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特許7541309TLR3経路阻害剤、抗炎症用組成物及びTLR3経路抑制方法
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  • 特許-TLR3経路阻害剤、抗炎症用組成物及びTLR3経路抑制方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】TLR3経路阻害剤、抗炎症用組成物及びTLR3経路抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/12 20060101AFI20240821BHJP
   A61K 31/7036 20060101ALI20240821BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240821BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240821BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240821BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
A61K38/12
A61K31/7036
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61P29/00
A61P17/00
A61P27/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020082407
(22)【出願日】2020-05-08
(65)【公開番号】P2021176824
(43)【公開日】2021-11-11
【審査請求日】2023-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】上田 真由美
(72)【発明者】
【氏名】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】本間 陽一
(72)【発明者】
【氏名】西巻 賢一
(72)【発明者】
【氏名】黒瀬 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】▲辻▼ 和弘
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/109982(WO,A1)
【文献】WICKER, D. L. et al.,The Control and Prevention of Necrotic Enteritis in Broilers with Zinc Bacitracin,Poultry Science,1977年,Volume 56, Issue 4, Pages 1229-1231,<DOI: 10.3382/ps.0561229>
【文献】GRASA, L. et al.,Depletion of murine intestinal microbiota by antibiotics: Effects on gut transit and toll-like receptors expression,UEG Week 2013 Poster Presentations. United European Gastroenterology Journal,2013年,Vol. 1, No. 1, Supp. SUPPL. 1,pp. A392. Abstract Number: P967,<DOI: 10.1177/2050640613502900>
【文献】堀内信之、安藤幸穂,職業性皮膚疾患 農薬による接触皮膚炎,皮膚病診療,1985年,Vol. 7, No. 9, Page. 831-834
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バシトラシンとフラジオマイシン硫酸塩の合剤を含有するTLR3経路阻害剤。
【請求項2】
請求項1に記載のTLR3経路阻害剤を含有する、抗炎症用組成物。
【請求項3】
皮膚慢性炎症治療用である、請求項に記載の抗炎症用組成物。
【請求項4】
眼科用である、請求項に記載の抗炎症用組成物。
【請求項5】
バシトラシンとフラジオマイシン硫酸塩の合剤を用いることを特徴とする、in vitroにおけるTLR3経路抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TLR3経路阻害剤、抗炎症用組成物及びTLR3経路抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Toll-Like Receptor(TLR)は、マクロファージ等の免疫担当細胞の他、腸管上皮等の粘膜上皮細胞、角膜上皮細胞等で発現されている受容体タンパクである。このTLRは、病原体固有に存在する構造であるPathogen-Associated Molecular Patterns(PAMPs)を認識し、自然免疫を作動させる機能を有していることが知られている。このTLRがPAMPsを認識すると、TLRシグナル伝達系が活性化されて炎症誘発性のサイトカイン、ケモカイン及び副次的な刺激分子の遺伝子転写が開始され、特定の抗原に対する獲得免疫反応の開始が誘導される。
【0003】
TLRにはサブタイプがあり、ヒトではTLR1~TLR10の10種類が存在することが知られている。それらのうち、TLR3は、ウイルス由来の二本鎖RNA、自己組織由来のRNA等をリガンドとして認識し、感染性炎症反応だけでなく、非感染性炎症反応にも関与することが解明されている。また、TLR3は、アレルギー性皮膚炎及び非アレルギー性刺激性皮膚炎にも深く関与していることも知られている(非特許文献1参照)。TLR3にリガンドが結合すると、NF-κBが活性化され、続いてI型インターフェロン、TNF-α、IL-1、IL-6等の炎症誘発性サイトカインが産生される、いわゆるTLR3経路が作動する。
【0004】
そこで、抗炎症の観点から、これまでにTLR3経路を抑制する薬剤が研究されている(特許文献1~5参照)。特許文献1~3には、TLR3活性を抑制するオリゴヌクレオチド、抗体等が開示されている。しかし、オリゴヌクレオチド、抗体等は、経口投与又は経皮投与等ができず、患者の利便性に欠けるとの問題がある。また、TLR3等が関与する免疫刺激を阻害する特定のアミノキノリン誘導体も知られている(特許文献4)。さらに、カテプシン阻害剤であるNC-2300等がTLR3等のシグナル伝達を調整できることも知られている(特許文献5)。しかし、これらの化合物のTLR3シグナル伝達等の阻害活性や選択性は十分とはいえない状況である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2010-527633号公報
【文献】特表2012-525425号公報
【文献】特表2015-519355号公報
【文献】特表2007-524615号公報
【文献】WO2009/054454号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】アレルギーの臨床、36(4)、2016、p.82-88
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる状況に鑑みてなされたものであり、TLR3からのシグナル伝達経路(TLR3経路)に対する優れた抑制活性を有し、安全性に優れ、投与方法の問題も生じない、新しいタイプのTLR3経路阻害剤、これを含む抗炎症用組成物、これを用いたTLR3経路抑制方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、既存薬ライブラリーの中から、バシトラシン、活性型ビタミンD3、フルニソリド、ハルシノニド、及びフルチカゾンプロピオン酸エステルが、細胞におけるTLR3の発現を抑制することで、TLR3からのシグナル伝達経路(TLR3経路)を阻害する優れた作用を有することを見出した。これらの化合物は、ヒトでの安全性と体内動態が実績によって既に確認されている既存薬であるため確実性が高く、多くの既存データを使用できる点で開発コストを抑えることができる点でも優れている。さらに、本研究において、これらの化合物は、TLR3経路阻害を作用メカニズムとする抗炎症作用も有していることが確認できた。すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0009】
[1]バシトラシン、活性型ビタミンD3、フルニソリド、ハルシノニド、フルチカゾンプロピオン酸エステル、ラロキシフェン塩酸塩、ビンブラスチン硫酸塩、ビンクリスチン硫酸塩、ザフィルルカスト、ビノレルビン、トレミフェン、チオリダジン塩酸塩、メベンダゾール、タモキシフェンクエン酸塩、トルカポン、エタクリン酸、ピモジド、アルベンダゾール、アシトレチン、エンタカポン、アトバコン、ボリノスタット、ドキソルビシン塩酸塩、ドセタキセル、パクリタキセル、カルベジロール、ジノプロストン、ロラタジン、テルビナフィン塩酸塩、アプレピタント、エキセメスタン、テルミサルタン、ダナゾール、メルファラン、アナグレリド、トリフルオロペラジン塩酸塩、ナイスタチン、ピロキシカム、ブロモクリプチンメシル酸塩、及びセチリジン塩酸塩から成る群より選択される少なくとも一種を含有するTLR3経路阻害剤。
[2]上記活性型ビタミンD3が、カルシポトリオールである、[1]に記載のTLR3経路阻害剤。
[3][1]又は[2]に記載のTLR3経路阻害剤を含有する、抗炎症用組成物。
[4]皮膚慢性炎症治療用である、[3]に記載の抗炎症用組成物。
[5]眼科用である、[3]に記載の抗炎症用組成物。
[6]バシトラシン、活性型ビタミンD3、フルニソリド、ハルシノニド、及びフルチカゾンプロピオン酸エステルから成る群より選択される少なくとも一種を用いることを特徴とする、TLR3経路抑制方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、細胞におけるTLR3の発現を抑制することでTLR3からのシグナル伝達を遮断し、安全性に優れ、投与方法の問題も生じない、新しいタイプのTLR3経路阻害剤、これを含む抗炎症用組成物、これを用いたTLR3経路抑制方法を提供することができる。本発明のTLR3経路阻害剤は、バシトラシン、活性型ビタミンD3、フルニソリド、ハルシノニド、フルチカゾンプロピオン酸エステル、ラロキシフェン塩酸塩、ビンブラスチン硫酸塩、ビンクリスチン硫酸塩、ザフィルルカスト、ビノレルビン、トレミフェン、チオリダジン塩酸塩、メベンダゾール、タモキシフェンクエン酸塩、トルカポン、エタクリン酸、ピモジド、アルベンダゾール、アシトレチン、エンタカポン、アトバコン、ボリノスタット、ドキソルビシン塩酸塩、ドセタキセル、パクリタキセル、カルベジロール、ジノプロストン、ロラタジン、テルビナフィン塩酸塩、アプレピタント、エキセメスタン、テルミサルタン、ダナゾール、メルファラン、アナグレリド、トリフルオロペラジン塩酸塩、ナイスタチン、ピロキシカム、ブロモクリプチンメシル酸塩、及びセチリジン塩酸塩から成る群より選択される少なくとも一種を含有するが、これらの化合物は、ヒトでの安全性と体内動態が実績によって既に確認されている既存薬であるため確実性が高く、多くの既存データを使用できる点で開発コストを抑えることができる点でも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、陽性対照であるFK506の抗炎症効果を示す図である。
図2図2は、バシトラシンの抗炎症効果を示す図である。
図3図3は、活性型ビタミンD3の抗炎症効果を示す図である。
図4図4は、フルニソリドの抗炎症効果を示す図である。
図5図5は、ハルシノニドの抗炎症効果を示す図である。
図6図6は、フルチカゾンプロピオン酸エステルの抗炎症効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書中で使用される用語は、特に言及しない限り、当該技術分野で通常用いられる意味で解釈される。
【0013】
<TLR3経路阻害剤>
本発明のTLR3経路阻害剤は、バシトラシン、活性型ビタミンD3、フルニソリド、ハルシノニド、フルチカゾンプロピオン酸エステル、ラロキシフェン塩酸塩、ビンブラスチン硫酸塩、ビンクリスチン硫酸塩、ザフィルルカスト、ビノレルビン、トレミフェン、チオリダジン塩酸塩、メベンダゾール、タモキシフェンクエン酸塩、トルカポン、エタクリン酸、ピモジド、アルベンダゾール、アシトレチン、エンタカポン、アトバコン、ボリノスタット、ドキソルビシン塩酸塩、ドセタキセル、パクリタキセル、カルベジロール、ジノプロストン、ロラタジン、テルビナフィン塩酸塩、アプレピタント、エキセメスタン、テルミサルタン、ダナゾール、メルファラン、アナグレリド、トリフルオロペラジン塩酸塩、ナイスタチン、ピロキシカム、ブロモクリプチンメシル酸塩、及びセチリジン塩酸塩から成る群より選択される少なくとも一種を含有することを特徴とする。好ましくは、本発明のTLR3経路阻害剤は、バシトラシン、活性型ビタミンD3、フルニソリド、ハルシノニド、及びフルチカゾンプロピオン酸エステルから成る群より選択される少なくとも一種を含有することを特徴とする。より好ましくは、本発明のTLR3経路阻害剤は、バシトラシンを含有することを特徴とする。本発明のTLR3経路阻害剤が含むこれらの化合物は、細胞におけるTLR3からの一連のシグナル伝達経路に関わるいずれかの分子の作用を制御すること、及びTLR3の発現を抑制することで、TLR3からのシグナル伝達経路を効果的に阻害することができる。それにより、TLR3に刺激が入ることで作動する一連の経路をブロックすることができるため、I型インターフェロン、TNF-α、IL-1、IL-6等の炎症誘発性サイトカインの産生を抑制することができ、抗炎症用組成物にも好適に用いることができる。
【0014】
本発明において、TLR3経路とは、細胞において、Toll-Like Receptor3(TLR3)にリガンドが結合して作動する一連のシグナル伝達経路のことをいう。
【0015】
TLR3はI型膜貫通タンパク質であり、リガンド認識は細胞外のロイシンリッチリピート(LRR)領域が担い、細胞内のTIR(Toll/interleukin-1 receptor)ドメインはアダプター分子であるTICAM-1のTIRドメインと結合することでシグナルを伝達する。TLR3の下流シグナルにおいては、炎症性サイトカインやI型インターフェロンの産生誘導のみでなく、樹状細胞上の共刺激分子の発現誘導などを介して獲得免疫系を活性化することも知られている。TLR3は、二本鎖RNA(double-stranded RNA:dsRNA)により活性化される。dsRNAの結合によりTLR3が二量体化してTIRドメインどうしが相互作用することで、アダプター分子であるTICAM-1へのシグナル伝達が可能となる。TLR3は骨髄系樹状細胞ではエンドソームに、上皮系細胞の一部やマクロファージでは細胞表面とエンドソームに局在しているが、いずれの細胞でもTLR3を介したシグナルはエンドソームから伝達されるため、dsRNAが細胞内へと取り込まれるステップが必要となる。dsRNAはクラスリン依存的なエンドサイトーシスによって細胞内へ取り込まれ、初期エンドソームでTLR3に認識される。このとき、取り込みに必須の分子としてRaftlinが機能しており、細胞表面の未知の受容体にdsRNAが結合すると、樹状細胞などでは細胞質に散在しているRaftlinが細胞表面へと集合し、dsRNAとともにエンドソームへと移行することなどもわかっている。エンドソームにおいてこれらの複合体がTLR3を活性化する。そしてdsRNAの結合により二量体化したTLR3は、アダプター分子TICAM-1を介してNF-κBやIRF3といった転写因子を活性化し、炎症性サイトカイン、I型インターフェロン等の産生を引き起こす(生化学、第86巻、第4号、2014、pp.523-527;J.Biol.Chem.、286、2011、pp.10702―10711)。
【0016】
本発明において、「TLR3経路阻害剤」における「阻害」とは、細胞において、Toll-Like Receptor3(TLR3)にリガンドが結合して作動する一連のシグナル伝達経路が作動できないようにすることをいい、具体的には、TLR3からの一連のシグナル伝達経路に関わるいずれかの分子の作用を制御すること、TLR3自体の発現を抑制すること、TLR3へのリガンド結合をブロックすること等が考えられるが、好ましくはTLR3からの一連のシグナル伝達経路に関わるいずれかの分子の作用を制御すること、TLR3自体の発現を抑制すること指す。本発明のTLR3経路阻害剤が有するTLR3経路阻害活性を確認する方法としては、細胞においてTLR3が関与するシグナル伝達経路の抑制効果を確認する方法や、細胞におけるTLR3遺伝子(mRNA)及び/又はTLR3タンパク発現が、TLR3経路阻害剤によって抑制されることを確認できる方法が考えられ、例えば、当業者に公知のELISA法、定量リアルタイムPCR、ウェスタンブロッティング等の方法が挙げられる。
【0017】
バシトラシン(bacitracin)は、枯草菌が産生する抗生物質で、バシトラシンA、B、C、D、E等の少なくとも9種以上の環状ポリペプチドの混合物であるが、バシトラシンAが主成分である。細菌の細胞壁ペプチドグリカン生合成系を阻害する作用を有し、グラム陽性菌及びグラム陰性菌に対して有効である。適応菌種をバシトラシン/フラジオマイシン感性菌とした抗菌剤であるバラマイシン(登録商標)軟膏が、フラジオマイシン硫酸塩との合剤の外用抗菌薬としてすでに製造販売されている。既存の適応症は、表在性皮膚感染症、深在性皮膚感染症、慢性膿皮症、外傷・熱傷及び手術創等の二次感染、びらん・潰瘍の二次感染、腋臭症である。これまで、バシトラシンがTLR3経路阻害作用を有することや、抗炎症作用を有することは、全く知られておらず、本研究において本発明者らが初めて見出した知見である。以下にバシトラシンAの化学式を示す。
【0018】
【化1】
【0019】
ビタミンD3は、食物として摂取されるとともに、皮膚で7-デヒドロコレステロールから合成される。さらに体内では肝臓と腎臓で水酸化を受け、活性型へと変換される。この活性型ビタミンD3は、生体内の標的臓器にあるビタミンD受容体を介し作用して、生体内の標的臓器(小腸、副甲状腺、腎臓、骨)で作用する。活性型ビタミンD3製剤は、小腸ではカルシウム、リンの吸収を促し、副甲状腺に作用して副甲状腺ホルモンの合成・分泌を抑制する。これまで、小腸からのカルシウム吸収を促す活性型ビタミンD3製剤は、カルシウムバランスの面からも重要視されてきた。高齢者では腸管からのカルシウム吸収能が低下していること、腎におけるビタミンDの活性化能が低下していること、二次的に副甲状腺ホルモンの分泌が高まり、骨吸収が亢進している例があることと、これらの代謝異常が活性型ビタミンD3製剤の投与により改善する可能性があることなどが、本製剤使用の理論的根拠となっている。また、活性型ビタミンD3製剤は、乾癬の症状が出ている皮膚の細胞増殖を抑え、皮膚の赤みや盛りあがり、かさぶたが剥がれ落ちるなどの症状を和らげる乾癬治療薬としても製造販売されている。しかしこれまで、活性型ビタミンD3がTLR3経路阻害作用を有することは、全く知られておらず、本研究において本発明者らが初めて見出した知見である。活性型ビタミンD3製剤としては、例えば、カルシポトリオール、タカルシトール、マキサカルシトール等が挙げられる。これらのうち、TLR3経路阻害作用に優れる観点から、下記式で表されるカルシポトリオールが好ましい。
【0020】
【化2】
【0021】
フルニソリドは、下記式で表される、アレルギー性鼻炎の治療のために処方される副腎皮質ホルモンである。鼻づまりを改善し、鼻呼吸を楽にするための点鼻薬がOTC医薬品としても販売されている。しかし、これまで、フルニソリドがTLR3経路阻害作用を有することは、全く知られておらず、本研究において本発明者らが初めて見出した知見である。
【0022】
【化3】
【0023】
ハルシノニドは、下記式で表される、湿疹や皮膚炎の治療に用いられる副腎皮質ホルモンである。湿疹・皮膚炎群(進行性指掌角皮症、ビダール苔癬を含む)、痒疹群(じん麻疹様苔癬、ストロフルス、固定じん麻疹を含む)、乾癬、掌蹠膿疱症のための外用薬として製造販売されている。しかしこれまで、ハルシノニドがTLR3経路阻害作用を有することは、全く知られておらず、本研究において本発明者らが初めて見出した知見である。
【0024】
【化4】
【0025】
フルチカゾンプロピオン酸エステルは下記式で表される、アレルギー性鼻炎、血管運動性鼻炎のために点鼻薬として用いられる化合物である。しかし、これまで、フルチカゾンプロピオン酸エステルがTLR3経路阻害作用を有することは、全く知られておらず、本研究において本発明者らが初めて見出した知見である。
【0026】
【化5】
【0027】
本発明のTLR3経路阻害剤において、上述のバシトラシン、活性型ビタミンD3、フルニソリド、ハルシノニド、及びフルチカゾンプロピオン酸エステルとしては、既存薬としてすでに市販されているものを使用することができる。
【0028】
ラロキシフェン塩酸塩、ビンブラスチン硫酸塩、ビンクリスチン硫酸塩、ザフィルルカスト、ビノレルビン、トレミフェン、チオリダジン塩酸塩、メベンダゾール、タモキシフェンクエン酸塩、トルカポン、エタクリン酸、ピモジド、アルベンダゾール、アシトレチン、エンタカポン、アトバコン、ボリノスタット、ドキソルビシン塩酸塩、ドセタキセル、パクリタキセル、カルベジロール、ジノプロストン、ロラタジン、テルビナフィン塩酸塩、アプレピタント、エキセメスタン、テルミサルタン、ダナゾール、メルファラン、アナグレリド、トリフルオロペラジン塩酸塩、ナイスタチン、ピロキシカム、ブロモクリプチンメシル酸塩、及びセチリジン塩酸塩の既知の効果(対象疾患)、化学構造式、既存薬の剤形は以下の表1-1~6に示すとおりである。本発明のTLR3経路阻害剤において、これらの化合物として、既存薬としてすでに市販されているものを使用することができる。
【0029】
【表1-1】
【0030】
【表1-2】
【0031】
【表1-3】
【0032】
【表1-4】
【0033】
【表1-5】
【0034】
【表1-6】
【0035】
本発明のTLR3経路阻害剤は、TLR3が関与する疾患の治療剤として使用することができる。TLR3が関与する疾患としては、例えば、炎症、炎症性免疫介在性疾患、感染症、自己免疫性疾患、腫瘍等が挙げられ、具体的には、皮膚慢性炎症、乾癬、アトピー性皮膚炎、湿疹性皮膚疾患、接触性皮膚炎等の皮膚炎症疾患;眼瞼炎、結膜炎、角膜炎、強膜炎、上強膜炎、前眼部ブドウ膜炎、術後炎症、涙腺炎、涙嚢炎、涙小管炎等の眼性炎症性疾患;クローン病および潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患;ウイルス感染症、敗血性ショック、急性肺損傷、関節リウマチ、喘息、自己免疫性肝臓疾患、I型糖尿病、腎臓細胞癌、頭部および頸部扁平上皮細胞癌等が挙げられる。
【0036】
本発明のTLR3経路阻害剤が、TLR3が関与する疾患の治療剤として使用される場合、製剤としては、例えば、経口的、全身的(例えば、経皮的、鼻腔内、坐剤等)、又は非経口的(例えば、筋肉内、静脈内、皮下、経皮、点眼等)で投与することができる。製剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤、丸剤、ドライシロップ剤、トローチ剤、ドロップ剤、チュアブル剤、口腔内崩壊剤、発泡剤、液剤、懸濁剤、エリキシル剤、エアゾール剤、液剤、軟膏、クリーム、点眼剤等が挙げられる。なお、上記点眼剤としては、具体的には、点眼剤(点眼薬、点眼液を含む)に加えて、洗眼剤(洗眼薬、洗眼液を含む)、眼軟膏薬、コンタクトレンズ装着液、コンタクトレンズ用ケア用剤(洗浄液、保存液、消毒液、マルチパーパスソリューションなど)等として用いることができる。また、点眼剤及び洗眼剤には、コンタクトレンズを装用したまま使用可能な点眼剤及び洗眼剤が含まれる。また、前記コンタクトレンズには、ハードコンタクトレンズ(酸素透過性ハードコンタクトレンズも含む)、ソフトコンタクトレンズ等のあらゆるタイプのコンタクトレンズが包含される。
【0037】
上記のTLR3が関与する疾患の治療剤として用いられる場合の本発明のTLR3経路阻害剤は、バシトラシン、活性型ビタミンD3、フルニソリド、ハルシノニド、フルチカゾンプロピオン酸エステル、ラロキシフェン塩酸塩、ビンブラスチン硫酸塩、ビンクリスチン硫酸塩、ザフィルルカスト、ビノレルビン、トレミフェン、チオリダジン塩酸塩、メベンダゾール、タモキシフェンクエン酸塩、トルカポン、エタクリン酸、ピモジド、アルベンダゾール、アシトレチン、エンタカポン、アトバコン、ボリノスタット、ドキソルビシン塩酸塩、ドセタキセル、パクリタキセル、カルベジロール、ジノプロストン、ロラタジン、テルビナフィン塩酸塩、アプレピタント、エキセメスタン、テルミサルタン、ダナゾール、メルファラン、アナグレリド、トリフルオロペラジン塩酸塩、ナイスタチン、ピロキシカム、ブロモクリプチンメシル酸塩、及びセチリジン塩酸塩から成る群より選択される少なくとも一種に薬学上許容される担体及び通常医薬品に用いられ得る各種添加剤を配合して調製することができる。
【0038】
上記薬学上許容される担体及び添加剤としては、製剤の剤型、投与方法等に応じて選択することができ、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動化剤、安定剤、抗酸化剤、着色剤、pH調整剤等を添加することができる。
【0039】
賦形剤としては、例えば、結晶セルロース、粉末セルロース、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、トレハロース、マルチトール、ラクチトール、ソルビトール、コムギデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、二酸化ケイ素、硫酸カルシウム等が挙げられる。結合剤としては、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、カルメロースナトリウム、デキストリン、部分アルファー化デンプン、プルラン、アラビアゴム、グアーゴム、カンテン、ゼラチン、トラガント、アルギン酸ナトリウム、ポビドン、ポリビニルアルコール、ペクチン等が挙げられる。崩壊剤としては、例えば、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、低置換度ヒドロキシプピルセルロース、クロスポビドン、ヒドロキシプロピルスターチ等が挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、パルミチン酸、タルク、フマル酸ステアリルナトリウム、カルナウバロウ、水素化植物油、鉱油等が挙げられる。流動化剤としては、例えば、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、酸化チタン等が挙げられる。安定剤としては、例えば、硫酸マグネシウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール等が挙げられる。抗酸化剤としては、例えば、ブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシトルエン、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、フラボノイド、グルタチオン、グルタチオンペルオキシダーゼ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、カタラーゼ、スーパーオキサイドジスムターゼ、チオレドキシン、タウリン、チオタウリン、ヒポタウリン、L-システイン塩酸塩、アスタキサンチン等が挙げられる。着色剤としては、例えば、無機顔料、天然色素などが挙げられる。pH調整剤としては、例えば、例えば、無機酸(塩酸、硫酸等)、有機酸(乳酸、乳酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸ナトリウム等)、無機塩基(水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等)、有機塩基(トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等)等が挙げられる。
【0040】
本発明のTLR3経路阻害剤をTLR3が関与する疾患の治療剤として用いる場合の投与量は、その投与方法、剤型、投与対象の年齢、体重、健康状態によって異なる。また、含有される有効成分によっても異なる。
【0041】
本発明のTLR3経路阻害剤の有効成分がバシトラシンである場合、全身的(例えば、経皮的、鼻腔内、坐剤等)、又は非経口的(例えば、筋肉内、静脈内、皮下、経皮、点眼等)な投与が好ましく、皮膚外用剤、点眼剤等としての投与がより好ましい。製剤におけるバシトラシンの含有量としては、0.00001~10重量%であり、0.0001~1重量%であることが好ましく、0.001~0.5重量%であることがより好ましく、0.01~0.1重量%であることがさらに好ましい。その用法・用量としては、皮膚外用剤の場合、1日に1回~数回、または数日に1回、上記製剤をヒトまたは動物に塗布又は塗擦するか、あるいは無菌ガーゼ等にのばして貼付することができる。点眼剤である場合は、1日に1回~数回、または数日に1回、上記製剤をヒトまたは動物に点眼することができる。
【0042】
本発明のTLR3経路阻害剤の有効成分が活性型ビタミンD3である場合、経口的、全身的(例えば、経皮的、鼻腔内、坐剤等)、または非経口的(例えば、筋肉内、静脈内、皮下、経皮、点眼等)な投与をすることができる。その製剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤、丸剤、ドライシロップ剤、トローチ剤、ドロップ剤、チュアブル剤、口腔内崩壊剤、発泡剤、液剤、懸濁剤、エリキシル剤、エアゾール剤、液剤、軟膏、クリーム、点眼剤等が挙げられる。製剤における活性型ビタミンD3の含有量としては、例えば皮膚外用剤である場合は、0.000005~5重量%であり、0.00001~1重量%であることが好ましく、0.0001~0.5重量%であることがより好ましく、0.001~0.1重量%であることがさらに好ましい。その用法・用量としては、皮膚外用剤の場合、1日に1回~数回、または数日に1回、上記製剤をヒトまたは動物に塗布又は塗擦するか、あるいは無菌ガーゼ等にのばして貼付することができる。
【0043】
本発明のTLR3経路阻害剤の有効成分がフルニソリドである場合、全身的(例えば、経皮的、鼻腔内、坐剤等)、または非経口的(例えば、筋肉内、静脈内、皮下、経皮、点眼等)な投与が好ましく、点鼻剤、皮膚外用剤としての投与がより好ましい。製剤におけるフルニソリドの含有量としては、0.000005~5重量%であり、0.00001~1重量%であることが好ましく、0.0001~0.5重量%であることがより好ましく、0.001~0.1重量%であることがさらに好ましい。その用法・用量としては、1日に1回~数回、または数日に1回、上記製剤をヒトまたは動物に塗布又は噴霧(点鼻)することができる。
【0044】
本発明のTLR3経路阻害剤の有効成分がハルシノニドである場合、全身的(例えば、経皮的、鼻腔内、坐剤等)、または非経口的(例えば、筋肉内、静脈内、皮下、経皮、点眼等)な投与が好ましく、皮膚外用剤としての投与がより好ましい。製剤におけるハルシノニドの含有量としては、0.000005~5重量%であり、0.00001~1重量%であることが好ましく、0.0001~0.5重量%であることがより好ましく、0.001~0.1重量%であることがさらに好ましい。その用法・用量としては、1日に1回~数回、または数日に1回、上記製剤をヒトまたは動物に塗布又は塗擦するか、あるいは無菌ガーゼ等にのばして貼付することができる。
【0045】
本発明のTLR3経路阻害剤の有効成分がフルチカゾンプロピオン酸エステルである場合、全身的(例えば、経皮的、鼻腔内、坐剤等)、または非経口的(例えば、筋肉内、静脈内、皮下、経皮、点眼等)な投与が好ましく、皮膚外用剤、点鼻剤としての投与がより好ましい。製剤におけるフルチカゾンプロピオン酸エステルの含有量としては、0.000005~5重量%であり、0.00001~1重量%であることが好ましく、0.0001~0.5重量%であることがより好ましく、0.001~0.1重量%であることがさらに好ましい。その用法・用量としては、1日に1回~数回、または数日に1回、上記製剤をヒトまたは動物に塗布又は噴霧(点鼻)することができる。
【0046】
本発明のTLR3経路阻害剤は、TLR3が関与する種々の症状を緩和することができるため、上記医薬品以外にも医薬部外品、化粧品にも好適に用いることができる。さらに、TLR3シグナル伝達経路の研究等のための試薬としても有効に用いることができる。
【0047】
<抗炎症用組成物>
本発明は、上記TLR3経路阻害剤を含有する抗炎症用組成物も含む。上記本発明のTLR3経路阻害剤は、バシトラシン、活性型ビタミンD3、フルニソリド、ハルシノニド、及びフルチカゾンプロピオン酸エステルから成る群より選択される少なくとも一種を含有し、細胞におけるTLR3からのシグナル伝達経路(TLR3経路)に対する優れた抑制活性を有し、TLR3が関与する疾患の治療剤として好適に用いられる。特に、本発明者らが実施例において示すとおり、TLR3が関与する疾患の中でも炎症に対して優れた効果を奏することから、このTLR3経路阻害剤を含有する本発明の抗炎症用組成物は、種々の炎症性疾患、炎症による症状の治療のために好適に用いることができる。
【0048】
本発明の抗炎症用組成物が適用される疾患としては、例えば、乾癬、アトピー性皮膚炎、湿疹性皮膚疾患、接触性皮膚炎等の皮膚炎症疾患;眼瞼炎、結膜炎、角膜炎、強膜炎、上強膜炎、前眼部ブドウ膜炎、術後炎症、涙腺炎、涙嚢炎、涙小管炎等の眼性炎症性疾患等が挙げられる。上記皮膚炎症疾患の中でも、症状が慢性化した皮膚慢性炎症疾患の治療用に用いられる。即ち、本発明の抗炎症用組成物は、皮膚慢性炎症疾患用、眼科用として、好ましく用いられる。
【0049】
本発明の抗炎症用組成物は、バシトラシン、活性型ビタミンD3、フルニソリド、ハルシノニド、及びフルチカゾンプロピオン酸エステルから成る群より選択される少なくとも一種以外に、薬学上許容される担体及び通常医薬品に用いられ得る各種添加剤を配合して調製することができる。この薬学上許容される担体及び各種添加剤については、上記TLR3経路阻害剤の項での説明を適用できる。また、各化合物の含有量、用法・用量についても同様である。
【0050】
<TLR3経路抑制方法>
本発明は、バシトラシン、活性型ビタミンD3、フルニソリド、ハルシノニド、及びフルチカゾンプロピオン酸エステルから成る群より選択される少なくとも一種を用いることを特徴とする、TLR3経路抑制方法も含む。バシトラシン、活性型ビタミンD3、フルニソリド、ハルシノニド、及びフルチカゾンプロピオン酸エステルが、細胞においてTLR3経路を抑制する作用を有することは、本発明者らが見出した新しい知見である。本発明のTLR3経路抑制方法は、上述したTLR3経路抑制剤を用いたTLR3経路抑制方法であると言うこともできる。本発明のTLR3経路抑制方法において用いられる活性型ビタミンD3、フルニソリド、ハルシノニド、及びフルチカゾンプロピオン酸エステルについての具体的説明は、TLR3経路抑制剤の項における説明を適用できる。
【実施例
【0051】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0052】
[試験1:ELISAを用いた炎症性サイトカインの産生抑制作用の評価]
IP-10、RANTES、及びCXCL10について評価を行った。試験方法は、以下のとおりである。
【0053】
正常ヒト表皮ケラチノサイト(GIBCO)を48ウェルプレート(コーニング)に播種し、37℃、5%CO、湿度90%の条件で80%-90%コンフルエントになるまで培養した。培地を吸引除去した後、各化合物およびpolyI:C(InvivoGen)をそれぞれ10μMおよび10μg/mLとなるように添加した後、37℃、5%CO、湿度90%の条件でさらに24時間培養した。IP-10、RANTES、及びCXCL10の評価にはそれぞれHuman CXCL10/IP-10 DuoSet(R&D)、Human CCL5/RANTES DuoSet(R&D)を用い、培養上清中に放出された各炎症性サイトカインの定量を行った。評価した化合物はバシトラシン、カルシポトリオール、フルニソリド、ハルシノニド、フルチカゾンプロピオン酸エステル、ラロキシフェン塩酸塩(エビスタ錠)、ビンブラスチン硫酸塩(エクザール注射用)、ビンクリスチン硫酸塩(オンコビン注射用)、ザフィルルカスト(アコレート)、ビノレルビン(ナベルビン注)、トレミフェン(フェアストン錠)、チオリダジン塩酸塩、メベンダゾール(メベンダゾール錠)、タモキシフェンクエン酸塩(ノルバデックス錠)、トルカポン、エタクリン酸、ピモジド(オーラップ錠)、アルベンダゾール(エスカゾール錠)、アシトレチン、エンタカポン(コムタン錠)、アトバコン(サムチレール内容懸濁液)、ボリノスタット(ゾリンザカプセル)、ドキソルビシン塩酸塩(アドリアシン注用)、ドセタキセル(タキソテール点滴静注用)、パクリタキセル(タキソール注射液)、カルベジロール(アーチスト錠)、ジノプロストン(プロスタグランジンE2錠)、ロラタジン(クラリチン錠)、テルビナフィン塩酸塩(ラミシール)、アプレピタント(イメンドカプセル)、エキセメスタン(アロマシン錠)、テルミサルタン(ミカルディス錠)、ダナゾール(ボンゾール錠)、メルファラン(アルケラン)、アナグレリド(アグリリンカプセル)、トリフルオロペラジン塩酸塩、ナイスタチン(ナイスタチン錠)、ピロキシカム(バキソカプセル)、ブロモクリプチンメシル酸塩(パーロデル錠)、セチリジン塩酸塩(ジルテック)である。
【0054】
[試験2:定量PCRを用いた炎症性サイトカイン等の遺伝子発現抑制作用の評価]
炎症性サイトカインとして、IP-10、RANTES及びCXCL10、さらにTLR3について評価を行った。試験方法は、以下のとおりである。
【0055】
正常ヒト表皮ケラチノサイト(GIBCO)を12ウェルプレート(コーニング)に播種し、37℃、5%CO、湿度90%の条件で80%-90%コンフルエントになるまで培養した。培地を吸引除去した後、各化合物およびpolyI:C(InvivoGen)をそれぞれ10μMおよび10μg/mLとなるように添加した後、37℃、5%CO、湿度90%の条件でさらに6時間培養した。その後、RNeasy mini kit(QIAGEN)を用いて細胞よりRNAを抽出し、ReverTra Ace(東洋紡)およびramdom primer(東洋紡)を用いてcDNAに逆転写した後、ABI-prism 7700 instrument(Applied Biosystems)またはStepOne plus(Applied Biosystems)を用いて定量的リアルタイムPCR法によりIP-10、RANTES、CXCL10、及びTLR3の遺伝子発現量の定量を行った。評価した化合物は試験1と同様である。
【0056】
なお、ELISAによる炎症性サイトカインの産生抑制、及び定量的リアルタイムPCRによる遺伝子発現の抑制については、以下の基準に基づいて評価した。
++:50%以上抑制
+ :10%以上50%未満抑制
± :10%未満抑制
- :抑制なし
空白:試験していない
【0057】
【表2】
【0058】
以上の評価試験の結果から、各化合物は、polyI:Cで誘導された炎症性サイトカイン及びTLR3を抑制する作用を有することが確かめられた。
【0059】
[試験3:マウス接触性皮膚炎モデル試験によるin vivo解析]
アセトン(和光純薬工業)およびオリーブオイル(和光純薬工業)を4:1の容積比で混合して、混合基剤を調製した。さらに2,4,6-トリニトロクロロベンゼン(TNCB:東京化学工業)を1w/v%となるように上記混合基剤に溶解させて、1%TNCB溶液を調製した。各化合物を50mMとなるようにDMSOに溶解し、さらに100μMとなるようにアセトンとオリーブオイル(4:1(v/v))を用いて希釈して被験製剤を調製した。また、DMSOを0.1v/v%となるようにアセトンとオリーブオイル(4:1(v/v))に添加して比較製剤を調製した。評価した化合物は、バシトラシン、カルシポトリオール、フルニソリド、ハルシノニド、及びフルチカゾンプロピオン酸エステルである。なお、陽性対照としてはFK506(タクロリムス)を用いた。
【0060】
[試験方法]
6~10週齢雌BALB/cマウス(日本エスエルシー)の腹部をヴィート(登録商標)除毛クリームで除毛した。1%TNCB溶液を25μL(12.5μLを2回)除毛した部分に塗布することでマウスを感作させ、下記反応惹起1~2日前に両耳の厚さを、ミツトヨ定圧ノギスNTD(NTD25-20CX)を用いて測定した。感作から7~8日後に1%TNCB溶液20μLを両耳に塗布することで反応を惹起させた。各化合物製剤を両耳への1%TNCB溶液塗布(反応惹起)の1時間前、2時間後、5時間後に検測耳に20μLを合計3回塗布し、比較製剤を反対側耳に同様に塗布した。1%TNCB溶液を塗布して24時間後に頸椎脱臼し、耳介を摘出してメッシュ袋に入れ、10%中性緩衝ホルマリン(ナカライテスク)で組織を固定した。OCTコンパウンド(サクラファインテック)にて、凍結ブロックを作成し、クライオスタット(ライカ)を用いて組織切片を作成し、HE法により組織切片を染色した。耳介中央部で切片を作成し、耳介切片の周辺部2か所および中央部1か所におけるリンパ球をはじめとした浸潤細胞をカウントすることにより耳介への炎症細胞の浸潤を評価した。各化合物製剤および比較製剤を用いたマウス接触性皮膚炎モデル試験における浸潤細胞数/視野の測定結果を図1(タクロリムス)、図2(バシトラシン)、図3(カルシポトリオール)、図4(フルニソリド)、図5(ハルシノニド)、図6(フルチカゾンプロピオン酸エステル)に示す。
【0061】
図1~6に示すとおり、バシトラシン、カルシポトリオール、フルニソリド、ハルシノニド、及びフルチカゾンプロピオン酸エステルは、マウス接触性皮膚炎モデルにおいて、炎症細胞の浸潤を有意に抑制した。バシトラシン、カルシポトリオール、フルニソリド、ハルシノニド、及びフルチカゾンプロピオン酸エステルは、マウス接触性皮膚炎モデルにおいて、TLR3経路を抑制することにより、患部における炎症細胞の浸潤を有意に抑制することができたことから、抗炎症薬としての優れた効果を有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によると、TLR3からのシグナル伝達経路(TLR3経路)に対する優れた抑制活性を有し、安全性に優れ、投与方法の問題も生じない、新しいタイプのTLR3経路阻害剤、これを含む抗炎症用組成物、これを用いたTLR3経路抑制方法を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6