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特許7541216水素含有臓器保存液の生成方法及び水素含有臓器保存液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】水素含有臓器保存液の生成方法及び水素含有臓器保存液
(51)【国際特許分類】
   A01N 1/02 20060101AFI20240821BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
A01N1/02
A61L27/36 100
A61L27/36 410
A61L27/36 420
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021515774
(86)(22)【出願日】2019-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2019045790
(87)【国際公開番号】W WO2020217575
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2019081425
(32)【優先日】2019-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(73)【特許権者】
【識別番号】509095293
【氏名又は名称】株式会社ドクターズ・マン
(74)【代理人】
【識別番号】100159628
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 雅比呂
(74)【代理人】
【識別番号】100081271
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 芳春
(72)【発明者】
【氏名】小林 英司
(72)【発明者】
【氏名】佐野 元昭
(72)【発明者】
【氏名】橋本 総
(72)【発明者】
【氏名】飯沼 勝春
(72)【発明者】
【氏名】西 善一
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-201580(JP,A)
【文献】特開2013-010771(JP,A)
【文献】特開2015-150472(JP,A)
【文献】特開2010-241787(JP,A)
【文献】特開2018-177683(JP,A)
【文献】Abe Toyofumi et al.,Hydrogen-Rich University of Wisconsin Solution Attenuates Renal Cold Ischemia-Reperfusion Injury,Transplanation,2012年,Vol.94,No.1,PP.14-21
【文献】中尾篤典 他,Hydrogen rich water bathを用いた新しい臓器保存方法,Organ Biology,2014年,Vol.21,No.2,PP.150-158
【文献】内田 孟 他,ブタ小腸移植における水素分子含有保存液の小腸虚血再灌流障害に対する有効性,Organ Biology,2013年,Vol.20,No.3,P103
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N,A61L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植用臓器の摘出現場において、水素吸蔵合金キャニスタから、臓器保存液を収容した可撓性容器内に水素ガスを圧入し、前記可撓性容器を振動させて水素ガスを前記臓器保存液内に溶解させ、前記可撓性容器を外気に開放して内部の圧力を低減させることにより、前記可撓性容器内に所定濃度の溶存水素を含有し、移植用臓器を洗い流し及び/又は保存するために使用する水素含有臓器保存液を生成し、
前記所定濃度が、4時間後の溶存水素濃度が1.0mg/L以上となる濃度であることを特徴とする水素含有臓器保存液の生成方法。
【請求項2】
前記水素吸蔵合金キャニスタから前記可撓性容器に供給される水素ガスの圧力が所定圧力となるまで、前記水素ガスの供給を行うことを特徴とする請求項1に記載の水素含有臓器保存液の生成方法。
【請求項3】
前記所定圧力が、0.02MPa~0.07MPaの範囲の圧力であることを特徴とする請求項2に記載の水素含有臓器保存液の生成方法。
【請求項4】
前記可撓性容器の振動を、30秒間以上行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の水素含有臓器保存液の生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスを溶解させてなる水素含有臓器保存液の生成方法及びこの水素含有臓器保存液に関する。
【背景技術】
【0002】
水素ガスが種々の生体反応を引き起こすことは、近年、明らかにされてきている。特に虚血再灌流障害の防止に有効である機構が明らかにされており(例えば、非特許文献1)、小動物を用いた種々の臓器移植モデルによって水素ガスの有効性が報告されている(例えば、非特許文献2~4)。しかし、これらはネズミなどの小動物の臓器移植モデルに関するものであり、ブタモデルを用いたものではない。一方、水素ガスの有効性をブタモデル等の前臨床モデルで検証した論文は存在するが(例えば、非特許文献5~9)、これらは少数であり、しかも、一定の見解を示唆するものではない。
【0003】
また、これら非特許文献の開示内容を含む従来技術においては、水素ガスを、電気分解装置で発生させて供給するか又は水素ボンベから供給することが行われていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Ohsawa I, Ishikawa M, Takahashi K, Watanabe M, Nishimaki K, Yamagata K, Katsura K, Katayama Y, Asoh S, Ohta S, “Hydrogen acts as a therapeutic antioxidant by selectively reducing cytotoxic oxygen radicals”, Nat Med. 2007 Jun;13(6):688-94. Epub 2007 May 7
【文献】Abe T, Li XK, Yazawa K, Hatayama N, Xie L, Sato B, Kakuta Y, Tsutahara K, Okumi M, Tsuda H, Kaimori JY, Isaka Y, Natori M, Takahara S, Nonomura N, “Hydrogen-rich University of Wisconsin solution attenuates renal cold ischemia-reperfusion injury”, Transplantation. 2012 Jul 15;94(1):14-21. doi: 10.1097/TP.0b013e318255f8be
【文献】Lobb I, Jiang J, Lian D, Liu W, Haig A, Saha MN, Torregrossa R, Wood ME, Whiteman M, Sener A. “Hydrogen Sulfide Protects Renal Grafts Against Prolonged Cold Ischemia-Reperfusion Injury via Specific Mitochondrial Actions”, Am J Transplant. 2017 Feb;17(2):341-352. doi: 10.1111/ajt.14080. Epub 2016 Nov 29.
【文献】Tamaki I, Hata K, Okamura Y, Nigmet Y, Hirao H, Kubota T, Inamoto O, Kusakabe J, Goto T, Tajima T, Yoshikawa J, Tanaka H, Tsuruyama T, Tolba RH, Uemoto S, “Hydrogen Flush After Cold Storage as a New End-Ischemic Ex Vivo Treatment for Liver Grafts Against Ischemia/Reperfusion Injury”, Liver Transpl. 2018 Nov;24(11):1589-1602. doi: 10.1002/lt.25326
【文献】Hosgood SA, Moore T, Qurashi M, Adams T, Nicholson ML, “Hydrogen Gas Does Not Ameliorate Renal Ischemia Reperfusion Injury in a Preclinical Model”, Artif Organs. 2018 Jul;42(7):723-727. doi: 10.1111/aor.13118. Epub 2018 Apr 2.
【文献】Sekijima M, Sahara H, Miki K, Villani V, Ariyoshi Y, Iwanaga T, Tomita Y, Yamada K, “Hydrogen sulfide prevents renal ischemia-reperfusion injury in CLAWN miniature swine”, J Surg Res. 2017 Nov;219:165-172. doi: 10.1016/j.jss.2017.05.123. Epub 2017 Jun 28
【文献】Lee G, Hosgood SA, Patel MS, Nicholson ML, “Hydrogen sulphide as a novel therapy to ameliorate cyclosporine nephrotoxicity”, J Surg Res. 2015 Aug;197(2):419-26. doi: 10.1016/j.jss.2015.02.061. Epub 2015 Mar 17.
【文献】Haam S, Lee S, Paik HC, Park MS, Song JH, Lim BJ, Nakao A, “The effects of hydrogen gas inhalation during ex vivo lung perfusion on donor lungs obtained after cardiac death”, Eur J Cardiothorac Surg. 2015 Oct;48(4):542-7. doi: 10.1093/ejcts/ezv057. Epub 2015 Mar 6
【文献】Matsuno N, Watanabe R, Kimura M, Iwata S, Fujiyama M, Kono S, Shigeta T, Enosawa S, “Beneficial effects of hydrogen gas on porcine liver reperfusion injury with use of total vascular exclusion and active venous bypass”, Transplant Proc. 2014 May;46(4):1104-6. doi: 10.1016/j.transproceed.2013.11.134.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
臓器移植におけるドナーの医療現場において、従来技術のように、水素ガスを電気分解装置で発生させて供給すること、又は水素ボンベを現場に持ち込んでこのボンベから水素ガスを供給することは、その準備に多大の労力及び時間を要することのみならず、危険性を伴うことから、緊急性が要求される現場において、迅速に実施することは実質的に不可能であった。
【0006】
従って本発明は、従来技術のこのような問題点を解消するものであり、その目的は、移植用臓器を取り扱う現場において、素早く、簡便にかつ安全に水素含有臓器保存液を生成することができる水素含有臓器保存液の生成方法及び水素含有臓器保存液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、水素含有臓器保存液の生成方法は、移植用臓器を取り扱う現場において、水素吸蔵合金キャニスタから、臓器保存液を収容した可撓性容器内に水素ガスを圧入し、この可撓性容器を振動させて水素ガスを臓器保存液内に溶解させ、この可撓性容器を外気に開放して内部の圧力を低減させることにより、可撓性容器内に所定濃度以上の溶存水素を含有し、移植用臓器を洗い流し及び/又は保存するために使用する水素含有臓器保存液を生成する。
【0008】
このように、本発明によれば、医療現場において、水素吸蔵合金キャニスタからの水素ガスを使用し、この水素ガスを可撓性容器内に圧入し、この可撓性容器を振動させることによって水素ガスを臓器保存液内に溶解させ、その後、可撓性容器を外気に開放して内部の圧力を低減させている。水素ガス発生源として水素吸蔵合金キャニスタを用いているため、手軽にかつ安全に医療現場に水素ガス発生源を持ち込むことができ、緊急時においても、可撓性容器内に水素ガスを素早く圧入することができる。また、水素ガス圧入後に可撓性容器を振動させることにより、臓器保存液内により多くの水素ガスを溶解させることができると共に、臓器保存液内に含まれる水素ガスのナノバブルがより高い濃度となる。さらに、その後、可撓性容器を外気に開放して内部の圧力を低減させることにより、可撓性容器内の臓器保存液を移植用臓器の洗い流し及び保存に使用することが可能となるのみならず、臓器保存液内に含まれる水素ガスのナノバブルをより高い濃度とすることができる。この水素ガスのナノバブルは、移植用臓器の洗い流し(フラッシュアウト)効果向上に大きく寄与するものである。
【0009】
水素吸蔵合金キャニスタから可撓性容器に供給される水素ガスの圧力が所定圧力となるまで、水素ガスの供給を行うことも好ましい。
【0010】
この場合、所定圧力が、0.02MPa~0.07MPa(ゲージ圧)の範囲の圧力であることがより好ましい。
【0011】
可撓性容器の振動を、30秒間以上行うことも好ましい。
【0012】
本発明によれば、さらに、水素含有臓器保存液は、所定濃度以上の溶存水素を含有し、移植用臓器を洗い流し及び/又は保存するために使用する液体である。
【0013】
この水素含有臓器保存液は、移植用臓器の摘出現場において、摘出した移植用臓器を洗い流しするために使用する液体であることが好ましい。
【0014】
この水素含有臓器保存液は、摘出した移植用臓器を保存し、移植用臓器の移植現場に搬送するために使用する臓器保存液体であることも好ましい。
【0015】
この水素含有臓器保存液は、可撓性容器内に収容されており、収容された水素含有臓器保存液の一部が摘出した移植用臓器を洗い流しするために使用する液体であり、可撓性容器内に収容された残りが摘出した移植用臓器を保存するために使用する液体であることも好ましい。
【0016】
上述の所定濃度が、4時間後の溶存水素濃度が1.0mg/L以上となる濃度であることも好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、水素ガス発生源として水素吸蔵合金キャニスタを用いているため、手軽にかつ安全に医療現場に水素ガス発生源を持ち込むことができ、緊急時においても、可撓性容器内に水素ガスを素早く圧入することができる。また、水素ガス圧入後に可撓性容器を振動させることにより、臓器保存液内により多くの水素ガスを溶解させることができると共に、臓器保存液内に含まれる水素ガスのナノバブルがより高い濃度となる。さらに、その後、可撓性容器を外気に開放して内部の圧力を低減させることにより、可撓性容器内の臓器保存液を移植用臓器の洗い流し及び保存に使用することが可能となるのみならず、臓器保存液内に含まれる水素ガスのナノバブルをより高い濃度とすることができる。この水素ガスのナノバブルは、移植用臓器を洗い流し効果に大きく寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態として、水素含有臓器保存液の生成工程及び水素含有臓器保存液の使用工程を概略的に示すフロー図である。
図2図1の実施形態における水素含有臓器保存液の生成装置の構成を概略的に示す斜視図である。
図3】水素含有臓器保存液の溶存水素濃度の初期及び時間的推移を示すグラフである。
図4】水素ガス含有ETK液及び水素ガス非含有ETK液で洗い流したDonar Cardiac Death (DCD)腎臓の観察画像を示す図である。
図5】水素ガス非含有ETK液で洗い流し及び保存したDCD腎臓の観察画像を示す図である。
図6】水素ガス含有ETK液で洗い流し及び保存したDCD腎臓の観察画像を示す図である。
図7】術後慢性期の血中BUNの推移を示すグラフである。
図8】術後慢性期の血中Creの推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は本発明の一実施形態として、水素含有臓器保存液の生成工程及び水素含有臓器保存液の使用工程を概略的に示しており、図2は本実施形態における水素含有臓器保存液の生成装置の構成を概略的に示している。
【0020】
本実施形態においては、腎臓などの移植用臓器を取り扱う現場、即ち、心停止したドナーから臓器を摘出する現場において、臓器保存液内に水素ガスを溶解させる処理を瞬時に行って、所定溶存水素濃度の水素含有臓器保存液を生成し、この水素含有臓器保存液を用いて摘出した臓器の洗い流し(フラッシュアウト)及び保存を行う。臓器保存液としては、以下の説明では、ETK(ET-Kyoto)液を用いるが、UW(University of Wisconsin)液やHTK(Histidine-Tryptophan-Ketoglutarate)液を用いても良いことはもちろんである。
【0021】
臓器摘出現場において、水素含有ETK液を生成する工程を以下説明する。
【0022】
まず、図2に示すように、ETK液10aが収容されたプラスチックソフトバッグ10(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等フィルムで作られた可撓性容器)を用意し、このプラスチックソフトバッグ10に水素吸蔵合金キャニスタ21を接続する(図1のステップS1)。具体的には、図2に示すように、瓶針12をこのプラスチックソフトバッグ10のゴム栓11に穿通させることにより、この瓶針12に接続されているチューブ13、ワンタッチカプラ14(ソケット14a及びプラグ14b)、チューブ15、継手16、チューブ18、ワンタッチカプラ19(ソケット19a及びプラグ19b)、並びにチューブ20を介して、水素吸蔵合金キャニスタ21をプラスチックソフトバッグ10に接続する。
【0023】
この接続により、水素吸蔵合金キャニスタ21からの水素ガスが、チューブ20、ワンタッチカプラ19、チューブ18、継手16、チューブ15、ワンタッチカプラ14、チューブ13、及び瓶針12からなる供給路を介してプラスチックソフトバッグ10内に圧入される(図1のステップS2)。
【0024】
継手16の流路にリリーフ弁17が接続されているため、流路内の内部圧力、即ちプラスチックソフトバッグ10内の圧力は、例えば0.02MPa~0.07MPa(ゲージ圧)の範囲の所定圧力に維持される。
【0025】
なお、水素吸蔵合金キャニスタ21は、発熱反応及び吸熱反応により常温、低圧下で可逆的に水素の吸放出が可能な水素吸蔵合金を内部に収容したボンベ状の容器であり、一般に市販されている(例えば株式会社日本製鋼所(JSW)製)。この水素吸蔵合金キャニスタ21は、内部圧力が、1MPa以上にならないため高圧ガス保安法でいう高圧ガスには該当しない。従って、病院等の臓器摘出現場で手軽に利用することができる。また、容器のサイズも直径数cm、高さ10cm程度まで小さく設計することが可能である。さらに、水素吸蔵合金は、水素を消耗した後でも再吸収により利用可能となるため、繰返し利用によるコストダウンというメリットがある。このように、水素吸蔵合金キャニスタ21によれば、軽量及びコンパクトでありながら安全に高純度の水素ガスを供給可能である。
【0026】
次いで、ワンタッチカプラ14を接続解除状態とし、プラスチックソフトバッグ10を水素吸蔵合金キャニスタ21から切り離す。接続解除状態としても、ワンタッチカプラ14のプラグ14b内に設けられた閉止弁(バルブ)が閉じられるため、プラスチックソフトバッグ10から水素ガスが漏れ出すことはなく、同様にプラグ14a内に設けられた閉止弁(バルブ)が閉じられるため、水素吸蔵合金キャニスタ21から水素ガスが大気に放出されることはない。
【0027】
この状態でワンタッチカプラ14のプラグ14b、チューブ13、瓶針12及びプラスチックソフトバッグ10を、例えば手で持って、激しく振動させることによって、プラスチックソフトバッグ10の液体10a内に水素ガスをより多く溶解させる(図1のステップS3)。振動の時間は、30秒以上であることが望ましい。
【0028】
次いで、プラスチックソフトバッグ10を大気に開放する(図1のステップS4)。この開放は、例えばプラグ14bに閉止弁を設けていないソケット(図示無し)を接続することによって行われる。
【0029】
以上の工程により、プラスチックソフトバッグ10内には、所望の溶存水素濃度の水素が含有された水素含有ETK液が、臓器摘出現場において、非常に短時間で生成されることとなる。プラスチックソフトバッグ10の膨張を抑制するために、その外周に筒型の膨張抑止部材を設けても良い。
【0030】
その後、このように生成した水素含有ETK液によって、摘出した臓器の洗い流し(フラッシュアウト)を行う(図1のステップS5)。この洗い流しは、プラスチックソフトバッグ10内の水素含有ETK液の一部で行う。
【0031】
次いで、残りの水素含有ETK液が入ったプラスチックソフトバック10のゴム栓側を上にして、プラスチックソフトバッグの上部をハサミで切断開封し、残りの水素含有ETK液が入ったプラスチックソフトバッグ内の残りの水素含有ETK液内に、洗い流しした摘出臓器を保存し、移植現場まで搬送する(図1のステップS6)。
【0032】
次いで、移植現場において、水素含有ETK液から摘出臓器を取り出し、移植を行う(図1のステップS7)。
【0033】
以上説明したように、本実施形態によれば、吸蔵合金に水素を貯蔵した水素吸蔵合金キャニスタ21からの水素ガスをETK液内に溶解させるように構成しているので、どこへでも安全にかつ簡単に水素ガス供給源を搬送でき、しかも、水素吸蔵合金キャニスタ21をプラスチックソフトバッグ10に簡単に接続できるように構成されているので、緊急時の臓器摘出現場で簡単にかつ素早くプラスチックソフトバッグ10内に水素ガスを圧入することができる。また、水素ガス圧入後にプラスチックソフトバッグ10を振動させることにより、ETK液内により多くの水素ガスを溶解させることができると共に、ETK液内に含まれる水素ガスのナノバブルがより高い濃度となる。さらに、その後、プラスチックソフトバッグ10を外気に開放して内部の圧力を低減させることにより、プラスチックソフトバッグ10内のETK液を移植用臓器の洗い流し及び保存に使用することが可能となるのみならず、ETK液内に含まれる水素ガスのナノバブルをより高い濃度とすることができる。この水素ガスのナノバブルは、移植用臓器の洗い流し効果向上に大きく寄与するものである。
【0034】
次に、プラスチックソフトバッグ10に供給される水素ガスの圧力(ゲージ圧)が、0.02MPa~0.07MPaの範囲にある所定圧力であることが望ましい理由について説明する。
【0035】
膨張・収縮する可撓性容器であるプラスチックソフトバッグ内の水素ガス圧力と溶存水素濃度との関係を知るために下記の試験を行った。
1.試験方法
全体容量が1,850mLのプラスチックソフトバッグ(ポリエチレンフィルムとポリプロピレンフィルムの複層フィルム製)に1Lの医療用液体(例えばETK液)を入れ(空間容積:150mL)、水素ガスを内圧(ゲージ圧)が0.04MPa、0.05MPa、0.06MPaとなるまで注入し、その溶液の溶存水素濃度をバイオニクス機器株式会社製のBIH-50D計測器で計測した。
2.試験結果
次の表1はこの試験結果を示している。
【表1】

ヘンリーの法則によって計算した最大溶解量は、表2のようになる。
全内容量 : 1,850 mL
医療用液体量 : 1,000 mL
初期空気容量 : 150 mL
注入ガス全体容量 : 850 mL
液温 : 15 ℃
振る時間 : 30 秒間
【表2】
【0036】
表2に示すように、医療用液体(例えばETK液)に水素ガスを溶解する場合、1.7mg/L程度の溶存水素濃度を得るためには、注入する水素ガスの圧力は0.02MPa以上であることが望ましく、プラスチックソフトバッグの可撓性を低下させて耐圧性を向上させると設計した場合、例えば0.07MPaが最大である。従って、プラスチックソフトバッグに供給される水素ガスの圧力は、0.02MPa~0.07MPaの範囲にある所定圧力であることが望ましい。
【0037】
次に、プラスチックソフトバッグの振動時間が30秒以上であるのが望ましい理由について説明する。
【0038】
膨張・収縮が可能な可撓性容器であるプラスチックソフトバッグの望ましい振動時間を知るために下記の試験を行った。
1.試験方法
全体容量が1,550mLのプラスチックソフトバッグに1Lの水道水を入れ、残りの空気の容積が50mLとなるまでこのプラスチックソフトバッグを押しつぶした後に、水素ガスをバッグ内圧(ゲージ圧)が0.05MPaとなるまで注入し密閉した。その後、1時間振らずに静置したもの、10秒間振って混合したもの、30秒間振って混合したもの、1分間振って混合したもの、2分間振って混合したもの、の内容液の溶存水素濃度をバイオニクス機器株式会社製のBIH-50D計測器で計測した。水温は10℃であった。
2.試験結果
試験結果は、表3のごときものであった。
【表3】

ヘンリーの法則に従って演算すると、液体への水素ガスへの最大溶解量は2.40mg/Lであることが別途求められ、この最大溶解量から、振った時間の効率差を求めると、次の表4のようになる。
【表4】

この表4より、30秒より多くの時間振り混ぜることで69.6%以上の溶解効率が得られることが分かり、従って、プラスチックソフトバック10の振動(振り混ぜ)を、30秒間以上行うことが望ましい。
【0039】
このように生成した水素含有ETK液内の初期(バッグ解放時)の溶存水素濃度とその経時的変化について、検証した。
【0040】
まず、UW液、HTK液、及びETK液について、水素ガス溶解を行った。その条件は、以下の通りである。
全内容量 : 1,850 mL
内容液量 : 1,000 mL
初期空気容量 : 50 mL
注入ガス全体容量 : 850 mL
液 温 : 1 ℃
充填水素ガス圧 : 0.06 MPa
振動時間 : 1 分間
計測は、低温であることよりガスクロマトグラフ法によって行った。ガスクロマトグラフはタイヨウ社トライライザーmBA-3000を使用した。その後、この液のプラスチックソフトバッグを大気開放した際の溶存水素濃度と、冷却した状態での溶存水素濃度の経時変化とを測定した。その計測結果を表5及び図3に示す。
【0041】
【表5】

表5及び図3に示すように、同等の加圧下ではUW液、HTK液が高濃度水素を含有した。また、UW液、HTK液、及びETK液のいずれも常圧下、1℃保存で時間的な減衰は極めて緩徐であった。4時間の範囲であれば、1mg/L以上の溶存水素濃度は確保できた。
【0042】
臓器摘出現場において、本実施形態の方法(水素ガス圧力0.02~0.07MPa、振動時間30秒以上)により生成した水素含有ETK液を用いることによる効果を、循環停止ドナーからの腎移植ブタモデルで検討した。
【0043】
その結果、DCD(ドナー心停止)30分モデルにおいて、この水素含有ETK液は、DCD腎臓の血液の洗い流し効果が高かった。さらに、DCD腎臓の移植後の短期間観察(術後5日まで)において、これまでの冷臓器保存液での保存では移植した臓器が機能しないPrimary non-function(PNF)となっていたが、この水素含有ETK液による洗い流し及び保存により、尿排泄が観察された。従ってこの手法は、障害臓器を移植可能な臓器への蘇生させる新たな技術として、臨床現場で安全かつ簡便に使用可能であることが分かった。
【0044】
次に、本実施形態により生成した水素含有冷ETK液をブタDCDからの腎臓移植モデルにおいて、その有効性と安全性を試験した方法及びその結果を説明する。ここでは、より臨床を反映させるため、年齢がかさんでも大きくならないマイクロミニブタ(MMP)を使用した。循環停止30分の虚血状態の腎臓を作り、ドナー腎として摘出した後、水素含有ETK液又は水素非含有ETK液を使用して保存し、移植後急性期のレシピエントの腎機能を比較検討した。
【0045】
(使用したマイクロミニブタ)
使用したMMPは、実験専用ミニブタとして開発され、年齢が行っても30Kgを超えないものとした。具体的には、雌、25~40か月齢、体重20~26Kgのものを使用した。
【0046】
(水素含有ETK液の生成及び水素濃度の測定)
水素含有ETK液は、ETKを4℃に冷やした上で灌流直前に前述の手法で水素ガスの充填を行った。冷生理食塩水をコントロールとして、オンアイス上で保存液の大気開放を行い、経時的に水素含有ETK液内の水素ガス濃度をガスクロマトグラフ法(株式会社タイヨウ製のトライライザーmBA-3000使用)にて測定した。
【0047】
(DCD腎臓の洗い流し効果における水素含有の有効性の検証)
ドナーについて、全身麻酔下、上腹部正中切開で開腹し、左右の腎臓のフリーイングを行った。その後、開胸し、胸部大動脈を遮断し、腹部全臓器の虚血を誘導した。30分の温虚血状態を作った後、左右の腎臓を一括で取り出し、ドナー腎とした。その間、ドナーにはヘパリン等の抗凝固剤を加えなかった。摘出腎臓は直ちにバックテーブルに置いて、左右の腎臓に分け、一方を本実施形態の方法(水素ガス圧力0.02~0.07MPa、振動時間30秒以上)により生成した(温度4℃の)水素含有冷ETK液、他方を水素ガスを添加せずに生成した(温度4℃の)水素非含有冷ETK液を用いて1mの自然点滴落下で5分間灌流した。その灌流の際に、これら水素含有冷ETK液及び水素非含有冷ETK液の滴下される速度をカウントした。表6は水素含有冷ETK液及び水素非含有冷ETK液の灌流速度を時間(分)当たりのカウント数で表している。
【0048】
【表6】

また、図4は、Aは水素含有冷ETK液を灌流した摘出DCD腎臓、Bは水素非含有冷ETK液を灌流した摘出DCD腎臓をそれぞれ示している。
【0049】
表6から分かるように、摘出DCD腎臓への水素含有冷ETK液による灌流の場合は、灌流初期から水素非含有冷ETK液の場合に比べ自然滴下による灌流速度が速かった。また、図4から分かるように、灌流終了時の灌流領域の肉眼所見では、水素含有冷ETK液の方が水素非含有冷ETK液に比して、より多量に灌流されていた。
【0050】
(腎移植モデルにおける評価)
ドナー腎臓としては、前述の場合と同様に、30分の循環停止腎臓を用いた。左右に分離した腎臓を、水素含有冷ETK液及び通常の水素非含有冷ETK液で単純浸漬保存し、レシピエントへのプットインまでの時間、保存した(1~4時間保存)。水素含有冷ETK液は、本実施形態の生成方法で生成したものであり、1mg/L以上の溶存水素濃度を有するものである。レシピエントは、まず、全身麻酔後腹部正中切開で開腹し、レシピエントの左腎動静脈周囲を露出した。ヘパリン1ccを静脈内投与の後に、腎臓脈周囲の腹部大動脈をトータルクランプした。レシピエント腎静脈にブルドックカンシをかけ、レシピエントの左腎を腎動脈基部からカレルパッチ状に切除した。ここで保存しておいたドナー腎臓をプットインし、5-0ナイロンの連続にて、カレルパッチ部の腎臓脈を端側吻合した。動脈吻合後は、再度末梢腎臓脈にクリップをかけ直し、腹部大動脈の全遮断を解除した。腹部大動脈の全遮断時間は30分と設定した。続いて腎静脈を、6-0ナイロンを用いて連続で端端吻合し、最後に尿管を6-0で結節縫合した。移植腎は、リフロー後に移植腎の血流を確認し、右腎臓を摘出の上、閉腹した。術後は当日の抗菌薬投与を行い、以後、飲水及び食事を自由にした。術後6日まで観察し、犠牲死の上、末梢血、膀胱内尿、さらに移植腎のサンプリングを行った。末梢血、尿中のBUN及びCreをそれぞれGLDH法及び酵素法で測定した。また尿中のTPはピガロールレット法、電解質はイオン選択電極法、IPは酵素法、GLUはHK-G6PDH法で測定した。移植腎は、10%中性緩衝ホルムアルデヒド液に固定して、皮質を中心に乳頭部を含むように縦断方向に切り出した。常法に従って包埋し、薄層切片を作成し、Hematoxylin Eosin(H.E.)及びElastica van Gieson(EVG)染色し、病理学的に検証した。移植腎は、Banff分類を参考にスコア化した。その結果が表7に示されている。
【0051】
【表7】
【0052】
移植を受けたミニブタは全例観察期間(6病日)まで生存した。犠牲時、水素非含有ETK液による群は、全例、膀胱内に尿が観察されず、移植腎の血流も認められなかった。これに対して、水素含有ETK液による保存群は、保存時間4時間のものも、移植腎には血流があり、膀胱内に尿が認められた。また、表7から分かるように、回収された末梢血中のBUNの平均値は、水素含有ETK液群が143(mg/dL)、水素非含有ETK液群が270(mg/dL)であり、Creの平均値は、水素含有ETK液群が15.5(mg/dL)、水素非含有ETK液群が24(mg/dL)であった。回収された水素群の尿解析では、急性糸球体障害を示していた。
【0053】
さらに病理学的解析を行うと、水素非含有ETK液群によって保存された腎臓は、急性腎不全による腎皮質壊死が認められた。図5は水素非含有ETK液群のDCD腎臓の観察画像であり、同図(A)及び(B)は皮膜下の一例、同図(C)及び(D)は皮髄境界部付近の一例を示している。ただし、同図(A)及び(C)は低倍率(40倍)の画像であり、同図(B)及び(D)は高倍率(400倍)の画像である。
【0054】
図5(A)に示すように、観察領域のほとんどが壊死像となっており、汎腎皮質壊死と診断された。また、同図(B)に示すように、被膜と直下の尿細管の細胞核が保持されているものもあったが、これらの細胞質は変性―壊死を呈していた。さらに、同図(C)及び(D)に示すように、間質には浸潤した細胞残渣としてのリンパ球、単球細胞及び好中球が多数混在していた。
【0055】
これに対して、水素含有ETK液群によって保存された腎臓は、急性組織障害があるものの血流は保たれていた。図6は水素含有ETK液群のDCD腎臓の観察画像であり、同図(A)及び(B)、(C)及び(D)、並びに(E)及び(F)は皮膜下の3つの例をそれぞれ示している。ただし、同図(A)、(C)及び(E)は低倍率(40倍)の画像であり、同図(B)、(D)及び(F)は高倍率(400倍)の画像である。
【0056】
図6(A)及び(B)の例では、同図(A)に示す低倍率において、尿細管の拡張と細胞浸潤が認められた。同図(B)に示す高倍率において、糸球体に単核球等の浸潤と係蹄の閉塞がみられた。また、尿細管の間質に多数の単核細胞、リンパ球の浸潤による尿細管炎が認められた。図6(C)及び(D)の例では、同図(C)に示す低倍率において、出血、尿細管の拡張がみられた。同図(D)に示す高倍率では、同図(B)の例と比べ、尿細管間質の細胞浸潤が乏しかった。図6(E)及び(F)の例では、同図(E)に示す低倍率において、多くの尿細管は萎縮と拡張がみられ、尿細管の幾つかに硝子円柱がみられた。同図(F)に示す高倍率では、尿細管の間質に多数の単核球、リンパ球の浸潤がみられた。
【0057】
(腎移植モデルの慢性期における評価)
前述した腎移植術と同様の方法で腎移植を行った。ただし、ドナー腎臓としては、20分の循環停止腎臓を用いた。腎臓を、水素非含有冷ETK液及び水素含有冷ETK液でそれぞれ洗い流しした後、水素非含有冷ETK液及び水素含有冷ETK液でそれぞれ単純浸漬保存した。水素非含有冷ETK液に1時間保存した腎臓(水素なし)と、水素含有冷ETK液に1時間保存した腎臓(水素あり1h)と、水素含有冷ETK液に4時間保存した腎臓(水素あり4h)をレシピエントへそれぞれプットインした。水素含有冷ETK液は、本発明の生成方法で生成したものであり、1mg/L以上の溶存水素濃度を有するものである。術後に免疫抑制剤を投与した。免疫抑制剤及びその用法・用量は以下の通りであった。タクロリムス(プログラフ):0.15~0.30mg/kg、経口投与、12時間おき、1日2回、ミコフェノール酸モフェチル:500mg/head、経口投与、1日2回、プレドニゾロン:0.5~2mg/kg、静脈内又は経口投与、1日2回。以後、飲水及び食事を自由にした。術前、術直後、術後1~14日の末梢血のBUN及びCreをそれぞれGLDH法及び酵素法で測定した。その結果が表8及び図7並びに表9及び図8に示されている。
【0058】
【表8】
【0059】
【表9】
【0060】
表8及び図7並びに表9及び図8から分かるように、水素なし(非含有)の通常のETK液に保存した腎臓を移植したミニブタは、BUN及びCreが、術後日数の経過に従って単純上昇しているが、本発明の生成方法によって生成可能な1mg/L以上の溶存水素濃度を有する水素含有冷ETK液に保存した腎臓によれば、術後4日経過すると、BUN及びCreが共に低下を開始し、腎機能が回復した。即ち、本発明の生成方法によって生成した1mg/L以上の溶存水素濃度の水素含有冷ETK液に保存した腎臓は、免疫抑制剤を投与した移植後慢性期において、腎機能が大幅に回復することが分かった。
【0061】
(まとめ)
これまで水素ガスが虚血再灌流障害防止に効果があることは知られていたが、高濃度の水素ガスは、可燃性があり、その臨床での使用では安全面で難があった。本願発明者は、設備の整っている病院での医師主導型治験として、水素ガスの吸入が、冠動脈のインターベンション後の虚血再灌流障害に有効であることを示してきた。しかしながら、突発的に発生するドナーの臨床現場では、あらかじめ水素充填した臓器保存液を用意することも、水素ガスボンベを現場に持ち込むことも、実現が非常に難しかった。また、臓器保存液内で電気分解を行って水素ガスを発生させる手法は、臨床現場では簡便性に欠けていた。これに対して、本発明によれば、水素吸蔵合金機器に注目して、既存の臓器保存液の可撓性容器に対し0.06MPa程度のゲージ圧にまで水素ガスを充填することが臨床現場において簡単にかつ迅速行うことができる。
【0062】
本発明の検証として、既存の臓器保存液への水素ガスの充填を行い、初期の溶存水素ガス濃度及びその経時変化を測定した。臓器保存液は、低温できわめて水素を含有しやすくしかも長時間水素ガスを維持できることが判明した。また、細胞外液型臓器保存液であるETK液を用いてDCD腎臓におけるフラッシュアウト効果を検証した。ETK液は細胞内液型のUW液と比し、その粘張度は低くいが、水素ガスを含有していない場合と比し、初期灌流から高流量で灌流されることが判明した。灌流領域の組織解析から、糸球体等の毛細血管系の拡張と微小血栓の洗い流し効果が推測された。その機序として、ブタ腎移植を想定した虚血・再灌流障害に対する水素ガスの効果を実際の腎移植でそれを検証した。本モデルで使用した高齢MMPでのDCD30分モデルにおいて、水素非含有ETK液では全例がPNFであったのに反して、水素含有ETK液では血流が維持され尿の産出がなされた。また、前述したように、術後急性期のみならず、免疫抑制剤投与下における慢性期の移植腎機能も極めて良好となることが検証された。本発明の水素含有臓器保存液の効果は、術中のリンス効果や術中、術後の免疫抑制薬の投与、さらにMSCなどの補助細胞療法を加えることで、これまで移植不可能であった腎臓が移植可能となる期待が持たれる。
【0063】
以上述べた実施形態及び実施例は全て本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って本発明の範囲は特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
【符号の説明】
【0064】
10 プラスチックソフトバッグ
10a ETK液
11 ゴム栓
12 瓶針
13、15、18、20 チューブ
14、19 ワンタッチカプラ
14a、19a ソケット
14b、19b プラグ
16 継手
17 リリーフ弁
21 水素吸蔵合金キャニスタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8