(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】磁気共鳴拡散テンソルイメージングに基づくヒト脳軸索密度の定量的評価方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20240821BHJP
【FI】
A61B5/055 380
A61B5/055 382
(21)【出願番号】P 2023098600
(22)【出願日】2023-06-15
【審査請求日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】202210677684.3
(32)【優先日】2022-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】517312490
【氏名又は名称】ヂェァジァン ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.866,Yuhangtang Road,Xihu District,Hangzhou, Zhejiang China
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】何 宏建
(72)【発明者】
【氏名】姚 君葉
(72)【発明者】
【氏名】周 子涵
(72)【発明者】
【氏名】鐘 健暉
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-518568(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0130458(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104471426(CN,A)
【文献】特開2012-157687(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0270710(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0253410(US,A1)
【文献】Hui ZHANG et al.,“NODDI: Practical in vivo neurite orientation dispersion and density imaging of the human brain”,NeuroImage,2012年07月,Vol. 61, No. 4,p.1000-1016,DOI: 10.1016/j.neuroimage.2012.03.072
【文献】Junye YAO et al.,“Both noise‐floor and tissue compartment difference in diffusivity contribute to FA dependence on b‐value in diffusion MRI”,Human Brain Mapping,2022年10月20日,Vol. 44, No. 4,p.1371-1388,DOI: 10.1002/hbm.26121
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
PubMed
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
S1:磁気共鳴拡散強調イメージングによってヒト脳を走査して得られた磁気共鳴拡散強調画像データに対して、データ処理を行って複数の単一拡散感受性因子bの拡散テンソルイメージングフィッティングを算出し、二つの部分異方性指数図を得るステップと、
S2:二つの部分異方性指数図に基づいてヒト脳軸索密度の定量化処理
として、二つの異なる拡散感受性因子bの間の部分異方性指数百分率の差を算出してヒト脳軸索密度の定量図を得るステップと、を含む、
ことを特徴とする磁気共鳴拡散テンソルイメージングに基づくヒト脳軸索密度の定量的評価方法。
【請求項2】
【請求項3】
前記S1において、データ処理ソフトウェアFSLにおける拡散テンソルフィッティングツールを採用し、且つ重み付き最小二乗法を選択し、拡散感受性因子bが0及び拡散感受性因子bが
前記b
lowに対応して取得された前記磁気共鳴拡散強調画像データを用いて拡散テンソルイメージングフィッティングを行って一つの部分異方性指数図を得、
拡散感受性因子bが0及び拡散感受性因子bが
前記b
highに対応して取得された磁気共鳴拡散画像データを用いて拡散テンソルイメージングフィッティングを行って別の部分異方性指数図を得る、
ことを特徴とする
請求項2に記載の磁気共鳴拡散テンソルイメージングに基づくヒト脳軸索密度の定量的評価方法。
【請求項4】
【請求項5】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気共鳴イメージング技術分野の磁気共鳴イメージングデータ処理方法に関し、特に磁気共鳴拡散テンソルイメージングに基づくヒト脳軸索密度の定量評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴拡散強調イメージング(Diffusion-weighted imaging,DWI)は、結果データから画像を生成する特定の磁気共鳴画像化シーケンスを使用し、水分子拡散を使用して磁気共鳴画像内にコントラストを生成することであり、各ボクセルの強度は、その位置における水拡散率の最良の推定値を反映する。組織内の水分子の拡散は自由ではなく、むしろ、巨大分子、繊維および膜などの多くの障害との相互作用を反映する。したがって、水分子拡散パターンは、正常または病変状態にかかわらず、組織構造の微細な細部を明らかにすることができる。それは、生体組織内の分子(主に水)の拡散プロセスの非侵襲的な生体内マッピングを可能にする。
【0003】
拡散テンソルイメージング(diffusion tensor imaging, DTI)は特殊な磁気共鳴拡散強調イメージング技術であり、水分子の微視的な動きを反映し、細胞及び分子レベルから疾患の病態生理状態を研究する技術であり、拡散テンソル場における異方性拡散の方向情報を利用して神経通路の走行を追跡し、それにより脳白質における神経繊維と機能束の走行方向と立体形態を得る。その指標部分異方性指数(fractional anisotropy,FA)は、拡散テンソルの合計値に対する拡散の異方性部分の比であり、分散の異方性を評価するために用いられる。脳白質神経軸索を探索する際に重要である。
【0004】
神経突起は、神経細胞(ニューロン)の細胞体から伸びる細長い部分であり、樹状突起と軸索に分けられ、細胞間の情報伝達に用いられる。軸索の密度及び方向分布に基づいて軸索の形態を定量化し、正常群衆及び脳機能障害群衆の脳機能構造基礎を理解するための機会を提供する。
【0005】
現在ヒト脳軸索密度の非侵襲定量測定方法はまだ基準がない。神経突起方向の分散度と密度イメージング(neurite orientation dispersion and density imaging,NODDI)は新興の磁気共鳴拡散強調イメージング技術に基づく現像方法であり、神経軸索と樹状突起微細構造の複雑さを評価することにより神経繊維の形態学的情報を反映することができるが、該方法に必要な拡散方向が多く、イメージング時間が長い。モデル計算が複雑で、臨床における普及に不利である。
したがって、現在、非侵襲的で、確実で且つ臨床に普及しやすいヒト脳軸索密度の定量的評価方法が必要とされる。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は従来技術の不足に対し、磁気共鳴拡散テンソルイメージングに基づくヒト脳軸索密度の定量的評価方法を提供することである。本発明は臨床に許容される時間内(12分間)に軸索密度に対して三次元高解像度のイメージングを行うことができる。
【0007】
軸索は、0.2~20ミクロンの範囲の直径を有するヒト脳組織内の微細構造であり、磁気共鳴シーケンスは、分解能の限界のため、軸索の密度を直接捕捉することが困難である。本発明の方法は直接軸索イメージングを行って定量評価しにくいという問題を解決することができる。
【0008】
以上の目的を達成するために、本発明は以下の技術的解決手段を採用する:
S1:磁気共鳴拡散強調イメージングによって人脳を走査して得られた磁気共鳴拡散強調画像データに対して、データ処理を行って複数の単一拡散感受性因子bの拡散テンソルイメージングフィッティングを算出し、複数の部分異方性指数図(Fractional Anisotropy, FA)を得る。
S2:複数の部分異方性指数図に基づいてヒト脳軸索密度の定量化処理を行い、異なる拡散感受性因子bの間の部分異方性指数百分率の差を算出してヒト脳軸索密度の定量図を得る。
【0009】
【0010】
【0011】
【0012】
【0013】
上記磁気共鳴拡散テンソルイメージング走査は具体的に全脳に対して三次元スキャンイメージングを行う。
磁気共鳴拡散強調画像データは、軸索内空間水、軸索外空間水、自由水という三つの部分に由来し、異なる拡散係数及び部分異方性指数を有する。純粋な白質信号に対し、拡散感受性因子bの増加に伴い、より高い拡散係数を有する軸索内空間水の磁気共鳴信号はより速く減衰し、拡散強調イメージング結果における軸索外空間の重みの上昇を引き起こす。
【0014】
本発明は、異方性指数百分率の差値を計算するように設定することにより、軸索密度の変化を定量的に反映し、軸索の密度を直接捕捉することができ、人脳部軸索密度の結果を正確に取得し、軸索イメージングを直接行って定量的に評価しにくいという問題を解決する。
【0015】
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法は、従来の臨床磁気共鳴拡散強調シーケンスを採用して三次元軸索密度の定量評価を実現し、画像の収集及び再構成は磁気共鳴拡散テンソルイメージングに基づき、臨床実行可能な時間内に脳白質における軸索密度に対して迅速かつ正確に三次元定量評価を実現する。
本発明は信頼性が高く、演算過程が簡単で普及しやすく、臨床で実行可能な脳白質における軸索密度に対するパラメータ定量を実現し、軸索損失関連疾患の検出に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の軸索密度の定量的評価指標であり、一部の異方性指数の百分率の差値pdFAが健常被験者の脳白質の6つの関心領域(Region of Interest,ROI)における応用例である。縦軸はスキーム3を用いて得られたヒト脳軸索密度定量図pdFAであり、横軸は神経突起方向の分散度と密度イメージング(NODDI)を用いて得られた軸索密度指数(Neurite Density Index, NDI)NDI-NODDIである。図中の薄い線及び散点は平均回数が1回のデータ結果であり、黒い線及び散点は平均回数が2回のデータ結果であり、それぞれ低い及び高い信号対雑音比(Signal-to-Noise Ratio, SNR)条件を表す。6つのROIはそれぞれ脳梁膝部(genu of the corpus callosum, GCC)、脳梁中部(body of the corpus callosum, BCC)、脳梁押圧部(splenium of the corpus callosum, SCC)、内包前肢(anterior limb of the internal capsule, ALIC)、内包後肢(posterior limb of the internal capsule, PLIC)、上縦束(superior longitudinal fasciculus, SLF)である。
【
図2】
図2は、本発明の軸索密度の定量評価指標であり、ヒト脳軸索密度の定量図pdFAはエクスビボヒト脳梁組織における応用例である。
図2(a)の縦軸は、本発明を用いて得られたエクスビボヒト脳組織の脳梁の異なる切片のpdFAであり、横軸はパラフィン切片神経線維ビールショウスキー銀染色技術(Bielschowsky)を用いて分析して得られた軸索密度指標である。
図2(b)は、切片の磁気共鳴映像における対応する位置である。
図2(c)は、切片染色結果の顕微鏡イメージング結果であり、着色部分は軸索であり、着色部分の面積が総面積に占める割合をNDI-Histologyと定義し、エクスビボヒト脳の軸索密度の定量評価の基準とする。
【
図3】
図3は、数値シミュレーションのシミュレーション実験において、異なる信号対雑音比条件でヒト脳軸索密度定量図pdFAと軸索内の体積分率INVFのピアソン相関分析である。縦軸はシミュレーション信号公式に基づいて得られた磁気共鳴信号を用いて算出されたヒト脳軸索密度定量図pdFAであり、横軸はシミュレーション実験に設定された軸索内の体積分率である。 表1は生体脳データ収集配列パラメータテーブルである。 表2は異なる拡散感受性因子bの組み合わせ解決手段のパラメータ表である。 表3は異なる拡散感受性因子bの組み合わせ解決手段の実施結果の統計パラメータテーブルである。 表4はエクスビボヒト脳データ収集シーケンスパラメータテーブルである。 表5はシミュレーション実験パラメータ設定表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面を参照して本発明の具体的な解決手段の実施をさらに説明する。
本発明の実施例及びその具体的な実施状況は以下のとおりである:
本発明の第一実施例では、3.0T磁気共鳴装置を用いて61名の健常被験者に対して磁気共鳴拡散強調イメージングを行って磁気共鳴拡散強調画像データを得た。該シーケンスの走査時間は19分間であり、シーケンスの他のパラメータは表1に示すとおりである。
[表1]
【0019】
FSLにおける「拡散テンソルフィッティング」ツールを使用し、重み付き最小二乗法を選択し、平均回数がそれぞれ1回(比較的低い信号対雑音比)及び2回(比較的高い信号対雑音比)の単一拡散感受性因子bの磁気共鳴拡散強調画像データに対して拡散テンソルイメージングフィッティングを行い、3つの拡散感受性因子bに対応する部分異方性指数図を得る。
拡散テンソルイメージングに基づくヒト脳軸索密度の定量的評価指標として、以下の式に従って得られた部分異方性指数図を用いて対応するヒト脳軸索密度の定量図を算出する:
[数1]
表2に示すように、3種類の組み合わせ方式が存在する(スキーム1-3)。
[表2]
【0020】
表1のシーケンスで収集された完全なデータセットを用いて神経突起方向の分散度と密度イメージング(NODDI)とのモデルフィッティングを行い、得られた軸索密度指数(Neurite Density Index, NDI-NODDI)を算出し、生体ヒト脳軸索密度評価の標準とする。選択された白質関心領域内において、上記取得されたヒト脳軸索密度定量図pdFAと軸索密度指数NDI-NODDIに対してピアソン相関分析を行い、ピアソン相関係数(Pearson correlation coefficient, CC)を取得し、結果を
図1に示す。多重検定により補正された統計的パラメータ値を補正後P値として算出し、結果を表3に示し、灰色のセルは平均回数が2回のデータセットを表す。
図1及び表3はいずれも、平均回数が2回(比較的高い信号対雑音比)であるデータセットを用いて得られたヒト脳軸索密度定量図pdFAと軸索密度指数NDI-NODDIとの相関性がより高く、ヒト脳軸索密度をより正確に反映できることを示す。
【0021】
表3に示すように、本発明において、スキーム3の拡散感受性因子bの組み合わせは最適な選択肢であり、そのヒト脳軸索密度の定量図pdFAは軸索密度指数NDI-NODDIとの相関性が最も高い。このスキームに要した時間は12分であった。
[表3]
【0022】
本発明の第二の実施例では、3.0T磁気共鳴装置を用いてホルマリン溶液で4週間固定した1つのエクスビボ半脳に対して磁気共鳴拡散強調イメージング走査を行い、磁気共鳴拡散強調画像データを得た。当該シーケンスの他のパラメータを表4に示す。
[表4]
【0023】
【0024】
磁気共鳴走査の完了後、エクスビボの半脳標本を厚さ5mmの冠状ブロックに切断した。このプロセスは、
図2(b)に示されるように、サジタル磁気共鳴画像におけるそれらの位置に対応する6つのスライスを生成する。脳梁組織ブロックを取り出し、パラフィン包埋処理を行った後に対応する6つの切片を取得し、切片の厚さは6μmである。組織切片の神経突起組織化学染色を、
図2(c)に示すように、パラフィン切片神経線維ビールショウスキー銀染色技術により行った。Image-Jソフトウェアを用いて染色切片上で脳梁の軸索密度指標(NDI-Histology)を定量的に測定する。
【0025】
エクスビボヒト脳切片のヒト脳軸索密度定量図pdFAと組織化学染色により得られた軸索密度定量評価指標NDI-Histologyに対してピアソン相関分析を行い、結果は
図2(a)に示すように、両者は高い線形相関を有する。本発明はエクスビボヒト脳標本の軸索密度の定量評価にも優れている。
【0026】
ヒト脳軸索密度の定量評価指標(ヒト脳軸索密度定量図pdFA)が軸索密度を定量評価する原理を検討するために、本発明は白質「標準モデル」に基づいてシミュレーション実験を行う。
【0027】
【0028】
シミュレーションの結果は
図3に示すように、生体実験データが位置する信号対雑音比の範囲内で(20-40)、軸索密度の定量的評価指標を代表する軸索内の体積分率INVFの増加に伴い、軸索密度の定量的評価指標であるヒト脳軸索密度の定量図pdFAの値も線形に増加し、両者は高い線形相関を有する。シミュレーション実験により、臨床条件が達成できるデータ品質で、本発明の軸索密度の定量的評価指標pdFAはヒト脳軸索密度の変化を敏感に検出できることが示される。
【0029】
従来の神経突起方向の分散度と密度イメージング(NODDI)とのモデルフィッティングに基づいて得られた軸索密度指数(NDI-NODDI)に比べ、本発明の拡散テンソルイメージングに基づく部分異方性指数百分率差値pdFAは、算出過程に必要な時間がより少ない。Linuxワークステーション(2×2.80GHz Intel(登録商標)Xeon(登録商標)20core processor ,252GBメモリ)でのデータ処理を例にとると、同じデータが入力された場合、神経突起方向の分散度と密度イメージングとのモデルフィッティングによってヒト脳全脳軸索密度の定量的評価には約10時間の演算時間が必要であった。本発明の磁気共鳴拡散テンソルイメージングに基づく部分的異方性指数百分率差値pdFAを用いた軸索密度の定量的評価は、約3分の計算時間のみを必要とする。
【0030】
なお、上記は本発明の実施例及び運用する技術原理のみである。当業者であれば理解されるように、本発明は上記特定の実施例に限定されず、当業者にとって種々の明らかな変更が可能であり、パラメータを再調整しても本発明の範囲から逸脱しない。したがって、以上の実施例により、本発明の概念から逸脱することなく、さらに多くの他の同等な実施例を含むことができるが、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲により決定される。