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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】蒸留処理装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 3/32 20060101AFI20240821BHJP
   C02F 1/04 20230101ALI20240821BHJP
【FI】
B01D3/32 Z
C02F1/04 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023149275
(22)【出願日】2023-09-14
【審査請求日】2023-09-14
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】391032761
【氏名又は名称】株式会社コスモテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 尚雄
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-358502(JP,A)
【文献】国際公開第00/064950(WO,A1)
【文献】特開昭50-093268(JP,A)
【文献】実開昭52-056035(JP,U)
【文献】特開平05-049801(JP,A)
【文献】特開昭62-224256(JP,A)
【文献】中国実用新案第218339002(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 1/00-8/00
B01B 1/00-1/08
C02F 1/02-1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸点が所定温度以下の低沸点成分と沸点が前記所定温度を超える高沸点成分を含む被処理液が収容される加熱処理槽と、
前記所定温度で前記加熱処理槽内に収容された被処理液を加熱する加熱機構と、
前記加熱処理槽の上部に形成された蒸気出口と、
前記蒸気出口に接続された蒸気流路と、
前記蒸気流路を流れる蒸気を冷却して液化する冷却器と、
前記冷却器よりも前記加熱処理槽側の前記蒸気流路に介挿された、該蒸気出口から該蒸気流路に流入した気泡を膨張させるように構成された膨張室と
を備え、
前記蒸気流路の流路断面積をS(cm2)、前記膨張室の容積をV(cm3)としたとき、SとVが下記式(1)
V=1135×S~1650×S ・・・(1)
を満たすことを特徴とする蒸留処理装置。
【請求項2】
前記膨張室内に金属網製のデミスタが設けられている、請求項1に記載の蒸留処理装置。
【請求項3】
前記加熱処理槽内に金属網製のデミスタが設けられている、請求項1又は2に記載の蒸留処理装置。
【請求項4】
前記冷却器で蒸気が冷却されて液化することにより生じた液化物を回収する回収槽をさらに備える、請求項1又は2に記載の蒸留処理装置。
【請求項5】
前記加熱処理槽から前記膨張室及び前記冷却器を経て前記回収槽に至るまでの流路内を減圧する減圧機構をさらに備える、請求項に記載の蒸留処理装置。
【請求項6】
前記膨張室内に溜まった貯留物を前記加熱処理槽に戻すための還流路を備える、請求項1又は2に記載の蒸留処理装置。
【請求項7】
前記加熱処理槽内の残留物を回収する残留物回収槽を備える、請求項1又は2に記載の蒸留処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸留処理装置に関し、特にはメッキ部品、電子部品、半導体部品等の製造工程で生じた廃液の廃棄処理、再生処理に使用される蒸留処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クロムメッキ、ニッケルメッキ、亜鉛メッキ等のメッキ処理において生じる廃液(以下、メッキ廃液)には、メッキ金属イオンの他、還元剤、酸化剤、光沢剤等の添加剤が含まれている。そのため、メッキ廃液は、そこに凝集剤等を入れてメッキ金属を凝集沈殿させて取り除いた上で廃棄処理される。また、メッキ廃液が水溶液である場合は、該メッキ廃液を加熱して水分を蒸発させることで濃縮し、減容化した後、産業廃棄物として廃棄処理される。
【0003】
水溶性廃液の濃縮、減容化には例えば減圧蒸留装置が用いられる。減圧蒸留装置では、常圧よりも低い圧力下で水溶性廃液を加熱する。これにより、常圧よりも低い温度で水溶性廃液中の水分を蒸発させることができる。このため、水溶性廃液の加熱時において、該水溶液廃液に含まれる成分(例えばメッキ廃液に含まれる添加剤)の化学反応を抑えることができ、安定的に水分を蒸発させることができる。
【0004】
減圧蒸留装置では、減圧された処理槽内に廃液を収容し、加熱して該廃液に含まれる水分を沸騰させ、これにより生じた蒸気を処理槽上部の蒸気取出口から取り出す。蒸気取出口から取り出された蒸気は凝縮器によって冷却、凝縮され、蒸留水として排出される。
【0005】
水溶性廃液が発泡性成分を含む場合、廃液中の水分の沸騰に伴い泡が発生し、その泡が蒸気ともに上昇して蒸気取出口から凝縮器に向かうことがある。泡には廃液中の成分が含まれているため、蒸気とともに泡が凝縮器に導入されると、蒸留水に廃液中の成分が含まれてしまう。そこで、発泡性成分を含む水溶性廃液を減圧蒸留するときは、該廃液に消泡剤を添加して泡の発生を抑制していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-061203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、減圧蒸留装置により濃縮され減容化された廃液(濃縮廃液)は通常、産業廃棄物として廃棄処理される。一方、近年、濃縮廃液を再利用したいという要望がある。しかしながら、消泡剤は水溶性廃液に本来含まれていない成分であるため、消泡剤を使用した場合に濃縮廃液を再利用するためには該濃縮廃液から消泡剤を除去する必要がある。これに対して、消泡剤の使用に代えて蒸気取出口の手前に金属網(ワイヤメッシュデミスタ)を設置し、処理槽内に発生した泡を蒸気から分離し、蒸気のみを蒸気取出口から排出させる方法が採用されている。
【0008】
しかしながら、処理槽内に大量の泡が発生したり、泡が成長して大きくなったりして処理槽内に泡が充満した場合には、泡がワイヤメッシュデミスタを通過して蒸気取出口からあふれ出てしまうという問題があった。
【0009】
なお、ここでは水溶性廃液を被処理液として減圧蒸留する場合について説明したが、非水溶性の廃液を減圧蒸留する場合、水溶性、非水溶性の廃液を常圧で蒸留する場合にも同様の問題が生じる。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、蒸留処理装置において、被処理液を加熱することにより生じる蒸気を冷却して液化する際に該蒸気に気泡が混入しないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明に係る蒸留処理装置は、
沸点が所定温度以下の低沸点成分と沸点が前記所定温度を超える高沸点成分を含む被処理液が収容される加熱処理槽と、
前記所定温度で前記加熱処理槽内に収容された被処理液を加熱する加熱機構と、
前記加熱処理槽の上部に形成された蒸気出口と、
前記蒸気出口に接続された蒸気流路と、
前記蒸気流路を流れる蒸気を冷却して液化する冷却器と、
前記冷却器よりも前記加熱処理槽側の前記蒸気流路に介挿された、該蒸気出口から該蒸気流路に流入した気泡を膨張させるように構成された膨張室と
を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る蒸留処理装置において被処理液とは、典型的には、金属部品、メッキ部品、電子部品、半導体部品等の製造工程や組立工程、洗浄工程において使用される処理液や洗浄液の廃液等であるが、これら以外の溶液を被処理液とすることができる。低沸点成分と高沸点成分を含む溶液であれば、水溶性溶液、非水溶性溶液のいずれであっても被処理液となり得る。被処理液が処理液や洗浄液の廃液である場合、低沸点成分は典型的には水であり、高沸点成分は処理液、洗浄液に本来的に含まれる処理成分、洗浄成分である。
【0013】
本発明に係る蒸留処理装置において、加熱処理槽内に被処理液を収容し、加熱機構により該被処理液を前記所定温度に加熱すると、低沸点成分のみが沸騰して蒸気が発生する。この蒸気は加熱処理槽内を上昇し、蒸気出口から蒸気流路に流入する。加熱処理槽内に生じた蒸気を蒸気出口から蒸気流路に効率よく流入させるためには、蒸気出口は、加熱処理槽のできるだけ高い位置に形成されていることが好ましいが、加熱処理槽内に収容される被処理液の予定液面よりも上部に形成されていればよい。蒸気流路に流入した蒸気は膨張室を経由して冷却器に向かい、該冷却器によって冷却されて液化する。ここで、被処理液が発泡性である場合には低沸点成分の沸騰に伴い気泡が生じ、この気泡が蒸気とともに蒸気出口から蒸気流路に流入し得る。蒸気流路に流入した気泡は膨張室内で膨張して大きくなり、破裂したり、複数の気泡が接触して潰れたりすることによって液状となって膨張室内に留まる。このため、加熱処理槽から蒸気流路に気泡が流入した場合でも、該気泡が冷却器に向かうことが回避される。
【0014】
膨張室が、蒸気出口から該蒸気流路に流入した気泡を膨張させるように構成されているとは、膨張室の内圧が、蒸気出口から膨張室に向かう蒸気流路の内圧よりも低くなるように構成されていることをいい、例としては、膨張室の流路断面積が前記蒸気流路の流路断面積よりも大きくなるように構成されていること、あるいは、膨張室内を前記蒸気流路よりも減圧する減圧手段を備えること等が挙げられる。この場合、蒸気出口から該蒸気流路を介して膨張室に流入した蒸気の少なくとも一部は液化せずに蒸気流路を通って冷却器に向かうように該膨張室を構成する。この構成により、被処理液に含まれる低沸点成分を高沸点成分から分離して回収することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る蒸留処理装置によれば、加熱処理槽内で被処理液を加熱することにより生じる蒸気を冷却して液化する際に該蒸気に気泡が混入しないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る蒸留処理装置を廃液再生装置に適用した一実施形態を示す概略構成図。
図2】廃液再生装置の変形例を示す概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る蒸留処理装置を廃液再生装置に適用した一実施形態について図1を参照して説明する。図1は、廃液再生装置の概略的な全体構成図である。廃液再生装置1は、メッキ部品、電子部品、半導体部品等の製造工程において使用される処理液や洗浄液等の廃液から不要物を取り除いて、処理液等として再生(リサイクル)するための装置であり、被処理液としての廃液が収容される加熱処理槽2と、熱交換器3と、循環水槽4とを備えている。熱交換器3、循環水槽4は、それぞれ本発明の冷却器、回収槽に相当する。
【0018】
加熱処理槽2は耐圧性を有する略円筒形の容器から成り、その内部の下部にはコイル状に巻回された配管から成る浸漬型熱交換器21が配設されている。浸漬型熱交換器21は、その入口211及び出口212が加熱処理槽2の側面に開口しており、入口211及び出口212には、それぞれ冷媒供給管213及び冷媒還流管214が接続されている。冷媒還流管214は、ドライヤー217、キャピラリーチューブ218、熱交換器7を経由してコンプレッサ(圧縮機)5の入力側に接続されている。冷媒供給管213はコンプレッサ5の出力側に接続されており、この冷媒供給管213は空冷コンデンサ215を経由して熱交換器21の入口211に接続されている。
【0019】
浸漬型熱交換器21には、コンプレッサ5の動作により加圧された加熱媒体としての冷媒ガスが空冷コンデンサ215を経由し、冷媒供給管213を通じて供給される。浸漬型熱交換器21に加圧供給された冷媒ガスは該浸漬型熱交換器21を通過する過程で加熱処理槽2内の被処理液と熱交換し、これにより被処理液が加熱される。また、熱を奪われて温度が低下した冷媒ガスは、冷媒還流管214を流れ、ドライヤー217、キャピラリーチューブ218を通過することで低圧・低温の冷媒ガスとなる。本実施形態においては、浸漬型熱交換器21、コンプレッサ5、冷媒供給管213、冷媒還流管214、空冷コンデンサ215、これらの内部を循環する冷媒ガスから本発明の加熱機構が構成される。
【0020】
なお、浸漬型熱交換器21に供給される冷媒ガスの圧力、温度が過度に高いと、加熱処理槽2内の廃液中に結晶が生じて浸漬型熱交換器21に付着したり、廃液中の高沸点成分が蒸留されたりすることになる。このような問題を回避するため、空冷コンデンサ215と入口211の間の冷媒供給管213にはファンコントローラ216が設置されており、冷媒供給管213内の冷媒ガスの圧力に応じて空冷コンデンサ215の排熱ファン2151が動作するようになっている。排熱ファン2151が動作すると、空冷コンデンサ215内の冷媒ガスが冷却され、空冷コンデンサ215から冷媒供給管213を通って浸漬型熱交換器21に向かう冷媒ガスの圧力、温度が低下し、適切な圧力、温度に調整される。
【0021】
また、加熱処理槽2内の前記浸漬型熱交換器21よりも上の空間には、ワイヤメッシュデミスタ22が配設されている。本実施形態では、上下3層のワイヤメッシュデミスタ22を加熱処理槽2内にほぼ水平に配設したが、ワイヤメッシュデミスタ22は1層又は2層でもよく、4層以上でもよい。また、複数層のワイヤメッシュデミスタ22を配設する場合、複数のワイヤメッシュデミスタ22の網目のサイズは全て同じでも良く、異なっていても良い。
【0022】
加熱処理槽2の側部の上部には蒸気出口23が、上下方向中央付近の側部には原水投入口24がそれぞれ形成されている。また、加熱処理槽2の下部には濃縮液排出口25が形成されている。さらに、加熱処理槽2の側部には、該加熱処理槽2の内部の液面を測定する液面計26が設置されている。液面計26は、加熱処理槽2の側面に取り付けられた該加熱処理槽2内と連通するレベル保護管261と、該レベル保護管261内に配置されたレベルセンサ262とを有する。また、加熱処理槽2の側部であって前記液面計26の上部には大気連通管27が接続されており、加熱処理槽2の下部には該加熱処理槽2内の温度を検出する温度センサ28が取り付けられている。大気連通管27の端部には真空開放弁271が取り付けられている。真空開放弁271を開放することにより加熱処理槽2内が大気と連通し、大気圧となる。
【0023】
原水投入口24には、原水供給弁241が介挿された原水供給管242が接続されている。原水供給管242は、原水タンクに貯留されている原水(被処理液である廃液)を加熱処理槽2に供給する。濃縮液排出口25は、濃縮液排出弁251、濃縮液排出ポンプ252が介挿された濃縮液排出管253が接続されている。濃縮液排出管253は、濃縮液タンクに接続されている。
【0024】
蒸気出口23には、第1蒸気導出管231を介して膨張室であるセパレータ6が接続されている。セパレータ6は、耐圧性を有する円筒形の容器から成り、円筒軸が上下方向となるように配置されている。セパレータ6内の上部にはワイヤメッシュデミスタ61が水平に配設されている。セパレータ6は、その流路断面積(図1において紙面と垂直な面に沿う断面積)が第1蒸気導出管231の流路断面積に比べて十分大きく、且つ、セパレータ6の容積が第1蒸気導出管231の容積よりも十分大きくなるように構成されている。
【0025】
本実施形態では、第1蒸気導出管231の流路断面積(内断面積(cm2))をS、前記セパレータ6の容積(cm3)をVとしたとき、面積Sと容積Vが下記式(1)を満たすように、第1蒸気導出管231、セパレータ6を構成することが好ましい。
=1135×~1650× ・・・(1)
【0026】
セパレータ6は、第1蒸気導出管231を通って該セパレータ6に流入した気体を膨張させる機能を有している。詳しくは後述するが、本実施形態では、第1蒸気導出管231からセパレータ6には蒸気と気泡が流入する。上記式(1)は、セパレータ6に流入した蒸気は断熱膨張による温度低下により液化せず、気泡はその内部の気体の断熱膨張により破裂して液化するための条件として本発明者が見出したものである。例えば、被処理液がメッキ廃液の場合、第1蒸気導出管231の内径(直径)を32mm(内断面の面積は8.04cm2)、セパレータ6の容積を11772.76cm3(上面、下面の直径20.7cm、高さ35cm)に設定することができる。
【0027】
セパレータ6の下部には該セパレータ6内の残留物を加熱処理槽2に戻すための導入路62が接続されている。また、セパレータ6の上部には第2蒸気導出管232が接続されている。第2蒸気導出管232は、熱交換器3の内部を通過した後、逆止弁(チャッキバルブ)8を経由して循環水槽4に取り付けられたエゼクタ(減圧器)9に接続されている。第2蒸気導出管232のうち熱交換器3と逆止弁8との間の部分には真空圧センサ91が設置されている。循環水槽4には、液面の下限位置及び上限位置を検知するフロート式レベルスイッチ41及び42と温度センサ43が取り付けられている。また、循環水槽4の側部の上部には蒸留水取出口44が、下部には還流口45が、それぞれ形成されている。蒸留水取出口44には、流量センサ441、排出弁442が介挿された取水管443が接続されている。コンプレッサ5が駆動すると排出弁442が開放され、循環水槽4内の蒸留水(正確には、循環水槽4内の蒸留水のうち蒸留水取出口44を超えた分の蒸留水)が蒸留水取出口44から取水管443を通して排出される。コンプレッサ5が停止すると排出弁442が閉鎖され、循環水槽4内から蒸留水が排出されなくなる。
【0028】
還流口45には、真空循環ポンプ451が介挿された導水管452の一端が接続されている。導水管452には、熱交換器7、熱交換器3が順に介挿されており、その他端がエゼクタ9に接続されている。真空循環ポンプ451の作用により、循環水槽4内に貯留された蒸留水は導水管452内を還流口45から熱交換器7、熱交換器3を経由してエゼクタ9に圧送される。蒸留水がエゼクタ9に圧送されることにより該エゼクタ9内が減圧され、第2蒸気導出管232内が吸引されて該第2蒸気導出管232、加熱処理槽2、セパレータ6の内部がほぼ真空状態となる。以下の説明では、熱交換器3を第1熱交換器3、熱交換器7を第2熱交換器7と呼ぶ。
【0029】
なお、循環水槽4内の液面が下限位置を下回ると真空循環ポンプ451が空転するおそれがある。そこで、本実施形態では、循環水槽4内の液面が下限位置を下回ったことがフロート式レベルスイッチ41により検知されると装置全体が停止され、警報が発せられるように構成されている。また、循環水槽4内の液面が上限位置を超えるときは、排出弁442、取水管443等に何らかの不具合が発生している可能性がある。そこで、本実施形態では、循環水槽4内の液面が上限位置を超えたことがフロート式レベルスイッチ42により検出されると装置全体が停止され、警報が発せられるようになっている。警報を出力する手段としては、ブザー、ランプ等を用いることができる。
【0030】
第2熱交換器7には、冷媒還流管214を通して低温の冷媒ガスが通過するようになっており、導水管452を流れる蒸留水は第2熱交換器7を通過する際に冷媒還流管214を流れる冷媒ガスとの間で熱交換する。これにより、蒸留水は冷却され、冷媒ガスは加温される。
【0031】
次に、メッキ部品の製造工程や洗浄工程で生じたメッキ廃液を廃液再生装置1を用いて処理する場合を例に挙げて該廃液再生装置1の動作を説明する。なお、メッキ廃液はメッキ処理液と水とを含むものであり、水分が低沸点成分に、メッキ処理液が高沸点成分にそれぞれ相当することとする。
【0032】
まず、真空開放弁271を閉めて真空循環ポンプ451を駆動させる。すると、真空循環ポンプ451の作用により、初期状態(何も入っていない状態)の循環水槽4内の空気が導水管452内を通り、第2熱交換器7、第1熱交換器3を経て、エゼクタ9に圧送される。これにより、加熱処理槽2、第1蒸気導出管231、セパレータ6、第2蒸気導出管232の内部が吸引され、減圧される。
【0033】
そして、真空圧センサ91の検出値が所定の真空値(真空度)に達すると、原水供給弁241が開放され、原水供給管242を通ってメッキ廃液が原水投入口24から加熱処理槽2内に投入される。加熱処理槽2内のメッキ廃液の量(液面)はレベルセンサ262によって検出され、該メッキ廃液の液面が所定の設定値に達するまで加熱処理槽2内へのメッキ廃液の投入は継続される。
【0034】
加熱処理槽2内の液面が所定の設定値に達し、且つ加熱処理槽2の内圧が所定の真空値に達すると、コンプレッサ5が駆動する。これにより、コンプレッサ5から冷媒ガスが押し出され、空冷コンデンサ215、冷媒供給管213、浸漬型熱交換器21、冷媒還流管214、ドライヤー217、キャピラリーチューブ218の順に循環し、コンプレッサ5に戻る。このように循環する冷媒ガスはコンプレッサ5により加熱された状態で冷媒供給管213を流れて浸漬型熱交換器21に流入する。また、循環水槽4内の空気が導水管452を通ってエゼクタ9に圧送されることにより吸引力が発生し、加熱処理槽2内の圧力が大気圧よりも低下する。
【0035】
この状態で、所定量のメッキ廃液を原水投入口24から加熱処理槽2内に投入する。メッキ廃液の投入量は加熱処理槽2の容積、浸漬型熱交換器21の高さによって設定され、加熱処理槽2内に投入された所定量のメッキ廃液は、その液面が浸漬型熱交換器21の上部よりも上方に位置する。また、流量センサ41により循環水槽4から排出される蒸留水の量を測定する。そして、メッキ廃液を処理する間は常時、メッキ廃液の液面が浸漬型熱交換器21の上部よりも上方に位置するように、循環水槽4から蒸留水が例えば1L排出されると同時に、原水投入口24から加熱処理槽2内に1Lのメッキ廃液を投入するという動作を連続的に行う。
【0036】
加熱処理槽2に投入されたメッキ廃液は、加熱された状態で浸漬型熱交換器21を流れる冷媒ガスと熱交換することにより加熱される。このとき、加熱処理槽2内のメッキ廃液の温度が加熱処理槽2内の圧力状態における水の沸点となるように空冷コンデンサ215のファン2151の駆動がファンコントローラ216によって制御される。これにより、メッキ廃液に含まれる水分が沸騰し、蒸発して蒸気が発生する。加熱処理槽2内に発生した蒸気は、蒸気出口23から第1蒸気導出管231を介してセパレータ6に流入する。セパレータ6に流入した蒸気は、第2蒸気導出管232を通り、熱交換器3、チャッキバルブ8、エゼクタ9を経由して循環水槽4に流入する。
【0037】
第2蒸気導出管232を流れる蒸気の少なくとも一部は、第1熱交換器3を通過する際に該熱交換器3を流れる冷媒(後述するように、蒸気が液化することで生じた水)との間で熱交換することで冷却され、液化して水(蒸留水)となって循環水槽4に流入する。循環水槽4に流入した蒸留水は、真空循環ポンプ451の作用により循環水槽4の下部の還流口45から導水管452を通り、第2熱交換器7、第1熱交換器3の内部を順に通過した後、エゼクタ9を経て循環水槽4に戻される。導水管452を流れる蒸留水が第2熱交換器7を通過する際に、該蒸留水はキャピラリーチューブ218で低圧・低温となった冷媒ガスと熱交換することで冷却され、続いて、第1熱交換器3を通過する際に、第2蒸気導出管232を流れる蒸気と熱交換することで、該蒸気を冷却し、液化する。
【0038】
一方、加熱処理槽2内でメッキ廃液中の水が蒸発することに伴い、メッキ処理液に含まれる成分によって気泡が発生した場合には、該気泡は蒸気とともに加熱処理槽2内を上昇する。このとき、気泡の一部はワイヤメッシュデミスタ22によって潰され、液状となってメッキ廃液に戻される。また、ワイヤメッシュデミスタ22によって潰されることなく蒸気出口23に達した気泡は、蒸気とともに蒸気出口23から第1蒸気導出管231に流入し、該導出管231を通ってセパレータ6に流入する。セパレータ6に流入した気泡は、該セパレータ6内で膨張することで破裂し、液状となってセパレータ6内に残留する。また、セパレータ6内に流入した気泡の一部がそのままの状態で(つまり破裂せずに)蒸気とともに上昇した場合でも、セパレータ6内の上部空間に設置されたワイヤメッシュデミスタ61によって潰され、液状となってセパレータ6内に落下して貯留される。セパレータ6内の残留物は、導入路62を通って加熱処理槽2に戻される。気泡は主にメッキ廃液中のメッキ処理液から形成されたものであるため、残留物が加熱処理槽2に戻されることで、加熱処理槽2内のメッキ廃液中のメッキ処理液の割合が増え、該メッキ廃液が濃縮されることになる。
【0039】
以上の動作が繰り返されることにより、加熱処理槽2内に収容されたメッキ廃液に含まれる水分は蒸留分離されて循環水槽4に回収される一方、加熱処理槽2内のメッキ廃液はそこに含まれるメッキ処理液の割合が増加し、濃縮される。濃縮されたメッキ廃液(濃縮液)は、排出弁251を開放し、排出ポンプ252を駆動することにより、加熱処理槽2内から吸引され、濃縮液排出口25から濃縮液排出管253を通して貯留タンクに回収される。
【0040】
このように本実施形態によれば、加熱処理槽2内に収容されたメッキ廃液を、低沸点成分である水の蒸気と高沸点成分であるメッキ処理液とに分離し、それぞれを再生水、メッキ処理液として回収することができる。回収されたメッキ処理液には消泡剤のような本来、メッキ処理液には含まれていない成分が含まれないため、回収されたメッキ処理液を再利用することができる。また、消泡剤を使用しないことによってメッキ廃液の加熱により多くの気泡が生じた場合でも、加熱処理槽2内に配置したワイヤメッシュデミスタ22によって気泡を潰すことで水蒸気と気泡を分離し、さらにセパレータ6において気泡を破裂させることで水蒸気と分離することができる。しかも、本実施形態では、セパレータ6内の上部空間にワイヤメッシュデミスタ61を配置し、セパレータ6内で破裂しなかった気泡を潰して水蒸気と分離するようにした。そのため、メッキ廃液を加熱することにより生じた水蒸気を、そこから気泡を取り除いた状態で第1熱交換器3を通過させることができる。水蒸気は第1熱交換器3を通過する際に冷却されて水となり、循環水槽4に回収されるが、循環水槽4に回収される水に含まれるメッキ処理液の量を低減することができ、この水を再生水として利用することができる。
【0041】
[変形例]
なお、本発明は上記した実施形態に限らず種々の変形が可能である。例えば、第1実施形態では、セパレータ6の内部にワイヤメッシュデミスタ61を配置したが、図2に示すように、セパレータ6内のワイヤメッシュデミスタは省略することができる。この場合、セパレータ6は単なる円筒形の容器のみから構成されることになるが、セパレータ6内に流入する気泡の量が少なかったり、気泡が破裂し易い性質のものであったりする場合は、セパレータ6内にワイヤメッシュデミスタがなくても気泡を液状にすることができる。セパレータ6内にワイヤメッシュデミスタを配置するか否かは、加熱処理槽2内に供給される被処理液の粘性、セパレータ6内の真空度等によって決めることができる。
【0042】
また、セパレータ6は、気泡が膨張して破裂することを利用したものであるため、例えばセパレータ6の内壁を、膨張した気泡が破裂し易いように構成してもよい。膨張した気泡が破裂し易い構成としては、セパレータ6の内壁に針状部材をその尖端が内側を向くように取り付けたり、セパレータ6の内壁面を多数の突起、棘等を有する粗面にしたりすることが考えられる。針状部材を取り付ける箇所、粗面にする箇所の好ましい例としては、膨張した気泡が付着し易い箇所、例えばセパレータ6の上面や、セパレータ6と第2蒸気導出管232との接続部周辺の面が挙げられるが、それ以外の箇所でもよい。このような構成にすることにより、膨張した気泡が破裂する前の段階で該気泡を破裂させることができるため、気泡がセパレータ6に流入してから破裂するまでにかかる時間を短縮することができる。
【0043】
また、上記実施形態では、本発明に係る蒸留処理装置を廃液再生装置として利用する場合について説明したが、廃液処理装置として利用することができる。この場合は、加熱処理槽2に残留したメッキ廃液の濃縮液は廃棄されることになる。廃棄する場合でも、濃縮液中に消泡剤が含まれていない方が廃棄し易くなるというメリットがある。
【0044】
[態様]
上述した例示的な実施形態が以下の態様の具体例であることは、当業者には明らかである。
【0045】
(第1項)本発明の一態様に係る蒸留処理装置は、
沸点が所定温度以下の低沸点成分と沸点が前記所定温度を超える高沸点成分を含む被処理液が収容される加熱処理槽と、
前記所定温度で前記加熱処理槽内に収容された被処理液を加熱する加熱機構と、
前記加熱処理槽の上部に形成された蒸気出口と、
前記蒸気出口に接続された蒸気流路と、
前記蒸気流路を流れる蒸気を冷却して液化する冷却器と、
前記冷却器よりも前記加熱処理槽側の前記蒸気流路に介挿された、該蒸気出口から該蒸気流路に流入した気泡を膨張させるように構成された膨張室と
を備えるものである。
【0046】
第1項に係る蒸留処理装置によれば、加熱処理槽と冷却器とを接続する蒸気流路に膨張室を設けたため、加熱処理槽内で被処理液を加熱することにより主に高沸点成分からなる気泡が生じて蒸気出口から蒸気流路に流入した場合でも、該気泡が膨張室に流入することで膨張し、破壊される。したがって、低沸点成分の蒸気を冷却して液化する際に該蒸気に気泡が混入することを防止できる。
【0047】
(第2項)第2項に係る蒸留処理装置は、第1項に係る蒸留処理装置において、前記加熱処理槽内に金属網製のデミスタが設けられているものである。
【0048】
第2項に係る蒸留処理装置によれば、加熱処理槽内で発生した気泡が加熱処理槽内を上昇して蒸気出口に至ることを防止することができる。
【0049】
(第3項)第3項に係る蒸留処理装置は、第1項又は第2項に係る蒸留処理装置において、前記膨張室内に金属網製のデミスタが設けられているものである。
【0050】
第3項に係る蒸留処理装置によれば、膨張室内に流入し該膨張室内で破壊されなかった気泡が膨張室から出て冷却器に向かうことを防止することができる。
【0051】
(第4項)第4項に係る蒸留処理装置は、第1項~第3項のいずれかに係る蒸留処理装置において、前記冷却器で蒸気が冷却されて液化することにより生じた液化物を回収する回収槽をさらに備えるものである。
【0052】
第4項に係る蒸留処理装置によれば、被処理液から分離された蒸気が液化することにより得られた液化物を回収して再利用し易くなる。
【0053】
(第5項)第5項に係る蒸留処理装置は、第1項~第4項に係る蒸留処理装置において、前記加熱処理槽から前記膨張室及び前記冷却器を経て前記回収槽に至るまでの流路内を減圧する減圧機構をさらに備えるものである。
【0054】
第5項に係る蒸留処理装置によれば、加熱処理槽内に収容された被処理液に含まれる低沸点成分を常圧よりも低い温度で沸騰させることができる。また、被処理液が沸騰することにより生じた気泡を膨張室内で効率よく膨張させることができる。
【0055】
(第6項)第6項に係る蒸留処理装置は、第1項~第5項のいずれかに係る蒸留処理装置において、前記膨張室内に溜まった貯留物を前記加熱処理槽に戻すための還流路を備えるものである。
【0056】
第6項に係る蒸留処理装置によれば、膨張室で気泡が膨張し、破壊されることによって液状となった高沸点成分を加熱処理槽に戻して、再度処理することができる。
【符号の説明】
【0057】
1…廃液再生装置
2…加熱処理槽
21…浸漬型熱交換器
213…冷媒供給管
214…冷媒還流管
215…空冷コンデンサ
22…ワイヤメッシュデミスタ
23…蒸気出口
231…第1蒸気導出管
232…第2蒸気導出管
24…原水投入口
25…濃縮液排出口
26…液面計
27…大気連通管
28…温度センサ
3…熱交換器(第1熱交換器)
4…循環水槽
451…真空循環ポンプ
452…導水管
5…コンプレッサ
6…セパレータ
61…ワイヤメッシュデミスタ
62…導入路
7…熱交換器(第2熱交換器)
9…エゼクタ
91…真空圧センサ
【要約】
【課題】留処理装置において、被処理液を加熱することにより生じる蒸気を冷却して液化する際に該蒸気に泡が混入しないようにする。
【解決手段】本発明の蒸留処理装置は、沸点が所定温度以下の低沸点成分と沸点が前記所定温度を超える高沸点成分を含む被処理液が収容される加熱処理槽と、前記所定温度で前記加熱処理槽内に収容された被処理液を加熱する加熱機構と、前記加熱処理槽の上部に形成された蒸気出口と、前記蒸気出口に接続された蒸気流路と、前記蒸気流路を流れる蒸気を冷却して液化する冷却器と、前記冷却器よりも前記加熱処理槽側の前記蒸気流路に介挿された、該蒸気出口から該蒸気流路に流入した気泡を膨張させるように構成された膨張室とを備える。
【選択図】図1
図1
図2