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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】骨代謝改善組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20240821BHJP
   A61K 31/12 20060101ALI20240821BHJP
   A61K 36/9068 20060101ALI20240821BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240821BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K31/12
A61K36/9068
A61P43/00 121
A61P19/08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020083444
(22)【出願日】2020-05-11
(65)【公開番号】P2021177705
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】591193037
【氏名又は名称】辻製油株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(72)【発明者】
【氏名】籠谷 和弘
(72)【発明者】
【氏名】辻 威彦
(72)【発明者】
【氏名】臧 黎清
(72)【発明者】
【氏名】島田 康人
(72)【発明者】
【氏名】西村 訓弘
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-043416(JP,A)
【文献】特開2015-198661(JP,A)
【文献】特開2006-045210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L、A61K、A61P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
8-ジンゲロール、10-ジンゲロール、1-デヒドロ-6-ジンゲルジオン、および6-ジンゲルジオンのうち、いずれか3種以上の成分を有効成分として含有し、かつ、6-ジンゲロールを含まないことを特徴とする骨代謝改善組成物。
【請求項2】
前記骨代謝改善組成物に含まれる前記3種以上の成分が、ショウガ抽出物由来であることを特徴とする請求項1記載の骨代謝改善組成物。
【請求項3】
骨代謝改善組成物の製造方法であって、
前記骨代謝改善組成物は、ショウガ抽出物由来である、8-ジンゲロール、10-ジンゲロール、1-デヒドロ-6-ジンゲルジオン、および6-ジンゲルジオンのうち、いずれか3種以上の成分を有効成分として含有し、かつ、6-ジンゲロールを含まず、
前記3種以上の成分は、ノルマルヘキサンを用いてショウガ抽出物を抽出した後、該ショウガ抽出物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーによりノルマルヘキサンとアセトンの混合溶媒で溶出して、得られることを特徴とする骨代謝改善組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨代謝改善組成物およびその製造方法に関し、特に、ショウガから抽出される骨吸収抑制作用を有する骨代謝改善組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
骨粗鬆症の罹患者は日本国内で1000万人以上になり、社会的に大きな影響をもたらす問題となっている。人体における骨組織では、絶えず骨形成と骨吸収がなされており、加齢などの原因で骨形成と骨吸収とのバランスが崩れて骨吸収が優勢になり、この状態が長期間続くと骨量が減少して、骨強度の低下によって、骨折のリスクが高くなる骨の障害として定義される骨粗鬆症に至る。骨吸収は破骨細胞によって行なわれ、破骨細胞の分化および活性化が顕著であるほど、骨吸収率は高くなる。一方、骨形成は骨芽細胞によって行なわれ、骨芽細胞の分化および活性化が顕著であるほど、骨形成率は高くなる。そのため、骨形成率を高める骨形成促進作用を有する、および/または、骨吸収率を減少させる骨吸収抑制作用を有する組成物が得られれば、骨粗鬆症に有効である。
【0003】
骨粗鬆症の予防、改善に有効な成分として、哺乳動物の骨、皮部分や魚類の骨、皮、鱗部分などから得ることができるコラーゲンを酵素処理して得られるHyp-Glyの構造を有するジペプチドを必須のジペプチドとして含有するコラーゲンペプチドが知られている(特許文献1)。しかし、コラーゲンペプチドは骨形成促進作用を有するが、骨吸収抑制作用を有しない。
また、骨粗鬆症の予防・改善用組成物として、温州ミカンの果実、果皮、および、じょうのう膜の溶媒抽出物が知られている(特許文献2)。さらに、ショウガ(生姜)の辛味成分である6-ジンゲロールおよび6-ショウガオールを含む、ショウガの抽出物を有効成分とする骨代謝改善組成物(特許文献3)や、スイートバジル、ホーリーバジル、コモンタイム、イタリアンラージリーフ、およびフェンネルからなる群から選択される1種または2種以上の植物の抽出物を有効成分として含有する前駆骨芽細胞分化誘導剤(特許文献4)が知られている。
【0004】
上記骨粗鬆症改善薬の原料として知られる植物のうち、ショウガは、世界中で香辛料および民間薬として広く用いられている。特に、アジアでは生食や漬物用、またカレー粉の原料として用いられ、西洋とアラブ諸国では、乾燥品が調理用やパン・菓子などに用いられる。漢方では生姜(ショウキョウ)と呼ばれ、新陳代謝機能向上の効能があるとされ、嘔吐、鎮痛、食欲増進などに用いられる。
【0005】
国内においても、ショウガは、薬味や菓子の他、風邪予防に効くとして、ショウガ湯などに幅広く使用されている。収穫されたショウガは、青果用として低温で保存されて市場に供給される一方、加工用として搾汁された搾汁液は、飲料などに利用されている。この搾汁後の搾り滓は、廃棄処分されている未利用資源であるため、有効利用が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-106003号公報
【文献】特開2006-83151号公報
【文献】特開2014-43416号公報
【文献】特許第6560471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献3の骨代謝改善組成物は、ノルマルヘキサンを用いて抽出して得られた、6-ジンゲロールおよび6-ショウガオールを含むショウガ抽出物である。この抽出物には、6-ジンゲロールおよび6-ショウガオール以外にも他の成分が含まれているが、その他の成分の骨代謝改善作用への関与は検討されていない。
【0008】
本発明は、骨粗鬆症の予防および改善をするために、骨吸収抑制作用を有する骨代謝改善組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の骨代謝改善組成物は、8-ジンゲロール、10-ジンゲロール、1-デヒドロ-6-ジンゲルジオン、および6-ジンゲルジオンのうち、いずれか3種以上の成分を有効成分として含有することを特徴とする。
【0010】
上記骨代謝改善組成物に含まれる上記3種以上の成分が、ショウガ抽出物由来であることを特徴とする。
【0011】
上記骨代謝改善組成物は、6-ジンゲロールを含まないことを特徴とする。
【0012】
本発明の骨代謝改善組成物の製造方法は、上記骨代謝改善組成物が、ショウガ抽出物由来である、8-ジンゲロール、10-ジンゲロール、1-デヒドロ-6-ジンゲルジオン、および6-ジンゲルジオンのうち、いずれか3種以上の成分を有効成分として含有し、上記3種以上の成分は、ノルマルヘキサンを用いてショウガ抽出物を抽出した後、該ショウガ抽出物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、ノルマルヘキサンとアセトンの混合溶媒で溶出して得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の骨代謝改善組成物は、8-ジンゲロール、10-ジンゲロール、1-デヒドロ-6-ジンゲルジオン、および6-ジンゲルジオンのうち、いずれか3種以上の成分を有効成分として含有するので、優れた骨吸収抑制作用を示し、骨粗鬆症の予防および改善に有効である。
【0014】
骨代謝改善組成物に含まれる上記3種以上の成分が、ショウガ抽出物由来であるので、人体により安全で、摂取しやすい骨代謝改善組成物が得られる。
【0015】
本発明の骨代謝改善組成物の製造方法は、骨代謝改善組成物が、ショウガ抽出物由来である、8-ジンゲロール、10-ジンゲロール、1-デヒドロ-6-ジンゲルジオン、および6-ジンゲルジオンのうち、いずれか3種以上の成分を有効成分として含有し、上記3種以上の成分は、ノルマルヘキサンを用いてショウガ抽出物を抽出した後、該ショウガ抽出物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより、ノルマルヘキサンとアセトンの混合溶媒で溶出して得られるので、ショウガ抽出物由来の成分の所望の組み合わせを、簡易な操作で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ショウガ搾り滓のノルマルヘキサン抽出物のHPLCである。
図2】シリカゲルカラムによる分取手順を示す図である。
図3】画分Aおよび画分BのHPLCである。
図4】画分Cおよび画分DのHPLCである。
図5】画分Eおよび画分FのHPLCである。
図6】画分Gおよび画分HのHPLCである。
図7】画分Iおよび画分JのHPLCである。
図8】各画分のTRAP染色像を示す図である。
図9】TRAP染色した破骨細胞数の結果を示す図である。
図10】画分F~画分Hに含まれる成分の構造などである。
図11】細胞毒性の評価結果である。
図12】TRAP染色像を示す図である。
図13】TRAP染色像の定量解析結果である。
図14】ゼブラフィッシュの鱗のTRAP染色像である。
図15】ゼブラフィッシュの鱗のTRAP染色像である。
図16】TRAP染色像の定量解析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、ショウガ抽出物が有する破骨細胞の分化抑制作用を発現する有効成分の探索を行った結果、ショウガ抽出物に含まれる、8-ジンゲロール、10-ジンゲロール、1-デヒドロ-6-ジンゲルジオン、および6-ジンゲルジオンのうち、いずれか3種以上を含有する場合に、顕著な骨吸収抑制効果を有することを見出した。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0018】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明の骨代謝改善組成物に含有される8-ジンゲロール、10-ジンゲロール、1-デヒドロ-6-ジンゲルジオン、および6-ジンゲルジオンは、化学合成によって調製することができ、また、天然物から抽出して、シリカゲルカラムなどを用いて精製することによっても調製できる。あるいは、市販品を用いてもよい。
【0019】
上記成分を天然物から抽出する場合には、それらを含有する植物の全体または一部分(例えば、全草、葉、根、根茎、茎、根皮、若しくは花)をそのまま用いて、または簡単に加工処理(例えば、乾燥、切断、若しくは粉末化)したもの(例えば、生薬)を用いて抽出する。
【0020】
本発明では、天然物として、熱帯アジアを原産とするショウガ科の多年草であるショウガ(Zingiber officinale)の根茎を用いることができる。
抽出物を得るための原料としては、生鮮ショウガ、乾燥ショウガ、およびこれらの加工品が挙げられる。例えば、飲料などに利用するための搾汁液を搾汁された搾り滓を好ましく利用できる。特に、この搾り滓は未利用資源として廃棄されていたものであり、その有効利用が図れる。
【0021】
ショウガの抽出方法としては、有機溶媒抽出、有機溶媒と水との混合溶媒抽出、超臨界抽出が挙げられる。有機溶媒としては、亜酸化窒素、アセトン、エタノール、エチルメチルケトン、グリセリン、酢酸エチル、酢酸メチル、ジエチルエーテル、シクロヘキサン、ジクロロメタン、食用油脂、1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,2-トリクロロエテン、二酸化炭素、1-ブタノール、2-ブタノール、ブタン、1-プロパノール、2-プロパノール、プロパン、プロピレングリコール、ノルマルヘキサン、水、メタノールなどが挙げられる。これらの中で抽出溶媒として油脂食品製造への使用が認められているノルマルヘキサンがショウガ搾り滓から後述する低温抽出に用いる溶媒として好ましい。なお、超臨界抽出の溶媒としてはCOを例示できる。
【0022】
上記ショウガ抽出物は、固相吸着剤などによって精製されることが好ましい。固相吸着剤としては、シリカゲルが好ましく、一般に市販されているものを用いることができる。また、シリカゲルの平均粒子径は、例えば5μm~500μmを用いることができる。
【0023】
シリカゲルカラムクロマトグラフィーを行う場合、溶出溶媒には、溶媒同士が分離せず、かつシリカゲルに非可逆的に吸着されない溶媒ならば、いずれも使用できる。溶出溶媒として、例えば、ノルマルヘキサン、アセトン、エタノール、エチルメチルケトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、シクロヘキサンなどを用いることができる。溶出溶媒には1種のみを用いてもよく、また2種以上を混合した混合溶媒として用いてもよい。
【0024】
本発明の骨代謝改善組成物を得るためには、溶出溶媒としてノルマルヘキサンおよびアセトンを用いることが好ましい。具体的には、ノルマルヘキサンのみ(ヘキサン100%)で所定時間溶出させた後、ノルマルヘキサンとアセトンからなる混合溶媒で所定時間溶出させる。この混合溶媒の割合は体積比で、例えば、ノルマルヘキサン:アセトン=(98:2~70:30)である。この範囲内において、アセトンの割合を段階的または連続的に増やすグラジエント溶出を行うことが好ましい。この混合溶媒の割合は体積比で、ノルマルヘキサン:アセトン=(98:2~80:20)であることがより好ましく、(98:2~85:15)であることがさらに好ましい。
【0025】
溶出して得られた各画分を、ノルマルヘキサン-アセトンを展開溶媒として薄層クロマトグラフィーで展開し、類似の画分を合わせることで、8-ジンゲロール、10-ジンゲロール、1-デヒドロ-6-ジンゲルジオン、および6-ジンゲルジオンのうち、いずれか3種以上を含む画分を得ることができる。この画分を濃縮して溶媒を除去することで、褐色透明な油溶性液体が得られる。
【0026】
本発明の骨代謝改善組成物は、上述のように、ショウガ抽出物からシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって溶出・分離して得られた分画物をそのまま用いることができる。また、適宜な溶媒に希釈して用いてもよく、さらに、吸着素材を用いて粉末状へ加工したり、ペースト状にして用いてもよい。
【0027】
本発明の骨代謝改善組成物は、特定保健用食品や、サプリメント、薬剤などへ適用可能である。また、本発明の骨代謝改善組成物を骨粗鬆症の予防・改善剤などの食品として用いる場合の形態としては、パン類、ケーキ類、麺類、菓子類、ゼリー類、冷凍食品、アイスクリーム類、乳製品、飲料などの各種食品などが挙げられる。
種々の形態の食品を調製するには、本発明の骨代謝改善組成物を単独で、または他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤などと適宜組み合わせて用いることができる。
【実施例
【0028】
ショウガ原料として、搾汁液を搾汁されたショウガの搾り滓(含水率約75質量%)を準備した。この搾り滓60kgを-10℃以下に冷凍した。この冷凍原料を、体積で約2倍量のノルマルヘキサン(抽出溶媒)を加え、攪拌して破砕を行った後、0℃以下で15分間浸漬した。その後、ノルマルヘキサン溶液(層)を回収し、これを遠心薄膜濃縮装置および減圧蒸留装置を用いて、室温以下の温度でノルマルヘキサンを除去した。得られたショウガ抽出物は、ショウガをすりおろした後の爽やかな香気と、ショウガ特有の辛み成分とを有する褐色透明な油溶性液体であった。
得られたショウガ抽出物の成分を高速液体クロマトグラフィー(以下、高速液体クロマトグラムを含めて、HPLCという)法により分析した。HPLCの測定条件は、カラムがWakosil ll-5C18 φ4.6×250mmであり、移動相が含水アセトニトリルであり、30質量%アセトニトリルから90質量%アセトニトリルグラジエント(0-20分)+90質量%アセトニトリル(20-40分)であり、検出器は228nmの紫外吸光度検出器(カラム温度40℃)を用いた。移動相の流速は0.6mL/minで分析を行った。
上記HPLCの結果を図1に示す。
【0029】
図1において、各ピークのMS、および、標準試料のHPLCより、Pで示すピークはショウガに含まれる辛み成分の6-ジンゲロールであり、Pで示すピークはモノテルペンであるネラール、Pで示すピークはネラールの異性体であるゲラニアール、Pで示すピークはフェランドレン、Pで示すピークはファルネセン、Pで示すピークはジンギベレンであると同定された。この結果より、ピークPからピークPの合計ピーク面積から換算すると、これら成分がショウガ抽出物中の成分の大半を占めることが分かった。
【0030】
次に、上記ショウガ抽出物中の各成分を分離するため、シリカゲルオープンカラム(相互理化学硝子製作所製、φ20×300mm)による分取を行った。溶出液としては、最初にヘキサン単独からスタートし、その後、ヘキサンおよびアセトンの混合溶媒に変更し、アセトン比率を徐々に高め混合溶媒の極性を上げていき、最終的にエタノール単独でショウガ抽出物を溶出した。溶出中、1画分あたり30~200mLずつを順次採取し、最終的に52画分を分取した。溶出条件の詳細を図2に示す。
【0031】
上記ショウガ抽出物(GHE)をヘキサンにて平衡化したシリカゲルカラムに供した。図2に示すように、ヘキサン単独で溶出させて第1~第13画分を採取し、ヘキサン:アセトン=(98:2)で溶出させて第14~第20画分を採取し、ヘキサン:アセトン=(93:7)で溶出させて第21~第36画分を採取し、ヘキサン:アセトン=(88:12)で溶出させて第37~第46画分を採取し、ヘキサン:アセトン=(85:15)で溶出させて第47~第50画分を採取し、エタノール:アセトン=(50:50)で溶出させて第51画分を採取し、エタノール単独で溶出させて第52画分を採取した。得られた各画分を、薄層クロマトグラフィーのクロマトグラムを基にして、10画分(画分A~画分J)に縮分して、濃縮して試験用分画物を得た。
【0032】
図3図7には、画分A~画分JのHPLCを示す。HPLCの測定条件は、カラムがWakosil ll-5C18 φ4.6×250mmであり、移動相が含水アセトニトリルであり、30質量%アセトニトリルから90質量%アセトニトリルグラジエント(0-20分)+90質量%アセトニトリル(20-40分)であり、検出器は228nmの紫外吸光度検出器(カラム温度40℃)を用いた。移動相の流速は0.6mL/minで分析を行った。
【0033】
図3および図4に示すように、画分A~画分Dには、ジンギベレン、ファルネセン、フェランドレン、ネラール、ゲラニアールなどの低極性のテルペン類化合物が主に含まれていた。
【0034】
図5および図6に示すように、画分Eには、8-ジンゲロール(ピークP1)が含まれ、画分Fおよび画分Gには、8-ジンゲロール(ピークP1)、10-ジンゲロール(ピークP2)、1-デヒドロ-6-ジンゲルジオン(ピークP3)、6-ジンゲルジオン(ピークP4)が含まれ、画分Hには、8-ジンゲロール(ピークP1)、10-ジンゲロール(ピークP2)、1-デヒドロ-6-ジンゲルジオン(ピークP3)、6-ジンゲロールが含まれていた。なお、画分Fおよび画分Gには、6-ジンゲロールは含まれていなかった。
【0035】
図7に示すように、画分Iには、6-ジンゲロールが含まれ、画分Jには主な成分はほとんど検出されなかった。なお、各画分中の各成分の同定は、標品のHPLCおよびMSと対比することにより行った。画分A~画分Jのそれぞれの収率について、表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
上記で得られたショウガ抽出物(GHE)および各分画物(画分A~画分J)を用いて、破骨細胞分化抑制効果を以下の方法で評価した。
<破骨細胞の分化抑制効果の評価>
マウスマクロファージ由来破骨前駆細胞(RAW264.7)を24wellプレートに3×10cells/wellずつ播種し、37℃、5体積%CO存在下、10質量%牛胎児血清(FBS)を含むα-MEM培地で培養した。24時間後、被験試料を添加し、更に24時間培養した。次いで、RANKL100ng/mlを培地に加え、6日間分化誘導培養した。その後、分化誘導6日目に酒石酸耐性酸性ホスファターゼ(TRAP)染色を行なった。TRAP染色陽性で、かつ1細胞当たりの核の個数が11個以上の細胞を分化成熟破骨細胞とし、その数を計測した。
被験試料には、陰性対照(コントロール)としての無添加、ショウガ抽出物(20μg/ml)、分画物A~J(10μg/ml)を用いた。試験繰り返し数は3である。
【0038】
各TRAP染色像を図8に、破骨細胞数の結果を図9に、それぞれ示す。図8および図9に示すように、分画物F~Hを添加したサンプルは、分化破骨細胞数が陰性対照と比較して顕著に減少した。この分画物F~Hを添加したサンプルは、それぞれ、ショウガ抽出物と同等以上に分化破骨細胞数が減少した。
【0039】
図10に示すように、分画物F~Hの各成分に着目すると、分画物F~Hは、8-ジンゲロール、10-ジンゲロール、1-デヒドロ-6-ジンゲルジオン、および6-ジンゲルジオンのうち、いずれか3種以上の成分を含んでおり、その結果、ショウガ抽出物と同等またはそれ以上の破骨細胞の分化抑制効果を示すことが明らかになった。なお、8-ジンゲロールを主成分とする分画物Eや、6-ジンゲロールを主成分とする分画物Iは、分化抑制効果を示すものの、その効果は分画物F~Hよりも低いものであった。
【0040】
また、図1のHPLCチャートに示すように、8-ジンゲロール、10-ジンゲロール、1-デヒドロ-6-ジンゲルジオン、および6-ジンゲルジオンの各ピークは小さく、ショウガ抽出物中の微量成分である。それにもかかわらず、それら成分を3種以上含有した分画物が、上述のように高い破骨細胞の分化抑制効果を示したことから、これら成分が破骨細胞の分化抑制効果に有効であることが分かる。
【0041】
以上より、8-ジンゲロール、10-ジンゲロール、1-デヒドロ-6-ジンゲルジオン、および6-ジンゲルジオンのうち、いずれか3種以上の成分を含有する組成物は、骨量を減少させる骨吸収作用を抑制することが確認され、骨粗鬆症の予防および改善に有効であると考えられる。
【0042】
次に、分画物F~分画物Hに共通して存在し、破骨細胞の分化抑制効果に有効と考えられる各成分(8-ジンゲロール、10-ジンゲロール)、また、同族の6-ジンゲロールについて、破骨細胞分化抑制効果を評価した。破骨細胞分化抑制効果は、上記3つのジンゲロールの細胞毒性をチェックした後に評価した。
【0043】
<細胞毒性の評価>
細胞毒性の評価結果を図11に示す。RAW264.7細胞を各ジンゲロールで処理した結果、図11に示すように、いずれの濃度(0.6μM、2.5μM、10μM)においても細胞増殖の程度に差異はなく、強い細胞毒性は見られなかった。
【0044】
<破骨細胞の分化抑制効果の評価>
マウスマクロファージ由来破骨前駆細胞(RAW264.7)を96wellプレートに1×10cells/wellずつ播種し、37℃、5体積%CO存在下、10質量%牛胎児血清(FBS)を含むα-MEM培地で培養した。24時間後、被験試料を添加し、更に24時間培養した。次いで、RANKL100ng/mlを培地に加え、6日間分化誘導培養した。その後、分化誘導6日目に酒石酸耐性酸性ホスファターゼ(TRAP)染色を行なった。TRAP染色陽性で、かつ1細胞当たりの核の個数が11個以上の細胞を分化成熟破骨細胞とし、その数を計測した。
被験試料には、陰性対照(コントロール)としての無添加、6-ジンゲロール、8-ジンゲロール、10-ジンゲロール(それぞれ、0.6、2.5、10μMの3水準の濃度)の4種類を用いた。試験繰り返し数は6である。
【0045】
各TRAP染色像を図12に示す。図12に示すように、6-ジンゲロールを添加したサンプルは陰性対照と比較して若干の抑制効果が見られ、8-ジンゲロールおよび10-ジンゲロールを添加したサンプルは、分化破骨細胞の増殖が顕著に抑制された。図12(a)は200倍での顕微鏡観察画像であり、図12(b)は20倍での顕微鏡観察画像である。200倍の観察画像では、特に10-ジンゲロールを添加したサンプルにおいて、核を多く有する大きな細胞の出現度合いが少なかった。
【0046】
図13には、上記TRAP染色像の定量解析結果を示す。20倍で各ウェル全体を撮影した後に、染色程度の定量評価を行った。図13(a)は、成熟した所定の大きさ以上の破骨細胞の数を示す。図13(b)は、ImageJで解析して定量化したTRAP染色された領域の面積を示し、図13(c)は、染色程度(濃淡)を示す。6-ジンゲロール、8-ジンゲロール、10-ジンゲロールはそれぞれ、陰性対照(コントロール)に比べ、破骨細胞の数が少なく、TRAP染色された領域の面積も小さくなる傾向を示し、分化破骨細胞の増殖抑制効果が確認された。特に、10-ジンゲロールは、破骨細胞の数、TRAP染色面積だけでなく、染色程度も小さい値を示すとともに、少ない添加量でも分化破骨細胞の増殖抑制に高い効果を示した。破骨細胞の分化成熟の抑制作用は、ジンゲロールのメチレン基が長くなるほど強まり、特に10-ジンゲロールの作用が強いことが分かった。
【0047】
また、上記で得られたショウガ抽出物、およびショウガ抽出物が含有する10-ジンゲロールを用いて、個体動物による骨代謝改善効果を以下の方法で評価した。
<個体動物試験>
ゼブラフィッシュ(AB Strain Male)を用いて個体動物試験を実施した。ゼブラフィッシュの尾部周辺から予め鱗を除去し、以下の試験1~試験8に示す条件下で、それぞれ8日間飼育を行った。その後、ゼブラフィッシュの尾部周辺に再生した鱗を採取し、パラホルムアルデヒドによる固定化をした後、9日目にTRAP染色した。
試験1:無添加
試験2:プレドニゾロン(ステロイド性骨粗鬆症誘発剤)25μM添加
試験3:プレドニゾロン25μM+アレンドロネート(骨粗鬆症治療薬)30μM添加
試験4:プレドニゾロン25μM+ショウガ抽出物1ppm添加
試験5:プレドニゾロン25μM+ショウガ抽出物10ppm添加
試験6:プレドニゾロン25μM+10-ジンゲロール0.001ppm添加
試験7:プレドニゾロン25μM+10-ジンゲロール0.01ppm添加
試験8:プレドニゾロン25μM+10-ジンゲロール0.1ppm添加
【0048】
試験1は陰性対照として、試験2は陽性対照として試験を実施した。試験繰り返し数は5~6である。各薬剤や被験サンプルは水への暴露で試験を実施した。また、試験4、試験5におけるショウガ抽出物、および試験6~試験8における10-ジンゲロールは、レシチンを用いたリポソーム製剤として均一に添加を行い、各試験の終濃度は記載の通りである。リポソーム製剤としては、具体的には、ホスファスチジルコリン(PC70)を用いたショウガ抽出物1%エマルション、ホスファスチジルコリン(PC70)を用いた10-ジンゲロール0.1%エマルションを事前に調製したものを用いた。TRAP染色後のゼブラフィッシュの鱗(骨組織)を光学顕微鏡にて40倍の倍率で観察し、鱗の形状および破骨細胞の分化成熟抑制効果(染色の程度)を評価した。
【0049】
図14に、各ゼブラフィッシュの鱗のTRAP染色像を示す。試験2のプレドニゾロンのみのゼブラフィッシュの鱗は、崩壊が見られ、染色の程度も強いことから、破骨細胞が増加していることが確認される。試験3のアレンドロネートを同時に摂取させたゼブラフィッシュの鱗については、試験2に対して染色程度が少なく、破骨細胞の抑制が観察された。
一方、ショウガ抽出物を暴露させたゼブラフィッシュの鱗について(試験4、試験5)は、試験3と同様に染色程度が低下するとともに(破骨細胞の減少)、形状が維持された。この結果は、プレドニゾロンを暴露していない無処理のゼブラフィッシュの鱗と同等程度の良好な状態であった。また、ショウガ抽出物の濃度は1ppm、10ppmの場合のいずれも、同等の良好な結果を示した。
【0050】
図15に、10-ジンゲロールを暴露させたゼブラフィッシュの鱗のTRAP染色像を示す。10-ジンゲロールの濃度が異なる3種の被験サンプル(試験6、試験7、試験8)は、試験4および試験5のショウガ抽出物を暴露させた鱗と同等以下まで染色程度が低下した。この結果は、プレドニゾロンを暴露していない無処理のゼブラフィッシュの鱗よりも良好な状態であった。また、10-ジンゲロールの濃度は、0.001ppm、0.01ppm、0.1ppmのいずれの場合も、染色程度は小さく、鱗の形状も保たれており、良好な結果を示した。
【0051】
図16には、TRAP染色像をImageJで解析した定量解析結果を示す。定量化は、染色された部位の面積強度を測定することにより行った。染色程度を表すIntDenについて、ステロイド剤であるプレドニゾロン群(試験2)と比較して、試験3~試験8の各群全てにおいてTRAP染色の強度が低下し、破骨細胞の活性化抑制効果が確認された。具体的には、陰性対照である試験1対比、約3倍程度のIntDen値を示したプレドニゾロン群(試験2)に対し、アレンドロネート群(試験3)は、試験2よりも小さいIntDen値を示し、一定の改善効果が見られた。それに対し、ショウガ抽出物群である試験4および試験5のIntDen値は、試験1とほぼ同等の値まで低下し、試験3よりも大きな破骨細胞の活性化抑制効果を示した。また、10-ジンゲロール群の試験6~試験8のIntDen値は、試験4および試験5よりもさらに小さいことを確認した。上記のとおり、ショウガ抽出物および10-ジンゲロールは、微量でも顕著な効果を示したことから、生体に対しても優れた骨代謝改善効果を発現することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の骨代謝改善組成物は、特定の成分を含有することにより骨吸収抑制作用を有するので、骨粗鬆症の予防および改善に用いることができる。
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