(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】バイアス反転を備えた高感度磁気センサ、及びこれを用いた非破壊検査装置
(51)【国際特許分類】
G01R 33/02 20060101AFI20240821BHJP
G01N 27/90 20210101ALI20240821BHJP
【FI】
G01R33/02 D
G01N27/90
(21)【出願番号】P 2020173413
(22)【出願日】2020-10-14
【審査請求日】2023-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】何 東風
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-133397(JP,A)
【文献】特開2001-33533(JP,A)
【文献】特開2020-159738(JP,A)
【文献】特開2020-197479(JP,A)
【文献】HE, Dongfeng,“A Feedback Method to Improve the Dynamic Range and the Linearity of Magnetoimpedance Magnetic Sensor”,Journal of Sensors,2019年12月12日,Volume 2019,https://doi.org/10.1155/2019/2413408
【文献】HE, D.F.; SHIWA, M.,“High Sensitive Magnetic Sensor with Amorphous Wire”,2015 9th International Conference on Sensing Technology (ICST),2015年12月08日,pp. 543-545,DOI: 10.1109/ICSensT.2015.7438457
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/00-33/26
G01N 27/72-27/9093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
零磁歪となる軟磁性合金のアモルファスからなる感磁ワイヤと、
この感磁ワイヤの周囲に絶縁物を介して巻回された検出コイルと、
この検出コイルに駆動用周波数帯域の交流電流又はパルス電流を供給する高周波(f1)発生回路と、
この検出コイルに、前記交流電流又はパルス電流の振幅電圧の1/2以上の低周波方形波電流を供給する低周波方形波発生器と、
この検出コイルからの出力信号から高周波成分の復調をする第1の復調回路と、
前記低周波方形波発生器から送られる低周波方形波と、前記第1の復調回路からの出力信号を入力して、前記低周波
方形波の低周波成分の復調をする第2の復調回路と、
前記第2の復調回路からの出力信号を入力するローパスフィルタ回路と、
を備える磁気インピーダンスセンサ。
【請求項2】
前記高周波(f1)発生回路は、コンデンサ(C1)を介して前記検出コイルの接地されていない側の端子に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気インピーダンスセンサ。
【請求項3】
前記低周波方形波発生器から送られる低周波方形波の周波数は10Hz以上前記高周波(f1)発生回路の発生する前記駆動用周波数帯域の1/10以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気インピーダンスセンサ。
【請求項4】
前記ローパスフィルタ回路の出力信号を積分して、前記検出コイルからの出力信号端子に帰還する積分器と、
前記積分器の出力端子と前記検出コイルからの出力信号端子との間に設けられたフィードバック抵抗器と、
を更に有する請求項1乃至3の何れか1項に記載の磁気インピーダンスセンサ。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の磁気インピーダンスセンサと、
前記感磁ワイヤの周囲に絶縁物を介して巻回された励磁コイルと、
前記励磁コイルに欠陥検出用の渦電流発生信号(ω)を供給する渦電流用信号供給回路と、
共振回路で出力された前記渦電流発生信号に相当する周波数成分を抽出する渦電流抽出回路と、
前記渦電流抽出回路で抽出した前記渦電流
発生信号に相当する周波数成分に相当する欠陥深さに応じた被測定対象物の欠陥位置を算出する演算処理装置と、
を備え、前記磁気インピーダンスセンサの測定端となる前記感磁ワイヤを前記被測定対象物に対峙させると共に、前記被測定対象物は非磁性且つ導電性の物質であることを特徴とする非破壊検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイアス反転を備えた高感度磁気センサ、及びこれを用いた非破壊検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1、2では、アモルファスを使用した高感度磁気センサについて説明されている。これらの高感度磁気センサは通常、DC電流13を検出コイル3に接続することにより、静的DC磁場によってバイアスされている。
【0003】
図12は、従来におけるDCバイアス磁場を備えた磁気センサの概略図を示している。
高感度磁気インピーダンス(MI)センサ素子1は、軟磁性合金よりなる感磁ワイヤとしてのアモルファスワイヤ2と、その感磁ワイヤ2の周囲に設けられた検出コイル3とを含む。高周波交流電流が電気的接続によってMI素子1に印加される。検出コイル3に発生する電圧は、外部磁界に対応するもので、磁気センサとして作用する。高周波交流電流は、0.3~1.0GHzの範囲の周波数を有する。高感度磁気インピーダンスセンサ1には、零磁歪となる軟磁性合金のアモルファスからなる感磁ワイヤ2が用いられており、例えば(Fe
xCo
1-x)
80(SiB)
20、x=0.06を組成元素とするアモルファスワイヤが用いられる(非特許文献1参照)。ここで、アモルファスワイヤ2は、例えば長さを5mm、直径を100μmとする。なお、アモルファスワイヤ2の形状はこれに限定されるものではない。検出コイル3は、例えば直径0.1mmの銅線とし、巻数を40ターンとする。また、検出コイル3の形状・材料もこれに限定されるものではない。
【0004】
高周波(f1)電流源5は、コンデンサC1を介してコイル3の他端に接続されているもので、検出用周波数帯域の信号(例えば100kHz~10MHz)を出力している。直流電流源13は、インダクタL1を介してコイル3の他端に接続されている。
プリアンプ回路8は、検出コイル3の接地されていない側の端子と、コンデンサC1とインダクタL1の結合点の信号を増幅する。高周波(f1)復調器9は、プリアンプ回路8でインピーダンス変換された信号を入力して、高周波(f1)を復調する。アンプ回路11は、高周波(f1)復調器9の出力する高周波(f1)復調信号を増幅する。
【0005】
このように構成された装置おいて、高周波(f1)電流源5から供給される高周波f1の正弦波電流に、直流電流源13から供給されるDC電流を重畳することで、高周波f1の正弦波電流5aがバイアスされている。この種の磁気センサにおいては、広い温度範囲で動作すると、長時間のドリフトが大きく、出力の変化が大きいことという課題がある。
図13は、
図12に示す装置の磁気センサの出力ドリフトを示している。ドリフトは約2500秒(約42分)の時間で約0.7mVである。
図14は、
図12に示す装置で、動作温度が77K(液体窒素温度)から300K(室温)に変化したときの磁気センサの出力信号の変化を示している。変化は約350mVである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-133397号公報
【文献】特開平6-294850号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】磁気センサ理工学(増補)、毛利佳年雄、コロナ社(2015)、第13頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、例えば特許文献1、2に開示されている、DCバイアスを使用する通常の磁気センサの駆動回路の場合、長時間のドリフトと環境温度の影響が大きくなるという課題がある。
本発明は、このような課題を解決するもので、ドリフトが少なく、広い温度範囲で使用できるバイアス反転技術を用いた磁気センサを提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]本発明の磁気インピーダンスセンサは、例えば
図1に示すように、零磁歪となる軟磁性合金のアモルファスからなる感磁ワイヤ(2)と、この感磁ワイヤの周囲に絶縁物を介して巻回された検出コイル(3)と、この検出コイルに駆動用周波数帯域の交流電流又はパルス電流を供給する高周波(f1)発生回路(5)と、この検出コイルに、前記交流電流又はパルス電流の振幅電圧の1/2以上の低周波方形波電流を供給する低周波(f2)方形波発生器(7)と、この検出コイルからの出力信号から高周波(f1)成分の復調をする第1の復調回路(9)と、前記低周波(f2)方形波発生器(7)から送られる低周波(f2)方形波と、前記第1の復調回路からの出力信号を入力して、低周波(f2)成分の復調をする第2の復調回路(10)と、前記第2の復調回路からの出力信号を入力するローパスフィルタ回路(12)と、を備える。
【0010】
[2]本発明の磁気インピーダンスセンサにおいて、好ましくは、前記高周波(f1)発生回路は、コンデンサ(C1)を介して前記検出コイルの接地されていない側の端子に接続されているとよい。
[3]本発明の磁気インピーダンスセンサにおいて、好ましくは、低周波方形波発生器から送られる低周波方形波の周波数は10Hz以上前記高周波(f1)発生回路の発生する前記駆動用周波数帯域の1/10以下であるとよい。
[4]本発明の磁気インピーダンスセンサは、例えば
図6に示すように、[1]乃至[3]の何れかに記載の磁気インピーダンスセンサ14と、ローパスフィルタ回路12の出力信号を積分して、検出コイル(3)からの出力信号端子に帰還する積分器(14)と、積分器(14)の出力端子と検出コイル(3)からの出力信号端子との間に設けられたフィードバック抵抗器(FB)とを有するものである。
【0011】
[5]本発明の非破壊検査装置は、例えば
図8に示すように、[1]乃至[3]の何れかに記載の磁気インピーダンスセンサ20と、感磁ワイヤ(2)の周囲に絶縁物を介して巻回された励磁コイル22と、励磁コイル22に欠陥検出用の渦電流発生信号(ω)を供給する渦電流用信号供給回路25と、共振回路(8)で出力された前記渦電流発生信号に相当する周波数成分を抽出する渦電流抽出回路30と、渦電流抽出回路30で抽出した前記渦電流周波数成分に相当する欠陥深さに応じた被測定対象物の欠陥位置を算出する演算処理装置40とを備え、磁気インピーダンスセンサ20の測定端となる感磁ワイヤ(2)を被測定対象物24に対峙させると共に、被測定対象物24は非磁性且つ導電性の物質であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のバイアス反転技術を使用した磁気センサの場合、静的DCバイアス電流の代わりに、+IBと-IBの間で切り替えられる方形波電流を使用して、アモルファスワイヤで磁気センサにバイアスをかけているので、磁気センサの温度の影響と長時間のドリフトが大幅に減少する。この磁気センサは、広い温度範囲での動作や長時間の磁場測定に適している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施例を示す、アモルファスワイヤを用いた磁気センサのバイアス反転技術の概略図である。
【
図2】
図1に示す装置の磁気センサの波形の一例を示す図で、(a)は印加磁場△B=0の場合、(b)は印加磁場△B≠0の場合を示している。
【
図3】
図1に示す装置の磁気センサの波形の一例を示す図で、(a)ではI
Bに変更はなく、(b)ではI
BがI
B+△Iに増加し、(c)ではI
BがI
B-△Iに減少する。
【
図4】本発明の一実施例を示す、バイアス反転がある場合とない場合の磁気センサの出力の長時間のドリフトを示す図である。
【
図5】本発明の一実施例を示す、バイアス反転がある場合とない場合の磁気センサの出力信号を示す図で、破線はバイアス反転なし、実線はバイアス反転ありを示している。
【
図6】本発明の他の実施例を示す、バイアス反転とフィードバックを備えた磁気センサの概略図である。
【
図7】バイアス反転とフィードバックを伴う磁気センサの磁気応答を示す図である。
【
図8】本発明の一実施例を示すMI磁気センサを用いた多周波渦電流試験システムの構成図である。
【
図9】
図8の装置の動作を説明するフローチャート図である。
【
図10】
図8に示す装置のコンピュータを、汎用のコンピュータの構成に準拠して構成する場合の機能ブロック図である。
【
図11】
図10に示す機能ブロックを有するコンピュータのためのソフトウェアの機能ブロック図である。
【
図12】従来の高周波正弦波電流と直流電流でバイアスされた通常の磁気センサの概略図である。
【
図13】
図12に示す装置のDCバイアスを使用した磁気センサの出力信号ドリフトを示す図である。
【
図14】
図12に示す装置で、作温度が77Kから300Kに変化したときの磁気センサの出力信号の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を用いて本発明を説明する。バイアス反転技術は、長時間のドリフトと温度の影響を減らすのに好適である。
図1は、本発明の一実施例を示す、アモルファスワイヤを用いた磁気センサのバイアス反転回路の機能ブロック図である。なお、
図1において、前出の
図12の構成要素と同一のものには同一符号を付して、説明を省略する。
【0015】
本発明の磁気インピーダンスセンサは、感磁ワイヤ2、検出コイル3、コンデンサC1(4)、高周波(f1)発生回路5、インダクタL1(6)、低周波(f2)方形波発生器7、プリアンプ8、第1の復調回路9、第2の復調回路10、アンプ11、ローパスフィルタ回路12を備えている。
磁気インピーダンスセンサ(MI)素子1は、感磁ワイヤ2と検出コイル3を組み合わせた外部磁場の検出部を有している。感磁ワイヤ2は、零磁歪となる軟磁性合金のアモルファスからなるもので、例えばFeCoSiBアモルファスワイヤ2が用いられる。検出コイル3は、感磁ワイヤ2の周囲に絶縁物を介して巻回されているもので、一端は接地されており、他端はプリアンプ8に接続されていると共に、コンデンサC1を介して高周波(f1)発生回路5と接続され、インダクタL1を介して低周波(f2)方形波発生器7と接続されている。
【0016】
高周波(f1)発生回路5は、検出コイル3に駆動用周波数帯域の交流電流又はパルス電流を供給するもので、周波数f1は、例えば約100kHz~1MHzの範囲にある。高周波(f1)発生回路5は、コンデンサC1を介して検出コイル3の接地されていない側の端子に接続されている。
低周波(f2)方形波発生器7は、検出コイル3に、交流電流又はパルス電流の振幅電圧の1/2以上の低周波方形波電流を供給するもので、周波数f2は約10Hz~1kHzの範囲にある。低周波方形波発生器7から送られる低周波方形波f2の周波数は10Hz以上で、高周波(f1)発生回路5の発生する駆動用周波数帯域の1/10以下であるとよい。
【0017】
プリアンプ8は、入力端子が検出コイル3の接地されていない側の端子と接続されている。第1の復調回路9は、プリアンプ8の出力端子が接続されており、検出コイル3からの出力信号から高周波(f1)成分の復調をする。第2の復調回路10は、低周波(f2)方形波発生器7から送られる低周波(f2)方形波と、第1の復調回路9からの出力信号を入力して、低周波(f2)成分の復調をする。アンプ11は、第2の復調回路10の出力端子からの信号を入力し、増幅してローパスフィルタ回路12に出力する。ローパスフィルタ回路12は、第2の復調回路10からの出力信号を入力して、低周波(f2)成分の成分も平滑化するように時定数が定められている。
【0018】
このように構成された装置の動作を次に説明する。
図において、検出コイル3をFeCoSiBアモルファスワイヤ2に巻き付ける。高周波(f1)発生回路5の高周波正弦波電流と、低周波(f2)方形波発生器7の出力する低周波方形波電流を使用して、磁気インピーダンスセンサ(MI)素子1の検出コイル3にバイアス電圧を印加している。
この実施例では、高周波(f1)発生回路5が出力する高周波正弦波電流のf1は1MHz、低周波(f2)方形波発生器7の出力する低周波方形波電流のf2は355Hzとなっている。
高周波(f1)復調器9および低周波(f2)復調器10の後段では、出力信号は測定された磁場に対応する。
【0019】
図2は、
図1に示す装置の磁気センサの波形を示すもので、(a)が外部印加磁界△B=0、(b)が外部印加磁界△B≠0の場合を示している。
図において、I
Bはf2低周波方形波バイアス電流、V1はプリアンプ8の出力電圧である。V1の振幅は外部印加磁場△Bによって変化する。V2は高周波(f1)復調器9の出力電圧である。V1の振幅電圧を取得するためにダイオード復調方法が使用されている。V3は、低周波(f2)復調器10の出力電圧である。高周波正弦波電圧V2と方形波I
Bを乗算する乗算器を使用して、f2低周波復調を実行する。Voutは、低周波信号V3を取得するためのローパスフィルタ12の出力電圧である。
【0020】
図3にバイアス電流による磁気センサの変化の波形を示している。f2低周波方形波のバイアス電流が増加(
図3(b))または減少(
図3(c))すると、プリアンプ8の出力信号であるV1の振幅が増減し、高周波(f1)復調器9の後段の信号レベルV2が減少または増加する。ただし、この信号レベルは、低周波(f2)復調器10の後段のV3方形波の振幅にのみ影響するため、ローパスフィルタ12の後段の信号Voutは変化しない。
【0021】
図2と
図3から、印加された外部磁場△Bのみが出力信号Voutの変化を引き起こすことが分かる。バイアス電流△Iの変化は出力信号Voutに影響を与えない。これが、バイアス反転技術が、バイアス電流の変化によって引き起こされるノイズを低減できる理由である。
【0022】
次に、バイアス反転技術を使用した場合と使用しない場合の磁気センサの長時間ドリフトを測定する。環境ノイズの影響を低減するために、磁気センサは3層のパーマロイシールドボックスに配置されている。測定時間は2500秒(約42分)である。
図4は、本発明の一実施例を示す、バイアス反転がある場合とない場合の磁気センサの出力の長時間のドリフト電圧を示す図である。バイアス反転なしの磁気センサのドリフト電圧は約0.7mVである。バイアス反転により、磁気センサのドリフト電圧は0.05mV未満に減少する。
【0023】
図5は、動作温度が77K(液体窒素温度)から300K(室温)に変化したときのバイアス反転がある場合とない場合の磁気センサの出力信号を示すもので、破線はバイアス反転なし、実線はバイアス反転ありを示している。
変化はバイアス反転なしで約350mVであり、バイアス反転ありで20mV未満に減少する。バイアス反転技術は、長時間のドリフトや温度変化の影響を低減するのに効果的である。この磁気センサは、広い温度範囲で使用できる。本発明者は、この磁気センサが液体ヘリウム温度(4.2K)、液体窒素温度(77K)、室温で動作することを証明した。
【0024】
以上説明したように、本発明者は、アモルファスワイヤを使用した磁気センサ用にバイアス反転回路を用いた磁気センサを発明した。本発明のバイアス反転技術を使用した磁気センサの場合、静的DCバイアス電流の代わりに、バイアス反転電圧+IBと-IBの間で切り替えられる方形波電流を使用して、アモルファスワイヤで磁気センサにバイアスをかけている。
このような構成によれば、本発明のバイアス反転技術を使用した磁気センサの場合、長時間のドリフトと温度の影響が、従来回路と比較して約10分の1に減少する。この磁気センサは、広い温度範囲で使用できる。
【0025】
図6は、本発明の他の実施例を示す、バイアス反転とフィードバックを備えた磁気センサの概略図である。
図1に示す磁気センサ回路に、積分器14およびフィードバック抵抗器RFが追加される。
積分器14は、ローパスフィルタ回路12の出力信号を積分して、検出コイル3からの出力信号端子に帰還するもので、積分の時定数は積分器の入力端子に接続された入力抵抗と、出力端子と入力端子との間に接続されたコンデンサとより定められる。フィードバック抵抗器FBは、積分器14の出力端子と検出コイル3からの出力信号端子との間に設けられている。
この実施例の磁気センサは、低周波数での低ノイズ、広いダイナミックレンジ、および高い直線性を備えている。
【0026】
図7は、
図6に示す磁気センサ回路のような、バイアス反転とフィードバックを伴う磁気センサの磁気応答を示す図である。ダイナミックレンジは約40ガウスと広帯域である。
【0027】
次に、本発明者は、本発明の高感度MI磁気センサを用いて、非破壊検査装置を開発した。
図8は、MI磁気センサを備えた非破壊検査装置の一類型としての、多周波数の渦電流試験非破壊評価システムのブロック図を示す。MI磁気センサ20は、試料24に誘導された渦電流によって生成された磁界を測定するために使用される。励磁コイル22は、MI磁気センサ20の主要部をなす、零磁歪となる軟磁性合金のアモルファスからなる感磁ワイヤに巻装される。試料24は、例えば非磁性且つ導電性の金属物質が好ましく、例えばチタン合金が用いられる。多周波数の信号発生器25は、渦電流用信号供給回路25として作用するもので、例えば100Hzから100kHzまでの多周波信号を生成するために使用され、当該多周波信号は多周波励起磁場を生成するために励磁コイル22に送信される。
【0028】
駆動回路30は、例えは
図1、6に示すような電子回路を有するもので、
図1、6に示す高周波(f1)発生回路5と低周波(f2)方形波発生器7により、MI磁気センサ20に駆動信号を供給すると共に、渦電流抽出回路30としての機能も兼ねている。駆動回路30は、MI磁気センサ20の測定した試料24に関する磁界測定信号を増幅する機能を備えるもので、AD変換器35を介して、磁界測定信号をコンピュータ40に送る。
コンピュータ40は、FFT(高速フーリエ変換)変換プログラムを搭載して周波数分析を行うと共に、X-Yステージ制御装置45に対して、試料24に対向するMI磁気センサ20の測定位置命令信号を送る。FFT変換プログラムは、迅速に測定を行うために、ロックインアンプの代わりに、コンピュータ40で多周波数信号の振幅信号を得るために使用される。
X-Yステージ50は、X-Yステージ制御装置45からの測定位置命令信号に従い、試料24のX-Y平面内の位置を動かす。
【0029】
このように構成された非破壊検査装置の動作を説明する。
図9は、
図8の非破壊検査装置の動作を説明するフローチャート図である。まず、MIセンサ測定位置出力ステップでは、X-Yステージ制御装置45に対して、試料24に対向するMI磁気センサ20の測定位置命令を送る(S505)。測定位置命令はセンサ位置データとして、コンピュータ40に記憶される。すると、X-Yステージ50により、試料24のX-Y平面内での位置を動かして、MI磁気センサ20に測定する試料24の位置を調整する。これによって、MI磁気センサ20により磁界測定信号の得られる試料24の任意の場所が指定できる。
【0030】
測定制御ステップでは、多周波数の信号発生器25から、励磁コイル22に対して、多周波信号の出力を命令する(S510)。多周波励起磁場を生成するために送信される発生信号データは、コンピュータ40に記憶される。
MIセンサ測定値読込ステップでは、試料24に誘導された渦電流によって生成された磁界をMI磁気センサ20で測定し、駆動回路30とAD変換器35を介してMIセンサ測定値として読込む(S520)。
【0031】
厚み方向測定値演算ステップでは、MIセンサ測定値の周波数解析結果から、試料の厚み方向の測定値を演算する(S525)。入力されたMI磁気センサ20の磁界測定信号に対して、FFT周波数解析を行うことで、試料24の欠陥の深さ情報が得られる。
測定値プロフィール測定ステップでは、MI磁気センサ20の測定位置命令により、試料24のX-Y面内平面の磁場検出信号測定を繰り返すことで、測定値プロフィールを測定する(S530)。
【0032】
欠陥分布プロフィール解析ステップでは、試料24のX-Y面内平面の磁場検出信号測定により、当該試料の欠陥の三次元的な分布を演算する(S535)。コンピュータ40では、測定値プロフィールや欠陥分布プロフィールの測定結果をディスプレイ装置にグラフ表示してもよい。
このようにして、本発明の非破壊検査装置では、MI磁気センサ20の磁界測定信号を用いて、試料10の三次元的な欠陥分布プロフィールを詳細に測定し、その空間分布を調べることで、試料10を評価することができる。
【0033】
図10は、本開示によるMI磁気センサを用いて構成された試料の欠陥の三次元的な分布を演算するための、例示的なコンピューティング装置600を示すブロック図である。
図8のコンピュータ40は、コンピューティング装置600の全部または一部を使用して実施することができる。
非常に基本的な構成601では、コンピューティング装置600は通常、1つまたは複数のプロセッサ610とシステムメモリ620とを含む。メモリバス630は、プロセッサ610とシステムメモリ620との間の通信に使用され得る。
【0034】
所望の構成に応じて、プロセッサ610は、マイクロプロセッサ(μP)、マイクロコントローラ(μC)、デジタル信号プロセッサ(DSP)、またはそれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない任意のタイプのものであり得る。プロセッサ610は、レベル1キャッシュ611およびレベル2キャッシュ612などのもう1つのレベルのキャッシング、プロセッサコア613、およびレジスタ614を含むことができる。例示的なプロセッサコア613は、算術論理演算装置(ALU)、浮動小数点ユニット(FPU)、デジタル信号処理コア(DSPコア)、またはそれらの任意の組み合わせなどを含むことができる。例示的なメモリ制御部615もプロセッサ610と共に使用することができ、またはいくつかの実装形態では、メモリ制御部615はプロセッサ610の内部部分とすることができる。
【0035】
所望の構成に応じて、システムメモリ620は、揮発性メモリ(RAMなど)、不揮発性メモリ(ROM、フラッシュメモリなど)、またはそれらの任意の組み合わせを含むが、これらに限定されない任意のタイプのものとすることができる。システムメモリ620は、オペレーティングシステム621、1つまたは複数のアプリケーション622、およびプログラムデータ632を含み得る。アプリケーション622は、上述の例に従ってFFT周波数解析を演算するように構成されたMIセンサ測定値解析623、MIセンサ測定位置解析624、測定値プロフィール解析625、欠陥分布プロフィール解析626を含み得る。
プログラムデータ632は、発生信号データ633、MIセンサ測定データ634、センサ位置データ635、コンピューティング装置600によって計算された測定値プロフィール626、欠陥分布プロフィール627を含み得る。
【0036】
コンピューティング装置600は、追加の特徴または機能性、および基本構成601と任意の必要な装置およびインターフェースとの間の通信を容易にするための追加のインターフェースを有することができる。例えば、バス/インターフェース制御部640を使用して、ストレージインターフェースバス641を介した基本構成601と1つまたは複数のデータ記憶装置650との間の通信を容易にすることができる。データ記憶装置650は、取り外し可能な記憶装置651、取り外しができない記憶装置652、またはそれらの組み合わせである。取り外し可能な記憶装置および取り外しができない記憶装置の例には、フレキシブルディスクドライブ(FDD)およびハードディスクドライブ(HDD)などの磁気ディスク装置、コンパクトディスク(CD)ドライブまたはデジタル多用途ディスク(DVD)ドライブなどの光ディスクドライブ、ソリッドステートドライブ(SSD)、テープドライブが含まれる。例示的なコンピュータ記憶媒体は、コンピュータ可読命令、データ構造、プログラムモジュール、または他のデータなどの情報を記憶するための任意の方法または技術で実施される揮発性および不揮発性、取り外し可能および固定の媒体を含み得る。
【0037】
システムメモリ620、取外し可能記憶装置651、および固定記憶装置652はすべてコンピュータ記憶媒体の例である。コンピュータ記憶媒体は、RAM、ROM、EEPROM、フラッシュメモリまたは他のメモリ技術、CDROM、デジタル多用途ディスク(DVD)または他の光学記憶装置、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスク記憶装置または他の磁気記憶装置を含むがこれらに限定されない。所望の情報を格納するために使用され得、かつコンピューティング装置600によってアクセスされ得る任意のそのようなコンピュータ記憶媒体は、デバイス600の一部であり得る。
【0038】
また、コンピューティング装置600はバス/インターフェース制御部640を介して様々なインターフェース装置(例えば、出力インターフェース、周辺インターフェース、および通信インターフェース)から基本構成601への通信を容易にするためのインターフェースバス642を含むことができる。
出力デバイス660では、画像処理ユニット661および音声処理ユニット662が、1つまたは複数のAVポート663を介して表示装置692またはスピーカなどの様々な外部装置と通信するように構成され得る。
【0039】
例示的な周辺インターフェース670は、入力装置(例えば、キーボード、マウス、ペン、音声入力装置、タッチ入力装置など)のような外部装置と通信するように構成され得るシリアルインターフェース制御部671またはパラレルインターフェース制御部672を含む。周辺インターフェース670は、I/Oポート673を介してMIセンサ駆動回路692、多重周波数信号発生器694、及びX-Yステージ制御部696と通信するように構成され得る。
例示的な通信装置680は、ネットワーク制御部681を含み、ネットワーク制御部681は、1つまたは複数の通信ポート682を介したネットワーク通信リンクを介して、1つまたは複数の他のコンピューティング装置690との通信を容易にするように構成されてもよい。
【0040】
ネットワーク通信リンクは、通信媒体の一例であり得る。 通信媒体は、通常、コンピュータ可読命令、データ構造、プログラムモジュール、または搬送波もしくは他の搬送機構などの変調データ信号内の他のデータによって具現化することができ、任意の情報配信媒体を含むことができる。「変調データ信号」は、信号内に情報を符号化するような方法で設定または変更されたその特性のうちの1つまたは複数を有する信号であり得る。限定ではなく例として、通信媒体は、有線ネットワークまたは直接配線接続などの有線媒体、ならびに音響、無線周波数(RF)、マイクロ波、赤外線(IR)および他の無線媒体などの無線媒体を含み得る。本明細書で使用されるコンピュータ可読媒体という用語は、記憶媒体と通信媒体の両方を含み得る。
【0041】
コンピューティング装置600は、携帯電話、パーソナルデータアシスタント(PDA)、パーソナルメディアプレーヤデバイス、ワイヤレスウェブウォッチデバイス、パーソナルコンピュータなどのスモールフォームファクタポータブル(またはモバイル)電子デバイス、上記の機能のいずれかを含むヘッドセットデバイス、特定用途向けデバイス、またはハイブリッドデバイスの一部として実装され得る。コンピューティング装置600はまた、ラップトップコンピュータ構成および非ラップトップコンピュータ構成の両方を含むパーソナルコンピュータとして実装され得る。
【0042】
図11は、本開示による、MIセンサの磁界測定信号に基づいて試料の三次元的な測定値プロフィールを格納するように構成された例示的なコンピュータプログラム製品700を示すブロック図である。プログラム担持媒体702は、コンピュータ読取可能媒体706、記録可能媒体708、通信媒体709、またはそれらの組み合わせとして実装することができるもので、処理ユニットのすべてまたは一部の処理を実行するように構成することができるプログラム命令格納部704を有する。
プログラム命令格納部704に格納されたプログラム命令は、例えば、AD変換器35を介して入力した、MI磁気センサ20の測定した試料24に関する磁界測定信号に対して、FFT(高速フーリエ変換)変換プログラムにより周波数分析を行うMIセンサ測定値解析部710、X-Yステージ制御装置45に対して、試料24に対向するMI磁気センサ20の測定位置命令を送るMIセンサ測定位置解析部720を含む。また、MIセンサ測定値解析部で解析したMI磁気センサ20の磁界測定信号と、MIセンサ測定位置解析部の測定位置命令から、試料における磁界測定信号の三次元的な分布状態を求める測定値プロフィール解析部725、測定値プロフィール解析部の試料における磁界測定信号の三次元的な分布状態から、試料における欠陥の三次元的な分布を演算する欠陥分布プロフィール解析部730を含む。
【0043】
なお、本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、当業者において自明な技術的事項も含まれるものである。例えば、本発明の非破壊検査装置において、被測定対象物の電気抵抗率(ρ)と透磁率(μ)及び前記渦電流発生信号の角周波数(ω)から定まる表皮深さ{δ=√(2ρ/ωμ)}を用いると、欠陥深さを算出できる。また、本発明の非破壊検査装置において、X-Yステージを更に設けると、試料の三次元的な測定プロフィールや欠陥プロフィールが得られる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のバイアス反転技術を使用した磁気センサは、液体ヘリウム温度(4.2K)、液体窒素温度(77K)から室温付近まで、広い温度範囲で使用できる。
本発明の非破壊検査装置は、非磁性且つ導電性の物質である被測定対象物の欠陥検査に適用できる。
【符号の説明】
【0045】
1:磁気インピーダンスセンサ(MI)素子
2:アモルファスワイヤ(感磁ワイヤ)
3:コイル
4:コンデンサC1
5:高周波(f1)発生回路
6:インダクタL1
7:低周波(f2)方形波発生器
8:プリアンプ
9:高周波(f1)復調器
10:低周波(f2)復調器
11:アンプ
12:ローパスフィルタ回路
13:直流電流源
14:積分器
20:MI磁気センサ(磁気インピーダンスセンサ)
22:励磁コイル
24:サンプル(試料)
25:多周波数の信号発生器(渦電流用信号供給回路)
30:駆動回路(渦電流抽出回路)
40:PC(コンピュータ)