(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】4つの楕円弧を有する自転車用スプロケット及びその設計方法
(51)【国際特許分類】
B62M 9/00 20060101AFI20240821BHJP
B62M 9/10 20060101ALN20240821BHJP
【FI】
B62M9/00 A
B62M9/10 B
(21)【出願番号】P 2023177348
(22)【出願日】2023-10-13
【審査請求日】2023-11-09
(32)【優先日】2022-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】509161299
【氏名又は名称】國立虎尾科技大學
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張信良
(72)【発明者】
【氏名】王議弘
(72)【発明者】
【氏名】黎安迪
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-187434(JP,A)
【文献】特開2017-047875(JP,A)
【文献】特開2003-306189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62M 9/00 - 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプロケット本体と、スプロケット外縁と、を含む4つの楕円弧を有する自転車用スプロケットであって、
該スプロケット本体は、スプロケット回転中心、第1のX軸半径、第1のY軸半径、第2のX軸半径、及び、第2のY軸半径を有し、
該第1のY軸半径は、該第1のX軸半径に等しく、使用者の右足の踏力を該使用者の左足の踏力で割った数値を右左踏力比と定義すると、該第1のX軸半径を該第2のX軸半径で割った値は、該右左踏力比に等しく、該第2のY軸半径を該第1のY軸半径で割った値は、該右左踏力比に等しく、
該スプロケット外縁は、該スプロケット本体の外郭に位置し、上の点、右の点、下の点、左の点、第1の楕円弧、第2の楕円弧、第3の楕円弧、及び、第4の楕円弧を有し、
該上の点、該右の点、該下の点及び該左の点はそれぞれ、該スプロケット回転中心の0度、90度、180度及び270度方向に位置し、
該第1の楕円弧は、該上の点と該右の点との間にあり、該第2の楕円弧は、該右の点と該下の点との間にあり、該第3の楕円弧は、該下の点と該左の点との間にあり、該第4の楕円弧は、該左の点と該上の点との間にある、4つの楕円弧を有する自転車用スプロケット。
【請求項2】
該右左踏力比が1.14~1.26の範囲にある、請求項1に記載の4つの楕円弧を有する自転車用スプロケット。
【請求項3】
該右左踏力比が1.2である、請求項2に記載の4つの楕円弧を有する自転車用スプロケット。
【請求項4】
少なくとも1つのペダルセンサー、及び、コントローラを含む圧力検知ユニットを更に含み、
少なくとも1つの該ペダルセンサーは、該使用者の左足と右足の少なくとも一方に漕がれ、更に該左足の踏力と該右足の踏力をそれぞれ生成して、該コントローラにそれぞれ送信する、請求項1に記載の4つの楕円弧を有する自転車用スプロケット。
【請求項5】
右足ペダル部品と、左足ペダル部品と、を更に含み、
該右足ペダル部品及び該左足ペダル部品はいずれも該スプロケット回転中心と同軸であり、それぞれ漕がれて自転車用スプロケットを駆動する、請求項1に記載の4つの楕円弧を有する自転車用スプロケット。
【請求項6】
一、少なくとも1つのペダルセンサー、及び、コントローラを含む圧力検知ユニットを設置し、少なくとも1つの該ペダルセンサーは、使用者の左足と右足の少なくとも一方に漕がれ、更に該左足の踏力と該右足の踏力をそれぞれ生成し、該コントローラにそれぞれ送信し、該右足の踏力を該左足の踏力で割った数値は、右左踏力比と定義される、右左の踏力を測定する工程と、
二、スプロケット本体を設置して、該右左踏力比に応じて、該スプロケット本体に対してスプロケット回転中心、第1のX軸半径、第1のY軸半径、第2のX軸半径、及び、第2のY軸半径を定義し、
該第1のY軸半径は、該第1のX軸半径に等しく、該第1のX軸半径を該第2のX軸半径で割った値は、該右左踏力比に等しく、且つ該第2のY軸半径を該第1のY軸半径で割った値は、該右左踏力比に等しい、重要パラメータを生成する工程と、
三、該重要パラメータを生成する工程を通じて、該スプロケット本体の外郭に位置するスプロケット外縁を生成し、該スプロケット外縁は、上の点、右の点、下の点、左の点、第1の楕円弧、第2の楕円弧、第3の楕円弧、及び、第4の楕円弧を有し、該上の点、該右の点、該下の点及び該左の点はそれぞれ、該スプロケット回転中心の0度、90度、180度及び270度方向に位置し、
該第1の楕円弧は、該上の点と該右の点との間にあり、該第2の楕円弧は、該右の点と該下の点との間にあり、該第3の楕円弧は、該下の点と該左の点との間にあり、該第4の楕円弧は、該左の点と該上の点の間にある、輪郭形状を生成する工程と、
四、該スプロケット外縁を±10%比例拡大/縮小することで、整数化した最小の歯形と歯数を取得し、更に該スプロケット本体の設計を完成する、最終歯形を完成する工程と、
を含む、4つの楕円弧を有する自転車用スプロケットの設計方法。
【請求項7】
該右左踏力比が1.14~1.26の範囲にある、請求項6に記載の4つの楕円弧を有する自転車用スプロケットの設計方法。
【請求項8】
該右左踏力比が1.2である、請求項7に記載の4つの楕円弧を有する自転車用スプロケットの設計方法。
【請求項9】
右足ペダル部品及び左足ペダル部品を更に含み、
該右足ペダル部品及び該左足ペダル部品はいずれも該スプロケット回転中心と同軸であり、それぞれ漕がれて自転車用スプロケットを駆動する、請求項6に記載の4つの楕円弧を有する自転車用スプロケットの設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4つの楕円弧を有する自転車用スプロケット及びその設計方法に関する。特に、独特の4つの楕円弧を採用して優れた効率を有し、且つ異なる使用者に対してカスタマイズできる、4つの楕円弧を有する自転車用スプロケット及びその設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自転車用スプロケットは、最も広く使用されているのは円形であり、例えば、
図5に示されたように、X方向、Y方向、又は他の方向の半径Rはいずれも等しく、言い換えれば、左足又は右足のいずれで漕ぐ時、生じるモーメントアームは一定である。多くのハイレベルの使用者(例えば、サイクリスト)は、より速いタイムとより高い効率を求めて、それにより試合の成績に大きな差異が出てくる。これらのハイレベルの使用者のうち、多くの人は左足の踏力が右足の踏力と異なっている。前述した考えに基づき、ある使用者は右足の踏力が比較的強いと仮定するが、従来の円形スプロケットでは、比較的強い右足の踏力を比較的大きいトルクに転換できない。現在、ある業者(TWI722688の4つの楕円弧で組成された複合式スプロケットを有する自転車)は非円形スプロケットを制作したが、設計が非常に複雑で、業者が採用したがらない、或いは、採用の難度が非常に高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、独特の4つの楕円弧を採用して優れた効率を有し、且つ異なる使用者に対してカスタマイズできるなどの利点を兼ね持つ、4つの楕円弧を有する自転車用スプロケット及びその設計方法を提供することである。特に、本発明が解決しようとする課題は、従来の円形スプロケットが使用者の比較的強いある足の踏力を比較的大きいトルクに転換できないこと、及び周知の非円形スプロケットの設計が非常に複雑で、業者が採用したがらない、或いは、採用の難度が非常に高いことなどである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題を解決する技術的手段として、4つの楕円弧を有する自転車用スプロケット及びその設計方法を提供する。
自転車用スプロケットは、スプロケット本体と、スプロケット外縁と、を含む。
スプロケット本体は、スプロケット回転中心、第1のX軸半径、第1のY軸半径、第2のX軸半径、及び、第2のY軸半径を有する。
第1のY軸半径は、第1のX軸半径に等しい。使用者の右足の踏力を使用者の左足の踏力で割った数値を右左踏力比と定義すると、第1のX軸半径を第2のX軸半径で割った値は、右左踏力比に等しく、第2のY軸半径を第1のY軸半径で割った値は、右左踏力比に等しい。
スプロケット外縁は、スプロケット本体の外郭に位置し、且つスプロケット外縁は、上の点、右の点、下の点、左の点、第1の楕円弧、第2の楕円弧、第3の楕円弧、及び、第4の楕円弧を有する。
上の点、右の点、下の点及び左の点はそれぞれ、スプロケット回転中心の0度、90度、180度及び270度方向に位置する。
第1の楕円弧は、上の点と右の点との間にあり、第2の楕円弧は、右の点と下の点との間にあり、第3の楕円弧は、下の点と左の点との間にあり、第4の楕円弧は、左の点と上の点との間にある。
【0005】
自転車用スプロケットの設計方法は、下記の工程を含む。
一、右左の踏力を測定する工程。
二、重要パラメータを生成する工程。
三、輪郭形状を生成する工程。
四、最終歯形を完成する工程。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本発明の自転車用スプロケットの模式図である。
【
図2】
図1の簡略化(切り取られた円弧)模式図である。
【
図5】周知の自転車用スプロケットの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1~
図3を参照する。本発明は、4つの楕円弧を有する自転車スプロケット構造、すなわち、自転車用スプロケット及びその設計方法であって、自転車用スプロケットは、スプロケット構造、すなわち、スプロケット本体10Aと、スプロケット外縁10Bとを含む。
【0008】
スプロケット本体10Aは、スプロケット回転中心Cと、第1のX軸半径RX1と、第1のY軸半径RY1と、第2のX軸半径RX2と、第2のY軸半径RY2とを有する。第1のY軸半径RY1は、第1のX軸半径RX1に等しく、第1のX軸半径RX1を第2のX軸半径RX2で割った値は、ちょうど右左踏力比に等しい。右左踏力比は、使用者91の右足の踏力FRを使用者91の左足の踏力FLで割った数値と定義される。第2のY軸半径RY2を第1のY軸半径RY1で割った値は、ちょうど右左踏力比に等しい。
【0009】
スプロケット外縁10Bは、スプロケット本体10Aの外郭に位置する。且つスプロケット外縁10Bは、上の点P1と、右の点P2と、下の点P3と、左の点P4と、第1の楕円弧L1と、第2の楕円弧L2と、第3の楕円弧L3と、第4の楕円弧L4とを有する。上の点P1、右の点P2、下の点P3及び左の点P4はそれぞれ、スプロケット回転中心Cの0度、90度、180度及び270度方向に位置する。第1の楕円弧L1は、上の点P1と右の点P2との間にあり、第2の楕円弧L2は、右の点P2と下の点P3との間にあり、第3の楕円弧L3は、下の点P3と左の点P4との間にあり、第4の楕円弧L4は、左の点P4と上の点P1との間にある。
【0010】
実際に、右左踏力比が1.14~1.26の範囲にある。
右左踏力比は1.2が好ましい数値である。
【0011】
本発明は、下記の構成を更に含んでもよい。
圧力検知ユニット20(例えば、
図3に図示)は、少なくとも1つのペダルセンサー21と、コントローラ22とを含む。少なくとも1つのペダルセンサー21は、使用者91の左足911と右足912の少なくとも一方に漕がれ、更に左足の踏力FLと右足の踏力FRをそれぞれ生成し、コントローラ22にそれぞれ送信して、参考に供する。
少なくとも1つのペダルセンサー21は、2つであってもよく、それぞれ使用者91の左足911と右足912に漕がれる。
右足ペダル部品10C(
図1に図示)、及び左足ペダル部品10Dを更に含んでもよい。右足ペダル部品10C及び左足ペダル部品10Dはいずれもスプロケット回転中心Cと同軸であり、それぞれ漕がれて自転車用スプロケットを駆動する。
【0012】
図4を参照する。本発明の設計方法は、下記の工程を含む。
一、右左の踏力を測定する工程S1。少なくとも1つのペダルセンサー21と、コントローラ22とを含む圧力検知ユニット20(例えば、
図3に図示)を設置する。少なくとも1つのペダルセンサー21は、使用者91の左足911と右足912の少なくとも一方に漕がれ、更に左足の踏力FLと右足の踏力FRをそれぞれ生成し、コントローラ22にそれぞれ送信する。右足の踏力FRを左足の踏力FLで割った数値は、右左踏力比と定義される。
【0013】
二、重要パラメータを生成する工程S2。スプロケット本体10Aを設置し、右左踏力比に応じて、スプロケット本体10Aに対して、スプロケット回転中心Cと、第1のX軸半径RX1と、第1のY軸半径RY1と、第2のX軸半径RX2と、第2のY軸半径RY2とを定義する。第1のY軸半径RY1は、第1のX軸半径RX1に等しい。第1のX軸半径RX1を第2のX軸半径RX2で割った値は、ちょうど右左踏力比に等しい。且つ第2のY軸半径RY2を第1のY軸半径RY1で割った値は、ちょうど右左踏力比に等しい。
【0014】
三、輪郭形状を生成する工程S3。重要パラメータを生成する工程S2を通じて、スプロケット本体10Aの外郭に位置するスプロケット外縁10Bを生成する。スプロケット外縁10Bは、上の点P1と、右の点P2と、下の点P3と、左の点P4と、第1の楕円弧L1と、第2の楕円弧L2と、第3の楕円弧L3と、第4の楕円弧L4とを有する。上の点P1、右の点P2、下の点P3及び左の点P4はそれぞれ、スプロケット回転中心Cの0度、90度、180度及び270度方向に位置する。第1の楕円弧L1は、上の点P1と右の点P2との間にあり、第2の楕円弧L2は、右の点P2と下の点P3との間にあり、第3の楕円弧L3は、下の点P3と左の点P4との間にあり、第4の楕円弧L4は、左の点P4と上の点P1との間にある。
【0015】
四、最終歯形を完成する工程S4。スプロケット外縁10Bを±10%比例拡大/縮小することで、整数化した最小の歯形と歯数を取得し、更にスプロケット本体10Aの設計を完成する。
【0016】
実際に、右左の踏力を測定する工程S1の部分に関しては、使用者91の左足911又は右足912のそれぞれに力を入れてペダルセンサー21(例えば、薄膜圧力センサー)を漕ぐ時、対応する左足の踏力FLと右足の踏力FRをそれぞれ収集できる。左足911と右足912をそれぞれ5回漕いで、その平均値を算出すれば、表1のデータが得られる。
【0017】
【0018】
本発明の実験測定では、下記の2つの測定を行って分析した。
A.同じケイデンス(cadence)で比較する。この実験分析は、本発明のスプロケット本体10Aを採用した場合と、従来の34歯円形スプロケットを採用した場合とにおいて、それぞれ自転車を漕いで後輪速度を得る。そして、4つの異なるスピードレベル(speed level)はそれぞれ、レベルI(90rpm)、レベルII(95rpm)、レベルIII(100rpm)及びレベルIV(105rpm)とした。これらのレベルを選んだ理由は、最大の動力出力が得られるためであり、参考文献は、2020年のターピン及びワティアによるものである(Turpin and Watier,2020)。実際の測定結果を下記の表2に示す。
【0019】
【0020】
レベルIからすれば、152.59/148.72=1.0260、即ち、従来の円形34歯スプロケットタイプに対して、本発明のスプロケットタイプで生じる後輪速度は、従来の円形34歯スプロケットタイプより2.6%速かった。そして、レベルII~レベルIVのデータも、前述した結論を裏付けている。
【0021】
B.同じ後輪速度で比較する。この実験の目的は、同じ後輪速度を達成するのに必要なクランクシャフトパワーを比較することである。これにより、異なるスプロケット設計における効率の差を知ることができる。この実験は、前の実験[A]において、本発明のスプロケット本体10A及び従来の34歯円形スプロケットがそれぞれ生じた後輪速度を用いた。実際の測定結果を下記の表3に示す。
【0022】
【0023】
各レベルからすれば、同じ後輪速度で生じるダウンストロークパワーについて、本発明はより少ない動力で同じケイデンスを達成でき、各レベルにおいて約22.11%の差があった。この結果では、本発明はより少ない動力で同じケイデンスを達成でき、即ち、本発明は効率がより高いことを証明できる。
【0024】
本発明の利点及び効果は、下記のとおりである。
[1]スプロケットは、独特の4つの楕円弧を採用して優れた効率を有する。ハイレベルのサイクリストにとって、いかなる試合でも僅差で勝敗が分かれる。特に、1周り漕ぐと効率が2.6%違う場合、中距離試合では顕著な差が感じられ、長距離試合では騎乗効率が2.6%違えば、結果の差がより顕著となるため、本発明の設計は独特で効率が高い。したがって、スプロケットは独特の4つの楕円弧を採用して優れた効率を有する。
[2]異なる使用者に対して自転車用スプロケットをカスタマイズできる。一人一人の左足と右足の踏力が異なる可能性があり、本発明は簡単且つ特殊な方法でカスタマイズの目的を達成できるため、各自転車使用者の騎乗効率を最高に発揮して、カスタマイズの目的を達成する。したがって、異なる使用者に対して自転車用スプロケットをカスタマイズできる。
【符号の説明】
【0025】
10A スプロケット本体
10B スプロケット外縁
10C 右足ペダル部品
10D 左足ペダル部品
20 圧力検知ユニット
21 ペダルセンサー
22 コントローラ
91 使用者
911 左足
912 右足
S1 右左の踏力を測定する工程
S2 重要パラメータを生成する工程
S3 輪郭形状を生成する工程
S4 最終歯形を完成する工程
FR 右足の踏力
FL 左足の踏力
C スプロケット回転中心
RX1 第1のX軸半径
RX2 第2のX軸半径
RY1 第1のY軸半径
RY2 第2のY軸半径
P1 上の点
P2 右の点
P3 下の点
P4 左の点
L1 第1の楕円弧
L2 第2の楕円弧
L3 第3の楕円弧
L4 第4の楕円弧
R 半径