(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-19
(45)【発行日】2024-08-27
(54)【発明の名称】抗FCイプシロン-R1アルファ(FCER1A)抗体、FCER1AおよびCD3に結合する二重特異性抗原結合分子、ならびにそれらの使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20240820BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240820BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240820BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240820BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240820BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20240820BHJP
C07K 16/46 20060101ALN20240820BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K16/28
C07K16/46
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023172194
(22)【出願日】2023-10-03
(62)【分割の表示】P 2021510030の分割
【原出願日】2019-08-22
【審査請求日】2023-10-03
(32)【優先日】2018-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ジェイミー エム. オレンゴ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ リムナンダー
(72)【発明者】
【氏名】ジ エイチ. キム
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー ジェイ. マーフィー
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/180913(WO,A2)
【文献】国際公開第2018/067331(WO,A1)
【文献】特表2008-515780(JP,A)
【文献】THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,2010年,Vol.285, No.27,pp.20850-20859
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/13
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
C07K 16/28
C07K 16/46
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の核酸分子と第2の核酸分子とを含む組成物であって、
前記第1の核酸分子が、ヒトFcεR1αに特異的に結合する抗体の重鎖可変領域(HCVR)をコードする核酸配列を含み、前記HCVRが、配列番号2、10及び18からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、
前記第2の核酸分子が、ヒトFcεR1αに特異的に結合する抗体の軽鎖可変領域(LCVR)をコードする核酸配列を含み、前記LCVRが、配列番号26のアミノ酸配列を含む、組成物。
【請求項2】
前記HCVRが、配列番号2のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記第1の核酸分子が、配列番号1のヌクレオチド配列、又は、配列番号1のヌクレオチド配列と少なくとも95%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記HCVRが、配列番号10のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記第1の核酸分子が、配列番号9のヌクレオチド配列、又は、配列番号9のヌクレオチド配列と少なくとも95%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記HCVRが、配列番号18のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記第1の核酸分子が、配列番号17のヌクレオチド配列、又は、配列番号17のヌクレオチド配列と少なくとも95%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記第2の核酸分子が、配列番号25のヌクレオチド配列、又は、配列番号25のヌクレオチド配列と少なくとも95%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
第3の核酸分子をさらに含み、
前記第3の核酸分子が、ヒトCD3に特異的に結合する抗体のHCVRをコードする核酸配列を含み、前記HCVRが、配列番号42のアミノ酸配列を含む、請求項1~8のいずれ一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記第3の核酸分子が、配列番号41のヌクレオチド配列、又は、配列番号41のヌクレオチド配列と少なくとも95%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
第4の核酸分子をさらに含み、
前記第4の核酸分子が、配列番号25のヌクレオチド配列、又は、配列番号25のヌクレオチド配列と少なくとも95%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む、、請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物を含む、単離された宿主細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2018年8月23日に出願された米国仮特許出願第62/721,921号に関し、その優先権を主張する。前述の出願の内容全体は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0002】
配列表の参照
本出願では、ファイル10480WO01_118003-45320_SL.txt(2019年8月21日に作成、67,307バイトを含む)としての配列表が、コンピュータ可読形態で提出され、参照により組み込まれる。
【0003】
本発明は、FcεR1αに特異的な抗体およびその抗原結合断片、ならびにそれらの使用方法に関する。本発明はまた、FcεR1αおよびCD3に結合する二重特異性抗原結合分子、ならびにそれらの使用方法に関する。
【背景技術】
【0004】
FcεR1は、免疫グロブリンE(IgE)に対する高親和性Fc受容体であり、FcεR1は、約10-10Mの平衡解離定数(KD)値でIgEに結合する。アレルゲン結合IgEによるFcεR1受容体の架橋は、細胞脱顆粒およびその後のアレルギー応答をもたらし、IgEの血清レベルは、FcεR1と正に相関する。
【0005】
ヒトFcεR1は、マスト細胞、好塩基球、単球、マクロファージ、mDC、pDC、ランゲルハンス細胞、好酸球、および血小板で発現する。マスト細胞および好塩基球は、IgE受容体FcεR1αのアレルゲン媒介架橋を介したアレルギーおよびアナフィラキシーに役割を果たす自然エフェクター細胞である。他の役割としては、創傷治癒および粘膜免疫が含まれる。
【0006】
ヒト多量体細胞表面FcεR1受容体には、四量体形態と三量体形態の2種類がある。四量体ヒトFcεR1は、α鎖、β鎖、およびホモ二量体のγ鎖(αβγ2)を含み、三量体ヒトFcεR1は、α鎖およびホモ二量体のγ鎖(αγ2)を含む。FcεR1のα鎖は、単一のIgE抗体分子に結合するが、リガンド結合におけるβ鎖およびγ鎖の役割は報告されていない。
【0007】
ヒトFcεR1は、ヒトおよびマウスの両方のIgEに結合し、インターロイキン-4(IL-4)は、ヒトにおけるα鎖の発現を増強する。対照的に、マウスFcεR1は、四量体αβγ2アイソフォームのみを有し、マスト細胞および好塩基球で発現している。IL-4は、マウスFcεR1のα鎖の発現を増強しない。
【0008】
CD3は、T細胞受容体複合体(TCR)と共にT細胞上に発現されるホモ二量体またはヘテロ二量体抗原であり、T細胞活性化に必要とされる。機能的CD3は、4つの異なる鎖:イプシロン、ゼータ、デルタ、およびガンマのうちの2つの二量体会合から形成される。CD3の二量体配置は、ガンマ/イプシロン、デルタ/イプシロン、およびゼータ/ゼータを含む。CD3に対する抗体はT細胞上でCD3をクラスター化し、それによってペプチド負荷MHC分子によるTCRの関与と同様の様式でT細胞活性化を引き起こすことが示されている。したがって、抗CD3抗体はT細胞の活性化を含む治療目的のために提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
FcεR1αを標的化する抗原結合分子、ならびにFcεR1αおよびCD3の両方に結合する二重特異性抗原結合分子は、FcεR1αを発現する細胞を特異的に標的化し、T細胞媒介的に死滅させることが望まれる治療設定において有用であり得る。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の概要
第1の態様では、本発明は、ヒトFcεR1αに結合する抗体およびその抗原結合断片を提供する。この態様による抗体は、とりわけ、FcεR1αを発現する細胞を標的化するために有用である。本発明はまた、ヒトFcεR1αおよびヒトCD3に結合する二重特異性抗体およびその抗原結合断片も提供する。この態様による二重特異性抗体は、とりわけ、CD3を発現するT細胞を標的化するため、およびT細胞活性化を刺激するために、例えば、FcεR1αを発現する細胞のT細胞媒介性の死滅が有益または望ましい状況下で有用である。例えば、二重特異性抗体は、マスト細胞または好塩基球などの特定のFcεR1α発現細胞に、CD3媒介性のT細胞活性化を導くことができる。
【0011】
本発明の例示的な抗FcεR1α抗体を、本明細書の表1および2に列挙する。表1は、例示的な抗FcεR1α抗体の重鎖可変領域(HCVR)および軽鎖可変領域(LCVR)、ならびに重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)、軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)、重鎖(HC)、および軽鎖(LC)のアミノ酸配列識別子を示す。表2は、例示的な抗FcεR1α抗体のHCVR、LCVR、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、LCDR3、HC、およびLCをコードする核酸分子の配列識別子を示す。
【0012】
本発明は、抗体、またはその抗原結合断片を提供し、表1に列挙されるHCVRアミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列を含むHCVR、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0013】
本発明はまた、抗体、またはその抗原結合断片を提供し、表1に列挙されるLCVRアミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列を含むLCVR、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0014】
本発明はまた、表1に列挙されるLCVRアミノ酸配列のいずれかと対をなす表1に列挙されるHCVRアミノ酸配列のいずれかを含む、HCVRおよびLCVRのアミノ酸配列対(HCVR/LCVR)を含む、抗体またはその抗原結合断片を提供する。特定の実施形態によると、本発明は、表1に列挙される例示的な抗FcεR1α抗体のいずれかに含まれるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、抗体またはその抗原結合断片を提供する。特定の実施形態では、HCVR/LCVRアミノ酸配列対は、配列番号2/26、10/26、または18/26(例えば、mAb17110、mAb17111、またはmAb17112)のものである。
【0015】
本発明はまた、抗体、またはその抗原結合断片を提供し、表1に列挙されるHCDR1アミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1(HCDR1)、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0016】
本発明はまた、抗体、またはその抗原結合断片を提供し、抗体またはその抗原結合断片は、表1に列挙されるHCDR2アミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2(HCDR2)、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0017】
本発明はまた、抗体、またはその抗原結合断片を提供し、抗体またはその抗原結合断片は、表1に列挙されるHCDR3アミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3(HCDR3)、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0018】
本発明はまた、抗体、またはその抗原結合断片を提供し、表1に列挙されるLCDR1アミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1(LCDR1)は、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0019】
本発明はまた、抗体、またはその抗原結合断片を提供し、表1に列挙されるLCDR2アミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2(LCDR2)、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0020】
本発明はまた、抗体、またはその抗原結合断片を提供し、表1に列挙されるLCDR3アミノ酸配列のいずれかから選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3(LCDR3)、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0021】
本発明はまた、表1に列挙されるLCDR3アミノ酸配列のいずれかと対をなす表1に列挙されるHCDR3アミノ酸配列のいずれかを含む、HCDR3およびLCDR3アミノ酸配列対(HCDR3/LCDR3)を含む、抗体またはその抗原結合断片を提供する。特定の実施形態によると、本発明は、表1に列挙される例示的な抗FcεR1α抗体のいずれかに含まれるHCDR3/LCDR3アミノ酸配列対を含む、抗体またはその抗原結合断片を提供する。特定の実施形態では、HCDR3/LCDR3アミノ酸配列対は、配列番号8/32、16/32、または24/32(例えば、mAb17110、mAb17111、またはmAb17112)のものである。
【0022】
本発明はまた、表1に列挙される例示的な抗FcεR1α抗体のいずれかに含まれる6つのCDR(すなわち、HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3)のセットを含む、抗体またはその抗原結合断片を提供する。特定の実施形態では、HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3アミノ酸配列セットは、配列番号4-6-8-28-30-32、12-14-16-28-30-32、または20-22-24-28-30-32(例えば、mAb17110、mAb17111、またはmAb17112)からなる群から選択される。
【0023】
関連する実施形態では、本発明は、抗体またはその抗原結合断片を提供し、表1に列挙される例示的な抗FcεR1α抗体のいずれかによって定義されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対に含まれる6つのCDR(すなわち、HCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3)のセットを含む。例えば、本発明は、抗体またはその抗原結合断片を含み、配列番号2/26、10/26、または18/26(例えば、mAb17110、mAb17111、またはmAb17112)のHCVR/LCVRアミノ酸配列対に含まれるHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3アミノ酸配列セットを含む。HCVRおよびLCVRアミノ酸配列内のCDRを特定するための方法および技術は、当技術分野で既知であり、本明細書に開示される特定のHCVRおよび/またはLCVRアミノ酸配列内のCDRを特定するために使用することができる。CDRの境界を特定するために使用することができる例示的規則には、例えば、Kabat定義、Chothia定義、およびAbM定義が含まれる。概して、Kabat定義は、配列可変性に基づき、Chothia定義は、構造ループ領域の位置に基づき、AbM定義は、KabatアプローチとChothiaアプローチとの間の折衷である。例えば、Kabat,“Sequences of Proteins of Immunological Interest,”National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991)、Al-Lazikani et al.,J.Mol.Biol.273:927-948(1997)、およびMartin et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:9268-9272(1989)を参照されたい。公開データベースは、抗体内のCDR配列を特定するためにも利用可能である。
【0024】
本発明はまた、抗FcεR1α抗体またはその一部をコードする核酸分子も提供する。例えば、本発明は、表1に列挙されるHCVRアミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し、特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されるHCVR核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0025】
本発明はまた、表1に列挙されるLCVRアミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し、特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されるLCVR核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0026】
本発明はまた、表1に列挙されるHCDR1アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し、特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されるHCDR1核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0027】
本発明はまた、表1に列挙されるHCDR2アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し、特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されるHCDR2核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0028】
本発明はまた、表1に列挙されるHCDR3アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し、特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されるHCDR3核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0029】
本発明はまた、表1に列挙されるLCDR1アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し、特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されるLCDR1核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0030】
本発明はまた、表1に列挙されるLCDR2アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し、特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されるLCDR2核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0031】
本発明はまた、表1に列挙されるLCDR3アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し、特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されるLCDR3核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0032】
本発明はまた、HCVRをコードする核酸分子を提供し、HCVRは、3つのCDRのセット(すなわち、HCDR1-HCDR2-HCDR3)を含み、HCDR1-HCDR2-HCDR3アミノ酸配列セットは、表1に列挙される例示的な抗FcεR1α抗体のいずれかによって定義される通りである。
【0033】
本発明はまた、LCVRをコードする核酸分子を提供し、LCVRは、3つのCDRのセット(すなわち、LCDR1-LCDR2-LCDR3)を含み、LCDR1-LCDR2-LCDR3アミノ酸配列セットは、表1に列挙される例示的な抗FcεR1α抗体のいずれかによって定義される通りである。
【0034】
本発明はまた、HCVRおよびLCVRの両方をコードする核酸分子を提供し、HCVRは、表1に列挙されるHCVRアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列を含み、LCVRは表1に列挙されるLCVRアミノ酸配列のいずれかのアミノ酸配列を含む。特定の実施形態では、核酸分子は、表2に列挙されるHCVR核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列、および表2に列挙されるLCVR核酸配列のいずれかから選択されるポリヌクレオチド配列、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。本発明のこの態様による特定の実施形態では、核酸分子は、HCVRおよびLCVRをコードし、HCVRおよびLCVRは共に、表1に列挙される同じ抗FcεR1α抗体に由来する。
【0035】
本発明はまた、抗FcεR1α抗体の重鎖または軽鎖可変領域を含むポリペプチドを発現することができる組み換え発現ベクターを提供する。例えば、本発明は、上述の核酸分子のいずれか、すなわち、表1に記載のHCVR配列、LCVR配列、および/またはCDR配列のいずれかをコードする核酸分子を含む組換え発現ベクターを含む。また、かかるベクターが導入された宿主細胞、ならびに抗体または抗体断片の産生を可能にする条件下で、宿主細胞を培養し、そのように産生された抗体および抗体断片を回収することによって、抗体またはその一部を産生する方法も含まれる。
【0036】
本発明は、修飾グリコシル化パターンを有する抗FcεR1α抗体を含む。一部の実施形態では、望ましくないグリコシル化部位を除去するための修飾、または、例えば、抗体依存性細胞傷害(ADCC)機能を増大させるためのオリゴ糖鎖上に存在するフルクトース部分を欠失している抗体が有用であり得る(Shield et al.(2002)JBC 277:26733を参照)。他の用途において、ガラクトシル化の修飾は、補体依存性細胞傷害作用(CDC)を修飾するために行うことができる。
【0037】
別の態様では、本発明は、FcεR1αに特異的に結合する組換えヒト抗体またはその断片と、薬学的に許容される担体と、を含む、薬学的組成物を提供する。関連する態様では、本発明は、抗FcεR1α抗体と、第2の治療剤との組み合わせである組成物を特徴とする。一実施形態では、第2の治療剤は、抗FcεR1α抗体と有利に組み合わされる任意の薬剤である。本発明の抗FcεR1α抗体を伴う追加の併用療法および共製剤は、本明細書の他箇所に開示される。
【0038】
別の態様では、本発明は、本発明の抗FcεR1α抗体を使用して、FcεR1α発現細胞(例えば、マスト細胞または好塩基球)を標的化/死滅するための治療方法を提供し、これらの治療方法は、本発明の抗FcεR1α抗体を含む治療有効量の薬学的組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む。場合によっては、抗FcεR1α抗体(またはその抗原結合断片)は、アレルギーを治療するために使用され得るか、または、限定されないが、ADCCを増大させるための修飾Fcドメイン(例えば、Shield et al.(2002)JBC 277:26733を参照)、放射免疫療法、抗体薬物複合体、またはFcεR1α発現細胞の死滅の効率を増大させるための他の方法を含む方法によってより細胞傷害性であるように修飾され得る。
【0039】
本発明はまた、FcεR1α発現細胞に関連するかまたはそれに起因する疾患または障害(例えば、アレルギー)の治療のための薬剤の製造における、本発明の抗FcεR1α抗体の使用を含む。
【0040】
さらに別の態様では、本発明は、例えば、イメージング試薬などの診断用途のための単一特異性抗FcεR1α抗体を提供する。
【0041】
さらに別の態様では、本発明は、本発明の抗CD3抗体または抗体の抗原結合部分を使用して、T細胞活性化を刺激するための治療方法を提供し、これらの治療方法は、本発明の抗体を含む治療有効量の薬学的組成物を投与することを含む。
【0042】
別の態様では、本発明は、単離された抗体またはその抗原結合断片を提供し、25℃での表面プラズモン共鳴アッセイで測定した場合、約250nM未満の結合解離平衡定数(KD)で、ヒトFcεR1αに結合するか、またはカニクイザル(Macaca fascicularis)FcεR1αに結合する。さらに別の態様では、本発明は、単離された抗体またはその抗原結合断片を提供し、25℃での表面プラズモン共鳴アッセイで測定した場合、約0.54分超の解離半減期(t1/2)でヒトFcεR1αに結合するか、または約0.6分超の解離半減期(t1/2)でカニクイザルFcεR1αに結合する。
【0043】
本発明はさらに、抗体または抗原結合断片を提供し、ヒトFcεR1αへの結合に対して、表1に記載のHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む参照抗体と競合する。別の態様では、本発明は、抗体または抗原結合断片を提供し、ヒトFcεR1αへの結合に対して、配列番号2/26、10/26、および18/26からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む参照抗体と競合する。
【0044】
本発明はさらに、抗体または抗原結合断片を提供し、抗体またはその抗原結合断片は、表1に記載のHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む参照抗体として、ヒトFcεR1α上の同じエピトープに結合する。別の態様では、抗体または抗原結合断片は、配列番号2/26、10/26、および18/26からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む参照抗体として、ヒトFcεR1α上の同じエピトープに結合する。
【0045】
本発明はさらに、ヒトFcεR1αに結合する単離された抗体またはその抗原結合断片を提供し、抗体または抗原結合断片は、表1に記載のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(HCVR)の相補性決定領域(CDR)と、表1に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)のCDRと、を含む。別の態様では、単離された抗体または抗原結合断片は、2/26、10/26、および18/26からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対の重鎖および軽鎖CDRを含む。さらに別の態様では、単離された抗体または抗原結合断片は、それぞれ、配列番号4-6-8-28-30-32、12-14-16-28-30-32、および20-22-24-28-30-32からなる群から選択されるHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3ドメインを含む。
【0046】
別の態様では、本発明は、ヒトFcεR1αに結合する単離された抗体またはその抗原結合断片を提供し、抗体または抗原結合断片は、(a)配列番号2、10、および18からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(HCVR)と、(b)アミノ酸配列番号26を有する軽鎖可変領域(LCVR)と、を含む。さらなる態様では、単離された抗体または抗原結合断片は、配列番号2/26、10/26、および18/26からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む。
【0047】
別の態様によると、本発明は、FcεR1αおよびCD3に結合する二重特異性抗原結合分子(例えば、抗体)を提供する。本明細書において、かかる二重特異性抗原結合分子はまた、「抗FcεR1α/抗CD3二重特異性分子」、「抗CD3/抗FcεR1α二重特異性分子」、「抗FcεR1α×CD3」、「抗CD3×FcεR1α」、または「FcεR1α×CD3 bsAb」とも呼ばれる。抗FcεR1α/抗CD3二重特異性分子の抗FcεR1α部分は、FcεR1α(例えば、マスト細胞または好塩基球)を発現する細胞を標的化するのに有用であり、二重特異性分子の抗CD3部分は、T細胞を活性化するのに有用である。マスト細胞または好塩基球上のFcεR1αおよびT細胞上のCD3の同時結合は、活性化T細胞によって標的マスト細胞または標的好塩基球の特異的死滅(directed killing)(細胞溶解)を促進する。したがって、本発明の抗FcεR1α/抗CD3二重特異性分子は、とりわけ、FcεR1α発現細胞に関連または起因する疾患および障害(例えば、アレルギー)を治療するために有用である。
【0048】
本発明のこの態様による二重特異性抗原結合分子は、ヒトCD3に特異的に結合する第1の抗原結合ドメイン、およびFcεR1αに特異的に結合する第2の抗原結合ドメインを含む。本発明は、各抗原結合ドメインが、軽鎖可変領域(LCVR)と対をなす重鎖可変領域(HCVR)を含む、抗FcεR1α/抗CD3二重特異性分子(例えば、二重特異性抗体)を含む。本発明の特定の例示的な実施形態では、抗CD3抗原結合ドメインおよび抗FcεR1α抗原結合ドメインの各々が、共通のLCVRと対をなす異なる別個のHCVRを含む。例えば、本明細書の実施例1に例証されるように、CD3に特異的に結合する第1の抗原結合ドメインを含む二重特異性抗体を構築し、第1の抗原結合ドメインは、それぞれ抗CD3抗体に由来するHCVRおよびLCVRと、FcεR1αに特異的に結合する第2の抗原結合ドメインとを含み、第2の抗原結合ドメインは、同じLCVRと対をなす抗FcεR1α抗体に由来するHCVRを含む。かかる実施形態では、第1および第2の抗原結合ドメインは、別個の抗CD3および抗FcεR1αのHCVRを含むが、共通のLCVRを共有する。このLCVRのアミノ酸配列は、例えば、配列番号26に示され、対応するCDRのアミノ酸配列(すなわち、LCDR1-LCDR2-LCDR3)は、配列番号28、30および32にそれぞれ示される。遺伝子改変マウスを使用して、2つの異なるヒト軽鎖可変領域遺伝子セグメントのうちの1つに由来する可変ドメインを含む同一の軽鎖と会合する2つの異なる重鎖を含む、完全ヒト型二重特異性抗原結合分子を産生することできる。あるいは、可変重鎖を1つの共通の軽鎖と対合させ、宿主細胞で組換え発現することができる。このため、本発明の抗体は、単一の再編成された軽鎖と会合する免疫グロブリン重鎖を含むことができる。一部の実施形態では、軽鎖は、ヒトVκ1-39遺伝子セグメントまたはVκ3-20遺伝子セグメントに由来する可変ドメインを含む。他の実施形態では、軽鎖は、ヒトJκ5またはヒトJκ1の遺伝子セグメントと再編成されたヒトVκ1-39遺伝子セグメントに由来する可変ドメインを含む(WO2017/053856、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0049】
本発明は、抗CD3/抗FcεR1α二重特異性分子を提供し、CD3に特異的に結合する第1の抗原結合ドメインは、2014年3月27日に公開された米国公開第2014/0088295号および2018年4月12日に公開されたWO2018/067331に記載されているように、HCVRアミノ酸配列のいずれか、LCVRアミノ酸配列のいずれか、HCVR/LCVRアミノ酸対のいずれか、重鎖CDR1-CDR2-CDR3アミノ酸配列のいずれか、または軽鎖CDR1-CDR2-CDR3アミノ酸配列のいずれかを含む。
【0050】
加えて、本発明は、抗CD3/抗FcεR1α二重特異性分子を提供し、CD3に特異的に結合する第1の抗原結合ドメインは、本明細書の表3に記載されるHCVRアミノ酸配列のいずれかを含む。また、CD3に特異的に結合する第1の抗原結合ドメインは、本明細書の表1および3に記載されるLCVRアミノ酸配列のいずれかを含んでもよい。また、本発明は、抗CD3/抗FcεR1α二重特異性分子を提供し、CD3に特異的に結合する第1の抗原結合ドメインは、本明細書の表3に記載される重鎖CDR1-CDR2-CDR3アミノ酸配列のいずれか、および/または本明細書の表1、および表3に記載される軽鎖CDR1-CDR2-CDR3アミノ酸配列のいずれかを含む。
【0051】
特定の実施形態によると、本発明は、抗CD3/抗FcεR1α二重特異性分子を提供し、CD3に特異的に結合する第1の抗原結合ドメインは、本明細書の表1に記載されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(HCVR)、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0052】
本発明はまた、抗CD3/抗FcεR1α二重特異性分子を提供し、CD3に特異的に結合する第1の抗原結合ドメインは、本明細書の表1および3に記載されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0053】
本発明は、抗CD3/抗FcεR1α二重特異性分子を提供し、CD3に特異的に結合する第1の抗原結合ドメインは、本明細書の表3に記載されるHCVRおよびLCVR(HCVR/LCVR)アミノ酸配列対を含む。
【0054】
本発明はまた、抗CD3/抗FcεR1α二重特異性分子を提供し、CD3に特異的に結合する第1の抗原結合ドメインは、本明細書の表3に記載されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR3(HCDR3)ドメイン、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列と、本明細書の表1および3に記載されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR3(LCDR3)ドメイン、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列と、を含む。
【0055】
特定の実施形態では、CD3に特異的に結合する第1の抗原結合ドメインは、本明細書の表3に記載されるHCDR3/LCDR3アミノ酸配列対を含む。
【0056】
本発明はまた、抗CD3/抗FcεR1α二重特異性抗原結合分子を提供し、CD3に特異的に結合する第1の抗原結合ドメインは、本明細書の表3に記載されるアミノ酸を有する重鎖CDR1(HCDR1)ドメイン、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列と、表3に記載されるアミノ酸を有する重鎖CDR2(HCDR2)ドメイン、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列と、表3に記載されるアミノ酸を有する重鎖CDR3(HCDR3)ドメイン、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列と、本明細書の表1および3に記載されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1(LCDR1)ドメイン、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列と、本明細書の表1および3に記載されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR2(LCDR2)ドメイン、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列と、本明細書の表1および3に記載されるアミノ酸配列を有する軽鎖CDR3(LCDR3)ドメイン、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列と、を含む。
【0057】
特定の非限定的で例示的な抗CD3/抗FcεR1α二重特異性抗原結合分子は、CD3に特異的に結合する第1の抗原結合ドメインを含み、それぞれ、本明細書の表3に記載されるアミノ酸配列を有するHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3ドメインを含む。
【0058】
本発明はさらに、二重特異性抗原結合分子を提供し、ヒトCD3に特異的に結合する第1の抗原結合ドメインは、表3に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)からの重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)と、表1および3に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)からの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)と、を含む。
【0059】
別の態様では、本発明は、二重特異性抗原結合分子を提供し、ヒトCD3に特異的に結合する第1の抗原結合ドメインは、配列番号42のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)からの重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)と、配列番号26のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)からの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)と、を含む。
【0060】
本発明はさらに、二重特異性抗原結合分子を提供し、ヒトCD3に特異的に結合する第1の抗原結合ドメインは、配列番号44-46-48-28-30-32のアミノ酸配列を含むHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3を含む。
【0061】
さらなる態様では、本発明は、二重特異性抗原結合分子を提供し、ヒトCD3に特異的に結合する第1の抗原結合ドメインは、配列番号42/26のHCVR/LCVRアミノ酸配列対の重鎖および軽鎖CDRを含む。
【0062】
より多くの実施形態では、本発明の例示的な抗CD3/抗FcεR1α二重特異性抗原結合分子は、二重特異性抗原結合分子を含み、第1の抗原結合ドメインは、ヒトCD3に特異的に結合し、配列番号44-46-48のアミノ酸配列を有するHCDR1-HCDR2-HCDR3を含むHCVRを含む。
【0063】
本発明はまた、抗CD3/抗FcεR1α二重特異性分子を提供し、FcεR1αに特異的に結合する第2の抗原結合ドメインは、配列番号2、10、および18からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(HCVR)、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0064】
本発明はまた、抗CD3/抗FcεR1α二重特異性分子を提供し、FcεR1αに特異的に結合する第2の抗原結合ドメインは、配列番号26のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列を含む。
【0065】
本発明はまた、抗CD3/抗FcεR1α二重特異性分子を提供し、FcεR1αに特異的に結合する第2の抗原結合ドメインは、配列番号2/26、10/26、および18/26からなる群から選択されるHCVRおよびLCVR(HCVR/LCVR)アミノ酸配列対を含む。
【0066】
本発明はまた、抗CD3/抗FcεR1α二重特異性分子を提供し、FcεR1αに特異的に結合する第2の抗原結合ドメインは、配列番号8、16、および24からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR3(HCDR3)ドメイン、またはそれと少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似の配列と、配列番号32のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR3(LCDR3)ドメイン、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列と、を含む。
【0067】
特定の実施形態では、FcεR1αに特異的に結合する第2の抗原結合ドメインは、配列番号8/32、16/32、および24/32からなる群から選択されるHCDR3/LCDR3アミノ酸配列対を含む。
【0068】
本発明はまた、抗CD3/抗FcεR1α二重特異性抗原結合分子を提供し、FcεR1αに特異的に結合する第2の抗原結合ドメインは、配列番号4、12、および20からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR1(HCDR1)、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列と、配列番号6、14、および22からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR2(HCDR2)ドメイン、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列と、配列番号8、16、および24からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖CDR3(HCDR3)ドメイン、または少なくとも
90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列と、配列番号28のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR1(LCDR1)ドメイン、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列と、配列番号30のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR2(LCDR2)ドメイン、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列と、配列番号32のアミノ酸配列を有する軽鎖CDR3(LCDR3)ドメイン、または少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似の配列と、を含む。
【0069】
本発明の特定の非限定的で例示的な抗CD3/抗FcεR1α二重特異性抗原結合分子は、それぞれ、配列番号4-6-8-28-30-32、12-14-16-28-30-32、および20-22-24-28-30-32からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3ドメインを含む、FcεR1αに特異的に結合する第2の抗原結合ドメインを含む。
【0070】
関連する実施形態では、本発明は、抗CD3/抗FcεR1α二重特異性抗原結合分子を含み、FcεR1αに特異的に結合する第2の抗原結合ドメインは、配列番号2/26、10/26、および18/26からなる群から選択される重鎖および軽鎖可変領域(HCVR/LCVR)配列に含まれる重鎖および軽鎖CDRドメインを含む。
【0071】
別の態様では、本発明は、二重特異性抗原結合分子を提供し、(a)それぞれ配列番号44、46、および48のアミノ酸配列を含む3つの重鎖相補性決定領域HCDR1、HCDR2、およびHCDR3と、それぞれ配列番号28、30、および32のアミノ酸配列を含む3つの軽鎖相補性決定領域LCDR1、LCDR2、およびLCDR3と、を含む第1の抗原結合ドメインであって、ヒトCD3に特異的に結合する、第1の抗原結合ドメイン、ならびに(b)3つの重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)と、3つの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)と、を含む第2の抗原結合ドメインであって、HCDR1が、配列番号4、12、および20からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、HCDR2が、配列番号6、14、および22からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、HCDR3が、配列番号8、16、および24からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、LCDR1が、配列番号28のアミノ酸配列を含み、LCDR2が、配列番号30のアミノ酸配列を含み、LCDR3が、配列番号32のアミノ酸配列を含み、第2の抗原結合アームがヒトFcεR1αに特異的に結合する、第2の抗原結合ドメイン、を含む。
【0072】
別の態様では、本発明は、ヒトCD3に結合する第1の抗原結合ドメインと、ヒトFcεR1αに結合する第2の抗原結合ドメインとを含む二重特異性抗原結合分子を提供し、第2の抗原結合ドメインは、本発明の抗FcεR1α抗体のいずれか1つの抗体または抗原結合断片に由来する。さらなる態様では、本発明は、二重特異性抗原結合分子を提供し、ヒトCD3に特異的に結合する第1の抗原結合ドメインと、ヒトFcεR1αに特異的に結合する第2の抗原結合ドメインと、を含む。
【0073】
本発明は、ヒトCD3を発現するヒト細胞に結合する二重特異性抗原結合分子をさらに提供する。別の態様では、二重特異性抗原結合分子は、ヒトFcεR1αを発現するヒト細胞および/またはカニクイザルFcεR1αを発現する細胞に結合する。
【0074】
別の態様では、本発明は、ヒトFcεR1αを発現する対象(例えば、マウス)においてアレルギー反応を阻害する二重特異性抗原結合分子を提供する。本発明はさらに、ヒトFcεR1αを発現する対象(例えば、マウス)において好塩基球または他のFcεR1α発現細胞を枯渇させる二重特異性抗原結合分子を提供する。
【0075】
別の態様では、本発明は、第2の抗原結合分子を含む二重特異性抗原結合分子を提供し、IgEの存在下または不在下、200を超える結合比でヒトFcεR1αを発現する標的細胞に特異的に結合するか、またはIgEの存在下、140を超える結合比でカニクイザルFcεR1αに結合し、かかる結合比は、インビトロFACS結合アッセイにおいて測定される。
【0076】
一部の実施形態では、抗原結合分子は、例えば、FcεR1α発現細胞が好塩基球であるインビトロT細胞媒介性細胞死滅アッセイにおいて測定されるように、約20nM未満のEC50値でFcεR1α発現のT細胞媒介性死滅を誘発する。
【0077】
一部の用途では、第2の抗原結合ドメインは、25℃でのインビトロ表面プラズモン共鳴結合アッセイで測定した場合、約467nM未満のKD値で、ヒトまたはカニクイザルFcεR1αに結合する。一部の事例では、第2の抗原結合ドメインは、約450nM未満、約400nM未満、約350nM未満、約300nM未満、約250nM未満、約200nM未満、約150nM未満、約100nM未満、または約50nM未満のKD値で、ヒトFcεR1αおよびカニクイザルFcεR1αの各々に結合する。
【0078】
特定の実施形態では、本発明の抗FcεR1α抗体、その抗原結合断片、およびその二重特異性抗体は、生殖系列配列と親抗体配列との間の差に基づいて、親のアミノ酸残基を段階的に置換することによって作製された。
【0079】
別の態様では、本発明は、ヒトFcεR1αへの結合に対して競合する、または参照抗体としてヒトFcεR1α上の同じエピトープに結合する、単離された二重特異性抗原結合分子を提供し、参照抗体は、配列番号42/26のアミノ酸配列を含むHCVR/LCVR対を含む第1の抗原結合ドメインと、配列番号2/26、10/26または18/26のアミノ酸配列を含むHCVR/LCVR対を含む第2の抗原結合ドメインと、を含む。
【0080】
別の態様では、本発明は、ヒトCD3への結合に対して競合する、または参照抗体としてヒトCD3上の同じエピトープに結合する、単離された二重特異性抗原結合分子を提供し、参照抗体は、配列番号42/26のアミノ酸配列を含むHCVR/LCVR対を含む第1の抗原結合ドメインと、配列番号2/26、10/26、または18/26のアミノ酸配列を含むHCVR/LCVR対を含む第2の抗原結合ドメインと、を含む。
【0081】
上記または本明細書で論じられる二重特異性抗原結合分子のいずれも、二重特異性抗体であり得る。一部の実施形態では、二重特異性抗体は、ヒトIgG重鎖定常領域を含む。一実施形態では、ヒトIgG重鎖定常領域は、アイソタイプIgG1である。一実施形態では、ヒトIgG重鎖定常領域は、アイソタイプIgG4である。様々な実施形態において、二重特異性抗体は、同じアイソタイプの野生型ヒンジと比較して、Fcγ受容体結合を減少させるキメラヒンジを含む。
【0082】
本発明はまた、重鎖(HC)および軽鎖(LC)アミノ酸配列対(HC/LC)を含む抗体、またはその抗原結合断片を提供し、表1に列挙されるLCアミノ酸配列と対をなす表1に列挙されるHCアミノ酸配列のいずれかを含む。特定の実施形態によると、本発明は、表1に列挙される例示的な抗FcεR1α抗体のいずれかに含まれるHC/LCアミノ酸配列対を含む、抗体またはその抗原結合断片を提供する。特定の実施形態では、HC/LCアミノ酸配列対は、配列番号34/40、36/40、および38/40からなる群から選択される。
【0083】
本発明はまた、二重特異性抗体またはその抗原結合断片を提供し、表7に列挙されるHCアミノ酸配列またはLCアミノ酸配列のいずれかを含む、第1の重鎖、第2の重鎖、および共通の軽鎖を含む。特定の実施形態では、二重特異性抗体は、配列番号56のアミノ酸配列を含む第1のHCと、配列番号50、52、および54からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む第2のHCと、配列番号40のアミノ酸配列を含む共通の軽鎖と、を含む。
【0084】
一態様では、本発明は、抗FcεR1α抗原結合分子または抗FcεR1α/抗CD3二重特異性抗原結合分子と、薬学的に許容される担体または希釈剤と、を含む、薬学的組成物を提供する。本発明は、対象におけるFcεR1α関連疾患、アレルギーまたはIgE関連疾患を治療するための方法をさらに提供し、対象に、抗FcεR1α抗原結合分子または抗FcεR1α/抗CD3二重特異性抗原結合分子と薬学的に許容される担体または希釈剤とを含む薬学的組成物を投与することを含む。一部の実施形態では、アレルギーまたは他のIgE関連疾患は、アレルギー性喘息、アレルギー性鼻炎、花粉症、アナフィラキシー、アトピー性皮膚炎、慢性蕁麻疹、食物アレルギー、通年性アレルギー、薬物アレルギー、および花粉アレルギーからなる群から選択される。一実施形態では、アレルギーは、重度のアレルギーである。場合によっては、アレルギーは、アナフィラキシーをもたらす。特定の実施形態では、FcεR1α関連疾患は、重度のアレルギー、マスト細胞活性化障害またはマスト細胞症を含む。特定の実施形態では、アレルギーを治療するための方法は、本明細書の他箇所に記載されるように、特定の用量で抗FcεR1α抗原結合分子または抗FcεR1α/抗CD3二重特異性抗原結合分子を含む医薬組成物を対象に投与することを含む。
【0085】
別の態様では、本発明は、本明細書に開示される抗FcεR1αおよび抗CD3/抗FcεR1α二重特異性抗原結合分子のHCVR、LCVR、またはCDR配列のいずれかをコードする核酸分子を提供し、本明細書の表2および4に記載されるポリヌクレオチド配列を含む核酸分子、ならびに表2および4に記載されるポリヌクレオチド配列のうちの2つ以上をその任意の機能的組み合わせまたは配置で含む核酸分子を含む。本発明の核酸を保有する組み換え発現ベクター、およびかかるベクターが導入された宿主細胞もまた、抗体の産生を可能にする条件下で宿主細胞を培養することによって、および産生された抗体を回収することによって、抗体を産生する方法と同様に本発明に含まれる。
【0086】
本発明は、表7に列挙される重鎖アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供する。本発明はまた、表7に列挙される軽鎖アミノ酸配列のいずれかをコードする核酸分子を提供する。
【0087】
本発明は、抗CD3/抗FcεR1α二重特異性抗原結合分子を含み、CD3に特異的に結合する前述の抗原結合ドメインのうちのいずれかが、FcεR1αに特異的に結合する前述の抗原結合ドメインのいずれかと組み合わされ、連結され、または他の方法で関連付けられて、CD3およびFcεR1αに結合する二重特異性抗原結合分子を形成する。
【0088】
本発明は、修飾グリコシル化パターンを有する抗CD3/抗FcεR1α二重特異性抗原結合分子を含む。一部の用途では、望ましくないグリコシル化部位を除去するための修飾が有用であり、または、例えば、抗体依存性細胞傷害(ADCC)機能を増大させるためのオリゴ糖鎖上に存在するフルクトース部分を欠失している抗体が有用であり得る(Shield et al.(2002)JBC 277:26733を参照)。他の用途において、ガラクトシル化の修飾は、補体依存性細胞傷害作用(CDC)を修飾するために行うことができる。
【0089】
別の態様では、本発明は、薬学的組成物を提供し、本明細書に開示される抗CD3/抗FcεR1α二重特異性抗原結合分子と、薬学的に許容される担体と、を含む。関連する態様では、本発明は、抗CD3/抗FcεR1α二重特異性抗原結合分子と第2の治療剤との組み合わせである組成物を特徴とする。一実施形態では、第2の治療剤は、抗CD3/抗FcεR1α二重特異性抗原結合分子と有利に組み合わされる任意の薬剤である。抗CD3/抗FcεR1α二重特異性抗原結合分子と有利に組み合わせることができる例示的な薬剤は、本明細書の他箇所で詳細に論じられている。
【0090】
さらに別の態様では、本発明は、本発明の抗CD3/抗FcεR1α二重特異性抗原結合分子を使用してFcεR1αを発現する細胞を標的化/死滅するための治療方法を提供し、これらの治療方法は、本発明の抗CD3/抗FcεR1α二重特異性抗原結合分子を含む治療有効量の薬学的組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む。抗体またはその断片は、皮下、静脈内、皮膚内、腹腔内、経口、または筋肉内に投与され得る。特定の実施形態では、本発明の抗体は、対象の約0.001mg/kg体重~約200mg/kg体重の用量で投与される。特定の実施形態では、本発明の抗体は、1mg~2500mgの抗体を含む用量で、それを必要とする対象に投与される。
【0091】
本発明はまた、FcεR1α発現細胞に関連または起因する疾患または障害の治療のための薬剤の製造における、本発明の抗CD3/抗FcεR1α二重特異性抗原結合分子の使用を含む。
【0092】
他の実施形態は、後述の詳細な説明の精査から明らかとなるであろう。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
25℃で、表面プラズモン共鳴アッセイで測定した場合、約470nM未満の結合解離平衡定数(KD)値で、ヒトFcεR1αに結合するか、またはカニクイザルFcεR1αに結合する、単離された抗体またはその抗原結合断片。
(項目2)
25℃で、表面プラズモン共鳴アッセイで測定した場合、約0.54分超の解離半減期(t1/2)でヒトFcεR1αに結合するか、または約0.6分超の解離半減期(t1/2)でカニクイザルFcεR1αに結合する、単離された抗体またはその抗原結合断片。
(項目3)
前記抗体またはその抗原結合断片が、表1に記載されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む参照抗体と、ヒトFcεR1αへの結合に対して競合する、項目1~2のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合断片。
(項目4)
前記参照抗体が、配列番号2/26、10/26、および18/26からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、項目3に記載の抗体または抗原結合断片。
(項目5)
前記抗体またはその抗原結合断片が、表1に記載されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む参照抗体と同じヒトFcεR1α上のエピトープに結合する、項目1~4のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合断片。
(項目6)
前記抗体またはその抗原結合断片が、配列番号2/26、10/26、および18/26からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む参照抗体と同じヒトFcεR1α上のエピトープに結合する、項目5に記載の抗体または抗原結合断片。
(項目7)
ヒトFcεR1αに結合する単離された抗体またはその抗原結合断片であって、前記抗体または抗原結合断片が、(a)表1に記載されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(HCVR)の相補性決定領域(CDR)と、(b)表1に記載されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)のCDRと、を含む、単離された抗体またはその抗原結合断片。
(項目8)
前記抗体または抗原結合断片が、配列番号2/26、10/26、および18/26からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対の重鎖および軽鎖CDRを含む、項目7に記載の単離された抗体または抗原結合断片。
(項目9)
前記抗体または抗原結合断片が、それぞれ配列番号4-6-8-28-30-32、12-14-16-28-30-32、および20-22-24-28-30-32からなる群から選択されるHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3ドメインを含む、項目8に記載の単離された抗体または抗原結合断片。
(項目10)
ヒトFcεR1αに結合する単離された抗体またはその抗原結合断片であって、前記抗体または抗原結合断片が、(a)配列番号2、10、および18からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(HCVR)と、(b)配列番号26のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)と、を含む、単離された抗体またはその抗原結合断片。
(項目11)
前記抗体または抗原結合断片が、配列番号2/26、10/26、および18/26からなる群から選択されるHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む、項目10に記載の単離された抗体または抗原結合断片。
(項目12)
ヒトCD3に結合する第1の抗原結合ドメインと、ヒトFcεR1αに結合する第2の抗原結合ドメインと、を含む、二重特異性抗原結合分子であって、前記第2の抗原結合ドメインが、項目1~11のいずれか一項に記載の抗体または抗原結合断片に由来する、二重特異性抗原結合分子。
(項目13)
ヒトCD3に特異的に結合する第1の抗原結合ドメインと、ヒトおよび/またはカニクイザルFcεR1αに結合する第2の抗原結合ドメインと、を含む、二重特異性抗原結合分子。
(項目14)
前記抗原結合分子が、ヒトCD3およびヒトFcεR1αの両方に結合し、約20nM未満のEC50値でFcεR1αを発現する細胞のT細胞媒介性細胞死滅を誘導する、項目12または項目13に記載の二重特異性抗原結合分子。
(項目15)
前記抗原結合分子が、ヒトFcεR1αを発現する対象におけるアレルギー反応を阻害する、項目12または項目13に記載の二重特異性抗原結合分子。
(項目16)
前記抗原結合分子が、約4.9nM未満のEC50値でCD3シグナル伝達を活性化する、項目12~15のいずれか一項に記載の二重特異性抗原結合分子。
(項目17)
前記第2の抗原結合ドメインが、25℃で、インビトロ表面プラズモン共鳴結合アッセイで測定した場合、約470nM未満のKD値で、特異的にヒトFcεR1αに結合するか、またはカニクイザルFcεR1αに結合する、項目12~16のいずれか一項に記載の二重特異性抗原結合分子。
(項目18)
前記第2の抗原結合ドメインが、25℃で、インビトロ表面プラズモン共鳴結合アッセイで測定した場合、約300nM未満、約200nM未満、約150nM未満、または約100nM未満のKD値で、ヒトFcεR1αに結合する、項目12~17のいずれか一項に記載の二重特異性抗原結合分子。
(項目19)
ヒトFcεR1αに特異的に結合する前記第2の抗原結合ドメインが、配列番号2、10、および18からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)からの重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)と、配列番号26のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)からの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)と、を含む、項目12~18のいずれか一項に記載の二重特異性抗原結合分子。
(項目20)
ヒトFcεR1αに結合する前記第2の抗原結合ドメインが、3つの重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)と、3つの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)と、を含み、HCDR1が、配列番号4、12、および20からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、HCDR2が、配列番号6、14、および22からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、HCDR3が、配列番号8、16、および24からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、LCDR1が、配列番号28のアミノ酸配列を含み、LCDR2が、配列番号30のアミノ酸配列を含み、LCDR3が、配列番号32のアミノ酸配列を含む、項目12~19のいずれか一項に記載の二重特異性抗原結合分子。
(項目21)
前記第2の抗原結合ドメインが、配列番号4-6-8-28-30-32、12-14-16-28-30-32、および20-22-24-28-30-32からなる群から選択されるHCDR1-HCDR2-HCDR3-LCDR1-LCDR2-LCDR3ドメインを含む、項目20に記載の二重特異性抗原結合分子。
(項目22)
ヒトFcεR1αに特異的に結合する前記第2の抗原結合ドメインが、配列番号2/26、10/26、および18/26からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むHCVR/LCVR対の重鎖および軽鎖CDRを含む、項目12~21のいずれか一項に記載の二重特異性抗原結合分子。
(項目23)
ヒトCD3に特異的に結合する前記第1の抗原結合ドメインが、配列番号42のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR)からの重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)と、配列番号26のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)からの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)と、を含む、項目12~22のいずれか一項に記載の二重特異性抗原結合分子。
(項目24)
ヒトCD3に特異的に結合する前記第1の抗原結合ドメインが、3つの重鎖相補性決定領域(HCDR1、HCDR2、およびHCDR3)と、3つの軽鎖相補性決定領域(LCDR1、LCDR2、およびLCDR3)と、を含み、HCDR1が、配列番号44のアミノ酸配列を含み、HCDR2が、配列番号46のアミノ酸配列を含み、HCDR3が、配列番号48のアミノ酸配列を含み、LCDR1が、配列番号28のアミノ酸配列を含み、LCDR2が、配列番号30のアミノ酸配列を含み、LCDR3が、配列番号32のアミノ酸配列を含む、項目12~23のいずれか一項に記載の二重特異性抗原結合分子。(項目25)
ヒトCD3に特異的に結合する前記第1の抗原結合ドメインが、配列番号42/26のHCVR/LCVRアミノ酸配列対の重鎖および軽鎖CDRを含む、項目12~24のいずれか一項に記載の二重特異性抗原結合分子。
(項目26)
単離された二重特異性抗原結合分子であって、(a)配列番号44、46、および48のアミノ酸配列をそれぞれ含むHCDR1、HCDR2、およびHCDR3ドメインと、配列番号28、30、および32のアミノ酸配列をそれぞれ含むLCDR1、LCDR2、およびLCDR3ドメインと、を含む、第1の抗原結合ドメイン、ならびに(b)配列番号4、6、および8のアミノ酸配列をそれぞれ含むHCDR1、HCDR2、およびHCDR3ドメインと、配列番号28、30、および32のアミノ酸配列をそれぞれ含むLCDR1、LCDR2、およびLCDR3ドメインと、を含む、第2の抗原結合ドメイン、を含む、単離された二重特異性抗原結合分子。
(項目27)
単離された二重特異性抗原結合分子であって、(a)配列番号44、46および48のアミノ酸配列をそれぞれ含むHCDR1、HCDR2およびHCDR3ドメインと、配列番号28、30および32のアミノ酸配列をそれぞれ含むLCDR1、LCDR2およびLCDR3ドメインと、を含む第1の抗原結合ドメインであって、ヒトCR3に結合する、第1の抗原結合ドメイン、ならびに(b)配列番号12、14および16のアミノ酸配列をそれぞれ含むHCDR1、HCDR2およびHCDR3ドメインと、配列番号28、30および32のアミノ酸配列をそれぞれ含むLCDR1、LCDR2およびLCDR3ドメインと、を含む第2の抗原結合ドメインであって、ヒトFcεR1αに結合する、第2の抗原結合ドメイン、を含む、単離された二重特異性抗原結合分子。
(項目28)
単離された二重特異性抗原結合分子であって、(a)配列番号44、46および48のアミノ酸配列をそれぞれ含むHCDR1、HCDR2およびHCDR3ドメインと、配列番号28、30および32のアミノ酸配列をそれぞれ含むLCDR1、LCDR2およびLCDR3ドメインと、を含む第1の抗原結合ドメインであって、ヒトCD3に結合する、第1の抗原結合ドメイン、ならびに(b)配列番号20、22および24のアミノ酸配列をそれぞれ含むHCDR1、HCDR2およびHCDR3ドメインと、配列番号28、30および32のアミノ酸配列をそれぞれ含むLCDR1、LCDR2およびLCDR3ドメインと、を含む第2の抗原結合ドメインであって、ヒトFcεR1αに結合する、第2の抗原結合ドメイン、を含む、単離された二重特異性抗原結合分子。
(項目29)
FcεR1αへの結合に対して競合する、または参照抗体と同じFcεR1α上のエピトープに結合する、単離された二重特異性抗原結合分子であって、前記参照抗体が、配列番号42/26のアミノ酸配列を含むHCVR/LCVR配列対を含む第1の抗原結合ドメインと、配列番号2/26、10/26、および18/26からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むHCVR/LCVR配列対を含む第2の抗原結合ドメインと、を含む、単離された二重特異性抗原結合分子。
(項目30)
ヒトCD3への結合に対して競合する、または参照抗体と同じヒトCD3上のエピトープに結合する、単離された二重特異性抗原結合分子であって、前記参照抗体が、配列番号42/26のアミノ酸配列を含むHCVR/LCVR配列対を含む第1の抗原結合ドメインと、配列番号2/26、10/26、または18/26からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むHCVR/LCVR配列対を含む第2の抗原結合ドメインと、を含む、単離された二重特異性抗原結合分子。
(項目31)
前記抗体もしくはその抗原結合断片、または前記二重特異性抗原結合分子が、免疫グロブリンE(IgE)の存在下で細胞表面に発現されるFcεR1αに結合する、項目1~11のいずれか一項に記載の単離された抗体もしくはその抗原結合断片、または項目12~30のいずれか一項に記載の二重特異性抗原結合分子。
(項目32)
二重特異性抗体である、項目12~31のいずれか一項に記載の二重特異性抗原結合分子。
(項目33)
前記二重特異性抗体が、ヒトIgG重鎖定常領域を含む、項目32に記載の二重特異性抗原結合分子。
(項目34)
前記ヒトIgG重鎖定常領域が、アイソタイプIgG4である、項目33に記載の二重特異性抗原結合分子。
(項目35)
前記ヒトIgG重鎖定常領域が、アイソタイプIgG1である、項目33に記載の二重特異性抗原結合分子。
(項目36)
前記二重特異性抗体が、配列番号56のアミノ酸配列を含む第1の重鎖と、配列番号50のアミノ酸配列を含む第2の重鎖と、配列番号40のアミノ酸配列を含む軽鎖と、を含む、項目32~34のいずれか一項に記載の二重特異性抗原結合分子。
(項目37)
前記二重特異性抗体が、配列番号56のアミノ酸配列を含む第1の重鎖と、配列番号52のアミノ酸配列を含む第2の重鎖と、配列番号40のアミノ酸配列を含む軽鎖と、を含む、項目32~34のいずれか一項に記載の二重特異性抗原結合分子。
(項目38)
前記二重特異性抗体が、配列番号56のアミノ酸配列を含む第1の重鎖と、配列番号54のアミノ酸配列を含む第2の重鎖と、配列番号40のアミノ酸配列を含む軽鎖と、を含む、項目32~34のいずれか一項に記載の二重特異性抗原結合分子。
(項目39)
項目1~11のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合断片、または項目12~38のいずれか一項に記載の二重特異性抗原結合分子をコードする、核酸分子。
(項目40)
項目39に記載の核酸分子を含む、ベクター。
(項目41)
項目40に記載のベクターを含む、宿主細胞。
(項目42)
項目1~11のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合断片、または項目12~38のいずれか一項に記載の二重特異性抗原結合分子と、薬学的に許容される担体または希釈剤と、を含む、薬学的組成物。
(項目43)
抗体もしくはその抗原結合断片、または二重特異性抗原結合分子を産生する方法であって、項目1~11のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合断片、または項目12~38のいずれか一項に記載の二重特異性抗原結合分子を、前記抗体もしくはその抗原結合断片、または二重特異性抗原結合分子の産生を可能にする条件下で発現する宿主細胞を培養することを含む、方法。
(項目44)
対象におけるFcεR1αの発現および/またはシグナル伝達に関連する疾患または障害を治療するための方法であって、項目42に記載の薬学的組成物を、前記対象に投与することを含む、方法。
(項目45)
FcεR1αの発現および/またはシグナル伝達に関連する前記疾患または障害が、アレルギー、マスト細胞活性化障害、またはマスト細胞症である、項目44に記載の方法。
(項目46)
前記アレルギーが、アレルギー性喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎、慢性蕁麻疹、食物アレルギー、および花粉アレルギーからなる群から選択される、項目45に記載の方法。
(項目47)
前記アレルギーが、アナフィラキシー性アレルギーである、項目45または46に記載の方法。
(項目48)
第2の治療剤を、前記対象に投与することをさらに含む、項目44~47のいずれか一項に記載の方法。
(項目49)
前記第2の治療剤が、IgEアンタゴニスト、抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、コルチコステロイド、ロイコトリエンアンタゴニスト、マスト細胞阻害剤、気管支拡張剤、鬱血除去剤、エピネフリン、IL-4阻害剤、IL-4受容体阻害剤、IL-33アンタゴニスト、IL-25アンタゴニスト、形質細胞除去剤、およびTSLPアンタゴニストからなる群から選択される、項目48に記載の方法。
(項目50)
FcεR1αの発現および/またはシグナル伝達に関連する疾患または障害の治療における、項目42に記載の薬学的組成物の使用。
(項目51)
前記疾患または障害が、アレルギー、マスト細胞活性化障害、またはマスト細胞症である、項目50に記載の使用。
【発明を実施するための形態】
【0093】
本発明を説明する前に、本発明は、特定の方法および説明される実験条件が変わり得るので、かかる方法および条件に制限されないことは理解されることになっている。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを説明するためのものであり、本発明の範囲が添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるので、限定することを企図するものではないことも理解されるべきである。
【0094】
別段定義されない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語はすべて、本発明の属する技術分野の当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で使用される場合、「約」という用語は、特定の列挙された数値に関して使用されるとき、その値が列挙された値から1%以下だけ変動し得ることを意味する。例えば、本明細書で使用される場合、「約100」との表現は、99および101、ならびにその間の全値(例えば、99.1、99.2、99.3、99.4など)を含む。
【0095】
本明細書に説明されるものと類似のまたは等価の任意の方法および材料を本発明の実施または試験に使用することができるが、好ましい方法および材料をこれから説明する。本明細書で言及される特許、出願、および非特許刊行物はすべて、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0096】
定義
本明細書で使用される「CD3」という表現は、多分子T細胞受容体(TCR)の一部としてT細胞上に発現され、4つの受容体鎖:CD3-イプシロン、CD3-デルタ、CD3-ゼータ、CD3-ガンマのうち2つの会合から形成されるホモ二量体またはヘテロ二量体からなる抗原を指す。本明細書におけるタンパク質、ポリペプチド、およびタンパク質断片についてのすべての言及は、非ヒト種由来であることが明確に特定されない限り、それぞれのタンパク質、ポリペプチド、またはタンパク質断片のヒト型を指すことを意図している。したがって、「CD3」という表現は、非ヒト種、例えば「マウスCD3」、「サルCD3」などに由来するものとして特定されない限り、ヒトCD3を意味する。ヒトCD3-イプシロンは、配列番号59に記載のアミノ酸配列を含み、ヒトCD3-デルタは、配列番号60に記載のアミノ酸配列を含み、CD3-ゼータは、配列番号61に記載のアミノ酸配列を含み、CD3-ガンマは、配列番号62に記載のアミノ酸配列を含む。
【0097】
本明細書で使用される場合、「CD3に結合する抗体」または「抗CD3抗体」は、単一のCD3サブユニット(例えば、イプシロン、デルタ、ガンマ、またはゼータ)を特異的に認識する抗体およびその抗原結合断片、ならびに2つのCD3サブユニットの二量体複合体を特異的に認識する抗体およびその抗原結合断片(例えば、ガンマ/イプシロン、デルタ/イプシロン、およびゼータ/ゼータCD3二量体)を含む。本発明の抗体および抗原結合断片は、可溶性CD3および/または細胞表面発現CD3に結合することができる。可溶性CD3には、天然CD3タンパク質、ならびに膜貫通ドメインを欠くかまたは細胞膜と会合していない、例えば単量体および二量体CD3構築物などの組換えCD3タンパク質変異体が含まれる。
【0098】
本明細書で使用される場合、表現「細胞表面発現CD3」は、インビトロまたはインビボで細胞表面上に発現される1つ以上のCD3タンパク質(複数可)を意味し、CD3タンパク質の少なくとも一部は細胞膜の細胞外側に曝され、抗体の抗原結合部分に接近可能である。「細胞表面発現CD3」としては、細胞膜内の機能的T細胞受容体の中に含まれるCD3タンパク質が挙げられる。「細胞表面発現CD3」という表現は、細胞の表面上のホモ二量体またはヘテロ二量体の一部として発現されるCD3タンパク質(例えば、ガンマ/イプシロン、デルタ/イプシロン、およびゼータ/ゼータCD3二量体)を含む。「細胞表面発現CD3」という表現はまた、他のCD3鎖型なしで、細胞の表面上にそれ自体で発現するCD3鎖(例えば、CD3-イプシロン、CD3-デルタ、またはCD3-ガンマ)も含む。あるいは、「細胞表面発現CD3」は、通常CD3タンパク質を発現する細胞の表面上に発現されるCD3タンパク質を含むかまたはそれからなることができる。あるいは、「細胞表面発現CD3」は、通常その表面にヒトCD3を発現しないがその表面にCD3を発現するように人工的に操作されている細胞の表面上に発現されるCD3タンパク質を含むかまたはそれからなることができる。
【0099】
本明細書で使用される「FcεR1α」という表現は、IgEに対する高親和性Fc受容体(FcεR1)のα鎖を指す。FcεR1αは、IgEのFcεR1への結合に関与する。FcεR1αは、マスト細胞、好塩基球、単球、マクロファージ、mDC、pDC、ランゲルハンス細胞、好酸球、および血小板で発現する。ヒトFcεR1αのアミノ酸配列は、配列番号63として記載される。「FcεR1α」という用語は、組換えFcεR1αタンパク質またはその断片を含む。この用語はまた、FcεR1αタンパク質またはその断片が、例えば、ヒスチジンタグ、マウスもしくはヒトFc、またはROR1(例えば、配列番号57もしくは58)などのシグナル配列に結合したものも包含する。
【0100】
本明細書で使用される場合、「FcεR1αに結合する抗体」または「抗FcεR1α抗体」は、FcεR1αを特異的に認識する抗体およびその抗原結合断片を含む。
【0101】
本明細書で使用される場合、「FcεR1αの発現に関連する疾患または障害」という用語は、FcεR1αの発現および/または活性(例えば、シグナル伝達)の阻害、ならびに/あるいはFcεR1αを発現する細胞の除去(ablation)が、障害の症状および/または進行を軽減することが予想される任意の疾患または障害を含む。例えば、かかる疾患および障害としては、限定されないが、マスト細胞活性化障害、マスト細胞症、およびアレルギー(食物アレルギー、花粉アレルギー、ペットフケアレルギーなどが含まれるが、これらに限定されない)が挙げられる。
【0102】
本明細書で使用される場合、「アレルギー」という用語は、環境中の物質(アレルゲン)に対する免疫系の過敏性によって引き起こされる状態を指す。アレルギーとしては、アレルギー性喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎、慢性蕁麻疹、食物アレルギー、ペットフケアレルギー、および花粉アレルギーが挙げられるが、これらに限定されない。アレルギーの症状としては、蕁麻疹(例えば、じんましん)、血管浮腫、鼻炎、喘息、嘔吐、くしゃみ、鼻水、息切れ、副鼻腔炎、涙目、喘鳴、気管支痙攣、最大呼気流量の減少(PEF)、胃腸障害、潮紅、唇の腫れ、舌の腫れ、血圧の低下、アナフィラキシー、ならびに臓器障害/不全が挙げられる得るが、これらに限定されない。一実施形態では、アレルギーは、アナフィラキシー性アレルギーであり、これは、死亡を引き起こし得る重篤な形態のアレルギーである。アナフィラキシーの症状としては、発疹、喉または舌の腫れ、気道の腫れ、息切れ、嘔吐、意識朦朧、低血圧などが挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0103】
本明細書で使用される場合、「アレルゲン」という用語は、感受性の個体においてアレルギー応答を刺激し得る任意の物質、化学物質、粒子または組成物を含む。アレルゲンは、例えば、乳製品(例えば、牛乳)、卵、セロリ、ゴマ、小麦、大豆、魚、貝、糖(例えば、アルファ-ガラクトースなどの肉に存在する糖)、ピーナッツ、他の豆類(例えば、豆、エンドウ豆、大豆など)、および木の実などの食品アイテムに含まれるか、またはそれらに由来し得る。あるいは、アレルゲンは、例えば、粉塵(例えば、チリダニを含む)、花粉、昆虫毒(例えば、ミツバチ、スズメバチ、カ、ヒアリなどの毒)、カビ、動物の毛皮、動物のフケ、ウール、ラテックス、金属(例えば、ニッケル)、家庭用洗剤、洗剤、薬剤、化粧品(例えば、香料など)、薬物(例えば、ペニシリン、スルホンアミド、サリチレートなど)、治療用モノクローナル抗体(例えば、セツキシマブ)、ブタクサ、草、およびカバノキなどの非食品アイテムに含まれてもよく、またはそれらに由来してもよい。例示的な花粉アレルゲンとしては、例えば、カバノキ花粉、スギ花粉、オーク花粉、ハンノキ花粉、シデ花粉、トチノキ花粉、ヤナギ花粉、ポプラ花粉、プランタヌス花粉、シナノキ花粉、オリーブ花粉、アシェジュニパー花粉、およびシチヨウジュ花粉などの樹木花粉が挙げられる。
【0104】
「抗原結合分子」という用語は、抗体および抗体の抗原結合断片を含み、例えば二重特異性抗体を含む。
【0105】
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、特定の抗原(例えばFcεR1αまたはCD3)に特異的に結合するかまたはそれと相互作用する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む、任意の抗原結合分子または分子複合体を意味する。「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互連結された4本のポリペプチド鎖、2本の重(H)鎖および2本の軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子、ならびにそれらの多量体(例えば、IgM)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVRまたはVHと略される)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2、およびCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVRまたはVLと略される)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。VH領域およびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と称される、より保存された領域が点在する相補性決定領域(CDR)と称される超可変領域へとさらに細分することができる。各VHおよびVLは、3つのCDRおよび4つのFRからなり、次の順番:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4で、アミノ末端からカルボキシ末端へと配置される。本発明の異なる実施形態では、抗FcεR1α抗体または抗CD3抗体(またはその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であってもよく、または天然にもしくは人工的に修飾されていてもよい。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの並列分析に基づいて定義され得る。
【0106】
本明細書で使用される「抗体」という用語はまた、完全抗体分子の抗原結合断片を含む。抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」および同様の用語は、本明細書で使用される場合、天然の、酵素処理で入手可能な、合成の、または遺伝子操作された、抗原を特異的に結合して複合体を形成するポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。抗体の抗体結合断片は、例えば、抗体可変ドメインおよび任意に定常ドメインをコードするDNAの操作および発現に関連するタンパク質消化技術または組換え遺伝子操作技術などの任意の適切な標準的技術を使用して、完全抗体分子から誘導され得る。かかるDNAは既知であり、および/または例えば市販の供給源、DNAライブラリー(例えばファージ-抗体ライブラリーを含む)から容易に入手可能であるか、または合成することができる。DNAは、例えば、1つ以上の可変ドメインおよび/もしくは定常ドメインを好適な配置へと配置するか、またはコドンを導入し、システイン残基を作成し、アミノ酸を修飾、付加、もしくは欠失などするために、化学的に、または分子生物学技術を使用することによって配列決定および操作され得る。
【0107】
抗原結合断片の非限定的な例としては、(i)Fab断片、(ii)F(ab’)2断片、(iii)Fd断片、(iv)Fv断片、(v)一本鎖Fv(scFv)分子、(vi)dAb断片、および(vii)抗体の超可変領域(例えば、CDR3ペプチドなどの単離された相補性決定領域(CDR))を模倣するアミノ酸残基、または拘束FR3-CDR3-FR4ペプチドからなる最小認識単位が挙げられる。ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(例えば、一価ナノボディ、二価ナノボディなど)、小型モジュール型免疫医薬品(SMIP)、およびサメ可変IgNARドメインなどの他の操作された分子も、本明細書で使用される「抗原結合断片」という表現に包含される。
【0108】
抗体の抗原結合断片は、典型的には、少なくとも1つの可変ドメインを含むであろう。可変ドメインは、任意のサイズまたはアミノ酸組成物であり得、概して、1つ以上のフレームワーク配列に隣接しているかまたは1つ以上のフレームワーク配列とインフレームである少なくとも1つのCDRを含む。VLドメインと結合したVHドメインを有する抗体結合断片において、VHドメインおよびVLドメインは、任意の好適な配置で互いに対して配置され得る。例えば、可変領域は二量体であり、VH-VH、VH-VLまたはVL-VL二量体を含み得る。あるいは、抗体の抗原結合断片は、単量体のVHドメインまたはVLドメインを含み得る。
【0109】
特定の実施形態では、抗体の抗原結合断片は、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合された少なくとも1つの可変ドメインを含み得る。本発明の抗体の抗原結合断片内に見出すことができる可変ドメインおよび定常ドメインの非限定的で例示的な構成としては、(i)VH-CH1、(ii)VH-CH2、(iii)VH-CH3、(iv)VH-CH1-CH2、(v)VH-CH1-CH2-CH3、(vi)VH-CH2-CH3、(vii)VH-CL、(viii)VL-CH1、(ix)VL-CH2、(x)VL-CH3、(xi)VL-CH1-CH2、(xii)VL-CH1-CH2-CH3、(xiii)VL-CH2-CH3、および(xiv)VL-CLが挙げられる。上に列挙した例示的な立体配置のいずれかを含む、可変ドメインおよび定常ドメインの任意の立体配置において、可変ドメインおよび定常ドメインは、互いに直接連結されていてもよく、または完全もしくは部分的ヒンジ領域もしくはリンカー領域によって連結されていてもよい。ヒンジ領域は、単一のポリペプチド分子において隣接する可変ドメインおよび/または定常ドメイン間の可撓性または半可撓性の結合をもたらす少なくとも2つの(例えば、5、10、15、20、40、60またはそれより多数の)アミノ酸からなり得る。そのうえ、本発明の抗体の抗原結合断片は、互いとのおよび/または1つ以上の単量体VHドメインもしくはVLドメイン(例えば、ジスルフィド結合(複数可)により)との非共有結合において、上に列挙した可変ドメイン立体配置および定常ドメイン立体配置のいずれかのホモ二量体またはヘテロ二量体(または他の多量体)を含み得る。
【0110】
完全抗体分子と同様に、抗体結合断片は、単一特異性または多重特異性(例えば、二重特異性)であり得る。抗体の多重特異性抗原結合断片は、典型的には、少なくとも2つの異なる可変ドメインを含むことになっており、各可変ドメインは、別個の抗原へまたは同じ抗原上の異なるエピトープへ特異的に結合することができる。本明細書に開示される例示的な二重特異性抗体フォーマットを含む任意の多重特異性抗体フォーマットは、当該技術分野で利用可能な通例の技術を使用して、本発明の抗体の抗原結合断片との関連で使用に適合し得る。
【0111】
本発明の抗体は、補体依存性細胞傷害(CDC)または抗体依存性細胞媒介細胞傷害(ADCC)を介して機能し得る。「補体依存性細胞傷害」(CDC)は、補体の存在下における本発明の抗体による抗原発現細胞の溶解を指す。「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」(ADCC)は、Fc受容体(FcR)を発現する非特異的細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、およびマクロファージ)が標的細胞上の結合抗体を認識し、それによって標的細胞の溶解をもたらす、細胞媒介性反応を指す。CDCおよびADCCは、当技術分野において周知であり利用可能なアッセイを使用して測定することができる。(例えば、米国特許第5,500,362号および第5,821,337号、ならびにClynes et al.(1998)Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)95:652-656を参照されたい)。抗体の定常領域は、補体を固定して細胞依存性細胞傷害性を媒介する抗体の能力において重要である。したがって、抗体のアイソタイプは、その抗体が細胞傷害性を媒介することが望ましいかに基づいて選択され得る。
【0112】
本発明の特定の実施形態では、本発明の抗FcεR1α単一特異性抗体または抗FcεR1α/抗CD3二重特異性抗体は、ヒト抗体である。「ヒト抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する抗体を含むことが企図される。本発明のヒト抗体は、例えば、CDR、特にCDR3における、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的変異誘発によってまたはインビボでの体細胞突然変異によって導入された変異)によってコードされないアミノ酸残基を含み得る。しかしながら、本明細書で使用される「ヒト抗体」という用語は、別の哺乳類種(例えば、マウス)の生殖系列に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列へと移植された抗体を含むことを意図するものではない。
【0113】
本発明の抗体は、一部の実施形態では、組換えヒト抗体であり得る。本明細書で使用される「組換えヒト抗体」という用語は、宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現される抗体など組換え手段によって調製、発現、作成または単離されるすべてのヒト抗体(後述)、組換え型コンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離された抗体(後述)、ヒト免疫グロブリン遺伝子についてトランスジェニックである動物(例えばマウス)から単離された抗体(例えば、Taylor et al.(1992)Nucl.Acids Res.20:6287-6295を参照のこと)、またはヒト免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを含む任意の他の手段によって調製、発現、作成、または単離された抗体を含むことを意図する。かかる組換えヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域および定常領域を有する。しかしながら、特定の実施形態では、かかる組換えヒト抗体は、インビトロ変異誘発(または、ヒトIg配列についてトランスジェニック動物が使用される場合は、インビボ体細胞変異誘発)を受け、したがって、組換え抗体のVHおよびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列VHおよびVL配列に由来し関連してはいるが、インビボでヒト抗体生殖系列レパートリー内に天然には存在し得ない配列である。
【0114】
ヒト抗体は、ヒンジの不均一性に関連する2つの形態で存在することができる。第1の形態において、免疫グロブリン分子は、二量体が鎖間重鎖ジスルフィド結合によって一緒に保持されている約150~160kDaの安定な四本鎖構築物を含む。第2の形態において、二量体は鎖間ジスルフィド結合を介して連結されておらず、共有結合した軽鎖および重鎖からなる約75~80kDaの分子が形成される(半抗体)。これらの形態は、親和性精製後でさえも分離することが極めて困難とされている。
【0115】
様々な無傷のIgGアイソタイプにおける第2の形態の出現頻度は、抗体のヒンジ領域アイソタイプに関連する構造上の相違によるが、それに限定されない。ヒトIgG4ヒンジのヒンジ領域における単一アミノ酸置換は、ヒトIgG1ヒンジを使用して典型的に観察されるレベルまで第2の形態の出現を有意に減少させることができる(Angal et al.(1993)Molecular Immunology 30:105)。本発明は、ヒンジ、CH2またはCH3領域に1つ以上の変異を有する抗体を包含し、例えば産生において、所望の抗体形態の収率を改善するのに望ましい場合がある。
【0116】
本発明の抗体は単離された抗体であり得る。本明細書で使用される「単離された抗体」は、同定された抗体、およびその天然環境の少なくとも1つの成分から分離および/または回収された抗体を意味する。例えば、生物の少なくとも1つの成分から、または抗体が天然に存在するかもしくは天然に産生される組織または細胞から分離または除去された抗体は、本発明の目的のための「単離された抗体」である。単離された抗体はまた、組換え細胞内の原位置の抗体を含む。単離された抗体は、少なくとも1つの精製または単離工程を受けている抗体である。特定の実施形態では、単離された抗体は他の細胞性物質および/または化学物質を実質的に含まなくてもよい。
【0117】
本発明はまた、FcεR1αに結合するワンアーム抗体も含む。本明細書中で使用される場合、「ワンアーム抗体」とは、単一の抗体重鎖および単一の抗体軽鎖を含む抗原結合分子を意味する。本発明のワンアーム抗体は、表1に記載のHCVR/LCVRまたはCDRアミノ酸配列のいずれかを含み得る。
【0118】
本明細書に開示される抗FcεR1αまたは抗FcεR1α/抗CD3抗体は、抗体が由来した対応する生殖系列配列と比較して、重鎖および軽鎖可変ドメインのフレームワーク領域および/またはCDR領域において1つ以上のアミノ酸置換、挿入、および/または欠失を含み得る。かかる変異は、本明細書中に開示するアミノ酸配列を、例えば公共の抗体配列データベースから入手可能な生殖系列配列と比較することによって容易に確認することができる。本発明は、本明細書に開示されるアミノ酸配列のいずれかに由来する抗体およびその抗原結合断片を含み、ここで、1つ以上のフレームワーク領域および/またはCDR領域内の1つ以上のアミノ酸は、抗体が由来した生殖系列配列の対応する残基(複数可)に変異し、もしくは別のヒト生殖系列配列の対応する残基(複数可)に変異し、または対応する生殖系列残基(複数可)の保存的アミノ酸置換に変異する(かかる配列変化は本明細書ではまとめて、「生殖系列変異」と呼ばれる)。当業者は、本明細書に開示する重鎖可変領域配列および軽鎖可変領域配列から出発して、1つ以上の個々の生殖系列変異またはこれらの組み合わせを含む多数の抗体および抗体結合断片を容易に産生することができる。特定の実施形態では、VHドメインおよび/またはVLドメイン内のフレームワークおよび/またはCDR残基はすべて、抗体が由来した元の生殖系列配列において見出される残基へと変異して戻される。他の実施形態では、ある特定の残基のみが元の生殖系列配列へと変異し戻され、例えば、変異した残基はFR1の最初の8個のアミノ酸内に、もしくは変異した残基はFR4の最後の8個のアミノ酸内に認められ、または変異した残基は、CDR1、CDR2もしくはCDR3内にのみ認められる。他の実施形態では、フレームワークおよび/またはCDR残基(複数可)の1つ以上は、異なる生殖系列配列(すなわち、抗体が本来由来した生殖系列配列とは異なる生殖系列配列)の対応する残基(複数可)へ変異する。さらに、本発明の抗体は、フレームワークおよび/またはCDR領域内に2つ以上の生殖系列変異の任意の組み合わせを含有してもよく、例えば、ある特定の個々の残基は、特定の生殖系列配列の対応する残基へ変異するのに対し、元の生殖系列配列とは異なるある特定の他の残基は、維持され、または異なる生殖系列配列の対応する残基へ変異する。一度得られると、1つ以上の生殖系列変異を含有する抗体および抗体結合断片は、結合特異性の改善、結合親和性の増加、アンタゴニストまたはアゴニストの生物学的特性の改善または増強(場合によって)、免疫原性の低下などの1つ以上の所望の特性について容易に試験することができる。この一般的な様式で得られる抗体および抗体結合断片は、本発明の範囲内に包含される。
【0119】
本発明はまた、抗FcεR1αまたは抗FcεR1α/抗CD3抗体も含み、1つ以上の保存的置換を有する本明細書に開示されるHCVR、LCVR、および/またはCDRアミノ酸配列のいずれかのバリアントを含む。例えば、本発明は、抗FcεR1α抗体または抗FcεR1α/抗CD3抗体を含み、本明細書の表1および3に記載のHCVR、LCVR、および/またはCDRアミノ酸配列のいずれかに対して、例えば10個以下、8個以下、6個以下、または4個以下などの保存的アミノ酸置換を有するHCVR、LCVR、および/またはCDRアミノ酸配列を有する。
【0120】
「エピトープ」という用語は、パラトープとして既知の抗体分子の可変領域における特異的抗原結合部位と相互作用する抗原決定基を指す。単一の抗原は2つ以上のエピトープを有してもよい。したがって、異なる抗体は、抗原上の異なる領域へ結合し得、異なる生物学的効果を有し得る。エピトープは、立体配座または線状のいずれかであり得る。立体配座エピトープは、直鎖状ポリペプチド鎖の異なるセグメントから空間的に並置されたアミノ酸によって産生される。直鎖状エピトープは、ポリペプチド鎖中の隣接するアミノ酸残基によって産生されるものである。特定の状況において、エピトープは、抗原上の糖類、ホスホリル基、またはスルホニル基の部分を含み得る。
【0121】
「実質的な同一性」または「実質的に同一である」という用語は、核酸またはその断片を指す場合、別の核酸(またはその相補鎖)との適切なヌクレオチド挿入または欠失と最適に整列した場合、以下に考察するように、FASTA、BLAST、またはGapなど、配列同一性の任意の周知のアルゴリズムによって測定される場合に、ヌクレオチド塩基の少なくとも約95%、より好ましくは少なくとも約96%、97%、98%、または99%のヌクレオチド配列同一性があることを示す。参照核酸分子と実質的な同一性を有する核酸分子は、特定の場合では、参照核酸分子によってコードされるポリペプチドと同じまたは実質的に類似のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードすることができる。
【0122】
ポリペプチドへ適用される場合、「実質的な類似性」または「実質的に類似の」という用語は、2つのペプチド配列が、既定のギャップ重みを使用してプログラムGAPまたはBESTFITなどによって最適に整列した場合、少なくとも95%の配列同一性、さらにより好ましくは少なくとも98%または99%の配列同一性を共有する。好ましくは、同一ではない残基位置は、保存的アミノ酸置換だけ異なる。「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基が、類似の化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を備えた側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基によって置換されたものである。概して、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化させないことになっている。2つ以上のアミノ酸配列が保存的置換だけ互いに異なる場合、配列同一性の割合または類似性の程度は、置換の保存的性質を補正するために上向きに調整してもよい。この調整を行うための手段は、当業者に周知である。例えば、参照により本明細書に組み込まれるPearson(1994)Methods Mol.Biol.24:307-331を参照されたい。類似の化学的特性を備えた側鎖を有するアミノ酸の基の例としては、(1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシン、(2)脂肪族-ヒドロキシル側鎖:セリンおよびトレオニン、(3)アミド含有側鎖:アスパラギンおよびグルタミン、(4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン、(5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、およびヒスチジン、(6)酸性側鎖:アスパラギン酸およびグルタミン酸、ならびに(7)含硫側鎖:システインおよびメチオニンが挙げられる。好ましい保存的アミノ酸置換基は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸-アスパラギン酸、およびアスパラギン-グルタミンである。あるいは、保存的置換とは、参照により本明細書に組み込まれるGonnet et al.(1992)Science 256:1443-1445に開示されるPAM250対数尤度行列において正値を有する任意の変化である。「適度に保存的な」置換とは、PAM250対数尤度マトリックスにおいて負以外の値を有する任意の変化である。
【0123】
ポリペプチドに対する配列類似性は、配列同一性とも呼ばれ、典型的には配列分析ソフトウェアを使用して測定される。タンパク質解析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含む種々の置換、欠失および他の修飾へ割り当てられた類似の測定値を使用して類似の配列と一致させる。例えば、GCGソフトウェアは、異なる種の生物由来の相同ポリペプチドのような密接に関連するポリペプチド間の、または野生型タンパク質とその変異タンパク質の間の配列相同性または配列同一性を決定するための既定パラメータと共に使用することができるGapおよびBestfitなどのプログラムを含有する。例えば、GCG第6.1版を参照されたい。ポリペプチド配列は、GCG第6.1版におけるプログラムである、既定パラメータまたは推奨パラメータを備えたFASTAを使用して比較することもできる。FASTA(例えば、FASTA2およびFASTA3)は、問い合わせ配列と検索配列の間の最良重複の領域の整列およびパーセント配列同一性を提供する(Pearson(2000)上記)。本発明の配列を、異なる生物由来の多数の配列を含有するデータベースと比較する場合の別の好ましいアルゴリズムは、既定パラメータを使用するコンピュータプログラムBLAST、特にBLASTPまたはTBLASTNである。例えば、各々、参照により本明細書に組み込まれる、Altschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403-410およびAltschul et al.(1997)Nucleic Acids Res.25:3389-402を参照されたい。
【0124】
生殖系列変異
本明細書に開示される抗FcεR1α抗体および/または抗CD3抗体は、抗体が由来した対応する生殖系列配列と比較して、重鎖可変ドメインのフレームワーク領域および/またはCDR領域において、1つ以上のアミノ酸置換、挿入および/または欠失を含む。
【0125】
本発明はまた、本明細書に開示されるアミノ酸配列のいずれかに由来する抗体およびその抗原結合断片を含み、1つ以上のフレームワーク領域および/またはCDR領域内の1つ以上のアミノ酸は、抗体が由来した生殖系列配列の対応する残基(複数可)へ変異されるか、または別のヒト生殖系列配列の対応する残基(複数可)へ変異されるか、または対応する生殖系列残基(複数可)の保存的アミノ酸置換へ変異され(本明細書では、かかる配列変化はまとめて「生殖系列変異」と呼ばれる)、FcεR1αまたはCD3抗原への望ましい結合特性を有する(例えば、抗CD3抗体のCD3への結合が弱いか、または検出できない)。FcεR1αを認識するいくつかのかかる例示的な抗体が、表1に記載されている。CD3を認識するいくつかのかかる例示的な抗体が、表3に記載されている。
【0126】
さらに、本発明の抗体は、フレームワークおよび/またはCDR領域内に2つ以上の生殖系列変異の任意の組み合わせを含有してもよく、例えば、ある特定の個々の残基は、特定の生殖系列配列の対応する残基へ変異するのに対し、元の生殖系列配列とは異なるある特定の他の残基は、維持され、または異なる生殖系列配列の対応する残基へ変異する。一度得られると、1つ以上の生殖系列変異を含む抗体および抗体結合断片を、結合特異性の向上、結合親和性の弱さまたは低下、薬物動態特性の向上または増強、免疫原性の低下などの1つ以上の所望の特性に関して試験することができる。本開示の指針を考慮してこの一般的な様式で得られた抗体および抗原結合断片は、本発明の範囲内に包含される。
【0127】
本発明はまた、抗FcεR1α抗体を含み、1つ以上の保存的置換を有する本明細書に開示されるHCVR、LCVR、および/またはCDRアミノ酸配列のいずれかのバリアントを含む。例えば、本発明は、抗CD3抗体を含み、本明細書の表1に記載されるHCVR、LCVR、および/またはCDRアミノ酸配列のいずれかに対して、例えば10個以下、8個以下、6個以下、または4個以下などの保存的アミノ酸置換を有するHCVR、LCVR、および/またはCDRアミノ酸配列を有する。本発明の抗体および二重特異性抗原結合分子は、個々の抗原結合ドメインが由来した対応する生殖系列配列と比較して、重鎖および軽鎖可変ドメインのフレームワーク領域および/またはCDR領域において、1つ以上のアミノ酸置換、挿入および/または欠失を含むが、FcεR1αまたはCD3への所望の結合は、維持または改善される(例えば、CD3抗原に対する抗CD3抗体の結合が弱いか、または検出できない)。「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基が、類似の化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を備えた側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基によって置換されたものである。概して、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化することはなく、すなわち、アミノ酸置換で、所望の結合親和性が維持または改善され、抗FcεR1αおよび/または抗CD3結合分子の場合、例えば、CD3抗原への抗CD3抗体の結合が弱いか、または検出されない。類似の化学的特性を備えた側鎖を有するアミノ酸の基の例としては、(1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシン、(2)脂肪族-ヒドロキシル側鎖:セリンおよびトレオニン、(3)アミド含有側鎖:アスパラギンおよびグルタミン、(4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン、(5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、およびヒスチジン、(6)酸性側鎖:アスパラギン酸およびグルタミン酸、ならびに(7)含硫側鎖:システインおよびメチオニンが挙げられる。好ましい保存的アミノ酸置換基は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸-アスパラギン酸、およびアスパラギン-グルタミンである。あるいは、保存的な置換とは、Gonnet et al.(1992)Science 256:1443-1445に開示されるPAM250対数尤度マトリックスにおいて正の値を有する任意の変化である。「適度に保存的な」置換とは、PAM250対数尤度マトリックスにおいて負以外の値を有する任意の変化である。
【0128】
本発明はまた、HCVRおよび/またはCDRアミノ酸配列を有する抗原結合ドメインを含む抗原結合分子も含み、本明細書に開示されるHCVRおよび/またはCDRアミノ酸配列のいずれかと実質的に同一であるが、FcεR1αおよび/またはCD3抗原への所望の特性は維持または改善される。アミノ酸配列意味する場合、「実質的な同一性」または「実質的に同一の」という用語は、2つのアミノ酸配列が、既定のギャップ重みを使用してプログラムGAPまたはBESTFITなどによって最適に整列した場合、少なくとも95%の配列同一性、さらにより好ましくは少なくとも98%、または99%の配列同一性を共有する。好ましくは、同一ではない残基位置は、保存的アミノ酸置換だけ異なる。2つ以上のアミノ酸配列が保存的置換だけ互いに異なる場合、配列同一性の割合または類似性の程度は、置換の保存的性質を補正するために上向きに調整してもよい。この調整を行うための手段は、当業者に周知である。例えば、Pearson(1994)Methods Mol.Biol.24:307-331を参照されたい。
【0129】
ポリペプチドに対する配列類似性は、配列同一性とも呼ばれ、典型的には配列分析ソフトウェアを使用して測定される。タンパク質解析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含む種々の置換、欠失および他の修飾へ割り当てられた類似の測定値を使用して類似の配列と一致させる。例えば、GCGソフトウェアは、異なる種の生物由来の相同ポリペプチドのような密接に関連するポリペプチド間の、または野生型タンパク質とその変異タンパク質の間の配列相同性または配列同一性を決定するための既定パラメータと共に使用することができるGapおよびBestfitなどのプログラムを含有する。例えば、GCG第6.1版を参照されたい。ポリペプチド配列は、GCG第6.1版におけるプログラムである、既定パラメータまたは推奨パラメータを備えたFASTAを使用して比較することもできる。FASTA(例えば、FASTA2およびFASTA3)は、問い合わせ配列と検索配列の間の最良重複の領域の整列およびパーセント配列同一性を提供する(Pearson(2000)上記)。本発明の配列を、異なる生物由来の多数の配列を含有するデータベースと比較する場合の別の好ましいアルゴリズムは、既定パラメータを使用するコンピュータプログラムBLAST、特にBLASTPまたはTBLASTNである。例えば、Altschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403-410およびAltschul et al.(1997)Nucleic Acids Res.25:3389-402を参照されたい。
【0130】
一度得られると、1つ以上の生殖系列変異を含有する抗原結合ドメインを、1つ以上のインビトロアッセイを利用して結合親和性の低下について試験する。特定の抗原を認識する抗体は、典型的には、抗原に対する高い(すなわち、強い)結合親和性について試験することによって、それらの目的のためにスクリーニングされるが、本発明の抗体は、弱い結合を示すか、または検出可能な結合を示さない。また、この一般的な様式で得られた1つ以上の抗原結合ドメインを含む二重特異性抗原結合分子は、本発明に包含され、結合活性駆動型のアレルギー療法として有利であることがわかる。
【0131】
例えば、改善された薬物動態特性および患者に対する低毒性の予期しない利益は、本明細書に記載の方法から実現され得る。
【0132】
抗体の結合特性
本明細書で使用される場合、抗体、免疫グロブリン、抗体結合断片、またはFc含有タンパク質のいずれかが、例えば、細胞表面タンパク質またはその断片などの所定の抗原へ結合する文脈における「結合」という用語は、典型的には、最低2つの実体または抗体-抗原相互作用などの分子構造間の相互作用または会合を指す。
【0133】
例えば、結合親和性は、リガンドとしての抗原、分析物(または抗リガンド)としての抗体、Ig、抗体結合断片、またはFc含有タンパク質を使用して、例えば、BIAcore 3000機器における表面プラズモン共鳴(SPR)技術によって決定される場合、典型的には、約10-6M以下、例えば約10-7M以下、例えば約10-8M以下、例えば約10-9M以下のKD値に対応する。蛍光活性化細胞選別(FACS)結合アッセイなどの細胞ベースの結合戦略もまた、日常的に使用されており、FACSデータは、放射性リガンド競合結合およびSPRなどの他の方法とよく相関する(Benedict,CA,J Immunol Methods.1997,201(2):223-31、Geuijen,CA,et al.J Immunol Methods.2005,302(1-2):68-77)。
【0134】
したがって、本発明の抗体または抗原結合タンパク質は、非特異的抗原(例:BSA、カゼイン)へ結合するその親和性よりも少なくとも10倍低いKD値に対応する親和性を有する所定の抗原または細胞表面分子に結合する。本発明によると、非特異的抗原よりも10倍以下の低いKD値に対応する抗体の親和性は、検出不可能な結合と見なすことができるが、かかる抗体は、本発明の二重特異性抗体を産生するための第2の抗原結合アームと対をなすことができる。
【0135】
「KD」(M)という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離平衡定数、または抗原に結合する抗体もしくは抗体結合断片の解離平衡定数を指す。KDと結合親和性との間には逆の関係があり、したがって、KD値が小さいほど、親和性は高い、すなわちより強い。したがって、「より高い親和性」または「より強い親和性」という用語は、相互作用を形成するより高い能力、つまり、より小さいKD値に関し、逆に「より低い親和性」または「より弱い親和性」という用語は、相互作用を形成するより低い能力、つまり、より大きなKD値に関する。状況によっては、別の相互作用パートナー分子(例えば、抗原Y)に対する分子(例えば、抗体)の結合親和性と比較して、その相互作用パートナー分子(例えば、抗原X)に対する特定の分子(例えば、抗体)のより高い結合親和性(またはKD)は、より大きなKD値(より低い、またはより弱い、親和性)を、より小さなKD(より高い、またはより強い、親和性)で割ることによって決定される結合親和性の比として表すことができ、例えば、場合によって、5倍または10倍より高い結合親和性として表すことができる。
【0136】
「kd」(sec-1または1/s)という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の解離速度定数、または抗体もしくは抗体結合断片の解離速度定数を指す。その値はkoff値とも呼ばれる。
【0137】
「ka」(M-1×sec-1または1/M)という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の会合速度定数、または抗体もしくは抗体結合断片の会合速度定数を指す。
【0138】
「KA」(M-1または1/M)という用語は、特定の抗体-抗原相互作用の会合平衡定数、または抗体もしくは抗体結合断片の会合平衡定数を指す。会合平衡定数は、kaをkdで割ることによって得られる。
【0139】
「EC50」または「EC50」という用語は、半最大有効濃度を指し、特定の曝露時間後にベースラインと最大値との間の中間の応答を誘導する抗体の濃度を含む。EC50は本質的に、その最大効果の50%が観察される抗体の濃度を表す。特定の実施形態では、EC50値は、例えばFACS結合アッセイによって決定される場合、CD3またはアレルギー関連抗原を発現する細胞に対して最大半量の結合を与える本発明の抗体の濃度に等しい。したがって、低下したまたは弱い結合は、EC50の増加、または最大半量の有効濃度値で観察される。
【0140】
一実施形態では、結合の低下は、最大半量の標的細胞への結合を可能にするEC50抗体濃度の増加として定義することができる。
【0141】
別の実施形態では、EC50値は、T細胞の細胞毒性活性による標的細胞の最大半量の枯渇を誘発する本発明の抗体の濃度を表す。したがって、細胞傷害活性の増加(例えば、T細胞媒介性好塩基球死滅)は、EC50の低下、または半最大有効濃度値で観察される。
【0142】
二重特異性抗原結合分子
本発明の抗体は、単一特異性、二重特異性または多重特異性であり得る。多重特異性抗体は、1つの標的ポリペプチドの異なるエピトープに特異的であり得るか、または2つ以上の標的ポリペプチドに特異的な抗原結合ドメインを含有し得る。例えば、Tutt et al.,1991,J.Immunol.147:60-69、Kufer et al.,2004,Trends Biotechnol.22:238-244を参照されたい。本発明の抗FcεR1α単一特異性抗体または抗FcεR1α/抗CD3二重特異性抗体は、別の機能性分子、例えば、別のペプチドまたはタンパク質に連結され得るか、またはそれと同時発現され得る。例えば、抗体またはその断片は、別の抗体または抗体断片などの1つ以上の他の分子実体に(例えば、化学結合、遺伝的融合、非共有結合性会合などにより)機能的に連結されて、第2のまたは追加の結合特異性を有する二重特異性または多重特異性抗体を生成することができる。
【0143】
本明細書の「抗CD3抗体」または「抗FcεR1α抗体」という表現の使用は、単一特異性の抗CD3抗体または抗FcεR1α抗体、ならびにCD3結合アームおよびFcεR1α結合アームを含む二重特異性抗体の両方を含むことが意図される。したがって、本発明は、免疫グロブリンの一方のアームがヒトCD3に結合し、免疫グロブリンの他方のアームがヒトFcεR1αに特異的である二重特異性抗体を含む。CD3結合アームは、本明細書の表3に記載されるHCVR/LCVRまたはCDRアミノ酸配列のうちのいずれかを含み得る。
【0144】
特定の実施形態では、CD3結合アームは、ヒトCD3に結合し、ヒトT細胞活性化を誘導する。特定の実施形態では、CD3結合アームは、ヒトCD3に弱く結合し、ヒトT細胞活性化を誘導する。他の実施形態では、CD3結合アームは、ヒトCD3に弱く結合し、二重特異性抗体または多特異性抗体の文脈でマスト細胞および/または好塩基球の除去を誘導する。他の実施形態では、CD3結合アームは、ヒトCD3と弱く結合または会合するが、それでもその結合相互作用は、当該技術分野で既知のインビトロアッセイによって検出することができない。FcεR1α結合アームは、本明細書の表1に記載されるHCVR/LCVRまたはCDRアミノ酸配列のうちのいずれかを含み得る。
【0145】
特定の例示的な実施形態によると、本発明は、CD3およびFcεR1αに特異的に結合する二重特異性抗原結合分子を含む。かかる分子は、本明細書において、例えば、「抗CD3/抗FcεR1α」、または「抗CD3×FcεR1α」、または「抗FcεR1α/抗CD3」、または「抗FcεR1α×CD3」、または「CD3×FcεR1α」二重特異性分子、または「FcεR1α×CD3」二重特異性分子、または他の類似の用語(例えば、抗FcεR1α×抗CD3)と呼ばれることができる。
【0146】
本明細書で使用される「FcεR1α」という用語は、非ヒト種(例えば、「マウスFcεR1α」、「サルFcεR1α」など)に由来するものとして指定されない限り、ヒトFcεR1αタンパク質を指す。ヒトFcεR1αタンパク質は、配列番号63に示されるアミノ酸配列を有する。
【0147】
CD3およびFcεR1αに特異的に結合する前述の二重特異性抗原結合分子は、インビトロ親和性結合アッセイで測定した場合、約40nM超のKDを示す弱い結合親和性を有するCD3に結合する、抗CD3抗原結合分子を含むことができる。
【0148】
本明細書で使用される場合、「抗原結合分子」という表現は、単独で、または特定の抗原に特異的に結合する、1つ以上のさらなるCDRおよび/またはフレームワーク領域(FR)と組み合わせて少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含むまたはそれからなるタンパク質、ポリペプチド、または分子複合体を意味する。特定の実施形態では、抗原結合分子は、それらの用語が本明細書の他所で定義されているように、抗体または抗体の断片である。
【0149】
本明細書で使用される場合、「二重特異性抗原結合分子」という表現は、少なくとも第1の抗原結合ドメインおよび第2の抗原結合ドメインを含むタンパク質、ポリペプチド、または分子複合体を意味する。二重特異性抗原結合分子内の各抗原結合ドメインは、単独で、または1つ以上の追加のCDRおよび/またはFRと組み合わせて、特定の抗原に特異的に結合する少なくとも1つのCDRを含む。本発明の文脈において、第1の抗原結合ドメインは第1の抗原(例えばCD3)に特異的に結合し、第2の抗原結合ドメインは第2の異なる抗原(例えばFcεR1α)に特異的に結合する。
【0150】
本発明のある特定の例示的実施形態において、二重特異性抗原結合分子は、二重特異性抗体である。二重特異性抗体の各抗原結合ドメインは、重鎖可変ドメイン(HCVR)および軽鎖可変ドメイン(LCVR)を含む。第1および第2の抗原結合ドメインを含む二重特異性抗原結合分子(例えば、二重特異性抗体)の文脈において、第1の抗原結合ドメインのCDRは、接頭辞「A1」を付けて指定され、第2の抗原結合ドメインのCDRは、接頭辞「A2」を付けて指定され得る。したがって、第1の抗原結合ドメインのCDRは、本明細書においてA1-HCDR1、A1-HCDR2、およびA1-HCDR3と呼ばれてもよく、第2の抗原結合ドメインのCDRは、本明細書においてA2-HCDR1、A2-HCDR2、およびA2-HCDR3と呼ばれてもよい。
【0151】
第1の抗原結合ドメインおよび第2の抗原結合ドメインは、互いに直接的または間接的に結合して、本発明の二重特異性抗原結合分子を形成し得る。あるいは、第1の抗原結合ドメインおよび第2の抗原結合ドメインは、それぞれ別々の多量体化ドメインに連結されていてもよい。1つの多量体化ドメインと別の多量体化ドメインとの会合は、2つの抗原結合ドメイン間の会合を促進し、それによって二重特異性抗原結合分子を形成する。本明細書で使用される場合、「多量体化ドメイン」は、同一または類似の構造または構成の第2の多量体化ドメインと会合する能力を有する任意の高分子、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、またはアミノ酸である。例えば、多量体化ドメインは、免疫グロブリンCH3ドメインを含むポリペプチドであってもよい。多量体化成分の非限定的な例は、免疫グロブリンのFc部分(CH2-CH3ドメインを含む)、例えばアイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4から選択されるIgGのFcドメイン、ならびに各アイソタイプ群内のアロタイプである。
【0152】
本発明の二重特異性抗原結合分子は、典型的には2つの多量体化ドメイン、例えば、それぞれ別々の抗体重鎖の一部である2つのFcドメインを含む。第1および第2の多量体化ドメインは、例えば、IgG1/IgG1、IgG2/IgG2、IgG4/IgG4などの同じIgGのアイソタイプであってもよい。あるいは、第1および第2の多量体化ドメインは、例えば、IgG1/IgG2、IgG1/IgG4、IgG2/IgG4などの異なるIgGアイソタイプのものであり得る。
【0153】
特定の実施形態では、多量体化ドメインは、Fc断片または少なくとも1つのシステイン残基を含有する長さが1~約200アミノ酸のアミノ酸配列である。他の実施形態では、多量体化ドメインはシステイン残基、または短いシステイン含有ペプチドである。他の多量体化ドメインには、ロイシンジッパー、ヘリックスループヘリックス、またはコイルドコイルモチーフを含むかまたはそれらからなるペプチドまたはポリペプチドが含まれる。
【0154】
任意の二重特異性抗体フォーマットまたは技術を使用して、本発明の二重特異性抗原結合分子を作製することができる。例えば、第1の抗原結合特異性を有する抗体またはその断片は、第2の抗原結合性を有する他の抗体または抗体断片などの1つ以上の他の分子実体に(例えば、化学結合、遺伝的融合、非共有結合などにより)機能的に連結されて、二重特異性抗原結合分子を生成することができる。本発明の文脈において使用できる特定の例示的な二重特異性フォーマットには、例えば、scFv系フォーマットまたはダイアボディ二重特異性フォーマット、IgG-scFv融合、二重可変ドメイン(DVD)-Ig、Quadroma、ノブズ-イントゥ-ホールズ(knobs-into-holes)、共通の軽鎖(例えば、ノブズ-イントゥ-ホールズを備えた共通の軽鎖など)、CrossMab、CrossFab、(SEED)ボディ、ロイシンジッパー、Duobody、IgG1/IgG2、二重作用型Fab(DAF)-IgG、およびMab2二重特異性フォーマットが含まれるが、これらに限定されない(上述のフォーマットの総説については、例えば、Klein et al.2012,mAbs 4:6,1-11、およびそこに引用されている参考文献を参照されたい)。
【0155】
本発明の二重特異性抗原結合分子との関連で、多量体化ドメイン、例えば、Fcドメインは、野生型の、天然に存在するFcドメインと比較して、1つ以上のアミノ酸変化(例えば、挿入、欠失、または置換)を含んでもよい。例えば、本発明は、FcとFcRnとの間の修飾された結合相互作用(例えば、増強または減少)を有する改変Fcドメインをもたらす、Fcドメイン中の1つ以上の修飾を含む二重特異性抗原結合分子を含む。一実施形態では、二重特異性抗原結合分子は、CH2またはCH3領域に修飾を含み、この修飾は酸性環境(例えば、pH範囲約5.5~約6.0のエンドソーム内)において、FcRnに対するFcドメインの親和性を高める。かかるFc修飾の非限定的な例としては、例えば、250位(例えば、EまたはQ)、250位および428位(例えば、LまたはF)、252位(例えば、L/Y/F/WまたはT)、254位(例えば、SまたはT)、および256位(例えば、S/R/Q/E/DまたはT)での修飾、あるいは428位および/または433位(例えば、L/R/S/P/QまたはK)および/または434位(例えば、H/FまたはY)での修飾、あるいは250位および/または428位の修飾、あるいは307位または308位(例えば、FまたはP)および434位での修飾が挙げられる。一実施形態では、修飾は428L(例えば、M428L)および434S(例えば、N434S)の修飾、428L、259I(例えば、V259I)、および308F(例えば、V308F)の修飾、433K(例えば、H433K)および434(例えば、434Y)の修飾、252、254、および256(例えば、252Y、254T、および256E)の修飾、250Qおよび428Lの修飾(例えば、T250QおよびM428L)、307および/または308の修飾(例えば、308Fまたは308P)を含む。
【0156】
本発明はまた、第1のCH3ドメインおよび第2のIgCH3ドメインを含む二重特異性抗原結合分子を含み、第1および第2のIgCH3ドメインは、少なくとも1つのアミノ酸ほど互いに異なっており、少なくとも1つのアミノ酸の相違は、アミノ酸の相違を欠失する二重特異性抗体と比較して、プロテインAへの二重特異性抗体の結合を低減させる。一実施形態では、第1のIgCH3ドメインはプロテインAを結合し、第2のIgCH3ドメインはH95R修飾(IMGTエクソン番号付けによる、EU番号付けではH435R)などのプロテインA結合を低減または消失させる変異を含有する。第2のCH3は、Y96F修飾(IMGTによるものであり、EUではY436F)をさらに含み得る。例えば、米国特許第8,586,713号を参照されたい。第2のCH3内で見出され得るさらなる修飾には、IgG1抗体の場合、D16E、L18M、N44S、K52N、V57M、およびV82I(IMGTによる、EUによればD356E、L358M、N384S、K392N、V397M、およびV422I)、IgG2抗体の場合、N44S、K52N、およびV82I(IMGTによる、EUによればN384S、K392N、およびV422I)、ならびにIgG4抗体の場合、Q15R、N44S、K52N、V57M、R69K、E79Q、およびV82I(IMGTによる、EUによればQ355R、N384S、K392N、V397M、R409K、E419Q、およびV422I)が含まれる。
【0157】
特定の実施形態では、Fcドメインは、2つ以上の免疫グロブリンアイソタイプに由来するFc配列を組み合わせたキメラであり得る。例えば、キメラFcドメインは、ヒトIgG1、ヒトIgG2、またはヒトIgG4のCH2領域に由来するCH2配列の一部または全部、およびヒトIgG1、ヒトIgG2、またはヒトIgG4に由来するCH3配列の一部または全部を含むことができる。キメラFcドメインはまた、キメラヒンジ領域を含み得る。例えば、キメラヒンジは、ヒトIgG1ヒンジ領域、ヒトIgG2ヒンジ領域、またはヒトIgG4ヒンジ領域に由来する「下部ヒンジ」配列と組み合わせた、ヒトIgG1ヒンジ領域、ヒトIgG2ヒンジ領域、またはヒトIgG4ヒンジ領域に由来する「上部ヒンジ」配列を含むことができる。本明細書に記載の抗原結合分子のいずれかに含まれ得るキメラFcドメインの特定の例は、N末端からC末端へ、[IgG4CH1]-[IgG4上部ヒンジ]-[IgG2下部ヒンジ]-[IgG4CH2]-[IgG4CH3]を含む。本明細書に記載の抗原結合分子のいずれかに含まれ得るキメラFcドメインの別の例は、N末端からC末端へ、[IgG1CH1]-[IgG1上方ヒンジ]-[IgG2下方ヒンジ]-[IgG4CH2]-[IgG1CH3]を含む。本発明の抗原結合分子のいずれかに含まれ得るキメラFcドメインのこれらおよび他の例は、2014年8月28日に公開された米国特許公開第2014/0243504号に記載されており、その全体が本明細書に組み込まれる。これらの一般的な構造配置を有するキメラFcドメイン、およびその変異体は、Fc受容体結合を変えてしまうことができ、そのことがFcエフェクター機能に影響を及ぼす。
【0158】
特定の実施形態では、本発明は、抗体重鎖を提供し、重鎖定常領域(CH)領域が、配列番号34、配列番号36、配列番号38、または配列番号56のうちのいずれか1つと、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%同一のアミノ酸配列を含む。一部の実施形態では、重鎖定常領域(CH)領域は、配列番号34、配列番号36、配列番号38、および配列番号56からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0159】
配列変異体
本明細書の抗体および二重特異性抗原結合分子は、個々の抗原結合ドメインが由来した対応する生殖系列配列と比較して、重鎖および軽鎖可変ドメインのフレームワークおよび/またはCDR領域に1つ以上のアミノ酸置換、挿入および/または欠失を含み得る。かかる変異は、本明細書中に開示するアミノ酸配列を、例えば公共の抗体配列データベースから入手可能な生殖系列配列と比較することによって容易に確認することができる。本発明の抗原結合分子は、本明細書に開示する例示的なアミノ酸配列のいずれかに由来する抗原結合ドメインを含んでもよく、1つ以上のフレームワークおよび/またはCDR領域内の1つ以上のアミノ酸は、抗体が由来した生殖系列配列の対応する残基(複数可)へ、または別のヒト生殖系列配列の対応する残基(複数可)へ、または対応する生殖系列残基(複数可)の保存的アミノ酸置換へ変異する(かかる配列変化はまとめて、「生殖系列変異」と本明細書で呼ばれる)。当業者は、本明細書に開示する重鎖可変領域配列および軽鎖可変領域配列から出発して、1つ以上の個々の生殖系列変異またはこれらの組み合わせを含む多数の抗体および抗体結合断片を容易に産生することができる。特定の実施形態では、VHおよび/またはVLドメイン内のフレームワークおよび/またはCDR残基は全て、抗原結合ドメインが本来由来した元の生殖系列配列において見出される残基へと再び突然変異する。他の実施形態では、ある特定の残基のみが元の生殖系列配列へと変異し戻され、例えば、変異した残基はFR1の最初の8個のアミノ酸内に、もしくは変異した残基はFR4の最後の8個のアミノ酸内に認められ、または変異した残基は、CDR1、CDR2もしくはCDR3内にのみ認められる。他の実施形態では、フレームワークおよび/またはCDR残基(複数可)の1つ以上は、異なる生殖系列配列(すなわち、抗原結合ドメインが本来由来した生殖系列配列とは異なる生殖系列配列)の対応する残基(複数可)へ変異する。さらに、抗原結合ドメインは、フレームワークおよび/またはCDR領域内に2つ以上の生殖系列変異のいずれかの組み合わせを含有してもよく、例えば、特定の個々の残基は、特定の生殖系列配列の対応する残基へ変異するのに対し、元の生殖系列配列とは異なるある特定の他の残基は維持され、または異なる生殖系列配列の対応する残基へ変異する。一度得られると、1つ以上の生殖系列変異を含有する抗原結合ドメインは、結合特異性の改善、結合親和性の増大、アンタゴニストまたはアゴニストの生物学的特性の改善または増強(場合によって)、免疫原性の低下などの1つ以上の所望の特性について容易に試験することができる。この一般的な様式で得られた1つ以上の抗原結合ドメインを含む二重特異性抗原結合分子は、本発明の範囲内に包含される。
【0160】
本発明はまた、一方または両方の抗原結合ドメインが、1つ以上の保存的置換を有する本明細書に開示するHCVRアミノ酸配列、LCVRアミノ酸配列、および/またはCDRアミノ酸配列のいずれかの変異体を含む、抗原結合分子を含む。例えば、本発明は、本明細書に開示するHCVRアミノ酸配列、LCVRアミノ酸配列、および/またはCDRアミノ酸配列のいずれかに対して、例えば10個以下、8個以下、6個以下、または4個以下などの保存的アミノ酸置換を有するHCVRアミノ酸配列、LCVRアミノ酸配列、および/またはCDRアミノ酸配列を有する抗原結合ドメインを含む抗原結合分子を含む。「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基が、類似の化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を備えた側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基によって置換されたものである。概して、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化させないことになっている。類似の化学的特性を備えた側鎖を有するアミノ酸の基の例としては、(1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシン、(2)脂肪族-ヒドロキシル側鎖:セリンおよびトレオニン、(3)アミド含有側鎖:アスパラギンおよびグルタミン、(4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン、(5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、およびヒスチジン、(6)酸性側鎖:アスパラギン酸およびグルタミン酸、ならびに(7)含硫側鎖:システインおよびメチオニンが挙げられる。好ましい保存的アミノ酸置換基は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸-アスパラギン酸、およびアスパラギン-グルタミンである。あるいは、保存的置換とは、参照により本明細書に組み込まれるGonnet et al.(1992)Science 256:1443-1445に開示されるPAM250対数尤度行列において正値を有する任意の変化である。「適度に保存的な」置換とは、PAM250対数尤度マトリックスにおいて負以外の値を有する任意の変化である。
【0161】
本発明はまた、本明細書に開示されるHCVR、LCVR、および/またはCDRアミノ酸配列のいずれかと実質的に同一であるHCVR、LCVR、および/またはCDRアミノ酸配列を有する抗原結合ドメインを含む抗原結合分子を含む。アミノ酸配列意味する場合、「実質的な同一性」または「実質的に同一の」という用語は、2つのアミノ酸配列が、既定のギャップ重みを使用してプログラムGAPまたはBESTFITなどによって最適に整列した場合、少なくとも95%の配列同一性、さらにより好ましくは少なくとも98%、または99%の配列同一性を共有する。好ましくは、同一ではない残基位置は、保存的アミノ酸置換だけ異なる。2つ以上のアミノ酸配列が保存的置換だけ互いに異なる場合、配列同一性の割合または類似性の程度は、置換の保存的性質を補正するために上向きに調整してもよい。この調整を行うための手段は、当業者に周知である。例えば、参照により本明細書に組み込まれるPearson(1994)Methods Mol.Biol.24:307-331を参照されたい。
【0162】
ポリペプチドに対する配列類似性は、配列同一性とも呼ばれ、典型的には配列分析ソフトウェアを使用して測定される。タンパク質解析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含む種々の置換、欠失および他の修飾へ割り当てられた類似の測定値を使用して類似の配列と一致させる。例えば、GCGソフトウェアは、異なる種の生物由来の相同ポリペプチドのような密接に関連するポリペプチド間の、または野生型タンパク質とその変異タンパク質の間の配列相同性または配列同一性を決定するための既定パラメータと共に使用することができるGapおよびBestfitなどのプログラムを含有する。例えば、GCG第6.1版を参照されたい。ポリペプチド配列は、GCG第6.1版におけるプログラムである、既定パラメータまたは推奨パラメータを備えたFASTAを使用して比較することもできる。FASTA(例えば、FASTA2およびFASTA3)は、問い合わせ配列と検索配列の間の最良重複の領域の整列およびパーセント配列同一性を提供する(Pearson(2000)上記)。本発明の配列を、異なる生物由来の多数の配列を含有するデータベースと比較する場合の別の好ましいアルゴリズムは、既定パラメータを使用するコンピュータプログラムBLAST、特にBLASTPまたはTBLASTNである。例えば、各々、参照により本明細書に組み込まれる、Altschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403-410およびAltschul et al.(1997)Nucleic Acids Res.25:3389-402を参照されたい。
【0163】
pH依存的結合
本発明は、pH依存性の結合特徴を有する、抗FcεR1α抗体、および抗CD3/抗FcεR1α二重特異性抗原結合分子を含む。例えば、本発明の抗抗FcεR1α抗体は、中性pHと比較して酸性pHでFcεR1αへの結合の低減を呈し得る。あるいは、本発明の抗FcεR1α抗体は、中性pHと比較して、酸性pHでFcεR1αへの増強された結合を示し得る。「酸性pH」という表現は、約6.2未満、例えば、約6.0、5.95、5、9、5.85、5.8、5.75、5.7、5.65、5.6、5.55、5.5、5.45、5.4、5.35、5.3、5.25、5.2、5.15、5.1、5.05、5.0以下のpH値を含む。本明細書で使用される場合、「中性pH」という表現は、約7.0~約7.4のpHを意味する。「中性pH」という表現は、約7.0、7.05、7.1、7.15、7.2、7.25、7.3、7.35、および7.4のpH値を含む。
【0164】
場合によっては、「中性pHと比較して酸性pHで...低減した結合」は、中性pHでその抗原に結合する抗体のKD値に対する酸性pHでその抗原に結合する抗体のKD値の比に関して表される(またはその逆)。例えば、抗体またはその抗原結合断片が、約3.0以上の酸性/中性KD比を呈する場合、本発明の目的で、抗体またはその抗原結合断片は、「中性pHと比較して酸性pHでFcεR1αに対して低減した結合」を呈すると見なされ得る。特定の例示的な実施形態では、本発明の抗体または抗原結合断片の酸性/中性KD比は、約3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0、10.5、11.0、11.5、12.0、12.5、13.0、13.5、14.0、14.5、15.0、20.0、25.0、30.0、40.0、50.0、60.0、70.0、100.0、またはそれ以上であり得る。
【0165】
pH依存性結合特性を有する抗体は、例えば、中性pHと比較して、酸性pHで特定の抗原への結合の低下(または増強)について抗体の集団をスクリーニングすることによって得ることができる。さらに、アミノ酸レベルでの抗原結合ドメインの修飾は、pH依存的特徴を有する抗体を産生し得る。例えば、抗原結合ドメイン(例えばCDR内)の1つ以上のアミノ酸をヒスチジン残基で置換することにより、中性pHに対して酸性pHで抗原結合が低下した抗体を得ることができる。
【0166】
Fc変異体を含む抗体
本発明の特定の実施形態によると、抗FcεR1α抗体、および抗CD3/抗FcεR1α二重特異性抗原結合分子が提供され、例えば、中性pHと比較して、酸性pHで、FcRn受容体への抗体結合を増強または減少させる1つ以上の変異を含むFcドメインを含む。例えば、本発明は、FcドメインのCH2またはCH3領域に変異を含む抗体を含み、変異(複数可)は、酸性環境においてFcRnに対するFcドメインの親和性を増加させる(例えば、pHが約5.5~約6.0の範囲のエンドソームにおいて)。かかる変異は、動物に投与したときに抗体の血清半減期の増加をもたらし得る。かかるFc修飾の非限定的な例としては、例えば、250位(例えば、EまたはQ)、250位および428位(例えば、LまたはF)、252位(例えば、L/Y/F/WまたはT)、254位(例えば、SまたはT)、および256位(例えば、S/R/Q/E/DまたはT)での修飾、あるいは428位および/または433位(例えば、L/R/S/P/QまたはK)および/または434位(例えば、H/FまたはY)での修飾、あるいは250位および/または428位の修飾、あるいは307位または308位(例えば、FまたはP)および434位での修飾が挙げられる。一実施形態では、修飾は428L(例えば、M428L)および434S(例えば、N434S)の修飾、428L、259I(例えば、V259I)、および308F(例えば、V308F)の修飾、433K(例えば、H433K)および434(例えば、434Y)の修飾、252、254、および256(例えば、252Y、254T、および256E)の修飾、250Qおよび428Lの修飾(例えば、T250QおよびM428L)、307および/または308の修飾(例えば、308Fまたは308P)を含む。
【0167】
例えば、本発明は、抗FcεR1α抗体、および抗CD3/抗FcεR1α二重特異性抗原結合分子を含み、250Qおよび248L(例えば、T250QおよびM248L)、252Y、254Tおよび256E(例えば、M252Y、S254TおよびT256E)、428Lおよび434S(例えば、M428LおよびN434S)、ならびに433Kおよび434F(例えば、H433KおよびN434F)からなる群から選択される1つ以上の変異対もしくは変異群を含むFcドメインを含む。前述のFcドメイン変異、および本明細書に開示される抗体可変ドメイン内の他の変異のすべての可能な組み合わせが、本発明の範囲内で熟慮される。
【0168】
抗体および二重特異性抗原結合分子の生物学的特性
特定の実施形態によると、本発明は、抗体および抗体の抗原結合断片を含み、例えば、本明細書の実施例3に定義されるようなアッセイ形式を使用して、表面プラズモン共鳴によって測定した場合、約303nM未満のKDでヒトFcεR1αに結合する(例えば、25℃で)、または約467nM未満のKDでカニクイザルFcεR1αに結合する(例えば、25℃で)。特定の実施形態では、本発明の抗体または抗原結合断片は、例えば、本明細書の実施例3に定義されるようなアッセイ形式、または実質的に類似のアッセイを使用して、表面プラズモン共鳴によって測定した場合、約400nM未満、約500nM未満、約450nM未満、約400nM未満、約350nM未満、約300nM未満、約250nM未満、約200nM未満、約150nM未満、または約100nM未満のKDで、ヒトもしくはカニクイザルFcεR1αに結合する。本発明は、二重特異性抗原結合分子(例えば、二重特異性抗体)を含み、例えば、本明細書の実施例3に定義されるようなアッセイ形式(例えば、mAb捕捉または抗原捕捉形式)、または実質的に類似のアッセイを使用して、表面プラズモン共鳴によって測定した場合、約467nM未満のKDで、ヒトもしくはカニクイザルFcεR1αに結合する。
【0169】
本発明はまた、抗体およびその抗原結合断片を含み、例えば、本明細書の実施例3に定義されるようなアッセイ形式、または実質的に類似のアッセイを使用して、25℃での表面プラズモン共鳴によって測定した場合、約0.2分超または約0.5分超の解離半減期(t1/2)で、ヒトFcεR1αに結合し、あるいは約0.3分超または約0.6分超の解離半減期(t1/2)で、カニクイザルFcεR1αに結合する。本発明は、二重特異性抗原結合分子(例えば、二重特異性抗体)を含み、例えば、本明細書の実施例3に定義されるようなアッセイ形式、または実質的に類似のアッセイを使用して、25℃での表面プラズモン共鳴によって測定した場合、約0.54分超または葯1.1分超のKDで、ヒトもしくはカニクイザルFcεR1αに結合する。
【0170】
本発明はまた、抗体およびその抗原結合断片も含み、実施例4に記載されるフローサイトメトリーに基づく検出アッセイ、または実質的に類似のアッセイによって決定した場合、ヒトまたはカニクイザルFcεR1αを発現するヒト細胞株(例えば、ヒトまたはカニクイザルFcεR1αを発現するように操作されたHEK293細胞)に特異的に結合する。
【0171】
本発明はまた、抗CD3/抗FcεR1α二重特異性抗原結合分子を含み、(a)IgEの不在下または存在下で細胞表面に発現するFcεR1αへの結合(例えば、実施例4を参照)、(b)FcεR1α発現細胞の存在下でヒトCD3シグナル伝達を活性化する(例えば、実施例5を参照)、(c)インビトロでFcεR1α発現細胞のT細胞媒介性アポトーシスを誘導する(例えば、実施例6を参照)、(d)インビトロで末梢血単核細胞(PBMC)集団における好塩基球のT細胞媒介性死滅を誘導する(例えば、実施例6を参照)、(e)ヒトFcεR1αを発現するマウスにおけるアレルゲン誘導性マスト細胞脱顆粒(例えば、アナフィラキシー)を遮断する(例えば、実施例7を参照)、および(f)ヒトFcεR1αを発現するマウスにおける脾臓好塩基球を枯渇させる(例えば、実施例7を参照)、からなる群から選択される1つ以上の特徴を示す。
【0172】
本発明は、高い親和性を有するヒトCD3に結合する抗体およびその抗原結合断片を含む。本発明はまた、治療状況および所望される特定の標的化特性に応じて、中程度または低い親和性を有するヒトCD3に結合する抗体およびその抗原結合断片を含む。本発明はまた、検出不可能な親和性を有するヒトCD3に結合する抗体およびその抗原結合断片を含む。例えば、一方のアームがCD3に結合し、別のアームが標的抗原(例えば、FcεR1α)に結合する二重特異性抗原結合分子の文脈では、抗CD3アームがCD3と中程度もしくは低い親和性で結合するか、または親和性がない一方で、標的抗原結合アームが高い親和性で標的抗原に結合することが望ましい場合がある。この様式において、標的抗原を発現する細胞への抗原結合分子の優先的標的化は、一般的/非標的化CD3結合およびそれに付随する結果として生じる有害な副作用を回避しながら達成され得る。
【0173】
本発明は、ヒトCD3およびヒトFcεR1αに同時に結合することができる二重特異性抗原結合分子(例えば、二重特異性抗体)を含む。CD3を発現する細胞と相互作用する結合アームは、適切なインビトロ結合アッセイで測定した場合に、弱から検出不可能な結合を有し得る。二重特異性抗原結合分子がCD3および/またはFcεR1αを発現する細胞に結合する程度は、本明細書の実施例4に例示されるように、蛍光標識細胞分取(FACS)によって評価することができる。
【0174】
例えば、本発明は、抗体、抗体結合断片、およびその二重特異性抗体を含み、FcεR1αを発現しないがCD3を発現するヒト細胞株、霊長類T細胞(例えば、カニクイザル末梢血単核細胞[PBMC])、および/またはFcεR1α発現細胞に特異的に結合する。
【0175】
本発明は、弱い(すなわち低い)親和性またはさらに検出不可能な親和性を有するヒトCD3に結合する抗体、その抗体結合断片、およびその二重特異性抗体を含む。
【0176】
本発明は、抗体、抗体結合断片、およびその二重特異性抗体を含み、弱い(すなわち、低い)親和性、またはさらに検出不可能な親和性で、サル(カニクイザル)CD3に結合する。
【0177】
本発明は、ヒトCD3に結合してT細胞活性化を誘導する抗体、その抗体結合断片、およびその二重特異性抗体を含む。
【0178】
本発明は、抗CD3/抗FcεR1α二重特異性抗原結合分子を含み、対象においてアレルギー応答を阻害する、および/またはFcεR1α発現細胞を枯渇することができる(例えば、受動皮膚アナフィラキシー(PCA)またはフローサイトメトリベースのアッセイ、または実質的に類似のアッセイにおける実施例7を参照)。例えば、特定の実施形態によると、抗CD3/抗FcεR1α二重特異性抗原結合分子が提供され、25mg/kgの二重特異性抗原結合分子を対象に単回投与すると、対象においてFcεR1α発現細胞の数の減少がもたらされる(例えば、脾臓好塩基球の数が有意に減少する)。
【0179】
エピトープマッピングおよび関連技術
本発明の抗原結合分子が結合するCD3および/またはFcεR1α上のエピトープは、CD3またはFcεR1αタンパク質の3つ以上(例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、またはそれ以上)のアミノ酸の単一の連続する配列からなっていてもよい。あるいは、エピトープは、CD3またはFcεR1αの複数の非連続アミノ酸(またはアミノ酸配列)からなっていてもよい。本発明の抗体は、単一のCD3鎖内に含まれるアミノ酸(例えば、CD3-イプシロン、CD3-デルタ、またはCD3-ガンマ)と相互作用し得るか、または2つ以上の異なるCD3鎖上のアミノ酸と相互作用し得る。本発明で使用する場合、「エピトープ」という用語は、パラトープとして既知の抗体分子の可変領域における特異的抗原結合部位と相互作用する抗原決定基を指す。単一の抗原は2つ以上のエピトープを有してもよい。したがって、異なる抗体は、抗原上の異なる領域へ結合し得、異なる生物学的効果を有し得る。エピトープは、立体配座または線状のいずれかであり得る。立体配座エピトープは、直鎖状ポリペプチド鎖の異なるセグメントから空間的に並置されたアミノ酸によって産生される。直鎖状エピトープは、ポリペプチド鎖中の隣接するアミノ酸残基によって産生されるものである。ある特定の状況において、エピトープは、抗原上の糖類、ホスホリル基、またはスルホニル基の部分を含み得る。
【0180】
当業者に既知の種々の技術を使用して、抗体の抗原結合ドメインがポリペプチドまたはタンパク質内にある「1つ以上のアミノ酸と相互作用する」かどうかを決定することができる。例示的な技術としては、例えば、Antibodies,Harlow and Lane(Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor.,NY)に記載されているアッセイ、アラニンスキャニング変異分析、ペプチドブロット分析(Reineke,2004,Methods Mol Biol 248:443-463)、およびペプチド切断分析が挙げられる。加えて、エピトープ切除、エピトープ抽出、および抗原の化学修飾などの方法を採用することができる(Tomer(2000)Protein Science 9:487-496)。抗体の抗原結合ドメインが相互作用するポリペプチド内のアミノ酸を同定するために用いることができる別の方法は、質量分析によって検出される水素/重水素交換である。一般的にいえば、水素/重水素交換法は、関心対象のタンパク質を重水素標識した後、抗体を重水素標識タンパク質へ結合させることを包含する。次に、タンパク質/抗体複合体を水に移して、抗体によって保護されている残基(重水素標識されたままである)を除くすべての残基で水素-重水素交換を生じさせる。抗体の解離後、標的タンパク質をプロテアーゼ切断および質量分析へ供し、それにより、抗体が相互作用する特異的アミノ酸に対応する重水素標識残基を明らかにする。例えば、Ehring(1999)Analytical
Biochemistry 267(2):252-259、Engen and Smith(2001)Anal.Chem.73:256A-265Aに記載されている。抗原/抗体複合体のX線結晶解析もまた、エピトープマッピング目的に使用してもよい。
【0181】
本発明はさらに、本明細書に記載の特定の例示的な抗体のいずれかと同じエピトープに結合する抗FcεR1α抗体を含む(例えば、本明細書の表1に記載されるアミノ酸配列のいずれかを含む抗体)。同様に、本発明はまた、FcεR1αへの結合に対して本明細書に記載の特定の例示的な抗体のいずれかと競合する抗FcεR1α抗体を含む(例えば、本明細書の表1に記載されるアミノ酸配列のいずれかを含む抗体)。
【0182】
本発明はまた、二重特異性抗原結合分子を含み、ヒトCD3および/またはカニクイザルCD3に特異的に結合する第1の抗原結合ドメインと、ヒトまたはカニクイザルFcεR1αに特異的に結合する第2の抗原結合ドメインとを含み、第1の抗原結合ドメインは、本明細書に記載の特定の例示的なCD3特異的抗原結合ドメインのいずれかと同じCD3上のエピトープに結合し、かつ/または第2の抗原結合ドメインは、本明細書に記載の特定の例示的なFcεR1α特異的抗原結合ドメインのいずれかと同じFcεR1α上のエピトープに結合する。
【0183】
同様に、本発明はまた、ヒトCD3に特異的に結合する第1の抗原結合ドメインと、ヒトFcεR1αに特異的に結合する第2の抗原結合ドメインと、を含む二重特異性抗原結合分子を含み、第1の抗原結合ドメインは、CD3への結合に対して、本明細書に記載の特定の例示的なCD3特異的抗原結合ドメインのいずれかと競合し、かつ/または第2の抗原結合ドメインは、FcεR1αへの結合に対して、本明細書に記載の特定の例示的なFcεR1α特異的抗原結合ドメインのいずれかと競合する。
【0184】
特定の抗原結合分子(例えば、抗体)またはその抗原結合ドメインが、本発明の参照抗原結合分子と同じエピトープに結合するか、または結合するために本発明の参照抗原結合分子と競合するかどうかは、当技術分野で既知の常法を使用して容易に決定できる。例えば、試験抗体が本発明の参照二重特異性抗原結合分子と同じFcεR1α(またはCD3)上のエピトープに結合するかどうかを決定するために、参照二重特異性分子を、最初にFcεR1αタンパク質(またはCD3タンパク質)に結合させる。次に、FcεR1α(またはCD3)分子に結合する試験抗体の能力を評価する。試験抗体が、参照二重特異性抗原結合分子に飽和結合した後で、FcεR1α(またはCD3)に結合することができる場合、試験抗体は、参照二重特異性抗原結合分子とは異なるFcεR1α(またはCD3)のエピトープに結合すると結論付けることができる。一方、試験抗体が、参照二重特異性抗原結合分子に飽和結合した後で、FcεR1α(またはCD3)分子に結合することができない場合、試験抗体は、本発明の参照二重特異性抗原結合分子が結合したエピトープと同じFcεR1α(またはCD3)のエピトープに結合している可能性がある。次に、試験抗体の結合の観察された欠失が、実際に、参照二重特異性抗原結合分子と同じエピトープへの結合によるものであるか、それとも立体遮断(または別の現象)が、観察された結合の欠失の原因であるのかを確認するために、さらなる通例の実験(例えば、ペプチド変異および結合分析)を実施することができる。この種の実験は、ELISA、RIA、Biacore、フローサイトメトリー、または当該技術分野で利用可能な任意の他の定量的もしくは定性的な抗体結合アッセイを使用して実施することができる。本発明の特定の実施形態によると、例えば、1倍、5倍、10倍、20倍、または100倍過剰量の一方の抗原結合タンパク質が、競合結合アッセイでの測定で少なくとも50%、しかし、好ましくは75%、90%、またはさらに99%他方の結合を阻害する場合、2つの抗原結合タンパク質は、同一(または重複)エピトープに結合する(例えば、Junghans et al.,Cancer Res.1990:50:1495-1502を参照されたい)あるいは、一方の抗原結合タンパク質の結合を低減または排除する抗原における本質的にすべてのアミノ酸変異が、もう一方の結合を低減または排除する場合、2つの抗原結合タンパク質は同じエピトープと結合すると見なされる。一方の抗原結合タンパク質の結合を減少または排除するアミノ酸変異のサブセットのみが他方の結合を減少または排除する場合、2つの抗原結合タンパク質は「重複エピトープ」を有するとみなされる。
【0185】
抗体またはその抗原結合ドメインが、結合について、参照抗原結合分子と競合するかどうかを決定するために、上に記載の結合方法を、2つの方向性で実施する。第1の方向性では、参照抗原結合分子を飽和条件下でFcεR1α(またはCD3)分子に結合させた後、試験抗体のFcεR1α(またはCD3)分子への結合を評価する。第2の方向性では、試験抗体を飽和条件下でFcεR1α(またはCD3)分子に結合させた後、参照抗原結合分子のFcεR1α(またはCD3)分子への結合を評価する。両方の方向性において、第1の(飽和)抗原結合分子のみがFcεR1α(またはCD3)分子に結合することができる場合、試験抗体および参照抗原結合分子は、FcεR1α(またはCD3)への結合に対して競合すると結論付けられる。当業者によって認識されるように、参照抗原結合分子との結合について競合する抗体は、必ずしも参照抗体と同一のエピトープへ結合するわけではないが、重複しているまたは隣接しているエピトープに結合することによって、参照抗体の結合を立体的に遮断し得る。
【0186】
抗原結合ドメインの調製および二重特異性分子の調製
特定の抗原に特異的な抗原結合ドメインは、当技術分野で既知の任意の抗体産生技術によって調製することができる。一度得られれば、2つの異なる抗原(例えば、CD3およびFcεR1α)に特異的な2つの異なる抗原結合ドメインを互いに対して適切に配置して、常法を使用して本発明の二重特異性抗原結合分子を産生することができる。(本発明の二重特異性抗原結合分子を構築するために使用できる例示的な二重特異性抗体フォーマットの考察は、本明細書の他所に提供される)。特定の実施形態では、本発明の多重特異性抗原結合分子の1つ以上の個々の構成要素(例えば、重鎖および軽鎖)は、キメラ抗体、ヒト化抗体または完全ヒト型抗体に由来する。かかる抗体を作製するための方法は当技術分野において周知である。例えば、本発明の二重特異性抗原結合分子の1つ以上の重鎖および/または軽鎖は、VELOCIMMUNE(商標)技術を使用して調製することができる。VELOCIMMUNE(商標)技術(または任意の他のヒト抗体生成技術)を使用して、特定の抗原(例えば、CD3またはFcεR1α)に対する高親和性キメラ抗体が、ヒト可変領域およびマウス定常領域を有して最初に単離される。抗体を、親和性、選択性、エピトープなどを含む望ましい特徴について特徴付けし選択する。マウス定常領域は、所望のヒト定常領域と置換されて、本発明の二重特異性抗原結合分子に組み込まれ得る完全ヒト型重鎖および/または軽鎖を生成する。
【0187】
遺伝子操作された動物は、ヒト二重特異性抗原結合分子を作製するために使用し得る。例えば、内因性マウス免疫グロブリン軽鎖可変配列を再編成および発現することができない、遺伝子改変マウスを使うことができ、マウスは、内在性マウスカッパ遺伝子座のマウスカッパ定常遺伝子に作動可能に連結されているヒト免疫グロブリン配列によってコードされる1つまたは2つのヒト軽鎖可変ドメインのみを発現する。かかる遺伝子改変マウスを使用して、2つの異なるヒト軽鎖可変領域遺伝子セグメントのうちの1つに由来する可変ドメインを含む同一の軽鎖と会合する2つの異なる重鎖を含む完全ヒト型二重特異性抗原結合分子を産生することできる。(例えば、US2011/0195454を参照されたい)。完全ヒト型とは、抗体またはその抗原結合断片もしくは免疫グロブリンドメインの各ポリペプチドの全長にわたるヒト型配列に由来するDNAによってコードされるアミノ酸配列を含む、抗体、またはその抗原結合断片もしくは免疫グロブリンドメインを指す。いくつかの例において、完全ヒト型配列は、ヒトに対して内因性のタンパク質に由来する。他の例において、完全ヒト型タンパク質またはタンパク質配列は、各成分配列がヒト型配列に由来するキメラ配列を含む。いずれの理論にも縛られないが、キメラタンパク質またはキメラ配列は、一般に、例えば任意の野生型ヒト免疫グロブリン領域またはドメインと比較して、成分配列の接合部における免疫原性エピトープの作成を最小にするように設計される。
【0188】
生物学的等価物
本発明は、本明細書に開示される例示的な分子のものとは異なるが、CD3および/またはFcεR1αに結合する能力を保持するアミノ酸配列を有する抗原結合分子を包含する。かかる変異体抗体は、親配列と比較してアミノ酸の1つ以上の付加、欠失、または置換を含むが、説明された二重特異性抗原結合分子の生物学的活性とは本質的に等価である生物学的活性を示す。
【0189】
本発明は、本明細書に記載の例示的な抗原結合分子のいずれかと生物学的に等価な抗原結合分子を含む。2つの抗原結合タンパク質または抗体は、例えば、それらが類似の実験条件下で単回用量または複数回用量のいずれかで同じモル用量で投与された場合に、吸収速度および吸収の程度が有意差を示さない医薬的等価物または医薬的選択肢である場合、生物学的等価物とみなされる。これらの吸収の程度は等価であるが吸収速度は等価ではなく、吸収速度におけるかかる差が意図的、かつ標識に反映されているので生物学的に等価とみなされ得る場合、いくつかの抗原結合タンパク質は、等価物または薬学的選択肢とみなされることになっており、例えば長期使用に及ぼす有効な身体薬剤濃度の達成に必須ではなく、試験した特定の薬剤製品にとって医学的に有意ではないとみなされる。
【0190】
一実施形態では、2つの抗原結合タンパク質は、これらの安全性、純度、および有効性において臨床的に有意性のある差がない場合、生物学的に等価である。
【0191】
一実施形態では、2つの抗原結合タンパク質は、免疫原性の臨床的に有意な変化または有効性の減退を含む有害作用のリスクの期待される上昇なしで参照生成物と生物学的生成物の間での切り替えなしで持続される療法と比較して、患者を1回以上切り替えられることができる場合、生物学的に等価である。
【0192】
一実施形態では、2つの抗原結合タンパク質は、これらが両方とも、使用条件(複数可)についての共通の機序または作用機序によって、かかる機序が既知である程度まで作用する場合、生物学的に等価である。
【0193】
生物学的等価性は、インビボおよびインビトロの方法によって実証され得る。生物学的等価性測定法には、例えば、(a)抗体またはその代謝産物の濃度が血液、血漿、血清または他の生物学的流体中で時間の関数として測定される、ヒトまたは他の哺乳類におけるインビボでの試験、(b)ヒトインビボ生物学的利用能データと相関した、このデータを合理的に予測しているインビトロ試験、(c)抗体(またはその標的)の適切な急性薬理学的効果が時間の関数として測定されるヒトまたは他の哺乳類におけるインビボ試験、および(d)抗原結合タンパク質の安全性、効能、または生物学的利用能もしくは生物学的等価性を確立する、十分に管理された臨床試験が含まれる。
【0194】
本明細書に示す例示的な二重特異性抗原結合分子の生物学的に等価な変異体は、例えば、残基もしくは配列の種々の置換を生じること、または生物活性に必要とされない末端もしくは内部の残基もしくは配列を欠失することによって構築され得る。例えば、生物学的活性にとって必須ではないシステイン残基は、再生の際の不必要または不正確な分子内ジスルフィド架橋の形成を防止するために、欠失または他のアミノ酸で置換することができる。他の文脈において、生物学的等価な抗原結合タンパク質は、分子のグリコシル化特性を修飾するアミノ酸変化、例えばグリコシル化を排除または除去する変異を含む、本明細書に記載の例示的な二重特異性抗原結合分子の変異体を含み得る。
【0195】
種の選択性および種の交差反応性
本発明の特定の実施形態によると、ヒトCD3に結合する抗原結合分子が提供される。また、ヒトFcεR1αに結合する抗原結合分子も提供される。本発明はまた、CD3もしくは1つ以上の非ヒト種由来のCD3に結合する抗原結合分子、および/またはヒトFcεR1αもしくは1つ以上の非ヒト種(例えば、カニクイザル)由来のFcεR1αに結合する抗原結合分子を含む。
【0196】
本発明の特定の例示的な実施形態によると、抗原結合分子が提供され、ヒトCD3および/またはヒトFcεR1αに結合し、場合によっては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、スナネズミ、ブタ、ネコ、イヌ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラクダ、カニクイザル、マーモセット、アカゲザル、カニクイザルまたはチンパンジーのCD3および/またはFcεR1αのうちの1つ以上に結合できるか、または結合できない。例えば、本発明の特定の例示的な実施形態では、二重特異性抗原結合分子が提供され、ヒトCD3に結合する第1の抗原結合ドメインと、ヒトまたはカニクイザルFcεR1αに結合する第2の抗原結合ドメインと、を含む。
【0197】
治療用製剤および投与
本発明は、本発明の抗原結合分子を含む薬学的組成物を提供する。本発明の薬学的組成物は、適切な担体、賦形剤、および改善された移動、送達、耐性などをもたらす他の薬剤と共に製剤化される。多くの適切な製剤は、すべての製薬化学者に既知の処方集:Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Easton,PA。これらの製剤には、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゼリー、ワックス、油、ベシクル(LIPOFECTIN(商標)、Life Technologies、Carlsbad、CAなど)を含有する脂質(カチオン性またはアニオン性)、DNA複合体、無水吸収ペースト、水中油エマルションおよび油中水エマルション、エマルションカーボワックス(種々の分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、ならびにカーボワックスを含有する半固体混合物が含まれる。Powell et al.“Compendium of excipients for parenteral formulations”PDA(1998)J
Pharm Sci Technol 52:238-311も参照されたい。
【0198】
患者に投与される抗原結合分子の用量は、患者の年齢および大きさ、標的疾患、病態、投与経路などに応じて変わり得る。好ましい用量は、典型的には体重または体表面積に従って計算される。本発明の二重特異性抗原結合分子が成人患者の治療目的に使用される場合、本発明の二重特異性抗原結合分子を、通常、約0.01~約50mg/kg体重、より好ましくは、約0.1~約25mg/kg体重、約1~約25mg/kg体重、または約5~約25mg/kg体重の単回投与で、静脈内投与することが有利であり得る。病態の重症度に応じて、治療の頻度および期間を調整することができる。二重特異性抗原結合分子を投与するための有効投与量およびスケジュールは経験的に決定され、例えば、患者の経過を定期的な評価によってモニターし、それに応じて用量を調整することができる。さらに、投与量の種間スケーリングは、当技術分野において周知の方法を使用して実施することができる(例えば、Mordenti et al.,1991,Pharmaceut.Res.8:1351)。
【0199】
種々の送達系は既知であり、本発明の薬学的組成物を投与するために使用することができ、例えば、リポソーム、微粒子、マイクロカプセルにおける封入、変異ウイルスを発現することのできる組換え細胞、受容体媒介性エンドサイトーシスである(例えば、Wu et al.,1987,J.Biol.Chem.262:4429-4432を参照されたい)。導入方法には、皮内経路、経皮経路、筋肉内経路、腹腔内経路、静脈内経路、皮下経路、鼻腔内経路、硬膜外経路および経口経路が含まれるが、これらに限定されない。組成物は、例えば、注入もしくはボーラス注射、上皮または粘膜皮膚内層(linings)(例えば、口腔粘膜、直腸および腸粘膜など)を介した吸収による任意の好都合な経路によって投与することができ、他の生物学的に活性な薬剤と一緒に投与することができる。投与は全身または局所であり得る。
【0200】
本発明の薬学的組成物は、標準的な針および注射器を用いて皮下にまたは静脈内に送達することができる。加えて、皮下送達に関して、ペン送達デバイスは、本発明の薬学的組成物を送達する上での適用を容易に有する。かかるペン送達デバイスは、再利用可能または使い捨て可能であり得る。再利用可能なペン送達デバイスは、概して、薬学的組成物を含有する交換可能なカートリッジを利用する。一度、カートリッジ内の薬学的組成物がすべて投与され、カートリッジが空になると、この空のカートリッジは容易に廃棄することができ、薬学的組成物を含有する新しいカートリッジと容易に交換することができる。次に、ペン送達デバイスは再利用することができる。使い捨てのペン送達デバイスにおいて、交換可能なカートリッジは存在しない。むしろ、使い捨てペン送達デバイスは、このデバイス内の貯蔵器の中に保持された薬学的組成物が事前に充填されている。一度、貯蔵器が薬学的組成物に関して空になると、デバイス全体が廃棄される。
【0201】
数多くの再利用可能なペン送達デバイスおよび自動注射送達デバイスは、本発明の薬学的組成物の皮下送達における用途を有する。例としては、AUTOPEN(商標)(Owen Mumford,Inc.,Woodstock,UK)、DISETRONIC(商標)pen(Disetronic Medical Systems,Bergdorf,Switzerland)、HUMALOG MIX 75/25(商標)pen、HUMALOG(商標)pen、HUMALIN 70/30(商標)pen(Eli Lilly and Co.,Indianapolis,IN)、NOVOPEN(商標)I,IIおよびIII(Novo Nordisk,Copenhagen,Denmark)、NOVOPEN JUNIOR(商標)(Novo Nordisk,Copenhagen,Denmark)、BD(商標)pen(Becton Dickinson,Franklin Lakes,NJ)、OPTIPEN(商標)、OPTIPEN PRO(商標)、OPTIPEN STARLET(商標)、およびOPTICLIK(商標)(sanofi-aventis,Frankfurt,Germany)が挙げられるが、これらに限定されず、ほんの数種類しか挙げていない。本発明の薬学的組成物の皮下送達での用途を有する使い捨てペン送達装置の例としては、SOLOSTAR(商標)ペン(Sanofi-aventis)、FLEXPEN(商標)(Novo Nordisk)、およびKWIKPEN(商標)(Eli Lilly)、SURECLICK(商標)自動注射器(Amgen,Thousand Oaks,CA)、PENLET(商標)(Haselmeier,Stuttgart,Germany)、EPIPEN(Dey,L.P.)およびHUMIRA(商標)ペン(Abbott Labs,Abbott Park IL)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0202】
ある特定の状況において、薬学的組成物は、徐放系で送達することができる。一実施形態では、ポンプを使用することができる(Langer,上記;Sefton,1987,CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201を参照されたい)。別の実施形態では、ポリマー材料を使用することができる。Medical Applications of Controlled Release,Langer and
Wise(eds.),1974,CRC Pres.,Boca Raton,Floridaを参照されたい。さらに別の実施形態において、徐放系を組成物の標的の近傍に配置することができ、それによって全身用量のほんの一部のみが必要となる(例えば、Goodson,1984,Medical Applications of Controlled Release,上記,vol.2,pp.115-138を参照されたい)。他の徐放系は、Langer,1990,Science 249:1527-1533による総説で論じられている。
【0203】
注射可能な調製物には、静脈内注射、皮下注射、皮内注射および筋肉内注射、点滴注入などのための剤形が含まれ得る。これらの注射可能な調製物は、公的に既知の方法によって調製され得る。例えば、注射可能な調製物は、例えば、注射用に従来通り使用される滅菌水性媒体または油性媒体中に上述の抗体またはその塩を溶解、懸濁または乳化させることによって調製され得る。注入用水性媒体としては、例えば、生理食塩水、グルコース含有等張液、および他の補助剤などがあり、これらは、アルコール(例えば、エタノール)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO-50(水素化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50mol)付加物)]などの適切な可溶化剤と組み合わせて使用してもよい。油性媒体として、例えば、ゴマ油、ダイズ油などが使用され、ベンジルベンゾエート、ベンジルアルコールなどの可溶化剤と組み合わせて使用してもよい。このように調製された注射は、好ましくは適切なアンプルに充填される。
【0204】
有益なことに、上記に記載される経口または非経口での使用のための薬学的組成物は、有効成分の用量に適合するために好適な単位用量の投薬形態へと調製される。かかる単位用量の剤形には、例えば、錠剤、ピル、カプセル、注射(アンプル)、坐薬などが含まれる。前述の含有される抗体の量は概して、単位用量の剤形あたり約5~約500mgであり、特に注射の形態では、前述の抗体は、約5~約100mgで、他の剤形については約10~約250mgで含有されることが好ましい。
【0205】
抗原結合分子の治療的使用
本発明は、抗FcεR1α抗体もしくはその抗原結合断片、またはCD3およびFcεR1αに特異的に結合する二重特異性抗原結合分子を含む治療用組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む方法を含む。治療用組成物は、本明細書に開示される抗体または二重特異性抗原結合分子のいずれかと薬学的に許容される担体または希釈剤とを含み得る。本明細書で使用される場合、「それを必要とする対象」という表現は、マスト細胞活性化障害、マスト細胞症またはアレルギーなどのFcεR1α関連疾患または障害のうちの1つ以上の症状または徴候を示すヒトまたは非ヒト動物(例えば、任意の種類のアレルギーに罹患している対象、または任意のアレルギー反応を示す対象)、あるいは、その他FcεR1α活性の阻害もしくは低減またはFcεR1α+細胞の枯渇(例えば、アナフィラキシー)から恩恵を受ける者、を意味する。
【0206】
本発明の抗体および二重特異性抗原結合分子(およびそれを含む治療用組成物)は、とりわけ、免疫応答の刺激、活性化および/または標的化が有益である任意の疾患または障害の治療に有用である。特に、本発明の抗FcεR1α抗体または抗CD3/抗FcεR1α二重特異性抗原結合分子は、FcεR1αの発現もしくは活性、またはFcεR1α+細胞の増殖に関連するかまたはそれによって媒介される任意の疾患または障害の治療、予防、および/または寛解に使用され得る。本発明の治療方法が達成される作用機序は、エフェクター細胞の存在下で、例えば、CDC、アポトーシス、ADCC、食作用、またはこれらの機序のうちの2つ以上の組み合わせによるFcεR1αを発現する細胞の死滅を含む。本発明の二重特異性抗原結合分子を使用して阻害または死滅させることができるFcεR1αを発現する細胞には、例えば、マスト細胞および/または好塩基球が含まれる。
【0207】
本発明の抗原結合分子は、例えば、マスト細胞活性化障害(マスト細胞活性化症候群など)、マスト細胞症、またはアレルギー喘息、花粉症、アナフィラキシー、アトピー性皮膚炎、慢性蕁麻疹、食物アレルギー、および花粉アレルギーを含むアレルギーを含む、IgEまたはFcεR1αの発現に関連する疾患または障害を治療するために使用され得る。アレルギーは、本明細書の他箇所に列挙されるように、1つ以上のアレルゲンへの曝露によって引き起こされ得る。本発明の特定の実施形態によると、抗FcεR1α抗体または抗FcεR1α/抗CD3二重特異性抗体は、重度のアレルギーに罹患している患者を治療するのに有用である。本発明の他の関連する実施形態によると、本明細書に開示される抗FcεR1α抗体または抗CD3/抗FcεR1α二重特異性抗原結合分子を、アナフィラキシーに罹患している患者に投与することを含む方法が提供される。アレルギー反応試験などの当該技術分野において既知の分析/診断方法を使用して、患者がアナフィラキシーに罹患しているかどうかを確かめることができる。
【0208】
特定の態様によると、本発明は、FcεR1α発現に関連する疾患または障害(例えば、アナフィラキシー)を治療するための方法を提供し、対象が重度のアレルギーであると決定された後、本明細書の他箇所に記載の抗FcεR1αまたは二重特異性抗原結合分子のうちの1つ以上を、対象に投与することを含む。例えば、本発明は、アレルギーを治療するための方法を含み、対象が他の療法(例えば、抗ヒスタミン療法)を受けてから1日、2日、3日、4日、5日、6日、1週間、2週間、3週間、もしくは4週間、2カ月、4カ月、6カ月、8カ月、1年、またはそれ以上後に、抗FcεR1α抗体または抗CD3/抗FcεR1α二重特異性抗原結合分子を、患者に投与することを含む。
【0209】
併用療法および製剤
本発明は、本明細書に記載の例示的な抗体および二重特異性抗原結合分子のいずれかを含む薬学的組成物を1つ以上の追加の治療剤と組み合わせて投与することを含む方法を提供する。本発明の抗原結合分子と組み合わせることができる、または組み合わせて投与することができる例示的な追加の治療剤としては、例えば、IgEアンタゴニスト(例えば、オマリズマブなどの抗IgE抗体)、またはIgEの小分子阻害剤(例えば、ダーピンE2_76などのダーピン)、IL-25阻害剤、IL-4阻害剤、IL-4受容体阻害剤(例えば、デュピルマブなどの抗IL-4R抗体)、IL-33阻害剤(例えば、抗IL-33抗体)、形質細胞除去剤(ablating agent)(例えば、BCMAxCD3二重特異性抗体)、およびTSLP阻害剤が挙げられる。特定の実施形態では、形質細胞除去剤は、B細胞成熟抗原(BCMA)標的化剤、プロテアソーム阻害剤、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤、B細胞活性化因子(BAFF)阻害剤、およびA増殖誘導リガンドの阻害剤(APRIL、CD256)からなる群から選択される。一実施形態では、BCMA標的化剤は、抗BCMA/抗CD3二重特異性抗体、BCMAに対するキメラ抗原受容体、および細胞傷害性薬物にコンジュゲートされた抗BCMA抗体からなる群から選択される。
【0210】
本発明の抗原結合分子と組み合わせて有益に投与され得る他の薬剤としては、抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、コルチコイド、エピネフリン、気管支拡張剤、鬱血除去剤、ロイコトリエンアンタゴニスト、またはマスト細胞阻害剤(例えば、クロモグリク酸ナトリウム)を含むアレルギー治療剤が挙げられる。
【0211】
本発明はまた、本明細書で言及された抗原結合分子およびIgEもしくはFcεR1αの阻害剤のうちのいずれかを含む治療剤の組み合せを含み、阻害剤は、アプタマー、アンチセンス分子、リボザイム、siRNA、ペプチボディ、ナノボディ、または抗体断片(例えば、Fab断片、F(ab’)2断片、Fd断片、Fv断片、scFv、dAb断片、または、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、最小認識単位などの他の操作された分子)である。本発明の抗原結合分子は、抗ウイルス薬、抗生物質、鎮痛薬、コルチコステロイドおよび/またはNSAIDと組み合わせて投与および/または同時製剤することもできる。
【0212】
追加の治療活性成分は(複数可)、本発明の抗原結合分子の投与の直前、同時に、または直後に投与してもよい。(本開示の目的のために、かかる投与計画は、追加の治療活性成分と「組み合わせて」抗原結合分子を投与することと見なされる。)
【0213】
本発明には、本発明の抗原結合分子が、本明細書の他所に記載の追加の治療活性成分(複数可)の1つ以上と同時製剤された薬学的組成物が含まれる。
【0214】
投与レジメン
本発明の特定の実施形態によると、複数回用量の抗原結合分子(例えば、FcεR1α抗体、またはFcεR1αおよびCD3に特異的に結合する二重特異性抗原結合分子)を、所定のタイムコースわたって対象に投与することができる。本発明のこの態様による方法は、複数回用量の本発明の抗原結合分子を、対象に逐次投与することを含む。本明細書で使用される場合、「連続的に投与すること」は、抗原結合分子の各用量が、異なる時点、例えば、所定の間隔(例えば、数時間、数日間、数週間または数か月間)によって分けられた異なる日に対象へ投与されることを意味する。本発明には、抗原結合分子の単回の一次用量と、それに続く抗原結合分子の1回以上の二次用量、次いで場合により抗原結合分子の1回以上の三次用量を患者へ連続的に投与することを含む方法が含まれる。
【0215】
「一次用量」、「二次用量」、および「三次用量」という用語は、本発明の抗原結合分子の投与の時系列を指す。したがって、「一次用量」とは、治療様式の開始時に投与される用量(「ベースライン用量」とも呼ばれる)であり、「二次用量」とは、一次用量後に投与される用量であり、「三次用量」とは、二次用量後に投与される用量である。一次用量、二次用量、および三次用量はすべて、同じ量の抗原結合分子を含有し得るが、概して、投与頻度に関して互いに異なり得る。しかしながら、特定の実施形態では、一次用量、二次用量および/または三次用量に含有される抗原結合分子の量は、治療経過の間、互いに異なる(例えば、適宜上下に調整される)。特定の実施形態では、2回以上(例えば、2回、3回、4回、または5回)の用量が治療レジメンの開始時において「負荷用量(loading dose)」として投与され、続いてより低い頻度に基づいて投与される後続用量(例えば、「維持用量」)が投与される。
【0216】
本発明のある例示的な実施形態において、各二次用量および/または三次用量は、直前の用量の1~26(例えば、1、1と1/2、2、2と1/2、3、3と1/2、4、4と1/2、5、5と1/2、6、6と1/2、7、7と1/2、8、8と1/2、9、9と1/2、10、10と1/2、11、11と1/2、12、12と1/2、13、13と1/2、14、14と1/2、15、15と1/2、16、16と1/2、17、17と1/2、18、18と1/2、19、19と1/2、20、20と1/2、21、21と1/2、22、22と1/2、23、23と1/2、24、24と1/2、25、25と1/2、26、26と1/2、またはそれ以上)週間後に投与される。「直前の用量」という句は、本明細書で使用される場合、一連の複数回投与において、抗原結合分子の用量を意味し、これは、介入用量のない直後の用量の投与の前に患者へ投与される。
【0217】
本発明のこの態様による方法は、任意の回数の二次用量および/または三次用量の抗原結合分子(例えば、FcεR1α抗体、またはFcεR1αおよびCD3に特異的に結合する二重特異性抗原結合分子)を患者に投与することを含んでもよい。例えば、特定の実施形態では、単回の二次用量のみが患者に投与される。他の実施形態では、2回以上(例えば、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回またはそれ以上)の二次用量が患者に投与される。同様に、特定の実施形態では、単回の三次用量のみが患者に投与される。他の実施形態では、2回以上(例えば、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回またはそれ以上)の三次用量が患者に投与される。
【0218】
複数回の二次用量を伴う実施形態において、各二次用量は他の二次用量と同じ頻度で投与され得る。例えば、各二次用量は、直前の用量の1~2週間後に患者に投与されてもよい。同様に、複数の三次用量を含む実施形態において、各三次用量は他の三次用量と同じ頻度で投与されてもよい。例えば、各三次用量は、直前の用量の2~4週間後に患者に投与されてもよい。あるいは、二次用量および/または三次用量が患者へ投与される頻度は、治療計画の経過にわたって変動し得る。投与頻度はまた、臨床検査後の個々の患者の必要性に応じて、医師によって治療経過の間に調整され得る。
【0219】
一実施形態では、抗原結合分子(例えば、FcεR1α抗体、またはFcεR1αおよびCD3に特異的に結合する二重特異性抗原結合分子)を、体重に基づく用量として対象に投与する。「体重に基づく用量」(例えば、mg/kg単位の用量)は、対象の体重に応じて変化する、抗体もしくはその抗原結合断片または二重特異性抗原結合分子の用量である。
【0220】
別の実施形態では、抗体もしくはその抗原結合断片または二重特異性抗原結合分子を、固定用量として対象に投与する。「固定用量」(例えば、mg単位の用量)は、抗体もしくはその抗原結合断片または二重特異性抗原結合分子の一用量が、体重などの任意の特定の対象に関連する因子にかかわらず、すべての対象に使用されることを意味する。特定の一実施形態では、本発明の抗体もしくはその抗原結合断片または二重特異性抗原結合分子の固定用量は、所定の体重または年齢に基づく。
【0221】
一般に、本発明の抗原結合分子の好適な用量は、レシピエントの体重1キログラムあたり約0.001~約200.0mgの範囲、概して、体重1キログラムあたり約1~50mgの範囲であり得る。例えば、抗体もしくはその抗原結合断片または二重特異性抗原結合分子は、単回用量あたり約0.1mg/kg、約0.5mg/kg、約1mg/kg、約1.5mg/kg、約2mg/kg、約3mg/kg、約5mg/kg、約10mg/kg、約15mg/kg、約20mg/kg、約25mg/kg、約30mg/kg、約40mg/kg、約50mg/kgで投与することができる。列挙された値の中間の値および範囲も、本発明の一部であることが意図される。
【0222】
一部の実施形態では、本発明の抗原結合分子は、約1mg~約2500mgの固定用量として投与される。一部の実施形態では、本発明の抗原結合分子は、約1mg、2mg、3mg、5mg、10mg、15mg、20mg、25mg、約30mg、約50mg、約75mg、約100mg、約125mg、約150mg、約175mg、200mg、約225mg、約250mg、約275mg、約300mg、約325mg、約350mg、約375mg、約400mg、約425mg、約450mg、約475mg、約500mg、約525mg、約550mg、約575mg、約600mg、約625mg、約650mg、約675mg、約700mg、約725mg、約750mg、約775mg、約800mg、約825mg、約850mg、約875mg、約900mg、約925mg、約950mg、約975mg、約1000mg、約1500mg、約2000mg、または約2500mgの固定用量として投与される。列挙された値の中間の値および範囲もまた、本発明の一部であることが意図される。
【0223】
抗体の診断的使用
本発明の抗FcεR1α抗体はまた、例えば診断目的のために、試料中のFcεR1α、またはFcεR1α発現細胞を検出および/または測定するために使用してもよい。例えば、抗FcεR1α抗体またはその断片を使用して、FcεR1αの異常な発現(例えば、過剰発現、過少発現、発現の欠如など)を特徴とする病態または疾患を診断してよい。FcεR1αについての例示的な診断アッセイは、例えば、患者から得られた試料を本発明の抗FcεR1α抗体と接触させることを含んでもよく、抗FcεR1α抗体は、検出可能な標識またはレポーター分子で標識されている。あるいは、非標識抗FcεR1α抗体は、それ自体が検出可能に標識された二次抗体と組み合わせて、診断用途において使用することができる。検出可能な標識またはレポーター分子は、3H、14C、32P、35Sもしくは125Iなどの放射性同位体、フルオレセインイソチオシアナートもしくはローダミンなどの蛍光部分もしくは化学発光部分、またはアルカリホスファターゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、もしくはルシフェラーゼなどの酵素であり得る。本発明の抗FcεR1α抗体の別の例示的な診断用途は、対象においてマスト細胞、好塩基球、または他のFcεR1α発現細胞を非侵襲的に識別および追跡する目的のための(例えば、ポジトロン放出断層撮影(PET)イメージング)、89Zr-デスフェリオキサミン標識などの89Zrで標識された抗体を含む(例えば、Tavare,R.et al.Cancer Res.2016 Jan 1;76(1):73-82; and Azad,BB.et al.Oncotarget.2016 Mar 15;7(11):12344-58を参照されたい)。試料中のFcεR1αを検出または測定するために使用することができる具体的で例示的なアッセイには、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、および蛍光活性化細胞選別(FACS)が含まれる。
【0224】
本発明によるFcεR1α診断アッセイにおいて使用することができる試料には、正常な条件または病理学的条件下で、検出可能な量のFcεR1αタンパク質またはその断片を含有する、患者から得ることのできる任意の組織または体液試料が含まれる。一般に、健常な患者(例えば、異常なFcεR1αのレベルまたは活性に関連した疾患または病態に罹患していない患者)から得られた特定の試料中のFcεR1αのレベルは、FcεR1αのベースラインレベルまたは標準レベルを最初に確立するために測定されるであろう。次いで、このFcεR1αのベースラインレベルを、FcεR1α関連疾患(例えば、アレルギーの患者)または病態を有することが疑われる個体から得られた試料において測定されたFcεR1αのレベルと比較することができる。
【実施例】
【0225】
以下の実施例は、本発明の方法および組成物をどのように作製および使用するかに関する完全な開示および説明を当業者に提供するために提示されており、本発明者らが本発明とみなすことの範囲を限定することを企図するものではない。使用される数値(例えば、量、温度など)に関して正確性を確保するための努力はしてきたが、いくつかの実験上の誤差および偏差が考慮されるべきである。別段示されない限り、部分は重量部分であり、分子量は平均分子量であり、温度は摂氏度であり、圧力は大気圧またはそれに近い圧力である。
【0226】
実施例1.抗体の生成
抗FcεR1α抗体の生成
抗FcεR1α抗体は、遺伝子改変マウスをヒトFcεR1α抗原(例えば、hFcεR1α、配列番号63)で免疫することによって、またはヒト免疫グロブリン重鎖およびカッパ軽鎖可変領域をコードするDNAを含む遺伝子操作マウスをヒトFcεR1α抗原で免疫することによって得られた。
【0227】
免疫後、各マウスから脾細胞を採取し、(1)マウス骨髄腫細胞と融合して、それらの生存を維持し、ハイブリドーマ細胞を形成して、FcεR1α特異性についてスクリーニングするか、または(2)反応性抗体(抗原陽性B細胞)に結合しそれを識別する選別試薬としてヒトFcεR1α断片を使用して、B細胞を選別するかのいずれかを行った(US2007/0280945A1に記載の通り)。
【0228】
ヒト可変領域およびマウス定常領域を有するFcεR1αに対するキメラ抗体を、最初に単離した。抗体を、親和性、選択性などを含む望ましい特徴について特徴付けし選択する。必要ならば、マウス定常領域を所望のヒト定常領域、例えば、野生型または改変されたIgG1またはIgG4の定常領域と置換して、完全ヒト抗FcεR1α抗体を生成した。選択された定常領域は特異的用途に応じて変化し得るが、高親和性抗原結合特徴および標的特異性特徴は、可変領域に存在する。
【0229】
本実施例の方法に従って生成された例示的な抗FcεR1α抗体のある特定の生物学的特性を、以下に記載される実施例において詳細に説明する。
【0230】
抗CD3抗体の生成
抗CD3抗体は、参照により本明細書に組み込まれるWO2017/053856に記載されているように生成された。本発明に従って、二重特異性抗CD3/FcεR1α抗体を産生するために、例示的な抗CD3抗体を選択した。本発明による二重特異性抗体の調製に使用するための他の抗CD3抗体は、例えば、WO2014/047231に見出すことができる。
【0231】
この実施例の方法に従って生成された例示的な抗CD3抗体の特定の生物学的特性が、本明細書の実施例において詳細に説明される。
【0232】
FcεR1αおよびCD3に結合する二重特異性抗体の生成
本発明は、CD3およびFcεR1αに結合する二重特異性抗原結合分子を提供し、かかる二重特異性抗原結合分子はまた、本明細書において「抗FcεR1α/抗CD3二重特異性分子」または「抗FcεR1α×CD3二重特異性分子」とも呼ばれる。抗FcεR1α/抗CD3二重特異性分子の抗FcεR1α部分は、FcεR1αを発現する細胞を標的化するのに有用であり、二重特異性分子の抗CD3部分は、T細胞を活性化するのに有用である。細胞上のFcεR1αおよびT細胞上のCD3の同時結合は、活性化T細胞によって標的FcεR1α発現細胞の特異的死滅(細胞溶解)を促進する。
【0233】
抗FcεR1α特異的結合ドメインおよび抗CD3特異的結合ドメインを含む二重特異性抗体を、標準的な方法を用いて構築し、抗FcεR1α抗原結合ドメインおよび抗CD3抗原結合ドメインがそれぞれ共通のLCVRと対をなす異なる別個のHCVRを含む。例示された二重特異性抗体では、これらの分子は、抗CD3抗体からの重鎖、抗FcεR1α抗体からの重鎖、および抗CD3抗体からの共通の軽鎖を利用して構築された(WO2017/053856)。他の例では、二重特異性抗体は、抗CD3抗体からの重鎖、抗FcεR1α抗体からの重鎖、および抗CD3抗体からの軽鎖もしくは抗FcεR1α抗体からの軽鎖または乱雑であるかもしくは様々な重鎖アームと効果的に対合することが既知である任意の他の軽鎖、を利用して構築され得る。二重特異性抗体の任意の成分が由来する抗FcεR1α抗体および抗CD3抗体は、時には、親抗体と呼ばれることもある。
【0234】
以下の実施例に記載される二重特異性抗体は、抗CD3結合アーム、および抗FcεR1α結合アームを含む。IgG4Fcドメイン(bsAb24919D、bsAb24920D、およびbsAb24921D)を有する例示的な二重特異性抗体を製造した。
【0235】
構築した様々な抗FcεR1α×CD3二重特異性抗体の抗原結合ドメインの構成部分の概要を、表5に示す。
【0236】
実施例2.重鎖可変領域および軽鎖可変領域のアミノ酸配列および核酸配列
表1は、本発明の選択された抗FcεR1α抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域(HCVRおよびLCVR)、CDRならびに重鎖ならびに軽鎖(HCおよびLC)のアミノ酸配列識別子を示す。対応する核酸配列識別子を表2に示す。
【表1】
【表2】
【0237】
表3は、本発明の例示的な抗CD3抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域(HCVRおよびLCVR)、ならびにCDRならびに重鎖および軽鎖(HCおよびLC)のアミノ酸配列識別子を示す。対応する核酸配列識別子を表4に示す。
【表3】
【表4】
【0238】
構築した様々な抗FcεR1α×CD3二重特異性抗体の構成部分の概要を、表5に示す。表6、7、および8に、二重特異性抗体のHCVR、LCVR、CDR、ならびに重鎖および軽鎖配列識別子を列挙する。
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【0239】
実施例3.ヒトモノクローナル抗FcεR1α単一特異性抗体および抗FcεR1α16×CD3二重特異性抗体の表面プラズモン共鳴から導かれた結合親和性および動力学定数
精製された抗FcεR1αモノクローナル抗体(mAb)およびCD3×FcεR1α二重特異性抗体(bsAb)に結合するヒトまたはカニクイザルFcεR1αエクトドメインの平衡解離定数(KD)は、リアルタイム表面プラズモン共鳴バイオセンサー(SPR-Biacore)Biacore8kを使用して決定した。すべての結合研究は、25℃および37℃で、10mMのHEPES、150mMのNaCl、3mMのEDTA、および0.05%v/vの界面活性剤Tween-20、pH7.4(HBS-ET)の泳動用緩衝液中で行われた。
【0240】
BiacoreCM4センサーの表面を、最初にモノクローナルマウス抗ヒトFc抗体とのアミンカップリングによって誘導体化して、およそ500~900RUの抗FcεR1αモノクローナル抗体または抗CD3×FcεR1α二重特異性モノクローナル抗体を捕捉した。製造元によって定義されるように、1RU(response unit、応答ユニット)は、1mm
2あたり1pgのタンパク質を表す。ヒトおよびカニクイザルFcεR1α試薬のエクトドメインを、C末端myc-myc-6xHisタグ-hFcεR1α.MMH(配列番号57)およびmfFcεR1α.MMH(配列番号58)を用いて発現させた。異なる濃度のFcεR1α試薬を、HBS-ET泳動緩衝液(600nM~7.4nM、3倍ごとの段階希釈)中で調製し、30μL/分の流量で、抗ヒトFcで捕捉された抗FcεR1αモノクローナル抗体または抗CD3xFcεR1α二重特異性モノクローナル抗体の表面上に1分間注入した。結合したFcεR1α試薬の解離を、HBS-ET泳動緩衝液中で4分間モニタリングした。会合速度定数(k
a)および解離速度定数(k
d)は、Biacore8k評価ソフトウェアを使用して、リアルタイム結合センサグラムを物質移動限界を用いて1:1結合モデルにあてはめることによって決定した。結合解離平衡定数(K
D)および解離半減期(t1/2)を、動的速度定数から以下のように計算した:
【数1】
【0241】
25℃および37℃での本発明の異なる例示的な抗FcεR1αモノクローナル抗体または抗CD3xFcεR1α二重特異性モノクローナル抗体に結合する、hFcεR1α.MMHおよびmfFcεR1α.MMHの結合動力学パラメータを、表9~表12に示す。
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【0242】
表9に示すように、25℃で、本発明の例示的な抗FcεR1αモノクローナル抗体または抗CD3×FcεR1α二重特異性抗体は、127nM~303nMの範囲のKD値でhFcεR1α.MMHに結合した。表10に示すように、37℃で、本発明の例示的な抗FcεR1αモノクローナル抗体または抗CD3×FcεR1α二重特異性抗体は、444nM~1.55uMの範囲のKD値でhFcεR1α.MMHに結合した。
【0243】
表11に示すように、25℃で、本発明の例示的な抗FcεR1αモノクローナル抗体または抗CD3×FcεR1α二重特異性抗体は、195nM~467nMの範囲のKD値でmfFcεR1α.MMHに結合した。表12に示すように、37℃で、本発明の例示的な抗FcεR1αモノクローナル抗体または抗CD3×FcεR1α二重特異性抗体は、330nM~3.35uMの範囲のKD値でmfFcεR1α.MMHに結合した。
【0244】
実施例4.JurkatおよびHEK293細胞で発現したFcεR1αに特異的に結合する抗FcεR1αxCD3二重特異性抗体
抗FcεR1αモノクローナル抗体および抗FcεR1αxCD3二重特異性抗体によって細胞で発現される抗原への結合を評価するために、Jurkat/NFAT-LucおよびHEK293/hFcεR1α/hFcεR1β/hFcεR1γ細胞を用いてフローサイトメトリー実験を行った。Jurkat/NFAT-Luc細胞は、活性化T細胞(NFAT)応答エレメントの核因子の転写制御下で、ルシフェラーゼレポーターを安定的に発現するように操作されたJurkat細胞である。HEK293/hFcεR1α/hFcεR1β/hFcεR1γ細胞は、ヒトFcεR1α、FcεR1β、およびFcεR1γを安定的に発現するように操作されたHEK293細胞である。サル(カニクイザル、mf)FcεR1α(受託番号XP_005541370.1のアミノ酸4~260、81位のアラニンがトリプトファンに変化)への結合を試験するために、mfFcεR1αを、ヒトFcεR1βおよびFcεR1γと共にHEK293において安定的に発現させた。得られた細胞株(以下、HEK293/mfFcεR1α/hFcεR1β/hFcεR1γと呼ばれる)は単離され、10%FBS、1×NEAA、1×ペニシリン/ストレプトマイシン/L-グルタミン、1μg/mLのピューロマイシン、100μg/mLのハイグロマイシンB、および500μg/mlのG418硫酸塩を補充したDMEM培地中で維持された。試薬情報は、次のとおりである:DMEM培地(Irvine Scientific、カタログ番号CRL-1573)、ウシ胎児血清(FBS)(Seradigm、カタログ番号1500-500)、100Xペニシリン/ストレプトマイシン/L-グルタミン(Pen/Strep/Glut)(Invitrogen、カタログ番号10378-016)、100X非必須アミノ酸(NEAA)(IrvineScientific、カタログ番号9034)、Geneticin(商標)選択的抗生物質(G418硫酸塩)(Invitrogen、カタログ番号11811-098)、ハイグロマイシンB(Calbiochem、カタログ番号400049)、ピューロマイシン(Sigma、カタログ番号P-8833)。
【0245】
フローサイトメトリー分析のために、HEK293、HEK293/hFcεR1α/hFcεR1β/hFcεR1γおよびHEK293/mfFcεR1α/hFcεR1β/hFcεR1γ細胞を、酵素遊離解離緩衝液(Millipore、カタログ番号S-004)を使用して解離した後に収集し、細胞を、70nMのヒトIgEの有無で、FACS緩衝液(PBS、Ca
++およびMg
++なし、(Irvine Scientific、カタログ番号9240)、2%FBSを含む)中、氷上で30分間プレインキュベートした。Jurkat/NFAT-luc細胞も収集した。次いで、70nMの濃度の抗体を、4℃で30分間、1×10
6細胞/ウェルの各細胞型に添加した。一次抗体とインキュベーションした後、細胞を、氷上で30分間、1.3μg/mlのアロフィコシアニン(APC)がコンジュゲートされた抗ヒトIgG二次抗体(Jackson ImmunoResearch、カタログ番号109-136-170)で染色した。細胞をBD CytoFix(商標)(Becton Dickinson、カタログ番号554655)を使用して固定し、Accuri(商標)C6(BD)またはCytoFLEXフローサイトメーター(Beckman Coulter)で分析した。すべての細胞株について、未染色の対照および二次抗体単独の対照も試験し、試料を、製造元のプロトコルに従って、Far Red Fluo生存色素(Thermo Fisher、Cat#L10120)を使用して生存率を評価した。FlowJoソフトウェア(バージョン10.0.8、FlowJo)を使用して結果を分析して、生存細胞の蛍光の幾何平均を決定し、結合比を、非染色のそれぞれの細胞のMFIによって正規化された実験条件の平均蛍光強度(MFI)で計算した。表13および14に、結果を要約した。
【表13】
【表14】
【0246】
表13に示すように、例示的な抗FcεR1αxCD3二重特異性抗体bsAb24919D、bsAb24920D、およびbsAb24921Dは、70nMのヒトIgEの有無で、HEK293/hFcεR1α/hFcεR1β/hFcεR1γ細胞で発現されたヒトFcεR1αに対する結合を示し(結合比が201~295)、また、Jurkat細胞で発現されたヒトCD3に対する結合を示した(結合比が48~94)。本発明の例示的な二重特異性抗体は、FcεR1受容体のないHEK293に対して最小限の結合を示した(結合比が2~11)。抗FcεR1α抗体は、70nMのヒトIgEの有無で、HEK293/hFcεR1α/hFcεR1β/hFcεR1γ細胞に対する結合を示し(結合比が136~396)、70nMのヒトIgEの存在下、HEK293またはJurkat細胞に対する結合比は1~8であった。アイソタイプ対照抗体は、いずれの細胞にも結合を示さず、二次単独対照が、1の結合比を示した。
【0247】
表14に示すように、例示的な抗FcεR1αxCD3ε二重特異性抗体bsAb24919D、bsAb24920D、およびbsAb24921Dは、70nMのヒトIgEの有無で、HEK293/mfFcεR1α/hFcεR1β/hFcεR1γ細胞で発現されたサル(カニクイザル)FcεR1αに対する結合を示した(結合比が142~284)。本発明の例示的な二重特異性抗体は、FcεR1受容体のないHEK293細胞に対して最小限の結合を示した(結合比が1~2)。本発明の例示的な抗FcεR1α抗体は、70nMのヒトIgEの有無で、HEK293/mfFcεR1α/hFcεR1β/hFcεR1γ細胞に対して結合を示したが(結合比が101~279)、HEK293には結合しなかった。アイソタイプ対照抗体は、いずれの細胞にも結合を示さず、二次単独対照が、1の結合比を示した。
【0248】
実施例5.抗FcεR1α×CD3二重特異性抗体によるヒトCD3シグナル伝達の活性化
FcεR1α発現細胞の存在下で、抗FcεR1α×CD3ε二重特異性抗体によるヒトCD3シグナル伝達の活性化を評価するために、Jurkat/NFAT-luc細胞およびHEK293/hFcεR1α/hFcεR1β/hFcεR1γ細胞を用いてバイオアッセイを行った。安定な細胞株が開発された。ヒトTリンパ球細胞株であるJurkat細胞株は、CD3媒介性T細胞受容体シグナル伝達を実証するために利用されてきた(Abraham and Weiss,Jurkat T cells and development of the T-cell receptor signaling paradigm.Nat Rev Immunol.2004 Apr;4(4):301-8)。活性化T細胞(NFAT)応答エレメントの核因子の転写制御下で、ルシフェラーゼレポーターを安定的に発現するように、Jurkat細胞を操作した。得られた細胞株(以下、Jurkat/NFAT-Lucと呼ばれる)を単離し、10%FBS、1×ペニシリン/ストレプトマイシン/L-グルタミン、および1μg/mLのピューロマイシンを補充したRPMI1640培地(Irvine Scientific、カタログ番号9160)中で維持した。さらに、HEK293細胞をトランスフェクトして、ヒトFcεR1α(Uniprot番号P12319-1のアミノ酸1~257)、FcεR1β(Uniprot番号Q01362-1のアミノ酸1~244)およびFcεR1γ(Uniprot番号P30273-1のアミノ酸1~86)を安定的に発現させた。得られた細胞株(以下、HEK293/hFcεR1α/hFcεR1β/hFcεR1γと呼ばれる)を単離し、10%FBS、1XNEAA、1Xペニシリン/ストレプトマイシン/L-グルタミン、1μg/mLピューロマイシン、100μg/mLのハイグロマイシンB、および500μg/mlのG418硫酸塩を補充したDMEM培地(Irvine Science、カタログ番号9033)中で維持した。
【0249】
バイオアッセイを行って、本発明の例示的な抗FcεR1αxCD3ε二重特異性抗体によってCD3シグナル伝達を測定した。バイオアッセイでは、HEK293またはHEK293/hFcεR1α/hFcεR1β/hFcεR1γ細胞を、アッセイ緩衝液(10%FBS、ペニシリン/ストレプトマイシン/グルタミンを含むRPMI1640(Irvine Scientific、カタログ番号9160))中に10nMのヒトIgEが有無のアッセイ緩衝液中で、96ウェルプレートに1ウェルあたり10,000細胞で、5%CO
2中、37℃で30分間播種した。インキュベーション後、50,000個のJurkat/NFAT-luc細胞と共に、段階希釈された本発明の例示的な抗FcεR1α×CD3二重特異性抗体、本発明の例示的な抗FcεR1α抗体、または100nM~2pMの範囲の濃度のアイソタイプ対照抗体、加えて緩衝液のみを含む試料(抗体なし)を播種した。5%CO
2中、37℃で5.5時間後、OneGlo(商標)試薬(Promega、#E6031)およびVictor(商標)Xマルチラベルプレートリーダー(Perkin Elmer)を用いて、ルシフェラーゼ活性を測定した。結果を、Prism(商標)6ソフトウェア(GraphPad)を用いた非線形回帰(4パラメータロジスティクス)を使用して分析して、EC
50値を得た。活性化倍率は、抗体なしの平均RLUによって正規化された抗体の最高濃度の平均RLU(相対光単位、relative light unit)で計算した。結果を、表15に要約する。
【表15】
【0250】
表15に示すように、本発明の例示的な抗FcεR1α×CD3二重特異性抗体、bsAb24919D、bsAb24920D、およびbsAb24921Dは、CD3シグナル伝達の活性化を示し、Jurkat/NFAT-luc細胞では、HEK293/hFcεR1α/hFcεR1β/hFcεR1γ細胞の存在下、ヒトIgEがない場合、EC50値が230pM~680pMの範囲であり、10nMのヒトIgEがある場合、EC50値が1.1nM~4.9nMの範囲であった。最も高い活性化は、bsAb24919Dにより達成され、10nMのIgEの有無にかかわらず、32倍活性化された。本発明の例示的な二重特異性抗体は、FcεR1受容体のないHEK293の存在下で最小限の活性化を示し、活性化倍率が1~3の範囲であった。抗FcεR1α抗体およびアイソタイプ対照抗体では活性化が示されず、試験したいずれの条件でも、活性化倍率は1倍であった。
【0251】
実施例6.インビトロ死滅アッセイにおける抗FcεR1α×抗CD3二重特異性抗体の効果
2つの別個の実験を使用して、インビトロでのFcεR1α発現細胞のT細胞媒介性死滅の誘発における、本発明の例示的な抗FcεR1α×抗CD3二重特異性抗体(bsAb24919D、bsAb24920D、およびbsAb24921D)の有効性を決定した。1つの実験では、操作されたHEK293/hFcεR1α/hFcεR1β/hFcεR1γ細胞を標的として使用し、一方、第2の実験では、全末梢血単核細胞(PBMC)集団内の初代ヒト好塩基球を標的として使用した。両方の事例では、同様のプロトコルを使用して、死滅アッセイの前にT細胞を活性化した。CD8+T細胞を、まず、RossetteSep(商標)ヒトCD8+T細胞濃縮カクテルキット(STEMCELL Technologies、カタログ番号15063)を使用して、ヒト白血球パック(leukopacks、NY Blood Center)から単離し、CD3/CD28でコーティングされたDynabeads(登録商標)(Invitrogen、カタログ番号11132D)と共に培養して、T細胞の活性化を誘導した。培養の2~3日目に、磁気分離を使用してビーズを除去し、T細胞を培養した。一実施例では(HEK293/hFcεR1α/hFcεR1β/hFcεR1γ標的細胞と共に使用する場合)、T細胞を培養中で5日間維持し、そのときに、IL-2を300U/mlで添加して、生存および成長を促進させ、IL-2を添加して2日後にT細胞を使用した。第2の実施例では(PBMC標的細胞と共に使用する場合)、細胞は、ビーズ除去後1日間培養中に維持し、次いで、死滅アッセイに使用した。両方の事例では、活性化T細胞を、死滅アッセイを設定する前に、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE、Thermo Fischer Scientific、カタログ番号C34554)で標識し、結果の分析中に細胞の除去を可能にした。
【0252】
HEK293/hFcεR1α/hFcεR1β/hFcεR1γ標的細胞のT細胞媒介性死滅を誘導する際の、本発明の例示的な抗FcεR1α×抗CD3二重特異性抗体の有効性を決定するために、読み取り(readout)としてアポトーシスカスケードの2つの媒介体(切断カスパーゼ3および切断PARP)の検出を使用する、死滅アッセイを使用した。死滅アッセイを設定するために、活性化されたT細胞を、T細胞あたり10個の標的細胞の割合で標的細胞と混合し、次いで96ウェルプレートに播種した。最終濃度が100nM~10.24fMの範囲の5倍ごとの段階抗体希釈液をウェルに添加し、細胞を、37℃で一晩インキュベートして、T細胞媒介死滅を起こさせた。抗体には、本発明の例示的な抗FcεR1α/CD3二重特異性抗体およびアイソタイプ対照抗体が含まれた。インキュベーション後、細胞を回収し、予温したBD cytofix(カタログ番号554655)に37℃で10分間再懸濁した。次いで、細胞を、MACS緩衝液(Miltenyi、カタログ番号130-091-221)中で2回洗浄し、氷冷メタノールに再懸濁し、-20℃で少なくとも30分間または一晩インキュベートすることによって透過性にした。透過処理後、MACS緩衝液を細胞に添加して、10分間細胞を再水和させ、続いてMACS緩衝液で2回洗浄した。次いで、細胞をFc遮断抗体(Ebioscience、カタログ番号14-9161-73)でインキュベートし、続いて、Alexa-647コンジュゲート抗切断カスパーゼ3(Cell Signaling
Technology、カタログ番号9602S)およびPEコンジュゲート抗切断PARP抗体(BD Biosciences、カタログ番号552933)を含む抗体カクテルで染色した。カスパーゼ3およびPARPの切断は、細胞傷害性溶解顆粒をCD8+T細胞から標的に送達した後に開始されるアポトーシスカスケードの活性化において必須のステップである。したがって、これらの切断タンパク質の特異的検出は、死滅の読み取りとして機能する。染色後、細胞を洗浄し、MACS緩衝液に再懸濁し、LSRFortessa器具(BD Biosciences)を使用して取得した。死滅細胞をCFSE-として特定し、この集団内のアポトーシス細胞を、切断カスパーゼ3+および切断PARP+として特定した。Graphpad Prismソフトウェアを使用してデータ分析を行った。得られたデータポイントを、X=Log(X)の方程式を使用して変換し、変換されたデータを線形回帰分析に供し、シグモイドの用量反応曲線に適合させた。この分析から、EC80(最大有効濃度の80%、特定の曝露時間後にベースラインと最大値との間で80%の応答を誘導する抗体の濃度を含む)および上位応答が導出された。
【0253】
末梢血単核細胞(PBMC)集団内で初代好塩基球のT細胞媒介性死滅を誘発する際の、本発明の例示的な抗FcεR1αx抗CD3二重特異性抗体の有効性を決定するために、残りのPBMC集団に対するこれらの細胞の定量に基づくアッセイを使用した。Ficoll(GE Healthcare,カタログ番号17-1440-03)精製によってドナー血液から新鮮なPBMCを得て、操作されたHEK293/hFcεR1α/hFcεR1β/hFcεR1γ標的細胞について上で記載した同様の形式で、活性化T細胞と抗体希釈液を混合した。一晩インキュベーションした後、細胞を回収し、生/死細胞マーカー(Invitrogenカタログ番号L34962)、続いてFc遮断抗体とインキュベーションし、APCコンジュゲート抗HLA-DR(BD Biosciences、カタログ番号559866)およびBUV395コンジュゲート抗CD123(BD Biosciences、カタログ番号564195)抗体を含む抗体混合物で染色した。次いで、細胞を、MACS緩衝液で2回洗浄し、PBS中で1:4に希釈したBD
Cytofixを含む溶液中で15分間固定した。細胞を、MACS緩衝液に再懸濁し、LSRFortessa器具中に取得した。死細胞は、CFSEで以前に標識されていた外因性の活性化T細胞と同様に、生/死細胞マーカーを使用して分析から除外した。残りの生PBMC集団内の好塩基球を、CD123+HLA-DR-として特定した。
【0254】
Graphpad Prismソフトウェアを使用してデータ分析を行った。得られたデータポイントを、X=Log(X)の方程式を使用して変換し、変換されたデータを線形回帰分析に供し、シグモイドの用量反応曲線に適合させた。EC50は、この分析から導出された。好塩基球の最大減少率は、次の式を使用して計算した。
100-(100×抗体用量が最も高い試料中の好塩基球のパーセント)/(全てのアイソタイプ対照試料中の好塩基球の平均パーセント)。
【0255】
表16は、本発明の各例示的な二重特異性抗体(bsAb24919D、bsAb24920D、およびbsAb24921D)の存在下での切断カスパーゼ3および切断PARP二重陽性HEK293/hFcεR1α/hFcεR1β/hFcεR1γ標的細胞の用量依存的増加を要約しており、EC
80は、それぞれ、3.456×10
-11M、1.264×10
-10M、および6.128×10
-11Mである。このアッセイは、アポトーシスの初期段階を捕捉することに基づくため、細胞が完全に死滅する前にアッセイを停止し、bsAb24919D、bsAb24920D、およびbsAb24921Dでインキュベートした細胞について、アポトーシスマーカーについての染色で陽性の細胞の最大パーセントは、それぞれ、56.04、56.48、および55.83であった。特に、T細胞を、抗体の不在下で標的細胞と一緒にインキュベートした場合、単独でインキュベートした標的細胞と比較して、両方のアポトーシスマーカーについて陽性の標的細胞の割合の増加は、観察されなかった。言い換えれば、T細胞を、アイソタイプ対照抗体のみの存在下で標的細胞と一緒にインキュベートした場合、アポトーシスの誘導は観察されない。
【表16】
【0256】
表17は、本発明の例示的な二重特異性抗体(bsAb24919D、bsAb24920D、およびbsAb24921D)の存在下での総PBMC標的集団内の好塩基球の用量依存的減少を要約しており、EC
50は、それぞれ、3.748×10
-9M、2.003×10
-8M、および4.003×10
-9Mである。好塩基球は、すべてのアイソタイプ処理試料中のPBMC内の好塩基球の平均パーセントと比較して、bsAb24919D、bsAb24920D、およびbsAb24921Dの最も高い用量は、それぞれ90.57%、80.1%、および90.92%減少した。
【表17】
【0257】
実施例7.抗FcεR1α×CD3二重特異性抗体のインビボ有効性
インビボモデルおよび脾臓好塩基球枯渇における受動皮膚アナフィラキシー(PCA)における抗FcεR1α×抗CD3二重特異性抗体の効果を調べた。
【0258】
アレルゲン誘発性マスト細胞脱顆粒の遮断について本発明の抗FcεR1α×CD3二重特異性抗体の有効性を決定するために、受動皮膚アナフィラキシー(PCA)のインビボモデルを使用した。PCAモデルは、1型過敏症を評価し、耳組織における局所マスト細胞活性化誘導血管透過性を測定する(Gilfillan,A.M.& Tkaczyk,C.Integrated signaling pathways for mast-cell activation.Nat.Rev.Immunol.6,218-230(2006))。このモデルは、アレルギー患者からのアレルゲン特異的血清を、ヒト高親和性IgE受容体であるFcεR1αを発現するマウスの皮膚の局所領域に皮内注射して、続いて、アレルゲンを色素と共に静脈内注射することを伴う。アレルギー反応は、感作部位での毛細血管の拡張および血管透過性の上昇を引き起こし、この部位で色素の優先的な蓄積がもたらされる。色素は、組織から抽出され、分光測定で定量され得る。
【0259】
PCAアッセイの場合、最初、FcεR1αおよびCD3についてヒト化されたマウスの群(実験あたりn≧5)に、アイソタイプ対照抗体または本発明の3つの例示的なFcεR1α×CD3二重特異性抗体のうちの1つのいずれかを、25mg/kgの用量で皮下注射した。抗体投与の5日後、マウスに、ネコアレルギー個体由来の血清(IgE力価585、PBSで1:5に希釈)を耳に注射した。翌日、マウスに、0.5%(w/v)のエバンスブルー色素(Sigma Aldrich、#E2129)を含む1XPBS中に溶解した1μg/mLのFel D1(Indoor biotech、LTN-FD1-1)の溶液を、静脈内投与した(マウス1匹あたり100μL)。抗原投与の1時間後、マウスを屠殺し、耳および脾臓を切除し、収集した。
【0260】
耳を1mLのホルムアミドに入れ、続いて50℃で3日間インキュベートして、エバンスブルー色素を抽出した。次いで、耳組織を、ホルムアミドから除去し、ブロットして余分な液体を除去し、秤量した。各ホルムアミド抽出物の200マイクロリットルのアリコートを、2重で96ウェルプレートに移した。得られた上清の吸光度を、620nmで測定した。測定された光学密度を、検量線を使用してエバンスブルー色素濃度に変換し、1ミリグラムの耳組織あたりのエバンスブルー色素のナノグラムとして表される。表18は、各群の平均値±標準偏差を示す。
【0261】
好塩基球の頻度を評価するために、フローサイトメトリーに基づくアッセイを使用した。赤血球を溶解した後、採取した脾臓から単一細胞懸濁液を調製した(Sigma、カタログ番号R7757)。次いで、細胞を生/死細胞マーカーで染色し、続いて、BUV395コンジュゲート抗B220(BD、カタログ番号563793)、FITCコンジュゲート抗CD4(BD、カタログ番号553031)、FITCコンジュゲート抗CD8(BD、カタログ番号557667)、およびPECy7コンジュゲートCD49b(EBIOSCIENCE、カタログ番号25-5971-82)を含有する抗体混合物で抗体染色した。染色後、細胞を、MACS緩衝液(Miltenyi Biotech、カタログ番号130-091-221)で2回洗浄し、PBSで1:4に希釈したBD Cytofix(カタログ番号554655)を用いて15分間固定し、次いでMACS緩衝液に再懸濁し、4度で保存した。取得した日に、細胞を、BD Perm/洗浄緩衝液(カタログ番号554723)中で2回洗浄し、細胞内FcεR1αを、eFluor450コンジュゲート抗FcεR1α(EBIOSCIENCE、カタログ番号48-5899-42)で染色した。次いで、細胞を、LSRFortessa器具に取得し、FlowJoソフトウェアを使用して解析した。好塩基球を、B220-CD4-CD8-CD49+FcεR1α+として特定した。個々の抗体投与マウスにおける好塩基球の減少率は、次の式で計算した。100-(脾臓好塩基球のパーセント/アイソタイプ群の脾臓好塩基球の平均パーセント)。ここで、脾臓好塩基球のパーセントは、脾臓のすべての生存細胞と比較して計算される。結果を、表19に示す。
【0262】
エバンスブルー色素の血管外漏出は、抗体が投与されなかったマウスの耳、またはアイソタイプ対照抗体が投与されたマウスの耳で観察され、平均色素定量は、それぞれ84.06ng/mgおよび82.05ng/mgであった(ng/mgは、組織1mgあたりのエバンスブルー色素のナノグラムを指す)。表18は、本発明の例示的な抗FcεR1α×CD3二重特異性抗体(bsAb24919DおよびbsAb24921D)のPCAモデルにおける有効性を示し、アイソタイプ対照と比較した場合、これらの抗体で処理された群における血管外漏出の有意な低減を示す。アイソタイプ対照と比較して、bsAb24920Dで処理された群では、色素の血管外漏出の減少に対する統計的に有意な傾向が観察されなかった。示されるように、bsAb24919DおよびbsAb24921Dは、アイソタイプ対照と比較して、Fel D1による感作およびその後の負荷に対する受動皮膚インビボモデルにおけるマスト細胞の脱顆粒を遮断し、それぞれ74.64ng/mgおよび75.26ng/mgの色素の血管外漏出の有意な減少を示し、一方、bsAb24920Dでは48.56ng/mgのより控えめな減少が観察された。統計的有意性は、以下のように決定された。まず、すべての群の正規性を、シャピロ・ウィルク正規性検定で検定した。すべての群のデータが正規分布していたため、ブラウン・フォーサイス検定を用いて、群間の標準偏差の違いを判定する一元配置ANOVA分析を適用した。有意に異なる標準偏差が観察されたため、ダンの多重比較検定の代わりにノンパラメトリックのクラスカル・ウォリス検定を行い、グループ間の統計的有意性を決定した。
【0263】
抗体が投与されなかったマウス由来の脾臓は、全生存細胞と比べて平均で0.91%の好塩基球を含有することが見出されたが、アイソタイプ対照抗体が投与されたマウス由来の脾臓は、平均で0.71%の好塩基球を含有した。表19は、上に記載のPCA実験からの同じマウスにおいて脾臓好塩基球を枯渇させる際の、本発明の例示的なFcεR1α×CD3二重特異性抗体(bsAb24919D、bsAb24920D、およびbsAb24921D)の有効性を示す。示されるように、3つの抗体のうちのいずれかで処理されたマウスは、脾臓好塩基球の減少を示した。この低減は、抗体が投与されなかったマウスと比較して、3つすべての抗体について有意であったが、この低減は、アイソタイプ対照抗体を投与した群と比較した場合、bsAb24919Dで処理されたマウスに対してのみ統計的に有意であった。bsAb24919D、bsAb24920DおよびbsAb24921Dで処理されたマウスは、アイソタイプ群と比較して、それぞれ、96%、93%および92%の好塩基球の減少を示した。統計的有意性は、以下のように決定された。最初に、シャピロ・ウィルク正規性検定を行い、すべてのデータ群が正規分布していることが分かった。したがって、一元配置ANOVA分析を適用し、ブラウン・フォーサイス検定を使用して、グループ間の標準偏差の違いを検定した。この検定では、有意に異なる標準偏差が観察されたため、ダンの多重比較検定の代わりに、ノンパラメトリックのクラスカル・ウォリス検定を行い、グループ間の統計的有意性を決定した。
【表18】
【表19】
【0264】
PCAおよび好塩基球枯渇アッセイの両方について、本発明の例示的な抗FcεR1αxCD3二重特異性抗体を使用して、FcεR1αを発現する細胞の除去をより低い用量で達成した。bsAb24919DおよびbsAb24921Dは、1mg/kg、5mg/kg、および10mg/kgのより低い用量で繰り返された実験において、PCA応答の統計的に有意な阻害および好塩基球の有意な減少を示した(データは示さず)。PCAおよび好塩基球枯渇アッセイの両方において、bsAb24919DおよびbsAb24921Dの両方について、有効性は、5mg/kg~25mg/kgの用量で同様である(データは示さず)。
【0265】
本発明は、本明細書に記載される特定の実施形態によって範囲が限定されるべきではない。実際、本明細書に記載されるものに加えて本発明の様々な変更が前述の記載から当業者には明らかとなるであろう。かかる変更は、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図されている。
【配列表】