(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】免疫チェックポイント分子と結合可能な分子が融合したタンパク質およびその用途
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20240821BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240821BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240821BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20240821BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240821BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240821BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20240821BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C07K16/28
A61P35/00
A61K47/64
A61K39/395 T
C12N15/12
C12N15/62 Z
(21)【出願番号】P 2022525447
(86)(22)【出願日】2020-11-02
(86)【国際出願番号】 KR2020015165
(87)【国際公開番号】W WO2021086159
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】10-2019-0138580
(32)【優先日】2019-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0144637
(32)【優先日】2020-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519367980
【氏名又は名称】セレメディー カンパニー,リミテッド
【住所又は居所原語表記】H4301, 4th Floor, Bundang Seoul National Univ. Hospital HIP, 172 Dolma-ro, Bundang-gu, Seongnam-si, Gyeonggi-do 13605 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100137095
【氏名又は名称】江部 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】リ, ジェ ウォン
(72)【発明者】
【氏名】リ, ボ ラム
(72)【発明者】
【氏名】ユン, チュル ジュ
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0255189(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0088597(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0216947(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0060307(US,A1)
【文献】国際公開第2019/163871(WO,A1)
【文献】NATURE COMMUNICATIONS, 2019年3月,Vol.10,1121 (p.1-8),https://doi.org/10.1038/s41467-019-09098-w
【文献】ZHANG, Yu and ORNER, Brendan P.,Self-Assembly in the Ferritin Nano-Cage Protein Superfamily,Int. J. Mol. Sci.,2011年08月22日,Vol.12,p.5406-5421
【文献】KIM, Sooji et al.,Designing Peptide Bunches on Nanocage for Bispecific or Superaffinity Targeting,Biomacromolecules,2016年02月22日,Vol.17,p.1150-1159
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
A61P 35/00
A61K 47/62
A61K 39/395
C12N 15/00-15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外表面に免疫チェックポイント分子と結合可能な分子が融合したフェリチンタンパク質複合体であって、
前記フェリチンはヒトフェリチン重鎖であり、
前記タンパク質複合体を構成するフェリチン単量体の少なくとも一つが、配列番号1の配列におい
て81番
及び83番アミノ酸がアラニ
ンで置換されたものである、タンパク質複合体。
【請求項2】
前記免疫チェックポイント分子と結合可能な分子が融合したフェリチン単量体24個が自己集合してなる、請求項1に記載の球状タンパク質複合体。
【請求項3】
前記免疫チェックポイント分子と結合可能な分子は、フェリチン単量体の隣接するαヘリックスの間の少なくとも一つに融合する、請求項1に記載のタンパク質複合体。
【請求項4】
前記免疫チェックポイント分子と結合可能な分子は、フェリチン単量体のN末端またはC末端に融合する、請求項1に記載のタンパク質複合体。
【請求項5】
前記免疫チェックポイント分子と結合可能な分子は、フェリチン単量体のABループ、BCループ、CDループまたはDEループに融合する、請求項1に記載のタンパク質複合体。
【請求項6】
前記免疫チェックポイント分子と結合可能な分子は、フェリチン単量体のN末端とAヘリックスの間、またはEヘリックスとC末端の間に融合する、請求項1に記載のタンパク質複合体。
【請求項7】
トランスフェリン受容体への結合力(K)が下記数学式1を満たす、請求項1に記載のタンパク質複合体。
【数1】
(式中、K=[P][T]/[PT]であり、ここで、[P]は前記タンパク質複合体と前記トランスフェリン受容体との結合反応の平衡状態における前記タンパク質複合体の濃度を示し、[T]は前記平衡状態における前記トランスフェリン受容体の濃度を示し、[PT]は、前記平衡状態における前記タンパク質複合体と前記トランスフェリン受容体の複合体の濃度を示す。)
【請求項8】
前記トランスフェリン受容体は、ヒトトランスフェリン受容体である、請求項7に記載のタンパク質複合体。
【請求項9】
前記免疫チェックポイント分子は、Her-2/neu、VISTA、4-1BBL、ガレクチン9(Galectin-9)、アデノシンA2a受容体(Adenosine A2a receptor)、CD80、CD86、ICOS、ICOSL、BTLA、OX-40L、CD155、BCL2、MYC、PP2A、BRD1、BRD2、BRD3、BRD4、BRDT、CBP、E2F1、MDM2、MDMX、PPP2CA、PPM1D、STAT3、IDH1、PD1、CTLA4、PD-L1、PD-L2、LAG3、TIM3、TIGIT、BTLA、SLAMF7、4-1BB、OX-40、ICOS、GITR、ICAM-1、BAFFR、HVEM、LFA-1、LIGHT、NKG2C、SLAMF7、NKp80、LAIR1、2B4、CD2、CD3、CD16、CD20、CD27、CD28、CD40L、CD48、CD52、EGFRファミリー、AXL、CSF1R、DDR1、DDR2、EPH受容体ファミリー、FGFRファミリー、VEGFRファミリー、IGF1R、LTK、PDGFRファミリー、RET、KIT、KRAS、NTRK1およびNTRK2からなる群より選択されるいずれか一つである、請求項1に記載のタンパク質複合体。
【請求項10】
前記免疫チェックポイント分子と結合可能な分子は、前記免疫チェックポイント分子に対するリガンド、抗体、またはその断片である、請求項1に記載のタンパク質複合体。
【請求項11】
前記タンパク質複合体は、大腸菌生産システムにおいて水溶性画分の割合が40%以上で存在する、請求項1に記載のタンパク質複合体。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のタンパク質複合体を含む癌の治療または予防用薬学組成物。
【請求項13】
前記癌は、脳癌、頭頸部癌、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、食道癌、白血病、肺癌、肝癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、直腸癌、腎臓癌、胃癌、精巣癌、子宮癌、血管腫瘍、扁平細胞癌種、腺癌種、小細胞癌種、黒色腫、神経膠腫、神経芽細胞腫、肉腫、喉頭癌、耳下腺癌、胆道癌、甲状腺癌、日光角化症、急性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病、腺様嚢胞癌、腺腫、腺扁平上皮癌腫、肛門管癌、肛門癌、肛門直腸癌、星細胞腫、バルトリン腺癌、基底細胞癌腫、胆汁癌、骨癌、骨髄癌、気管支癌、気管支腺癌腫、カルチノイド、胆管癌腫、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、淡明細胞癌腫、結合組織癌、嚢腺腫、消化器系癌、十二指腸癌、内分泌系癌、内胚葉洞腫瘍、子宮内膜増殖症、子宮内膜様腺癌、内皮細胞癌、上衣腫、上皮細胞癌、眼窩癌、局所性結節性過形成、胆嚢癌、幽門洞癌、胃基底部癌、ガストリノーマ、膠芽腫、グルカゴノーマ、心臓癌、血管芽細胞腫、血管内皮腫、血管腫、肝腺腫、肝腺腫症、肝胆道癌、肝細胞癌腫、ホジキン病、回腸癌、インスリノーマ、上皮内新生物、上皮内扁平細胞新生物、肝内胆道癌、浸潤性扁平細胞癌腫、空腸癌、関節癌、骨盤癌、巨細胞癌腫、大腸癌、リンパ腫、悪性中皮腫、髄芽腫、髄質上皮腫、脳膜癌、中皮癌、転移性癌腫、口腔癌、粘表皮癌、多発性骨髄腫、筋肉癌、鼻腔癌、神経系癌、非上皮皮膚癌、非ホジキンリンパ腫、燕麦細胞癌、乏突起膠腫、口腔癌、骨肉腫、漿液性乳頭状腺癌、陰茎癌、咽頭癌、下垂体腫瘍、形質細胞性腫瘍、偽肉腫、肺芽腫、直腸癌、腎細胞癌腫、呼吸器系癌、網膜芽細胞腫、漿液性癌、副鼻腔癌、皮膚癌、小細胞癌、小腸癌、平滑筋肉腫、軟部組織癌、ソマトスタチノーマ、脊椎癌、扁平細胞癌、線条筋肉癌、中皮細胞下層癌、T細胞白血病、舌癌、尿管癌、尿道癌、子宮頸癌、子宮体癌、膣癌、VIPoma、外陰部癌、高分化癌、およびウィルムス腫瘍からなる群より選択される、請求項12に記載の癌の治療または予防用薬学組成物。
【請求項14】
疾患抗原エピトープが融合したフェリチン単量体が自己集合してなり、トランスフェリン受容体への結合力(K)が下記数学式4を満たすタンパク質をさらに含む、請求項12に記載の癌の治療または予防用薬学組成物。
【数2】
(式中、K=[P][T]/[PT]であり、ここで、[P]は前記タンパク質と前記トランスフェリン受容体との結合反応の平衡状態における前記タンパク質の濃度を示し、[T]は前記平衡状態における前記トランスフェリン受容体の濃度を示し、[PT]は、前記平衡状態における前記タンパク質と前記トランスフェリン受容体の複合体の濃度を示す。)
【請求項15】
前記疾患抗原エピトープは、gp100、MART-1、Melna-A、MAGE-A3、MAGE-C2、マンマグロビンA(Mammaglobin-A)、プロテイナーゼ3(Proteinase-3)、ムシン1(Mucin-1)、HPV E6、LMP2、PSMA、GD2、hTERT、PAP、ERG、NA17、ALK、GM3、EPhA2、NA17-A、TRP-1、TRP-2、NY-ESO-1、CEA、CA125、AFP、サバイビン(Survivin)、AH1、ras、G17DT、MUC1、Her-2/neu、E75、p53、PSA、HCG、PRAME、WT1、URLC10、VEGFR1、VEGFR2、E7、チロシナーゼ(Tyrosinase)ペプチド、B16F10、EL4または新生抗原(neoantigen)である、請求項12に記載の癌の治療または予防用薬学組成物。
【請求項16】
2種のタンパク質が併用投与されるための、請求項14に記載の癌の治療または予防用薬学組成物。
【請求項17】
2種のタンパク質が同時、個別または順次投与される、請求項14に記載の癌の治療または予防用薬学組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫チェックポイント分子と結合可能な分子が融合したタンパク質およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の医学技術の発展により、治療不可能な病気はほとんどなくなったが、癌は他の病気とは異なり、非常に複雑で難しい治療が求められている。現在、癌の治療に使用されている方法には、大きく分けて手術、放射線治療および化学的治療がある。癌が他の部位に転移せずに局所で増殖する場合では切除治療が可能である。しかし、癌患者の70%以上において癌転移が発生するため、補助的な治療方法を並行しなければならない。
【0003】
前記補助治療方法の一つとして、高エネルギー放射線を用いて癌細胞を殺す放射線治療法が行われている。前記放射線治療法は、癌細胞への放射線照射によって癌細胞の増殖を抑制し、新たな癌細胞の生成、癌細胞のさらなる分裂を防ぐ。しかし、この方法は、癌細胞だけでなく正常細胞にも影響を与えるという副作用が存在する問題がある。
【0004】
化学的治療法は、手術後に薬物を使用して癌細胞を殺す補助治療法であり、目に見えない癌細胞を殺す目的で行われる。しかし、前記化学的治療法は嘔吐、下痢、脱毛などの副作用が伴う問題がある。
【0005】
これらの副作用を最小限に抑えるために、最近では免疫治療法が注目されている。免疫治療法は、患者の免疫応答を利用して癌を治療する方法であり、癌の予防も図ることができる。癌免疫治療は、ワクチンの原理のように、腫瘍形成の原因となる抗原を投与して癌に特異的な免疫細胞を活性化させた後、活性化した免疫細胞に体内で癌を特異的に攻撃させる治療法である。また、癌にかかっていないとしても、癌に特異的な抗原を体内に投与することにより、不活性化の免疫細胞を癌特異的な記憶免疫細胞に活性化し、癌が発症したときに癌細胞を特異的に攻撃させる。
【0006】
癌免疫治療のためには、免疫細胞が密集しているリンパ節に癌特異的抗原(腫瘍関連抗原(Tumor-associated antigen;TAA)、腫瘍特異抗原(Tumor-specific antigen;TSA))を運ぶことが重要である。特に、腫瘍特異抗原の中でも、肺癌、腎臓癌などの様々な腫瘍種で発見され、主に黒色腫で発見される新生抗原(neo-antigen)は、癌患者個人の潜在的遺伝子の活性またはDNA部分の変異によって新たに生成される抗原であり、この抗原は患者個人の遺伝情報に基づいて「カスタマイズ型癌ワクチン」を製造する上で非常に重要である。
【0007】
しかし、癌特異的抗原自体のみをリンパ節に運ぶようとする従来の試みはあまり効果的ではなかった。腫瘍抗原自体だけでは腫瘍抗原の長さがやや短く、腫瘍抗原特異免疫細胞を増幅及び活性化するための腫瘍抗原提示効率が顕著に低く、腫瘍抗原特異免疫誘導効率も顕著に低かったためである(非特許文献1)。このような癌特異的抗原の体内送達体としては高分子が多用されている。癌特異的抗原の体内運搬のために高分子の表面に癌抗原を固定させる場合、粒子表面に癌特異的抗原を化学的結合によって露出しなければならない。しかし、粒子表面に癌特異的抗原を高密度で均一に露出させるには限界があるのが実情である。
【0008】
癌免疫治療は従来の抗癌治療方法と比較して、患者の免疫システムを利用するため副作用が少なく、免疫記憶形成によって治療効果が長期間持続でき、腫瘍抗原特異的認識の原理によって一般細胞には影響力が少なくて副作用がほとんどない利点がある。また、最近では再発性または抗癌剤抵抗性を有する癌患者を対象とする臨床の成功事例により、癌免疫治療はサイエンス(Science)誌によってブレークスルー・オブ・ザ・イヤー(Breakthrough of the year)2013に選定されるほどの爆発的な注目を浴びている。
【0009】
また、免疫チェックポイント因子であるPD-1(Programmed cell death protein 1)/PD-L1(PD1 ligand)中和抗体治療剤の場合は、黒色腫および肺癌で反応率20-30%以上の臨床結果が導き出されており、癌免疫治療は、今後数年以内に癌の標準治療として臨床現場で使用される可能性が高い。しかし、免疫チェックポイント因子であるPD1/PD-L1またはCTLA4特異的な免疫活性抑制遮断抗体は、免疫細胞の活性自体を根本的に増強できず、抗体の長い体内残留時間および抗体のFcドメイン部分のために発生する自己免疫疾患などの副作用が生じ、動物細胞系の抗体製造および精製による生産コストの増加に加えて、高い消耗量により抗体治療コストが高く、経済面での欠点も存在するのが実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、免疫チェックポイント分子に結合できる新規なタンパク質を提供することを目的とする。
【0011】
本発明は、免疫チェックポイント分子がT細胞を不活性化させないようにして、T細胞が癌細胞を死滅できるようにする新規なタンパク質を提供することを目的とする。
【0012】
本発明は、前記の新規なタンパク質を含む癌の予防または治療用薬学組成物を提供することを目的とする。
【0013】
本発明は、前記の新規なタンパク質を含む癌の治療方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、外表面に免疫チェックポイント分子と結合可能な分子が融合したフェリチンタンパク質を提供する。
【0015】
本発明のタンパク質は、前記免疫チェックポイント分子と結合可能な分子が融合したフェリチン単量体24個が自己集合してなる球状タンパク質であってもよい。
【0016】
本発明において、前記免疫チェックポイント分子と結合可能な分子は、フェリチン単量体の隣接するαヘリックスの間の少なくとも一つに融合することができる。
【0017】
本発明において、前記免疫チェックポイント分子と結合可能な分子は、フェリチン単量体のN末端またはC末端に融合することができる。
【0018】
本発明において、前記免疫チェックポイント分子と結合可能な分子は、フェリチン単量体のABループ、BCループ、CDループまたはDEループに融合することができる。
【0019】
本発明において、前記免疫チェックポイント分子と結合可能な分子は、フェリチン単量体のN末端とAヘリックスの間、またはEヘリックスとC末端の間に融合することができる。
【0020】
本発明のタンパク質は、ヒトトランスフェリン受容体への結合力が減少するように突然変異したものであってもよい。
【0021】
本発明のタンパク質は、それを構成するフェリチン単量体の少なくとも一つが、配列番号1の配列において14番、15番、22番、81番または83番アミノ酸がアラニン、グリシン、バリンまたはロイシンで置換されたものであってもよい。
【0022】
本発明のフェリチンタンパク質は、トランスフェリン受容体への結合力(K)が下記数学式1を満たすことができる。
【0023】
【0024】
(式中、K=[P][T]/[PT]であり、ここで、[P]は、フェリチンタンパク質とトランスフェリン受容体との結合反応の平衡状態におけるフェリチンタンパク質の濃度を示し、[T]は、前記平衡状態におけるトランスフェリン受容体の濃度を示し、[PT]は、前記平衡状態におけるフェリチンタンパク質とトランスフェリン受容体の複合体の濃度を示す。)
【0025】
本発明における前記トランスフェリン受容体への結合力は、ヒトトランスフェリン受容体への結合力であってもよい。
【0026】
本発明において、前記免疫チェックポイント分子は、Her-2/neu、VISTA、4-1BBL、ガレクチン9(Galectin-9)、アデノシンA2a受容体(Adenosine A2a receptor)、CD80、CD86、ICOS、ICOSL、BTLA、OX-40L、CD155、BCL2、MYC、PP2A、BRD1、BRD2、BRD3、BRD4、BRDT、CBP、E2F1、MDM2、MDMX、PPP2CA、PPM1D、STAT3、IDH1、PD1、CTLA4、PD-L1、PD-L2、LAG3、TIM3、TIGIT、BTLA、SLAMF7、4-1BB、OX-40、ICOS、GITR、ICAM-1、BAFFR、HVEM、LFA-1、LIGHT、NKG2C、SLAMF7、NKp80、LAIR1、2B4、CD2、CD3、CD16、CD20、CD27、CD28、CD40L、CD48、CD52、EGFRファミリー、AXL、CSF1R、DDR1、DDR2、EPH受容体ファミリー、FGFRファミリー、VEGFRファミリー、IGF1R、LTK、PDGFRファミリー、RET、KIT、KRAS、NTRK1およびNTRK2からなる群より選択されるいずれか一つであってもよい。
【0027】
本発明において、前記免疫チェックポイント分子と結合可能な分子は、前記免疫チェックポイント分子に対するリガンド、抗体、またはその断片であってもよい。
【0028】
本発明において、フェリチンはヒトフェリチン重鎖であってもよい。
【0029】
本発明のフェリチンタンパク質は、大腸菌生産システムにおいて40%以上が水溶性画分として存在してもよい。
【0030】
本発明は、本発明のフェリチンタンパク質を含む癌の治療または予防用薬学組成物を提供する。
【0031】
本発明の薬学組成物は、脳癌、頭頸部癌、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、食道癌、白血病、肺癌、肝癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、直腸癌、腎臓癌、胃癌、精巣癌、子宮癌、血管腫瘍、扁平細胞癌種、腺癌種、小細胞癌種、黒色腫、神経膠腫、神経芽細胞腫、肉腫、喉頭癌、耳下腺癌、胆道癌、甲状腺癌、日光角化症、急性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病、腺様嚢胞癌、腺腫、腺扁平上皮癌腫、肛門管癌、肛門癌、肛門直腸癌、星細胞腫、バルトリン腺癌、基底細胞癌腫、胆汁癌、骨癌、骨髄癌、気管支癌、気管支腺癌腫、カルチノイド、胆管癌腫、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、淡明細胞癌腫、結合組織癌、嚢腺腫、消化器系癌、十二指腸癌、内分泌系癌、内胚葉洞腫瘍、子宮内膜増殖症、子宮内膜様腺癌、内皮細胞癌、上衣腫、上皮細胞癌、眼窩癌、局所性結節性過形成、胆嚢癌、幽門洞癌、胃基底部癌、ガストリノーマ、膠芽腫、グルカゴノーマ、心臓癌、血管芽細胞腫、血管内皮腫、血管腫、肝腺腫、肝腺腫症、肝胆道癌、肝細胞癌腫、ホジキン病、回腸癌、インスリノーマ、上皮内新生物、上皮内扁平細胞新生物、肝内胆道癌、浸潤性扁平細胞癌腫、空腸癌、関節癌、骨盤癌、巨細胞癌腫、大腸癌、リンパ腫、悪性中皮腫、髄芽腫、髄質上皮腫、脳膜癌、中皮癌、転移性癌腫、口腔癌、粘表皮癌、多発性骨髄腫、筋肉癌、鼻腔癌、神経系癌、非上皮皮膚癌、非ホジキンリンパ腫、燕麦細胞癌、乏突起膠腫、口腔癌、骨肉腫、漿液性乳頭状腺癌、陰茎癌、咽頭癌、下垂体腫瘍、形質細胞性腫瘍、偽肉腫、肺芽腫、直腸癌、腎細胞癌腫、呼吸器系癌、網膜芽細胞腫、漿液性癌、副鼻腔癌、皮膚癌、小細胞癌、小腸癌、平滑筋肉腫、軟部組織癌、ソマトスタチノーマ、脊椎癌、扁平細胞癌、線条筋肉癌、中皮細胞下層癌、T細胞白血病、舌癌、尿管癌、尿道癌、子宮頸癌、子宮体癌、膣癌、VIPoma、外陰部癌、高分化癌、およびウィルムス腫瘍からなる群より選択されるいずれか一つの癌の治療または予防に使用することができる。
【0032】
本発明の薬学組成物は、疾患抗原エピトープが融合したフェリチン単量体が自己集合してなり、トランスフェリン受容体への結合力(K)が下記数学式4を満たすタンパク質をさらに含むことができる。
【0033】
【0034】
(式中、K=[P][T]/[PT]であり、ここで、[P]は、前記タンパク質と前記トランスフェリン受容体との結合反応の平衡状態における前記タンパク質の濃度を示し、[T]は、前記平衡状態における前記トランスフェリン受容体の濃度を示し、[PT]は、前記平衡状態における前記タンパク質と前記トランスフェリン受容体の複合体の濃度を示す。)
【0035】
本発明における疾患抗原エピトープは、gp100、MART-1、Melna-A、MAGE-A3、MAGE-C2、マンマグロビンA(Mammaglobin-A)、プロテイナーゼ3(Proteinase-3)、ムシン1(Mucin-1)、HPV E6、LMP2、PSMA、GD2、hTERT、PAP、ERG、NA17、ALK、GM3、EPhA2、NA17-A、TRP-1、TRP-2、NY-ESO-1、CEA、CA125、AFP、サバイビン(Survivin)、AH1、ras、G17DT、MUC1、Her-2/neu、E75、p53、PSA、HCG、PRAME、WT1、URLC10、VEGFR1、VEGFR2、E7、チロシナーゼ(Tyrosinase)ペプチド、B16F10、EL4または新生抗原(neoantigen)であってもよい。
【0036】
本発明の薬学組成物は、前記2種のタンパク質が併用投与されるためのものであってもよい。
【0037】
本発明の薬学組成物は、2種のタンパク質が同時、個別または順次投与されるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】
図1のAは、腫瘍抗原が発現した本発明のタンパク質を製造するための発現ベクターの模式図を示し、
図1のBは、製造されたタンパク質の構造を示す。
【
図2】
図2は、本発明により製造されたgp100-huHFナノ粒子の表面の腫瘍抗原とトランスフェリン受容体(TfR)との結合位置を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本発明のgp100-huHFタンパク質のTEM画像およびDLSの結果を示す。
【
図4】
図4は、本発明のgp100-huHFタンパク質とトランスフェリン受容体(TfR)との結合能を測定した結果である。
【
図5】
図5は、PD-L1と結合可能なPD1ドメインが挿入された免疫チェックポイント抑制剤(huHF-PD1タンパク質)を製造するための発現ベクターの模式図;gp100-huHFタンパク質の構造;本発明のgp100-huHFタンパク質のTEM画像;本発明のgp100-huHFタンパク質の直径分布図;および、huHF-PD1タンパク質とPD1リガンド(PD-L1)、huHF-TPP1(AB loop、CD loop)およびαPD-L1 HCDR3(CD loop、C末端)との結合能を測定した結果を示す。
【
図6】
図6は、本発明のタンパク質の樹状細胞による細胞取込(cellular uptake)の結果を示す。
【
図7a】
図7aは、huHFタンパク質とhuHF-PD1タンパク質の癌細胞CT-26およびB16F10に対するターゲティング効率を蛍光画像で比較したものである。
【
図7b】
図7bは、huHFタンパク質とhuHF-αPD-L1 HCDR3(CD loop、C末端)のCT-26細胞に対するターゲティング効率を蛍光画像で比較したものである。
【
図7c】
図7cは、huHFタンパク質とhuHF-TPP1、huHF-smPD1のCT-26細胞に対するターゲティング効率を蛍光画像で比較したものである。
【
図8】
図8は、gp100-huHFのリンパ節への送達効率を確認した結果である。
【
図9】
図9は、huHF、PD-L1抗体およびhuHF-PD1タンパク質の癌細胞CT-26に対する癌ターゲティング効率を比較した結果である。相対蛍光強度の各臓器における棒グラフは、左からhuHF、α-PD-L1、PD1-huHFの結果を示す。
【
図10】
図10は、gp100-huHFタンパク質におけるgp100の挿入位置による免疫効率を比較した結果である。各グループの棒グラフは、左がwithout gp100、右がwith gp100の結果である。
【
図11】
図11のAは、OVA-huHFタンパク質が抗原提示細胞のOVAペプチド抗原提示を増加させることができるかをFACS(flow cytometry)により確認した結果である。
図11のBは、前記タンパク質のDC成熟マーカー(maturation marker)の発現程度を確認した結果である。Bの各グループの棒グラフは、左からMHC-II、CD80、CD40、CD86の結果を示す。
【
図12】
図12は、gp100-huHFタンパク質の腫瘍抗原抑制能を確認するための実験方法の模式図と実験結果を示す。
【
図13】
図13は、huHF-PD1タンパク質のCT26(大腸癌細胞)とB16F10(黒色腫細胞)における腫瘍形成抑制効果を動物モデルで確認するための実験方法の模式図と実験結果を示す。
【
図14】
図14は、huHF-PD1タンパク質とgp100-huHFおよびAH1-huHFタンパク質の併用治療効果によるCT26(大腸癌細胞)とB16F10(黒色腫細胞)における腫瘍形成抑制効果を動物モデルで確認するための実験方法の模式図と実験結果を示す。
【
図15】
図15のAは、PD-L1抗体とhuHF-PD1タンパク質の癌細胞CT26およびB16F10におけるT細胞媒介細胞死効率を比較したものである。
図15のBは、PD-L1抗体とhuHF-PD1タンパク質の癌細胞CT26およびB16F10におけるT細胞活性反応を比較したものである。
図15のCは、AH1-huHFタンパク質、gp100-huHFタンパク質、およびhuHF-PD1の併用治療による、各腫瘍抗原に対するT細胞活性反応を示す。
【
図16】
図16は、従来の抗体治療剤との免疫副作用の誘発を確認した結果である。
【
図17】
図17は、AH1-huHFタンパク質及び/又はhuHF-PD1タンパク質の処理によるCT26(大腸癌細胞)における腫瘍再発抑制の結果を示す。
【
図18】
図18は、huHF-PD1タンパク質の腫瘍rechallenge後の腫瘍形成抑制を誘導するためのT細胞活性を測定するために、実験群マウスの体内でT細胞を抽出して検証した結果である。左から、PBS、AH1-huHF、α-PD-L1、PD1-huHF、AH1-huHF+α-PD-L1、AH1-huHF+PD1-huHFの結果である。
【
図19】
図19は、NA-gp100-huHFを製造するためのベクター模式図、およびそのタンパク質の製造を確認したものである。
【
図20】
図20は、EC-gp100-huHFを製造するためのベクター模式図、およびそのタンパク質の製造を確認したものである。
【
図21】
図21は、D
in-gp100-huHFを製造するためのベクター模式図、およびそのタンパク質の製造を確認したものである。
【
図22】
図22は、Ein0gp100-huHFを製造するためのベクター模式図、およびそのタンパク質の製造を確認したものである。
【
図23】
図23は、msmPD1-huHFを製造するためのベクター模式図、およびそのタンパク質の製造を確認したものである。
【
図24】
図24は、PD1-huHFの腫瘍抑制能を確認したものである。
【
図25】
図25は、huHF-PD-L1-TIGITデュアルブロッカー(dual blocker)の腫瘍抑制能を評価するためのスケジュールである。
【
図26】
図26は、huHF-PD-L1-TIGITデュアルブロッカーの腫瘍抑制能の評価結果である。
【
図27】
図27は、huHF-PD-L1-TIGITデュアルブロッカーの腫瘍抑制能の評価結果である。
【
図28】
図28は、huHF-α-PD-L1 HCDR3のフェリチン単量体の結合位置によるターゲティング能を評価したものである。
【
図29】
図29は、huHF-α-PD-L1 HCDR3のフェリチン単量体の結合位置によるターゲティング能を評価したものである。
【
図30】
図30は、huHF-αPD-L1 HCDR3のベクター模式図およびそのタンパク質の製造および自己集合の有無を確認したものである。
【
図31】
図31は、huHF-αPD1 HCDR3のベクター模式図およびそのタンパク質の製造および自己集合の有無を確認したものである。
【
図32】
図32は、huHF-αCTLA4 HCDR3のベクター模式図およびそのタンパク質の製造および自己集合の有無を確認したものである。
【
図33】
図33は、huHF-αTIGIT HCDR3のベクター模式図およびそのタンパク質の製造および自己集合の有無を確認したものである。
【
図34】
図34は、huHF-αLAG3 HCDR3のベクター模式図およびそのタンパク質の製造および自己集合の有無を確認したものである。
【
図35】
図35は、huHF-αTIM3 HCDR3のベクター模式図およびそのタンパク質の製造および自己集合の有無を確認したものである。
【
図36】
図36は、huHF-αPD-L1-αTIGITのベクター模式図およびそのタンパク質の製造および自己集合の有無を確認したものである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、外表面に免疫チェックポイント分子と結合可能な分子が融合したフェリチンタンパク質(タンパク質A)に関するものである。
【0040】
フェリチン(Ferritin)は、ヒト、動物および微生物由来のフェリチンであってもよい。
【0041】
ヒトフェリチンは、重鎖(heavy chain、21kDa)と軽鎖(light chain、19kDa)で構成され、前記フェリチンを成している単量体の自己集合能によって球状のナノ粒子を形成する特性を示す。フェリチンは、24個の単量体が集まって球状の立体構造を有する自己集合体を形成することができる。
【0042】
ヒトフェリチンの場合は、外径が約12nm、内径が約8nmである。フェリチン単量体の構造は、5つのαヘリックス構造、すなわちAヘリックス、Bヘリックス、Cヘリックス、DヘリックスおよびEヘリックスが順次連結された形態であり、ループ(loop)と呼ばれる各々のαヘリックス構造のポリペプチドを連結する非定型ポリペプチド部分を含む。
【0043】
ループは、フェリチンにペプチドまたは小さいタンパク質抗原などが挿入されても構造的に壊れない領域(region)である。ここにペプチドを、クローニングを用いて融合させることにより、フェリチンの単量体にエピトープなどのペプチドが位置するペプチド-フェリチン融合タンパク質単量体を製造することができる。AヘリックスとBヘリックスを連結するループをABループ、BヘリックスとCヘリックスを連結するループをBCループ、CヘリックスとDヘリックスを連結するループをCDループ、DヘリックスとEヘリックスを連結するループをDEループとする。
【0044】
フェリチンの情報はNCBIに公知になっている(GenBank Accession No.NM_000146、NM_002032など)。
【0045】
フェリチンはフェリチン重鎖であってもよく、具体的にはヒトフェリチン重鎖であってもよい。ヒトフェリチン重鎖は、ヒトに由来する配列番号1のアミノ酸配列で示されるタンパク質であってもよい。本明細書で前記フェリチンは「ヒトフェリチン重鎖」または「huHF」と混用して用いられる。
【0046】
フェリチンは、その単量体のいくつかが自己集合して、組織的な構造またはパターンを形成する。本発明のフェリチンタンパク質はナノスケールの粒子である。例えば、免疫チェックポイント分子と結合可能な分子が融合したフェリチン単量体24個が自己集合し、フェリチンタンパク質を形成することができる。
【0047】
本発明のフェリチンタンパク質(タンパク質A)は球状であってもよい。球状の場合、例えばその粒径は8~50nmであってもよい。より具体的には、8nm~50nm、8nm~45nm、8nm~40nm、8nm~35nm、8nm~30nm、8nm~25nm、8nm~20nm、8nm~15nmであってもよい。
【0048】
本発明のフェリチンタンパク質(タンパク質A)は、外表面に免疫チェックポイント分子と結合可能な分子が融合したものである。フェリチンタンパク質の外表面に免疫チェックポイント分子と結合可能な分子が融合していれば、フェリチンタンパク質をなす全てのフェリチン単量体に免疫チェックポイント分子と結合可能な分子が融合している必要はない。
【0049】
例えば、免疫チェックポイント分子と結合可能な分子が融合したフェリチン単量体24個が自己集合してフェリチンタンパク質(タンパク質A)を形成するとき、24個のフェリチン単量体のうちの少なくとも1個のフェリチン単量体に免疫チェックポイント分子と結合可能な分子が融合していればよい。フェリチンタンパク質の外表面の免疫チェックポイント分子と結合可能な分子の密度を高めるために、24個のフェリチン単量体のすべてに免疫チェックポイント分子と結合可能な分子を融合することができる。
【0050】
フェリチンタンパク質(タンパク質A)をなす各フェリチン単量体には、免疫チェックポイント分子と結合可能な分子を1種または2種以上融合することができる。フェリチンタンパク質をなす各フェリチン単量体は、互いに異なる免疫チェックポイント分子と結合可能な分子が融合していてもよい。フェリチンタンパク質をなす各フェリチン単量体は、同じ免疫チェックポイント分子と結合可能な互いに異なる分子が融合していてもよい。
【0051】
免疫チェックポイント分子(Immune checkpoint molecule)は、T細胞に結合してT細胞を不活性化させる役割を果たす。このような免疫チェックポイント分子は、例えば、Her-2/neu、VISTA、4-1BBL、ガレクチン9(Galectin-9)、アデノシンA2a受容体(Adenosine A2a receptor)、CD80、CD86、ICOS、ICOSL、BTLA、OX-40L、CD155、BCL2、MYC、PP2A、BRD1、BRD2、BRD3、BRD4、BRDT、CBP、E2F1、MDM2、MDMX、PPP2CA、PPM1D、STAT3、IDH1、PD1、CTLA4、PD-L1、PD-L2、LAG3、TIM3、TIGIT、BTLA、SLAMF7、4-1BB、OX-40、ICOS、GITR、ICAM-1、BAFFR、HVEM、LFA-1、LIGHT、NKG2C、SLAMF7、NKp80、LAIR1、2B4、CD2、CD3、CD16、CD20、CD27、CD28、CD40L、CD48、CD52、EGFRファミリー、AXL、CSF1R、DDR1、DDR2、EPH受容体ファミリー、FGFRファミリー、VEGFRファミリー、IGF1R、LTK、PDGFRファミリー、RET、KIT、KRAS、NTRK1、NTRK2などであってもよい。
【0052】
免疫チェックポイント分子と結合可能な分子は、免疫チェックポイント分子に対するリガンド、抗体、またはそれらの断片であってもよい。
【0053】
免疫チェックポイント分子と結合可能な分子は、フェリチンタンパク質の外表面に露出することができれば、フェリチン単量体のどこに融合してもよい。免疫チェックポイント分子と結合可能な分子は、フェリチン単量体の自己集合を阻害しない位置に融合する。
【0054】
免疫チェックポイント分子と結合可能な分子がフェリチン単量体の内部に融合し、フェリチンタンパク質の構造が変化し得る。フェリチン単量体の各構成部分のうち、内側に入り込んだ部分は、免疫チェックポイント分子と結合可能な分子の融合によって外側に突出することができ、逆に、フェリチン単量体の各構成部分のうち、外側に突出していた部分は、免疫チェックポイント分子と結合可能な分子の融合によって内側に入り込むことができる。
【0055】
免疫チェックポイント分子と結合可能な分子は、フェリチンタンパク質(タンパク質A)がヒトトランスフェリン受容体との結合力を減少させるか、またはヒトトランスフェリン受容体との結合力を阻害する位置に融合することが好ましい。
【0056】
免疫チェックポイント分子と結合可能な分子は、その構造、分子量およびアミノ酸の長さを特定の範囲に限定しない。
【0057】
免疫チェックポイント分子と結合可能な分子は、例えば、そのアミノ酸の長さが25aa以下のリガンド、抗体、またはそれらの断片であってもよい。より具体的には、アミノ酸の長さが25aa以下、24aa以下、23aa以下、22aa以下、21aa以下、20aa以下、19aa以下、18aa以下、17aa以下、16aa以下、15aa以下、14aa以下、13aa以下、12aa以下、11aa以下、10aa以下、9aa以下、8aa以下、7aa以下、6aa以下、5aa以下であってもよい。また、例えば、そのアミノ酸の長さが3aa以上、4aa以上、5aa以上、6aa以上、7aa以上、8aa以上、9aa以上、10aa以上であってもよい。
【0058】
免疫チェックポイント分子と結合可能な分子の融合位置は、特定の位置に限定されず、例えば、フェリチン単量体の隣接するαヘリックスの間、N末端、C末端、ABループ、BCループ、CDループ、DEループ、N末端とAヘリックスの間、EヘリックスとC末端の間、ヘリックス内部などに融合することができる。
【0059】
本発明のフェリチンタンパク質(タンパク質A)は免疫チェックポイント分子と結合するように設計されているので、トランスフェリン受容体に対しては良好に結合しないことが好ましい。例えば、本発明のフェリチンタンパク質は、トランスフェリン受容体に対して下記数学式1を満たす。
【0060】
【0061】
(式中、K=[P][T]/[PT]であり、ここで、[P]は、フェリチンタンパク質とトランスフェリン受容体との結合反応の平衡状態におけるフェリチンタンパク質の濃度を示し、[T]は、前記平衡状態におけるトランスフェリン受容体の濃度を示し、[PT]は、前記平衡状態におけるフェリチンタンパク質とトランスフェリン受容体の複合体の濃度を示す。)
【0062】
前記結合力は、例えば、ヒトトランスフェリン受容体への結合力であってもよい。
【0063】
数学式1のKの値が、100nM以上、110nM以上、120nM以上、125nM以上、125nM超え、150nM以上、200nM以上、210nM以上、220nM以上、230nM以上、240nM以上、250nM以上、260nM以上、270nM以上、280nM以上、290nM以上、300nM以上、350nM以上、400nM以上、450nM以上、500nM以上、550nM以上、600nM以上、700nM以上、800nM以上、900nM以上、1000nM以上である。数学式1のKの値が大きいほど、トランスフェリン受容体への結合力が減少することを意味する。
【0064】
トランスフェリン受容体への結合力(K)は、本発明のフェリチンタンパク質(A)とトランスフェリン受容体との結合反応の平衡状態で測定される。平衡状態におけるフェリチンタンパク質の濃度([P])、トランスフェリン受容体の濃度([T])、および本発明のタンパク質とトランスフェリン受容体の複合体の濃度([PT])は、公知の様々な方法で測定できる。
【0065】
トランスフェリン受容体への結合力(K)は、例えばMST(Microscale Thermophoresis)法で測定できる。MST測定装置としては、Monolith NT.115がある。
【0066】
数学式1の濃度は、下記の数学式2および3を利用して得られたものであってもよい。
【0067】
【0068】
(式中、[PT]は、フェリチンタンパク質とトランスフェリン受容体の複合体の反応平衡状態における濃度、P0は、フェリチンタンパク質の初期濃度、T0は、トランスフェリン受容体の初期濃度、[P]は、フェリチンタンパク質の反応平衡状態における濃度、[T]は、トランスフェリン受容体の反応平衡状態における濃度をそれぞれ示す。)
【0069】
【0070】
(式中、[PT]は、フェリチンタンパク質とトランスフェリン受容体の複合体の反応平衡状態における濃度、P0は、フェリチンタンパク質の初期濃度、Xは、フェリチンタンパク質における、トランスフェリン受容体と複合体をなすタンパク質の割合である。)
【0071】
本発明のフェリチンタンパク質(タンパク質A)は、トランスフェリン受容体への結合力を低くするために、トランスフェリン受容体との結合に関与する部位に免疫チェックポイント分子と結合可能な分子を融合させることができる。例えば、本発明のフェリチンタンパク質のBCループおよびAヘリックスの部分に免疫チェックポイント分子と結合可能な分子が位置するように前記分子を融合させることができる。
【0072】
本発明のフェリチンタンパク質(タンパク質A)は、当該タンパク質をコードする配列を発現する微生物内で製造されるものであってもよい。
【0073】
微生物は、当該分野で公知の微生物を制限なく使用することができる。例えば、大腸菌であってもよく、具体的にはBL21(DE3)であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0074】
微生物系でタンパク質を製造する場合には、得られるタンパク質が細胞質に溶解した状態で存在する場合に分離/精製が容易である。多くの場合、製造されたタンパク質が封入体(inclusion body)などで凝集した状態で存在する。本発明のフェリチンタンパク質は、微生物生産システムにおいて細胞質に溶解した割合が高く示される。そのため、分離/精製および利用が容易である。
【0075】
本発明のフェリチンタンパク質(タンパク質A)は、例えば、それを製造する大腸菌システムにおいて、全タンパク質における水溶性画分の割合が40%以上の状態で製造できる。具体的には、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上であってもよい。その上限は、例えば100%、99%、98%、97%、96%などであってもよい。
【0076】
本発明は、以上のフェリチンタンパク質(タンパク質A)を含む癌の予防または治療用薬学組成物を提供する。以上のフェリチンタンパク質に関する全ての説明は、本発明の薬学組成物の有効成分としてのフェリチンタンパク質にそのまま適用される。
【0077】
本発明の薬学組成物は、薬学的に許容可能な担体を含むことができる。本発明で用語「薬学的に許容可能な担体」とは、生物体を非常に刺激せず、投与成分の生物学的活性および特性を阻害しない担体または希釈剤を指す。本発明における「薬学的に許容可能な担体」としては、生理食塩水、滅菌水、リンガー液、緩衝生理食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール及びこれらの成分のうちの1成分又は1成分以上を混合して使用することができる。必要に応じて、抗酸化剤、緩衝液および静菌剤などの他の通常の添加剤を添加して、組織または臓器に注入するのに適した注射剤の形で製剤化することができる。また、等張性滅菌溶液、または場合によって滅菌水や生理食塩水を添加して注射可能な溶液となり得る乾燥剤(特に凍結乾燥剤)に製剤化することもできる。さらに、標的器官に特異的に作用できるように、標的器官特異的な抗体または他のリガンドを前記担体と結合して使用することができる。
【0078】
また、本発明の組成物は、充填剤、賦形剤、崩壊剤、結合剤または滑沢剤をさらに含むことができる。さらに、本発明の組成物は、哺乳動物に投与された後に活性成分の迅速、持続または遅延放出を提供できるように当業界で公知の方法を使用して製剤化することができる。
【0079】
一実施形態では、前記薬学組成物は注射製剤であってもよく、静脈内投与されるものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0080】
本発明の用語「有効量」は、目的とする治療すべき特定の疾患の発症または進行を遅らせるか、または完全に増進するのに必要な量を意味する。
【0081】
本発明において、組成物は薬学的有効量で投与することができる。前記薬学組成物の適切な1日総使用量は、適切な医学的判断の範囲内で治療医によって決定され得ることは当業者にとって自明なことである。
【0082】
本発明の目的のために、特定の患者に対する具体的な薬学的有効量は、達成しようとする反応の種類および程度、場合によっては他の製剤が使用されるかどうかを含む具体的な組成物、患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別、食物、投与時間、投与経路、組成物の分泌率、治療期間、具体的な組成物と併用または同時使用される薬物を含む様々な因子および医薬分野でよく知られている類似因子によって異なるように適用することが好ましい。
【0083】
本発明において、前記薬学組成物は、必要に応じて薬物の製造、使用および販売を管轄する行政機関によって指定された方式での、容器に付帯する注意書きを添付してもよい。前記注意書きは、組成物の形またはヒトもしくは獣医的な投与に関する私益機関による認可を示し、例えば処方薬に関する米国食品医薬品局により認可された表示でもよい。
【0084】
癌は、例えば、脳癌、頭頸部癌、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、食道癌、白血病、肺癌、肝癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、直腸癌、腎臓癌、胃癌、精巣癌、子宮癌、血管腫瘍、扁平細胞癌種、腺癌種、小細胞癌種、黒色腫、神経膠腫、神経芽細胞腫、肉腫、喉頭癌、耳下腺癌、胆道癌、甲状腺癌、日光角化症、急性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病、腺様嚢胞癌、腺腫、腺扁平上皮癌腫、肛門管癌、肛門癌、肛門直腸癌、星細胞腫、バルトリン腺癌、基底細胞癌腫、胆汁癌、骨癌、骨髄癌、気管支癌、気管支腺癌腫、カルチノイド、胆管癌腫、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、淡明細胞癌腫、結合組織癌、嚢腺腫、消化器系癌、十二指腸癌、内分泌系癌、内胚葉洞腫瘍、子宮内膜増殖症、子宮内膜様腺癌、内皮細胞癌、上衣腫、上皮細胞癌、眼窩癌、局所性結節性過形成、胆嚢癌、幽門洞癌、胃基底部癌、ガストリノーマ、膠芽腫、グルカゴノーマ、心臓癌、血管芽細胞腫、血管内皮腫、血管腫、肝腺腫、肝腺腫症、肝胆道癌、肝細胞癌腫、ホジキン病、回腸癌、インスリノーマ、上皮内新生物、上皮内扁平細胞新生物、肝内胆道癌、浸潤性扁平細胞癌腫、空腸癌、関節癌、骨盤癌、巨細胞癌腫、大腸癌、リンパ腫、悪性中皮腫、髄芽腫、髄質上皮腫、脳膜癌、中皮癌、転移性癌腫、口腔癌、粘表皮癌、多発性骨髄腫、筋肉癌、鼻腔癌、神経系癌、非上皮皮膚癌、非ホジキンリンパ腫、燕麦細胞癌、乏突起膠腫、口腔癌、骨肉腫、漿液性乳頭状腺癌、陰茎癌、咽頭癌、下垂体腫瘍、形質細胞性腫瘍、偽肉腫、肺芽腫、直腸癌、腎細胞癌腫、呼吸器系癌、網膜芽細胞腫、漿液性癌、副鼻腔癌、皮膚癌、小細胞癌、小腸癌、平滑筋肉腫、軟部組織癌、ソマトスタチノーマ、脊椎癌、扁平細胞癌、線条筋肉癌、中皮細胞下層癌、T細胞白血病、舌癌、尿管癌、尿道癌、子宮頸癌、子宮体癌、膣癌、VIPoma、外陰部癌、高分化癌、およびウィルムス腫瘍からなる群より選択される癌であってもよい。
【0085】
本発明は、疾患抗原エピトープが融合したフェリチン単量体が自己集合してなり、トランスフェリン受容体への結合力(K)が下記数学式4を満たすタンパク質(タンパク質B)をさらに含む、癌の治療または予防用薬学組成物を提供する。
【0086】
【0087】
(式中、K=[P][T]/[PT]であり、ここで、[P]は、前記タンパク質と前記トランスフェリン受容体との結合反応の平衡状態における前記タンパク質の濃度を示し、[T]は、前記平衡状態における前記トランスフェリン受容体の濃度を示し、[PT]は、前記平衡状態における前記タンパク質と前記トランスフェリン受容体の複合体の濃度を示す。)
【0088】
前記トランスフェリン受容体への結合力は、ヒトトランスフェリン受容体への結合力であってもよい。
【0089】
前記数学式4で表される結合力は、例えば、数学式1で表される結合力を求める方法と同様の方法で求められたものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0090】
本発明の疾患抗原エピトープが融合したフェリチンタンパク質(タンパク質B)は、トランスフェリン受容体への結合力(K)が700nM以下、600nM以下、500nM以下、400nM以下、300nM以下、200nM以下、150nM以下、125nM以下、100nM以下、50nM以下、40nM以下、30nM以下、20nM以下、10nM以下などであってもよい。数学式4の濃度値が小さいほど、トランスフェリン受容体への結合力が高いことを意味する。例えば、その下限は0.5nM、1nM、1.5nM、2nM、2.5nM、3nM、3.5nM、4nM、4.5nM、5nMなどであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0091】
疾患抗原は、免疫応答によって予防、治療、軽減または改善できるあらゆる疾患の抗原であってもよい。例えば、疾患抗原は、癌細胞、病原体細胞、または病原体に感染した細胞の細胞表面抗原であってもよい。疾患抗原の抗原特異性を決定する特定の部位が疾患抗原エピトープである。
【0092】
疾患は、例えば癌または感染性疾患である。
【0093】
癌は、例えば、脳癌、頭頸部癌、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、食道癌、白血病、肺癌、肝癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、直腸癌、腎臓癌、胃癌、精巣癌、子宮癌、血管腫瘍、扁平細胞癌種、腺癌種、小細胞癌種、黒色腫、神経膠腫、神経芽細胞腫、肉腫、喉頭癌、耳下腺癌、胆道癌、甲状腺癌、日光角化症、急性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病、腺様嚢胞癌、腺腫、腺扁平上皮癌腫、肛門管癌、肛門癌、肛門直腸癌、星細胞腫、バルトリン腺癌、基底細胞癌腫、胆汁癌、骨癌、骨髄癌、気管支癌、気管支腺癌腫、カルチノイド、胆管癌腫、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、淡明細胞癌腫、結合組織癌、嚢腺腫、消化器系癌、十二指腸癌、内分泌系癌、内胚葉洞腫瘍、子宮内膜増殖症、子宮内膜様腺癌、内皮細胞癌、上衣腫、上皮細胞癌、眼窩癌、局所性結節性過形成、胆嚢癌、幽門洞癌、胃基底部癌、ガストリノーマ、膠芽腫、グルカゴノーマ、心臓癌、血管芽細胞腫、血管内皮腫、血管腫、肝腺腫、肝腺腫症、肝胆道癌、肝細胞癌腫、ホジキン病、回腸癌、インスリノーマ、上皮内新生物、上皮内扁平細胞新生物、肝内胆道癌、浸潤性扁平細胞癌腫、空腸癌、関節癌、骨盤癌、巨細胞癌腫、大腸癌、リンパ腫、悪性中皮腫、髄芽腫、髄質上皮腫、脳膜癌、中皮癌、転移性癌腫、口腔癌、粘表皮癌、多発性骨髄腫、筋肉癌、鼻腔癌、神経系癌、非上皮皮膚癌、非ホジキンリンパ腫、燕麦細胞癌、乏突起膠腫、口腔癌、骨肉腫、漿液性乳頭状腺癌、陰茎癌、咽頭癌、下垂体腫瘍、形質細胞性腫瘍、偽肉腫、肺芽腫、直腸癌、腎細胞癌腫、呼吸器系癌、網膜芽細胞腫、漿液性癌、副鼻腔癌、皮膚癌、小細胞癌、小腸癌、平滑筋肉腫、軟部組織癌、ソマトスタチノーマ、脊椎癌、扁平細胞癌、線条筋肉癌、中皮細胞下層癌、T細胞白血病、舌癌、尿管癌、尿道癌、子宮頸癌、子宮体癌、膣癌、VIPoma、外陰部癌、高分化癌、およびウィルムス腫瘍からなる群より選択されるものである。
【0094】
感染性疾患は、例えば、ウイルス、細菌、真菌、寄生虫またはプリオン感染症であってもよい。
【0095】
癌抗原エピトープは、gp100、MART-1、Melna-A、MAGE-A3、MAGE-C2、マンマグロビンA(Mammaglobin-A)、プロテイナーゼ3(Proteinase-3)、ムシン1(Mucin-1)、HPV E6、LMP2、PSMA、GD2、hTERT、PAP、ERG、NA17、ALK、GM3、EPhA2、NA17-A、TRP-1、TRP-2、NY-ESO-1、CEA、CA125、AFP、サバイビン(Survivin)、AH1、ras、G17DT、MUC1、Her-2/neu、E75、p53、PSA、HCG、PRAME、WT1、URLC10、VEGFR1、VEGFR2、E7、チロシナーゼ(Tyrosinase)ペプチド、B16F10、EL4または新生抗原(neoantigen)であってもよい。
【0096】
新生抗原は、腫瘍細胞内の体性突然変異によって誘導されて形成される免疫原性ペプチドを意味する。新生抗原は、MHC Iと複合体を形成し、腫瘍細胞の表面に移動して抗原エピトープで表され得るが、T細胞受容体(T-cell receptor,TCR)が新生抗原-MHCI複合体を認識して免疫応答を誘導する。
【0097】
疾患抗原エピトープは、フェリチン単量体に融合できるものであれば、その長さを特定のものに限定しない。
【0098】
疾患抗原エピトープは、フェリチン単量体の自己集合を阻害しないものであれば、その長さを特定のものに限定しない。
【0099】
疾患抗原エピトープは、フェリチン単量体のどこにでも融合できる。疾患抗原エピトープは、フェリチン単量体の自己集合を阻害しない位置に融合される。疾患抗原エピトープは、ヒトトランスフェリン受容体との結合のために、タンパク質の表面に露出するようにフェリチン単量体に融合されることが好ましい。
【0100】
疾患抗原エピトープは、例えば、そのアミノ酸の長さが25aa以下、24aa以下、23aa以下、22aa以下、21aa以下、20aa以下、19aa以下、18aa以下、17aa以下、16aa以下、15aa以下、14aa以下、13aa以下、12aa以下、11aa以下、10aa以下、9aa以下、8aa以下、7aa以下、6aa以下、5aa以下であってもよい。
【0101】
疾患抗原エピトープは、例えば、そのアミノ酸の長さが3aa以上、4aa以上、5aa以上、6aa以上、7aa以上、8aa以上、9aa以上、10aa以上であってもよい。
【0102】
フェリチン単量体に疾患抗原エピトープが融合することにより、フェリチン単量体が自己集合したタンパク質(タンパク質B)のヒトトランスフェリン受容体との結合力を向上することができる。フェリチン単量体の各構成部分のうち内側に入り込んでいる部分は、疾患抗原エピトープの結合後に外側に突出することができる。
【0103】
疾患抗原エピトープのフェリチン単量体における融合位置は、特定の位置に限定されず、例えば、隣接するαヘリックスの間、N末端、C末端、ABループ、BCループ、CDループ、DEループ、N末端とAヘリックスの間、EヘリックスとC末端の間、ヘリックス内部などに融合することができる。
【0104】
疾患抗原エピトープは、隣接するαヘリックスの間の少なくとも一つに融合することができる。また、疾患抗原エピトープは、フェリチン単量体のN末端またはC末端に融合することができる。また、疾患抗原エピトープは、フェリチン単量体のABループ、BCループ、CDループまたはDEループに融合することができる。また、疾患抗原エピトープは、フェリチン単量体のN末端とAヘリックスの間、またはEヘリックスとC末端の間に融合することができる。また、疾患抗原エピトープは、フェリチン単量体の各ヘリックスの少なくとも一つの内部に融合することができる。
【0105】
本発明のタンパク質(タンパク質B)は、疾患抗原エピトープが融合したフェリチン単量体が自己集合してなるものである。
【0106】
フェリチンは、その単量体のいくつかが集まったとき、それら自身が組織的な構造またはパターンを形成して集合体を形成する自己集合型タンパク質であり、別に操作しなくてもナノスケールのタンパク質の形成が可能である。
【0107】
本発明による疾患抗原エピトープが融合したフェリチン単量体もまた、自己集合タンパク質の形態を成す。例えば、24個のフェリチン単量体が自己集合して球状の粒子を形成することができる。
【0108】
本発明の疾患抗原エピトープが融合したタンパク質が粒子をなす場合、その粒径は例えば8~50nmであってもよい。具体的には、8nm~50nm、8nm~45nm、8nm~40nm、8nm~35nm、8nm~30nm、8nm~25nm、8nm~20nm、8nm~15nmなどであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0109】
疾患抗原エピトープが融合したフェリチン単量体が自己集合してなり、トランスフェリン受容体に結合するタンパク質(タンパク質B)は、抗原提示細胞である樹状細胞の表面に存在するトランスフェリン受容体(TfR)と結合する。これにより、融合した抗原エピトープが樹状細胞に流入および提示され、免疫系が当該抗原を認識して免疫応答するようにする。
【0110】
疾患抗原エピトープが融合したフェリチン単量体が自己集合してなり、トランスフェリン受容体に結合するタンパク質(タンパク質B)は、ヒトフェリチン重鎖タンパク質と疾患抗原エピトープとの間にリンカーペプチドがさらに含まれたものであってもよい。前記リンカーペプチドは、エピトープに柔軟性を付与してタンパク質の表面表出性を高めるための配列であれば制限しないが、例えば配列番号36~配列番号38のアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0111】
前記リンカーペプチドは、疾患抗原エピトープ間の適切な空間を確保する長さを有することができる。例えば、リンカーペプチドは、1~20個、3~18個、4~15個、8~12個のアミノ酸からなるペプチドであってもよい。前記リンカーペプチドの長さ及び/又はアミノ酸の組成を調整することにより、疾患抗原エピトープ間の間隔および配向を調整することができる。
【0112】
本発明の薬学組成物は、前記2種のタンパク質(タンパク質A、B)を併用投与することができる。
【0113】
併用投与時の投与順序は限定されず、例えば2種のタンパク質を同時投与してもよく、個別または順次投与してもよい。順次投与時には、外表面に免疫チェックポイント分子と結合可能な分子が融合したフェリチンタンパク質を先に投与してもよく、疾患抗原エピトープが融合したフェリチン単量体が自己集合してなるタンパク質を先に投与してもよい。
【0114】
本発明は、以上のフェリチンタンパク質(タンパク質A)を含む癌の治療方法を提供する。以上のフェリチンタンパク質に関する全ての説明は、本発明の癌の治療方法の有効成分としてのフェリチンタンパク質にそのまま適用される。
【0115】
本発明の治療方法は、癌に罹患した対象に本発明のフェリチンタンパク質(タンパク質A)を投与するステップを含む。
【0116】
癌に罹患した個体は、癌に罹患した動物、具体的には癌に罹患した哺乳類であってもよく、より具体的には癌に罹患したヒトであってもよい。
【0117】
癌は、例えば、脳癌、頭頸部癌、膀胱癌、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、食道癌、白血病、肺癌、肝癌、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、直腸癌、腎臓癌、胃癌、精巣癌、子宮癌、血管腫瘍、扁平細胞癌種、腺癌種、小細胞癌種、黒色腫、神経膠腫、神経芽細胞腫、肉腫、喉頭癌、耳下腺癌、胆道癌、甲状腺癌、日光角化症、急性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病、腺様嚢胞癌、腺腫、腺扁平上皮癌腫、肛門管癌、肛門癌、肛門直腸癌、星細胞腫、バルトリン腺癌、基底細胞癌腫、胆汁癌、骨癌、骨髄癌、気管支癌、気管支腺癌腫、カルチノイド、胆管癌腫、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、淡明細胞癌腫、結合組織癌、嚢腺腫、消化器系癌、十二指腸癌、内分泌系癌、内胚葉洞腫瘍、子宮内膜増殖症、子宮内膜様腺癌、内皮細胞癌、上衣腫、上皮細胞癌、眼窩癌、局所性結節性過形成、胆嚢癌、幽門洞癌、胃基底部癌、ガストリノーマ、膠芽腫、グルカゴノーマ、心臓癌、血管芽細胞腫、血管内皮腫、血管腫、肝腺腫、肝腺腫症、肝胆道癌、肝細胞癌腫、ホジキン病、回腸癌、インスリノーマ、上皮内新生物、上皮内扁平細胞新生物、肝内胆道癌、浸潤性扁平細胞癌腫、空腸癌、関節癌、骨盤癌、巨細胞癌腫、大腸癌、リンパ腫、悪性中皮腫、髄芽腫、髄質上皮腫、脳膜癌、中皮癌、転移性癌腫、口腔癌、粘表皮癌、多発性骨髄腫、筋肉癌、鼻腔癌、神経系癌、非上皮皮膚癌、非ホジキンリンパ腫、燕麦細胞癌、乏突起膠腫、口腔癌、骨肉腫、漿液性乳頭状腺癌、陰茎癌、咽頭癌、下垂体腫瘍、形質細胞性腫瘍、偽肉腫、肺芽腫、直腸癌、腎細胞癌腫、呼吸器系癌、網膜芽細胞腫、漿液性癌、副鼻腔癌、皮膚癌、小細胞癌、小腸癌、平滑筋肉腫、軟部組織癌、ソマトスタチノーマ、脊椎癌、扁平細胞癌、線条筋肉癌、中皮細胞下層癌、T細胞白血病、舌癌、尿管癌、尿道癌、子宮頸癌、子宮体癌、膣癌、VIPoma、外陰部癌、高分化癌、およびウィルムス腫瘍からなる群より選択される癌であってもよい。
【0118】
タンパク質(タンパク質A)は治療上有効量で投与することができる。
【0119】
本発明で用語「投与」とは、いかなる適切な方法で患者に本発明の組成物を導入することを意味する。本発明の組成物の投与経路は、目的の組織に到達できる限り、経口または非経口の様々な経路を介して投与することができる。腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、経口投与、局所投与、鼻腔内投与、肺内投与、または直腸内投与することができるが、これらに限定されるものではない。
【0120】
本発明の方法は、前記個体に疾患抗原エピトープが融合したフェリチン単量体が自己集合してなるタンパク質(タンパク質B)を投与するステップをさらに含むことができる。
【0121】
疾患抗原エピトープは、癌抗原エピトープであってもよく、先に具体的に例示した癌抗原エピトープであってもよい。
【0122】
疾患抗原エピトープが融合したフェリチン単量体が自己集合してなるタンパク質(タンパク質B)は、免疫チェックポイント分子と結合可能な分子が融合したフェリチンタンパク質と同時または順次投与することができる。
【0123】
順次投与される場合、その順序は限定されず、疾患抗原エピトープが融合したフェリチン単量体が自己集合してなるタンパク質(タンパク質B)は、免疫チェックポイント分子と結合可能な分子が融合したフェリチンタンパク質(タンパク質A)の投与前または投与後に投与することができる。
【0124】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明することとする。
【0125】
実施例
1.候補タンパク質を合成するための発現ベクターの製造
huHFは、24個の単量体で構成された球状タンパク質(12nm)であり、各単量体は合計5個のαヘリックスで構成されている。本発明者らは、huHF単量体の各αヘリックスの間のループ(PDB 3AJOシーケンスを基準にhuHF 5T~176G中のABループ;45D/46Vの間、BCループ;92D/93W、CDループ;126D/127P、DEループ;162E/163S)とN末端およびC末端に実際の腫瘍抗原の1つであるgp100ペプチドを遺伝子クローニングにより挿入することで、huHFの様々な位置にgp100ペプチドが挿入された送達体を確保した(
図1および
図2)。本発明者らは、以前の研究(米国登録特許10,206,987)において、センチネルリンパ標的効率が最も良いhuHFナノ粒子の表面構成を癌特異抗原送達ナノ粒子に選定した。
【0126】
そこで、下記表1の候補タンパク質を下記表2のベクター模式図に従ってPCRを行い、タンパク質huHF、huHF-gp100(SEQ ID NO:1;メラノーマ特異抗原)、OVA(SEQ ID NO:2)、AH1(SEQ ID NO:3)(AB;45D/46V、BC;92D/93W、CD;126D/127P、DE;162E/163S、N末端、C末端)、huHF-PD1(SEQ ID NO:4;PD1ドメイン中の活性部位)、huHF-TPP1(SEQ ID NO:5)(AB、CDループ)、huHF-αPD-L1 HCDR3(SEQ ID NO:6)(CDループ、C末端)およびhuHF-smPD1(SEQ ID NO:7)粒子を作製した。ここで、前記OVAは免疫特異抗原であり、AH1は大腸癌細胞の腫瘍特異抗原、gp100は黒色腫細胞の腫瘍特異抗原として使用した。製造された全てのプラスミド発現ベクターをアガロースゲルで精製し、完全なDNAシーケンシングによって配列を確認した。
【0127】
具体的には、表3のプライマーセットを用いて、各々の発現ベクターの製造に必要なPCR産物を順次にプラスミドpT7-7ベクターに挿入し、各々のタンパク質を発現できる発現ベクターを構成した。このとき、下記表4のリンカーペプチドをさらに含むことができる。
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
2.候補タンパク質の生合成
大腸菌菌株BL21(DE3)[F-ompThsdSB(rB-mB-)]を前記で製造された発現ベクターでそれぞれ形質転換し、アンピシリン-抵抗性形質転換体を選択した。形質転換された大腸菌を、50mLのLB(Luria-Bertani)培地(100mgのL-1アンピシリンを含有)を含有するフラスコ(250mL三角フラスコ、37℃、150rpm)で培養した。培地の濁度(O.D600)が約0.5~0.7に達したとき、IPTG(Isopropyl-β-Dthiogalactopyranosid)(1.0mM)を注入して組換え遺伝子の発現を誘導した。
【0133】
20℃で16~18時間培養した後、培養した大腸菌を4,500rpmで10分間遠心分離して菌体沈殿物を回収し、5mlの破砕溶液(10mM Tris-HCl緩衝液、pH7.5、10mM EDTA)に懸濁し、超音波破砕機(Branson Ultrasonics Corp.、Danbury、CT、USA)を用いて破砕した。破砕後、13,000rpmで10分間遠心分離し、上澄み液と不溶性凝集体を分離した。分離した上澄み液を後の実験に使用した。
【0134】
3.候補タンパク質の精製及び蛍光物質の付着
前記実施例2で得られた上澄み液を3段階の過程を経て精製した。まず、1)組換えタンパク質に融合したヒスチジンとニッケルの結合を用いたNi2+-NTAアフィニティークロマトグラフィーを行った後、2)組換えタンパク質を濃縮し、バッファー交換によって蛍光物質を付着し、3)最後に、蛍光物質が付着した自己集合タンパク質のみを分離するために、スクロース勾配超遠心分離(ultracentifugation)を行った。各段階の詳細は以下の通りである。
【0135】
1)Ni2+-NTAアフィニティークロマトグラフィー
組換えタンパク質を精製するために、前記と同様の方法で培養された大腸菌を回収し、その細胞ペレットを5mLのライシスバッファー(pH8.0、50mMリン酸ナトリウム、300mM NaCl、20mMイミダゾール)に再浮遊し、超音波破砕機を用いて細胞を破砕した。破砕した細胞液を13,000rpmで10分間遠心分離してその上澄み液のみを分離した後、各組換えタンパク質をNi2+-NTAカラム(Qiagen, Hilden, Germany)を用いてそれぞれ分離した(洗浄バッファー:pH8.0、50mMリン酸ナトリウム、300mM NaCl、80mMイミダゾール/溶出バッファー:pH8.0、50mMリン酸ナトリウム、300mM NaCl、200mMイミダゾール)。
【0136】
2)濃縮とバッファー交換および蛍光物質の付着過程
イメージングのために、huHF-gp100粒子とhuHF-PD1粒子は、Ni2+-NTAアフィニティークロマトグラフィーを経て溶出された3mlの組換えタンパク質を、超遠心ろ過器(Ultracentrifugal filter、Amicon Ultra 100K、Millipore、Billerica、MA)に入れて、カラムの上に1mlの溶液が残るまで5,000gで遠心分離を行った。その後、NIR蛍光物質であるcy5.5およびFITC(フルオレセインイソチオシアン酸塩)を付着するために、タンパク質粒子を重炭酸ナトリウム(sodium bicarbonate)(0.1M、pH8.5)バッファーでバッファー交換を行い、常温で12時間蛍光物質を付着した。
【0137】
3)スクロース勾配超高速遠心分離
PBS(2.7mM KCl、137mM NaCl、2mM KH2PO4、10mM Na2HPO4、pH7.4)バッファーにスクロースを濃度別にそれぞれ添加し、40%、35%、30%、25%、20%のスクロースを含む溶液をそれぞれ準備した。その後、超高速遠心分離用チューブ(ultraclear 13.2ml tube、Beckman)に各濃度別(45~20%)のスクロース溶液を濃度の高い溶液から2mlずつ入れた後、準備した自己集合用バッファーに存在する組換えタンパク質溶液を1ml充填した後、35,000rpmにおいて4℃で16時間超高速遠心分離を行った(Ultracentrifuge L-90k、Beckman)。遠心分離後、慎重にパイペットを用いて上層(20-25%スクロース溶液部分)を、前記2)に記載されているように超遠心ろ過器(Ultracentrifugal filter)とPBSバッファーを用いて組換えタンパク質のバッファーを交換した。
【0138】
4.タンパク質粒子の集合の検証
実施例3で製造した各タンパク質(gp100-huHF-loops、huHF-PD1、huHF-TPP1、huHF-αPD-L1 HCDR3、huHF-smPD1)の精製された組換えタンパク質の構造を分析するために、透過電子顕微鏡(TEM)で組換えタンパク質を撮影した。まず、染色していない精製タンパク質のサンプルを、カーボンコートされた銅電子顕微鏡グリッド(grids)に載せて自然乾燥した。タンパク質の染色された画像を得るために、自然乾燥したサンプルを含む電子顕微鏡グリッドを2%(w/v)水性ウラニルアセテート溶液と共に10分間室温でインキュベートし、蒸留水で3~4回洗浄した。タンパク質の画像をフィリップスTechnai 120kV電子顕微鏡を用いて観察したところ、各々の粒子が球状のナノ粒子を形成することを確認した(
図3および
図5)。また、DLS(dynamic light scattering)測定により、各gp100-huHF-loops、huHF-PD1、huHF-TPP1(AB、CDループ)、huHF-αPD-L1 HCDR3(CDループ、C末端)、huHF-smPD1粒子の直径をソルーション中で測定した(
図3および
図5)。
【0139】
5.OVA-huHF-loopsタンパク質とTfRとの結合能の測定およびhuHF-PD1、huHF-TPP1(AB、CDループ)、huHF-αPD-L1 HCDR3(CDループ、C末端)、huHF-smPD1タンパク質とPD-L1の結合能の測定
本発明者らは、huHF送達体の免疫細胞活性増強効果を証明するために、実施例3で製造した各タンパク質(gp100-huHF-loops)の精製された組換えタンパク質とTfR(transferrin receptor)との結合能をMST(Microscale Thermophoresis)装置により測定した。その結果、腫瘍抗原を含んでいないhuHFナノ粒子が最もTfRとの結合能に優れており、CDヘリックスの間に腫瘍抗原が挿入されたCD-loop-gp100ナノ粒子の結合能がその次に優れていることを確認した。このことから、CD-loop-gp100粒子が最もTfRとの結合を阻害しないことを間接的に確認した(
図4)。
【0140】
プログラム細胞死タンパク質1(Programmed cell death protein 1、PD-1)は、T細胞の表面にあるタンパク質であり、癌細胞の表面に発現されるPD-L1と結合してT細胞の活性低下を誘導する。このため、癌細胞の表面に発現されるPD-L1と結合するPD-1の結合部位が表面表出されたタンパク質を用いてT細胞のPD-1とPD-L1の結合抑制を誘導する場合、T細胞活性抑制の低下により、抗癌免疫治療の効率増加を期待できる。本発明者らが開発しようとしたPD-1、CTLA-4抗体作用部位をタンパク質の表面に表出させるより、PD-L1と結合するPD-1の結合部位をタンパク質の表面に表出させて自己集合を誘導することが、タンパク質発現量の観点で効率的であると判断し、PD-1のPD-L1結合部位をhuHFに合成した(PD-1シーケンスにおける結合活性部位22G-170V)、PD-L1ターゲティング能ペプチドTPP1、PD-L1抗体のHCDR3シーケンス、PD-L1の結合活性部位(スモールPD1ドメイン))。
【0141】
ナノ粒子の遺伝子クローニングを行った後、それを発現し、タンパク質自己集合によって粒子合成を誘導した。これは、TEM画像から確認し、実際に合成したhuHF-PD1タンパク質がPD-1リガンド(PD-L1)と実際に結合するかを確認するために、実施例3で製造したhuHF-PD1タンパク質とPD-L1の結合能(binding affinity;Kd)を、ELISA法を用いて測定した。2ug/mlの濃度でPDL1組換えタンパク質を96-ウェルプレートに16-18時間バインディングした後、現在使用されている免疫抗体治療剤であるPD-L1抗体およびhuHF-PD1タンパク質とPD-L1の結合能を、ラングミュアの式(Langmuir equation)を用いて計算した。
【0142】
結合能の測定結果、huHF-PD1と組換えタンパク質PD-L1のKdの値がPD1-PDL1結合アフィニティ文献値である770nMよりも高い327.59nMと測定された。これはPD-L1とPD-L1抗体のKdの値である255.10nMと近似していた。このことから、PD-1結合ドメインをhuHF表面上に表出させて製造したタンパク質がPD-L1との結合能を有することを確認した(
図5)。
【0143】
さらに、実際に合成したhuHF-αPD-L1 HCDR3(CDループ、C末端)タンパク質とPD-L1との結合能もELISA法で測定した。huHF-αPD-L1 HCDR3(CDループ)粒子は71.24nM、huHF-αPD-L1 HCDR3(C末端)粒子は38.43nMとそれぞれ測定され、これらのタンパク質もまたPD-L1との結合能を有することを確認した(
図5)。
【0144】
さらに、実際に合成したhuHF-TPP1(AB、CDループ)タンパク質がPD-1リガンド(PD-L1)と実際に結合するかを確認するために、実施例3で製造したhuHF-TPP1タンパク質とPD-L1の結合能(binding affinity;Kd)をMST(Microscale Thermophoresis)装置により測定した。
【0145】
測定の結果、huHF-TPP1(ABループ)のPD-L1とのKdの値は72.105nM、huHF-TPP1(CDループ)のPD-L1とのKdの値は115.16nM、huHF-αPD-L1 HCDR3(CDループ)のKdの値は71.24nM、huHF-αPD-L1 HCDR3(C末端)のKdの値は38.43nMと測定された(
図5)。
【0146】
6.gp100-huHF-loopsタンパク質の樹状細胞の取込(uptake)実験とhuHF、huHF-PD1、huHF-TPP1(AB、CDループ)、huHF-αPD-L1 HCDR3(CDループ、C末端)、huHF-smPD1 PDL1抗体治療剤の大腸癌細胞ターゲティング能の検証
実施例3で製造した蛍光物質が付着したgp100-huHF-loopsの各タンパク質とhuHFタンパク質の樹状細胞の取込(uptake)効率を比較した。
【0147】
各ナノ粒子を300nMで30分間樹状細胞に反応させた後、蛍光シグナルを共焦点顕微鏡装置(LSM 700)により測定した。CDヘリックスの間に腫瘍抗原が挿入されたCD-loop-gp100タンパク質の結合能がhuHF自体のタンパク質の次に優れていることを確認した。このことから、CD-loop-gp100タンパク質が最もTfRとの結合を阻害しないことをまた間接的に確認した(
図6)。
【0148】
実施例3で製造した蛍光物質が付着したhuHF、huHF-PD1、huHF-TPP1(AB、CDループ)、huHF-αPD-L1 HCDR3(CDループ、C末端)、huHF-smPD1タンパク質のCT26大腸癌およびB16F10黒色腫に対するターゲティング効率を比較するために、CT26大腸癌細胞およびB16F10黒色腫細胞に300nMの濃度でタンパク質を反応させた後、蛍光シグナルを比較して細胞取込(cell uptake)効率を確認した。その結果、
図7a~
図7cに示すように、対照群であるhuHFタンパク質よりもhuHF-PD1(
図7a)、huHF-αPD-L1 HCDR3(CDループ、C末端)(
図7b)、huHF-TPP1(AB、CDループ)(
図7c)、huHF-smPD1(
図7c)タンパク質が癌細胞と結合して蛍光シグナルを示すことを確認した。また、20分間癌細胞の表面に発現されたPD-L1をマスキングできるPD-L1抗体を処理した後、huHFタンパク質、huHF-PD1タンパク質、およびhuHF-αPD-L1 HCDR3タンパク質、huHF-smPD1タンパク質をそれぞれ反応させた場合には両方とも結合しないことを確認した。
【0149】
7.製造されたタンパク質を用いたNIR画像の解析
前記の実験結果に基づいて、前記実施例3で製造した5つのタンパク質を、蛍光度を合わせて5週齢のヌードマウス(各実験群当たりn=3)に注入した後、gp100抗原発現腫瘍を皮下注射法(food pad injection)で注入し、一定期間の間、腫瘍の成長程度を分析して、huHF-gp100 loopタンパク質のすべてがリンパ節へのターゲティング効率が良いのかを確認した。各々の粒子を20μlずつマウスの右足に注入し、1時間実験を行った。
【0150】
その結果、
図8に示すように、ABループ、BCループ、CDループ、DEループ、N末端、C末端に癌特異的抗原ペプチドを挿入した場合、全てのタンパク質においてリンパ節に対するナノ粒子の送達効率が良いことを確認した。癌抗原特異的免疫細胞の活性を最も増強させたgp100-huHF(126ループ)ナノ粒子を注入した群において、腫瘍成長抑制効果が最も高いことを確認した。
【0151】
また、huHF-PD1タンパク質が実際に腫瘍細胞の表面に導出されているPD-L1と結合するかを確認するために、cy5.5蛍光物質を付着したhuHFタンパク質とhuHF-PD1タンパク質をCT-26大腸癌細胞が成長したマウスに注入して癌ターゲティング効率を比較した。このとき、比較群としては実際に臨床で使用されているPD-L1抗体治療剤を用いた。マウスに注射してから2日間、体内で粒子が腫瘍にターゲティングされる様子をCy5.5バンドパス発光フィルタ(bandpass emission filter)およびスペシャルCマウントレンズ(special Cmount lens)またはIVISスペクトラムイメージングシステム(IVIS Spectrum imaging system、Caliper Life Sciences、Hopkinton、MA)で観察した(
図9;右下のグラフのY軸は体内保持時間を示す。)。
【0152】
その結果、
図9に示すように、対照群であるhuHFタンパク質よりもhuHF-PD1タンパク質が、癌細胞ターゲティング効率が良いことが分かった。しかし、前記の結果では、実際の抗体治療剤がhuHF-PD1タンパク質よりも癌ターゲティング効率と体内保持時間が良好に見えたが、これは抗体治療剤の体内保持時間が長すぎて示される結果であり、これは体内免疫副作用の問題と直結する。したがって、本発明によるタンパク質は副作用の効果と副作用の側面においていずれも利点を有することを確認した。
【0153】
8.CD8+T細胞アッセイによる特定のサイトカインの分泌確認実験
実施例1~3の方法でPBS(バッファー)とhuHF-gp100ループタンパク質を製造し、C57BL/6に1週に1回ずつ合計3週間ワクチン注入によってリンパ節内の免疫細胞の免疫応答をブースト(boosting)した後、その免疫細胞が集まる脾臓を摘出して粉砕した。粉砕した脾臓内でgp100メラノーマ特異的抗原により特異的に免疫応答が誘導されたCD8+T細胞を抽出した後、インビトロ(in vitro)上で免疫応答を起こすことが知られているgp100の特定部分抗原ペプチド(KVPRNQDWL)を用いて、T細胞と反応させてgp100特異的なサイトカインが分泌されるかどうかをFACS分析により確認した。その結果、126-gp100-huHFタンパク質を注入したマウスの脾臓から抽出したCD8+T細胞からサイトカインが最も多く分泌されることを確認した(
図10)。
【0154】
9.MHC-OVA発現(presentation)の確認および樹状細胞の表面の共刺激作動因子(co-stimulatory effector)の発現検証実験
実施例1~3の方法でPBS(バッファー)とhuHF-OVAループタンパク質を製造し、C57BL/6に1週に1回ずつ合計3週間ワクチン注入によってリンパ節内の免疫細胞の免疫応答をブースト(boosting)した後、その免疫細胞が集まる脾臓を摘出して粉砕した。粉砕した脾臓内でOVA免疫ペプチドがMHC-Iによって表面表出された樹状細胞(DC)を捕捉する抗体を用いて、樹状細胞の表面にペプチドを最も良好に露出させるタンパク質を確認した。
【0155】
その結果、CDループにOVAペプチドを入れたナノ粒子が、MHC-Iの上にペプチドの表面表出を最も良好に誘導することを確認した。この結果は、免疫治療を行うに当たり、細胞傷害T細胞(cytotoxic t cell)の活性を最も効果的にすることができることを反証する結果である。
【0156】
この実験はFACS(flow cytometry)によって行った(
図11A)。
【0157】
また、huHFタンパク質自体が免疫応答の効率増強に影響するかどうかを調べるために、同じ粒子で樹状細胞の表面に表出されるMHC-II、CD40、CD80およびCD86の発現率を比較した。
【0158】
その結果、CD、DE、C末端の順に共刺激作動因子(co-stimulatory effector)が発現することを確認した(
図11B)。
【0159】
10.癌成長阻害実験I(Vaccination;予防)
前記の実験結果に基づいて、huHF、huHF-gp100ループ(10μM)タンパク質およびPBSバッファーのみのサンプルをそれぞれC57BL/6マウス(n=3)に1週間間隔で3回、皮下注射で注入した。その後、1週間免疫応答が起こるように時間を置いた後、各々のマウスにB16F10細胞株を植え、癌の成長速度を観察した。
【0160】
癌細胞のサイズは下記式で計算した。
【0161】
【0162】
その結果、huHF-CD-gp100、huHF-DE-gp100、huHF-gp100-C末端粒子の順に腫瘍成長抑制効果があることを確認した(
図12)。
【0163】
11.癌成長阻害実験II(治療)
本発明者らは、前記huHF-PD1タンパク質が、実際の抗体治療剤であるPD-L1抗体と比較して、免疫チェックポイント抑制による癌治療効果を有するかどうかを判断するために、一定のサイズの大腸癌腫瘍(CT26)が形成されたマウスBalb/cを用いて、3日間隔でPBS、PD-L1抗体、huHF-PD1タンパク質を静脈注射で注入した。観察の結果、huHF-PD1タンパク質が抗体治療剤と類似した腫瘍治療効果を示すことを確認した(
図13)。
【0164】
次に、第1タンパク質(CD loop-huHF)と第2タンパク質(huHF-PD1)が、生体内で実際に腫瘍成長抑制および併用治療時の相乗効果を有するかを確認した。そのために、一定のサイズの腫瘍が形成されたマウスに最も優れた腫瘍成長抑制効果を示したCDループに当該癌特異的抗原エピトープ(gp100およびAH1)が挿入されたhuHF-CD loop-gp100およびhuHF-CD loop-AH1(10μM)タンパク質をマウスに対して3日間隔で皮下注入法で注入した。それと同時に、huHF-PD1(5μM)と対照群であるPD-L1抗体治療剤のサンプルを3日間隔で、静脈注射法で注入した。huHF-CD loop-gp100タンパク質を用いた実験では、B16F10黒色腫が形成されたC57BL/6マウスを使用した。huHF-CD loop-AH1タンパク質を用いた実験では、CT26大腸癌が形成されたBalb/cマウスを使用した。各実験では実験群当たり5匹を使用し、癌細胞のサイズは下記式で計算した。
【0165】
【0166】
ここで、実験群としては1)無処理群(No treat)、2)第1タンパク質処理群(AH1-huHFおよびgp100-huHF)、3)抗体治療剤処理群(α-PD-L1)、4)第2タンパク質処理群(huHF-PD1)、5)第1タンパク質と抗体治療剤の併用投与群(AH1-huHF+α-PD-L1およびgp100-huHF+α-PD-L1)、および、6)第1タンパク質と第2タンパク質の併用投与群(AH1-huHF+huHF-PD1およびgp100-huHF+huHF-PD1)を使用した。
【0167】
実験の結果、本発明による第1タンパク質(CD loop-gp100またはAH1)と第2タンパク質(huHF-PD1)を処理した6番実験群で腫瘍治療効果が最も優れていることを確認した。また、各実験群の生存率も測定した(
図14)。
【0168】
12.癌成長阻害を確認するためのインビトロ免疫実験
本発明者らは、huHF-PD1タンパク質が実際の抗体治療剤であるPDL1抗体と比較して、免疫チェックポイント抑制による癌治療効果があるかどうかを判断するために、PD-L1抗体とhuHF-PD1タンパク質の癌細胞との反応時のT-細胞の活性反応と癌細胞の死滅効率を比較した。大腸癌および黒色腫の癌細胞にPDL1抗体とhuHF-PD1タンパク質を処理した後、インビトロでT細胞の反応を観察した場合、huHF-PD1タンパク質を処理した実験群でPD-L1抗体を処理した実験群よりもCD8+細胞から誘導される癌細胞死可能な特異的サイトカインIFN-γがさらに検出されることを確認し、追加に癌細胞死率もより高いことを確認した。このことから、huHF-PD1タンパク質がPD-L1抗体よりも癌細胞治療効果が良いと予測した(
図15A、B)。また、実験群1)無処理群(No treat)、2)第1タンパク質処理群(AH1-huHFおよびgp100-huHF)、3)抗体治療剤処理群(α-PD-L1)、4)第2タンパク質処理群(huHF-PD1)、5)第1タンパク質と抗体治療剤の併用投与群(AH1-huHF+α-PD-L1およびgp100-huHF+α-PD-L1)、および、6)第1タンパク質と第2タンパク質の併用投与群(AH1-huHF+huHF-PD1およびgp100-huHF+huHF-PD1)に対するT細胞の活性反応も観察した。その結果、腫瘍成長抑制の結果が最も良好であった6番実験群(AH1-huHF+huHF-PD1およびgp100-huHF+huHF-PD1)においてT細胞の活性が最も優れていることをまた確認した(
図15C)。
【0169】
13.従来の抗体治療剤と本発明者らが開発した代替治療剤のhuHF-PD1との免疫副作用の比較実験
本発明者らは、huHF-PD1タンパク質は、実際の抗体治療剤であるPDL1抗体と比較して、免疫チェックポイント抑制による癌治療効果を有するとともに、生体内注入時の免疫副作用の誘発程度も減少することを証明した。従来の抗体治療剤の最大の問題は、タンパク質の投入時の体内長期間蓄積による免疫副作用誘発の問題である。この免疫副作用を引き起こす最も代表的なサイトカインはIL-17と知られている。そこで、本発明者らは実施例11で説明した1~6番実験群の血液サンプルを用いて、IL-17検出テストを行った。
【0170】
その結果、抗体治療剤を用いた実験群である3番と5番でのみIL-17が検出されることを確認した。このことから、本発明によるタンパク質は、免疫副作用の誘発程度がより低いことを確認した(
図16)。
【0171】
14.癌成長阻害実験III(手術後のrechallenge)
実施例11での癌成長阻害実験の結果、第1タンパク質(CD loop-huHF)と第2タンパク質(huHF-PD1)が生体内で実際に腫瘍成長抑制および併用治療時の相乗効果を有するかを確認した。そこで、前記結果に基づいて、手術後も癌が再発するかどうかを調べるために実験を行った。実験群としては、実施例11と同様に、1)無処理群(No treat)、2)第1タンパク質処理群(AH1-huHF)、3)抗体治療剤処理群(α-PD-L1)、4)第2タンパク質処理群(huHF-PD1)、5)第1タンパク質と抗体治療剤の併用投与群(AH1-huHF+α-PD-L1)、および、6)第1タンパク質と第2タンパク質の併用投与群(AH1-huHF+huHF-PD1)を使用した。腫瘍が成長して治療を進行し、腫瘍特異的な免疫細胞が体内に産生されたと判断した3週間後、全ての実験群の腫瘍を手術により除去した。その後、再びCT26大腸癌細胞を全ての実験群に処理し、癌が発生するかを観察した。
【0172】
その結果、1)無処理群(No treat)では、癌が成長し続けるのに対して、6)第1タンパク質と第2タンパク質の併用投与群(AH1-huHF+huHF-PD)では、全てのマウスにおいて癌が成長しないか、または成長して数日で消えることを確認した。
【0173】
この実験では、Balb/cマウスを使用した。各実験では実験群当たり5匹を使用し、癌細胞のサイズは下記式で計算した。
【0174】
【0175】
実験の結果、本発明による第1タンパク質(CDループ-AH1)と第2タンパク質(huHF-PD1)を処理した6番実験群の腫瘍治療効果が最も優れていることを確認した(
図17)。
【0176】
また、手術後も癌が転移するかどうかを調べるために実験を行った。実験群としては、実施例11と同様に、1)無処理群(No treat)、2)第1タンパク質処理群(AH1-huHF)、3)抗体治療剤処理群(α-PD-L1)、4)第2タンパク質処理群(huHF-PD1)、5)第1タンパク質と抗体治療剤の併用投与群(AH1-huHF+α-PD-L1)、および、6)第1タンパク質と第2タンパク質の併用投与群(AH1-huHF+huHF-PD1)を使用した。腫瘍が成長して治療を進行し、腫瘍特異的な免疫細胞が体内に産生されたと判断した3週間後、全ての実験群の腫瘍を手術により除去した。その後、再びCT26大腸癌細胞を全ての実験群に静脈注射で処理し、癌が発生するかを観察した。
【0177】
その結果、1)無処理群(No treat)では、癌が成長し続けるのに対して、6)第1タンパク質と第2タンパク質の併用投与群(AH1-huHF+huHF-PD1)では、全てのマウスにおいて癌が成長しないか、または成長して数日で消えることを確認した。
【0178】
この実験では、Balb/cマウスを使用した。各実験では実験群当たり5匹を使用した。癌細胞の転移有無に対しては、前記の全ての実験群で使用したマウスの肺を摘出し、癌結節(nodule)を数えて判断した(
図17)。
【0179】
15.癌成長阻害を確認するためのインビトロ免疫実験II
前記実施例12と同様の方法で当該実験群(1)無処理群(No treat)、2)第1タンパク質処理群(AH1-huHFおよびgp100-huHF)、3)抗体治療剤処理群(α-PD-L1)、4)第2タンパク質処理群(huHF-PD1)、5)第1タンパク質と抗体治療剤の併用投与群(AH1-huHF+α-PD-L1およびgp100-huHF+α-PD-L1)、および、6)第1タンパク質と第2タンパク質の併用投与群(AH1-huHF+huHF-PD1およびgp100-huHF+huHF-PD1)のT細胞の活性反応を観察した。
【0180】
その結果、腫瘍rechallenge後も前記実施例12で腫瘍成長抑制の結果が最も良好であった6番実験群(AH1-huHF+huHF-PD1およびgp100-huHF+huHF-PD1)でT細胞の活性が最も優れていることを再確認した(
図18)。
【0181】
16.フェリチン単量体の様々な位置に疾患抗原エピトープが融合したタンパク質の製造
フェリチンのN末端とAヘリックスの間にgp100が融合した構造、EヘリックスとC末端の間にgp100が融合した構造、Dヘリックスの内部にgp100が融合した構造、Eヘリックスの内部にgp100が融合した構造を製造した。
【0182】
図19~22、表2に示すベクターを実施例1の方法により製造した。このときは、表3のプライマーセットを使用した。
【0183】
タンパク質は実施例2の方法により合成し、後述する実施例18の方法により溶解性、不溶性部分を確認し、実施例4の方法により、タンパク質が自己集合することを確認した。
【0184】
17.トランスフェリンへの結合力の測定
製造したタンパク質のトランスフェリンへの結合力Aを以下の方法により測定した。
【0185】
まず、ヘキサ-Hisタグに特異的に結合する染料(RED-tris-NTA 2nd Generation Dye)を50nMの濃度で100μl準備し、製造したタンパク質を200nMの濃度で100μl準備し、これらを混合して常温で30分間インキュベートした。それを遠心分離機で13,000rpmで4℃において10分間遠心分離して上澄み液を分離し、染料標識されたタンパク質を得た。
【0186】
そして、9.65μMトランスフェリン受容体25μlを第1のPCRチューブに添加し、第2~第16のPCRチューブにPBS-T(PBS+tween20の0.5%)バッファーを10μl添加し、第1のPCRチューブのトランスフェリン10μlを第2のPCRチューブに移し、第2のPCRチューブから10μlをさらに第3のPCRチューブに移した。このような操作を第16のPCRチューブまで行い、第2から第16のPCRチューブまでそれぞれ20μlとなるように1/2順次希釈を行った。
【0187】
その後、各々のPCRチューブに前記の染料標識されたタンパク質を10μlずつ加え、常温で1時間反応を行った。
【0188】
その後、各チューブの反応液をマイクロスケール熱泳動(Microscale thermophoresis)装置のキャピラリに入れ、レーザーを照射していない状態における蛍光強度(homogeneous fluorescence intensity)Fcoldを得た。そして、マイクロスケール熱泳動装置(Monolith NT.115)は、MSTパワーを40%、LEDパワーを、得られる蛍光強度の値が10,000~15,000の範囲となるようにセットし、各キャピラリごとに30秒間レーザーを照射して加熱した状態における蛍光強度Fhotを得た。
【0189】
その後、各キャピラリでの正規化された蛍光(normalized fluorescence)Fnorm(‰)(=(Fhot/Fcold)×1000)を得て、それから反応平衡状態(steady state)のキャピラリを求め、数学式1で表される濃度を得た。
【0190】
【0191】
【0192】
【0193】
【0194】
18.タンパク質の水溶性画分の割合の測定
pT7-7ベースの様々な発現ベクターでBL21(DE3)コンピテントセル(competent cell)を形質転換(transformation)した。単一コロニーをアンピシリン100mg/Lが添加されたLB液体培地(50mL)に接種し、振とう培養機(shaking incubator)で37℃、130rpmの条件で培養した。濁度(turbidity/optical density at 600nm)が0.5に達すると、IPTGの1mMを投与して標的タンパク質の発現を誘導した。その後、20℃で12~16時間培養した後、培養液中の細胞を遠心分離(13,000rpm、10分)によってスピンダウン(spun-down)し、細胞ペレットを回収して10mM Tris-Hcl(pH7.4)バッファーに再浮遊させた。再浮遊された細胞は、ブランソンのソニファイアー(Branson Sonifier、Branson Ultrasonics Corp.、Danbury、CT)を用いて破裂した。音波処理後、溶解性タンパク質を含む上澄み液と不溶性タンパク質を含む凝集体は、遠心分離(13,000rpm、10分)で分離した。分離された溶解性、不溶性タンパク質画分のSDS-PAGE分析によって溶解度を分析した。すなわち、クマシー(Coomassie)で染色された標的タンパク質バンドは、濃度計(densitometer、Duoscan T1200、Bio-Rad、Hercules、CA)でスキャンした後、水溶性画分の割合を定量化した。具体的には、スキャンしたSDS-PAGEゲル画像を用いて、「Quantity One」プログラム「Volume Rect.Tool」でバンドの太さとバックグラウンドの値を設定した後、「Volume Analysis Report」を用いて、溶解性、不溶性タンパク質画分の合計を100%に設定し、溶解度を定量化した。
【0195】
【0196】
19.免疫チェックポイント分子に結合する分子の使用
(1)huHFのC末端にマウススモールPD1(配列番号8)が融合したタンパク質を製造し、その効能を確認した(
図23)。
【0197】
タンパク質は実施例2の方法により合成し、実施例19の方法により溶解性、不溶性部分を確認し、実施例4の方法により、タンパク質が自己集合することを確認した。
【0198】
製造されるタンパク質のトランスフェリン受容体への結合力は、実施例17の方法により測定した。数学式1で表される濃度は44.649±1.34nMと確認された。
【0199】
タンパク質の腫瘍抑制能は、実施例11の方法により評価した。
【0200】
具体的には、一定のサイズの大腸癌腫瘍(CT26)が形成されたマウスBalb/cに対して、3日間隔でPBS、PD-L1抗体、huHF-PD1、huHF-msmPD1タンパク質を静脈注射で注入した。観察の結果、huHF-msmPD1タンパク質が抗体治療剤と類似した腫瘍治療効果を示すことが確認できた。実験では実験群当たり3匹を使用し、癌細胞のサイズは下記式で計算した。
【0201】
【0202】
ここで、実験群としては、1)PBS群、2)抗体治療剤処理群(α-PD-L1)、3)第1タンパク質処理群(huHF-PD1)、4)第2タンパク質処理群(huHF-msmPD1)を使用した。
【0203】
【0204】
前記結果から、免疫チェックポイント分子に結合する分子が融合したフェリチンの使用時の優れた抗癌能を確認できる。
【0205】
(2)huHFのC末端にhsmPD1が融合したタンパク質を製造し、その効能を確認した。
【0206】
huHFは、トランスフェリンとの結合部位(BCループに存在)の一部のアミノ酸を置換したものであり、配列番号1の配列において81、83番目のアミノ酸がアラニンで置換されたタンパク質を使用した。
【0207】
これは、Q5 Hot Start High-Fidelity 2X Master Mixにフォワードプライマー(配列番号39)、リバースプライマー(配列番号40)の10μM、鋳型DNA(template DNA)であるhuHF-hsmPD1を混合して遺伝子の突然変異を行って得た。その後、実施例2の方法によりタンパク質を得た。
【0208】
hsmPD1としては配列番号41の配列を使用した。
【0209】
製造したタンパク質のh-PD-L1およびm-PD-L1への結合力を実施例17の方法により測定した。h-PD-L1への結合力は13.417±1.97nM、m-PD-L1への結合力は177.14±3.32nMと確認された。
【0210】
(3)フェリチンに免疫チェックポイント分子PD-L1とTIGITに結合する分子が融合したタンパク質を製造し、その効能を確認した。
【0211】
免疫チェックポイント分子に結合する分子としては抗体のHCDR3配列を使用した。使用した配列は下記表10に示す通りである。
【0212】
【0213】
【0214】
【0215】
表11のベクターを実施例1の方法により製造した。このときは、表12のプライマーセットを使用した。タンパク質は実施例2の方法により合成した。タンパク質の腫瘍抑制能は、大腸癌細胞株(CT26)をBALB/cマウスに皮下接種し、
図25のスケジュールに従ってタンパク質を注射し、実施例11の方法により評価した(
図26)。
【0216】
具体的には、一定のサイズの大腸癌腫瘍(CT26)が形成されたマウスBalb/cに対して、3日間隔でPBS、PD-L1抗体とTIGIT抗体、huHF-PD-L1-TIGITデュアルブロッカー(dual blocker)タンパク質を静脈注射で注入した。観察の結果、huHF-PD-L1-TIGITデュアルブロッカータンパク質が抗体治療剤と類似した腫瘍治療効果を示すことを確認した。実験では実験群当たり4匹を使用し、癌細胞のサイズは下記式で計算した。
【0217】
【0218】
ここで、実験群は1)PBS群、2)抗体治療剤併用処理群(α-PD-L1、α-TIGIT)、3)タンパク質処理群(huHF-PD-L1-TIGITデュアルブロッカー)を使用した。
【0219】
また、各処理群ごとに腫瘍組織を摘出して重量を測定し、その結果を
図27に示す。この結果から、PD-L1とTIGITに結合する分子が融合したタンパク質の優れた抗癌効果を確認することができる。
【0220】
(4)免疫チェックポイント分子に結合する分子のフェリチン単量体への融合位置による効率の分析
α-PD-L1 HCDR3がフェリチン単量体の互いに異なる位置に融合したタンパク質を製造し、腫瘍抑制能を確認した。
【0221】
α-PD-L1 HCDR3がABループ、BCループ、CDループ、DEループ、C末端に融合したタンパク質を製造した(PDB 3AJOシーケンスを基準にhuHF 5T~176G中のABループ、45D/46Vの間、BCループ;92D/93W、CDループ;126D/127P、DEループ;162E/163S)。これは、前記表10の配列を使用した以外は実施例1、2と同様の方法により製造した。
【0222】
製造したタンパク質の大腸癌細胞ターゲティング能を実施例6の方法により確認した。
【0223】
具体的には、FITC蛍光物質が付着したhuHF-αPD-L1 HCDR3(AB、BC、CD、DEループ、C末端)タンパク質のCT26大腸癌に対するターゲティング効率を比較するために、CT26大腸癌細胞に300nMの濃度でタンパク質を反応させた後、蛍光シグナルを比較して細胞取込(cell uptake)効率を確認した。対照群であるhuHFタンパク質よりも、huHF-αPD-L1 HCDR3(AB、BC、CD、DEループ、C末端)タンパク質の方が、癌細胞と結合して蛍光シグナルを示すことを確認した。
【0224】
【0225】
その結果、融合部位に関係なく、huHFタンパク質に比べて強いターゲティング能を示すことを確認した。
【0226】
20.免疫チェックポイント分子に結合する分子としての抗体CDRの使用
(1)タンパク質製造用発現ベクターの構成
下記表13の配列を使用し、下記の
図29~36、表14のベクター模式図に従ってPCRを行い、huHF-αPD1 HCDR3(C末端)、huHF-αCTLA4 HCDR3(C末端)、huHF αTIGIT HCDR3(C末端)、huHF-αLAG3 HCDR3(C末端)、huHF-αTIM3 HCDR3(C末端)、huHF-αPD-L1 HCDR3(ABループ)-αTIGIT HCDR3(C末端)(dual blocker)を製造した。製造した全てのプラスミド発現ベクターをアガロースゲルで精製し、完全なDNAシーケンシングによって配列を確認した。
【0227】
具体的には、表15のプライマーセットを用いて、各々の発現ベクターの製造に必要なPCR産物を順次にプラスミドpT7-7ベクターに挿入し、各々のタンパク質ナノ粒子を発現できる発現ベクターを構成した。
【0228】
【0229】
【0230】
【0231】
(2)タンパク質の合成、精製、及び集合の検証
実施例2~4と同様の方法でタンパク質の製造および水溶性画分を確認し、実施例5と同様の方法で球状のナノ粒子の形成有無を確認した(
図29~36)。
【0232】
(3)抗原に対する結合力の測定
各抗体に対する抗原を使用した以外は、実施例6と同様の方法で抗原に対する結合力を測定した。
抗体の結合力を表16に、実施例のタンパク質の結合力を表17及び18に示す。これを参照すると、実施例のタンパク質がヒト抗原に対して優れた結合力を示すことを確認できる。
【0233】
【0234】
【0235】
【配列表】