(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-20
(45)【発行日】2024-08-28
(54)【発明の名称】浄水方法及び浄水装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/28 20230101AFI20240821BHJP
B01D 35/02 20060101ALI20240821BHJP
B01J 20/04 20060101ALI20240821BHJP
B01J 20/08 20060101ALI20240821BHJP
【FI】
C02F1/28 A
C02F1/28 G
B01D35/02 K
B01J20/04 B
B01J20/08 B
(21)【出願番号】P 2020089348
(22)【出願日】2020-05-22
【審査請求日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2019162735
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231198
【氏名又は名称】日本国土開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100136261
【氏名又は名称】大竹 俊成
(72)【発明者】
【氏名】大野 睦浩
(72)【発明者】
【氏名】劉 兆涛
【審査官】伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/124190(WO,A1)
【文献】特表2011-530405(JP,A)
【文献】特開2018-144012(JP,A)
【文献】特開平07-284657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/28
B01D 24/00-37/04
B01J 20/00-20/34
C02F 1/42
C01F 7/00- 7/788
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染水の汚染物質を層状複水酸化物に吸着させて除去する浄水方法であって、
前記層状複水酸化物(合成後に乾燥したものを除く)を含有するスラリー状又はジェル状の吸着材を容器内に配置し、
前記容器内に前記汚染水を通水させ、排出管の前記容器側の端部に設けられた
フィルタと、該フィルタの周囲に設けられた砂とにより前記層状複水酸化物と水とを分離し、前記層状複水酸化物が前記容器の外部に排出されるのを防ぎ、前記水を前記排出管により前記容器の外部に排出させることを特徴とする浄水方法。
【請求項2】
前記吸着材は、紙繊維を含有するものである請求項1記載の浄水方法。
【請求項3】
前記フィルタは、前記層状複水酸化物の粒径より小さい網目を有す
る請求項1又は2記載の浄水方法。
【請求項4】
前記
フィルタを水が通過できるように前記汚染水に圧力を加える請求項1~
3のいずれか一項に記載の浄水方法。
【請求項5】
前記吸着材は、前記層状複水酸化物を合成した際に生成された塩を除去したものである請求項1~
4のいずれか一項に記載の浄水方法。
【請求項6】
汚染水の汚染物質を層状複水酸化物に吸着させて除去する浄水装置であって、
前記汚染水が供給される容器と、
前記容器に収納され、前記層状複水酸化物(合成後に乾燥したものを除く)を含有するスラリー状又はジェル状の吸着材と、
前記層状複水酸化物と水を分離して、前記層状複水酸化物が前記容器の外部に排出されるのを防ぎ、前記水を前記容器の外部に排出させる排出管の前記容器側の端部に設けられた
フィルタと、該フィルタの周囲に設けられた砂と、を備える浄水装置。
【請求項7】
前記フィルタは、前記層状複水酸化物の粒径より小さい網目を有する請求項
6に記載の浄水装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は汚染水から汚染物質を除去する浄水方法及び浄水装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ホウ素やヒ素、リン等の汚染物質を含む汚染水の水処理に、層状複水酸化物が利用されている。ここで、従来は、汚染水の通水の容易性から粒状の層状複水酸化物が用いられている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、粒状の層状複水酸化物を作製するには、合成後に乾燥等が必要であり、コストと時間が掛かるという問題があった。
【0005】
そこで本発明は、層状複水酸化物の合成によりできたスラリー状又はジェル状の吸着材を使用する浄水方法及び浄水装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の浄水方法は、汚染水の汚染物質を層状複水酸化物に吸着させて除去する浄水方法であって、前記層状複水酸化物(合成後に乾燥したものを除く)を含有するスラリー状又はジェル状の吸着材を容器内に配置し、前記容器内に前記汚染水を通水させ、排出管の前記容器側の端部に設けられたフィルタと、該フィルタの周囲に設けられた砂とにより前記層状複水酸化物と水とを分離し、前記層状複水酸化物が前記容器の外部に排出されるのを防ぎ、前記水を前記排出管により前記容器の外部に排出させる。
【0007】
この場合、前記吸着材は、紙繊維を含有するものであってもよい。
【0008】
また、前記フィルタは、前記層状複水酸化物の粒径より小さい網目を有する。
【0009】
また、前記吸着材は、前記層状複水酸化物を合成した際に生成された塩を除去したものであってもよい。
【0010】
請求項6記載の浄水装置は、汚染水の汚染物質を層状複水酸化物に吸着させて除去する浄水装置であって、前記汚染水が供給される容器と、前記容器に収納され、前記層状複水酸化物(合成後に乾燥したものを除く)を含有するスラリー状又はジェル状の吸着材と、前記層状複水酸化物と水を分離して、前記層状複水酸化物が前記容器の外部に排出されるのを防ぎ、前記水を前記容器の外部に排出させる排出管の前記容器側の端部に設けられたフィルタと、該フィルタの周囲に設けられた砂と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、層状複水酸化物の合成によりできたスラリー状又はジェル状の吸着材を使用できるので、コストや時間をかけずに汚染水から汚染物質を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】本実施形態の別の浄水装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の浄水方法について説明する。本実施形態は、汚染水の汚染物質を層状複水酸化物に吸着させて除去する浄水方法であって、層状複水酸化物と水を分離可能な分離部を有する流路の上流側に層状複水酸化物(合成後に乾燥したものを除く)を含有するスラリー状又はジェル状の吸着材を配置し、流路に汚染水通水するものである。汚染物質とは、ホウ素やヒ素、リン等の層状複水酸化物が吸着可能なものを意味する。
【0014】
図1には、本実施形態の浄水装置100の概略断面図が示されている。
図1に示すように、浄水装置100は、流路形成部材としての容器10と、容器10に設けられた給水管12と、排水管14とを備える。排水管14の容器10内に位置する側の端部には、ろ布等からなる第1フィルタ4が設けられている。また、ろ布の周囲には、第2フィルタ31が設けられている。第2フィルタ31の周囲には、層状複水酸化物を含有するスラリー状又はジェル状の吸着材2が設けられている。ここで、第2フィルタ31の網目(目開き)は、吸着材2に含有されている層状複水酸化物の粒径より小さく、第1フィルタ4の網目(目開き)よりも大きいものとする。なお、第1フィルタ4と第2フィルタ31を含んで、層状複水酸化物と水を分離する分離部16が構成されている。この分離部16の存在により、吸着材2が容器10の外部に排出されるのを防ぐことができる。
【0015】
汚染水1は、給水管12から容器10内に供給され、吸着材2で汚染物質が除去された後、分離部16(第2フィルタ31及び第1フィルタ4)により、吸着材2から分離され、排水管14を通って、容器10の外部に排出される。すなわち、容器10内には、上流側から、吸着材2、分離部16(第2フィルタ31及び第1フィルタ4)が順に配置された流路が形成されているといえる。なお、第1フィルタ4がろ布であれば、排水管14に巻き付ければよく、排水管14の内側に設けてもよい。また、ろ布を袋状にして排水管14に差し込んでもよい。
なお、第2フィルタ31は、ウレタンなどの樹脂や、紙や、不織布などを用いることができる。
【0016】
ここで、層状複水酸化物とは、一般式がM2+
1-xM3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2O(ここで、M2+は2価の金属、M3+は3価の金属、An-はn価の陰イオン、0<x<1、m>0)で表される不定比化合物であり、ハイドロタルサイト様化合物と呼ばれることもある。2価の金属イオン(M2+)としては、例えば、Mg2+、Fe2+、Zn2+、Ca2+、Li2+、Ni2+、Co2+、Cu2+等が挙げられる。また、3価の金属イオン(M3+)としては、例えば、Al3+、Fe3+、Cr3+、Mn3+等が挙げられる。また、陰イオン(An-)としては、例えば、ClO4
-、CO3
2-、HCO3
-、PO4
3-、SO4
2-、SiO4
4-、OH-、Cl-、NO2
-、NO3
-等が挙げられる。なお、前記一般式に含まれる2価の金属イオン(M2+)や3価の金属イオン(M3+)は1種類である必要はなく、複数種類を含んでいても良い。
【0017】
本実施形態に係る層状複水酸化物は、2価の金属イオン(M2+)、3価の金属イオン(M3+)、陰イオン(An-)として、どのようなものを用いたものでもよい。例えば、2価の金属イオン(M2+)がMg2+であり3価の金属イオン(M3+)がAl3+であるMg2+
1-xAl3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2O(Mg-Al型)や、2価の金属イオン(M2+)がMg2+であり3価の金属イオン(M3+)がFe3+であるMg2+
1-xFe3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2O(Mg-Fe型)や、2価の金属イオン(M2+)がFe2+であり3価の金属イオン(M3+)がFe3+であるFe2+
1-xFe3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2O(Fe-Fe型)とすることができる。なお、Mg-Fe型は、ヒ素の吸着の効果が高い点、比重が高く沈降分離が容易である点、原料コストを抑えられる点において、Mg-Al型よりも優れている。
【0018】
また、本実施形態に係る層状複水酸化物は、結晶子サイズが20nm以下である方が良く、更に好ましくは10nm以下である方が良い。また、平均結晶子サイズが10nm以下であることが好ましい。
【0019】
また、本実施形態に係る層状複水酸化物の比表面積は、特に限定されるものではないが、大きい方が吸着性能を向上することができる点で好ましい。層状複水酸化物は、例えば、BET法による比表面積が20m2/g以上のものとすることができ、好ましくは30m2/g以上のものが良く、更に好ましくは50m2/g以上のものが良く、更に好ましくは70m2/g以上のものが良い。比表面積の上限は特に限定されない。なお、BET法による比表面積は、例えば、窒素吸脱着等温線を比表面積・細孔分布測定装置を用いて測定し、当該測定結果からBET-plotを作成して求めることができる。例えば、層状複水酸化物の結晶子サイズが20nm以下とすれば、比表面積を20m2/g以上のものとすることができる。
【0020】
層状複水酸化物の合成は、2価の金属イオンと3価の金属イオンを含有する酸性溶液とアルカリ性溶液とを混合して行う。ここで合成される層状複水酸化物は、結晶子サイズを小さくするほど、その比表面積を大きくすることができる。したがって、合成後の熟成時間は短い方が良く、酸性溶液とアルカリ性溶液の混合後、少なくとも120分以内、好ましくは60分以内、更に好ましくは混合と同時に中和する方が良い。また、確実に熟成を行わせないためには、酸性溶液とアルカリ性溶液の混合が完了した後、速やかに層状複水酸化物を洗浄するのも良い。
【0021】
なお、層状複水酸化物を含有する吸着材は、合成過程で生成されるNaCl等の塩(えん)を含有していてもよいが、飲料水の浄水等に用いる場合には、当該塩を水で洗浄して除去したものであってもよい。
【0022】
次に、一例として、構造式がMg2+
1-xAl3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2Oで表される層状複水酸化物の合成方法を説明する。
【0023】
まず、アルミニウムイオンとマグネシウムイオンを含む酸性溶液を調製する。
【0024】
アルミニウムイオンのアルミニウム源としては、水中でアルミニウムイオンを生成するものであれば良く、特定の物質に限定されるものではない。例えば、アルミナ、アルミン酸ソーダ、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、ボーキサイト、ボーキサイトからのアルミナ製造残渣、アルミスラッジ等を用いることができる。また、これらアルミニウム源は、いずれかを単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0025】
また、マグネシウムイオンのマグネシウム源としては、水中でマグネシウムイオンを生成する物であれば良く、特定の物質に限定されるものではない。例えば、ブルーサイト、水酸化マグネシウム、マグネサイト、マグネサイトの焼成物等を用いることができる。これらマグネシウム源は、いずれかを単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0026】
なお、前記アルミニウム源としてのアルミニウム化合物、マグネシウム源としてのマグネシウム化合物は、前記酸性溶液にアルミニウムイオン、マグネシウムイオンが存在していれば完全に溶解している必要はない。
【0027】
また、Mg2+
1-xAl3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2Oで表わされる高結晶質の層状複水酸化物は、アルミニウムイオンとマグネシウムイオンのモル比が1:3(x=0.25)となっていることが知られている。したがって、酸性溶液中のアルミニウムイオンとマグネシウムイオンのモル比は、1:5~1:2の範囲とするのが好ましい。この範囲とすることによって、アルミニウム源とマグネシウム源を無駄にすることなく、物質収支的に有利に層状複水酸化物を製造することができる。
【0028】
酸性溶液に含まれる酸としては、水溶液を酸性にするものであれば特に限定されないが、例えば、硝酸や塩酸を用いることができる。
【0029】
また、アルカリ性溶液を調製する。ここで、アルカリ性溶液に含まれるアルカリとしては、水溶液をアルカリ性にするものであれば特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等を用いることができる。また、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、アンモニア水、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウムなどを用いることもできる。これらはいずれかを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。アルカリ性溶液は、pHを8~14に調製したものを用いることができ、pHを8~11に調製したものを用いるのが好ましい。
【0030】
次に、アルミニウムイオンとマグネシウムイオンを含んだ酸性溶液と、アルカリを含むアルカリ性溶液とを所定の割合で混合する。これにより、層状複水酸化物が生成する。混合は、酸性溶液をアルカリ性溶液へ一気に加えて混合するか、酸性溶液をアルカリ性溶液へ滴下して行うことができるが、これら以外の方法であっても良い。
【0031】
なお、酸性溶液とアルカリ性溶液の混合が完了した後の熟成時間を短くするほど、結晶の成長を抑制することができ、結晶子サイズの小さい層状複水酸化物や比表面積の大きい層状複水酸化物を製造することができる。
【0032】
熟成を止める方法としては、酸性溶液とアルカリ性溶液の混合が完了した後、当該混合液のpHを層状複水酸化物の結晶成長が止まる値まで下げる方法が挙げられる。例えば、一般式Mg2+
1-xAl3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2Oで表される層状複水酸化物の場合、pHが9以下となるようにすれば良い。具体的には、酸性溶液とアルカリ性溶液との混合が完了した後120分以内、好ましくは60分以内、更に好ましくは混合と同時に、水で希釈することで、熟成を止めることができる。また、確実に熟成を行わせないためには、酸性溶液とアルカリ性溶液の混合が完了した後、速やかに層状複水酸化物を洗浄するのも良い。
【0033】
なお、層状複水酸化物を含有する吸着材は、合成過程で生成されるNaCl等の塩(えん)を含有していてもよいが、飲料水の浄水等に用いる場合には、当該塩を水で洗浄して除去したものであってもよい。
【0034】
また、上記説明では、酸性溶液側にアルミニウムイオンとマグネシウムイオンを含有させる場合について説明したが、これに限られるものではなく、酸性溶液側にアルミニウムイオンを含有させアルカリ性溶液側にマグネシウムイオンを含有させたり、酸性溶液側にマグネシウムイオンを含有させアルカリ性溶液側にアルミニウムイオンを含有させたり、あるいは、アルカリ性溶液側にアルミニウムイオンとマグネシウムイオンの両方を含有させたりすることも可能である。
【0035】
また、別の例として、構造式がMg2+
1-xFe3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2Oで表される層状複水酸化物の合成方法を説明する。
【0036】
まず、鉄イオンとマグネシウムイオンを含む酸性溶液を調製する。
【0037】
鉄イオンの鉄源としては、水中で鉄イオンを生成するものであれば良く、特定の物質に限定されるものではない。例えば、塩化鉄等を用いることができる。また、これら鉄源は、いずれかを単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0038】
また、マグネシウムイオンのマグネシウム源としては、水中でマグネシウムイオンを生成する物であれば良く、特定の物質に限定されるものではない。例えば、ブルーサイト、水酸化マグネシウム、マグネサイト、マグネサイトの焼成物等を用いることができる。これらマグネシウム源は、いずれかを単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0039】
なお、前記鉄源としての鉄化合物、マグネシウム源としてのマグネシウム化合物は、前記酸性溶液に鉄イオン、マグネシウムイオンが存在していれば完全に溶解している必要はない。
【0040】
また、Mg2+
1-xFe3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2Oで表わされる高結晶質の層状複水酸化物は、鉄イオンとマグネシウムイオンのモル比が1:3(x=0.25)となっていることが知られている。したがって、酸性溶液中の鉄イオンとマグネシウムイオンのモル比は、1:5~1:2の範囲とするのが好ましい。この範囲とすることによって、鉄源とマグネシウム源を無駄にすることなく、物質収支的に有利に層状複水酸化物を製造することができる。
【0041】
酸性溶液に含まれる酸としては、水溶液を酸性にするものであれば特に限定されないが、例えば、硝酸や塩酸を用いることができる。
【0042】
また、アルカリ性溶液を調製する。ここで、アルカリ性溶液に含まれるアルカリとしては、水溶液をアルカリ性にするものであれば特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等を用いることができる。また、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、アンモニア水、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウムなどを用いることもできる。これらはいずれかを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。アルカリ性溶液は、pHを8~14に調製したものを用いることができ、pHを8~11に調製したものを用いるのが好ましい。
【0043】
次に、鉄イオンとマグネシウムイオンを含んだ前記酸性溶液と、アルカリを含むアルカリ性溶液とを所定の割合で混合する。これにより、層状複水酸化物が生成する。混合は、酸性溶液をアルカリ性溶液へ一気に加えて混合するか、酸性溶液をアルカリ性溶液へ滴下して行うことができるが、これら以外の方法であっても良い。
【0044】
なお、酸性溶液とアルカリ性溶液の混合が完了した後の熟成時間を短くするほど、結晶の成長を抑制することができ、結晶子サイズの小さい層状複水酸化物や比表面積の大きい層状複水酸化物を製造することができる。
【0045】
熟成を止める方法としては、酸性溶液とアルカリ性溶液の混合が完了した後、当該混合液のpHを層状複水酸化物の結晶成長が止まる値まで下げる方法が挙げられる。例えば、一般式Mg2+
1-xFe3+
x(OH)2(An-)x/n・mH2Oで表される層状複水酸化物の場合、pHが9以下となるようにすれば良い。具体的には、酸性溶液とアルカリ性溶液との混合が完了した後120分以内、好ましくは60分以内、更に好ましくは混合と同時に、水で希釈することで、熟成を止めることができる。また、確実に熟成を行わせないためには、酸性溶液とアルカリ性溶液の混合が完了した後、速やかに層状複水酸化物を洗浄するのも良い。
【0046】
なお、層状複水酸化物を含有する吸着材は、合成過程で生成されるNaCl等の塩(えん)を含有していてもよいが、飲料水の浄水等に用いる場合には、当該塩を水で洗浄して除去したものであってもよい。
【0047】
また、上記説明では、酸性溶液側に鉄イオンとマグネシウムイオンを含有させる場合について説明したが、これに限られるものではなく、酸性溶液側に鉄イオンを含有させアルカリ性溶液側にマグネシウムイオンを含有させたり、酸性溶液側にマグネシウムイオンを含有させアルカリ性溶液側に鉄イオンを含有させたり、あるいは、アルカリ性溶液側に鉄イオンとマグネシウムイオンの両方を含有させたりすることも可能である。
【0048】
このように合成された層状複水酸化物は、乾燥させたものを使用するより、乾燥させないでスラリー状又はジェル状のまま使用する方が、汚染水の汚染物質を吸着させる能力が高いことがわかった。したがって、層状複水酸化物を含有する吸着材2は、スラリー状又はジェル状のものが好ましい。
【0049】
また、吸着材2は、更に紙繊維を含有していてもよい。紙繊維の含有率を増やすほど、吸着材の通水率を向上することができる。なお、紙繊維を含有する吸着材2は、層状複水酸化物を合成してから紙繊維を混合して作製してもよいし、紙繊維の存在下において層状複水酸化物を合成して作製してもよい。
【0050】
また、分離部を水が通過できるように汚染水に圧力を加えてもよい。この場合、汚染水に加える圧力は、分離部を水が通過できればどのようなものでも良いが、吸着材が汚染物質を十分に吸着させるために必要な通水時間を確保できる圧力が望ましい。例えば、0.1MPa以上1MPa以下の範囲で調節すればよい。また、吸着材2に紙繊維を含有させれば、当該圧力を低くすることができる。
【0051】
以上のように、本実施形態では、層状複水酸化物を含有するスラリー状又はジェル状の吸着材2を容器10内に収容し、当該吸着材2に汚染水1を通すことで、汚染水を浄水することができる。また、分離部16の作用により、吸着材2を容器10外に排出せずに、浄化された汚染水を容器10外に排出することができる。これにより、例えば、スラリー状又はジェル状の吸着材と汚染水を容器内に入れて撹拌し、攪拌後に容器内の吸着材と汚染水を濾過器で濾過することにより、浄水を得るという方法とは異なり、簡易に浄水を得ることが可能となる。
【0052】
なお、分離部16は、層状複水酸化物と水を分離するためのものであり、流路上の上流側に吸着材2(層状複水酸化物)を保持し、水を通過させることができればどのようなものでも良い。例えば、分離部16としては、スポンジや不織布、紙等を用いることとしてもよい。また、
図2に示す浄水装置200のように、
図1の第2フィルタ31に代えて、砂32を用いることとしてもよい。砂32としては、層状複水酸化物と水を分離できればよく、例えば、JIS標準砂の2号硅砂、3号硅砂、4号硅砂、程度の粒度の砂を用いることができる。また、砂32の粒度は、全体を一律にしなくてもよい。例えば、第1フィルタ4に近いほど粒度を細かくし、第1フィルタ4から遠いほど粒度を粗くしてもよい。砂32を用いる場合、例えば、容器10の容積を10、吸着材2の層の体積を3~5程度とすると、砂32の層の体積は1~5程度にすることが好ましい。なお、砂32以外の粒状物質として、アンスラサイトなどの粒状のろ過材を用いることとしてもよい。なお、飽和した砂32の密度は2ton/m
3程度であり、汚染水に水の密度を適用すると1ton/m
3である。層状複水酸化物を含有するスラリー状又はジェル状の吸着材2の密度が1.07~1.10ton/m
3程度であるので、吸着材2を汚染水1と砂32との間に設けることができる。
【0053】
なお、
図1や
図2では、汚染水の流路を容器10内に形成する場合について説明したが、これに限られるものではない。流路とは、水が流れる経路を意味するため、水の流れがあればどのような形状であってもよい。例えば、流路は、筒状の部材の中に形成されてもよい。
【0054】
次に、種々の吸着材を用いてホウ素の吸着性能を確認した。
【0055】
[実施例1]
まず、塩化マグネシウム六水和物(和光純薬工業株式会社製)と塩化アルミニウム六水和物(和光純薬工業株式会社製)を蒸留水に溶解させ、酸性溶液を調製する。また、水酸化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)を蒸留水に溶解させ、アルカリ性溶液を調製する。次いで、当該酸性溶液とアルカリ溶液を混合し、更に当該混合溶液に十分な量の蒸留水を、時間をおかず(5分以内)に速やかに混合し、層状複水酸化物を含有するスラリー状の吸着材1を調製した。吸着材1の密度は1.06mg/mlで、Cl濃度は175.562ppmであった。
次に、0.237gの層状複水酸化物を含有する3gの吸着材1に対し、ホウ素濃度が97.789mg/lの溶液23.7mlを加えた。その結果を表1に示す。
【0056】
[実施例2]
3gの吸着材1を乾燥し、0.237gの粒状の層状複水酸化物からなる吸着材2を調製した。
【0057】
次に、0.237gの吸着材2に対し、ホウ素濃度が97.789mg/lの溶液23.7mlを加えた。その結果を表1に示す。
【0058】
[実施例3]
吸着材1と紙繊維を混合して1gの層状複水酸化物を含有するスラリー状の吸着材3を50g調製した
次に、50gの吸着材3に対し、ホウ素濃度が100.428mg/lの溶液100mlを加えた。その結果を表1に示す。
【0059】
[実施例4]
吸着材1を脱水して1gの層状複水酸化物を含有するジェル状の吸着材4を4.321g調製した。吸着材4のCl含有量は、1.585mg/gであった。
次に、4.321gの吸着材4に対し、ホウ素濃度が103.837mg/lの溶液100mlを加えた。その結果を表1に示す。
【0060】
[実施例5]
4.321gの吸着材4と1gの紙繊維を混合し、吸着材5を5.321g調製した。
次に、5.321gの吸着材5に対し、ホウ素濃度が103.837mg/lの溶液100mlを加えた。その結果を表1に示す。
【0061】
[実施例6]
4.321gの吸着材4を乾燥し、粒状の吸着材6を1g調製した。
次に、1gの吸着材6に対し、ホウ素濃度が103.837mg/lの溶液100mlを加えた。その結果を表1に示す。
【0062】
[実施例7]
吸着材1と紙繊維を混合し、2gの紙繊維と1gの層状複水酸化物を含有するスラリー状の吸着材7を11.369g調製した。
次に、11.369gの吸着材7に対し、ホウ素濃度が99.214mg/lの溶液100mlを加えた。その結果を表1に示す。
【0063】
【0064】
実施例1と実施例2、実施例4と実施例6を比較すると、乾燥させた層状複水酸化物からなる吸着材を使用するより、乾燥させないでスラリー状又はジェル状のままの層状複水酸化物からなる吸着材を使用する方が、ホウ素の吸着量が多いことがわかる。
【符号の説明】
【0065】
1 汚染水
2 吸着材
4 第1フィルタ
10 容器
12 給水管
14 排水管
16 分離部
31 第2フィルタ
32 砂