(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】導電性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20240821BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
C08L83/07
C08K3/08
(21)【出願番号】P 2021550419
(86)(22)【出願日】2020-08-21
(86)【国際出願番号】 JP2020031631
(87)【国際公開番号】W WO2021065243
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2019183650
(32)【優先日】2019-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000132404
【氏名又は名称】株式会社スリーボンド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 悟
(72)【発明者】
【氏名】本松 美麗
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-150399(JP,A)
【文献】特開2008-038137(JP,A)
【文献】特開2004-331742(JP,A)
【文献】特開2009-108312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(E)を含有し、(B)成分の含有量が(A)成分100質量部に対して6~50質量部である導電性樹脂組成物;
(A)アルケニル基を有するポリオルガノシロキサン
(B)以下の構造を有するポリオルガノシロキサン
【化1】
(Rはそれぞれ独立してアルキル基および/またはアリール基であり、nは1以上の整数である)
(C)
鱗片状導電粒子および球状導電性粒子
(D)ヒドロシリル基を有する化合物
(E)ヒドロシリル化触媒。
【請求項2】
前記(B)成分のRの炭素数がそれぞれ独立して1~10である請求項1に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)成分のRがそれぞれ独立してメチル基および/またはフェニル基である請求項1または2に記載の導電性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C)成分が鱗片状銀粒子および球状銀被覆粒子である請求項1~3のいずれかに記載の導電性樹脂組成物。
【請求項5】
80℃×1時間で硬化させた硬化物の体積抵抗率の抵抗変化倍数が、20%延伸した時の体積抵抗率/延伸前(初期)の体積抵抗率≦100である請求項1~
4のいずれかに記載の導電性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれかに記載の導電性樹脂組成物から形成された硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟であり、延伸した状態での抵抗安定性に優れた導電性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性接着剤はアース取りや導通接着などの目的で様々な電子部品に用いられている。近年ではスマートフォンやウェアラブル端末など、多彩な形状を有する電子機器の普及により、導電性接着剤にも柔軟性が求められ、伸縮性に優れた導電性接着剤の開発が進められている(特開2002-212426号公報)。
【発明の概要】
【0003】
しかしながら、従来の柔軟な導電性接着剤は硬化物を伸長させると徐々に電気抵抗が上昇し絶縁になるなど、延伸した状態での抵抗を維持することが困難であった。また、従来の導電性接着剤は硬化温度が高いため、耐熱性の低い部品や部材に対して使用することができないという難点があった。
【0004】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討した結果、部材にダメージを与えない低温(80℃)で硬化させることができ、硬化物を延伸した状態においても抵抗の上昇を抑制できる導電性樹脂組成物を見出した。
【0005】
本発明の要旨を次に説明する。
【0006】
[1]下記(A)~(E)を含有し、(B)成分の含有量が(A)成分100質量部に対して6~50質量部である導電性樹脂組成物:
(A)アルケニル基を有するポリオルガノシロキサン
(B)以下の構造を有するポリオルガノシロキサン
【0007】
【0008】
(Rはそれぞれ独立してアルキル基および/またはアリール基であり、nは1以上の整数である)
(C)導電性粒子
(D)ヒドロシリル基を有する化合物
(E)ヒドロシリル化触媒。
【0009】
[2]前記(B)成分のRの炭素数がそれぞれ1~10である[1]に記載の導電性樹脂組成物。
【0010】
[3]前記(B)成分のRがそれぞれ独立してメチル基および/またはフェニル基である[1]または[2]に記載の導電性樹脂組成物。
【0011】
[4]前記(C)成分の形状が鱗片状および/または球状である[1]~[3]のいずれかに記載の導電性樹脂組成物。
【0012】
[5]前記(C)成分が銀粉および/または銀被覆粒子である[1]~[4]のいずれかに記載の導電性樹脂組成物。
【0013】
[6]80℃×1時間で硬化させた硬化物の体積抵抗率が、(20%延伸した時の体積抵抗率/延伸前の体積抵抗率)=100以下である[1]~[5]のいずれかに記載の導電性樹脂組成物。
【0014】
[7][1]~[6]のいずれかに記載の導電性樹脂組成物から形成された硬化物。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の詳細を次に説明する。
【0016】
本発明の導電性樹脂組成物は、下記(A)~(E)を含有し、(B)成分の含有量が(A)成分100質量部に対して6~50質量部である:
(A)アルケニル基を有するポリオルガノシロキサン
(B)以下の構造を有するポリオルガノシロキサン
【0017】
【0018】
(Rはそれぞれ独立してアルキル基および/またはアリール基であり、nは1以上の整数である)
(C)導電性粒子
(D)ヒドロシリル基を有する化合物
(E)ヒドロシリル化触媒。
【0019】
本発明は、低温で硬化するとともに優れた導電性(体積抵抗率)を有し、延伸することによる抵抗率変化が抑制された硬化物が得られる導電性樹脂組成物を提供するものである。
【0020】
(A)成分:アルケニル基を有するポリオルガノシロキサン
本発明で使用される(A)成分のアルケニル基を有するポリオルガノシロキサンとしては特に限定されず、各種のものを用いることができる。アルケニル基を有するポリオルガノシロキサンの分子構造は実質的に直線状であるが、一部に分岐構造があってもよい。例えば、分子鎖両末端ビニル基封鎖ポリジメチルシロキサン;分子鎖末端ビニル基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体;分子鎖両末端ビニル基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体;分子鎖片末端がビニル基で封鎖され、もう一方の分子鎖片末端がトリメトキシ基で封鎖されたポリジメチルシロキサン;分子鎖片末端がビニル基で封鎖され、もう一方の分子鎖片末端がトリメチルシロキシ基で封鎖されたポリジメチルシロキサン;分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体が挙げられる。これらの中でも汎用性があり、低温硬化性に優れることから、分子鎖両末端ビニル基封鎖ポリジメチルシロキサンが好ましい。これらは単独で1種のみで用いられてもよく、または2種以上併用されてもよい。
【0021】
本発明の(A)成分が有するアルケニル基は、ヒドロシリル化反応するものであれば限定はされないが、H2C=CH-Si-であることが好ましい。
【0022】
前記(A)成分の粘度は、25℃で100~15,000cPsが好ましく、より好ましくは1,000~10,000cPsであり、最も好ましくは3,000~8,000cPsである。前記(A)成分の粘度が100cPs以上であることで柔軟な硬化物を得ることができ、15,000cPs以下であれば(B)成分との相溶性がよく、保存時に液の分離などを引き起こす恐れがない。(A)成分の25℃における粘度は、コーンプレート型粘度計を用いて測定することができる。
【0023】
前記(A)成分のビニル当量としては、0.0001~20Eq/kgが好ましく、より好ましくは0.001~10Eq/kgであり、最も好ましくは0.01~1Eq/kgである。前記(A)成分のビニル当量が0.0001~20Eq/kgであれば低温硬化性を維持することができる。(A)成分のビニル当量は、Wijs法によって決定することができる。具体的には、炭素二重結合を一塩化ヨウ素(過剰量)と反応させ、その後、過剰な一塩化ヨウ素をヨウ化カリウムと反応させ、遊離するヨウ素をチオ硫酸ナトリウム水溶液にて終点まで滴定し消費されたヨウ素量からビニル当量を算出することができる。
【0024】
前記(A)成分の重量平均分子量は、700以上15万未満が好ましく、より好ましくは2000以上13万未満、最も好ましくは8000以上10万未満である。前記(A)成分の重量平均分子量が700以上であることで、柔軟な硬化物を得ることができ、15万未満であれば、(C)成分と混合した際の粘度が高くなりすぎることがないため、塗布性に優れた導電性樹脂組成物を得ることができる。なお、重量平均分子量(Mw)は、標準物質としてポリスチレンを用いたゲルろ過クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography;GPC)で測定された値を採用するものとする。
【0025】
前記(A)成分の市販品としては、Gelest社製の分子鎖両末端ビニル基封鎖ポリジメチルシロキサン(粘度(25℃):5000cPs、ビニル当量:0.04Eq/kg、重量平均分子量:49,500)のほか、分子鎖両末端にビニル基を有するポリオルガノシロキサンとして、例えば、Gelest社製の商品名、DMS-Vシリーズ(例えば、DMS-V31、DMS-V31S15、DMS-V33、DMS-V35、DMS-V35R、DMS-V41、DMS-V42、DMS-V46、DMS-V51、DMS-V52)、Gelest社製の商品名、PDVシリーズ(例えば、PDV-0341、PDV-0346、PDV-0535、PDV-0541、PDV-01631、PDV-01635、PDV-01641、PDV-2335)、Gelest社製の商品名、PMV-9925、PVV-3522、FMV-4031、EDV-2022などが挙げられる。
【0026】
(B)成分:以下の構造を有するポリオルガノシロキサン
本発明の(B)成分は以下の構造を有するポリオルガノシロキサンである。
【0027】
【0028】
(Rはそれぞれ独立してアルキル基および/またはアリール基であり、nは1以上の整数である)。
【0029】
(B)成分は(A)成分との相溶性に優れ、延伸時の抵抗上昇を抑制する主要な成分である。(A)成分との相溶性の観点から、Rの炭素数は1~10が好ましく、1~8がより好ましい。Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、メチルフェニル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基などが挙げられるが、保存安定性の観点からメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、フェニル基からなる群より1以上有するものが好ましく、メチル基および/またはフェニル基を1以上有するものが最も好ましい。なかでも、Rがそれぞれ独立してメチル基((B)成分;ジメチルシリコーンオイル)および/またはフェニル基((B)成分;ジフェニルシリコーンオイル)であるのが特に好ましい。汎用性の観点から分子鎖末端のRがメチル基であることが好ましい。これらは単独で1種のみで用いられてもよく、2種以上併用されてもよい。
【0030】
前記(B)成分の動粘度は5~5000mm2/sが好ましく、より好ましくは10~3000mm2/sであり、最も好ましくは50~1000mm2/sである。前記(B)成分の動粘度が5mm2/s以上であることで、(A)成分と混合した際に経時で分離することがないため、保存安定性を維持することができ、5000mm2/s以下であれば(C)成分と混合しやすく、(C)成分を導電性樹脂組成物中に均一に分散することができる。(B)成分の動粘度は、JIS Z 8803:2011に準じた方法で測定することができる。
【0031】
前記(B)成分の添加量は(A)成分100質量部に対して6~50質量部である。更に好ましくは6~30質量部であり、最も好ましくは6~20質量部である。前記(B)成分の添加量が、6質量部以上であれば、延伸時に体積抵抗率を安定化させることができ、50質量部以下であれば、延伸前の体積抵抗率の低下や、導電性樹脂組成物として経時での(C)成分の沈降を抑制することができる。
【0032】
前記(B)成分の市販品としては、信越化学工業株式会社製のKF-96、KF-96H、KF-96-100CS、KF-50、KF-50-100CS、KF-54、KF-965、KF-968などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0033】
(C)成分:導電性粒子
本発明の(C)成分は、導電性粒子であり、金、銀、銅、ニッケル、パラジウムなどの金属粉や、これらを複数種組み合わせてなる半田などの合金や、有機ポリマー粒子および金属粒子に他の金属薄膜を被覆したメッキ粒子などが挙げられる。なかでも低抵抗を実現できる点から、金、銀、銅、およびこれらの金属を表面に被覆した粒子が好ましい。汎用性とコストの観点から、銀、銅、およびこれらの金属を被覆した粒子がより好ましく、銀は銅に比べ、酸化されにくく扱いやすいため、銀および銀を被覆した粒子が最も好ましい。これらは単独で1種のみで用いられてもよく、2種以上併用されても良い。
【0034】
前記(C)成分の形状は球状、不定形状、鱗片状、針状、樹枝状などが挙げられる。なお、(C)成分は単独で用いてもよく、2種以上併用されてもよいが、2種以上併用することでより低抵抗性、高熱伝導性を実現することができるため好ましい。導電性樹脂組成物の粘度を上げすぎず、低抵抗を発現する観点から、球状と鱗片状を組み合わせることがより好ましい。また導電性粒子の比重が重すぎると、導電性樹脂組成物の保存時に導電性粒子が沈降する恐れがあるため、球状粒子を使用する場合、有機ポリマー粒子に金属を被覆した粒子を使用することが好ましい。有機ポリマー粒子としては、アクリル粒子、スチレン粒子、ブタジエン粒子、シリコーン粒子などが好ましく、中でも汎用性の観点からアクリル粒子、スチレン粒子からなることが好ましい。ここで、球状とは、長径に対する短径で表される真球度(短径/長径)が、0.6~1.0であるものをいう。鱗片状とは、非球状でありフレーク状であるものをいう。
【0035】
前記(C)成分の平均粒径は、0.05~70μmであることが好ましく、0.1~50μmであることが好ましく、0.5~20μmであることが最も好ましい。前記(C)成分の平均粒径が0.05μm以上であることで、抵抗を安定化させることができ、70μm以下であることで、導電性樹脂組成物をディスペンス塗布、スクリーン印刷などで塗布する際のノズルやメッシュ詰まりの発生を抑制することができる。平均粒径の確認方法としては、レーザー回折散乱式やマイクロソーティング制御方式の粒度・形状分布測定器、光学顕微鏡、電子顕微鏡等の画像解析が挙げられる。本発明では、レーザー回折散乱法で測定した導電性粒子を用いた。
【0036】
前記(C)成分の比表面積は、0.01~10m2/gであることが好ましく、0.1~7m2/gであることがより好ましく、1~5m2/gであることが最も好ましい。前記(C)成分の比表面積が0.01~10m2/gであることで、導電性樹脂組成物中に高充填することができるため、高導電性と高放熱性を実現することができる。上記比表面積はBET比表面積から算出することができる。
【0037】
前記(C)成分が鱗片状の場合、タップ密度は、0.5~10g/cm3が好ましく、1~8g/cm3がさらに好ましく、2~5g/cm3が最も好ましい。前記タップ密度が0.5~10g/cm3であることで、導電性樹脂組成物中に高充填することができるため、高導電性と高放熱性を実現することができる。タップ密度はJIS Z 2512:2012に従って測定することができる。
【0038】
前記(C)成分は、滑剤として飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸が使用できる。具体例としては、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、リノレン酸、リノール酸、パルミトレイン酸、オレイン酸等およびそれらのエステル化合物が挙げられる。滑剤は固体や粉末状の金属を加工する際に、凝集防止、分散性向上などの目的で製造上使用されているが、導電性樹脂組成物中においても滑剤が、導電性粒子と樹脂との濡れ性や分散性を向上させ、金属表面の酸化を抑制するため、より高い導電性を実現することができる。
【0039】
前記(C)成分は(A)成分100質量部に対して、10~2000質量部含むことが好ましく、50~1000質量部含むことがさらに好ましく。100~600質量部含むことが最も好ましい。前記(C)成分が(A)成分100質量部に対して10~2000質量部含むことで硬化物の初期および延伸時の体積抵抗率を安定化させることができる。
【0040】
(D)成分:ヒドロシリル基を有する化合物
本発明の(D)成分は、ヒドロシリル基を有する化合物である。ヒドロシリル基を有する化合物としては、(A)成分と架橋により硬化できるヒドロシリル基含有化合物であれば特に制限なく、各種のものを用いることができるが、好ましくはオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、分子中に水素原子が直接結合しているケイ素原子を含んでいる、直鎖状、分岐状、環状または網状の分子からなるシリコーンである。低温硬化性の観点から、水素原子が直接結合しているケイ素原子を2個以上分子中に有しているものが好ましい。水素原子は末端のケイ素原子でも側鎖のケイ素原子にでも結合してよいが、低温硬化性を可能にし、硬化物の靭性を向上させる観点から、側鎖に結合しているものが好ましい。
【0041】
前記(D)成分のケイ素原子に結合した水素原子以外の置換基は、低温硬化性の観点から炭素数1~6のアルキル基、フェニル基が好ましいが、その他のものでもよい。(D)成分の添加量は(A)成分のアルケニル基1個に対して、0.5~1.5当量となる量が好ましい。より好ましくは0.8~1.2当量である。前記(D)成分の添加量が0.5当量以上であれば、架橋密度が適度に形成されるため、硬化物の靭性を保持することができ、1.5当量以下であれば、脱水素反応による発泡を防ぐことができ、導電性樹脂組成物の硬化物として特性(樹脂強度、抵抗安定性)を損なう恐れがない。
【0042】
また、前記(D)成分の添加量は(A)成分100質量部に対して、0.1~50質量部が好ましい。より好ましく0.5~30質量部である。前記(D)成分の添加量が0.1質量部以上であれば、架橋密度が適度に形成されるため、硬化物の靭性を保持することができ、50質量部以下であれば、脱水素反応による発泡を防ぐことができ、導電性樹脂組成物の硬化物として特性(樹脂強度、抵抗安定性)を損なう恐れがない。
【0043】
前記(D)成分の市販品としては、Gelest社製の商品名、DMS-H013、DMS-H11、DMS-H21、DMS-H025、DMS-H31、DMS-H42、PMS-H03、HMS-013、HMS-031、HMS-064、HMS-071、HMS-991、HMS-992、HMS-993、HDP-111、HPM-502、HMS-151、HMS-301、HQM-105、HQM-107や東レ・ダウコーニング株式会社製の商品名、DAWSIL SH1107 Fluid(トリメチルシロキシ末端メチル水素シロキサン)などが挙げられる。
【0044】
(E)成分:ヒドロシリル化触媒
本発明の(E)成分は、ヒドロシリル化反応を促進できる触媒であり、任意のものが使用できる。例えば、有機過酸化物やアゾ化合物等のラジカル開始剤、および遷移金属触媒が挙げられるが、低温硬化性の観点から遷移金属触媒が好ましく、さらに好ましくはロジウム触媒、ルテニウム触媒、白金触媒であり、最も好ましくは白金触媒である。白金触媒の具体例としては、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とアルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン化合物との反応物、塩化白金酸とビニル基含有シロキサンとの反応物、白金-オレフィン錯体、白金-ビニル基含有シロキサン錯体等の白金系触媒が挙げられる。また、これらの触媒をイソプロパノールやトルエン等の溶剤やシロキサンオイルなどに溶解・分散させたものを用いてもよい。
【0045】
白金触媒以外の具体例としては、RhCl(PPh3)3、RhCl3、Rh/Al2O3、RuCl3、IrCl3、FeCl3、AlCl3、PdCl2・xH2O、NiCl2、TiCl4、等が挙げられる。これらの触媒は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0046】
前記(E)成分の含有量としては、(A)成分のアルケニル基1molに対して1×10-10~1molの範囲で用いるのが好ましく、さらに好ましくは1×10-8~1×10-3molである。前記(E)成分の含有量が(A)成分のアルケニル基1molに対して1×10-10mol以上であれば低温硬化性を保つことができ、1mol以下であれば水素ガスによる発泡を防止することができる。
【0047】
前記(E)成分の市販品としては、ユミコアプレシャスメタルズジャパン株式会社製の白金触媒、商品名:PT-VTSC-3.0Xなどが挙げられる。
【0048】
(F)任意成分:反応抑制剤
本発明の導電性樹脂組成物には、本発明の特性を損なわない範囲において、反応抑制剤を配合しても良い。反応抑制剤を用いることで、低温硬化性と保存安定性を両立することができるため好ましい。反応抑制剤としては、室温での保存中は反応せず、加熱時に反応を開始する脂肪族不飽和結合を含む化合物を添加することが好ましい。脂肪族不飽和結合を含有する化合物としては、具体的には3-ヒドロキシ-3-メチル-1-ブチン、3-ヒドロキシ-3-フェニル-1-ブチン、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、1-エチニル-1-シクロヘキサノール等のプロパギルアルコール類、エン-イン化合物類、無水マレイン酸、マレイン酸ジメチル等のマレイン酸エステル類等が例示できる。なかでも、導電性樹脂組成物との相溶性の観点から、マレイン酸エステルが好ましい。また、その他の反応抑制剤として有機燐化合物が使用できる。具体的にはトリオルガノフォスフィン類、ジオルガノフォスフィン類、オルガノフォスフォン類、トリオルガノフォスファイト類等が例示できる。また、その他の反応抑制剤として有機硫黄化合物が使用できる。有機硫黄化合物としては、具体的にはオルガノメルカプタン類、ジオルガノスルフィド類、硫化水素、ベンゾチアゾール、チアゾール、ベンゾチアゾールジサルファイド等が例示できる。また、その他の反応抑制剤として窒素含有化合物が使用できる。窒素含有化合物としては、具体的にはN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジエチルエチレンジアミン、N,N-ジブチルエチレンジアミン、N,N-ジブチル-1,3-プロパンジアミン、N,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N,N’,N’-テトラエチルエチレンジアミン、N,N-ジブチル-1,4-ブタンジアミン、2,2’-ビピリジン等が例示できる。これらの反応抑制剤は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
【0049】
反応抑制剤の量は前記(A)100質量部に対して、0.01~10質量部が好ましく、さらに好ましくは0.1~7質量部であり、最も好ましくは0.3~5質量部である。反応抑制剤の量が前記(A)100質量部に対して0.01質量部以上であることで導電性樹脂組成物として保存安定性を維持することができ、10質量部以下であることで低温硬化性を維持することができる。
【0050】
(G)任意成分:充填材
本発明の導電性樹脂組成物に対し、硬化物の弾性率、流動性などの改良を目的として、特性を阻害しない程度の充填材を添加してもよい。充填材の形状は特に限定されないが、導電性樹脂組成物の硬化物の機械的な強度を向上させるとともに、粘度の上昇を抑制できることから球形状が好ましい。充填材の平均粒径は、特に限定されないが0.1~1000μmの範囲が好ましく、さらに好ましくは0.5~300μmの範囲である。充填材としては、有機質粉体、無機質粉体、金属質粉体等が挙げられる。無機質粉体の充填材としては、ガラス、シリカ、アルミナ、マイカ、セラミックス、シリコーンゴム粉体、炭酸カルシウム、窒化アルミ、カーボン粉、カオリンクレー、乾燥粘土鉱物、乾燥珪藻土等が挙げられる。無機質粉体の配合量は、(A)成分100質量部に対し、0.1~100質量部程度が好ましい。無機質粉体の配合量が0.1質量部より大きければ効果が小さくなることもなく、100質量部以下であれば導電性樹脂組成物の十分な流動性が得られ、良好な作業性が得られる。
【0051】
上記シリカは、導電性樹脂組成物の粘度調整又は硬化物の機械的強度を向上させる目的で配合できる。好ましくは、オルガノクロロシラン類、ポリオルガノシロキサン、ヘキサメチルジシラザンなどで疎水化処理したものなどを用いることができる。シリカ(フュームドシリカ)の具体例としては、例えば、日本アエロジル株式会社製の商品名アエロジル(登録商標)R974、R972、R972V、R972CF、R805、R812、R812S、R816、R8200、RY200、RX200、RY200S、R202等の市販品が挙げられる。
【0052】
有機質粉体の充填材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、架橋アクリル、架橋ポリスチレン、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリカーボネートが挙げられる。有機質粉体の配合量は、(A)成分100質量部に対し、0.1~100質量部程度が好ましい。有機質粉体の配合量が0.1質量部より大きければ効果が小さくなることもなく、100質量部以下であれば導電性樹脂組成物の十分な流動性が得られ、良好な作業性が得られる。
【0053】
(H)任意成分:溶剤
また、本発明の導電性樹脂組成物には流動性、塗布性の改良を目的として、特性を阻害しない範囲で溶剤を添加しても良い。使用できる溶剤としては、(A)成分との相溶性から、極性が低いものが好ましく、炭化水素系がさらに好ましい。具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、n-ヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ノルマルヘプタン、ミネラルスピリット、ナフテン系、イソパラフィン系などが挙げられるが、ナフテン系、イソパラフィン系が好ましい。保存安定性の観点から溶剤の添加量は、(A)成分100質量部に対して0.1~100質量部が好ましく、1~50質量部がさらに好ましく、最も好ましくは5~30質量部である。
【0054】
前記溶剤の市販品としては、株式会社スタンダード石油製のナフテン系溶剤、商品名:エクソールD80などが挙げられる。
【0055】
本発明の導電性樹脂組成物は、各成分を混合することにより製造される。各成分の混合順序は特に限定されず、一括で添加して混合しても、順次添加して混合してもよい。
【0056】
また、本発明の導電性樹脂組成物は、加熱硬化することで硬化物を形成する。加熱温度としては50℃~100℃が好ましく、さらに好ましくは50~90℃であり、最も好ましくは50~80℃である。50℃~100℃であることで、熱に弱い部品や部材に対しても適用できるため、幅広い分野への展開が可能である。硬化時間は10分~3時間が好ましい。本発明の導電性樹脂組成物を80℃×1時間で硬化させた硬化物の体積抵抗率の抵抗変化倍数が、20%延伸した時の体積抵抗率/延伸前(初期)の体積抵抗率≦100であるのが好ましい。上記抵抗変化倍数(20%延伸した時の体積抵抗率/延伸前(初期)の体積抵抗率)が100以下であれば、延伸時の抵抗安定性が良好であることから、液晶パネルや、フレキシブルプリント基板、ウェアラブル端末などのアース取りや導通接着など延伸時の柔軟性が必要とされる用途に好適に利用することができる。
【0057】
<塗布方法>
本発明の導電性樹脂組成物を被着体へ塗布する方法としては、公知の方法が用いられる。例えば、自動塗布機によるディスペンス、スプレー、インクジェット、スクリーン印刷、グラビア印刷、ディッピング、スピンコートなどの方法を挙げられる。なお、本発明の導電性樹脂組成物は25℃で液状である。
【0058】
<用途>
本発明の導電性樹脂組成物は低温硬化性と優れた導電性を発現することから、様々な電子部品に利用可能である。なかでも、延伸時の抵抗安定性が良好であることから、液晶パネルや、フレキシブルプリント基板、ウェアラブル端末などのアース取りや導通接着など柔軟性が必要とされる用途への展開が好ましい。
【実施例】
【0059】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0060】
[実施例1~3、比較例1~11]
導電性樹脂組成物を調製するために下記成分を準備した。
【0061】
(A)成分:分子鎖両末端ビニル基封鎖ポリジメチルシロキサン(Gelest社製)、粘度(25℃):5000cPs、ビニル当量:0.04Eq/kg、重量平均分子量:49,500
(B-1)ジフェニルシリコーンオイル、商品名:KF-96-100CS(信越化学工業株式会社製)、動粘度(25℃):100mm2/s
(B-2)ジメチルシリコーンオイル、商品名:KF-50-100CS(信越化学工業株式会社製)、動粘度(25℃):100mm2/s、
(B’-1)流動パラフィン、動粘度(25℃):75mm2/s
(B’-2)ポリイソブテン、商品名:パールリーム46(日油株式会社製)
(B’-3)ミリスチン酸イソプロピル
(B’-4)アミノ変性シリコーンオイル、商品名:KF-865(信越化学工業株式会社製)、動粘度(25℃):110mm2/s
(B’-5)メルカプト変性シリコーンオイル、商品名:KF-2001(信越化学工業株式会社製)、動粘度(25℃):200mm2/s
(B’-6)カルボン酸無水物変性シリコーンオイル、商品名:X-22-168A(信越化学工業株式会社製)、動粘度(25℃):160mm2/s、
(B’-7)エポキシ変性シリコーンオイル、商品名:KF-101(信越化学工業株式会社製)、動粘度(25℃):1,500mm2/s、
(C-1):銀被覆アクリルポリマー粒子、形状:球状、平均粒径:6.5μm、比表面積:3.2m2/g
(C-2):銀粒子、形状:鱗片状、平均粒径:1.5μm、比表面積:2.1m2/g、タップ密度:3.1g/cm3、滑剤:オレイン酸
(D):架橋剤、トリメチルシロキシ末端メチル水素シロキサン、商品名:DOWSIL SH1107 Fluid(東レ・ダウコーニング株式会社製)
(E):白金触媒、商品名:PT-VTSC-3.0X(ユミコアプレシャスメタルズジャパン株式会社製)、(A)成分のアルケニル基1molに対して2.0×10-5mol。
【0062】
実施例1~3および比較例1~11の導電性樹脂組成物を下記の操作手順に従って調製した。
【0063】
前記(A)成分を撹拌容器に秤量し、(B)成分を撹拌容器に秤量して、10分撹拌し、(C)成分を撹拌容器に秤量して、30分間撹拌した。さらにエクソールD80(ナフテン系溶剤;株式会社スタンダード石油製)を(A)成分100質量部に対して10質量部添加し、30分間撹拌した後、(D)成分を撹拌容器に秤量して、30分間撹拌した。さらにマレイン酸ジメチル(反応抑制剤)を(A)成分100質量部に対して0.75質量部と(E)成分を秤量して、15分間撹拌した。かかる操作手順により実施例1~3および比較例1~11の導電性樹脂組成物をそれぞれ調製した。詳細な調製量は表1および表2に従い、数値は全て質量部で表記する。いずれの試験も25℃で行った。
【0064】
[相溶性]
25℃の環境下で100mlポリカップに(A)成分と(B)成分を(A):(B)=10g:1gの割合で秤量した後、ガラス棒で混合し、相溶の有無を目視で確認した。
【0065】
(A)成分と(B)成分が相溶する場合:○
(A)成分と(B)成分が相溶しない場合:×。
【0066】
[硬化性(80℃)]
100mm×100mm×厚さ2mmのガラス板の試験片上にガラス板と同様の大きさに裁断したポリテトラフルオロエチレンテープを貼り、ポリテトラフルオロエチレンテープ上に長さ100mm×幅10mm×厚さ80μmの導電性樹脂組成物を塗布した。試験片を恒温槽を使用し80℃×1時間硬化させた後、常温に戻し、硬化物の表面をポリテトラフルオロエチレン棒で指触して硬化の有無を確認した。
○:ポリテトラフルオロエチレン棒に導電性樹脂組成物が付着しない(硬化している)
×:ポリテトラフルオロエチレン棒に導電性樹脂組成物が付着する(未硬化)。
【0067】
[体積抵抗率(初期)]
硬化性試験で作製した試験片を用いて、デジタルマルチメーターの2端子法で測定した。
【0068】
合格基準:100×10-6Ω・m以下。
【0069】
[延伸時の抵抗変化倍数]
硬化性試験にて作製した試験片から導電性樹脂組成物の硬化物を取り外し、短辺の両端をチャックで挟み、長辺が50mmから60mm(+20%)になるまで延伸、固定した状態で、上記同様デジタルマルチメーターの2端子法で測定し、下記式にて抵抗変化倍数を算出した。
【0070】
【0071】
合格基準:抵抗変化倍数≦100。
【0072】
【0073】
【0074】
表1のように、実施例1~3の導電性樹脂組成物は80℃での硬化性、初期の体積抵抗率、延伸した状態での抵抗変化の全てにおいて良好であった。比較例1、2は相溶性および硬化性が悪く硬化物を作製することができなかった。比較例3~7は反応性の官能基を有するポリオルガノシロキサンや、その他の可塑剤を用いたものだが、低温硬化性と延伸時の抵抗変化において満足のいく結果を得ることはできなかった。比較例8は、延伸した状態での抵抗変化が大きく、本発明の効果は得られなかった。比較例9は初期の体積抵抗率が高いため、導電性樹脂組成物として満足のいくものではなかった。(B)成分を含有していない比較例10は延伸した状態での抵抗変化が大幅に上昇しており、(B)成分が延伸した状態での抵抗変化に影響していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の導電性樹脂組成物は、低温で硬化し、柔軟な硬化物を形成することができ、延伸した状態での抵抗変化が小さいため、産業上有用である。