(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】一次成形体及びマルチパックの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 51/02 20060101AFI20240821BHJP
【FI】
B29C51/02
(21)【出願番号】P 2024071233
(22)【出願日】2024-04-25
【審査請求日】2024-04-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594082648
【氏名又は名称】株式会社フロンティア
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【氏名又は名称】横沢 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100213388
【氏名又は名称】竹内 康司
(72)【発明者】
【氏名】中村 喜則
(72)【発明者】
【氏名】吉田 琢也
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-134850(JP,A)
【文献】特開平08-337248(JP,A)
【文献】実公昭59-001933(JP,Y2)
【文献】特開2002-114265(JP,A)
【文献】特開2006-035747(JP,A)
【文献】特開2014-223773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 51/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の容器形成領域と、前記容器形成領域のそれぞれの周囲にあるフランジ形成領域と、隣接する前記フランジ形成領域同士を連結する連結部と、を備える熱可塑性樹脂製の一次成形体であって、
前記一次成形体は、前記容器形成領域のそれぞれの中心から前記フランジ形成領域の外周縁へ向かって、当該容器形成領域の厚さ方向に直交する方向である平面方向に延びており、
前記容器形成領域のそれぞれにおける前記平面方向の中心部分に射出成形用のゲート部が配置されたことを特徴とする、一次成形体。
【請求項2】
請求項1に記載の一次成形体において、
前記容器形成領域は、前記フランジ形成領域の肉厚よりも厚い肉厚の部分を有することを特徴とする、一次成形体。
【請求項3】
請求項1に記載の一次成形体において、
隣接する前記フランジ形成領域同士は、射出成形により形成された複数の前記連結部により連結されることを特徴とする、一次成形体。
【請求項4】
請求項2に記載の一次成形体において、
前記連結部は、前記フランジ形成領域より薄肉のノッチ部が形成され、
前記ノッチ部は、前記フランジ形成領域の両表面から厚さ方向の中心に向かって徐々に肉厚が薄くなることを特徴とする、一次成形体。
【請求項5】
請求項1に記載の一次成形体において、
前記熱可塑性樹脂は、ポリエステル樹脂またはポリオレフィン樹脂であることを特徴とする、一次成形体。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の前記一次成形体を射出成形し、
射出成形して得られた前記一次成形体の少なくとも前記容器形成領域を加熱し、
加熱された前記一次成形体の前記ゲート部を含む押圧領域を延伸ロッドで延伸するとともに、前記容器形成領域に圧縮エアを導入して延伸ブロー成形して、隣接する複数の容器が前記連結部で連結したマルチパックを得ることを特徴とする、マルチパックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次成形体及びマルチパックの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヨーグルトなどのカップ状容器として、隣接するフランジ部同士が連結したマルチパックが採用されている。一般に、マルチパックは押出成形したポリスチレン系樹脂製のロール状シートを熱成形して得られる(特許文献1)。
【0003】
また、本願の出願人は、射出成形されたシート状プリフォームから効率よくカップ状容器を成形可能な製造方法を以前提案した(特許文献2)。当該発明によれば、ターンテーブルを回転して射出成形したシート状プリフォームをキャビティ型に保持したまま真空成形・取り出しステーションへ移送し、凹状容器型内で真空成形または圧空成形してカップ状容器を成形する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-163356号公報
【文献】特開2009-220294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のような従来のマルチパックは連続するロール状シートから容器部分を切り抜くため、容器に使われない部分が廃棄されている。一方で、特許文献2の製造方法では射出成形を用いて容器を成形するため特許文献1のような廃棄される材料は全く出ない。しかしながら、特許文献2の方法は1つのゲート部から複数のカップ本体形成部分を射出成形するため、薄肉のプリフォームを成形するのが難しい。
【0006】
そこで、本発明は、薄肉であっても射出成形性に優れた一次成形体及びこれを用いたマルチパックの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0008】
[1]本発明に係る一次成形体の一態様は、
複数の容器形成領域と、前記容器形成領域のそれぞれの周囲にあるフランジ形成領域と、隣接する前記フランジ形成領域同士を連結する連結部と、を備える熱可塑性樹脂製の一次成形体であって、
前記一次成形体は、前記容器形成領域のそれぞれの中心から前記フランジ形成領域の外周縁へ向かって、当該容器形成領域の厚さ方向に直交する方向である平面方向に延びており、
前記容器形成領域のそれぞれにおける前記平面方向の中心部分に射出成形用のゲート部が配置されたことを特徴とする。
【0009】
前記一次成形体の一態様によれば、複数ある容器形成領域のそれぞれにゲート部が配置されたことにより、一次成形体が薄肉であっても射出成形性に優れる。
【0010】
[2]前記一次成形体の一態様において、
前記容器形成領域は、前記フランジ形成領域の肉厚よりも厚い肉厚の部分を有することができる。
【0011】
前記一次成形体の一態様によれば、容器形成領域をフランジ形成領域よりも厚くすることにより、容器を形成する部分に要求される肉厚を確保することができる。
【0012】
[3]前記一次成形体の一態様において、
隣接する前記フランジ形成領域同士は、射出成形により形成された複数の前記連結部により連結されることができる。
【0013】
前記一次成形体の一態様によれば、射出成形された既定形状の連結部を複数備えることにより、マルチパックの製造工程、内容物の充填・生産工程及び販売工程を経ても連結部が破断しにくい。
【0014】
[4]前記一次成形体の一態様において、
前記連結部は、前記フランジ形成領域より薄肉のノッチ部が形成され、
前記ノッチ部は、前記フランジ形成領域の両表面から厚さ方向の中心に向かって徐々に肉厚が薄くなることができる。
【0015】
前記一次成形体の一態様によれば、肉厚が薄いノッチ部であっても樹脂を充填させやすく、ショートショットを防止できる。
【0016】
[5]前記一次成形体の一態様において、
前記熱可塑性樹脂は、ポリエステル樹脂またはポリオレフィン樹脂であることができる。
【0017】
前記一次成形体の一態様によれば、射出成形性に優れるため、薄肉に成形しにくいポリエステル樹脂であっても成形できる。また、前記一次成形体の一態様によれば、ブロー成形時に偏肉しやすいポリオレフィン樹脂であっても偏肉の少ないマルチパックをブロー成形できる。
【0018】
[6]本発明に係るマルチパックの製造方法の一態様は、
前記一次成形体を射出成形し、
射出成形して得られた前記一次成形体の少なくとも前記容器形成領域を加熱し、
加熱された前記一次成形体の前記ゲート部を含む押圧領域を延伸ロッドで延伸するとともに、前記容器形成領域に圧縮エアを導入して延伸ブロー成形して、隣接する複数の容器が前記連結部で連結したマルチパックを得ることを特徴とする。
【0019】
前記マルチパックの製造方法の一態様によれば、一次成形体のゲート部が各容器形成領域の中心にあるので、偏肉の少ない複数の容器を成形できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る一次成形体によれば、薄肉であっても射出成形性に優れる。また、本発明に係るマルチパックの製造方法によれば、偏肉の少ない複数の容器を成形できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施形態に係る一次成形体及びマルチパックの斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る一次成形体の平面図である。
【
図4】本実施形態に係るマルチパックの製造方法における射出成形工程を模式的に示す縦断面図である。
【
図5】本実施形態に係るマルチパックの製造方法における加熱工程を説明する正面図である。
【
図6】本実施形態に係るマルチパックの製造方法における延伸ブロー成形工程を説明する縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0023】
1.マルチパック
図1を用いてマルチパック20について説明する。
図1は、本実施形態に係る一次成形体10及びマルチパック20の斜視図である。
図1はさらに蓋30の斜視図を示す。
【0024】
マルチパック20は、複数の容器21が連結部15で連結された状態で内容物が充填され、さらに容器21が蓋30により密封されて市場を流通する包装容器である。マルチパック20は、消費者が連結部15を曲げ折って個々の容器21に分割することができる。マルチパック20に充填される内容物としてはヨーグルト、豆腐、もずく、プリンなどの食品であり、医薬品や化粧品などに用いることもできる。
【0025】
マルチパック20は、複数の容器21と、複数のフランジ部23と、複数の連結部15とを備える。
図1では4つの容器21が一体となったマルチパック20を示すが、連結された容器21の個数はこれに限定されない。マルチパック20は、2連または3連の容器21を一体にしたものであってもよいし、5連以上の容器21を一体にしたものであってもよい。
【0026】
容器21は、フランジ部23に開口した開口縁22から下方へ延びる筒状部分と下端を閉塞する底部とを備える。個々の容器21は、いわゆるカップ状容器である。筒状部分は、例えば略円形であるが、これに限らず、楕円形状、多角形状などの横断面を有してもよい。容器21の内容量に制限はないが、食品用途であれば、例えば30ml~300mlである。
【0027】
フランジ部23は、容器21の開口縁22から外側へ水平方向(X-Y方向)に延びる。フランジ部23は、表面及び裏面が略平坦な板状であるが、多少の凹凸や肉厚の変化があってもよい。フランジ部23の外形は例えば略四角形であるが、容器の用途に応じて他の形状を採用してもよい。なお、X軸、Y軸及びZ軸は、互いに直交する。
【0028】
蓋30は、容器21の開口を密封するものであり、薄いシート状である。蓋30は、マルチパック20の製造工程とは別の製造工程で生産され、容器21に内容物を充填した後でフランジ部23に接着される。蓋30には容器21を分離する時に容器21と共に切り離されるように切離し線31が形成される。蓋30の材質は、紙、熱可塑性樹脂などを採用できる。
【0029】
2.一次成形体
図1~
図3を用いて本実施形態に係る一次成形体10について説明する。
図2は、本実施形態に係る一次成形体10の平面図であり、
図3は、
図2に示す一次成形体10の正面図である。
図2は各領域を明確にするためハッチングを付した。
【0030】
一次成形体10は、熱可塑性樹脂製である。一次成形体10は、射出成形によって成形される。一次成形体10は、複数の容器形成領域11と、容器形成領域11のそれぞれの周囲にあるフランジ形成領域13と、隣接するフランジ形成領域13同士を連結する連結部15と、を備える。一次成形体10は、容器形成領域11のそれぞれの中心からフランジ形成領域13の外周縁へ向かって、当該容器形成領域11の厚さ方向に直交する方向である平面方向に延びる。ここで、本実施形態において、厚さ方向はZ軸に沿った方向であり、平面方向はX軸及びY軸を通る平面に沿った方向である。一次成形体10は、例えば全体が一つの仮想平面18に沿って形成される。仮想平面18は、平面方向に延びる形状をわかりやすく示すものであって、X軸及びY軸を通る平面に平行な仮想上の平面である。
【0031】
各容器形成領域11及び各フランジ形成領域13は、平面方向に延びて、例えば一つの仮想平面18に沿って形成される。例えば、容器形成領域11及びフランジ形成領域13の一方の表面が仮想平面18上にあってもよいし、容器形成領域11及びフランジ形成領域13の厚さ方向のいずれかの位置に仮想平面18があってもよい。容器形成領域11及びフランジ形成領域13が射出成形されることで所定の形状を有することができる。なお、射出成形工程については後述する。
【0032】
容器形成領域11及びフランジ形成領域13は、所定肉厚を有する平板状であることができる。容器形成領域11及びフランジ形成領域13の所定肉厚は、マルチパック20に要求される仕様の範囲でなるべく薄いことが好ましく、例えば0.5mm~2.0mmであることができ、さらに0.5mm~1.5mmであることができ、特に0.5mm~0.8mmであることができる。なお、平板状は、凡そ全体が平板の形状であるという程度の意味である。容器形成領域11及びフランジ形成領域13の一方の表面または両方の表面が平坦であってもよい。一次成形体10における少なくとも一方の表面が平坦であれば射出成形後の加熱工程や延伸ブロー成形工程へ機械的に搬送しやすい。また、一次成形体10が平板状であれば多数の一次成形体10を積み重ねてもコンパクトであるため、保管時や運搬時に省スペース化が可能である。マルチパック20に要求される仕様により多少の凹凸や肉厚の変化がある容器形成領域11及びフランジ形成領域13も平板状に含まれる。
【0033】
図1~
図3における容器形成領域11及びフランジ形成領域13は、同一肉厚の例を示すが、容器形成領域11は、例えば、フランジ形成領域13の肉厚よりも厚い肉厚の部分を有してもよい。容器形成領域11のZ軸方向の厚さは、例えば、フランジ形成領域13の厚さの1.1倍~4.0倍であることができ、さらに1.1倍~3.0倍であることができる。容器形成領域11をフランジ形成領域13よりも厚くすることにより、容器21を形成する部分に要求される肉厚を確保することができる。特許文献1に示すような従来のロール状シートは同一肉厚であるため容器21の肉厚を調整することは困難であるが、本実施形態であれば容器21の肉厚に合わせた容器形成領域11を射出成形可能である。また、フランジ形成領域13は、肉厚の異なる部分を有してもよい。例えば、フランジ形成領域13は、フランジ形成領域13の内周縁に沿って段差を設けて、外周縁の厚さより薄い内周縁に沿った環状部分を有してもよい。なお、
図2では、説明のためにハッチングで表した範囲が容器形成領域11(押圧領域12を含む)であり、その外側がフランジ形成領域13である。
【0034】
フランジ形成領域13の外縁は、平面視で略正方形である。隣接するフランジ形成領域13は、僅かな間隔を有して同一の仮想平面18上に設けられる。隣接するフランジ形成領域13の間隔(連結部15の長さ)は、0.2mm~1.0mmであることができる。各フランジ形成領域13の隣接する2辺の間隔を橋渡しするように連結する連結部15が設けられる。フランジ形成領域13は、後述する延伸ブロー成形時に一次成形体10を金型に保持する部分である。また、フランジ形成領域13は、マルチパック20に内容物を充填した後に蓋30を接着する部分である。フランジ形成領域13は、例えば消費者が蓋30を剥がす際の指かけ用に角部が薄肉や段差が設けられてもよい。
【0035】
連結部15は、隣接するフランジ形成領域13同士を連結する部分である。連結部15は、容器形成領域11及びフランジ形成領域13と共に平面方向に延びて、例えば一つの仮想平面18に沿って形成されてもよい。連結部15は、マルチパック20を購入した消費者が個々の容器21に分割する部分である。連結部15は、消費者が容易に折り曲げて破断することができる。連結部15の個数及び形状に制限はないが、隣接するフランジ形成領域13同士は、射出成形により形成された複数の連結部15により連結されることが好ましい。射出成形で既定形状の連結部15が成形されることで従来のような切れ目を付加する後加工が不要である。連結部15の破断を容易とするために後加工してもよい。また、射出成形で連結部15を成形することにより、マルチパック20の製造工程、内容物の充填・生産工程及び販売工程を経ても連結部15が破断しにくい。隣接するフランジ形成領域13の間には1つまたは複数の連結部15が設けられる。連結部15が1つの場合、平面視における連結部15の長さは、例えば隣接するフランジ形成領域13の直線部分と同じ長さを有してもよい。連結部15が1つまたは複数の場合、平面視における各連結部15の長さは、当該直線部分より短くてもよい。複数の連結部15を設ける場合には、
図2のようにそれぞれが間隔をあけて配置される。連結部15が一以上の奇数個の場合には、隣接するゲート部14同士を結ぶ仮想直線上に1つの連結部15が配置されることが好ましい。射出成形の際に、ゲート部14からキャビティ43(
図4)内に入った溶融樹脂が当該仮想直線上にある連結部15に最初に到達し、確実に連結部15を成形できるからである。
【0036】
図3に示すように、連結部15は、フランジ形成領域13より薄肉のノッチ部150が形成されることが好ましい。ノッチ部150は、フランジ形成領域13の両表面から厚さ方向の中心に向かって徐々に肉厚が薄くなるように形成される。ノッチ部150により消費者がマルチパック20を折り曲げて破断しやすくなる。ノッチ部150は、隣接するフランジ形成領域13の間隔の略中央にある最薄部151と、フランジ形成領域13の両表面から厚さ方向(Z軸に沿った方向)の中心付近にある最薄部151に向かって徐々に肉厚が薄くなる肉厚減少部152と、を含む。ノッチ部150は
図3に示すようなV字状の傾斜面により形成してもよい。射出成形の際に溶融樹脂の流速が速い厚さ方向の中心に向かって徐々に肉厚が薄くなるため、肉厚が薄いノッチ部150であっても樹脂を充填させやすく、ショートショットを防止できる。
【0037】
容器形成領域11は、後述する延伸ブロー成形により容器21に形成される部分である。容器形成領域11は、フランジ形成領域13の内側にある。容器形成領域11の外縁がマルチパック20における開口縁22となる。容器形成領域11は、その中心側に後述する延伸ロッド64により押される押圧領域12を含む。押圧領域12が延伸ロッド64により押されることで、容器形成領域11をZ軸に沿った方向に延伸できる。容器21に要求される仕様により、例えばフランジ形成領域13よりも肉厚の部分を含んでもよい。
【0038】
容器形成領域11のそれぞれの中心部分に射出成形用のゲート部14が配置される。射出成形用のゲート部14は、一次成形体10の射出成形の際に用いられたゲート痕である。ゲート部14は、後述する一次成形体10の射出成形時に溶融樹脂が金型内に流れ込んだ部分である。一般に薄肉の射出成形品は射出成形時にショートショットになりやすい。しかし、複数ある容器形成領域11のそれぞれにゲート部14が配置されたことにより、一次成形体10が薄肉であっても射出成形性に優れる。しかも、射出成形時に溶融樹脂がゲート部14からフランジ形成領域13の外周縁へ向かって円周方向に広がるため、ゲート部14が容器形成領域11の略中心に配置されることで円周方向での流れムラが少ない。これにより、薄肉の容器21に成形する際に偏肉が少なくなる。なお、図示のためにゲート部14を容器形成領域11から突出させて描いているが、突出しなくてもよい。
【0039】
また、前述した特許文献1のように2つの容器形成領域のちょうど中間にゲート部が設けられると3連の容器には対応しにくいが、一次成形体10はゲート部14が容器形成領域11のそれぞれにあるので3連、5連といった奇数の容器21を備えるマルチパック20に適用可能である。
【0040】
一次成形体の成形に用いる熱可塑性樹脂は、結晶性、非晶性を問わず射出成形及び延伸ブロー成形できる樹脂であれば制限はないが、リサイクル性の観点からポリエステル樹脂またはポリオレフィン樹脂であることが好ましい。特にポリエステル樹脂は容器としてのリサイクルが可能であり、環境への負荷が小さい。一次成形体10は射出成形性に優れる構造のため、薄肉に射出成形しにくいポリエステル樹脂であっても成形できる。また、ゲート部14が容器形成領域11の略中心にあるため、ブロー成形時に偏肉しやすいポリオレフィン樹脂であっても偏肉の少ないマルチパック20をブロー成形できる。
【0041】
ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ乳酸(PLA)、ポリエチレンフラノエート(PEF)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、及びこれらのポリマーのブレンド/混合物を包含するが、それらに限定しない。
【0042】
ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、オレフィンエラストマー及びこれらのポリマーのブレンド/混合物を包含するが、それらに限定しない。
【0043】
3.マルチパックの製造方法
図4~
図6を用いて本実施形態に係るマルチパック20の製造方法を説明する。
図4は、本実施形態に係るマルチパック20の製造方法における射出成形工程を模式的に示す縦断面図であり、
図5は、本実施形態に係るマルチパック20の製造方法における加熱工程を説明する正面図であり、
図6は、本実施形態に係るマルチパック20の製造方法における延伸ブロー成形工程を説明する縦断面図である。なお、
図6において、左側は一次成形体10がブロー成形用金型60にセットされた状態を示し、右側は一次成形体10が延伸ブロー成形されて容器21が成形された状態を示す。
【0044】
マルチパック20の製造方法は、射出成形工程、加熱工程及び延伸ブロー成形工程を含む。
【0045】
3-1.射出成形工程
図4に示すように、射出成形工程は、射出成形用金型40を用いて
図1~
図3に示す一次成形体10を射出成形する。射出成形用金型40は、矢印の方向に進退可能な可動型41と、ホットランナ44と共に図示しない射出成形装置に固定される固定型42とを備える。図示のように固定型42に対し可動型41が型閉じした状態でキャビティ43が形成される。
【0046】
キャビティ43は、
図1~
図3を用いて説明した一次成形体10の外形に形成された空間である。
【0047】
射出成形用金型40が型閉じした状態で、図示しない射出装置からホットランナ44及びノズル45を通って溶融樹脂がキャビティ43に充填される。キャビティ43は、平面方向に延びる空間である。
図4の例では、Z軸方向に延びる各ノズル45からキャビティ43内に射出された溶融樹脂は、容器形成領域11に対応するキャビティ43を平面方向に放射状に広がる。さらに、溶融樹脂は、平面方向に放射状に広がって、容器形成領域11の周囲にあるフランジ形成領域13に対応するキャビティ43及び連結部15に対応するキャビティ43に充填される。充填された樹脂が取り出し可能な状態に固まるまで保持した後、可動型41を型開きして一次成形体10が金型内から排出される。
【0048】
一次成形体10は、加熱工程を経て延伸ブロー成形してマルチパック20を成形する形状であるため、従来のシートを熱成形する際に発生するようなスクラップが出ない。したがって、従来の一般的なスチレン系のマルチパック(特許文献1)に比べて環境への負荷が小さい。
【0049】
また、ゲート部14から連結部15までの距離は、連結部15に隣接する両容器形成領域11において等しいことが好ましい。ゲート部14から充填された溶融樹脂がほぼ同じタイミングで連結部15に到達し連結部15で合流するからである。
【0050】
図4における部分拡大図に示すように、キャビティ43内を流動する溶融樹脂は、連結部15において隣接するフランジ形成領域13両側から矢印の方向に流れる。溶融樹脂は、
図4に一点鎖線で示す速度分布のようにキャビティ43の高さ方向の中央付近が最も早く流れる。そのため、肉厚減少部152の傾斜面により徐々にキャビティ43の高さが低くなっても最薄部151まで樹脂が充填され、ショートショットが防止できる。また、肉厚減少部152により樹脂の流れが律速になるため、隣接するフランジ形成領域13への充填が多少遅れても連結部15で樹脂が合流し折り曲げにより破断させやすいウェルドラインを形成することができる。
【0051】
3-2.加熱工程
図5に示すように加熱工程は、射出成形して得られた一次成形体10の少なくとも容器形成領域11を加熱する。容器形成領域11は、加熱工程により延伸ブロー成形が可能な温度まで加熱される。加熱工程は、公知の加熱ヒータ50を用いて実行できる。加熱工程は、例えば一次成形体10を延伸ブロー成形工程へ向けて搬送する途中に実行できる。
【0052】
3-3.延伸ブロー成形工程
図6の左側に示すように延伸ブロー成形工程は、加熱された一次成形体10がブロー成形用金型60の所定位置にセットされる。ブロー成形用金型60は、例えば、容器21の形状を有するキャビティ63を形成するブロー型61及び底型62と、ブロー型61との間でフランジ形成領域13を保持する押え板65と、延伸ロッド64と、を備える。延伸ロッド64は、押圧領域12(
図2において細かい点でハッチングされた範囲)を底型62に向けて押し上げることができる。延伸ロッド64と容器形成領域11(
図2のハッチングされた全範囲)の間には圧縮エアが導入できるように構成されている。
【0053】
次に、
図6の右側に示すように加熱された一次成形体10のゲート部14を含む押圧領域12を延伸ロッド64で延伸するとともに、容器形成領域11に圧縮エアを導入して延伸ブロー成形して、隣接する複数の容器21が連結部15で連結した
図1に示すようなマルチパック20を得る。一次成形体10のゲート部14が各容器形成領域11の中心にあるので、偏肉の少ない複数の容器21を成形できる。
【0054】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能であり、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0055】
10…一次成形体、11…容器形成領域、12…押圧領域、13…フランジ形成領域、14…ゲート部、15…連結部、150…ノッチ部、151…最薄部、152…肉厚減少部、18…仮想平面、20…マルチパック、21…容器、22…開口縁、23…フランジ部、30…蓋、31…切離し線、40…射出成形用金型、41…可動型、42…固定型、43…キャビティ、44…ホットランナ、45…ノズル、50…加熱ヒータ、60…ブロー成形用金型、61…ブロー型、62…底型、63…キャビティ、64…延伸ロッド、65…押え板
【要約】
【課題】本発明は、薄肉であっても射出成形性に優れた一次成形体10及びこれを用いたマルチパック20の製造方法を提供する。
【解決手段】一次成形体10は、複数の容器形成領域11と、容器形成領域11のそれぞれの周囲にあるフランジ形成領域13と、隣接するフランジ形成領域13同士を連結する連結部15と、を備える。一次成形体10は、熱可塑性樹脂製である。一次成形体10は、容器形成領域11のそれぞれの中心からフランジ形成領域13の外周縁へ向かって、容器形成領域13の厚さ方向に直交する方向である平面方向に延びる。容器形成領域11のそれぞれにおける平面方向の中心部分に射出成形用のゲート部14が配置される。
【選択図】
図1