(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】アルコール飲料の味覚改良方法
(51)【国際特許分類】
C12H 1/16 20060101AFI20240821BHJP
C12G 3/04 20190101ALI20240821BHJP
【FI】
C12H1/16
C12G3/04
(21)【出願番号】P 2023171905
(22)【出願日】2023-10-03
【審査請求日】2023-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2023059672
(32)【優先日】2023-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390004282
【氏名又は名称】伊藤 孝己
(74)【代理人】
【識別番号】100142077
【氏名又は名称】板谷 真之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 孝己
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-044988(JP,A)
【文献】登録実用新案第3180151(JP,U)
【文献】特開2017-079610(JP,A)
【文献】特開平01-168269(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第115851399(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0017808(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12H 1/16
C12G 3/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール飲料の味覚改良方法であって、
酸素ボンベとナノバブル発生装置を用いて発生させたナノバブル酸素の気泡を
、密閉されていない容器内に貯留されたアルコール飲料
中に発生させて、アルコール飲料中に混入させるナノバブル混入工程を含む、ことを特徴とするアルコール飲料の味覚改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、清酒,焼酎,ワイン,ブランデー,ウイスキー,紹興酒,各地の椰子酒等全てのアルコール飲料の味覚改良方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、清酒,焼酎,ワイン,ブランデー,ウイスキー等のアルコール飲料の味をまろやかにする方法が開発されている。例えば、アルコール飲料を超音波振動により撹拌することにより、アルコール飲料中のアルコール分子会合体を一個ずつのアルコール分子に分離させ、個々のアルコール分子が水分子に取り囲まれた状態に調整するアルコール飲料の味改良方法が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、アルコール飲料の風味を改良する味覚改良方法には未だ改善の余地があることは疑いようのない事実である。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、アルコール飲料の味をまろやかにするアルコール飲料の味覚改良方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、アルコール飲料の味覚改良方法であって、酸素ボンベとナノバブル発生装置を用いて発生させたナノバブル酸素の気泡を、密閉されていない容器内に貯留されたアルコール飲料中に発生させて、アルコール飲料中に混入させるナノバブル混入工程を含む、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、アルコール飲料の味覚改良方法であって、ナノバブル発生装置を用いて発生させたナノバブル酸素の気泡をアルコール飲料に混入させるナノバブル混入工程を含む。この味覚改良方法によって、市販などのアルコール飲料の味をまろやかにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施の形態に係るアルコール飲料の味覚改良方法を説明するフロー図である。
【
図3】ナノバブルの液中での挙動を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態に係るアルコール飲料の味覚改良方法、及び当該味覚改良方法により製造されたアルコール飲料について説明する。ここで、アルコール飲料としては、清酒,ワイン等の醸造酒のほか、焼酎,ウィスキー,ブランデー等の蒸留酒等の全てのアルコール飲料も含まれる。
【0011】
本アルコール飲料の味覚改良方法では、ナノバブル発生装置を用いる。ナノバブル発生装置とは、ナノサイズの超微細気泡を発生させる装置であって、
図2に示すようにナノメートルオーダーの径を有する気泡がナノバブル(約100nm以下の気泡)と呼ばれている。ナノバブル発生装置ではナノバブルを生成することができる。
【0012】
ナノバブルはイオンの力が働くことで気液界面が縮小し、イオン濃度が濃縮されて気泡内部の圧力が高くなり、様々な現象が発現することが知られている。また、通常の気体(直径1mm以上)の場合、直ぐに浮上して水面で破裂するが、ナノバブルの場合、
図3に示すように、液中でブラウン運動をしながら、浮力の影響を受けずに液中に長期間にわたり滞在することが知られている。
【0013】
ナノバブル発生装置の種類としては、高速旋回液流式、加圧溶解式や超音波キャビテーション式が知られている。また、酸素ボンベからの加圧酸素をナノバブル発生器(例えば、工進(KOSHIN)株式会社製のBL-2524N)に通過させることにより、ナノバブル酸素の気泡をアルコール飲料中に発生させて、アルコール飲料中にナノバブル酸素を通過させてもよい。この方法では、不純物が混入せず、気泡で懸濁せず、透明性の高いアルコール飲料を生成できる。
【0014】
本発明のアルコール飲料の味覚改良方法は、例えば、
図1に示すフローに沿って実施される。すなわち、まず、市販などのアルコール飲料を準備し容器に収容する。これに酸素供給源(酸素ボンベなど)及びナノバブル発生装置を用いて、容器内に貯留されたアルコール飲料に、ナノバブル発生装置を用いて生成されたナノバブル酸素の気泡を混入させるナノバブル混入工程を行う。なお、混入工程では、混入のナノバブル酸素量が多いほど味覚改良効果が大きい。また、液中に少なくとも数年程度はナノバブル酸素が滞留でき、アルコール飲料などが変質したり劣化することなく、まろやかで良質の味覚を保持できる。
【0015】
(実験例)
以下、実験例をもって本発明を説明する。ナノバブルを含有するアルコール飲料である実験例1~6及びナノバブルを含有しない市販のアルコール飲料である比較例1~6において行った試験方法を以下に示す。
場所:独立行政法人 酒類総合研究所(東広島市) 官能審査室
試験日:令和5年7月4日
評価者:研究所職員7名
試験法:味・香り・総合評価についての5点評価(1:良~5:難)と酒質に関する自由記述(コメント)にて行った。また、検体試料は、提供後は冷蔵庫で保管した。試験時にプラカップに20ミリ程度注がれ、各評価者(ここではA~Gと称呼する)に供された。試験時の品温はおおよそ15℃程度(室温25℃)であった。
【0016】
また、ナノバブル酸素のアルコール飲料への含有方法は、上述のコンプレッサーを用いて酸素ボンベからの加圧酸素をナノバブル発生器を用いて所定時間(20~50分)通過させることにより、ナノバブル酸素の気泡をアルコール飲料中に発生させて、アルコール飲料中にナノバブル酸素を含有させる方法を用いた。以下の表1~表6に夫々の実験例及び比較例の評価試験の結果を示す。
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
<ブランデーV.O.の評価試験結果6>
【表6】
(注1)清酒は 清洲城 信長 鬼ころし(清洲桜醸造株式会社製)
(注2)ワインは 酸化防止剤無添加のおいしいワイン。ストロング 赤 1.8L紙パック(サントリーホールディングス株式会社製)
(注3)芋焼酎は 純 焼酎甲類 since 1977(宝酒造株式会社製)
(注4)ウイスキーは トリス(登録商標)classic(サントリーホールディングス株式会社製)
(注5)ブランデーは シャルマン35ブランデーベースパック(江井ヶ嶋酒造株式会社製)
(注6)ブランデーV.O.は サントリーブランデーV.O Mild and smooth(サントリーホールディングス株式会社製)
【0023】
[香りの評価]
検体試料を専門職員7名により試験した。評価基準は1~5の5段階で1に近いほど香りが良いと認められると評価した。
(清酒の場合)
実験例1では評価1が1名、評価2が4名、評価3が2名であり、平均評価は2.14であった。一方、比較例1では評価2が1名、評価3が4名、評価4が2名であり、平均評価は3.14であった。
(ワインの場合)
実験例2では評価2が4名、評価3が3名であり、平均評価は2.43であった。一方、比較例2では評価2が3名、評価3が2名、評価4が1名、評価5が1名であり、平均評価は3.00であった。
(焼酎の場合)
実験例3では評価1が1名、評価2が4名、評価3が2名であり、平均評価は2.14であった。一方、比較例3では評価2が4名、評価3が3名であり、平均評価は2.43であった。
(ウイスキーの場合)
実験例4では評価1が1名、評価2が3名、評価3が3名であり、平均評価は2.29であった。一方、比較例4では評価2が7名であり、平均評価は2.00であった。
(ブランデーの場合)
実験例5では評価1が2名、評価2が2名、評価3が3名であり、平均評価は2.14であった。一方、比較例5では評価2が3名、評価3が3名、評価4が1名であり、平均評価は2.71であった。
(ブランデーV.O.の場合)
実験例6では評価2が3名、評価3が1名、評価4が3名であり、平均評価は3.00であった。一方、比較例6では評価1が1名、評価2が3名、評価3が3名であり、平均評価は2.29であった。
【0024】
[味の評価]
検体試料の味を専門職員7名により審査した。評価基準は1~5の5段階で1に近いほど味が良いと認められるものと評価した。
(清酒の場合)
実験例1では評価2が3名、評価3が4名、平均評価は2.43であった。一方、比較例1では評価2が1名、評価3が4名、評価4が2名であり、平均評価は3.14であった。
(ワインの場合)
実験例2では評価1が1名、評価2が2名、評価3が3名、評価4が1名であり、平均評価は2.57であった。一方、比較例2では評価1が1名、評価2が1名、評価3が4名、評価4が1名であり、平均評価は2.71であった。
(焼酎の場合)
実験例3では評価1が2名、評価2が3名、評価3が2名であり、平均評価は2.00であった。一方、比較例3では評価1が1名、評価2が2名、評価3が4名であり、平均評価は2.43であった。
(ウイスキーの場合)
実験例4では評価2が3名、評価3が4名であり、平均評価は2.43であった。一方、比較例では評価1が1名、評価2が3名、評価3が3名であり、平均評価は2.29であった。
(ブランデーの場合)
実験例5では評価1が1名、評価2が2名、評価3が3名、評価4が1名であり、平均評価は2.57であった。一方、比較例5では評価2が5名、評価3が2名であり、平均評価は2.29であった。
(ブランデーV.O.の場合)
実験例6では評価2が2名、評価3が4名、評価4が1名であり、平均評価は2.86であった。一方、比較例6では評価1が1名、評価2が5名、評価3が1名であり、平均評価は2.00であった。
【0025】
[総合評価]
実験例1~6及び比較例1~6に対して、各評価試験結果の総合評価を行った。
(清酒の場合)
比較例1の総合評価の平均は3.14であり、各評価員からは「老香(3)、ムレ様臭、甘臭、エステル、熟成香、香り重い、酸化臭、ぬか臭、甘味、苦味(2)、酸味(2)、酸うく、濃醇、重い、アミノ酸、淡麗、薄い、キレ良い、まろやか」などと形容された。
一方、実験例1の総合評価の平均は2.29であり、各評価員からは「香り立つ、エステル、老香(2)、フレッシュ、甘味(2)、苦味(2)、酸味(4)、濃醇、後味良い(スッキリ)(2)」などと形容された。この結果から、ナノバブル酸素を含む清酒では、香りも味も向上していることが示された。
(ワインの場合)
実験例2の総合評価の平均は2.57であり、各評価員からは「ブドウ香(アメリカ系ブドウの香り)、ベリー香(2)、原料特徴(2)、キャンディ様、甘い香り(2)、香り重い(酸化)、脂肪酸臭、熟成感、甘味(3)、酸味(5)、甘酸っぱい、味まとまりあり(2)、刺激、渋味少ない、フレッシュ感あり」などと形容された。
一方、比較例2の総合評価の平均は2.71であり、各評価員からは「色濃い、ベリー香、ジアセチル(3)、酢エチ、草様、酸臭、香りクセ強い、香りおだやか(2)、酸味(3)、後味苦味、雑味、軽快(スッキリ)(3)、味まろやか(ソフト)(2)、バラケ、平板、味ぼやける」と形容された。この結果から、ナノバブル酸素を含むワインでは、香りも味も向上していることが示された。
(焼酎の場合)
実験例3の総合評価の平均は2.00であり、各評価員からは「香り華やか、甘い香り、草様(2)、溶媒様、油香、原料らしさ、エステルほのか(芋の個性は小さい)、甘味(3)、渋味、苦味、なめらか(口当たり良い)(3)、荒い、淡麗、平板、線が細い、スッキリ(クリア)(2)」などと形容された。
一方、比較例3の総合評価の平均は2.57であり、各評価員からは「甘い香り、花様、華やか、脂肪酸エステル的(わずかにカナケ)、原料香あり、プラスチック様、油香、汗様の匂い、ロウ様、香り不調和、甘味(2)、苦味(2)、渋味、丸さ、刺激感、荒い(3)、味太い、雑味、アルコール感」と形容された。この結果から、ナノバブル酸素を含む焼酎では、香りも味も向上していることが示された。
(ウイスキーの場合)
比較例4の総合評価の平均は2.29であり、各評価員からは「香りあり、香りおだやか、マイルドな樽香、樽香(バニラ様)(2)、樽香(木香)(2)、コーヒーのような甘い香り、香ばしさ、円熟感、甘味、ソフト、なめらか(2)、特徴あり、やや平板(個性は小さい)(2)、薄い」などと形容された。
一方、実験例4の総合評価の平均は2.29であり、各評価員からは「香り華やか、樽香(木香)(2)、ビター、樽香(バニラ香)(2)、コーヒー香、熟成感、草様、甘味、ポリフェノールの渋味、雑味、丸さ、なめらか(2)、味わい良い、比較的若い、力強い」などと形容された。この結果から、ナノバブル酸素を含むウイスキーでは、特に香りも味も向上していないことが示された。
(ブランデーの場合)
実験例5の総合評価の平均は2.29であり、各評価員からは「色濃い、香りおだやか、干ブドウ様特徴、樽香(バニラ様)(2)、樽香(コーヒー)、焦げ、草様、甘味(3)、甘焦げ、甘味不調和、渋味、軽快(2)、なめらか(2)、丸さ(2)、平板(2)、ソフト、芳醇」などと形容された。
一方、比較例5の総合評価の平均は2.29であり、各評価員からは「香り華やか(2)、樽香(バニラ様)、草様、スパイシー、油臭、コーヒー様、甘重い香り、苦味(後味苦味)(2)、渋味、酸味、丸さ、キレ、さわやか、なめらか、味わいあり、バランス良い、個性小さい」と形容された。この結果から、ナノバブル酸素を含むブランデーでは、特に香りも味も向上していないことが示された。
(ブランデーV.O.の場合)
比較例6の総合評価の平均は2.00であり、各評価員からは「色濃い、ブドウの特徴、コーヒー(2)、甘い香ばしい香り、シェリー様、熟成感、カラメル様(ソトロン)(2)、草様、甘味(2)、苦味、渋味、やや重い、芳醇、丸さ、まとまる、くっきりはっきり」などと形容された。
一方、実験例6の総合評価の平均は2.86であり、各評価員からは「色濃い、カラメル様、醤油のような甘い香り、含み香重い、草様、特徴出ているがアルデヒド強く感じる、酸臭、「のり」のようなS系の匂い(DMS)、酸化臭、苦味(4)、渋味(3)、荒い(2)、バラケ、口当たりは丸い(マイルド)(2)、若い」などと形容された。この結果から、ナノバブル酸素を含むブランデーV.O.では、特に香りも味も向上していないことが示された。
【0026】
以上の表1乃至表6に示す実験例より明らかなように、すべての酒類において、ナノバブル酸素のアルコール飲料への吹込みの有無で評価者が感じる香り、及び味に対して異なる評価コメントをしたケースが多い。このことから、ナノバブル酸素の有無の前後でアルコール飲料に官能的な違いは明らかに生じている。特に、日本酒・ワイン・焼酎については味・香り・総合評価いずれもナノバブル酸素を含むアルコール飲料で向上したとする評価がなされた。一方で、ウイスキー、ブランデーについては、ナノバブル酸素を含むアルコール飲料で味・香りの総合評点は同じ又はマイナスいずれにも影響するようである。
【0027】
一方、味覚や好みは個人差が大きいものであるが、本特許出願人はアルコール度数の高いウイスキーやブランデの場合、ピリピリとした刺激が極めて強く感じられるが、ナノバブル酸素を吹き込むことにより香り、味覚とも角が取れてマイルドになるという顕著な効果を体験している。
【0028】
この結果から、ナノバブル酸素はアルコール飲料中でブラウン運動をしながら、浮力の影響を受けずに液中に長期間にわたり滞在し、ナノバブル酸素分子がアルコール飲料に含まれるエタノールの水酸基などと何らかの化学反応を起こし、ナノバブル酸素分子がエタノールを包含し、エタノール特有の刺激を緩和していると考えられる。
【0029】
以上説明した本発明に係るアルコール飲料の味覚改良方法によれば、市販のアルコール飲料の味をよりまろやかに、いわゆる角が取れた味に変化できる。なお、本発明は、上記実施の形態の構成に限られず、発明の趣旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。
【要約】
【課題】アルコール飲料の味をまろやかにするアルコール飲料の味覚改良方法、及び当該味覚改良方法により製造されたアルコール飲料を提供する。
【解決手段】本発明はアルコール飲料の味覚改良方法であって、ナノバブル発生装置を用いて発生させたナノバブル酸素の気泡をアルコール飲料に混入させるナノバブル混入工程を含む。
【選択図】
図1