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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】リチウム塩水溶液の濃縮方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/22 20060101AFI20240821BHJP
   C22B 3/26 20060101ALI20240821BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20240821BHJP
   C22B 26/12 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
C22B3/22
C22B3/26
C22B7/00 C
C22B26/12
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021013453
(22)【出願日】2021-01-29
(65)【公開番号】P2022117000
(43)【公開日】2022-08-10
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 秀彦
(72)【発明者】
【氏名】阿部 要二
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-535309(JP,A)
【文献】特表2020-527196(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0399735(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム塩水溶液の濃縮方法であって、半透膜と、前記半透膜で仕切られた第1室および第2室と、を備える半透膜モジュールに、前記リチウム塩水溶液を所定の圧力で前記第1室に供給し、前記第1室から排出された濃縮されたリチウム塩水溶液の少なくとも一部を前記所定の圧力よりも低い圧力で前記第2室に供給することで、前記第1室内のリチウム塩水溶液に含まれる水を前記半透膜を介して前記第2室内のリチウム塩水溶液に移行させ、前記第2室から希釈されたリチウム塩水溶液を排出する濃縮工程を含み、
前記半透膜は、逆浸透膜、正浸透膜、ナノろ過膜のいずれかであり、
前記所定の圧力は、0.5~10.0MPaであることを特徴とする濃縮方法。
【請求項2】
リチウム塩水溶液の濃縮方法であって、
連通されている複数の半透膜モジュールを準備する工程を有し、
前記複数の半透膜モジュールの各々は、半透膜、並びに、前記半透膜で仕切られた第1室および第2室を有し、
前記連通は、前記複数の半透膜モジュールの第1室および第2室の、各々の直列的な連通であり、
前記リチウム塩水溶液を所定の圧力で最上流の半透膜モジュールの第1室に供給し、直列的に連結された各々の半透膜モジュールの第1室を順次通過させ、最下流の半透膜モジュールの第1室から濃縮されたリチウム塩水溶液を排出し、
前記濃縮されたリチウム塩水溶液の少なくとも一部を、前記所定の圧力よりも低い圧力で前記最下流の半透膜モジュールの第2室に供給し、前記直列的に連結された各々の半透膜モジュールの第2室を順次通過させることで、前記第1室内のリチウム塩水溶液に含まれる水を前記半透膜を介して前記第2室内のリチウム塩水溶液に移行させ、前記最上流の半透膜モジュールの第2室から希釈されたリチウム塩水溶液を排出する濃縮工程を含み、
前記半透膜は、逆浸透膜、正浸透膜、ナノろ過膜のいずれかであり、
前記所定の圧力は、0.5~10.0MPaであることを特徴とする濃縮方法。
【請求項3】
リチウム塩水溶液の濃縮方法であって、半透膜と、前記半透膜で仕切られた第1室および第2室と、を備える半透膜モジュールに、前記リチウム塩水溶液の一部を所定の圧力で前記第1室に供給し、前記リチウム塩水溶液の他の一部を前記所定の圧力よりも低い圧力で前記第2室に供給することで、前記第1室内の前記リチウム塩水溶液に含まれる水を前記半透膜を介して前記第2室内の前記リチウム塩水溶液に移行させ、前記第1室から濃縮されたリチウム塩水溶液を排出し、前記第2室から希釈されたリチウム塩水溶液を排出する濃縮工程を含み、
前記半透膜は、逆浸透膜、正浸透膜、ナノろ過膜のいずれかであり、
前記所定の圧力は、0.5~10.0MPaであることを特徴とする濃縮方法。
【請求項4】
リチウム塩水溶液の濃縮方法であって、
連通されている複数の半透膜モジュールを準備する工程を有し、
前記複数の半透膜モジュールの各々は、半透膜、並びに、前記半透膜で仕切られた第1室および第2室を有し、
前記連通は、前記複数の半透膜モジュールの第1室および第2室の、各々の直列的な連通であり、
前記リチウム塩水溶液の一部を所定の圧力で最上流の半透膜モジュールの第1室に供給し、直列的に連結された各々の半透膜モジュールの第1室を順次通過させ、最下流の半透膜モジュールの第1室から濃縮されたリチウム塩水溶液を排出し、
前記リチウム塩水溶液の他の一部を、前記所定の圧力よりも低い圧力で前記最上流の半透膜モジュールの第2室に供給し、前記直列的に連結された各々の半透膜モジュールの第2室を順次通過させることで、前記第1室内のリチウム塩水溶液に含まれる水を前記半透膜を介して前記第2室内のリチウム塩水溶液に移行させ、前記最下流の半透膜モジュールの第2室から希釈されたリチウム塩水溶液を排出する濃縮工程を含み、
前記半透膜は、逆浸透膜、正浸透膜、ナノろ過膜のいずれかであり、
前記所定の圧力は、0.5~10.0MPaであることを特徴とする濃縮方法。
【請求項5】
前記第1室および/または前記第2室に供給される前記リチウム塩水溶液の温度を制御する、請求項1~4のいずれか1項に記載の濃縮方法。
【請求項6】
前記リチウム塩水溶液の温度を5~80℃の間で、かつ中心値±5℃で制御する、請求項5に記載の濃縮方法。
【請求項7】
前記濃縮されたリチウム塩水溶液の濃度Mは、下記の(1)および(2)式を満たす、請求項1~6のいずれか一項に記載の濃縮方法。
M(mol/L)≧2/(x+1) (1)
M(mol/L)≦リチウム塩の飽和濃度 (2)
ここでxは、Li(x)Aで表されるリチウム塩のリチウム原子数であり、Aはリチウム塩が水に溶解したときの対イオンである
【請求項8】
前記リチウム塩水溶液は、有機溶剤からリチウムを液液抽出した後のリチウム塩水溶液を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の濃縮方法。
【請求項9】
前記半透膜は、中空糸膜である、請求項1~8のいずれか1項に記載の濃縮方法。
【請求項10】
前記中空糸膜の外側が第1室であり、前記中空糸膜の内側が第2室である、請求項9に記載の濃縮方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムが溶解した水溶液中のリチウムを濃縮する方法、特にリチウムイオン電池からリチウムを回収する際に用いられるリチウム塩水溶液の濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、電気自動車、デジタルカメラ、携帯電話、ノートパソコンなどの駆動に広く使用されている。限られたリチウム資源を有効に活用するため、寿命により性能が低下したもの、あるいは使用後のリチウムイオン電池からリチウムを回収する技術の開発が進められている。
【0003】
回収されたリチウムイオン電池からリチウムを回収する方法として、分解した正電極を濃硫酸に溶解したのち、pHを調整し、マンガンやコバルト、ニッケルなどを抽出し、リチウム塩水溶液を得て、その後、二酸化炭素を加え、溶解度の低い炭酸リチウムの形でリチウムを回収する方法がよく知られている。ここで、リチウム塩水溶液から炭酸リチウムの回収率を向上するため、二酸化炭素を加える前に、前記リチウム塩水溶液を濃縮することが好ましく、さまざまな方法が提案されている(例えば、特許文献1、2、3、4)。
【0004】
特許文献1では、リチウムイオンを濃縮するために、溶媒抽出とともに逆抽出を実施することが提案されているが、リチウム濃度は5.0g/L~30.0g/Lと低く、その後の炭酸塩のかたちで回収するときの回収率が低い問題がある。また、特許文献2には、リチウムイオンを濃縮することが記載されているが、具体的な濃縮手段については記載されていない。また、特許文献3では、バイポーライオン交換膜により濃縮する方法が提案されている。イオン交換膜は理論的には飽和濃度までリチウム塩水溶液の濃縮が可能であるが、消費電力が多くなる問題がある。また、特許文献4では、蒸発法により濃縮する方法が提案されているが、蒸発法は水溶液の相転換、つまり水溶液を蒸発させるための気化熱としてエネルギーを多量に消費する問題がある。また、RO膜は、蒸発法に比べ低いエネルギーで濃縮できるものの、加える圧力以上の浸透圧を持つ水溶液の濃縮はできず、濃縮度が低くなることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-173106号
【文献】特開2020-169355号
【文献】特開2020-132951号
【文献】特開2020-132952号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑み、リチウム塩水溶液を低い消費エネルギーで高濃縮する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] リチウム塩水溶液の濃縮方法であって、半透膜と、前記半透膜で仕切られた第1室および第2室と、を備える半透膜モジュールに、前記リチウム塩水溶液を所定の圧力で前記第1室に供給し、前記第1室から排出された濃縮されたリチウム塩水溶液の少なくとも一部を前記所定の圧力よりも低い圧力で前記第2室に供給することで、前記第1室内のリチウム塩水溶液に含まれる水を前記半透膜を介して前記第2室内のリチウム塩水溶液に移行させ、前記第2室から希釈されたリチウム塩水溶液を排出することを特徴とする濃縮方法。
[2] リチウム塩水溶液の濃縮方法であって、
連通されている複数の半透膜モジュールを準備する工程を有し、
前記複数の半透膜モジュールの各々は、半透膜、並びに、前記半透膜で仕切られた第1室および第2室を有し、
前記連通は、前記複数の半透膜モジュールの第1室および第2室の、各々の直列的な連通であり、
前記リチウム塩水溶液を所定の圧力で最上流の半透膜モジュールの第1室に供給し、直列的に連結された各々の半透膜モジュールの第1室を順次通過させ、最下流の半透膜モジュールの第1室から濃縮されたリチウム塩水溶液を排出し、
前記濃縮されたリチウム塩水溶液の少なくとも一部を、前記所定の圧力よりも低い圧力で前記最下流の半透膜モジュールの第2室に供給し、前記直列的に連結された各々の半透膜モジュールの第2室を順次通過させることで、前記第1室内のリチウム塩水溶液に含まれる水を前記半透膜を介して前記第2室内のリチウム塩水溶液に移行させ、前記最上流の半透膜モジュールの第2室から希釈されたリチウム塩水溶液を排出することを特徴とする濃縮方法。
[3] リチウム塩水溶液の濃縮方法であって、半透膜と、前記半透膜で仕切られた第1室および第2室と、を備える半透膜モジュールに、前記リチウム塩水溶液の一部を所定の圧力で前記第1室に供給し、前記リチウム塩水溶液の他の一部を前記所定の圧力よりも低い圧力で前記第2室に供給することで、前記第1室内の前記リチウム塩水溶液に含まれる水を前記半透膜を介して前記第2室内の前記リチウム塩水溶液に移行させ、前記第1室から濃縮されたリチウム塩水溶液を排出し、前記第2室から希釈されたリチウム塩水溶液を排出することを特徴とする濃縮方法。
[4] リチウム塩水溶液の濃縮方法であって、
連通されている複数の半透膜モジュールを準備する工程を有し、
前記複数の半透膜モジュールの各々は、半透膜、並びに、前記半透膜で仕切られた第1室および第2室を有し、
前記連通は、前記複数の半透膜モジュールの第1室および第2室の、各々の直列的な連通であり、
前記リチウム塩水溶液の一部を所定の圧力で最上流の半透膜モジュールの第1室に供給し、直列的に連結された各々の半透膜モジュールの第1室を順次通過させ、最下流の半透膜モジュールの第1室から濃縮されたリチウム塩水溶液を排出し、
前記リチウム塩水溶液の他の一部を、前記所定の圧力よりも低い圧力で前記最上流の半透膜モジュールの第2室に供給し、前記直列的に連結された各々の半透膜モジュールの第2室を順次通過させることで、前記第1室内のリチウム塩水溶液に含まれる水を前記半透膜を介して前記第2室内のリチウム塩水溶液に移行させ、前記最下流の半透膜モジュールの第2室から希釈されたリチウム塩水溶液を排出することを特徴とする濃縮方法。
[5] 前記第1室および/または前記第2室に供給される前記リチウム塩水溶液の温度を制御する、[1]~[4]のいずれかに記載の濃縮方法。
[6] 前記リチウム塩水溶液の温度を5~80℃の間で、かつ中心値±5℃で制御する、[5]に記載の濃縮方法。
[7] 前記濃縮されたリチウム塩水溶液の濃度Mは、下記の(1)および(2)式を満たす、[1]~[6]のいずれかに記載の濃縮方法。
M(mol/L)≧2/(x+1) (1)
M(mol/L)≦リチウム塩の飽和濃度 (2)
ここでxは、Li(x)Aで表されるリチウム塩のリチウム原子数であり、Aはリチウム塩が水に溶解したときの対イオンである
[8] 前記リチウム塩水溶液は、有機溶剤からリチウムを液液抽出した後のリチウム塩水溶液を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の濃縮方法。
[9] 前記半透膜は、中空糸膜である、[1]~[8]のいずれかに記載の濃縮方法。
[10] 前記中空糸膜の外側が第1室であり、前記中空糸膜の内側が第2室である、[9]に記載の濃縮方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、リチウム塩水溶液の濃縮に必要なエネルギーを低下させることのできる、リチウム塩水溶液の濃縮方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一般的なリチウム回収方法の手順を示すフロー図である。
図2】実施形態1のリチウム塩水溶液の濃縮方法を示す模式図である。
図3】実施形態2のリチウム塩水溶液の濃縮方法を示す模式図である。
図4】実施形態1のリチウム塩水溶液の濃縮方法の変形例を示す模式図である。
図5】実施形態2のリチウム塩水溶液の濃縮方法の変形例を示す模式図である。
図6】実施形態2のリチウム塩水溶液の濃縮方法の他の変形例を示す模式図である。
図7】実施形態2のリチウム塩水溶液の濃縮方法の別の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図面において、同
一の参照符号は、同一部分または相当部分を表す。
【0011】
一般的なリチウム回収は、下記の(a)~(g)の工程を経て実施される(図1)。
(a)廃リチウムイオン電池を無機酸水溶液で浸出してリチウムを溶出する酸溶出工程、
(b)酸溶出により得られたリチウム塩水溶液から不溶残渣を分離する固液分離工程、
(c)固液分離後のリチウム塩水溶液にアルカリを添加してpHを調整するpH調整工
程、
(d)pH調整後のリチウム塩水溶液から析出物を除去する固液分離工程、
(e)析出物を除去したリチウム塩水溶液を濃縮する濃縮工程、
(f)濃縮後のリチウム塩水溶液に炭酸ガスまたは水溶性の炭酸塩を添加する炭酸化工程、
(g)炭酸化により析出した炭酸リチウムの結晶を含む析出物をリチウム塩水溶液から分離する固液分離工程
【0012】
[実施形態1]
<リチウム水溶液の濃縮方法>
本実施形態のリチウム塩水溶液の濃縮方法は、ブラインコンセントレーション(BC)を用いたリチウム塩水溶液の濃縮方法である。
【0013】
本実施形態のリチウム塩水溶液の濃縮方法は、リチウム塩水溶液から希釈されたリチウム塩水溶液と濃縮されたリチウム塩水溶液を同時に得るBCを用いた濃縮工程を含むことを特徴としている。以下、本実施形態のリチウム塩水溶液の濃縮方法の詳細について、図2を参照して説明する。
【0014】
図2に示されるように、まず、BCを用いた濃縮工程によって、リチウム塩水溶液から希釈されたリチウム塩水溶液と濃縮されたリチウム塩水溶液を得る。
【0015】
本明細書において、リチウム塩水溶液とは、少なくともリチウム塩と水を含む液であり、蒸発残留物濃度(TDS)は、特に限定されないが、好ましくは1~10質量%程度である。
【0016】
なお、リチウム塩水溶液に対して、リチウム塩水溶液中に含まれる濁質(微粒子、微生物、スケール成分等)を除去するための前処理を行ってもよい。前処理としては、公知の前処理を実施することができ、例えば、砂ろ過やNF膜、UF膜、MF膜等を用いたろ過、塩素や次亜塩素酸ナトリウムの添加、凝集剤やスケール防止剤等の添加、pH調整などが挙げられる。このような前処理は、BCを用いた濃縮工程の前に実施されることが好ましい。
【0017】
リチウム塩水溶液の濃縮は、半透膜モジュール1を用いて実施される。半透膜モジュール1は、半透膜10と、半透膜10で仕切られた第1室11および第2室12と、を備える。
【0018】
リチウム塩水溶液の濃縮では、半透膜モジュール1の第1室11にリチウム塩水溶液を流し、高圧ポンプ4により加圧する、第1室11から排出された濃縮されたリチウム塩水溶液の一部を、圧力低下装置5により減圧し、第2室12に流す。これにより、第1室11内のリチウム塩水溶液に含まれる水を半透膜10を介して第2室12内のリチウム塩水溶液に移行させ、第1室11から濃縮されたリチウム塩水溶液が、第2室12から希釈されたリチウム塩水溶液が排出される。
【0019】
ここで、半透膜モジュール1において、第1室11から流出するリチウム塩水溶液の濃度と第2室12に流入するリチウム塩水溶液の濃度は同一であるため、基本的に浸透圧は等しい。このため、RO法のように、塩水と淡水との間の高い浸透圧差に逆らって逆浸透を起こさせるための高い圧力が必要なく、比較的低圧の加圧によって、リチウム塩水溶液の濃縮と希釈ができる。
【0020】
[実施形態2]
図3は、実施形態2の濃縮工程を示す模式図である。実施形態2においては、図3に示されるように、半透膜モジュール1の第1室11の上流側で分岐した流路に圧力低下装置5を設け、圧力低下装置5によって圧力が低下したリチウム塩水溶液の一部を第2室に流してもよい。なお、図3では、第2室12のリチウム塩水溶液を第1室11のリチウム塩水溶液の流れと同じ方向に流れるように供給している。
【0021】
なお、BCを用いた濃縮工程は、図2および図3に示されるように1つの半透膜モジュールを用いた1連の工程であってもよいが、図4図5に示されるように複数の半透膜モジュールを用いた多連の工程であってもよい。
半透膜の両側のリチウム塩水溶液の浸透圧差を、半透膜モジュールの第1室への加圧の圧力以上にすることはできないため、1連の工程(1つの半透膜モジュール)によるリチウム塩水溶液の濃縮率には限界があるので、複数の半透膜モジュールを直列に配置した多連工程は、より高い濃縮率を得ることができる。
また、複数の半透膜モジュールを多連かつ直列に配列する濃縮工程において、各連を流れるリチウム塩水溶液の流量は、下流側が多く、濃縮が進む上流側が少なくなるので、各段の本数は同一である必要はなく、下流側の本数は多く、上流側の本数は少なくして、効率を高めることができる。
さらに、複数の半透膜モジュールの間に、圧力補助用ポンプを設置し、前記第1室間および前記第2室間で低下した圧力を補助することができる。
【0022】
図6は、実施形態2の濃縮工程の他の変形例を示す模式図である。図6を参照して、実施形態2の濃縮工程は、温度制御装置6をさらに備えていてもよい。温度制御を行うために、例えば、ヒーターまたはチラー等の温度制御装置を備えるのが好ましい。また、前記温度制御装置はサーモスタット等の制御回路を備えていてもよい。温度制御装置では、第1室および/または第2室に供給されるリチウム塩水溶液の温度を制御する。すなわち、第1室および第2室の少なくともいずれかに供給されるリチウム塩水溶液が所定範囲の温度となるように加温または冷却する。なお、図6は、実施形態2の濃縮工程の他の変形例を示すが、実施形態1においても同様の温度制御装置を備えた工程とすることができる。
【0023】
温度制御装置は、第1室11に供給されるリチウム塩水溶液の温度を制御することが好ましい。すなわち、第1室11の上流側でリチウム塩水溶液の温度を制御することが好ましい。最も高流量になる第1室11のリチウム塩水溶液の圧力損失を低下させることが、濃縮システムのエネルギーコストの削減や正常なシステムの運転のために有効だからである。
【0024】
図7は、実施形態2の濃縮工程の別の変形例を示す模式図である。図7を参照して、実施形態2の濃縮工程は、熱交換器7をさらに備えていてもよい。熱交換器7は、第1室に供給されるリチウム塩水溶液と、排出液(第1室から排出される濃縮されたリチウム塩水溶液および第2室から排出される希釈されたリチウム塩水溶液の少なくともいずれか)との間で熱交換を行う。これにより例えば、排出液からの熱を利用して第1室に流入するリチウム塩水溶液を加温(降温)することで、加温(降温)のための温度制御装置6等における消費エネルギーを削減することができる。なお、熱交換器7が温度制御装置6を代替してもよい。すなわち、熱交換器7のみを用いて第1室に供給されるリチウム塩水溶液の温度を制御してもよく、この場合は、熱交換器が本発明における温度制御装置に該当する。熱交換器7としては、種々公知の熱交換器を用いることができるが、例えば、多管式熱交換器、スパイラル式熱交換器、プレート式熱交換器、2重管式熱交換器等が挙げられる。なお、図7は、実施形態2の濃縮工程の別の変形例を示すが、実施形態1においても同様の温度制御装置および/または熱交換器を備えた工程とすることができる。
【0025】
(希釈されたリチウム塩水溶液の再濃縮処理工程)
希釈されたリチウム塩水溶液は、有機溶剤との液液抽出に供して濃縮されたリチウム塩水溶液を獲得して再び、前述のBCを用いた濃縮工程にて濃縮することができる。また、希釈されたリチウム塩水溶液は逆浸透(RO)法を用いて淡水を分離し、濃縮して前述のBCを用いた濃縮工程に供する(再循環する)ことも可能である。
【0026】
なお、RO法を用いた濃縮工程では、RO膜モジュール内において、リチウム塩水溶液の流入口から流出口にかけて、RO膜の両側の浸透圧差が大きくなり、浸透圧差がリチウム塩水溶液への加圧の圧力と等しくなると、それ以上逆浸透が進まなくなる。このため、RO法においては、RO膜モジュールの耐圧性やポンプの性能によって決まるリチウム塩水溶液への加圧の圧力上限に応じて、リチウム塩水溶液の濃縮率には上限がある。RO法における加圧の圧力は、例えば、1~6MPa程度である。
【0027】
本発明において濃縮されたリチウム塩水溶液の濃度(M)は(1)および(2)式を満たす。
まず、塩化リチウム(LiCl)を例に説明する。塩化リチウム中のリチウム原子は1個であるので、M(mol/L)≧2/(1+1)=2/2=1(mol/L)
である。1mol/Lの塩化リチウム水溶液の浸透圧はおよそ5MPaであり、一般的な逆浸透膜の操作圧力ではこれ以上の濃縮は困難である。濃縮された塩化リチウムの濃度はその後の二酸化炭素添加時の回収率が高まるので2mol/L以上がさらに好ましい。この場合、(1)式はM≧4/(x+1)となる。
【0028】
硫酸リチウム(LiSO)を例にとるとM(mol/L)≧2/(2+1)=2/3(mol/L)である。濃縮された硫酸リチウムの濃度は、上記と同様に4/3(mol/L)以上がさらに好ましい。
【0029】
リチウム塩水溶液のリチウムに対する対イオンは、塩素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオンなどが挙げられ特に限定されるものではないが、炭酸イオンや重炭酸イオンはリチウム塩の溶解度が低くなり効果が見られないことがある。
【0030】
一方、塩化リチウムの溶解度以上の濃度では、塩化リチウムが沈殿してしまうため濃縮が困難になり、塩化リチウムの溶解度以下の濃度にすることが必要であり、飽和溶解度の90%以下の濃度とすることが好ましく、80%以下の濃度とすることがより好ましい。
【0031】
また、一般的に塩の溶解度は、溶液の温度によって変化するため、本発明の濃縮方法においては、操作温度をできる限り一定とすることが必要で、中心値プラスマイナス5℃以内に制御することが好ましく、中心値プラスマイナス2℃以内に制御することがより好ましい。リチウム塩水溶液の溶解度は温度により比較的大きく変化するので温度制御をすることが好ましい。特に、BCを利用するとリチウム塩水溶液を高濃縮することが可能となる。そのため、リチウム塩の析出を抑えるために厳密に温度を制御するのが好ましい。
【0032】
操作温度は、特に限定されるものではないが、高温の場合は、システム全体の温度を均一に保つためのエネルギーが多量になるため、80℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。また低温の場合も全体の温度を保つためのエネルギーが多量になるほか、凝固してしまっては、処理ができず、さらに溶液の粘度が高くなり濃縮効率が低下することがあるため、5℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましい。
【0033】
半透膜としては、例えば、逆浸透膜(RO膜:Reverse Osmosis Membrane)、正浸透膜(FO膜:Forward Osmosis Membrane)、ナノろ過膜(NF膜:Nanofiltration Membrane)、限外ろ過膜(UF膜:Ultrafiltration Membrane)と呼ばれる半透膜が挙げられる。半透膜は、好ましくは逆浸透膜または正浸透膜、ナノろ過膜である。なお、半透膜として逆浸透膜または正浸透膜、ナノろ過膜を用いる場合、第1室の加圧の圧力は好ましくは0.5~10.0MPaである。
【0034】
通常、RO膜およびFO膜の孔径は約2nm以下であり、UF膜の孔径は約2~100nmである。NF膜は、RO膜のうちイオンや塩類の阻止率が比較的低いものであり、通常、NF膜の孔径は約1~2nmである。半透膜としてRO膜またはFO膜、NF膜を用いる場合、RO膜またはFO膜、NF膜の塩除去率は好ましくは90%以上である。
【0035】
半透膜を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、セルロース系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ポリアミド系樹脂などが挙げられる。半透膜は、セルロース系樹脂およびポリアミド系樹脂の少なくともいずれかを含む材料から構成されることが好ましい。
【0036】
セルロース系樹脂は、好ましくは酢酸セルロース系樹脂である。酢酸セルロース系樹脂は、殺菌剤である塩素に対する耐性があり、微生物の増殖を抑制できる特徴を有している。酢酸セルロース系樹脂は、好ましくは酢酸セルロースであり、耐久性の点から、より好ましくは三酢酸セルロースである。
【0037】
ビニルアルコール系樹脂は、好ましくはポリビニルアルコール系樹脂である。ポリビニルアルコール系樹脂は、好ましくはカチオン変性ポリビニルアルコールおよび/またはアニオン変性ポリビニルアルコールである。
【0038】
半透膜の形状としては、特に限定されないが、例えば、平膜、スパイラル膜または中空糸膜が挙げられる。なお、図1では、半透膜として平膜を簡略化して描いているが、特にこのような形状に限定されるものではない。なお、中空糸膜(中空糸型半透膜)は、スパイラル型半透膜などに比べて、モジュール当たりの膜面積を大きくすることができ、浸透効率を高めることができる点で有利である。
【0039】
具体的な中空糸膜の一例としては、全体がセルロース系樹脂から構成されている単層構造の膜が挙げられる。ただし、ここでいう単層構造とは、層全体が均一な膜である必要はなく、例えば、特許文献1に開示されるように、外周表面近傍に緻密層を有し、この緻密層が実質的に中空糸膜の孔径を規定する分離活性層となっていることが好ましい。
【0040】
具体的な中空糸膜の別の例としては、支持層(例えば、ポリフェニレンオキサイドからなる層)の外周表面に変性ビニルアルコール系樹脂(例えば、カチオン変性ポリビニルアルコール)からなる緻密層を有する2層構造の膜が挙げられる。また、他の例として、支持層(例えば、ポリスルホンまたはポリエーテルスルホンからなる層)の外周表面にポリアミド系樹脂からなる緻密層を有する2層構造の膜が挙げられる。
【0041】
また、耐熱性、耐薬品性を有する半透膜の材質としては、例えば、酢酸セルロース系樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)系樹脂、ポリアミド(PA)系樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂などが挙げられる。また、半透膜モジュールは、半透膜以外の部品も耐熱性、耐薬品性を有しており、全体として前記特性を有していることが好ましい。前記特性を有する半透膜モジュールの製品としては、例えば、サーモプラス(日東電工株式会社)、デュラサーモ(GEウォーター・テクノロジーズ社)、ロメンブラ(登録商標)のTSシリーズ(東レ株式会社)などが挙げられる。
【0042】
また、耐熱性、耐薬品性、酸アルカリ耐性を有する半透膜の他の材質としては、例えば、アルミナ、シリカ等のセラミックが挙げられる。シリカとしては、例えば、ビストリルエトキシシリルエタン由来のシリカが挙げられる(都留稔了、「多様な水源に対応できるロバストRO/NF膜の開発」、水環境学会誌、vol.36(A)、No.1、pp.8-10、2013参照)。
【0043】
なお、通常は、上記中空糸膜の外側に流されるリチウム塩水溶液が加圧される。中空糸膜の内側(中空部)を流れるリチウム塩水溶液を加圧しても、圧力損失が大きくなり加圧が十分に働かないためである。
【0044】
濃縮したリチウム塩水溶液に二酸化炭素を添加して炭酸塩の形でリチウムを回収する操作において、濃縮したリチウム水溶液にそれ以外の不純物が含まれると、回収した炭酸リチウムの純度が下がるため、不純物の含有量は少ないことが好ましい。
【0045】
リチウム塩水溶液中の不純物を取り除く方法としては、リチウム塩水溶液とリチウムを選択的に溶解し、かつ水とは混じらない有機溶剤を接触させ、液液抽出によりリチウム塩水溶液から有機溶剤中へリチウムを移動させ、その後、リチウムを含有する有機溶剤と水溶液を接触させ、液液再抽出(逆抽出)により不純物量を減らしたリチウム塩水溶液を作製することが好ましい。
【0046】
不純物をより減らすとともに、リチウムイオンの濃度を高めることができるので、リチウム塩水溶液から有機溶剤への液液抽出と、有機溶剤から水溶液の液液再抽出(逆抽出)を、繰り返すことが好ましい。なお、液液抽出と逆抽出は、BCを用いた濃縮工程の前後で行うことができる。
【0047】
有機溶剤はリチウムを選択的に溶解するものであれば、特に限定されるものではないが、Bis(2-ethylhexyl)hydrogen phosphate(商品名:D2EHPA)、2-ethylhexylphosphonic acid mono-2-ethylhexyl ester(商品名:PC-88A)、5-nonylsalicylaldoxime(商品名:Acorga M5640)などが挙げられ、さらにこれにtri-n-butylphosphate(TBP)やtri-n-octylamine(TOA)を混合したものが、好ましく用いられる。
【0048】
リチウムをリチウム塩水溶液から回収する工程において、二酸化炭素を添加する代わりに、炭酸ナトリウムを添加し、溶解度の低い炭酸リチウムを沈殿させて回収することもできる。この場合は、気体である二酸化炭素の代わりに固体である炭酸ナトリウムを使用するので、操作が容易となるので好ましい。
【0049】
炭酸リチウムの溶解度は、温度上昇とともに低下するので、60℃以上で沈殿させて回収率を向上することが好ましい。
【符号の説明】
【0050】
1,2,3 半透膜モジュール、10,20,30 半透膜、11,21,31 第1室、12,22,32 第2室、4 高圧ポンプ、5 圧力低下装置、6 温度制御装置、7 熱交換器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7