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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】回転電気機械およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/52 20060101AFI20240821BHJP
   H02K 15/06 20060101ALI20240821BHJP
   H02K 3/04 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
H02K3/52 E
H02K15/06
H02K3/04 J
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019107818
(22)【出願日】2019-06-10
(65)【公開番号】P2020202651
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-05-26
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 直之
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正敏
(72)【発明者】
【氏名】今井 貴大
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-259577(JP,A)
【文献】特開2014-007794(JP,A)
【文献】国際公開第2016/103989(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/099001(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/52
H02K 15/06
H02K 3/04
H02K 15/085
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各接合部(34)で3つ以上の導体セグメント(33)が接合されることで形成されるセグメントコイル(30)を有する固定子(20)を備えた回転電気機械(10)であって、
3つ以上の上記導体セグメント(33)の上記接合部(34)は、該接合部(34)に対する電流の向きが互いに異なる上記導体セグメント(33)を接続する直列接続部(35)を有し、
上記直列接続部(35)の断面積(S1)は、各上記導体セグメント(33)の断面積(S2)よりも大きく、
上記接合部(34)は、接合された上記3つ以上の導体セグメント(33)の端部が上記導体セグメント(33)の延びる方向に対して垂直な方向かつ上記3つ以上の導体セグメント(33)の端部が並ぶ並び方向に対して垂直な垂直方向に膨出した形状を有し、
上記接合部(34)の上記垂直方向に膨出した部分について、上記並び方向に対して垂直な断面の形状が、上記並び方向において上記接合部(34)における一方向側の端部から他方向側の端部に亘って一定の形状であることを特徴とする回転電気機械。
【請求項2】
請求項1において、
上記接合部(34)は、該接合部(34)に対する電流の向きが互いに同じである上記導体セグメント(33)を接続する並列接続部(36)を有し、
上記並列接続部(36)の断面積(S1)は、各上記導体セグメント(33)の断面積(S2)よりも大きい
ことを特徴とする回転電気機械。
【請求項3】
請求項1または2において、
上記接合部(34)の全体の断面積(S1)は、各上記導体セグメント(33)の断面積(S2)よりも大きい
ことを特徴とする回転電気機械。
【請求項4】
各接合部(34)で3つ以上の導体セグメント(33)が接合されることで形成されるセグメントコイル(30)を有する固定子(20)を備えた回転電気機械(10)の製造方法であって、
上記固定子(20)のスロットに上記導体セグメント(33)を挿入する挿入工程と、
上方へ開口する凹部(41)を有する治具(40)によって3つ以上の上記導体セグメント(33)の端部を保持する保持工程と、
3つ以上の上記導体セグメント(33)の端部を溶かして接合する接合工程とを含み、
上記保持工程では、上記導体セグメント(33)の端部の少なくとも一部が上記凹部(41)内に位置するように上記端部を上記治具(40)により保持し、
上記接合工程では、溶けた上記導体セグメント(33)を上記凹部(41)で受けた状態で凝固させる
ことを特徴とする回転電気機械の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、
上記治具(40)は、少なくとも一部が導電体で構成されており、
上記接合工程では、上記治具(40)の導電体で構成された部分を一方の電極とするアーク溶接によって上記導体セグメント(33)の端部を接合する
ことを特徴とする回転電気機械の製造方法。
【請求項6】
請求項4または5において、
上記保持工程では、上記治具(40)によって上記導体セグメント(33)の端部を位置決めし、
上記接合工程では、位置決めされた上記導体セグメント(33)の端部を溶かして接合する
ことを特徴とする回転電気機械の製造方法。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか1項において、
上記凹部(41)のうち少なくとも溶けた上記導体セグメント(33)が接触する部分は、セラミックス材料で構成される
ことを特徴とする回転電気機械の製造方法。
【請求項8】
各接合部(34)で3つ以上の導体セグメント(33)が接合されることで形成されるセグメントコイル(30)を有する固定子(20)を備えた回転電気機械(10)の製造方法であって、
上記固定子(20)のスロットに上記導体セグメント(33)を挿入する挿入工程と、
上方へ開口する凹部(51)を有する導体リング(50)によって3つ以上の上記導体セグメント(33)の端部を保持する保持工程と、
3つ以上の上記導体セグメント(33)の端部を溶かして接合する接合工程とを含み、
上記保持工程では、上記導体セグメント(33)の端部の少なくとも一部が上記凹部(51)内に位置するように上記端部を上記導体リング(50)により保持し、
上記接合工程では、溶けた上記導体セグメント(33)を上記凹部(51)で受けつつ上記導体リング(50)のうち上記凹部(51)の周辺部分を溶かし、上記導体セグメント(33)と上記導体リング(50)とが一体化するように凝固させる
ことを特徴とする回転電気機械の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転電気機械およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、セグメントコイルを有する固定子を備えた回転電気機械が知られている(例えば、特許文献1)。特許文献1のセグメントコイルは、各接合部において2つの導体セグメントが接合されることで形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-131453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、セグメントコイルを3つ以上の導体セグメントで形成することが考えられる。この場合、セグメントコイルの電気抵抗が大きくなってしまうおそれがある。なぜなら、3つ以上の導体セグメントを接合する場合、2つの導体セグメントを接合する場合に比べて、接合部の形状を適切に管理することが難しいためである。
【0005】
本開示の目的は、3つ以上の導体セグメントから形成されるセグメントコイルの電気抵抗を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様は、各接合部(34)で3つ以上の導体セグメント(33)が接合されることで形成されるセグメントコイル(30)を有する固定子(20)を備えた回転電気機械(10)を対象とする。3つ以上の上記導体セグメント(33)の上記接合部(34)は、該接合部(34)に対する電流の向きが互いに異なる上記導体セグメント(33)を接続する直列接続部(35)を有し、上記直列接続部(35)の断面積(S1)は、各上記導体セグメント(33)の断面積(S2)よりも大きい。
【0007】
第1の態様では、直列接続部(35)における電気抵抗が抑制され、ひいてはセグメントコイル(30)の電気抵抗が抑制される。
【0008】
本開示の第2の態様は、上記第1の態様において、上記接合部(34)は、該接合部(34)に対する電流の向きが互いに同じである上記導体セグメント(33)を接続する並列接続部(36)を有し、上記並列接続部(36)の断面積(S1)は、各上記導体セグメント(33)の断面積(S2)よりも大きいことを特徴とする。
【0009】
第2の態様では、並列接続部(36)における電気抵抗が抑制され、ひいてはセグメントコイル(30)の電気抵抗が抑制される。
【0010】
本開示の第3の態様は、上記第1または第2の態様において、上記接合部(34)の全体の断面積(S1)は、各上記導体セグメント(33)の断面積(S2)よりも大きいことを特徴とする。
【0011】
第3の態様では、導体セグメント(33)の全体における電気抵抗が抑制され、よってセグメントコイル(30)の電気抵抗がより一層抑制される。
【0012】
本開示の第4の態様は、各接合部(34)で3つ以上の導体セグメント(33)が接合されることで形成されるセグメントコイル(30)を有する固定子(20)を備えた回転電気機械(10)の製造方法を対象とする。回転電気機械(10)の製造方法は、上記固定子(20)のスロットに上記導体セグメント(33)を挿入する挿入工程と、上方へ開口する凹部(41)を有する治具(40)によって3つ以上の上記導体セグメント(33)の端部を保持する保持工程と、3つ以上の上記導体セグメント(33)の端部を溶かして接合する接合工程とを含み、上記保持工程では、上記導体セグメント(33)の端部の少なくとも一部が上記凹部(41)内に位置するように上記端部を上記治具(40)により保持し、上記接合工程では、溶けた上記導体セグメント(33)を上記凹部(41)で受けた状態で凝固させる。
【0013】
第4の態様では、導体セグメント(33)の接合部(34)における電気抵抗が抑制され、ひいてはセグメントコイル(30)の電気抵抗が抑制される。
【0014】
本開示の第5の態様は、上記第4の態様において、上記治具(40)は、少なくとも一部が導電体で構成されており、上記接合工程では、上記治具(40)の導電体で構成された部分を一方の電極とするアーク溶接によって上記導体セグメント(33)の端部を接合することを特徴とする。
【0015】
第5の態様では、導体セグメント(33)の端部を保持する機能と、アーク溶接の電極としての機能とを共通の治具(40)により実現できる。
【0016】
本開示の第6の態様は、上記第4または第5の態様において、上記保持工程では、上記治具(40)によって上記導体セグメント(33)の端部を位置決めし、上記接合工程では、位置決めされた上記導体セグメント(33)の端部を溶かして接合することを特徴とする。
【0017】
第6の態様では、接合部(34)の品質を向上することができる。
【0018】
本開示の第7の態様は、上記第4~第6の態様のいずれか1つにおいて、上記凹部(41)のうち少なくとも溶けた上記導体セグメント(33)が接触する部分は、セラミックス材料で構成されることを特徴とする。
【0019】
第7の態様では、凝固後の接合部(34)を治具(40)から容易に取り出すことができる。
【0020】
本開示の第8の態様は、各接合部(34)で3つ以上の導体セグメント(33)が接合されることで形成されるセグメントコイル(30)を有する固定子(20)を備えた回転電気機械(10)の製造方法を対象とする。回転電気機械(10)の製造方法は、上記固定子(20)のスロットに上記導体セグメント(33)を挿入する挿入工程と、上方へ開口する凹部(51)を有する導体リング(50)によって3つ以上の上記導体セグメント(33)の端部を保持する保持工程と、3つ以上の上記導体セグメント(33)の端部を溶かして接合する接合工程とを含み、上記保持工程では、上記導体セグメント(33)の端部の少なくとも一部が上記凹部(51)内に位置するように上記端部を上記導体リング(50)により保持し、上記接合工程では、溶けた上記導体セグメント(33)を上記凹部(51)で受けつつ上記導体リング(50)のうち上記凹部(51)の周辺部分を溶かし、上記導体セグメント(33)と上記導体リング(50)とが一体化するように凝固させる。
【0021】
第8の態様では、導体セグメント(33)の接合部(34)における電気抵抗が抑制され、ひいてはセグメントコイル(30)の電気抵抗が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、実施形態1の回転電気機械の斜視図である。
図2図2は、複数の導体セグメントの端部近傍を示す斜視図である。
図3図3は、複数の導体セグメントの接合部を示す正面図である。
図4図4は、複数の導体セグメントの端部とこれらを保持する治具とを示す斜視図である。
図5図5は、複数の導体セグメントの端部を接合する様子を示す側面図である。
図6図6は、実施形態1の変形例1における複数の導体セグメントの端部を接合する様子を示す側面図である。
図7図7は、実施形態2の複数の導体セグメントの端部とこれらを保持する導体リングとを示す斜視図である。
図8図8は、複数の導体セグメントの端部を接合する様子を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
《実施形態1》
実施形態1について説明する。本実施形態の回転電気機械(10)は、負荷を駆動するための電動機として構成されている。回転電気機械(10)は、例えば回転式圧縮機に適用されるが、その用途はこれに限られない。
【0024】
〈回転電気機械〉
図1に示すように、回転電気機械(10)は、固定子(20)と、固定子(20)の内周側に設けられる回転子(図示せず)とを備える。固定子(20)は、固定子コア(21)と、セグメントコイル(30)とを備える。
【0025】
固定子コア(21)は、実質的に円筒状の部材である。固定子コア(21)は、磁性体(例えば、積層鋼板)で構成される。固定子コア(21)は、バックヨーク部(22)と、バックヨーク部(22)の内周面から径方向内側に延びる複数のティース部(図示せず)とを有する。周方向に隣り合うティース部の間には、セグメントコイル(30)を収容するためのスロットが形成される。
【0026】
セグメントコイル(30)は、固定子コア(21)のティース部に巻き付いたように設けられる。セグメントコイル(30)は、主に導電体(例えば、銅)で構成される。セグメントコイル(30)は、概ねU字状の導体セグメント(33)を各接合部(34)で複数(この例では、6つ)接合することで形成される。セグメントコイル(30)に不図示の電源装置から電力が供給されると、固定子(20)で回転磁界が生成され、それにより回転子が回転する。
【0027】
セグメントコイル(30)の接合部(34)(換言すると、複数の導体セグメント(33)の接合部(34))は、実質的に太さが一定の円柱状になっていて、全体の断面積(S1)(より具体的には、円形断面の断面積(S1))が、各導体セグメント(33)の断面積(S2)(より具体的には、長方形断面の断面積(S2))よりも大きい(図3を参照)。
【0028】
ここで、各部分の「断面積」とは、当該部分を流れる電流の向きに対して垂直な断面における断面積のことである。例えば、鉛直方向に延びる導体セグメント(33)があったとすると、その導体セグメント(33)では電流が鉛直方向に流れる。この例では、導体セグメント(33)の断面積は、水平断面における断面積である。
【0029】
〈導体セグメント〉
図2には、任意の1つの接合部(34)で接合された複数(この例では、6つ)の導体セグメント(33)の端部近傍が示されている。各導体セグメント(33)は、横断面形状が長方形状の平角線で構成される。各導体セグメント(33)は、導体と、導体を被覆する絶縁材料(例えば、エナメル)とを有し、端部でのみ導体が露出している。複数の導体セグメント(33)は、固定子コア(21)の径方向に並ぶように配置される(以下、複数の導体セグメント(33)が並ぶ方向を「並び方向」ともいう)。各導体セグメント(33)は、横断面の長方形状の短手方向が並び方向と一致するように配置される。
【0030】
並び方向の一方側(例えば、径方向外側)の3つの導体セグメント(33)は、互いに並列に接続される第1導体セグメント群(31)を構成する。並び方向の他方側(例えば、径方向内側)の3つの導体セグメント(33)は、互いに並列に接続される第2導体セグメント群(32)を構成する。
【0031】
複数の導体セグメント(33)の端部は、後述するように互いに接合され、それにより接合部(34)が形成される。接合部(34)は、複数の導体セグメント(33)の端部にわたって延びる柱状の部分である。
【0032】
接合部(34)に対する第1導体セグメント群(31)の各導体セグメント(33)を流れる電流の向きは、当該接合部(34)に対する第2導体セグメント群(32)の各導体セグメント(33)を流れる電流の向きと異なる。換言すると、第1導体セグメント群(31)の各導体セグメント(33)から接合部(34)に電流が流入する場合、当該接合部(34)から第2導体セグメント群(32)の各導体セグメント(33)へ電流が流出し、その逆の関係も成り立つ。接合部(34)のうち第1導体セグメント群(31)と第2導体セグメント群(32)との間の部分は、直列接続部(35)である。直列接続部(35)は、セグメントコイル(30)を流れる電流の全てが流れる。直列接続部(35)の断面積(S1)は、各導体セグメント(33)の断面積(S2)よりも大きい(図3を参照)。
【0033】
接合部(34)に対する第1導体セグメント群(31)の各導体セグメント(33)を流れる電流の向きは、互いに同じである。換言すると、第1導体セグメント群(31)の任意の導体セグメント(33)から接合部(34)に電流が流入する場合、第1導体セグメント群(31)の他の導体セグメント(33)からも当該接合部(34)に電流が流入する一方、接合部(34)から第1導体セグメント群(31)の任意の導体セグメント(33)に電流が流出する場合、第1導体セグメント群(31)の他の導体セグメント(33)にも当該接合部(34)から電流が流出する。接合部(34)のうち第1導体セグメント群(31)の各導体セグメント(33)間の部分は、並列接続部(36)である。並列接続部(36)は、セグメントコイル(30)を流れる電流の一部が流れる。並列接続部(36)の断面積(S1)は、各導体セグメント(33)の断面積(S2)よりも大きい(図3を参照)。
【0034】
接合部(34)に対する第2導体セグメント群(32)の各導体セグメント(33)を流れる電流の向きは、互いに同じである。換言すると、第2導体セグメント群(32)の任意の導体セグメント(33)から接合部(34)に電流が流入する場合、第2導体セグメント群(32)の他の導体セグメント(33)からも当該接合部(34)に電流が流入する一方、接合部(34)から第2導体セグメント群(32)の任意の導体セグメント(33)に電流が流出する場合、第2導体セグメント群(32)の他の導体セグメント(33)にも当該接合部(34)から電流が流出する。接合部(34)のうち第2導体セグメント群(32)の各導体セグメント(33)間の部分は、並列接続部(36)である。並列接続部(36)は、セグメントコイル(30)を流れる電流の一部が流れる。並列接続部(36)の断面積(S1)は、各導体セグメント(33)の断面積(S2)よりも大きい(図3を参照)。
【0035】
〈回転電気機械の製造方法〉
図4および図5を参照して、回転電気機械(10)の製造方法について説明する。ここでは、固定子コア(21)にセグメントコイル(30)を設ける工程について主に説明する。
【0036】
まず、公知の態様にしたがって、固定子コア(21)のスロットにU字状の導体セグメント(33)を挿入し(挿入工程)、挿入された導体セグメント(33)を変形させる(変形工程)。この変形は、複数の導体セグメント(33)の端部が図2のように配置されるようになされる。
【0037】
次に、図4に示すように、上方へ開口する凹部(41)を有する治具(40)によって複数の導体セグメント(33)の端部を保持する(保持工程)。凹部(41)は、実質的に半円柱状の空間である。保持工程では、2つに分割可能な治具(40)によって複数の導体セグメント(33)の端部を挟み込み、それにより当該複数の導体セグメント(33)を位置決めする。このとき、複数の導体セグメント(33)の端部の少なくとも一部が凹部(41)内に位置するように、当該導体セグメント(33)を位置決めする。治具(40)の凹部(41)の底壁は、セラミックス材料で構成される。治具(40)の凹部(41)の周辺部分は、導電体で構成される。
【0038】
次に、図5に示すように、位置決めされた複数の導体セグメント(33)の端部を、アーク溶接(例えば、TIG溶接)によって溶かして接合する(接合工程)。接合工程では、治具(40)の導電体で構成された部分を、アーク溶接における一方の電極(正極または負極)として利用する。接合工程では、溶けた導体セグメント(33)を治具(40)の凹部(41)で受けた状態で凝固させる。これにより、各導体セグメント(33)の断面積(S2)よりも大きな断面積(S1)を有する接合部(34)が形成される。
【0039】
-実施形態1の効果-
本実施形態の回転電気機械(10)は、各接合部(34)で3つ以上の導体セグメント(33)が接合されることで形成されるセグメントコイル(30)を有する固定子(20)を備え、3つ以上の上記導体セグメント(33)の上記接合部(34)は、該接合部(34)に対する電流の向きが互いに異なる上記導体セグメント(33)を接続する直列接続部(35)を有し、上記直列接続部(35)の断面積(S1)は、各上記導体セグメント(33)の断面積(S2)よりも大きい。したがって、3つ以上の導体セグメント(33)を流れる電流の全てが直列接続部(35)を流れる。このため、直列接続部(35)の断面積(S1)が小さいと、直列接続部(35)における電気抵抗が大きくなり、ひいてはセグメントコイル(30)の電気抵抗が大きくなってしまう。これに対し、直列接続部(35)の断面積(S1)が各導体セグメント(33)の断面積(S2)よりも大きいので、直列接続部(35)における電気抵抗が抑制され、ひいてはセグメントコイル(30)の電気抵抗が抑制される。
【0040】
また、本実施形態の回転電気機械(10)は、上記接合部(34)が、該接合部(34)に対する電流の向きが互いに同じである上記導体セグメント(33)を接続する並列接続部(36)を有し、上記並列接続部(36)の断面積(S1)が、各上記導体セグメント(33)の断面積(S2)よりも大きい。したがって、3つ以上の導体セグメント(33)を流れる電流の一部が並列接続部(36)を流れる。並列接続部(36)の断面積(S1)が小さすぎると、並列接続部(36)における電気抵抗が大きくなりすぎ、ひいてはセグメントコイル(30)の電気抵抗が大きくなってしまう。これに対し、並列接続部(36)の断面積(S1)が各導体セグメント(33)の断面積(S2)よりも大きいので、並列接続部(36)における電気抵抗が抑制され、ひいてはセグメントコイル(30)の電気抵抗が抑制される。
【0041】
また、本実施形態の回転電気機械(10)は、上記接合部(34)の全体の断面積(S1)が、各上記導体セグメント(33)の断面積(S2)よりも大きい。したがって、導体セグメント(33)の全体における電気抵抗が抑制され、よってセグメントコイル(30)の電気抵抗がより一層抑制される。また、接合部(34)の全体の強度(換言すると、導体セグメント(33)同士の接合強度)が高くなる。
【0042】
本実施形態の回転電気機械(10)の製造方法は、各接合部(34)で3つ以上の導体セグメント(33)が接合されることで形成されるセグメントコイル(30)を有する固定子(20)を備えた回転電気機械(10)の製造方法であって、上記固定子(20)のスロットに上記導体セグメント(33)を挿入する挿入工程と、上方へ開口する凹部(41)を有する治具(40)によって3つ以上の上記導体セグメント(33)の端部を保持する保持工程と、3つ以上の上記導体セグメント(33)の端部を溶かして接合する接合工程とを含み、上記保持工程では、上記導体セグメント(33)の端部の少なくとも一部が上記凹部(41)内に位置するように上記端部を上記治具(40)により保持し、上記接合工程では、溶けた上記導体セグメント(33)を上記凹部(41)で受けた状態で凝固させる。したがって、溶けた導体セグメント(33)が凹部(41)で受けられた状態で凝固する。それにより形成される接合部(34)の断面積(S1)は、溶けた導体セグメント(33)を凹部(41)で受けない場合に比べて大きくなる。これにより、導体セグメント(33)の接合部(34)における電気抵抗が抑制され、ひいてはセグメントコイル(30)の電気抵抗が抑制される。
【0043】
また、本実施形態の回転電気機械(10)の製造方法は、上記治具(40)が、少なくとも一部が導電体で構成されており、上記接合工程では、上記治具(40)の導電体で構成された部分を一方の電極とするアーク溶接によって上記導体セグメント(33)の端部を接合する。したがって、導体セグメント(33)の端部を保持する機能と、アーク溶接の電極としての機能とを共通の治具(40)により実現できる。
【0044】
また、本実施形態の回転電気機械(10)の製造方法は、上記保持工程では、上記治具(40)によって上記導体セグメント(33)の端部を位置決めし、上記接合工程では、位置決めされた上記導体セグメント(33)の端部を溶かして接合する。したがって、治具(40)によって、導体セグメント(33)の端部を保持するだけでなく、当該端部を位置決めすることができる。これにより、接合部(34)の品質を向上することができる。
【0045】
また、本実施形態の回転電気機械(10)の製造方法は、上記凹部(41)のうち少なくとも溶けた上記導体セグメント(33)が接触する部分が、セラミックス材料で構成される。したがって、溶けた導体セグメント(33)が、凹部(41)のうちセラミックス材料で構成された部分に付着しにくくなる。よって、凝固後の接合部(34)を治具(40)から容易に取り出すことができる。
【0046】
-実施形態1の変形例-
実施形態1の変形例について説明する。本変形例では、回転電気機械(10)の製造に用いる治具(40)の形状と、それに対応する接合部(34)の形状とが上記実施形態1と異なる。以下、上記実施形態1と異なる点について主に説明する。
【0047】
図6に示すように、保持工程および接合工程で用いる治具(40)の凹部(41)は、図6の紙面直交方向に延びる実質的に台形柱状の空間である。このため、接合工程で形成される接合部(34)の形状も、凹部(41)の形状に対応する実質的な台形柱状になる。
【0048】
《実施形態2》
実施形態2について説明する。本実施形態では、保持工程および接合工程において、治具(40)ではなく導体リング(50)を用いる。以下、上記実施形態1と異なる点について主に説明する。
【0049】
図7に示すように、保持工程では、上方へ開口する凹部(51)を有する導体リング(50)によって複数の導体セグメント(33)の端部を保持する。凹部(51)は、実質的に半円柱状の空間である。保持工程では、複数の導体セグメント(33)の端部を導体リング(50)の孔(具体的には、凹部(51)の底部に形成された孔)に差し込み、それにより当該複数の導体セグメント(33)を位置決めする。このとき、複数の導体セグメント(33)の端部の少なくとも一部が凹部(51)内に位置するように、当該導体セグメント(33)を位置決めする。導体セグメント(33)は、不図示の保持手段によって保持されてもよい。導体リング(50)は、導体セグメント(33)の導体を構成する導電体と同じ種類の導電体で構成される。なお、導体リング(50)は、その他の種類の導電体で構成されてもよい。
【0050】
図8に示すように、接合工程では、位置決めされた複数の導体セグメント(33)の端部と、導体リング(50)のうち凹部(51)の周辺部分とを、アーク溶接(例えば、TIG溶接)によって溶かして接合する。接合工程では、導体リング(50)を、アーク溶接における一方の電極(正極または負極)として利用する。接合工程では、溶けた導体セグメント(33)と導体リング(50)とが一体化するように両者を凝固させる。これにより、各導体セグメント(33)の断面積(S2)よりも大きな断面積(S1)を有する接合部(34)が形成される。
【0051】
-実施形態2の効果-
本実施形態の回転電気機械(10)によっても、上記実施形態1と同様の効果が得られる。
【0052】
また、本実施形態の回転電気機械(10)の製造方法は、各接合部(34)で3つ以上の導体セグメント(33)が接合されることで形成されるセグメントコイル(30)を有する固定子(20)を備えた回転電気機械(10)の製造方法であって、上記固定子(20)のスロットに上記導体セグメント(33)を挿入する挿入工程と、上方へ開口する凹部(51)を有する導体リング(50)によって3つ以上の上記導体セグメント(33)の端部を保持する保持工程と、3つ以上の上記導体セグメント(33)の端部を溶かして接合する接合工程とを含み、上記保持工程では、上記導体セグメント(33)の端部の少なくとも一部が上記凹部(51)内に位置するように上記端部を上記導体リング(50)により保持し、上記接合工程では、溶けた上記導体セグメント(33)を上記凹部(51)で受けつつ上記導体リング(50)のうち上記凹部(51)の周辺部分を溶かし、上記導体セグメント(33)と上記導体リング(50)とが一体化するように凝固させる。したがって、溶けた導体セグメント(33)が凹部(51)で受けられた状態で、導体セグメント(33)と導体リング(50)とが一体化して凝固する。それにより形成される接合部(34)の断面積(S1)は、導体リング(50)を使用しない場合に比べて大きくなる。これにより、導体セグメント(33)の接合部(34)における電気抵抗が抑制され、ひいてはセグメントコイル(30)の電気抵抗が抑制される。
【0053】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0054】
例えば、各上記実施形態では、回転電気機械(10)が電動機により構成されているが、回転電気機械(10)は発電機により構成されていてもよい。
【0055】
また、例えば、各上記実施形態では、セグメントコイル(30)は、6つの導体セグメント(33)が接合されることで形成されるが、3つ以上であれば任意の数の導体セグメント(33)が接合されることで形成されてもよい。
【0056】
また、例えば、治具(40)および導体リング(50)の凹部(41,51)の形状は、各上記実施形態のものに限られず任意に設計可能である。一例として、凹部(41,51)の形状は、実質的な角柱状であってもよい。
【0057】
また、例えば、治具(40)および導体リング(50)の凹部(41,51)は、導体セグメント(33)との間で両側(例えば、図5における右側および左側)に隙間ができるように形成されているが、導体セグメント(33)との間で片側のみに隙間ができるように形成されていてもよい。
【0058】
また、例えば、各上記実施形態では、接合部(34)の全体の断面積(S1)が各導体セグメント(33)の断面積(S2)よりも大きいが、直列接続部(35)の断面積(S1)が各導体セグメント(33)の断面積(S2)よりも大きいのであれば、接合部(34)における他の部分の断面積は各導体セグメント(33)の断面積(S2)以下であってもよい。
【0059】
以上、実施形態および変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態および変形例は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上説明したように、本開示は、回転電気機械およびその製造方法について有用である。
【符号の説明】
【0061】
10 回転電気機械
20 固定子
30 セグメントコイル
33 導体セグメント
34 接合部
35 直列接続部
36 並列接続部
40 治具
41 凹部
50 導体リング
51 凹部
S1 (接合部の)断面積
S2 (導体セグメントの)断面積
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8