(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】HIS束ペーシングを行うように構成されたリードレス心臓ペースメーカー装置
(51)【国際特許分類】
A61N 1/36 20060101AFI20240821BHJP
【FI】
A61N1/36
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020017785
(22)【出願日】2020-02-05
【審査請求日】2023-01-27
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512158181
【氏名又は名称】バイオトロニック エスエー アンド カンパニー カーゲー
【氏名又は名称原語表記】BIOTRONIK SE & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Woermannkehre 1 12359 Berlin Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス アール.アンダーソン
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー エイ.フォン アルクス
(72)【発明者】
【氏名】ハンネス クレッチマー
【審査官】鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0083801(US,A1)
【文献】特表2008-516739(JP,A)
【文献】特表2018-534079(JP,A)
【文献】特表2010-532231(JP,A)
【文献】特表2015-526254(JP,A)
【文献】特表2008-515485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
HIS束ペーシングを行うように構成されたリードレス心臓ペースメーカー装置(1)であって、
先端(100)を有するハウジング(10)と、
前記先端(100)付近の前記ハウジング(10)に配置された第1電極(11)であって、心臓内組織(M)と係合するように構成された第1電極(11)と、
前記ハウジング(10)の前記先端(100)から距離を置いて前記ハウジング(10)に設置された第2電極(12)と、
前記ハウジング(10)に配置された第3電極(13)であって、前記ハウジング(10)が、前記先端(100)の反対側の遠端(101)を備え、前記遠端(101)付近に配置されている第3電極(13)と、
前記ハウジング(10)に囲まれ、前記第1電極(11)及び前記第2電極(12)に動作可能に接続されたプロセッサー(15)と
を備え、
前記プロセッサー(15)が、前記第1電極(11)及び前記第2電極(12)の少なくとも一方によって受信された受信信号を処理し、前記第1電極(11)及び前記第2電極(12)の少なくとも一方を使用して発信されるペーシング信号を生成するように構成され
、
前記プロセッサー(15)が、前記第1電極(11)と前記第3電極(13)との間で検知される第2信号ベクトル(F)及び前記第2電極(12)と前記第3電極(13)との間で検知される第3信号ベクトル(A)の少なくとも一方を、受信信号として処理するように構成されている、リードレスペースメーカー装置(1)。
【請求項2】
心臓内組織(M)に前記ペースメーカー装置(1)を固定するために、前記ハウジング(10)の前記先端(100)に配置された少なくとも1つの固定要素(140,141)を有する固定装置(14)を備える、
請求項1に記載のリードレスペースメーカー装置(1)。
【請求項3】
前記先端(100)付近の前記ハウジング(10)に配置された複数の第1電極(11)を備え、前記プロセッサー(15)が、受信信号の受信及びペーシング信号の発信の少なくとも一方のために、前記複数の第1電極(11)の少なくとも1つを選択するように構成されている、請求項1又は2に記載のリードレスペースメーカー装置(1)。
【請求項4】
前記第2電極(12)が、前記ハウジング(10)の周りに周方向に延びる電極リングによって形成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載のリードレスペースメーカー装置(1)。
【請求項5】
前記プロセッサー(15)が、人間の心臓に前記ペースメーカー装置(1)を設置する際のマッピングモードの受信信号として、前記第1電極(11)と前記第2電極(12)の間で検知される第1信号ベクトル(P)を処理するように構成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載のリードレスペースメーカー装置(1)。
【請求項6】
前記第1信号ベクトル(P)に関する情報を含む通信信号を、前記ペースメーカー装置(1)から人体の外側の外部装置(3)に送信するための通信インターフェース(16)を備える、請求項5に記載のリードレスペースメーカー装置(1)。
【請求項7】
前記プロセッサー(15)が、心
室活動を検出する前記第2信号ベクトル(
F)及び心
房活動を検出する前記第3信号ベクトル(
A)の少なくとも一方を処理するように構成されている、請求項
1に記載のリードレスペースメーカー装置(1)。
【請求項8】
前記プロセッサー(15)が、前記第1電極(11)と前記第3電極(13)との間で検知される前記第2信号ベクトル(F)及び前記第2電極(12)と前記第3電極(13)との間で検知される前記第3信号ベクトル(A)の少なくとも一方を処理することと、前記第1電極(11)及び前記第2電極(12)の少なくとも一方を使用して発信される前記ペーシング信号を生成することとを交互に行うように構成されている、請求項
1に記載のリードレスペースメーカー装置(1)。
【請求項9】
請求項1に記載のリードレスペースメーカー装置(1)を人間の心臓に設置するための送達システムであって、
人体に挿入するためのカテーテル装置(2)であって、人体に挿入される管腔及び遠位端(20)を備えるカテーテル装置(2)と
、
前記カテーテル装置(2)の前記遠位端(20)付近の前記管腔内に収容される
前記リードレスペースメーカー装置(1)と、
前記カテーテル装置(2)の前記遠位端(20)付近に配置された第1マッピング電極(11,23,260)及び第2マッピング電極(12,24,260)であって、マッピングモードで、前記第1マッピング電極(11,23,260)と前記第2マッピング電極(12,24,260)との間における、心臓活動の電位図を表すマッピング信号ベクトル(P)を検知するための第1マッピング電極(11,23,260)及び第2マッピング電極(12,24,260)と
を備える、送達システム。
【請求項10】
前記第1マッピング電極(11)が、前記先端(100)付近の
前記ペースメーカー装置(1)の前記ハウジング(10)に配置され、前記第2マッピング電極(12)が、前記先端(100)から距離を置いて
前記ペースメーカー装置(1)の前記ハウジング(10)に配置され、前記ペースメーカー装置(1)が、前記マッピング信号ベクトル(P)に関する情報を含む通信信号を、前記ペースメーカー装置(1)から人体の外側の外部装置(3)に送信するための通信インターフェース(16)を備える、請求項
9に記載の送達システム。
【請求項11】
前記第1マッピング電極(23)及び前記第2マッピング電極(24)が、前記カテーテル装置(2)に配置されている、請求項
9に記載の送達システム。
【請求項12】
前記カテーテル装置(2)内に収容されたマッピングワイヤ(26)を備え、前記第1マッピング電極(260)及び前記第2マッピング電極(260)が、前記マッピングワイヤ(26)に配置されている、請求項1
0に記載の送達システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、リードレス心臓ペースメーカー装置と、人間の心臓にリードレスペースメーカー装置を配置するための送達システムとに関する。本発明はまた、送達システムを使用してリードレスペースメーカー装置を配置する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リードレスペースメーカーがますます注目を受けている。リードレスペースメーカーは、心臓へ経静脈的に延びるリードを使用して皮下に植え込まれるペースメーカーとは対照的に、ペースメーカー装置自体が心臓に植え込まれているという点でリードを回避しており、当該ペースメーカーは、心臓組織へ、特に右心室の右心室壁へ植え込むためのカプセルの形状を有している。このようなリードレスペースメーカーには、リードを使用しないという固有の利点があるため、気胸、リードの脱落、リードによる心内膜炎、心臓穿孔、静脈血栓症等のリスクといった、リードが心臓に経静脈的にアクセスする際の患者のリスクを低減することができる。
【0003】
リードレスペースメーカーは現在、右心室への植え込み用に設計されており、植え込み中に右心室壁の中又は上に配置される。このようなリードレスペースメーカーは主に右心室のペーシングを引き起こすため、既存のリードレスペースメーカーに伴う欠点としては、右心室の充満量の減少、所謂AからVへの同期性の欠如(心房収縮と心室収縮の適切なシーケンスに関する)、潜在的に過剰な右心室のペーシング(リードレスペースメーカーを右心室に配置するため、最小化できない)、左心室(LV)から右心室(RV)への同期性の欠如を挙げることができる。
【0004】
HIS束を介して刺激を注入することによって右心室と左心室の両方を同期してペーシングするために、所謂HIS束ペーシングを行うアプローチが存在する。しかしながら、例えば特許文献1及び2から知られているように、現在のHIS束ペーシング用ペースメーカー装置は、ペースメーカー装置から心臓へ経静脈的に延びるリードを使用してHIS束を超過する。
【0005】
特許文献2には、所謂A波、V波、及びH波を含む電位図を取得するために心臓信号を監視することによって右心室にリードを配置するためのマッピング技術が記載されており、A波は、マッピング電極によって検知される右心房の脱分極に対応し、V波は、マッピング電極によって検知される右心室の脱分極に対応し、H波は、マッピング電極によって記録される電気インパルスのA/V伝導を示すイベントに対応している。
【0006】
AからVへの同期性の欠如や、右心室のペーシングに固有の左心室(LV)から右心室(RV)への同期性等の欠点を回避しつつ、リードレスペースメーカーの利点を発揮することができるペースメーカー装置を提供することが望まれている。
【0007】
また、ペースメーカー装置の簡単かつ高速でありながら信頼性の高い配置を可能にする送達システムを提供することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第8,565,880号明細書
【文献】米国特許第8,078,287号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そのような要望は、HIS束ペーシングを行うように構成されたリードレス心臓ペースメーカー装置によって対処される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載のリードレスペースメーカー装置、請求項11に記載の送達システム、及び請求項15に記載のリードレスペースメーカー装置を配置する方法が提供される。更なる実施形態は、従属請求項の主題である。
【0011】
一態様において、ペースメーカー装置は、先端を有するハウジングと、先端付近のハウジングに配置された第1電極であって、心臓内組織と係合するように構成された第1電極と、ハウジングの先端から距離を置いてハウジングに設置された第2電極と、ハウジングに囲まれ、第1電極及び第2電極に動作可能に接続されたプロセッサーとを備え、プロセッサーが、第1電極及び第2電極の少なくとも一方によって受信された受信信号を処理し、第1電極及び第2電極の少なくとも一方を使用して許可されるペーシング信号を生成するように構成される。
【0012】
従って、リードレス心臓ペースメーカー装置を使用して、HIS束ペーシングを行うことが提案される。HIS束にペーシングを行うことにより、現在のリードレスペースメーカーに付随する欠点を回避することができる。例えば、右心室の充満量の減少を回避したり、心房から心室(A/V)の同期性を改善したり、主な右心室のペーシングを回避したり、左心室(LV)から右心室(RV)への同期性を改善したりすることができる。特に、HIS束でペーシングすることにより、心臓の固有の伝導システムが使用され、HIS束から延びる固有の右束枝及び左束枝を介して右心室及び左心室の同期刺激を提供し、それぞれ右心室の周りを左心室の周りに延長する。従って、右心室と左心室の両方に同期性ペーシングが行われ、心室の非同期性及び非対称ペーシングが回避される。
【0013】
ハウジングは、リードレスペースメーカー装置のカプセル化を提供し、リードレスペースメーカー装置は、ハウジング内のプロセッサー、バッテリー等のエネルギーストレージ、電気及び電子回路等の自律動作に必要な全ての部品を含んでいる。プロセッサーは、マイクロプロセッサー、マイクロコントローラー、或いは1つ又は複数の有限状態マシン等、あらゆる種類の制御ロジックであってよい。有限状態マシンは、マイクロプロセッサーよりも消費電力が少ないが、柔軟性とプログラミング性は低い。ハウジングは液密であり、リードレスペースメーカー装置は、心臓に植え込まれており、長期間にわたって心臓組織の近くに保持され、長時間の連続した心臓ペーシング動作を提供する。
【0014】
一態様において、リードレスペースメーカー装置は、右心房に配置される。従って、ペースメーカー装置は右心室内ではなく心房壁に配置され、これにより、心房壁に固定することでペースメーカー装置に適合した固定を提供する必要が生じる。
【0015】
一態様において、リードレスペースメーカー装置は、心臓内組織、特に心房壁にペースメーカー装置を固定するために、ハウジングの先端に設置された少なくとも1つの固定要素を有する固定装置を備える。一実施形態では、細いワイヤの形状をした1つ又は複数の固定要素、例えば形状記憶効果を示すニチノールタインが提供されてもよく、そのようなワイヤは、当該固定要素が心房壁を貫通する可能性を最小限にするために、例えば1.5mmよりも小さな半径を備える曲率を有し、従ってかなり急な曲率を示す。別の実施形態では、ねじアンカーの形状をした固定要素を設けてもよく、このようなねじアンカーは、リードレスペースメーカー装置を心房壁にねじ込むことを可能にし、かなり小さな直径、例えば2mm未満の直径を有している。
【0016】
リードレスペースメーカー装置のハウジングの先端の固定装置は、リードレスペースメーカー装置を心房壁に配置することと、固定装置を介してリードレスペースメーカー装置を心房壁に固定することを可能にし、植え込まれたリードレスペースメーカー装置は、心臓組織内に固定的に保持され、永久的に配置されるようになる。
【0017】
一態様において、ハウジングの先端付近に配置された第1電極は、ハウジングに固定されたピン上に位置しており、ピンはリードレスペースメーカー装置を植え込む際に心臓組織と係合する役割を果たす。ピンは尖った形状をしており、先端に配置された第1電極が、HIS束ペーシングのためにHIS束に向けて刺激信号を注入するために、HIS束に近い位置に置かれるように、心臓組織、特にHIS束の近くの心房壁に挿入される。
【0018】
ピンは、例えば1mmから2mmの間、例えば約1.5mmの長さを有してもよい。
【0019】
別の実施形態では、第1電極は、固定装置の固定要素として機能するねじアンカーに配置されてもよい。そのようなねじアンカーは、心臓にリードレスペースメーカー装置を配置するときに、心臓組織、特に心房壁に挿入される。このようにねじアンカーに配置された第1電極は、効果的なHIS束ペーシングを行うために、HIS束に近い場所に置かれる。
【0020】
ピン又はねじアンカーには、ピンに配置された第1電極、又はねじアンカーのみが露出するように、(部分的な)絶縁のためのコーティングを施すことができる。これにより、偶発的な心房捕捉のリスクを最小限に抑えることができる。絶縁コーティングは、パラリン、PTFE(PTFE-ポリテトラフルオロエチレン)、シリコン、シリコンポリマー、ポリウレタン、ポリイミド、又はその他の生体適合性コーティングが可能である。
【0021】
一態様において、リードレスペースメーカー装置は、先端付近のハウジングに設置された複数の第1電極を備える。例えば、複数のピンがハウジングの先端に提供されてもよく(例えば、2つ又は3つのピン)、各ピンは第1電極を担持する。代替的に、二重又は三重螺旋等を形成するための複数のアームを有するねじアンカー装置が提供されてもよく、各アームは第1電極を担持する。
【0022】
本明細書のプロセッサーは、一実施形態では、動作のために、例えば受信信号の受信のために及び/又はペーシング信号の発信のために、複数の第1電極の少なくとも1つを選択するように構成されてもよい。特にHIS束の近くに位置している適切な第1電極を選択することにより、効果的なHIS束ペーシングを実現することができる。複数の第1電極が存在するため、適切な第1電極を選択すると、リードレスペースメーカーを再度位置調整する必要なく、HIS束を簡単かつ効果的に刺激できる。
【0023】
一態様において、第2電極は、ハウジングの周りに周方向に延びる電極リングによって形成される。代替的に、第2電極は、例えば、ハウジングに形成されたパッチ又は別の導電性領域によって形成されてもよい。第2電極は、ハウジングの先端から距離を置いて配置されているため、先端付近に設置された第1電極から距離を置いて配置されている。
【0024】
複数の第1電極を有する一実施形態では、複数の第1電極のうちの2つ以上を選択して、それらの間で差動的にペーシングすることができる。これにより、常に第2電極をペーシングリターンとして使用する場合よりも多くのペーシングベクトルを使用できる。これにより、再度位置調整することなくHIS束を刺激するように装置をプログラムできる可能性が最大化される。このアプローチのコストは、長持ちする可能性がある。なぜなら、第1電極のインピーダンスが、(大きい)第2電極よりも高いため、高いペーシング電圧が必要になる可能性が高いからである。
【0025】
HIS束ペーシング用リードレスペースメーカーを植え込む際の1つの課題は、効果的なペーシングのためにリードレスペースメーカーをHIS束の近くに配置する目的でHIS束を検出することである。一実施形態では、リードレスペースメーカー装置のプロセッサーは、人間の心臓にペースメーカー装置を配置する際のマッピングモードの受信信号として、第1電極と第2電極の間で検知される第1信号ベクトルを処理するように構成される。従って、リードレスペースメーカー装置は、第1信号ベクトルにより、リアルタイムで電位図を取り込むことができ、電位図は、HIS束で又はその近くで電気的活動を示している。第1電極及び第2電極もペーシングに使用して刺激のためにHIS束に向けてペーシング信号を発信することができるため、配置中に第1電極と第2電極によって取得された信号ベクトルは、植え込み後の実際の動作中にリードレスペースメーカー装置が見るものと似ている。これは、植え込み後のマッピングとペーシングに同じ電極が使用されるからである。従って、配置中の強い信号受信は、植え込み後のペーシングに効果的なエネルギーの注入を示す。
【0026】
一実施形態では、リードレスペースメーカー装置は、第1信号ベクトルに関する情報を含む通信信号を、ペースメーカー装置から、例えばプログラマーワンドの形状をした人体外部の外部装置に、マッピングモードで送信するための通信インターフェースを備える。通信インターフェースは、リードレスペースメーカー装置から外部装置に向けて通信信号を非接触(ワイヤレス)で送信するのに役立ち、テレメトリーを使用してリードレスペースメーカー装置から外部装置に情報が送信される。このようにして、リードレスペースメーカー装置によってHIS束にアクセスするために電位図を監視してマッピングを達成できるように、第1電極及び第2電極によって取得されたリアルタイムの電位図は、外部装置に送信されてもよい。一実施形態では、リアルタイムの電位図は、任意の2つの第1電極間、又は電気的に一緒に接続された複数の第1電極と第2電極との間にプログラムすることもできる。許可された異なる検知ベクトルにより、植え込み装置は、電極を物理的に再度位置調整する必要なく、HIS信号をビットで電子的に検索できるようになる。
【0027】
通信インターフェースは、例えば、誘導結合、MICS(medical implant communication service)、BLE(Bluetooth low energy)、音響通信、又は電界通信を使用して通信信号を送信するように構成されてもよい。
【0028】
一実施形態では、リードレスペースメーカー装置は、ハウジングに設置された第3電極を備える。本明細書の第3電極は、例えば、ハウジングの先端の反対側の遠端に配置されてもよい。第3電極は、プロセッサーが第3電極を介して受信された信号を受信及び処理することが可能になるように、プロセッサーに動作可能に接続される。
【0029】
一態様において、プロセッサーは、第1電極と第3電極との間で検知される第2信号ベクトルと、第2電極と第3電極との間で検知される第3信号ベクトルとの少なくとも一方を受信信号として処理するように構成される。
【0030】
本明細書において、第1電極と第3電極との間に生じる第2信号ベクトルは、遠距離場ベクトルとも呼ばれ、第1電極と第3電極は、第2電極と第3電極よりも互いに対して大きな距離を示す。特に、第2信号ベクトルは心室収縮を示すことがあるため、第2信号ベクトルによってペーシング刺激の注入後の誘発反応が捕捉され得る。
【0031】
第2電極と第3電極との間で検知される第3信号ベクトルは、心房収縮に続いてHIS束に刺激を適時に注入することにより心房から心室への同期を提供する目的で、心房収縮を検知するのに使用されてもよい。第3信号ベクトルは、代替的に又は追加的に、HIS束ペーシング刺激に応答して心室収縮を検知するのに使用されてもよく、この場合、心房収縮は第3信号ベクトルからフィルタリングされる必要がある。
【0032】
一態様において、リードレスペースメーカー装置の電極の同じセット(又はサブセット)は、収縮信号の検知とペーシング刺激信号の発信の両方に使用される。このため、一実施形態では、リードレスペースメーカー装置のプロセッサーは、受信信号の処理とペーシング信号の生成を交互に切り替えることにより、検知モードと刺激モードを切り替えるように構成される。特に、プロセッサーは、心周期の第1段階で心房収縮を検知するように構成されてもよい。心房収縮が捕捉される場合、プロセッサーは、心周期の第2段階で第1電極及び第2電極の少なくとも一方を使用してペーシング信号が生成及び発信される刺激モードに切り替えてもよい。ペーシング信号が発信された後、プロセッサーは検知モードに戻り、ペーシング刺激に対する反応として誘発される心室収縮を検知し、心室収縮は、例えば、心周期の第3段階で第1電極と第3電極の間で検知される第2信号ベクトルによって取得される。心室収縮の検知に続いて、心房収縮を改めて検知してペーシング動作を継続することができる。
【0033】
別の態様では、リードレスペースメーカー装置を人間の心臓に配置するための送達システムが提供され、送達システムは、人体に挿入するためのカテーテル装置であって、人体に挿入される管腔及び遠位端を備えるカテーテル装置と、HIS束ペーシングを行うように構成されたリードレスペースメーカー装置であって、カテーテル装置の遠位端付近の管腔内に収容されるペースメーカー装置と、カテーテル装置の遠位端付近に設置された第1マッピング電極及び第2マッピング電極とを備え、マッピングモードで、第1マッピング電極と第2マッピング電極との間のマッピング信号ベクトルを検知し、マッピング信号ベクトルが、心臓活動の電位図を表す。
【0034】
送達システムは、リードレスペースメーカー装置が例えばHIS束に近接した右心房に置かれるように、リードレスペースメーカー装置を人間の心臓に配置する役割を果たす。本明細書の送達システムは、リードレスペースメーカー装置の配置中にリードレスペースメーカー装置がHIS束に到達し、従って心房内等でその位置を正しく取得したかどうかを観察できるように、マッピングを提供する。
【0035】
マッピングを提供するために、送達システムは、第1マッピング電極と第2マッピング電極を備える。第1マッピング電極及び第2マッピング電極は、マッピング信号ベクトルを取得する役割を果たし、マッピング信号ベクトルは、心臓活動の電位図、例えば、HIS束で取得され且つHIS束が適切にアプローチされたかどうかを評価するのに適したHIS束電位図を表す。
【0036】
第1マッピング電極と第2マッピング電極の異なる設置が考えられる。
【0037】
一実施形態では、ペースメーカー装置は、先端を有するハウジングを備え、第1マッピング電極は、先端付近のハウジングに設置され、第2マッピング電極は、先端から距離を置いてハウジングに設置され、ペースメーカー装置は、マッピング信号ベクトルに関する情報を含む通信信号を、ペースメーカー装置から人体の外側の外部装置に送信するための通信インターフェースを備える。この実施形態では、第1マッピング電極及び第2マッピング電極は、リードレスペースメーカー装置の一部である。第1マッピング電極及び第2マッピング電極は、実際の動作中に植え込まれると、HIS束を刺激するためのペーシング信号を発信するためにも使用することができ、第1マッピング電極及び第2マッピング電極によるマッピングモードでは、実際の動作中にリードレスペースメーカーが電気的に見るものに似た電位図が取得される。
【0038】
第1マッピング電極と第2マッピング電極がリードレスペースメーカーに設置されている場合、カテーテル装置によるリードレスペースメーカー装置の配置中に、第1マッピング電極と第2マッピング電極で信号を取得できるように注意する必要がある。このため、カテーテル装置を引き戻してペースメーカー装置の第1マッピング電極及び第2マッピング電極を露出させることにより、マッピング用リードレスペースメーカー装置をカテーテル装置から部分的に展開することができる。
【0039】
別の実施形態では、カテーテル装置は、例えば第2マッピング電極を露出する少なくとも1つの窓を備えてもよく、この場合、リードレスペースメーカー装置は、マッピングのために必ずしも部分的に展開される必要はない。これにより、ペースメーカー装置はカテーテル装置から略突き出ていないが、カテーテル装置内に受け入れられるため、ペースメーカー装置の配置を容易にすることができる。
【0040】
別の実施形態では、第1マッピング電極及び第2マッピング電極は、カテーテル装置に配置される。本明細書において、第1マッピング電極は、カテーテル装置の遠位端のすぐ近くに配置してもよく、第2マッピング電極は、遠位端から距離を置いて配置してもよい。一実施形態では、本明細書の第1マッピング電極と第2マッピング電極との間の距離は、HIS束を刺激するためのペーシング信号を生成及び発信するためのリードレスペースメーカー装置に設置された第1電極と第2電極との間の距離に一致する。このようにして、配置中にカテーテル装置からの電位図が検知され、植え込み状態において実際の動作中にリードレスペースメーカー装置が見るものと一致するということが達成できる。
【0041】
一実施形態では、複数の第1マッピング電極及び/又は第2マッピング電極が、例えば隣接するマッピング電極が90°の角度で離間するように、例えばカテーテル装置の周方向に沿って互いに離間して、カテーテル装置に配置される。このようにして、複数のマッピングベクトルを検出することができ、マッピング中の信号受信の方向に関する情報を導き出すことが可能となる。
【0042】
追加的に又は代替的に、複数のリングマッピング電極を使用して近距離場応答及び遠距離場応答を検知し、心臓の他の領域から更なる情報を取得してマッピング情報を導き出すことが可能となる。
【0043】
カテーテル装置に配置されたマッピング電極は、カテーテル装置に沿って走る適切な電子回路導体により、外部監視回路に接続されてもよい。
【0044】
一実施形態では、カテーテル装置のマッピング電極の1つは、植え込み中に追加の視認性を提供するためのフルオロマーカーとして使用されてもよい。
【0045】
別の実施形態では、第1マッピング電極及び第2マッピング電極は、カテーテル装置内、例えば管腔又は主管腔とは別個の副管腔に収容されたマッピングワイヤに配置されてもよい。この場合、カテーテル装置は追加のマッピング電極を備える必要がないため、カテーテル装置の構造はあまり複雑にはならない。マッピングワイヤは、カテーテル装置の遠位端で送達カテーテルの中心に向かって移動するように角度を付けることができるため、リードレスペースメーカー装置のペーシング電極が植え込み後に配置される場所に近いマッピング信号を検知することが可能となる。
【0046】
マッピングワイヤに配置されたマッピング電極は、マッピングワイヤに沿って走る適切な電子回路導体により、外部監視回路に接続されてもよい。
【0047】
別の実施形態では、カテーテル装置の主管腔を通過する従来のマッピングカテーテルを使用してもよい。
【0048】
別の態様では、前述のような送達システムを使用してリードレスペースメーカー装置を配置する方法が提供され、方法は、マッピングモードにおいて、カテーテル装置の遠位端付近に設置された第1マッピング電極及び第2マッピング電極を使用して、第1マッピング電極と第2マッピング電極との間のマッピング信号ベクトルを検知することを含み、マッピング信号ベクトルが、心臓活動の電位図を表す。
【0049】
本発明の様々な特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び図面に示される実施形態を参照することにより、より容易に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】洞房結節、房室結節、HIS束、並びにHIS束から延びる左束枝及び右束枝を含む、人間の心臓の概略図を示す。
【
図2】カテーテル装置内に収容され、配置中のマッピングのために部分的に展開されたリードレスペースメーカー装置の実施形態の図を示す。
【
図3】配置中のカテーテル装置内に収容されたリードレスペースメーカー装置の別の実施形態の図を示す。
【
図4】配置中のカテーテル装置内に収容されたリードレスペースメーカー装置の更に別の実施形態の図を示す。
【
図5】先端に電極を有するカテーテル装置の概略図を示す。
【
図6】カテーテル装置の別の実施形態の概略図を示す。
【
図7】カテーテル装置に収容されたリードレスペースメーカー装置の実施形態の図を示し、マッピング用のカテーテル装置内にマッピングワイヤが収容されている。
【
図8】リードレスペースメーカー装置の実施形態を示す。
【
図9】リードレスペースメーカー装置の別の実施形態を示す。
【
図10】リードレスペースメーカー装置の更に別の実施形態を示す。
【
図11】リードレスペースメーカー装置の更に別の実施形態を示す。
【
図12】リードレスペースメーカー装置の概略図を示す。
【
図13】リードレスペースメーカー装置の概略図を示し、リードレスペースメーカー装置の異なる電極間で検知される信号ベクトルを示している。
【発明を実施するための形態】
【0051】
続いて、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。図面において、同様の参照番号は同様の構造要素を示す。
【0052】
実施形態は、本発明を限定するものではなく、単に例示的な例を表すことに留意されたい。
【0053】
本発明では、HIS束ペーシングを行うリードレスペースメーカー装置を提供することが提案されている。
【0054】
図1は、右心房RA、右心室RV、左心房LA及び左心室LVを含む人間の心臓を概略図で示しており、所謂洞房結節SANは、右心房RAの壁に位置しており、洞房結節SANは、心臓の電気伝導システムを伝わる電気インパルスを自発的に生成する能力を有する細胞群によって形成され、血液を心臓に送り込むために心臓を収縮させる。房室結節AVNは、心房と心室の間の電気伝導を調整する働きをし、冠状静脈洞の開口部近くの心房中隔の背下部に位置している。房室結節AVNから、所謂HIS束Hが延びており、HIS束Hは、電気伝導に特化した心筋細胞で構成され、右心室RVの周りの所謂右束枝RBB及び左心室LVの周りの左束枝LBBを介して房室結節AVNから電気インパルスを送信するための電気伝導システムの一部を形成している。
【0055】
房室結節AVNからの電気インパルスは、右心室RV及び左心室LVを刺激するために、HIS束Hを介して右束枝RBB及び左束枝LBBに向かって纏めて送信されるため、HIS束ペーシングは、右心室RVと左心室LVを同期してペーシングする能力を有しており、例えば右心室のペーシングで発生する可能性のある、左心室RVと右心室RVとの間の同期性の欠如を回避する。
【0056】
HIS束ペーシングを行う一般的なペースメーカー装置は、(皮下に植え込まれた)ペースメーカー装置から心臓に経静脈的に延びるリードを使用するが、本発明内では、
図1に概略的に示されるように、リードレスペースメーカー装置1を使用して右心房RAへ実装し、HIS束HでHIS束ペーシングを行うことが提案される。そのようなリードレスペースメーカー装置1により、HIS束Hでペーシングを行う目的で、刺激エネルギーがHIS束Hの右心房壁に注入される。
【0057】
別の実施形態では、リードレスペースメーカーは、(心房からではなく)心室からのHIS又はその近くでペーシングする目的で、右心室中隔に植え込まれる。この心室植え込みの位置は、心房が小さな患者にとってより良い場合があり、心房配置よりも植え込み安定性の利点がある場合がある。
【0058】
ここで
図12を参照すると、一実施形態では、HIS束ペーシングを行うように構成されたリードレスペースメーカー装置1は、リードレスペースメーカー装置1を動作させるための電気及び電子部品を囲むハウジング10を備える。特に、ハウジング10内には、プロセッサー15と、プログラマーワンド等の外部装置3と通信するための通信インターフェース16とが囲まれており、加えて、バッテリー形状のエネルギーストレージ等の電気及び電子部品がハウジング10内に閉じ込められている。一実施形態では、バッテリケーシング自体がハウジング10の一部を構成する。ハウジング10は、中に収容される構成要素のカプセル化を提供し、ハウジング10は、例えば数センチメートルの長さを有する円筒シャフトの形状を有する。
【0059】
図12の実施形態では、リードレスペースメーカー装置1は、HIS束ペーシングを行うためにHIS束Hに向けてペーシング信号を発信する役割と、心臓活動を示す、特に心房収縮及び心室収縮を示す電気信号を検知する役割とを果たす、異なる電極11,12,13を備える。
【0060】
本明細書の第1電極11は、ペーシング電極として示されており、リードレスペースメーカー装置1の植え込み時に、HIS束Hの近くに配置される。第1電極11は、ハウジング10の先端に配置され、HIS束Hの近くに置くために、心臓組織と係合するように構成される。
【0061】
第2電極12は、第1電極11の対電極として機能し、信号ベクトルPは、第1電極11と第2電極12との間に生じ、HIS束Hに向けてペーシング信号を発信するペーシングベクトルPを提供する。また、第2電極12は、特に心房収縮及び心室収縮に関する信号を検知するための検知電極として機能する。第2電極12は、第1電極11から距離を置いて配置され、例えばリングの形状を有する。第2電極12は、例えば第1電極11が配置されるハウジング10の先端から約1cmの距離に配置される。
【0062】
図12の実施形態において、リードレスペースメーカー装置1はまた、ハウジング10の遠端に配置された第3電極13を備え、第3電極13は、心臓活動を示す信号を検知する検知電極として機能する。特に、信号ベクトルAは、第3電極13と第2電極12との間に生じ、信号ベクトルAは、例えば心房収縮を示す信号を取得する。更に、第3電極13と第1電極11との間に信号ベクトルFが生じ、信号ベクトルFは、例えば心室収縮を示す。信号ベクトルFは、遠距離場ベクトルとも呼ばれる。
【0063】
電極11,12,13は、プロセッサー15と動作可能に接続され、プロセッサー15は、HIS束ペーシングのためにHIS束Hを刺激するために、第1電極11及び第2電極12にペーシング信号を発信させるように構成される。プロセッサー15は更に、電極11,12,13を介して受信した信号を処理して、心臓活動、特に心房収縮及び心室収縮の検知を行うように構成される。心房活動と心室活動の両方を記録できることにより、リードレスペースメーカー装置1は、AV同期性ペーシングを行うことができる。
【0064】
リードレスペースメーカー装置1をHIS束Hに植え込む際の1つの課題は、リードレスペースメーカー装置1を、そのペーシング電極11と共に、HIS束Hに近接して正しく配置するためのマッピングを提供することである。マッピング技術では、効果的なHIS束ペーシングを行う目的でリードレスペースメーカー装置1がHIS束Hに正しく配置されるように、電気生理学的測定によりHIS束Hの位置を特定する。
【0065】
ここで
図2を参照すると、一実施形態では、マッピングモードのリードレスペースメーカー装置1は、人間の心臓にリードレスペースメーカー装置1を配置する間に第1電極11と第2電極12との間のリアルタイム電位図を検知するように構成される。配置のために、リードレスペースメーカー装置1は、送達システムの一部を形成するカテーテル装置2の管腔内に収容され、リードレスペースメーカー装置1は、リードレスペースメーカー装置1を人間の心臓に送達するために、カテーテル装置2の遠位端20に収容される。
【0066】
マッピングのために、一実施形態では、リードレスペースメーカー装置1は、
図2に示すように、カテーテル装置2の遠位端20から部分的に展開され、これにより、電気的心臓信号を検知してリアルタイムの電位図を記録するために、第1電極11及び第2電極12が露出される。
図12に示す通信インターフェース16により、記録された電位図はプログラマーワンド等の外部装置3に転送され、HIS束Hに到達したかどうかを判定するために電位図を監視及び評価することができる。
【0067】
図2の実施形態では、第1電極11は、リードレスペースメーカー装置1のハウジング10の先端100のピン上に配置される。植え込みを行うと、第1電極11は、心臓組織、特に右心房壁(又は一実施形態では、右心室中隔)に挿入され、これにより、実際のペーシング動作中の第1電極11を介して、植え込みエネルギーをHIS束ペーシングのためにHIS束Hに向かって伝達することができるようになる。マッピングモードでは、検知信号は第1電極11及び第2電極12を介して受信されるため、配置中のリードレスペースメーカー装置1は、HIS束Hへの電気的結合に関して、植え込み後の実際のペーシング動作中に装置1が見るものを見る。配置中にHIS束捕捉が第1電極11及び第2電極12を介して取得される場合、植え込み刺激エネルギーをHIS束Hに効果的に注入できるように、実際のペーシング動作中も確保される。
【0068】
配置中に第1電極11及び第2電極12を介して記録された電位図は、通信インターフェース16を介して外部に伝達されるため、電位図を監視し、正しい配置が達成されたかどうかを評価するための調査を行うことができる。本明細書の通信インターフェース16は、誘導結合、MICS、BLE、音響通信、又は電界通信による通信を提供するように構成されてもよい。従って、記録されたリアルタイム電位図を示す信号は、テレメトリーを使用してリードレスペースメーカー装置1から人体の外側の外部装置3に向かって、マッピングモードで送信される。
【0069】
ここで
図3を参照すると、別の実施形態では、カテーテル装置2は、リードレスペースメーカー装置1がカテーテル装置2内に収容されて人間の心臓に配置されるときに第2電極12が配置される領域に、窓22を備える。この実施形態では、リードレスペースメーカー装置1を配置するために部分的に展開する必要はないが、リードレスペースメーカー装置1は、カテーテル装置2に着座したままであることができ、リードレスペースメーカー装置1が配置中にカテーテル装置2から突き出ないため、リードレスペースメーカー装置1の右心房RAへの配置が容易になる。窓22により、信号を検知するために第2電極12が露出され、加えて、リードレスペースメーカー装置1のハウジング10の先端100の電極11は、マッピングのために電極11,12間にて検知ベクトルを取得可能なように、カテーテル装置2の遠位端20で露出している。
【0070】
ここで
図4を参照すると、別の実施形態では、マッピング電極23,24は、カテーテル装置2に配置され、例えば、第1マッピング電極23は、カテーテル装置2の遠位端20のすぐ近くに配置され、第2マッピング電極24は、遠位端20から、従って第1マッピング電極23から距離を置いて配置される。本明細書の電極23,24の形状、サイズ、及び距離は、リードレスペースメーカー装置1の電極11,12の形状、サイズ、及び距離に近いことが好ましく、結果、配置中にマッピング電極23,24を介して取得された電位図は、リードレスペースメーカー装置1の電極11,12が植え込み後の実際のペーシング動作中に見るものに似る。
【0071】
ここで
図5を参照すると、カテーテル装置2への電極23,24の異なる設置及び形状が考えられる。例えば、複数の第1マッピング電極要素230は、カテーテル装置2の遠位端20において、例えば、隣接する電極要素230間で90°の角度だけ互いに対して周方向に離間してもよい。第2マッピング電極24は、例えば、カテーテル装置2の周りに周方向に延びるリングの形状を有してもよく、電極24を構成する複数の第2電極要素が存在することも考えられる。複数の電極要素を使用することにより、異なるマッピング信号ベクトルを取得して、例えば、信号受信の方向を示す情報を導き出すことができ、従って、リードレスペースメーカー装置1をHIS束Hに設置するための配置及びマッピングが更に容易になる。
【0072】
ここで
図6を参照すると、カテーテル装置2に複数の電極23,24,25を設けることも考えられ、電極23,24,25は軸方向に離間し、例えばカテーテル装置2の周りに延びるリングとして成形される。そのようなリング電極23,24,25により、近距離場ベクトル及び遠距離場ベクトルを取得することができ、従って、近距離場応答及び遠距離場応答の両方を検出することが可能になる。
【0073】
一実施形態では、カテーテル装置2の電極23,24,25のうちの1つ又は複数は、植え込み中の更なる視認性のためのフルオロマーカーとしても使用される。
【0074】
ここで
図7を参照すると、別の実施形態では、マッピングワイヤ26は、主管腔とは別個のカテーテル装置2の側管腔に収容される。マッピングワイヤ26は、遠位端20でカテーテル装置2の中心に向かって角度が付けられ、マッピングワイヤ26はその角度のある端部でマッピング電極260を担持し、電極260はリードレスペースメーカー装置1の植え込み中にマッピング信号を検知することを可能にする。
【0075】
別の実施形態では、リードレスペースメーカー装置1を植え込む際に、主管腔に収容された通常のマッピングカテーテルがマッピングに使用される。
【0076】
リードレスペースメーカー装置1は、一実施形態では、
図1に概略的に示されるように、右心房RAに配置される。植え込みの際、リードレスペースメーカー装置1は心房壁に固定されるため、右心房RAにリードレスペースメーカー装置1を確実かつ永続的に固定する固定装置が必要である。
【0077】
右心房RAの心房壁は一般的に比較的薄く、例えば心室壁よりも繊細であるため、固定装置は、心房壁の貫通及びHIS束H付近の神経構造の損傷が防止されるように設計されるべきである。
【0078】
ここで
図8を参照すると、一実施形態では、リードレスペースメーカー装置1のハウジング10の先端100の固定装置14は、ニチノールタインの形状のワイヤにより形成される多数の湾曲固定要素140を備え、固定要素140は、固定要素140が心臓壁に深く貫通しないように、例えば1.5mmよりも小さい曲率半径を有する。
【0079】
図8の実施形態では、第1電極11はピン110に配置され、ピン110は、植え込み中にHIS束Hの心房壁に係合して、電極11がHIS束Hに近接して置かれるようになる。ピン110は尖った形状を有し、例えば1mmから3mmの間の長さ、例えば約2mmの長さを有する。
【0080】
第2電極12は、
図8の実施形態では、リング形状を有し、リードレスペースメーカー装置1のハウジング10の周りに周方向に延び、ハウジング10は略円筒形状を有する。第3電極13は、第1電極11に対向するハウジング10の遠端101に配置される。
【0081】
ここで
図9を参照すると、一実施形態では、複数(ここでは3つ)の第1電極11が、リードレスペースメーカー装置1のハウジング10の先端100の複数のピン110に配置される。植え込み中、ピン110は心臓組織と係合し、プロセッサー装置15は、例えば、第1電極11の1つ又はグループを選択するように構成される。このようにして、HIS束Hに最も近く設置され、従ってHIS束Hと最も強い電気的結合を有する第1電極11の電極を選択することができる。複数の第1電極11を選択に用いることが可能であるため、少なくとも植え込み中にリードレスペースメーカー装置1を再配置する潜在的な必要性を減らすことができる。
【0082】
ここで
図10を参照すると、一実施形態では、固定装置14はねじアンカー141を備え、ねじアンカー141は、右心房RA内にリードレスペースメーカー装置1を固定するために心臓組織にねじ込まれる役割を果たす。本明細書の第1電極11は、心臓組織におけるねじアンカー141の係合により、電極11がHIS束Hに近接して置かれるように、ねじアンカー141の先端に配置される。ねじアンカー141は、例えば、植え込み中にHIS束Hの近くの神経構造を損傷するリスクを最小限にするために、2mm以下の直径を有してもよい。
【0083】
一実施形態では、ねじアンカー141は、二重又は三重螺旋を形成する複数のアームを備えてもよく、各アームは、例えば第1電極11を担持し、
図9の実施形態と同様に、プロセッサー15は、HIS束Hに最も近くかつ最良に結合される電極11を選択するために、動作のために電極11の1つ又はグループを選択するように構成され得る。別の実施形態では、単一のねじアンカー141は、その長さに沿って複数の電極を含み、それぞれ独立にプロセッサー15によって選択可能である。
【0084】
図8~
図11の実施形態では、ピン110又はねじアンカー141は、電極11のみが電気的に露出されるように、電気絶縁コーティングを備えてもよい。これは、偶発的な心房捕捉のリスクを減らすのに役立つ。
【0085】
実際のペーシング動作中に、プロセッサー15は、心臓活動を示す信号を検知し、交互にHIS束Hを刺激するためのペーシング信号を生成するために、検知モードと刺激モードを切り替えてもよい。
【0086】
特に、心周期の第1段階では、
図12及び
図13に示すように、例えば第2電極12と第3電極13との間の信号ベクトルAによって心房収縮を検知することができる。心房捕捉に続いて、心周期の第2段階では、HIS束Hに刺激エネルギーを注入するために、第1電極11と第2電極12との間にあるペーシングベクトルPによりペーシング信号が発信され、ペーシング信号は、心房から心室(AからV)への同期を提供するために、心房捕捉後に適切なタイミングで注入される。ペーシング信号の注入後、プロセッサー15は、第1電極11と第3電極13との間の遠距離場ベクトルFを介して心室収縮を取得することにより誘発反応を検知するために、検知モードに切り替えてもよい。
【0087】
心房捕捉及び心室捕捉を取得するための異なる検知アルゴリズム、及びHIS束を捕捉するための異なるペーシングアルゴリズムを使用できる。心房検知アルゴリズムは、例えば、心房DXアルゴリズムに類似していてもよい。リードレスペースメーカー1の場合、遠距離場で心室収縮が発生するため、心室信号を検知するために、増幅の増加が必要になる場合がある。
【0088】
HIS束Hでペーシングを行うために、自動捕捉アルゴリズムを使用できる。捕捉アルゴリズム内で、
図14に示すような心電図のQRS波形を調べることができ、短いQRS波形は、周囲の心臓組織の補充なしのHIS伝導経路の捕捉を示す。本明細書の自動捕捉アルゴリズムは、ペーシング閾値を増減させ、QRS応答を監視することによる、例えば1時間に1回の定期的な検索を含んでもよい。次いで、プロセッサー15は、例えば、最小のQRS幅を有するペーシング振幅を選択するように構成されてもよく、更なるペーシング動作のために、このようにして決定されたペーシング振幅を使用してもよい。
【0089】
心房検知アルゴリズムの実施形態は、
図15の表に示される。
【0090】
長期間にわたって心房活動が検知されない場合、プロセッサー15は、存在するが検出されない心房活動との同期を試みるように構成されてもよい。このために、ペーシングのタイミングを適合させることができる。例えば、以前の心室信号間の固有距離(V-V)がXミリ秒であった場合、次のペーシング信号は、前の周期の固有のV-Vよりも、ある値、例えば10%又は10ms(
図15の表の3行目)だけ早く注入しなければならない。これにより、A/Vが短縮される。このモードでは、プロセッサー15は、例えば1分に1回又は5分ごとに1回、固有の伝導を許可することにより、固有のV-Vを定期的に確認するように構成しなければならない。
【0091】
図16では、誘発反応を捕捉するための心室検知アルゴリズムの実施形態が示されている。
【0092】
リードレスペースメーカー装置1は右心房RAに配置されるため、第2電極12と第3電極13との間の心房双極子で心房信号を検知することができる。患者が心房細動(AF)状態にあることを装置が検出しなければならない場合、プロセッサーは、臨床医が設定したAFレートをペーシングすることにより心室を駆動するように構成されている。AFの状態の間に心室を駆動することは、固有の拍動には存在しない可能性のあるLV-RVの同期性を提供し続けるため望ましい。
【0093】
上記の教示に照らして、記載された例及び実施形態の多数の修正及び変形が可能であることは、当業者には明らかであろう。開示された例及び実施形態は、例示のみを目的として提示されている。他の代替実施形態は、本明細書に開示されている特徴の一部又は全てを含み得る。従って、本発明の真の範囲に含まれ得る全てのそのような修正及び代替実施形態を網羅することが意図されている。
【符号の説明】
【0094】
1 リードレスペースメーカー装置
10 ハウジング
100 先端
101 遠端
11 第1電極(ペーシング電極)
110 ピン
12 第2電極(ペーシングリング)
13 第3電極
14 固定装置
140 固定要素(ワイヤ)
141 固定要素(ねじ)
15 プロセッサー
16 通信インターフェース
2 カテーテル装置
20 遠位端
22 窓
23 電極
230 電極要素
24 電極
25 電極
26 マッピングワイヤ
260 電極
3 外部装置(プログラマーワンド)
A 心房ベクトル
AVN 房室結節
F 遠距離場ベクトル
H HIS束
LA 左心房
LBB 左束枝
LV 左心室
M 心臓内組織(心筋)
P ペーシングベクトル
RA 右心房
RBB 右束枝
RV 右心室
SAN 洞房結節