、表面分率で:
-0%~30%のフェライトであって、1.0μm未満の粒径を有するそのようなフェライト、
-3%~30%の残留オーステナイト、
-40~95%の焼戻しマルテンサイト
-5%未満のフレッシュマルテンサイト、
-比率([C]A
2×[Mn]A)/(C%2×Mn%)が7.80を下回り、C%及びMn%が、重量%での炭素及びマンガンの公称値であるような、重量パーセントで表される、オーステナイト中の炭素[C]A及びマンガン[Mn]A含有量
を含有する。
【0031】
本発明による鋼板の微細構造は、3%~30%の残留オーステナイトを含有する。オーステナイトが3%を下回る又は30%を上回ると、一様伸びUE及び全伸びTEは、6.5%及び9%のそれぞれの最小値に達することができない。
【0032】
そのようなオーステナイトは、熱間圧延鋼板の変態区間焼鈍中に形成されるが、冷間圧延鋼板の焼鈍中にも形成される。熱間圧延鋼板の変態区間焼鈍中に、公称値より高いマンガン含有量を含有する領域及び公称値より低いマンガン含有量を含有する領域が形成され、マンガンの不均質な分布が生じる。したがって、炭素は、マンガンと共偏析する。このマンガン不均質性は、
図2に示し後述するように、-30以上でなければならない熱間圧延鋼板のマンガン分布の勾配のおかげで測定される。
【0033】
重量パーセントで表されるオーステナイト中の炭素[C]A及びマンガン[Mn]A含有量は、比率([C]A
2×[Mn]A)/(C%2×Mn%)が7.80を下回り、C%及びMn%が、重量%での炭素及びマンガンの公称値であるようなものである。比率が7.80を上回る場合、残留オーステナイトは、変形中に十分なTRIP-TWIP効果を提供するには安定しすぎる。そのようなTWIP-TRIP効果は、「Observation-of-the-TWIP-TRIP-Plasticity-Enhancement-Mechanism-in-Al-Added-6-Wt-Pct-Medium-Mn-Steel」DOI:10.1007/s11661-015-2854-z、The Minerals,Metals&Materials Society and ASM International 2015、p.2356、46A巻、2015年6月(S.LEE,K.LEE,及びB.C.DE COOMAN)で特に説明されている。
【0034】
本発明による鋼板の微細構造は、0~30%のフェライトを含有し、そのようなフェライトは、1.0μmを下回る粒径を有する。そのようなフェライトは、冷間圧延鋼板のAc1~Ac3の温度で行われる場合、冷間圧延鋼板の焼鈍中に形成することができる。冷間圧延鋼板の焼鈍が冷間圧延鋼板のAc3を上回って行われる場合、フェライトは存在しない。好ましくは、フェライト含有量は、0%~25%に含まれる。
【0035】
本発明による鋼板の微細構造は、40~95%の焼戻しマルテンサイトを含有する。そのようなマルテンサイトは、熱間圧延鋼板の変態区間焼鈍後の冷却時に、公称値よりも炭素及びマルテンサイトが少ないオーステナイトの一部の変態によって形成することができる。しかし、それは主に冷間圧延鋼板の焼鈍後の冷却時に形成され、次いで冷間圧延鋼板の焼戻し中に焼戻しされる。
【0036】
フレッシュマルテンサイトは、5%までの表面分率で存在することができるが、本発明による鋼板の微細構造において望ましい相ではない。それは、不安定なオーステナイトの変態によって、室温までの最終冷却ステップ中に形成される可能性がある。実際、炭素及びマンガン含有量が低いこの不安定なオーステナイトは、20℃を上回るマルテンサイト開始温度Msをもたらす。最終的な機械的特性を得るために、フレッシュマルテンサイトは、最大5%に制限され、好ましくは2%未満、又はさらに良好には0%まで低減される。
【0037】
焼戻しマルテンサイトは、研磨及びそれ自体知られた試薬、例えば、Nital試薬でエッチングされた断面で、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察されるか、又は研磨された断面で、電子後方散乱回折(EBSD)によって分析されることで、フレッシュマルテンサイトと区別することができる。焼戻しマルテンサイトは、フレッシュマルテンサイトよりも低い転位密度を有する。
【0038】
対照的に、焼戻しステップ後の炭素富化オーステナイトのマルテンサイトへの変態から生じるフレッシュマルテンサイトは、鋼の公称炭素含有量よりも高いC含有量及び焼戻しマルテンサイトよりも高い転位密度を有する。
【0039】
第1の実施形態では、微細構造は、5%~25%のフェライト、10%~25%の残留オーステナイト及び50%~85%の焼戻しマルテンサイトを含む。
【0040】
別の実施形態では、微細構造は、フェライトを含まず、5%~15%の残留オーステナイト及び85%~95%の焼戻しマルテンサイトを含む。
【0041】
本発明による鋼板は、1000MPa以上の降伏強度YS、1450MPa以上の引張強度TS、6.5%以上の一様伸びUE及び9%以上の全伸びTEを有する。
【0042】
好ましくは、冷間圧延焼鈍鋼板は、0.36を下回るLME指数を有する。
【0043】
好ましくは、鋼板は、溶接性を改善するために、0.4%未満の炭素当量Ceqを有する。炭素当量は、Ceq=C%+Si%/55+Cr%/20+Mn%/19-Al%/18+2.2P%-3.24B%-0.133*Mn%*Mo%として規定され、元素は重量パーセントで表される。
【0044】
溶接組立体は、本発明による鋼板から2つの部品を生成し、次いで2つの鋼部品の抵抗スポット溶接を実行することによって製造することができる。
【0045】
第1の薄板を第2の薄板に接合する抵抗スポット溶接部は、少なくとも30daN/mm2のα値によって規定される交差引張試験における高い抵抗を特徴とする。
【0046】
本発明による鋼板は、任意の適切な製造方法によって生成することができ、当業者は、それを規定することができる。しかしながら、以下のステップを含む本発明による方法を使用することが好ましい:
【0047】
さらに熱間圧延することができる半製品には、上述の鋼組成が提供される。半製品は、熱間圧延を容易にすることができるように、1150℃~1300℃の温度に加熱され、最終熱間圧延温度FRTは、800℃~1000℃である。好ましくは、FRTは、850℃~950℃の間に含まれる。
【0048】
次いで、熱間圧延鋼は、冷却され、20℃~650℃、好ましくは300℃~500℃の温度Tcoilで巻き取られる。
【0049】
次いで、熱間圧延鋼板を室温まで冷却し、酸洗することができる。
【0050】
次いで、熱間圧延鋼板は、Ac1とAc3との間の焼鈍温度THBAに焼鈍される。より正確には、THBAは、析出した炭化物の面積分率を0.8%を下回って最小化し、マンガンの不均質な再分配を促進するように選定される。このマンガン不均質性は、-30以上でなければならない熱間圧延鋼板のマンガン分布の勾配のおかげで測定される。好ましくは、温度THBAは、Ac1+5℃~Ac3に含まれる。より好ましくは、温度THBAは、580℃~680℃である。
【0051】
鋼板は、マンガン拡散及び不均質なマンガン分布の形成を促進するために、0.1~120時間の保持時間tHBAの間、前記温度THBAに維持される。さらに、熱間圧延鋼板のこの熱処理は、熱間圧延鋼板の靭性を維持しながら硬度を低下させることを可能にする。
【0052】
次いで、熱間圧延熱処理鋼板を室温に冷却し、酸洗して酸化を除去することができる。
【0053】
次いで、熱間圧延熱処理鋼板は、20%~80%の圧下率で冷間圧延される。
【0054】
次いで、冷間圧延鋼板を、T1~(Ac3+50xC%/0.1)の温度Tsoakで10秒~3600秒の保持時間tsoakの間、焼鈍に供し、T1は、表面分率で30%のフェライトが均熱の終わりに形成される温度であり、Ac3は、冷間圧延鋼板のダイアメトリーによって決定され、C%は、炭素の公称濃度を指す。Tsoakがこの限界より高い場合、室温で十分なオーステナイトを安定化させることができない。好ましくは、Tsoakは、720~860℃、より好ましくは720℃~820℃であり、時間tsoakは、100~1000秒である。そのような焼鈍は、連続焼鈍により実行することができる。
【0055】
次いで、冷間圧延焼鈍鋼板を、80℃を下回るまで、好ましくは50℃を下回るまで、少なくとも0.1℃/s、好ましくは少なくとも1℃/秒の平均冷却速度で焼入れする。均熱の終わりに存在するオーステナイトの一部は、フレッシュマルテンサイトになる。
【0056】
焼入れ後、次いで、鋼板を(Ttemper+273)×(13+log ttemper)が、6000~8700、好ましくは7000~8200であるような保持時間ttemperの間、温度Ttemperで焼戻しステップに供する。好ましくは、Ttemperは、300℃を下回り、ttemperは、100~1800秒である。
【0057】
この焼戻しステップの終わりに、フレッシュマルテンサイトが焼戻しマルテンサイトに変態する。
【0058】
次いで、冷間圧延焼鈍され、焼戻された鋼板を室温まで冷却する。次いで、それは、亜鉛若しくは亜鉛系合金又はアルミニウム若しくはアルミニウム系合金の溶融めっきコーティング、電着又は真空コーティングを含む任意の好適な方法によってコーティングすることができる。
【0059】
別の実施形態では、上述の方法は、熱間圧延鋼板の焼鈍後又は冷間圧延後又はコーティング後に停止することができ、対応する鋼板をブランクに切断することができ、次いで、ブランクは、プレス硬化によって部品を製造するために使用される。コーティングが溶融めっきコーティングによって行われる場合、それは、通常、薄板の表面をホットメルト浴に浸漬する直前に焼鈍を実行して調製することが好ましい。
【0060】
そのようなプレス硬化作業は、冷間圧延鋼板について上述した焼鈍と同様に、鋼ブランクがオーブン内でT1~(Ac3+50xC%/0.1)になる温度まで加熱されるオーステナイト化ステップからなる。好ましくは、このオーステナイト化温度は、720~860℃、より好ましくは720℃~820℃であり、オーステナイト化時間は、30~1000秒である。次いで、加熱されたブランクは、ホットスタンプが行われるホットスタンピングダイに移される。
【0061】
次いで、部品は、焼入れ操作によって硬化が行われている間、ダイ内に維持される。焼入れは、Ms温度に達するまで少なくとも0.1C/sの冷却速度に達するように実行される。この焼入れ中に、部品は、冷間圧延焼鈍鋼板の対象となるものと同じ微細構造を獲得する。
【0062】
次いで、鋼部品は、(Ttemper+273)×(13+log ttemper)が、6000~8700、好ましくは7000~8200であるような保持時間ttemperの間、温度Ttemperで部品を加熱することを必要とする焼戻し操作に供される。好ましくは、Ttemperは、300℃を下回り、ttemperは、10~1800秒である。次いで、部品は、冷間圧延焼鈍され、焼戻された鋼板の対象となるものと同じ微細構造を獲得する。
【0063】
そのような焼戻しは、塗料を硬化させるために行われる焼付硬化工程中に、鋼部品が塗装されるときに有利に実行することができる。
【0064】
本発明を以下の実施例によって説明するが、これらは決して限定的なものではない。
【実施例】
【0065】
表1に組成をまとめた7つのグレードを半製品に鋳造し、鋼板に加工した。
【0066】
表1-組成
テストした組成を以下の表にまとめ、元素含有量を重量パーセントで表す。
【0067】
【0068】
冷間圧延板のAc1、Ac3及びMs温度は、ダイアメトラル試験及び金属組織分析によって決定されている。
【0069】
表2-熱間圧延熱処理鋼板の工程パラメータ
鋳造されたままの鋼半製品を1200℃で再加熱し、熱間圧延し、次いで巻き取った。次いで、熱間圧延熱処理鋼板を温度THBAで熱処理し、保持時間tHBAの間、前記温度に維持される。熱間圧延熱処理鋼板を得るための以下の特定の条件を適用した:
【0070】
【0071】
熱間圧延熱処理鋼板を分析し、対応する特性を表3にまとめる。
【0072】
表3-熱間圧延熱処理鋼板の微細構造及び特性
マンガン分布の勾配及び析出した炭化物の割合を決定した。
【0073】
析出した炭化物の割合は、電界放出電子銃を備えた走査型電子顕微鏡(「FEG-SEM」)及び15000倍を超える倍率での画像分析によって検査された薄板の断面のおかげで決定される。
【0074】
図1は、試験4及び試験28の熱間圧延熱処理鋼板の断面を表す。黒色領域は、マンガン量が少ない領域に対応し、灰色領域は、マンガン量が多い領域に対応する。
【0075】
この図は、以下の方法によって得られる:試験片を熱間圧延熱処理鋼板から厚さ1/4で切断し、研磨する。
【0076】
その後、マンガン量を決定するために10000倍を超える倍率で電界放出電子銃(「FEG」)を備えた電子プローブマイクロアナライザによって断面を特性評価する。断面の異なる部分の10μm×10μmの3つのマップを取得した。これらのマップは、0.01μm2の画素で構成されている。重量パーセントでのマンガン量を各ピクセルで計算し、次いで、マンガン量の関数として3つのマップの累積面積分率を表す曲線上にプロットする。
【0077】
この曲線は、試験4及び試験28について
図2にプロットされており、薄板断面の100%が1%を超えるマンガンを含有する。試験4では、薄板断面の20%が9%を超えるマンガンを含有する。
【0078】
次いで、得られた曲線の勾配が、累積面積分率の80%を表す点と累積面積分率の20%を表す点との間で計算される。
【0079】
試験28では、熱間圧延後の熱処理がないことは、マンガンの再分配が十分に不均質ではないことを含意し、これは-30未満のマンガン分布の勾配の値によって見ることができる。
【0080】
対照的に、試験4では、マンガンの再分配は、明らかに不均質であり、これは-30を超えるマンガン分布の勾配の値によって証明される。
【0081】
【0082】
熱間圧延鋼板の熱処理は、マンガンがオーステナイト中に拡散することを可能にする:マンガンの再分配は、低マンガン含有量の領域及び高マンガン含有量の領域で不均質である。このマンガン不均質性は、機械的特性を達成するのに役立ち、マンガンプロファイルのおかげで測定することができる。
【0083】
表4-冷間圧延焼鈍され、焼戻された鋼板の工程パラメータ
次いで、得られた熱間圧延熱処理鋼板を冷間圧延する。次いで、冷間圧延鋼板は、2℃/sの冷却速度で80℃を下回って、好ましくは50℃を下回って焼入れされる前に、温度Tsoakで最初の焼鈍をされ、保持時間tsoakの間、前記温度に維持される。次いで、鋼板は、室温に冷却される前に、温度Ttemperで2回目の加熱をされ、保持時間ttemperの間、前記温度に維持される。冷間圧延焼鈍鋼板を得るための以下の特定の条件を適用した:
【0084】
【0085】
次いで、冷間圧延焼鈍された板を分析し、対応する微細構造要素、機械的特性及び溶接性特性をそれぞれ表5、6及び7にまとめた。
【0086】
表5-冷間圧延焼鈍され、焼戻された鋼板の微細構造
得られた冷間圧延焼戻し鋼板の微細構造の相百分率を決定した。
【0087】
[C]A及び[Mn]Aは、重量パーセントでのオーステナイト中の炭素及びマンガンの量に対応する。それらは、X線回折(C%)及び電界放出電子銃を備えた電子プローブマイクロアナライザ(Mn%)の両方で測定される。
【0088】
微細構造中の相の表面分率は、以下の方法によって決定される:試験片を冷間圧延焼鈍鋼板から切断し、研磨し、それ自体が知られた試薬でエッチングして、微細構造を明らかにする。その後、断面は、走査型電子顕微鏡、例えば電界放出電子銃を備えた走査型電子顕微鏡(「FEG-SEM」)を用いて、二次電子モードで5000倍を超える倍率で検査される。
【0089】
フェライトの表面分率の決定は、Nital又はPicral/Nital試薬エッチング後のSEM観察のおかげで実行される。
【0090】
残留オーステナイトの体積分率の測定は、X線回折のおかげで実行される。
【0091】
【0092】
表6-冷間圧延焼鈍され、焼戻された鋼板の機械的特性
得られた冷間圧延焼鈍され、焼戻された鋼板の機械的特性を決定し、以下の表にまとめた。
【0093】
降伏強度YS、引張強度TS、並びに一様伸びUE及び全伸びTEは、2009年10月に発行されたISO規格ISO6892-1に従って測定される。
【0094】
【0095】
試験1は、いかなる焼戻し処理にも供さなかった。その微細構造は、焼戻しされていないままの5%を超えるフレッシュマルテンサイトを含有し、低い全伸び値をもたらす。
【0096】
試験13を、均熱温度が(Ac3+50xC%/0.1)を超える焼鈍に供した。これは、残留オーステナイトへの炭素の高すぎる値を誘発し、目標外の一様伸び及び全伸びをもたらす。
【0097】
試験16及び24を、(Ttemper+273)×(13+log ttemper)の値が最大値を超える焼戻しステップに供した。これは、残留オーステナイトへの炭素の高すぎる値を誘発し、目標外の一様伸び及び全伸びをもたらす。
【0098】
試験25を、変態区間ドメインになく、その組成が本発明と比較してマンガンが低すぎるホットバンド焼鈍に供した。対応する焼鈍されたホットバンドは、過剰な炭化物を含有し、マンガンは、不均質に分布しなかった。この結果、残留オーステナイトの含有量が目標を下回り、一様伸び及び全伸びが低下する。フェライト粒子のサイズも範囲外であり、これは目標をはるかに下回る引張強度を誘発する。
【0099】
試験26~28は、表1によって証明されるように、組成に関して本発明の範囲外のグレードを使用して行った。特に、それらのマンガン含有量は、6.0重量%を下回り、それらの炭素含有量は、0.18%を上回る。それらはまた、表2及び表3によって証明されるように、ホットバンド焼鈍パラメータに関しても本発明の範囲外であり、これはマンガンが本発明によって要求されるように不均質に分布しておらず、炭化物析出が非常に高いことを示している。これにより、残留オーステナイトの含有量が目標をはるかに下回り、一様伸び及び全伸びが目標を下回ることを誘発する。
【0100】
表7-冷間圧延焼鈍され、焼戻された鋼板の溶接性特性
ISO規格18278-2条件のスポット溶接を、冷間圧延焼鈍され、焼戻された鋼板に対して行った。
【0101】
使用されるテストでは、サンプルは、2枚の鋼板で構成され、同等の交差溶接の形態である。溶接点を破断するように力を加える。この力は、交差引張強度(CTS)として知られており、daNで表される。それは、溶接点の直径及び金属の厚さ、すなわち鋼及び金属コーティングの厚さに依存する。それにより、溶接点の直径と基材の厚さとの積に対するCTSの値の比である係数αを計算することが可能になる。この係数は、daN/mm2で表される。
【0102】
冷間圧延焼鈍焼戻しの溶接性特性を決定し、以下の表にまとめた。
【0103】