(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】電気集塵機
(51)【国際特許分類】
B03C 3/40 20060101AFI20240821BHJP
B03C 3/41 20060101ALI20240821BHJP
B03C 3/47 20060101ALI20240821BHJP
B03C 3/64 20060101ALI20240821BHJP
H01T 19/04 20060101ALI20240821BHJP
H01T 23/00 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
B03C3/40 A
B03C3/41 B
B03C3/47
B03C3/64 Z
H01T19/04
H01T23/00
(21)【出願番号】P 2021567106
(86)(22)【出願日】2020-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2020044523
(87)【国際公開番号】W WO2021131519
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2019239850
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591012266
【氏名又は名称】株式会社クリエイティブテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100140693
【氏名又は名称】木宮 直樹
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 喬彬
【審査官】葛原 怜士郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0000627(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0203305(US,A1)
【文献】国際公開第2016/068702(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B03C 3/40
B03C 3/41
B03C 3/47
B03C 3/64
H01T 19/04
H01T 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンを発生させるためのイオン化部と、
イオンが付着した塵を電気的に集塵するための集塵部と
、を備える電気集塵機であって、
上記イオン化部は、所定の電圧を電極針に印加してコロナ放電させることにより、印加電圧の極性と同極性のイオンを発生させるイオナイザであり、
上記集塵部は、
上記イオン化部の後段に配設され、上記イオンが付着した塵を通過させるための複数の間隙を有し且つ所定の電圧が印加される高電圧電極と、
この高電圧電極の後段に配設され且つ高電圧電極に印加される電圧の極性と逆極性の電圧が印加されて、上記イオンが付着した塵を電気的に吸着する集塵板と
、を備え、
上記イオン化部の電極針に印加する電圧の極性と上記高電圧電極に印加する電圧の極性とを同極性に設定し、
上記集塵部の高電圧電極を、所定間隔で平行に並べられ且つそれぞれが絶縁体で被覆された複数の線状導体で形成し、
上記集塵部の集塵板を、絶縁性の樹脂フィルムで被覆された平板状の導体で形成した、
ことを特徴とする電気集塵機。
【請求項2】
請求項1に記載の電気集塵機において、
上記樹脂フィルムの体積抵抗率を、10
10Ω
・cm~10
13Ω
・cmの範囲内に設定すると共に、その厚さを、ほぼ0.1mmに設定し、
上記イオン化部から集塵部の集塵板までの距離を、100mm以下に設定した、
ことを特徴とする電気集塵機。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電気集塵機において、
上記高電圧電極を形成する複数の線状導体の間隔を、40mm~100mmの範囲内に設定し、
上記複数の線状導体で形成された高電圧電極と上記集塵板との距離を、10mm~80mmの範囲内に設定し、
上記イオン化部の電極針から集塵部の集塵板までの距離を、30mm~100mmの範囲内に設定した、
ことを特徴とする電気集塵機。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の電気集塵機において、
上記イオナイザは、直流電圧を印加することでイオンを発生する直流イオナイザであり、
上記高電圧電極と集塵板に印加する電圧はそれぞれ逆極性の直流電圧である、
ことを特徴とする電気集塵機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気中の塵埃を電界を利用して集塵する電気集塵機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製造現場では、一部の工程のみを対象とした集塵、つまり、局所的に空気中の塵を集塵する機器の出現が望まれている。
一般に、空気中の塵を取る技術的手段としては、フィルターを使用した空気清浄機や電界を利用した電気集塵機がある。
そして、電気集塵機には、1段型の電気集塵機と2段型の電気集塵機とがある。
【0003】
1段型の電気集塵機は、特許文献1や特許文献2に記載のように、イオン化部を高圧電極とすると共に集塵板を対向電極することにより、空気中の塵を直接集塵板に集める構造になっている。
このため、1段型の電気集塵機は、構造がシンプルで動力がなくとも集塵が可能であるので、小型や薄型の電気集塵機として、採用する場合が多い。
【0004】
これに対して、2段型の電気集塵機は、特許文献3及び特許文献4に記載されているように、塵を帯電させるイオン化部と、電界によって帯電した塵を集める高圧電極及び集塵板でなる集塵部との2段に分かれた構造になっている。
特に、特許文献3及び特許文献4に記載の電気集塵機では、集塵板又は高圧電極を半絶縁素材で作成して、火花放電による集塵効率低下を防ぐ技術が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公平02-029386号公報
【文献】特開平07-256145号公報
【文献】特開平08-071451号公報
【文献】特開平09-253525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記した従来の電気集塵機では、次のような問題があった。
特許文献1に開示された1段型の電気集塵機では、電界の広がりを得ることができるが、電界の発生源が遠くなるため、クーロン力が弱くなるという欠点がある。このように弱いクーロン力では、集めることができる塵は、小さな塵に限られてしまう。また、弱いクーロン力では、塵を集塵版に強く留めることが難しく、風等により、塵が剥がれることがある。このため、空気が剥がれた塵によって再び汚染されてしまうという問題がある。
また、特許文献2に開示された1段型の電気集塵機では、強い電界を得ることができるが、電界の発生が放電極と集塵板との間に限定される。このため、イオンが集塵板にすぐ引き寄せられてしまい、イオンが十分に広がらず、塵の集塵範囲が狭いという問題がある。
つまり、上記した1段型の電気集塵機では、いずれも、集塵範囲が狭く且つ集塵 能力が低いので、効果的な集塵を行うことができないという問題がある。
【0007】
一方、2段型の電気集塵機では、1段型の電気集塵機に比べて、集塵範囲が広くしかも集塵能力が極めて高いが、火花放電を防ぐために、イオン化部と集塵部とを分離して配置する必要がある。このため、これらを駆動する動力を必要とし、しかも、オゾン処理装置等の他ユニットを含めて、イオン化部等の装置を直線的に繋ぐ必要がある。この結果、2段型の電気集塵機では、機器自体が、大型化してしまい、この2段型の電気集塵機は、一部の工程のみを対象とした局所的な集塵装置として使用することができない。
【0008】
この発明は、上述した課題を解決するためになされたもので、集塵範囲が広く且つ集塵能力が高く、しかも、小型化且つ薄型化が可能な電気集塵機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、イオンを発生させるためのイオン化部と、イオンが付着した塵を電気的に集塵するための集塵部とで構成される電気集塵機であって、イオン化部は、所定の電圧を電極針に印加してコロナ放電させることにより、印加電圧の極性と同極性のイオンを発生させるイオナイザであり、集塵部は、イオン化部の後段に配設され、イオンが付着した塵を通過させるための複数の間隙を有し且つ所定の電圧が印加される高電圧電極と、この高電圧電極の後段に配設され且つ高電圧電極に印加される電圧の極性と逆極性の電圧が印加されて、イオンが付着した塵を電気的に吸着する集塵板とを備え、イオン化部の電極針に印加する電圧の極性と高電圧電極に印加する電圧の極性とを同極性に設定し、集塵部の高電圧電極を絶縁体で被覆すると共に、集塵板を絶縁体とは別体の絶縁体で被覆した構成とする。
かかる構成により、同極性の所定の電圧をイオン化部と高電圧電極とに印加すると共に、逆極性の所定の電圧を集塵板に印加すると、イオン化部でコロナ放電が起こり、印加電圧と同極性の多量のイオンがイオン化部から発生する。このとき、イオンと同極性の電圧が、イオン化部の後段に配されている高電圧電極に印加されているので、多量のイオンは、高電圧電極によって反発され、集塵板側への移動が抑制される。つまり、イオン化部と集塵板との間に、イオンと同極性の高電圧電極が介在し、イオン化部と集塵板との間に直接電界を作ることを防いでいる。これにより、多量のイオンが、集塵板側に向かわずに、高電圧電極の前で広く拡散し、広範囲にある塵に付着する。この結果、広範囲の塵が帯電されることとなる。
帯電した塵は、高電圧電極の間隙を通過した後、高電圧電極と集塵板との間に発生している強い電界によって、集塵板側に引き込まれ、集塵板に電気的に吸着される。つまり、この発明の電気集塵機は、広い範囲で、塵を帯電させ、強い電界によって、帯電した多量の塵を効率的に集塵する能力を有している。
ところで、イオン化部と集塵板との距離が近いと、火花放電が起こり、オゾンが発生するおそれがある。しかも、イオン発生に供与する筈のエネルギが火花放電に使用されてしまうため、集塵効率も低下してしまうおそれがある。
しかしながら、この発明の電気集塵機では、上記したように、高電圧電極をイオン化部と集塵板との間に介在させ、しかも、イオン化部に印加する電圧の極性と高電圧電極に印加する電圧の極性とを同極性に設定してあるので、電界が、イオン化部と集塵板との間に直接発生しない。このため、火花放電は殆ど発生しない。しかも、高電圧電極と集塵板とを絶縁体で被覆しているので、火花放電の発生を確実に防止することができる。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様の電気集塵機において、集塵部の高電圧電極を、所定間隔で平行に並べられ且つそれぞれが絶縁体で被覆された複数の線状導体で形成し、集塵部の集塵板を、絶縁性の樹脂フィルムで被覆された平板状の導体で形成した構成とする。
かかる構成により、高電圧電極を、平行に並べられ且つ絶縁体で被覆された複数の線状導体で形成することで、イオン化部と高電圧電極との間の電界の発生を抑制すると共に、強い電界を高電圧電極と集塵板との間に発生させることができ、しかも、帯電した塵を確実に通過させて、集塵板側にスムーズに移動させることができる。また、集塵板を、導体を絶縁性の樹脂フィルムで被覆した構造とすることで、火花放電防止の効果を高めることができる。
【0011】
本発明の第3の態様は、第2の態様の電気集塵機において、樹脂フィルムの体積抵抗率を、1010Ω・cm~1013Ω・cmの範囲内に設定すると共に、その厚さを、ほぼ0.1mmに設定し、イオン化部から集塵部の集塵板までの距離を、100mm以下に設定した構成とする。
【0012】
本発明の第4の態様は、第2又は第3の態様に記載の電気集塵機において、高電圧電極を形成する複数の線状導体の間隔を、40mm~100mmの範囲内に設定し、複数の線状導体で形成された高電圧電極と集塵板との距離を、10mm~80mmの範囲内に設定し、イオン化部の電極針から集塵部の集塵板までの距離を、30mm~100mmの範囲内に設定した構成とする。
【0013】
本発明の第5の態様は、第2の態様ないし第4の態様のいずれかの電気集塵機において、イオナイザは、直流電圧を印加することでイオンを発生する直流イオナイザであり、高電圧電極と集塵板に印加する電圧はそれぞれ逆極性の直流電圧である構成とした。
【発明の効果】
【0014】
以上詳しく説明したように、この発明の第1の態様の電気集塵機によれば、広範囲の塵を帯電させることができると共に、帯電した多量の塵を強い電界で集塵することができる。さらに、イオン化部と高電圧電極の電圧極性とを同極性に設定すると共に高電圧電極と集塵板とを絶縁体で被覆することにより、火花放電の発生を確実に防止することができるので、オゾン処理装置等の装置が不要となり、装置全体の小型化と薄型化を図ることができる。つまり、この発明の第1の態様の電気集塵機によれば、 広い集塵範囲と高い集塵能力を確保することができ、しかも、小型化且つ薄型化を実現することができる、という優れた効果がある。
【0015】
また、第2の態様によれば、集塵能力と火花放電防止の効果をさらに高めることができる。
【0016】
また、第3及び第4の態様によれば、装置のさらなる小型化と薄型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】この発明の第1実施例に係る電気集塵機を示す斜視図である。
【
図3】部品を一部破断して示す
図1の電気集塵機の分解斜視図である。
【
図4】イオン化部3によるイオン発生状態を示す断面図である。
【
図5】帯電塵の集塵状態を上方から示す断面図である。
【
図6】この発明の第2実施例に係る電気集塵機を説明するための分解図である。
【
図8】高電圧電極の他の変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明の最良の形態について図面を参照して説明する。
【0019】
(実施例1)
図1は、この発明の第1実施例に係る電気集塵機を示す斜視図であり、
図2は、
図1の矢視A-A断面図であり、
図3は、部品を一部破断して示す
図1の電気集塵機の分解斜視図である。
図1に示すように、この実施例の電気集塵機1は、イオン化部3と集塵部4とをケース2に組み込んだ構造になっている。
【0020】
ケース2は、前方(
図1の前面側)及び後方(
図1の後面側)が開口した絶縁性の四角形枠体であり、イオン化部3がケース2の前段に、集塵部4がケース2の中段から後段にかけて組み付けられている。
【0021】
イオン化部3は、イオンを発生させるための部分であり、イオナイザ30と電源10とで構成されている。
イオナイザ30は、ケース2の上枠21の下面前端の中央に取り付けられている。このイオナイザ30は、直流イオナイザであり、
図2に示すように、電極針30aを内部に有する。この電極針30aの先端は下向きに配置され、後端は直流電圧を発生する電源10の正極10aに接続されている。
すなわち、電源10からの正極の直流電圧が、イオナイザ30の電極針30aに印加されるようになっている。これにより、コロナ放電を電極針30aの先端部分に発生させ、電極針30a周辺に存在している空気を電気的に分解して、正極のイオンを発生することができる。
イオンを発生させるために電極針30aに印加する電圧は、通常3kV~6kVの範囲の電圧が必要である。つまり、電源10として、3kV~6kVの範囲の直流電源を使用した。
また、電極針30aに印加する電圧の極性は、任意であるが、この実施例では、正極の直流電圧を印加する設定とした。
つまり、正極のイオンが、集塵部4の前で、集塵部4の面と平行に拡散するように、電極針30aの向きと電源10の電圧とを設定した。
【0022】
集塵部4は、イオンが付着した塵を電気的に集塵するための部分であり、前段の高電圧電極5と後段の集塵板6とで構成されている。
【0023】
集塵部4の高電圧電極5は、上記イオン化部3の後段に配置された複数の線状導体50であり、電源10に接続されている。
複数の線状導体50は、
図3に示すように、起立した状態で、横並びに所定間隔で平行に配置されている。
この間隔、即ち複数の線状導体50の横並びの各間隔Gは、イオンが付着した塵を通過させるための間隙であり、40mm~100mmの範囲内に設定されている。
【0024】
複数の線状導体50のそれぞれは、絶縁体51によって被覆されている。
このような線状導体50は、可能な限り細く、高電圧に耐えられる性能であることが望ましい。
例えば、線状導体50としては、銅、ニッケル又はこれらの合金のいずれか好ましく、 絶縁体51は、シリコンであることが好ましい。
【0025】
このような線状導体50の上端50aは、ケース2の上枠21の下面に設けられた帯状導体52aに接続され、帯状導体52aが電源10の正極10aに接続されている。
これにより、電源10からの正極の直流電圧が、複数の線状導体50に印加されることとなる。
すなわち、
図2に示すように、この実施例の電気集塵機1では、イオナイザ30の電極針30aと複数の線状導体50とに印加する直流電圧が、同極性で同電圧値に設定されている。
このように、イオナイザ30の電極針30aと複数の線状導体50とに印加する直流電圧を同極性に設定することにより、イオナイザ30で発生させたイオンが、高電圧電極5を構成する複数の線状導体50によって集塵板6に直接吸着されることを妨げ、同極の反発作用によってイオンの拡散を行うことができる。
なお、この実施例では、イオナイザ30の電極針30aと複数の線状導体50とに印加する直流電圧を同電圧値に設定したが、同極性であれば、異なる電圧値に設定することができることは勿論である。
【0026】
集塵部4の集塵板6は、
図3に示すように、高電圧電極5の後段に配置された平板状の導体であり、電源10に接続されている。
集塵板6は、集塵方向(
図2の右方向)と垂直に起立した状態で、高電圧電極5から所定距離後方に配置されている。
なお、
図2に示すように、イオナイザ30の電極針30aからこの集塵板6までの距離L1は、30mm~100mmの範囲内に設定され、高電圧電極5から集塵板6までの距離L2は、10mm~80mmの範囲内に設定される。
【0027】
かかる集塵板6は、
図3に示すように、線状導体50の絶縁体51とは、別体の絶縁体61で被覆されている。
絶縁体61は、PET(ポリエチレンテレフタラート)等の絶縁性の樹脂フィルムである。絶縁体61の体積抵抗率は、10
10Ω
・cm~10
13Ω
・cmの範囲内に設定されており、その厚さは、ほぼ0.1mmに設定されている。
また、集塵板6としては、銅箔、アルミニュウム箔等の金属やカーボン等の導体を適用することができる。
【0028】
このように絶縁体61で被覆された集塵板6の上端6aは、
図2に示すように、ケース2の上枠21の下面後方に設けられた端子62aに接続され、端子62aは、電源10の負極10bに接続されている。
これにより、電源10からの負極の直流電圧が、集塵板6に印加されるようになっている。
すなわち、この実施例の電気集塵機1では、高電圧電極5に印加される電圧の極性と逆極性の直流電圧が集塵板6に印加されるように設定されている。この電圧値は、-500V~5kVの範囲の電圧値である。
このように、高電圧電極5と逆極性の電圧が集塵板6に印加されることで、高電圧電極5と集塵板6との間に強い電界が発生し、高電圧電極5の間隔Gを通過した帯電塵を強い力で素早く集塵板6に吸着することができる。
【0029】
次に、この実施例の電気集塵機1の作用及び効果について説明する。
図4は、イオン化部3によるイオン発生状態を示す断面図であり、
図5は、帯電塵の集塵状態を上方から示す断面図である。
図2において、電源10の正極の直流電圧を、イオナイザ30の電極針30aと高電圧電極5の線状導体50とに印加し、負極の直流電圧を、集塵板6に印加する。
すると、イオナイザ30の電極針30aへの正極の直流電圧の印加によって、
図4に示すように、正極のイオンIが電極針30aの先端部分で発生し、多量のイオンIが周囲に拡散する。
このとき、イオンIは、集塵板6側に引き込まれようとするが、イオンIと同極性の正極の直流電圧が、高電圧電極5の線状導体50に印加されているので、イオンIの集塵板6側への移動が、同極性の線状導体50によって抑制される。
すなわち、イオンIと同極性の電圧が印加された線状導体50が、イオナイザ30と集塵板6との間に介在しているので、イオナイザ30の電極針30aと集塵板6との間に、直接的な電界が形成されない。
したがって、多量のイオンIは、集塵板6によって引き込まれることなく、高電圧電極5の前で広く拡散し、高電圧電極5の前の広範囲な空間に存在する塵に付着する。つまり、イオナイザ30と同極性の電圧が印加されている高電圧電極5の存在によって、広範囲の塵が帯電されることとなる。
そして、
図5に示すように、高電圧電極5から集塵板6側に向く強い電界Eが、高電圧電極5の線状導体50と集塵板6との間に発生しているので、正極に帯電した塵Dが、高電圧電極5の間隔G間隙を通過すると、これらの帯電塵Dは、急速に強い力で集塵板6側に引き込まれ、集塵板6に電気的に吸着される。
つまり、この実施例の電気集塵機1によれば、広い範囲で多量の塵が帯電され、帯電された塵が、高電圧電極5と集塵板6との間の強い電界によって、強力且つ迅速に集塵される。
【0030】
発明者等は、かかる点を実証すべく、この実施例の電気集塵機1と電気集塵機1から高電圧電極5を取り除いた従来型の電気集塵機との集塵能力比較実験を行った。
すると、従来型の電気集塵機では、イオン化部3のイオナイザ30から半径100mm程度の範囲の塵しか集塵し得なかった。これに対し、この実施例の電気集塵機1では、イオナイザ30から400mm以上の範囲の塵を集塵することができた。
この結果、発明者等は、この実施例の電気集塵機1が従来型の電気集塵機に比べ、非常に広い集塵範囲と集塵能力とを有することを、確認することができた。
【0031】
ところで、イオン化部3のイオナイザ30と集塵板6との距離が短いと、イオナイザ30から集塵板6に向かって、火花放電が起こり、オゾンが発生するおそれがある。
しかしながら、この実施例の電気集塵機1では、高電圧電極5である複数の線状導体50を、イオナイザ30と集塵板6との間に介在させ、しかも、イオナイザ30に印加する直流電圧の極性と線状導体50に印加する直流電圧の極性とを同極性に設定してあるので、電界が、イオナイザ30と集塵板6との間に直接発生しない。このため、火花放電は殆ど発生しない。しかも、高電圧電極5の線状導体50を絶縁体51で被覆すると共に、集塵板6とを絶縁体61で被覆しているので、火花放電の発生を大きく抑制するでき、オゾンの発生の防止を図ることができる。
【0032】
発明者等は、かかる点を実証すべく、室温20°C、風量20L/minの条件下で、この実施例の電気集塵機1を駆動したところ、オゾンの発生は、オゾン濃度測定器の測定限界0.001ppm以下であり、検出することができないことを確認した。
【0033】
つまり、この実施例によれば、オゾン処理装置等の装置が不要となるので、厚さが100mm以下という小型且つ薄型で且つ集塵範囲と集塵能力の高い電気集塵機1を提供することができる。
【0034】
(実施例2)
次に、第2実施例について説明する。
図6は、この発明の第2実施例に係る電気集塵機を説明するための分解図である。
この実施例の電気集塵機は、高電圧電極の電気接続構造とイオナイザの電気接続構造が、上記第1実施例と異なる。
すなわち、上記第1実施例では、複数の線状導体50を帯状導体52aを通じて並列に電源10の正極10aに接続した構造の高電圧電極を例示したが、この実施例では、
図6に示すように、1本の線状導体50を電源10の正極10aに接続して構成したものを、高電圧電極として適用した。
具体的には、ケース2の上枠21と下枠22とに複数の孔23を設け、図示しない絶縁体51で被覆された1本の線状導体50を、これらの孔23に靴紐を通すように蛇行状に通した。そして、線状導体50の基端50aを電源10の正極10aに接続することにより、上記第1実施例の高電圧電極と同機能の高電圧電極を構成した。
また、上記第1実施例では、イオン化部3のイオナイザ30への給電を、電源10の正極10aからの電線で行う構成にした。これに対して、この実施例では、線状導体50の末端50bを、イオン化部3のイオナイザ30に接続させることによって、線状導体50を、イオン化部3のイオナイザ30に対する給電用の電線として兼用した。
かかる電気接続構造をとることにより、電気集塵機の電気的構造を簡略化した。
その他の構成、作用及び効果は、上記第1実施例と同様であるので、その記載は省略する。
【0035】
なお、この発明は、上記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内において種々の変形や変更が可能である。
例えば、上記実施例では、高電圧電極を、
図3に示したように、絶縁体51で被覆した複数の平行な線状導体50で形成したが、高電圧電極は、これに限定されるものではない。
例えば、
図7に示すように、複数の孔G1を間隙とする平板状の電極53を絶縁体54で被覆したものも、高電圧電極として適用することができる。
また、
図8に示すように、複数の間隙G2を有するメッシュ状の電極55を絶縁体56で被覆したものも、高電圧電極として適用することができる。
【0036】
さらに、上記実施例では、コロナ放電の理解を容易にするため、イオン化部3のイオナイザとして、1本の電極針30aを内部に有するイオナイザ30を例示したが、電気集塵機に適用可能なイオナイザは、これに限るものはない。例えば、カーボンの導電繊維でなる電極針をブラシ状の束にした、所謂「カーボンブラシイオナイザ」も、電気集塵機のイオナイザとして適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1…電気集塵機、 2…ケース、 3…イオン部、 4…集塵部、 5…高電圧電極、 6…集塵板、 6a…上端、 10…電源、 10a…正極、 10b…負極、 21…上枠、 22…下枠、 23…孔、 30…イオナイザ、 30a…電極針、 50…線状導体、 50a…上端(基端)、 50b…末端、 51,54,56,61…絶縁体、 52a…帯状導体、 53,55…電極、 62a…端子、 E…電界、 G,G2…間隔、 G1…孔、 I…イオン、 D…帯電塵。