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特許7541421電極チップの切削再生方法及びチップドレス用切削カッター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】電極チップの切削再生方法及びチップドレス用切削カッター
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/30 20060101AFI20240821BHJP
   B23K 11/11 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
B23K11/30 350
B23K11/11 540
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023552076
(86)(22)【出願日】2022-09-01
(86)【国際出願番号】 JP2022033018
(87)【国際公開番号】W WO2024047849
(87)【国際公開日】2024-03-07
【審査請求日】2023-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】591260948
【氏名又は名称】株式会社キョクトー
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】手澤 和宏
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-239562(JP,A)
【文献】特表2022-501196(JP,A)
【文献】国際公開第2019/203105(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0211677(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00 - 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スポット溶接用電極チップの先端部を受け止め可能な受止面部を有する回転ホルダと、切刃部及び当該切刃部に連続して設けられた逃げ面部を有する切削部材とを用意し、
前記受止面部及び前記逃げ面部の少なくとも一方にブラスト加工による表面処理を施して粗面部を形成した後、前記切削部材を前記切刃部が前記回転軸心から次第に離れて延びるように前記回転ホルダに取り付け、その後、当該回転ホルダをチップドレスに装着し、
しかる後、前記回転ホルダを回転させながら前記電極チップの先端部を前記受止面部と前記逃げ面部とで受け止めることにより、前記切刃部で前記電極チップの先端部を切削して再生させることを特徴とする電極チップの切削再生方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電極チップの切削再生方法において、
前記逃げ面部は、ブラスト加工により形成された粗面部と、該粗面部と前記切刃部との間に設けられた帯状に延びる非粗面部とを備えていることを特徴とする電極チップの切削再生方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電極チップの切削再生方法において、
前記受止面部及び前記逃げ面部の少なくとも一方に施された前記粗面部の表面粗度Raは、5.3~6.5μmの範囲であることを特徴とする電極チップの切削再生方法。
【請求項4】
スポット溶接用電極チップの先端部を受け止め可能な受止面部を有し、回転軸心を中心に回転させる回転ホルダと、
該回転ホルダに取り付けられ、前記回転軸心から次第に離れて延びる切刃部及び当該切刃部に連続して設けられた逃げ面部を有し、前記回転ホルダを回転させながら前記電極チップの先端部を前記受止面部と前記逃げ面部とで受け止めた際、前記切刃部が前記電極チップの先端部を切削して再生させる切削部材と、を備え、
前記受止面部及び前記逃げ面部の少なくとも一方は、ブラスト加工による表面処理が施されて形成された粗面部になっていることを特徴とするチップドレス用切削カッター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミ溶接用電極チップの先端部を切削して再生させる切削再生方法と、アルミ溶接用電極チップの先端部を切削して再生させる際に用いるチップドレス用切削カッターとに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アルミニウム材をスポット溶接する際、溶接時に発生する酸化被膜によって電極チップの先端部とアルミニウム材との間の接触部分の電気抵抗が増えて溶接が不安定になることが知られている。これに対応するために、電極チップの先端部に粗面部を形成し、溶接時において粗面部の凸部分で酸化被膜を突き破るようにして接触部分の電気抵抗を減少させて溶接を安定させることが一般的に行われている。
【0003】
例えば、特許文献1では、電極チップの先端部に対してブラスト加工による表面処理を施すことにより、電極チップの先端部に粗面領域を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第6861609号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば、工場等において繰り返しスポット溶接する場合、電極チップの先端部の状態が次第に悪化していくので、チップドレスを用いて周期的に電極チップの先端部を切削して再生させる必要がある。
【0006】
しかし、アルミニウム材のスポット溶接を安定させるために特許文献1の如き方法で電極チップの先端部に粗面領域を形成しようとすると、チップドレスを用いて電極チップの先端部を切削して再生させた後、溶接ガンのシャンクから電極チップを取り外すとともに電極チップの先端部にブラスト加工による表面処理を施し、その後、先端部に表面処理を施した電極チップを溶接ガンのシャンクに再度取り付けるといった作業が必要となり、電極チップの切削再生作業が煩雑で時間が嵩んでしまう。
【0007】
また、アルミニウム材を繰り返しスポット溶接することで電極チップの先端部の状態が悪化すると、電極チップの先端部に融点の低いアルミニウム材が溶着して設備を停止させてしまう場合があるので、アルミニウム材のスポット溶接を繰り返す工場等では、電極チップの先端部の切削再生作業の周期を短くして設備を稼働させるといったことが必要になる。したがって、設備の停止回数を減らすべく電極チップの先端部の切削再生作業の周期を長くしたいという要求もある。
【0008】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、切削再生後の電極チップでアルミニウム材のスポット溶接を繰り返し行っても溶接が安定するとともに電極チップの先端部の切削再生作業の周期を長くすることができ、しかも、電極チップの切削再生作業が簡単で効率良く行うことができる電極チップの切削再生方法及びチップドレス用切削カッターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、チップドレスに装着する切削カッターにおける回転ホルダ及び切削部材の少なくとも一方の所定の領域にブラスト加工を施すようにしたことを特徴とする。
【0010】
具体的には、アルミニウム材をスポット溶接する際に使用する電極チップの切削再生方法を対象とし、次のような対策を講じた。
【0011】
すなわち、第1の発明では、スポット溶接用電極チップの先端部を受け止め可能な受止面部を有する回転ホルダと、切刃部及び当該切刃部に連続して設けられた逃げ面部を有する切削部材とを用意し、前記受止面部及び前記逃げ面部の少なくとも一方にブラスト加工による表面処理を施して粗面部を形成した後、前記切削部材を前記切刃部が前記回転軸心から次第に離れて延びるように前記回転ホルダに取り付け、その後、当該回転ホルダをチップドレスに装着し、しかる後、前記回転ホルダを回転させながら前記電極チップの先端部を前記受止面部と前記逃げ面部とで受け止めることにより、前記切刃部で前記電極チップの先端部を切削して再生させることを特徴とする。
【0012】
第2の発明では、第1の発明において、前記逃げ面部は、ブラスト加工により形成された粗面部と、該粗面部と前記切刃部との間に設けられた帯状に延びる非粗面部とを備えていることを特徴とする。
【0013】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、前記受止面部及び前記逃げ面部の少なくとも一方に施された前記粗面部の表面粗度Raは、5.3~6.5μmの範囲であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、アルミ溶接用電極チップの先端部を切削して再生させる際に用いるチップドレス用切削カッターを対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0015】
すなわち、第4の発明では、スポット溶接用電極チップの先端部を受け止め可能な受止面部を有し、回転軸心を中心に回転させる回転ホルダと、該回転ホルダに取り付けられ、前記回転軸心から次第に離れて延びる切刃部及び当該切刃部に連続して設けられた逃げ面部を有し、前記回転ホルダを回転させながら前記電極チップの先端部を前記受止面部と前記逃げ面部とで受け止めた際、前記切刃部が前記電極チップの先端部を切削して再生させる切削部材と、を備え、前記受止面部及び前記逃げ面部の少なくとも一方は、ブラスト加工による表面処理が施されて形成された粗面部になっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1及び第4の発明では、電極チップの先端部を切削再生させる際、ブラスト加工によって形成された粗面部が電極チップの先端部に擦り当てられるので、電極チップの先端部に多数の先鋭な凸部を有する粗面領域が形成されるようになる。したがって、溶接時において電極チップの先端部とアルミニウム材との間に発生する酸化被膜が各凸部によって壊れ易くなり、スポット溶接を繰り返し安定して行うことができる。また、粗面部によって溶接時における酸化被膜の影響が少なくなるので、電極チップの先端部とアルミニウム材との間の温度が必要以上に上昇するのを防ぐことができるようになり、電極チップの先端部へのアルミニウム材の溶着を防いで電極チップの先端部の切削再生作業の周期を長くすることができる。さらに、電極チップの切削再生作業を行う際、切刃部が電極チップの先端部を切削した直後に切削部材若しくは回転ホルダの粗面部が電極チップの先端部に擦り当たって当該先端部に微小な凹凸形状からなる粗面領域を形成するようになる。したがって、電極チップの先端部における悪化した領域を取り除くと同時に粗面領域を形成することができるので、電極チップの切削再生作業を簡単に、且つ、効率良く行うことができる。
【0017】
第2の発明では、電極チップの先端部を切刃部で削った直後の電極チップの先端部と逃げ面部との間の摺接動作がスムーズになるので、電極チップの先端部を綺麗に切削することができる。
【0018】
第3の発明では、受止面部又は逃げ面部に形成される粗面部が最適な凹凸形状になるので、切削再生作業を行って前記粗面部により形成した粗面領域を有する電極チップの先端部でスポット溶接を行うことで溶接品質をさらに安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る切削カッターが装着されるチップドレスの分解斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係る切削カッターの斜視図である。
図3図2のIII-III線における断面図である。
図4】表面にブラスト加工が施された切削部材の斜視図である。
図5】表面にブラスト加工が施された回転ホルダの平面図である。
図6図4のVI-VI線における断面図である。
図7】本発明の実施形態に係る方法で切削再生させた電極チップとその他の方法で先端部の状態を変化させた電極チップとでそれぞれアルミニウム材を繰り返しスポット溶接した際の溶接状態を調査した結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係る金属製切削カッター1と、該切削カッター1を装着可能なチップドレス10とを示す。該チップドレス10は、スポット溶接用溶接ガンGのシャンクG1に嵌め込まれて対向する一対の電極チップ11の先端部11aをそれぞれ切削するためのものであり、側面視で略L字状をなす本体ケース10aを備えている。
【0022】
本体ケース10aは、筒中心線が上下に延びる有底円筒形状のモータ収容部10bと、該モータ収容部10bの上部から側方に略水平方向に延出する平面視で略滴形状をなすカッター収容部10cとを備えている。
【0023】
カッター収容部10cの基端側におけるモータ収容部10b側面には、本体ケース10aに加わる衝撃を吸収する衝撃吸収機構部10dが取り付けられている。
【0024】
カッター収容部10cは、厚みを有する板状をなしており、その延出側中央には、上下に開口するカッター支持孔10eが設けられている。
【0025】
カッター収容部10cの延出側下面におけるカッター支持孔10eの周囲部分には、電極チップ11の先端部11aを切削する際に発生する切粉(図示せず)を吸引して回収する吸引ユニット10fが取り付けられている。
【0026】
カッター支持孔10eには、回転軸心C1が上下方向に延びる切削カッター1が配設され、該切削カッター1は、モータ収容部10bに収容された図示しない駆動モータにより回転軸心C1を中心として回転するようになっている。
【0027】
切削カッター1は、図2に示すように、平面視で略C字状をなす回転ホルダ2を備え、該回転ホルダ2は、回転軸心C1から径方向外側に向かうにつれて次第に回転軸心C1周りの周方向に拡がって外側方に開放するとともに上下にも開放する切欠部2aが形成されている。
【0028】
また、回転ホルダ2の上端周縁には、その他の部分よりも上方に張り出すとともに外側方に拡がるフランジ部2bが形成されている。
【0029】
フランジ部2bには、径方向外側と上側とにそれぞれ開放する3つの座繰り部2fが周方向に所定の間隔をあけて形成され、この3つの座繰り部2fにおいてボルトBTを用いて回転ホルダ2をチップドレス10に固定するようになっている。
【0030】
回転ホルダ2の上下面には、図2及び図3に示すように、当該回転ホルダ2の中央部分に行くにつれて次第に縮径する一対の略半球状をなす受止面部2cが回転軸心C1方向に対称に形成されている。
【0031】
受止面部2cの形状は、電極チップ11の先端部11aの湾曲形状に対応していて、電極チップ11の中心軸が回転軸心C1に一致した状態で電極チップ11の先端部11aが嵌合して受け止め可能になっている。
【0032】
回転ホルダ2の各受止面部2cを含む外面全域には、図5にも示すように、ブラスト加工による表面処理が施された粗面部2dが形成されている(図2は、便宜上、粗面部2dを受止面部2cの一部にのみ示す)。
【0033】
粗面部2dは、緑色炭化珪素からなる355~850μmの研磨材を用いて0.7MPaのエア圧力で研磨することにより形成されている。
【0034】
切欠部2aにおける回転軸心C1から外側方に延びる一方の内側面には、側面視で略T字状をなす段差状に窪む取付段差部2eが形成されている。
【0035】
該取付段差部2eには、電極チップ11の先端部11aを切削するためのプレート状をなす金属製切削部材3が装着されている。
【0036】
切削部材3は、金属板を略T字状に切り出して形成したものであり、図2及び図4に示すように、ネジ4を用いて略中央部分に形成された取付孔h1を介して取付段差部2eに固定するようになっている。
【0037】
切削部材3は、取付段差部2eに取り付けた状態で一方の板面が取付段差部2eの底面に対向する一方、他方の板面がすくい面部3aを構成するようになっていて、該すくい面部3aは、回転軸心C1周りの周方向に対して交差するように延びている。
【0038】
すくい面部3aの上側及び下側には、当該すくい面部3aと略直交する一対の逃げ面部3bが設けられている。
【0039】
すわなち、両逃げ面部3bは、回転軸心C1に沿う方向に所定の間隔をあけて一対形成され、回転軸心C1から離れるにつれて次第に回転軸心C1に沿って離間する湾曲形状をなしている。
【0040】
そして、両逃げ面部3bは、切削部材3を回転ホルダ2に取り付けた状態で受止面部2cに対応する形状をなしていて、電極チップ11をその中心軸が回転軸心C1に一致する状態で接近させると、図6に示すように、電極チップ11の先端部11aに対向するようになっている。
【0041】
切削部材3の回転軸心C1から遠い側の上部及び下部には、図2及び図4に示すように、側面視で矩形に切り欠かれた形状の位置決め凹部3cが一対形成されている。
【0042】
すくい面部3a及び各逃げ面部3bの連続部分には、回転軸心C1から次第に離れて延びる切刃部3dが回転軸心C1に沿って対称となるように一対形成されている。
【0043】
すなわち、一方の切刃部3dが、すくい面部3a及び一方の逃げ面部3bの連続部分に形成される一方、他方の切刃部3dが、すくい面部3a及び他方の逃げ面部3bの連続部分に形成されている。
【0044】
各逃げ面部3bは、図2及び図6に示すように、ブラスト加工による表面処理が施された粗面部3eと、該粗面部3eと切刃部3dとの間に設けられた非粗面部3fとを備え、該非粗面部3fは、切刃部3dに沿って帯状に延びている(図2は、便宜上、粗面部3eを逃げ面部3bの一部にのみ示す)。
【0045】
また、すくい面部3aは、ブラスト加工による表面処理が施された粗面部3gと、該粗面部3gと切刃部3dとの間に設けられた非粗面部3hとを備え、該非粗面部3hは、切刃部3dに沿って帯状に延びている。
【0046】
つまり、切削部材3における切刃部3dの周囲部分には、凹凸形状が形成されていない領域が設けられている。
【0047】
尚、非粗面部3f、3hの幅寸法は、それぞれ0.8mmとしているが、それ以外の寸法であってもよく、0.5~1.0mm程度とするのが好ましい。
【0048】
また、切削部材3のすくい面部3a及び各逃げ面部3bを除く外面全域についても、図4にも示すように、ブラスト加工による表面処理が施されている。
【0049】
粗面部3e及び粗面部3gは、回転ホルダ2と同様に、緑色炭化珪素からなる355~850μmの研磨材を用いて0.7MPaのエア圧力で研磨することにより形成されている。
【0050】
そして、中心軸を回転軸心C1に一致させた状態の電極チップ11の先端部11aを回転駆動させた回転ホルダ2の受止面部2cと切削部材3の逃げ面部3bとで受け止めると、切削部材3の各切刃部3dが電極チップ11の先端部11aを切削するとともに受止面部2cの粗面部2dと切削部材3の粗面部3eとが電極チップ11の先端部11aに粗面領域を形成して再生させるようになっている。
【0051】
次に、チップドレス10を用いた電極チップ11における先端部11aの切削再生作業について詳述する。
【0052】
まず、切削カッター1の外面にブラスト加工による表面処理を施す。すなわち、図4及び図5に示すように、切削部材3における切刃部3dの周囲部分を除く外面全域にブラスト加工による表面処理を施す一方、回転ホルダ2の受止面部2cを含む外面全域にブラスト加工を施して、切削部材3の逃げ面部3bに粗面部3eを、回転ホルダ2の受止面部2cに粗面部2dをそれぞれ形成する。
【0053】
次に、切削部材3を回転ホルダ2に取り付けた後、当該回転ホルダ2をチップドレス10に装着する。
【0054】
次いで、先端部11aの状態が悪い一対の電極チップ11をチップドレス10のカッター収容部10cの上方及び下方にそれぞれ移動させるとともに、両電極チップ11の中心軸を回転軸心C1に一致させる。
【0055】
しかる後、チップドレス10の図示しない駆動モータ及び歯車噛合機構を回転駆動させて切削カッター1を回転軸心C1周りに回転させる。
【0056】
その後、各電極チップ11を回転ホルダ2の各受止面部2cに回転軸心C1に沿って接近させ、各受止面部2cで各電極チップ11の先端部11aを受け止める。すると、図6に示すように、切削部材3における各切刃部3dが各電極チップ11の先端部11aに接触して当該各先端部11aをそれぞれ切削して再生させる。このとき、ブラスト加工によって形成された粗面部2d、3eが電極チップ11の先端部11aに擦り当てられて電極チップ11の先端部11aに粗面領域が形成される。このように、電極チップ11の切削再生作業を行う際、切刃部3dが電極チップ11の先端部11aを切削した直後において切削部材3若しくは回転ホルダ2の粗面部2d、3eが電極チップ11の先端部11aに擦り当たって当該先端部11aに微小な凹凸形状からなる粗面領域を形成する。
【0057】
次に、本発明の実施形態に係る切削カッター1のテスト結果について詳述する。
【0058】
図7は、先端部の状態が異なる3つの電極チップを用いてアルミニウム材を繰り返しスポット溶接した際の溶接性を評価した結果を示す表である。本発明の実施形態に係る切削カッター1で切削再生させた電極チップ11の溶接性が向上しているかを調べるために、テストA、テストB及びテストCに使用する各電極チップとして、本発明の実施形態に係る切削カッター1で切削再生させた電極チップ11(テストA用)、先端部を鉄ブラシで研摩した電極チップX(テストB用)、及び、先端部を一般的なチップドレスで切削した電極チップY(テストC用)を用意し、溶接ナゲット及びアルミニウム材表面の打痕の品質を調査した。
【0059】
テストA~Cで使用するテストピースは、板厚が1.5mmで、且つ、材質が6000系のアルミニウム材であり、スポット溶接の溶接条件を、溶接時間80ms、電流値32kA、加圧力460kgfとして重ね継手で繰り返しスポット溶接を実施した。
【0060】
また、テストA~Cで使用する各電極チップの先端部における粗面領域を粗さ測定器で測定すると、テストAで使用する電極チップ11の粗面領域の表面粗さRaが5.3~6.5μmであり、テストBで使用する電極チップXの粗面領域の表面粗さRaが4.0~4.5μmであり、テストCで使用する電極チップYの粗面領域の表面粗さRaが1.2~1.3μmであった。
【0061】
テストBでは、スポット溶接を繰り返し行うと、30打点目においてアルミニウム材表面の打痕に焦げ跡が発生し始めた。その後、100打点目までに溶着現象が3回発生した。尚、100打点目までにおいては、溶接ナゲットの品質に問題は無かった。
【0062】
また、テストCでは、6打点目においてアルミニウム材表面の打痕に焦げ跡が発生し始め、その後、13打点目には、溶着現象が出始めた。尚、13打点目までにおいては、溶接ナゲットの品質に問題は無かった。
【0063】
一方、テストAでは、100打点目以降に溶着現象が発生し始めた。しかし、160打点目までにおいては、溶接ナゲットの品質に問題は無かった。このように、本発明の実施形態に係る切削カッター1で切削再生させた電極チップ11でアルミニウム材をスポット溶接すると、溶接を繰り返しても溶着現象が発生し難いことが分かった。
【0064】
このように、本発明の実施形態によると、電極チップ11の先端部11aを切削再生させる際、ブラスト加工によって形成された粗面部2d、3eが電極チップ11の先端部11aに擦り当てられるので、電極チップ11の先端部11aに多数の先鋭な凸部を有する粗面領域が形成されるようになる。したがって、溶接時において電極チップ11の先端部11aとアルミニウム材との間に発生する酸化被膜が各凸部によって壊れ易くなり、スポット溶接を繰り返し安定して行うことができる。
【0065】
また、粗面部2d、3eによって溶接時における酸化被膜の影響が少なくなるので、電極チップ11の先端部11aとアルミニウム材との間の温度が必要以上に上昇するのを防ぐことができるようになり、電極チップ11の先端部11aへのアルミニウム材の溶着を防いで電極チップ11の先端部11aの切削再生作業の周期を長くすることができる。
【0066】
また、電極チップ11の切削再生作業を行う際、切刃部3dが電極チップ11の先端部11aを切削した直後に回転ホルダ2及び切削部材3の粗面部2d、3eが電極チップ11の先端部11aに擦り当たって当該先端部11aに微小な凹凸形状からなる粗面領域を形成するようになる。したがって、電極チップ11の先端部11aにおける悪化した領域を取り除くと同時に粗面領域を形成することができるので、電極チップ11の切削再生作業を簡単に、且つ、効率良く行うことができる。
【0067】
また、逃げ面部3bは、ブラスト加工により形成された粗面部3eと、該粗面部3eと切刃部3dとの間に設けられた帯状に延びる非粗面部3fとを備えているので、電極チップ11の先端部11aを切刃部3dで削った直後の電極チップ11の先端部11aと逃げ面部3bとの間の摺接動作がスムーズになり、電極チップ11の先端部11aを綺麗に切削することができる。
【0068】
さらに、切削カッター1による切削再生作業によって、受止面部2c又は逃げ面部3bに形成される粗面部2d、3eが最適な凹凸形状になるので、切削再生作業を行って粗面部2d、3eにより形成した粗面領域を有する電極チップ11の先端部11aでスポット溶接を行うことで溶接品質をさらに安定させることができる。
【0069】
尚、本発明の実施形態では、受止面部2cの粗面部2dと逃げ面部3bの粗面部3eとの両方で電極チップ11の先端部11aに粗面領域を形成しているが、これに限らず、受止面部2cの粗面部2dと逃げ面部3bの粗面部3eとのいずれか一方で電極チップ11の先端部11aに粗面領域を形成するようにしてもよい。
【0070】
また、本発明の実施形態では、回転ホルダ2の外面全域にブラスト加工を施すとともに、切削部材3の切刃部3dの周囲部分を除く外面全域にブラスト加工を施しているが、これに限らず、回転ホルダ2の受止面部2cの一部のみにブラスト加工を施す構成であってもよいし、切削部材3の逃げ面部3bの一部のみにブラスト加工を施す構成であってもよい。
【0071】
また、本発明の実施形態では、ブラスト加工の際に緑色炭化珪素からなる355~850μmの研磨材を用いているが、その他の研磨材を用いてもよく、例えば、エメリーファインやブラウンアルミナ、さらには、ダイヤモンドパウダーといった研磨材を用いてもよい。
【0072】
また、本発明の実施形態では、切削部材3に一対の切刃部3dが形成されているが、これに限らず、いずれか一方の切刃部3dだけが設けられていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、アルミ溶接用電極チップの先端部を切削して再生させる切削再生方法と、アルミ溶接用電極チップの先端部を切削して再生させる際に用いるチップドレス用切削カッターとに適している。
【符号の説明】
【0074】
1 切削カッター
2 回転ホルダ
2c 受止面部
2d 粗面部
3 切削部材
3a すくい面部
3b 逃げ面部
3d 切刃部
3e 粗面部
3f 非粗面部
10 チップドレス
11 電極チップ
11a 先端部
C1 回転軸心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7