(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】電力増幅器のプリディストーションの方法および回路
(51)【国際特許分類】
H03F 1/32 20060101AFI20240821BHJP
H03F 3/213 20060101ALI20240821BHJP
H04B 1/04 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
H03F1/32 141
H03F3/213
H04B1/04 R
(21)【出願番号】P 2019525768
(86)(22)【出願日】2017-11-15
(86)【国際出願番号】 US2017061814
(87)【国際公開番号】W WO2018093910
(87)【国際公開日】2018-05-24
【審査請求日】2020-11-13
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-01
(32)【優先日】2016-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591025439
【氏名又は名称】ザイリンクス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】XILINX INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】チャオ, ホンチー
(72)【発明者】
【氏名】ディック, クリストファー エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】パレック, ヘマング エム.
【合議体】
【審判長】馬場 慎
【審判官】千葉 輝久
【審判官】稲葉 崇
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0034887(US,A1)
【文献】特開2011-176689(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0195919(US,A1)
【文献】Claudio Rey,et al.,”RF Power Amplifier Modeling Using Polynomials with IIR Bases Functions”,2009 IEEE Radio and Wireless Symposium,米国,IEEE,2009年05月19日,p.43-46
【文献】G.Meneghesso,et al.,”Surface-Related Drain Current Dispersion Effects in AlGaN-GaN HEMTs”,IEEE Transactions on Electron Devices,米国,IEEE,2004年09月27日,Vol.51, Issue 10,p.1554-1561
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F1/32
H04B1/04
H03F3/213
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号をサンプリング周波数
でサンプリングするように構成された
サンプリング回路構成と、
前記サンプリング回路構成の出力に基づいて、窒化ガリウム電力増幅器を駆動するためのプリディストートされた信号を生成するように構成されたデジタルプリディストーション(DPD)システムとを含み、
前記DPDシステムは、
前記サンプリング回路構成の前記出力に基づいて、第1のプリディストーション信号を生成す
るように構成された、第1の無限インパルス応答(IIR)フィルタを含む第1の
DPD経路と、
前記サンプリング回路構成の前記出力に基づいて、第2のプリディストーション信号を生成す
るように構成された、第2のIIRフィルタを含む第2の
DPD経路と、
前記窒化ガリウム電力増幅器の測定されたゲートラグ時定数と前記サンプリング周波数に基づいて、前記窒化ガリウム電力増幅器のゲートラグ効果を補償するために前記第1のIIRフィルタのパラメータを調整し、前記窒化ガリウム電力増幅器の測定されたドレインラグ時定数と前記サンプリング周波数に基づいて、第2のIIRフィルタのパラメータを調整するように構成された、適応回路と、
前記第1のプリディストーション信号および前記第2のプリディストーション信号を組み合わせてDPD出力信号を生成するように構成された、
出力コンバイナ回路とを備え、
前記DPD出力信号が、前記
窒化ガリウム電力増幅器の入力に結合される、
システム。
【請求項2】
前記窒化ガリウム電力増幅器の前記ゲートラグ時定数と前記ドレインラグ時定数を測定するように構成された測定回路構成をさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記DPDシステムが、第3のプリディストーション信号を生成するように構成された、第3のIIRフィルタを含む第3のDPD経路をさらに含み、
前記適応回路は、前記窒化ガリウム電力増幅器の熱的時定数に基づいて、前記窒化ガリウム電力増幅器の熱的効果を補償するために前記第3のIIRフィルタのパラメータを調整するように構成された、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記熱的時定数は、前記窒化ガリウム電力増幅器の基板の熱抵抗と熱容量に基づく、請求項3に記載
のシステム。
【請求項5】
前記第1のIIRフィルタおよび前記第2のIIRフィルタが異なる次数のものである、請求項1に記載
のシステム。
【請求項6】
第3のプリディストーション信号を生成する
ために、前記第1および第2の
DPD経路と並列
に第3の
DPD経路を更に備え、
前記第3の
DPD経路がIIRフィルタを含まず、
前記
出力コンバイナ回路が、前記第1、第2、および第3のプリディストーション信号を組み合わせて、前記DPD出力信号を生成するように構成された、請求項1に記載
のシステム。
【請求項7】
前記第3の
DPD経路が、
前記第3のプリディストーション信号を生成するために、前記サンプリング回路構成の前記出力に対してメモリ多項式に基づくプリディストーション動作
を実施
するように構成された、請求項
6に記載
のシステム。
【請求項8】
入力信号をサンプリング周波数
でサンプリングし、サンプリング信号を提供することと、
第1の
無限インパルス応答(IIR
)フィルタを含
む第1の
デジタルプリディストーション
(DPD)経路で、第1のプリディストーション信号を生成す
ることと、
第2のIIRフィルタを含む第2の
DPD経路で、第2のプリディストーション信号を生成す
ることと、
窒化ガリウム電力増幅器の測定されたゲートラグ時定数と前記サンプリング周波数に基づいて、前記窒化ガリウム電力増幅器のゲートラグ効果を補償するために前記第1のIIRフィルタのパラメータを適応させ、前記窒化ガリウム電力増幅器の測定されたドレインラグ時定数と前記サンプリング周波数に基づいて、前記第2のIIRフィルタのパラメータを適応させることと、
前記第1のプリディストーション信号および前記第2のプリディストーション信号を組み合わせて、DPD出力信号を生成することと、
前記DPD出力信号を前記
窒化ガリウム電力増幅器の入力に提供することとを含む、方法。
【請求項9】
前記窒化ガリウム電力増幅器の前記ゲートラグ時定数と前記ドレインラグ時定数を測定することをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
第3のIIRフィルタを含む第3のDPD経路で第3のプリディストーション信号を生成することと、
前記窒化ガリウム電力増幅器の熱的時定数に基づいて、前記窒化ガリウム電力増幅器の熱的効果を補償するように前記第3のIIRフィルタのパラメータを適応させることと、
前記第1のプリディストーション信号、前記第2のプリディストーション信号、および前記第3のプリディストーション信号を組み合わせて、DPD出力信号を生成することとを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記熱的時定数は、前記窒化ガリウム電力増幅器の基板の熱抵抗と熱容量に基づく、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
第1の適応ウィンドウが、データサンプル指数とデータサンプル指数との間に延在し、前記第1のIIRフィルタの第2のパラメータが、前記第1の適応ウィンドウ後に前記第1のIIRフィルタの出力信号がゼロに近付くようにして、前記第1のIIRフィルタの前記第1の適応ウィンドウに基づいて決定される、請求項
8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施例は、全体として、集積回路(「IC」)に関し、特に、電力増幅器のデジタルプリディストーションの実施に関する実施形態に関する。
【背景技術】
【0002】
通信システムでデータを送信するのに集積回路が使用されることがある。通信システムの必須構成要素の1つが電力増幅器である。電力増幅器の非線形性によって、隣接チャネルと干渉する特定のチャネルの信号帯域幅を超えるスペクトルの成長(広がり)が生じる。また、特定のチャネルの信号帯域幅内でのひずみが生じ、それによってビット誤り率(BER)性能が減少する。非線形の電力増幅器を線形化するのに、デジタルプリディストーション(DPD)技術が使用されることがあるが、ワイヤレス通信における新しい用途によって課せられる性能要件の増大を満たすことは困難である。
【0003】
したがって、改善されたDPDシステムが望ましい。
【発明の概要】
【0004】
本開示によるいくつかの実施形態では、デジタルプリディストーション(DPD)システムは、DPD入力信号を受信するように構成された入力を含む。DPDシステムは、第1のプリディストーション信号を生成する入力に結合された第1の信号経路を提供するように構成された、第1のプリディストーション回路を含む。第1のプリディストーション回路は、第1の無限インパルス応答(IIR)フィルタを含む。DPDシステムは、第2のプリディストーション信号を生成する、第1の信号経路と並列で入力に結合された第2のプリディストーション回路を提供するように構成された、第2の信号経路を更に含む。第2のプリディストーション回路は第2のIIRフィルタを含む。DPDシステムは、第1のプリディストーション信号および第2のプリディストーション信号を組み合わせてDPD出力信号を生成するように構成された、コンバイナ回路を更に含む。
【0005】
いくつかの実施形態では、DPDシステムのDPD出力信号は、電力増幅器の入力に結合されて、増幅出力信号を生成する。DPD出力信号は、電力増幅器のメモリ効果を補償するように構成される。
【0006】
いくつかの実施形態では、電力増幅器は窒化ガリウム(GaN)トランジスタを含む。
【0007】
いくつかの実施形態では、第1のIIRフィルタは、GaNトランジスタの第1のメモリ効果を補償するように構成される。
【0008】
いくつかの実施形態では、第1のIIRフィルタの第1の係数は、第1のメモリ効果と関連付けられた第1のメモリ効果時定数に基づいて決定される。
【0009】
いくつかの実施形態では、第2のIIRフィルタは、GaNトランジスタの第2のメモリ効果を補償するように構成される。第2のメモリ効果は第1のメモリ効果とは異なる。
【0010】
いくつかの実施形態では、第1および第2のメモリ効果はそれぞれ、GaNトランジスタのゲートラグ効果、ドレインラグ効果、および熱的効果から成る群から選択される。
【0011】
いくつかの実施形態では、第1のIIRフィルタおよび第2のIIRフィルタは異なる次数のものである。
【0012】
いくつかの実施形態では、DPDシステムは、第3のプリディストーション信号を生成する、第1および第2の信号経路と並列で入力に結合された第3の信号経路を提供するように構成された、第3のプリディストーション回路を含む。第3のプリディストーション回路はIIRフィルタを含まない。コンバイナ回路は、第1、第2、および第3のプリディストーション信号を組み合わせて、DPD出力信号を生成するように構成される。
【0013】
いくつかの実施形態では、第3のプリディストーション回路は、メモリ多項式に基づくプリディストーション動作をDPD入力信号に対して実施して、第3のプリディストーション信号を生成するように構成される。
【0014】
いくつかの実施形態では、方法は、デジタルプリディストーション(DPD)システムの入力でDPD入力信号を受信することと、DPDシステムの、第1の無限インパルス応答(IIR)フィルタを含む第1のプリディストーション回路によって、第1のプリディストーション信号を生成する、入力に結合された第1の信号経路を提供することと、DPDシステムの、第2のIIRフィルタを含む第2のプリディストーション回路によって、第2のプリディストーション信号を生成する、第1の信号経路と並列で入力に結合された第2の信号経路を提供することと、第1のプリディストーション信号および第2のプリディストーション信号を組み合わせて、DPD出力信号を生成することとを含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、方法は、電力増幅器によって、DPD出力信号を増幅して増幅出力信号を生成することを含む。DPDシステムは、電力増幅器のメモリ効果を補償するように構成される。
【0016】
いくつかの実施形態では、方法は、第1のIIRフィルタを使用して、GaNトランジスタの第1のメモリ効果を補償することを含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、方法は、第1のメモリ効果と関連付けられた第1のメモリ効果時定数に基づいて、第1のIIRフィルタの第1の係数を決定することを含む。
【0018】
いくつかの実施形態では、方法は、第2のIIRフィルタを使用して、GaNトランジスタの第2のメモリ効果を補償することを含む。第2のメモリ効果は第1のメモリ効果とは異なる。
【0019】
いくつかの実施形態では、方法は、DPDシステムの、IIRフィルタを含まない第3のプリディストーション回路によって、第3のプリディストーション信号を生成する、第1および第2の信号経路と並列で入力に結合された第3の信号経路を提供することと、第1、第2、および第3のプリディストーション信号を組み合わせて、DPD出力信号を生成することとを含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、方法は、第3のプリディストーション回路によって、メモリ多項式に基づくプリディストーション動作をDPD入力信号に対して実施して、第3のプリディストーション信号を生成することを含む。
【0021】
他の態様および特徴が、以下の詳細な説明および添付図面を読むことによって明白となるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本開示のいくつかの実施形態によるICの例示的なアーキテクチャを示すブロック図である。
【
図2】本開示のいくつかの実施形態による通信システムを示すブロック図である。
【
図3】本開示のいくつかの実施形態による電力増幅システムを示すブロック図である。
【
図4A】本開示のいくつかの実施形態によるデジタルプリディストーションシステムおよび/またはその一部分の実施形態を示すブロック図である。
【
図4B】本開示のいくつかの実施形態によるデジタルプリディストーションシステムおよび/またはその一部分の実施形態を示すブロック図である。
【
図5】本開示のいくつかの実施形態による、DPDシステムに対するパラメータを生成するのに使用される測定システムを示すブロック図である。
【
図6】本開示のいくつかの実施形態による、
図5の測定システムによって生成される測定曲線を示す図である。
【
図7】本開示のいくつかの実施形態による、DPDシステムに対するパラメータを生成するのに使用される測定システムを示すブロック図である。
【
図8】本開示のいくつかの実施形態による、
図7の測定システムによって生成される測定曲線を示す図である。
【
図9A】本開示のいくつかの実施形態による、DPDシステムの信号を示す図である。
【
図9B】本開示のいくつかの実施形態による、DPDシステムの信号を示す図である。
【
図9C】本開示のいくつかの実施形態による、DPDシステムの信号を示す図である。
【
図10】本開示のいくつかの実施形態によるDPDシステムの一部分を示すブロック図である。
【
図11A】本開示のいくつかの実施形態によるDPDシステムの信号のタイミング図である。
【
図11B】本開示のいくつかの実施形態によるDPDシステムの信号のタイミング図である。
【
図11C】本開示のいくつかの実施形態によるDPDシステムの信号のタイミング図である。
【
図11D】本開示のいくつかの実施形態によるDPDシステムの信号のタイミング図である。
【
図12A】本開示の様々の実施形態による、隣接チャネル電力比(ACPR)時間掃引性能の比較図である。
【
図12B】本開示の様々の実施形態による、隣接チャネル電力比(ACPR)時間掃引性能の比較図である。
【
図13】本開示の様々の実施形態による、ACPRスペクトル掃引性能の比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、例示的な実施形態を示す図面を参照して、様々な実施形態について記載する。しかしながら、請求される発明は様々な形態で具体化され得るものであり、本明細書に記載する実施形態に限定されるものと解釈すべきではない。全体を通して、類似の参照番号は類似の要素を指す。したがって、類似の要素について、各図面の説明を参照して詳細には記載しない。また、図面は単に実施形態の説明を容易にするためのものであることに留意すべきである。図面は、請求される発明の包括的な説明として、または請求される発明の範囲に対する限定として意図されるものではない。それに加えて、図示される実施形態は、図示される態様または利点の全てを有するとは限らない。特定の実施形態と関連して記載される態様または利点は、必ずしもその実施形態に限定されるものではなく、他のいずれかの実施形態における実施に関して例証されていない場合でも、またはそれに関して明示的に記載されていない場合でも、そのような実施が可能である。特徴、機能、および利点は、様々な実施形態において独立して達成されてもよく、または更に他の実施形態に置いて組み合わされてもよい。
【0024】
いくつかの図面に例示的に描写されている例示の実施形態について記載する前に、更なる理解のため、概略的導入を提供する。電力増幅器は、通信システムの必須構成要素の1つであり、本来的に非線形である。電力増幅器の非線形性によって、隣接チャネルと干渉する特定のチャネルの信号帯域幅を超えるスペクトルの成長が生じる。また、信号帯域幅内でひずみが生じて、受信機におけるビット誤り率が増大する。様々な実施形態では、DPDシステムは、電力増幅器における様々なひずみを補償し、それによって通信システムのACPRを低減させるのに使用されてもよい。DPDシステムは、例えば、窒化ガリウム(GaN)電力増幅器における深部電子トラップ効果(deep electron trap effect)と関連付けられた長期メモリ効果を含む、電力増幅器におけるメモリ効果を補償するのに、無限インパルス応答(IIR)フィルタを使用してもよいことが発見されている。
【0025】
上述の一般的理解を念頭に置いて、インダクタ構造の様々な実施形態について以下に記載する。上述の実施形態の1つまたは複数は、特定のタイプのICを使用して例示されているので、かかるICの詳細な説明を以下に提供する。しかしながら、他のタイプのICが、本明細書に記載する実施形態の1つまたは複数から利益を得てもよいことが理解されるべきである。
【0026】
プログラマブル論理デバイス(「PLD」)は、指定の論理関数を実施するようにプログラミングすることができる、良く知られているタイプの集積回路である。1つのタイプのPLDであるフィールドプログラマブルゲートアレイ(「FPGA」)は、一般的に、プログラマブルタイルのアレイを含む。これらのプログラマブルタイルとしては、例えば、入出力ブロック(「IOB」)、構成可能論理ブロック(「CLB」)、専用ランダムアクセスメモリブロック(「BRAM」)、乗算器、デジタル信号処理ブロック(「DSP」)、プロセッサ、クロックマネージャ、遅延ロックループ(「DLL」)などを挙げることができる。本明細書で使用するとき、「~を含む」および「~を含んでいる」は、非限定的に、~を含んでいることを意味する。
【0027】
各プログラマブルタイルは、一般的に、プログラマブル相互接続およびプログラマブル論理の両方を含む。プログラマブル相互接続は、一般的に、プログラマブル相互接続点(「PIP」)によって相互接続された、様々な長さの多数の相互接続ラインを含む。プログラマブル論理は、例えば、関数発生器、レジスタ、演算論理などを含むことができるプログラマブル素子を使用して、ユーザ設計の論理を実現する。
【0028】
プログラマブル相互接続およびプログラマブル論理は、一般的に、プログラマブル素子がどのように構成されるかを定義する内部構成メモリセルに、一連の構成データをロードすることによってプログラミングされる。構成データは、外部デバイスによって、メモリから(例えば、外部PROMから)読み出すか、またはFPGAに書き込むことができる。それにより、個々のメモリセルの集合的状態によってFPGAの機能が決定される。
【0029】
別のタイプのPLDは、複合プログラマブル論理デバイス(CPLD)である。CPLDは、互いに接続されると共に、相互接続スイッチマトリックスによって入出力(「I/O」)リソースに接続された、2つ以上の「機能ブロック」を含む。CPLDの各機能ブロックは、プログラマブル論理アレイ(「PLA」)およびプログラマブルアレイ論理(「PAL」)デバイスで使用されるものと同様の、2レベルのAND/OR構造を含む。CPLDでは、構成データは、一般的に、不揮発性メモリにオンチップで格納される。いくつかのCPLDでは、構成データは不揮発性メモリにオンチップで格納され、次に初期構成(プログラミング)シーケンスの一部として揮発性メモリにダウンロードされる。
【0030】
一般に、これらのプログラマブル論理デバイス(「PLD」)はそれぞれ、デバイスの機能性が、制御目的でデバイスに提供された構成データによって制御される。構成データは、揮発性メモリ(例えば、FPGAおよび一部のCPLDに共通であるような、スタティックメモリセル)、不揮発性メモリ(例えば、一部のCPLDにおけるような、FLASHメモリ)、または他の任意のタイプのメモリセルに格納することができる。
【0031】
他のPLDは、デバイス上の様々な素子をプログラミング可能に相互接続する、金属層などの処理層を適用することによってプログラミングされる。これらのPLDは、マスクプログラマブルデバイスとして知られている。PLDはまた、他の手法で、例えばヒューズまたはアンチヒューズ技術を使用して実現することができる。「PLD」および「プログラマブル論理デバイス」という用語は、これらの例示的なデバイスを含むがそれらに限定されず、部分的にのみプログラミング可能であるデバイスも包含する。例えば、1つのタイプのPLDは、ハードコード化トランジスタ論理と、ハードコード化トランジスタ論理をプログラミング可能に相互接続するプログラマブルスイッチファブリックとの組み合わせを含む。
【0032】
上述したように、高度FPGAは、いくつかの異なるタイプのプログラマブル論理ブロックをアレイ内に含むことができる。例えば、
図1は、例示のFPGAアーキテクチャ100を示している。FPGAアーキテクチャ100は、多数の異なるプログラマブルタイルを含み、これには、マルチギガビット送受信機(「MGT」)101と、構成可能論理ブロック(「CLB」)102と、ランダムアクセスメモリブロック(「BRAM」)103と、入出力ブロック(「IOB」)104と、構成および計時論理(「CONFIG/CLOCKS」)105と、デジタル信号処理ブロック(「DSP」)106と、専用入出力ブロック(「I/O」)107(例えば、構成ポートおよびクロックポート)と、デジタルクロックマネージャ、アナログデジタル変換器、システムモニタリング論理など、他のプログラマブル論理108とが含まれる。一部のFPGAは、専用プロセッサブロック(「PROC」)110も含む。
【0033】
一部のFPGAでは、各プログラマブルタイルは、
図1の上部に含まれる例によって示されるように、同じタイル内のプログラマブル論理素子の入力および出力端子120への接続を有する、少なくとも1つのプログラマブル相互接続素子(「INT」)111を含むことができる。各プログラマブル相互接続素子111はまた、同じタイルまたは他のタイル内の隣接したプログラマブル相互接続素子の相互接続セグメント122への接続を含むことができる。各プログラマブル相互接続素子111はまた、論理ブロック間の一般的なルーティングリソース(図示なし)の相互接続セグメント124への接続を含むことができる。一般的なルーティングリソースとしては、相互接続セグメント(例えば、相互接続セグメント124)のトラックと、相互接続セグメントを接続するスイッチブロック(図示なし)とを含む、論理ブロック間のルーティングチャネル(図示なし)を挙げることができる。一般的なルーティングリソースの相互接続セグメント(例えば、相互接続セグメント124)は、1つまたは複数の論理ブロックにまたがることができる。プログラマブル相互接続素子111は、一般的なルーティングリソースと併せて、図示されるFPGAのプログラマブル相互接続構造(「プログラマブル相互接続」)を実現する。
【0034】
1つの実現例では、CLB 102は、ユーザ論理を実現するようにプログラミングすることができる構成可能論理素子(「CLE」)112と、それに加えて単一のプログラマブル相互接続素子(「INT」)111とを含むことができる。BRAM 103は、1つまたは複数のプログラマブル相互接続素子に加えて、BRAM論理素子(「BRL」)113を含むことができる。一般的に、タイルに含まれる相互接続素子の数はタイルの高さに応じて決まる。図示される例では、BRAMタイルは5つのCLBと同じ高さを有するが、他の数(例えば、4つ)を使用することもできる。DSPタイル106は、適切な数のプログラマブル相互接続素子に加えて、DSP論理素子(「DSPL」)114を含むことができる。IOB 104は、例えば、プログラマブル相互接続素子111の1つの例に加えて、入力/出力論理素子(「IOL」)115の2つの例を含むことができる。当業者には明白となるように、例えば、I/O論理素子115に接続された実際のI/Oパッドは、一般的に、入力/出力論理素子115の範囲に制限されない。
【0035】
図1の例では、ダイの中央付近(例えば、
図1に示される領域105、107、および108で形成される)の範囲(水平に図示)は、構成、クロック、および他の制御論理に使用することができる。この水平の範囲から延在する列109(垂直に図示)、または他の列は、FPGAの横幅にわたってクロックおよび構成信号を分布させるのに使用されてもよい。
【0036】
図1に示されるアーキテクチャを利用する一部のFPGAは、FPGAの大きな部分を占める規則的な列状構造を破壊する追加の論理ブロックを含む。追加の論理ブロックは、プログラマブルブロックおよび/または専用論理であることができる。例えば、PROC 110は、CLBおよびBRAMのいくつかの列にまたがる。PROC 110は、単一のマイクロプロセッサから、マイクロプロセッサ、メモリコントローラ、周辺機器などの完全なプログラマブル処理システムまで及ぶ、様々な構成要素を含むことができる。
【0037】
一態様では、PROC 110は、ICのプログラマブル回路構成を実現するダイの一部として製作される、例えばハードワイヤードプロセッサなどの、専用回路構成として実現される。PROC 110は、個々のプロセッサ、例えばプログラムコードを実行することができるシングルコアから、1つまたは複数のコア、モジュール、コプロセッサ、インターフェースなどを有するプロセッサシステム全体まで、複雑さが多岐にわたる、様々な異なるプロセッサタイプおよび/またはシステムのいずれかを表すことができる。
【0038】
別の態様では、PROC 110はアーキテクチャ100から省略され、記載される他の様々なプログラマブルブロックの1つまたは複数と置き換えられてもよい。更に、プログラマブル回路構成の様々なブロックを使用して、PROC 110の場合のように、プログラムコードを実行できるプロセッサを形成することができるという点で、かかるブロックを利用して「ソフトプロセッサ」を形成することができる。
【0039】
「プログラマブル回路構成」という語句は、IC内のプログラマブル回路素子、例えば、本明細書に記載する様々なプログラミング可能または構成可能な回路ブロックもしくはタイル、ならびにICにロードされる構成データにしたがって、様々な回路ブロック、タイル、および/または素子を選択的に結合する相互接続回路構成を指すことができる。例えば、CLB 102およびBRAM 103など、PROC 110の外部にある、
図1に示される部分は、ICのプログラマブル回路構成と見なすことができる。
【0040】
いくつかの実施形態では、プログラマブル回路構成の機能性および接続性は、構成データがICにロードされるまで確立されない。構成データセットは、FPGAなど、ICのプログラマブル回路構成をプログラミングするのに使用することができる。構成データは、場合によっては、「構成ビットストリーム」と呼ばれる。一般に、プログラマブル回路構成は、最初に構成ビットストリームをICにロードしなければ、動作または機能しない。構成ビットストリームは、プログラマブル回路構成内の特定の回路設計を有効に実現するか、または実例となる。回路設計は、例えば、プログラマブル回路ブロックの機能的側面と、様々なプログラマブル回路ブロック間の物理的な接続性を指定する。
【0041】
いくつかの実施形態では、「ハードワイヤードの」または「強化された」、即ちプログラミング不能な回路構成は、ICの一部として製造される。プログラマブル回路構成とは異なり、ハードワイヤードの回路構成または回路ブロックは、構成ビットストリームをロードすることによってICを製造した後では実現されない。ハードワイヤード回路構成は、一般に、例えば、最初に構成ビットストリームをICにロードしないで機能する、専用回路ブロックおよび相互接続、即ちPROC 110を有するものと見なされる。
【0042】
いくつかの例では、ハードワイヤード回路構成は、IC内の1つもしくは複数のメモリ素子に格納されたレジスタの設定または値にしたがって設定もしくは選択することができる、1つもしくは複数の動作モードを有することができる。動作モードは、例えば、構成ビットストリームをICにロードすることによって設定することができる。この能力にかかわらず、ハードワイヤード回路構成は、ICの一部として製造した場合に動作可能であって特定の機能を有するので、ハードワイヤード回路構成はプログラマブル回路構成とは見なされない。
【0043】
図1は、プログラマブル回路構成、例えばプログラマブルファブリックを含む、ICを実現するのに使用することができる、例示のアーキテクチャを示すためのものである。例えば、行内の論理ブロックの数、行の相対幅、行の数および順序、行に含まれる論理ブロックのタイプ、論理ブロックの相対サイズ、ならびに
図1の上部に含まれる、相互接続/論理の実現は、単なる例示である。例えば、実際のICでは、一般的に、ユーザ論理の効率的な実現を容易にするため、CLBがどこに見えても、CLBの1つを超える隣接列が含まれるが、隣接したCLB行の数はICの全体サイズに伴って変動する。更に、
図1のFPGAは、本明細書に記載する相互接続回路の例を用いることができる、プログラマブルICの一例を示している。本明細書に記載する相互接続回路は、CPLDなどの他のタイプのプログラマブルICで、または論理素子を選択的に結合するプログラマブル相互接続構造を有する任意のタイプのプログラマブルICで使用することができる。
【0044】
電力増幅器におけるひずみを補償するDPDシステムを実現してもよいICは、
図1に示される例示のICに限定されず、他の構成を有するIC、または他のタイプのICも、DPD機能を実現してもよいことが注目される。
【0045】
図2は、DPDシステムを含む電力増幅ユニットが使用されてもよい、例示の通信システム200を示すブロック図である。通信システム200は、基地局202と、ユーザ204(ユーザデバイスまたはユーザ機器(UE)ユニットとも呼ばれる)とを含む。一人を超えるユーザ204が一度に基地局202に結合されてもよい。ユーザ204は、アンテナ212および214を使用して、無線(「ワイヤレス」)通信チャネル206を介して基地局202に結合されてもよい。
【0046】
いくつかの実施形態では、通信システム200は、双方向通信向けのものであり、つまり、情報を基地局202からユーザ204に送るダウンリンク、および情報をユーザ204から基地局202に送るアップリンクである。基地局202は、送信用の信号218を受信するように構成された送信機208を含んでもよい。送信機208は、送信される信号の電力を増幅してもよい電力増幅ユニット224を含み、信号226を生成する。次に、信号226は、送信のためにアンテナ212に送られる。そのため、電力増幅ユニット224は、ワイヤレス通信チャネル206を介して信号226を送信するのに、アンテナ212を駆動する。基地局202は、データ228をアンテナ212から受信し、アップリンクプロセスを実施し、データ230を出力する、受信機210を更に含んでもよい。
【0047】
通信システム200は、様々な送信スキーム、例えば周波数分割多重化(FDD)および時分割多重化(TDD)を展開してもよい。いくつかの実施形態では、TDDが(例えば、TDD-ロングタームエボリューション(LTE)規格にしたがって)展開される場合、同じ周波数帯のアップリンクおよびダウンリンクに異なる時間スロットを割り当てることによって、アップリンクはダウンリンクから分離される。
図2に示されるように、かかる実施形態では、割り当てられた時間スロットにしたがってアップリンクとダウンリンクとを切り換えるのに、送受切換器(例えば、スイッチ)216が使用されてもよい。ダウンリンクに割り当てられた時間スロットは送信時間スロットと呼ばれてもよく、アップリンクに割り当てられた時間スロットは受信時間スロットと呼ばれてもよい。
【0048】
図3を参照すると、電力増幅器304の出力におけるひずみを低減する、DPDシステム302を含む例示の電力増幅ユニット224が示されている。DPDシステム302は、入力信号222(x(n)とも示される)を受信し、信号306(z(n)とも示される)を生成する。出力信号306は、信号x(n)を修正したものであり、電力増幅器304の入力に結合される。DPDシステム302は、信号222を修正して、電力増幅器304におけるひずみを補償する。電力増幅器304は信号226(y(n)とも示される)を出力する。
【0049】
いくつかの実施形態では、電力増幅ユニット224は、DPDシステム302の様々なパラメータを適応させる適応ブロック308を含む。いくつかの例では、電力増幅器304の入力に提供される信号306から、予め定められた数のデータのサンプルが(例えば、出力サンプリング結合器を使用することによって)捕捉され、適応ブロック308に送られる。いくつかの例では、電力増幅器304の出力に提供される信号226から、予め定められた数のデータのサンプルが(例えば、出力サンプリング結合器を使用することによって)捕捉され、適応ブロック308に送られる。いくつかの例では、信号226は最初に、y(n)の振幅、遅延、および位相のばらつきをz(n)に合致させ、アラインされた電力増幅器出力y’(n)を生成する、アライメントブロック314に送られてもよい。次に、アラインされた電力増幅器出力y’(n)は適応ブロック308に送られる。いくつかの例では、信号222は適応ブロック308に送られてもよい。適応ブロック308は、信号x(n)、z(n)、および/またはy’(n)に基づいて、DPDシステム302のパラメータを決定してもよい。いくつかの実施形態では、それらのパラメータは、パラメータバッファ310に格納され、次にDPDシステム302に提供されてもよい。パラメータは、様々な関数の係数、例えば、DPDシステム302の出力z(n)が電力増幅器304のひずみを相殺するように、入力信号x(n)を修正する関数であってもよい。
【0050】
様々な実施形態では、適応ブロック308は、DPDシステム302で使用されるパラメータを生成する、様々な数値的技術を使用してもよい。例えば、正の整数であるL個のサンプルの持続時間のある期間中に電力増幅器304を最適に合致させる係数が見出される、離散的な特性決定イベントが用いられてもよい。更なる例では、L個のサンプルの固定ブロックにわたる最小二乗平方推定が使用されてもよい。しかしながら、DPDシステム302のパラメータを生成する、任意の適切な方法が使用されてもよい。
【0051】
いくつかの実施形態では、適応ブロック308は、組込みプロセッサを使用して、適応機能を提供すると共に、バスによってパラメータバッファ310に提供されてもよい、DPDシステム302のパラメータを生成してもよい。プロセッサの主要ワーキングメモリは専用組込みメモリを含んでもよく、組込みプロセッサによって操作されるデータはバスを通ってもよい。DPDシステム302は、
図1の回路の構成可能論理ブロックなど、構成可能論理に実装されてもよい。例えば、組込みメモリは
図1のBRAMに実装されてもよい。組込みプロセッサは
図1のPROC 110であってもよい。適応は、組込みプロセッサで実行されるソフトウェアにおいて実現されてもよい。様々な実施形態では、組込みプロセッサは、利用可能なハードウェアリソースから構築されてもよく、またはハードウェア基本要素として実現されてもよい。例として、組込みプロセッサは、ハードワイヤードプロセッサであってもよく、または構成可能論理に実装されたプロセッサであってもよい。
【0052】
いくつかの実施形態では、電力増幅ユニット224は、デジタルアナログ変換器(DAC)と、DPDシステム302の出力および電力増幅器304の入力に結合されたアップコンバータとを含んでもよい。いくつかの例では、DACは、DPDシステム302のプリディストートされたデジタル信号出力を受信し、アナログ信号を提供するように結合される。アップコンバータは、DACからアナログ信号を受信し、それをRFアナログ信号に変換してもよく、その信号は次に電力増幅器304に提供される。電力増幅器304は増幅RF出力信号を提供してもよい。
【0053】
いくつかの実施形態では、電力増幅ユニット224は、電力増幅器304の出力に結合されて、アナログRF出力信号をサンプリングする、出力サンプリング結合器を含んでもよい。アナログデジタル変換器(ADC)およびダウンコンバータは、サンプリングされたRF出力信号をデジタルサンプリング信号に変換するのに使用されてもよく、その信号は次に、アライメントブロック314または適応ブロック308の入力に提供される。
【0054】
様々な実施形態では、DPDシステム302は、電力増幅器304の電力増幅器(PA)挙動モデル(PAモデルとも呼ばれる)に基づいて実現されてもよい。電力増幅器304の非線形性をモデル化するPAモデルを決定した後、かかるPAモデルの逆数が、DPDシステム302によって(例えば、信号222が、デジタルアナログ変換器を使用してデジタルからアナログに変換される前に)信号222に適用され、それによって電力増幅器304の非線形性が補償されてもよい。
【0055】
いくつかの例では、PAモデルは、メモリ効果を何ら有さないメモリレスPAモデルである。かかるメモリレスモデルは、例えば、多項式モデルおよびSalehモデルを含んでもよい。かかるメモリレスPAモデルに基づいて実現されるDPD経路は、メモリレスDPD経路と呼ばれることがある。
【0056】
いくつかの例では、PAモデルは、電力増幅器のメモリ効果を考慮に入れるメモリPAモデルである。電力増幅器のメモリ効果は、メモリ効果の時定数にしたがって、短期メモリ効果および長期メモリ効果として分類されてもよい。いくつかの実施形態では、短期メモリ効果は搬送信号期間程度(搬送信号期間の数倍)の時定数を有してもよい。いくつかの例では、短期メモリ効果の時定数はナノ秒程度である。長期メモリ効果は、短期メモリ効果よりも低い周波数(例えば、数キロヘルツ(kHz)~メガヘルツ(MHz)の範囲)および/または大きい時定数を有してもよい。いくつかの例では、長期メモリ効果の時定数は、マイクロ秒、ミリ秒、またはそれ以上の程度である。
【0057】
いくつかの例では、短期メモリ効果を有するPAモデルは、例えば、メモリ多項式モデルおよびVolterraモデルを含んでもよい。かかる短期メモリ効果を有するPAモデルに基づいて実現されるDPD経路は、短期メモリ効果DPD経路と呼ばれることがある。
【0058】
かかる長期メモリ効果を有するPAモデルに基づいて実現されるDPD経路は、長期メモリ効果DPD経路と呼ばれることがある。かかるDPD経路は、電力増幅器の長期メモリ効果を補償する、1つまたは複数のIIRフィルタを含んでもよい。
【0059】
いくつかの実施形態では、電力増幅器304は、例えば、メモリレスPAモデル、短期メモリ効果を有するPAモデル、長期メモリ効果を有するPAモデル、またはそれらの組み合わせを含む、1つまたは複数のPAモデルと関連付けられる。DPDシステム302は、DPD経路が複数のPAモデルにそれぞれ対応する、複数の並列DPD経路を含んでもよい。一例では、DPDシステム302は、例えば、メモリレスDPD経路、短期メモリ効果DPD経路、および長期メモリ効果DPD経路を含む、複数の並列DPD経路を含む。
【0060】
図4Aおよび4Bを参照すると、様々なPAモデルに基づいて実現されたDPDシステムが示されている。
図4Aを参照すると、図示されるDPDシステム302Aは、短期メモリ効果を有するPAモデルに基づいて実現され、短期メモリ効果DPD経路402を含む。短期メモリ効果DPD経路402は、電力増幅器304の短期メモリ効果を補償する、メモリ多項式モデルを実現してもよい。かかる短期メモリ効果は、電力増幅器304の活性デバイスの無効成分およびマッチングネットワークによってもたらされてもよい。いくつかの実施形態では、適応ブロック308は、DPD経路402の複数のパラメータによって、DPD経路402を適応的に構成(例えば、電力増幅器304の短期メモリ効果をモデル化)してもよい。例えば、パラメータは、DPD経路402によって使用されるメモリ多項式モデルの係数を含んでもよい。
【0061】
図4Bを参照すると、いくつかの実施形態では、DPDシステムは、電力増幅器304における短期メモリ効果および長期メモリ効果の両方を補償するように実現されてもよい。
図4Bの例では、DPDシステム302Bは、並列のDPD経路402、404、406、および408を含む。DPD経路402は、
図4AのDPD経路402と実質的に同様であり、電力増幅器304の短期メモリ効果を補償してもよい。DPD経路402は主要DPD経路402と呼ばれることもある。DPD経路404、406、および408はそれぞれIIRフィルタを含み、電力増幅器304の異なる長期メモリ効果を補償するのに使用されてもよい。
【0062】
いくつかの実施形態では、DPD経路404は、IIRフィルタ416に結合されたDPD経路422を含む。DPDシステム302Bの入力信号222(例えば、x(n))はDPD経路422の入力に送られ、信号222に基づいて生成される信号428(例えば、|x(n)|、|x(n)|2)はIIRフィルタ416の入力に送られる。IIRフィルタ416は、1つまたは複数の遅延ユニット(タップ)410と、複数の乗算器412と、複数の加算器414とを含む。IIRフィルタ416のパラメータ(係数)、例えばパラメータα1およびρ1は、増幅システム224によって(例えば、適応ブロック308を使用して)、電力増幅器304の長期メモリ効果を補償するように構成されてもよい。IIRフィルタ416の出力436およびDPD経路422の出力は、乗算器434に送られて、DPD経路404の出力428を生成する。
【0063】
いくつかの実施形態では、DPD経路406は、IIRフィルタ418に結合されたDPD経路424を含む。信号222はDPD経路424の入力に送られ、信号222の絶対値を有する信号428はIIRフィルタ418の入力に送られる。IIRフィルタ418は、1つまたは複数の遅延ユニット(タップ)410と、複数の乗算器412と、複数の加算器414とを含む。IIRフィルタ418のパラメータ(係数)、例えばパラメータα2およびρ2は、増幅システム224によって(例えば、適応ブロック308を使用して)、電力増幅器304の長期メモリ効果を補償するように構成されてもよい。IIRフィルタ418の出力438およびDPD経路424の出力は、乗算器434に送られて、DPD経路406の出力430を生成する。
【0064】
いくつかの実施形態では、DPD経路408は、IIRフィルタ420に結合されたDPD経路426を含む。信号222はDPD経路426の入力に送られ、信号222の絶対値を有する信号428はIIRフィルタ420の入力に送られる。IIRフィルタ420は、1つまたは複数の遅延ユニット(タップ)410と、複数の乗算器412と、複数の加算器414とを含む。IIRフィルタ420のパラメータ(係数)、例えばパラメータα3およびρ3は、増幅システム224によって(例えば、適応ブロック308を使用して)、電力増幅器304の長期メモリ効果を補償するように構成されてもよい。IIRフィルタ420の出力440およびDPD経路426の出力は、乗算器434に送られて、DPD経路408の出力432を生成する。
【0065】
いくつかの実施形態では、並列のDPD経路404、406、408、および402の出力428、430、432、および434は、1つまたは複数の加算器414を含むコンバイナ442を使用して組み合わされて、DPDシステム302Bの出力に提供される信号306を生成する。
【0066】
いくつかの実施形態では、IIRフィルタ416、418、および420は長期インパルス応答を有し、したがって、電力増幅器304の様々な長期メモリ効果をモデル化して、それらの長期メモリ効果を補償するように構成されてもよい。それらの長期メモリ効果は、電力増幅器の活性デバイスの動的熱的効果および/または活性デバイスの電荷キャリアトラップに属してもよい。いくつかの実施形態では、適応ブロック308は、IIRフィルタ416、418、および420を定義する長期メモリ効果パラメータ(例えば、パラメータα
1、ρ
1、α
2、ρ
2、α
3、ρ
3)によって、電力増幅器304の長期メモリ効果をモデル化するように、IIRフィルタ416、418、および420を適応的に構成してもよい。適応ブロック308は、最小平均二乗または回帰最小平方アルゴリズムなどの様々なアルゴリズムを使用して、IIRフィルタ416、418、および420のパラメータを決定してもよい。1次IIRフィルタが
図4Bに示されているが、それらは単なる例示であり、後述する特許請求の範囲における具体的な言及を超えて限定しようとするものではないことが注目される。任意の次数のIIRフィルタが使用されてもよいことが、当業者には理解されるであろう。
【0067】
いくつかの実施形態では、適応ブロック308は、IIRフィルタ416、418、および420の安定性に基づいて決定される適応率で、IIRフィルタ416、418、および420の長期メモリ効果パラメータを更新する。IIRフィルタ416、418、420は、フィードバックおよび/またはフィードフォワード経路を含んでもよく、高い適応率では不安定になることがある。そのため、IIRフィルタ416、418、および420は、それらのIIRフィルタ416、418、および420が安定である閾値適応率よりも低い適応率を有してもよい。いくつかの実施形態では、IIRフィルタ416、418、および420は異なる適応率を有する。いくつかの実施形態では、IIRフィルタ416、418、および420の適応率は、DPDシステム302Bの他の構成要素(例えば、DPD経路402、422、424、426)の適応率よりも低い。
【0068】
電力増幅器304が長期メモリ効果を含まない、いくつかの実施形態では、適応ブロック308は、IIRフィルタ416、418、および420が不活性化されるように、または換言すれば、通過動作モード(pass-through mode of operation)で動作するように、長期メモリ効果パラメータを構成してもよい。
【0069】
図4B、5、6、7、および8を参照すると、いくつかの実施形態では、DPDシステム302Bは、窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ(GaN-HEMT)を含む、窒化ガリウム(GaN)電力増幅器の長期メモリ効果を補償するように構成されてもよい。GaN-HEMTは、トラップの密度がGaN電力増幅器の出力電力に対抗して変化してもよい、その深部電子トラップ効果による長期メモリ効果を示してもよい。いくつかの実施形態では、GaN電力増幅器を使用する通信システムはLTE-TDDシステムである。かかる通信システムでは、GaN電力増幅器は、ダウンリンク時間スロット中はオンにされ、アップリンク時間スロット中はオフにされてもよい。GaN電力増幅器がダウンリンク時間スロット中にオンにされた後、深部電子トラップは低速の充電および放電プロセスを経験してもよい。そのため、GaN電力増幅器の非線形挙動モデルは、電力増幅器の出力電力が一定であっても、このターンオン期間(遷移期間)中は低速で変化する。したがって、メモリレスPAモデルおよび/または短期メモリ効果のみを有するPAモデルに基づいたデジタルプリディストーションモデルでは、GaN電力増幅器の非線形性を補償するのに不十分なことがある。
【0070】
いくつかの実施形態では、
図4BのDPDシステム302BのIIRフィルタは、電力増幅器の出力電力に対するGaN電力増幅器の非線形利得変化をモデル化するのに使用されてもよい。GaN電力増幅器の長期メモリ効果は、例えば、ゲートラグ効果、ドレインラグ効果、および熱的効果を含んでもよい。複数のエネルギーレベルがGaN電力増幅器のトラップ効果に関与することがあるので、GaN電力増幅器は、電子トラップと関連付けられた、複数の長期メモリ効果(例えば、ゲートラグ効果およびドレインラグ効果)を有してもよい。
図4Bの例に示されるように、異なるIIRフィルタが、GaN電力増幅器の異なるメモリ効果それぞれを補償するように構成されてもよい。例えば、IIRフィルタ416はGaN電力増幅器におけるゲートラグ効果を補償するように構成されてもよく、IIRフィルタ418はGaN電力増幅器におけるドレインラグ効果を補償するように構成されてもよく、IIRフィルタ420はGaN電力増幅器における熱的効果を補償するように構成されてもよい。
【0071】
図4B、5、および6を参照すると、いくつかの実施形態では、IIRフィルタ416のパラメータ(例えば、α
1およびρ
1)は、GaN電力増幅器304のゲートラグ効果を補償するように決定されてもよい。GaN電力増幅器304のゲートラグ効果は、GaN電力増幅器304のGaNトランジスタに印加される所与のバイアス電圧条件に対するゲートラグ時定数τ
glによって特性決定されてもよい。かかるバイアス電圧条件は、ゲートソース間バイアス電圧V
gsおよびドレインソース間バイアス電圧V
dsを含んでもよい。一実施形態では、
図4のIIRフィルタ416のパラメータα
1は、次式のように計算されてもよい。
式中、f
sは信号222のデジタルデータサンプリング周波数、τ
glはゲートラグ時定数である。
【0072】
いくつかの実施形態では、ゲートラグ時定数τ
glは
図5の測定システム500を使用して測定されてもよい。ゲートソース間バイアス電圧V
gs502およびドレインソース間バイアス電圧V
ds504は、GaN電力増幅器304のGaNトランジスタ506に印加される。V
gs502はパルス電圧であり、V
ds504は定電圧である。ゲートラグ時定数τ
glを決定するのに電流I
ds508が測定される。
図6を参照すると、V
gs502がV
gs1およびV
gs2の間で切り換えられたとき、ゲートラグ時定数τ
glが決定されてもよい。例えば、GaNトランジスタ506におけるデトラッピングプロセスにより、V
gs502が時間t1でV
gs1からV
gs2に増加した後、I
ds508が値I1から値I2まで増加するのに、例えば、時間t1から時間t2までの期間(遷移期間とも呼ばれる)を要する。時間t2からt3までの期間(安定期間とも呼ばれる)の間、I
ds508は値I2のままであり、V
gs502は値V
gs2のままである。更なる例として、GaNトランジスタ506におけるトラッピングプロセスにより、V
gs502が時間t3でV
gs2からV
gs1に減少した後、I
ds508が値I2から値I1まで減少するのに、例えば、時間t3から時間t4までの期間(遷移期間とも呼ばれる)を要する。そのため、ゲートラグ時定数τ
glは、I
dsの測定値(例えば、I1、I2、t1、t2、t3、およびt4)を使用して決定されてもよい。
【0073】
図4B、7、および8を参照すると、いくつかの実施形態では、IIRフィルタ418のパラメータ(例えば、パラメータα
2およびρ
2)は、GaN電力増幅器304のドレインラグ効果を補償するように決定されてもよい。GaN電力増幅器304のドレインラグ効果は、GaN電力増幅器304のGaNトランジスタに印加される所与のバイアス電圧条件に対するドレインラグ時定数τ
dlによって特性決定されてもよい。かかるバイアス電圧条件は、ゲートソース間バイアス電圧V
gsおよびドレインソース間バイアス電圧V
dsを含んでもよい。一実施形態では、
図4BのIIRフィルタ418のパラメータα
2は、次式のように計算されてもよい。
式中、f
sはデジタルデータサンプリング周波数、τ
dlはドレインラグ時定数である。
【0074】
いくつかの実施形態では、ドレインラグ時定数τ
dlは
図7の測定システム700を使用して測定されてもよい。測定システム700では、ゲートソース間バイアス電圧V
gs702およびドレインソース間バイアス電圧V
ds704は、GaNトランジスタ506に印加される。V
gs702は定電圧であり、V
ds704はパルス電圧である。ドレインラグ時定数τ
dlを決定するのに電流I
ds706が測定される。
図8を参照すると、V
ds704がV
ds1およびV
ds2の間で切り換えられたとき、ドレインラグ時定数τ
dlが決定されてもよい。例えば、GaNトランジスタ506におけるトラッピングプロセスにより、V
ds704が時間t1でV
ds1からV
ds2に増加した後、I
ds706が値I3から値I4まで増加するのに、例えば、時間t1から時間t2までの期間(遷移期間とも呼ばれる)を要する。時間t2からt3までの期間(安定期間とも呼ばれる)の間、I
ds706は値I4のままであり、V
ds704は値V
ds2のままである。更なる例として、GaNトランジスタ506におけるデトラッピングプロセスにより、V
ds704が時間t3でV
ds2からV
ds1に減少した後、I
ds706が値I2から値I1まで減少するのに、例えば、時間t3から時間t4までの期間(遷移期間とも呼ばれる)を要する。そのため、ドレインラグ時定数τ
dlは、I
dsの測定値(例えば、I3、I4、t1、t2、t3、およびt4)を使用して決定されてもよい。
【0075】
図4Bを参照すると、いくつかの実施形態では、IIRフィルタ420は、GaN電力増幅器304の熱的効果を補償するように構成される。パラメータα
3およびρ
3は、GaN電力増幅器304の熱的効果を補償するように、増幅システム224によって(例えば、適応ブロック308を使用して)適応的に構成されてもよい。いくつかの実施形態では、GaN電力増幅器の熱的効果は、熱的時定数τ
thを使用して特性決定されてもよく、IIRフィルタ420のパラメータ(例えば、パラメータα
3およびρ
3)は、熱的時定数を使用して決定されてもよい。一実施形態では、
図4BのIIRフィルタ420のパラメータα
3は、次式のように計算されてもよい。
式中、f
sデジタルデータサンプリング周波数、τ
thは熱的効果時定数である。
【0076】
いくつかの実施形態では、熱的時定数τthは、GaN電力増幅器304で使用されるGaNトランジスタの熱抵抗Cthermalおよび熱容量Rthermalを使用して計算される。いくつかの例では、熱抵抗Cthermalおよび熱容量Rthermalは、GaNトランジスタの基板の材料(例えば、Si、SiC、サファイア)に基づいて決定されてもよい。
【0077】
図4B、9A、9B、および9Cを参照すると、いくつかの実施形態では、IIRフィルタ416、418、および420のパラメータ(例えば、パラメータρ1、ρ2、およびρ3)は、IIRフィルタ416、418、および420の出力信号436、438、および440が安定しているとき、出力信号436、438、440がゼロに近付くようにして決定されてもよい。
図9A、9B、および9Cを参照すると、IIRフィルタ416のパラメータρ1は、
図4BのIIRフィルタ416の信号444に基づいて決定される。
図9Aの曲線902は
図4Bの信号428の振幅を示し、
図9Bの曲線904は
図4Bの信号444の振幅を示し、曲線906は
図4Bの信号436の大きさを示す。
図9Bに示されるように、適応ウィンドウ(adapt window)908は、データサンプル指数910およびデータサンプル指数912の間に延在する。信号444の振幅は、データサンプル指数910およびデータサンプル指数912の間の適応ウィンドウ908内で増加し、データサンプル指数912後に安定になる。そのため、IIRフィルタ416のパラメータρ1は、データサンプル指数912で信号444の値を有するように選ばれてもよい。曲線906によって示されるように、IIRフィルタ416の出力信号436は、ρ1を信号444から差し引くことによって生成され、データサンプル指数912後にゼロに近付く。パラメータρ2およびρ3は、IIRフィルタ418の出力信号438およびIIRフィルタ420の出力信号440が、それぞれのIIRフィルタの適応ウィンドウ後にゼロに近付くように、実質的に同様に決定されてもよい。
【0078】
いくつかの実施形態では、ρ1、ρ2、およびρ3は異なる値を有してもよい。あるいは、いくつかの実施形態では、ρ1、ρ2、およびρ3は、主要DPD経路402を適応するのに使用されるデータサンプルの短時間平均|x(n)|である、同じ値を有してもよい。
【0079】
図4Bおよび10を参照すると、様々な実施形態では、DPD経路402、422、424、および426はそれぞれ、メモリレスDPD経路または短期メモリ効果DPD経路であってもよい。いくつかの例では、DPD経路402、422、424、および426の1つまたは複数は、メモリレスPAモデル(例えば、多項式モデルまたはSalehモデル)に基づいて実現される、メモリレスDPD経路であってもよい。いくつかの例では、DPD経路402、422、424、および426の1つまたは複数は、短期メモリ効果PAモデル、例えばメモリ多項式モデルまたはVolterraモデルに基づいて実現される、短期メモリ効果DPD経路であってもよい。いくつかの実施形態では、適応ブロック308は、適応ブロック308によって受信される信号222、306、および226に基づいて、DPD経路402、422、424、および426のパラメータを更新する。
【0080】
いくつかの実施形態では、
図4BのDPD経路422、424、426、および402は、Volterra多項式に基づいた非線形関数データ経路である。DPD経路402は、パラメータK
0、M
0、およびQ
0を有する、一般的なメモリ多項式を用いて実現されてもよく、K
0はDPD経路402の非線形順序と呼ばれ、M
0およびQ
0はDPD経路402のメモリタップと呼ばれる。DPD経路402のy
0(n)は次式のように表されてもよい。
式中、k、m、およびqは整数であり、k=1:K
0、m=1:M
0、およびq=1:Q
0である。mおよびqの各対について、
は次式のように表されてもよい。
【0081】
DPD経路422は、パラメータK
1、M
1、およびQ
1を有する、一般的なメモリ多項式を用いて実現されてもよく、K
1はDPD経路422の非線形順序と呼ばれ、M
1およびQ
1はDPD経路422のメモリタップと呼ばれる。DPD経路422のy
1(n)は次式のように表されてもよい。
式中、k、m、およびqは整数であり、k=1:K
1、m=1:M
1、およびq=1:Q
1である。mおよびqの各対について、
は次式のように表されてもよい。
【0082】
DPD経路424は、パラメータK
2、M
2、およびQ
2を有する、一般的なメモリ多項式を用いて実現されてもよく、K
2はDPD経路424の非線形順序と呼ばれ、M
2およびQ
2はDPD経路424のメモリタップと呼ばれる。DPD経路424のy
2(n)は次式のように表されてもよい。
式中、k、m、およびqは整数であり、k=1:K
2、m=1:M
2、およびq=1:Q
2である。mおよびqの各対について、
は次式のように計算されてもよい。
【0083】
いくつかの例では、DPD経路426は、パラメータK
3、M
3、およびQ
3を有する、一般的なメモリ多項式を用いて実現されてもよく、K
3はDPD経路426の非線形順序と呼ばれ、M
3およびQ
3はDPD経路426のメモリタップと呼ばれる。DPD経路426のy
3(n)は次式のように表されてもよい。
式中、k、m、およびqは整数であり、k=1:K
3、m=1:M
3、およびq=1:Q
3である。mおよびqの各対について、
は次式のように表されてもよい。
【0084】
図10の例を参照すると、
(例えば、DPD経路402の
、DPD経路422の
、DPD経路424の
DPD経路426の
)は、係数を格納するルックアップテーブル(LUT)を使用して、サブ経路ユニット1000を使用して計算されてもよい。
図10に示されるように、サブ経路ユニット1000では、信号222x(n)がブロック1002に送られて、絶対値x(n)を有する信号1004が生成される。次に、信号1004は遅延ユニット1006に送られて、信号1008 |x(n-q)|が生成される。次に、信号1008はブロック1010に送られて、そこで、係数
を格納するLUT 1014を使用して、値
を有する信号1012が出力される。信号222も、遅延ユニット1016に送られて、信号1018 x(n-m)が生成される。信号1012および1018は乗算器に送られて、信号1020
が生成される。上述したように、次に、mおよびqの全ての対の
が組み合わされて、y
i(n)(例えば、DPD経路402のy
0(n)、DPD経路422のy
1(n)、DPD経路424のy
2(n)、DPD経路426のy
3(n))が生成される。
【0085】
いくつかの実施形態では、DPD経路402、422、424、および426は異なるパラメータを有する異なるDPDモデルを有する。いくつかの例では、DPD経路422、424、および426のK
1、K
2、およびK
3はそれぞれ、DPD経路402のK
0以下である。いくつかの例では、DPD経路422、424、および426のM
1、M
2、およびM
3はそれぞれ、DPD経路402のM
0以下である。いくつかの例では、DPD経路422、424、および426のQ
1、Q
2、およびQ
3はそれぞれ、DPD経路402のQ
0以下である。いくつかの例では、関連する係数
、ならびにDPD経路402の
、DPD経路422の
、DPD経路424の
およびDPD経路426の
を計算する、それらの係数を格納したそれぞれのルックアップテーブルは異なる。
【0086】
いくつかの実施形態では、適応ウィンドウ(例えば、
図9Bに示されるようなIIRフィルタ416の適応ウィンドウ908)中に収集されたフィードバックデータ(例えば、信号444)は、
図3の適応ブロック308によって、DPD経路422、424、および426を適応させるのに使用される(例えば、
)を適応させるのに使用される。
【0087】
図3、4B、11A、11B、11C、および11Dを参照すると、いくつかの実施形態では、
図3の適応ブロック308は、適応プロセスを使用して、DPDシステム302Bのパラメータを決定する。適応プロセスは、各適応ステップが、DPDシステム302BのDPD経路402、404、406、および408の1つのパラメータを適応させる、連続適応ステップを含む。適応されるDPDシステム302Bのパラメータは、DPD経路404、406、および408のIIRフィルタ416、418、および420のIIRフィルタパラメータ(例えば、パラメータα
1、α
2、α
3、ρ
1、ρ
2、ρ
3)と、DPD経路402、422、424、および426のパラメータ(例えば、
)とを含んでもよい。
【0088】
図3、4B、および11Aを参照すると、DPD経路402のパラメータを適応させる適応プロセスの第1の適応ステップでは、DPD経路402、404、406、および408はいずれも適応されていない。
図11Aに示されるように、適応ブロック308は、信号x(n)およびy’(n)の間の第1の誤差1102を決定する。
図11Aの例では、第1の誤差1102の振幅は、曲線1100に示されるような、入力信号x(n)の最大振幅の約15%である。次に、適応ブロック308は、第1の誤差1102を使用して、
図4BのDPD経路402のパラメータ(例えば、
)を適応させてもよい。
【0089】
図3、4B、および11Bを参照すると、第1の適応ステップ中に第1の誤差1102を使用してDPD経路402を適応させた後、適応プロセスは第2の適応ステップに進んで、DPD経路404のパラメータを適応させる。この段階では、DPD経路402、404、406、および408のうちDPD経路402のみが適応されている。
図11Bに示されるように、適応ブロック308は、信号x(n)およびy’(n)の間の第2の誤差1104を決定する。
図11Bの例では、第2の誤差1104の振幅A
max1は、入力信号x(n)の最大振幅の約4.7%である。次に、適応ブロック308は、第2の誤差1104を使用して、DPD経路404のDPD経路422のパラメータ(例えば、
)を適応させ、DPD経路404のIIRフィルタ416のIIRパラメータ(例えば、α
1)を適応させてもよい。一例では、IIRフィルタ416のパラメータα
1は、次式のように決定されてもよい。
式中、f
sはデジタルデータサンプリング周波数、τ
1は、第2の誤差1104の振幅が、最大誤差振幅A
max1(例えば、約0.047)から、最大誤差振幅の特定の一部分(例えば、約0.017、もしくは約A
max1/2.72)まで低下する時間間隔である。
【0090】
図3、4B、11C、および11Dを参照すると、第2の適応ステップ中に第2の誤差1104を使用してDPD経路404を適応させた後、適応プロセスは第3の適応ステップに進んで、DPD経路406のパラメータを適応させる。この段階では、DPD経路402、404、406、および408のうちDPD経路402および404のみが適応されている。
図11Cおよび11Dに示されるように、適応ブロック308は、信号x(n)およびy’(n)の間の第3の誤差1106を決定する。
図12Cの範囲1108の拡大図を示す
図11Dに示されるように、第3の誤差1106の最大振幅A
max2は、入力信号x(n)の最大振幅の約1.5%である。次に、適応ブロック308は、第3の誤差1106を使用して、DPD経路406のDPD経路424のパラメータ(例えば、
)を適応させ、DPD経路406のIIRフィルタ418のIIRパラメータ(例えば、α
2)を適応させてもよい。一例では、IIRフィルタ418のパラメータα
2は、次式のように決定されてもよい。
式中、f
sはデジタルデータサンプリング周波数、τ
2は、第2の誤差1104の振幅が、最大誤差振幅A
max2(例えば、約0.015)から、最大誤差振幅の特定の一部分(例えば、約0.05、もしくは約A
max2/2.72)まで低下する時間間隔である。
【0091】
同様に、DPD経路402、404、および406を適応させた後、適応プロセスは、次の適応ステップに進んで、DPD経路408のパラメータを適応させてもよい。DPD経路408のDPD経路426のパラメータ(例えば、
)、およびDPD経路408のIIRフィルタ420のIIRパラメータ(例えば、α
3)は、
図3、4B、および11A~11Dを参照して考察したように、DPD経路404および406のパラメータと実質的に同様に、適応ブロック308によって決定されてもよい。
【0092】
図12Aおよび12Bを参照すると、通信システムの電力増幅器のひずみを補償するのにDPDシステムを使用することによって、通信システムの性能が改善されてもよい。
図12Aおよび12Bに示されるのは、異なるDPD構成を有する通信システムで使用される、GaN電力増幅器の出力に対する時間の関数としてのACPRを示すグラフである。
図12Bは、
図12Aの範囲1210の拡大図を示している。曲線1202は、いずれのDPDシステムも含まない電力増幅ユニット224を有する通信システム200に相当する。曲線1204は、電力増幅ユニット224が、メモリ多項式モデルに基づくDPDを含む、
図4AのDPDシステム302Aを含む、通信システム200に相当する。曲線1206は、電力増幅ユニット224が
図4BのDPDシステム302Bを含み、それが、GaN増幅器における長期メモリ効果を補償するように構成されたIIRフィルタを有する、並列のDPD経路を含む、通信システム200に相当する。GaN電力増幅器は、受信時間スロット(例えば、時間t3から時間t5までの期間、時間t9から時間t11までの期間)の間はオフにされ、送信時間スロットの送信時間スロット(例えば、時間t0から時間t3までの期間、および時間t5から時間t9までの期間)中はオンにされる。曲線1202によって示されるように、DPDシステムを有さない通信システムでは、送信時間スロットのACPRは受信時間スロットのACPRよりも約30dB高く、これはGaN電力増幅器のひずみによって生じることがある。
【0093】
曲線1204によって示されるように、
図4AのDPDシステム302Aを展開することによって、送信時間スロットのACPRは、受信時間スロット中の曲線1202のACPRからのACPR差1208の分(例えば、約20dB超過)低減される。しかしながら、曲線1204はまた、GaN電力増幅器の深部電子トラップ効果に帰することがある、遷移期間1212(例えば、時間t5から時間t6までの期間)中の性能の低下を示している。
【0094】
曲線1206によって示されるように、GaN電力増幅器の長期メモリ効果を補償するのに
図4BのDPDシステム302Bを展開することによって、遷移期間1212中の曲線1204に示される性能の低下が低減または排除される。例えば、GaN電力増幅器がオンにされた直後の時間t5において、曲線1206のACPRは、曲線1204のACPRと比較して、ACPR差1216の分(例えば、約10dB~15dB)改善される。他方で、GaN電力増幅器の安定期間1214中(例えば、時間t6から時間t9まで)、曲線1204および1206に示されるACPR性能は実質的に同様の値を有する。
【0095】
図13の例を参照すると、異なるDPD構成の通信システムで使用される、GaN電力増幅器の出力の電力スペクトルが示される。電力スペクトルは、分解能帯域幅100kHzおよび映像帯域幅100kHzを使用するスペクトル分析器を使用して生成される。主要チャネル(所望のチャネル)電力1308は、チャネルの中心周波数2.14GHz付近に位置する。ACPRは、中心周波数からオフセットした特定の周波数における隣接チャネルの電力と、主要チャネル電力1308との比として計算されてもよい。
図10の例では、曲線1302は、いずれのDPDシステムも有さない、TDD-LTE通信システムにおけるGaN電力増幅器の出力のスペクトルに相当する。曲線1304は、
図4AのDPDシステム302Aを使用する、TDD-LTE通信システムの電力増幅器の出力信号のスペクトルに相当する。曲線1306は、
図4BのDPDシステム302Bを使用する、TDD-LTE通信システムの電力増幅器の出力信号のスペクトルに相当する。
図13に示されるように、中心周波数2.14MHzから10MHzのオフセットで、
図4BのDPDシステムを使用してGaN電力増幅器の長期メモリ効果を補償することによって、ACPRは、
図4AのDPDシステム302Aを使用する通信システムと比較して、値d1分(例えば、約10dB~15dB)改善される。同様に、中心周波数2.14MHzから10MHzのオフセットで、
図4BのDPDシステム302Bを使用することによって、いずれのDPDシステムも使用しない通信システムと比較して、ACPRは値d2分(例えば、約35dB)改善される。
【0096】
図2~13に示される様々な構成(例えば、DPDシステムにおけるDPD経路の数、IIRフィルタの次数および係数)は、単なる例示であり、後述する特許請求の範囲における具体的な言及を超えて限定しようとするものではないことが注目される。他の構成が使用されてもよいことが、当業者には理解されるであろう。例示のLTE-TDD通信システムが示されているが、通信システムがGaN電力増幅器を展開し、動的な送信電力を有する場合、DPDシステムは、いずれの通信システム(例えば、FDD-LTE広帯域符号分割多重接続(WCDMA)/高速パケットアクセス(HSPA)、および直交周波数分割多重化(OFDM)システム)で使用されてもよい。
【0097】
本開示によるいくつかの実施形態では、デジタルプリディストーション(DPD)システムは、DPD入力信号を受信するように構成された入力を含む。DPDシステムは、第1のプリディストーション信号を生成する入力に結合された第1の信号経路を提供するように構成された、第1のプリディストーション回路を含む。第1のプリディストーション回路は、第1の無限インパルス応答(IIR)フィルタを含む。DPDシステムは、第2のプリディストーション信号を生成する、第1の信号経路と並列で入力に結合された第2の信号経路を提供するように構成された、第2のプリディストーション回路を更に含む。第2のプリディストーション回路は第2のIIRフィルタを含む。DPDシステムは、第1のプリディストーション信号および第2のプリディストーション信号を組み合わせてDPD出力信号を生成するように構成された、コンバイナ回路を更に含む。
【0098】
いくつかの実施形態では、DPDシステムのDPD出力信号は、電力増幅器の入力に結合されて、増幅出力信号を生成する。DPD出力信号は、電力増幅器のメモリ効果を補償するように構成される。
【0099】
いくつかの実施形態では、電力増幅器は窒化ガリウム(GaN)トランジスタを含む。
【0100】
いくつかの実施形態では、第1のIIRフィルタは、GaNトランジスタの第1のメモリ効果を補償するように構成される。
【0101】
いくつかの実施形態では、第1のIIRフィルタの第1の係数は、第1のメモリ効果と関連付けられた第1のメモリ効果時定数に基づいて決定される。
【0102】
いくつかの実施形態では、第2のIIRフィルタは、GaNトランジスタの第2のメモリ効果を補償するように構成される。第2のメモリ効果は第1のメモリ効果とは異なる。
【0103】
いくつかの実施形態では、第1および第2のメモリ効果はそれぞれ、GaNトランジスタのゲートラグ効果、ドレインラグ効果、および熱的効果から成る群から選択される。
【0104】
いくつかの実施形態では、第1のIIRフィルタおよび第2のIIRフィルタは異なる次数のものである。
【0105】
いくつかの実施形態では、DPDシステムは、第3のプリディストーション信号を生成する、第1および第2の信号経路と並列で入力に結合された第3の信号経路を提供するように構成された、第3のプリディストーション回路を含む。第3のプリディストーション回路はIIRフィルタを含まない。コンバイナ回路は、第1、第2、および第3のプリディストーション信号を組み合わせて、DPD出力信号を生成するように構成される。
【0106】
いくつかの実施形態では、第3のプリディストーション回路は、メモリ多項式に基づくプリディストーション動作をDPD入力信号に対して実施して、第3のプリディストーション信号を生成するように構成される。
【0107】
いくつかの実施形態では、方法は、デジタルプリディストーション(DPD)システムの入力でDPD入力信号を受信することと、DPDシステムの、第1の無限インパルス応答(IIR)フィルタを含む第1のプリディストーション回路によって、第1のプリディストーション信号を生成する、入力に結合された第1の信号経路を提供することと、DPDシステムの、第2のIIRフィルタを含む第2のプリディストーション回路によって、第2のプリディストーション信号を生成する、第1の信号経路と並列で入力に結合された第2の信号経路を提供することと、第1のプリディストーション信号および第2のプリディストーション信号を組み合わせて、DPD出力信号を生成することとを含む。
【0108】
いくつかの実施形態では、方法は、電力増幅器によって、DPD出力信号を増幅して増幅出力信号を生成することを含む。DPDシステムは、電力増幅器のメモリ効果を補償するように構成される。
【0109】
いくつかの実施形態では、方法は、第1のIIRフィルタを使用して、GaNトランジスタの第1のメモリ効果を補償することを含む。
【0110】
いくつかの実施形態では、方法は、第1のメモリ効果と関連付けられた第1のメモリ効果時定数に基づいて、第1のIIRフィルタの第1の係数を決定することを含む。
【0111】
いくつかの実施形態では、方法は、第2のIIRフィルタを使用して、GaNトランジスタの第2のメモリ効果を補償することを含む。第2のメモリ効果は第1のメモリ効果とは異なる。
【0112】
いくつかの実施形態では、方法は、DPDシステムの、IIRフィルタを含まない第3のプリディストーション回路によって、第3のプリディストーション信号を生成する、第1および第2の信号経路と並列で入力に結合された第3の信号経路を提供することと、第1、第2、および第3のプリディストーション信号を組み合わせて、DPD出力信号を生成することとを含む。
【0113】
いくつかの実施形態では、方法は、第3のプリディストーション回路によって、メモリ多項式に基づくプリディストーション動作をDPD入力信号に対して実施して、第3のプリディストーション信号を生成することを含む。
【0114】
様々な利点が本開示の様々な適用例に存在し得る。全ての実施形態が特定の利点を要するものではなく、異なる実施形態が異なる利点を提示してもよい。いくつかの実施形態の利点の1つは、IIRフィルタを使用してGaN電力増幅器の長期メモリ効果をモデル化することによって、GaN電力増幅器を使用する通信システムの性能(例えば、ACPR性能)が著しく改善されてもよいことである。いくつかの実施形態の別の利点は、複数の並列のIIRフィルタが、GaN電力増幅器の異なる長期メモリ効果を補償するのに使用されてもよく、それによってデジタルプリディストーションプロセスの計算効率が改善されてもよいことである。
【0115】
特定の実施形態について図示し記載してきたが、請求される発明を好ましい実施形態に限定しようとするものではないことが理解され、請求される発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、様々な変更および修正がなされてもよいことが、当業者には明白となるであろう。したがって、本明細書および図面は、限定の意味ではなく例示の意味で見なされるものとする。請求される発明は、代替物、修正、および等価物を包含するものとする。