(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】紫外線遮蔽材、その製造方法、それを用いた化粧料、および、保護シート
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20240821BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20240821BHJP
A61K 8/25 20060101ALI20240821BHJP
A61Q 17/04 20060101ALI20240821BHJP
C01B 33/38 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
C09K3/00 104Z
C09K3/00 104G
A61K8/19
A61K8/25
A61Q17/04
C01B33/38
(21)【出願番号】P 2020137234
(22)【出願日】2020-08-17
【審査請求日】2023-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】井出 裕介
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-236515(JP,A)
【文献】国際公開第2018/186076(WO,A1)
【文献】特開平2-108612(JP,A)
【文献】特表2008-537803(JP,A)
【文献】特開2007-186380(JP,A)
【文献】Chem. Sci.,2019年,Vol. 10,pp. 6604-6611
【文献】Chem. Sci.,2018年,Vol. 9,pp. 8637-8643
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/00
A61K8/00-8/99
A61Q1/00-90/00
C01B33/20-39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも層内に分子性酸化鉄を包摂したH型マガディアイトを含有する、紫外線遮蔽材。
【請求項2】
前記分子性酸化鉄は、前記層内のチャンネル構造内に包摂される、請求項1に記載の紫外線遮蔽材。
【請求項3】
前記チャンネル構造は、酸素八員環骨格を有する、請求項2に記載の紫外線遮蔽材。
【請求項4】
前記分子性酸化鉄は、[Fe
III(H
2O)
6]
3+で表されるアコ錯体またはこの凝集体、および/または、前記アコ錯体に基づく酸化鉄の二量体である、請求項1~3のいずれかに記載
の紫外線遮蔽材。
【請求項5】
前記酸化鉄の二量体は、[(H
2O)
4Fe
III(OH)
2Fe
III(H
2O)
4]
4+で表されるヒドロキソ架橋化学種、および/または、[(H
2O)
5Fe
III(O)Fe
III(H
2O)
5]
4+で表されるオキソ架橋化学種である、請求項4に記載の紫外線遮蔽材。
【請求項6】
前記H型マガディアイト中の鉄の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下の範囲である、請求項1~5のいずれかに記載の紫外線遮蔽材。
【請求項7】
前記H型マガディアイト中の鉄の含有量は、0.1質量%以上5質量%以下の範囲である、請求項6に記載の紫外線遮蔽材。
【請求項8】
前記H型マガディアイトの一部は、Naを含有する、請求項1~7のいずれかに記載の紫外線遮蔽材。
【請求項9】
前記H型マガディアイトの層の厚さは、1.25nm以上1.4nm以下の範囲である、請求項1~8のいずれかに記載の紫外線遮蔽材。
【請求項10】
鉄イオンを含有する水溶液と、H型マガディアイトと、非プロトン性極性溶媒とを混合することを包含する、請求項1~9のいずれかに記載の紫外線遮蔽材を製造する方法。
【請求項11】
前記混合することは、pHを0.5以下に調
整することをさらに包含する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記混合することに続いて、前記混合することによって得られた混合液を加熱することをさらに包含する、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記加熱することは、前記混合液を40℃以上60℃以下の温度範囲で加熱する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記非プロトン性極性溶媒は、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、および、ジメチルスルホキシドからなる群から選択される、請求項10~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記鉄イオンを含有する水溶液を硝酸鉄、硫酸鉄、および、これらの水和物からなる群から選択される鉄化合物を用いて調製することを包含する、請求項10~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記鉄化合物の質量は、前記H型マガディアイトの質量に対して5倍以上15倍以下の質量である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記混合することは、鉄イオンを含有する水溶液の体積に対して50倍以上200倍以下の範囲の体積の前記非プロトン性極性溶媒を混合する、請求項10~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
請求項1~9のいずれかに記載の紫外線遮蔽材を含有する化粧料。
【請求項19】
請求項1~9のいずれかに記載の紫外線遮蔽材を含有する保護シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線遮蔽材、その製造方法、それを用いた化粧料、および、保護シートに関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線を吸収する酸化チタンは、化粧品や塗料に利用されている。しかしながら、酸化チタンは、光触媒活性によって皮膚障害を引き起こしたり、有機物媒体が分解され、性能が劣化したりする。このため、酸化チタンの表面を金属等で修飾し、光触媒活性を抑制する必要がある。
【0003】
また、酸化チタンは、屈折率が大きいため、有機物媒体と混ぜて使用すると、屈折率差によりコーティングが白化し、下地の外観を損なう場合があり、酸化チタンをナノ粒子化したり、あるいは、フッ素ドーピングしたりすることにより、屈折率を低下させる検討がなされている。
【0004】
一方で、上述のような医療問題の懸念がある酸化チタンは将来的に使用できなくなる可能性がある。したがって、光触媒活性を有せず、屈折率の小さな、酸化チタンに代わる紫外線を吸収する材料が求められている。
【0005】
酸化鉄は、地球上に遍在し、生体親和性にも優れることから、高価あるいは有毒な物質・材料の代替を目指した研究が盛んである。また、酸化鉄クラスターや粒子は、そのエネルギーギャップ(バンドギャップ)が狭く、可視光を吸収するが、分子性酸化鉄は、そのエネルギーギャップは広く、紫外線を吸収することが知られている。しかしながら、分子性酸化鉄は、極めて不安定であり、単離して維持することが難しい。
【0006】
近年、メソポーラスシリカに分子性酸化鉄を担持させた報告がある(例えば、非特許文献1を参照)。非特許文献1によれば、このような複合体の光触媒活性が示唆されるが、紫外線遮蔽材について報告されていない。
【0007】
また、層状ケイ酸塩の1つであるマガディアイトが層内にミクロ細孔を有することが報告された(非特許文献2を参照)。非特許文献2によれば、ミクロ細孔は、特定分子を認識し、骨格を拡げるゲートオープニング吸着の可能性を示唆する。しかしながら、マガディアイトを用いた具体的な機能性材料の開発には至っていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Yusuke Ideら,Chem.Sci.,2019,10,6604
【文献】Yusuke Ideら,Cite this: Chem. Sci., 2018, 9, 8637
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上から、本発明の課題は、酸化チタンを代替する紫外線遮蔽材、その製造方法およびその用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による紫外線遮蔽材は、少なくとも層内に分子性酸化鉄を包摂したH型マガディアイトを含有し、これにより上記課題を解決する。
前記分子性酸化鉄は、前記層内のチャンネル構造内に包摂されてもよい。
前記チャンネル構造は、酸素八員環骨格を有してもよい。
前記分子性酸化鉄は、[FeIII(H2O)6]3+で表されるアコ錯体またはこの凝集体、および/または、前記アコ錯体に基づく酸化鉄の二量体であってもよい。
前記酸化鉄の二量体は、[(H2O)4FeIII(OH)2FeIII(H2O)4]4+で表されるヒドロキソ架橋化学種、および/または、[(H2O)5FeIII(O)FeIII(H2O)5]4+で表されるオキソ架橋化学種であってもよい。
前記H型マガディアイト中の鉄の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下の範囲であってもよい。
前記H型マガディアイト中の鉄の含有量は、0.1質量%以上5質量%以下の範囲であってもよい。
前記H型マガディアイトの一部は、Naを含有してもよい。
前記H型マガディアイトの層の厚さは、1.25nm以上1.4nm以下の範囲であってもよい。
本発明による上記紫外線遮蔽材を製造する方法は、鉄イオンを含有する水溶液と、H型マガディアイトと、非プロトン性極性溶媒とを混合することを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記混合することは、pHを0.5以下に調整ことをさらに包含してもよい。
前記混合することに続いて、前記混合することによって得られた混合液を加熱することをさらに包含してもよい。
前記加熱することは、前記混合液を40℃以上60℃以下の温度範囲で加熱してもよい。
前記非プロトン性極性溶媒は、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、および、ジメチルスルホキシドからなる群から選択されてもよい。
前記鉄イオンを含有する水溶液を硝酸鉄、硫酸鉄、および、これらの水和物からなる群から選択される鉄化合物を用いて調製することを包含してもよい。
前記鉄化合物の質量は、前記H型マガディアイトの質量に対して5倍以上15倍以下の質量であってもよい。
前記混合することは、鉄イオンを含有する水溶液の体積に対して50倍以上200倍以下の範囲の体積の前記非プロトン性極性溶媒を混合してもよい。
本発明による化粧料は、上記紫外線遮蔽材を含有し、これにより上記課題を解決する。
本発明による保護シートは、上記紫外線遮蔽材を含有し、これにより上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の紫外線遮蔽材は、少なくとも層内に分子性酸化鉄を包摂したH型マガディアイトを含有する。H型マガディアイトの層間ではなく層内に酸化鉄を包摂することにより、酸化鉄は、クラスターや粒子になることなく、分子の状態で安定化して維持される。この結果、紫外線を吸収し、紫外線遮蔽材として機能し得る。また、光触媒活性が低く、人体に適用しても皮膚障害を生じず、有機物と配合しても性能劣化を抑制できる。H型マガディアイトを母体とするため、屈折率はシリカと同程度に低く、有機物媒体と配合しても、屈折率差が小さく白化しない。このような紫外線遮蔽材は、各種化粧料や保護シートに有利である。
【0012】
本発明の紫外線遮蔽材の製造方法は、鉄イオンを含有する水溶液と、H型マガディアイトと、非プロトン性極性溶媒とを混合することを包含し、非プロトン性極性溶媒を用いることにより、H型マガディアイトの層内のチャンネル(ミクロ細孔)が広がるため、鉄イオンが分子状態にて層内で効率的に維持され、上述の紫外線遮蔽材が得られる。本発明の製造方法は、特別な装置や特殊な技術は不要であるため、実用化に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の紫外線遮蔽材を構成する分子性酸化鉄を包摂したH型マガディアイトを示す模式図
【
図3】本発明の紫外線遮蔽材を製造するフローチャートを示す図
【
図4】例1および例2の試料のXRDパターンを示す図
【
図5】例1および例2の試料の窒素吸着等温線を示す図
【
図6】例1および例2の試料のUV-vis吸収スペクトルを示す図
【
図7】例1および例2の試料の透過スペクトルを示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0015】
本願発明者は、マガディアイトの分子認識機能に着目し、分子性酸化鉄の担体について鋭意研究し、紫外線遮蔽機能を奏する複合材料の開発に成功した。以降では、本発明の紫外線遮蔽材、その製造方法および用途について説明する。
【0016】
図1は、本発明の紫外線遮蔽材を構成する分子性酸化鉄を包摂したH型マガディアイトを示す模式図である。
図2は、層内に包摂される分子性酸化鉄を示す模式図である。
【0017】
本発明の紫外線遮蔽材100は、H型マガディアイトと分子性酸化鉄110との複合体を含有するが、詳細には、H型マガディアイトの層120a、120bの少なくとも層内に分子性酸化鉄110を包摂させた複合体を含有する。酸化鉄は分子の状態で安定化して維持されるため、紫外線を吸収し、紫外線遮蔽材として機能し得る。また、本発明の紫外線遮蔽材100の光触媒活性は低いため、人体に適用しても皮膚障害を生じにくく、有機物と混合しても劣化しにくい。
【0018】
H型マガディアイトは、H
2Si
14O
29・nH
2O(nは、例えば、n<0.3であるが、これに限らない。)で表され、
図1に示すように、層120a、120bを単位層とする層構造を有する。各層は、SiO
4四面体が二次元的に重合した構造を有する。各層の表面にはシラノール基(≡Si-OH)と、交換可能な層間イオンとしてのプロトンが解離可能なシラノール基(≡Si-O
-H
+)とが存在する。H型マガディアイトは、層表面のシラノール基による水素結合、層間のファンデルワールス力により、層120aと層120bとが閉じた状態となり、層間距離はゼロに近い。
【0019】
層120a、120b内には、ミクロ細孔であるチャンネル130が存在し、チャンネル130内に分子性酸化鉄110が包摂される。分子性酸化鉄110は、層120a、120bのチャンネル130に包摂されると、チャンネル130は分子性酸化鉄110の大きさに適合するため、分子性酸化鉄110は容易に脱着することなく安定化する。このようなチャンネル130は、好ましくは、
図1に示すように酸素八員環骨格を有する。
【0020】
ここで
図2を参照する。本願明細書において、分子性酸化鉄110は、赤~茶色の色を呈する微粒子やクラスターではなく、分子サイズの酸化鉄であり、好ましくは、Fe
III[(H
2O)
6]
3+で表されるアコ錯体(
図2(A))またはその凝集体、および/または、アコ錯体に基づく酸化鉄の二量体である。これらの分子性酸化鉄であれば、酸化鉄自身が透明となり、紫外線を吸収できる。アコ錯体に基づく酸化鉄の二量体には、
図2(B)に示される[(H
2O)
4Fe
III(OH)
2Fe
III(H
2O)
4]
4+で表されるヒドロキソ架橋化学種や、[(H
2O)
5Fe
III(O)Fe
III(H
2O)
5]
4+で表されるオキソ架橋化学種がある。
【0021】
このような分子性酸化鉄110の存在は、紫外・可視(UV-vis)吸収スペクトルを測定することによって判定できる。吸収スペクトルにおいて、波長270nm近傍にピークを有する場合、アコ錯体またはその凝集体が存在し、波長330nm近傍にピークを有する場合、二量体が存在すると判定できる。なお、本願明細書において、紫外線とは、250nm以上400nm以下の波長を有する光を意図する。
【0022】
再度
図1に戻る。
上述したように、H型マガディアイトの層120a、120b内に分子性酸化鉄110が包摂されるので、層120a、120bの厚さは、分子性酸化鉄を有しないH型マガディアイトのそれに比べて大きい。分子性酸化鉄を有しないH型マガディアイトの単位層の厚さは、層間が閉じた状態であり、層間距離がゼロに近しいので、X線回折パターンの基本面間隔d(001)と一致しているとみなせ、約1.2nmであることが知られている。これに対して、本発明の紫外線遮蔽材100中の層120a、120bの厚さは、好ましくは、1.25nm以上1.4nm以下の範囲である。分子性酸化鉄120を包摂する場合も、やはり、層120aと層120bとの間は、層間が閉じた状態であり、層間距離がゼロに近しいため、層120a、120bの厚さは、X線回折パターンの基本面間隔と一致しているとして算出される。
【0023】
本発明の紫外線遮蔽材100は、好ましくは、0.1質量%以上10質量%以下の範囲の鉄を含有する。この範囲であれば、紫外線を吸収する。本発明の紫外線遮蔽材100は、より好ましくは、0.1質量%以上5質量%以下の範囲の鉄を含有する。この範囲であれば、紫外線を吸収し、光触媒活性がさらに低い。本発明の紫外線遮蔽材100は、なおさらに好ましくは、0.2質量%以上2質量%以下の範囲の鉄を含有する。この範囲であれば、紫外線を効率的に吸収し、光触媒活性がさらに低い。鉄の含有量は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置によって算出される。
【0024】
図1ではすべてがH型マガディアイトであるものとして説明してきたが、層120a、120bに分子性酸化鉄110が包摂される限り、H型マガディアイトの一部が原料に由来するNaを含有してもよい。また、本発明の紫外線遮蔽材100は、その他のカウンターイオンや水分子を含有してもよい。
【0025】
図1では、層120a、120b内にのみ分子性酸化鉄110が存在する様態を示すが、層120a、120bに加えて、層120aと層120bとの間に分子性酸化鉄110が包摂されていてもよい。
【0026】
本発明の紫外線遮蔽材100は、50nm以上5μm以下の範囲のプレートがバラ状に凝集した球状二次粒子からなってよい。これにより、化粧料や保護シートに適用する際に、任意の無機、有機原料、アルコール類、界面活性剤、防腐剤等と配合できる。二次粒子の平均粒径は、好ましくは、5μm以上20μm以下の範囲である。この範囲であれば、上述の各種材料と配合しても、良好に混合し、遮蔽効果を維持できる。
【0027】
二次粒子をボールミル、ジェットミル等の粉砕機を用いて50nm以上5μm以下の範囲を有するプレートに粉砕してもよい。これにより、塗り感に優れた化粧料を提供でき、より均一な保護シートが得られる。さらに好ましくは、プレートの平均粒径が10nm以上1μm以下の範囲まで粉砕してもよい。この範囲であれば使用感に優れる。
【0028】
また、本発明の紫外線遮蔽材100は、ケイ素と酸素とを主成分とするH型マガディアイトを母体とするため、屈折率はシリカ(約1.5)と同程度に低く、有機物媒体と配合しても、屈折率差が小さく白化しない。
【0029】
本発明の紫外線遮蔽材100は、その表面がシリコン処理、アミノ酸処理、レシチン酸処理、コラーゲン処理、フッ素化処理等されていてもよい。これにより、樹脂や油等の有機物と配合した際に、親和性が高くなり、分散性や安定性が高まる。
【0030】
本発明の紫外線遮蔽材100は、紫外線を遮蔽し、光触媒活性も低いため、紫外線遮蔽効果を必要とする、乳液、化粧水、スキンクリーム等のスキンケア化粧料、パウダリーファンデーション、リキッドファンデーション、チーク、口紅等のメイクアップ化粧料、ムース、ヘアワックス等の頭髪用化粧料に適用される。
【0031】
本発明の化粧料は、必要に応じて後述する任意成分と配合することによって得られるが、化粧料中の紫外線遮蔽材100の配合割合は、紫外線遮蔽効果、化粧料の種類に応じて任意に設定できるが、例示的には、3質量%以上50質量%以下の範囲である。
【0032】
本発明の化粧料は、本発明の効果を妨げない範囲で、ポリエステル、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリウレタン、アクリル酸樹脂、フェノール樹脂、フッ素樹脂、ジビニルベンゼン、スチレン共重合体等の各種樹脂粉体或いはそれらの2種以上から成る共重合樹脂粉体、アセチルセルロース、多糖類、タンパク質等の有機粉末、赤色202号、青色1号等の顔料粉末、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、パルミチン酸亜鉛等の金属石鹸、ジメチコン、メチコン、シクロメチコン、ポリエーテル変性シリコン、フッ素変性シリコン等のシリコン化合物、トリオクタノイン、ジカプリル酸ネオペンチルグリコール等のエステル油、ミネラルオイル、ワセリン、ポリブテン等の鉱物油、カルナウバロウ、キャンデリラロウ、ミツロウ等のロウ、ホホバ油、オリーブ油、アロエ、ベニバナ等の天然系原料、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンC等のビタミンまたはビタミン誘導体等の、任意の無機又は有機原料、エタノールや多価アルコール等のアルコール類、界面活性剤、保湿剤、着色料、香料、防腐剤等の通常化粧料に配合される任意の成分を含有してもよい。
【0033】
本発明の紫外線遮蔽材100は、紫外線を遮蔽し、光触媒活性も低いため、紫外線遮蔽効果を必要とする、絵画などの芸術作品保護のための保護シートに適用されてもよい。
【0034】
本発明の保護シート中の紫外線遮蔽材100の配合割合は、紫外線遮蔽効果や適用される製品に応じて任意に設定できるが、例示的には、3質量%以上50質量%以下の範囲である。
【0035】
本発明の保護シートは、本発明の紫外線遮蔽材100を含有する可撓性および伸縮性を有する樹脂からなる。可撓性および伸縮性を有する樹脂であれば、特に制限はないが、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル樹脂、ポリカプロラクトン、ポリビニルアルコール樹脂、可塑化ポリビニルアセタール樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン-アクリル共重合体樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。
【0036】
本発明の保護シートは、本発明の効果を妨げない範囲で、酸化防止剤、熱安定剤、接着力調整用の金属塩、接着力調整用のシリコンオイル、接着力調整用のシランカップリング剤、ブロッキング防止剤、顔料、染料、着色剤、光拡散剤、光拡散性粒子、耐電防止剤、可塑剤、有機溶剤、可塑剤や有機溶剤の極性を調整するための添加剤、粘着性付与剤等を含有していてもよい。
【0037】
本発明の保護シートは、本発明の紫外線遮蔽材100と上述した樹脂と必要に応じて配合される任意成分とを混合し、加熱溶解させ、付与すればよい。付与は、ドロップキャスト、スプレー、浸漬、スピンコート、スクリーン印刷、ロールツーロールなどによって行われる。
【0038】
次に、本発明の紫外線遮蔽材の製造方法について説明する。
図3は、本発明の紫外線遮蔽材を製造するフローチャートを示す図である。
【0039】
ステップS310:鉄イオンを含有する水溶液と、H型マガディアイトと、非プロトン性極性溶媒とを混合する。本願発明者は、H型マガディアイトを非プロトン性極性溶媒と接触させることにより、H型マガディアイトの酸素八員環であるチャンネル構造が拡がり、水溶液中で安定な[Fe(H2O)6]3+で表されるアコ錯体が拡がったチャンネル構造に包摂される。チャンネル構造内では、アコ錯体が凝集していてもよいし、上述した二量体を形成してもよい。これらを総称して分子性酸化鉄と呼ぶ。
【0040】
混合する方法には、互いが接触する限り制限はないが、例示的には、マグネチックスターラなどを用いて攪拌すればよい。攪拌の時間は、例示的には、6時間以上48時間以下の範囲である。
【0041】
ステップS310の混合することにおいて、好ましくは、pHを0.5以下に調整する。これにより、[FeIII(H2O)6]3+で表されるアコ錯体が、水溶液中で安定化する。さらに好ましくは、pHを0.2以下となるよう調整する。これにより、[FeIII(H2O)6]3+で表されるアコ錯体が、水溶液中でさらに安定化する。
【0042】
ステップS310において、非プロトン性極性溶媒であれば、特に制限はないが、好ましくは、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、および、ジメチルスルホキシドからなる群から選択される。これらの非プロトン性極性溶媒であれば、H型マガディアイトのチャンネル構造を効率的に拡げることができる。中でも、より好ましくはアセトニトリルである。アセトニトリルは、H型マガディアイトの層間を拡げることなく、チャンネル構造のみを拡げることができるので、分子性酸化鉄の包摂を促進し得る。
【0043】
ステップS310において、鉄イオンを含有する水溶液は、硝酸鉄、硫酸鉄およびこれらの水和物からなる群から選択される鉄化合物を用いて調製されてもよい。これらの鉄化合物を用いることにより、上述のアコ錯体が得られる。
【0044】
用いられる鉄化合物の質量は、好ましくは、H型マガディアイトの質量に対して5倍以上15倍以下の範囲を満たす。これにより、上述の所定量の鉄を含有させることができる。鉄化合物の質量は、より好ましくは、H型マガディアイトの質量に対して5倍以上15倍以下の範囲を満たす。
【0045】
ステップS310において、好ましくは、鉄イオンを含有する水溶液の体積に対して50倍以上200倍以下の範囲の体積の非プロトン性極性溶媒を混合する。鉄イオンを含有する水溶液に対して大量の非プロトン性極性溶媒を混合することにより、効率的にH型マガディアイトのチャンネル構造を拡大させ、分子性酸化鉄の導入が促進する。より好ましくは、鉄イオンを含有する水溶液の体積に対して80倍以上120倍以下の範囲の体積の非プロトン性極性溶媒を混合する。これにより、効率的にH型マガディアイトのチャンネル構造を拡大させ、分子性酸化鉄の導入がさらに促進する。
【0046】
ステップS310に先立って、H型マガディアイトを調製してもよい。Na2Si14O29・nH2O(0<n<10)で表されるNa型マガディアイトの層間のNaイオンをプロトン(H+)で置換し、チャンネル構造内に位置するNaイオンを脱離させる。
【0047】
Na型マガディアイトは、入手可能であり、水熱合成法によって製造も可能である。水熱合成法は、シリカ材料を含むアルカリ水溶液を耐熱・耐圧容器に収容し、140℃以上160℃以下の温度範囲で数日間加熱すればよい。
【0048】
このようなNa型マガディアイトを酸処理することによって、H2Si14O29・nH2O(n<0.3)で表されるH型マガディアイトが得られる。酸処理には、塩酸、硝酸等の無機酸を用いてよい。具体的には、Na型マガディアイトを酸水溶液中で攪拌すればよい。
【0049】
ステップS310に続いて、ステップS310で得られた混合液を加熱してもよい。これにより、チャンネル構造に分子性酸化鉄の導入を促進する。加熱は、好ましくは40℃以上60℃以下の温度範囲で行う。これにより、チャンネル構造に分子性酸化鉄の導入をさらに促進する。加熱時間は特に制限はないが、例示的には、6時間以上48時間以下であればよい。加熱をステップS310の混合と同時、または、混合後すぐに行ってよい。これによりプロセスを簡略化できる。
【0050】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例】
【0051】
[H型マガディアイトの調製]
粉末状のNa型マガディアイト10g(日本化学工業社製)を、1000mLの0.2M塩酸水溶液に加え3~4日室温にて攪拌後、遠心分離によって固液分離した生成物を水で5回以上洗浄し、減圧下室温にて乾燥させた。生成物をアルカリ溶融して行った元素分析(ICP)の結果(<0.01wt%)から、すべてのNaが除去されたことを確認した。また、X線回折装置(Rigaku社製、SmartLab)により得られたH型マガディアイトの基本面間隔d(001)を測定したところ、1.2nmであることが分かった。なお、d(001)は、XRDパターンにおいて、2θ=7°付近に現れるスプリットしているピークの右側より算出した。
【0052】
[例1]
例1では、
図3の方法にしたがって、紫外線遮蔽材を製造した。
鉄化合物として硝酸鉄九水和物1800mg(Fe(NO
3)
3・9H
2O、ナカライテスク株式会社製)を600μLの水に添加し、鉄イオンを含有する水溶液を得た。鉄イオン含有水溶液600μLと、調製したH型マガディアイト200mgと、非プロトン性極性溶媒としてアセトニトリル60mL(富士フイルム和光純薬株式会社製)とを混合した(
図3のステップS310)。ここで、硫酸1320μL(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いて、混合液のpHが0.2以下となるように調整した。室温で24時間攪拌した後、得られた生成物を遠心分離(回転速度3500rpm)で回収し、水で3回洗浄した後、乾燥させた。例1で得られた生成物を例1の試料と称する。
【0053】
例1の試料のX線回折パターンをX線回折装置(株式会社リガク製、Smart Lab)により測定した。例1の試料の元素分析を、ICP発光分光分析装置(エスアイアイ・クリスタルテクノロジー株式会社製、SPS3520DD)を用いて行った。ガス吸着測定装置(マイクロトラックベル社製、Belmax)により例1の試料の窒素吸着等温線を測定した。紫外・可視光分光高度計(日本分光株式会社製、V-570)により例1の試料の紫外可視(UV-vis)吸収スペクトルおよび透過スペクトル(拡散反射型)を測定した。例1の試料の光触媒活性を調べた。これらの結果を
図4~
図8に示す。
【0054】
[例2]
例2では、
図3の方法にしたがって、紫外線遮蔽材を製造した。
例2では、混合後に50℃で攪拌した以外は、例1と同様であった。得られた生成物を例2の試料と呼び、例1と同様に、X線回折パターン、ICP発光分光分析、窒素吸着等温線、UV-vis吸収スペクトル、透過スペクトルを測定し、光触媒活性を調べた。結果を
図4~
図8に示す。
【0055】
[例3]
例3では、
図3の方法にしたがって、紫外線遮蔽材を製造した。
例3では、硝酸鉄九水和物を2300mg用い、混合後に、50℃で攪拌した以外は、例1と同様であった。得られた生成物を例3の試料と呼び、例1と同様に、X線回折パターン、ICP発光分光分析、窒素吸着等温線、UV-vis吸収スペクトル、透過スペクトルを測定し、光触媒活性を調べた。
【0056】
[例4]
例4では、
図3の方法にしたがって、紫外線遮蔽材を製造した。
例4では、硝酸鉄九水和物を2800mg用い、混合後に、50℃で攪拌した以外は、例1と同様であった。得られた生成物を例4の試料と呼び、例1と同様に、X線回折パターン、ICP発光分光分析、窒素吸着等温線、UV-vis吸収スペクトル、透過スペクトルを測定し、光触媒活性を調べた。
【0057】
簡単のため、例1~例4の試料の製造条件を表1にまとめて示す。
【0058】
【0059】
図4は、例1および例2の試料のXRDパターンを示す図である。
【0060】
図4には、例1および例2の試料に加えて、原料に用いたH型マガディアイトのXRDパターンも併せて示す。例1および例2の試料のXRDパターンは、原料のH型マガディアイトのXRDパターンに実質的に一致した。このことから、例1および例2の試料は、H型マガディアイトの構造を維持していることが分かった。図示しないが、例3および例4の試料も同様のXRDパターンを示した。
【0061】
例1および例2の試料についてXRDパターンの基本面間隔d(001)を算出したところ、いずれも1.36nmとなり、原料に用いたH型マガディアイトのそれ(1.2nm)に比べて大きかった。このことは、層内に分子性酸化鉄が包摂され、層の厚さが増加したためと考える。
【0062】
ICP発光分光分析により試料中の鉄の含有量を測定したところ、例1の試料および例2の試料は、それぞれ、0.3質量%および1.3質量%の鉄を含有することが分かった。例3および例4の試料も、0.1質量%以上5質量%以下の範囲の鉄を含有した。
【0063】
図5は、例1および例2の試料の窒素吸着等温線を示す図である。
【0064】
図5には、例1および例2の試料に加えて、原料に用いたH型マガディアイトの窒素吸着等温線も併せて示す。原料のH型マガディアイトの窒素吸着等温線によれば、相対圧0付近に、層内のミクロ孔の存在を示す急激な立ち上がりを示した。一方、例1および例2の試料の窒素吸着等温線によれば、相対圧0付近の立ち上がりは小さくなり、窒素吸着量が著しく減少した。このことから、例1および例2の試料は、H型マガディアイトの層内のチャンネル構造に分子性酸化鉄を包摂したものであることを示す。図示しないが、例3および例4の試料の窒素吸着等温線も同様であった。
【0065】
図6は、例1および例2の試料のUV-vis吸収スペクトルを示す図である。
【0066】
図6には、例1および例2の試料に加えて、原料に用いたH型マガディアイトのUV-vis吸収スペクトルも併せて示す。原料のH型マガディアイトは、吸収ピークを示さなかった。一方、例1の試料は、波長270nm付近に明瞭な吸収ピークを示した。また、例2の試料は、波長270nmおよび330nm付近に明瞭な吸収ピークを示した。波長270nmおよび330nm付近の吸収ピークは、それぞれ、
図2に示したアコ錯体またはその凝集体、および、[(H
2O)
4Fe
III(OH)
2Fe
III(H
2O)
4]
4+で表されるヒドロキソ架橋化学種、[(H
2O)
5Fe
III(O)Fe
III(H
2O)
5]
4+で表されるオキソ架橋化学種等の二量体に基づく。
【0067】
このことから、例1の試料は、H型マガディアイトの層内のチャンネル構造にアコ錯体(またはその凝集体)を包摂したものであり、例2の試料は、H型マガディアイトの層内のチャンネル構造にアコ錯体(またはその凝集体)、および、二量体である分子性酸化鉄を包摂したされたものであることが示された。図示しないが、例3および例4の試料のUV-vis吸収スペクトルも、例2のそれと同様であった。
【0068】
図7は、例1および例2の試料の透過スペクトルを示す図である。
【0069】
図7には、例1および例2の試料に加えて、原料に用いたH型マガディアイトおよびTiO
2ルチル(触媒学会参照試料TIO-3)の透過スペクトルも併せて示す。原料のH型マガディアイトは、250nm~800nmの波長の光を透過したが、例1および例2の試料は、紫外線遮蔽材であるTiO
2ルチルと同様に、400nm以下の波長の光を遮蔽することが分かった。図示しないが、例3および例4の試料の透過スペクトルも同様であった。このことから、例1~例4の試料は、紫外線遮蔽材として機能することが示された。特に、本発明の紫外線遮蔽材は、UV-A領域の光(315nm以上400nm以下の波長の光)を効率的に遮蔽するため、化粧料や保護シートに利用できることが分かった。
【0070】
図8は、例1および例2の試料の光触媒活性を示す図である。
【0071】
光触媒活性は、疑似太陽光(波長300nm以上、照射強度1000W/m
2)照射下による酢酸(水中)分解を行い、生成した二酸化炭素量を測定することにより評価した。
図8には、例1および例2の試料に加えて、TiO
2ルチル(触媒学会参照試料TIO-3)および基準光触媒であるTiO
2アナターゼとルチルとの混合体(日本アエロジル製、P25)の光触媒活性の結果も併せて示す。
【0072】
例1および例2の試料は、紫外線遮蔽材であるTiO2ルチルよりも光触媒活性が低いことが分かった。さらに、例1および例2の試料の二酸化炭素量と照射時間との関係が線形であることから、光触媒試験中の環境においても、分子性酸化鉄は層内から層外へと脱離することなく、安定であることが分かった。図示しないが、例3および例4の光触媒活性も同様の傾向を示した。このことから、本発明の紫外線遮蔽材は、光触媒活性が低く、紫外線遮蔽効果は使用環境に関わらず安定に発揮できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の紫外線遮蔽材は、日焼け止め、下地クリーム、化粧水、ファンデーション等の各種化粧料や美術品等の保護シートに適用される。
【符号の説明】
【0074】
100 紫外線遮蔽材
110 分子性酸化鉄
120a、120b 層
130 チャンネル