(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】紅茶の製造法及び紅茶の製造法における発酵適期判定装置
(51)【国際特許分類】
A23F 3/06 20060101AFI20240821BHJP
【FI】
A23F3/06 T
A23F3/06 W
(21)【出願番号】P 2020057742
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】590002389
【氏名又は名称】静岡県
(73)【特許権者】
【識別番号】000145116
【氏名又は名称】株式会社寺田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100080090
【氏名又は名称】岩堀 邦男
(72)【発明者】
【氏名】後藤 正
(72)【発明者】
【氏名】三森 孝
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-227210(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104186814(CN,A)
【文献】J. Food Sci. Techno.,2015年,vol.52, no.4,pp.2387-2393
【文献】J. Biosystems. Eng.,2016年,vol.41, no.2,pp.85-92
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 3/00-3/42
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紅茶の製造法において、萎凋工程、揉捻工程に続く発酵工程中の茶葉の発酵適期を判定するのに、発酵中の所定時間後において温度取得部にて測定した発酵茶温度が徐々に増加してピークとなる温度をピーク温度として測定し、この測定直後又は適宜の時間後を発酵適期として判定し、この直後に発酵止めを行い、最終の乾燥工程に進むようにしたことを特徴とする紅茶の製造法。
【請求項2】
請求項1に記載の紅茶の製造法において、前記ピーク温度は、前記発酵中の茶葉の発酵時間と共に増加するテアフラビン量がピークとなる温度とが近似値としてなることを特徴とする紅茶の製造法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の紅茶の製造法において、前記ピーク温度は、前記発酵中の茶葉の主要香気成分の合計値がピークとなる温度とが近似値としてなることを特徴とする紅茶の製造法。
【請求項4】
請求項1,2又は3に記載の紅茶の製造法において、前記ピーク温度は、前記発酵中の茶葉の官能評価がピークとなる温度とが近似値としてなることを特徴とする紅茶の製造法。
【請求項5】
紅茶の製造法に
おける発酵適期判定装置であって、CPU(中央処理装置)に、入力部、温度取得部、設定値・温度等記憶領域部、通知出力部、画面表示部を備え、前記発酵工程中の発酵茶内に前記温度取得部を静置設定しておき、所定時間後において該温度取得部にて測定した発酵茶温度が徐々に増加してピークとなる温度をピーク温度として測定し、この測定直後又は適宜の時間後を発酵適期として判定し、この直後に発酵止めを行うようにしたことを特徴とする
、前記発酵適期判定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の
発酵適期判定装置において、前記入力部は、液晶画面としてのタッチパネルと、温度取得部は温度センサと、通知出力部は、ブザー又は表示灯と、画面表示部は液晶表示部としてなることを特徴とする
、前記発酵適期判定装置。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の
発酵適期判定装置において、前記ピーク温度は、前記発酵中の茶葉の発酵時間と共に増加するテアフラビン量がピークとなる温度とが近似値としてなることを特徴とする
、前記発酵適期判定装置。
【請求項8】
請求項5
又は6に記載の発酵適期判定装置において、前記ピーク温度は、前記発酵中の茶葉の主要香気成分の合計値がピークとなる温度とが近似値としてなることを特徴とする
、前記発酵適期判定装置。
【請求項9】
請求項5
又は6に記載の発酵適期判定装置において、前記ピーク温度は、前記発酵中の茶葉の官能評価がピークとなる温度とが近似値としてなることを特徴とする
、前記発酵適期判定装置。
【請求項10】
請求項5
又は6に記載の発酵適期判定装置において、前記ピーク温度の計測はピーク検出演算を使用してなることを特徴とする
、前記発酵適期判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紅茶の製造法においての発酵工程における発酵適期監視技術及び発酵制御の最適化技術であって、発酵温度のピーク温度を検出・取得し、発酵適期を簡易に判定できる紅茶の製造法及び紅茶製造法における発酵適期判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、茶の品質は、品種、ほ場における栽培技術、工場における発酵・加工技術、製品の仕分け包装、貯蔵に影響される。特に、加工における発酵は紅茶の特徴である色、風味、成分を特徴づける最も重要な工程である。発酵が短ければ、発酵不十分で青みが残り、発酵が長すぎると、発酵が進みすぎ、黒み、酸味、腐敗臭が生じ、著しく品質が低下してしまう。この発酵適期の判定は極めて難しく、熟練技術者の長年の経験と勘に頼っており、近年の和紅茶生産の拡大に伴い、発酵判定技術の開発が望まれている。
【0003】
ところで、紅茶の発酵適期判定技術は、紅茶の輸出が盛んだった当時は、熟練者の高い専門技能に頼っていたが、紅茶の輸入自由化(1971)以降、国内での紅茶生産は皆無となり、技術の伝承が完全に途絶えた。国内の紅茶生産は製造技術の継承がないまま、個人の試行錯誤で行われているため、発酵適期が判定できず、極めて品質が不安定である。
【0004】
発酵の適期判断は、官能によることから経験が必要であり、技術の習得は容易でなく製品品質の安定化が難しい。また、発酵工程の適期判断は熟練した技術者等が専門的に担当することとなるが、この技術の向上、熟練技術者の確保が困難となっている。つまり、熟練技術者が不足している。さらに、紅茶製造は国内外ともに高温多湿条件(温度25-35℃、湿度90%以上)で行われるため、労働環境が厳しく、常時工程を監視することが難しい。
【0005】
先行技術文献1(特開2003-153651号公報)としては、「発酵工程として、分解酵素処理を行った茶葉原料を40℃、1時間の条件下で発酵させている(0049)」と記載されており、つまり、発酵時間は、40℃で1時間と決めている。
【0006】
また、先行技術文献2(特開昭60-164435号公報)では、「再発酵」として「現産地における最初の原葉発酵の不均質を調整するため、前記そぼろ状原葉末を再発酵させる。即ち雰囲気温度36~42℃、湿度100%で2~3時間密閉することにより発酵(熟成)する。これにより紅茶水色成分の増加を促すこととなる。」との内容が記載されている。つまり、これは通常の1回目の「発酵」とは違うものであり、湿度100%一定で、時間及び温度は幅があることが開示されている。
【0007】
このような先行技術文献では、発酵についての内容は乏しい。このような紅茶の製造は、高温多湿で作業環境が厳しい発酵室内で、常時茶の状態を監視し、発酵適期を判定することは作業者の負担が大きい。また、生葉原料、茶期、萎凋程度、揉捻程度、ふるい分け程度によっても発酵の適期は異なり、熟練者といえども的確に判断し、安定した品質を維持することは容易ではない。近年、和紅茶の生産が拡大しているが、発酵の判定が困難なことから、品質のバラツキが非常に大きく、問題となっている。
【0008】
国内では、緑茶需要が減少し、和紅茶の生産が増えており、発酵適期判断技術の開発が望まれている。国外でも、熟練技術者の不足から、発酵適期判断システムの開発が切望されている。海外においても、発酵工程の管理は専門スタッフが官能によって行っているが、生産規模の大規模化による大型プラント化などに対し、熟練者の官能による判定では、対応しきれなくなっている。
【0009】
このように、紅茶の発酵工程は、品質を左右する最も重要な工程であり、その工程中における発酵適期の判断は、これまで熟練した専門家の経験と勘により行われてきた。発酵工程において、品質に関連のあるテアフラビン類、香気成分、官能評価に基づく品質は緩やかに変化し、長い発酵工程中にピークを有する。同様に茶温も緩やかでなだらかに変化するが、変化のパターンや温度は、品種、茶期、萎凋程度(水分)、揉捻程度、発酵工程の温度、湿度条件等の製造条件で異なり、一定しないことから、温度のみでは発酵適期を判定できない。
【0010】
先行技術として公的研究機関の成績書には、体温計、棒状温度計などを用い、茶温を測定する方法の記載がある。また、生産現場では温度計を用いた茶温の計測を実施し、温度自体を観察する事例はあるが、発酵温度の推移とピークは着目されておらず、ピークから発酵適期の判断も行われていない。
【0011】
さらに、色差計を用いた発酵工程中の茶葉の色変化を測定する試みや発酵工程中に揮発する香気成分を長時間連続的に捕集し、別途吸着剤に吸着された香気成分を分析する試みがみられる。しかし、いずれの場合も常時連続的に測定し、そのデータから、発酵工程の最適終了時を判定する技術は提案されておらず、知財に関するデータベースへの登録も存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2003-153651号公報
【文献】特開昭60-164435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
発明者は、紅茶の発酵工程中における茶葉の状態がどのように変化するかを明らかにするため、色の変化を色差計で測定し、紅茶の品質と密接な関係があるとされるポリフェノールや各種テアフラビンなどの成分を測定し、また、紅茶に特徴的なアルコール系香気成分や半発酵茶に特徴的なインドール、リナロールなどの香気成分の消長を分析調査した。同時に堆積茶葉の表面温度、内部の茶葉温度の推移も計測した。さらに発酵工程の時間経過に伴う茶の香気、滋味、水色などの品質の変化を官能評価した。
【0014】
この結果、特に紅茶の品質と関連が深いテアフラビン量の推移、アルコール系香気成分の推移、官能評価点と茶温の関連性を明らかにし、さらに茶温のピークとテアフラビン、香り成分、品質のピークがほぼ同じであることを解明した。しかし、茶温の変化は非常に緩やかでなだらかであることから、ヒトが常時温度を計測しても、その変化やピークを的確に判定することは困難なことから、温度センサとデ一タロガー、パソコン等を組み合わせたハードウェアと緩やかでなだらかな温度変化の中からピークを特定するアルゴリズムを案出し、方法の発明や、装置の発明とした。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そこで、発明者は上記課題を解決すべく鋭意,研究を重ねた結果、請求項1の発明を、紅茶の製造法において、萎凋工程、揉捻工程に続く発酵工程中の茶葉の発酵適期を判定するのに、発酵中の所定時間後において温度取得部にて測定した発酵茶温度がピーク温度となったときを発酵適期とし、この直後又は適宜の時間後に発酵止めを行い、最終の乾燥工程に進むようにしたことを特徴とする紅茶の製造法としたことにより、前記課題を解決した。
【0016】
請求項2の発明を、請求項1に記載の紅茶の製造法において、前記ピーク温度は、前記発酵中の茶葉のテアフラビン量がピークとなる温度とが近似値としてなることを特徴とする紅茶の製造法としたことにより、前記課題を解決した。
【0017】
請求項3の発明を、請求項1又は2に記載の紅茶の製造法において、前記ピーク温度は、前記発酵中の茶葉の主要香気成分の合計値がピークとなる温度とが近似値としてなることを特徴とする紅茶の製造法としたことにより、前記課題を解決した。
【0018】
請求項4の発明を、請求項1,2又は3に記載の紅茶の製造法において、前記ピーク温度は、前記発酵中の茶葉の官能評価がピークとなる温度とが近似値としてなることを特徴とする紅茶の製造法としたことにより、前記課題を解決した。
【0019】
請求項5の発明を、紅茶の製造法における発酵適期判定装置であって、CPU(中央処理装置)に、入力部、温度取得部、設定値・温度等記憶領域部、通知出力部、画面表示部を備え、前記発酵工程中の発酵茶内に前記温度取得部を静置設定しておき、所定時間後において該温度取得部にて測定した発酵茶温度が徐々に増加してピークとなる温度をピーク温度として測定し、この測定直後又は適宜の時間後を発酵適期として判定し、この直後に発酵止めを行うようにしたことを特徴とする、前記発酵適期判定装置としたことにより、前記課題を解決した。
【0020】
請求項6の発明を、請求項5に記載の発酵適期判定装置において、前記入力部は、液晶画面としてのタッチパネルと、温度取得部は温度センサと、通知出力部は、ブザー又は表示灯と、画面表示部は液晶表示部としてなることを特徴とする、前記発酵適期判定装置としたことにより、前記課題を解決した。
【0021】
請求項7の発明を、請求項5又は6に記載の発酵適期判定装置において、前記ピーク温度は、前記発酵中の茶葉の発酵時間と共に増加するテアフラビン量がピークとなる温度とが近似値としてなることを特徴とする、前記発酵適期判定装置としたことにより、前記課題を解決した。請求項8の発明を、請求項5又は6に記載の発酵適期判定装置において、前記ピーク温度は、前記発酵中の茶葉の主要香気成分の合計値がピークとなる温度とが近似値としてなることを特徴とする、前記発酵適期判定装置としたことにより、前記課題を解決した。
【0022】
請求項9の発明を、請求項5又は6に記載の発酵適期判定装置において、前記ピーク温度は、前記発酵中の茶葉の官能評価がピークとなる温度とが近似値としてなることを特徴とする、前記発酵適期判定装置としたことにより、前記課題を解決した。請求項10の発明を、請求項5又は6に記載の発酵適期判定装置において、前記ピーク温度の計測はピーク検出演算を使用してなることを特徴とする、前記発酵適期判定装置としたことにより、前記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、発酵工程中の茶葉温度のピークを検出することで、発酵プロセスの内容の変化と相関をもった判定が可能となり、従来よりも発酵品質の安定化に寄与できる。本発明の製造法では、発酵適期の把握ができ、常時発酵工程を作業者が常時監視する必要がなくなることで、作業性の大幅な効率化が図れる利点ある。また、本発明の装置を、紅茶の発酵工程に用いることにより、発酵適期の把握が可能となる。また、発酵工程を作業者が常時監視する必要がなくなることで、作業性の大幅な効率化が図れる。
【0024】
さらに、本発明の装置発明者では、データの可視化により発酵工程の変化を作業者が共有化することができ、品質の向上・安定化と、消費者の嗜好に適合した様々な特長を持つ紅茶の製造が可能となる。特に、本発明によれば、熟練技術者は不要となるのみならず、紅茶製造の最重要で高温多湿環境(温度25-35℃、相対湿度90%以上)の厳しい激しい労働環境から解放され、常時「発酵」の適期判断を自動的に判断できるし、紅茶の量産化しても常時、高品質の発酵紅茶を得ることができる大きな特長がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の紅茶製造法における本発明の概要としての略図である。
【
図3】本発明の紅茶製造法としてのシステムのフローチャート及び主要なステップにおける簡易内容である。
【
図4】発酵工程において発酵中の紅茶葉に温度取得部を挿入セットして測定中の簡易状態図である。
【
図5】それぞれ発酵適期判定方法の装置の具体的な表示画面であり、(A)は測定中の表示画面、(B)は詳細設定するときの初期値の表示画面表示画面である。
【
図6】実験データ1として、異なる条件における紅茶発酵工程中の茶温の推移のグラフである。
【
図7】実験データ2として、紅茶製造工程中のテアフラビン類の推移のグラフである。
【
図8】実験データ3として、製造工程における紅茶の主要香気成分の推移のグラフである。
【
図9】実験データ4として、発酵工程の経過時間と官能評価による品質の関係のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明すると、
図1(A)に示すように、本発明の主要なブロック図(構成図)について説明する。中央演算装置(CPU又はMPU)11には、入力部12、温度取得部13、設定値・温度等記憶領域部14、通知出力部15、画面表示部16が接続されている。図中19は外部記憶領域であるが、前記CPU11内に格納されることも多い。
【0027】
前記入力部12は、具体的にはタッチパネルであって、液晶画面に描かれたスイッチ又は操作部位を直接触れて操作可能に構成されている。前記温度取得部13は、温度センサであり、熱電対として使用される。前記設定値・温度等記憶領域部14は、コンピュータメモリであり、実際には、PLC()にて構成されている。通知出力部15は、ブザー又は表示灯である。画面表示部16は、タッチパネル機能を有した液晶表示器である。
【0028】
本件の紅茶の製造法において、
図1に示すように、萎凋工程(茶葉を萎れさせ、水分蒸発と香気発揚を促す工程であり、約12時間~約16時間)、揉捻工程(カテキン類と酸化酵素が接触する機会を増やし、発酵過程を促進する作業であり、約30分)に続き、次いで発酵工程となる。該発酵工程は、発酵温度として約25℃~約35℃、湿度90%以上、約1時間~約4時間行う。この発酵が紅茶の品質に大きく影響する
【0029】
発酵工程中にて発酵温度を制御するようにした発酵適期判定方法において、本発明の発酵適期判定方法の装置におけるフローチャートにつき
図3に基づき説明する。本装置では、予め、初期値を読み込んでおく。次の4つとする。(1)測定開始から判定のための温度を取込むまでの時間:5分,(2)ピーク温度判定に利用する温度データの個数:15個,(3)ピーク温度検出後の発酵適期出力までの時間:10分,(4) 温度データの測定間隔:1分とする。
【0030】
これらの初期値は、開始前に、前記設定値・温度等記憶領域部14内に適宜格納しておく。開始後にCPU11のプログラム領域17を介して動作するように構成されている。さらに、前述の初期値の(1),(2),(3)のそれぞれの値は適宜変更可能である。また、(4) の温度データの測定間隔は、後述するが所定の値とすることが好適である。
【0031】
そして、発酵工程中にて発酵温度を制御するようにした本発明の発酵適期判定方法の装置にて操作を開始する。すると、CPU11の動作にて、格納されている初期値を読み込む(ステップ1=S1)。そして、測定を開始してから5分後に、紅茶葉を堆積して茶層に埋め込んだ温度センサ13aとしての温度取得部13にて発酵中の紅茶葉の温度を取り込み始め、温度取り込め時間になったか否かを判断する(ステップ2=S2)。なったら(YES)で次に進み、ならなかったら戻る(NO)。
【0032】
次いで、1分後毎に紅茶葉の温度測定を繰り返す(ステップ3=S3)。紅茶葉の温度測定を繰り返し、それぞれの温度をCPU11又は外部記憶領域19に記憶しつつカウントアップする(ステップ4=S4)。温度測定の測定点数が15点を超えたか否かを判断する(ステップ5=S5)。超えたら(YES)で次に進み、超えなかったら戻る(NO)。
【0033】
温度測定の測定点数が15点を超えたら、ピーク検出演算を行う(ステップ6=S6)。該ピーク検出演算(温度変化の勾配を算出)は、公式として
X:1~n(n=15)
Y:直近の温度n点(n=15)
【0034】
そして発酵中の紅茶葉の温度がピークになったかを判断する(ステップ7=S7)。具体的には、温度の傾きが負の値(0も負の概念とする)に転じたるか否かを判断する(S7)。負に転じたらピーク温度と判断し(YES)で次に進み、負に転じなかったら戻る(NO)。このようにピーク温度となったときを客観的且つ自動的に判断できることが本発明の骨子と言える。
【0035】
発酵中の紅茶葉の温度がピーク温度を検出した後は、発酵適期通知まで所定時間経過したか否かを判断する(ステップ8=S8)。適期になったら(YES)で次に進み、適期にならなかったら戻る(NO)。そして適期になったとき(所定時間経過後)に、ブザー又は表示灯等の通知出力部15にて作業者に通知し(ステップ9=S9)、発酵適期判定方法の装置にての操作を終了する。
【0036】
このようなフローチャートにおいて、前述した初期値の設定について改めて説明しておく。(1)の測定開始から判定のための温度を取込むまでの時間としては、約5~15分程度で考慮できるが、時間を掛けるとそれだけ温度データの取得が遅れるだけであり、5~10分くらいが丁度良く、実施形態では、5分とした。
【0037】
また、(2)のピーク温度判定に利用する温度データの個数としては、10~30個程度と考えられるが、個数を多く取ると、瞬間的な測定変動に左右されにくくなるし、ピーク温度の検出が遅れるし、逆に個数を少なく取ると、ピーク温度検出を早く捉えることができるが測定変動に左右されやすく、誤検出の可能性がある。実験の結果から、15~20個程度が好ましい。実施形態では、15個とした。
【0038】
さらに、(3)ピーク温度検出後の発酵適期出力(取出し)までの時間としては、0分~30分程度と推察できる。この値こそが種々の生産者の経験と好み等があることから、ピークを検出したとして、生産者が発酵程度をそれで良しとするかは嗜好の範囲となる。但し、後述する成分などの実験データとの結果から、ピーク温度検出を大きく外れては、紅茶品質に何らかの影響を与えてしまうので、最大でも30分位相当をすべきである。実施形態では、10分とした。
【0039】
最後に、温度データの測定間隔としては、30秒~1分を検討した。例えば5分間隔とか10分間隔で温度測定を行っても良いが、長いスパンで少ない点数によるピーク検出演算になってしまい利点無し。逆に測定間隔が短すぎても、発酵時間そのものが1~3時間ほど掛かっているので30秒~1分が適当である。これは設定できるようにするより、固定値の1分で良いと判断した。
【0040】
また、発酵適期判定方法の装置の前記画面表示部16は、
図5(A)及び(B)の通りである。(A)は通常画面であって、発酵中の紅茶葉の温度を「測定中」であり、茶温34.8℃、経過時間が118分、緩やかな右上がり曲線が表示されている。
【0041】
また、
図5(B)の画面表示部16は、詳細設定の画面であり、具体的には、当該画面では、初期値として、「通知」としてピーク温度の判定から発酵適期となったことを通知するまでの時間(フローチャートのS8)であり、10分が、「取込」として測定開始からのデータ取込までの時間(フローチャートのS1)であり、5分が、「個数」として判定に利用するデータ個数であり、15個としてそれぞれ表示されている。
【0042】
さらに、画面表示部16のそれぞれの画面は省略するが、本発明の主要表示であり、「発酵適期」を生産者に知らせる画面であり、具体的には、液晶画面に、「発酵適期」です。「発酵処理」を終了して下さい。タッチパネル上に「ブザー停止」の画面表示される部位をタッチしてブザーを止める。また、ランプ表示されることもある。この後において、この直後又は所定時間をおいて「発酵工程」を終了し、「発酵止め」行う。具体的には、約110℃~約135℃で、約15分~約20分行う。
【0043】
次に、以上のようにして発酵中のピーク温度を検出することで、良質な紅茶製造ができるという実験データを種々行っているため、この各種を開示する。ますず、
図4は、実験データ1(異なる条件における紅茶発酵工程中の茶温の推移)の表である。
【0044】
図6の実験データ1には、各種の紅茶種類(一番茶・さやまかおり、一番茶・やぶきた、二番茶・べにふうき)であっても、それぞれの紅茶発酵工程中の茶温には、経過時間に沿ってピーク温度が存在することが確認できた表であって、A茶温(一番茶・さやまかおり:ピーク136分)、B茶温(一番茶・やぶきた:195分)、C茶温(二番茶・べにふうき:132分)である。
【0045】
具体的には、紅茶葉を堆積し、茶層に埋め込んだ温度センサ(温度取得部13)により、発酵工程中の緩やかでなだらかな茶温を茶堆積表面、内部別に連続的に計測し、これをCPU11(パソコン)で処理するとで、茶温データの変化を可視化した。茶温は品種、茶期、製造条件等によって異なり、温度の立ち上がりの早いもの、なだらかに上昇するものなど様々である。
【0046】
また、発酵開始時点の茶温やピーク時の到達茶温、所要時間も一定ではない。いずれの場合も長時間の発酵工程においてピーク温度は存在するが、茶温の変化量は微小で、連続的であり、ピークの特定は難しいことから、後述の実験データの茶成分、香り成分、官能評価データとも関連付けて、的確な判断を実施可能としたものである。
【0047】
図7は、実験データ2(紅茶製造工程中のテアフラビン類の推移)の表である。カテキン類の2量体である紅茶特有のテアフラビンは、発酵時間の経過とともに増加し、さらに分子量のより大きいテアルビジンへと変化する。
【0048】
テアフラビン類の量は紅茶品質と相関が高いことが知られ、紅茶の浸出液の赤色にも影響し、テアフラビンが少ない色は淡く、紅茶特有の鮮やかな紅色に及ばない。テアフラビンが変化し、テアルビジンが増えると色は黒みを帯び、品質も著しく低下する。
【0049】
発明者としては、
図7の実験データ2に示すように、発酵工程中の紅茶葉のテアフラビン量を直接測定できないが、茶温のピーク温度とテアフラビン量のピークは近似値であることを確認した。本明細書において、このような近似値内には、一致している場合も、同等の場合も存在している。以下の実験データ3、実験データ4、実験データ5においても、近似値には、一致又は同等も包含される。
【0050】
これにより、温度取得部13にて測定した発酵茶温度がピーク温度となったことが、前記発酵中の茶葉のテアフラビン量がピークとなる温度とが近似値としてなることがデータとして確認できた。前記発酵中の茶葉の主要香気成分の合計値がピークとなる温度は、発酵工程中の茶温のピーク温度の近似値となっている証拠としてみることができる。
【0051】
図8は、実験データ3(製造工程における紅茶の主要香気成分の推移)の表である。紅茶には数多くの香気成分が含まれるが、特に紅茶の香りを特徴づける成分としてベンジルアルコールやゲラニオールなど複数のアルコール系成分とウーロン茶にも含まれる花様の香り成分であるインドールが知られている。ゲラニオールやベンジルアルコールは、発酵工程で増加し、紅茶らしさを強調する。
【0052】
図8の実験データ3に示すように、いずれの香気成分量も長時間の発酵では、増減がみられ、主要な香気成分の分析値にピークが存在する。多様な製造条件の試験を繰り返す中で、これらの合計値のピークと茶温のピークは、近似値であることを明らかにした。これにより、温度取得部13にて測定した発酵茶温度がピーク温度となったことが、前記発酵中の茶葉の主要な香気成分の分析値がピークとなる温度としての近似値として確認できるという証拠にできる。
【0053】
図9は、実験データ4(発酵工程の経過時間と官能評価による品質の関係)の表である。発酵工程における紅茶の品質と茶温の関係を明らかにするため、官能評価を実施した。これまでの研究から、香気成分は、乾燥工程において、ほぼ半減することから、発酵工程の茶葉をサンプリングし、品質劣化の少ない凍結乾燥法(FD)により試料を調製した。官能評価は複数のパネルによるカテゴリー採点法で行った。
【0054】
図9の実験データ4に示すように、紅茶の品質評価点はパネルにより若干のバラツキがあるものの、評価点にピークが認められた。また、茶温のピークの温度と評価点のピークの温度とは、近似値としてなることを明らかにした。これにより、温度取得部13にて測定した発酵茶温度がピーク温度となったことが、紅茶の品質評価点のピークとなる温度とが近似値として確認ができるという証拠にできる。
【0055】
以上のような実験データのまとめると次のようである。紅茶の発酵工程は、品質を左右する最も重要な工程であり、その発酵工程の終了時期の判断は、これまで熟練した専門家の経験と勘により行われてきた。発酵工程において、品質に関連のあるテアフラビン類、香気成分、官能評価に基づく品質は緩やかに変化し、長い発酵工程中にピークを有する。
【0056】
同様に茶温も緩やかでなだらかに変化するが、変化のパターンや温度は、品種、茶期、萎凋程度(水分)、揉捻程度、発酵工程の温度、湿度条件等の製造条件で異なり、一定しないことから、温度のみでは適期を判定できない。しかし、紅茶のピーク温度と、紅茶の成分量、香り成分量、官能による品質の変化のピークがほぼ近似することから、温度変化を常時観測し、ピークを特定すれば、発酵適期を判定することができ、高品質な紅茶を安定的に生産することが可能となる。このため、発酵時の温度変化を常時観測し、なだらかな変化においてもピークを特定することができる。
【0057】
以上のように、発酵温度のピーク温度と紅茶の成分量、香り成分量、官能による品質の変化のピークがほぼ近似することから、温度変化を常時観測し、ピークを特定すれば、発酵適期を判定することができ、高品質な紅茶を安定的に生産することが可能となる。特に、量産にも十分に対応できる。
【0058】
なお、上記実験データ等を基に、発酵中の茶葉温度を測定する温度センサ13a、取得した温度データの記録装置、ピークを判定するための演算部、温度測定グラフや監視情報の表示器、発酵適期であることを知らせる警報装置を備えた本発明にて「紅茶発酵適期判定装置」を製作して紅茶製造に供試した。また、本発明において、発酵中の発酵適期を判定することは、発酵工程としては、発酵終了時期を判定することと同様である。
【0059】
温度ピークの判定方法は、最新の計測データを含む、直近の計測データn個(nは任意に設定可能)の温度データを基に、n個区間の直線近似による傾きを計算する。茶葉温度が上昇している時は、n個区問の直線近似による傾きは、正の数であるが、ピーク温度の頂点に近づくにつれて傾きの数値が0に近づき、ピークを超えると、傾きは負の数に転じる。これをピーク温度と判定している。さらに、数値が0になったときもピーク温度と判定した。
【0060】
また、ピーク温度を検出した時点で発酵適期として警報を出力することもできるが、その時点が生産者の個性、製品の特長を出すために、必ずしも生産者の考える適期とは限らない場合もあるので、ピーク検出後、κ分で警報を出力することもできる。
【0061】
これまでのように発酵工程を時間で決めたり、生産者の経験による判断に頼ったりすることなく、発酵プロセスの変化を客観的な茶温の計測データで捉えることで、より再現性の高い発酵程度を判定できる。その結果、品種や発酵条件の違いに応じ、異なる時間でピークを判定し、本発明装置の有用性を確認した。ピーク判定には、計測データの二次微分を求める方法なども考えられる。本発明の実施例に限らず、温度データのピークを検出できる演算手法であればよい。
【0062】
前述したように、測定された温度データを、測定時点を含む直近のn点を取得し、直線近似の回帰計算により、回帰式の係数(傾き)から発酵茶葉温度のピークを判定する。回帰計算の傾きの値が正から負に転じた時を温度のピークと判定するが、本発明では、極めて緩やかな傾斜も存在することから、傾き0の場合にもピーク温度として判定するものである。
【符号の説明】
【0063】
11…中央演算装置(CPU)、12…入力部12、13…温度取得部、
13a…温度センサ、14…設定値・温度等記憶領域部、15…通知出力部、
16…画面表示部。