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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】ハロゲン化アルケン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/25 20060101AFI20240821BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20240821BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240821BHJP
   C07C 19/08 20060101ALN20240821BHJP
   C09K 5/04 20060101ALN20240821BHJP
【FI】
C07C17/25
C07C21/18
C07B61/00 300
C07C19/08
C09K5/04 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023128736
(22)【出願日】2023-08-07
(65)【公開番号】P2024023159
(43)【公開日】2024-02-21
【審査請求日】2023-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2022126582
(32)【優先日】2022-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】卯田 祥子
(72)【発明者】
【氏名】江藤 友亮
(72)【発明者】
【氏名】中村 新吾
(72)【発明者】
【氏名】松永 隆行
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/171011(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/170980(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/204146(WO,A1)
【文献】特表2013-519629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07B
C09K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
-CR=CR-R (1)
[式中、R、R、R及びRは同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子又はハロアルキル基を示す。ただし、R及びRの片方は水素原子であり、他方はハロゲン原子である。]
で表されるハロゲン化アルケン化合物の製造方法であって、
一般式(2):
-CHR-CXR-R (2)
[式中、R、R、R及びRは前記に同じである。Xはハロゲン原子を示す。]で表されるハロゲン化アルカン化合物を、触媒と、不飽和化合物の存在下、脱ハロゲン化水素反応する工程を備え、
前記不飽和化合物が、一般式(3):
-CR=CR-R (3)
[式中、R、R、R及びRは同一又は異なって、水素原子又は有機基を示す。]、又は一般式(4):
-C≡C-R10 (4)
[式中、R及びR10は同一又は異なって、水素原子又は有機基を示す。]
で表される化合物であり、且つ、
前記一般式(1)で表される化合物と前記不飽和化合物とは異なる化合物であり、
前記不飽和化合物の最高被占有軌道(HOMO)のエネルギー準位が、前記一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物の最高被占有軌道(HOMO)のエネルギー準位よりも高い、製造方法。
【請求項2】
前記一般式(1)及び(2)において、前記R及びRがフッ素原子又はパーフルオロアルキル基である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記不飽和化合物の供給量が、前記一般式(2)で表されるハロゲン化アルカン化合物1モルに対して、0.001~0.40モルである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記脱ハロゲン化水素反応を気相で行う、請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ハロゲン化アルケン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン化アルケン化合物の製造方法として、例えば、特許文献1では、特定のハロゲン化アルカン化合物を脱ハロゲン化水素反応することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2020/171011号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、ハロゲン化アルケン化合物を効率よく得ることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の構成を包含する。
【0006】
項1.一般式(1):
-CR=CR-R (1)
[式中、R、R、R及びRは同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子又はハロアルキル基を示す。ただし、R及びRの片方は水素原子であり、他方はハロゲン原子である。]
で表されるハロゲン化アルケン化合物の製造方法であって、
一般式(2):
-CHR-CXR-R (2)
[式中、R、R、R及びRは前記に同じである。Xはハロゲン原子を示す。]
で表されるハロゲン化アルカン化合物を、触媒と、不飽和化合物の存在下、脱ハロゲン化水素反応する工程を備え、
前記不飽和化合物が、一般式(3):
-CR=CR-R (3)
[式中、R、R、R及びRは同一又は異なって、水素原子又は有機基を示す。]
、又は一般式(4):
-C≡C-R10 (4)
[式中、R及びR10は同一又は異なって、水素原子又は有機基を示す。]
で表される化合物であり、且つ、
前記一般式(1)で表される化合物と前記不飽和化合物とは異なる化合物である、製造方法。
【0007】
項2.前記一般式(1)及び(2)において、前記R及びRがフッ素原子又はパーフルオロアルキル基である、項1に記載の製造方法。
【0008】
項3.前記不飽和化合物の最高被占有軌道(HOMO)のエネルギー準位が、前記一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物の最高被占有軌道(HOMO)よりも高い、項1又は2に記載の製造方法。
【0009】
項4.前記不飽和化合物の供給量が、前記一般式(2)で表されるハロゲン化アルカン化合物1モルに対して、0.001~0.40モルである、項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【0010】
項5.前記脱ハロゲン化水素反応を気相で行う、項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【0011】
項6.一般式(1):
-CR=CR-R (1)
[式中、R、R、R及びRは同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子又はハロアルキル基を示す。ただし、R及びRの片方は水素原子であり、他方はハロゲン原子である。]
で表されるハロゲン化アルケン化合物を50~80モル%と、
一般式(5):
-CH=CH-R (5)
[式中、R及びRは同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子又はハロアルキル基を示す。]
で表されるハロゲン化アルケン化合物を12~40モル%と
を含有する、組成物。
【0012】
項7.さらに、一般式(6):
-CR11-CR12-R (6)
[式中、R、R、R及びRは同一又は異なって、水素原子又は有機基を示す。R11及びR12の片方は水素原子であり、他方はハロゲン原子である。]
で表されるハロゲン化アルカン化合物を含有する、項6に記載の組成物。
【0013】
項8.前記一般式(6)で表されるハロゲン化アルカン化合物の含有量が0.10~10.0モル%である、項7に記載の組成物。
【0014】
項9.クリーニングガス、エッチングガス、冷媒、熱移動媒体又は有機合成用ビルディングブロックとして用いられる、項6~8のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、ハロゲン化アルケン化合物を効率よく合成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0017】
また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0018】
本開示において、「選択率」とは、反応器出口からの流出ガスにおける原料化合物以外の化合物の合計モル量に対する、当該流出ガスに含まれる目的化合物の合計モル量の割合(モル%)を意味する。
【0019】
本開示において、「転化率」とは、反応器に供給される原料化合物のモル量に対する、反応器出口からの流出ガスに含まれる原料化合物以外の化合物の合計モル量の割合(モル%)を意味する。
【0020】
本開示において、「収率」とは、反応器に供給される原料化合物のモル量に対する、反応器出口からの流出ガスに含まれる目的化合物の合計モル量の割合(モル%)を意味する。
【0021】
ヘキサフルオロ-2-ブチンに代表されるハロゲン化ブチン化合物は、特定のハロゲン化アルカン化合物を出発物質として、脱ハロゲン化水素反応を2回施すことにより合成されることが知られている。
【0022】
ここで、ハロゲン化アルカン化合物から脱ハロゲン化水素反応を行うと、ハロゲン化水素が遊離する。生成物であるハロゲン化アルケン化合物と遊離したハロゲン化水素とが反応すると、再度原料であるハロゲン化アルカン化合物を生成するため、ハロゲン化ブチン化合物を得るために、ハロゲン化アルカン化合物を出発物質として、1回の脱ハロゲン化水素反応ではなく、2回の脱ハロゲン化水素反応を施すことにより収率が向上する。
【0023】
一方、本開示では、ハロゲン化アルカン化合物から脱ハロゲン化水素反応を、特定の不飽和化合物の存在下で行うことで、当該脱ハロゲン化水素反応により生成するハロゲン化水素を、特定の不飽和化合物にトラップさせることができる。このため、原料であるハロゲン化アルカン化合物が、ほぼ定量的に反応し、ハロゲン化アルケン化合物を高い選択率且つ高い収率で得ることができる。
【0024】
1.ハロゲン化アルケン化合物の製造方法
本開示のハロゲン化アルケン化合物の製造方法は、
一般式(1):
-CR=CR-R (1)
[式中、R、R、R及びRは同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子又はハロアルキル基を示す。ただし、R及びRの片方は水素原子であり、他方はハロゲン原子である。]
で表されるハロゲン化アルケン化合物の製造方法であって、
一般式(2):
-CHR-CXR-R (2)
[式中、R、R、R及びRは前記に同じである。Xはハロゲン原子を示す。]
で表されるハロゲン化アルカン化合物を、触媒と、不飽和化合物の存在下、脱ハロゲン化水素反応する工程を備え、
前記不飽和化合物が、一般式(3):
-CR=CR-R (3)
[R、R、R及びRは同一又は異なって、水素原子又は有機基を示す。]
、又は一般式(4):
-C≡C-R10 (4)
[式中、R及びR10は同一又は異なって、水素原子又は有機基を示す。]
で表される化合物であり、且つ、
前記一般式(1)で表される化合物と前記不飽和化合物とは異なる化合物である。
【0025】
本開示によれば、上記した一般式(2)で表されるハロゲン化アルカン化合物の脱ハロゲン化水素反応を、特定の不飽和化合物の存在下に行うことで、当該脱ハロゲン化水素反応により生成するハロゲン化水素を、特定の不飽和化合物にトラップさせることができる。このため、原料であるハロゲン化アルカン化合物が、ほぼ定量的に反応し、一般式(2)で表されるハロゲン化アルカン化合物1モルに対して1モルのハロゲン化水素が脱離した一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物を選択的に得ることができる。
【0026】
(1-1)原料化合物(ハロゲン化アルカン化合物)
本開示の製造方法において使用できる基質としてのハロゲン化アルカン化合物は、上記のとおり、一般式(2):
-CHR-CXR-R (2)
[式中、R、R、R及びRは同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子又はハロアルキル基を示す。ただし、R及びRの片方は水素原子であり、他方はハロゲン原子である。Xはハロゲン原子を示す。]
で表されるハロゲン化アルカン化合物である。
【0027】
一般式(2)において、R、R、R及びRで示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0028】
一般式(2)において、R、R、R及びRで示されるハロアルキル基は、少なくとも1個の水素原子がハロゲン原子で置換されたアルキル基を意味する。ハロアルキル基のなかでも、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子で置換されたアルキル基はフルオロアルキル基と称し、全ての水素原子がフッ素原子で置換されたアルキル基は、パーフルオロアルキル基と称する。また、ハロアルキル基のなかでも、少なくとも1個の水素原子が塩素原子で置換されたアルキル基はクロロアルキル基と称し、全ての水素原子が塩素原子で置換されたアルキル基は、パークロロアルキル基と称する。また、ハロアルキル基のなかでも、少なくとも1個の水素原子が臭素原子で置換されたアルキル基はブロモアルキル基と称し、全ての水素原子が臭素原子で置換されたアルキル基は、パーブロモアルキル基と称する。なかでも、反応の転化率、一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物の選択率及び収率等の観点から、フルオロアルキル基が好ましく、パーフルオロアルキル基がより好ましい。
【0029】
ハロアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれも採用することができる。なかでも、反応の転化率、一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物の選択率及び収率等の観点から、直鎖状ハロアルキル基が好ましい。
【0030】
ハロアルキル基の炭素数は、特に制限されるわけではないが、反応の転化率、一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物の選択率及び収率等の観点から、1~5が好ましく、1~4がより好ましく、1~3がさらに好ましい。
【0031】
このようなフルオロアルキル基としては、具体的には、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基等が挙げられる。また、クロロアルキル基としては、具体的には、トリクロロメチル基、ペンタクロロエチル基、ヘプタクロロプロピル基等が挙げられる。また、ブロモアルキル基としては、具体的には、トリブロモメチル基、ペンタブロモエチル基、ヘプタブロモプロピル基等が挙げられる。
【0032】
一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物は、その後、脱ハロゲン化水素反応によりハロゲン化アルキン化合物を得るための中間体としても機能することから、一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物からの脱ハロゲン化水素を許容するため、一般式(2)におけるR及びRの片方は水素原子であり、他方はハロゲン原子である。
【0033】
一般式(2)において、R及びRとしては、反応の転化率、一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物の選択率及び収率等の観点から、フッ素原子又はフルオロアルキル基が好ましく、フッ素原子又はパーフルオロアルキル基がより好ましく、パーフルオロアルキル基がさらに好ましい。
【0034】
一般式(2)において、Xで示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0035】
このような条件を満たす基質としてのハロゲン化アルカン化合物としては、具体的には、CFHCFH、CFHCF、CClHCClH、CClHCCl、CBrHCBrH、CBrHCBr、CFCFHCFH、CFCHCF、CClCClHCClH、CClCHCCl、CBrCBrHCBrH、CBrCHCBr、CFCFHCFHCF、CFCHCFCF、CClCClHCClHCCl、CClCHCClCCl、CBrCBrHCBrHCBr、CBrCHCBrCBr、CHCF、CHCCl、CHCBr、CFCFCH、CClCClCH、CBrCBrCH、CFCHCFCH、CFCHFCFCH、CClCHCClCH、CClCHClCClCH、CBrCHCBrCH、CBrCHBrCBrCH等が挙げられる。
【0036】
これらのハロゲン化アルカン化合物は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。このようなハロゲン化アルカン化合物は、公知又は市販品を採用することができる。
【0037】
(1-2)脱フッ化水素反応
本開示におけるハロゲン化アルカン化合物から脱フッ化水素反応させる工程では、以下の反応式:
-CHR-CXR-R → R-CR=CR-R + HX
に従い、脱ハロゲン化水素反応を行うことができる。
【0038】
なかでも、反応の転化率、一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物の選択率及び収率等の観点から、R及びRがトリフルオロメチル基、Rがフッ素原子、Rが水素原子、Xがフッ素原子であることが好ましい。つまり、以下の反応式:
CFCFHCFHCF → CFCF=CHCF + HF
に従い、脱フッ化水素反応を行うことが好ましい。
【0039】
(1-3)触媒
本開示におけるハロゲン化アルカン化合物から脱ハロゲン化水素反応させる工程は、触媒の存在下に行う。
【0040】
本開示の製造方法において使用される触媒としては、活性炭触媒、ゼオライト触媒、酸化クロム触媒、シリカアルミナ触媒等が好ましい。これらの触媒は、フッ素化されていない触媒及びフッ素化された触媒のいずれも採用することができる。
【0041】
活性炭触媒としては、特に制限はなく、破砕炭、成形炭、顆粒炭、球状炭等の粉末活性炭が挙げられる。粉末活性炭は、JIS試験(JIS Z8801)で、4メッシュ(4.75mm)~100メッシュ(0.150mm)の粒度を示す粉末活性炭を用いることが好ましい。
【0042】
これらの活性炭は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。これらの活性炭は、公知又は市販品を採用することができる。
【0043】
活性炭は、フッ素化することにより、より強い活性を示すようになるため、反応に用いる前に、予め活性炭をフッ素化したフッ素化活性炭を活性炭触媒として用いることもできる。つまり、活性炭触媒としては、フッ素化されていない活性炭及びフッ素化活性炭のいずれも使用することができる。
【0044】
活性炭をフッ素化するためのフッ素化剤としては、例えば、F、HF等の無機フッ素化剤の他、ヘキサフルオロプロペン等のハイドロフルオロカーボン(HFC)、クロロフルオロメタン等のクロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)等の有機フッ素化剤も用いることができる。
【0045】
活性炭をフッ素化する方法としては、例えば、室温(25℃)~400℃程度の温度条件下に大気圧下で上記したフッ素化剤を流通させてフッ素化する方法を挙げることができる。
【0046】
ゼオライト触媒としては、公知の種類のゼオライトを広く採用することができる。例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の結晶性含水アルミノ珪酸塩が好ましい。ゼオライトの結晶形は、特に限定されず、A型、X型、LSX型等が挙げられる。ゼオライト中のアルカリ金属又はアルカリ土類金属は、特に限定されず、カリウム、ナトリウム、カルシウム、リチウム等が挙げられる。
【0047】
ゼオライト触媒は、フッ素化することにより、より強い活性を示すようになるため、反応に用いる前に、予めゼオライト触媒をフッ素化してフッ素化ゼオライト触媒として用いることができる。
【0048】
ゼオライト触媒をフッ素化するためのフッ素化剤としては、例えば、F、HF等の無機フッ素化剤、ヘキサフルオロプロペン等のフルオロカーボン系の有機フッ素化剤等を用いることができる。
【0049】
ゼオライト触媒をフッ素化する方法としては、例えば、室温(25℃)~400℃程度の温度条件下に大気圧下で上記したフッ素化剤を流通させてフッ素化する方法を挙げることができる。
【0050】
酸化クロム触媒については、特に制限されないが、酸化クロムをCrOで表記した場合に、1.5<m<3.0が好ましく、2.0<m<2.75がより好ましく、2.0<m<2.3がさらに好ましい。また、酸化クロムをCrO・nHOで記した場合に、nの値が3以下、特に1.0~1.5となるように水和していてもよい。
【0051】
フッ素化された酸化クロム触媒は、上記した酸化クロム触媒のフッ素化により調製することができる。このフッ素化は、例えば、HF、フルオロカーボン等を用いて行うことができる。このようなフッ素化された酸化クロム触媒は、例えば、特開平05-146680号公報に記載されている方法にしたがって合成することができる。
【0052】
シリカアルミナ触媒は、シリカ(SiO)及びアルミナ(Al)を含む複合酸化物触媒であり、シリカ及びアルミナの総量を100質量%として、例えば、シリカの含有量が20~90質量%、特に50~80質量%の触媒を使用することができる。
【0053】
シリカアルミナ触媒は、フッ素化することにより、より強い活性を示すようになるため、反応に用いる前に、予めシリカアルミナ触媒をフッ素化してフッ素化シリカアルミナ触媒として用いることもできる。
【0054】
シリカアルミナ触媒をフッ素化するためのフッ素化剤としては、例えば、F、HF等の無機フッ素化剤、ヘキサフルオロプロペン等のフルオロカーボン系の有機フッ素化剤等を用いることができる。
【0055】
シリカアルミナ触媒をフッ素化する方法としては、例えば、室温(25℃)~400℃程度の温度条件下に大気圧下で上記したフッ素化剤を流通させてフッ素化する方法を挙げることができる。
【0056】
上記した触媒は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。また、上記した触媒は、公知又は市販品を採用することができる。
【0057】
これらのなかでも、転化率、選択率及び収率の観点から、活性炭触媒(活性炭又はフッ素化された活性炭)、酸化クロム触媒(酸化クロム又はフッ素化された酸化クロム)等が好ましく、活性炭触媒(活性炭又はフッ素化された活性炭)がより好ましい。
【0058】
また、触媒として上記したゼオライト触媒、酸化クロム触媒、シリカアルミナ触媒等を使用する場合は、担体に担持させることも可能である。このような担体としては、例えば、炭素、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、シリカ(SiO)、チタニア(TiO)等が挙げられる。炭素としては、活性炭、不定形炭素、グラファイト、ダイヤモンド等を用いることができる。
【0059】
本開示の製造方法において、気相において、触媒の存在下にハロゲン化アルカン化合物を脱ハロゲン化水素反応させるに当たっては、例えば、触媒を固体の状態(固相)でハロゲン化アルカン化合物と接触させることが好ましい。この場合、触媒の形状は粉末状とすることもできるが、ペレット状のほうが気相連続流通式の反応に採用する場合には好ましい。
【0060】
触媒のBET法により測定した比表面積(以下、「BET比表面積」と言うこともある。)は、通常10~3000m/gが好ましく、15~2500m/gがより好ましく、20~2000m/gがさらに好ましく、30~1500m/gが特に好ましい。触媒のBET比表面積がこのような範囲にある場合、触媒の粒子の密度が小さ過ぎることがないため、より高い選択率及び収率でハロゲン化アルケン化合物を得ることができる。また、ハロゲン化アルカン化合物の転化率をより向上させることも可能である。
【0061】
(1-4)不飽和化合物
本開示においては、上記したハロゲン化アルカン化合物を脱ハロゲン化水素反応する工程は、不飽和化合物の存在下で行う。
【0062】
なお、不飽和化合物は、不飽和結合(二重結合、三重結合等)を少なくとも1個有する化合物を意味する。
【0063】
この不飽和化合物は、一般式(2)で表されるハロゲン化アルカン化合物の脱ハロゲン化水素反応により生じるハロゲン化水素をトラップすることができる。なお、不飽和化合物がハロゲン化水素をトラップすると、不飽和化合物に対してハロゲン化水素付加反応が発生する。
【0064】
例えば、一般式(2)で表されるハロゲン化アルカン化合物としてCFCFHCFHCFを用い、不飽和化合物としてCFCF=CFCFを用いた場合には、以下の反応式:
CFCFHCFHCF → CFCF=CHCF + HF
によりフッ化水素が発生するところ、以下の反応式:
CFCF=CFCF + HF → CFCFCFHCF
により生成したフッ化水素がトラップされる。
【0065】
このように、一般式(2)で表されるハロゲン化アルカン化合物の脱ハロゲン化水素反応により発生するハロゲン化水素が、目的物である一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物と反応して原料である一般式(2)で表されるハロゲン化アルカン化合物が生成することを抑制することができる。
【0066】
不飽和化合物がハロゲン化水素をトラップすることにより、脱ハロゲン化水素反応の平衡が生成物側(一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物側)に傾き、原料である一般式(2)で表されるハロゲン化アルカン化合物が、ほぼ定量的に反応し、一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物を高い選択率且つ高い収率で得ることができる。
【0067】
ここで、オレフィン、すなわち不飽和結合をもつ化合物とハロゲン化水素の付加反応は、オレフィンの最高被占有軌道(HOMO)とハロゲン化水素の最低空軌道(LUMO)のエネルギー軌道での反応となる。このため、反応性の高さはオレフィンの最高被占有軌道(HOMO)とハロゲン化水素の最低空軌道(LUMO)のエネルギー準位の差が小さければ小さいほど高くなる。
【0068】
添加する不飽和化合物、及び一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物は同じハロゲン化水素と付加反応するため、ハロゲン化アルケン化合物の最高被占有軌道(HOMO)とハロゲン化水素の最低空軌道(LUMO)のエネルギー準位差の大小はハロゲン化アルケン化合物の最高被占有軌道(HOMO)のエネルギー準位の高低に起因する。
【0069】
不飽和化合物の最高被占有軌道(HOMO)が一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物の最高被占有軌道(HOMO)よりも高い場合、不飽和化合物によるフッ化水素をトラップする反応の方が一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物とフッ化水素による逆反応よりも優先的に起こる。
【0070】
同様に、不飽和化合物が三重結合を有する一般式(4)で表される化合物である場合も、三重結合を有する一般式(4)で表される化合物の最高被占有軌道(HOMO)が一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物の最高被占有軌道(HOMO)よりも高いエネルギー準位であれば、三重結合を有する一般式(4)で表される化合物によるフッ化水素のトラップ反応の方が一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物のフッ化水素との逆反応よりも優先的に生じる。
【0071】
つまり、不飽和化合物としては、最高被占有軌道(HOMO)が一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物の最高被占有軌道(HOMO)よりも高い化合物を選択することが好ましい。
【0072】
このため、本開示で使用する不飽和化合物は、具体的には、一般式(3):
-CR=CR-R (3)
[式中、R、R、R及びRは同一又は異なって、水素原子又は有機基を示す。]
、又は一般式(4):
-C≡C-R10 (4)
[式中、R及びR10は同一又は異なって、水素原子又は有機基を示す]
で表される化合物であり、
一般式(3)、及び(4)で表される化合物の最高被占有軌道(HOMO)は一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物の最高被占有軌道(HOMO)よりも高いエネルギー準位を持つことが好ましい。
【0073】
このような観点から、不飽和化合物の最高被占有軌道(HOMO)は、一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物の最高被占有軌道(HOMO)と比較して、0.1eV以上高いことが好ましく、0.2~30eV高いことがより好ましく、0.5~15eV高いことがさらに好ましい。
【0074】
不飽和化合物である一般式(3)におけるR、R、R及びRで示される有機基、及び一般式(4)におけるR及びR10で示される有機基としては、例えば、ハロゲン原子、シアノ基、置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換アルコキシ基、置換若しくは非置換アリール基、置換若しくは非置換アミノ基、置換若しくは非置換チオール基、エステル基(-COOR)、カルボニル基(-COR)、置換若しくは非置換カルボキシル基、ニトロ基、スルホ基、アミド基(-CONR、-NRCOR)等が挙げられる。なお、Rは同一又は異なって、置換若しくは非置換アルキル基、置換若しくは非置換アルコキシ基、置換若しくは非置換アリール基等が挙げられる。
【0075】
一般式(3)において、R、R、R及びRで示される有機基、及び一般式(4)R及びR10で示される有機基としてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0076】
一般式(3)において、R、R、R及びRで示される有機基、及び一般式(4)において、R及びR10で示される有機基としてのアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれも採用することができる。なかでも、反応の転化率、一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物の選択率及び収率等の観点から、直鎖状アルキル基が好ましい。
【0077】
アルキル基の炭素数は、特に制限されるわけではないが、反応の転化率、一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物の選択率及び収率等の観点から、1~5が好ましく、1~4がより好ましく、1~3がさらに好ましい。
【0078】
このようなアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基等が挙げられる。
【0079】
アルキル基は、置換基を有することもできる。アルキル基が有することのでき置換基としては、例えば、水酸基、上記ハロゲン原子、シアノ基、後述のアルコキシ基、後述のアリール基、後述のアミノ基、後述のチオール基、上記エステル基、上記カルボニル基、後述のカルボキシル基、上記アミド基等が挙げられる。
【0080】
一般式(3)において、R、R、R及びRで示される有機基、及び一般式(4)R及びR10で示される有機基としてのアルコキシ基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれも採用することができる。なかでも、反応の転化率、一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物の選択率及び収率等の観点から、直鎖状アルコキシ基が好ましい。
【0081】
アルコキシ基の炭素数は、特に制限されるわけではないが、反応の転化率、一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物の選択率及び収率等の観点から、1~5が好ましく、1~4がより好ましく、1~3がさらに好ましい。
【0082】
このようなアルコキシ基としては、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基等が挙げられる。
【0083】
アルコキシ基は、置換基を有することもできる。アルコキシ基が有することのできる置換基としては、例えば、水酸基、上記ハロゲン原子、シアノ基、上記アルコキシ基、後述のアリール基、後述のアミノ基、後述のチオール基、上記アミド基等が挙げられる。
【0084】
一般式(3)において、R、R、R及びRで示される有機基、及び一般式(4)R及びR10で示される有機基としてのアリール基としては、特に制限されないが、反応の転化率、一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物の選択率及び収率等の観点から、炭素数が6~20のものが好ましく、6~12のものがより好ましく、6~10のものがさらに好ましい。該アリール基は、単環式又は多環式(例えば2環式、3環式等)のいずれでも有り得るが、好ましくは単環式である。
【0085】
該アリール基としては、具体的には、例えばフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ペンタレニル基、インデニル基、アントラニル基、テトラセニル基、ペンタセニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオレニル基、フェナントリル基等が挙げられる。
【0086】
アリール基は、置換基を有することもできる。アリール基が有することのできる置換基としては、例えば、水酸基、上記ハロゲン原子、シアノ基、上記アルキル基、上記アルコキシ基、上記アリール基、後述のアミノ基、後述のチオール基、上記エステル基、上記カルボニル基、後述のカルボキシル基、上記アミド基等が挙げられる。
【0087】
アミノ基は、置換基を有することもできる。アミノ基が有することのできる置換基としては、例えば、水酸基、上記ハロゲン原子、シアノ基、上記アルキル基、上記アルコキシ基、上記アリール基、上記アミノ基、後述のチオール基、上記エステル基、上記カルボニル基、後述のカルボキシル基、上記アミド基等が挙げられる。
【0088】
チオール基は、置換基を有することもできる。チオール基が有することのできる置換基としては、例えば、水酸基、上記ハロゲン原子、シアノ基、上記アルキル基、上記アルコキシ基、上記アリール基、上記アミノ基、上記チオール基、上記エステル基、上記カルボニル基、後述のカルボキシル基、上記アミド基等が挙げられる。
【0089】
カルボキシル基は、置換基を有することもできる。カルボキシル基が有することのできる置換基としては、例えば、水酸基、上記ハロゲン原子、シアノ基、上記アルキル基、上記アルコキシ基、上記アリール基、上記アミノ基、上記チオール基、上記エステル基、上記カルボニル基、上記カルボキシル基、上記アミド基等が挙げられる。
【0090】
なかでも、有機基としては、反応の転化率、一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物の選択率及び収率等の観点から、ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基等が好ましく、フッ素原子、フルオロアルキル基等がより好ましく、フッ素原子、パーフルオロアルキル基等がさらに好ましい。
【0091】
ただし、一般式(3)で表される化合物は、目的物である一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物とは異なる化合物である。
【0092】
なお、本開示では、後述のように、反応温度は300~450℃であることが好ましい。この反応温度において、ハロゲン化水素をトラップしやすくし、分解及び発火しにくく、反応の転化率、一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物の選択率及び収率を向上させやすい等の観点から、不飽和化合物は、測定値の有無に関わらず、分解温度、発火点及び臨界点のうち少なくとも1つが反応温度よりも高いことが好ましく、分解温度、発火点及び臨界点の全てが反応温度よりも高いことがより好ましい。
【0093】
以上のような条件を満たす不飽和化合物としては、一般式(3)で表される化合物として、CFCF=CFCF、CClCCl=CClCCl、CBrCBr=CBrCBr、CF=CH、CHF=CHF、CHCl=CHCl、CHBr=CHBr、CF=CFH、CBr=CBrH、CCl=CCl、CBr=CBr、CHF=CHCF3、CHCl=CHCCl、CFCF=CHCl、CClCCl=CHCl、CFCH=CHCl、CClCH=CHCl、CClCCl=CH、CH=CClCN、CH=CBrCN、CH=CHCOOCH、CHOCH=CHCOOCH、CHCHCH=CHCOOCH、CH=C(C)COOCH、(CHC=CHCOOCH、CH=CHCHOH、CHCHCH=CHOH、CHCH=CHCHOH、CHCH=CHOCH、CH=CHCHN(CH等が挙げられ、一般式(4)で表される化合物として、CFC≡CCF、CH≡CCHCOOCH等が挙げられる。
【0094】
これら不飽和化合物の最高被占有軌道(HOMO)のエネルギー準位は以下のように調整することが好ましい。不飽和化合物の最高被占有軌道(HOMO)が、一般式(2)で表されるハロゲン化アルカン化合物の脱ハロゲン化水素で生成する一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物の最高被占有軌道(HOMO)よりもエネルギー準位が高くなるように不飽和化合物を選択することが好ましい。このため、不飽和化合物の最高被戦軌道(HOMO)のエネルギー準位は-15eV~40eVが好ましく、-14eV~35eVがより好ましく、-13eV~30eVがさらに好ましい。
【0095】
なお、最高被占有軌道(HOMO)のエネルギー準位の値はMM2計算を用いて構造最適化した後に、拡張ヒュッケル法にて電子構造を計算することにより算出する。結果を表1に示す。
【0096】
【表1】
これらの不飽和化合物は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。このような不飽和化合物は、公知又は市販品を採用することができる。
【0097】
本開示の製造方法において、不飽和化合物の使用量は特に制限はないが、反応の転化率、一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物の選択率及び収率等の観点から、原料化合物である一般式(2)で表されるハロゲン化アルカン化合物1モルに対して0.001~0.40モルが好ましく、0.01~0.40モルがより好ましく、0.05~0.20モルがさらに好ましい。
【0098】
(1-5)脱ハロゲン化水素反応の例示
本開示におけるハロゲン化アルカン化合物の脱ハロゲン化水素反応は、特に生産性の観点からは、気相で行うことが好ましい。本開示におけるハロゲン化アルカン化合物から脱ハロゲン化水素反応させる工程を気相で行う場合、溶媒を用いる必要がなく産廃が生じず、生産性に優れるという利点がある。
【0099】
本開示におけるハロゲン化アルカン化合物の脱ハロゲン化水素反応は、反応器に原料化合物であるハロゲン化アルカン化合物を連続的に仕込み、当該反応器から目的化合物であるハロゲン化アルケン化合物を連続的に抜き出す流通式及びバッチ式のいずれの方式によっても実施することができる。本開示では、さらに逆反応を抑制することを目的として、気相連続流通式で実施することが好ましい。
【0100】
本開示におけるハロゲン化アルカン化合物の脱ハロゲン化水素反応を気相連続流通式で行う場合は、装置、操作等を簡略化できるとともに、経済的に有利である。
【0101】
本開示におけるハロゲン化アルカン化合物の脱ハロゲン化水素反応を行う際の雰囲気については、触媒の劣化を抑制する点から、不活性ガス雰囲気下が好ましい。当該不活性ガスは、窒素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。これらの不活性ガスのなかでも、コストを抑える観点から、窒素が好ましい。
【0102】
(1-6)反応温度
本開示におけるハロゲン化アルカン化合物を脱ハロゲン化水素反応させる工程では、反応温度は、より効率的に脱ハロゲン化水素反応を進行させて転化率をより向上させ、目的化合物であるハロゲン化アルケン化合物をより高い選択率及びより高い収率で得ることができる観点から、300~450℃が好ましく、350~450℃がより好ましく、350~400℃がさらに好ましい。
【0103】
(1-7)反応時間
本開示におけるハロゲン化アルカン化合物を脱ハロゲン化水素反応させる反応時間は、例えば気相流通式を採用する場合には、原料化合物の触媒に対する接触時間(W/F)[W:触媒の重量(g)、F:原料化合物の流量(cc/sec)]は、反応の転化率が特に高く、ハロゲン化アルカン化合物をより高収率及び高選択率に得ることができる観点から、12~45g・sec/ccが好ましく、15~40g・sec/ccがより好ましく、20~30g・sec/ccがさらに好ましい。なお、上記接触時間とは、原料化合物及び触媒が接触する時間を意味する。ここで、原料化合物の流量は、上記した不飽和化合物を含まない、一般式(2)で表されるハロゲン化アルカン化合物の流量を意味する。
【0104】
(1-8)反応圧力
本開示におけるハロゲン化アルカン化合物を脱ハロゲン化水素反応させる反応圧力は、より効率的に脱ハロゲン化水素反応を進行させて転化率をより向上させ、目的化合物であるハロゲン化アルケン化合物をより高い選択率及びより高い収率で得ることができる観点から、0kPa以上が好ましく、10kPa以上がより好ましく、20kPa以上がさらに好ましく、30kPa以上が特に好ましい。反応圧力の上限は特に制限はなく、通常、2MPa程度である。なお、本開示において、圧力については特に表記が無い場合はゲージ圧とする。
【0105】
本開示におけるハロゲン化アルカン化合物の脱ハロゲン化水素反応において、ハロゲン化アルカン化合物、触媒及び不飽和化合物を投入して反応させる反応器としては、上記温度及び圧力に耐え得るものであれば、形状及び構造は特に限定されない。反応器としては、例えば、縦型反応器、横型反応器、多管型反応器等が挙げられる。反応器の材質としては、例えば、ガラス、ステンレス、鉄、ニッケル、鉄ニッケル合金等が挙げられる。
【0106】
脱ハロゲン化水素反応終了後は、必要に応じて常法にしたがって精製処理を行い、一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物を得ることができる。
【0107】
(1-9)目的化合物(ハロゲン化アルケン化合物)
このようにして得られる本開示の目的化合物は、一般式(1):
-CR=CR-R (1)
[式中、R、R、R及びRは同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子又はハロアルキル基を示す。ただし、R及びRの片方は水素原子であり、他方はハロゲン原子である。]
で表されるハロゲン化アルケン化合物である。
【0108】
一般式(1)におけるR、R、R及びRは、上記した一般式(2)におけるR、R、R及びRと対応している。このため、製造しようとする一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物は、例えば、具体的には、CFH=CF、CClH=CCl、CBrH=CBr、CFCH=CF、CFCF=CFH、CClCH=CCl、CClCCl=CClH、CBrCH=CBr、CBrCBr=CBrH、CFCF=CHCF、CClCCl=CHCCl、CBrCBr=CHCBr、CH=CF、CH=CCl、CH=CBr、CFCF=CH、CClCCl=CH、CBrCBr=CH、CFCHCF=CH、CFCH=CFCH、CFCHFCF=CH、CFCFCH=CF、CHCFCH=CF、CClCHCCl=CH、CClCH=CClCH、CClCHClCCl=CH、CClCClCH=CCl、CHCClCH=CCl、CBrCHCBr=CH、CBrCH=CBrCH、CBrCHBrCBr=CH、CBrCBrCH=CBr、CHCBrCH=CBr等が挙げられる。これらの化合物は、Z体及びE体をいずれも包含する。
【0109】
上記のとおり、不飽和化合物の最高被占有軌道(HOMO)が、一般式(2)で表されるハロゲン化アルカン化合物の脱ハロゲン化水素で生成する一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物の最高被占有軌道(HOMO)よりもエネルギー準位が高くなるように不飽和化合物を選択することが好ましいため、一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物の最高被戦軌道(HOMO)のエネルギー準位は-25eV~10eVが好ましく、-20eV~5eVがより好ましく、-15eV~-5eVがさらに好ましい。
【0110】
なお、最高被占有軌道(HOMO)のエネルギー準位の値はMM2計算を用いて構造を最適化した後に、拡張ヒュッケル法にて電子構造を計算することにより算出する。結果を表2に示す。
【0111】
【表2】
このようにして得られたハロゲン化アルケン化合物は、クリーニングガス;半導体、液晶等の最先端の微細構造を形成するためのエッチングガス;デポジットガス;冷媒;熱移動媒体;有機合成用ビルディングブロック等の各種用途に有効利用できる。デポジットガス及び有機合成用ビルディングブロックについては後述する。
【0112】
2.組成物
以上のようにして、ハロゲン化アルケン化合物を得ることができるが、目的化合物を含む組成物の形で得られることもある。
【0113】
本開示の製造方法によれば、例えば、一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物と、不純物であるハロゲン化アルケン化合物を含む組成物として得られることもある。この場合、不純物であるハロゲン化アルケン化合物は、一般式(5):
-CH=CH-R (5)
[式中、R及びRは同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子又はハロアルキル基を示す。]
で表されるハロゲン化アルケン化合物であることができる。
【0114】
一般式(5)において、R及びRで示されるハロゲン原子及びハロアルキル基としては、上記説明したものを採用できる。
【0115】
つまり、一般式(5)で表される化合物としては、例えば、CFH=CFH、CClH=CClH、CBrH=CBrH、CH=CFH、CH=CClH、CH=CBrH、CFCH=CFH、CClCH=CClH、CBrCH=CBrH、CFCH=CHCF、CClCH=CHCCl、CBrCH=CHCBr、CFCH=CH、CClCH=CH、CBrCH=CH、CFCHCH=CH、CFCH=CHCH、CFCHFCH=CH、CFCFCH=CHF、CHCFCH=CHF、CClCHCH=CH、CClCH=CHCH、CClCHClCH=CH、CClCClCH=CHCl、CHCClCH=CHCl、CBrCHCH=CH、CBrCH=CHCH、CBrCHBrCH=CH、CBrCBrCH=CHBr、CHCBrCH=CHBr等が挙げられる。これらの化合物は、Z体及びE体をいずれも包含する。
【0116】
また、この組成物は、一般式(1)で表されるハロゲン化アルカンの脱ハロゲン化水素反応で発生するハロゲン化水素と、一般式(3)又は一般式(4)で表される不飽和化合物が付加反応した一般式(6):
-CR11-CR12-R (6)
[式中、R、R、R及びRは同一又は異なって、水素原子又は有機基を示す。R11及びR12の片方は水素原子であり、他方はハロゲン原子である。]
で表されるハロゲン化アルカン化合物を含むこともある。
【0117】
一般式(6)において、R、R、R及びRで示される有機基や、R11及びR12で示されるハロゲン原子としては、上記説明したものを採用できる。
【0118】
一般式(6)で表される化合物としては、添加した不飽和化合物、すなわち一般式(3)又は一般式(4)で表される化合物にハロゲン化水素が付加した1種類又は2種類の化合物である。すなわち、一般式(6)で表される化合物は、対応する不飽和化合物にハロゲン化アルカン(2)から脱離したハロゲン化水素が付加した化合物であり、例えば、[CFCFHCFCF(添加不飽和化合物CFCF=CFCFにHF付加)]、[CClCClHCClCCl(添加不飽和化合物CClCCl=CClCClにHCl付加)]、[CBrCBrHCBrCBr(添加不飽和化合物CBrCBr=CBrCBrにHBr付加)]、[CFCH、CHFCHF、CHFCHCl、CFClCH、CHFCHBr又はCFBrCH(添加不飽和化合物CF=CHにHF、HCl又はHBr付加)]、[CHFCHF、又はCFClCFH(添加不飽和化合物CFH=CFHにHF又はHCl付加)]、[CHClCHCl、又はCHFClCHCl(添加不飽和化合物CHCl=CHClにHF又はHCl付加)]、CHClBrCHBr、又はCHBrCHBr(添加不飽和化合物CHBr=CHBrにHCl又はHBr付加)]、[CFCHF、CFClCHF、CFHCHF、又はCFHCHFCl(添加不飽和化合物CF=CHFにHF又はHCl付加)]、[CHBrCHBr(添加不飽和化合物CBr=CHBrにHBr付加)]、[CFClCHCl、又はCClCHCl(添加不飽和化合物CCl=CClにHF又はHCl付加)]、[CBrCHBr(添加不飽和化合物CBr=CBrにHBr付加)]、[CHFCHFCF、CHFCHCF、CHFClCHCF、又はCHFCHClCF(添加不飽和化合物CHF=CHCFにHF又はHCl付加)]、[CHClCHClCCl、CHClCHCCl、CHFClCHCCl、又はCHClCHFCCl(添加不飽和化合物CHCl=CHCClにHF又はHCl付加)]、[CFCFCHCl、 CFCHFCHFCl、又はCFCFClCHCl(添加不飽和化合物CFCF=CHClにHF又はHCl付加)]、[CClCClCHCl、又はCClCHClCHCl(添加不飽和化合物CClCCl=CHClにHCl付加)]、[CClCHClCHCl、CClCClCH、又はCClCFClCH(添加不飽和化合物CClCCl=CHにHF又はHCl付加)]、[CFCHCHFCl、CFCHFCHCl、CFCHCHClBr、CFCHCHCl、CFCHClCHCl、又はCFCHBrCHCl(添加不飽和化合物CFCH=CHClにHF、HCl又はHBr付加)]、[CClCHCHCl、CClCHClCHCl、又はCClCHCHFCl(添加不飽和化合物CClCH=CHClにHF又はHCl付加)]、[CHCClCN、又はCHClCHClCN(添加不飽和化合物CH=CClCNにHCl付加)]、[CHBrCHBrCN(添加不飽和化合物CH=CBrCNにHBr付加)]、[CHCHFCOOCH、CHCHClCOOCH、CHCHBrCOOCH、CHClCHCOOCH、又はCHBrCHCOOCH(添加不飽和化合物CH=CHCOOCHにHF、HCl又はHBr付加)]、[CHOCHCHClCOOCH、又はCHOCHCHBrCOOCH(添加不飽和化合物CHOCH=CHCOOCHにHCl又はHBr付加)]、[CHCHCHCHClCOOCH、又はCHCHCHCHBrCOOCH(添加不飽和化合物CHCHCH=CHCOOCHにHCl又はHBr付加)]、[CHCBr(CHCH)COOCH(添加不飽和化合物CH=C(C)COOCHにHBr付加)]、[(CHCHCHClCOOCH、(CHCHCHBrCOOCH、又は(CHCBrCHCOOCH(添加不飽和化合物(CHC=CHCOOCHにHCl又はHBr付加)]、[CHCHFCHOH、CHCHClCHOH、CHCHBrCHOH、CHFCHCHOH、CHClCHCHOH、又はCHBrCHCHOH(添加不飽和化合物CH=CHCHOHにHF、HCl又はHBr付加)]、[CHCHCHFCHOH、CHCHCHClCHOH、又はCHCHCHBrCHOH(添加不飽和化合物CHCHCH=CHOHにHF、HCl又はHBr付加)]、[CHCHFCHCHOH、CHCHClCHCHOH、CHCHBrCHCHOH、CHCHCFHCHOH、CHCHCClHCHOH、又はCHCHCBrHCHOH(添加不飽和化合物CHCH=CHCHOHにHF、HCl又はHBr付加)]、[CHCHClCHOCH、又はCHCHBrCHOCH(添加不飽和化合物CHCH=CHOCHにHCl又はHBr付加)]、[CHClCHCHN(CH、又はCHBrCHCHN(CH(添加不飽和化合物CH=CHCHN(CHにHCl又はHBr付加)]、[CHCClCHCOOCH、又はCHClCHCHCOOCH(添加不飽和化合物CH≡CCHCOOCHにHCl付加)]
等が挙げられる。
【0119】
この本開示の組成物の総量を100モル%として、一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物の含有量は50~80モル%であり、54~79モル%、58~78モル%、62~77モル%、65~76モル%等とすることもできる。
【0120】
また、この本開示の組成物の総量を100モル%として、一般式(5)で表されるハロゲン化アルケン化合物の含有量は12~40モル%であり、13~37モル%、14~34モル%、15~30モル%、16~27モル%等とすることもできる。
【0121】
また、この本開示の組成物の総量を100モル%として、一般式(6)で表されるハロゲン化アルケン化合物の含有量は0.10~10.0モル%が好ましく、0.15~9.5モル%、0.20~9.0モル%、0.25~8.5モル%、0.30~8.0モル%等とすることもできる。
【0122】
なお、本開示の製造方法によれば、ハロゲン化アルケン組成物として得られた場合であっても、上記のように一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物を、反応の転化率を高く、また、高収率且つ高選択率で得ることができるため、本開示の組成物中の一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物以外の成分を少なくすることが可能であるため、一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物を得るための精製の労力を削減することができる。
【0123】
本開示の製造方法によれば、一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物を含む組成物として得られた場合であっても、一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物を、反応の転化率を高く、また、高収率且つ高選択率で得ることができるため、その結果、前記組成物中の一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物以外の成分を少なくすることが可能である。本開示の製造方法によれば、一般式(1)で表されるハロゲン化アルケン化合物を得る為の精製の労力を削減することができる。
【0124】
本開示のハロゲン化アルケン化合物を含む組成物は、ハロゲン化アルケン化合物単独の場合と同様に、クリーニングガス;半導体、液晶等の最先端の微細構造を形成するためのエッチングガス等の他、デポジットガス、冷媒、熱移動媒体、有機合成用ビルディングブロック等の各種用途にも有効利用できる。
【0125】
前記デポジットガスとは、エッチング耐性ポリマー層を堆積させるガスである。
【0126】
前記有機合成用ビルディングブロックとは、反応性が高い骨格を有する化合物の前駆体となり得る物質を意味する。例えば、本開示の組成物とCFSi(CH等の含フッ素有機ケイ素化合物とを反応させると、CF基等のフルオロアルキル基を導入して洗浄剤や含フッ素医薬中間体と成り得る物質に変換することが可能である。
【0127】
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能である。
【実施例
【0128】
以下に実施例を示し、本開示の特徴を明確にする。本開示はこれら実施例に限定されるものではない。
【0129】
実施例1~3のハロゲン化アルケン化合物の製造方法では、原料化合物は、一般式(2)で表されるハロゲン化アルカン化合物において、R及びRはトリフルオロメチル基とし、Rはフッ素原子とし、Rは水素原子とし、Xはフッ素原子とし、以下の反応式:
CFCFHCFHCF → CFCF=CHCF + HF
に従って、脱フッ化水素反応により、ハロゲン化アルケン化合物を得た。
【0130】
実施例1~3及び比較例1
反応管であるSUS配管(外径:1/2インチ)に、触媒として活性炭触媒(大阪ガスケミカル(株)製;比表面積1200m/g)を10g加えた。窒素雰囲気下、200℃で2時間乾燥した後、圧力を常圧、CFCFHCFHCF(原料化合物)と活性炭触媒との接触時間であるW/F[W:触媒の重量(g)、F:原料化合物であるCFCFHCFHCFの流量(cc/sec)]が23g・sec/cc又は47g・sec/ccとなるように、反応管にCFCFHCFHCF(原料化合物)を流通させた。その後、実施例1~3では、CFCFHCFHCF(原料化合物)1モルに対して0.01~0.20モル(1~20モル%)のCFCF=CFCF(原料化合物)を流通させた。
【0131】
反応は、気相連続流通式で進行させた。
【0132】
反応管を350℃で加熱して脱フッ化水素反応を開始した。
【0133】
脱フッ化水素反応を開始してから1時間後に、除害塔を通った留出分を集めた。
【0134】
その後、ガスクロマトグラフィー((株)島津製作所製、商品名「GC-2014」)を用いてガスクロマトグラフィー/質量分析法(GC/MS)により質量分析を行い、NMR(JEOL社製、商品名「400YH」)を用いてNMRスペクトルによる構造解析を行った。質量分析及び構造解析の結果から、目的化合物としてCFCF=CHCFが生成したことが確認された。結果を表3に示す。
【0135】
【表3】