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特許7541280医療用炭酸カルシウム組成物、および関連医療用組成物、ならびにこれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】医療用炭酸カルシウム組成物、および関連医療用組成物、ならびにこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/02 20060101AFI20240821BHJP
   A61L 27/12 20060101ALI20240821BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20240821BHJP
   A61L 27/56 20060101ALI20240821BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20240821BHJP
   C01F 11/18 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
A61L27/02
A61L27/12
A61L27/20
A61L27/56
A61L27/40
C01F11/18 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020142267
(22)【出願日】2020-08-26
(65)【公開番号】P2021037281
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2019154607
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】593108059
【氏名又は名称】石川 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】石川 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】都留 寛治
(72)【発明者】
【氏名】戸井田 力
(72)【発明者】
【氏名】中島 康晴
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-529091(JP,A)
【文献】国際公開第2016/035751(WO,A1)
【文献】特表2011-509235(JP,A)
【文献】特開2016-209599(JP,A)
【文献】特開2013-027419(JP,A)
【文献】特開2016-158692(JP,A)
【文献】米国特許第06905516(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0110422(US,A1)
【文献】Dental Materials Journal,Vol. 34,Issue 3,2015年,pp.394-401,DOI: 10.4012/dmj.2014-328
【文献】人工臓器,47巻3号,2018年,pp.189-195
【文献】窯業協会誌,86[12],1978年,pp.590-597
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/02
A61L 27/12
A61L 27/20
A61L 27/56
A61L 27/40
C01F 11/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バテライトとα型リン酸三カルシウムとを含む固体部と、リン酸塩を含む溶液部を具備して構成され、該固体部と該溶液部を混錬すると、炭酸アパタイトを形成して硬化する骨欠損再建治療用キット。
【請求項2】
前記固体部におけるバテライトの含有量が10質量%以上60質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の骨欠損再建治療用キット。
【請求項3】
前記溶液部にカルボキシ基を複数有する酸、亜硫酸水素塩、セルロース誘導体、デキストラン硫酸塩、コンドロイチン硫酸塩、アルギン酸塩、グルコマンナンの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1又は2いずれかに記載の骨欠損再建治療用キット。
【請求項4】
前記固体部が、体積が10-12以上であるバテライトを含むことを特徴とする請求項1~3に記載の骨欠損再建治療用キット。
【請求項5】
前記バテライトの平均粒径が6μm以下であることを特徴とする請求項1~に記載の骨欠損再建治療用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用組成物およびその製造方法に関する。具体的には、生体内に埋入する医療用炭酸カルシウム組成物、生体外で使用する細胞培養用スキャッフォールド、および該組成物に関わる医療用硫酸カルシウム硬化性組成物、医療用リン酸カルシウム組成物、医療用水酸化カルシウム組成物、骨欠損再建治療用キット、およびそれらの製造方法に関する。
より詳しくは、1)組織親和性、2)生体内吸収性、3)反応性、4)機械的強度、を高度に満足させる医療用炭酸カルシウム組成物、および関連医療用組成物、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無脊椎動物の骨格組成は炭酸カルシウムであり、脊椎動物の骨格組成は炭酸カルシウムにリン酸成分が付与されたリン酸カルシウムの一種である炭酸アパタイトである。炭酸カルシウムは骨補填材として研究されており、炭酸アパタイトを含むリン酸カルシウム、硫酸カルシウムなどは骨補填材として臨床応用されている。
(組織親和性)
骨補填材などの医療用組成物は、工業用組成物とは所用性質が異なり、生体内の反応が最も重要である。生体内に粉末を埋入すると炎症反応が惹起される。そのため、生体内に埋入される医療用組成物には、組織親和性の観点から一定以上の体積を有することが要求される。感染防止の観点から抗菌性が求められる場合もある。医療用組成物であるため、実質的に純粋であることも必須事項である。
(生体内吸収性)
骨補填材として、医療用炭酸カルシウム化合物および関連医療用組成物においては生体内で吸収され、所望の組織に置換されることが期待される場合がある。組織置換には、材料の吸収と組織再生の両者が必要である。炭酸カルシウムや一部のリン酸カルシウムは破骨細胞などによって吸収されるが、吸収されるためには、生体内で吸収されない材料が含有されていないことが必要である。
(反応性)
医療用炭酸カルシウム組成物には生体内で組織置換などの優れた組織反応性が望まれたり、化学的な反応性が望まれたりする場合がある。前者に関しては、組織、細胞、組織液の浸入や溶解が要素となり、気孔制御、多形や結晶子サイズが重要である。後者に関しては水溶液の浸入や溶解が要素となり、気孔制御、多形や結晶子サイズが重要である。
後者に関して、医療用炭酸カルシウム組成物は、骨補填材として期待されているだけでなく、医療用炭酸アパタイト組成物などの医療用リン酸カルシウム組成物の製造における前駆体としても有用である。例えば、炭酸カルシウムブロックを、リン酸塩水溶液に浸漬すると溶解析出反応でマクロ形状を保ったまま組成が炭酸アパタイトとなり、炭酸アパタイトブロックが製造できる(特許文献1)。しかしながら、溶解析出反応は炭酸カルシウムブロックの表面からの進行するため、炭酸カルシウムブロックが大きい場合や、反応性が低い炭酸カルシウムブロックの場合には、完全に炭酸アパタイトなどに組成変換されず、芯が残る場合がある。そのため、反応性の高い医療用炭酸カルシウム組成物やリン酸成分の付与を早くする製造方法が望まれている。
炭酸カルシウム組成物の反応性は組成や多形だけでなく、構造によっても大きな影響を受ける。特に連通多孔体は細胞や組織が内部に遊走されるため好ましい構造である。細胞や組織が遊走するには一定のサイズ以上であるマクロ気孔が必要であるが、組織置換を期待する場合にはより小さいサイズのミクロ気孔も重要となる。
(機械的強度)
一般的にマクロ気孔およびミクロ気孔は多いことが望ましいが、気孔率の増大に伴い、機械的強度が低下する。そのため、気孔率と機械的強度のバランスが重要である。
なお、医療用炭酸カルシウム組成物から製造される医療用リン酸カルシウム組成物や医療用炭酸カルシウム組成物製造に必要な医療用水酸化カルシウム組成物、医療用硫酸カルシウム組成物、骨欠損再建治療用キットも関連医療用組成物として重要である。
【0003】
(炭酸カルシウムの反応性:多形、気孔と密度)
炭酸カルシウムの反応性には多形、気孔、密度などの様々な因子が影響を及ぼす。バテライトは、常温常圧で準安定であり、天然には存在しないが、最も反応性が高い炭酸カルシウムである。密度は2.64(g/cm)である。カルサイトは常温常圧で安定相でありバテライトより反応性が低い。密度は2.71(g/cm)である。アラゴナイトは高温高圧で安定相であり、常温常圧では準安定相である。密度は2.96(g/cm)である。密度が高い炭酸カルシウムを原料に医療用材料を製造すると、密度が高い医療用材料が製造されるため、反応性が低くなる場合がある。そのため、密度が比較的小さい炭酸カルシウムが望まれる場合がある。
また、気孔も炭酸カルシウムの反応性に最も大きな影響を及ぼし、一般的には気孔率が高い方が、反応性が高い。その関係で、炭酸カルシウムを原料として用いて別の材料を製造する場合、密度が小さい炭酸カルシウムを用いた場合に反応性の高い材料を製造できる場合がある。
これらの理由から本発明ではバテライトおよびカルサイトからなる炭酸カルシウムに限定する。
【0004】
(バテライト組成物の背景)
バテライトは準安定相であり、安定相であるカルサイトに比較してだけでなく、準安定相であるアラゴナイトに比較しても反応性が高く、医療用炭酸カルシウム組成物として極めて好ましい。これまで、20質量%以上のバテライトを含み、かつ、体積が10-12以上である医療用バテライト組成物は存在しなかった。
バテライト粉末については、水溶性カルシウム塩と炭酸塩との水溶液反応によって炭酸カルシウムを製造する際に、カルシウム以外の2価カチオンを添加し、カルサイトへの転移を遅くする方法(特許文献2、3)、塩化カルシウム又は硝酸カルシウムを炭酸化する際にスラリーのCa濃度、温度、pHを制御する方法(特許文献4、5)、カルシウムイオンが溶解した連続水相と、有機相とからなるO/Wエマルションを、多孔質膜を通過させた後、炭酸イオンを含む水溶液と反応させる方法(特許文献6)、水酸化カルシウムのアルコール-水混合懸濁溶液に二酸化炭素を導入する方法(特許文献7)、アルキルアミン塩型界面活性剤を添加する方法(非特許文献1)、エチレングリコール等の有機物を添加する方法(非特許文献2)などで製造できることが知られている。しかし、粉末は生体内で炎症反応を惹起するため使用できない。
本発明者は、硫酸カルシウム無水和物顆粒を、4℃の2モル濃度炭酸ナトリウム水溶液50mLに14日間浸漬することによって、17質量%のバテライトを含むカルサイト顆粒を製造する方法を見いだしている。しかしながら、該製造方法では、カルサイト形成を十分に抑制できないため、バテライトの含有量は17質量%であった(特許文献8)。また、特許文献8に記載されているように、「バテライトを含む炭酸カルシウムを含む製品無機化合物を製造する際には電解質温度を10℃以下とすることは必須である」と考えられており、製品および製造上の問題があった。(特許文献8)
すなわち、上述した医療用炭酸カルシウム組成物の条件を全て満足する20質量%以上のバテライトを含む医療用炭酸カルシウム組成物、およびその製造方法は知られていない。また、10℃を超える温度でバテライトを製造する方法も知られていなかった。すなわち、カルサイトの形成を高度に抑制し、20質量%以上のバテライトを含む一定サイズ以上の医用材料は知られていなかった。当然、バテライトを含む焼結体は知られていない。
【0005】
(カルサイト組成物の背景)
炭酸カルシウムの中で安定相であるカルサイトは、顆粒やブロックなどの製造が比較的容易であり、水酸化カルシウム圧粉体を二酸化炭素に暴露する方法などが報告されている(特許文献9)。
一方で、安定相であるカルサイトの反応性は、準安定相であるバテライトやアラゴナイトに比較して低い。カルサイトにリン酸塩を付与してリン酸カルシウムを製造する場合にはリン酸カルシウム形成反応がカルサイト組成物の表面から進行する。そのため、炭酸カルシウムの芯が残って実質的にリン酸カルシウム組成物が製造できなかったり、100℃より高い反応温度が必要であったり、長い時間が製造にかかったりすることがあった。
医療用炭酸カルシウム組成物の見かけの反応性を増大させるには連通多孔体化が有効である。例えば、一定体積以上の医療用カルサイトから医療用リン酸カルシウム組成物を製造する場合、緻密体であれば芯が残ったり、長い製造時間が必要であったりするが、同体積の連通多孔体であれば多孔体表面から反応が進行するために芯が残らなかったり、短い製造時間で医療用リン酸カルシウム組成物が製造できる。連通多孔体であれば細胞や組織を内部に侵入させることが可能である。例えば、炭酸アパタイト連通多孔体の場合は骨置換が飛躍的に増進される。
これまでも、医療用炭酸アパタイト多孔体の前駆体となる医療用炭酸カルシウム多孔体について、さまざまな検討が行われてきた。例えば、水酸化カルシウムに塩化ナトリウムなどの孔形成物質を混合して圧粉してから炭酸化し、孔形成物質を除去することによって、炭酸カルシウム多孔体を製造する方法が提案されている(特許文献9)。多孔体形成によって反応性は向上しているが、カルサイト多孔体であるため、さらなる反応性の向上が求められていた。また、気孔サイズを限定することが、機械的強度及び反応性の観点から極めて重要であるが、当時は、特定の気孔サイズが知られていなかった。
これまで炭酸カルシウムは分解されるため焼結が困難であるとされてきたが、炭酸カルシウムとゲル化剤を含む分散液に発泡剤を加えて撹拌、発泡体を焼結して炭酸カルシウム焼結体を簡便に製造する方法が提案されている(特許文献10)。該製造方法では連通孔が形成されるが、数百ミクロンから1mm以上の大きな気孔が焼結した形態であり、壁厚も厚いため反応性に劣る。さらに、発泡して気孔を形成させるため、再現性に劣る。さらに、特許文献10の参考例1に記載されているように、焼結助剤である炭酸カリウム及び炭酸リチウムを添加しない場合にはそもそも炭酸カルシウム多孔質焼結体が得られない。また、カリウムやリチウムが添加されている骨補填材は、好ましくない。焼結助剤を添加したり、高純度の炭酸カルシウムを用いたりすることによって炭酸カルシウム多孔質焼結体が製造できるが、機械的強度が小さく、臨床的実用性に乏しいものであった。
また、熱的溶融型樹脂ビーズを造孔材としてセラミックス多孔質体を製造する際の脱脂において、熱溶融型樹脂ビーズの分解開始温度以上まで、30℃/時間以上の昇温速度で昇温することを特徴とするセラミックス多孔質体の製造に係る脱脂法が提案されている(特許文献11)。アルミナなどの熱的に安定なセラミックスにおいては有用であるが、炭酸カルシウムなどの高温で分解されるセラミックスにおける有用性は限定的であり、さらに、高い反応性が期待される医療用組成物では、より高度な脱脂法が必要である。造孔材と原料セラミックスを混合する手法は気孔サイズの調整を正確に行えるが、連通多孔体を形成させるには比較的多量の造孔材を導入する必要があり、気孔率の増大に伴い、製造されるセラミックス多孔体の機械的強度は著しく小さくなるため、適切な造孔材の導入が必要となる。
本発明者は炭酸カルシウム連通多孔体の製造方法について、高分子材料含有水酸化カルシウムを、ハニカム構造形成用型を通して用いて押出し、高分子材料を脱脂してから炭酸化処理を行ったり、高分子材料の脱脂と炭酸化処理を同時に行ったりして、炭酸カルシウムハニカム構造体を製造する方法を提案している(特許文献12)。また、該発明の炭酸カルシウムハニカム構造体にリン酸成分を付与すると炭酸アパタイトハニカム構造体が製造できることも開示している。該炭酸カルシウムハニカム構造体および該炭酸アパタイトハニカム構造体は骨伝導性を示し、かつ、伝導した骨が貫通孔方向に高度に配向するなど優れた性質を示した。該炭酸アパタイトハニカム構造体に関する研究開発を鋭意行っていたところ、炭酸カルシウムハニカム構造体の脱脂が不十分であることがわかり、脱脂水準を向上させることによってより機能性の高い医療用炭酸カルシウム組成物が製造できる可能性が見出された。すなわち、該発明の炭酸カルシウムハニカム構造体の製造においては、ワックス系有機バインダーなどの高分子材料を用いるため、脱脂を行っていたが、当時は、白色度の要求度によって求められる脱脂の程度が異なると判断しており、また、医療用炭酸カルシウム組成物に求められる脱脂水準は解明されておらず、脱脂の程度を定量化する方法も考案されていなかった。ましてや、脱脂の程度による酸溶解残留物が炭酸カルシウムハニカム構造体の反応性や有用性に大きな影響を及ぼすとは想像できなかった。
そのため、特許文献12の実施例1(本明細書の比較例6)で開示した炭酸カルシウムハニカム構造体には酸溶解残留物が1.2質量%含まれていた。また、該炭酸カルシウムハニカム構造体にリン酸成分を付与して製造した炭酸アパタイトハニカム構造体(特許文献12の実施例11)にも酸溶解残留物が1.2質量%含まれていた。当時は、これらの酸溶解残留物は着色の原因となっても必ずしも長期的な組織親和性に影響を及ぼすとは予測されなかった。実際、酸溶解残留物を1.2質量%含む炭酸アパタイトハニカム構造体においても、一定の骨伝導性と優れた組織親和性が確認されていた。
該炭酸アパタイトハニカム構造体のさらなる機能向上を鋭意検討していたところ、少量の酸溶解残留物でも骨伝導性や生体吸収性に影響を及ぼすことがわかった。そのため、酸溶解残留物が1質量%以下、可能であれば酸溶解残留物が0質量%である医療用炭酸カルシウムハニカム構造体について鋭意研究を進めた。
なお、医療用炭酸カルシウムハニカム構造体において連通構造を形成するマクロ気孔だけでなく、ミクロ気孔も重要である。これは組織や細胞の侵入に有用なマクロだけでなく、細胞や体液などによる医療用炭酸カルシウム多孔体の吸収あるいは水溶液との反応を促進するためにミクロ気孔が有用であるためである。しかし、これまで医療用炭酸カルシウム組成物に有用なミクロ気孔の特定法や有効なミクロ気孔の範囲は見出されていなかった。
【0006】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】再公表特許W02004/112856号
【文献】特開昭57-92520号公報
【文献】特開昭60-90822号公報
【文献】特開昭54-150397号公報
【文献】特開2011 - 126741号公報
【文献】特開2011 -157245号公報
【文献】特開平11-314915号公報
【文献】国際公開第2016/035751号
【文献】特開2016 -552061号公報
【文献】特開2018 -140890号公報
【文献】特開平7 -223871号公報
【文献】国際公開第2018/074429号
【0008】
【文献】日本接着協会誌, Vol.22, No.11, 1986, pp.573-579
【文献】材料, 第30巻, 第336号, 1986, pp.6-10
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、1)組織親和性、2)生体内吸収性、3)反応性、4)機械的強度、を高度に満足させる、医療用炭酸カルシウム組成物、および該組成物に関わる医療用硫酸カルシウム硬化性組成物、医療用リン酸カルシウム組成物、医療用水酸化カルシウム組成物、骨欠損再建治療用キット、およびそれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、1)組織親和性、2)生体内吸収性、3)反応性、4)機械的強度、を高度に満足させる、医療用炭酸カルシウム組成物、および該組成物に関わる医療用硫酸カルシウム半水和物組成物、医療用リン酸カルシウム組成物、医療用水酸化カルシウム組成物、骨欠損再建治療用キット、およびそれらの製造方法を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
[1]
下記(A)~(C)の全ての条件と、(D)~(K)の群から選ばれる少なくとも一つの条件とを満足することを特徴とする医療用炭酸カルシウム組成物。
(A)体積が10-12以上である。
(B)酸溶解残留物が1質量%以下である。
(C)主としてバテライトあるいはカルサイトからなる、医療用組成物として、実質的に純粋な炭酸カルシウムである。
(D)20質量%以上のバテライトを含む。
(E)一方向に延びる複数の貫通孔を備えたハニカム構造体であり、かつ、水銀圧入法による細孔分布測定において、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積が0.02cm/gより大きい。
(F)最大径長さが50μm以上500μm以下の複数の顆粒が結合して形成される、複数方向に延びる複数の貫通孔を備えた顆粒結合多孔体であって、水銀圧入法測定による該顆粒結合多孔体の10μm以下の細孔容積が0.05cm /g以上である。
(G)医療用組成物全体に、最大径長さが50μm以上400μm以下の複数の気孔が集積されており、最大径長さが800μm以上の気孔を含まない気孔集積型多孔体であって、水銀圧入法測定による該気孔集積型多孔体の10μm以下の細孔容積が0.05cm /g以上である。
(H)水銀圧入法測定で、細孔径6μm以下の細孔容積に対する細孔径1μm以上6μm以下の細孔容積の比が10%以上である。
(I)いずれかの方向で得られる最大圧縮強度が下記の式で計算される基準圧縮強度[S]以上である(ただし、一方向に延びる複数の貫通孔を備えたハニカム構造体であり、かつ、水銀圧入法測定で、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積が0.02cm/g以下であるものを除く。)。
S=S×C×exp(-b×P)
(ここで、Sおよびbは定数でSは500、bは0.068、Cは炭酸カルシウムの多形による定数で、20質量%以上のバテライトを含む場合は0.01、20質量%以上のバテライトを含まない場合は1、Pは該組成物の気孔率の百分率である。)
(J)短径が1mm以上5mm未満であり、かつ、当該組成物の投射図において、投射図周囲線の任意の点から半径0.2mmの円を描き、該円と投射図周囲線が交わる3点が形成する三角形の、投射図周囲線の任意の点を頂点とする角度が90°以下である点が存在しないハニカム構造体顆粒
(K)複数の組成物粒子が繊維で接続されている。
[2]
前記(D)の条件を満足する医療用炭酸カルシウムであって、焼結体であることを特徴とする[1]に記載の医療用炭酸カルシウム組成物。
[3]
下記、(AJ1)~(AJ4)のいずれかの条件を満足する炭酸カルシウム粉末が結合して、炭酸カルシウム組成物を形成していることを特徴とする[1]又は[2]に記載の医療用炭酸カルシウム組成物。
(AJ1)平均粒径が2μm以上8μm以下である。
(AJ2)球形度が0.9以上である。
(AJ3)Mg含有量が5×10 -4 質量%以上3×10 -3 質量%以下である。
(AJ4)Sr含有量が3×10 -3 質量%以上1.5×10 -2 質量%以下である。
[4]
前記(E)の条件を満足する[1]又は[3]に記載の医療用炭酸カルシウム組成物であって、
いずれか一つの貫通孔の両端、該貫通孔の中央部の三点を通る円の直径が1cm以上50cm以下である湾曲ハニカム構造体であることを特徴とする医療用炭酸カルシウム組成物。
[5]
前記(D)の条件を満足する[1]又は[3]に記載の医療用炭酸カルシウム組成物を製造する方法であって、
体積が10-12以上である原料カルシウム組成物を、二酸化炭素あるいは炭酸イオンに暴露する工程において、下記(D1)~(D8)の群から選ばれる少なくとも一つの条件を満足し、(D9)~(D12)を選択工程とすることを特徴とする医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法。
(D1)カルサイト形成あるいはカルサイト結晶の成長を抑制し、相対的にバテライト形成を促進する工程を含む。
(D2)原料カルシウム組成物を、二酸化炭素あるいは炭酸イオンと、有機溶媒、水溶性有機物、アンモニア、およびアンモニウム塩の群から選ばれる少なくとも一つとに暴露する工程を含む。
(D3)有機溶媒、水溶性有機物、アンモニア、およびアンモニウム塩の群から選ばれる少なくとも一つを含む原料カルシウム組成物を、二酸化炭素あるいは炭酸イオンと、有機溶媒、水溶性有機物、アンモニア、およびアンモニウム塩の群から選ばれる少なくとも一つとに暴露する工程を含む。
(D4)原料カルシウム組成物を、二酸化炭素あるいは炭酸イオンと、メタノール、エタノール、グリセリン、エチレングリコールおよび炭酸アンモニウムの群から選ばれる少なくとも一つとに暴露する工程を含む。
(D5)メタノール、エタノール、グリセリン、エチレングリコールおよび炭酸アンモニウムの群から選ばれる少なくとも一つを含む原料カルシウム組成物を、二酸化炭素あるいは炭酸イオンと、メタノール、エタノール、グリセリン、エチレングリコールおよび炭酸アンモニウムの群から選ばれる少なくとも一つとに暴露する工程を含む。
(D6)バテライトからカルサイトへの転移を抑制する工程を含む。
(D7)原料カルシウム組成物から水を除去する工程を含む。
(D8)原料カルシウム組成物周囲に、有機溶媒を含む二酸化炭素あるいは炭酸イオンを流動させる工程を含む。
(D9)原料カルシウム組成物を気相で二酸化炭素あるいは炭酸イオンに暴露させて部分炭酸化を行い、その後で該原料カルシウム組成物を液相で二酸化炭素あるいは炭酸イオンに暴露する工程を含む。
(D10)型にいれた原料カルシウム組成物を二酸化炭素あるいは炭酸イオンに暴露する工程を含む。
(D11)造孔材を含む原料カルシウム組成物を二酸化炭素あるいは炭酸イオンに暴露する工程を含む。
(D12)繊維で接続された原料カルシウム組成物を二酸化炭素あるいは炭酸イオンに暴露する工程を含む。
[6]
前記(D)の条件を満足する[1]又は[2]記載の医療用炭酸カルシウム組成物を製造する方法であって、20質量%以上のバテライトを含む炭酸カルシウム粉末を圧粉し、かつ、焼成することを特徴とする医療用バテライト焼結体の製造方法。
[7]
前記(E)の条件を満足する[1]、[3]又は[4]に記載の医療用炭酸カルシウム組成物を製造する方法であって、
下記(E1)と、(E5)~(E9)の群から選ばれる一つとを必須工程とし、(E2)~(E4)、(E10)を選択工程とすることを特徴とする医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法。
(E1)押出工程
高分子材料含有原料カルシウム組成物を、ハニカム構造形成用型を通して押出し、体積が3×10-11以上であり、かつ、一方向に延びる複数の貫通孔を備えた原料ハニカム構造体を製造する工程
(E2)押出工程後の成形工程
高分子材料含有原料カルシウム組成物を組成とするハニカム構造体を熱処理で軟化させてから圧力を負荷して、所望の形状に成形する工程
(E3)外周側壁除去工程
押出工程あるいは押出工程後の成形工程の後、かつ、脱脂炭酸化工程の前に、外周側壁を除去する工程
(E4)外周側壁除去工程後の成形工程
外周側壁除去工程後に、高分子材料含有原料カルシウム組成物を組成とするハニカム構造体を熱処理で軟化させてから圧力を負荷して、所望の形状に成形する工程
(E5)脱脂炭酸カルシウム焼結工程
高分子材料含有炭酸カルシウムを、酸溶解残留物が1質量%以下となるように加熱脱脂し、かつ、炭酸カルシウムを焼結する脱脂焼結工程
(E6)脱脂炭酸化工程
高分子材料含有水酸化カルシウム多孔体を、酸溶解残留物が1質量%以下となるように酸素濃度が30%未満で加熱脱脂し、同時に、炭酸化する工程
(E7)酸化カルシウム経由脱脂炭酸化工程
高分子材料含有水酸化カルシウム多孔体あるいは高分子材料含有炭酸カルシウム多孔体を、酸溶解残留物が1質量%以下となるように加熱脱脂し、かつ、酸化カルシウム多孔体とし、その後に、酸化カルシウム多孔体を二酸化炭素に暴露して炭酸カルシウム多孔体とする工程
(E8)炭酸カルシウム酸化カルシウム経由脱脂炭酸化工程
高分子材料含有水酸化カルシウムを、二酸化炭素存在下で熱処理して高分子材料含有炭酸カルシウム多孔体とし、その後に、酸溶解残留物が1質量%以下となるように加熱脱脂し、かつ、酸化カルシム多孔体とし、その後に、酸化カルシウム多孔体を二酸化炭素に暴露して炭酸カルシウム多孔体とする炭酸化脱脂酸化カルシウム経由炭酸化工程
(E9)硫酸カルシウム脱脂炭酸化工程
高分子材料含有硫酸カルシウムを、酸溶解残留物が1質量%以下となるように加熱脱脂し、その後、製造された硫酸カルシウム多孔体に二酸化炭素あるいは炭酸イオンを付与して炭酸カルシウムとする脱脂炭酸化工程
(E10)脱脂炭酸化工程の後で行う形状仕上げ工程
[8]
下記(E11)~(E14)の群から選ばれる少なくとも一つの条件を満足することを特徴とする[7]記載の医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法。
(E11) 前記「(E1)押出工程」で、ハニカム構造体の外周側壁の厚さが隔壁の厚さより厚く、かつ、貫通孔に垂直な面の断面積が1cm以上であるように押出す。
(E12) 前記「(E1)押出工程」、「(E2)押出工程後の成形工程」、「(E4)外周側壁除去工程後の成形工程」および「(E10)脱脂炭酸化工程の後で行う形状仕上げ工程」の少なくとも一つの工程において、熱的に軟化した高分子材料含有原料カルシウム組成物を組成とするハニカム構造体に圧力を負荷して、貫通孔の両端、該貫通孔の中央部の三点を通る円の直径が1cm以上50cm以下になるように湾曲成形する。
(E13) 前記「(E3)外周側壁除去工程」は研削で行い、前記「(E10)脱脂炭酸化工程の後で行う形状仕上げ工程」は研磨で行う。
(E14) 前記「(E1)押出工程」の原料カルシウム組成物が硫酸カルシウム無水物である。
[9]
原料として酸化カルシウム顆粒を用いて、前記(F)の条件を満足する[1]記載の医療用炭酸カルシウム組成物を製造する方法であって、
下記(F1)および(F2)の工程を含み、かつ、(F3)および(F4)の少なくとも一つの工程を含むことを特徴とする医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法。
(F1)導入閉鎖工程
酸化カルシウム顆粒を反応容器に入れ、反応容器から排出されないように、反応容器の開口部を閉鎖する工程
(F2)多孔体形成工程
反応容器内部の、酸化カルシウム顆粒に、水あるいは酢酸を付与して水酸化カルシウムあるいは酢酸カルシウムとするとともに、該顆粒を膨張させて多孔体を製造する工程
(F3)炭酸化工程
多孔体形成工程と同時又は後に、水酸化カルシウム多孔体に二酸化炭素を付与して炭酸カルシウム多孔体を製造する炭酸化工程、あるいは、多孔体形成工程の後に、酢酸カルシウムを熱処理して炭酸カルシウム多孔体を製造する炭酸化工程
(F4)酸化カルシウム炭酸化工程
水酸化カルシウム多孔体、炭酸カルシウム多孔体、および酢酸カルシウム多孔体の群から選ばれる少なくとも一つの多孔体を熱処理して酸化カルシウム多孔体を製造し、該酸化カルシウム多孔体を二酸化炭素に暴露して炭酸カルシウム多孔体を製造する酸化カルシウム多孔体からの炭酸化工程
[10]
原料として硫酸カルシウム顆粒を用いて、前記(F)の条件を満足する[1]記載の医療用炭酸カルシウム組成物を製造する方法であって、
下記(F5)および(F6)の工程を含む、あるいは、下記(F5)、(F7)および(F9)の工程を含み、(F8)の工程を選択工程とすることを特徴とする医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法。
(F5)導入工程
硫酸カルシウム顆粒を反応容器に入れる工程
(F6)多孔体形成炭酸化工程
反応容器内部の、硫酸カルシウム顆粒と炭酸イオンを反応させて、組成を炭酸カルシウムに変換するとともに顆粒同士を硬化させて多孔体化する工程
(F7)多孔体形成工程
硫酸カルシウム半水和物顆粒あるいは硫酸カルシウム無水和物顆粒に、水を付与して硫酸カルシウム二水和物多孔体を製造する工程
(F8)熱処理工程
硫酸カルシウム二水和物多孔体を、熱処理して硫酸カルシウム無水和物多孔体を製造する工程
(F9)炭酸化工程
硫酸カルシウム二水和物多孔体あるいは硫酸カルシウム無水和物多孔体を、炭酸イオンを含む水に暴露して、組成を炭酸カルシウムに変換する工程
[11]
前記(F)の条件を満足する[1]記載の医療用炭酸カルシウム組成物を製造する方法であって、
下記(F10)および(F11)と、(F12)~(F16)の群から選ばれる一つを必須工程とし、(F17)を選択工程とすることを特徴とする医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法。
(F10)導入工程
体積が10-12以上の高分子材料含有原料カルシウム組成物顆粒を、反応容器に入れる工程
(F11)多孔体形成工程
反応容器内部の該顆粒を、加熱融着させる工程、該顆粒の表面を溶解することにより該顆粒の表面同士を結合させる工程、および可塑剤により該顆粒の表面同士を融合させる工程、のいずれかで、体積が3×10-11以上であり、かつ、最大径長さが50μm以上500μm以下の複数の顆粒が結合して形成される、複数方向に延びる複数の貫通孔を備えた顆粒結合多孔体を製造する工程
(F12)脱脂炭酸カルシウム焼結工程
高分子材料含有炭酸カルシウムを、酸溶解残留物が1質量%以下となるように加熱脱脂し、かつ、炭酸カルシウムを焼結する脱脂焼結工程
(F13)脱脂炭酸化工程
高分子材料含有水酸化カルシウム多孔体を、酸溶解残留物が1質量%以下となるように酸素濃度が30%未満で加熱脱脂し、同時に、炭酸化する工程
(F14)酸化カルシウム経由脱脂炭酸化工程
高分子材料含有水酸化カルシウム多孔体あるいは高分子材料含有炭酸カルシウム多孔体を、酸溶解残留物が1質量%以下となるように加熱脱脂し、かつ、酸化カルシウム多孔体とし、その後に、酸化カルシウム多孔体を二酸化炭素に暴露して炭酸カルシウム多孔体とする工程
(F15)炭酸カルシウム酸化カルシウム経由脱脂炭酸化工程
高分子材料含有水酸化カルシウムを、二酸化炭素存在下で熱処理して高分子材料含有炭酸カルシウム多孔体とし、その後に、酸溶解残留物が1質量%以下となるように加熱脱脂し、かつ、酸化カルシム多孔体とし、その後に、酸化カルシウム多孔体を二酸化炭素に暴露して炭酸カルシウム多孔体とする炭酸化脱脂酸化カルシウム経由炭酸化工程
(F16)硫酸カルシウム脱脂炭酸化工程
高分子材料含有硫酸カルシウムを、酸溶解残留物が1質量%以下となるように加熱脱脂し、その後、製造された硫酸カルシウム多孔体に二酸化炭素あるいは炭酸イオンを付与して炭酸カルシウムとする脱脂炭酸化工程
(F17)脱脂炭酸化工程の後で行う形状仕上げ工程
[12]
前記(G)の条件を満足する[1]記載の医療用炭酸カルシウム組成物を製造する方法であって、
下記(G1)と、(D1)~(D10)および(E5)~(E9)の群から選ばれる少なくとも一つとを必須工程とし、下記(G2)および(G3)および(E10)を選択工程とすることを特徴とする医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法。
(G1)混合工程
原料カルシウム組成物粉末あるいは原料カルシウム組成物ペーストと造孔材を混合する工程
(G2)圧粉工程
原料カルシウム組成物粉末あるいは原料カルシウム組成物ペーストと造孔材の混合物を圧粉する工程
(G3)造孔材除去工程
造孔材を溶媒に溶解させて除去する造孔材除去工程
(D1)カルサイト形成あるいはカルサイト結晶の成長を抑制し、相対的にバテライト形成を促進する工程を含む。
(D2)原料カルシウム組成物を、二酸化炭素あるいは炭酸イオンと、有機溶媒、水溶性有機物、アンモニア、およびアンモニウム塩の群から選ばれる少なくとも一つとに暴露する工程を含む。
(D3)有機溶媒、水溶性有機物、アンモニア、およびアンモニウム塩の群から選ばれる少なくとも一つを含む原料カルシウム組成物を、二酸化炭素あるいは炭酸イオンと、有機溶媒、水溶性有機物、アンモニア、およびアンモニウム塩の群から選ばれる少なくとも一つとに暴露する工程を含む。
(D4)原料カルシウム組成物を、二酸化炭素あるいは炭酸イオンと、メタノール、エタノール、および炭酸アンモニウムの群から選ばれる少なくとも一つとに暴露する工程を含む。
(D5)メタノール、エタノール、および炭酸アンモニウムの群から選ばれる少なくとも一つを含む原料カルシウム組成物を、二酸化炭素あるいは炭酸イオンと、メタノール、エタノール、および炭酸アンモニウムの群から選ばれる少なくとも一つとに暴露する工程を含む。
(D6)バテライトからカルサイトへの転移を抑制する工程を含む。
(D7)原料カルシウム組成物から水を除去する工程を含む。
(D8)原料カルシウム組成物周囲に、有機溶媒を含む二酸化炭素あるいは炭酸イオンを流動させる工程を含む。
(D9)原料カルシウム組成物を気相で二酸化炭素あるいは炭酸イオンに暴露させて部分炭酸化を行い、その後で該原料カルシウム組成物を液相で二酸化炭素あるいは炭酸イオンに暴露する工程を含む。
(D10)型にいれた原料カルシウム組成物を二酸化炭素あるいは炭酸イオンに暴露する工程を含む。
(E5)脱脂炭酸カルシウム焼結工程
高分子材料含有炭酸カルシウムを、酸溶解残留物が1質量%以下となるように加熱脱脂し、かつ、炭酸カルシウムを焼結する脱脂焼結工程
(E6)脱脂炭酸化工程
高分子材料含有水酸化カルシウム多孔体を、酸溶解残留物が1質量%以下となるように酸素濃度が30%未満で加熱脱脂し、同時に、炭酸化する工程
(E7)酸化カルシウム経由脱脂炭酸化工程
高分子材料含有水酸化カルシウム多孔体あるいは高分子材料含有炭酸カルシウム多孔体を、酸溶解残留物が1質量%以下となるように加熱脱脂し、かつ、酸化カルシウム多孔体とし、その後に、酸化カルシウム多孔体を二酸化炭素に暴露して炭酸カルシウム多孔体とする工程
(E8)炭酸カルシウム酸化カルシウム経由脱脂炭酸化工程
高分子材料含有水酸化カルシウムを、二酸化炭素存在下で熱処理して高分子材料含有炭酸カルシウム多孔体とし、その後に、酸溶解残留物が1質量%以下となるように加熱脱脂し、かつ、酸化カルシム多孔体とし、その後に、酸化カルシウム多孔体を二酸化炭素に暴露して炭酸カルシウム多孔体とする炭酸化脱脂酸化カルシウム経由炭酸化工程
(E9)硫酸カルシウム脱脂炭酸化工程
高分子材料含有硫酸カルシウムを、酸溶解残留物が1質量%以下となるように加熱脱脂し、その後、製造された硫酸カルシウム多孔体に二酸化炭素あるいは炭酸イオンを付与して炭酸カルシウムとする脱脂炭酸化工程
(E10)脱脂炭酸化工程の後で行う形状仕上げ工程
[13]
前記加熱脱脂が200℃以上で行われ、該加熱脱脂における高分子材料含有カルシウム組成物の高分子材料の質量減少が毎分1質量%より小さいことを特徴とする[7]、[8]、[11]、[12]のいずれかに記載の医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法。
[14]
下記(L)~(Q)の群から選ばれる少なくとも一つの工程を含むことを特徴とする[5]~[1]のいずれかに記載の医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法。
(L)30KPa以上の酸素分圧で脱脂を行う工程
(M)30KPa以上の二酸化炭素分圧で脱脂あるいは炭酸化を行う工程
(N)酸素あるいは二酸化炭素を含む150KPa以上の気体で脱脂あるいは炭酸化を行う工程
(O)反応容器中の空気の一部あるいは全部を二酸化炭素に置換してから、二酸化炭素を反応容器に導入することによって、反応容器中の二酸化炭素濃度を増加させる工程
(P)閉鎖系の反応容器中の圧力が一定の値となるように二酸化炭素を供給する炭酸化工程
(Q)反応容器中の二酸化炭素を撹拌あるいは循環させる炭酸化工程
[15]
原料カルシウム組成物の組成が、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、および炭酸カルシウムの群から選ばれる一つであることを特徴とする[5]~[9]、[11]~[14]のいずれかに記載の医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法。
[16]
下記(R~(R4)の少なくとも一つの条件を満たすことを特徴とする[5]~[15]のいずれかに記載の医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法。
(R平均粒径が2μm以上8μm以下の炭酸カルシウム粉末を用いる。
(R2)球形度が0.9以上の炭酸カルシウム粉末を用いる。
(R3)Mg含有量が5×10 -4 質量%以上3×10 -3 質量%以下の炭酸カルシウム粉末を用いる。
(R4)Sr含有量が3×10 -3 質量%以上1.5×10 -2 質量%以下の炭酸カルシウム粉末を用いる。
[17]
下記(T1)~(T)の全ての条件を満足することを特徴とする医療用硫酸カルシウム硬化性組成物。
(T1)酸溶解残留物が1質量%以下である。
(T2)体積が5×10-13以上である。
(T3)医療用組成物として、実質的に純粋な硫酸カルシウムである。
(T4)硫酸カルシウム半水和物含有量が50質量%以上である。
(T5)組成物同士を接触させて水に浸漬すると、硬化して圧縮強度が0.3MPa以上である多孔体を形成する。
[8]
[17]に記載の医療用硫酸カルシウム硬化性組成物を製造する方法であって、下記(U2)および(U3)を必須工程として含み(U1)および(U4)を選択工程として含むことを特徴とする医療用硫酸カルシウム半水和物顆粒の製造方法。
(U1)高分子材料脱脂工程
高分子材料含有硫酸カルシウム顆粒あるいはブロックを熱処理で脱脂して酸溶解残留物を1質量%以下とする工程
(U2)硫酸カルシウム二水和物製造工程
高分子材料脱脂工程で形成された硫酸カルシウム無水物あるいは半水和物の顆粒あるいはブロックに水を付与して、あるいは硫酸カルシウム半水和物粉末に水を付与して、硬化させて、硫酸カルシウム二水和物顆粒あるいはブロックを製造する工程
(U3)硫酸カルシウム半水和物製造工程
硫酸カルシウム二水物顆粒あるいはブロックを気相中で脱水して、硫酸カルシウム半水和物顆粒あるいはブロックを製造する工程
(U4)顆粒サイズ調整工程
体積が5×10-13以上の顆粒となるようにサイズを調整する工程
[19]
下記(V1)~(V3)の全ての条件と、(V4)~(V10)の群から選ばれる少なくとも一つの条件を満足し、(V11)又は(V12)を選択条件とすることを特徴とする医療用リン酸カルシウム組成物
(V1)体積が10-12以上である。
(V2)酸溶解残留物が1質量%以下である。
(V3)医療用組成物として、実質的に純粋なリン酸カルシウムであり、組成が炭酸アパタイト、HPO基を含むアパタイト、リン酸三カルシウム、ウィトロカイト、リン酸水素カルシウムの群から選ばれる一つである。
(V4)一方向に延びる複数の貫通孔を備えたハニカム構造体(ただし、組成がリン酸三カルシウムであり、かつ、水銀圧入法測定で、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積が0.01cm /g以上である、いずれか一つの貫通孔の両端、該貫通孔の中央部の三点を通る円の直径が1cm以上50cm以下である、ハニカム構造体において貫通孔方向の隔壁表面の算術平均粗さ(Ra)が0.7μm以上である、のいずれの条件も満たさないハニカム構造体を除く。)。
(V5)最大径長さが50μm以上500μm以下の複数の顆粒が結合して形成される、複数方向に延びる複数の貫通孔を備えた顆粒結合多孔体であって、水銀圧入法測定による該顆粒結合多孔体の10μm以下の細孔容積が0.05cm /g以上である。
(V6)医療用組成物全体に、最大径長さが50μm以上400μm以下の複数の気孔が集積されており、最大径長さが800μm以上の気孔を含まない気孔集積型多孔体であって、水銀圧入法測定による該顆粒結合多孔体の10μm以下の細孔容積が0.05cm /g以上である(ただし、組成がリン酸三カルシウムであるものを除く。)
(V7)水銀圧入法測定で、細孔径6μm以下の細孔容積に対する細孔径1μm以上6μm以下の細孔容積が5%以上である。
(V8)いずれかの方向で得られる最大圧縮強度が下記の式で計算される基準圧縮強度[S]以上である(ただし、一方向に延びる複数の貫通孔を備えたハニカム構造体であり、かつ、水銀圧入法測定で、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積が0.02cm/g以下であるものを除く。)。
S=S×C×exp(-b×P)
(ここで、Sおよびbは定数でSは500、bは0.068、Cは組成による定数で、炭酸アパタイトあるいはHPO基を含むアパタイトあるいはリン酸三カルシウムの場合は1、ウィトロカイトの場合は0.5、リン酸水素カルシウムの場合は0.1、Pは該組成物の気孔率の百分率である。)
(V9)短径が1mm以上5mm未満であり、かつ、当該組成物の投射図において、投射図周囲線の任意の点から半径0.2mmの円を描き、該円と投射図周囲線が交わる3点が形成する三角形の、投射図周囲線の任意の点を頂点とする角度が90°以下である点が存在しないハニカム構造体顆粒
(V10)複数の組成物粒子が繊維で接続されている。
(V11)炭酸基含有量が10質量%以上であるアパタイトを組成とする。
(V12)炭酸基含有量が10質量%未満であるアパタイトを組成とする。
[20]
下記(AG1)又は(AG2)を満足し、下記(AG3)~(AG10)を選択条件とすることを特徴とする医療用リン酸カルシウム組成物。
(AG1)組成が炭酸アパタイト、HPO 基を含むアパタイト、ウィトロカイト、リン酸水素カルシウムの群から選ばれる一つであり、かつ、体積が10 -12 以上の顆粒あるいはブロックであり、0.01質量%以上3質量%以下の銀又は銀化合物を含む。
(AG2)組成が水酸アパタイト焼結体、リン酸三カルシウム焼結体、炭酸アパタイト、HPO 基を含むアパタイト、ウィトロカイト、リン酸水素カルシウムの群から選ばれる一つであり、かつ、体積が10 -12 以上の顆粒あるいはブロックに、リン酸カルシウム表面と結合しているリン酸銀結晶を有し、かつ、リン酸銀含有量が0.01質量%以上3質量%以下である。
(AG3)前記、銀化合物がリン酸銀である。
(AG4)リン酸カルシウム組成物の表層部と内部とに銀又は銀化合物が含まれており、表面から中心方向に少なくとも50μm離れた部位の銀濃度に対する表層部の銀濃度の比が1.2以上である。
(AG5)一方向に延びる複数の貫通孔を備えたハニカム構造体である。
(AG6)最大径長さが50μm以上500μm以下の複数の顆粒が結合して形成される、複数方向に延びる複数の貫通孔を備えた顆粒結合多孔体である。
(AG7)医療用組成物全体に、最大径長さが50μm以上400μm以下の複数の気孔が集積されており、最大径長さが800μm以上の気孔を含まない気孔集積型多孔体である。
(AG8)水銀圧入法測定で、細孔径6μm以下の細孔容積に対する細孔径1μm以上6μm以下の細孔容積が5%以上である。
(AG9)いずれかの方向で得られる最大圧縮強度が下記の式で計算される基準圧縮強度[S]以上である。
S=S ×C×exp(-b×P)
(ここで、S およびbは定数でS は500、bは0.068、Cは組成による定数で、炭酸アパタイトあるいはHPO 基を含むアパタイトの場合は1、ウィトロカイトの場合は0.5、リン酸水素カルシウムの場合は0.1、水酸アパタイト焼結体及びリン酸三カルシウム焼結体の場合は2、Pは該組成物の気孔率の百分率である。)
(AG10)短径が1mm以上5mm未満であり、かつ、当該組成物の投射図において、投射図周囲線の任意の点から半径0.2mmの円を描き、該円と投射図周囲線が交わる3点が形成する三角形の、投射図周囲線の任意の点を頂点とする角度が90°以下である点が存在しないハニカム構造体顆粒。
[1]
下記(W1)~(W)の少なくとも一つの条件を満足することを特徴とする[19]又は[20]に記載の医療用リン酸カルシウム組成物。
(W1)一方向に延びる複数の貫通孔を備えたハニカム構造体であって、水銀圧入法測定で、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積が0.01cm/g以上である。
(W2)一方向に延びる複数の貫通孔を備えたハニカム構造体であって、いずれか一つの貫通孔の両端、該貫通孔の中央部の三点を通る円の直径が1cm以上50cm以下である。
(W3)ハニカム構造体であって、貫通孔方向の隔壁表面の算術平均粗さ(Ra)が0.7μm以上である。
(W4)平均粒径が2μm以上8μm以下であるリン酸カルシウムの集合体である。
(W5)球形度が0.9以上のリン酸カルシウムの集合体である。
(W6)Mg含有量が5×10 -4 質量%以上3×10 -3 質量%以下である。
(W7)Sr含有量が3×10 -3 質量%以上1.5×10 -2 質量%以下である。
[22]
下記(AH1)又は(AH2)の条件を満足し、(AH3)~(AH9)を選択条件とすることを特徴とする医療用リン酸カルシウム組成物の製造方法。
(AH1)0.01質量%以上3質量%以下の銀又は銀化合物を含み、かつ、組成が炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸水素カルシウムの群から選ばれる一つであり、かつ、体積が10 -12 以上の顆粒あるいはブロックである原料カルシウム組成物を用い、
かつ、原料カルシウム組成物が炭酸カルシウム以外の場合には、該組成物に炭酸基を付与する工程を含み、
かつ、リン酸塩水溶液又はリン酸塩とマグネシウム塩の混合水溶液に暴露して、銀又は銀化合物を含む、炭酸アパタイト、HPO 基を含むアパタイト、ウィトロカイト、リン酸水素カルシウムの群から選ばれる一つに組成変換させる工程を含む。
(AH2)アパタイト、リン酸三カルシウム、ウィトロカイト、リン酸八カルシウム、リン酸水素カルシウムの群から選ばれる一つであり、かつ、体積が10 -12 以上の顆粒あるいはブロックである原料カルシウム組成物を、銀イオンを含む水溶液に暴露して、原料カルシウム組成物にリン酸銀を形成させる工程を含む。
(AH3)リン酸カルシウムを組成とする原料カルシウム化合物を、銀イオンを含む第一水溶液に暴露して、原料カルシウム組成物にリン酸銀を形成させ、その後、第一水溶液より銀イオン濃度が高い第二水溶液に暴露する工程を含む。
(AH4)原料カルシウム組成物が、一方向に延びる複数の貫通孔を備えたハニカム構造体である。
(AH5)原料カルシウム組成物が、最大径長さが50μm以上500μm以下の複数の顆粒が結合して形成される、複数方向に延びる複数の貫通孔を備えた顆粒結合多孔体である。
(AH6)医療用組成物全体に、最大径長さが50μm以上400μm以下の複数の気孔が集積されており、最大径長さが800μm以上の気孔を含まない気孔集積型多孔体が、原料カルシウム組成物である。
(AH7)水銀圧入法測定で、細孔径6μm以下の細孔容積に対する細孔径1μm以上6μm以下の細孔容積が5%以上である原料カルシウム組成物を用いる。
(AH8)いずれかの方向で得られる最大圧縮強度が下記の式で計算される基準圧縮強度[S]以上である原料カルシウム組成物を用いる。
S=S ×C×exp(-b×P)
(ここで、S およびbは定数でS は500、bは0.068、Cは組成による定数で、炭酸アパタイトあるいはHPO 基を含むアパタイトの場合は1、ウィトロカイトの場合は0.5、リン酸水素カルシウムの場合は0.1、これら以外の場合は2、Pは該組成物の気孔率の百分率である。)
(AH9)原料カルシウム組成物として、短径が1mm以上5mm未満であり、かつ、当該組成物の投射図において、投射図周囲線の任意の点から半径0.2mmの円を描き、該円と投射図周囲線が交わる3点が形成する三角形の、投射図周囲線の任意の点を頂点とする角度が90°以下である点が存在しないハニカム構造体顆粒を用いる。
[23]
[19]~[21]のいずれかに記載の医療用リン酸カルシウム組成物の製造方法であって、
下記(AI1)~(AI4)のいずれか一つの条件を満たすことを特徴とする医療用リン酸カルシウム組成物の製造方法。
(AI1)平均粒径が2μm以上8μm以下の炭酸カルシウム粉末を用いる。
(AI2)球形度が0.9以上の炭酸カルシウム粉末を用いる。
(AI3)Mg含有量が5×10 -4 質量%以上3×10 -3 質量%以下の炭酸カルシウム粉末を用いる。
(AI4)Sr含有量が3×10 -3 質量%以上1.5×10 -2 質量%以下の炭酸カルシウム粉末を用いる。
[]
[1]~[4]のいずれかに記載の医療用炭酸カルシウム組成物、あるいは、[5]~[16]のいずれかに記載の製造方法によって製造された医療用炭酸カルシウム組成物に、リン酸成分を付与して[19]~[21]のいずれかに記載の医療用リン酸カルシウム組成物を製造する方法であって、
前記医療用炭酸カルシウム組成物を(X1)~(X5)の群から選ばれる少なくとも一つの水溶液に浸漬して、医療用炭酸カルシウム組成物にリン酸成分を付与することを特徴とする医療用リン酸カルシウム組成物の製造方法。
(X1)リン酸成分を含むpHが8.5以上の水溶液
(X2)リン酸成分を含むpHが8.5未満の水溶液
(X3)リン酸成分と0.5モル濃度以下の炭酸成分の両者を含むpHが8.5以上の水溶液
(X4)リン酸成分と0.5モル濃度以下の炭酸成分の両者を含むpHが8.5未満の水溶液
(X5)リン酸成分とマグネシウム成分の両者を含む水溶液
[25]
[1]~[4]のいずれかに記載の医療用炭酸カルシウム組成物、あるいは、[5]~[16]のいずれかに記載の製造方法によって製造された医療用炭酸カルシウム組成物に、リン酸成分を付与して[19]~[21]のいずれかに記載の医療用リン酸カルシウム組成物を製造する方法であって、
前記医療用炭酸カルシウム組成物を(Y1)~(Y6)の群から選ばれる少なくとも一つの条件を満足する工程を有することを特徴とする医療用リン酸カルシウム組成物の製造方法。
(Y1)リン酸成分を含む水溶液に浸漬した医療用炭酸カルシウム組成物の気孔の気体の一部あるいは全部を、リン酸成分を含む水溶液に置換する工程
(Y2)リン酸成分を含む水溶液に浸漬した医療用炭酸カルシウム組成物に振動を与え、医療用炭酸カルシウム組成物の気孔の気体の一部あるいは全部を、リン酸成分を含む水溶液に置換する工程
(Y3)医療用炭酸カルシウム組成物周囲のリン酸成分を含む水溶液を流動させ、医療用炭酸カルシウム組成物の内部気孔の気体の一部あるいは全部を、リン酸成分を含む水溶液に置換する工程
(Y4)医療用炭酸カルシウム組成物を浸漬したリン酸成分を含む水溶液を入れた容器を減圧脱気することにより、医療用炭酸カルシウム組成物の気孔の気体の一部あるいは全部を、リン酸成分を含む水溶液に置換する工程
(Y5)医療用炭酸カルシウム組成物の気孔の気体の一部あるいは全部を、リン酸成分を含む水溶液に対する溶解度が空気より高い気体に置換する工程
(Y6)医療用炭酸カルシウム組成物の気孔の気体の一部あるいは全部を、水より接触角が小さく、かつ、水より沸点が低い溶媒で置換する工程
[2]
下記(Z1)~(Z4)、あるいは(Z1)、(Z3)、(Z4)、あるいは(Z1)、(Z3)をこれらの順番で連続して行い、かつ、全てを同一容器で行うことを特徴とする医療用リン酸カルシウム組成物の製造方法。
(Z1)原料カルシウム組成物に炭酸成分を付与して医療用炭酸カルシウム組成物を製造する工程
(Z2)医療用炭酸カルシウム組成物の洗浄工程
(Z3)医療用炭酸カルシウム組成物にリン酸成分を付与する工程
(Z4)医療用リン酸カルシウム組成物の洗浄工程
[2]
下記(AB1)~(AB3)の全ての条件と、(AB4)~(AB8)の群から選ばれる少なくとも一つの条件とを満足することを特徴とする医療用水酸化カルシウム組成物。
(AB1)体積が10-12以上である。
(AB2)酸溶解残留物が1質量%以下である。
(AB3)医療用組成物として、実質的に純粋な水酸化カルシウムである。
(AB4)一方向に延びる複数の貫通孔を備えたハニカム構造体
(AB5)最大径長さが50μm以上500μm以下の複数の顆粒が結合して形成される、複数方向に延びる複数の貫通孔を備えた顆粒結合多孔体である。
(AB6)医療用組成物全体に、最大径長さが50μm以上400μm以下の複数の気孔が集積されており、最大径長さが800μm以上の気孔を含まない気孔集積型多孔体である。
(AB7)短径が1mm以上5mm未満であり、かつ、当該組成物の投射図において、投射図周囲線の任意の点から半径0.2mmの円を描き、該円と投射図周囲線が交わる3点が形成する三角形の、投射図周囲線の任意の点を頂点とする角度が90°以下である点が存在しないハニカム構造体顆粒
(AB8)複数の組成物粒子が繊維で接続されている。
[2]
前記(AB4)の条件を満足する[27]記載の医療用水酸化カルシウム組成物を製造する方法であって、
原料カルシウム組成物が水酸化カルシウムであって、下記(AD1)と、(AD2)~(AD5)の群から選ばれる一つとを必須工程とし、(AD6)~(AD8)を選択工程、とすることを特徴とする医療用水酸化カルシウム組成物の製造方法。
(AD1)押出工程
高分子材料含有原料カルシウム組成物を、ハニカム構造形成用型を通して押出し、体積が3×10-11以上であり、かつ、一方向に延びる複数の貫通孔を備えた原料ハニカム構造体を製造する工程
(AD2)脱脂工程
高分子材料含有水酸化カルシウム多孔体を、酸溶解残留物が1質量%以下となるように脱脂する工程、
(AD3)酸化カルシウム経由水和工程
高分子材料含有水酸化カルシウム多孔体を、酸溶解残留物が1質量%以下となるように脱脂し、かつ、酸化カルシム多孔体とし、その後に、酸化カルシウム多孔体を水和させて水酸化カルシウム多孔体とする工程
(AD4)炭酸カルシウム酸化カルシウム経由水和工程
高分子材料含有水酸化カルシウムを、二酸化炭素存在下で熱処理して高分子材料含有炭酸カルシウム多孔体とし、その後に、酸溶解残留物が1質量%以下となるように脱脂し、かつ、酸化カルシム多孔体とし、その後に、酸化カルシウム多孔体を水和させて水酸化カルシウム多孔体とする炭酸化脱脂酸化カルシウム経由水和工程
(AD5)炭酸カルシウム多孔体からの製造工程
高分子材料含有炭酸カルシウム多孔体を、酸溶解残留物が1質量%以下となるように脱脂し、かつ、酸化カルシム多孔体とし、その後に、酸化カルシウム多孔体を水和させて水酸化カルシウム多孔体とする工程
(AD6)押出工程後の成形工程
高分子材料含有原料カルシウム組成物を組成とするハニカム構造体を熱処理で軟化させてから圧力を負荷して、所望の形状に成形する工程
(AD7)外周側壁除去工程
押出工程あるいは押出工程後の成形工程の後、かつ、脱脂炭酸化工程の前に、外周側壁を除去する工程
(AD8)外周側壁除去工程後の成形工程
外周側壁除去工程後に、高分子材料含有原料カルシウム組成物を組成とするハニカム構造体を熱処理で軟化させてから圧力を負荷して、所望の形状に成形する工程
[2]
前記(AB5)の条件を満足する[27]記載の医療用水酸化カルシウム組成物を製造する方法であって、
下記(AE1)および(AE2)と、前記(AD2)~(AD5)の群から選ばれる少なくとも一つとを必須工程とすることを特徴とする医療用水酸化カルシウム組成物の製造方法。
(AE1)導入工程
体積が10-12以上の高分子材料含有水酸化カルシウム顆粒を、反応容器に入れる工程
(AE2)顆粒結合工程
反応容器内部の該顆粒を、熱処理することにより表面同士を熱的に軟化させて融着させる工程、該顆粒の表面を溶解することにより該顆粒の表面同士を結合させる工程、および可塑剤により該顆粒の表面同士を融合させる工程、のいずれかで、体積が3×10-11以上であり、かつ、最大径長さが50μm以上500μm以下の複数の顆粒が結合して形成される、複数方向に延びる複数の貫通孔を備えた顆粒結合多孔体を製造する工程
(AD2)脱脂工程
高分子材料含有水酸化カルシウム多孔体を、酸溶解残留物が1質量%以下となるように脱脂する工程、
(AD3)酸化カルシウム経由水和工程
高分子材料含有水酸化カルシウム多孔体を、酸溶解残留物が1質量%以下となるように脱脂し、かつ、酸化カルシム多孔体とし、その後に、酸化カルシウム多孔体を水和させて水酸化カルシウム多孔体とする工程
(AD4)炭酸カルシウム酸化カルシウム経由水和工程
高分子材料含有水酸化カルシウムを、二酸化炭素存在下で熱処理して高分子材料含有炭酸カルシウム多孔体とし、その後に、酸溶解残留物が1質量%以下となるように脱脂し、かつ、酸化カルシム多孔体とし、その後に、酸化カルシウム多孔体を水和させて水酸化カルシウム多孔体とする炭酸化脱脂酸化カルシウム経由水和工程
(AD5)炭酸カルシウム多孔体からの製造工程
高分子材料含有炭酸カルシウム多孔体を、酸溶解残留物が1質量%以下となるように脱脂し、かつ、酸化カルシム多孔体とし、その後に、酸化カルシウム多孔体を水和させて水酸化カルシウム多孔体とする工程
[30]
原料として水酸化カルシウム多孔体あるいは炭酸カルシウム多孔体を用いて、[27]記載の医療用水酸化カルシウム組成物を製造する方法であって、
水酸化カルシウム多孔体あるいは炭酸カルシウム多孔体を、酸化カルシム多孔体とし、その後に、酸化カルシウム多孔体を水和させて水酸化カルシウム多孔体とすることを特徴とする医療用水酸化カルシウム組成物の製造方法。
[31]
前記導入閉鎖工程又は導入工程において、下記(AF1)~(AF3)の少なくとも一つの条件を満足することを特徴とする、[9]~[11]、[14]および[29]のいずれかに記載の医療用カルシウム組成物の製造方法。
(AF1)顆粒の球形度が0.9以上である。
(AF2)顆粒が中空である。
(AF3)反応容器の体積の105%以上の嵩体積の顆粒を反応容器に入れる。
[32]
バテライトとα型リン酸三カルシウムとを含む固体部と、リン酸塩を含む溶液部を具備して構成され、該固体部と該溶液部を混錬すると、炭酸アパタイトを形成して硬化する骨欠損再建治療用キット。
[33]
前記固体部におけるバテライトの含有量が10質量%以上60質量%以下であることを特徴とする[32]に記載の骨欠損再建治療用キット。
[34]
前記溶液部にカルボキシ基を複数有する酸、亜硫酸水素塩、セルロース誘導体、デキストラン硫酸塩、コンドロイチン硫酸塩、アルギン酸塩、グルコマンナンの少なくとも一つを含むことを特徴とする[32]又は[33]いずれかに記載の骨欠損再建治療用キット。
[35]
前記固体部が、体積が10 -12 以上であるバテライトを含むことを特徴とする[32]~[34]に記載の骨欠損再建治療用キット。
[36]
前記バテライトの平均粒径が6μm以下であることを特徴とする[32]~[34]に記載の骨欠損再建治療用キット。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】外周側壁を有するハニカム構造体の模式図である。
図2】実施例7において最終温度が480℃で製造された医療用カルサイト組成物の水銀圧入法による細孔分布測定結果である。
図3】実施例1に係る医療用バテライト組成物の粉末X線回折(XRD)パタ-ンである。
図4】実施例1に係る医療用炭酸アパタイト組成物のXRDパターンである。
図5】実施例7に係るハニカム構造体の電子顕微鏡像(SEM像)である。
図6】実施例8に係る粒度分布解析結果である。
図7】実施例9に係る医療用炭酸アパタイトハニカム構造体を用いた病理組織学的検索における病理組織像である。
図8】実施例12に係る医療用炭酸アパタイトハニカム構造体の電子顕微鏡像(SEM像)である。
図9】実施例14に係る医療用炭酸アパタイトハニカム構造体の埋植4週目の病理組織学的検索における病理組織像である。
図10】実施例14に係る医療用炭酸アパタイトハニカム構造体の埋植12週目の病理組織学的検索における病理組織像である。
図11】実施例15の医療用炭酸アパタイト組成物および比較例10の水酸アパタイト組成物の埋植4週目および12週目の病理組織学的検索における病理組織像である。
図12】実施例16に係る医療用バテライト多孔体の電子顕微鏡像(SEM像)である。
図13】実施例16に係る医療用炭酸アパタイト多孔体の埋植4週目の病理組織学的検索における病理組織像である。
図14】実施例17に係る医療用カルサイト多孔体の電子顕微鏡像(SEM像)である。
図15実施例22に係る医療用炭酸アパタイトハニカム構造体の電子顕微鏡像(SEM像)である。
図16実施例22に係る医療用炭酸アパタイトハニカム構造体の埋植4週目の病理組織学的検索における病理組織像である。
図17実施例24に係る医療用炭酸アパタイトハニカム構造体の電子顕微鏡像(SEM像)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(用語の定義)
本発明において用いる用語は、下記の通り定義する。
本発明でいう「医療用炭酸カルシウム組成物」とは、医療用組成物(医療用材料)として用いられる炭酸カルシウム組成物あるいは医療用組成物の原料として用いられる炭酸カルシウム組成物である。生体組織に埋植される骨補填材や薬物送達担体は、当然医療用材料であるが生体組織の外で用いられる細胞培養用スキャフォールドも医療用材料に含める。なお、該組成物が多孔体である場合には医療用炭酸カルシウム多孔体、多孔体構造がハニカム構造体である場合には医療用炭酸カルシウムハニカム構造体などと表記する場合がある。
本発明でいう「医療用炭酸カルシウム組成物」は、他の医療用組成物の製造に用いられることもあり、その関係で塩化ナトリウムなどの造孔材を含む場合がある。また、医療用炭酸カルシウムや他の医療用組成物の操作性を向上させるために、組成物粒子の間(粒子同士)を繊維で結合させる場合がある。これらの造孔材や繊維を含む、該材料も「医療用炭酸カルシウム組成物」と定義する。
本発明でいう「体積」とは、嵩体積であり、全体積ともいう。気孔を含む体積であり、嵩容積、全容積ともいう。
本発明でいう「バテライト」、「アラゴナイト」、「カルサイト」は炭酸カルシウム結晶の多形の種類である。
本発明でいう「医療用バテライト組成物」とは、20質量%以上のバテライトを含む、医療用炭酸カルシウム組成物である。ここで、造孔材および繊維の質量は、バテライト含有量の計算から除外する。
医療用炭酸カルシウム組成物中のバテライト、カルサイトの含有量は後述する方法で粉末X線回折(XRD)解析におけるそれぞれのピーク面積比から計算する。
本発明でいう「医療用リン酸カルシウム組成物」とは、人工補填材などとして医療で用いられるリン酸カルシウム組成物である。
本発明でいう「リン酸カルシウム」とはリン酸およびカルシウムを組成として含む化合物であり、オルソリン酸カルシウム、メタリン酸カルシウム、非晶質リン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウムに代表される縮合リン酸カルシウム化合物などが例示される。オルソリン酸カルシウムはオルソリン酸とカルシウムの塩である。例えば、リン酸四カルシウム、水酸アパタイトおよび炭酸アパタイトを含めたアパタイト、α型リン酸三カルシウム、β型リン酸三カルシウム、リン酸水素カルシウム、などが例示される。なお、β型リン酸三カルシウムはウィトロカイトを含む場合もあるが、本発明においてはHPO を含まないものをリン酸三カルシウム、HPO を含むものはウィトロカイトと区分するα型リン酸三カルシウムは、αTCP、β型リン酸三カルシウムはβTCPと略す場合がある。
本発明でいう「医療用アパタイト組成物」とは、医療用リン酸カルシウム組成物の一種であり、人工補填材などとして医療用材料として用いるアパタイト組成物である。
また、本発明でいう「医療用炭酸アパタイト組成物」とは、医療用途に用いる炭酸アパタイト組成物である。炭酸アパタイトの炭酸基含有量は特に限定されないが、0.5質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、6質量%以上であることがさらに好ましい。本発明でいう、炭酸アパタイトとは炭酸基を含むアパタイトと定義される。一般的にはリン酸カルシウム系アパタイトのリン酸基あるいは水酸基の、一部あるいは全部が炭酸基に置換しているアパタイトである。なお、炭酸基置換に伴い、アパタイトの電荷バランスを取るためにNaやKなどが結晶形状に含有される場合が多い。本発明では炭酸アパタイトの一部が他の元素あるいは空隙で置換された炭酸アパタイトも炭酸アパタイトと定義する。
炭酸基含有量の増大に伴い、破骨細胞による吸収を受けやすくなり、骨置換速度が速くなるが、症例によってはゆっくり骨置換される医療用材料、骨置換されない医療用材料が望まれる。ゆっくり骨置換される医療用材料が望まれる場合には炭酸基量が少ない炭酸アパタイト、骨置換されない医療用材料が望まれる場合には炭酸基量が0.2質量%未満のアパタイトが望ましい。
本発明でいう「ハニカム構造体」とは、特開2004-298407号公報や特開2005-152006号公報に記載されている、一方向に延びる複数の多角形又は円形の断面形状を有する貫通孔を備えた形状の多孔体である。該貫通孔は、隔壁を介して、実質的に隙間なく並べられているが、一部の貫通孔が欠損している場合もある。
なお、本発明でいう一方向とは、直線方向には限定されず、実質的に同じ方向であることを意味する。後述する湾曲したハニカム構造体の貫通孔は、一次元ではないが、実質的に同じ方向に延びる複数の貫通孔を有する形状であり、ハニカム構造体である。
ここで、図1を用いて本発明のハニカム構造体の一例について説明する。図1に示すように、ハニカム構造体14は、一方向に延びる複数の貫通孔11と、貫通孔を区分する隔壁12を備えた構造体である。ハニカム構造体には貫通孔からなるハニカム構造部を包囲する外周側壁13を有するものと、外周側壁の一部又は全部を除去したものがあるが、いずれもハニカム構造体である。
【0015】
本発明でいう水銀圧入法測定とは細孔分布測定法の一種で、水銀の表面張力が大きいことを利用して粉体の細孔に水銀を浸入させるために圧力を加え、圧力と圧入された水銀量から細孔分布を求める方法である。なお、本発明においては、水銀と材料の前進接触角および後退接触角は130°、水銀の表面張力は485mN/mとして細孔を計算する。
細孔分布は視覚化するために、微分細孔容積の常用対数を測定点の細孔径に対してプロットしたものを示す。細孔容積は異なる細孔径の間で圧入された水銀の積算データの差から計算する。
細孔径は細孔直径と言われることもあるが基本的には細孔の形状に関わらず水銀圧入法分析結果から円柱状の細孔に水銀が圧入されたとして計算される値である。
本発明でいう「平均粒子径」とは、レーザ回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。100mLの蒸留水に粉末を分散させ、周波数45KHz―100Wの超音波洗浄機による分散を30秒行った後に1分以内に測定を行う。
本発明でいう「表面粗さ(算術平均粗さRa)」とは3Dレーザー顕微鏡で測定した表面粗さ(算術平均粗さRa)である。
本発明でいう「球形度」とは、Wadellの実用球形度である。Wadellの実用球形度とは、材料の投影面積に等しい円の直径を材料の投影像に外接する最小円の直径で除したものである。
本発明でいう「圧縮強度」は、クロスヘッドスピードを毎分10mmとし、圧縮試験にかけられる柱状試験片の元の断面積で最大荷重を割った値とする。本発明において、試料が柱状でなく、試料体積が1×10-8以上の場合には、試料を柱状に加工して圧縮試験を行う。試料が柱状でなく、試料体積が1×10-8未満の場合には、試料の投影像面積を試験片の元の断面積とする。
なお、本発明の医療用炭酸カルシウム組成物には異方性がある場合がある。異方性がある材料は、方向によって圧縮強度が異なる。本発明においてはいずれかの方向で得られた最大の圧縮強度を該組成物の圧縮強度と定義する。
また、医療用炭酸カルシウム組成物などがセラミックス材料であることに鑑み、間接引張強度を測定し、間接引張強度を5倍した値を圧縮強度としてもよい。圧縮強度と間接引張強度を5倍した値が異なる場合には、値が高い方を、本発明における圧縮強度の値とする。
本発明で用いる気体の圧力は、海面付近の圧力を101.3KPaとする絶対圧力であり、大気圧を基準とする相対圧力ではない。したがって101.3KPaを超える場合は大気圧に対して加圧状態にあり、101.3KPa未満の場合には大気圧に対して減圧状態にある。
本発明でいう「集積」とは複数のものが集まっていることと定義する。気孔が集積とは、複数の気孔が集まっていることであり、気孔同士は結合されていても、結合されていなくてもよい。したがって、気孔同士が接する必要はない。
本発明でいう「短径」とは組成物の形態に関する用語であり、ふるいを通した際の通過の有無に関するサイズと定義する。すなわち、短径1mm以上5mm未満とは目開き5mmのふるいを通過し、見開き1mmのふるいを通過しないサイズの組成物と定義する。
本発明でいう「閉鎖系の反応容器」とは開放系でない反応容器と定義する。例えば、反応容器中の水酸化カルシウム圧粉体を二酸化炭素で炭酸化して炭酸カルシウムを製造する際には水酸化カルシウム圧粉体に二酸化炭素を暴露する必要がある。反応容器から二酸化炭素が大気中に排出される場合は、開放系の反応容器による炭酸化であり、反応容器から二酸化炭素が大気中に排出されない場合は、閉鎖系の反応容器による炭酸化である。
この観点から、二酸化炭素が排出口などから排出されても、大気中に排出されない場合は閉鎖系の反応容器による炭酸化と定義する。例えば、排出口から排出された二酸化炭素がポンプなどで反応容器に循環される場合は閉鎖系の反応容器による炭酸化と定義する。また、反応容器が二酸化炭素ボンベなどと接続されている場合にも閉鎖系の反応容器による炭酸化と定義する。
本発明においては、含水メタノールや含水エタノールなどについては、単純に水以外の溶媒の体積%で表示する。例えば、10体積%の水を含むメタノールは、90%メタノールと言う。
「顆粒」は、一般的に粉末よりも粒径の大きい粒、特に粉末を固め大型の粒に成形したものとされている。本発明でいう「顆粒」も、粉末よりも粒径の大きい粒であるが、特に体積あるいは短径が指定されていない場合は、短径が50μm以上500μm以下のもの、あるいは1×10 -13 cm 以上1×10 -7 cm 以下のもののいずれかに該当するものとする。
【0016】
[I 医療用炭酸カルシウム組成物:必須条件]
まず、[1]について説明する。
<(A)体積が10-12以上である。>について
本発明の医療用炭酸カルシウム組成物において、体積が10-12以上であることは必須条件である。医療用組成物は生体内で組織親和性に優れることが要求されるが、炭酸カルシウム粉末およびリン酸カルシウム粉末は、いずれも炎症反応を惹起する。一方、体積が10-12以上である医療用炭酸カルシウム組成物、あるいは該医療用炭酸カルシウム組成物から製造された体積が10-12以上である医療用リン酸カルシウム組成物は組織親和性に優れる。
医療用炭酸カルシウム組成物を骨補填材あるいは骨補填材の原料として用いる場合、体積が10-11以上、好ましくは3×10-11以上となると骨欠損部に充填した場合に細胞の侵入に適した連通気孔が形成されやすいためより好ましい。体積が10-10以上となると、骨欠損部に充填した場合に組織の侵入に有効な気孔が形成されるためさらに好ましい。体積が10-9以上となると比較的大きい骨欠損部に充填しやすくなるという特徴が発揮され臨床上特に好ましい。
医療用炭酸カルシウム組成物の体積の上限は特に制限はないが、体積が大きい場合は製造に時間を要し、また、需要が少ないことから、10-3以下であることが好ましい。
【0017】
<(B)酸溶解残留物が1質量%以下である。>について
(B)は、下記、医療用組成物として、実質的に純粋な炭酸カルシウムであるにも関連するが、特に、酸溶解残留物が1質量%以下であることは必須条件であり、医療用炭酸カルシウム組成物の有用性に関して、極めて重要な因子である。
これは本発明の医療用炭酸カルシウム組成物あるいは該医療用炭酸カルシウム組成物を原料として製造される炭酸アパタイトなどに優れた組織親和性と生体内吸収性が期待されるためである。生体内では破骨細胞などが形成する弱酸環境によって炭酸カルシウムや炭酸アパタイトなどが吸収される。酸溶解残留物の存在は、破骨細胞などによって吸収されないことと同義であるため、医療用組成物としては不適切である。
酸溶解残留物は、高分子材料を含む原料から医療用炭酸カルシウム組成物を製造する場合に問題となる。高分子材料は酸に溶解されず、酸溶解残留物の存在は高分子材料あるいはその分解物が残留していることと同義となる。
酸溶解残留物は炭酸カルシウム等を該炭酸カルシウム等の20モル等量となる体積の1モル濃度の塩酸に溶解した際の残留物とし、炭酸カルシウム等の質量に対する該乾燥質量の%表示とする。
酸溶解残留物は1質量%以下であることが必須条件であり、0.5質量%以下であることが好ましく、影響が小さくなる0.3質量%以下であることがより好ましく、影響がほぼ無視できる0.1質量%以下であることがさらに好ましく、実質的に0質量%であることが理想的である。
なお、本医療用炭酸カルシウム組成物には造孔材を含む場合や複数の組成物粒子の間を繊維で接続している場合があり、造孔材および複数の組成物粒子の間を接続している繊維に関しては酸溶解残留物の対象としない。すなわち、造孔材および複数の組成物粒子の間を接続している繊維以外の炭酸カルシウム組成物の酸溶解残留物が1質量%以下であることが本発明の必須条件である。
【0018】
<(C)主としてバテライトあるいはカルサイトからなる、医療用組成物として、実質的に純粋な炭酸カルシウムである。>について
本発明の医療用炭酸カルシウム組成物は医療用途に用いられる医療用材料であり、造孔材および複数の組成物粒子の間を接続している繊維以外の不純物を含むものは医療用材料として用いることができない。したがって、天然材料は本発明に含まれない材料である。また、ボイラから排出される酸化カルシウムを含む石炭灰や鉄鋼製造プロセスで発生したスラグから製造される炭酸カルシウム組成物も不純物が含まれているため、本発明に含まれない材料である。天然鉱物などの研究において、有機物ゲル、ケイ素含有ゲル、メタリン酸ゲルなどを用いる場合があるが、これらが添加された炭酸カルシウム組成物も組織親和性に問題が発生するため、本発明に含まれない材料である。
本発明の医療用炭酸カルシウム組成物では、主としてバテライトあるいはカルサイトからなる、医療用炭酸カルシウム組成物として実質的に純粋な炭酸カルシウム組成であること、すなわち、実質的に純粋な炭酸カルシウム組成であり、その多形が主としてバテライトあるいはカルサイトであること、が必須条件であり、ナトリウム、ストロンチウムおよびマグネシウム以外の不純物を、実質的に含まないことが求められる。ここで、本発明の(C)においては、ナトリウム、ストロンチウムおよびマグネシウム以外の不純物量は1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下がさらに好ましい。全く含有していないことが理想的である。
なお、医療用炭酸カルシウム組成物においてナトリウム、ストロンチウムおよびマグネシウムは他の不純物と異なり、組織為害性を惹起しにくい。この機序は明らかになっていないが、ナトリウム、ストロンチウムおよびマグネシウムを含む海中で発生した無脊椎動物が選択した炭酸カルシウムが、ナトリウム、ストロンチウムおよびマグネシウムを含有していたため、進化論的にナトリウム、ストロンチウムおよびマグネシウムを許容できる生体となったと類推される。しかしながら、マグネシウム、ストロンチウムおよびナトリウムも不純物量であり、本発明の「医療用組成物として、実質的に純粋な炭酸カルシウム」において、その含有量は2質量%以下が好ましく、1.0質量%以下がより好ましく、0.2質量%以下がさらに好ましい。
なお、上述したように、本医療用炭酸カルシウム組成物には造孔材および複数の組成物粒子の間を接続している繊維を含む場合があり、造孔材および複数の組成物粒子の間を接続している繊維に関しては不純物としない。すなわち、造孔材および複数の組成物粒子の間を接続している繊維以外の炭酸カルシウム組成物が、実質的に純粋な炭酸カルシウムであることが本発明の必須条件である。
上述したように、炭酸カルシウムの多形には、バテライト、カルサイト以外にアラゴナイトも存在する。アラゴナイトは本質的に炭酸カルシウムであるため混在しても本発明の効果を阻害するものではないが、本発明の医療用炭酸カルシウム組成物を原料として製造する医療用組成物の反応性の観点から、アラゴナイトの含有量は20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。すなわち、本発明の「主としてバテライトあるいはカルサイトからなる」とは、バテライトあるいはカルサイトの割合が、80質量%超であることが好ましく、90質量%超であることがより好ましく、95質量%超であることがさらに好ましく、100質量%であることが特に好ましい。
また、水酸化カルシウムおよび酸化カルシウムは経時的に空中の二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムとなるため、厳密に排除する必要はない。そのため、本発明でいう「医療用炭酸カルシウム組成物として、実質的に純粋な炭酸カルシウム組成」においては水酸化カルシウムおよび酸化カルシウムは不純物とはみなさない。しかしながら、水酸化カルシウムおよび酸化カルシウムも含有されないことが好ましい。したがって、水酸化カルシウムと酸化カルシウムについても、その含有量が、3質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。全く含有していないことが理想的である。
【0019】
<(D)20質量%以上のバテライトを含む。>について
炭酸カルシウムの中で準安定相であるバテライトを含む炭酸カルシウム組成物は、反応性が高いため好ましい。バテライトの含有量が、20質量%未満の場合も反応性向上に有効であるが、その効果が限定的であるため、本発明では20質量%以上のものに限定する。
バテライトの含有量は20質量%以上であることが必須条件であるが、30質量%以上となると有効成分が十分量に近くなるため好ましく、50質量%以上となると有効成分が十分量になるためより好ましく、80質量%以上であれば該組成物がほぼバテライトの性質を示すためさらに好ましく、90質量%以上であれば、特に好ましい。
なお、上述したように、反応性に関与しないため、造孔材および複数の組成物粒子の間を接続している繊維の質量は、バテライト含有量の計算から除外する。
【0020】
<(E)一方向に延びる複数の貫通孔を備えたハニカム構造体であり、かつ、水銀圧入法による細孔分布測定において、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積が0.02cm/gより大きい。>について
ハニカム構造体は図1に示すように隔壁部と外周側壁からなる固体部と貫通孔である空間部から形成されるため、水銀圧入法で細孔分布測定を行った場合、貫通孔に起因する細孔分布が必ず認められる。図2に本発明の医療用炭酸カルシウムハニカム構造体の水銀圧入法細孔分布測定結果の一例を示す。ハニカム構造体のマクロ気孔に起因する細孔径が約70μm付近のピーク以外にハニカム隔壁のミクロ気孔に起因する細孔径が1μm以下の細孔が存在することがわかる。
貫通孔が10μm以下の医療用炭酸カルシウムハニカム構造体は存在しない。したがって、細孔径が10μm以下の気孔は、隔壁に存在する気孔である。細孔径が10μm以下の細孔には組織や細胞は浸入されないため、これまで該細孔は着目されていなかったが、組織液や水溶液の浸入は可能であるため、生体内反応や該医療用炭酸カルシウムハニカム構造体にリン酸塩を付与して医療用リン酸カルシウムハニカム構造体を製造する際には、細孔径が10μm以下の細孔が重要な役割を果たすことがわかった
ハニカム構造体の質量に対する細孔径が大きくなると反応性が高くなるが、機械的強度が小さくなるため、両者のバランスをとる必要がある反応性の観点からは、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積が0.02cm/gより大きいことが必須であり、0.03cm/g以上であることが好ましく、0.10cm/g以上であることがより好ましく、0.15cm/g以上であることがさらに好ましい。また、圧縮強度の観点からは0.15cm/g以下であることが好ましく、0.10cm/g以下であることがより好ましく、0.03cm/g以下であることがさらに好ましい。
【0021】
<(F)最大径長さが50μm以上500μm以下の複数の顆粒が結合して形成される、複数方向に延びる複数の貫通孔を備えた顆粒結合多孔体であって、水銀圧入法測定による該顆粒結合多孔体の10μm以下の細孔容積が0.05cm /g以上である。>について
症例によっては三次元的な貫通孔を有する多孔体が望まれる場合がある。医療用骨補填材の場合は特に気孔サイズが重要であり、サイズが大きい気孔には骨組織以外の脂肪組織などが侵入するため、気孔サイズの制御が重要である。
最大径長さが50μm以上500μm以下の複数の顆粒が、結合して形成された複数方向に延びる複数の貫通孔を備えた顆粒結合多孔体は、六方最密充填構造が形成する貫通孔のように、貫通性が高く、骨芽細胞、破骨細胞や骨組織が内部に遊走・伝導しやすいという特徴がある。
また、該顆粒結合多孔体の組織置換においては、顆粒部の細孔が重要な役割を示す。顆粒部の細孔容積は、水銀圧入法測定による該顆粒結合多孔体の10μm以下の細孔容積として0.05cm /g以上である必要があり、該細孔容積は0.1cm /g以上であることが好ましく、0.2cm /g以上であることがより好ましく、0.3cm /g以上であることがさらに好ましい。
【0022】
<(G)医療用組成物全体に、最大径長さが50μm以上400μm以下の複数の気孔が集積されており、最大径長さが800μm以上の気孔を含まない気孔集積型多孔体であって、水銀圧入法測定による該気孔集積型多孔体の10μm以下の細孔容積が0.05cm /g以上である。>について
前記、顆粒結合多孔体は、貫通性などの観点から骨補填材などに極めて有用であるが、一般的には機械的強度が小さく、製造が困難であるという欠点がある。一方、例えば造孔材を用いて形成される特定の気孔を備えた気孔集積型多孔体は、貫通性に劣るものの、高分子造孔材を用いることによって比較的簡単に製造することができ、比較的機械的強度に優れるという特徴があり、医療用炭酸カルシウムとして有用である。具体的に気孔集積型多孔体は、炭酸カルシウムからなる気孔壁あるいは該気孔壁の一部に形成される貫通部を介して気孔が集積されている。貫通部が全体的に貫通している場合は三次元的な貫通孔を有する多孔体となり特に有用である。
また、気孔サイズとしては50μm以上400μm以下である必要がある。この気孔サイズは細胞や組織の侵入の観点から有用なサイズである。該気孔サイズとしては70μm以上350μm以下であることが好ましく、90μm以上300μm以下であることがより好ましく、100μm以上300μm以下であることがさらに好ましい。
一方、最大径長さが800μm以上の気孔を含まないことも必要条件である。上述したように大きな気孔には骨組織ではなく脂肪組織が遊走される。また、大きな気孔がある組成物は機械的強度が小さくなる。
最大径800μm以上の気孔を含まないことも必要条件であるが、除外すべき気孔サイズは最大径700μm以上であることが好ましく、最大径600μm以上であることがより好ましい。
また、細胞や組織の侵入、吸収性および機械的強度のバランスから気孔率は40体積%以上80体積%以下であることが好ましく、45体積%以上78体積%以下であることがより好ましく、50体積%以上77体積%以下であることがさらに好ましい。
また、該気孔集積型多孔体の組織置換においては、気孔だけでなく、気孔周囲の炭酸カルシウムの細孔も重要な役割を示す。該細孔の容積は、水銀圧入法測定による該気孔集積型多孔体の10μm以下の細孔容積として0.05cm /g以上である必要があり、該細孔容積は0.1cm /g以上であることが好ましく、0.2cm /g以上であることがより好ましく、0.3cm /g以上であることがさらに好ましい。
気孔集積型多孔体は、造孔材を含む場合と造孔材を含まない多孔体に分類される。造孔材を含む該多孔体の場合は、そのまま医療用組成物の製造原料として用いて、該製造工程において除去されるため、造孔材部分は、本質的には気孔である。そのため、該多孔体の気孔率計算において、造孔材は気孔として計算する。
【0023】
<(H)水銀圧入法測定で、細孔径6μm以下の細孔容積に対する細孔径1μm以上6μm以下の細孔容積の比が10%以上である。>について
上述したように、炭酸カルシウム多孔体の反応性にはマクロ気孔だけでなくミクロ気孔が重要である。ミクロ気孔の絶対量も重要であるが、特定のミクロ気孔の分布が有用である場合がある。すなわち、水銀圧入法測定で、細孔径6μm以下の細孔容積に対する細孔径1μm以上6μm以下の細孔容積の比が10%以上であることが好ましい。細孔径6μm以下の細孔容積に対する細孔径1μm以上6μm以下の細孔容積の比は15%以上であることがより好ましく、20%以上であることがさらに好ましい。
【0024】
<(I)いずれかの方向で得られる最大圧縮強度が下記の式で計算される基準圧縮強度[S]以上である(ただし、一方向に延びる複数の貫通孔を備えたハニカム構造体であり、かつ、水銀圧入法測定で、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積が0.02cm/g以下であるものを除く。)。
S=S×C×exp(-b×P)
(ここで、Sおよびbは定数でSは500、bは0.068、Cは炭酸カルシウムの多形による定数で、20質量%以上のバテライトを含む場合は0.01、20質量%以上のバテライトを含まない場合は1、Pは該組成物の気孔率の百分率である。)>について
上述したように、本発明の医療用炭酸カルシウム組成物は、多孔体であることが好ましく、気孔率が高ければ有用性が高くなる。一方で、気孔率が高くなるに従い、医療用炭酸カルシウムの機械的強度は低くなる。
機械的強度[S]と気孔率の百分率[P]との間には、学術論文誌であるJournal of Biomedical Researchの29巻1537-1543頁やJournal of American Ceramics Societyの36巻2号68頁などに引用されているS=Sexp(-bP)という経験式(Duckworth式)が知られている。ここでSは緻密体の機械的強度であり、bは経験定数である。
なお、上述した通り、反応性は組成にも影響されるため、気孔率が小さい組成物であっても組成によっては反応性が高くなる。この組成要因をCとして圧縮強度に対する要求事項を補正している。反応性が高いバテライトを20質量%以上含む場合は0.01、20質量%以上のバテライトを含まない場合は1とする。また、Pは該組成物の気孔率の百分率である。
また、本発明においては、Journal of Biomedical Researchの29巻1537-1543頁において、類似したセラミックスである水酸アパタイトの係数として報告されている値を参考にする。
すなわち、Sとしては500、bとしては0.068を用いる。圧縮強度としては高い方が好ましいため、Sとしては700が好ましく、900がより好ましく1000がさらに好ましい。
なお、一方向に延びる複数の貫通孔を備えたハニカム構造体の場合、水銀圧入法測定で、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積が0.02cm/g以下であるものは反応性が低いため本発明から除く。
【0025】
<(J)短径が1mm以上5mm未満であり、かつ、当該組成物の投射図において、投射図周囲線の任意の点から半径0.2mmの円を描き、該円と投射図周囲線が交わる3点が形成する三角形の、投射図周囲線の任意の点を頂点とする角度が90°以下である点が存在しないハニカム構造体顆粒。>について
これは、ハニカム構造体顆粒の外形に関するもので、角が丸く、周囲組織を傷つけない組成物に関する条件である。短径が5mm未満の組成物は、顆粒として骨欠損部に補填されることがある。本発明の医療用炭酸カルシウム組成物の中でハニカム構造体は異方性が高い。そのため、粉砕すると紡錘形状となる。短径が1mm未満の場合は、顆粒が流動性に富むため欠損部を被覆する骨膜などの周囲組織に対して鋭角部が垂直となりにくいが、短径が大きくなるにしたがって、顆粒の流動性が限定的になるなどの理由で周囲組織に傷がつきやすくなる。また、5mm以上となると鋭角な角形成を防止しやすい。そのため、短径が1mm以上5mm未満のハニカム構造体顆粒の顆粒の角を丸くすればよい。具体的には、短径が1mm以上5mm未満であり、かつ、該組成物の投射図において、投射図周囲線の任意の点から半径0.2mmの円を描き、該円と投射図周囲線が交わる3点が形成する三角形の、投射図周囲線の任意の点を頂点とする角度が90°以下である点が存在しない顆粒とすればよい。短径はふるいを通過するかどうかで定義する。すなわち、短径が1mm以上5mm未満の組成物とは目開き5mmのふるいを通過して、目開き1mmのふるいを通過しない組成物である。短径は1mm以上5mm未満であることが好ましいが、1.2mm以上4mm未満であることがより好ましく、1.4mm以上3mm未満であることがさらに好ましい。
角が丸いという観点から、前記「3点が形成する三角形の、投射図周囲線の任意の点を頂点とする角度が60°以下である点が存在しない」ことが好ましいが角度については、80°以下がより好ましく、100°以下がさらに好ましい。
該ハニカム構造体顆粒においても、周囲組織を傷つけない顆粒の外形だけでなく、該顆粒の細孔も組織反応に重要な役割を示す。該細孔の容積は、水銀圧入法測定による該ハニカム構造体顆粒の10μm以下の細孔容積として0.02cm /g以上であることが好ましく、0.05cm /g以上であることがより好ましく、0.1cm /g以上であることがさらに好ましい。
【0026】
<(K)複数の組成物が繊維で接続されている。>について
医療用炭酸カルシウム組成物あるいは医療用炭酸カルシウム組成物を原料として製造した医療用リン酸カルシウム組成物などは骨補填材などとして生体内に埋植される場合があるが、組成物が顆粒などの粒子の場合、粒子を骨欠損部に埋植する操作が煩雑である。数珠のように複数の組成物粒子が繊維で接続されている組成物は操作性に富む。組織親和性および接続の強さの観点から、繊維は組成物粒子の内部を通り、複数の組成物粒子を接続していることがより好ましい。
粒子の大きさとしては、繊維で接続できる大きさであれば特に制限されるものではないが、例えば、上記短径が1mm以上5mm未満の顆粒が好ましい。
繊維の種類に限定はないが、焼成操作を用いる製造方法で製造される医療用組成物の場合には、組織親和性と焼却されないために炭素繊維である必要がある。また、焼成操作を行わない場合には、生体吸収性の繊維であることが好ましい。例えば、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトンなど、およびこれらの共重合体などが例示される。
該組成物においても、細孔が組織反応に重要な役割を示す。該細孔の容積は、水銀圧入法測定による該組成物の10μm以下の細孔容積として0.02cm /gより大きいことが好ましく、0.05cm /g以上であることがより好ましく、0.1cm /g以上であることがさらに好ましい。
【0027】
本発明において、(D)~(K)の群から選ばれる少なくとも一つを満足することは必須条件であるが、複数を満足することが好ましい。
【0028】
(医療炭酸カルシウム組成物の形状)
本発明の医療炭酸カルシウム組成物の形状は特に制限されない。緻密体、多孔体、ブロック体、顆粒、板状などの任意の形状でよいが、後述する特定の多孔体は特に好ましい。
【0029】
[I 医療用炭酸カルシウム組成物:バテライト焼結体]
次に、[2]について説明する。
バテライトは反応性が高い炭酸カルシウムの多形の一つであるが、準安定相であり、低温安定相であるため、バテライトが焼結できるとは全く予想されておらず、バテライト焼結体はこれまでに見出されていない。しかしながら、後述するように、20質量%以上のバテライトを含む炭酸カルシウム粉末を圧粉し、かつ、焼成することによって医療用バテライト焼結体が製造できることがわかった。
本発明の医療用炭酸カルシウム組成物および該組成物を原料として製造される医療用組成物は体内など湿潤環境で使用される。焼結体は粉末が固まっている物体である。バテライト圧粉体に水をつけて擦ると粉末が遊離し、水に浸漬すると粉末が圧粉体から遊離して崩れ、形態を保てない。そのため、本発明において、医療用バテライト焼結体における焼結の有無は、該焼結体中における形態保で判断する。ガラス容器に該組成物の10倍量の炭酸カルシウム飽和水を入れ、該組成物を浸漬する。28kHz出力75Wの超音波洗浄機にガラス容器を入れ、1分間超音波を照射する。該組成物の乾燥重量が超音波照射前の乾燥重量に対して95%以上である場合に、該組成物は水中でも形態を保てると判断し、焼結体であると定義する。なお、超音波照射によって該組成物の一部が破損している場合には、最大体積の組成物の乾燥重量を用いる。
【0030】
[I 医療用炭酸カルシウム組成物:特定の微細構造と組成]
次に、[3]について説明する。
(AJ1)~(AJ4)の群から選ばれるいずれかの条件を満足する炭酸カルシウム粉末が結合して、炭酸カルシウム組成物を形成していることを特徴とする[1]又は[2]に記載の医療用炭酸カルシウム組成物は、圧縮強度と反応性の両者のバランスから好ましい。
平均粒径が大きいほど、連通気孔が形成され反応性が高くなるが、圧縮強度が小さくなる。また、圧縮強度を保ちながら連通気孔を形成するには、最密充填に近づけるため球形度が高い粒子が好ましい。
これらの観点から、平均粒径は2μm以上8μm以下が好ましく、3μm以上7μm以下がより好ましく、4μm以上6μm以下がさらに好ましい。球形度は0.9以上であることが好ましく、0.95以上であることがより好ましく、0.97以上であることがさらに好ましい。なお、平均粒径および球形度は、炭酸カルシウム組成物の粒界で粒子を区分して測定、計算する。
また、炭酸カルシウム組成物が焼結しすぎると連通気孔を保てない。そのために、炭酸カルシウム粒子に焼結性を制御できる微量元素が含有されていることが好ましい。この元素は生体親和性に影響を及ぼすものであってはならない。これらの観点から、MgとSrが選択され、Mg含有量は、5×10 -4 質量%以上3×10 -3 質量%以下が好ましく、1×10 -3 質量%以上2.5×10 -3 質量%以下がより好ましく、1.5×10 -3 質量%以上2.5×10 -3 質量%以下がさらに好ましい。Sr含有量は、3×10 -3 質量%以上1.5×10 -2 質量%以下が好ましく、4×10 -3 質量%以上1.3×10 -2 質量%以下がより好ましく、5×10 -3 質量%以上1×10 -2 質量%以下がさらに好ましい。
(AJ1)~(AJ4)のいずれかの条件を満たすことが好ましいが、複数を満たすことがより好ましく、全てを満たすことがさらに好ましい。
【0031】
[I:医療用炭酸カルシウム組成物:湾曲ハニカム構造体]
次に、[4]について説明する。
前記、(E)の条件を満足する医療用炭酸カルシウム組成物で、
「いずれか一つの貫通孔の両端、該貫通孔の中央部の三点を通る円の直径が1cm以上50cm以下である。」は、医療用炭酸アパタイトハニカム構造体の形態に関わる特定の条件である。
骨には直柱状ではなく、湾曲した曲柱状の骨もある。そのような骨の再建術などでは曲柱形状の医療用炭酸カルシウムハニカム構造体が有用である。これは、医療用炭酸カルシウムハニカム構造体の貫通孔内部に骨が伝導されるためであり、直柱状のハニカム構造体を加工して曲柱状のハニカム構造体を製造しても、貫通孔が骨に接していないと貫通孔内部には骨が伝導されないためである。
また、骨表面に対して垂直方向に骨を造成する場合、ハニカム構造体の貫通孔が骨周囲の結合性組織に対しては開口せず、骨面に対してのみ開口していることが好ましい。該構造のハニカム構造体には、結合性組織が侵入できず、骨組織のみが伝導されるためである。該構造のハニカム構造体は、ハニカム構造体を湾曲させ、必要に応じて、一面のみに貫通孔が開口するように切断することによって製造できる。
骨面からの湾曲ハニカム構造体の立ち上がり部の角度を小さくしたい場合には、貫通孔の両端、該貫通孔の中央部の三点を通る円が形成する面に対して平行でない方向に、さらにハニカム構造体を湾曲させることが有用である。
ハニカム構造体において、いずれか一つの貫通孔における貫通孔の両端、貫通孔の中央部の三点を通る円の直径が1cm以上50cm以下であることが好ましい条件である。該円の直径が2cm以上20cm以下であることがより好ましく、該円の直径が3cm以上10cm以下であることがさらに好ましい。
【0032】
[II 医療用炭酸カルシウムの製造方法]
次に、本発明の医療用炭酸カルシウム組成物の製造工程を説明する。
なお、原料カルシウム組成物は、造孔材および複数の組成物粒子の間を接続している繊維を含んでいてもよい。また、造孔材および複数の組成物粒子の間を接続している繊維はバテライト含有量の計算などから除外する。
造孔材は除去されて孔を形成する材料である。造孔材は、医療用炭酸カルシウム組成物の製造段階で除去される必要はなく、医療用炭酸カルシウム組成物を原料として他の医療用組成物を製造する段階で除去される材料でもよい。塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸水素二ナトリウムなどの塩、アクリルポリマービーズなどが例示されるが、除去工程の容易さの観点から水溶性無機材料が好ましい。
例えば塩化ナトリウムを造孔材として用い、水酸化カルシウムを原料カルシウム組成物として用いる場合、両者を混合してから圧粉し、二酸化炭素を付与して水酸化カルシウム圧粉体をバテライトに組成変換させる。水酸化カルシウムに二酸化炭素を付与しても、塩化ナトリウムは反応せず、また、除去されない。造孔材である塩化ナトリウムは医療用バテライトブロック中に存在しているが、例えば、該ブロックから医療用炭酸アパタイトブロックを製造するために、リン酸水素二ナトリウム水溶液に浸漬する工程で、バテライトが炭酸アパタイトに組成変換されると同時に造孔材は溶解する。その結果、医療用炭酸アパタイト多孔体が製造される。
繊維は、上述したように、組成物の操作性改善のために、組成物粒子を接続するために用いられる。繊維は医療用炭酸カルシウム顆粒など、あるいは該組成物を原料として製造する医療用リン酸カルシウム顆粒などの操作性を改善するために用いるため、該顆粒等の粒子内部に存在することが好ましい。
【0033】
[II 医療用炭酸カルシウムの製造方法:(D)バテライト組成物]
まず、[5]について説明する。
準安定相であるバテライト組成物の製造には、安定相であるカルサイト形成を抑制することによって相対的に準安定相であるバテライト組成物を形成し、準安定相であるバテライトから安定相であるカルサイトへの転移を抑制する製造方法が有用である。有機物は安定相であるカルサイト形成を抑制し、相対的にバテライト形成を促進する。(無機物であるアンモニアおよびアンモニア塩もカルサイトへの転移抑制に有用であるが、簡単のため、有機物で説明する。)
水は、原料カルシウム組成物の炭酸化促進と、バテライトからカルサイトへの転移促進の両者に機能する。水が存在しないと原料カルシウム組成物はイオン化されない。また、有機物である有機溶媒への二酸化炭素の溶解度も限定であり、二酸化炭素が水に溶解して炭酸イオンを形成することもない。水が存在すると、原料カルシウムから形成されたカルシウムイオンと二酸化炭素から形成された炭酸イオンとが反応するため、水は炭酸カルシウムの形成反応を促進する。
原料カルシウム組成物に二酸化炭素が付与されると、原料カルシウム組成物の中に水が形成される。例えば、水酸化カルシウム圧粉体を二酸化炭素に暴露してバテライトを製造する工程においては、バテライトと同じモル数の水が水酸化カルシウム圧粉体の中に形成される。水は、バテライト形成に必要であるが、準安定相であるバテライトから安定相であるカルサイトへの相転移を促進するため、過剰な水はバテライト製造には好ましくない。水酸化カルシウム粉末を原料としたバテライト粉末の製造では、水は容易に周囲に拡散されるため、問題とならないが、本発明の対象は、「(A)体積が10-12以上である」医療用炭酸カルシウム組成物であり組成物の中から組成物の外への拡散が容易ではない。そのため、原料カルシウム組成物の中で形成された水を原料カルシウム組成物の外に排出させる工程が重要となる。
前記(A)~(C)の全ての条件と、(D)の条件を満足する医療用炭酸カルシウム組成物は、体積が10-12以上である原料カルシウム組成物(造孔材および複数の組成物粒子の間を接続している繊維を含んでいてもよい)を、特定条件で二酸化炭素あるいは炭酸イオンに暴露して製造される。
すなわち、「(D1)カルサイト形成あるいはカルサイト結晶の成長を抑制し、相対的にカルサイト以外の炭酸カルシウム形成を促進する」工程は、(D)の条件を満足する医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法として有用である。
有機溶媒、水溶性有機物、アンモニア、およびアンモニウム塩の群から選ばれる少なくとも一つはカルサイト形成あるいはカルサイト結晶の成長を抑制するため、「(D2)原料カルシウム組成物を、二酸化炭素あるいは炭酸イオンと、有機溶媒、水溶性有機物、アンモニア、およびアンモニウム塩の群から選ばれる少なくとも一つとに暴露する」工程は、好ましい。
【0034】
原料カルシウム組成物から、(D)の条件を満足する医療用炭酸カルシウム組成物の形成反応は、原料カルシウム組成物の内部でも進行する必要があるため、カルサイト形成あるいはカルサイト結晶の成長を抑制する前記物質は原料カルシウム組成物に添加することが好ましい場合がある。
すなわち、「(D3)有機溶媒、水溶性有機物、アンモニア、およびアンモニウム塩の群から選ばれる少なくとも一つを含む原料カルシウム組成物を、二酸化炭素あるいは炭酸イオンと、有機溶媒、水溶性有機物、アンモニア、およびアンモニウム塩の群から選ばれる少なくとも一つとに暴露する」工程は、(D)の条件を満足する医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法として好ましい場合がある。有機溶媒を含む原料カルシウム組成物はペーストとして扱うことが可能であるため、操作性の観点からも有用である場合がある。
【0035】
メタノール、エタノール、および炭酸アンモニウムは蒸発する物質であり、製造される医療用バテライト組成物から除去しやすい。また、グリセリン、エチレングリコール類は水溶性が高い物質であり、製造される医療用バテライト組成物から除去しやすい。ここでエチレングリコール類とはエチレングリコールおよびポリエチレングリコールをいう。
これらは、製造工程の簡便さとバテライト抑制効果のバランスの観点から好ましい物質である。すなわち、「(D4)原料カルシウム組成物を、二酸化炭素あるいは炭酸イオンと、メタノール、エタノール、グリセリン、エチレングリコール類および炭酸アンモニウムの群から選ばれる少なくとも一つとに暴露する」工程は、(D)の条件を満足する医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法としてより好ましく、「(D5)メタノール、エタノール、グリセリン、エチレングリコール類および炭酸アンモニウムの群から選ばれる少なくとも一つを含む原料カルシウム組成物を、二酸化炭素あるいは炭酸イオンと、メタノール、エタノール、および炭酸アンモニウムの群から選ばれる少なくとも一つとに暴露する工程」はさらに好ましい。
【0036】
上述したように、準安定相であるバテライトは安定相であるカルサイトに転移する。そのため、「(D6)バテライトからカルサイトへの転移を抑制する工程」は、(D)の条件を満足する医療用炭酸カルシウム組成物として有用である。上述したように、バテライトからカルサイトへの転移は水によって促進される。原料カルシウム組成物と二酸化炭素との反応で医療用バテライト組成物を製造する場合には、炭酸カルシウムと等モルの水が原料カルシウム組成物の内部に副生されため、「(D7)原料カルシウム組成物から水を除去する工程」は、(D)の条件を満足する医療用炭酸カルシウム組成物として有用である。
原料カルシウム組成物の内に副生された水を除去するには、水を蒸発などで拡散して、原料カルシウム組成物の内部から外部に排出する必要がある。原料カルシウム組成物を炭酸化している最中に、水を除去するために減圧操作を行う工程なども可能であるが、「(D8)原料カルシウム組成物周囲に、有機溶媒を含む二酸化炭素あるいは炭酸イオンを流動させる工程」は、原料カルシウム組成物の内部の水が蒸発されやすくなり、かつ、連続して行うことが可能であるため有用である。原料カルシウム組成物周囲に、有機溶媒を含む二酸化炭素あるいは炭酸イオンを流動させる方法としては、ファンなどで有機溶媒を含む二酸化炭素あるいは炭酸イオンを原料カルシウム組成物に吹き付けたり、原料カルシウム組成物周囲で有機溶媒を含む二酸化炭素あるいは炭酸イオンを循環させたりすることが例示される。
【0037】
医療用バテライト組成物は、原料カルシウム組成物に、特定条件で二酸化炭素を付与して製造されるが、原料カルシウム組成物としては水酸カルシウムが好ましい。これは水以外の組成物が副生されないためである。一般的に水酸化カルシウム圧粉体が用いられるが、水酸化カルシウム圧粉体を有機溶媒などの液相に浸漬すると崩れて形態を保てない。そのため、気相で二酸化炭素を付与する必要がある。一方で、気相では液相に比較して均一反応が起こりにくい。そのため、(D1)~(D8)の群から選ばれる少なくとも一つの条件で医療用バテライト組成物を製造する工程で、かつ、「(D9)原料カルシウム組成物を気相で二酸化炭素あるいは炭酸イオンに暴露させて部分炭酸化を行い、その後で該原料カルシウム組成物を液相で二酸化炭素あるいは炭酸イオンに暴露する工程」は有用である。
水酸化カルシウム圧粉体などを90%エタノールなどの液相に浸漬すると崩れるが、水酸化カルシウムペーストなどを型にいれて液相に浸漬すれば崩壊しない。そのため、(D1)~(D8)の群から選ばれる少なくとも一つの条件で医療用バテライト組成物を製造する工程で、かつ、「(D10)型にいれた原料カルシウム組成物を二酸化炭素あるいは炭酸イオンに暴露する工程」は有用である。型の形状は特に限定されないが、二酸化炭素あるいは炭酸イオンと反応する必要があるため、少なくとも一部が開いており、外部の二酸化炭素あるいは炭酸イオンと反応できる型である必要がある。表面全体から反応が進むため、通気性材料で製造された型は、好ましい。型にいれた原料カルシウム組成物は液相に浸漬する必要はなく、気相で反応させる際にも所望の形態の医療用バテライト組成物の製造などの観点から有用である。
【0038】
水酸化カルシウム圧粉体や水酸化カルシウムペーストなどの原料カルシウム組成物に二酸化炭素あるいは炭酸イオンを暴露すると、医療用バテライト組成物が製造されるが、原料カルシウム組成物に塩化ナトリウムやリン酸二水素ナトリウム、ポリマービーズなどの造孔材や繊維が含まれていても、造孔材や繊維は反応しない。造孔材は多孔体製造に有用であり、繊維は操作性に優れる組成物の製造に有用である。例えば、(D1)~(D8)の群から選ばれる少なくとも一つの条件で医療用バテライト組成物を製造する工程で、かつ、「(D11)造孔材を含む原料カルシウム組成物を二酸化炭素あるいは炭酸イオンに暴露する」と、造孔材を含む、(D)の条件を満足する医療用炭酸カルシウム組成物が製造できる。該造孔材を除去することによって、医療用炭酸カルシウム多孔体や医療用リン酸カルシウム多孔体などが製造できる。造孔材は原料炭酸カルシウムに混合すればよい。
また、(D1)~(D8)の群から選ばれる少なくとも一つの条件で医療用バテライト組成物を製造する工程で、かつ、「(D12)繊維で接続された原料カルシウム組成物を二酸化炭素あるいは炭酸イオンに暴露する」と繊維で接続された顆粒などの、(D)の条件を満足する医療用炭酸カルシウム組成物が製造できる。上述したように、繊維で接続した医療用炭酸カルシウム組成物や医療用リン酸カルシウム組成物は操作性に優れる。
【0039】
(好ましい原料カルシウム組成物)
(D)の条件を満足する医療用炭酸カルシウム組成物の製造工程において、原料カルシウム組成物は、カルシウムを含有する組成物であれば特に限定されないが、水酸化カルシウムと酸化カルシウムが特に好ましい。これは、上述したように、両者に炭酸あるいは炭酸イオンを暴露する工程において炭酸カルシウムが形成される際に、水以外の組成物が副生されないためである。
【0040】
(有機溶媒)
本発明でいう有機溶媒とは、有機物の溶媒であり含水有機溶媒を含む。有機溶媒としてはアルコールやケトン、ヘキサンなどが例示される。
カルサイト形成抑制能力、コスト、含水能力、除去の容易さの観点からアルコールあるいはケトンが望ましく、低級アルコールあるいは低級アルキルケトンがより好ましく、炭素数1~4の脂肪族アルコールあるいは総炭素数3~6のジ低級アルキルケトンがさらに好ましい。
低級アルコールとしてはメタノール、エタノール、プロパノール等が例示される。メタノール、エタノールおよびプロパノールは好ましく、メタノールおよびエタノールはより好ましい。
低級アルキルケトンとしてはアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が例示され、特にアセトン、メチルエチルケトンは最適である。
【0041】
(水溶性有機物)
本発明でいう水溶性有機物とは、水に溶解する有機物であり、有機物の塩を含む。例えば、ノニオン界面活性剤、リグニンスルホン酸塩、サッカロース等の糖類、アルキルアミン塩型界面活性剤やグリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが例示される。
水溶性有機物は、医療用炭酸カルシウム組成物を製造した後に完全に除去する必要があり、蒸発する有機溶媒、アンモニア、塩化アンモニウムと比べて有用性は劣る場合が多いが、グリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコールは、粘度と水に対する溶解度とが高いため、押出成形および製造物からの除去で有用な場合がある。
【0042】
(アンモニア、アンモニウム塩)
本発明でいうアンモニアとはNHであり、アンモニア水NHOHを含む。また、本発明でいうアンモニウム塩とはアンモニアの塩であり、炭酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムなどが例示される。
この中で、炭酸アンモニウムは炭酸化工程にも用いられるため、特に有用である。
【0043】
[II 医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法:(D)バテライト焼結体]
次に、[6]について説明する。
上述したように、バテライトは準安定相であり、かつ、低温安定相として知られていたため、焼結できるとは考えられていなかった。しかしながら、「20質量%以上のバテライトを含む炭酸カルシウム粉末を圧粉し、かつ、焼成する」工程によって、20質量%以上のバテライトを含む医療用バテライト焼結体が製造できることがわかった。圧粉および焼成条件は特に限定されず、粉末が固まって焼結体が製造できる条件であればよいが、圧粉圧力としては100MPa以上であることが好ましく、130MPa以上であることがより好ましく、160MPa以上であることがさらに好ましい。焼成温度としては200℃以上が好ましく、220℃以上がより好ましく、240℃以上がさらに好ましい。20質量%以上のバテライトを含む炭酸カルシウム圧粉体を焼成すると焼結するが一定温度以上ではバテライトが分解してカルサイトとなる。この温度も環境に依存するため、特に限定されないが、大気焼成の場合、焼成温度は600℃以下が好ましく、550℃以下がより好ましく500℃以下がさらに好ましい。なお、上述したように準安定相であるバテライトの安定相であるカルサイトへの相転移は水分によって促進される。そのため、水分を含まない焼成条件が好ましく、二酸化炭素雰囲気は分解抑制の観点からもより好ましい。したがって、水分を含まない二酸化炭素雰囲気はさらに好ましい。
【0044】
[II 医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法:(E)炭酸アパタイトハニカム構造体]
次に、[7]について説明する。
医療用炭酸カルシウムハニカム構造体は「(E1)押出工程」と、(E5)~(E9)の群から選ばれる一つの「脱脂炭酸化工程」を必須工程とし、必要に応じて(E2)~(E4)、(E10)の群から選ばれる工程を行い製造する。
<(E1)押出工程>
押出工程においては 押出工程においては、高分子材料含有原料カルシウム組成物を、ハニカム構造形成用型を通して押出し、体積が3×10-11以上であり、かつ、一方向に延びる複数の貫通孔を備えた原料ハニカム構造体を製造する。
高分子材料としては公知の高分子材料が使用される。なお、粉末を結合させるという意味で高分子材料を高分子バインダーあるいは有機バインダーと呼ぶこともあるが、本発明においては同じ意味である。
高分子材料としては、ワックス-アクリル樹脂系(単にワックス系とも言う)の有機バインダーである高分子材料が好ましい。これは他の成形方法と異なり、ハニカム構造体の成形においては押出時における流動性と押出後における硬化性が必要であるためと考えられる。
<(E2)押出工程後の成形工程>
必須工程である(E1)の後に成形工程を行うことが有用である場合もある。
本工程においては、高分子材料含有原料カルシウム組成物を組成とするハニカム構造体を、熱処理で軟化させてから圧力を負荷して、所望の形状に成形する。軟化させる温度は高分子材料の種類などによって調整するが、一般的には50℃以上200℃以下である。
所望の形態に成形することによって、「(E3)外周側壁除去工程」が容易になる。なお、押出工程後とは、高分子材料含有原料カルシウム組成物がハニカム構造形成用型を通過した後のことであり、高分子材料含有原料カルシウム組成物を押出しながら、高分子材料含有原料カルシウム組成物がハニカム構造形成用型を通過直後に成形を行う場合も押出工程の後と定義する。
また、貫通孔の両端、貫通孔の中央部の三点を通る円の直径が1cm以上50cm以下であるハニカム構造体を製造する場合にはこの段階で該形状に成形することが好ましい。
「(E3)外周側壁除去工程」においては、(E1)あるいは(E2)の後で、かつ、(E5)~(E9)の群から選ばれる一つの「脱脂炭酸化工程」の前に外周側壁を除去する。
「(E4)外周側壁除去工程後の成形工程」においては、高分子材料含有原料カルシウム組成物を組成とするハニカム構造体を熱処理で軟化させてから圧力を負荷して、所望の形状に成形する。軟化温度は高分子材料の種類などによって調整するが、一般的には50℃以上200℃以下である。
【0045】
必須工程である(E1)および選択工程である(E2)~(E4)の次に「脱脂炭酸化工程」を行う。ここで「脱脂炭酸化工程」とは脱脂および炭酸カルシウムを形成あるいは保持する工程を意味し、原料カルシウム組成物が炭酸カルシウムである場合には二酸化炭素を付与する必要がないが、本発明においては、原料として炭酸カルシウムを用いる場合でも脱脂炭酸化工程と定義する。また、同時に焼結工程を行う場合も「脱脂炭酸化工程」に含める。
脱脂とは、高分子材料を除去する工程であり、一般的には熱処理によって行う。アルミナやコージェライトハニカム構造体を調製する場合は、これらのセラミックスが熱分解されないため、脱脂は比較的容易であるが、本発明の反応性の高い医療用炭酸カルシウム組成物の製造においては、脱脂が極めて困難である。これは炭酸カルシウムあるいは炭酸カルシウム製造の原料が高温では熱分解されたり、反応性に劣る炭酸カルシウムとなったりするためである。そのため、特定条件で脱脂を行い、高分子材料あるいはその熱分解生成物である酸溶解残留物を1質量%以下とする必要がある。脱脂工程後に酸溶解残留物を1質量%以下とすることは必須条件であり、0.5質量%以下とすることが好ましく、0.3質量%以下とすることがより好ましく、0.1質量%以下とすることがさらに好ましく、実質的に0質量%とすることが理想的である。
組成、気孔率、粒径、雰囲気、温度、脱脂時間、昇温速度などの様々な条件が脱脂に影響を及ぼす。脱脂の指標は、脱脂後における炭酸カルシウム組成物の酸溶解残留物であり、色調等では評価できない。
なお、上述したように、脱脂と同時に、あるいは脱脂の後で炭酸化を行う必要がある場合もある。
脱脂炭酸化工程は、下記(E5)~(E9)の群から選ばれる少なくとも一つの工程を含む工程である。なお、水銀圧入法による細孔分布測定において、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積が0.02cm/gより大きくなるように脱脂炭酸化する。細孔容積は脱脂温度が高いと小さくなるため、細孔容積が0.02cm/g以下であった場合には、脱脂温度を低くすることによって細孔容積を大きくすることができる。
<(E5)脱脂炭酸カルシウム焼結工程>について
特許文献11に記載されているように、炭酸カルシウムハニカム構造体の製造に関して、炭酸カルシウムは焼結性に乏しく、高温においては熱分解されるため原料としては不適であり、水酸化カルシウムを用いた方法が有用であると考えられていた。すなわち、比較的多量の高分子材料が必要であるハニカム構造体の製造において、高分子材料含有カルシウム組成物ハニカム構造体から医療用炭酸カルシウムハニカム構造体を製造する場合には、粉末間に圧力を負荷できないため、セラミックス圧粉体の焼結に比較して高温が必要とされる。しかしながら、炭酸カルシウムは高温において熱分解される。さらに、炭酸カルシウムは焼結性に乏しいため高分子材料含有炭酸カルシウム粉末を用いて製造した高分子材料含有炭酸カルシウムハニカム構造体を焼結して焼結するのは不可能であると考えられていた。
しかしながら、驚くべきことに特定条件では、高分子材料含有炭酸カルシウムが、酸溶解残留物が1質量%以下となるように加熱脱脂でき、炭酸カルシウムが焼結され機械的強度が大きい医療用炭酸カルシウム多孔体が製造されることがわかった。
高分子材料含有炭酸カルシウムハニカム構造体から機械的強度に優れる医療用炭酸カルシウムハニカム構造体を製造するために必須な条件は、以下に記載する特定条件で加熱脱脂し、酸溶解残留物を1質量%以下となるようすることであるが、現時点でその詳細な理由は、十分には解明されていない。
炭酸カルシウムは約500℃までは熱分解されにくい。そのため、約500℃までは雰囲気を制御する必要がなく、大気中で加熱してもよい。大気中では、約500を超える温度で熱分解され始め、経時的に酸化カルシウムとなるが、二酸化炭素雰囲気では920℃まで安定である。したがって、約500℃を超える温度で加熱脱脂する場合には二酸化炭素分圧を上げて炭酸カルシウムが熱分解されない条件で加熱脱脂する必要がある。炭酸カルシウムの焼結温度は、後述するように粉末のサイズなどで変動する。また、反応性の高い炭酸カルシウムハニカムを製造する場合、水銀圧入法による細孔分布測定において、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積が0.02cm/gより大きくなるように脱脂炭酸化する必要がある。なお、コスト等の関係から一般的には大気中での加熱脱脂が望ましいが、炭酸カルシウムの分解抑制の観点からは、空気中の二酸化炭素濃度より高い二酸化炭素濃度で加熱脱脂することが好ましい。
上述したように、本発明において焼結の有無は、水に浸漬して超音波照射する条件で崩れず形態を保てるか否かで判断する。
<(E6)脱脂炭酸化工程>について
高分子材料含有水酸化カルシウム多孔体を、酸溶解残留物が1質量%以下となるように酸素濃度が30%未満で加熱脱脂し、同時に、炭酸化する工程、では、高分子材料含有水酸化カルシウムを加熱によって脱脂し、同時に炭酸化する。ここで同時にとは、一工程の中で同時であることを意味し、実際には加熱によって脱脂が先に行われる。高分子材料の脱脂と同時に炭酸化する場合には加熱脱脂温度と加熱脱脂雰囲気の制御、加熱脱脂時間が重要である。これは、二酸化炭素分圧が低い条件では水酸化カルシウムが約345℃から熱分解されて酸化カルシウムとなるためである。当該温度までは二酸化炭素分圧を増加させる必要がないが、工程中に二酸化炭素分圧を変動させるのは煩雑であるため、当初から二酸化炭素分圧を増加させておくことが好ましい。
特許文献12に記載されているように脱脂に関しては高分子材料を焼却させる必要があると考えられていたが、鋭意検討した結果、焼却は脱脂の一方法であり、焼却させなくとも開重合や蒸発などで脱脂できることがわかった。また、高分子材料を焼却させると不完全燃焼が起り、酸溶解残留物である炭素が残存する場合があることがわかった。
そのため、驚くべきことに、高分子材料が焼却されない条件で脱脂する方が好ましい場合があることがわかった。高分子材料の開重合や蒸発などの焼却以外方法で脱脂するために、酸素濃度は酸素の体積%として30%未満である必要がある。酸素濃度としては15%未満が好ましく、10%未満がより好ましく、酸素が存在しない状況、すなわち実質的に酸素濃度が0%であることがさらに好ましい。
なお、高分子材料含有水酸化カルシウムと高分子材料含有炭酸カルシウムの脱脂挙動は異なる。高分子材料含有炭酸カルシウムを加熱脱脂する場合には酸素が存在しても酸溶解残留物が残存されにくい。一方、高分子材料含有水酸化カルシウムは酸素が存在すると酸溶解残留物が残存されやすい。この原因は十分に解明されていないが、水酸化カルシウムと高分子材料の反応性に起因すると考えられる。すなわち、炭酸カルシウムは高分子材料との反応性が限定的であるため、高分子材料は開重合や蒸発などで脱脂されやすい。一方、水酸化カルシウムは高分子材料との反応性が比較的高いため、水酸化カルシウムが高分子材料と相互作用あるいは反応すると考えられる。水酸化カルシウムと相互作用あるいは反応した高分子材料は開重合や蒸発などで脱脂されやすいと考えられる。
水酸化カルシウムの熱分解を防ぎ、かつ脱脂炭酸化を行うため、二酸化炭素が50体積%以上、酸素が30体積%未満で、600℃以上800℃以下で脱脂炭酸化を行うことが好ましい。
本発明の必須条件の一つは、高分子材料を完全に脱脂することであり、二酸化炭素が50体積%以上、酸素が30体積%未満で、600℃以上800℃以下で脱脂炭酸化を行っても、完全に脱脂できていない場合には本発明に含まれない製造方法となる。また、ハニカム構造体の場合、水銀圧入法による細孔分布測定において、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積が0.02cm/gより大きくなるように脱脂炭酸化することが必須である。適宜、熱処理温度、熱処理雰囲気、熱処理時間を検討し、高分子材料が完全に脱脂できる条件で熱処理を行う。
<(E7)酸化カルシウム経由脱脂炭酸化工程について>
上述の「(E6)脱脂炭酸化工程」では、比較的簡便に高分子材料含有水酸化カルシウム多孔体からカルサイト多孔体が製造できるが、600℃以上800℃以下でカルサイトを形成させるため、製造できるカルサイト多孔体の反応性が乏しい場合が多い。この原因は十分に解明されていないが、一般的に600℃以上800℃以下の熱処理が必要となり、反応性の低いカルサイトが形成されるためであると考えられる。
この観点から、高温で脱脂工程を行い、温度を下げてからカルサイトあるいはバテライトを形成させればよい。
高分子材料含有水酸化カルシウム多孔体からカルサイトを形成させずに加熱脱脂すると水酸化カルシウムは熱分解して酸化カルシウムとなる。高温処理であるため完全に脱脂を行える長所がある。熱処理温度が高くなると酸化カルシウム多孔体が緻密になったり、結晶化度が高くなったりして、結晶化度の低い炭酸カルシウムが製造できない。そのため、酸化カルシウムを製造する熱処理温度は700℃~1000℃が好ましく、750℃~950℃がより好ましく、800℃~900℃がさらに好ましい。
高分子材料含有炭酸カルシウム多孔体も加熱脱脂すると、炭酸カルシウムは熱分解して酸化カルシウムとなる。炭酸カルシウムは水酸化カルシウムと比較して反応性が低いため、低い温度で加熱脱脂ができる。高分子材料含有炭酸カルシウム多孔体から酸化カルシウムを製造する熱処理温度は500℃~1000℃が好ましく、530℃~800℃がより好ましく、550℃~650℃がさらに好ましい。
脱脂を行った後で、温度を下げてから酸化カルシウム多孔体に二酸化炭素を付与し、カルサイト多孔体、あるいはバテライト多孔体を製造する。酸化カルシウム多孔体に二酸化炭素を付与する温度が低いほど反応性の高いカルサイト多孔体が製造できるが二酸化炭素の付与に時間がかかる。両者のバランスから酸化カルシウム多孔体に二酸化炭素を付与する温度としては300℃~500℃が好ましく、310℃~400℃がより好ましく、320℃~380℃がさらに好ましい。酸化カルシウム多孔体からバテライト多孔体を製造する場合には、前述した(D1)~(D12)などの方法で酸化カルシウム多孔体に二酸化炭素を付与する。
<(E8)炭酸カルシウム酸化カルシウム経由脱脂炭酸化工程について>
前記「(E7)酸化カルシウム経由脱脂炭酸化工程」では比較的反応性の高いカルサイト多孔体、あるいは反応性が極めて高いバテライト多孔体が製造できるが、高分子材料含有水酸化カルシウム多孔体から直接酸化カルシウム多孔体を形成させる場合に比較して、高分子材料含有水酸化カルシウムを、二酸化炭素存在下で熱処理して高分子材料含有炭酸カルシウム多孔体とし、その後に、加熱脱脂して酸化カルシム多孔体とし、温度を下げてから酸化カルシウム多孔体に二酸化炭素を付与し、カルサイト多孔体あるいはバテライト多孔体を製造するとより機械的強度が大きい炭酸カルシウム多孔体が製造できたり、ひび割れした炭酸カルシウム多孔体ができにくくなったりする。この原因は十分に解明されていないが、水酸化カルシウムに二酸化炭素が付与されることによって機械的強度に劣る水酸化カルシウム多孔体として加熱される時間を減らすことができるためであると考えられる。なお、「(E7)酸化カルシウム経由脱脂炭酸化工程」と同じく、酸化カルシウム多孔体に二酸化炭素を付与する温度としては300℃~500℃が好ましく、310℃~400℃がより好ましく、320℃~380℃がさらに好ましい。
<(E9)硫酸カルシウム脱脂炭酸化工程について>
前記、炭酸カルシウムあるいは水酸化カルシウムを用いる場合に比較して、硫酸カルシウムを用いる場合にはミクロ気孔が多いカルサイト多孔体を製造できる。この原因は十分に解明されていないが、硫酸カルシウムの結晶構造が粗であることが原因の一つであると推測される。
高分子材料含有硫酸カルシウムを、酸溶解残留物が1質量%以下となるように加熱脱脂し、その後、製造された硫酸カルシウム多孔体に二酸化炭素あるいは炭酸イオンを付与して炭酸カルシウムとする脱脂炭酸化工程、では、硫酸カルシウムを原料カルシウム組成物として用いる。まず、高分子材料含有硫酸カルシウム多孔体を700℃以上で酸溶解残留物が1質量%以下となるように熱処理によって脱脂する工程を行う。次に、製造された硫酸カルシウム多孔体に炭酸イオンを付与して医療用炭酸カルシウム多孔体を製造する。
硫酸カルシウムは比較的高温でも安定である。700℃以上での脱脂は必須条件であるが、最終熱処理温度は750℃~1100℃が好ましく、800℃~1000℃がより好ましく、850℃~950℃がさらに好ましい。
<(E10)脱脂炭酸化工程の後で行う形状仕上げ工程>
(E5)~(E9)に記載のいずれか一つの脱脂炭酸化工程の後で、「(E10)脱脂炭酸化工程の後で行う形状仕上げ工程」を行う。形状仕上げ工程では、外周側壁除去などの形状の仕上げを行う。
【0046】
[II 医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法:(E)特定の炭酸カルシウムハニカム構造体]
次に、[8]について説明する。
前記(E)を満足する医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法であって、下記(E11)~(E14)の群から選ばれる少なくとも一つの条件を満足することを特徴とする医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法は有用である。
(E11)は、前記「(E1)押出工程」で、ハニカム構造体の外周側壁の厚さが隔壁の厚さより厚く、かつ、貫通孔に垂直な面の断面積が1cm以上であるように押出す工程である。
これは、貫通孔に垂直な面の断面積が1cm2以上となると、押出時の形態保持などから外周側壁の厚さがハニカム構造体の壁厚より厚くなるように押出した方が形態保持しやすいためである。
一方、外周側壁の厚さがハニカム構造体の壁厚より厚く、かつ、貫通孔に垂直な面の断面積が1cm以上である高分子材料含有原料カルシウム組成物ハニカム構造体の脱脂炭酸化工程では、外周側壁と隔壁の収縮の差異によって外周側壁と隔壁の間やハニカム構造体内部にクラックが形成されやすい。そのため、前記(E5)~(E9)の群から選ばれる一つの脱脂炭酸化工程の前に、「(E3)外周側壁除去工程」を行うことが好ましい。
貫通孔に垂直な面の断面積が1cm2未満の場合は、押出時の形態保持の問題が限定的となる。外周側壁の厚さがハニカム構造体の隔壁の厚さと同じ、あるいは小さい場合には収縮率が同じである、あるいは小さいため、「(E3)外周側壁除去工程」の必要性が限定的である。また、貫通孔に垂直な面の断面積が1cm未満である場合には収縮率が異なっていても収縮量の差が限定的であるためクラックが発生しにくい。したがって、「(E3)外周側壁除去工程」の必要性は限定的である。
(E12)は、前記「(E1)押出工程」、「(E2)押出工程後の成形工程」、「(E4)外周側壁除去工程後の成形工程」、「(E10)脱脂炭酸化工程の後で行う形状仕上げ工程」の群から選ばれる少なくとも一つの工程において、熱的に軟化した高分子材料含有原料カルシウム組成物を組成とするハニカム構造体に圧力を負荷して、貫通孔の両端、該貫通孔の中央部の三点を通る円の直径が1cm以上50cm以下になるように湾曲成形する製造方法である。
軟化温度は高分子材料の種類などによって調整するが、一般的には50℃以上200℃以下である。
(E13)は、前記「(E3)外周側壁除去工程」は研削で行い、前記「(E10)脱脂炭酸化工程の後で行う形状仕上げ工程」は研磨で行う製造方法であり、外形形態に優れる医療用炭酸カルシウムハニカムの製造方法として有用である。
高分子材料含有原料カルシウム組成物からなる原料ハニカム構造体の外周側壁除去に特有の現象であると考えられが、該原料ハニカム構造体の外周側壁を、ダイヤモンドポイントなどを用いて研磨による削除を試みると、外周側壁は削除されるが、新たな外周側壁が形成される。これは、研磨工程による発熱で外周側壁が軟化されることに起因すると考えられる。一方、研削工程による発熱は、研磨工程と比較して限定的である。したがって、外周側壁除去工程はカンナやなどの研削で行うことが好ましい。
該原料ハニカム構造体を脱脂し、炭酸化して製造された炭酸カルシウムハニカム構造体を研削によってよって外周側壁仕上げ除去工程を行うと、チッピングが起こる。そのため、外周側壁除去仕上げ工程は研削ではなく、ダイヤモンドポイントなどを用いた研磨で行うことが好ましい。
(E14)は、前記「(E1)押出工程」の原料カルシウム組成物が硫酸カルシウム無水物である製造方法である。
これまでに、硫酸カルシウムハニカム構造体は製造されていない。原料ハニカム構造体形成工程における押出工程では、原料カルシウム組成物と高分子材料の混合物を加熱する。硫酸カルシウムには無水物、半水物、二水物があるが、含水硫酸カルシウムを原料カルシウム組成物として用いる場合、水分が蒸発して高分子材料含有硫酸カルシウムからなる原料ハニカム構造体が膨れてハニカム構造がいびつになる。そのため、硫酸カルシウムとしては硫酸カルシウム無水物を用いることが必須である。
【0047】
[II 医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法:(F)酸化カルシウム顆粒の膨張]
次に、[9]、すなわち、原料として酸化カルシウム顆粒を用いて、前記(F)を満足する医療用炭酸カルシウム組成物の製造工程について説明する。
顆粒を、空隙を残して結合させるには、顆粒に何らかの結合能力を付与する必要がある。顆粒に何らかの結合能力を付与する方法としては、高分子材料を使用する場合と使用しない場合に区分される。まず、高分子材料を使用しない製造方法について説明する。高分子材料を用いない場合、原料カルシウム組成物の結合を利用する必要があり、酸化カルシウムの水和などによる膨張、および硫酸カルシウムの硬化反応が有用である。まず、原料として酸化カルシウム顆粒を用いる製造方法を説明する。
酸化カルシウムは水や酢酸などを付与すると、膨張して水酸化カルシウムや酢酸カルシウムとなるため、当該反応を利用して顆粒同士を結合させ、炭酸化させる。この製造方法では、下記(F1)と(F2)とを含み、かつ、(F3)と(F4)との少なくとも一つを含むことが必要条件である。
<(F1)導入閉鎖工程>について
本工程では、酸化カルシウム顆粒を反応容器に入れ、顆粒が反応容器から排出されないように、反応容器の開口部を閉鎖する。これは反応容器内の顆粒同士を均一に結合させたり、顆粒間に圧縮応力を付加させたりする目的で行う工程である。閉鎖工程を行わないと顆粒同士が均一に結合しないため、医療用多孔体としては好ましくない。均一な多孔体構造を形成させるために、反応容器の開口部を閉鎖することは必須であり、開口部を閉鎖しない導入工程は本発明に含まれない発明である。なお、顆粒が反応容器から排出されるか否かが閉鎖の有無の判断基準であり、顆粒が反応容器から排出されないような開口部の開口は実質的に閉鎖していると定義する。また、メッシュ状の反応容器であっても、顆粒が反応容器から排出されないように閉鎖する場合には導入閉鎖工程を行ったと定義する。
<(F2)多孔体形成工程>について
導入閉鎖工程の後で、反応容器内部の、酸化カルシウム顆粒に水あるいは酢酸を付与する工程である。酸化カルシウム顆粒は、水あるいは酢酸との反応によって水酸化カルシウムあるいは酢酸カルシウムとなるとともに膨張する。導入閉鎖工程によって反応容器の開口部は閉鎖されているため、顆粒同士の接触度合が高くなり、均一な気孔構造を有する水酸化カルシウム多孔体あるいは酢酸カルシウム多孔体が形成される。また、酸化カルシウム顆粒が膨張するため、水銀圧入法測定による該顆粒結合多孔体の10μm以下の細孔容積が0.05cm /g以上となる。
<(F3)炭酸化工程>について
水酸化カルシウム多孔体を製造した場合は、次に、水酸化カルシウム多孔体形成工程と同時に、あるいは、水酸化カルシウム多孔体形成工程の後に、水酸化カルシウム多孔体に二酸化炭素を付与する。水酸化カルシウム多孔体が炭酸化され、炭酸カルシウム多孔体となる。
一方、酢酸カルシウム多孔体を製造した場合は、酢酸カルシウム多孔体形成を熱処理する。酢酸カルシウムが熱分解されて炭酸カルシウム多孔体となる。熱処理は酢酸カルシウムの分解温度である400℃以上で行う。
<(F4)酸化カルシウム炭酸化工程>について
前記(F1)~(F3)の全てを含む製造工程でも医療用炭酸カルシウム多孔体が製造できる。しかしながら、該多孔体の圧縮強度は小さい場合がある。圧縮強度を増大させるには、水酸化カルシウム多孔体、炭酸カルシウム多孔体あるいは酢酸カルシウム多孔体を熱処理して酸化カルシウム多孔体を製造し、該酸化カルシウムを二酸化炭素に暴露して炭酸カルシウム多孔体を製造する工程が有用である。
【0048】
[II 医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法:(F)硫酸カルシウム顆粒の硬化反応]
次に、[10]について説明する。
適切なサイズの硫酸カルシウム顆粒同士を硬化させることによっても、前記(F)を満足する医療用炭酸カルシウム組成物を製造することができる。
すなわち、硫酸カルシウム顆粒と炭酸イオンを含む水との硬化反応、あるいは、硫酸カルシウム半水和物顆粒あるいは硫酸カルシウム無水和物顆粒と水との硬化反応によって多孔体を製造することが可能である。前者の場合は、直接炭酸カルシウム多孔体が製造される。後者の場合は、硫酸カルシウム二水和物多孔体が製造されるため、炭酸化工程によって該多孔体を硫酸カルシウム二水和物から炭酸カルシウムに組成変換させる。すなわち、前者は、下記(F5)および(F6)の工程を含む製造方法であり、後者は、下記(F5)、(F7)および(F9)の工程を含み、(F8)の工程を選択工程とする製造方法である。これらによって、前記(F)を満足する医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法が提供できる。
<(F5)導入工程>について
本工程では、硫酸カルシウム顆粒を反応容器に入れる。
<(F6)多孔体形成炭酸化工程>について
反応容器に入れた硫酸カルシウム顆粒と炭酸イオンを反応させる工程である。
例えば、反応容器に入れた硫酸カルシウム顆粒を炭酸ナトリウム水溶液に浸漬すればよい。本工程で、硫酸カルシウム顆粒はマクロ形態を保ったまま炭酸カルシウムに組成変換される。同時に、形成される炭酸カルシウム結晶の橋架けで顆粒同士が硬化し、顆粒結合多孔体が形成される。
<(F7)多孔体形成工程>について
硫酸カルシウム顆粒の組成が、硫酸カルシウム半水和物あるいは硫酸カルシウム無水和物である場合は、反応容器に入れた顆粒に水を付与すれば、顆粒はマクロ形態を保ったまま炭酸カルシウムに組成変換される。同時に、形成される炭酸カルシウム結晶の橋架けで顆粒同士が硬化し、顆粒結合多孔体が形成される。
<(F8)熱処理工程>について
本工程は、「(F7)多孔体形成工程」で製造された硫酸カルシウム二水和物多孔体を必要に応じて熱処理して、脱水し、硫酸カルシウム無水和物多孔体とする工程である。熱処理工程によって圧縮強度が大きい医療用炭酸カルシウム多孔体が製造できる。
<(F9)炭酸化工程>について
本工程では、硫酸カルシウム二水和物多孔体あるいは硫酸カルシウム無水和物多孔体を、炭酸イオンを含む水に暴露する。硫酸カルシウム二水和物多孔体あるいは硫酸カルシウム無水和物多孔体はマクロ形態を維持したまま組成が炭酸カルシウムに変換され、医療用炭酸カルシウム多孔体が製造される。
(F5)又は(F9)工程によって、水銀圧入法測定による該顆粒結合多孔体の10μm以下の細孔容積が0.05cm /g以上となる。
【0049】
[II 医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法:(F)高分子を用いる工程]
次に、[11]、すなわち、高分子材料を用いる、前記(F)を満足する医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法について説明する。
原料カルシウム組成物と高分子材料の混合物である高分子材料含有原料カルシウム組成物を用いると、高分子材料によって混合物顆粒を結合させることができる。一方で、高分子材料を用いるため、前記したように、本発明の医療用炭酸カルシウム組成物を製造するには、脱脂によって高分子材料を除去する必要がある。特定条件で脱脂を行い、高分子材料あるいはその熱分解生成物である酸溶解残留物を1質量%以下とする必要があることも医療用炭酸カルシウムハニカム構造体の場合と同じである。
下記(F10)および(F11)と、前記(E5)~(E9)の群から選ばれる一つを必須工程とし、前記(E10)を選択工程とすることによって、前記(F)を満足する医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法が提供できる。
<(F10)導入工程>について
体積が10-12以上の高分子材料含有原料カルシウム組成物顆粒を、反応容器に入れる工程である。
<(F11)多孔体形成工程>について
本工程においては、反応容器内部の該顆粒を、熱処理することにより表面同士を熱的に軟化させて融着させる工程、該顆粒の表面を溶解することにより該顆粒の表面同士を結合させる工程、可塑剤により該顆粒の表面同士を融合させる工程、のいずれかで、体積が3×10-11以上であり、かつ、最大径長さが50μm以上500μm以下の複数の顆粒が結合して形成される、複数方向に延びる複数の貫通孔を備えた顆粒結合多孔体であって、水銀圧入法測定による該顆粒結合多孔体の10μm以下の細孔容積が0.05cm /g以上である顆粒結合多孔体を製造する。
熱処理することにより表面同士を熱的に軟化させて融着させる工程においては、該顆粒を加熱する。熱可塑性高分子の場合、顆粒が軟化し、顆粒の自重あるいは反応容器からの圧縮応力によって軟化した顆粒を融着させる。
顆粒の表面を溶解することにより該顆粒の表面同士を結合させる工程においては、アセトンやジメチルスルホキシドなどの溶媒などで顆粒の表面を溶解させ、顆粒同士を結合させる。
可塑剤により該顆粒の表面同士を融合させる工程においては、高分子材料含有原料カルシウム組成物顆粒内部に可塑剤を添加しておき、顆粒同士を接触させることによって顆粒同士を融合させる方法や、顆粒の表面に可塑剤を付与し、顆粒表面を軟化させ、顆粒同士を融合させる方法が例示される。
【0050】
[II 医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法:(G)気孔集積多孔体]
次に、[12]、すなわち、前記(G)を満足する医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法を説明する。
該製造方法は、下記(G1)と、(D1)~(D10)および(E5)~(E9)の群から選ばれる一つとを必須工程とし、下記(G2)および(G3)および前記(E10)を選択工程とする製造方法である。
<(G1)混合工程>について
「(G1)混合工程」は、原料カルシウム組成物粉末あるいは原料カルシウム組成物ペーストと造孔材を混合する工程である。原料カルシウムが水酸化カルシウム、炭酸カルシウムや硫酸カルシウムなど水に対する溶解度が限定的である場合には炭酸カルシウムペーストの方が流動性を確保できて好ましい。一方、酢酸カルシウムなど水溶性カルシウム化合物の場合は粉末のまま混合することが好ましい。原料カルシウム組成物として、特に制限はないが、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムが好ましく、特に水酸化カルシウムと炭酸カルシウムとが好ましい。
造孔材としては、上述したように、特段の制限はないが、塩化ナトリウムやリン酸二水素ナトリウム、ポリマービーズなどが例示される。造孔材によって気孔径が制御されるため、最大径長さが800μm以上の造孔材を含まないことが必要条件である。また、最大径長さは50μm以上400μm以下の造孔材が好ましい。
<(G2)圧粉工程>について
「(G2)圧粉工程」は、原料カルシウム組成物粉末あるいは原料カルシウム組成物ペーストと造孔材の混合物を圧粉する工程である。圧粉方法としては手圧を含む一軸加圧や静水圧加圧などの公知の圧粉方法を制限なく用いることができる。原料カルシウム組成物ペーストを用いる場合には必要に応じて、本工程の後に乾燥を行う。原料カルシウム組成物ペーストと造孔材を混合する工程において、一定の圧力が負荷され、圧粉工程が不要となる場合があるため、本工程は選択工程である。
<(G3)造孔材除去工程>について
「(G3)造孔材除去工程」は、造孔材を溶媒に溶解させて除去する造孔材除去工程する工程である。医療用炭酸カルシウム組成物を原料として医療用リン酸カルシウム多孔体などを製造する場合には、医療用炭酸カルシウム組成物をリン酸水素二ナトリウムに浸漬するなどの工程によって造孔材は除去されるため、医療用炭酸カルシウム組成物の製造段階では、必ずしも造孔材を除去する必要がない。したがって、(G3)は選択工程である。
本製造方法においては高分子材料を造孔材として用いる場合がある。その際は、高分子材料を用いる炭酸アパタイトハニカム構造体における「(E10)脱脂炭酸化工程の後で行う形状仕上げ工程」が有用となる場合がある。したがって、(E10)も選択工程である。
なお、(G)の条件を満たすためには、水銀圧入法測定による該気孔集積型多孔体の10μm以下の細孔容積が0.05cm /g以上である必要がある。該細孔容積は、(G1)の混合工程における原料カルシウム組成物粉末と溶媒との混合比、および(G2)の圧粉工程における圧粉圧力によって調整する。
【0051】
[II 医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法:脱脂条件]
次に、[13]について説明する。
高分子材料を用いる医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法においては、用いた高分子材料を除去する必要がある。この工程を脱脂といい、具体的には高分子材料の解重合、蒸発などで高分子材料を除去する。本発明において、医療用炭酸カルシウムハニカム構造体などを製造する場合、高分子材料の脱脂によって高分子材料含有カルシウム組成物中のカルシウム組成物粉末間の距離が長くなるため、高分子材料の脱脂速度を調整してカルシウム組成物粉末間の距離が長くならないように調整することが好ましい。なお、脱脂温度が200℃未満の場合には比較的多くの高分子材料が残存しており、流動性が高いため、比較的カルシウム組成物粉末間の距離が長くならない。
そのため、200℃以上の脱脂工程において高分子材料含有カルシウム組成物の高分子材料の質量減少が毎分1質量%より小さくすることが好ましい。しかしながら、高分子材料含有カルシウム組成物の質量減少を毎分1質量%より小さくする温度は150℃以上とすることが好ましく、100℃以上とすることがより好ましく、50℃以上とすることがさらに好ましい。
該高分子材料の減少は毎分0.9質量%より小さいことがより好ましく、毎分0.8質量%より小さいことがさらに好ましい。
なお、高分子材料の減少速度は温度上昇に対して一定ではなく、特定の温度で急激に起こる。例えば、アクリル樹脂の解重合は250℃で急激に起こる。そのため、熱質量測定によって該脱脂条件を最適化できる。基本的には熱質量測定において質量減少の微分値に応じて加熱速度を調整すればよいが、急激な質量減少が始まる温度より約20度低い温度で一定時間保持してもよい。
【0052】
[II 医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法:特定の製造方法]
次に、[14]について説明する。
医療用炭酸カルシウム組成物の製造工程において、二酸化炭素および酸素の制御が好ましい場合がある。
「(L)30KPa以上の酸素分圧で脱脂を行う工程」は、脱脂工程で好ましい場合がある。高分子材料は熱処理によって解重合、蒸発、熱分解、焼却によって脱脂されるが酸素分圧が高い方が脱脂されやすくなる場合があり、酸溶解残留物が少なくなるため好ましい場合がある。空気中の酸素分圧は約20KPaであるが、30KPa以上であることが好ましく、60KPa以上であることがより好ましく、90KPa以上であることがさらに好ましい。
「(M)30KPa以上の二酸化炭素分圧で脱脂あるいは炭酸化を行う工程」は、脱脂あるいは炭酸化工程でが好ましい場合がある。これは、原料カルシウム組成物の炭酸化に二酸化炭素が必要であることと、脱脂が高分子材料の焼却を必要とせず高分子材料の解重合、蒸発、熱分解だけで脱脂によって酸分解残留物が1質量%以下になる場合があるためである。また、炭酸カルシウムは二酸化炭素分圧が0KPaである場合は340℃付近から酸化カルシウムに熱分解される。そのため、一定以上の二酸化炭素分圧で脱脂あるいは脱脂炭酸化を行う工程が好ましい場合がある。大気中の二酸化炭素量は限定的であり、効率的に炭酸化を行うためには炭酸化工程において30KPa以上の二酸化炭素分圧が好ましく、60KPa以上であることがより好ましく、90KPa以上であることがさらに好ましい。また、純粋な二酸化炭素環境と同等の環境、すなわち二酸化炭素分圧が101.3KPaで脱脂することが好ましい場合がある。
「(N)酸素あるいは二酸化炭素を含む150KPa以上の気体で脱脂あるいは炭酸化を行う工程」は、脱脂工程および炭酸化工程で好ましい場合がある。
医療用炭酸カルシウム組成物の製造工程においては、脱脂あるいは炭酸化を行う場合がある。例えば、二酸化炭素をフローさせるなど、原料カルシウム組成物に二酸化炭素を暴露すれば原料カルシウム組成物は炭酸化され医療用炭酸カルシウム組成物が製造されるが、二酸化炭素をフローさせる場合にはほとんどの二酸化炭素が製造には用いられず破棄される。また、原料カルシウム組成物多孔体や原料カルシウム組成物圧粉体を炭酸化する場合には多孔体内部や圧粉体内部に二酸化炭素が導入されにくいという問題もある。
このような場合には実質的な閉鎖系とし、閉鎖系の内部を加圧することが好ましい。理論的には加圧すれば多孔体や圧粉体の内部まで酸素あるいは二酸化炭素が浸透し、原料カルシウム組成物は酸素あるいは二酸化炭素に暴露される。しかしながら、効率性の観点から、酸素あるいは二酸化炭素を含む150KPa以上の気体で脱脂あるいは炭酸化を行う工程が好ましい。気体の圧力は150KPa以上が好ましく、200KPa以上がより好ましく、300KPa以上がさらに好ましい。理論的には気体の圧力に上限はないが、加圧閉鎖系の反応装置が必要となるため、気体の圧力は2MPa以下であることが好ましく、1MPa以下であることがより好ましく、500KPa以下であることがさらに好ましい。
なお、加圧状態を保持するため、反応装置は実質的に閉鎖系とする必要があるが、脱脂された高分子材料成分の反応装置からの排出などの目的で一時的にあるいは継続的に加圧を保ったままで開放系とすることも可能である。
「(O)反応容器中の空気の一部あるいは全部を二酸化炭素に置換してから、二酸化炭素を反応容器に導入することによって、反応容器中の二酸化炭素濃度を増加させる工程」は、炭酸化工程で有用である場合がある。これは、二酸化炭素分圧を増大させ、炭酸化速度を加速させるためである。
反応容器の一方から二酸化炭素を導入し、他方から大気を排出することによって反応容器内の空気を二酸化炭素に置換する方法は簡便であり有効である。
また、減圧工程によって原料カルシウム組成物に含まれる気体を減じた後に、二酸化炭素を反応容器に導入することによって、空気から二酸化炭素への置換度がより高くなる。すなわち、水酸化カルシウム圧粉体などの原料カルシウム組成物から、原料カルシウム組成物が含まれていない医療用炭酸カルシウムブロックなどの医療用炭酸カルシウム組成物を製造するには、圧粉体などの内部まで二酸化炭素を導入させる必要があり、拡散だけでは時間がかかったり内部まで炭酸化できなかったりする。減圧工程によって水酸化カルシウム圧粉体内部の空気などを減じ、その後に空気に比べて二酸化炭素濃度の高い気体を反応容器に導入すれば水酸化カルシウム圧粉体内部まで二酸化炭素を導入することができる。
反応容器を減圧するには、反応容器を大気圧である101.3KPaより小さくすればよいが、90KPa以下とすることが好ましく、60KPa以下とすることがより好ましく、30KPa以下とすることがさらに好ましい。減圧工程によって水酸化カルシウム圧粉体内部の空気などを減じ、その後に空気より二酸化炭素濃度の高い気体を反応容器に導入する必要がある。原理的には空気より二酸化炭素濃度が高ければよいが、導入する気体の二酸化炭素濃度は10体積%以上が好ましく、50体積%以上が好ましく、90体積%以上がより好ましく、実質的に純粋な二酸化炭素であることが理想的である。反応容器に二酸化炭素を導入する際の反応容器の圧力は特に限定されない。しかしながら、原料カルシウム組成物の反応速度を増大させる観点から、反応容器の圧力が大気圧である101.3KPa以上となるように二酸化炭素を導入することが好ましく、150KPa以上がより好ましく、200KPa以上がさらに好ましい。
「(P)閉鎖系の反応容器中の圧力が一定の値となるように二酸化炭素を供給する炭酸化工程」は、閉鎖系の反応容器で医療用カルシウム組成物に二酸化炭素を付与する工程で有用である。なお、本発明でいう「閉鎖系の反応容器」とは上述したように、開放系でない反応容器である。一般的には閉鎖系の反応容器を用いる炭酸化はコストアップとなるが、本発明の医療用炭酸カルシウム組成物は医療用材料であり、異物混入を防ぐ観点から閉鎖系での製造が好ましい場合がある。
原料炭酸カルシウムから医療用炭酸カルシウム組成物を製造する場合を除き、原料カルシウム組成物に炭酸基を付与するには二酸化炭素あるいは炭酸イオンが必要である。例えば、1モルの水酸化カルシウムに二酸化炭素を付与して1モルの炭酸カルシウムを製造するには、1モルの二酸化炭素が必要であり、1モルの二酸化炭素は標準状態で約22.4Lである。
したがって、1モルの医療用炭酸カルシウム組成物を製造するには最低でも標準状態で22.4Lの二酸化炭素を含むことが可能な比較的大きな反応容器が必要となる。一方、閉鎖系で反応容器中の圧力が一定の値となるように二酸化炭素を供給することによって比較的小さい反応容器による製造が可能となる。圧力値に特に制限はないが、反応容器中の圧力が一定となるように、二酸化炭素ボンベから減圧弁を用いて反応容器中に二酸化炭素を供給する工程が簡便であるため、反応容器中の圧力は大気圧より大きいことが好ましい。また、目的は反応容器内部への二酸化炭素の供給であり、反応容器中の圧力を必要以上に大きくすると反応容器が高価になり、操作が煩雑になるだけである。そのため、反応容器中の二酸化炭素の圧力は大気圧に加えて0.5MPa以下であることが好ましく、0.3MPa以下であることがより好ましく、0.2MPa以下であることがさらに好ましい。
本工程は、気相での炭酸化だけでなく、前記(D9)に記載したような液相での炭酸化においても有用である。また、閉鎖系において二酸化炭素以外の気体は消費されないため、本工程だけを行うと、反応容器内の二酸化炭素濃度が低い。そのため、本工程と「O」工程の両者を含む工程が、望ましい。
「(Q)反応容器中の二酸化炭素を撹拌あるいは循環させる炭酸化工程」は、反応容器で医療用カルシウム組成物に二酸化炭素を付与する工程で有用である場合があり、特に閉鎖系の反応容器を用いる場合に有用である場合がある。
該工程は、前記「(D)」を特徴とする医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法の一つである「(D8)」においても有用であるが、前記「(D)」を特徴とする医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法に限定されず、本発明の医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法として有用である場合がある。
【0053】
[II 医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法:特定の原料カルシウム組成物]
次に、[15]について説明する。原料カルシウム組成物としてはカルシウムを含む組成物が広く用いられるが、原料カルシウム組成物の組成が酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムの群から選ばれる一つであることは好ましい。これは、原料カルシウム組成物に炭酸成分などを付与して医療用炭酸カルシウム組成物などを製造する工程などにおいて、水以外の組成物が副生されないためである。
【0054】
[II 医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法:特定の原料カルシウム組成物
次に、[16]について説明する。[16]は、特に[3]の炭酸カルシウム組成物の製造方法に関わり、
(R平均粒径が2μm以上8μm以下の炭酸カルシウム粉末を用いる。
(R2)球形度が0.9以上の炭酸カルシウム粉末を用いる。
(R3)Mg含有量が5×10 -4 質量%以上3×10 -3 質量%以下の炭酸カルシウム粉末を用いる。
(R4)Sr含有量が3×10 -3 質量%以上1.5×10 -2 質量%以下の炭酸カルシウム粉末を用いる。
の少なくとも一つの条件を満足する製造方法である
いずれもミクロ気孔を制御することによって製造される医療用炭酸カルシウム組成物の反応性を高めるための条件であり、特定の原料カルシウム粉末を用いることによって、好ましいミクロ気孔が形成される。
(R)は、原料カルシウム組成物である炭酸カルシウム粉末の特定の平均粒径に関するものである。平均粒径は、2μm以上8μm以下が好ましく、3μm以上7μm以下がより好ましく、4μm以上6μm以下がさらに好ましい。
(R2)の球形度は、0.9以上であることが好ましく、0.95以上であることがより好ましい。
(R3)のMg含有量は、5×10 -4 質量%以上3×10 -3 質量%以下が好ましく、1×10 -3 質量%以上2.5×10 -3 質量%以下がより好ましく、1.5×10 -3 質量%以上2.5×10 -3 質量%以下がさらに好ましい。
(R4)のSr含有量は、3×10 -3 質量%以上1.5×10 -2 質量%以下が好ましく、4×10 -3 質量%以上1.3×10 -2 質量%以下がより好ましく、5×10 -3 質量%以上1×10 -2 質量%以下がさらに好ましい。
(R1)~(R4)のいずれかの条件を満たすことが好ましいが、複数を満たすことがより好ましく、全てを満たすことがさらに好ましい。
【0055】
[III 医療用硫酸カルシウム硬化性組成物]
次に、[17]、すなわち、医療用炭酸カルシウム組成物の原料として用いることができる医療用硫酸カルシウム硬化性組成物について説明する。
下記(T1)~(T)の全ての条件を満足する医療用硫酸カルシウム硬化性組成物は硬化性を示すため、有用な医療用材料である。
(T1)酸溶解残留物が1質量%以下である。
(T2)体積が5×10-13以上である。
(T3)医療用組成物として、実質的に純粋な硫酸カルシウムである。
(T4)硫酸カルシウム半水和物含有量が50質量%以上である。
(T5)接触した複数の組成物を水に浸漬すると、硬化して圧縮強度が0.3MPa以上である多孔体を形成する。
これまで、硫酸カルシウム半水和物粉末が硬化することは知られていたが、酸溶解残留物が1質量%以下であり、かつ、医療用組成物として、実質的に純粋な硫酸カルシウムである、体積が5×10 -13 以上の硫酸カルシウム顆粒が、硬化して圧縮強度が0.3MPa以上の多孔体を形成することは知られていなかった。
該顆粒が硫酸カルシウム半水和物を50質量%以上含有する場合、水で練和するとその一部あるいは全部が硫酸カルシウム二水和物となり、析出した硫酸カルシウム二水和物結晶の橋架けによって顆粒同士が結合して多孔体となる。
体積が5×10 -13 未満の場合でも硬化して多孔体を形成できるなどの有用性があるが、有用性が限定的であるため、体積は5×10 -13 以上である必要がある。組織侵入に有用な多孔体形成および圧縮強度の観点からは、体積は5×10 -13 以上1×10 -9 以下であることが好ましく、4×10 -12 以上5×10 -10 以下であることがより好ましく、体積が1.4×10 -11 以上1.1×10 -10 以下であることがさらに好ましい。
硬化性の観点から、硫酸カルシウム半水和物が50質量%以上であることが必須である。硬化性は硫酸カルシウム半水和物の含有量が増大するにつれて高くなるため、硫酸カルシウム半水和物が70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
硫酸カルシウム多孔体が形成されること自体に有用性があるが、多孔体の機械的強度が小さい場合には有用性が小さい。本発明においては、接触した複数の組成物を水に浸漬すると、硬化して圧縮強度が0.3MPa以上である多孔体を形成することを必須条件とする。硬化体の圧縮強度は、0.5MPa以上であることが好ましく、1.0MPa以上であることがより好ましい。接触の程度によって圧縮強度が異なるため、異なる圧縮強度が得られた場合には、高い圧縮強度を該組成物の圧縮強度とする。
【0056】
[IV 医療用硫酸カルシウム組成物の製造方法]
次に、[18]について説明する。前記、「III 医療用硫酸カルシウム硬化性組成物」の製造方法であって、下記(U2)および(U3)を必須工程として含み(U1)および(U4)を選択工程として含むことを特徴とする医療用硫酸カルシウム硬化性組成物である医療用硫酸カルシウム半水和物顆粒の製造方法は有用である。
「(U1)高分子材料脱脂工程」は、高分子材料含有硫酸カルシウム顆粒あるいはブロックを熱処理で脱脂して酸溶解残留物を1質量%以下とする工程である。
本工程は、高分子材料含有硫酸カルシウムブロックあるいは顆粒を原料として用いる場合の工程であり、該原料を熱処理で脱脂して酸溶解残留物を1質量%以下とする工程である。酸溶解残留物は1質量%以下であることが必須条件であり、0.5質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましく、0質量%であることが理想的である。熱処理は一般的に700℃以上で行う。硫酸カルシウムは700℃以上では無水物となるため、本工程によって硫酸カルシウム無水物ブロックあるいは硫酸カルシウム無水物顆粒が製造される。
「(U2)硫酸カルシウム二水和物製造工程」は、高分子材料脱脂工程で形成された硫酸カルシウム無水物あるいは半水和物の顆粒あるいはブロックに水を付与して、あるいは、硫酸カルシウム半水和物粉末に水を付与して、硬化させて、硫酸カルシウム二水和物顆粒あるいはブロックを製造する工程である。
高分子材料含有硫酸カルシウムを用いる場合には、高分子材料脱脂工程によって硫酸カルシウム無水物顆粒あるいはブロックが製造されるため、水を付与して硫酸カルシウム二水和物顆粒あるいはブロックが製造される。
高分子材料含有硫酸カルシウムを用いる必要がない場合には、硫酸カルシウム半水和物粉末と水を混合して、硬化させて、硫酸カルシウム二水和物顆粒あるいはブロックを製造する。
「(U3)硫酸カルシウム半水和物製造工程」は、硫酸カルシウム二水物顆粒あるいはブロックを脱水して、硫酸カルシウム半水和物顆粒あるいはブロックを製造する工程である。
本工程は、硫酸カルシウム二水物顆粒あるいはブロックを気相中で脱水して、硫酸カルシウム半水和物が50質量%以上となるように、硫酸カルシウム半水和物顆粒あるいはブロックを製造する工程である。一般的に大気中など、気相中での脱水は公知の熱処理で行われ、熱処理時間と熱処理温度の最適化で硫酸カルシウム半水和物の含有量が容易に制御できる。
「(U4)顆粒サイズ調整工程」は、体積が5×10-13以上の顆粒となるようにサイズを調整する工程である。
本工程は、体積が5×10-13以上の顆粒となるようにサイズを調整する工程である。本工程は全工程の中のどこで行ってもよい。例えば、硫酸カルシウム粉末をポリビニルアルコールなどの高分子材料と混合し、スプレードライすることによって、体積が5×10-13以上の球状顆粒となるようにすればよい。
また、硫酸カルシウムブロックを粉砕、篩分けすればよい。
上述したように、体積を5×10 -13 以上であるように調整する必要がある。組織侵入に有用な多孔体形成および圧縮強度の観点からは、体積を5×10 -13 以上1×10 -9 以下に調整することが好ましく、4×10 -12 以上5×10 -10 以下に調整することがより好ましく、1.4×10 -11 以上1.1×10 -10 以下に調整することがさらに好ましい。
【0057】
[V 医療用リン酸カルシウム組成物]
次に、[19]、すなわち、医療用炭酸カルシウム組成物から製造される医療用リン酸カルシウム組成物について説明する。
下記(V1)~(V3)の全ての条件と、(V4)~(V10)の群から選ばれる少なくとも一つの条件を満足し、(V11)又は(V12)を選択条件とすることを特徴とする医療用リン酸カルシウム組成物は有用性が高い。
なお、(V1)、(V2)、(V5)、(V6)、(V9)、(V10)については、それぞれ、前記(A)、(B)、(F)、(G)、(J)、(K)の必要性と同じである。
「(V3)医療用組成物として、実質的に純粋なリン酸カルシウムであり、組成が炭酸アパタイト、HPO基を含むアパタイト、リン酸三カルシウム、ウィトロカイト、リン酸水素カルシウムの群から選ばれる一つである。」で、「医療用組成物として、実質的に純粋なリン酸カルシウムであり、」との条件は、本発明の医療用カルシウム組成物に共通する事項であるが、その中で、組成が炭酸アパタイト、HPO基を含むアパタイト、リン酸三カルシウム、ウィトロカイト、リン酸水素カルシウムの群から選ばれる一つであるものは、反応性に優れるため特に好ましい。リン酸三カルシウムを除くこれらのリン酸カルシウムは基本的に焼結法では製造することができず、水溶液中で炭酸カルシウムなどを前駆体として用いる溶解析出型の組成変換反応で製造できる。炭酸アパタイトに関しては特許文献1に述べられている通りである。反応性が高いHPO基を含むアパタイト、ウィトロカイト、リン酸水素カルシウムも水溶液中で製造できるが、HPO基は加熱によってピロリン酸となるため、焼結法では製造できない。
また、「(V4)一方向に延びる複数の貫通孔を備えたハニカム構造体(ただし、組成がリン酸三カルシウムであり、かつ、水銀圧入法測定で、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積が0.01cm /g以上である、いずれか一つの貫通孔の両端、該貫通孔の中央部の三点を通る円の直径が1cm以上50cm以下である、ハニカム構造体において貫通孔方向の隔壁表面の算術平均粗さ(Ra)が0.7μm以上である、のいずれの条件も満たさないハニカム構造体を除く。)。」は、前記「(E)一方向に延びる複数の貫通孔を備えたハニカム構造体であり、かつ、水銀圧入法による細孔分布測定において、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積が0.02cm/gより大きい。」に類似した条件であるが、組成がリン酸三カルシウム以外の場合、細孔容積に関する条件はない。しかしながら、医療用リン酸カルシウム組成物の骨への置換や組織親和性の観点から、水銀圧入法による細孔分布測定において、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積が0.02cm/gより大きいことは好ましく、該容積は0.04cm/g以上であることがより好ましく、0.08cm/g以上であることがさらに好ましい。
「(V7)水銀圧入法測定で、細孔径6μm以下の細孔容積に対する細孔径1μm以上6μm以下の細孔容積が5%以上である。」は、前記「(H)」に類似した条件である。医療用炭酸カルシウム組成物を原料として医療用リン酸カルシウム組成物を製造する際にはリン酸成分が付与されるため、細孔容積が小さい細孔が減少する。そのため、細孔径6μm以下の細孔容積に対する細孔径1μm以上6μm以下の細孔容積を5%以上としているが、該細孔容積は7%以上であることがより好ましく、10%以上であることがさらに好ましい。
「(V8)いずれかの方向で得られる最大圧縮強度が下記の式で計算される基準圧縮強度[S]以上である(ただし、一方向に延びる複数の貫通孔を備えたハニカム構造体であり、かつ、水銀圧入法測定で、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積が0.02cm/g以下であるものを除く。)。
S=S×C×exp(-b×P)
(ここで、Sおよびbは定数でSは500、bは0.068、Cは組成による定数で、炭酸アパタイトあるいはHPO基を含むアパタイトあるいはリン酸三カルシウムの場合は1、ウィトロカイトの場合は0.5、リン酸水素カルシウムの場合は0.1、Pは該組成物の気孔率の百分率である。)」は、前記(I)に類似した条件であるが、定数Cは炭酸カルシウムの多形ではなく、組成による定数である。
「(V11)炭酸基含有量が10質量%以上であるアパタイトを組成とする。」は選択条件である。また、炭酸含有量が10質量%以上であるため、炭酸アパタイトである。炭酸アパタイトは脊椎動物の骨組成であることから有用性が高い。
「(V12)炭酸基含有量が10質量%未満であるアパタイトを組成とする。」も選択条件である。炭酸基含有量が10質量%未満であるアパタイトであるため、炭酸基含有量の小さい炭酸アパタイトおよび水酸アパタイトとなる。症例によっては緩慢な骨置換が望まれる場合がある。そのような症例においては、炭酸基含有量が10質量%未満であるアパタイトを組成とする医療用リン酸カルシウム組成物が好ましい。アパタイト構造中の炭酸基量によって骨置換速度が制御されるため、炭酸基含有量としては6質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましい場合がある。また、炭酸基を含まない水酸アパタイトが好ましい場合もある。
【0058】
[V 医療用リン酸カルシウム組成物:特定の微量成分]
次に、[20]について説明する。リン酸カルシウム組成物、特にアパタイトは、吸着能が高い。また、水溶液中で製造されたリン酸カルシウムは比表面積が高い。これらのリン酸カルシウム組成物が感染した場合には、組織親和性が期待できない。そのため、感染を防止する微量成分を含むリン酸カルシウム組成物が好ましい場合がある。微量成分としては、銀又は銀化合物が有用である。
(AG1)又は(AG2)のいずれかを満足する医療用リン酸カルシウム組成物は、感染防止の観点から有用な医療用リン酸カルシウム組成物である。(AG1)又は(AG2)のいずれかを満足し、かつ、下記(AG3)~(AG10)の選択条件の一つを満足する医療用リン酸カルシウム組成物はより好ましい医療用リン酸カルシウム組成物である場合がある。
(AG1)及び(AG2)の体積に関する要件の必要性は、(A)と同じである。
(AG1)では、0.01質量%以上3質量%以下の銀又は銀化合物が、(AG2)では、0.01質量%以上3質量%以下のリン酸銀がリン酸カルシウム化合物に含まれていることが必須条件である。リン酸カルシウム結晶構造中に銀が取り込まれることもあるが、銀は、主に銀イオンとして抗菌性を発揮するため、術後感染の防止にはリン酸カルシウム結晶構造中に含まれていない銀又は銀化合物が有効である。また、銀又は銀化合物の含有量が極めて重要であり、含有量が小さいと抗菌効果が発揮されず、含有量が大きいと組織親和性に悪影響を及ぼす。そのため、医療用リン酸カルシウム組成物に含有される銀又は銀化合物は、0.01質量%以上3質量%以下である必要がある。該含有量は、0.02質量%以上2質量%以下が好ましく、0.03質量%以上1質量%以下がより好ましく、0.05質量%以上1質量%以下がさらに好ましい。また、これらの含有量が、リン酸カルシウム結晶構造に含まれる銀を除いて確保されることが好ましい。
(AG1)の条件である「炭酸アパタイト、HPO 基を含むアパタイト、ウィトロカイト、リン酸水素カルシウムの群から選ばれる一つ」は焼結法では製造できず、水溶液中で製造されるリン酸カルシウムに関する条件である。これまで焼結法で製造できないリン酸カルシウム化合物に銀又は銀化合物を含有させたリン酸カルシウム組成物は知られていない。
(AG2)は、リン酸カルシウム組成として、焼結法で製造できる水酸アパタイト焼結体とリン酸三カルシウム焼結体も含まれるが、リン酸銀結晶がリン酸カルシウム組成物表面と結合していることが必須条件となる。リン酸銀結晶がリン酸カルシウム組成物表面と結合していると、組成物表面からリン酸銀が溶解されるため、抗菌効果が高い。また、リン酸銀の溶解は、リン酸カルシウム組成物と結合していない表面から起こるため、比較的長期の抗菌機能を示すリン酸カルシウム組成物となる。リン酸銀結晶がリン酸カルシウム組成物表面と結合している面積割合は、リン酸銀結晶の表面積の20%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、40%以上がさらに好ましい。また、リン酸カルシウムと結合しているリン酸銀の面積が2×10 -12 以上であることが好ましく、6×10 -12 以上であることがより好ましく、1×10 -11 以上であることがさらに好ましい。
(AG3)~(AG10)は選択条件であり、必ずしも満足する必要はない。(AG3)は(AG1)に関する選択条件である。溶解度が小さいリン酸銀は、長期の抗菌効果が期待できるため他の銀化合物より好ましい場合がある。
「(AG4)リン酸カルシウム組成物の表層部と内部とに銀又は銀化合物が含まれており、表面から中心方向に少なくとも50μm離れた部位の銀濃度に対する表層部の銀濃度の比が1.2以上である。」は、組成物内部で異なる銀濃度を有する特定のリン酸カルシウム組成物に関する選択条件である。術後感染には術後間もなくして起こる早期感染と、例えば手術後2ヵ月経過以降に感染が生じる遅発性感染などがあり、両者を防止することが望まれる。術後早期には組織親和性に比較して感染防止の優先度が高いため、比較的高い銀濃度が好ましい。そのため、リン酸カルシウム組成物による組織再建を行った際に、該組成物周囲に比較的高い銀イオンが遊離されることが望ましい。このことは、該組成物表層部における銀又はリン酸銀を高濃度とすることによって達成できる。
炭酸アパタイトやリン酸三カルシウムなどの生体吸収性リン酸カルシウムの場合、表層部が吸収されると表層部の銀又は銀化合物も消失する。術後一定期間が経過した後には感染リスクが低下するため、組織親和性の優先度が高くなるものの遅発性感染の防止も必要である。したがって、リン酸カルシウム組成物の表層部と内部との両者に銀又は銀化合物が含まれていることが好ましく、かつ、該組成物の表面から中心方向に少なくとも50μm離れた部位の銀濃度に対する表層部の銀濃度の比が1.2以上であることが好ましい。該比は2以上であることがより好ましく、3以上であることがさらに好ましい。
該組成物における表層部と内部は、本質的には破骨細胞が吸収する表層部と該表層部を除く内部である。破骨細胞が侵入できる30μm以上の連通孔を有する多孔体の場合、見かけの表面ではなく、30μm以上の連通孔がない部位の表層部を除く部位を内部とする。表層部と内部の銀又は銀化合物の濃度の比は、エネルギー分散型X線分析装置やX線光電子分光分析装置などで表面分析と内部の分析を行うことによって定量化する。なお、表層部とは表面から50μm未満の距離にある部位とし、内部とは表面から少なくとも50μm離れた部位とする。上記測定法による表層部と内部の銀濃度測定が困難である場合には、該リン酸カルシウム組成物を、JIS-T0330-3の9.3で定められている溶解速度試験をpH5.5の水溶液を用いて行い、表層部50μmが溶解された場合と同じ重量減少となるまでに溶解された銀成分量から計算される表層部に含有される銀成分濃度と試料に含まれる銀成分濃度から両者の比を計算する。
(AG5)~(AG10)は特定のリン酸カルシウム多孔体に関する選択条件である。多孔体は緻密体と比較して、感染巣となりやすく、これらの多孔体は医療用リン酸カルシウム組成物として有用であるため、感染防止が望ましい医療用リン酸カルシウム組成物である。
【0059】
[V 医療用リン酸カルシウム組成物:特定のハニカム構造体及び特定微細構造と組成
次に、[21]、すなわち、医療用リン酸カルシウム組成物の中で、特に有用な組成物について説明する。
医療用炭酸カルシウム組成物と同様に医療用リン酸カルシウム組成物には高い反応性や症例に応じた特性が求められる。そのため、下記(W1)~(W)の少なくとも一つの条件を満足することが好ましい。
「(W1)一方向に延びる複数の貫通孔を備えたハニカム構造体であって、水銀圧入法測定で、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積が0.01cm/g以上である。」は、骨梁部のミクロ気孔に関するものである。組成は骨伝導や骨置換に関与する一因子であり、マクロ気孔やミクロ気孔も医療用組成物の有用性に大きな影響を及ぼす。特定のミクロ気孔が特定量以上存在することによって、破骨細胞による吸収性が促進されるなどの有用な性質に影響を及ぼす。ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積が0.01cm/g以上であることが好ましく、0.03cm/g以上であることがより好ましく、0.05cm/g以上であることがさらに好ましい。
「(W2)一方向に延びる複数の貫通孔を備えたハニカム構造体であって、いずれか一つの貫通孔の両端、該貫通孔の中央部の三点を通る円の直径が1cm以上50cm以下である。」は、特定の症例に有用なハニカム構造体である。上述したように、骨には直柱状ではなく、湾曲した曲柱状の骨もある。そのような骨の再建術などでは曲柱形状の医療用リン酸カルシウムハニカム構造体が有用である。また、骨表面に対して垂直方向に骨を造成する場合、ハニカム構造体の貫通孔が骨周囲の結合性組織に対しては開口せず、骨面に対してのみ開口しているハニカム構造体が望ましい。
ハニカム構造体において、いずれか一つの貫通孔における貫通孔の両端、該貫通孔の中央部の三点を通る円の直径が1cm以上50cm以下であることが好ましい条件である。該円の直径が2cm以上20cm以下であることがより好ましく、該円の直径が3cm以上10cm以下であることがさらに好ましい。
「(W3)ハニカム構造体において貫通孔方向の隔壁表面の算術平均粗さ(Ra)が0.7μm以上である。」は、細胞接着などに有効なハニカム構造体である。ここで貫通孔方向の隔壁表面の算術平均粗さ(Ra)とは隔壁に依存しないハニカム表面の算術平均粗さである。医療用炭酸アパタイトハニカム構造体において算術平均粗さ(Ra)が大きくなると細胞接着などがよくなり、その結果、骨伝導性も高くなる。算術平均粗さ(Ra)は1.0μm以上がより好ましく、1.5μm以上がさらに好ましい。
(W4)~(W7)は、[3]の(AJ1)~(AJ4)に対応するものであり、組織親和性や骨置換性に優れる医療用リン酸カルシウム組成物である。
(W4)の平均粒径は、2μm以上8μm以下が好ましく、3μm以上7μm以下がより好ましく、4μm以上6μm以下がさらに好ましい。
(W5)の球形度は、0.9以上であることが好ましく、0.95以上であることがより好ましい。
(W6)のMg含有量は、5×10 -4 質量%以上3×10 -3 質量%以下が好ましく、1×10 -3 質量%以上2.5×10 -3 質量%以下がより好ましく、1.5×10 -3 質量%以上2.5×10 -3 質量%以下がさらに好ましい。
(W7)のSr含有量は、3×10 -3 質量%以上1.5×10 -2 質量%以下が好ましく、4×10 -3 質量%以上1.3×10 -2 質量%以下がより好ましく、5×10 -3 質量%以上1×10 -2 質量%以下がさらに好ましい。
なお、平均粒径および球形度は、リン酸カルシウム組成物の粒界で粒子を区分して測定、計算する。
(W1)~(W7)のいずれかの条件を満たすことが好ましいが、複数を満たすことがより好ましく、全てを満たすことがさらに好ましい。
【0060】
[VI 医療用リン酸カルシウム組成物の製造方法:特定の微量成分
次に、医療用リン酸カルシウム組成物の製造方法について説明する。
まず、[22]について説明する。銀又はリン酸銀を含む[20]、[21]などのリン酸カルシウム組成物は、(AH1)又は(AH2)の条件で製造できる。必要に応じて、(AH3)~(AH9)を選択条件とする特定条件で、より好ましい組成物が製造できる。
(AH1)と(AH2)とに共通する「体積が10 -12 以上の顆粒あるいはブロックである」との条件は組織親和性に優れるリン酸カルシウム組成物を製造するために必要な条件である。
(AH1)は、焼結法で製造できないリン酸カルシウム組成物の製造方法に関するものであり、「0.01質量%以上3質量%以下の銀又は銀化合物を含み、かつ、組成が炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸水素カルシウムの群から選ばれる一つであり、かつ、体積が10 -12 以上の顆粒あるいはブロックである原料カルシウム組成物を用いる」これらの原料カルシウムのうち、「原料カルシウム組成物が炭酸カルシウム以外の場合には、該組成物に炭酸基を付与する工程」を行い、該カルシウム組成物を炭酸カルシウムに組成変換させる。例えば、水酸化カルシウムの場合、水酸化カルシウムを二酸化炭素に暴露させる。
さらに、「リン酸塩水溶液又はリン酸塩とマグネシウム塩の混合水溶液に暴露して、銀又は銀化合物を含む、炭酸アパタイト、HPO 基を含むアパタイト、ウィトロカイト、リン酸水素カルシウムの群から選ばれる一つに組成変換させる工程」を含む。リン酸塩水溶液又はリン酸塩とマグネシウム塩の混合水溶液に暴露するには、単純に該水溶液に浸漬してもよく、スプレーなどで該水溶液を原料カルシウム組成物に噴霧暴露させてもよい。暴露工程によって、リン酸カルシウム組成物が製造できる。炭酸化工程とリン酸塩水溶液又はリン酸塩とマグネシウム塩の混合水溶液に暴露する工程と炭酸化工程とは同時に行ってもよい。
(AH2)は、リン酸カルシウム組成物である、アパタイト、リン酸三カルシウム、ウィトロカイト、リン酸八カルシウム、リン酸水素カルシウムの群から選ばれる原料カルシウム組成物を、銀イオンを含む水溶液に暴露して、原料カルシウム組成物にリン酸銀を形成させる工程を含む。例えば、リン酸三カルシウムを硝酸銀水溶液に浸漬すると、リン酸三カルシウムは一部溶解して、リン酸イオンとカルシウムイオンが遊離される。銀イオンとリン酸イオンから形成されるリン酸銀の溶解度はリン酸三カルシウムより小さいため、リン酸銀がリン酸三カルシウム組成物の表面に析出する。なお、リン酸三カルシウムが多孔体であり、硝酸銀水溶液が多孔体に浸透する場合には、硝酸銀水溶液が接触するリン酸三カルシウム表面にリン酸銀が析出する。銀イオンを含む水溶液の種類や濃度、浸漬時間などは特に限定されないが、硝酸銀又は炭酸銀が溶解度の関係で好ましい。
(AG1)又は(AG2)を満たすことが必須条件であるが、(AG3)~(AG10)をさらに満たすことによって、より好ましい医療用リン酸カルシウム組成物が製造できる場合がある。
(AH3)は、[20]の(AG4)に関する製造法である。水溶液の銀イオン濃度と浸漬時間などを調整することによっても内部と表層部の銀濃度が異なるリン酸カルシウム組成物の製造が可能であるが、銀イオン濃度の異なる水溶液を用いる方が、製造時間が短い。原料リン酸カルシウム組成物を第一水溶液に浸漬して内部に比較的低濃度のリン酸銀を析出させ、その後で第二水溶液に浸漬して表面に比較的高濃度のリン酸銀を析出させる場合が多いため、第一水溶液より第二水溶液の銀イオン濃度が高い必要がある。
(AH4)~(AH9)は、[20]の(AG5)~(AG10)を製造する際に必要な原料カルシウム組成物に関する条件である。
【0061】
[VI 医療用リン酸カルシウム組成物の製造方法:特定原料]
次に、[23]について説明する。[23]は、[19]~[21]のいずれか記載の医療用リン酸カルシウム組成物に関するものであり、特に[21]の(W4)~(W7)に関するものである。(W4)~(W7)の条件を満たす医療用リン酸カルシウム組成物は、(AI1)~(AI4)の条件を満たす炭酸カルシウム粉末をカルシウム原料として用いることによって達成される。
(AI1)の平均粒径は、2μm以上8μm以下が好ましく、3μm以上7μm以下がより好ましく、4μm以上6μm以下がさらに好ましい。
(AI2)の球形度は、0.9以上であることが好ましく、0.95以上であることがより好ましい。
(AI3)のMg含有量は、5×10 -4 質量%以上3×10 -3 質量%以下が好ましく、1×10 -3 質量%以上2.5×10 -3 質量%以下がより好ましく、1.5×10 -3 質量%以上2.5×10 -3 質量%以下がさらに好ましい。
(AI4)のSr含有量は、3×10 -3 質量%以上1.5×10 -2 質量%以下が好ましく、4×10 -3 質量%以上1.3×10 -2 質量%以下がより好ましく、5×10 -3 質量%以上1×10 -2 質量%以下がさらに好ましい。
(AI1)~(AI4)のいずれかの条件を満たすことが好ましいが、複数を満たすことがより好ましく、全てを満たすことがさらに好ましい。
【0062】
次に、[24]について説明する。本発明の医療用炭酸カルシウム組成物、あるいは、本発明の医療用炭酸カルシウム組成物の製造方法によって製造された医療用炭酸カルシウム組成物に、特定の条件でリン酸成分を付与する医療用リン酸カルシウム組成物の製造方法は有用である。
該付与法としては、医療用炭酸カルシウム組成物をリン酸塩水溶液などのリン酸成分を含む水溶液に浸漬する方法が好ましい。
炭酸カルシウム組成物へのリン酸成分の付与によって形成されるリン酸カルシウムの種類は溶液のpHや共存するイオンなどによって制御することが可能であり、炭酸アパタイト、水酸アパタイト、リン酸三カルシウム、ウィトロカイト、リン酸八カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウムなどを組成とする医療用リン酸カルシウム組成物が製造できる。これらの医療用リン酸カルシウム組成物を製造するにあたり、医療用炭酸カルシウムは炭酸基を組成に含むことから、炭酸基を組成に含む医療用炭酸アパタイト組成物は特に有用である。
医療用炭酸アパタイト組成物中の炭酸基の量はpHで制御することが可能である。これまでは1モル濃度のpHが8.9であるNaHPOあるいはpHが13.1であるNaPOが用いられてきた。しかしながらpHを8.9未満とすることによって医療用炭酸アパタイト組成物中の炭酸基量を制御できることがわかった。pHを8.9未満とすることによってこれまで製造されていた炭酸アパタイトより炭酸基含有量が小さい医療用炭酸アパタイト組成物を製造することができるが、pHが8.8ではその効果が限定的である。そのため、本発明においてはpHが8.5以上のリン酸成分を含む水溶液とpHが8.5未満のリン酸成分を含む水溶液に区分している。
さらに驚くべきことに、リン酸塩水溶液のpHを低くすると炭酸カルシウムからリン酸カルシウムへの溶解析出反応が早くなり、リン酸カルシウムの製造時間が短縮できることがわかった。この原因は炭酸カルシウムからリン酸カルシウムへの溶解析出反応においてpHが低い場合には溶解反応が早くなることに起因するためであると推察されるが、その詳細は解明されていない。
また、pHを5.5以下とすることによって炭酸カルシウムをリン酸水素カルシウムに組成変換することが可能であり、リン酸成分とマグネシウム成分の両者を含む水溶液とすることによってウィトロカイトなどのリン酸三カルシウムが製造できる。
リン酸塩のpHを低くするとリン酸カルシウムの製造時間が短くなるが、炭酸アパタイトを製造する場合、炭酸基量も少なくなる。炭酸基量を少なくせずに炭酸アパタイトの製造時間を短縮するにはpHが低いリン酸塩に炭酸成分を含有させればよい。ところが、炭酸成分濃度を1.0モル濃度より高くすると炭酸アパタイトが製造できないことがわかった。また、炭酸成分濃度を0.6モル濃度としても炭酸アパタイトの製造に時間がかかることがわかった。この詳細は解明されていないが、水溶液中に炭酸イオンが存在することによって炭酸カルシウムと炭酸アパタイトに対する過飽和度の差が小さくなり、炭酸アパタイトが形成されにくくなったためであると考えられる。
すなわち、該目的のためには、リン酸成分と0.5モル濃度以下の炭酸成分の両者を含むpHが8.5未満の水溶液が有用である。
さらに、リン酸成分と0.5モル濃度以下炭酸成分の両者を含む水溶液を用いて医療用炭酸カルシウム組成物にリン酸成分を付与すると、算術平均粗さ(Ra)が大きくなることがわかった。この機序は明らかにされていないが、溶液中に炭酸基が含まれることによって炭酸カルシウムと炭酸アパタイトに対する過飽和度の差が小さくなり、その結果、核形成が限定的となる。その結果、形成された炭酸アパタイトの成長が促進され、ハニカム構造体表面の算術平均粗さ(Ra)が大きくなったと考えられる。
これらの組み合わせから医療用炭酸カルシウム組成物にリン酸成分を付与する水溶液としては
(X1)リン酸成分を含むpHが8.5以上の水溶液
(X2)リン酸成分を含むpHが8.5未満の水溶液
(X3)リン酸成分と0.5モル濃度以下の炭酸成分の両者を含むpHが8.5以上の水溶液
(X4)リン酸成分と0.5モル濃度以下の炭酸成分の両者を含むpHが8.5未満の水溶液
(X5)リン酸成分とマグネシウム成分の両者を含む水溶液
の群から選ばれる少なくとも一つの水溶液が有用である。
【0063】
[VI 医療用リン酸カルシウム組成物の製造方法:組成物内部の気体の置換方法]
次に、[25]について説明する。上述したように、医療用炭酸カルシウム組成物をリン酸塩水溶液などに浸漬するなど暴露して医療用リン酸カルシウム組成物が製造されるが、上述したように、医療用炭酸カルシウム組成物から医療用リン酸カルシウム組成物の製造方法は溶解析出型反応を用いる。したがって、医療用炭酸カルシウム組成物が表面から溶解される必要がある。基本的には、医療用炭酸カルシウム組成物をリン酸塩水溶液などに浸漬すればよいが、医療用炭酸カルシウム組成物は、基本的にはマクロ気孔あるいはミクロ気孔である内部気孔を有する。そのため、内部気孔内の空気などの気体によって溶解反応が阻害される場合がある。その場合には、未反応の炭酸カルシウムが残ったリン酸カルシウム組成物となり、医療用リン酸カルシウム組成物としては好ましくない場合がある。反応の阻害を防止するには、医療用炭酸カルシウム組成物の内部気孔の中の気体を、リン酸成分を含む水溶液に置換すればよい。
すなわち、「(Y1)リン酸成分を含む水溶液に浸漬した医療用炭酸カルシウム組成物の気孔の気体の一部あるいは全部を、リン酸成分を含む水溶液に置換する工程」を行えばよい。
リン酸成分を含む水溶液に浸漬した医療用炭酸カルシウム組成物の気孔の気体の一部あるいは全部を、リン酸成分を含む水溶液に置換するには、いくつかの有用な工程があるが、基本的には医療用炭酸カルシウム組成物はリン酸成分を含む水溶液に濡れる材料であるため、「(Y2)リン酸成分を含む水溶液に浸漬した医療用炭酸カルシウム組成物に振動を与え、医療用炭酸カルシウム組成物の気孔の気体の一部あるいは全部を、リン酸成分を含む水溶液に置換する工程」も有効である。振動を与えるには例えば超音波振動子が有効である。
振動を与える工程に類似した工程として(Y3)医療用炭酸カルシウム組成物周囲のリン酸成分を含む水溶液を流動させ、医療用炭酸カルシウム組成物の気孔の気体の一部あるいは全部を、リン酸成分を含む水溶液に置換する工程も有用である。医療用炭酸カルシウム組成物周囲のリン酸成分を含む水溶液を流動させることによって、リン酸成分を含む水溶液が医療用リン酸カルシウム組成物の内部の気孔の表面を濡らすことを促進できる。
「(Y4)医療用炭酸カルシウム組成物を浸漬したリン酸成分を含む水溶液を入れた容器を減圧脱気することにより、医療用炭酸カルシウム組成物の気孔の気体の一部あるいは全部を、リン酸成分を含む水溶液に置換する工程」は、いわゆる減圧脱気に関するもので、減圧によって医療用炭酸カルシウム組成物の内部気孔の気体を減少させ、減圧を解除することによって周囲のリン酸成分を含む水溶液が医療用炭酸カルシウム組成物の内部気孔に導入される。減圧と減圧解除を繰り返すことは置換の程度を向上させる観点から好ましい。
「(Y5)医療用炭酸カルシウム組成物の内部気孔の気体の一部あるいは全部を、リン酸成分を含む水溶液に対する溶解度が空気より高い気体に置換する工程」も有用である。例えば、二酸化炭素は空気より、リン酸成分を含む水溶液に対する溶解度が高い。内部気孔を二酸化炭素に置換した医療用炭酸カルシウム組成物を、リン酸成分を含む水溶液に浸漬すると、二酸化炭素はリン酸成分を含む水溶液に溶解されるため、医療用炭酸カルシウム組成物の内部気孔の空気はリン酸成分を含む水溶液に置換される。
「(Y6)医療用炭酸カルシウム組成物の内部気孔の気体の一部あるいは全部を、水より接触角が小さく、かつ、水と相溶する溶媒で置換する工程」も有効である。例えば、エタノールは水より接触角が小さい。そのため、エタノールは医療用炭酸カルシウム組成物の内部気孔に浸透しやすい。エタノールで内部気孔の一部あるいは全部を満たされた医療用炭酸カルシウム組成物を、リン酸成分を含む水溶液に浸漬すると、エタノールは該水溶液と相溶し、拡散によって内部気孔の中のエタノールはリン酸成分を含む水溶液と置換される。水より接触角が小さく、かつ、水と相溶する溶媒は界面活性剤のように医療用炭酸カルシウム組成物に対するリン酸成分を含む水溶液の接触角を小さくするため、必ずしも医療用炭酸カルシウム組成物の内部気孔の気体の全部を置換する必要はなく、ごく一部で十分に機能する。
【0064】
[VI 医療用リン酸カルシウム組成物の製造方法:反応容器]
次に、[26]について説明する。医療用リン酸カルシウム組成物は、原料カルシウム組成物に炭酸成分を付与して製造された本発明の医療用炭酸カルシウム組成物に、リン酸成分を付与して製造される。一般的に、医療用材料は異物混入を防ぐ必要があり、簡便な製造工程の観点からも、材料を取り出すことなく、かつ、同一の反応容器を用いて製造工程を行うことが好ましい。
「反応容器」は特に限定されず、一般的な容器を用いることができるが、導入口と排出口とがある容器が好ましい。反応容器で、炭酸成分の付与、およびリン酸成分の付与を行う必要があるためである。炭酸成分の付与には、二酸化炭素などを反応容器内に導入するための導入口が必要である。また、反応容器内の空気を反応容器の外に排出するため、排出口が必要である。また、導入口から反応容器の中に圧力をかけ、反応容器の中の溶媒などを排出口から押し出すことも可能となる。
該容器としては、均一な反応を担保する観点から、クロマトグラフィーで用いるカラム形状の容器や、原料カルシウム組成物や医療用炭酸カルシウム組成物を入れるメッシュ容器を入れることが可能な反応容器が好ましい。カラム形状の容器の場合は、カラム形状の容器の中を気体あるいは溶液を流すことによって、該容器の中の組成物の均一な反応が担保される。メッシュ容器を入れることが可能な反応容器の場合、メッシュの中に気体や液体を流動させることによってメッシュ容器の中の組成物の均一な反応が担保される。
本工程によって、汚染を防止し、簡便な操作で医療用リン酸カルシウム組成物が製造できるため、「材料を取り出すことなく、かつ、同一の反応容器で、下記(Z1)~(Z4)、あるいは(Z1)、(Z3)、(Z4)、あるいは(Z1)、(Z3)をこれらの順番で連続して行うことを特徴とする医療用リン酸カルシウム組成物の製造工程で連続して行うことを特徴とする医療用リン酸カルシウム組成物の製造工程。」は有用な医療用リン酸カルシウム組成物の製造方法である。
「(Z1)原料カルシウム組成物に炭酸成分を付与して医療用炭酸カルシウム組成物を製造する工程」は、必須工程であり、原料カルシウム組成物を二酸化炭素あるいは炭酸イオンに暴露して、炭酸成分を付与する工程である。なお、前記(D9)のように、原料カルシウム組成物を気相で二酸化炭素あるいは炭酸イオンに暴露させて部分炭酸化を行い、その後で、該原料カルシウム組成物を液相で二酸化炭素あるいは炭酸イオンに暴露する工程もある。このような場合、原理的に、(D9)の後の工程と、(Z2)あるいは(Z3)とを連続して行うことが必須である。なお、前記(D9)の全ての工程を行うことが好ましい。
「(Z2)医療用炭酸カルシウム組成物の洗浄工程」は、選択工程である。例えば、造孔材を含む原料カルシウム組成物を、炭酸化して医療用炭酸カルシウム組成物を製造した後に、造孔材を洗浄除去する場合には有用な工程である。
原料カルシウム組成物に炭酸成分を付与して医療用炭酸カルシウム組成物を製造する工程であり、部分炭酸化と次の炭酸化を、材料を取り出すことなく、かつ、同一の反応容器を用いて行う必要はなく、部分炭酸化の次の炭酸化が対象とされる。しかしながら、部分炭酸化と次の炭酸化とを、材料を取り出すことなく、かつ、同一の反応容器を用いて行うことは好ましい。
「(Z3)医療用炭酸カルシウム組成物にリン酸成分を付与する工程」は、必須工程である。例えば、医療用炭酸カルシウム組成物をリン酸塩水溶液に浸漬すると、医療用炭酸カルシウム組成物にリン酸成分が付与されて、医療用リン酸カルシウム組成物が製造できる。
「(Z4)医療用炭酸カルシウム組成物の洗浄工程」は、選択工程である。前記(Z3)によって医療用リン酸カルシウム組成物が製造されるが、該組成物にはリン酸塩などが含まれており、該組成物以外の物質を除去する工程である。医療用リン酸カルシウム組成物の製造において洗浄工程は必要であるが、洗浄とサイズ調整を同時に行うため、ふるいなどの他の容器を用いる場合があるため、選択工程である。
【0065】
[VII 医療用水酸化カルシウム組成物]
次に、[27]、すなわち、医療用水酸化カルシウム組成物について説明する。
(AB1)~(AB3)の全てと、(AB4)~(AB8)の群から選ばれる少なくとも一つの条件とを満足することを特徴とする医療用水酸化カルシウム組成物は有用である。
なお、(AB1)、(AB2)、(AB4)、(AB5)、(AB6)、(AB7)、(AB8)、はそれぞれ、前記(A)、(B)、(V4)、(F)、(G)、(J)、(K)と同じである。
「(AB3)医療用組成物として、実質的に純粋な水酸化カルシウムである。」は、本発明の医療用カルシウム組成物に共通する事項であるが、(AB3)の要件は、組成が水酸化カルシウムであることである
【0066】
[XIII 医療用水酸化カルシウム組成物の製造方法:ハニカム構造体]
次に、[28]、すなわち、前記(AB4)の条件を満足する医療用水酸化カルシウム組成物を製造する工程について説明する。
医療用水酸化カルシウムハニカム構造体は、(AD1)と、(AD2)~(AD5)の群から選ばれる一つとを必須工程とし、(AD6)~(AD8)を選択工程として製造される。
なお、(AD1)、(AD6)、(AD7)、(AD8)はそれぞれ(E1)、(E2)、(E3)、(E4)と同じである。
「(AD2)脱脂工程」は、高分子材料含有水酸化カルシウム多孔体を、酸溶解残留物が1質量%以下となるように脱脂する工程であり、水酸化カルシウムが分解して酸化カルシウムとなったり、炭酸化して炭酸アパタイトとなったりしない条件で脱脂する必要がある。例えば、水酸化カルシウムが分解しない温度で、減圧して解重合などでモノマーとなった高分子材料などを除去すればよい。
「(AD3)酸化カルシウム経由水和工程」は、高分子材料含有水酸化カルシウム多孔体を、酸溶解残留物が1質量%以下となるように脱脂し、かつ、酸化カルシム多孔体とし、その後に、酸化カルシウム多孔体を水和させて水酸化カルシウム多孔体とする工程である。
「(AD4)炭酸カルシウム酸化カルシウム経由水和工程」は、高分子材料含有水酸化カルシウムを、二酸化炭素存在下で熱処理して高分子材料含有炭酸カルシウム多孔体とし、その後に、酸溶解残留物が1質量%以下となるように脱脂し、かつ、酸化カルシム多孔体とし、その後に、酸化カルシウム多孔体を水和させて水酸化カルシウム多孔体とする工程である。
「(AD5)炭酸カルシウム多孔体からの製造工程」は、高分子材料含有炭酸カルシウム多孔体を、酸溶解残留物が1質量%以下となるように脱脂し、かつ、酸化カルシム多孔体とし、その後に、酸化カルシウム多孔体を水和させて水酸化カルシウム多孔体とする工程である。
【0067】
[XIII 医療用水酸化カルシウム組成物の製造方法:顆粒結合多孔体]
次に、[29]、すなわち、前記(AB5)の条件を満足する医療用水酸化カルシウム組成物を製造する工程について説明する。
前記(AB5)の条件を満足する医療用水酸化カルシウム顆粒結合多孔体は、下記(AE1)および(AE2)と、前記(AD2)~(AD5)の群から選ばれる少なくとも一つとを必須工程として製造される。
「(AE1)導入工程」は、体積が10-12以上の高分子材料含有水酸化カルシウム顆粒を、反応容器に入れる工程である。
「(AE2)顆粒結合工程」は、反応容器内部の該顆粒を、熱処理することにより表面同士を熱的に軟化させて融着させる工程、該顆粒の表面を溶解することにより該顆粒の表面同士を結合させる工程、および可塑剤により該顆粒の表面同士を融合させる工程、のいずれかで、体積が3×10-11以上であり、かつ、最大径長さが50μm以上500μm以下の複数の顆粒が結合して形成される、複数方向に延びる複数の貫通孔を備えた顆粒結合多孔体を製造する工程である。
熱処理では高分子材料が軟化して顆粒同士が結合される。
該顆粒の表面を溶解するには、該顆粒を、該顆粒に含有される高分子を溶解する溶媒に暴露すればよい。例えば、高分子材料がアクリル樹脂とすれば、アセトンなどに接触させればよい。
可塑剤は高分子材料を軟化させる。可塑剤としては公知の可塑剤を制限なく用いることができる。
【0068】
[XIII 医療用水酸化カルシウム組成物の製造方法:酸化カルシウム多孔体を用いる製造方法]
次に、[30]、すなわち、原料として水酸化カルシウム多孔体あるいは炭酸カルシウム多孔体を用いて、医療用水酸化カルシウム多孔体を製造する方を製造する工程について説明する。
医療用水酸化カルシウム多孔体は、水酸化カルシウム多孔体あるいは炭酸カルシウム多孔体を、熱分解して酸化カルシム多孔体とし、その後に、酸化カルシウム多孔体を水和させることによって製造できる。
【0069】
X 医療用カルシウム組成物の製造方法:導入閉鎖工程又は導入工程
次に、[31]について説明する。複数の顆粒を結合させて顆粒結合多孔体を製造する導入閉鎖工程又は導入工程において、顆粒の形状は特に制限されず、球体や凹凸がある形状、破砕物などを用いることができる。また、緻密体や多孔体、中空体なども制限なく用いることができる。
しかしながら、製造される医療用炭酸カルシウム多孔体の貫通性や圧縮強度を向上させる観点から、「(AF1)顆粒の球形度が0.9以上である。」あるいは「(AF2)顆粒が中空である。」を満足する顆粒を導入封鎖工程又は導入工程に用いることが好ましい場合がある。
「(AF1)顆粒の球形度が0.9以上である。」は、球あるいは球に近い顆粒を用いることによって、顆粒の間に形成される気孔の連続性が向上することや、球状の顆粒同士は接触しやすいため、高い圧縮強度の多孔体が製造されることに起因する。
球形度は、0.9以上が好ましく、0.92以上がより好ましく、0.95以上がさらに好ましい。
また、「(AF2)顆粒が中空である。」を満足する顆粒の場合、中空構造の顆粒が結合して顆粒結合多孔体を形成するため、二重の気孔形状が備わる。このような特定形状の多孔体は、細胞や組織の遊走・伝導や骨への置換などの観点から特に優れる多孔体である場合がある。
また、顆粒を反応容器に入れる際に、「(AF3)反応容器の体積の105%以上の嵩体積の顆粒を反応容器に入れる。」ことも好ましい場合がある。
複数の顆粒が結合して形成される、複数方向に延びる複数の貫通孔を備えた顆粒結合多孔体の製造においては、顆粒を反応容器に入れ、反応容器から排出されないように、反応容器の開口部を閉鎖する導入閉鎖工程又は導入工程を行う。導入閉鎖工程又は導入工程の次に、該顆粒を膨張させたり、組成を変換させたりして顆粒を結合させる。多孔体形成には顆粒同士が何らかの手法で接触あるいは結合していることが必要であり、顆粒同士の接触面積を増大させることが、多孔体の圧縮強度の向上に有効である。また、該接触面積の増大には、顆粒間への圧縮応力の付加が有効である。顆粒間に圧縮応力を付加する方法としては、導入閉鎖工程又は導入工程において、反応容器の体積以上の嵩体積の該顆粒を反応容器に入れ、必要に応じて、反応容器から排出されないように、反応容器の開口部を閉鎖することが有効である。
原理的には反応容器の体積の100%を超える嵩体積の該顆粒を反応容器に入れることによって、顆粒間に圧縮応力が付加されるが、顆粒間に付加される圧縮応力を増大させる観点から、反応容器に入れる顆粒の嵩体積は、反応容器の体積に対して105%以上であることが好ましく、110%以上であることがより好ましく、120%以上であることがさらに好ましい。
【0070】
[X 骨欠損再生治療用キット]
次に、[32]、すなわち、「バテライトとα型リン酸三カルシウムとを含む固体部と、リン酸塩を含む溶液部を具備して構成され、該固体部と該溶液部を混錬すると、炭酸アパタイトを形成して硬化する骨欠損再建治療用キット。」について説明する。
医療用バテライト組成物や医療用炭酸アパタイトブロック組成物は、骨欠損部再建に有用であるが、ブロック状の場合には、骨欠損形態に成形することが煩雑である場合があり、顆粒状の場合には、骨欠損部から移動する場合がある。そのため、硬化して炭酸アパタイトを形成する骨欠損再建治療用キットは有用である。
一方、α型リン酸三カルシウム(αTCP)と、水などの溶液部とを混錬すると、溶解してカルシウムイオンとリン酸イオンが溶液中に形成される。該溶液は、カルシウム欠損型水酸アパタイトに対して、過飽和となり、該溶液からカルシウム欠損型水酸アパタイト結晶が析出し、該結晶の絡み合いで、カルシウム欠損型水酸アパタイト硬化体となる。しかしながら、カルシウム欠損型水酸アパタイトは、骨組成ではなく、例えば、骨組成である炭酸アパタイトに比較して破骨細胞性吸収に劣る。αTCPが溶解して溶液中に形成されるカルシウムイオンとリン酸イオンとが、炭酸イオンと共存すれば、カルシウム欠損型水酸アパタイト結晶ではなく、炭酸アパタイト結晶が形成され、炭酸アパタイト結晶の絡み合いで炭酸アパタイト硬化体が形成される。炭酸イオン供給源としては炭酸カルシウムが有用であるが、炭酸カルシウムのうち、安定相であるカルサイトは溶解速度が小さく、溶液中に十分な炭酸イオンを供給できない。そのため、カルサイトとαTCPの混合物を溶液で混錬した場合には、一部炭酸アパタイト結晶が析出するものの、カルシウム欠損型水酸アパタイト結晶の析出が優位となる。
一方、準安定相であるバテライトは、カルサイトと比較すると溶解速度が大きく、溶液中により多量の炭酸イオンを供給できる。そのため、バテライトとαTCPの混合物を溶液で混錬した場合には、カルシウム欠損型水酸アパタイト結晶の析出は少なく、炭酸アパタイト結晶の析出が優位となる。そのため、固体部としては、バテライトとαTCPとを含むことが必須である。
また、固体部を混錬する溶液部にはリン酸塩を含むことが必須である。これは、バテライトとαTCPから、カルシウムイオン、炭酸イオン、リン酸イオンがリン酸イオンを含む溶液に溶出することによって、該溶液が炭酸アパタイトに対して過飽和となり、比較的短時間で炭酸アパタイトを形成するため、適切な硬化時間が担保されるためである。
該リン酸塩は、溶解して溶液中にリン酸イオンを供給できるリン酸塩であれば特に制限されないが、NaH PO 、Na HPO 、Na PO ,KH PO 、K HPO 、K PO 、(NH )H PO 、(NH HPO 、(NH PO 及び、これらの混合塩は溶解度などの観点からさらに好ましい。また、溶液中のリン酸塩濃度としては、0.1モル濃度以上が好ましく、0.2モル濃度以上がより好ましく、0.4モル濃度以上がさらに好ましい。これは、リン酸塩濃度が高い方が、溶液の炭酸アパタイトに対する過飽和度が高くなるためである。
また、溶液のpHは特に制限されないが、組織親和性の観点から溶液のpHが6.0以上、9.0以下であることが好ましい。
【0071】
[X 骨欠損再生治療用キット:バテライト含有量]
次に、[33]について説明する。上記、欠損再建治療用キットの固体部の必須要件はバテライトとα型リン酸三カルシウムとを含有することである。このことによって、上記溶液部で練和すれば硬化して炭酸アパタイトが形成されるが、形成される炭酸アパタイトの量、炭酸アパタイト構造中の炭酸基の量、硬化体の機械的強度などの観点から、固体部に含まれるバテライトの含有量は10質量%以上60質量%以下であることが好ましく、15質量%以上50質量%以下であることがより好ましく20質量%以上40質量%以下であることがさらに好ましい。
【0072】
[X 骨欠損再生治療用キット:溶液部]
次に、[34]について説明する。溶液部はリン酸塩を含むことが必須であるが、カルボキシ基を複数有する酸、亜硫酸水素塩、セルロース誘導体、デキストラン硫酸塩、コンドロイチン硫酸塩、アルギン酸塩、グルコマンナンの少なくとも一つを含むことが好ましい。なお、溶液部にはリン酸塩が必須であるため、カルボキシ基を複数有する酸と、カルボキシ基を複数有する酸の塩は実質的に同じである。
カルボキシ基を複数有する酸とは、ジカルボン酸やトリカルボン酸が例示される。ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、イタコン酸、フタル酸、グルタル酸、マレイン酸が例示され、トリカルボン酸としてはアコニット酸が例示される。
溶液部に、カルボキシ基を複数有する酸を添加すると、硬化が短くなる。これは、カルボキシ基を複数有する酸が、αTCPあるいはバテライトとキレートするため、固体部を溶液部で練和すると、キレート反応による硬化が進行するためと考えられる。
亜硫酸水素塩としては、亜硫酸水素ナトリウムや亜硫酸水素カリウムが例示される。亜硫酸水素塩の作用機序は十分に解明されていないが、溶液部に亜硫酸水素塩を含むと硬化時間が短くなる。
セルロース誘導体、デキストラン硫酸塩、コンドロイチン硫酸塩、アルギン酸塩、グルコマンナンは溶液部に添加すると粘性が得られる。これによって固体部と溶液部を練和した場合の操作性が向上する。
セルロース誘導体はセルロースに化学修飾し溶媒への溶解性を付与したもので、カルボキシメチルセルロール、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース及びこれらの塩などが例示される。溶液部にセルロース誘導体を添加すると、溶液の粘度が増大し、その結果、固体部と練和する際の操作性が向上する。セルロース誘導体の添加濃度は重合度などによって異なるが、一般的に2質量%以下であることが好ましい。
これら添加物を添加した溶液で固体部を練和したペーストは、ペーストが体液に接触した際に崩れる性質を抑制できる場合がある。これは、硬化前のペーストに水分が浸透することが崩れる原因であるためであると考えられる。すなわち、ペーストの粘度を上げてペースト内部への水分の浸透を抑制したり、硬化を促進したりすることによって水による崩壊を抑制できると考えられる。
【0073】
[X 骨欠損再生治療用キット:バテライトの体積]
次に、[35]について説明する。固体部に含まれるバテライトの体積は特に限定されないが、体積が10 -12 以上であるバテライトを固体部に含む骨欠損再建治療用キットは、硬化体の機械的強度が大きい場合があるため、好ましい。機械的強度増大の機序は解明されていないが、体積が10 -12 以上であるバテライトが複合材料におけるフィラーと同じ役割を担っていると推察される。また、体積が10 -12 以上であるバテライトは、αTCPとの反応で完全には消費されない。すなわち、炭酸アパタイトで被覆されたカルサイトが硬化体内に形成される。炭酸アパタイト表面に被覆された炭酸カルシウムは、カルシウムイオンを遊離することによって骨伝導性を高くする場合があるため有用である。体積が10 -12 以上であるバテライトは、固体部に含まれるバテライト中、10質量%以上含まれることが好ましく、20質量%以上含まれることが好ましい。
【0074】
[X 骨欠損再生治療用キット:バテライトの体積]
次に、[36]について説明する。一方で、硬化体への多孔性付与より形成される炭酸アパタイトの純度又は含有量を増大させたい場合には、固体部に含まれるバテライトの平均粒径が6μm以下であることが好ましい。該粒径は4μm以下がより好ましく、2μm以下がさらに好ましい。これは、粒径が小さいと比表面積が大きく、溶液への炭酸イオンとカルシウムイオンの溶解速度が増大し、炭酸アパタイト形成が促進されるためであると考えられる。一方、粒径が小さくなると骨欠損再建治療用キットを練和した場合の調度が悪くなる場合がある。そのため、該粒径は0.5μm以上、1μm以上であることが好ましい場合がある。
【0075】
以下、実施例を用いて更に詳細に本発明を説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
一般的な条件は下記の通りである。なお、この条件と異なる場合には個別の実施例あるいは個別の比較例に記載した。
【0076】
<原料>
本実施例および比較例において、特に記載したもの以外は、水酸化カルシウムは宇部マテリアル社製超高純度品(CSH)、炭酸カルシウムは平均粒径が5μmの堺化学工業社製かるまる、α型リン酸三カルシウムは太平化学産業社製α-TCP-B、超硬石膏はジーシー社製ニューフジロックホワイトから硫酸カルシウム以外の成分を除いた特注品を用いた。焼石膏とは硫酸カルシウム半水和物である。いずれも(B)を満たす。
それ以外のものも、全て特級試薬を用いた。したがって、本実施例および比較例において製造された材料はすべて人工材料である
水酸化カルシウム球は、結合剤としてクラレ社製クラレポバールPVA-205Cを0.5質量%添加した水酸化カルシウムをスプレードライ法で球状化し、200μmのふるいを通過し、100μmのふるいを通過しない水酸化カルシウム球をふるい分けで製造した。スプレードライでは表面張力によって球が製造される。また、乾燥の際に周囲から乾燥させるためか、中空球が製造された。製造された水酸化カルシウム球を電気炉にて毎分5℃で1000℃まで昇温、1000℃で6時間加熱し、炉冷して製造した。
ハニカム構造体の製造においては、原料カルシウム組成物を、株式会社長峰製作所製ワックス系バインダーと質量比で75:25に混合した。その後、株式会社東洋精機製作所製ラボプラストミルにハニカム構造形成用型を取り付け、押出成形を行った。基本的には、押出成形で製造される高分子材料含有原料カルシウム組成物を組成とし、外周側壁を有する円柱状のバインダー含有原料カルシウム組成物のハニカム構造体を製造し、脱脂、必要に応じて炭酸化や外周側壁等の除去を行った。
<反応容器>
特に記載していない場合は、直径6mm、高さ3mmの分割型を反応容器として用いた。該反応容器の下面はガラス板で閉鎖しており、上面が開口される。開口した上面から原料を該反応容器に導入し、ガラス板で閉鎖すれば原料が反応容器から排出されないようになるが、水や水蒸気は隙間から反応容器内部に浸透することができる。以下、簡単のため、該反応容器を、直径6mm-高さ3mmの分割型反応容器という。
なお、実施例のカルシウム組成物、リン酸カルシウム組成物および原料カルシウム組成物の体積は、すべて3×10-11以上であったため、実施例および比較例において体積の記載を省略する場合がある。
90%メタノールとは、メタノールと水とを90体積%と10体積%で混合したものであり、90%エタノールとは、エタノールと水とを90体積%と10体積%で混合したものであり、90%アセトンとはアセトンと水とを90体積%と10体積%で混合したものである。
「4℃の90%メタノールで炭酸化」とは、90%メタノールを含む4℃の二酸化炭素を、原料カルシウム組成物を入れた4℃の容積500mLの容器内に毎分100mLで導入することである。容器の容積が異なる場合には導入量を比例計算して導入量を決定した。このことによって、原料カルシウム化合物の周囲に4℃の90%メタノールを流動させる。過剰な二酸化炭素は、容器の排出口から排出させ、7日間反応させ、乾燥させた工程を言う。
<粉末X線回折解析:XRD解析>
本発明において、組成分析はBRUKER製D8 ADVANCE型粉末X線回折装置によって行った。出力は40kV、40mA、X線源はCuKα(λ=0.15418nm)とした。XRD解析で得られたパターンをXRDパターンという。
医療用炭酸カルシウム組成物中のバテライト、カルサイトの含有量はXRDパターンピーク面積比から計算する。バテライトのピークとしては図3に示すバテライトの110面、112面、114面のピーク面積、カルサイトのピークとしては図3に示すカルサイトの104面のピーク面積を用いる。
医療用炭酸カルシウム組成物中にバテライトおよびカルサイト以外の物質が存在する場合は、内標準物質法によってバテライト、カルサイトの含有量を計算する。
<平均粒径>
100mLの蒸留水に粉末を分散させ、周波数45KHz―100Wの超音波洗浄機による分散を30秒行った後に1分以内にレーザ回折式粒度分布測定装置(島津社製、SALD-300V)を用いて粒度分布を求め、粒度分布における積算値50%での粒径を平均粒径とした。
<算術平均粗さ(Ra)>
材料表面の算術平均粗さ(Ra)はKeyence社製、カラー3Dレーザ顕微鏡 VK-9710で測定した。
<水銀圧入法による細孔分布測定>
該細孔分布測定は島津製作所製 オートポア9420を用いて測定した。計算に用いた水銀と材料の接触角などは前記の通りである。
<酸溶解残留物>
酸溶解残留物は炭酸カルシウム等を該炭酸カルシウム等の20モル等量となる体積の1モル濃度の塩酸に溶解した際の残留物とし、炭酸カルシウム等の質量に対する該乾燥質量を%表示した。
例えば、0.2gの炭酸カルシウムを組成とする試料の場合、1モル濃度の40mL塩酸水溶液に溶解し、該混合物をろ過、水洗した。ろ過されなかった酸溶解残留物を乾燥後に質量測定し、該質量の試料質量に対する比をパーセント表記した。
酸溶解残留物は高分子材料を含む原料カルシウム組成物の場合にのみ意味がある数値であるため、高分子材料を含まない原料カルシウム組成物を用いた場合には省略する場合がある。
<圧縮強度>
機械的強度の指標としては圧縮強度を測定した。島津製の万能試験機(AGS-J型)によって水酸化カルシウムブロック製造物の圧縮強度を測定した。毎分10mmのクロスヘッドスピードで試料を破壊し、破壊に至る最大力から圧縮強度を測定した。
<体積>
製造された円柱状の組成物の嵩体積は直径と高さを測定して計算して算出した。他の形態の場合も同様である。なお、比較例3を除き、実施例および比較例で製造された全ての材料の体積は10-12以上であったため、実施例および比較例に記載を省略している場合がある。
<抗菌性と細胞毒性試験>
抗菌性はJIS Z2801に準拠して行った。試験株菌には表皮ブドウ球菌(NBRC12993)を用いた。1/500普通ブイヨン培地を用いて、菌数を4.35×10 CFU/mLに調整した、該菌液を試料表面に播種後、試料片面をポリエチレンフィルムで被覆し、37℃、相対湿度90%で24時間培養を行った。培養後、菌液を回収し、必要に応じて希釈を行い、寒天平板培地法によって菌数をカウントした。
細胞毒性試験は、ISO10993-5:2009に準拠して行った。すなわち、試料表面にMC3T3-E1細胞を1×10 個播種し、37℃、二酸化炭素濃度5vol%のインキュベータ内でイーグル最小必須培地 α改変型と10%ウシ胎児血清と1%抗生物質の混合溶液を培養培地として用いた。24時間間培養後、2%グルタルアルデヒドで固定、Hoechst染色し、細胞数をカウントした。細胞生存率が70%以下の場合は細胞毒性があり、細胞生存率が70%を超える場合は細胞毒性なしとした。
<骨欠損再建治療用キットの物性評価>
骨欠損再建治療用キットの硬化特性は、37℃、相対湿度100%の条件で測定した。硬化時間はビカー針法で測定し、間接引張強度は硬化してから24時間後に測定した。硬化体の組成はXRD解析およびFT-IR解析から分析した。
【0077】
(実施例1)
和光純薬製試薬特級の水酸化カルシウム粉末を型に入れ、20MPaの圧力で一軸加圧して、直径6mmφ、高さ9mmの水酸化カルシウム圧粉体を製造した。
次に、500mLの反応容器に90%メタノール100mLを入れ、試料と溶媒が接触しないように設置したメッシュの上に水酸化カルシウム圧粉体を置き、4℃とした。
該反応容器の90%メタノール部にバブラーを通して二酸化炭素を毎分100mL導入し、反応容器上部にある排出用の弁から排出させた。このことによって水酸化カルシウム圧粉体は90%メタノールを含む二酸化炭素に暴露され、水酸化カルシウム圧粉体周囲を、90%メタノールを含む二酸化炭素が流動する。
なお、メタノールはカルサイト形成あるいはカルサイト結晶の成長を抑制し、相対的にカルサイト以外の炭酸カルシウム形成を促進する。
水酸化カルシウムは硬化して、体積2.5×10-4のブロックが製造された。また、水酸化カルシウム圧粉体周囲を、90%メタノールを含む二酸化炭素が流動して製造したことから、水酸化カルシウムと二酸化炭素の反応で副生した水は水酸化カルシウム圧粉体の内部から蒸発して除去されている。
XRD解析(図3)から暴露期間を2日間とした場合には未反応の水酸化カルシウムが認められたが、暴露期間を7日間とした場合、組成はバテライト含有量が97質量%、カルサイト含有量が3質量%である純粋な炭酸カルシウムであることが確認された。酸溶解性残留物は0質量%であった。
これらの結果から本発明の医療用バテライト組成物が製造できたことが確認された。
なお、該医療用バテライト組成物の気孔率は45%であり、20質量%以上のバテライト含むため、多形による定数は0.01である。基準圧縮強度は0.23MPaと計算されたが、該組成物の圧縮強度は24MPaであり、基準圧縮強度以上であることも確認された。
次に、該医療用バテライト組成物をpHが8.9である1モル濃度NaHPO水溶液に80℃で3日間浸漬することによって、該医療用バテライト組成物にリン酸塩を付与した。
製造された組成物の体積は2.5×10-4であり、XRD解析(図4)、および赤外分光スペクトルで炭酸基のピークが検出されたことから、組成は純粋な炭酸アパタイトであることが確認された。元素分析の結果、炭酸基量は10.8質量%であった。また、酸溶解性残留物は0質量%であった。
気孔率は42%であり、基準圧縮強度は29MPaと計算されたが、該組成物の圧縮強度は32MPaであり、基準圧縮強度以上であることが確認された。
これらから、医療用バテライト組成物にリン酸塩を付与することによって医療用炭酸アパタイト組成物が製造されることが確認された。
【0078】
(比較例1)
90%メタノールの代わりに水を用いた以外は実施例1と同一な方法で水酸化カルシウム圧粉体に二酸化炭素を暴露した。
水酸化カルシウム圧粉体を7日間二酸化炭素に暴露すると水酸化カルシウムは硬化して、体積2.5×10-4のブロックが製造された。また、XRD解析からブロックの組成はカルサイト含有量が98質量%、未反応の水酸化カルシウムが2質量%であることがわかった。酸溶解残留物は0質量%であった。
水銀圧入法測定で、該組成物における水銀圧入法測定で、細孔径6μm以下の細孔容積に対する細孔径1μm以上6μm以下の細孔容積の比は0%であった。
また、気孔率は44%であり、基準圧縮強度は25MPaと計算されたが、該組成物の圧縮強度は22MPaであり、基準圧縮強度未満であった。また、の(D)~(K)のいずれにも該当しなかったため、製造されたカルサイト組成物は本発明に含まれない材料である。
実施例1と本比較例との比較から、カルサイト形成あるいはカルサイト結晶の成長を抑制し、相対的にカルサイト以外の炭酸カルシウム形成を促進する工程によって、20質量%以上のバテライトを含む炭酸カルシウムが製造できること、有機溶媒であるメタノールは該工程に有用であること、バテライト形成がカルサイト形成より早く進行することがわかった。
次に、該カルサイトブロックを80℃の2モル濃度リン酸水素二ナトリウムに3日間浸漬することによって、該医療用バテライト組成物にリン酸塩を付与した。
製造された組成物の体積は2.5×10-4であり、酸溶解残留物は0質量%であった。しかし、XRD解析からアパタイトが形成されているものの、原料であるカルサイトが残存していることが確認された。
実施例1と本比較例との比較から、医療用バテライト組成物はカルサイト組成物に比較して反応性に富み、アパタイト製造に有用であることが確認された。
【0079】
(比較例2)
特許文献8の実施例11と同じ製造方法を実施した。篩分けされた1~2mmの硫酸カルシウム連通多孔体無水和物顆粒を、4℃の2モル濃度炭酸ナトリウム水溶液50mLに14日間浸漬した。XRD解析で組成分析を行うと、特許文献8の図3b)と同じXRDパターンが得られ、炭酸カルシウムの多形はカルサイトが83質量%とバテライトが17質量%であった。バテライトの含有量が20質量%以下であった。また、の(D)~(K)のいずれにも該当しなかったため、製造された炭酸カルシウム組成物は本発明に含まれない材料である。
実施例1と本比較例との比較から、メタノールを用いる工程に代表される、カルサイト形成あるいはカルサイト結晶の成長を抑制し、相対的にカルサイト以外の炭酸カルシウム形成を促進する工程の有用性が明らかになった。
【0080】
(比較例3)
実施例1で製造した水酸化カルシウム圧粉体を4℃の2モル濃度炭酸ナトリウム水溶液50mLに浸漬した。浸漬直後から圧粉体は崩れ粉末となった。粉末は、体積が10-12未満であった。したがって製造されたカルサイト粉末は本発明に含まれない材料である。
実施例1、比較例1および2と本比較例の比較から、4℃の2モル濃度炭酸ナトリウム水溶液を用いて炭酸化する場合には、形成されるバテライト含有量が限定的であるだけでなく、水溶液に浸漬しても崩れない硫酸カルシウムブロックなどを用いる必要があり、水酸化カルシウム圧粉体からバテライトブロックを製造できない。したがって、本発明のカルサイト形成あるいはカルサイト結晶の成長を抑制し、相対的にカルサイト以外の炭酸カルシウム形成を促進する工程によって医療用バテライト組成物を製造する工程が優れることがわかった。
【0081】
(実施例2)
<1.原料水酸化カルシウム組成物の製造>
水酸化カルシウム粉末を型に入れ、5MPaの圧力で一軸加圧して、直径6mmφ、高さ9mmの水酸化カルシウム圧粉体を製造した。
また、該水酸化カルシウム粉末とエタノールとを混液比1.0で練和した水酸化カルシウムペーストを5MPaで圧粉し、水酸化カルシウムペースト圧粉体を製造した。
また、該原料水酸化カルシウムペーストを型である内径5mm、長さ5mmのシリコーンチューブに填入して、型に入れたカルシウムペースト組成物を製造した。
また、該水酸化カルシウムペーストと目開きが、100μmのふるいを通過して、目開きが50μmのふるいを通過しなかった造孔材である塩化ナトリウム顆粒とを混合し、5MPaの圧力で一軸加圧して、直径6mmφ、高さ9mmの(AB6)を満たす塩化ナトリウム顆粒含有原料水酸化カルシウムペースト圧粉体を製造した。いずれも(AB1)~(AB3)の全ての条件を満足していた。
また、該水酸化カルシウム圧粉体の一部を用いて、水酸化カルシウム圧粉体顆粒を製造した。すなわち、該水酸化カルシウム圧粉体をメスで突くようにして粉砕し、目開き2mmのふるいを通過して、目開き1.18mmを通過しない水酸化カルシウム圧粉体顆粒を製造した。該顆粒は、短径が1mm以上5mm未満であった。
また、乳酸グリコール酸共重合体の繊維を挟んで該水酸化カルシウム粉末を5MPaの圧力で一軸加圧して、直径2mmφ、高さ2mmの水酸化カルシウム圧粉体を製造、水酸化カルシウム圧粉体から2mm離れた部位が端になるように同様の工程で別の水酸カルシウム圧粉体を製造した。この工程を繰り返し、(AB8)を満たす直径2mmφ、高さ2mmの水酸化カルシウム圧粉体の中央部を繊維が通り、繊維によって原料水酸化カルシウム圧粉体が2mm離れて結合している数珠状の繊維結合原料水酸化カルシウム圧粉体を製造した。
製造した水酸化カルシウム組成物はいずれも(AB1(AB3)を満たしていたため、上記(AB6)、(AB8)を満たす原料水酸化カルシウム組成物については、医療用水酸化カルシウム組成物が製造できたことを確認した。
<2.反応容器への原料カルシウム組成物等の設置>
反応容器として、アズワン社製のステンレス加圧容器(TA125N)を用いた。該反応容器には3つのネジ穴(穴A、穴B、穴C)と上蓋がある。ピスコ社製チューブ継手を用いて、穴Aからは、該反応容器の底まで届くようにパイプを設置、穴Bからは、反応容器の蓋から下方向に5cmとなるようなパイプを設置、穴Cからは、外部から反応容器にファンの電源コードを通し、チューブ継手内部をエポキシ樹脂で封鎖した。穴Aと穴Bとは、導入口と排出口として機能する。
該反応容器に90%エタノールとスターラーピースを入れた。次に、原料組成物を入れたメッシュ容器を、90%エタノールに接しないように設置した。メッシュ容器の上にファンを設置した。ファンは電源を入れるとメッシュ容器側に送風される。
<3.二酸化炭素置換工程>
該反応容器の蓋を閉じた状態で、二酸化炭素ボンベから穴Aを通して二酸化炭素を反応容器内に導入した。穴Bから反応容器の中の空気を排出し、反応容器中の空気を二酸化炭素に置換した。
<4.部分炭酸化工程>
次に、穴Bを閉鎖し、二酸化炭素ボンベ減圧弁で反応容器中の二酸化炭素圧力を大気圧に加えて、100KPaとし、ファンを回した。このことによって、90%エタノールを含む二酸化炭素が、原料カルシウム組成物の周囲を流動した。
穴Aを封鎖した場合には、原料カルシウム組成物への炭酸成分の付与に伴い、反応容器内の二酸化炭素が消費され圧力が低下したが、二酸化炭素ポンベの減圧弁は、設定した圧力以下となると二酸化炭素を供給するため、反応容器内の二酸化炭素圧力は大気圧に加えて100KPaで一定に保持された。
24時間後の組成をXRDで分析したところ、いずれもバテライト、微量のカルサイトを含む水酸化カルシウムであった。造孔材である塩化ナトリウムおよび繊維を除いた組成は、水酸化カルシウム圧粉体、水酸化カルシウム圧粉体顆粒、繊維結合原料水酸化カルシウム圧粉体の場合、バテライト含有量は72質量%、カルサイト含有量は3質量%、水酸化カルシウム含有量は25質量%であり、水酸化カルシウムペースト圧粉体、型に入れたカルシウムペースト組成物、塩化ナトリウム顆粒含有原料水酸化カルシウムペースト圧粉体の場合、バテライト含有量は62質量%、カルサイト含有量は4質量%、水酸化カルシウム含有量は34質量%であった。
未反応水酸化カルシウムが残存しているが、原料カルシウム組成物は部分的に炭酸化されており、90%エタノールに浸漬しても崩れず形態を保てる状態であった。
<5.炭酸化工程>
反応容器の蓋を開け、ファンを取り出した。
次に、メッシュ容器が完全に浸漬され、かつ、穴Bから設置されたパイプには接触しないように90%メタノールを追加した。前記、<二酸化炭素置換工程>を再度行った後で、穴Bを閉鎖した。
次に、二酸化炭素ボンベの減圧弁で反応容器中の二酸化炭素圧力が大気圧に加えて、100KPaとなるように加圧し、穴Aは開いた状態でスターラーを回転させた。
炭酸化工程を始めてから6日後に、穴Aに接続されている二酸化炭素ボンベとの接続を解除し、穴Bを開けて加圧状態から大気圧状態に戻した後で、穴Bから空気を該反応容器に導入して、反応容器中の溶媒を穴Aから排出した。次に、穴Aを閉鎖し、ネジ穴Bからポンプを用いて反応容器内を減圧することによって医療用バテライト組成物を乾燥させた。乾燥後、ポンプを止めて、ネジ穴Aから該反応容器に空気を導入し、大気圧とした。
別途、XRDで組成分析したところ、造孔材である塩化ナトリウムおよび繊維を除いた組成は、水酸化カルシウム圧粉体、水酸化カルシウム圧粉体顆粒、繊維結合原料水酸化カルシウム圧粉体の場合、バテライト含有量は95質量%、カルサイト含有量は5質量%であり、水酸化カルシウムペースト圧粉体、型に入れたカルシウムペースト組成物、塩化ナトリウム顆粒含有原料水酸化カルシウムペースト圧粉体の場合、バテライト含有量は93質量%、カルサイト含有量は7質量%であった。
塩化ナトリウム顆粒含有原料水酸化カルシウムペースト圧粉体から製造された炭酸カルシウム組成物には、50μm以上、100μm以下の複数の気孔の集積が確認されたが、最大径長さが100μmを超える気孔はなかった。また、水銀圧入法測定による10μm以下の細孔容積は0.53cm /gであった。
いずれも水酸化カルシウムは検出されなかった。また、繊維を除いた酸溶解残留物はいずれも0質量%であった。
したがって、水酸化カルシウム圧粉体、水酸化カルシウムペースト圧粉体、型に入れた原料カルシウムペーストからは(D)を満足する医療用バテライトブロックが製造されたことが確認された。
また、塩化ナトリウム顆粒含有原料水酸化カルシウムペースト圧粉体からは(D)と(G)の条件を満足する医療用バテライト顆粒が製造されたことが確認された。
また、該数珠状の繊維結合原料水酸化カルシウム圧粉体からは、(K)を満足する医療用バテライト顆粒が製造されたことが確認された。
<6.リン酸成分付与工程>
メッシュ容器がつかるように、80℃のpHが8.9である1モル濃度のNaHPO水溶液を穴Aから反応容器内部に導入した。
穴Aを封鎖し、ダイヤフラムポンプを用いてネジ穴Bから反応容器内の空気を減圧し、その後、穴Bから空気を導入した。この操作によって医療用炭酸カルシウム組成物の内部気孔の中の空気が脱気され、医療用炭酸カルシウム組成物の内部気孔にも該NaHPO水溶液が満たされた。
次にスターラーピースを回転させ、反応容器の温度を80℃に保持した。
<7.洗浄乾燥工程>
リン酸成分付与工程の7日後に、穴Bから空気を導入し、穴Aから該NaHPO水溶液を排出した。次に、穴Aから80℃の水を反応容器に導入し、穴Bから水を排出させることによって製造物を洗浄した。
次に、穴Bから空気を導入し、穴Aから水を排出した。穴Aを封鎖し、反応容器の温度を80℃に保持したままで、ポンプを用い、穴Bから空気を排出し、製造物を減圧乾燥させた。
XRD解析、および赤外分光スペクトルで炭酸基のピークが検出されたことから、いずれも組成は純粋な炭酸アパタイトであることが確認された。元素分析の結果、炭酸基量は10.8質量%であった。また、酸溶解性残留物は0質量%であった。また、いずれも体積は、体積が10 -12 以上であった。
これらの分析結果から、原料水酸化カルシウム圧粉体および原料水酸化カルシウムペースト圧粉体、型に入れた原料カルシウムペーストからは、(V1)~(V3)の全ての条件を満足する医療用炭酸アパタイトブロックが製造されたことが確認された。
塩化ナトリウム顆粒含有原料水酸化カルシウムペースト圧粉体から製造した炭酸カルシウム組成物から製造した炭酸アパタイト組成物は、気孔形態を保っており、50μm以上、100μm以下の複数の気孔の集積が確認されたが、最大径長さが100μmを超える気孔はなかった。また、水銀圧入法測定による10μm以下の細孔容積は0.80cm /gであった。
造孔材である塩化ナトリウム顆粒が溶解して、(V6)を満たす、気孔集積型の医療用炭酸アパタイト多孔体ブロックが製造されたことが確認された。
また、該数珠状の繊維結合原料水酸化カルシウム圧粉体からは、数珠状の(V10)を満たす、繊維結合医療用炭酸アパタイトブロックが製造されたことが確認された。
【0082】
(実施例3)
実施例2の<1.原料カルシウム組成物の製造工程>で製造した水酸化カルシウム圧粉体を用い、実施例2の<2.反応容器への原料カルシウム組成物等の設置>、<3.二酸化炭素置換工程>を行った後、<4.部分炭酸化工程>における反応時間を7日間に延長して炭酸化を行った。
7日後に製造物の組成をXRD解析で分析したところ、95質量%のバテライトと4質量%のカルサイト、1質量%の水酸化カルシウムであった。
実施例2と本実施例の比較から、気相での炭酸化のみでも原料水酸化カルシウム圧粉体から医療用バテライト組成物を製造できるが、1質量%の未反応水酸化カルシウムが残存することから、気相での炭酸化だけで医療用バテライト組成物を製造するよりも、気相で部分炭酸化を行い、次に液相で炭酸化をさせる方が、より純度の高い医療用バテライト組成物が製造できることがわかった。
【0083】
(比較例4)
ファンを回転させずに、実施例3と同じ工程を行った。
7日後に製造物の組成をXRD解析で分析したところ、71質量%のバテライト、4質量%のカルサイトと、25質量%の水酸化カルシウムとの混合物であった。
ファンによって、90%エタノールを含む二酸化炭素が原料カルシウム組成物の周囲を流動するようにした実施例3では1日後に72質量%のバテライト、3質量%のカルサイト、25質量%の水酸化カルシウムとなっている。すなわち、閉鎖系の反応容器において、原料カルシウム組成物周囲に有機溶媒を含む二酸化炭素あるいは炭酸イオンを流動させないと原料カルシウム化合物の炭酸化が遅いことがわかった。
また、原料水酸化カルシウム圧粉体の内部で形成された水が除去されないため、バテライトからカルサイトへの相転移が起り、バテライトの含有量が少なくなることもわかった。
すなわち、閉鎖系の反応容器による原料カルシウム化合物からの医療用バテライト組成物の製造においては、エタノールなどのカルサイト形成あるいはカルサイト結晶の成長を抑制し、相対的にバテライト形成を促進させる物質を二酸化炭素とともに原料カルシウム組成物周囲に流動させ、同時に、原料カルシウム組成物と二酸化炭素の反応で副生される水を蒸発などで除去させることが有用であることがわかった。
【0084】
(実施例4)
<1.原料水酸化カルシウム組成物の製造>
水酸化カルシウムと100μmのふるいを通過して、目開きが50μmのふるいを通過しなかった造孔材である硝酸アンモニウム顆粒とを硝酸アンモニウムの含有量が20質量%となるように混合し、5MPaの圧力で一軸加圧して、直径6mmφ、高さ9mmの(AB7)を満たす硝酸アンモニウム顆粒含有原料水酸化カルシウム圧粉体を製造した。
<2.反応容器への原料カルシウム組成物等の設置>
実施例2の反応容器を用いた。ただし、該反応容器に90%エタノールとスターラーピースは入れずに、和光純薬社製炭酸アンモニウム約10gを入れた。
次に、該圧粉体を入れたメッシュ容器を、炭酸アンモニウムに接しないように設置した。また、メッシュ容器の上にファンを設置した。
<3.二酸化炭素置換工程>
実施例2と同じ工程を行った。
<4.炭酸化工程>
次に、穴Bを閉鎖し、反応容器を70℃に加熱した。なお、炭酸アンモニウムは58℃で二酸化炭素とアンモニアに分解することが知られている。
二酸化炭素ボンベ減圧弁で反応容器中の二酸化炭素圧力を大気圧に加えて、100KPaとし、ファンを回した。このことによって、アンモニアを含む二酸化炭素が、原料カルシウム組成物の周囲を流動した。
7日後に、別途、製造物の組成をXRDで分析したところ、バテライトが91質量%、カルサイトが9質量%であった。
<5.造孔材除去工程>
反応容器から製造物を取出し、25℃で100mLのエタノールに浸漬した。
1時間毎にエタノールを5回取り換えると造孔材である硝酸アンモニウムが完全に除去された。また、製造物の組成をXRDで分析したところ、バテライトが91質量%、カルサイトが9質量%であった。水銀圧入法測定による10μm以下の細孔容積は0.49cm /gであった。
このことから、(G)を満たす医療用バテライト気孔集積型多孔体が製造されたことが確認された。
【0085】
(実施例5)
90%メタノールの代わりに90%アセトンを用いる以外は実施例1と同じ条件でバテライト含有組成物を製造した。
7日間炭酸化して製造された組成物の体積は2.5×10-4であった。また、XRD解析からバテライト含有量が38質量%、カルサイト含有量が62質量%であり、酸溶解性残留物が0質量%であったことから、組成は純粋な炭酸カルシウムであることが確認された。
なお、該医療用バテライト組成物の気孔率は45%であり、基準圧縮強度は0.23MPaと計算されたが、該組成物の圧縮強度は14MPaであり、基準圧縮強度以上であることも確認された。
これらの結果から、有機溶媒であるアセトンにもカルサイト形成あるいはカルサイト結晶の成長を抑制し、相対的にカルサイト以外の炭酸カルシウム形成を促進する効果があることがわかった。
【0086】
(実施例6)
水酸化カルシウム粉末50gをメタノール450mLと水50mLの混合溶媒に懸濁させ、4℃で二酸化炭素を毎分1000mLバブリングさせ撹拌した。2時間後に二酸化炭素のバブリングを止めた。12時間保持した後に、デカンテーションと遠心分離で、懸濁液から粉末を取出し、110℃で2時間乾燥させた。XRD解析から100質量%のバテライト粉末が製造されたことが確認された。また、平均粒径は1μmであった。
該バテライト粉末を300MPaで圧粉し、バテライト粉末圧粉体を製造した。該バテライト粉末圧粉体を、電気炉を用いて、毎分1℃で200℃、250℃、300℃、350℃、400℃、450℃まで加熱し、該温度で6時間焼成、室温まで炉冷した。XRD解析の結果、200℃、250℃、300℃、350℃で焼成した焼結体は98質量%がバテライトであり、2質量%がカルサイトであった。また、400℃で焼成した焼結体は78質量%がバテライトであり、22質量%がカルサイトであった。バテライト粉末圧粉体は、水に浸漬すると崩れて形態を保てず、また、水をつけて擦ると白濁した。一方、焼結体はいずれも、水に浸漬しても崩れることなく、また、水をつけて擦っても白濁しなかった。熱処理後の材料を、10倍量の炭酸カルシウム飽和水を入れたガラス容器に浸漬し、28kHz出力75Wの条件で1分間超音波を行い、照射後の該組成物の乾燥重量を超音波照射前の乾燥重量と比較したところ、いずれも100%であった。バテライト粉末圧粉体の圧縮強さは3.2MPaであったが、200℃、250℃、300℃、350℃、400℃、450℃で焼成した焼結体の圧縮強さはそれぞれ、4.6MPa、6.9MPa、11.3MPa、11.7MPa、12.1MPa、11.8MPa推定値であった。
これらの結果から、バテライト焼結体が製造されていることが確認された。
【0087】
(実施例7)
<高分子材料含有原料カルシウム組成物>
Mg含有量が2×10 -5 質量%、Sr含有量が1.6×10 -4 質量%、平均粒径が3μm、球形度が0.88の白石研究所製高純度炭酸カルシウム粉末を長峰製作所製ワックス系有機バインダーである高分子材料を質量比で75:25に混合した。
<(E1)押出工程>
株式会社東洋精機製作所製ラボプラストミルにハニカム構造形成用型を取り付け、押出成形を行い、外周側壁を有する柱体状の高分子材料含有原料カルシウム組成物ハニカム構造体を中間体として作製した。
<(E2)押出工程後の成形工程>
高分子材料含有原料カルシウム組成物ハニカム構造体の曲がりを取る目的で剥離紙をおいたアルミアングルを型枠として用い、高分子材料含有原料カルシウム組成物ハニカム構造体を挟み、80℃で24時間熱処理し、室温まで冷却した。この成形操作によって、高分子材料含有原料カルシウム組成物ハニカム構造体の曲がりが取れた。
<(E3)外周側壁除去工程>
柱体状の高分子材料含有原料カルシウム組成物ハニカム構造体の外周側壁を電動カンナで除去した。なお、成形工程を行わない高分子材料含有原料カルシウム組成物ハニカム構造体と比較して成形工程によって平滑化した高分子材料含有原料カルシウム組成物ハニカム構造体は電動カンナによる外周側壁除去が容易であった。また、回転砥石を用いて研磨によって外周側壁を除去しようとした場合には新たな外周側壁が形成される所見が認められたが、電動カンナによる切削では新たな外周側壁の形成は認められなかった。
<(E4)外周側壁除去工程後の成形工程>
「(E3)外周側壁除去工程」で生じた変形を完全に除去するため、80℃で24時間熱処理し、室温まで冷却した。この成形操作によって、高分子材料含有原料カルシウム組成物ハニカム構造体の変形が取れた。
<(E5)脱脂炭酸カルシウム焼結工程>
該ハニカム構造体を、毎分0.15℃で250℃まで加熱し、250℃で1時間保持、毎分0.15℃で400℃~510℃まで加熱し、該温度(最終温度)で24時間保持した後に炉冷した。
本脱脂炭酸化条件の質量増大および質量減少を熱質量分析装置で分析したところ、高分子材料の減量が毎分1.0質量%より小さいことが確認された。
図2に最終温度が480℃で製造したハニカム構造体の水銀圧入細孔分布分析結果の例を示す。このように、ハニカム構造体のマクロ気孔に起因する細孔径が約70μm付近のピーク以外にハニカム隔壁のミクロ気孔に起因する細孔径が1μm以下の細孔が存在することがわかる。
XRD解析で最終温度に関わらず全ての試料の組成が純粋なカルサイトであることを確認した。
表1に最終温度と、製造されたカルサイトハニカム構造体の気孔率、該気孔率に対する基準圧縮強度、圧縮強度、水銀圧入法による細孔分布測定において、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積をまとめた。なお、酸溶解残留物は全て0質量%であった。
【表1】
表1に示すように、水銀圧入法による細孔分布測定において、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積はいずれも0.02cm/gより大きい値であった。したがって、本発明の医療用カルサイトハニカム構造体が製造できた。
なお、いずれも基準圧縮強度より大きい圧縮強度を示した。
図5に製造された医療用カルサイトハニカム構造体表面の電子顕微鏡像を示す。最終温度が480℃までは著明な粒成長が認められないが、最終温度が510℃の場合は粒成長が認められることも確認された。
<リン酸成分付与工程>
次に、該医療用カルサイトハニカム構造体をpHが8.9である80℃の1モル濃度NaHPO水溶液に7日間あるいは28日間浸漬した。完全にアパタイトに組成変換されるか否かを表1にまとめた。28日の段階でカルサイトが残留している場合にはアパタイトへの組成変換ができないとして表中には×印で記載した。なお、酸溶解残留物は全て0質量%であった。
最終温度として480℃以下で製造した医療用炭酸カルシウムハニカム構造体の場合は7日間浸漬、最終温度が510℃の場合は28日間浸漬で医療用カルサイトハニカム構造体にリン酸成分が付与され純粋な炭酸アパタイトに組成変換されていることがXRD解析およびFT-IR解析によって確認された。炭酸基含有量はいずれも10.8質量%であった。
これらから、医療用炭酸アパタイトハニカム構造体が製造されたことが確認された。なお、該医療用炭酸アパタイトハニカム構造体は基準圧縮強度を超える圧縮強度を示すことも明らかになった。
510℃で製造した10μm以下の細孔容積が0.12cm/gである医療用カルサイトハニカム構造体を該水溶液に7日間浸漬した場合には未反応のカルサイトが認められた。したがって、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積はいずれも0.02cm/gより大きい値であれば28日間浸漬で炭酸アパタイトに組成変換されるが、組成変換に時間を要するため、細孔容積は大きい方が好ましいことが好ましいことがわかった。
【0088】
(比較例
最終温度を550℃とした以外は実施例7と同じ製造方法でカルサイトハニカム構造体を製造した。酸溶解残留物は全て0質量%であった。他の結果は表1にまとめるが、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積は0.02cm/gであった。また、の(D)~(K)のいずれにも該当しなかったため、製造された炭酸カルシウム組成物は本発明に含まれない材料である。
該材料を実施例7と同じ方法で1モル濃度NaHPO水溶液に80℃で28日間浸漬した場合に、一部がアパタイトに組成変換されたものの、完全にはアパタイトに組成変換されなかった。一部はアパタイトに組成変換されていることから、より長期間該溶液に浸漬すれば完全にアパタイトに組成変換されると思われるが、製造では不適であることがわかった。
実施例7と本比較例の比較から、医療用カルサイトハニカム組成物の反応性には隔壁部のミクロ気孔も重要であり、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積は0.02cm/gより大きいことが必須条件であることが確認された。
【0089】
(実施例8)
平均粒径の異なる炭酸カルシウムを用いて実施例7と同じ製造を行った。なお、用いた全て炭酸カルシウムの球形度は0.88であり、Mg含有量が2.5×10 -5 質量%以下、Sr含有量は2×10 -4 質量%以下であった。
図6にレーザ回折式粒度分布測定装置(島津社製、SALD-300V)を用いた粒度分布解析結果を示す。また、表2に医療用カルサイトハニカム構造体と医療用炭酸アパタイトハニカム構造体の諸性質を示す。なお、酸溶解残留物は全て0質量%であった。
【表2】
平均粒径がμmより大きい炭酸カルシウム(a)を用いると基準圧縮強度は超えるものの比較的圧縮強度が小さい医療用カルサイトハニカム構造体が製造され、リン酸付与工程においてもアパタイトへの組成変換に比較的時間がかかることがわかった。一方、平均粒径がμm以下の炭酸カルシウム(b)、(c)、(d)を用いた場合にはいずれも、比較的圧縮強度が大きい医療用カルサイトハニカム構造体が製造され、平均粒径が2μm以上の炭酸カルシウム(c)又は(d)を用いた場合には、さらに圧縮強度が大きい医療用カルサイトハニカム構造体が製造され、リン酸付与工程においてもアパタイトへの組成変換が比較的短時間で終了することがわかった。
これらの結果から、高分子含有炭酸カルシウムから医療用炭酸カルシウム組成物を製造する際には平均粒径2μm以上8μm以下の炭酸カルシウムを用いることが好ましいことが確認された。
【0090】
(実施例9)
<高分子材料含有原料カルシウム組成物>
株式会社和光純薬製水酸化カルシウム粉末をジェットミルで平均粒径1μmに粉砕した。該水酸化カルシウムと長峰製作所製ワックス系有機バインダーである高分子材料を質量比で75:25に混合した。
<(E1)押出工程>
株式会社東洋精機製作所製ラボプラストミルにハニカム構造形成用型を取り付け、押出成形を行い、外周側壁を有する柱体状の高分子材料含有原料カルシウム組成物ハニカム構造体を中間体として作製した。
このハニカム構造体の貫通孔に垂直な面の断面積は4.8cmであった。また、外周側壁の厚さは220μmであり、隔壁厚は75μmであった。
<(E2)押出工程後の成形工程>
実施例7と同じ(E2)を行った。
<(E3)外周側壁除去工程>
実施例7と同じ(E3)を行った。
<(E6)脱脂炭酸化工程>
該ハニカム構造体を、毎分200mLの二酸化炭素の気流下(二酸化炭素分圧は約101KPa)で、毎分0.1℃で250℃まで加熱し、250℃で1時間保持、毎分0.1℃で450℃まで加熱し、450℃で1時間保持、毎分0.1℃で700℃まで加熱し、700℃で24時間保持し、炉冷した。
本脱脂炭酸化条件の質量増大および質量減少を熱質量分析装置で分析したところ、毎時1.0質量%より小さいことが確認された。外周側壁と隔壁の間やハニカム構造体内部にクラックは認められなかった。
<(E10)脱脂炭酸化工程の後で行う形状仕上げ工程>
製造されたハニカム構造体を研磨して最終の寸法調整を行った。脱脂した後の医療用カルサイトハニカム構造体を切削するとチッピングが起ったが、研磨するとチッピングが起らず研磨による仕上げ工程が好ましいことがわかった。なお、気孔率および圧縮強度は仕上げ工程によらず同一であった。ハニカム構造体の貫通孔垂直な面の断面積は3.9cmであり、体積は7.8×10-6であった。また、外周側壁は除去しており、厚さとしては0μmであり、ハニカム構造体壁厚は78μmであった。XRD解析の結果、製造されたハニカム構造体の組成は純粋なカルサイトであった。酸溶解残留物は0質量%であり、水銀圧入法による細孔分布測定において、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積が0.05cm/gであったため、医療用カルサイトハニカム構造体の製造が確認された。
なお、気孔率は48%であり、基準圧縮強度は19MPaと計算されたが、該組成物の気孔方向に対する圧縮強度は82MPaであった。
また、仕上げ工程を行うことによって外形がより整えられた医療用カルサイトハニカム構造体が製造された。
<リン酸成分付与工程>
仕上げ工程の次に、医療用カルサイトハニカム構造体をpHが8.9である1モル濃度NaHPO水溶液に80℃で3週間浸漬した。2週間浸漬ではカルサイトが少量未反応であったが、3週間浸漬によって医療用カルサイトハニカム構造体にリン酸成分が付与され純粋な炭酸アパタイトに組成変換されていることがXRD解析およびFT-IR解析によって確認された。
体積は7.8×10-6であり、酸溶解残留物は0質量%、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積は0.03cm/gであったため、医療用カルサイトハニカム構造体の製造が確認された。気孔率は45%であり、基準圧縮強度は23MPaと計算されたが、該組成物の圧縮強度は89MPaであり、基準圧縮強度以上であることが確認された。これらから、医療用炭酸アパタイトハニカム構造体が製造された。
製造された酸溶解残留物が0質量%である医療用炭酸アパタイトハニカム構造体の骨補填材としての有用性をウサギ検証するため、別途直径5.2mmの円柱状の医療用炭酸アパタイトハニカム構造体を前記実施例9と同様に製造し、ウサギ大腿骨遠位骨端に埋植した。図7は埋植4週目のヘマトキシリン-エオジン染色した病理組織像である。中央部まで骨が伝導しており、高い骨伝導性が確認できる。全ての貫通孔内部に骨形成が認められ、気孔面積に対する骨形成面積は32%であった。
酸溶解残留物が1.2質量%であるため、本発明に含まれない材料である特許文献12の実施例11で製造された炭酸アパタイトハニカム構造体に関わる病理組織像(特許文献12の図18)では、炭酸アパタイトハニカム構造体内部に骨の伝導が確認できるが、骨が形成されている気孔は約25%であり、本発明の医療用炭酸アパタイトハニカム構造体の気孔に対する骨伝導の値と比較して著しく低い。
また、酸溶解残留物が1.2質量%であるため、本発明に含まれない材料である特許文献12の実施例12で製造された炭酸アパタイトハニカム構造体顆粒に関わる病理組織像(特許文献12の図21)でも、炭酸アパタイトハニカム構造体顆粒貫通孔内部に骨の形成が確認できるが、骨が形成されている貫通孔は約90%、気孔面積に対する骨形成面積は26%であり、本発明の医療用炭酸アパタイトハニカム構造体の貫通孔に対する骨形成の値と比較して低い。
すなわち、本実施例と特許文献12の比較から炭酸アパタイトハニカム構造体は骨形成能に優れる骨補填材として有用であるが、酸溶解残留物の有無によって骨形成能の程度は異なり、酸溶解残留物が1質量%以下である本発明の医療用炭酸アパタイトハニカム構造体は、本発明に含まれない材料である酸溶解残留物が1質量%より多い炭酸アパタイトハニカム構造体に比べて骨伝導性、骨形成能に優れる医療用材料であることがわかった。
【0091】
(比較例
実施例8と同じ高分子材料含有原料カルシウム組成物を用いて、外周側壁が75μmとなるようなハニカム構造形成用型を通して押出した。一部では外周側壁が75μm、隔壁厚は75μmの部分が確認されたが、ハニカム構造体としての形態は保てなかった。貫通孔に垂直な面の断面積が1cm未満である場合には、外周側壁と隔壁厚を同じ厚さとしても押出しできてハニカム構造が保たれること、および本比較例と実施例8の比較から貫通孔に垂直な面の断面積が1cm以上である場合には、ハニカム構造体の外周側壁の厚さが隔壁の厚さより厚くなるように押出す必要があることがわかった。
【0092】
(比較例
特許文献12の実施例1の方法(熱処理温度450℃)および該方法において熱処理温度を600℃および700℃としてカルサイトハニカム構造体を製造した。
すなわち、株式会社ナカライテスク製水酸化カルシウム粉末をジェットミルで平均粒径1μmに粉砕し、水酸化カルシウムと株式会社長峰製作所製ワックス系バインダーを重量比で75:25に混合した。その後、株式会社東洋精機製作所製ラボプラストミルにハニカム成形用金型を取り付け、押出成形を行った。水酸化カルシウムとバインダーの混合物を組成とし、外周側壁を有する円柱状のバインダー含有水酸化カルシウムハニカム構造体を作製、円柱状のバインダー含有水酸化カルシウムハニカム構造体の外周側壁を電動カンナで除去した後に、当該バインダー含有水酸化カルシウムハニカム構造体を、二酸化炭素を50%含有する酸素の気流下で、450℃、600℃、700℃で脱脂した。
脱脂後のハニカム構造体の組成を、BRUKER製D8 ADVANCE型粉末X線回折装置を用い、出力は40kV、40mA、X線源はCuKα(λ=0.15418nm)の条件で分析したところ、いずれも炭酸カルシウムであることがわかった。
二酸化炭素を50%含有する酸素の気流下で、450℃、600℃、700℃で脱脂したカルサイトハニカムブロックの酸溶解残留物は1.2質量%、0.5質量%、0質量%であり、水銀圧入法による細孔分布測定において、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積は0.46cm/g、0.02cm/g、0.01cm/gであった。また、の(D)~(K)のいずれにも該当しなかったため、製造された炭酸カルシウム組成物は本発明に含まれない材料である。次に、製造された炭酸カルシウムハニカム構造体を80℃の1モル濃度リン酸水素二ナトリウム水溶液および80℃の1モル濃度リン酸三ナトリウム水溶液に7日間浸漬した。
XRD解析およびFT-IR解析の結果、脱脂温度を450℃として製造した炭酸カルシウムハニカム構造体の場合は、リン酸水素二ナトリウム水溶液でリン酸化した場合もリン酸三ナトリウム水溶液でリン酸化した場合も組成が炭酸アパタイトに変換され、炭酸アパタイトハニカム構造体が製造された。酸溶解残留物はいずれも1.2質量%であり、酸溶解残留物を含む炭酸カルシウム組成物をリン酸化した場合、酸溶解残留物が残存することがわかった。
一方、脱脂温度を450℃として製造した炭酸カルシウムハニカム構造体の場合は、リン酸水素二ナトリウム水溶液でリン酸化した場合もリン酸三ナトリウム水溶液でリン酸化した場合も7日間浸漬で、組成が一部炭酸アパタイトに変換されたものの完全に炭酸アパタイトに変換されることはなかった。したがって、特許文献12の製造方法では本発明の医療用炭酸カルシウム組成物を製造できないことが明らかになった。
【0093】
(実施例10)
実施例9で用いた高分子材料含有原料カルシウム組成物ハニカム構造体(高分子材料含有水酸化カルシウムハニカム構造体)を用いて、下記の脱脂炭酸化工程を行った。
<(E7)酸化カルシウム経由脱脂炭酸化工程>
該ハニカム構造体を、毎分200mLの酸素の気流下(酸素分圧は約101KPa)で、毎分0.1℃で250℃まで加熱し、250℃で1時間保持、毎分0.1℃で450℃まで加熱し、450℃で24時間保持した。この段階での組成は酸化カルシウムと水酸化カルシウムの混合物であった。その後に、毎分3℃で850℃まで加熱し、850℃で3時間保持した。この段階での組成は酸化カルシウムであることをXRD解析で確認した。次に、350℃まで毎分5℃で炉冷し、350℃となった段階で反応容器内を二酸化炭素で置換、密封した後、二酸化炭素を導入し、350KPaの圧力として、14日間炭酸化した後、炉冷した。
製造されたハニカム構造体の貫通孔垂直な面の断面積は3.9cmであった。また、外周側壁は除去されているため0μm、ハニカム構造体壁厚は69μmであった。
XRD解析の結果、該ハニカム構造体の組成はカルサイトのみであり、酸溶解残留物は0質量、水銀圧入法による細孔分布測定において、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積は0.05cm/gであることから純粋な医療用カルサイトハニカム構造体が製造されていることがわかった。
気孔率は52%であり、基準圧縮強度は15MPaと計算されたが、該組成物の圧縮強度は60MPaであり、基準圧縮強度以上であることが確認された。
なお、本脱脂炭酸化条件の質量増大および質量減少を熱質量分析装置で分析したところ、毎時1.0質量%より小さいことが確認された
<リン酸成分付与工程>
次に、医療用カルサイトハニカム構造体をpHが8.9である1モル濃度NaHPO水溶液に80℃で3週間浸漬した。1週間浸漬ではカルサイトが少量未反応であったが、2週間浸漬によって医療用カルサイトハニカム構造体にリン酸成分が付与され純粋な炭酸アパタイトに組成変換されていることがXRD解析およびFT-IR解析によって確認された。
体積は7.8×10-6であり、酸溶解残留物は0質量%、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積は0.02cm/g推定値であったため、医療用炭酸アパタイトハニカム構造体の製造が確認された。
なお、気孔率は45%であり、基準圧縮強度は23MPaと計算されたが、該組成物の圧縮強度は89MPaであり、基準圧縮強度以上であることも確認された。
350℃で炭酸カルシウムが形成された本実施例と700℃で炭酸カルシウムが形成された実施例9とを比較すると、本実施例の方が、リン酸化反応が早く、より反応性の高い炭酸カルシウムが形成されていることがわかった。
【0094】
(実施例11)
実施例9で用いた高分子材料含有原料カルシウム組成物ハニカム構造体(高分子材料含有水酸化カルシウムハニカム構造体)を用いて、下記の脱脂炭酸化工程を行った。
<(E8)炭酸カルシウム酸化カルシウム経由脱脂炭酸化工程>
該ハニカム構造体を、毎分200mLの二酸化炭素の気流下(二酸化炭素分圧は約101KPa)で、毎分0.1℃で250℃まで加熱し、250℃で1時間保持、毎分0.1℃で450℃まで加熱し、450℃で24時間保持した。この段階で水酸化カルシムが炭酸カルシウムとなっていることをXRD解析で確認した。450℃で24時間保持した後に、毎分3℃で850℃まで加熱した。850℃に到達後、毎分200mLの酸素の気流下(酸素分圧は約101KPa)で3時間保持した。この段階で炭酸カルシムが酸化カルシウムとなっていることを粉末X線回折で確認した。次に、350℃まで毎分5℃で炉冷し、350℃となった段階で反応容器内を二酸化炭素で置換、密封した後、二酸化炭素を導入し、350KPaの圧力として、14日間炭酸化した後、炉冷した。
製造されたハニカム構造体の貫通孔垂直な面の断面積は3.7cmであった。また、外周側壁は除去されているため0μm、ハニカム構造体壁厚は67μmであった。
XRD解析の結果、該ハニカム構造体の組成はカルサイトのみであり、酸溶解残留物は0質量であり、水銀圧入法による細孔分布測定において、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積は0.04cm/gであることから純粋な医療用カルサイトハニカム構造体が製造されていることがわかった。
高分子材料含有水酸化カルシウムハニカム構造体を炭酸化してから酸化カルシウムとした本実施例と、高分子材料含有水酸化カルシウムハニカム構造体から直接酸化カルシウムとした実施例10との比較において、本実施例で製造した医療用炭酸カルシウムハニカム構造体の方が、圧縮強度が高いことがわかった。
<リン酸成分付与工程>
次に、医療用カルサイトハニカム構造体をpHが8.9である1モル濃度NaHPO水溶液に80℃で3週間浸漬した。1週間浸漬ではカルサイトが少量未反応であったが、2週間浸漬によって医療用カルサイトハニカム構造体にリン酸成分が付与され純粋な炭酸アパタイトに組成変換されていることがXRD解析およびFT-IR解析によって確認された。
体積は7.8×10-6であり、酸溶解残留物は0質量%であった。気孔率は46%であり、基準圧縮強度は22MPaと計算されたが、該組成物の圧縮強度は120MPaであり、基準圧縮強度以上であることが確認された。これらから、医療用炭酸アパタイトハニカム構造体が製造された。
【0095】
(実施例12)
NaHPO、NaHPO、NaHCO、NaCO、MgClを用いてリン酸濃度が1モル濃度、炭酸濃度が0モル濃度あるいは0.5モル濃度でpHが4.2、7.2、8.0あるいは8.9、マグネシウム濃度が0.1モル濃度の水溶液を調製した。次に、実施例7において最終温度を450℃として製造した医療用炭酸カルシウムハニカムを80℃の該水溶液に5日間、7日間、28日間浸漬した。組成変換はXRD解析で解析した。
80℃1モル濃度NaHPO水溶液(pH=4.2)に5日間浸漬した場合には、医療用炭酸カルシウムハニカムはマクロ形態を保ったまま、リン酸水素カルシウムに組成変換された。また、80℃0.1モル濃度のMgClを含むリン酸濃度が1モル濃度の水溶液(pH=7.2)に7日間浸漬した場合には、医療用炭酸カルシウムハニカムはマクロ形態を保ったまま、ウィットロカイトとアパタイトの混合物に組成変換された。いずれも酸溶解残留物は0質量%であった。
リン酸濃度が1モル濃度、炭酸濃度が0モル濃度あるいは0.5モル濃度でpHが8.0あるいは8.9の場合の結果を表3に示す。酸溶解残留物はいずれも0質量%であった。なお、28日間浸漬しても純粋なアパタイトに組成変換されない場合には表中に×印を記入した。炭酸基含有量は元素分析で得られた炭素含有量を5倍した値とした。これらの分析結果から、医療用炭酸アパタイトハニカム構造体が製造されたことがわかった。
【表3】
また、リン酸成分を含むpHが8.5以上の水溶液であるpHが8.9の水溶液を用いると炭酸基含有量が10質量%以上の医療用炭酸アパタイトハニカム組成物が得られること、リン酸成分を含むpHが8.5未満の水溶液であるpHが8.0の水溶液を用いると炭酸基含有量が10質量%未満の医療用炭酸アパタイトハニカム組成物が製造されることがわかった。
また、リン酸成分を含むpHが8.5未満の水溶液であるpHが8.0の水溶液を用いると、リン酸成分を含むpHが8.5以上の水溶液であるpHが8.9の水溶液を用いる場合に比較して、リン酸成分の付与が早く進行すること、また、炭酸基含有量の少ない医療用炭酸アパタイトハニカム構造体が製造できることがわかった。
また、リン酸成分を含む水溶液に0.5モル濃度以下の炭酸成分を共存させると、リン酸成分の付与は遅くなるが、炭酸基量が多い医療用炭酸アパタイトハニカム構造体が製造できることがわかった。
図8にpHが8.9で、1モル濃度のリン酸成分のみの水溶液で医療用カルサイトハニカム構造体にリン酸成分を付与した場合の電子顕微鏡像(a)と、pHが8.9で、1モル濃度のリン酸成分と0.5モル濃度の炭酸成分を共存させた水溶液で医療用カルサイトハニカム構造体にリン酸成分を付与した場合の電子顕微鏡像(b)を示す。表2の表面粗さ(Ra)でも明らかであるが、医療用炭酸カルシウム組成物にリン酸成分を付与する際に0.5モル濃度以下の炭酸成分を共存させると製造される医療用炭酸アパタイト組成物の表面粗さが大きくなることがわかった。なお、表面粗さが大きいと、細胞接着や骨伝導性が高くなる。
また、いずれの医療用炭酸アパタイトハニカム構造体も基準圧縮強度より高い圧縮強度を示すことが確認された。
【0096】
(比較例
調製する水溶液の炭酸濃度を1.0モル濃度とする以外は実施例12と同じ条件で製造を行った。表3に示すように、炭酸濃度を1.0モル濃度とした場合には0.5モル濃度とした場合と異なり、28日以内で純粋なアパタイトに組成変換されないことがわかった。
実施例12と本比較例の比較から、リン酸成分と炭酸成分を含む水溶液を用いて医療用炭酸アパタイト組成物を製造する場合には、炭酸基濃度を0.5モル濃度以下にすることが好ましいことがわかった。
【0097】
(比較例
本発明の医療用炭酸カルシウム組成物の有用性を評価するために、PCT/JP2018/00193の実施例1で開示されている圧縮強度が高いとされている炭酸カルシウムブロックを調製した。
すなわち、水酸化カルシウム(和光純薬製)と蒸留水を混水比1.13で混合し、金型を用いて、混合物を20MPaで一軸加圧成形し、直径6mm高さ3mmの水酸化カルシウム圧粉体を製造した。
次に、二酸化炭素接触装置を用いて、成形された水酸化カルシウム圧粉体を、相対湿度100%の二酸化炭素によって48時間炭酸化させた後、80℃の1モル濃度炭酸水素ナトリウム水溶液に4日間浸漬した。
XRD解析からカルサイト含有量が100質量%であり、酸溶解性残留物は0質量%であった。
水酸化カルシウム圧粉体を7日間二酸化炭素に暴露すると水酸化カルシウムは硬化して、体積2.5×10-4のブロックが製造された。また、XRD解析からブロックの組成はカルサイト含有量が100質量%であることがわかった。酸溶解残留物は0質量%であった。
水銀圧入法測定で、該組成物における水銀圧入法測定で、細孔径6μm以下の細孔容積に対する細孔径1μm以上6μm以下の細孔容積の比は0%であった。
また、気孔率は38%であり、基準圧縮強度は38MPaと計算されたが、該組成物の圧縮強度は32MPaであり、基準圧縮強度未満であった。また、一方向に延びる複数の貫通孔を備えたハニカム構造体、複数の顆粒が結合して形成される、複数方向に延びる複数の貫通孔を備えた多孔体、医療用組成物全体に複数の気孔が集積されている気孔集積型多孔体のいずれにも該当しない。
したがって製造されたカルサイト組成物は本発明に含まれない材料である。
本比較例と実施例の比較によって本発明の医療用炭酸カルシウム組成物は圧縮強度に優れる有用な医療用炭酸カルシウム組成物であることがわかった。
【0098】
(比較例10
本発明の医療用炭酸カルシウム組成物の有用性を評価するために、PCT/JP2018/00193の実施例5で開示されている製造方法で圧縮強度が高いとされている炭酸カルシウムブロック多孔体を調製した。
すなわち、塩化ナトリウム(和光純薬製)を篩分けし、212~300μmの塩化ナトリウムを製造した。次に、水酸化カルシウム(和光純薬製)と蒸留水を混水比1.0で混合した混合物に当該塩化ナトリウムを質量比1:1で混合した。
次に、金型を用いて、混合物を20MPaで一軸加圧成形し、直径6mm高さ3mmの水酸化カルシウム圧粉体を成形した。
次に、二酸化炭素接触装置を用いて、製造された水酸化カルシウムブロックを、相対湿度100%の二酸化炭素によって1時間炭酸化させた後、80℃の1モル濃度炭酸水素ナトリウム水溶液に4日間浸漬した。
炭酸化工程の後、ブロックを蒸留水で洗浄し、80℃の蒸留水に24時間浸漬して塩化ナトリウムを完全に溶解洗浄した。
XRD解析からカルサイト含有量が100質量%であった。また、酸溶解残留物は0質量%であり、体積は2.5×10-4であった。
なお、該組成物における水銀圧入法測定で、細孔径6μm以下の細孔容積に対する細孔径1μm以上6μm以下の細孔容積の比は0%であった。
また、一方向に延びる複数の貫通孔を備えたハニカム構造体、複数の顆粒が結合して形成される、複数方向に延びる複数の貫通孔を備えた多孔体、医療用組成物全体に複数の気孔が集積されている気孔集積型多孔体のいずれにも該当しない。
また、気孔率は65%であり、基準圧縮強度は6MPaと計算されたが、該組成物の圧縮強度は0.8MPaであり、基準圧縮強度未満であった。
したがって製造されたカルサイト組成物は本発明に含まれない材料である。
本比較例と実施例の比較によって本発明の医療用炭酸カルシウム組成物は圧縮強度に優れる有用な医療用炭酸カルシウム組成物であることがわかった。
【0099】
(実施例13)
実施例9で製造した高分子材料含有原料カルシウム組成物(高分子材料含有水酸化カルシウム)を用いた。
<(E1)押出工程>
株式会社東洋精機製作所製ラボプラストミルにハニカム構造形成用型を取り付け、押出成形を行い、外周側壁を有する柱体状の高分子材料含有原料カルシウム組成物ハニカム構造体を中間体として作製した。
<(E2)押出工程後の成形工程>
押出された高分子材料含有原料カルシウム組成物ハニカム構造体が室温まで冷却される前に、100℃に加熱した直径10cmの円柱状ステンレスに押付けることによってハニカム構造体の軟化とハニカム構造体への圧力負荷を行い、貫通孔の両端、貫通孔の中央部の三点を通る円の直径10.5cmである高分子材料含有水酸化カルシウムハニカム構造体を製造した。
<(E3)外周側壁除去工程>
該ハニカム構造体の外周側壁を、歯科用ストレートフィッシャーバーを用いて除去した。歯科用ストレートフィッシャーバーを用いた場合、新たな外周側壁の形成は認められなかった。
<(E7)酸化カルシウム経由脱脂炭酸化工程>
次に、該ハニカム構造体を、熱処理して高分子材料を完全に脱脂し、かつ、炭酸化した。まず、電気炉内を二酸化炭素雰囲気とし、室温から700℃まで昇温し、700℃で48時間熱処理、炉冷した(炭酸化工程)。
製造されたハニカム構造体の貫通孔垂直な面の断面積は3.7cmであった。
また、外周側壁は除去されているため0μm、ハニカム構造体壁厚は67μmであった。貫通孔の両端、貫通孔の中央部の三点を通る円の直径は10.2cmであった。
XRD解析の結果、無機組成物はカルサイトのみであることがわかった。また、酸溶解残留物試験で残留物は0質量%であり、水銀圧入法による細孔分布測定において、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積は0.05cm/gであることから純粋な炭酸カルシウム組成物が製造されていることがわかった。
<リン酸成分付与工程>
仕上げ工程の次に、医療用カルサイトハニカム構造体をpHが8.9である1モル濃度NaHPO水溶液に80℃で3週間浸漬した。XRD解析およびFT-IR解析の結果、医療用カルサイトハニカム構造体にリン酸成分が付与され炭酸アパタイトに組成変換されていることが確認された。
製造されたハニカム構造体の貫通孔垂直な面の断面積は3.7cmであった。
また、外周側壁は除去されているため0μm、ハニカム構造体壁厚は67μmであった。貫通孔の両端、貫通孔の中央部の三点を通る円の直径は10.2cmであった。
また、これらから、医療用炭酸アパタイトハニカム構造体の製造が確認された。
【0100】
(実施例14)
ナカライ株式会社製硫酸カルシウム半水和物粉末を700℃で熱処理し、硫酸カルシウム無水物とした後に、ジェットミルで平均粒径1μmに粉砕し、該硫酸カルシウムと株式会社長峰製作所製ワックス系高分子材料に対して硫酸カルシウムの体積比が50%、53%、57%となるように混合した。
原料カルシウム組成物および原料カルシウム組成物の含有量が異なる以外は実施例7の<(E1)押出工程>、<(E2)押出工程後の成形工程>、<(E3)外周側壁除去工程>、<(E4)外周側壁除去工程後の成形工程>と同じ工程によって製造された原料カルシウム組成物ハニカム構造体を用いて、下記の脱脂炭酸化工程を行った。
<(E6)脱脂炭酸化工程>
該ハニカム構造体を、大気中で、高分子材料に由来する重量原料が毎分1質量%以下となるように900℃まで加熱し、900℃で24時間熱処理し、炉冷した。
XRD解析の結果、該ハニカム構造体の組成は硫酸カルシウム無水物のみであった。炭酸化水溶液として、2モル濃度炭酸水素ナトリウム水溶液と2モル濃度の炭酸ナトリウムを混合してpHを9とした水溶液を用いた。該ハニカムを40℃の炭酸化水溶液に4日間浸漬した。粉末XRD分析の結果、組成は純粋なカルサイトであった。また、酸溶解残留物は0質量であることから純粋な医療用炭酸カルシウムハニカム構造体が製造されていることがわかった。
表4に硫酸カルシウムと株式会社長峰製作所製ワックス系高分子材料に対して硫酸カルシウムの体積比が50%、53%、57%となるように調製した試料から製造した医療用カルサイトハニカム構造体の気孔率(%)、圧縮強度(MPa)、水銀圧入法による細孔分布測定において、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積(cm/g)をまとめる。酸溶解残留物は全て0質量%であった。これらの結果から、医療用炭酸カルシウムハニカム構造体が製造できたことが確認された。
【表4】
<リン酸成分付与工程>
次に、該医療用炭酸カルシウムハニカム構造体を80℃の1モル濃度NaHPO水溶液に7日間浸漬した。XRD解析およびFT-IR解析によって、すべての医療用炭酸カルシウムハニカム構造体にリン酸成分が付与され炭酸アパタイトに組成変換されていることが確認された。酸溶解残留物は全て0質量%であった。
これらから、医療用炭酸アパタイトハニカム構造体が製造されたことが確認された。
<骨補填材としての有用性検証>
図9に、高分子材料と硫酸カルシウムの混合物に対して硫酸カルシウムの体積比が50%となるように調製した試料から前記実施例14と同様に製造した医療用炭酸アパタイトハニカム構造体をウサギ大腿骨に埋入した4週後のヘマトキシーエオジン染色病理組織像を示す。ハニカム内部に骨が旺盛に形成されており、骨芽細胞、破骨細胞、骨細胞が認められ炭酸アパタイトハニカムが骨リモデリングによって新しい骨に置換されていることがわかる。さらに、赤血球が認められ、ハバース管構造を有した骨に置換されていることもわかる。
図10は、埋植12週後のヘマトキシーエオジン染色病理組織像である。ハニカム内部には赤血球や脂肪細胞だけでなく、骨髄芽球などの骨髄細胞が高密度に認められ、0.2mmである観察面積内に2000個以上の骨髄細胞が確認された。したがって、1000個/mmの有用性基準を超える、10000個/mmの骨髄細胞を確認した。
したがって、炭酸アパタイトハニカム構造体は細胞培養用スキャフォールド、特に骨髄細胞あるいは幹細胞の細胞培養用スキャフォールドとしても有用であることが確認された。
【0101】
(実施例15)
最大径長さが50μm以上400μm以下の複数の気孔が隔壁、あるいは隔壁間貫通部を介して集積されており、最大径長さが800μm以上の気孔を含まない気孔集積型カルサイト多孔体の製造を、硫酸カルシウム半水和物(和光純薬試薬特級)および造孔材として粒径が100μmの球形フェノール樹脂(リグナイト株式会社製、LPS-C100)を用いて検討した。なお、比較のために、球形フェノール樹脂を含まない試料も製造した。
<混合工程>
球形フェノール樹脂が0、10、20、30、40質量%となるように硫酸カルシウム半水和物と混合し、蒸留水を用い、混水比が0.23となるように練和しペーストを製造した。
<圧粉工程>
直径6mm、高さ3mmの試料が製造できる分割型に該ペーストを手圧で導入し、開口部をガラス板で閉鎖し3時間硬化させた。
<脱脂炭酸化工程>
硬化体を、電気炉を用いて大気下で、毎分0.13℃で300℃まで加熱、300℃で24時間熱処理、毎分0.13℃で700℃まで加熱、700℃で3時間熱処理、毎分5℃で室温まで冷却した。本脱脂条件で質量増大および質量減少を熱質量分析装置で分析したところ、高分子材料の減量が毎分1.0質量%より小さいことが確認された。
次に、2モル濃度のNaCO水溶液と2モル濃度のNaHCOを混合しpHが9となる水溶液に、硬化体を90℃で24時間浸漬した。浸漬後、90℃の蒸留水で洗浄した。
粉末XRD分析の結果、組成は全て純粋なカルサイトであった。また、酸溶解残留物は全て0質量であった。
表5に製造物の諸性質をまとめる。ここで「細孔容積の割合(%)」とは、水銀圧入法測定で、細孔径6μm以下の細孔容積に対する細孔径1μm以上6μm以下の細孔容積の比を%表示したものである。
【表5】
球形フェノール樹脂を添加していない試料は「複数の気孔が隔壁、あるいは隔壁間貫通部を介して集積」した多孔体ではないが、基準圧縮強度を超える圧縮強度を示す本発明の医療用カルサイト組成物であることが確認された。
また、球形フェノール樹脂を10、20、30、40質量%含む硫酸カルシウム半水和物から製造した試料は本発明の「最大径長さが50μm以上400μm以下の複数の気孔が隔壁、あるいは隔壁間貫通部を介して集積されており、最大径長さが800μm以上の気孔を含まない気孔集積型カルサイト多孔体」であることが確認された。
<リン酸成分付与工程>
球形フェノール樹脂を10、20、30、40質量%含む硫酸カルシウム半水和物から製造された医療用気孔集積型カルサイト多孔体を80℃の1モル濃度NaHPO水溶液に7日間浸漬した。XRD解析およびFT-IR解析によって、該医療用気孔形成型カルサイト多孔体にリン酸成分が付与され炭酸アパタイトに組成変換されていることが確認された。
一方、球形フェノール樹脂を含まない硫酸カルシウム半水和物から製造された気孔集積型カルサイト多孔体を80℃の1モル濃度NaHPO水溶液に7日間浸漬した場合、XRD解析から未反応カルサイトが認められた。浸漬期間を28日とすると、XRD解析およびFT-IR解析によって、該医療用カルサイト組成物にリン酸成分が付与され炭酸アパタイトに組成変換されていることが確認された。
このことから、水銀圧入法測定で、細孔径6μm以下の細孔容積に対する細孔径1μm以上6μm以下の細孔容積の比が10%以上を満たす医療用炭酸カルシウム組成物は反応性が高い医療用材料であることがわかった。
<骨補填材としての有用性検証>
図11に球形フェノール樹脂を0、30、40質量%含む硫酸カルシウム半水和物から製造された直径6mm-高さ3mmの医療用炭酸アパタイト組成物および医療用気孔集積型炭酸アパタイト多孔体をウサギ大腿骨欠損に埋入し、4週後(4W)および12週後(12W)に周囲骨と一塊に摘出しヘマトキシーエオジン染色した病理組織像を示す。図中、炭酸アパタイトはCOAp、材料はMと表記されており、括弧内の数字は原料時に導入した球形フェノール樹脂である。いずれも優れた組織親和性を示しており、炎症反応は認められない。水銀圧入法測定で、細孔径6μm以下の細孔容積に対する細孔径1μm以上6μm以下の細孔容積の比が10%以上であり、を約100μmの気孔が結合した形態の医療用気孔集積型炭酸アパタイト多孔体の場合は(b)(c)に示すように周囲から骨に置換されていることがわかった。今日拡大組織像から破骨細胞、骨芽細胞、赤血球が観察され、骨リモデリングに調和した骨置換であることも確認された。また、埋植後12週となると(f)(g)に示すように医療用気孔集積型炭酸アパタイト多孔体はほぼ完全に骨に置換され正常な骨梁構造に置換されていることがわかった。
一方、水銀圧入法測定で、細孔径6μm以下の細孔容積に対する細孔径1μm以上6μm以下の細孔容積の比が10%未満である医療用炭酸アパタイト組成物の場合は(a)に示すように埋植4週の時点では骨置換が限定的であることがわかった。このことから、水銀圧入法測定で、細孔径6μm以下の細孔容積に対する細孔径1μm以上6μm以下の細孔容積の比が10%以上を満たす医療用炭酸カルシウム組成物は反応性が高い医療用材料であることがわかった。
なお、水銀圧入法測定で、細孔径6μm以下の細孔容積に対する細孔径1μm以上6μm以下の細孔容積の比が10%未満である医療用炭酸アパタイト組成物の場合も(e)に示すように埋植12週目の段階で周囲から骨置換が始まることが確認された。
【0102】
(比較例1
最大径長さが50μm以上400μm以下の複数の気孔が隔壁、あるいは隔壁間貫通部を介して集積されており、最大径長さが800μm以上の気孔を含まない気孔集積型カルサイト多孔体から製造された最大径長さが50μm以上400μm以下の複数の気孔が隔壁、あるいは隔壁間貫通部を介して集積されており、最大径長さが800μm以上の気孔を含まない気孔集積型炭酸アパタイト多孔体の有用性を検証するために、球形フェノール樹脂(LPS-C100)の含有量が40質量%となるように水酸アパタイト(太平化学製、HAP-200)と混合し、20MPaで一軸加圧した。得られた圧粉体を、電気炉を用いて大気下で、毎分0.13℃で300℃まで加熱、300℃で24時間熱処理、毎分0.13℃で1000℃まで加熱、1000℃で3時間熱処理、毎分5℃で室温まで冷却した。
XRD解析の結果、組成は水酸アパタイトであった。したがって該材料は本発明に含まれない材料である。なお、水酸アパタイトは臨床応用されている典型的な骨補填材である。
本材料を実施例15と同様にウサギ大腿骨に埋植した場合に得られる病理組織像を図11(d)、(h)に示す。図中、水酸アパタイトはHAp、材料はMと表記されており、括弧内の数字は原料時に導入した球形フェノール樹脂である。本材料も炎症反応は惹起しなかった。約100μmの気孔が結合した気孔集積型水酸アパタイト多孔体は医療用気孔集積型炭酸アパタイト多孔体と同様の構造を示すにも関わらず、気孔集積型炭酸アパタイト多孔体の病理組織像(c)と比較して、埋植4週目の段階で材料内部への組織侵入は極めて限定的であり、強拡大像から侵入した組織は骨組織より結合性組織が多いことがわかった。埋植12週目の段階では骨組織を含む組織が材料中央部まで侵入していたが、材料は当初の形態を保っており、骨置換はほとんど起こっていないことがわかった。
実施例15と本比較例の比較から本発明の医療用炭酸アパタイト組成物が骨補填材として極めて有用であることが明らかになった。
【0103】
(実施例16)
<球形度が0.9以上であり、かつ中空形状のCaO顆粒の製造>
水酸化カルシウムに0.5質量%ポリビニルアルコール(クラレポバールPVA-205C)を添加し、懸濁液をスプレードライして水酸化カルシウム中空球を製造した。該中空球状水酸化カルシウムを毎分50℃で1000℃まで加熱し、1000℃で6時間焼成してCaO中空球を製造し、ふるい分けした。中空構造であることはμCTで確認した。また、球形度は0.98、平均直径が1.60×10-4m、平均体積は1.6×10-12であった。
<導入閉鎖工程>
該CaO中空球を、直径6mm、高さ3mmの分割型反応容器に入れ、開口部である反応容器上下をガラス板で覆い、C型クランプで反応容器を閉鎖した。
<多孔体形成工程>
次に、反応容器を水に浸漬した。ガラス板と分割型反応容器の隙間から水が反応容器内に導入され、CaO中空球が膨張して最大径長さが約80μmの複数の顆粒が結合して形成される、複数方向に延びる複数の貫通孔を備えた多孔体が製造された。XRD解析の結果、組成が純粋な水酸化カルシウムとなっていることを確認した。体積は2.8×10-8であり、酸溶解残留物は0質量%であった。
したがって、医療用水酸化カルシウム多孔体が製造されていることがわかった。
<炭酸化工程>
次に、反応容器の上のガラス板を外し、実施例1で用いた炭酸化用反応容器に入れ、温度を15℃とした以外は実施例1と同じ方法で7日間炭酸化工程を行った。
μCT解析および走査型電子顕微鏡像解析(図12)の結果、最大径長さが約80μmの複数の顆粒が結合して、複数方向に延びる複数の貫通孔を備えた顆粒結合多孔体が製造されていることがわかった。体積は2.8×10-8であった。XRD解析の結果、粉末XRD解析から組成はバテライト含有量が79質量%、カルサイト含有量が21質量%である純粋な炭酸カルシウムであることが確認された。酸溶解残留物試験で残留物は0質量%であることから純粋な医療用炭酸カルシウム多孔体が製造されていることがわかった。また、温度を15℃としても医療用バテライト組成物が製造できることがわかった。
気孔率は60%であり、基準圧縮強度は0.1MPaと計算されたが、該組成物の圧縮強度は5MPaであり、基準圧縮強度以上であることが確認された。
<リン酸塩付与工程>
次に、該医療用炭酸カルシウム多孔体を80℃の1モル濃度リン酸水素二ナトリウムに9時間浸漬した。
最大径長さが約80μmの複数の顆粒が結合して、複数方向に延びる複数の貫通孔を備えた顆粒結合多孔体が製造されていることがわかった。体積は2.8×10-8であった。XRD解析および赤外分光スペクトルから、組成は純粋な炭酸アパタイトであることが確認された。気孔率は56%であり、圧縮強度は4.1MPaであった。これらから、医療用炭酸アパタイト多孔体が製造されたことがわかった。
<動物実験>
ウサギ脛骨にφ6mmの骨欠損を形成し、製造された医療用炭酸アパタイト多孔体を埋植した。図13に埋植4週目に、試料を周囲組織と一塊に取出し、病理組織学的検索をおこなった結果を示す。優れた組織親和性と骨伝導性だけでなく、医療用炭酸アパタイト多孔体のほぼ全てが骨に置換されていた。
埋植4週目の段階でほぼ全てが骨に置換される炭酸アパタイト組成物はこれまでに見出されていない。したがって本発明の医療用炭酸アパタイト多孔体は骨補填材として極めて有用な医療用材料であることがわかった。
【0104】
(実施例17)
<硫酸カルシウム二水和物製造工程>
硫酸カルシウム半水和物粉末を混水比0.14で練和し、20MPaで過剰な水を除去し、24時間硬化させてブロックを製造した。ブロックは硫酸カルシウム半水和物を含む硫酸カルシウム二水和物であった。
<硫酸カルシウム半水和物製造工程>
該ブロックを粉砕、ふるい分けして、短径が100~210μmである顆粒を製造した。該顆粒を120℃で熱処理すると、脱水された。XRD解析から組成が純粋な硫酸カルシウム半水和物であることを確認した。また、酸溶解残留物は0質量%であり、代表的な顆粒の体積は1.8×10-12であった。このことから医療用硫酸カルシウム組成物が製造できたことを確認した。
<導入工程>
該硫酸カルシウム半水和物顆粒を、直径6mm、高さ9mmの分割型反応容器に入れ、開口部である反応容器上下をガラス板で覆い、C型クランプで反応容器を固定した。なお、反応容器の体積に対する硫酸カルシウム半水和物顆粒の嵩体積は120%とした。
<多孔体形成工程>
次に、反応容器を水に浸漬した。ガラス板と分割型反応容器の隙間から水が反応容器内に導入され、硫酸カルシウム半水和物顆粒が水和硬化して顆粒結合多孔体が製造された。XRD解析の結果、硫酸カルシウム二水和物が形成されていることを確認した。製造された硫酸カルシウム二水和物多孔体の圧縮強度は1.2MPaであった。
<熱処理工程>
製造された硫酸カルシウム二水和物顆粒結合多孔体の機械的強度を向上させる目的で、該多孔体を毎分1℃で900℃まで加熱し、900℃で6時間熱処理した。XRD解析の結果、硫酸カルシウム無水物が形成されていることを確認した。
<炭酸化工程>
次に、該硫酸カルシウム無水物多孔体を80℃の1モル濃度の炭酸ナトリウム水溶液に4日間浸漬した。体積は2.8×10-8であった。図14に走査型電子顕微鏡像を示す。走査型電子顕微鏡像およびμCT解析から最大径長さが110~230μmの顆粒結合多孔体であることを確認した。また、XRD解析から組成はカルサイトであることを確認した。気孔率は58%であり、基準圧縮強度は9.7MPaであるが、圧縮強度は7.9MPa、水銀圧入法測定による該顆粒結合多孔体の10μm以下の細孔容積は0.65cm /gであった。酸溶解残留物試験で残留物は0質量%であることから、純粋な医療用炭酸カルシウム多孔体が製造されていることがわかった。
<リン酸塩付与工程>
次に、該医療用炭酸カルシウム多孔体を60℃の0.1モル濃度リン酸水素二ナトリウムに14日間浸漬した。
走査型電子顕微鏡像およびマイクロCT解析から最大径長さが約110~230μmの複数の顆粒が結合して、複数方向に延びる複数の貫通孔を備えた顆粒結合多孔体が製造されていることがわかった。体積は2.8×10-8であった。XRD解析パターンおよび赤外分光スペクトルから、組成は純粋な炭酸アパタイトであることが確認された。気孔率は65%であり、圧縮強度は4.9MPa、水銀圧入法測定による該顆粒結合多孔体の10μm以下の細孔容積は0.42cm /gであった。これらから、医療用炭酸アパタイト多孔体が製造されたことがわかった。
【0105】
(実施例18)
<顆粒結合多孔体形成工程:高分子材料含有原料カルシウム組成物顆粒結合多孔体の製造>
水酸化カルシウム粉末とアクリル樹脂(三菱ケミカル株式会社製ダイヤナールBR-105)を45:55で混錬し、170℃で2時間混錬した。粉砕、ふるい分けして短径が100μm以上150μm以下の高分子材料含有水酸化カルシウム顆粒を製造した。
<導入工程>
次に、直径6mm、高さ3mmの反応容器に、反応容器体積の150%である嵩体積の高分子材料含有水酸化カルシウム顆粒を導入し、反応容器の開口部を閉鎖した。
<顆粒結合工程>
次に、該反応容器を150℃で3時間に加熱することにより、高分子材料含有水酸化カルシウム顆粒を軟化させた。反応容器体積の150%の該混合物顆粒を反応容器に充填しているため、該混合物顆粒同士には圧縮応力が付加されている。この状態で顆粒が熱的に軟化するため、複数の顆粒が結合して形成される、複数方向に延びる複数の貫通孔を備えた顆粒結合多孔体が製造された。
<脱脂炭酸化工程>
次に、該多孔体を、内径10mmのガラス管に入れ、酸素を毎分100mL、二酸化炭素を毎分400mL流した雰囲気下で、毎分0.5℃で650℃まで昇温した後、650℃で24時間熱処理し、その後、毎分5℃で室温まで冷却した。
製造された多孔体はXRD解析から純粋なカルサイトであることを確認した。酸溶解性残留物は0質量%であり、気孔率は48%、水銀圧入法測定による該顆粒結合多孔体の10μm以下の細孔容積は0.12cm /gであった。基準圧縮強度は19MPaと計算されたが、該組成物の圧縮強度は29MPaであり、基準圧縮強度以上であることが確認された。これらから医療用カルサイト多孔体が製造されたことが確認された。
<リン酸化工程>
次に、該医療用カルサイト多孔体を80℃の2モル濃度リン酸水素二ナトリウムに28日間浸漬した。
XRD解析および赤外分光スペクトルから、組成は純粋な炭酸アパタイトであることが確認された。酸溶解性残留物は0質量%であった。気孔率は48%であり、水銀圧入法測定による該顆粒結合多孔体の10μm以下の細孔容積は0.08cm /gであった。基準圧縮強度は19MPaと計算されたが、該組成物の圧縮強度は24MPaであり、基準圧縮強度以上であることが確認された。これらから医療用炭酸アパタイト多孔体が製造されたことが確認された。
【0106】
(実施例19)
実施例18と同一の高分子材料含有水酸化カルシウム顆粒を用い、実施例18と同じ導入工程を行った。
<顆粒結合工程>
その後、反応容器ごと高分子材料含有水酸化カルシウム顆粒を可塑剤であるメチルエチルケトンに浸漬した。5秒後にメチルエチルケトンから反応容器を取出し、反応容器内の過剰のメチルエチルケトンをろ紙にしみ込ませることによって除去した。この工程によって、顆粒の表面が溶解し、複数の顆粒表面同士が結合して形成される、複数方向に延びる複数の貫通孔を備えた顆粒結合多孔体が製造された。
<脱脂炭酸化工程>
次に、実施例18と同一の脱脂炭酸化工程を行った。
製造された多孔体はXRD解析から純粋なカルサイトであることを確認した。酸溶解性残留物は0質量%であり、気孔率は47%、水銀圧入法測定による該顆粒結合多孔体の10μm以下の細孔容積は0.12cm /gであった。基準圧縮強度は21MPaと計算されたが、該組成物の圧縮強度は33MPaであり、基準圧縮強度以上であることが確認された。これらから医療用カルサイト多孔体が製造されたことが確認された。
【0107】
(実施例20)
実施例19で用いたメチルエチルケトンの代わりに可塑剤であるジブチルテレフタレートの3体積%ノルマルヘキサン溶液を用いた以外は実施例19と同じ操作で製造を行った。
製造された多孔体はXRD解析から純粋なカルサイトであることを確認した。酸溶解性残留物は0質量%であり、気孔率は51%、水銀圧入法測定による該顆粒結合多孔体の10μm以下の細孔容積は0.14cm /gであった。基準圧縮強度は16MPaと計算されたが、該組成物の圧縮強度は22MPaであり、基準圧縮強度以上であることが確認された。これらから医療用カルサイト多孔体が製造されたことが確認された。
【0108】
(実施例21)
実施例2で製造された炭酸アパタイト顆粒50mgを、0℃で科研製薬株式会社製繊維芽細胞成長因子(FGF-2)を1.5μg溶解した水0.15mLに120分浸漬し、炭酸アパタイト顆粒への吸着量をBCA法で定量すると、吸着量は0.87μgであった。FGF-2を吸着した炭酸アパタイト顆粒を-80℃で凍結乾燥した後で、37℃の生理食塩水に浸漬するとFGF-2は経時的に脱着したが、12時間後の脱着量は吸着量の1.8%であった。これらの結果から、本発明の炭酸アパタイトは薬物徐放担体として有用であることが確認された。
【0109】
(比較例1
太平化学株式会社製水酸アパタイト(HAP-200)を50MPaで圧粉し、1200℃で12時間焼成した。粉砕して、目開き2mmのふるいを通過して、目開き1.18mmを通過しない水酸アパタイト焼結体顆粒を製造した。水酸アパタイト焼結体顆粒は本発明に含まれない材料である。
その後、実施例21と同じ工程を行った。水酸アパタイト顆粒への吸着量は0.63μgであった。FGF-2を吸着した炭酸アパタイト顆粒を-80℃で凍結乾燥した後で、37℃の生理食塩水に浸漬するとFGF-2は経時的に脱着したが、12時間後の脱着量は吸着量の3.2%であった。
実施例21と本比較例を比較すると、実施例21の炭酸アパタイト顆粒の方が、薬物担持量が多いこと、脱着量が少ないことがわかる。すなわち、実施例21の薬物徐放担体と比較して、薬物担持量が多いことがわかる。また、生理食塩水に浸漬した際の脱着量が少ないことから、長期間の薬物徐放担持力を有することがわかった。
【0110】
(実施例22)
炭酸カルシウム粉末として、Mg含有量が1.8×10 -5 質量%、Sr含有量が8×10 -3 質量%、平均粒径が5μm、球形度が0.98の堺化学工業製かるまる、実施例7で用いた白石研究所製高純度炭酸カルシウム粉末にMg含有量が1.8×10 -5 質量%、又はSr含有量が8×10 -3 質量%となるようにマグネシウム、又はストロンチウムを固溶させた粉末、特開2016-30708で開示されている炭酸カルシウムの製造部分に準じて、宇部マテリアル水酸化カルシウムから製造したMg含有量が2×10 -5 質量%以下、Sr含有量が1×10 -4 質量%以下、平均粒径が5μm、球形度が0.98の炭酸カルシウム粉末を用い、最終温度度を600℃とした以外は実施例7と同じ製造方法でカルサイトハニカム構造体を製造した。試料名は、それぞれ、かるまる、Sr固溶、Mg固溶、球形とする。
<(E5)脱脂炭酸カルシウム焼結工程>を行った後の、XRD解析から全ての試料の組成がカルサイトであることを確認した。
かるまるから製造したカルサイト組成物のMg含有量は1.8×10 -5 質量%、Sr含有量が8×10 -3 質量%であり、原料からの変動は認められなかった。また、粒界を界面とした平均粒径は4.8μmであり、球形度は0.98であった。Mg固溶から製造したカルサイト組成物のMg含有量は1.8×10 -5 質量%であり、原料からの変動は認められなかった。Sr固溶から製造したカルサイト組成物のSr含有量は8×10 -3 質量%であり、原料からの変動は認められなかった。球形から製造したカルサイト組成物の粒界を界面とした球形度は0.98で原料からの変動は認められなかった。
表6に、製造されたカルサイトハニカム構造体の気孔率、該気孔率に対する基準圧縮強度、圧縮強度、水銀圧入法による細孔分布測定において、ハニカム構造体の質量に対する細孔径が10μm以下の細孔容積をまとめた。なお、酸溶解残留物は全て0質量%であり、顕著な粒成長は認められなかった。
【表6】
比較例4では、10μm以下の細孔容積が0.02cm /gと極めて小さかったが、かるまる、Sr固溶、Mg固溶、球形ではいずれも該細孔容積が大きく、かつ、圧縮強度が大きいことがわかった。すなわち、(R1)~(R4)を満たす炭酸カルシウム粉末を用いると、最終温度を600℃としても10μm以下の細孔容積が0.02cm /gより大きく、(E)、(I)だけでなく、それぞれ(AJ1)~(AJ4)の条件も満たす医療用炭酸カルシウムハニカム構造体が製造できることがわかった。
<リン酸成分付与工程>
次に、該医療用カルサイトハニカム構造体をpHが8.9である80℃の1モル濃度Na HPO 水溶液に7日間浸漬した。この工程は、(AI1)~(AI4)のいずれかを満たす製造工程である。最終温度として600℃で製造したにも関わらず、(AI1)~(AI4)のいずれかを満たす条件で製造した医療用炭酸カルシウムハニカム構造体の場合は7日間浸漬で、(W4)~(W8)のいずれかの条件を満たす純粋な炭酸アパタイトに組成変換されていることがXRD解析およびFT-IR解析によって確認された。
また、かるまるから製造した炭酸アパタイト組成物のMg含有量は1.6×10 -5 質量%、Sr含有量が7×10 -3 質量%であり、原料からやや減少していた。また、粒界を界面とした平均粒径は4.8μmであり、球形度は0.98であった。Mg固溶から製造したカルサイト組成物のMg含有量は1.5×10 -5 質量%であり、原料からやや減少していた。Sr固溶から製造したカルサイト組成物のSr含有量は7×10 -3 質量%であり、原料からやや減少していた。球形から製造したカルサイト組成物の粒界を界面とした球形度は0.98で原料からの変動は認められなかった。炭酸基含有量はいずれも10.8質量%であった。なお、酸溶解残留物は全て0質量%であった。また、該医療用炭酸アパタイトハニカム構造体は基準圧縮強度を超える圧縮強度を示すことも明らかになった。
製造された医療用炭酸アパタイトハニカム構造体の骨補填材としての有用性をウサギ検証するため、ウサギ大腿骨遠位骨端に埋植した。図16は埋植4週目のヘマトキシリン-エオジン染色した病理組織像である。中央部まで骨が伝導しており、高い骨伝導性が確認できる。全ての貫通孔内部に骨形成が認められ、気孔面積に対する骨形成面積は55%であり、実施例9、14で製造した医療用炭酸アパタイトハニカム構造体と比較しても骨形成面積が大きかった。
【0111】
(実施例23)
<原料カルシウム製造工程>
炭酸カルシウム粉末として堺化学工業製かるまるを用い、リン酸銀含有量が0~20質量%となるようにかるまるとリン酸銀を混合、300MPaで圧粉し、直径8mm高さ4mmの円柱状圧粉体を製造した。該圧粉体を毎分5℃で350℃に昇温、12時間保持し、焼結した。熱処理後の材料を、10倍量の炭酸カルシウム飽和水を入れたガラス容器に浸漬し、28kHz出力75Wの条件で1分間超音波を行い、照射後の該組成物の乾燥重量を超音波照射前の乾燥重量と比較したところ、いずれも100%であった。粉末XRD解析の結果、炭酸カルシウムの多形はバテライトであることが確認された。リン酸銀含有量が1質量%未満の試料については、酸溶解残留物が1質量%未満であった。体積が2×10 -7 のバテライトブロックが製造できた。間接引張強度は、リン酸銀の含有量に関わらず3MPaであり、換算圧縮強度は15MPaであった。
<リン酸塩水溶液暴露工程>
該バテライトブロックを1モル濃度のNa HPO 水溶液に80℃で7日間浸漬した。XRD解析およびFT-IR解析の結果、炭酸基含有量が10.8質量%の炭酸アパタイトに組成変換されていることがわかった。間接引張強さはリン酸銀の含有量に関わらず5MPaであり、換算圧縮強度は25MPaであった。また、炭酸カルシウムにリン酸が付与されて炭酸アパタイト組成物が製造されたためか、炭酸アパタイト組成物に含有されているリン酸銀濃度は当初の含有量の90%の値であった。原料バテライト組成物に含まれているリン酸銀含有量が1質量%未満の試料については、酸溶解残留物が1質量%未満であった。炭酸アパタイト組成物の体積は2×10 -7 であった。
<抗菌性試験と細胞毒性試験>
製造されたリン酸銀含有炭酸アパタイト組成物の抗菌性をフィルム密着法で評価すると、リン酸銀含有量が0質量%、0.009質量%、0.09質量%のリン酸銀含有炭酸アパタイト組成物の表皮ブドウ球菌数はそれぞれ2×10 CFU/mL、4×10 CFU/mL、6×10 CFU/mLであり、0.9質量%以上のリン酸銀を含むリン酸銀含有炭酸アパタイト組成物の表皮ブドウ球菌数は1×10 CFU/mL以下であった。したがって、リン酸銀を含むリン酸銀含有炭酸アパタイト組成物は全ての試料で抗菌効果を示すことが確認された。
また、製造されたリン酸銀含有炭酸アパタイト組成物の組織親和性を細胞毒性試験で評価すると、リン酸銀含有量が0質量%では4000/cm 、0.09質量%では4000/cm 、0.9質量%では3600/cm 、3.0質量%では3000/cm 、4.5質量%では200/cm であった。
したがって、0.01質量%以上3質量%以下のリン酸銀を含むリン酸銀含有炭酸アパタイト組成物は、抗菌効果と組織親和性の両者を備える医療用炭酸アパタイト組成物であることが確認された。
【0112】
(実施例24)
ワックス系高分子材料に対して硫酸カルシウムの体積比が50%である原料カルシウム組成物から製造した実施例14の医療用炭酸アパタイトハニカム構造体を、25℃の0.1~5mmol/Lの硝酸銀水溶液に1時間浸漬した。図17に該構造体を1mmol/Lの硝酸銀水溶液に浸漬する前(a、b)と後(c、d)のSEM像を示す。該構造体を硝酸銀水溶液に浸漬すると、ハニカム構造は維持され、結晶が該構造体表面に結合して析出していることがわかった(図17d矢印)。X線光電子分光分析の結果、該結晶はリン酸銀であることがわかった。形成されたリン酸銀量は、0.1mmol/Lの硝酸銀水溶液の場合で、0.04質量%、0.5mmol/Lの硝酸銀水溶液の場合で、0.2質量%、1mmol/Lの硝酸銀水溶液の場合で、0.4質量%、5mmol/Lの硝酸銀水溶液の場合で、2質量%であった。
また、0.1mmol/Lの硝酸銀水溶液に浸漬した医療用炭酸アパタイトハニカム構造体を1時間後に取出し、0.5mmol/Lの硝酸銀水溶液に10分間浸漬した。ハニカム構造体を気孔に垂直な方向で切断し、表層部から75μmの部位における銀濃度に対する、ハニカム構造体の表面で測定した銀濃度は3.2倍であった。
該炭酸アパタイトハニカム構造体の、気孔率は50%、気孔方向に対する圧縮強度は12MPa、10μm以下の細孔体積は0.34cm /gであった。
該炭酸アパタイトハニカム構造体を、Fritsch社製カッティングミルで粉砕、開口径が1mmと5mmのふるいを用いて、短径が1mm以上5mm未満の炭酸アパタイトハニカム構造体顆粒を製造した。ハニカム構造体は異方性が強いため、カッティングミルで粉砕した段階では鋭角部分が多かった。すなわち、当粉砕物の投射図周囲線の任意の点から半径0.2mmの円を描き、該円と投射図周囲線が交わる3点が形成する三角形の、投射図周囲線の任意の点を頂点とする角度が90°以下である点が存在した。そこで、目開き0.25mmのふるいに該顆粒をいれ、アズワン社製ふるい振とう機で振とうさせた。3時間振とう後の顆粒からは鋭角部分が除去され、投射図周囲線の任意の点から半径0.2mmの円を描き、該円と投射図周囲線が交わる3点が形成する三角形の、投射図周囲線の任意の点を頂点とする角度が90°以下である点が存在しなくなることを確認した。
【0113】
(実施例25)
欠損再建治療用キットの固体部は、αTCP粉末(太平化学産業製α-TCP-B)と平均粒径が5μmのバテライト粉末(堺化学工業製かるまる)とを1:1のモル比(バテライト含有量は24質量%)で混合して製造した。溶液部は、1モル濃度のリン酸水素二ナトリウムと1モル濃度リン酸二水素ナトリウム水溶液をpHが7.0となるように混合して製造した。
欠損再建治療用キットの固体部と液体部とを質量比1:0.4で練和して得られるペーストの硬化時間は、10分であった。また、24時間後の間接引張強度は4MPaであり、65質量%のバテライトと18%のαTCPが消費されて、炭酸アパタイトが形成されていることがわかった。αTCPの消費量に対するバテライトの消費量の比は3.6であった。なお、練和直後のペーストを水中に浸漬するとゆっくり崩れることがわかった。
【0114】
(実施例26)
実施例25の溶液部に、カルボキシメチルセルロースナトリウム(富士フイルム和光純薬社製)が0.1質量%となるように添加した以外は実施例A1と同じ欠損再建治療用キットを製造した。
欠損再建治療用キットの固体部と液体部とを質量比1:0.4で練和して得られるペーストは粘性のためか、実施例A1のペーストより操作性がよかった。ペーストの硬化時間は、10分であった。また、24時間後の間接引張強度は4MPaであり、64質量%のバテライトと17%のαTCPが消費されて、炭酸アパタイトが形成されていることがわかった。αTCPの消費量に対するバテライトの消費量の比は3.8であった。なお、練和直後のペーストを水中に浸漬すると崩れるが、実施例25と比較すると形態を維持できることがわかった。
実施例25と本実施例の比較から、溶液部の粘度を向上させるとペーストの操作性やペースト段階での水に対する形態保持性が向上していること、硬化時間や硬化体の機械的強度、組成等には大きな影響を及ぼさないことがわかった。
【0115】
(実施例27)
実施例26の溶液部に、クエン酸(富士フイルム和光純薬社製)が0.2モル%となるように添加した以外は実施例26と同じ欠損再建治療用キットを製造した。
欠損再建治療用キットの固体部と液体部とを質量比1:0.4で練和して得られるペーストは粘性のためか、実施例25のペーストより操作性がよかった。ペーストの硬化時間は、5分であった。なお、練和直後のペーストを水中に浸漬しても崩れず、形態を維持できることがわかった。
また、24時間後の間接引張強度は6MPaであり、71質量%のバテライトと33%のαTCPが消費されて、炭酸アパタイトが形成されていることがわかった。αTCPの消費量に対するバテライトの消費量の比は2.2であった。
実施例25、26と本実施例の比較から、カルボキシ基を複数有するクエン酸を添加すると硬化時間が短くなり、硬化体の機械的強度が大きくなること、ペースト段階での水に対する形態保持性が向上していることがわかった。
【0116】
(実施例28)
実施例6で製造した350℃焼成のバテライトブロック焼結体を粉砕、開口径が150μmと200μmのふるいを用いて、短径が150μm以上200μm未満のバテライト顆粒を製造した。実施例27の固体部に、該バテライト顆粒を10質量%となるように添加した以外は実施例27と同じ欠損再建治療用キットを製造した。
欠損再建治療用キットの固体部と液体部とを質量比1:0.4で練和して得られるペーストはバテライト顆粒のためか、実施例27のペーストよりやや操作性に劣っていたが、臨床的には問題ない範囲であった。ペーストの硬化時間は、5分であった。また、24時間後の間接引張強度は7MPaであり、60質量%のバテライトと33%のαTCPが消費されて、炭酸アパタイトが形成されていることがわかった。αTCPの消費量に対するバテライトの消費量の比は1.8であった。
実施例27と本実施例の比較から、体積が10 -12 以上であるバテライトを固体部に含むと、硬化体の機械的強度が高くなることがわかった。
【0117】
(比較例13)
実施例25で用いたバテライト粉末(かるまる)を400℃で48時間熱処理し、形状が同じであるカルサイト粉末を製造した。平均粒径は5μmであった。固体部の炭酸カルシウムとして、バテライトではなくカルサイトを用いた以外は、実施例25と同じ条件で骨欠損再建治療用キットを製造し、同じ条件で練和、硬化させた。
欠損再建治療用キットの固体部と液体部とを質量比1:0.4で練和して得られるペーストの操作性は実施例25と同じであった。ペーストの硬化時間は、10分であった。また、24時間後の間接引張強度は3MPaであり、32質量%のカルサイトと25%のαTCPが消費されて、炭酸アパタイトが形成されていることがわかった。αTCPの消費量に対するバテライトの消費量の比は1.3であった。
実施例25と本比較例の比較から、炭酸カルシウムとしてバテライトとカルサイトを用いる場合に硬化時間の顕著な差は認められないものの、αTCPの消費量に対する消費量比は溶解度が大きいバテライトの方が、大きく、その結果、多量の炭酸アパタイト又は炭酸基含有量の大きい炭酸アパタイト硬化体となることがわかった。また、バテライトを用いる該キットの方が炭酸アパタイトの形成量が多いためか、間接引張強度が大きいこともわかった。
【0118】
(比較例14)
比較例13で製造したカルサイト粉末を用いた以外は、実施例27と同じ条件で骨欠損再建治療用キットを製造し、同じ条件で練和、硬化させた。
欠損再建治療用キットの固体部と液体部とを質量比1:0.4で練和して得られるペーストは粘性のためか、実施例27と同等であり、比較例13のペーストより操作性がよかった。ペーストの硬化時間は、5分であった。また、24時間後の間接引張強度は3MPaであり、28質量%のカルサイトと33%のαTCPが消費されて、炭酸アパタイトが形成されていることがわかった。αTCPの消費量に対するバテライトの消費量の比は0.8であった。
実施例27と本比較例の比較から、液体部にカルボキシメチルセルロースナトリウムとカルボキシ基を複数有するクエン酸を添加した場合でも、炭酸カルシウムとしてバテライトを用いる場合とカルサイトを用いる場合との間に硬化時間の顕著な差は認められないものの、αTCPの消費量に対する消費量比は溶解度が大きいバテライトの方が、大きく、その結果、多量の炭酸アパタイト又は炭酸基含有量の大きい炭酸アパタイト硬化体となることがわかった。また、炭酸アパタイトの形成量が多いためか、間接引張強度が大きいこともわかった。
【0119】
(実施例29)
バテライト粉末として、実施例6で製造した平均粒径1μmのバテライト粉末を用いた以外は実施例25と同じ欠損再建治療用キットを製造した。
欠損再建治療用キットの固体部と液体部とを質量比1:0.4で練和して得られるペーストの硬化時間は、5分であった。また、24時間後の間接引張強度は4MPaであり、57質量%のバテライトと15%のαTCPが消費されて、炭酸アパタイトが形成されていることがわかった。αTCPの消費量に対するバテライトの消費量の比は3.8であった。
実施例25と本実施例の比較から、平均粒径が小さいバテライト粉末を用いると、硬化時間が短くなることがわかった。
【0120】
(比較例15)
実施例29で用いたバテライト粉末を400℃で48時間熱処理し、形状が同じであるカルサイト粉末を製造した。平均粒径は1μmであった。
カルサイト粉末を用いた以外は実施例29と同じ欠損再建治療用キットを製造した。
欠損再建治療用キットの固体部と液体部とを質量比1:0.4で練和して得られるペーストの硬化時間は、5分であった。また、24時間後の間接引張強度は3MPaであり、17質量%のバテライトと30%のαTCPが消費されて、炭酸アパタイトが形成されていることがわかった。αTCPの消費量に対するバテライトの消費量の比は0.6であった。
実施例29と本実施例の比較から、炭酸カルシウムとしてバテライトとカルサイトを用いる場合に硬化時間の顕著な差は認められないものの、αTCPの消費量に対する消費量比は溶解度が大きいバテライトの方が、大きく、その結果、多量の炭酸アパタイト又は炭酸基含有量の大きい炭酸アパタイト硬化体となることがわかった。また、バテライトを用いる該キットの方が炭酸アパタイトの形成量が多いためか、間接引張強度が大きいこともわかった。
図1
図2
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